再生装置、干渉計測装置、制御プログラム、および記録媒体
【課題】光路長シフト法を用いたデジタルホログラフィにおいて、高精度計測を行うことができるデジタルホログラフィ装置を提供する。
【解決手段】本発明に係るデジタルホログラフィ装置は、被写体からの物体光と物体光に対してコヒーレントな参照光とが干渉して形成される干渉パターンを示すデータから、物体光の複素振幅分布を求めるコンピュータ4を備え、コンピュータ4は、上記被写体からの光路長が異なる2つの干渉パターンを示すデータを取得するデータ入力部10と、上記2つの干渉パターンのデータを用いて、0次回折光の物体光成分を求め、上記0次回折光の物体光成分を用いて物体光の複素振幅分布を求める物体光算出部11とを備える。そのため、被写体の高精度な再生像を生成することができる。
【解決手段】本発明に係るデジタルホログラフィ装置は、被写体からの物体光と物体光に対してコヒーレントな参照光とが干渉して形成される干渉パターンを示すデータから、物体光の複素振幅分布を求めるコンピュータ4を備え、コンピュータ4は、上記被写体からの光路長が異なる2つの干渉パターンを示すデータを取得するデータ入力部10と、上記2つの干渉パターンのデータを用いて、0次回折光の物体光成分を求め、上記0次回折光の物体光成分を用いて物体光の複素振幅分布を求める物体光算出部11とを備える。そのため、被写体の高精度な再生像を生成することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、参照光と物体光との干渉像を測定して得られた測定結果から被写体の像を再生する再生装置、該再生装置を備える干渉計測装置、制御プログラム、および記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
以後の文章中で位相の単位はラジアンで表す。加工技術の精密化や多様化に伴い、物体の3次元形状等の高度な計測や解析が求められ、様々な測定法が開発されている。該測定法のうち、光の干渉を利用した干渉計測技術、特にデジタルホログラフィは、非接触かつ非破壊で、物体の3次元情報を得ることができるため、近年、注目を集めている測定法の一つとなっている。
【0003】
デジタルホログラフィは、3次元物体への光照射によって得られる干渉パターン(干渉光が形成する干渉縞)から、コンピュータを用いて3次元物体の像を再生する技術である。具体的には例えば、3次元物体への光照射によって得られる物体光と、該物体光に対して可干渉(コヒーレント)である参照光とが作る干渉パターンを、CCD(charge coupled device)等の撮像素子を用いて記録する。記録された干渉パターンに基づいて、コンピュータで3次元物体の像を再生する。これにより、物体の3次元の像再生だけでなく、3次元形状測定も行うことができる。
【0004】
図19は、従来のデジタルホログラフィ装置の構成の一例を示す模式図である。デジタルホログラフィ装置101は、レーザ光源102を含む光学系と、CCDカメラ103と、コンピュータ104とを備える。レーザ光源102から出射されたレーザ光は、ビームエキスパンダ105およびコリメータレンズ106を通過することにより平行光となる。それから、レーザ光はビームスプリッタ107によって参照光と物体光とに分割される。物体光は被写体108に照射される。被写体108によって反射された物体光は、ビームスプリッタ107を通過しCCDカメラ103の撮像面103aに到達する。一方、参照光は、ミラー109およびビームスプリッタ107によって反射され、CCDカメラ103の撮像面103aに到達する。CCDカメラ103は、撮像面103aに到達した物体光と参照光とが作る干渉パターンを撮像し、干渉パターンのデータをコンピュータ104に出力する。入力された干渉パターンに対して、コンピュータ104がフレネル変換する等の計算処理を施すことにより、被写体108の再生像が得られる。
【0005】
上記のデジタルホログラフィ装置101は、インライン(in-line)型のデジタルホログラフィ装置であり、CCDカメラ103の撮像面3aに対して参照光がほぼ垂直に入射する。すなわち、CCDカメラ103の撮像面3aには、参照光と物体光とがほぼ同じ方向から入射する。そのため、干渉パターンをフレネル変換して得られる再生像は、0次回折像および±1次回折像(直接像および共役像)が重なったものとなり、被写体108の鮮明な再生像を得ることが困難となっている。
【0006】
