説明

内燃機関の排気浄化装置

【課題】再生処理の開始時や終了時に運転者に与える違和感を軽減するとともに、様々な運転状況においても再生処理を開始・終了することのできる内燃機関の排気浄化装置を提供する。
【解決手段】制御装置は、ステップS11の処理にて推定PM堆積量PMsmが再生処理開始値PMst以上であるかを判定し、この判定結果が肯定の場合にステップS12の処理にて再生処理の開始遅延操作をオンにする。そして、制御装置は、ステップS13の処理にてアクセル操作がなされて同アクセルオフ状態となったことを条件として、ステップS14の処理にて再生処理を開始させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気に含まれるPMをフィルタにより捕集してこれを適宜燃焼除去するための排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の排気通路に設けられる排気浄化装置として、排気中のPM(Particulate Matter)を捕集するフィルタを備える装置が知られている。こうした排気浄化装置では、フィルタに捕集されたPMの量が増大するにつれてフィルタの圧力損失が増大し、機関出力の低下等をもたらすこととなる。このため、こうした排気浄化装置にあっては、フィルタの温度を上昇させることでフィルタに捕集されたPMを燃焼させてフィルタの捕集機能を再生させるための再生処理が実行される。
【0003】
一般に、フィルタ温度には排気温度が大きく影響するため、こうしたフィルタの再生処理が開始されると、排気温度を上昇させるべく内燃機関の運転状態が制御され、機関出力や燃焼騒音が変化する。したがって、運転者の意図とは関係なく機関出力や燃焼騒音が変化することとなり、運転者に違和感を与えてしまうこととなる。そして、こうした違和感は車両本来の機能としてはさほど問題は生じないものの、近年、高級感が強く求められる自動車業界においてはやはり看過することのできないものとなっている。
【0004】
そこで、特許文献1に記載される内燃機関の排気浄化装置では、再生処理の開始時期を機関出力軸の軸出力トルクが「0」の状態のときに限定し、再生処理の開始時期の前後で軸出力トルクが変化しないようにしている。これにより、軸出力トルクが変動しやすい条件の下で再生処理が開始されてしまうことを回避し、上述したような運転者に与える違和感の低減を図ることができるようになる。
【特許文献1】特開2004−346836号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、再生処理の開始条件とすべき軸出力トルクが「0」になる状況は頻繁に生じるものではない。したがって、フィルタに捕集されたPMの堆積量が再生処理開始値に達したとしても再生処理の開始が過度に遅れてしまう虞がある。また、再生処理を開始する際についての問題について述べたが同様の問題が再生処理を終了する際においても同様に生じ得る。
【0006】
本発明の目的は、再生処理の開始時や終了時に運転者に与える違和感を軽減するとともに、様々な運転状況においても再生処理を開始・終了することのできる内燃機関の排気浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、排気に含まれるPMを捕集するフィルタを機関排気通路に備え、前記フィルタに堆積した前記PMの堆積量を推定するとともに、前記推定される堆積量が所定の再生処理開始値以上であることを条件に前記PMを燃焼除去して前記フィルタのPM捕集能力を再生させる再生処理を実行する内燃機関の排気浄化装置において、前記再生処理の開始時期をアクセル操作がなされるまで遅延させる再生処理開始遅延手段を備えることを要旨とする。
【0008】
この発明では、運転者によって頻繁になされるアクセル操作とフィルタの再生処理の開始時期を同期させるようにしている。従って、運転者は自ら行ったアクセル操作によって機関出力や燃焼騒音が変化したのか、再生処理の開始によって機関出力や燃焼騒音が変化したのかが判別し難くなり、これを違和感として体感する可能性が極めて低いものとなる。したがって、再生処理の開始において運転者が体感する違和感を軽減することができ、また運転者のアクセル操作は頻繁に行われるため、再生処理の開始時期が大きく遅延してしまうことがなく、再生処理を実行する際の悪影響についてもこれを極力小さなものとすることができるようになる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記再生処理開始遅延手段は、前記堆積量が前記フィルタに堆積し得る最大の堆積量を超えたときに、前記アクセル操作に基づく再生処理の開始遅延操作を無効化して前記再生処理を強制的に実行することを要旨とする。
