説明

内燃機関の排気浄化システム

【課題】ディーゼルパティキュレートフィルタを高温状態にさらすことなく、効率よくディーゼルパティキュレートフィルタを再生する
【解決手段】ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)は、固体電解質膜を挟持するアノード21及びカソード22により構成され、アノード21及びカソード22にそれぞれ排気ガス及び空気を供給することにより、DPF内部に蓄積されているパーティクルマターを電気化学的に除去する。これにより、パーティクルマターが燃焼伝播により急激に燃焼する温度以下でDPFの再生処理を行うことができるので、DPFが劣化することを防止できる。また、パーティクルマターが有するエネルギーの一部を電気化学的に取り出すことができるので、燃費を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気浄化システムに関し、より詳しくは、内燃機関から排出される排気ガス中に含まれるパティキュレートを捕集するパティキュレートフィルタの再生方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
一般に、内燃機関、特にディーゼル機関においては、排気ガス中に含まれる炭素等のパーティクルマター(パティキュレート,以下PMと表記)が外部に放出されることを防止するために、PMを捕集するディーゼルパティキュレートフィルタ(以下DPFと表記)が備えられている。ところで、PMを捕集することによってDPF内におけるPMの堆積量が多くなると、DPFの性能悪化を招くために、DPF内に堆積したPMを定期的に除去することによってDPFを再生する必要がある。
【0003】
このような背景から、従来までは、電気ヒータを用いたり、ディーゼルエンジンの主燃焼終了後に燃料の副噴射を行うことにより、DPFの雰囲気温度を上げ、DPFを再生している(例えば、特許文献1,2を参照)。なお、DPF内に堆積したPMは、DPFの雰囲気温度が600[℃]以上、且つ、DPF中の酸素濃度がPM堆積量に対して十分である時に着火し、燃焼伝播により燃焼,消失する。
【特許文献1】特開平5−18230号公報
【特許文献2】特開2003−293824号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、DPFの雰囲気温度を上げることによりDPFを再生する場合、DPFに堆積しているPMの量によってはPMが燃焼伝播によって急激に燃焼し、DPF内部が2000[℃」程度の高温状態になり、DPFが劣化する可能性がある。また、PMがDPF内に堆積していない時にDPFの雰囲気温度を上げると、電気ヒータの使用や燃料の副噴射を行う頻度が多くなることによって、システム全体の効率(燃費)が低下する。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、ディーゼルパティキュレートフィルタを高温状態にさらすことなく、効率よくディーゼルパティキュレートフィルタを再生することが可能な内燃機関の排気浄化システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る内燃機関の排気浄化システムでは、パティキュレートフィルタは、イオン伝導体により形成された隔膜を挟持する電極により構成され、一方及び他方の電極にそれぞれ排気ガス及び酸素含有ガスを供給することにより、パティキュレートフィルタ内部に蓄積されているパティキュレートが電気化学的に除去される。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る内燃機関の排気浄化システムによれば、パティキュレートフィルタに蓄積したパティキュレートを電気化学的に除去するので、ディーゼルパティキュレートフィルタを高温状態にさらすことなく、効率よくディーゼルパティキュレートフィルタを再生することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照して、本発明の第1及び第2の実施形態となる内燃機関の排気浄化システムの構成について説明する。
【実施例1】
【0009】
〔排気浄化システムの構成〕