そこで、1次回折像(直接像、すなわち真の像)を分離して高精度な再生像を得るために、被写体と撮像面との距離が異なる複数の干渉パターンを撮像し、この複数の干渉パターンから所望の再生像を得る技術がある(非特許文献1)。以後、この技術を光路長シフト法と呼ぶ。以下に光路長シフト法を用いたデジタルホログラフィについて説明する。
【0007】
図20は、従来の光路長シフト法を用いたデジタルホログラフィ装置の構成を示す模式図である。デジタルホログラフィ装置111は、レーザ光源102を含む光学系と、CCDカメラ112と、コンピュータ113とを備える。光路長シフト法を用いるために、CCDカメラ112は、撮像面112aと、撮像面112aからΔz離れた撮像面112bとにおいて干渉パターンを撮像する。被写体108からの距離(光路長)が異なる2つの干渉パターンは、例えばCCDカメラ112を移動させることにより2回に分けて逐次撮像してもよい。
【0008】
レーザ光源102から出射されたレーザ光は、ビームエキスパンダ105およびコリメータレンズ106を通過することにより平行光となる。それから、レーザ光はビームスプリッタ107によって参照光と物体光とに分割される。物体光は被写体108に照射される。被写体108によって反射された物体光は、ビームスプリッタ107を通過しCCDカメラ112の撮像面112a・112bに到達する。一方、参照光は、ミラー109およびビームスプリッタ107によって反射され、CCDカメラ112の撮像面112a・112bに到達する。CCDカメラ112は、撮像面112a・112bに到達した物体光と参照光とが作る干渉パターンをそれぞれ撮像し、干渉パターンのデータをコンピュータ113に出力する。入力された干渉パターンに対して、コンピュータ113が計算処理を施すことにより、被写体108の再生像が得られる。なお、撮像面112a・112bに入射する物体光の振幅は参照光の振幅よりも十分に小さくなるようにする。
【0009】
<従来の再生像の計算方法>
以下に、光路長シフト法による直接像を再生する計算方法の概要を説明する。ここで、撮像面に垂直な軸をZ軸、撮像面に平行な2つの軸をX軸、Y軸とする。被写体108の一点を原点とし、被写体108から撮像面112aまでの光軸に沿った距離をz、被写体108から撮像面112bまでの光軸に沿った距離をz+Δzとする。
【0010】
参照光は平面波であると仮定する。参照光は撮像面112a・112bに対して垂直に入射するので、撮像面112a上での参照光の複素振幅分布はur(z)=Arexp[jφr(z)] とおくことができる。撮像面112a上での物体光の複素振幅分布はuo(x,y,z) とおく。Ar は参照光の振幅、φr(z) は位置zでの参照光の位相である。j は虚数単位を示す。これらから、撮像面112a上での参照光と物体光による干渉光(干渉パターン)の複素振幅分布は次式で与えられる。
【0011】
【数1】
【0012】
また、撮像面112a上で撮像される干渉光の強度I(x,y,z)は、次式で与えられる。
【0013】
【数2】
【0014】
この4つの項のうち、|ur(z)|2 は0次回折光の参照光成分を表し、|uo(x,y,z)|2は0次回折光の物体光成分を表し、ur(z)*uo(x,y,z) は直接像成分(+1次回折光)を含んだ成分を表し、ur(z)uo(x,y,z)*は共役像成分(−1次回折光)を含んだ成分を表している。被写体の像を再生するために必要な成分はuo(x,y,z) の直接像成分であり、以下ではこれを求める。なお、|ur(z)|2、|uo(x,y,z)|2 の0次回折光成分およびur(z)uo(x,y,z)*の共役像成分を含んだ成分は不要であり、式(2)からこれらの不要な成分を除去しなければ鮮明な再生像が得られない。なお、干渉光の強度I(x,y,z)は、各撮像面で干渉パターンを撮像することで測定することができる値であり、参照光の振幅の2乗|Ar|2は、物体光なしで参照光のみを撮像面112a・112bのいずれかにおいて撮像することにより測定することができる値である。
【0015】
ここで、撮像面112a上での参照光の位相φr(z)=0とすると、式(1)は以下のようになる。
【0016】
【数3】
【0017】
ここで、物体光の振幅が参照光の振幅に対して十分に小さいとき、すなわちuo(x,y,z)≪Ar のとき、式(3)はテイラー展開の2次以上の項を無視することにより、以下のように近似することができる。
【0018】
【数4】
【0019】
よって、式(2)の干渉光の強度I(x,y,z) は、以下のようになる。
【0020】
【数5】
【0021】