【0010】
この発明によれば、PMの堆積量が過剰になるのを回避することができ、フィルタのPM捕集機能が過度に低下してしまうことを防止することができる。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記再生処理開始遅延手段は、前記アクセル操作がなされて同アクセルオフ状態となったことを条件として前記再生処理を開始することを要旨とする。
【0011】
この発明によれば、アクセルオフ操作されたときの機関出力や燃焼騒音は、急激に減少する方向に変化することになるため、機関出力や燃焼騒音の変化が比較的大きなものとなる。したがって、このような状況の下で再生処理を開始することで、機関出力や燃焼騒音の変化を一層運転者に体感させ難くすることができる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の発明において、前記再生処理開始遅延手段は、前記アクセル操作がなされるとともに、前記アクセル操作量が所定量以上であることを条件として前記再生処理を開始することを要旨とする。
【0013】
ここで、上記所定量とは、再生処理を開始したとしても、それによって生じる機関出力や燃焼騒音の変化よりもアクセル操作量に基づく機関出力や燃焼騒音の変化のほうが大きいと判断される量である。したがって、このような状況の下で再生処理を開始することで、再生処理の開始に起因する機関出力や燃焼騒音の変化を一層運転者に体感させ難くすることができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の発明において、前記再生処理開始遅延手段は、前記アクセル操作がなされるとともに、車速が所定の速度よりも高いことを条件として前記再生処理を開始することを要旨とする。
【0015】
ここで、所定の速度とは、再生処理を開始したとしても、それによって生じる燃焼騒音の変化よりも車速に基づく車両騒音の変化のほうが大きく、またその車速において発生している機関出力に対して再生処理の開始に起因する機関出力の変化量が相対的に小さいと判断される車速である。したがって、このような状況の下で再生処理を開始することで、再生処理の開始に起因する機関出力や燃焼騒音の変化を一層運転者に体感させ難くすることができる。
【0016】
請求項6に記載の発明は、排気に含まれるPMを捕集するフィルタを機関排気通路に備え、前記フィルタに堆積した前記PMの堆積量を推定するとともに、前記推定される堆積量が所定の再生処理開始値以上であることを条件に前記PMを燃焼除去して前記フィルタのPM捕集能力を再生させる再生処理を実行する一方、前記推定される堆積量が所定の再生処理終了値以下であることを条件に再生処理を終了する内燃機関の排気浄化装置において、前記再生処理の終了時期をアクセル操作がなされるまで遅延させる再生処理終了遅延手段を備えたことを要旨とする。
【0017】
この発明では、運転者によって頻繁になされるアクセル操作と再生処理の終了時期とを同期させるようにしている。従って、運転者は自ら行ったアクセル操作によって機関出力や燃焼騒音が変化したのか、再生処理の終了によって機関出力や燃焼騒音が変化したのかが判別し難くなり、これを違和感として体感する可能性は極めて低いものとなる。したがって、再生処理の終了時において運転者が体感する違和感を軽減することができ、また運転者のアクセル操作は頻繁に行われるため、再生処理の終了時期が大きく遅延してしまうことがなく、再生処理を実行する際の悪影響についてもこれを極力小さなものとすることができるようになる。
【0018】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の発明において、前記再生処理終了遅延手段は、前記アクセル操作がなされて同アクセルオフ状態となったことを条件として前記再生処理を終了することを要旨とする。
【0019】
この発明によれば、アクセルオフ操作されたときの機関出力や燃焼騒音は、急激に減少する方向に変化することになるため、機関出力や燃焼騒音の変化が比較的大きなものとなる。したがって、このような状況の下で再生処理を終了することで、機関出力や燃焼騒音の変化を一層運転者に体感させ難くすることができる。
【0020】
請求項8に記載の発明は、請求項6又は請求項7に記載の発明において、前記再生処理終了遅延手段は、前記アクセル操作がなされるとともに、前記アクセル操作量が所定量以上であることを条件として前記再生処理を終了することを要旨とする。
【0021】
ここで、上記所定量とは、再生処理を終了したとしても、それによって生じる機関出力や燃焼騒音の変化よりもアクセル操作量に基づく機関出力や燃焼騒音の変化のほうが大きいと判断される量である。したがって、このような状況の下で再生処理を終了することで、再生処理の終了に起因する機関出力や燃焼騒音の変化を一層運転者に体感させ難くすることができる。
