説明

内燃機関システム制御装置

【課題】 過給機を備える内燃機関システムを、安価な装置構成で、より高い精度にて制御することが可能な、内燃機関システム制御装置を提供する。
【解決手段】 内燃機関システムにおける定常運転状態での筒内吸入空気流量と過給圧との関係である吸気量−過給圧定常関係と、過給圧取得手段による過給圧取得値と、に基づいて、定常運転状態にて過給圧が過給圧取得値と一致すると仮定した場合の筒内吸入空気流量である暫定吸入空気量を取得する。定常運転状態での筒内吸入空気流量とコンプレッサの回転数との関係である吸気量−回転数定常関係と、筒内吸入空気流量取得手段により取得された筒内吸入空気流量と、暫定吸入空気量と、に基づいて、コンプレッサ回転数を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸気通路内の空気を圧縮するコンプレッサを有する過給機を備えた内燃機関システムを制御する、内燃機関システム制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の内燃機関システムを適切に制御するためには、コンプレッサ回転数や、気筒内に導入される空気の量(以下、「筒内空気量」と称する。)を、精度良く推定する必要がある。かかる観点から、この種の内燃機関システムを高精度で制御するための装置が、従来種々提案されている(例えば、特開2006−22763号公報、特開2006−70881号公報、特開2006−194107号公報、等参照。)。
【0003】
これら従来の装置は、吸排気系における各要素や気体の挙動をモデル化したものに基づいて過給圧を推定し、この過給圧の推定値に基づいて筒内空気量を推定するようになっている。例えば、特開2006−22763号公報に開示された構成においては、推定あるいはセンサにより計測された排気パラメータと、タービンモデルとから、タービン動力が算出される。そして、算出されたタービン動力と、コンプレッサモデルとから、過給圧が算出される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
排気温度等の排気パラメータは、機関運転状態に応じて幅広く変化する。よって、排気パラメータを精度よく推定することは困難である。また、排気温度やタービン回転数(=コンプレッサ回転数)の取得のために排気系にセンサを設けると、コストが増大する。
【0005】
したがって、排気パラメータの計測や推定を用いた従来の装置(例えば特開2006−22763号公報に開示されたもの等)においては、この種の内燃機関システムの制御を安価な装置構成で精度良く行うことは困難である。
【0006】
本発明は、上述した課題に対処するためになされたものである。すなわち、本発明の目的は、過給機を備える内燃機関システムを、安価な装置構成で、より高い精度にて制御することが可能な、内燃機関システム制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
<構成>
本発明の適用対象である内燃機関システムは、内燃機関と、吸気通路と、スロットル弁と、過給機と、を備えている。また、この内燃機関システムは、インタークーラをさらに備え得る。
【0008】
前記吸気通路は、前記内燃機関の内部に設けられた気筒と接続されている。また、前記内燃機関には、前記吸気弁が設けられている。この吸気弁は、前記吸気通路における前記気筒との接続部である吸気ポートを開閉するようになっている。前記スロットル弁は、前記吸気通路に介装されていて、当該吸気通路における流路断面積を調整可能に構成されている。
【0009】
前記過給機は、コンプレッサを有している。このコンプレッサは、前記吸気通路における前記スロットル弁よりも上流側にて、当該吸気通路内の空気を圧縮するように構成されている。前記インタークーラは、前記コンプレッサと前記スロットル弁との間に介装されていて、前記コンプレッサから流出する空気を冷却するようになっている。
【0010】
本発明の内燃機関システム制御装置は、上述のような構成を有する内燃機関システムを制御する装置であって、その特徴は、筒内吸入空気流量取得手段と、過給圧取得手段と、暫定吸入空気量取得手段と、コンプレッサ回転数推定手段と、を備えたことにある。本発明の内燃機関システム制御装置は、また、暫定筒内吸入空気流量取得手段と、暫定過給圧取得手段と、コンプレッサ流出量取得手段と、をさらに備え得る。なお、「取得」は、算出あるいは推定と言い換えられ得る。
【0011】
前記筒内吸入空気流量取得手段は、吸気系(前記吸気通路と前記スロットル弁と前記コンプレッサと前記吸気弁とを含む:以下同様)における空気の挙動に関する物理法則に基づいて構築された計算モデルを用いて、筒内吸入空気流量(前記気筒内に流入する空気の流量:以下同様)を取得するようになっている。
【0012】
前記過給圧取得手段は、前記吸気系における空気の挙動に関する他の物理法則(上述の物理法則の一部を含み得る)に基づいて構築された他の計算モデル(上述の計算モデルの一部を含み得る)を用いて、過給圧(前記コンプレッサによって圧縮された空気の圧力に対応する値:以下同様)を取得するようになっている。
【0013】
前記暫定吸入空気量取得手段は、吸気量−過給圧定常関係(前記内燃機関システムにおける定常運転状態での前記筒内吸入空気流量と前記過給圧との関係:以下同様)と、前記過給圧取得手段による過給圧取得値と、に基づいて、暫定吸入空気量(前記定常運転状態にて前記過給圧が前記過給圧取得値と一致すると仮定した場合の前記筒内吸入空気流量:以下同様)を取得するようになっている。
【0014】
前記コンプレッサ回転数推定手段は、吸気量−回転数定常関係(前記定常運転状態での前記筒内吸入空気流量とコンプレッサ回転数との関係:以下同様)と、前記筒内吸入空気流量取得手段により取得された前記筒内吸入空気流量と、前記暫定吸入空気量と、に基づいて、前記コンプレッサ回転数を推定するようになっている。
【0015】
前記暫定筒内吸入空気流量取得手段は、前記コンプレッサ回転数推定手段による回転数推定値と、前記吸気量−回転数定常関係と、に基づいて、暫定筒内吸入空気流量(前記定常運転状態にて前記コンプレッサ回転数が前記回転数推定値と一致すると仮定した場合の前記筒内吸入空気流量:以下同様)を取得するようになっている。
【0016】
前記暫定過給圧取得手段は、前記吸気量−過給圧定常関係と、前記暫定筒内吸入空気流量と、に基づいて、暫定過給圧(前記過給圧の暫定値:以下同様)を取得するようになっている。
【0017】
前記コンプレッサ流出量取得手段は、前記暫定筒内吸入空気流量と前記暫定過給圧と前記過給圧取得値と、に基づいて、コンプレッサ流出量(前記コンプレッサから流出する空気の流量:以下同様)を取得するようになっている。
【0018】
ここで、前記コンプレッサ回転数推定手段は、第一暫定回転数取得手段と、第二暫定回転数取得手段と、回転数推定値取得手段と、を備え得る。
【0019】
前記第一暫定回転数取得手段は、前記筒内吸入空気流量取得手段により取得された前記筒内吸入空気流量と、前記吸気量−回転数定常関係と、に基づいて、前記コンプレッサ回転数の暫定値である第一暫定回転数を取得するようになっている。
【0020】
前記第二暫定回転数取得手段は、前記暫定吸入空気量と、前記吸気量−回転数定常関係と、に基づいて、前記コンプレッサ回転数の他の暫定値である第二暫定回転数を取得するようになっている。
【0021】
前記回転数推定値取得手段は、前記第一暫定回転数及び前記第二暫定回転数に基づいて過渡的な前記コンプレッサ回転数の変化を推定することで、当該コンプレッサ回転数の推定値を取得するようになっている。
【0022】
この場合、前記コンプレッサ流出量取得手段は、前記暫定過給圧と前記過給圧取得値との偏差及び前記暫定筒内吸入空気流量に基づいて定まる係数と、前記偏差と、の積によって算出される補正値で、前記暫定筒内吸入空気流量を補正することで、前記コンプレッサ流出量を算出するようになっていてもよい。
【0023】
一方、前記筒内吸入空気流量取得手段は、スロットル通過空気量取得手段と、吸気管内状態取得手段と、を備え得る。
【0024】
前記スロットル通過空気量取得手段は、スロットルモデル(前記スロットル弁における空気の挙動に関する物理法則に基づいて構築された前記計算モデル:以下同様)を用いてスロットル通過空気量(前記スロットル弁における空気の流量:以下同様)を、前記スロットル弁の開度に基づいて取得するようになっている。
【0025】
前記吸気管内状態取得手段は、吸気管モデル(前記吸気通路における前記スロットル弁よりも下流側の部分での空気の挙動に関する物理法則に基づいて構築された前記計算モデル:以下同様)を用いて、当該部分における空気の圧力及び温度である吸気管内圧力及び吸気管内温度を、前記スロットル通過空気量に基づいて取得するようになっている。
【0026】
この場合、前記筒内吸入空気流量取得手段は、吸気弁モデル(前記吸気弁における空気の挙動に関する物理法則に基づいて構築された前記計算モデル:以下同様)を用いて、前記筒内吸入空気流量を、前記吸気管内圧力及び前記吸気管内温度に基づいて取得するようになっている。
【0027】
また、前記過給圧取得手段は、インタークーラモデル(前記インタークーラ内の空気の挙動に関する物理法則に基づいて構築された前記計算モデル:以下同様)を用いて、前記過給圧を、前記スロットル通過空気量取得手段によって取得された前記スロットル通過空気量に基づいて取得するようになっていてもよい。
【0028】
なお、上述の各パラメータ(回転数、圧力、流量等。)は、これらに相当する他のパラメータに置き換えられ得る。例えば、前記筒内吸入空気流量や前記過給圧に代えて、これらに相当する他のパラメータが用いられ得る。また、前記コンプレッサの(単位時間あたりの)前記回転数に代えて、「回転速度」が用いられ得る。
【0029】
<課題解決原理の概要>
一般に、前記過給機の単体としては、前記コンプレッサ流出量と前記過給圧との関係は前記コンプレッサ回転数に応じて様々に変化する。
【0030】
すなわち、前記コンプレッサ回転数を一定とした場合の、前記コンプレッサ流出量と前記過給圧との関係は、原点方向に開口した略楕円弧状の1本の曲線状となる(以下、これを「コンプレッサ特性線」と称する。)。このコンプレッサ特性線の形状及び位置は、前記コンプレッサ回転数に応じて変化する。具体的には、前記コンプレッサ回転数が増加すると、前記コンプレッサ特性線が、外側(原点から離れる方向)にシフトする。そして、異なる前記コンプレッサ回転数に対応する、複数の前記コンプレッサ特性線が、ほぼ同心楕円弧状に配列される。
【0031】