本発明の第1の実施形態となる内燃機関の排気浄化システムは、図1に示すように、ディーゼルエンジン本体1と、ディーゼルエンジン本体1に取り付けられたコモンレール式の燃料噴射系2と、ディーゼルエンジン本体1の排気系流路に設けられ、吸気系流路に通ずるEGR流路3と、EGR流路3を開閉するEGRバルブ4と、排気系流路中に設けられた内部にヒータ5aを有するディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)5と、吸気系流路に設けられ、ディーゼルエンジン本体1に直接連通する吸気流路6と、吸気系流路に設けられ、DPF5の空気極側を介してディーゼルエンジン本体1に連通する吸気流路7と、吸気流路6,7の間で吸気流路を切り換える三方弁8と、排気系流路から排出される排気ガスを浄化する浄化触媒9と、DPF5のアノードの上流側及び下流側の排気ガス圧力Pin,Poutを計測する圧力センサ10,11と、DPF5の内部温度を検出する温度センサ12と、入力信号に従ってシステム全体の動作を制御するECU13とを主な構成要素として備える。
【0010】
なお、上記燃料噴射系2は、コモンレール及び燃料ポンプを主な構成要素として備え、高圧の燃料噴霧をディーゼルエンジン本体1に供給する。また、上記EGRバルブ4が閉状態である場合、ディーゼルエンジン本体1からの排気は全てDPF5によって浄化されて外部に排出される。一方、EGRバルブ4が開状態である場合には、排気ガスの一部はEGR流路3を通じて吸気系流路に還流される。また、上記ECU13に入力される信号としては、ディーゼルエンジン本体1に組み込まれたエンジン回転速度センサからのエンジン回転速度信号Ne,アクセル開度センサからのアクセル開度信号Acc,圧力センサ10,11からの排気ガス圧力信号Pin,Pout,及び温度センサ12からの温度信号Teがある。
【0011】
〔ディーゼルパティキュレートフィルタの構成〕
上記DPF5は、平面構造を有し、図2に示すように、排気ガスが供給されるアノード21と空気が供給されるカソード22が対になった単セル23が複数直列に配列された構成を有し、アノード21とカソード間22間は、スイッチS1によって接続/非接続状態を切り換えることができるように構成されている。また、単セル23は、図3に示すように、500〜600[℃]付近で十分な酸化物イオン(O2−)伝導度(0.1[S/cm」程度)を有し、酸化物イオンを伝導する媒体となる固体電解質膜24をアノード21とカソード22により挟持した構成を有し、また、アノード21側及びカソード側22にはそれぞれ、排気ガスが通る流路を形成すると共に、単セル23同士を直列に接続する導電体の役割を果たすインターコネクタ25、及び空気が通る流路を形成すると共に、単セル23同士を直列に接続する導電体の役割を果たすインターコネクタ26が設けられている。
【0012】
なお、上記アノード21は、アノード反応を速やかに起こすためのNi等の電気化学触媒と、パーティクルマター(PM)の燃焼反応を促進する白金触媒を担持しており、DPF5の再生処理時には、以下の反応式(1),(2)に示すアノード反応によってPMとしての炭素(C)を二酸化炭素(CO)又は一酸化炭素(CO)に変化させる反応場となる。一方、上記カソード22は、DPF5の再生処理時には、以下の反応式(3)に示すカソード反応によって空気中に含まれる酸素を酸化物イオンに変化させる。
【0013】
C+2O2−→CO+4e …(1)
C+O2−→CO+2e …(2)
+2e→2O2− …(3)
〔DPF再生処理〕
このような構成を有する排気浄化システムは、以下に示すDPF再生処理を実行することにより、DPF5を高温状態にさらすことなく、効率よくDPF5を再生する。以下、図4に示すフローチャートを参照して、DPF再生処理を実行する際の排気浄化システムの動作について説明する。
【0014】
図4に示すフローチャートは、ディーゼルエンジン本体1が始動するのに応じて開始となり、DPF再生処理はステップS1の処理に進む。なお、このDPF再生処理は所定の制御周期毎に繰り返し実行されるものとする。
【0015】
ステップS1の処理では、ECU13が、エンジン回転速度信号Ne,アクセル開度信号Acc,及び排気ガス圧力信号Pin,Poutを検出し、排気ガス圧力信号Pin,Poutの圧力差ΔPを算出する。そして、ECU13は、算出された圧力差ΔPに基づいて、DPF5に堆積しているPM量PCを算出する。なお、圧力差ΔPとPM量PCの関係は、実験等によって予め求められ、マップ化されているものとする。また、上記排気ガス圧力信号Poutを大気圧値に設定するようにしてもよい。このような構成によれば、排気ガス圧力信号Poutを出力する圧力センサ11を設ける必要がなくなり、システムコストを低減することができる。これにより、ステップS1の処理は完了し、DPF再生処理はステップS2の処理に進む。