uo(x,y,z) は直接像成分、uo(x,y,z)*は共役像成分である。式(3)から式(4)への近似により、0次回折光の物体光成分|uo(x,y,z)|2 の項を無視して除去していることになる。
【0022】
また、同様に、被写体から距離z+Δz離れた撮像面112b上での干渉光の強度I(x,y,z+Δz) は、以下のようになる。
【0023】
【数6】
【0024】
式(5)を変形して次式が得られる。
【0025】
【数7】
【0026】
式(7)の左辺は測定可能な値であるので、これにより、直接像成分の項と共役像成分の項の和が求まる。ここから共役像成分の項を除去して直接像成分の項を求める。
【0027】
ここで、式(7)の両辺をXY平面に関してフーリエ変換すると次式が得られる。
【0028】
【数8】
【0029】
ここで、H(fx,fy,z) は光学伝達関数である。また、距離z+Δz離れた撮像面112b上での干渉光の強度I(x,y,z+Δz) からも、同様にフーリエ変換することにより、次式が得られる。
【0030】
【数9】
【0031】
次に、式(9)の両辺に光学伝達関数H(fx,fy,Δz) をかけると次式が得られる。
【0032】
【数10】
【0033】
式(8)から(10)を減算して共役像成分に関する項を除去することができ、式を整理することにより、次式が得られる。
【0034】
【数11】
【0035】
式(11)の右辺は測定値から計算可能である。求まったU(fx,fy,0) から、逆フーリエ変換を用いて、被写体がある位置での物体光の複素振幅分布uo(x,y,0) を求めることができ、物体の直接像を再生することができる。
【0036】
また、非特許文献2には、上記の方法を応用し、アレイ状の素子を用いることにより、1つの撮像面での1回の撮像によって、被写体までの距離が異なる2つの干渉パターンを得る光路長シフト法を用いたデジタルホログラフィ装置が開示されている。この技術を並列光路長シフト法と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0037】
【特許文献1】特開2005−283683号公報(2005年10月13日公開)
【非特許文献】
【0038】
【非特許文献1】Yan Zhang, et. al.、「Reconstruction of in-line digital holograms from two intensity measurements」、OPTICS LETTERS、1 August 2004、Vol.29、No.15、pp.1787-1789
【非特許文献2】Yasuhiro AWATSUJI, et. al.、「Single-Shot In-Line Digital Holography Recording Two Fringe Images Generated at Two Different Planes」、International Topical Meeting on Information Photonics (IP2008) Technical Digest、62(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0039】
しかしながら、上記従来の構成では、以下の問題が生じる。上記従来の計算方法は、式(3)から(4)へ近似する際に、「物体光の振幅が参照光の振幅に対して十分に小さい」という条件を用いている。そのため、物体光が参照光に対して十分に小さくない場合、上記近似が成立せず、得られる直接像の再生像は不鮮明なものとなり、高精度な3次元形状計測を行うことができない。一方で物体光の振幅を参照光の振幅に対して小さくすると、干渉パターンのコントラストが低下し、高精度計測ができなくなる。また、物体光の振幅を小さくすると、CCDカメラに流れる暗電流およびノイズの影響を受けやすくなり、高精度計測ができなくなる。
【0040】
また、光路長シフト法とは別に、参照光の位相を複数段階にシフトさせ、得られた複数の干渉パターンから所望の再生像を得る位相シフト法という技術がある(特許文献1)。位相シフト法によるデジタルホログラフィ装置は、参照光のみの位相を変化させる必要があるため、光路長シフト法によるデジタルホログラフィ装置よりも構成が複雑になる。
【0041】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、光路長シフト法を用いたデジタルホログラフィにおいて、高精度計測を行うことができるデジタルホログラフィ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0042】