ここで、本発明の発明者は、種々の検討を行った結果、以下の知見を得た。
【0032】
(1)前記過給機を備えた前記内燃機関システムにおける前記定常運転状態(このとき前記コンプレッサ流出量と前記筒内吸入空気流量とは一致する)では、前記過給圧は、前記コンプレッサ流出量の関数として表される。
【0033】
すなわち、前記過給機を備えた前記内燃機関システムの前記定常運転状態における、前記過給圧と前記コンプレッサ流出量との関係(前記吸気量−過給圧定常関係)は、上述のようにほぼ同心楕円弧状に配列された複数の前記コンプレッサ特性線とそれぞれ1回ずつ交差する1本の曲線状となる(以下、これを「吸気量−過給圧定常線」と称する。)。
【0034】
この吸気量−過給圧定常線上の、特定の1点は、前記定常運転状態の条件を満たす特定の運転状態における前記コンプレッサ流出量(=前記筒内吸入空気流量)と前記過給圧とを示すものである。そして、当該運転状態における前記コンプレッサ回転数は、一義的に定まる。すなわち、前記吸気量−過給圧定常線上の、特定の1点は、特定の前記運転状態における前記コンプレッサ回転数に対応する1本の前記コンプレッサ特性線と、前記吸気量−過給圧定常線と、の交点である。
【0035】
したがって、前記コンプレッサ回転数を精度よく推定することができれば、この推定値に対応する特定の前記運転状態における前記過給圧や前記筒内吸入空気流量(すなわち前記暫定過給圧や前記暫定筒内吸入空気流量)が特定される。これらを用いることで、前記過給機を備えた前記内燃機関システムを高い精度にて制御することが可能となる。
【0036】
すなわち、例えば、前記定常運転状態の条件を満たさない実際の運転状態における、実際の前記コンプレッサ流出量は、前記暫定筒内吸入空気流量に対して、当該運転状態の前記定常運転状態からのズレに基づく補正を行うことで、精度よく取得され得る。
【0037】
具体的には、前記暫定過給圧と前記過給圧取得値との前記偏差及び前記暫定過給圧に基づいて定まる前記係数と前記偏差との積によって算出される前記補正値で、前記暫定筒内吸入空気流量を補正することで、前記コンプレッサ流出量が算出される。この算出値に基づいて、実際の前記筒内吸入空気流量が、高い精度にて推定され得る。
【0038】
(2)前記過給機を備えた前記内燃機関システムにおいては、当該過給機の応答遅れが無視できない。この応答遅れは、過渡的な前記コンプレッサ回転数の変化と強い相関関係があるものと考えられる。
【0039】
このコンプレッサ回転数は、センサによって直接的に計測可能である。しかしながら、前記内燃機関システムにコンプレッサ回転数センサを搭載すると装置コストが増大する。よって、応答遅れを考慮して前記コンプレッサ回転数を精度よく推定することで、装置コストを増大させることなく、応答遅れを考慮した適切な制御が行われ得るようになる。
【0040】
この応答遅れを考慮すると、現在の実際の前記コンプレッサ回転数に対応する、前記吸気量−過給圧定常線上の点(すなわち上述の交点)は、現在の前記筒内吸入空気流量に対応する第1の点と、現在の前記過給圧取得値に対応する第2の点と、の間に位置するものと仮定され得る。
【0041】
ここで、前記過給機を備えた前記内燃機関システムにおける前記定常運転状態では、前記コンプレッサ回転数は、前記吸気通路における吸入空気の質量流量である吸入空気量の関数として表される(前記吸気量−回転数定常関係)。このとき、前記吸入空気量と前記筒内吸入空気流量とは一致する。また、前記吸気量−回転数定常関係を示す曲線を、以下「吸気量−回転数定常線」と称する。
【0042】
よって、現在の実際の前記コンプレッサ回転数に対応する、前記吸気量−回転数定常線上の点は、現在の前記筒内吸入空気流量に対応する第1の点と、現在の前記過給圧取得値及び前記吸気量−過給圧定常線によって取得される前記暫定吸入空気量に対応する第2の点と、の間に位置するものと仮定され得る。これらに基づいて、現在の実際の前記コンプレッサ回転数が、精度よく推定され得る。
【0043】
具体的には、例えば、前記筒内吸入空気流量取得手段により取得された前記筒内吸入空気流量と、前記吸気量−回転数定常関係と、に基づいて、前記第一暫定回転数が取得される。また、前記暫定吸入空気量と、前記吸気量−回転数定常関係と、に基づいて、第二暫定回転数が取得される。そして、前記第一暫定回転数及び前記第二暫定回転数に基づいて過渡的な前記コンプレッサ回転数の変化を推定することで、前記コンプレッサ回転数の推定値が取得される。
【発明の効果】
【0044】
上述の構成を備えた、本発明の内燃機関システム制御装置によれば、排気パラメータと比べて取得(計測あるいは算出)が精度良く行われ得る吸気パラメータ(前記吸気系の状態を示すパラメータ)を用いて、応答遅れを考慮しつつ、前記コンプレッサ回転数が精度よく推定され得る。
【0045】
したがって、本発明によれば、前記過給機を備える前記内燃機関システムを、安価な装置構成で、より高い精度にて制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施形態が適用された内燃機関システムの全体構成を示す概略図である。
【図2】図1に示されている制御装置の機能ブロック図である。
【図3】図1に示されているCPUが参照する、アクセルペダル操作量と目標スロットル弁開度との関係を規定したテーブルを示す図である。
【図4】暫定目標スロットル弁開度、目標スロットル弁開度及び予測スロットル弁開度の変化を示したタイムチャートである。
【図5】予測スロットル弁開度を取得する際に用いる関数を示すグラフである。
【図6】図1に示されている過給機の単体としての、インタークーラ内圧力とコンプレッサ流出量とコンプレッサ回転数との関係を示すグラフである。
【図7】図1に示されている内燃機関システムにおける吸気量−過給圧定常関係を規定する吸気量−過給圧定常マップを示す図である。
【図8】図1に示されている内燃機関システムにおける吸気量−回転数定常関係を規定する吸気量−回転数定常マップ(i)、及び過渡的なコンプレッサ回転数の変化の様子(ii)を示す図である。
【図9】図2に示されているコンプレッサモデルにおけるコンプレッサ流出量の取得に関する構成の詳細を示す機能ブロック図である。
【図10】図9に示されているコンプレッサ回転数推定部の構成の詳細を示す機能ブロック図である。
【図11】図1に示されているCPUが参照する、コンプレッサ流出空気流量及びコンプレッサ回転数とコンプレッサ効率との関係を規定したテーブルを示す図である。
【図12】図1に示されているCPUにより実行されるスロットル弁開度推定ルーチンを示すフローチャートである。
【図13】図1に示されているCPUにより実行される筒内空気量推定ルーチンを示すフローチャートである。
【図14】図1に示されているCPUにより実行されるスロットル通過空気流量ルーチンを示すフローチャートである。
【図15】第1時点、所定の時間間隔Δt0、前回推定時点t1及び今回推定時点t2の関係を示した模式図である。
【図16】図1に示されているCPUにより実行されるコンプレッサ流出空気流量及びコンプレッサ付与エネルギーの推定ルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施形態に関する記載は、法令で要求されている明細書の記載要件(記述要件・実施可能要件)を満たすために、本発明の具体化の単なる一例を、可能な範囲で具体的に記述しているものにすぎない。よって、後述するように、本発明が、以下に説明する実施形態の具体的構成に何ら限定されるものではないことは、全く当然である。本実施形態に対して施され得る各種の変更(modification)は、当該実施形態の説明中に挿入されると、一貫した実施形態の説明の理解が妨げられるので、末尾にまとめて記載されている。
【0048】
<内燃機関システムの構成>
図1は、本発明の一実施形態が適用された内燃機関システム1の全体構成を示す概略図である。内燃機関システム1は、直列複数気筒の内燃機関2と、吸排気系統3と、制御装置4と、を備えている(図1には気筒配列方向と直交する面による内燃機関2の断面図が示されているものとする)。以下、内燃機関システム1の各部の構成について説明する。
【0049】
<<内燃機関>>
シリンダブロック20a及びシリンダヘッド20bは、内燃機関2の本体部分(エンジンブロック)を構成する部材であって、互いに接合されている。すなわち、ロワーケースやオイルパン等を含むシリンダブロック20aの上端部には、シリンダヘッド20bが固定されている。
【0050】
シリンダブロック20aの上部には、上述の通り、複数のシリンダ21が、直列に設けられている。シリンダ21内には、ピストン22が、往復移動可能に収容されている。シリンダブロック20aの内部であって、シリンダ21の下方には、クランクシャフト23が収容されている。クランクシャフト23は、シリンダブロック20aの下部にて回転可能に支持されている。このクランクシャフト23は、ピストン22の往復移動に基づいて回転駆動されるように、コンロッド24を介してピストン22と連結されている。
【0051】
シリンダヘッド20bの下端面における、シリンダ21の上端部に対応する位置には、凹部が形成されている。この凹部の内側の空間と、ピストン22の頂面よりも上側のシリンダ21の内側の空間と、によって、燃焼室CCが形成されている。
【0052】
シリンダヘッド20bには、燃焼室CCと連通するガス通路である吸気ポート25及び排気ポート26が形成されている。吸気ポート25は、吸排気系統3の一部とともに本発明の吸気通路を構成するものであって、当該吸気通路におけるシリンダ21との接続部に設けられている。
【0053】
また、シリンダヘッド20bには、動弁機構27が設けられている。動弁機構27は、吸気ポート25を開閉するための吸気弁27a、排気ポート26を開閉するための排気弁27b、及び、これら吸気弁27aや排気弁27bを所定のタイミングで開閉動作させるための機構(吸気弁27aを駆動する吸気カムシャフトを含むとともに当該吸気カムシャフトの位相角を連続的に変更する可変吸気タイミング装置27cや、排気弁27bを駆動する排気カムシャフト27d、等。)を備えている。
【0054】
さらに、シリンダヘッド20bには、インジェクタ28が装着されている。インジェクタ28は、吸気ポート25内に燃料を噴射するように設けられている。
【0055】
<<吸排気系統>>
吸気ポート25には、吸気マニホールド31が接続されている。吸気マニホールド31は、サージタンク32と接続されている。サージタンク32は、吸気ダクト33と接続されている。すなわち、吸気ポート25、吸気マニホールド31、サージタンク32、及び吸気ダクト33によって、本発明の吸気通路が構成されている。