【0016】
ステップS2の処理では、ECU13が、ステップS1の処理により算出されたPM量PCの値が予め定められた閾値P0以上であるか否かを判別する。そして、判別の結果、PM量PCの値が閾値P0以上でない場合、ECU13は、DPF5の再生処理は直ちに必要ないと判断し、DPF再生処理をステップS4の処理に進める。一方、PM量PCの値が閾値P0以上である場合には、ECU13は、DPF5の再生処理が直ちに必要であると判断し、DPF再生処理をステップS3の処理に進める。なお、上記閾値P0は、後述する通常のDPF再生処理の際にPMが全て酸化燃焼しても、酸化燃焼に伴う熱によってDPF5が劣化しないPMの最大量であり、実験等によって予め求められているものとする。
【0017】
ステップS3の処理では、ECU13が、DPF5を電気化学的に再生する(電気化学的DPF再処理)。なお、この電気化学的DPF再処理の詳細については、図5に示すフローチャートを参照して後述する。これにより、ステップS3の処理は完了し、一連のDPF再生処理は終了する。
【0018】
ステップS4の処理では、ECU13が、温度センサ12によってDPF5の内部温度Teを検出し、ディーゼルエンジン本体1が高出力運転をすることによって内部温度TeがPMの着火温度T1以上になっているか否かを判別する。そして、判別の結果、内部温度Teが着火温度T1以上になっていない場合、ECU13は一連のDPF再生処理を終了する。一方、内部温度Teが着火温度T1以上になっている場合には、ECU13はDPF再生処理をステップS5の処理に進める。
【0019】
ステップS5の処理では、ECU13が、燃焼伝播によりPMを燃焼させる通常のDPF再生処理を行う。これにより、ステップS5の処理は完了し、DPF再生処理はステップS6の処理に進む。
【0020】
ステップS6の処理では、ECU13が、排気ガス圧力信号Pin,Poutの圧力差ΔPに基づいて、DPF5内におけるPM量PCを算出する。これにより、ステップS6の処理は完了し、DPF再生処理はステップS7の処理に進む。
【0021】
ステップS7の処理では、ECU13が、ステップS6の処理により算出されたPM量PCが0であるか否かを判別する。そして、判別の結果、PM量が0である場合、ECU13は一連のDPF再生処理を終了する。一方、PM量が0でない場合には、ECU13はDPF再生処理をステップS8の処理に進める。
【0022】
ステップS8の処理では、ECU13が、温度センサ12によってDPF5の内部温度Teを検出し、内部温度TeがPMの着火温度T1以上になっているか否かを判別する。そして、判別の結果、内部温度Teが着火温度T1以上になっていない場合、ECU13は一連のDPF再生処理を終了する。一方、内部温度Teが着火温度T1以上になっている場合には、ECU13はDPF再生処理をステップS5の処理に戻す。
【0023】
〔電気化学的DPF再生処理〕
図5に示すフローチャートは、上記ステップS2の処理においてPM量PCの値が閾値P0以上であると判別されるのに応じて開始となり、電気化学的DPF再生処理はステップS11の処理に進む。
【0024】
ステップS11の処理では、ECU13が、DPF5内に設けられたヒータ5aを用いてDPF5全体を所定温度T2まで暖機する。なお、所定温度T2は、固体電解質膜24が十分なイオン伝導度を有し、且つ、PMが酸素と反応することによって温度が急激に上昇する温度以下であればよい。具体的には、固体電解質膜24が、低温酸化物イオン伝導体として知られているLaGaOにFe,Co,Ni等を添加した材料である場合には、十分なイオン伝導度を有する温度範囲は500〜600[℃]程度になる。また、PMが燃焼伝播によって急激に燃焼する温度は、白金等の触媒を用いた場合、600[℃]程度になる。従って、このような材料においては、所定温度T2は500〜600[℃]程度に設定することが適当であるが、所定温度T2は材料選定に応じて変化することは勿論である。これにより、ステップS11の処理は完了し、電気化学的DPF再生処理はステップS12の処理に進む。
【0025】
ステップS12の処理では、ECU13が、三方弁8を吸気流路7(A)側に切り換えることにより、DPF5のカソード22に空気を供給する。これにより、ステップS12の処理は完了し、電気化学的DPF再生処理はステップS13の処理に進む。