【0022】
請求項9に記載の発明は、請求項6〜請求項8のいずれか一項に記載の発明において、前記再生処理終了遅延手段は、前記アクセル操作がなされるとともに、車速が所定の速度よりも高いことを条件として前記再生処理を終了することを要旨とする。
【0023】
ここで、所定の速度とは、再生処理を終了したとしても、それによって生じる燃焼騒音の変化よりも車速に基づく車両騒音の変化のほうが大きく、またその車速において発生している機関出力に対して再生処理の終了に起因する機関出力の変化量が相対的に小さいと判断される車速である。したがって、このような状況の下で再生処理を終了することで、再生処理の終了に起因する機関出力や燃焼騒音の変化を一層運転者に体感させ難くすることができる。
【発明の効果】
【0024】
この発明によれば、再生処理の開始時や終了時における運転者の違和感を軽減するとともに、様々な運転状況においても再生処理を開始し、あるいは終了することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明をディーゼルエンジンの排気浄化装置に具体化した一実施形態を図1〜図4にしたがって説明する。図1は、本実施形態にかかる排気浄化装置が適用されたディーゼルエンジン10(以下、単に「エンジン10」という)、並びにそれらの周辺構成を示す概略構成図を示す。
【0026】
図1に示すように、エンジン10の燃焼室11aには、吸気通路20と排気通路30とが接続されている。吸気通路20には、ステップモータ21aにより開閉駆動される吸気絞り弁21が設けられるとともに、この吸気絞り弁21の開度を変更することにより燃焼室11aに導入される空気の量が調量される。燃焼室11aには、気筒11毎に燃料噴射弁12がそれぞれ設けられている。これら燃料噴射弁12は、コモンレール13に接続されるとともに、コモンレール13内の燃料を燃焼室11a内に噴射する。なお、このコモンレール13には、図示しない燃料タンクに貯留された燃料がサプライポンプ14によって供給される。
【0027】
排気通路30における下流側の部分には、触媒コンバータ41及びフィルタ42が設けられている。これら触媒コンバータ41及びフィルタ42には、酸化触媒が担持されている。また、フィルタ42は、多孔質のセラミック構造体で構成されており、排気中のPMはこの多孔質の壁を通過する際に捕集される。
【0028】
また、シリンダヘッド15には、触媒コンバータ41に添加剤として燃料を供給するための燃料添加弁44が取り付けられている。この燃料添加弁44は、燃料供給管45を介してサプライポンプ14に接続されており、燃料添加弁44からは燃焼室11a内と排気通路30とをつなぐ排気ポート内に向けて燃料が噴射される。この噴射された燃料は、排気とともに触媒コンバータ41に供給される。
【0029】
エンジン10には、機関運転状態を検出するための各種センサが設けられている。例えば、エアフロメータ51は吸気通路20内の吸入空気量(単位時間当たりの吸入空気量)を検出する。アクセルセンサ52はアクセルペダルの踏み込み量に相当するアクセル操作量を検出する。絞り弁開度センサ53は吸気絞り弁21の開度を検出する。機関回転速度センサ54は、機関回転速度を検出する。差圧センサ55は、フィルタ42の排気上流側及び排気下流側の排気圧の圧力差ΔPを検出する。
【0030】
これら各種センサの出力は制御装置50に入力される。この制御装置50は、中央処理制御装置(CPU)、各種プログラムやマップ等を予め記憶した読出専用メモリ(ROM)、CPUの演算結果等を一時記憶するランダムアクセスメモリ(RAM)、タイマカウンタ、入力インターフェース、出力インターフェース等を備えたマイクロコンピュータを中心に構成されている。制御装置50は、上記各種センサの出力信号に基づいて、燃料噴射弁12による燃料噴射時期制御や燃料噴射量制御を実行する。また、排気浄化処理の一環として、燃焼室11aより排出される排気の温度を上昇させる制御、及び、燃料添加弁44よりの燃料噴射制御を実行する。
【0031】
フィルタ42の再生処理について補足すると、フィルタ42の再生は、フィルタ42を通過する排気を高温とし、捕集されたPMを燃焼除去することにより行われる。しかしながら、PMを短時間で燃焼除去する為には、通過する排気の温度を600度以上の高温とする必要がある。この高温を実現する為に、複数の手段を組み合わせることが知られている。本実施形態では、燃料噴射弁12の燃料噴射時期を遅角化することにより燃焼室11aより排出される排気の温度を上昇させるとともに、燃料添加弁44より噴射された燃料が触媒コンバータ41で酸化反応することにより熱を発生させ、フィルタ42の手前で更に排気の温度を上昇させることで、この高温を実現している。なお、本実施形態では、燃料噴射弁12の噴射時期の遅角化を採用したが、エンジン10の運転状態の変更によるその他の手段としては、ポスト噴射、吸気絞り弁21の開度減少によっても、排気温度の上昇を図ることができる。