【0056】
一方、排気ポート26には、エキゾーストマニホールドを含む排気管34が接続されている。すなわち、排気ポート26及び排気管34によって、排気通路が構成されている。排気管34には、排気ガス浄化触媒34aが介装されている。
【0057】
吸排気系統3には、過給機35が設けられている。本実施形態の過給機35は、ターボチャージャであって、タービン35aと、コンプレッサ35bと、を備えている。
【0058】
タービン35aは、排気管34内を通流する排気ガスによって回転駆動されるように、排気管34に介装されている。一方、コンプレッサ35bは、吸気ダクト33に介装されている。このコンプレッサ35bは、タービン35aの回転に伴って回転駆動されることで、吸気ダクト33における後述のスロットル弁36よりも上流側にて当該吸気ダクト33内の空気を圧縮するように、タービン35aと連結されている。
【0059】
吸気ダクト33における、サージタンク32とコンプレッサ35bとの間の位置には、スロットル弁36が介装されている。スロットル弁36は、スロットル弁アクチュエータ36aによって駆動されることで吸気ダクト33における流路断面積(開口断面積)を可変とするように設けられている。スロットル弁アクチュエータ36aは、DCモータであって、スロットル弁36を回転駆動するように、スロットル弁36と連結されている。
【0060】
吸気ダクト33における、コンプレッサ35bよりも上流側には、エアフィルタ37が介装されている。また、吸気ダクト33における、コンプレッサ35bとスロットル弁36との間の位置には、インタークーラ38が介装されている。インタークーラ38は、コンプレッサ35bから流出する空気を冷却ようになっている。
【0061】
<<制御装置>>
本発明の一実施形態である制御装置4は、内燃機関システム1の動作を制御するように構成されている。
【0062】
具体的には、制御装置4は、電子コントロールユニット(以下「ECU」と略称する)40を備えている。ECU40は、CPU40aと、ROM40bと、RAM40cと、バックアップRAM40dと、インターフェース40eと、双方向バス40fと、を備えている。CPU40a、ROM40b、RAM40c、バックアップRAM40d、及びインターフェース40eは、双方向バス40fによって互いに接続されている。
【0063】
ROM40bには、CPU40aにより実行されるルーチン(プログラム)、このルーチンの実行の際に用いられるテーブルやマップ、等が、予め格納されている。RAM40cは、CPU40aによりルーチンが実行される際に、必要に応じてデータを一時的に格納し得るようになっている。バックアップRAM40dは、電源が投入された状態でCPU40aによりルーチンが実行される際にデータを格納するとともに、この格納されたデータを電源遮断後も保持し得るようになっている。
【0064】
インターフェース40eは、後述する各種センサと電気的に接続されていて、これらからの信号をCPU40aに伝達し得るようになっている。また、インターフェース40eは、インジェクタ28やスロットル弁アクチュエータ36a等の動作部と電気的に接続されていて、これらの動作部を動作させるための制御信号をCPU40aからこれらの動作部に伝達し得るようになっている。すなわち、ECU40は、上述の各種センサ等からの信号を受け取るとともに、当該信号に応じたCPU40aの演算結果に基づいて、上述の制御信号を各動作部に送出するように構成されている。
【0065】
<<<各種センサ>>>
本実施形態の内燃機関システム1には、圧力センサ41と、温度センサ42と、カムポジションセンサ43と、クランクポジションセンサ44と、スロットルポジションセンサ45と、アクセル開度センサ46と、が設けられている。
【0066】
圧力センサ41及び温度センサ42は、吸気ダクト33における、コンプレッサ35bとエアフィルタ37との間の位置に介装されている。圧力センサ41は、コンプレッサ35bの上流側の吸気通路内の空気の圧力である吸気圧力Paを表す信号を出力するようになっている。温度センサ42は、コンプレッサ35bの上流側の吸気通路内の空気の温度である吸気温度Taを表す信号を出力するようになっている。
【0067】
カムポジションセンサ43は、シリンダヘッド20bに装着されている。このカムポジションセンサ43は、可変吸気タイミング装置27cに含まれる上述の吸気カムシャフトが90°回転する毎に(すなわち、クランクシャフト23が180°回転する毎に)一つのパルスを有する信号(G2信号)を発生するようになっている。
【0068】
クランクポジションセンサ44は、シリンダブロック20aに装着されている。クランクポジションセンサ44は、クランクシャフト23と対向するように配置されていて、クランクシャフト23の回転角度に応じたパルスを有する波形の信号(機関回転数Neに対応する信号)を出力するようになっている。具体的には、クランクポジションセンサ44は、クランクシャフト23が10°回転する毎に幅狭のパルスを有するとともに、クランクシャフト23が360°回転する毎に幅広のパルスを有する信号を出力するようになっている。
【0069】
スロットルポジションセンサ45は、吸気ダクト33におけるスロットル弁36に対応する位置に設けられている。このスロットルポジションセンサ45は、実際のスロットル弁36の回転位相であるスロットル弁開度θtaに対応する信号を出力するようになっている。
【0070】
アクセル開度センサ46は、運転者によって操作されるアクセルペダル47の操作量を表す信号(アクセルペダル操作量Accp)を出力するようになっている。
【0071】
<<制御装置の機能ブロック構成>>
図2は、図1に示されている制御装置4の機能ブロック図である。この図2に示されているように、本実施形態の制御装置4は、電子制御スロットル弁ロジックA1と、電子制御スロットル弁モデルM1と、スロットルモデルM2と、吸気弁モデルM3と、コンプレッサモデルM4と、インタークーラモデルM5と、吸気管モデルM6と、吸気弁モデルM7と、を備えている。
【0072】
後述の説明により明確であるが、本実施形態においては、スロットルモデルM2、吸気弁モデルM3、及び吸気管モデルM6によって、本発明の筒内吸入空気流量取得手段の主要な部分が実現され、コンプレッサモデルM4によって、本発明の暫定吸入空気量取得手段及びコンプレッサ回転数推定手段の主要な部分が構成され、インタークーラモデルM5によって、本発明の過給圧取得手段の主要な部分が構成されている。
【0073】
また、本実施形態においては、コンプレッサモデルM4によって、暫定筒内吸入空気流量取得手段、暫定過給圧取得手段、及びコンプレッサ流出量取得手段の主要な部分が構成され、スロットルモデルM2によって、本発明のスロットル通過空気量取得手段の主要な部分が構成され、吸気管モデルM6によって、本発明の吸気管内状態取得手段の主要な部分が構成されている。
【0074】
<<<各ブロックの内容及び機能説明>>>
以下、図2に示されている各ブロックの内容及び機能について説明する。なお、各ブロックにて用いられる計算モデルを表す式の導出は周知であるため(例えば、特開2001−41095号公報や特開2003−184613号公報等を参照。)、本明細書においてはその詳細な説明は省略されている。
【0075】
本実施形態においては、インジェクタ28は、吸気弁27aよりも上流側に配置されている。このため、吸気弁27aの閉弁時(吸気行程が終了する時点)までに、燃料が噴射されなければならない。よって、燃焼室CC内に形成される燃料混合気の空燃比が目標空燃比と一致するように燃料噴射量を決定するためには、燃料噴射前に、吸気弁27aの閉弁時における筒内空気量を予め推定する必要がある。
【0076】
そこで、制御装置4は、物理法則に基づいて構築された計算モデルを用いて、現時点より先の所定時点での、インタークーラ38内(スロットル弁36の上流側)の空気の圧力及び温度を推定し、この推定値に基づいて、当該所定時点の筒内空気量を推定する。
【0077】
各計算モデルは、ある時点における空気の挙動を表すように物理法則に基づいて導き出された数式(以下、「一般式」と称されることがある。)によって表される。通常、この一般式において使用される値(変数)は、求めるべき値が「ある時点」の値であれば、すべて当該「ある時点」の値でなくてはならない。すなわち、例えば、あるモデルがy=f(x)という一般式により表されているとき、現時点より先の時点のyの値を求めるためには、変数xを当該先の時点の値としなければならない。
【0078】
ここで、前述したように、取得すべき筒内空気量は、現時点(演算時点)より先の前記所定時点の値である。このため、後述する各計算モデルにて使用されるスロットル弁開度θt、吸気圧力Pa、吸気温度Ta、エンジン回転数NE、及び吸気弁27aの開閉タイミング(以下、「吸気バルブタイミングVT」と称する。)等の値は、すべて、当該所定時点の値となる。
【0079】
そこで、本実施形態の制御装置4は、目標とするスロットル弁開度を決定した時点から遅延させてスロットル弁36(スロットル弁アクチュエータ36a)を制御することにより、現時点より先の前記所定時点のスロットル弁開度θtを推定する。
【0080】
もっとも、吸気圧力Pa、吸気温度Ta、エンジン回転数NE、及び吸気バルブタイミングVTは、現時点から前記所定時点までの短い時間内ではそれほど大きく変化しない。よって、前記一般式において、前記所定時点の吸気圧力Pa、吸気温度Ta、エンジン回転数NE、及び吸気バルブタイミングVTとして、現時点の検出値がそれぞれ採用され得る。
【0081】
このように、制御装置4は、現時点より先の前記所定時点のスロットル弁開度θtの推定値と、現時点の吸気圧力Pa、吸気温度Ta、エンジン回転数NE、及び吸気バルブタイミングVTの検出値と、各計算モデルと、に基づいて、当該所定時点の筒内空気量を推定する。
【0082】
以下、各モデルM1〜M7及びロジックA1について具体的に説明する。
【0083】
<<<電子制御スロットル弁モデルM1及び電子制御スロットル弁ロジックA1>>>
電子制御スロットル弁モデルM1は、電子制御スロットル弁ロジックA1と協働して、現時点までのアクセルペダル操作量Accpに基づいて、現時点より先の第1時点(現時点から遅延時間TD(本例では64ms)だけ経過した後の時点)までのスロットル弁開度θtを推定する計算モデルである。
【0084】
電子制御スロットル弁ロジックA1は、アクセルペダル操作量Accpと目標スロットル弁開度θttとの関係を規定するテーブル(図3参照)及びアクセル開度センサ46により検出された実際のアクセルペダル操作量Accpに基づいて、暫定的な目標スロットル弁開度である暫定目標スロットル弁開度θtt1を、所定時間ΔTt1(本例では2ms)の経過毎に決定する。