本発明に係る再生装置は、被写体からの物体光と物体光に対してコヒーレントな参照光とが干渉して形成される干渉パターンを示すデータから、物体光の複素振幅分布を求める再生装置であって、上記の課題を解決するために、上記被写体からの光路長が異なる2つの干渉パターンを示すデータを取得する取得部と、上記2つの干渉パターンのデータを用いて、0次回折光の物体光成分を求め、上記0次回折光の物体光成分を用いて物体光の複素振幅分布を求める第1処理部とを備えることを特徴としている。
【0043】
上記の構成によれば、被写体からの光路長が異なる2つの干渉パターンを用いて再生像を得る光路長シフトデジタルホログラフィにおいて、0次回折光の物体光成分を求めることができる。そして、0次回折光の物体光成分を用いて物体光の複素振幅分布を求めることにより、上記2つの干渉パターンから0次回折光の物体光成分の影響を除去した高精度の物体光の複素振幅分布を得ることができる。
【0044】
よって、その後、得られた物体光の複素振幅分布に対して回折計算処理等を行うことにより、高精度の再生像を得ることができる。そのため、被写体の3次元形状を高精度で計測でき、被写体の明暗を示す鮮明な画像を得ることができる。
【0045】
また、上記物体光の複素振幅分布を用いて上記被写体の再生像を求める第2処理部をさらに備えてもよい。
【0046】
上記の構成によれば、高精度の物体光の複素振幅分布を用いて、高精度の再生像を得ることができる。
【0047】
また、上記取得部は、参照光の強度を示すデータ、および、参照光の波長と2つの干渉パターンの上記被写体からの光路長の差との比を示すデータを受け取り、上記第1処理部は、上記2つの干渉パターンのデータ、上記参照光の強度を示すデータ、および、上記参照光の波長と上記光路長の差との比を示すデータとを用いて、上記0次回折光の物体光成分と上記物体光の複素振幅分布とを求めるよう構成してもよい。
【0048】
また、上記第1処理部は、フーリエ空間において上記2つの干渉パターンの差分を求めることにより上記2つの干渉パターンに含まれる共役像成分を除去し、上記2つの干渉パターンの差分から、上記0次回折光の物体光成分を減算することにより上記物体光の複素振幅分布を求めるよう構成してもよい。
【0049】
本発明に係る干渉計測装置は、上記再生装置と、コヒーレントな光を発生する光源と、上記光源から出射される光を参照光および物体光に分割する光分割部と、撮像素子とを備え、上記光分割部で分割された物体光は被写体を介して撮像素子に到達し、上記撮像素子は、参照光と物体光とが干渉して形成される干渉パターンについて、被写体からの光路長が互いに異なる2つの干渉パターンを撮像し、上記2つの干渉パターンを示すデータを上記取得部に出力するよう構成してもよい。
【0050】
上記の構成によれば、参照光と被写体によって散乱された物体光とが干渉して形成される干渉パターンについて、被写体からの光路長が互いに異なる2つの干渉パターンを撮像し、上記2つの干渉パターンを示すデータを得ることができる。再生装置は、上記被写体からの光路長が互いに異なる2つの干渉パターンを示すデータを用いて、高精度の物体光の複素振幅分布を求めることができる。
【0051】
なお、上記再生装置の取得部、第1処理部、および第2処理部は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを上記各部として動作させることにより、上記各部をコンピュータにて実現させる再生装置の制御プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に含まれる。
【発明の効果】
【0052】
本発明に係る再生装置は、被写体からの物体光と物体光に対してコヒーレントな参照光とが干渉して形成される干渉パターンを示すデータから、物体光の複素振幅分布を求める再生装置であって、上記被写体からの光路長が異なる2つの干渉パターンを示すデータを取得する取得部と、上記2つの干渉パターンのデータを用いて、0次回折光の物体光成分を求め、上記0次回折光の物体光成分を用いて物体光の複素振幅分布を求める第1処理部とを備えることを特徴としている。
【0053】
よって、被写体からの光路長が異なる2つの干渉パターンを用いて再生像を得る光路長シフトデジタルホログラフィにおいて、0次回折光の物体光成分を求めることができる。そして、0次回折光の物体光成分を用いて物体光の複素振幅分布を求めることにより、上記2つの干渉パターンから0次回折光の物体光成分の影響を除去した高精度の物体光の複素振幅分布を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】逐次光路長シフト法を用いたデジタルホログラフィ装置の構成を示す模式図である。
