説明

内燃機関の制御装置

【課題】車両の挙動の乱れを招くことなく、潤滑油圧の異常低下時のフェイルセーフを実現する。
【解決手段】潤滑油圧が閾値未満かつエンジン回転数が閾値以上となったときにエンジン回転数を閾値以下に抑制するフェイルセーフ処理を実行するとともに、当該フェイルセーフ処理の実行開始時のエンジン回転数が高いほど、フェイルセーフ処理の実行開始直後におけるエンジン回転数の低下速度を大きくする。このようなものであれば、車両の走行中に内燃機関を完全に停止させてしまうことがない。加えて、潤滑油圧の異常低下時、高回転領域では速やかにエンジン回転数を低下させて内燃機関の焼き付きを確実に予防し、低中回転領域ではエンジン回転数の低下を緩やかにしてエンジン回転数のアンダーシュートを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油圧の異常低下時のフェイルセーフを実現する内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される内燃機関では、クランクシャフトでオイルポンプを駆動し、摺動部分や回転部分に潤滑油を供給して潤滑を施している。この潤滑油が漏出する等して減少し、潤滑不良が発生すると、摩擦熱により機関温度が上昇する。機関温度の上昇は、潤滑油の粘度を低下させ、潤滑油の漏出に拍車をかける。さすれば、摺動部分や回転部分に潤滑油が供給されなくなり、最終的には機関内部の焼き付きを引き起こしてしまう。
【0003】
このような焼き付きを予防するために、潤滑油圧が異常に低下した暁には、燃料供給を遮断して内燃機関の運転を停止するフェイルセーフ処理を実行することが知られている(例えば、下記特許文献を参照)。
【0004】
しかし、車両が走行している最中に内燃機関を停止させてしまうと、駆動力が急変したり、ブレーキブースタやパワーステアリングが機能しなくなったりすることもあり、車両の挙動が乱れるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭63−096207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、車両の挙動の乱れを招くことなく、潤滑油圧の異常低下時のフェイルセーフを実現することを所期の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、潤滑油の油圧を検出する油圧検出手段と、エンジン回転数を検出する回転数検出手段と、潤滑油圧が閾値未満かつエンジン回転数が閾値以上となったときにエンジン回転数を閾値以下に抑制するフェイルセーフ処理を実行するとともに、当該フェイルセーフ処理の実行開始時のエンジン回転数が高いほど、フェイルセーフ処理の実行開始直後におけるエンジン回転数の低下速度を大きくする制御部とを具備する内燃機関の制御装置を構成した。
【0008】
このようなものであれば、車両の走行中に内燃機関を完全に停止させてしまうことがない。加えて、潤滑油圧の異常低下時、高回転領域では速やかにエンジン回転数を低下させて内燃機関の焼き付きを確実に予防し、低中回転領域ではエンジン回転数の低下を緩やかにしてエンジン回転数のアンダーシュートを抑制することができる。
【0009】
並びに、本発明では、潤滑油の油圧を検出する油圧検出手段と、エンジン回転数を検出する回転数検出手段と、車速を検出する車速検出手段と、潤滑油圧が閾値未満かつエンジン回転数が閾値以上となったときにエンジン回転数を閾値以下に抑制するフェイルセーフ処理を実行するとともに、当該フェイルセーフ処理の実行開始時の車速が高い領域にある場合、車速が低い領域にある場合と比較して、フェイルセーフ処理の実行開始直後におけるエンジン回転数の低下速度を小さくする制御部とを具備する内燃機関の制御装置を構成した。
【0010】
このようなものであっても、車両の走行中に内燃機関を完全に停止させてしまうことがない。加えて、潤滑油圧の異常低下時、高速走行中であれば緩やかにエンジン回転数を低下させて車両の挙動の乱れを極力少なくすることができる。
【0011】
前記制御部が、前記フェイルセーフ処理の実行開始直後におけるエンジン回転数の低下速度を最も大きくし、その後に低下速度をより小さくする制御を行うものであれば、エンジン回転数が前記閾値近傍まで低下したときにエンジン回転数の変化速度が急変することを回避でき、ドライバビリティを維持することが可能である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、車両の挙動の乱れを招くことなく、潤滑油圧の異常低下時のフェイルセーフを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態における内燃機関及び制御装置の構成を示す図。