【0085】
また、電子制御スロットル弁ロジックA1は、図4のタイムチャートに示されているように、決定された暫定目標スロットル弁開度θtt1を、所定の遅延時間TD後の時点(第1時点)の目標スロットル弁開度θttとして設定する。すなわち、電子制御スロットル弁ロジックA1は、所定の遅延時間TD前の時点にて決定された暫定目標スロットル弁開度θtt1を、現時点の目標スロットル弁開度θttとして設定する。そして、電子制御スロットル弁ロジックA1は、現時点のスロットル弁開度θtaが現時点の目標スロットル弁開度θttとなるように、スロットル弁アクチュエータ36aに対して駆動信号を送出する。
【0086】
ところで、電子制御スロットル弁ロジックA1から前記駆動信号がスロットル弁アクチュエータ36aに対して送出されると、当該スロットル弁アクチュエータ36aの作動の遅れやスロットル弁36の慣性等により、実際のスロットル弁開度θtaは、ある遅れを伴って目標スロットル弁開度θttに追従する。
【0087】
そこで、電子制御スロットル弁モデルM1は、下記(1)式に基づいて、遅延時間TD後の時点におけるスロットル弁開度を推定(予測)する(図4参照)。
θte(k)=θte(k-1)+ΔTt1・f(θtt(k),θte(k-1)) …(1)
【0088】
この(1)式において、θte(k)は今回の演算時点にて新たに推定される予測スロットル弁開度θteであり、θtt(k)は今回の演算時点にて新たに設定された目標スロットル弁開度θttであり、θte(k-1)は今回の演算時点にて既に推定されていた予測スロットル弁開度θte(すなわち、前回の演算時点にて新たに推定された予測スロットル弁開度θte)である。また、関数f(θtt,θte)は、図5に示されているように、θttとθteとの差Δθ(=θtt−θte)が大きい程大きい値をとる関数(Δθに関して単調増加する関数f)である。
【0089】
このように、電子制御スロットル弁モデルM1は、今回の演算時点にて前記第1時点(現時点から遅延時間TD後の時点)の目標スロットル弁開度θttを新たに決定するとともに、前記第1時点のスロットル弁開度θteを新たに推定する。また、電子制御スロットル弁モデルM1は、前記第1時点までの目標スロットル弁開度θttと予測スロットル弁開度θteとを、現時点からの時間経過に対応させた形で、RAM40cに記憶させる(格納する)。
【0090】
<<<スロットルモデルM2>>>
スロットルモデルM2は、本モデルを表す一般式である下記(2)及び(3)式に基づいて、スロットル弁36の周囲を通過する空気の流量であるスロットル通過空気流量mtを推定する計算モデルである。
【数1】

【数2】

【0091】
(2)式にて、Ct(θt)はスロットル弁開度θtに応じて変化する流量係数、At(θt)はスロットル弁開度θtに応じて変化するスロットル開口断面積(吸気通路内のスロットル弁36の周囲の開口断面積)、Picはインタークーラ38内の空気の圧力であるインタークーラ内圧力(すなわちスロットル弁36の上流の吸気通路内の空気の圧力であるスロットル弁上流圧力)、Pmは吸気管部(吸気通路におけるスロットル弁36から吸気弁27aまでの部分:以下同様)内の空気の圧力である吸気管内圧力、Ticはインタークーラ38内の空気の温度であるインタークーラ内温度(すなわちスロットル弁36の上流の吸気通路内の空気の温度であるスロットル弁上流温度)、Rは気体定数、κは空気の比熱比(以下、κを一定値として扱う。)である。
【0092】
ここで、(2)式の右辺のCt(θt)及びAt(θt)の積であるCt(θt)・At(θt)は、スロットル弁開度θtに基づいて経験的に決定することができる。そこで、本実施形態においては、スロットル弁開度θtとCt(θt)・At(θt)との関係を規定するテーブルMAPCTATが、ROM40bに予め記憶されている。
【0093】
そして、スロットルモデルM2は、電子制御スロットル弁モデルM1により推定された予測スロットル弁開度θt(k-1)(=θte)と、上述のテーブルMAPCTATと、に基づいて、Ct(θt)・At(θt)(=MAPCTAT(θt(k-1)))を取得する。
【0094】
さらに、スロットルモデルM2は、値(Pm(k-1)/Pic(k-1))とテーブルMAPΦとから値Φ(Pm(k-1)/Pic(k-1))(=MAPΦ(Pm(k-1)/Pic(k-1)))を取得する。ここで、値(Pm(k-1)/Pic(k-1))は、後述する吸気管モデルM6により既に推定されている直前(最新)の吸気管内圧力Pm(k-1)を、後述するインタークーラモデルM5により既に推定されている直前(最新)のインタークーラ内圧力(スロットル弁上流圧力)Pic(k-1)で除した値である。また、テーブルMAPΦは、値Pm/Picと値Φ(Pm/Pic)との関係を規定するテーブルであって、ROM40bに予め記憶されている。
【0095】
スロットルモデルM2は、以上のようにして取得した値Φ(Pm(k-1)/Pic(k-1))と、後述するインタークーラモデルM5により既に推定されている直前(最新)のインタークーラ内圧力(スロットル弁上流圧力)Pic(k-1)及びインタークーラ内温度(スロットル弁上流温度)Tic(k-1)と、を前記(2)式に適用して同式の計算を行うことで、スロットル通過空気流量mt(k-1)を算出する。
【0096】
<<<吸気弁モデルM3>>>
吸気弁モデルM3は、前記吸気管部内の空気の圧力である吸気管内圧力Pm、前記吸気管部内の空気の温度である吸気管内温度Tm、及びインタークーラ内温度Tic等から、吸気弁27aの周囲を通過してシリンダ21内に流入する空気の流量である筒内吸入空気流量mcを推定する計算モデルである。
【0097】
吸気行程(吸気弁27aの閉弁時も含む)におけるシリンダ21内(燃焼室CC内)の圧力は、吸気弁27aの上流の圧力すなわち吸気管内圧力Pmとみなすことができる。よって、筒内吸入空気流量mcは、吸気弁閉弁時の吸気管内圧力Pmに比例すると考えることができる。そこで、吸気弁モデルM3は、筒内吸入空気流量mcを、本モデルを表す一般式であり経験則に基づく下記(4)式に従って算出する。
mc=(Tic/Tm)・(c・Pm−d) …(4)
【0098】
前記(4)式において、値cは比例係数であり、値dは燃焼室CC内に残存していた既燃ガス量を反映した値である。値cは、エンジン回転数NE及び吸気バルブタイミングVTと定数cとの関係を規定するテーブルMAPCと、現時点のエンジン回転数NE及び吸気バルブタイミングVTとから取得することができる(c=MAPC(NE,VT))。なお、このテーブルMAPCは、ROM40bに予め記憶されている。同様に、値dは、エンジン回転数NE及び吸気バルブタイミングVTと定数dとの関係を規定するテーブルMAPDと、現時点のエンジン回転数NE及び吸気バルブタイミングVTと、から取得することができる(d=MAPD(NE,VT))。このテーブルMAPDも、ROM40bに予め記憶されている。
【0099】
吸気弁モデルM3は、後述する吸気管モデルM6によって既に推定されている直前(最新)の吸気管内圧力Pm(k-1)及び吸気管内温度Tm(k-1)と、後述するインタークーラモデルM5により既に推定されている直前(最新)のインタークーラ内温度Tic(k-1)と、を前記(4)式に適用して同式の計算を行うことで、筒内吸入空気流量mc(k-1)を推定する。
【0100】
<<<コンプレッサモデルM4>>>
コンプレッサモデルM4は、吸気弁モデルM3により既に推定されている直前(最新)の筒内吸入空気流量mc(k-1)と、後述するインタークーラモデルM5により既に推定されている直前(最新)のインタークーラ内圧力Pic(k-1)と、に基づいて、コンプレッサ35bから流出する空気(インタークーラ38に供給される空気)の流量であるコンプレッサ流出量mcmを推定する計算モデルである。
【0101】
<<<<コンプレッサモデルの基本原理>>>>
本発明の発明者は、種々の検討を行った結果、以下の知見を得た。
【0102】
(1)一般に、過給機35の単体としては、インタークーラ内圧力Pic(過給圧)とコンプレッサ流出量mcmとの関係は、図6にて破線で示されているように、コンプレッサ回転数Ncmに応じて様々に変化する。
【0103】
すなわち、コンプレッサ回転数Ncmを一定とした場合の、コンプレッサ流出量mcmとインタークーラ内圧力Picとの関係は、インタークーラ内圧力Pic及びコンプレッサ流出量mcmを座標軸とした場合に、原点方向(図6における図中左下方向)に開口した略楕円弧状の1本の曲線状となる(コンプレッサ特性線)。
【0104】
このコンプレッサ特性線の、インタークーラ内圧力Pic−コンプレッサ流出量mcm座標系における形状及び位置は、図6に示されているように、コンプレッサ回転数Ncmに応じて変化する。具体的には、コンプレッサ回転数Ncmが増加すると、コンプレッサ特性線が外側(原点から離れる方向)にシフトする。そして、異なるコンプレッサ回転数Ncmに対応する、複数のコンプレッサ特性線が、ほぼ同心楕円弧状に配列される。
【0105】
他方、過給機35の単体としてではなく、これを備えた内燃機関システム1としては、その定常運転状態では、インタークーラ内圧力Picは、当該定常運転状態にてコンプレッサ流出量mcmと一致する筒内吸入空気流量mcの関数として表され得る。すなわち、当該定常運転状態における両者の関係(吸気量−過給圧定常関係)は、コンプレッサ回転数Ncmによらず、上述のようにほぼ同心楕円弧状に配列された複数のコンプレッサ特性線とそれぞれ1回ずつ交差する1本の曲線状となる(吸気量−過給圧定常線:図6における実線で示されている曲線参照)。なお、かかる吸気量−過給圧定常関係及び吸気量−過給圧定常線は、実験(ベンチテスト)によって予め取得され得る。
【0106】
この吸気量−過給圧定常線上の、特定の1点は、定常運転状態の条件を満たす特定の運転状態におけるコンプレッサ流出量mcm(=筒内吸入空気流量mc)とインタークーラ内圧力Picとを示すものである。そして、当該運転状態におけるコンプレッサ回転数Ncmは、一義的に定まる。すなわち、吸気量−過給圧定常線上の、特定の1点は、特定の前記運転状態におけるコンプレッサ回転数Ncmに対応する1本のコンプレッサ特性線と、吸気量−過給圧定常線と、の交点となる(図6における丸印参照)。
【0107】