【0032】
この再生処理が開始されると、まず、燃料噴射弁12の燃料噴射時期の遅角化が行われる。前述した2つの手段によれば、どちらも排気温度を上昇させることができるが、先に燃焼室11aより排出される排気の温度を上昇させることで、触媒コンバータの活性向上を図ることができるとともに、燃料添加弁44より噴射される燃料の微粒子化(気化)の促進も図ることができる。前述したエンジン10の運転状態の変更の後、燃料添加弁44による燃料添加が実行される。このように燃料添加弁44から噴射された燃料は、触媒コンバータ41に達すると酸化反応し、これにより排気温度の上昇が図られる。そして、触媒コンバータ41にて昇温された排気がフィルタ42に流入することにより、フィルタ42は昇温され、これによりフィルタ42に堆積したPMが燃焼除去されてフィルタ42の再生が図られる。
【0033】
次に、本実施形態の制御装置50における再生処理を開始する際の制御手順について、図2を参照して説明する。なお、図2は再生処理を開始する際の処理手順を示すフローチャートであり、制御装置50はこの図2のフローチャートに示す一連の処理を所定の制御周期をもって繰り返し実行する。この一連の処理では、まず、エンジン10の各燃焼室11aから排出されるPMの量(PM排出量)が、予めの実験等を通じて設定されたマップに基づいて算出される。そして、このPM排出量を所定周期毎に繰り返し積算することにより、制御装置50は、フィルタ42に堆積したPM量の推定値である推定PM堆積量PMsmを算出する(ステップS10)。
【0034】
次に、制御装置50は、ステップS10において算出された推定PM堆積量PMsmが、再生処理開始値PMst以上か否かを判定する(ステップS11)。この判定結果が肯定の場合、制御装置50は、再生処理の実行をアクセル操作等がなされるまで遅延させるための再生処理の開始遅延操作をオンにする(ステップS12)。一方、ステップS11の判定結果が否定の場合は、この一連の処理を一旦終了する。
【0035】
そして、制御装置50は、運転者によってアクセル操作がなされて同アクセルオフ状態であるか否かを判定する(ステップS13)。この判定結果が肯定の場合、制御装置50は、再生処理を開始する(ステップS14)。一方、ステップS13の判定結果が否定の場合は、制御装置50は、運転者によってなされたアクセル操作について、そのアクセル操作量が所定量以上か否かを判定する(ステップS15)。ここで、上記所定量とは、再生処理の開始を実行したとしても、それによって生じる機関出力や燃焼騒音の変化よりもアクセル操作量に基づく機関出力や燃焼騒音の変化のほうが大きいと判断される量である。この判定結果が肯定の場合は、ステップS14に移行する。このように、制御装置50は、ステップS12からステップS13を経由してステップS14に移行する過程及びステップS12からステップS13及びステップS15を経由してステップS14に移行する過程のように再生処理の開始時期を遅延させる再生処理開始遅延手段として機能する。
【0036】
一方、ステップS15の判定結果が否定の場合、制御装置50は、推定PM堆積量PMsmがフィルタ42に堆積し得る最大の堆積量PMmaxを超えたか否かを判定する(ステップS16)。この判定結果が肯定の場合、ステップS14に移行し、アクセル操作に基づく再生処理の開始遅延操作を無効化して再生処理を強制的に開始する。一方、ステップS16の判定結果が否定の場合、制御装置50は、差圧センサ55によって検出される圧力差ΔPが閾値ΔPmaxを越えたか否かを判定する(ステップS17)。排気上流側及び排気下流側の排気圧の圧力差ΔPとPM堆積量とは高い相関を有しており、圧力差ΔPが大きい値を示した場合、実際のPM堆積量が多くなってきていることを意味する。ここで、上記閾値ΔPmaxとは、推定PM堆積量PMsmがフィルタ42に堆積し得る最大の堆積量PMmaxを確実に越えたと判定できる圧力差に相当する値である。この判定結果が肯定の場合、ステップS14に移行し、アクセル操作に基づく再生処理の開始遅延操作を無効化して再生処理を強制的に実行する。一方、ステップS17の判定結果が否定の場合、この一連の処理を一旦終了する。
【0037】