【0026】
ステップS13の処理では、ECU13が、スイッチS1をオン状態に制御することによりDPF5のアノード21及びカソード22間を接続状態にし、各セル23において上述のアノード反応及びカソード反応を生じさせる。なお、この際に発電された電力はバッテリ等に蓄えるものとする。また、この再処理の際に、上記化学反応式(2)の反応が生じると、有害なCOが外部に排出されてしまうため、DPF5の下流側に設けられた浄化触媒9によってDPF5から排出された排気ガスをさらに酸化することが望ましい。これにより、ステップS13の処理は完了し、電気化学的DPF再生処理はステップS14の処理に進む。
【0027】
ステップS14の処理では、ECU13が、排気ガス圧力信号Pin,Poutの圧力差ΔPに基づいてDPF5内におけるPM量PCを算出する。これにより、ステップS14の処理は完了し、電気化学的DPF再処理はステップS15の処理に進む。
【0028】
ステップS15の処理では、ECU13が、ステップS14の処理により算出されたPM量PCが0であるか否かを判別する。そして、判別の結果、PM量が0でない場合、ECU13は電気化学的DPF再生処理をステップS13の処理に戻す。一方、PM量が0である場合には、ECU13は電気化学的DPF再生処理をステップS16の処理に進める。
【0029】
ステップS16の処理では、ECU13が、スイッチS1をオフ状態に制御することによりDPF5のアノード21及びカソード22間を非接続状態にし、上述のアノード反応及びカソード反応を停止させる。これにより、ステップS16の処理は完了し、電気化学的DPF再生処理はステップS17の処理に進む。
【0030】
ステップS17の処理では、ECU13が、三方弁8を吸気流路6(B)側に切り換え、DPF5の電気化学的な再生処理を終了する。これにより、ステップS17の処理は完了し、一連の電気化学的DPF再生処理は終了する。
【0031】
以上の説明から明らかなように、本発明の第1の実施形態となる排気浄化システムによれば、DPF5は、固体電解質膜24を挟持するアノード21及びカソード22により構成され、アノード21及びカソード22にそれぞれ排気ガス及び空気を供給することにより、DPF5内部に蓄積したPMを電気化学的に除去する。そして、このような構成によれば、PMが燃焼伝播により急激に燃焼する温度以下でDPF5の再生処理を行うことができるので、DPF5が劣化することを防止できる。また、PMが燃焼伝播を起こしていても、DPF5が劣化しないレベルであれば、通常のDPF再生処理を行うので、電気化学的DPF再生処理を行う頻度を減らし、システム全体の効率を向上させることができる。
【0032】
また、本発明の第1の実施形態となる排気浄化システムによれば、固体電解質膜24中を移動するイオンは酸化物イオンであるので、空気中の酸素を反応物質として用い、装置構成を簡素にすることができる。また、本発明の第1の実施形態となる排気浄化システムによれば、固体電解質膜24は絶縁体であるので、炭素と酸素の反応エネルギーを外部から電気的に取り出し、燃費性能を向上させることができる。また、DPF5が過昇温しないため、DPFの破損を防ぐことができる。
【0033】
また、本発明の第1の実施形態となる排気浄化システムによれば、アノード21は白金触媒を担持しているので、周囲温度が600[℃]以上でPMが燃焼して燃焼熱が発生し、外部の昇温手段を用いることなく、この燃焼熱によってDPF5の温度を上げることができ、燃費性能を向上させることができる。また、本発明の第1の実施形態となる排気浄化システムによれば、排気ガス圧力信号Pin,Poutの圧力差Δに基づいてDPF5の再生時期を判断するので、DPF5の再生時期を直接的に判断することができる。
【実施例2】
【0034】
〔排気浄化システムの構成〕
本発明の第2の実施形態となる内燃機関の排気浄化システムは、図6に示すように、圧力センサ10,11を有さない点が上記第1の実施形態となる排気浄化システムの構成と異なる。また、この排気浄化システムでは、DPF5の温度を任意に制御することができるように、図7に示すように、DPF5に可変抵抗Rが設けられており、また、アノード21は白金触媒を担持していない。そして、このような構成を有する排気浄化システムは、以下に示すDPF再生処理を実行することにより、DPF5を高温状態にさらすことなく、効率よくDPF5を再生する。以下、図8に示すフローチャートを参照して、DPF再生処理を実行する際の排気浄化システムの動作について説明する。