したがって、コンプレッサ回転数Ncmを精度よく推定することができれば、この推定値に対応する特定の前記運転状態におけるインタークーラ内圧力Picやコンプレッサ流出量mcm(すなわち暫定過給圧Pic_tarや暫定筒内吸入空気流量mc_tar)が特定される。これらを用いることで、定常運転状態の条件を満たさない実際の運転状態における実際のコンプレッサ流出量mcmが、高い精度にて推定され得る。
【0108】
すなわち、実際のコンプレッサ流出量mcmは、定常運転状態を前提とした暫定筒内吸入空気流量mc_tarに対して、実際の運転状態の定常運転状態からのズレに基づく補正を行うことで取得される。具体的には、図7を参照すると、ΔPic(暫定過給圧Pic_tarとインタークーラ内圧力Picとの偏差)と所定係数Kとの積によって算出される補正値Δmcmで暫定筒内吸入空気流量mc_tarを補正することで、実際のコンプレッサ流出量mcmが算出される。
【0109】
ところで、取得すべき実際のコンプレッサ流出量mcmは、図7に示されているように、特定のコンプレッサ回転数Ncmに対応する1本のコンプレッサ特性線上の点に対応する値となるはずである。
【0110】
ここで、上述の係数Kの値を、暫定過給圧Pic_tarによって定まる一定値(例えば暫定過給圧Pic_tarにおけるコンプレッサ特性線の接線の傾き)とした場合、ΔPicが充分小さいときには、取得されたコンプレッサ流出量mcmと実際値との誤差は小さい。しかしながら、ΔPicが大きいときには、誤差が大きくなる。
【0111】
そこで、本実施形態においては、係数Kは、暫定過給圧Pic_tarとΔPicと基づいて決定される。すなわち、係数Kは、ROM40bに格納されたテーブルMAPK(Pic_tar,ΔPic)に基づいて決定される。
【0112】
(2)過給機35を備えた内燃機関システム1においては、当該過給機35の応答遅れが無視できない。よって、暫定筒内吸入空気流量mc_tarや暫定過給圧Pic_tarは、過給機35の応答遅れを考慮した値とする必要がある。
【0113】
この応答遅れを考慮すると、現在の実際のコンプレッサ回転数Ncmに対応する、吸気量−過給圧定常線上の点(Pic_tar, mc_tar:図7における丸印の点)は、現在の筒内吸入空気流量mcに対応する第1の点(図7における白抜きの菱形の点)と、現在のインタークーラ内圧力Picに対応する第2の点(図7における黒塗りの菱形の点)と、の間に位置するものと仮定され得る。
【0114】
ここで、過給機35を備えた内燃機関システム1における定常運転状態(このとき吸入空気量Gaと筒内吸入空気流量mcとは一致する)では、コンプレッサ回転数Ncmは、図8の(i)に示されているように、吸気通路における吸入空気の質量流量である吸入空気量Gaの関数として表される(吸気量−回転数定常線)。
【0115】
よって、現在の実際のコンプレッサ回転数Ncmに対応する、吸気量−回転数定常線上の点(図8の(i)における丸印の点)は、現在の筒内吸入空気流量mcに対応する第1の点(図8の(i)における白抜きの菱形の点)と、現在のインタークーラ内圧力Picと吸気量−過給圧定常線とによって取得される暫定吸入空気量Ga_pic(図7参照)に対応する第2の点(図8の(i)における黒塗りの菱形の点)と、の間に位置するものと仮定され得る。これらに基づいて、現在の実際のコンプレッサ回転数Ncmが、精度よく推定され得る。
【0116】
具体的には、図8の(i)を参照すると、現在の筒内吸入空気流量mcと吸気量−回転数定常関係とに基づいて、第一暫定回転数Ncm_mcが取得される。また、暫定吸入空気量Ga_picと吸気量−回転数定常関係とに基づいて、第二暫定回転数Ncm_picが取得される。
【0117】
そして、図8の(ii)に示されているように、第一暫定回転数Ncm_mc及び第二暫定回転数Ncm_picに基づいて、過渡的なコンプレッサ回転数Ncmの変化を、ステップ変化に対して遅れを考慮したものとして無駄時間や一次遅れを用いて推定することで、コンプレッサ回転数Ncmの推定値(丸印の点)が取得される。この無駄時間や一次遅れは、コンプレッサ回転数センサを搭載したベンチテスト用システムを用いたベンチテストにて様々な回転数変化をモデル化することによって、予め取得され得る。
【0118】
<<<<コンプレッサモデルのブロック図>>>>
図9は、図2に示されているコンプレッサモデルM4におけるコンプレッサ流出量mcmの取得に関する構成の詳細を示す機能ブロック図である。以下、図9を参照すると、コンプレッサモデルM4には、暫定吸入空気量取得部M41と、コンプレッサ回転数推定部M42と、暫定筒内吸入空気流量取得部M43と、暫定過給圧取得部M44と、演算部M45ないしM47と、が含まれる。
【0119】
暫定吸入空気量取得部M41は、吸気量−過給圧定常関係を規定する吸気量−過給圧定常マップ(図7における実線の曲線参照)と、後述するインタークーラモデルM5により既に推定されている直前(最新)のインタークーラ内圧力Pic(k-1)と、に基づいて、暫定吸入空気量Ga_picを取得する。
【0120】
コンプレッサ回転数推定部M42は、吸気弁モデルM3によって既に推定されている筒内吸入空気流量mc(k-1)と、暫定吸入空気量取得部M41によって取得された暫定吸入空気量Ga_picと、吸気量−回転数定常関係を規定する吸気量−回転数定常マップ(図8における(i)参照)と、に基づいて、コンプレッサ回転数Ncmを推定する。このコンプレッサ回転数推定部M42の内容及び機能の詳細については後述する。
【0121】
暫定筒内吸入空気流量取得部M43は、コンプレッサ回転数推定部M42によって推定されたコンプレッサ回転数Ncmと、上述の吸気量−回転数定常マップと、に基づいて、暫定筒内吸入空気流量mc_tarを取得する。
【0122】
暫定過給圧取得部M44は、暫定筒内吸入空気流量取得部M43によって取得された暫定筒内吸入空気流量mc_tarと、上述の吸気量−過給圧定常マップと、に基づいて、暫定過給圧Pic_tarを取得する。
【0123】
演算部M45は、暫定過給圧取得部M44によって取得された暫定過給圧Pic_tarと、上述の直前(最新)のインタークーラ内圧力Pic(k-1)と、の差ΔPicを算出する。
【0124】
演算部M46は、演算部M45にて算出されたΔPicに、上述の所定のゲイン(係数)Kを乗算することで、コンプレッサ流出量補正値Δmcmを算出する。
【0125】
演算部M47は、演算部M46にて算出されたコンプレッサ流出量補正値Δmcmを、上述の暫定筒内吸入空気流量mc_tarに加算することで、コンプレッサ流出量mcm(k-1)を算出(取得あるいは推定)する。
【0126】
図10は、図9に示されているコンプレッサ回転数推定部M42の構成の詳細を示す機能ブロック図である。
【0127】
以下、図9を参照すると、コンプレッサ回転数推定部M42には、第一暫定回転数取得部M421と、第二暫定回転数取得部M422と、演算部M423と、無駄時間演算部M424と、一次遅れ演算部M425と、演算部M426と、が含まれる。なお、演算部M423、無駄時間演算部M424、一次遅れ演算部M425、及び演算部M426によって、本発明の回転数推定値取得手段の主要な部分が構成されている。
【0128】
第一暫定回転数取得部M421は、吸気弁モデルM3によって既に推定されている筒内吸入空気流量mc(k-1)と、上述の吸気量−回転数定常マップと、に基づいて、コンプレッサ35bの回転数の暫定値である第一暫定回転数Ncm_mcを取得する。
【0129】
第二暫定回転数取得部M422は、暫定吸入空気量Ga_picと、上述の吸気量−回転数定常マップと、に基づいて、コンプレッサ35bの回転数の他の暫定値である第二暫定回転数Ncm_picを取得する。
【0130】
演算部M423、無駄時間演算部M424、一次遅れ演算部M425、及び演算部M426は、第一暫定回転数Ncm_mcと第二暫定回転数Ncm_picとに基づいて、過渡的なコンプレッサ35bの回転数の変化を推定することで、コンプレッサ回転数Ncmを取得する。
【0131】
再び図2を参照すると、コンプレッサモデルM4は、また、コンプレッサ付与エネルギーEcmを推定するモデルでもある。このコンプレッサ付与エネルギーEcmは、本モデルの一部を表す一般式である下記(5)式、コンプレッサ効率η、コンプレッサ流出量mcm、値Pic/Pa(インタークーラ内圧力Picを吸気圧力Paで除した値)、及び吸気温度Taにより算出される(下記(5)式の導出過程については特開2006−70881号公報を参照)。
【数3】

【0132】
前記(5)式において、Cpは空気の定圧比熱である。また、コンプレッサ効率ηは、コンプレッサ流出量mcmと、コンプレッサ回転数Ncmと、に基づいて経験的に推定することができる。したがって、コンプレッサ効率ηは、コンプレッサ流出量mcm及びコンプレッサ回転数Ncmとコンプレッサ効率ηとの関係を規定するテーブルMAPETA、コンプレッサ流出量mcm及びコンプレッサ回転数Ncmに基づいて取得される。ここで、このコンプレッサ回転数Ncmは、コンプレッサ回転数検出センサを用いることなく、上述のコンプレッサ回転数推定部M42によって推定されたものである。
【0133】
ROM40bには、上述のテーブルMAPETAが、予め記憶されている(図11参照)。コンプレッサモデルM4は、このテーブルMAPETAと、上述のように推定されたコンプレッサ流出量mcm(k-1)及びコンプレッサ回転数Ncmと、から、コンプレッサ効率η(k-1)(=MAPETA(mcm(k-1),Ncm))を推定する。
【0134】
そして、コンプレッサモデルM4は、上述のように推定されたコンプレッサ効率η(k-1)及びコンプレッサ流出量mcm(k-1)と、値Pic(k-1)/Paと、現時点の吸気温度Taと、を上記(5)式に適用して同式の計算を行うことで、コンプレッサ付与エネルギーEcm(k-1)を推定する。ここで、値Pic(k-1)/Paは、後述するインタークーラモデルM5により既に推定されている直前(最新)のインタークーラ内圧力Pic(k-1)を、現時点の吸気圧力Paで除したものである。
【0135】
<<<インタークーラモデルM5>>>
インタークーラモデルM5は、本モデルを表す一般式である下記(6)及び(7)式、吸気温度Ta、インタークーラ部に流入する空気の流量(すなわちコンプレッサ流出量mcm)、コンプレッサ付与エネルギーEcm、並びに前記インタークーラ部から流出する空気の流量(すなわち、スロットル通過空気流量mt)から、インタークーラ内圧力Pic及びインタークーラ内温度Ticを算出するモデルである(下記(6)及び(7)式の導出過程については特開2006−70881号公報を参照)。
【0136】