【図2】同実施形態の制御装置によるフェイルセーフ処理の態様を例示する図。
【図3】同実施形態の制御装置によるエンジン回転数の低下制御の態様を例示する図。
【図4】本発明の他の実施形態の制御装置によるフェイルセーフ処理の態様を例示する図。
【図5】本発明の他の実施形態の制御装置が記憶しているエンジン回転数の低下速度マップを例示する図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<第一実施形態>本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。図1に一気筒の構成を概略的に示した内燃機関0は、自動車等に搭載されるものである。内燃機関0の吸気系1には、アクセルペダルの踏込量に応じて開閉するスロットルバルブ11を設けており、スロットルバルブ11の下流にはサージタンク13を一体に有する吸気マニホルド12を取り付けている。サージタンク13には、吸気管内圧力(または、吸気負圧)を検出する圧力センサ71を配している。
【0015】
排気系5には、排気マニホルド51を取り付け、排出ガス浄化用の三元触媒52を装着している。そして、触媒52の上流にフロントO2センサ53を、下流にリアO2センサ54を、それぞれ配している。O2センサ53、54は、排出ガスに接触して反応することにより、排出ガス中の酸素濃度に応じた電圧信号を出力する。
【0016】
吸気系1と排気系5との間には、EGR装置6を介設していることがある。EGR装置6は、始端が排気マニホルド51に連通し終端がサージタンク13に連通する外部EGR通路61と、EGR通路61上に設けた外部EGRバルブ62とを要素としてなる。EGRバルブ62を開放すれば、排出ガスを排気系5から吸気系1へと還流して吸気に混合する外部EGRを実現できる。
【0017】
気筒2上部に形成される燃焼室の天井部(シリンダヘッド)には、吸気バルブ21、排気バルブ22、インジェクタ3及び点火プラグ23を設ける。
【0018】
内燃機関0の運転制御を司る電子制御装置(Electronic Control Unit)4は、中央演算装置41、記憶装置42、入力インタフェース43、出力インタフェース44等を有するマイクロコンピュータシステムである。
【0019】
入力インタフェース43には、吸気管内圧力を検出する圧力センサ71から出力される吸気圧信号a、エンジン回転数を検出する回転数検出手段たる回転数センサ72から出力される回転数信号b、車速を検出する車速検出手段たる車速センサ73から出力される車速信号c、スロットルバルブ11の開度(または、アクセルペダルの踏込量)を検出するスロットルポジションセンサ74から出力されるスロットル開度信号d、潤滑油の油圧を検出する油圧検出手段たるオイルプレッシャスイッチ75から出力される油圧信号e、冷却水の温度即ち機関0の温度を検出する水温センサ76から出力される水温信号f、気筒2に充填される吸気の温度を検出する温度センサ77から出力される吸気温信号k、吸気カムシャフト91の端部にあるタイミングセンサ93から出力されるクランク角度信号及び気筒判別用信号g、排気カムシャフト92の端部にあるタイミングセンサ94から240°CA(クランク角度)回転毎に出力される排気カム信号h、フロントO2センサ53から出力される上流側空燃比信号i、リアO2センサ54から出力される下流側空燃比信号j等が入力される。オイルプレッシャスイッチ75は、オイルポンプ(図示せず)によりクランクシャフトやピストン周り、タイミングチェーン、カムシャフト、チェーンテンショナのプランジャ、オイルコントロールバルブ、可変バブルタイミング機構等に向けて圧送される潤滑油の(オイルフィルタ下流での)油圧が所定閾値以上あるか否かを感知する周知のものである。オイルプレッシャスイッチ75は、潤滑油圧が閾値(例えば、0.3kg/cm2)を下回っているときにONに切り替わり電気信号eをECU4に向けて出力する。
【0020】
出力インタフェース44からは、インジェクタ3に対して燃料噴射信号n、点火プラグ8に対して点火信号m、EGRバルブ62に対してEGRバルブ開度信号o等を出力する。
【0021】