【0035】
〔DPF再生処理〕
図8に示すフローチャートは、ディーゼルエンジン本体1が始動するのに応じて開始となり、DPF再生処理はステップS21の処理に進む。なお、このDPF再生処理は所定の制御周期毎に繰り返し実行されるものとする。
【0036】
ステップS21の処理では、ECU13が、DPF5に堆積しているPM量PCを算出する。具体的には、電池の理論開回路電圧EOP[V]は以下の数式(4)により表される。なお、数式(4)中のパラメータEOP0,aco2,a,ao2は、理論標準起電力(700[℃]においては0.94[V]),アノード21側のCO,固体炭素,Oの活量,気体定数,絶対温度,クーロン数を表す。
【0037】
OP=EOP0+RT/4F・ln(aco2/a・ao2) …(4)
また、上記数式(4)において、O,COの活量をそれぞれの気体濃度(O:20[%],CO:10[%])で近似し、固体炭素の活量を1とすると、電池の理論開回路電圧EOP[V]は、700[℃]において以下の数式(5)のように計算される。一方、アノード21側に炭素が存在しないとすると、固体電解質膜24の両極には酸素(アノードO:10[%],カソードO:10[%])しか存在しないため、700[℃]のける開回路電位は以下の数式(6)のように計算される。
【0038】
OP=0.94+8.314・973/4/96500・ln(0.1/1・0.22)=0.92 …(5)
OP=8.314・973/2/96500・ln(0.2/0.1)=0.029 …(6)
つまり、計算上、CO発生反応においてDPF5内でCの接触している部分には0.92[V],Cが接触しておらずOが触れている面に関しては0.029[V]の電位が生じることになる。但し、実際に観測される電圧は上記2電位の混合電位であり、且つ、COの発生反応も起きるため、以上の計算は目安に過ぎないが、傾向としては、開回路電位はCの接触している面積、つまりPM堆積量が大きくなる程、高い値となる。そこで、本実施形態では、予めPM堆積量と開回路電位の関係を実験によりマッピングしておき、ECU13は、開回路電位を検出し、マップを参照して開回路電位に対応するPM堆積量を検出する。これにより、ステップS21の処理は完了し、DPF再生処理はステップS22の処理に進む。
【0039】
ステップS22の処理では、ECU13が、ステップS21の処理により算出されたPM量PCの値が予め定められた閾値P0以上であるか否かを判別する。そして、判別の結果、PM量PCの値が閾値P0以上でない場合、ECU13は、DPF5の再生処理は直ちに必要ないと判断し、DPF再生処理をステップS24の処理に進める。一方、PM量PCの値が閾値P0以上である場合には、ECU13は、DPF5の再生処理が直ちに必要であると判断し、DPF再生処理をステップS23の処理に進める。
【0040】
ステップS23の処理では、ECU13が、DPF5を電気化学的に再生する(電気化学的DPF再処理)。なお、この電気化学的DPF再処理の詳細については、図9に示すフローチャートを参照して後述する。これにより、ステップS23の処理は完了し、一連のDPF再生処理は終了する。
【0041】
ステップS24の処理では、ECU13が、温度センサ12によってDPF5の内部温度Teを検出し、ディーゼルエンジン本体1が高出力運転をすることによって内部温度TeがPMの着火温度T4以上になっているか否かを判別する。そして、判別の結果、内部温度Teが着火温度T4以上になっていない場合、ECU13は一連のDPF再生処理を終了する。一方、内部温度Teが着火温度T4以上になっている場合には、ECU13はDPF再生処理をステップS25の処理に進める。
【0042】
ステップS25の処理では、ECU13が、燃焼伝播によりPMを燃焼させる通常のDPF再生処理を行う。これにより、ステップS25の処理は完了し、DPF再生処理はステップS26の処理に進む。
【0043】
ステップS26の処理では、ECU13が、ステップS21の同様の方法により、DPF5内におけるPM量PCを算出する。これにより、ステップS26の処理は完了し、DPF再生処理はステップS27の処理に進む。
【0044】