なお、前記インタークーラ部は、インタークーラ38の他に、コンプレッサ35bの出口からスロットル弁36までの吸気通路を含む。また、下記(6)及び(7)式において、Vicは前記インタークーラ部の容積である。
d(Pic/Tic)/dt=(R/Vic)・(mcm−mt) …(6)
dPic/dt=κ・(R/Vic)・(mcm・Ta−mt・Tic)+(κ−1)/(Vic)・(Ecm−K・(Tic−Ta)) …(7)
【0137】
インタークーラモデルM5は、コンプレッサモデルM4により取得されたコンプレッサ流出量mcm(k-1)及びコンプレッサ付与エネルギーEcm(k-1)と、スロットルモデルM2により取得されたスロットル通過空気流量mt(k-1)と、現時点の吸気温度Taと、を前記(6)及び(7)式の右辺に適用して同式の計算を行うことで、最新のインタークーラ内圧力Pic(k)及びインタークーラ内温度Tic(k)を推定する。
【0138】
<<<吸気管モデルM6>>>
吸気管モデルM6は、本モデルを表す一般式である下記(8)及び(9)式、前記吸気管部に流入する空気の流量(すなわちスロットル通過空気流量mt)、インタークーラ内温度(スロットル弁上流温度)Tic、並びに前記吸気管部から流出する空気の流量(すなわち筒内吸入空気流量mc)に基づいて、吸気管内圧力Pm及び吸気管内温度Tmを算出するモデルである。なお、下記(8)及び(9)式において、Vmは前記吸気管部の容積である。
d(Pm/Tm)/dt=(R/Vm)・(mt−mc) …(8)
dPm/dt=κ・(R/Vm)・(mt・Tic−mc・Tm) …(9)
【0139】
吸気管モデルM6は、スロットルモデルM2により取得されたスロットル通過空気流量mt(k-1)と、吸気弁モデルM3により取得された筒内吸入空気流量mc(k-1)と、インタークーラモデルM5が推定した最新のインタークーラ内温度(スロットル弁上流温度)Tic(k)と、を前記(8)及び(9)式の右辺に適用して同式の計算を行うことで、最新の吸気管内圧力Pm(k)及び吸気管内温度Tm(k)を推定する。
【0140】
<<<吸気弁モデルM7>>>
吸気弁モデルM7は、上述の吸気弁モデルM3と同様のモデルを含んでいる。吸気弁モデルM7においては、吸気管モデルM6が推定した最新の吸気管内圧力Pm(k)及び吸気管内温度Tm(k)と、インタークーラモデルM5が推定した最新のインタークーラ内温度Tic(k)と、を、本モデルを表す一般式でありる前記(4)式に適用して同式の計算を行うことで、最新の筒内吸入空気流量mc(k)を算出する。
【0141】
そして、吸気弁モデルM7は、上述のようにして算出した筒内吸入空気流量mc(k)に、現時点のエンジン回転数NE及び現時点の吸気バルブタイミングVTから算出される時間Tint(吸気弁27aが開弁してから閉弁するまでの時間)を乗じることで、筒内空気量の推定値である予測筒内空気量KLfwdを算出する。
【0142】
<実施形態の動作の具体例>
次に、上述の構成を備えた本実施形態の制御装置4の動作の具体例について、フローチャートを用いて説明する。なお、フローチャートを示す図面においては、「ステップ」は“S”と略称されているものとする。
【0143】
<<スロットル弁開度推定>>
CPU40aは、図12に示されているスロットル弁開度推定ルーチン1200を、所定の演算周期ΔTt1(本例では2ms)の経過毎に実行する。
【0144】
CPU40aは、所定のタイミングにてルーチン1200の処理を開始する。ルーチン1200の処理が開始されると、まず、ステップ1205にて、変数iに「0」が設定される。次に、ステップ1210にて、変数iが遅延回数ntdlyと等しいか否かが判定される。この遅延回数ntdlyは、遅延時間TD(本例では64ms)を前記演算周期ΔTt1で除した値(本例では32)である。
【0145】
ルーチン1200の処理の開始直後のこの時点では、変数iは「0」である。よって、ステップ1210の判定が「No」となり、処理がステップ1215に進行する。ステップ1215にて、CPU40aは、目標スロットル弁開度θtt(i)に目標スロットル弁開度θtt(i+1)の値を格納するとともに、続くステップ1220にて、予測スロットル弁開度θte(i)に予測スロットル弁開度θte(i+1)の値を格納する。以上の処理により、目標スロットル弁開度θtt(0)に目標スロットル弁開度θtt(1)の値が格納され、予測スロットル弁開度θte(0)に予測スロットル弁開度θte(1)の値が格納される。続いて、CPU40aは、ステップ1225にて変数iの値を「1」だけ増大させて、ステップ1210の処理に戻る。
【0146】
変数iの値が遅延回数ntdlyより小さい間は、再びステップ1215〜1225が実行される。すなわち、ステップ1215〜1225は、変数iの値が遅延回数ntdlyと等しくなるまで繰り返し実行される。これにより、目標スロットル弁開度θtt(i+1)の値が目標スロットル弁開度θtt(i)に順次シフトされ、予測スロットル弁開度θte(i+1)の値が予測スロットル弁開度θte(i)に順次シフトされて行く。
【0147】
変数iの値が遅延回数ntdlyと等しくなると、ステップ1210の判定が「Yes」となり、処理がステップ1230に進行する。ステップ1230にて、CPU40aは、現時点のアクセルペダル操作量Accpと図3のテーブルとに基づいて、今回の暫定目標スロットル弁開度θtt1を取得するとともに、これを遅延時間TD後の目標スロットル弁開度θttとするために目標スロットル弁開度θtt(ntdly)に格納する。
【0148】
続いて、処理がステップ1235に進行する。このステップ1235にて、CPU40aは、前回の演算時点にて格納した予測スロットル弁開度θte(ntdly-1)と、ステップ1230にて格納した目標スロットル弁開度θtt(ntdly)と、前記(1)式(図12におけるステップ1235内に示された式参照)と、に基づいて、現時点から遅延時間TD後の予測スロットル弁開度θte(ntdly)を取得する。そして、CPU40aは、ステップ1240にて、実際のスロットル弁開度θtaが目標スロットル弁開度θtt(0)となるように、スロットル弁アクチュエータ36aに対して駆動信号を送出し、本ルーチンを一旦終了する。
【0149】
このようにして、目標スロットル弁開度θttに関するメモリ(RAM40c)においては、本ルーチンが実行される毎に、メモリの内容が一つずつシフトされていく。そして、目標スロットル弁開度θtt(0)に格納された値が、電子制御スロットル弁ロジックA1によりスロットル弁アクチュエータ36aに出力される目標スロットル弁開度θttとして設定される。
【0150】
すなわち、今回の本ルーチンの実行により目標スロットル弁開度θtt(ntdly)に格納された値は、その後本ルーチンが遅延回数ntdlyだけ繰り返されたとき(遅延時間TD後)に、θtt(0)に格納される。また、予測スロットル弁開度θteに関するメモリ(RAM40c)においては、同メモリ内のθte(m)に現時点から所定時間(m・ΔTt)経過後の予測スロットル弁開度θteが格納される。この場合の値mは、0〜ntdlyの整数である。
【0151】
<<筒内空気量推定>>
一方、CPU40aは、図13に示されている筒内空気量推定ルーチン1300を所定の演算周期ΔTt2(本例では8ms)の経過毎に実行することにより、現時点より先の時点の筒内空気量(予測筒内空気量KLfwd)を推定する。
【0152】
具体的に説明すると、CPU40aは、所定のタイミングにて、ルーチン1300の処理を開始する。ルーチン1300の処理が開始されると、まず、ステップ1305にて、スロットルモデルM2によりスロットル通過空気流量mt(k-1)を算出するため、図14のフローチャートに示されているルーチン1400に処理が進行する。
【0153】
ルーチン1400においては、CPU40aは、まず、ステップ1405にて、上述のルーチン1200の実行によりメモリに格納されているθte(m)から、現時点より所定の時間間隔Δt0だけ後の時点と最も近い時点のスロットル弁開度として推定された予測スロットル弁開度θte(m)を、予測スロットル弁開度θt(k-1)として読み込む。ここで、所定の時間間隔Δt0は、本例では、特定の気筒の燃料噴射開始時期前の所定の時点(燃料噴射量を決定する必要がある最終の時点)から、同気筒の吸気行程における吸気弁27aの閉弁時(第2時点)までの時間である。
【0154】
以下、説明の便宜上、前回の演算時点における前記予測スロットル弁開度θt(k-1)に対応する時点を前回推定時点t1とし、今回の演算時点における前記予測スロットル弁開度θt(k-1)に対応する時点を今回推定時点t2とする(第1時点、所定の時間間隔Δt0、前回推定時点t1及び今回推定時点t2の関係を示した模式図である図15を参照。)。
【0155】
次に、処理がステップ1410に進行し、CPU40aは、前記(2)式のCt(θt)・At(θt)を、前記テーブルMAPCTATと予測スロットル弁開度θt(k-1)とから取得する。次いで、処理がステップ1415に進行し、CPU40aは、値(Pm(k-1)/Pic(k-1))と前記テーブルMAPΦとから、値Φ(Pm(k-1)/Pic(k-1))を取得する。ここで、値(Pm(k-1)/Pic(k-1))は、前回の図13のルーチンの実行時における後述するステップ1325にて算出された前回推定時点t1における吸気管内圧力Pm(k-1)を、前回の図13のルーチンの実行時における後述するステップ1320にて算出された前回推定時点t1におけるインタークーラ内圧力Pic(k-1)で除した値である。
【0156】
続いて、処理がステップ1420に進行し、CPU40aは、ステップ1410及びステップ1415にてそれぞれ取得された値と、スロットルモデルM2を表す前記(2)式(図14におけるステップ1420内に示された式参照)と、前回の図13のルーチンの実行時における後述するステップ1320にて算出された前回推定時点t1におけるインタークーラ内圧力Pic(k-1)及びインタークーラ内温度Tic(k-1)と、に基づいて、前回推定時点t1におけるスロットル通過空気流量mt(k-1)を算出する。そして、このルーチン1400が一旦終了して、処理が図13のステップ1310に進行する。
【0157】
ステップ1310において、CPU40aは、吸気弁モデルM3を表す前記(4)式(図13におけるステップ1310内に示された式参照)の係数cを、前記テーブルMAPCと、現時点のエンジン回転数NE及び現時点の吸気バルブタイミングVTと、から取得する。同様に、CPU40aは、前記(4)式の値dを、前記テーブルMAPDと、現時点のエンジン回転数NE及び現時点の吸気バルブタイミングVTと、から取得する。