【図2】再生像の計算を行うコンピュータの機能ブロックを示すブロック図である。
【図3】(a)は、被写体の見た目の明暗を表す振幅分布を示す画像であり、(b)は、被写体の高さについて、レーザ光の波長を基準とした位相分布によって示す図である。
【図4】(a)〜(f)は、被写体の再生像に関して、本実施の形態に基づくシミュレーション結果と、従来の再生処理方法よるシミュレーション結果とを対比して示す画像である。
【図5】(a)〜(f)は、被写体の3次元形状計測に関して、本実施の形態に基づくシミュレーション結果と、従来の再生処理方法よるシミュレーション結果とを対比して示す図である。
【図6】逐次光路長シフト法を用いた本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果について、RMSEを計算した結果を示す表である。
【図7】逐次光路長シフト法を用いた本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果について、物体光と参照光の振幅比を横軸にとり、再生像の振幅分布のRMSEをプロットしたグラフである。
【図8】逐次光路長シフト法を用いた本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果について、物体光と参照光の振幅比を横軸にとり、再生像の位相分布のRMSEをプロットしたグラフである。
【図9】逐次光路長シフト法を用いた本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果について、光路長の差Δzを横軸にとり、再生像の振幅分布のRMSEをプロットしたグラフである。
【図10】逐次光路長シフト法を用いた本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果について、光路長の差Δzを横軸にとり、再生像の位相分布のRMSEをプロットしたグラフである。
【図11】並列光路長シフト法を用いたデジタルホログラフィ装置の構成を示す模式図である。
【図12】(a)は、光路長シフトアレイ素子の一部と撮像面の一部とを示す斜視図であり、(b)は、撮像面側から見た光路長シフトアレイ素子の一部を示す模式図である。
【図13】並列光路長シフト法を用いたデジタルホログラフィ装置における再生像の生成のアルゴリズムを説明するための図である。
【図14】(a)〜(f)は、被写体の再生像に関して、本実施の形態に基づくシミュレーション結果と、背景技術の欄に記載した従来の再生処理方法よるシミュレーション結果とを対比して示す画像である。
【図15】(a)〜(f)は、被写体の3次元形状計測に関して、本実施の形態に基づくシミュレーション結果と、背景技術の欄に記載した従来の再生処理方法よるシミュレーション結果とを対比して示す図である。
【図16】並列光路長シフト法を用いた本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果について、RMSEを計算した結果を示す表である。
【図17】逐次光路長シフト法を用いた本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果、および、並列光路長シフト法を用いた本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果について、物体光と参照光の振幅比を横軸にとり、再生像の振幅分布のRMSEを棒グラフである。
【図18】逐次光路長シフト法を用いた本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果、および、並列光路長シフト法を用いた本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果について、物体光と参照光の振幅比を横軸にとり、再生像の位相分布のRMSEを棒グラフである。
【図19】従来のデジタルホログラフィ装置の構成の一例を示す模式図である。
【図20】従来の光路長シフト法を用いたデジタルホログラフィ装置の構成の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0056】
[実施の形態1]