中央演算装置41は、記憶装置42に予め格納されているプログラムを解釈、実行して、内燃機関0の燃料噴射量や点火時期、気筒2に充填される吸気のEGR率(EGRガスの還流量)等の制御を遂行する。
【0022】
内燃機関0の運転制御において、ECU4は、内燃機関0の運転制御に必要な各種情報a、b、c、d、e、f、g、h、i、j、kを入力インタフェース43を介して取得し、さらに現状の吸気量及び当該吸気のEGR率を推定して、それらに基づいて制御入力である燃料噴射量、燃料噴射時期、点火時期、EGRバルブ62の開度(EGRステップ数)等を演算する。そして、演算した制御入力に対応した制御信号m、n、oを、出力インタフェース44を介して印加する。上記制御入力の算定手法は、既知の内燃機関0の運転制御と同様とすることができるので、ここでは説明を割愛する。
【0023】
しかして、本実施形態における制御部たるECU4は、プログラムに従い、所要のフェイルセーフ処理を実行する。即ち、ECU4は、オイルプレッシャスイッチ75を介して潤滑油圧が閾値未満であることを検出している間、エンジン回転数を閾値以下に抑制する。このエンジン回転数の閾値は、内燃機関0の焼き付きを引き起こすことなく車両をある程度の時間(10時間程度)走らせ続けることのできるような回転数、例えば3000rpmから4000rpmの間の値に設定する。
【0024】
フェイルセーフ処理を実行するにあたっては、フェイルセーフ処理の実行開始時のエンジン回転数、換言すれば潤滑油圧が閾値を下回った時点でのエンジン回転数が高いほど、当該フェイルセーフ処理の実行開始直後におけるエンジン回転数の低下速度を大きくする。図2に、その態様を例示する。図中符号R1で指し示す時系列はフェイルセーフ処理の実行開始時のエンジン回転数が比較的高いケース、符号R2で指し示す時系列はフェイルセーフ処理の実行開始時のエンジン回転数が比較的低いケースである。
【0025】
ECU4の記憶装置42には予め、フェイルセーフ処理の実行開始時のエンジン回転数と、フェイルセーフ処理の開始当初のエンジン回転数の低下速度との関係を規定したマップデータが記憶保持されている。ECU4は、回転数センサ72を介して検出した、フェイルセーフ処理の実行開始時のエンジン回転数をキーとして当該マップを検索し、そのエンジン回転数に対応した、フェイルセーフ処理の開始当初のエンジン回転数の低下速度を読み出す。そして、知得した低下速度を以て、エンジン回転数を閾値に向けて低下させる制御を行う。
【0026】
エンジン回転数の低下は、断続的に燃料カットを行うことにより実現する。図3に、その態様を例示する。図中符号RRで指し示す時系列は回転数センサ72を介して検出しているエンジン回転数の実測値、符号RHで指し示す時系列はフェイルセーフ処理中のエンジン回転数の上限、符号RLで指し示す時系列はフェイルセーフ処理中のエンジン回転数の下限である。RH、RLはともに、エンジン回転数の低下速度に合わせて右肩下がりに傾いている。ECU4は、エンジン回転数の実測値RRがエンジン回転数の上限RHを上回ったときに燃料噴射を止め、その後エンジン回転数の下限RLを下回ったときに燃料噴射を再開する。
【0027】
フェイルセーフ処理中のエンジン回転数の上限RHの時系列は、エンジン回転数の閾値に漸近している。また、フェイルセーフ処理中のエンジン回転数の上限RH及び下限RLの時系列の傾きは、フェイルセーフ処理の実行開始から時間を経るに従って徐々に小さく(水平に近く)なっている。これにより、フェイルセーフ処理中のエンジン回転数の低下速度は、当該フェイルセーフ処理の実行開始直後において最も大きく、その後徐々に小さくなってゆく。
【0028】
本実施形態では、潤滑油の油圧を検出する油圧検出手段75と、エンジン回転数を検出する回転数検出手段72と、潤滑油圧が閾値未満かつエンジン回転数が閾値以上となったときにエンジン回転数を閾値以下に抑制するフェイルセーフ処理を実行するとともに、当該フェイルセーフ処理の実行開始時のエンジン回転数が高いほど、フェイルセーフ処理の実行開始直後におけるエンジン回転数の低下速度を大きくする制御部4とを具備する内燃機関0の制御装置を構成した。
【0029】
本実施形態によれば、潤滑油圧が閾値未満である間は、たとえ運転者がアクセルペダルを強く踏み込んだとしてもエンジン回転数がその閾値以上には吹き上がらない。つまり、潤滑油圧の異常低下を運転者に確実に認識させることができる。しかも、車両の走行中に内燃機関0を完全に停止させてしまうことはなく、徒に車両の挙動を乱さない。加えて、潤滑油圧の異常低下時、高回転領域では速やかにエンジン回転数を低下させて内燃機関0の焼き付きを確実に予防することができ、低中回転領域ではエンジン回転数の低下を緩やかにしてエンジン回転数のアンダーシュートを抑制することができる。