ステップS27の処理では、ECU13が、ステップS26の処理により算出されたPM量PCが0であるか否かを判別する。そして、判別の結果、PM量が0である場合、ECU13は一連のDPF再生処理を終了する。一方、PM量が0でない場合には、ECU13はDPF再生処理をステップS28の処理に進める。
【0045】
ステップS28の処理では、ECU13が、温度センサ12によってDPF5の内部温度Teを検出し、内部温度TeがPMの着火温度T4以上になっているか否かを判別する。そして、判別の結果、内部温度Teが着火温度T4以上になっていない場合、ECU13は一連のDPF再生処理を終了する。一方、内部温度Teが着火温度T4以上になっている場合には、ECU13はDPF再生処理をステップS25の処理に戻す。
【0046】
〔電気化学的DPF再生処理〕
図10に示すフローチャートは、上記ステップS22の処理においてPM量PCの値が閾値P0以上であると判別されるのに応じて開始となり、電気化学的DPF再生処理はステップS31の処理に進む。
【0047】
ステップS31の処理では、ECU13が、三方弁8を吸気流路7(A)側に切り換えることにより、DPF5のカソード22に空気を供給する。これにより、ステップS31の処理は完了し、電気化学的DPF再生処理はステップS32の処理に進む。
【0048】
ステップS32の処理では、ECU13が、エンジンにおける通常の燃料噴射に加えて各気筒の膨張行程時に追加の燃料噴射を行うと共に、EGRバルブ4を開弁してEGRガスを各気筒に導入することにより(昇温操作)、DPF5の内部温度Teをパーティクルマターの着火温度T4まで暖機する。これにより、ステップS32の処理は完了し、電気化学的DPF再生処理はステップS33の処理に進む。
【0049】
ステップS33の処理では、DPF5内部でPMが燃焼することにより、DPF5の内部温度Teが上昇する。これにより、ステップS33の処理は完了し、電気化学的DPF再生処理はステップS34の処理に進む。
【0050】
ステップS34の処理では、ECU13が、DPF5の内部温度Teが電気化学的DPF再生処理に適した所定温度T5に達したか否かを判別する。そして、内部温度Teが所定温度T5に達するのに応じて、ECU13は電気化学的DPF再生処理をステップS35の処理に進める。
【0051】
ステップS35の処理では、ECU13が、DPF5の昇温操作を停止する。これにより、ステップS35の処理は完了し、電気化学的にDPF再生処理はステップS36の処理に進む。
【0052】
ステップS36の処理では、ECU13が、スイッチS1をオン状態に制御することによりDPF5のアノード21及びカソード22間を接続状態にし、各セル23において上述のアノード反応及びカソード反応を生じさせる。これにより、ステップS36の処理は完了し、電気化学的DPF再生処理はステップS37の処理に進む。
【0053】
ステップS37の処理では、電気化学的に消費されるPMの量は流れる電流量に比例するので、ECU13が、可変抵抗Rの値を制御することによりDPF5の内部温度Teが所定温度T5になるように制御する。これにより、ステップS37の処理は完了し、電気化学的DPF再生処理はステップS38の処理に進む。
【0054】
ステップS38の処理では、ECU13が、ステップS21の同様の方法により、DPF5内におけるPM量PCを算出する。これにより、ステップS38の処理は完了し、電気化学的DPF再処理はステップS39の処理に進む。
【0055】
ステップS39の処理では、ECU13が、ステップS38の処理により算出されたPM量PCが0であるか否かを判別する。そして、判別の結果、PM量が0でない場合、ECU13は電気化学的DPF再生処理をステップS37の処理に戻す。一方、PM量が0である場合には、ECU13は電気化学的DPF再生処理をステップS40の処理に進める。
【0056】
ステップS40の処理では、ECU13が、スイッチS1をオフ状態に制御することによりDPF5のアノード21及びカソード22間を非接続状態にし、上述のアノード反応及びカソード反応を停止させる。これにより、ステップS40の処理は完了し、電気化学的DPF再生処理はステップS41の処理に進む。
【0057】
ステップS41の処理では、ECU13が、三方弁8を吸気流路6(B)側に切り換え、DPF5の電気化学的再生処理を終了する。これにより、ステップS41の処理は完了し、一連の電気化学的DPF再生処理は終了する。
【0058】