【0158】
さらに、CPU40aは、前記(4)式と、前回の本ルーチンの実行時における後述するステップ1320にて算出された前回推定時点t1におけるインタークーラ内温度Tic(k-1)と、前回の本ルーチンの実行時における後述するステップ1325にて算出された前回推定時点t1における吸気管内圧力Pm(k-1)及び吸気管内温度Tm(k-1)と、に基づいて、前回推定時点t1における筒内吸入空気流量mc(k-1)を算出する。
【0159】
次に、処理がステップ1315に進行し、コンプレッサモデルM4によりコンプレッサ流出量mcm(k-1)及びコンプレッサ付与エネルギーEcm(k-1)を算出するため、図16のフローチャートに示されているルーチン1600に処理が進行する。
【0160】
ルーチン1600においては、CPU40aは、まず、ステップ1605にて、上述のステップ1310にて取得された前回推定時点t1における筒内吸入空気流量mc(k-1)と、吸気量−回転数定常マップMAPGa-Ncmと、に基づいて、コンプレッサ35bの回転数の暫定値である第一暫定回転数Ncm_mcを取得する。
【0161】
次に、ステップ1610にて、CPU40aは、前回の図13のルーチンの実行時における後述するステップ1320にて算出された前回推定時点t1におけるインタークーラ内圧力Pic(k-1)と、吸気量−過給圧定常マップMAPGa-Picと、に基づいて、暫定吸入空気量Ga_picを取得する。
【0162】
続いて、ステップ1615にて、CPU40aは、ステップ1605にて取得された暫定吸入空気量Ga_picと、吸気量−回転数定常マップと、に基づいて、コンプレッサ35bの回転数の他の暫定値である第二暫定回転数Ncm_picを取得する。
【0163】
その後、ステップ1620にて、CPU40aは、第一暫定回転数Ncm_mcと第二暫定回転数Ncm_picとに基づいて、無駄時間や一次遅れを用いて過渡的なコンプレッサ35bの回転数の変化を推定することで、コンプレッサ回転数Ncmを取得する(図8参照)。
【0164】
上述のようにしてコンプレッサ回転数Ncmの推定が行われた後、処理がステップ1625に進行し、CPU40aは、推定されたコンプレッサ回転数Ncmと、吸気量−回転数定常マップMAPGa-Ncmと、に基づいて、暫定筒内吸入空気流量mc_tarを取得する。次に、処理がステップ1630に進行し、CPU40aは、ステップ1625にて取得された暫定筒内吸入空気流量mc_tarと、吸気量−過給圧定常マップMAPGa-Picと、に基づいて、暫定過給圧Pic_tarを取得する。
【0165】
上述のようにして暫定過給圧Pic_tarが取得された後、処理がステップ1635に進行し、CPU40aは、この暫定過給圧Pic_tarと、上述の時点t1におけるインタークーラ内圧力Pic(k-1)と、の差ΔPicを算出する。
【0166】
次に、処理がステップ1640に進行し、CPU40aは、上述のインタークーラ内圧力Pic(k-1)及びΔPicと、上述のテーブルMAPK(Pic_tar,ΔPic)と、に基づいて、ゲインKを取得する。
【0167】
続いて、処理がステップ1645に進行し、CPU40aは、このゲインKと上述の値ΔPicとを乗算することで、コンプレッサ流出量補正値Δmcmを算出する。次いで、処理がステップ1650に進行し、CPU40aは、ステップ1640にて算出された補正値Δmcmを、前回推定時点t1における筒内吸入空気流量mc(k-1)に加算することで、前回推定時点t1におけるコンプレッサ流出量mcm(k-1)を算出する。
【0168】
その後、処理がステップ1660に進行し、CPU40aは、前記テーブルMAPETAと、ステップ1620にて推定されたコンプレッサ回転数Ncmと、に基づいて、コンプレッサ効率η(k-1)を取得する。
【0169】
最後に、処理がステップ1665に進行し、CPU40aは、前回の図13のルーチンの実行時における後述するステップ1320にて算出された前回推定時点t1におけるインタークーラ内圧力Pic(k-1)を現時点の吸気圧力Paで除した値Pic(k-1)/Paと、ステップ1650にて算出されたコンプレッサ流出量mcm(k-1)と、ステップ1660にて取得されたコンプレッサ効率η(k-1)と、現時点の吸気温度Taと、コンプレッサモデルM4の一部を表す前記(5)式(図16におけるステップ1665内に示された式参照)と、に基づいて、前回推定時点t1におけるコンプレッサ付与エネルギーEcm(k-1)を算出する。そして、このルーチン1600が一旦終了して、処理が図13のステップ1320に進行する。
【0170】
ステップ1320にて、CPU40aは、インタークーラモデルM5を表す前記(6)及び(7)式を離散化した式(差分方程式:図13におけるステップ1320内に示された式参照)と、上述のステップ1305及びステップ1315にてそれぞれ算出したスロットル通過空気流量mt(k-1)、コンプレッサ流出量mcm(k-1)、及びコンプレッサ付与エネルギーEcm(k-1)と、に基づいて、今回推定時点t2におけるインタークーラ内圧力Pic(k)と、このインタークーラ内圧力Pic(k)を今回推定時点t2におけるインタークーラ内温度Tic(k)にて除した値{Pic/Tic}(k)と、を算出する。
【0171】
なお、Δtは、このインタークーラモデルM5による計算(ステップ1320)及び後述する吸気管モデルM6による計算(ステップ1325)で使用される離散間隔であり、下記の式により表される。
Δt=t2−t1
【0172】
すなわち、ステップ1320においては、前回推定時点t1におけるインタークーラ内圧力Pic(k-1)及びインタークーラ内温度Tic(k-1)等から、今回推定時点t2におけるインタークーラ内圧力Pic(k)及びインタークーラ内温度Tic(k)が算出される。
【0173】
次に、処理がステップ1325に進行し、CPU40aは、吸気管モデルM6を表す前記(8)及び(9)式を離散化した式(差分方程式:図13におけるステップ1325内に示された式参照)と、上述のステップ1305及びステップ1310にてそれぞれ算出されたスロットル通過空気流量mt(k-1)及び筒内吸入空気流量mc(k-1)と、前回の本ルーチンの実行時におけるステップ1320にて算出された前回推定時点t1におけるインタークーラ内温度Tic(k-1)と、に基づいて、今回推定時点t2における吸気管内圧力Pm(k)と、この吸気管内圧力Pm(k)を今回推定時点t2における吸気管内温度Tm(k)にて除した値{Pm/Tm}(k)と、を算出する。
【0174】
すなわち、ステップ1325においては、前回推定時点t1における吸気管内圧力Pm(k-1)及び吸気管内温度Tm(k-1)等から、今回推定時点t2における吸気管内圧力Pm(k)及び吸気管内温度Tm(k)が算出される。
【0175】
続いて、処理がステップ1330に進行し、CPU40aは、吸気弁モデルM7を表す前記(4)式を用いて、今回推定時点t2における筒内吸入空気流量mc(k)を算出する。
【0176】
このとき、係数c及び値dとして、上述のステップ1310にて取得された値が用いられる。また、インタークーラ内温度Tic(k)、吸気管内圧力Pm(k)、及び吸気管内温度Tm(k)は、上述のステップ1320及びステップ1325にてそれぞれ算出された今回推定時点t2における値(最新の値)が用いられる。
【0177】
そして、CPU40aは、続くステップ1335にて、現時点のエンジン回転数NEと現時点の吸気バルブタイミングVTとにより求められる吸気弁開弁時間(吸気弁27aが開弁してから閉弁するまでの時間)Tintを計算し、さらに、続くステップ1340にて、前記今回推定時点t2における筒内吸入空気流量mc(k)に吸気弁開弁時間Tintを乗じることで予測筒内空気量KLfwdを算出し、本ルーチンを一旦終了する。
【0178】
以上のように算出される予測筒内空気量KLfwdについて、さらに説明する。ここで、説明の便宜上、クランクシャフト23が360°回転する時間よりも図13の筒内空気量推定ルーチン1300の演算周期ΔTt2が十分に短い場合であって、且つ、所定の時間間隔Δt0が大きく変化しない場合を考える。
【0179】
このとき、今回推定時点t2は、上述した筒内空気量推定ルーチン1300の実行が繰り返される毎に、略演算周期ΔTt2だけ先の時点へと移行していく。そして、特定の気筒の燃料噴射開始時期前の所定の時点(燃料噴射量を決定する必要がある最終の時点)にて本ルーチンが実行されると、今回推定時点t2は、前記第2時点(同気筒の吸気行程における吸気弁27aの閉弁時)と略一致する。したがって、この時点にて算出される予測筒内空気量KLfwdは、前記第2時点の筒内空気量の推定値となっている。
【0180】
<実施形態による効果>
上述の通り、本実施形態の制御装置4は、排気パラメータと比べて取得(計測あるいは算出)が精度良く行われ得る吸気パラメータと、前記吸気系における空気の挙動に関する物理法則に基づいて構築された計算モデル(吸気弁モデル等)とを用いて、筒内吸入空気流量mcやインタークーラ内圧力Picを算出する。
【0181】
また、本実施形態の制御装置4は、これらの算出値と図7及び図8に示されている所定の関係とに基づいて、過給機35の応答遅れを考慮しつつ、コンプレッサ回転数Ncmを推定し、この推定値に基づいて、コンプレッサ流出量mcm及び予測筒内空気量KLfwdを取得する。
【0182】
このように、本実施形態の構成においては、内燃機関システム1にコンプレッサ回転数センサを設けることなく、コンプレッサ回転数Ncmが、過給機35の応答遅れを考慮しつつ、精度よく推定される。また、図6に示されているような、多数のコンプレッサ回転数Ncmに対応する多数のコンプレッサ特性線を、テーブルあるいはマップ化してROM40bに格納する必要がなくなる。
【0183】
さらに、本実施形態においては、コンプレッサ流出量mcm及び予測筒内空気量KLfwdの算出に際し、空気流量センサの出力値ではなく、スロットルモデルM2により推定されたスロットル通過空気流量mtが用いられている。
【0184】
以上の通り、本実施形態によれば、安価な装置構成で、コンプレッサ流出量mcm及び予測筒内空気量KLfwdが、幅広い運転条件にて、従来よりもいっそう高い精度で推定され得る。
【0185】
<変形例の例示列挙>
なお、上述の実施形態は、上述した通り、出願人が取り敢えず本願の出願時点において最良であると考えた本発明の代表的な実施形態を単に例示したものにすぎない。よって、本発明はもとより上述の実施形態に何ら限定されるものではない。したがって、本発明の本質的部分を変更しない範囲内において、上述の実施形態に対して種々の変形が施され得ることは、当然である。