【0030】
さらに、前記制御部4は、前記フェイルセーフ処理の実行開始直後におけるエンジン回転数の低下速度を最も大きくし、その後に低下速度をより小さくする制御を行うものであるため、エンジン回転数が前記閾値近傍まで低下したときにエンジン回転数の変化速度が急変することを回避してドライバビリティを維持することができる。
【0031】
内燃機関0の焼き付きを効果的に予防できることから、内燃機関0の構成部材として高価なベアリングメタル等を採用する必要がなく、また潤滑油の品質に対する要求も過大なものとはならなくなる。従って、製造コスト及び運用維持コストの低減に奏効する。
【0032】
<第二実施形態>次に述べる第二実施形態では、フェイルセーフ処理に際して、内燃機関0を搭載した車両の車速を参照する。以降、第一実施形態との相異点を中心に述べる。言及しない要素については、第一実施形態と同様の構成とすることができる。
【0033】
本実施形態における制御部たるECU4もまた、プログラムに従い、所要のフェイルセーフ処理を実行する。即ち、ECU4は、オイルプレッシャスイッチ75を介して潤滑油圧が閾値未満であることを検出している間、エンジン回転数を閾値以下に抑制する。
【0034】
本実施形態では、フェイルセーフ処理を実行するにあたり、フェイルセーフ処理の実行開始時の車両の車速、換言すれば潤滑油圧が閾値を下回った時点での車速が高いほど、当該フェイルセーフ処理の実行開始直後におけるエンジン回転数の低下速度を小さくする。図3に、その態様を例示する。図中符号R3で指し示す時系列はフェイルセーフ処理の実行開始時の車速が比較的高いケース、符号R4で指し示す時系列はフェイルセーフ処理の実行開始時の車速が比較的低いケースである。
【0035】
ECU4の記憶装置42には予め、フェイルセーフ処理の実行開始時の車速と、フェイルセーフ処理の開始当初のエンジン回転数の低下速度との関係を規定したマップデータが記憶保持されている。このマップは、フェイルセーフ処理の実行開始時の車速を、高い領域、低い領域の二つに区分し、それぞれの領域に対応したエンジン回転数の低下速度を規定するものである。第一実施形態とは異なり、各区分毎のエンジン回転数の低下速度は、フェイルセーフ処理の実行開始時のエンジン回転数に依存しないものとする。なお、フェイルセーフ処理の実行開始時の車速を、高い領域、中程度の領域及び低い領域の三つに区分して、それぞれの領域に対応したエンジン回転数の低下速度を規定するものとしてもよい。さらには、フェイルセーフ処理の実行開始時の車速を四以上の領域に区分して、それぞれの領域に対応したエンジン回転数の低下速度を規定するものとしても構わない。何れにせよ、車速が高い領域ほど、エンジン回転数の低下速度を小さくする。ECU4は、車速センサ73を介して検出した、フェイルセーフ処理の実行開始時の車速をキーとして当該マップを検索し、その車速が属する領域に対応した、フェイルセーフ処理の開始当初のエンジン回転数の低下速度を読み出す。そして、知得した低下速度を以て、エンジン回転数を閾値に向けて低下させる制御を行う。
【0036】
第一実施形態と同様に、エンジン回転数の低下は、断続的に燃料カットを行うことにより実現する。フェイルセーフ処理中のエンジン回転数の低下速度は、当該フェイルセーフ処理の実行開始直後において最も大きく、その後徐々に小さくなる。
【0037】
本実施形態では、潤滑油の油圧を検出する油圧検出手段75と、エンジン回転数を検出する回転数検出手段72と、車速を検出する車速検出手段73と、潤滑油圧が閾値未満かつエンジン回転数が閾値以上となったときにエンジン回転数を閾値以下に抑制するフェイルセーフ処理を実行するとともに、当該フェイルセーフ処理の実行開始時の車速が高い領域にある場合、車速が低い領域にある場合と比較して、フェイルセーフ処理の実行開始直後におけるエンジン回転数の低下速度を小さくする制御部4とを具備する内燃機関0の制御装置を構成した。
【0038】
本実施形態によれば、潤滑油圧が閾値未満である間は、たとえ運転者がアクセルペダルを強く踏み込んだとしてもエンジン回転数がその閾値以上には吹き上がらない。つまり、潤滑油圧の異常低下を運転者に確実に認識させることができる。しかも、車両の走行中に内燃機関0を完全に停止させてしまうことはなく、徒に車両の挙動を乱さない。加えて、潤滑油圧の異常低下時、高速走行中であれば緩やかにエンジン回転数を低下させて車両の挙動の乱れを極力少なくすることができる。