以上の説明から明らかなように、本発明の第2の実施形態となる排気浄化システムによれば、ECU13が、可変抵抗Rの抵抗値を制御することにより、DPF5の温度を調整するので、DPF5の温度上昇のためにPMの燃焼熱を用い、ある閾値温度T5になったら可変抵抗Rの抵抗値を調整することによりDPF5の温度を調整することができる。また、DPF5が過昇温することがないので、DPF5の劣化を防ぐことができると共に、外部からの昇温手段を用いることなく温度を上げることができるので、燃費を向上させることができる。
【0059】
また、本発明の第2の実施形態となる排気浄化システムによれば、DPF5を電気化学的DPF再生処理に適した温度に保つために必要なエネルギーをPMの燃焼エネルギーから得るので、システム全体のエネルギー効率を向上させることができる。また、本発明の第2の実施形態となる排気浄化システムによれば、圧力センサ10,11を用いることなく、開回路電位に基づいてDPF5の再生時期を判断するので、部品点数とシステムコストを削減することができる。
【0060】
また、上記第1の実施形態となる排気浄化システムでは、電気化学的DPF再生処理に適した温度はPMの着火温度よりも低い必要があったために、運転温度域が700〜1000[℃]とパーティクルマターの着火温度よりも高い8%−YTS(酸化ジルコニアに8[%]イットリウムを混合した物質)を固体電解質膜24として用いることができず、固体電解質膜24の種類の制限があったが、本発明の第2の実施形態となる排気浄化システムによれば、このような固体電解質膜24の種類に対する制限をなくすことができる。
【0061】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、この実施の形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。例えば、上記実施形態では、アノード21側の燃焼触媒として白金触媒を用いたが、白金触媒を用いない場合であってもPMの着火温度は100[℃]程度しか上昇しないので、白金触媒を用いなくとも上記電気化学的DPF再処理を行うことができる。また、本実施形態における電極触媒,及び固体電解質膜の種類については、同様の機能を果たすものであれば特に限定されるものではない。また、上記実施形態では、DPF5は、平板形状の単セルを複数積層した平板式であったが、例えばウェスティングハウス式のような縦縞円筒型の構造にしてもよい。また、DPF5はヒータ5aによって昇温したが、排気温度を上昇させることにより昇温させてもよいし、エンジンの運転状態やDPFの温度に応じてこらの昇温方法を使い分けるようにしてもよい。また、アノード21とカソード22側の隔膜として絶縁性のイオン伝導体を用いたが、導電性のイオン伝導体を用いてカーボンの酸化に伴う発熱が電解質膜内でも起きるようにしてもよい。このような構成によれば、アノード21側のみで起きていた発熱を熱容量が大きい酸化物イオン伝導体内部で通電に伴う抵抗発熱という形で起こすことができるので、局所的な温度上昇を防ぐことができる。また、PMの堆積量の検知方法として、電解質膜両端の電極間開回路電位を用いたが、一定の電流値を流した場合の電位差を用いるようにしてもよい。このように、上記実施の形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第1の実施形態となる排気浄化システムの構成を示す模式図である。
【図2】図1に示すDPFの内部構成を示す模式図である。
【図3】図2に示す単セルの構成を示す模式図である。
【図4】本発明の第1の実施形態となるDPF再生処理の流れを示すフローチャート図である。
【図5】図4に示す電気化学的DPF再生処理の流れを示すフローチャート図である。
【図6】本発明の第2の実施形態となる排気浄化システムの構成を示す模式図である。
【図7】図6に示すDPFの内部構成を示す模式図である。
【図8】本発明の第2の実施形態となるDPF再生処理の流れを示すフローチャート図である。
【図9】図8に示す電気化学的DPF再生処理の流れを示すフローチャート図である。
【符号の説明】
【0063】
1:ディーゼルエンジン本体
2:燃料噴射系
3:EGR流路
4:EGRバルブ
5:ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)
5a:ヒータ
6,7:吸気流路
8:三方弁
9:浄化触媒
10,11:圧力センサ
12:温度センサ
13:ECU
21:アノード
22:カソード
23:単セル