【0186】
以下、代表的な変形例について、幾つか例示する。もっとも、言うまでもなく、変形例とて、以下に列挙されたもの限定されるものではない。また、複数の変形例の全部又は一部が、技術的に矛盾しない範囲内において、適宜、互いに複合的に適用され得る。本発明(特に、本発明の課題を解決するための手段を構成する各構成要素における、作用的・機能的に表現されているもの)は、上述の実施形態や、下記変形例の記載に基づいて限定解釈されてはならない。このような限定解釈は、(先願主義の下で出願を急ぐ)出願人の利益を不当に害する反面、模倣者を不当に利するものであって、許されない。
【0187】
(A)本発明は、上述の実施形態で示された具体的な装置構成に限定されない。
【0188】
例えば、本発明は、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、メタノールエンジン、バイオエタノールエンジン、その他任意のタイプの内燃機関に適用可能である。気筒数や気筒配列方式(直列、V型、水平対向)も、特に限定はない。
【0189】
インタークーラ38は、水冷式のものであってもよい。あるいは、インタークーラ38は、なくてもよい。また、過給機35は、ターボチャージャ以外の方式のものであってもよい。
【0190】
(B)また、本発明は、上述の実施形態で示された具体的な機能・動作に限定されない。
【0191】
・例えば、遅延時間TDは、一定の時間ではなく、エンジン回転数NEに応じた可変の時間(例えばクランクシャフト23が所定角度だけ回転するのに要する時間)であってもよい。
【0192】
・内燃機関システム1にスロットル弁36が設けられていない場合、スロットルモデルM2に代えて、吸気弁モデルM3及び/又は吸気管モデルM6を適宜変容した計算モデルを構築することで、コンプレッサモデルM4等の他のモデルにおける計算に必要なパラメータが生成され得る。インタークーラ38が設けられていない場合も同様である。
【0193】
・スロットル弁アクチュエータ36aに対して駆動信号が送出された時点から、ほとんど遅れることなく、実際のスロットル弁開度θtaが目標スロットル弁開度θttとなる場合には、(1)式に換えて、下記の式が適用されてもよい。
θte(k)=θtt(k)
【0194】
・図6や図7におけるインタークーラ内圧力Picに代えて、これと吸気圧力Paとの比Pic/Paが、本発明の「過給圧」として用いられ得る。
【0195】
(C)その他、特段に言及されていない変形例についても、本発明の本質的部分を変更しない範囲内において、本発明の範囲内に含まれることは当然である。また、本発明の課題を解決するための手段を構成する各要素における、作用・機能的に表現されている要素は、上述の実施形態や変形例にて開示されている具体的構造の他、当該作用・機能を実現可能ないかなる構造をも含む。さらに、本明細書にて引用した先行出願や公報の開示内容(明細書及び図面を含む)は、本明細書の一部を構成するものとして援用され得る。
【符号の説明】
【0196】
1…内燃機関システム 2…内燃機関 21…シリンダ
25…吸気ポート 27a…吸気弁 28…インジェクタ
3…吸排気系統 31…吸気マニホールド 33…吸気ダクト
34…排気管 35…過給機 35b…コンプレッサ
36…スロットル弁 36a…スロットル弁アクチュエータ
38…インタークーラ
4…制御装置 40…ECU 40a…CPU
40b…ROM 41…圧力センサ 42…温度センサ
43…カムポジションセンサ 44…クランクポジションセンサ
45…スロットルポジションセンサ 46…アクセル開度センサ
M1…電子制御スロットル弁モデル M2…スロットルモデル
M3…吸気弁モデル M4…コンプレッサモデル
M41…暫定吸入空気量取得部 M42…コンプレッサ回転数推定部
M421…第一暫定回転数取得部 M422…第二暫定回転数取得部
M423…演算部 M424…無駄時間演算部
M425…一次遅れ演算部 M426…演算部
M43…暫定筒内吸入空気流量取得部 M44…暫定過給圧取得部
M45〜M47…演算部 M5…インタークーラモデル
M6…吸気管モデル M7…吸気弁モデル
【先行技術文献】
【特許文献】
【0197】
【特許文献1】特開2006−22763号公報
【特許文献2】特開2006−70881号公報
【特許文献3】特開2006−194107号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の内部に設けられた気筒と接続された、吸気通路と、
前記吸気通路における前記気筒との接続部である吸気ポートを開閉するように前記内燃機関に設けられた、吸気弁と、
前記吸気通路に介装されていて当該吸気通路における流路断面積を調整可能な、スロットル弁と、
前記吸気通路における前記スロットル弁よりも上流側にて当該吸気通路内の空気を圧縮するコンプレッサを有する、過給機と、
を備えた内燃機関システムを制御する、内燃機関システム制御装置であって、
前記吸気通路と前記スロットル弁と前記コンプレッサと前記吸気弁とを含む吸気系における空気の挙動に関する物理法則に基づいて構築された計算モデルを用いて、前記気筒内に流入する空気の流量である筒内吸入空気流量を取得する、筒内吸入空気流量取得手段と、
前記吸気系における空気の挙動に関する他の物理法則に基づいて構築された他の計算モデルを用いて、前記コンプレッサによって圧縮された空気の圧力に対応する過給圧を取得する、過給圧取得手段と、
前記内燃機関システムにおける定常運転状態での前記筒内吸入空気流量と前記過給圧との関係である吸気量−過給圧定常関係と、前記過給圧取得手段による過給圧取得値と、に基づいて、前記定常運転状態にて前記過給圧が前記過給圧取得値と一致すると仮定した場合の前記筒内吸入空気流量である暫定吸入空気量を取得する、暫定吸入空気量取得手段と、
前記定常運転状態での前記筒内吸入空気流量と前記コンプレッサの回転数との関係である吸気量−回転数定常関係と、前記筒内吸入空気流量取得手段により取得された前記筒内吸入空気流量と、前記暫定吸入空気量と、に基づいて、前記回転数を推定する、コンプレッサ回転数推定手段と、
を備えたことを特徴とする、内燃機関システム制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の、内燃機関システム制御装置であって、
前記コンプレッサ回転数推定手段は、
前記筒内吸入空気流量取得手段により取得された前記筒内吸入空気流量と、前記吸気量−回転数定常関係と、に基づいて、前記回転数の暫定値である第一暫定回転数を取得する、第一暫定回転数取得手段と、
前記暫定吸入空気量と、前記吸気量−回転数定常関係と、に基づいて、前記回転数の他の暫定値である第二暫定回転数を取得する、第二暫定回転数取得手段と、
前記第一暫定回転数及び前記第二暫定回転数に基づいて、過渡的な前記回転数の変化を推定することで、前記回転数の推定値を取得する、回転数推定値取得手段と、
を備えたことを特徴とする、内燃機関システム制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の、内燃機関システム制御装置において、
前記コンプレッサ回転数推定手段による回転数推定値と、前記吸気量−回転数定常関係と、に基づいて、前記定常運転状態にて前記回転数が前記回転数推定値と一致すると仮定した場合の前記筒内吸入空気流量である暫定筒内吸入空気流量を取得する、暫定筒内吸入空気流量取得手段と、
前記吸気量−過給圧定常関係と、前記暫定筒内吸入空気流量と、に基づいて、前記過給圧の暫定値である暫定過給圧を取得する、暫定過給圧取得手段と、
前記暫定筒内吸入空気流量と、前記暫定過給圧と、前記過給圧取得値と、に基づいて、前記コンプレッサから流出する空気の流量であるコンプレッサ流出量を取得する、コンプレッサ流出量取得手段と、
をさらに備えたことを特徴とする、内燃機関システム制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の、内燃機関システム制御装置であって、
前記コンプレッサ流出量取得手段は、
前記暫定過給圧と前記過給圧取得値との偏差及び前記暫定筒内吸入空気流量に基づいて定まる係数と、前記偏差と、の積によって算出される補正値で、前記暫定筒内吸入空気流量を補正することで、前記コンプレッサ流出量を算出することを特徴とする、内燃機関システム制御装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のうちのいずれか1項に記載の、内燃機関システム制御装置であって、
前記筒内吸入空気流量取得手段は、
前記スロットル弁における空気の挙動に関する物理法則に基づいて構築された前記計算モデルとしてのスロットルモデルを用いて、前記スロットル弁における空気の流量であるスロットル通過空気量を、前記スロットル弁の開度に基づいて取得する、スロットル通過空気量取得手段と、
前記吸気通路における前記スロットル弁よりも下流側の部分での空気の挙動に関する物理法則に基づいて構築された前記計算モデルとしての吸気管モデルを用いて、当該部分における空気の圧力及び温度である吸気管内圧力及び吸気管内温度を、前記スロットル通過空気量に基づいて取得する、吸気管内状態取得手段と、
を備え、前記吸気弁における空気の挙動に関する物理法則に基づいて構築された前記計算モデルとしての吸気弁モデルを用いて、前記筒内吸入空気流量を、前記吸気管内圧力及び前記吸気管内温度に基づいて取得することを特徴とする、内燃機関システム制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の、内燃機関システム制御装置であって、
前記過給圧取得手段は、
前記コンプレッサと前記スロットル弁との間に介装されていて前記コンプレッサから流出する空気を冷却するインタークーラ内の空気の挙動に関する物理法則に基づいて構築された前記計算モデルとしてのインタークーラモデルを用いて、前記過給圧を、前記スロットル通過空気量取得手段によって取得された前記スロットル通過空気量に基づいて取得することを特徴とする、内燃機関システム制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2010−174710(P2010−174710A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−17445(P2009−17445)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】