次に、本実施形態の制御装置50における再生処理を終了する際の制御手順について、図3を参照して説明する。なお、図3は再生処理を終了する際の処理手順を示すフローチャートであり、制御装置50はこの図3のフローチャートに示す一連の処理を所定の制御周期をもって繰り返し実行する。この一連の処理では、上述した再生処理を開始する際に行われる手順と同様に、まず、PM排出量を積算することにより、制御装置50は、フィルタ42に堆積したPM量の推定値である推定PM堆積量PMsmを算出する(ステップS10)。次に、制御装置50は、ステップS10において算出された推定PM堆積量PMsmが、再生処理終了値PMen(<再生処理開始値PMst)以下か否かを判定する(ステップS21)。この判定結果が肯定の場合、制御装置50は、再生処理の終了をアクセル操作等がなされるまで遅延させるための再生処理の終了遅延操作をオンにする(ステップS22)。一方、ステップS21の判定結果が否定の場合は、この一連の処理を一旦終了する。
【0038】
そして、制御装置50は、運転者によってアクセル操作がなされて同アクセルオフ状態であるか否かを判定する(ステップS13)。この判定結果が肯定の場合、制御装置50は、再生処理を終了する(ステップS23)。一方、ステップS13の判定結果が否定の場合は、制御装置50は、運転者によってなされたアクセル操作において、アクセル操作量が所定量以上か否かを判定する(ステップS15)。ここで、上記所定量とは、再生処理を終了したとしても、それによって生じる機関出力や燃焼騒音の変化よりもアクセル操作量に基づく機関出力や燃焼騒音の変化のほうが大きいと判断される量である。この判定結果が肯定の場合は、ステップS23に移行する。このように、制御装置50は、ステップS22からステップS13を経由してステップS23に移行する過程及びステップS22からステップS13及びステップS15を経由してステップS23に移行する過程のように再生処理の終了を遅延させる再生処理終了遅延手段として機能する。すなわち、本実施形態における制御装置50は、再生処理開始遅延手段及び再生処理終了遅延手段の双方を兼ね備えた再生処理遅延手段として機能する。
【0039】
一方、ステップS15の判定結果が否定の場合、制御装置50は、差圧センサ55によって検出される圧力差ΔPが閾値ΔPmin以下であるか否かを判定する(ステップS24)。排気上流側及び排気下流側の排気圧の圧力差ΔPがこの閾値ΔPmin以下であるということは、すでに再生処理が完了している、すなわちフィルタ42に堆積しているPMがほぼ「0」であることを意味する。したがって、この判定結果が肯定の場合、ステップS23に移行し、アクセル操作に基づく再生処理の終了遅延操作を無効化して再生処理を強制的に終了する。一方、ステップS24の判定結果が否定の場合、この一連の処理を一旦終了する。
【0040】
再生処理が開始された場合、通常の運転時と比較して機関出力の変化や燃焼騒音の変化が生じるのは避けられない。このため、定常走行中、すなわち運転者により車両に対して何らかの操作がなされていない状況の下で、こうした再生処理が開始されたり、あるいは終了したりする場合、乗員はこれを何らかの違和感として体感することとなる。しかし、ステップS13において、アクセルオフ操作されたときの機関出力や燃焼騒音は、急激に減少する方向に変化することになるため、機関出力や燃焼騒音の変化が比較的大きなものとなる。また、ステップS15において、運転者によってなされたアクセル操作において、アクセル操作量が所定量以上の場合であっても、図4に示すように、機関出力や燃焼騒音の変化は比較的大きなものとなる。したがって、本実施形態では、このような運転者によって頻繁になされるアクセル操作に同期してこうした再生処理の開始や終了、更にはその双方を行うようにしている。従って、運転者は自ら行ったアクセル操作によって機関出力や燃焼騒音が変化したのか、再生処理の開始・終了によって機関出力や燃焼騒音が変化したのかが判別し難くなり、これを体感する可能性は極めて低いものとなる。
【0041】
以上説明した実施形態では以下の効果を得ることができる。
(1)制御装置50は、アクセル操作がなされて同アクセルオフ状態となったことを条件として再生処理を開始・終了する。したがって、アクセルオフ操作されたときの機関出力や燃焼騒音は、急激に減少する方向に変化することになるため、機関出力や燃焼騒音の変化が比較的大きなものとなる。したがって、このような状況の下で再生処理を開始・終了することで、機関出力や燃焼騒音の変化を一層運転者に体感させ難くすることができる。
【0042】
(2)制御装置50は、アクセル操作がなされるとともに、このアクセル操作量が所定量以上であることを条件として再生処理を開始・終了する。したがって、再生処理を開始・終了したとしても、それによって生じる機関出力や燃焼騒音の変化よりもアクセル操作量に基づく機関出力や燃焼騒音の変化のほうが大きいと判断されるような状況の下で再生処理を開始・終了することで、再生処理の開始・終了に起因する機関出力や燃焼騒音の変化を運転者に体感させ難くすることができる。