24:固体電解質膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関から排出される排気ガス中に含まれるパティキュレートを捕集するパティキュレートフィルタを備える内燃機関の排気浄化システムであって、
前記パティキュレートフィルタは、イオン伝導体により形成された隔膜を挟持する電極により構成され、一方及び他方の電極にそれぞれ排気ガス及び酸素含有ガスを供給することにより、内部に蓄積されているパティキュレートが電気化学的に除去されること
を特徴とする内燃機関の排気浄化システム。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の排気浄化システムであって、
前記隔膜中を移動するイオンは酸化物イオンであることを特徴とする内燃機関の排気浄化システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の内燃機関の排気浄化システムであって、
前記イオン伝導体は絶縁体であることを特徴とする内燃機関の排気浄化システム。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の内燃機関の排気浄化システムであって、
前記イオン伝導体は導電体であることを特徴とする内燃機関の排気浄化システム。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のうち、いずれか1項に記載の内燃機関の排気浄化システムであって、
前記排気ガスが供給される側の電極は白金触媒を担持していることを特徴とする内燃機関の排気浄化システム。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のうち、いずれか1項に記載の内燃機関の排気浄化システムであって、
前記電極間に接続された可変抵抗素子と、
前記可変抵抗素子の抵抗値を制御することにより、前記パティキュレートフィルタの温度を調整する制御部と
を備えることを特徴とする内燃機関の排気浄化システム。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のうち、いずれか1項に記載の内燃機関の排気浄化システムであって、
内部に蓄積されているパティキュレートを除去するパティキュレートフィルタの再生時期を判断する制御部を備えることを特徴とする内燃機関の排気浄化システム。
【請求項8】
請求項7に記載の内燃機関の排気浄化システムであって、
前記制御部は、前記パティキュレートフィルタの上流側圧力と下流側圧力の圧力差に基づいてパティキュレートフィルタの再生時期を判断することを特徴とする内燃機関の排気浄化システム。
【請求項9】
請求項7に記載の内燃機関の排気浄化システムであって、
前記制御部は、前記電極間の電位差に基づいてパティキュレートフィルタの再生時期を判断することを特徴とする内燃機関の排気浄化システム。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のうち、いずれか1項に記載の内燃機関の排気浄化システムであって、
前記パティキュレートフィルタに堆積するパティキュレートの量に応じて、電気化学反応を利用する方法とパティキュレートフィルタの熱酸化現象を利用する方法との間でパティキュレートフィルタの再生方法を切り替えることを特徴とする内燃機関の排気浄化システム。
【請求項11】
請求項10に記載の内燃機関の排気浄化システムであって、
前記パティキュレートフィルタの再生方法として電気化学反応を利用する方法を用いる場合のパティキュレートの堆積量は、当該堆積量のパティキュレートが全て熱酸化した際にパティキュレートフィルタの温度が所定温度以下となる量であることを特徴とする内燃機関の排気浄化システム。
【請求項12】
請求項11に記載の内燃機関の排気浄化システムであって、
前記所定温度は、パティキュレートフィルタの破損温度であることを特徴とする内燃機関の排気浄化システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−299857(P2006−299857A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−119909(P2005−119909)
【出願日】平成17年4月18日(2005.4.18)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】