【0039】
さらに、前記制御部4は、前記フェイルセーフ処理の実行開始直後におけるエンジン回転数の低下速度を最も大きくし、その後に低下速度をより小さくする制御を行うものであるため、エンジン回転数が前記閾値近傍まで低下したときにエンジン回転数の変化速度が急変することを回避してドライバビリティを維持することができる。
【0040】
内燃機関0の焼き付きを効果的に予防できることから、内燃機関0の構成部材として高価なベアリングメタル等を採用する必要がなく、また潤滑油の品質に対する要求も過大なものとはならなくなる。従って、製造コスト及び運用維持コストの低減に奏効する。
【0041】
<第三実施形態>続いて述べる第三実施形態は、ちょうど第一実施形態と第二実施形態とを組み合わせたようなものである。以降、第一、第二実施形態との相異点を中心に述べる。言及しない要素については、第一実施形態または第二実施形態と同様の構成とすることができる。
【0042】
本実施形態における制御部たるECU4もまた、プログラムに従い、所要のフェイルセーフ処理を実行する。即ち、ECU4は、オイルプレッシャスイッチ75を介して潤滑油圧が閾値未満であることを検出している間、エンジン回転数を閾値以下に抑制する。
【0043】
本実施形態では、フェイルセーフ処理を実行するにあたり、フェイルセーフ処理の実行開始時のエンジン回転数、換言すれば潤滑油圧が閾値を下回った時点でのエンジン回転数が高いほど、当該フェイルセーフ処理の実行開始直後におけるエンジン回転数の低下速度を大きくする。のみならず、フェイルセーフ処理の実行開始時の車両の車速、換言すれば潤滑油圧が閾値を下回った時点での車速が高いほど、当該フェイルセーフ処理の実行開始直後におけるエンジン回転数の低下速度を小さくする。
【0044】
ECU4の記憶装置42には予め、フェイルセーフ処理の実行開始時のエンジン回転数及び車速と、フェイルセーフ処理の開始当初のエンジン回転数の低下速度との関係を規定したマップデータが記憶保持されている。図5に、このマップを例示する。このマップは、フェイルセーフ処理の実行開始時の車速を、高い領域、低い領域の二つに区分し、それぞれの領域に対応したエンジン回転数の低下速度を規定するものである。第二実施形態とは異なり、各区分毎のエンジン回転数の低下速度は、フェイルセーフ処理の実行開始時のエンジン回転数に依存する。フェイルセーフ処理の実行開始時のエンジン回転数が同等ならば、フェイルセーフ処理の実行開始時の車速が高い領域の方がエンジン回転数の低下速度が小さい。翻って、フェイルセーフ処理の実行開始時の車速が同じ領域に属するならば、フェイルセーフ処理の実行開始時のエンジン回転数が高いほどエンジン回転数の低下速度が大きい。なお、フェイルセーフ処理の実行開始時の車速を、高い領域、中程度の領域及び低い領域の三つに区分して、それぞれの領域に対応したエンジン回転数の低下速度を規定するものとしてもよい。さらには、フェイルセーフ処理の実行開始時の車速を四以上の領域に区分して、それぞれの領域に対応したエンジン回転数の低下速度を規定するものとしても構わない。何れにせよ、車速が高い領域ほど、エンジン回転数の低下速度を小さくする。ECU4は、車速センサ73を介して検出した、フェイルセーフ処理の実行開始時のエンジン回転数及び車速をキーとして当該マップを検索し、そのエンジン回転数及びその車速が属する領域に対応した、フェイルセーフ処理の開始当初のエンジン回転数の低下速度を読み出す。そして、知得した低下速度を以て、エンジン回転数を閾値に向けて低下させる制御を行う。
【0045】
第一、第二実施形態と同様に、エンジン回転数の低下は、断続的に燃料カットを行うことにより実現する。フェイルセーフ処理中のエンジン回転数の低下速度は、当該フェイルセーフ処理の実行開始直後において最も大きく、その後徐々に小さくなる。
【0046】
本実施形態では、潤滑油の油圧を検出する油圧検出手段75と、エンジン回転数を検出する回転数検出手段72と、車速を検出する車速検出手段73と、潤滑油圧が閾値未満かつエンジン回転数が閾値以上となったときにエンジン回転数を閾値以下に抑制するフェイルセーフ処理を実行するとともに、当該フェイルセーフ処理の実行開始時のエンジン回転数が高いほど、フェイルセーフ処理の実行開始直後におけるエンジン回転数の低下速度を大きくし、また、当該フェイルセーフ処理の実行開始時の車速が高い領域にある場合、車速が低い領域にある場合と比較して、フェイルセーフ処理の実行開始直後におけるエンジン回転数の低下速度を小さくする制御部4とを具備する内燃機関0の制御装置を構成した。