本実施の形態では、逐次光路長シフト法によるデジタルホログラフィ装置について説明する。逐次光路長シフト法は、1つのCCDカメラで2回撮像することにより被写体8からの距離(光路長)が異なる2つの干渉パターンを得る、または、2つのCCDカメラを用いて1回撮像することにより被写体8からの距離が異なる2つの干渉パターンを得る方法である。
【0057】
<デジタルホログラフィ装置の構成>
図1は、逐次光路長シフト法を用いたデジタルホログラフィ装置の構成を示す模式図である。デジタルホログラフィ装置1は、レーザ光源(光源)2を含む光学系と、CCDカメラ(撮像素子)3と、コンピュータ(再生装置)4とを備える。光路長シフト法を用いるために、CCDカメラ3は、撮像面3aと、撮像面3aからΔz離れた撮像面3bとにおいて干渉パターンを撮像する。被写体8からの距離(光路長)が異なる2つの干渉パターンは、例えばCCDカメラ3を移動させることにより2回に分けて逐次撮像してもよい。また、ビームスプリッタ7によって参照光と物体光とを結合させた後に、別のビームスプリッタ(図示せず)によって参照光および物体光をそれぞれ2つに分割し、光路長の異なる位置(撮像面)にそれぞれCCDカメラを配置して2つの干渉パターンを撮像してもよい。
【0058】
レーザ光源2から出射されたレーザ光は、ビームエキスパンダ5およびコリメータレンズ6を通過することにより平行光となる。それから、レーザ光はビームスプリッタ(光分割素子)7によって参照光と物体光とに分割される。物体光は被写体8に照射される。被写体8によって反射(散乱)された物体光は、ビームスプリッタ7を通過しCCDカメラ3の撮像面3a・3bに到達する。一方、参照光は、ミラー9およびビームスプリッタ7によって反射され、CCDカメラ3の撮像面3a・3bに到達する。CCDカメラ3は、撮像面3a・3bに到達した物体光と参照光とが作る干渉パターンをそれぞれ撮像し、干渉パターンのデータをコンピュータ4に出力する。入力された干渉パターンに対して、コンピュータ4が計算処理を施すことにより、被写体8の再生像が得られる。
【0059】
なお、再生像を計算する過程において参照光の強度の情報が必要になる。参照光の強度分布は定常的で変化しないため、予め、または被写体8の干渉パターンを撮像した後に、物体光を遮る等して参照光だけを撮像しておく。参照光の強度分布を得る際に被写体8は不要である。
【0060】
また、光学系として、被写体が反射した物体光を撮像する上記構成に替えて、被写体を透過(散乱)した物体光を撮像する構成を採用することもできる。
【0061】
<再生像の計算方法>
以下に、本発明の光路長シフト法による直接像を再生する計算方法を説明する。ここで、撮像面に垂直な軸をZ軸、撮像面に平行な2つの軸をX軸、Y軸とする。被写体8の一点を原点とし、被写体8から撮像面3aまでの光軸に沿った距離をz、被写体8から撮像面3bまでの光軸に沿った距離をz+Δzとする。
【0062】
参照光は平面波であると仮定する。参照光は撮像面3a・3bに対して垂直に入射するので、撮像面3a上での参照光の複素振幅分布はur(z)=Arexp[jφr(z)] とおくことができる。撮像面3a上での物体光の複素振幅分布はuo(x,y,z)=Ao(x,y,z)exp[jφo(x,y,z)] とおく。Ar は参照光の振幅、φr(z) は位置zでの参照光の位相である。Ao(x,y,z) は物体光の振幅、φo(x,y,z) は位置(x,y,z) での物体光の位相である。j は虚数単位を示す。これらから、撮像面3a上での参照光と物体光による干渉光(干渉パターン)の複素振幅分布は次式で与えられる。
【0063】
【数12】
【0064】
ここで、撮像面3a上での参照光の位相を基準にする(φr(z)=0)と、撮像面3a上で撮像される干渉光の強度I(x,y,z)は、次式で与えられる。
【0065】
【数13】
【0066】
この4つの項のうち、|ur(z)|2 は0次回折光の参照光成分を表し、|uo(x,y,z)|2は0次回折光の物体光成分を表し、ur(z)*uo(x,y,z) は直接像成分(+1次回折光)を含んだ成分を表し、ur(z)uo(x,y,z)*は共役像成分(−1次回折光)を含んだ成分を表している。被写体の像を再生するために必要な成分はuo(x,y,z) の直接像成分であり、以下ではこれを求める。なお、|ur(z)|2、|uo(x,y,z)|2 の0次回折光成分およびur(z)uo(x,y,z)*の共役像成分を含んだ成分は不要であり、式(13)からこれらの不要な成分を除去しなければ鮮明な再生像が得られない。なお、干渉光の強度I(x,y,z)は、各撮像面で干渉パターンを撮像することで測定することができる値であり、参照光の振幅の2乗|Ar|2は、物体光なしで参照光のみを撮像面3a・3bのいずれかにおいて撮像することにより測定することができる値である。本発明の計算方法では、2つの干渉パターンから0次回折光成分|uo(x,y,z)|2を求めて、0次回折光成分の影響を除去した直接像成分を求める。