【0043】
(3)制御装置50は、推定PM堆積量PMsmがフィルタ42に堆積し得る最大の堆積量PMmaxを超えたときに、アクセル操作に基づく再生処理の開始遅延操作を無効化して再生処理を強制的に実行する。したがって、PM堆積量が過剰になるのを回避することができ、フィルタ42のPM捕集機能が過度に低下してしまうことを防止することができる。
【0044】
(4)制御装置50は、差圧センサ55によって検出される圧力差ΔPが閾値ΔPmaxを越えたときに、アクセル操作に基づく再生処理の開始遅延操作を無効化して再生処理を強制的に実行する。したがって、PM堆積量が過剰になるのを確実に回避することができ、フィルタ42のPM捕集機能が過度に低下してしまうことを防止することができる。
【0045】
なお、本実施形態はこれを適宜変更した以下のような態様にて実施することもできる。
○ 制御装置50は、アクセル操作がなされるとともに、車速が所定の速度よりも高いことを条件として再生処理を開始・終了するようにしてもよい。ここで、所定の速度とは、再生処理を開始・終了したとしても、それによって生じる燃焼騒音の変化よりも車速に基づく車両騒音の変化のほうが大きく、またその車速において発生している機関出力に対して再生処理の開始・終了に起因する機関出力の変化量が相対的に小さいと判断される車速である。したがって、このような状況の下で再生処理を開始・終了することで、再生処理の開始・終了に起因する機関出力や燃焼騒音の変化を一層運転者に体感させ難くすることができる。また、車速が所定の速度よりも高ければ、アクセル操作がなされていなくても再生処理を開始・終了するようにしてもよい。
【0046】
○ 制御装置50は、再生処理開始遅延手段及び再生処理終了遅延手段の双方を兼ね備えた再生処理遅延手段としては機能させずに、再生処理開始遅延手段のみとして機能するようにしてもよい。すなわち、制御装置50における再生処理を終了する際の制御手順において、ステップS21の処理が肯定であった場合、上述したような再生処理の終了遅延操作をオンにせずに、そのままステップS23に移行し再生処理を終了させてもよい。また、それと逆に、制御装置50は、再生処理開始遅延手段及び再生処理終了遅延手段の双方を兼ね備えた再生処理遅延手段としては機能させずに、再生処理終了遅延手段のみとして機能するようにしてもよい。すなわち、制御装置50における再生処理を開始する際の制御手順において、ステップS11の処理が肯定であった場合、上述したような再生処理の開始遅延操作をオンにせずに、そのままステップS14に移行し再生処理を開始させてもよい。
【0047】
○ 制御装置50は、ステップS13におけるアクセルオフ状態か否かを判定することなく、ステップS12又はステップS22における処理がなされたら、次に、ステップS15に移行し、アクセル操作量が所定量以上か否かを判定するようにしてもよい。
【0048】
○ 制御装置50は、アクセル操作がなされるとともにアクセル操作量が所定量以上であり、さらに、アクセルオフ状態となったときを条件に再生処理を開始・終了するようにしてもよい。
【0049】
○ 制御装置50は、車速が所定の速度よりも高い条件であることを満たすとともに、アクセル操作がなされ同アクセル操作量が所定量以上であり、さらに、アクセルオフ状態となったときを条件に再生処理を開始・終了するようにしてもよい。
【0050】
○ 制御装置50は、車速が所定の速度よりも高い条件であることを満たし、さらに、アクセル操作がなされて同アクセルオフ状態となったときを条件に再生処理を開始・終了するようにしてもよい。
【0051】
○ 制御装置50は、車速が所定の速度よりも高い条件であることを満たし、さらに、アクセル操作がなされるとともに、アクセル操作量が所定量以上であることを条件に再生処理を開始・終了するようにしてもよい。
【0052】
○ 前述した実施の形態では、排気浄化装置として、触媒コンバータ41及びフィルタ42を組み合わせたものを示した。しかしながら、本発明は、前述の排気浄化装置の形式に限定されず、その他の排気浄化装置を有するエンジンについても、排気浄化装置の再生時にエンジンの運転状態の変更を伴うものであるならば、適用することができる。例えば、NOx吸蔵還元触媒を利用した、いわゆるDPNR(Diesel Particulate-NOx-Reduction system)においては、触媒に対する硫黄被毒の回復制御等にて高温の排気ガスが必要となる。このため、前述の実施形態同様のエンジンの運転状態の変更が行われており、本発明を適用することにより、運転者の違和感を軽減することができる。
【0053】