【0047】
本実施形態によれば、潤滑油圧が閾値未満である間は、たとえ運転者がアクセルペダルを強く踏み込んだとしてもエンジン回転数がその閾値以上には吹き上がらない。つまり、潤滑油圧の異常低下を運転者に確実に認識させることができる。しかも、車両の走行中に内燃機関0を完全に停止させてしまうことはなく、徒に車両の挙動を乱さない。加えて、潤滑油圧の異常低下時、高回転領域では速やかにエンジン回転数を低下させて内燃機関0の焼き付きを確実に予防することができ、低中回転領域ではエンジン回転数の低下を緩やかにしてエンジン回転数のアンダーシュートを抑制することができる。その上、高速走行中であれば緩やかにエンジン回転数を低下させて車両の挙動の乱れを極力少なくすることができる。
【0048】
さらに、前記制御部4は、前記フェイルセーフ処理の実行開始直後におけるエンジン回転数の低下速度を最も大きくし、その後に低下速度をより小さくする制御を行うものであるため、エンジン回転数が前記閾値近傍まで低下したときにエンジン回転数の変化速度が急変することを回避してドライバビリティを維持することができる。
【0049】
内燃機関0の焼き付きを効果的に予防できることから、内燃機関0の構成部材として高価なベアリングメタル等を採用する必要がなく、また潤滑油の品質に対する要求も過大なものとはならなくなる。従って、製造コスト及び運用維持コストの低減に奏効する。
【0050】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。各部の具体的構成や処理の手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、車両に搭載される内燃機関に適用することができる。
【符号の説明】
【0052】
0…内燃機関
4…制御部(ECU)
72…回転数検出手段(回転数センサ)
73…車速検出手段(車速センサ)
75…油圧検出手段(オイルプレッシャスイッチ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油の油圧を検出する油圧検出手段と、
エンジン回転数を検出する回転数検出手段と、
潤滑油圧が閾値未満かつエンジン回転数が閾値以上となったときにエンジン回転数を閾値以下に抑制するフェイルセーフ処理を実行するとともに、当該フェイルセーフ処理の実行開始時のエンジン回転数が高いほど、フェイルセーフ処理の実行開始直後におけるエンジン回転数の低下速度を大きくする制御部と
を具備する内燃機関の制御装置。
【請求項2】
潤滑油の油圧を検出する油圧検出手段と、
エンジン回転数を検出する回転数検出手段と、
車速を検出する車速検出手段と、
潤滑油圧が閾値未満かつエンジン回転数が閾値以上となったときにエンジン回転数を閾値以下に抑制するフェイルセーフ処理を実行するとともに、当該フェイルセーフ処理の実行開始時の車速が高い領域にある場合、車速が低い領域にある場合と比較して、フェイルセーフ処理の実行開始直後におけるエンジン回転数の低下速度を小さくする制御部と
を具備する内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記フェイルセーフ処理の実行開始直後におけるエンジン回転数の低下速度を最も大きくし、その後に低下速度をより小さくする請求項1または2記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
車速を検出する車速検出手段をも具備し、
前記制御部は、前記フェイルセーフ処理の実行開始時の車速が高い領域にある場合、車速が低い領域にある場合と比較して、フェイルセーフ処理の実行開始直後におけるエンジン回転数の低下速度を小さくする請求項1記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−87729(P2012−87729A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236600(P2010−236600)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】