○ 本発明は、ディーゼルエンジンの排気浄化装置に限らず、ガソリンエンジンの排気浄化装置に適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本実施形態にかかる排気浄化装置が適用されたエンジン及びその周辺構成を示す概略図。
【図2】本実施形態の制御装置における再生処理を開始する際の制御手順を示すフローチャート。
【図3】本実施形態の制御装置における再生処理を終了する際の制御手順を示すフローチャート。
【図4】本実施形態の制御装置における再生処理を開始・終了する際の制御手順を示すタイムチャート。
【符号の説明】
【0055】
30…排気通路、42…フィルタ、50…再生処理遅延手段として機能する制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気に含まれるPMを捕集するフィルタを機関排気通路に備え、前記フィルタに堆積した前記PMの堆積量を推定するとともに、前記推定される堆積量が所定の再生処理開始値以上であることを条件に前記PMを燃焼除去して前記フィルタのPM捕集能力を再生させる再生処理を実行する内燃機関の排気浄化装置において、
前記再生処理の開始時期をアクセル操作がなされるまで遅延させる再生処理開始遅延手段を備える
ことを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置において、
前記再生処理開始遅延手段は、前記堆積量が前記フィルタに堆積し得る最大の堆積量を超えたときに、前記アクセル操作に基づく再生処理の開始遅延操作を無効化して前記再生処理を強制的に実行する
ことを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の内燃機関の排気浄化装置において、
前記再生処理開始遅延手段は、前記アクセル操作がなされて同アクセルオフ状態となったことを条件として前記再生処理を開始する
ことを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の内燃機関の排気浄化装置において、
前記再生処理開始遅延手段は、前記アクセル操作がなされるとともに、そのアクセル操作量が所定量以上であることを条件として前記再生処理を開始する
ことを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の内燃機関の排気浄化装置において、
前記再生処理開始遅延手段は、前記アクセル操作がなされるとともに、車速が所定の速度よりも高いことを条件として前記再生処理を開始する
ことを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項6】
排気に含まれるPMを捕集するフィルタを機関排気通路に備え、前記フィルタに堆積した前記PMの堆積量を推定するとともに、前記推定される堆積量が所定の再生処理開始値以上であることを条件に前記PMを燃焼除去して前記フィルタのPM捕集能力を再生させる再生処理を実行する一方、前記推定される堆積量が所定の再生処理終了値以下であることを条件に再生処理を終了する内燃機関の排気浄化装置において、
前記再生処理の終了時期をアクセル操作がなされるまで遅延させる再生処理終了遅延手段を備えた
ことを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項7】
請求項6に記載の内燃機関の排気浄化装置において、
前記再生処理終了遅延手段は、前記アクセル操作がなされて同アクセルオフ状態となったことを条件として前記再生処理を終了する
ことを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載の内燃機関の排気浄化装置において、
前記再生処理終了遅延手段は、前記アクセル操作がなされるとともに、そのアクセル操作量が所定量以上であることを条件として前記再生処理を終了する
ことを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項9】
請求項6〜請求項8のいずれか一項に記載の内燃機関の排気浄化装置において、
前記再生処理終了遅延手段は、前記アクセル操作がなされるとともに、車速が所定の速度よりも高いことを条件として前記再生処理を終了する
ことを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−37942(P2010−37942A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−197872(P2008−197872)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】