【0067】
次に、式(13)の両辺をXY平面に関してフーリエ変換すると次式が得られる。
【0068】
【数14】
【0069】
ここで、L(fx,fy,z) は撮像面3a上での干渉光の強度I(x,y,z) のフーリエ変換、DC(fx,fy,z) は0次回折光成分(Ar2+Ao2(x,y,z)) のフーリエ変換、U(fx,fy,z) は直接像成分ArAo(x,y,z)exp[jφo(x,y,z)] のフーリエ変換、U*(fx,fy,z) は共役像成分ArAo(x,y,z)exp[−jφo(x,y,z)] のフーリエ変換である。また、距離z+Δz離れた撮像面3b上での干渉光の強度I(x,y,z+Δz) からも、同様にフーリエ変換することにより、次式が得られる。
【0070】
【数15】
【0071】
ここで、H(fx,fy,z) は光学伝達関数である。また、物体光および参照光の強度値が、撮像面3aの画素と光路長がΔz異なる撮像面3bの対応する画素とにおいて略同一であれば、0次回折光成分(Ar2+Ao2(x,y,z)) は光路長Δzの違いでは変化しないとみなすことができる。CCDカメラ3は、物体光に関しては、撮像面3a・3bに対して略垂直に入射する成分を記録する。そのため、Δzの値が小さければ、物体光のみの強度Ao2(x,y,z) の分布は、撮像面3aおよび撮像面3bにおいて略同一であるとみなすことができる。H(fx,fy,z) は次式で与えられる。
【0072】
【数16】
【0073】
λはレーザ光の波長、fx ,fy はそれぞれx、y方向の空間周波数、τx ,τyはそれぞれx、y方向のCCDカメラ3の画素ピッチである。
【0074】
次に式(15)の両辺に光学伝達関数H(fx,fy,Δz) をかけると次式が得られる。
【0075】
【数17】
【0076】
式(14)および式(17)の差をとると、次式のように共役像成分U*(fx,fy,z) を削除することができる。
【0077】
【数18】
【0078】
式(18)を整理すると、次式が得られる。
【0079】
【数19】
【0080】
可視光のレーザ光を用いた場合、その波長λは750nmから380nmである。また通常、CCDカメラ3の画素ピッチは数μmである。そのため、CCDカメラの画素ピッチがレーザ光の波長より十分に大きいという条件(2τx≫λ,2τy≫λ)が成立する。すなわち次式の関係が成立する。
【0081】
【数20】
【0082】
式(20)の関係を用いて近似することにより、式(16)の右辺のfx2 ,fy2 の項を削除することができ、式(16)の光学伝達関数は次のようになる。
【0083】
【数21】
【0084】
なお、上記の近似は、1/λに対して微小である項(fx およびfy )の2次の項を無視する近似である。式(21)を用いると、式(19)の右辺第1項は、実部をα、虚部をβとおくと次のようになる。
【0085】
【数22】
【0086】
すなわち、αは定数、βはΔzおよびλから求められる値である。これにより、式(19)は次のようになる。
【0087】
【数23】
【0088】
式(23)の両辺をXY平面に関して逆フーリエ変換したものをMとおくと、次式が得られる。
【0089】
【数24】
【0090】
ここで、F-1[] は、逆フーリエ変換を表す。Ar は参照光の振幅、Ao(x,y,z) は物体光の振幅、φo(x,y,z) は位置(x,y,z) での物体光の位相である。式(24)の左辺は、撮像面3a(位置z)での干渉光と撮像面3b(位置z+Δz)での干渉光とから共役像成分を除去するように差分をとったものを表している。
【0091】
また、Mの実部Re[M]および虚部Im[M]は次式で表される。
【0092】
【数25】
【0093】
ここで、Ar2 は0次回折光の参照光成分であり、Ao2(x,y,z) は0次回折光の物体光成分である。ArAo(x,y,z)cosφo(x,y,z) およびArAo(x,y,z)sinφo(x,y,z) は直接像成分に関する項である。
【0094】
式(25)と、sin2θ+cos2θ=1の関係より、φo(x,y,z) を削除して次式が得られる。
【0095】
【数26】
【0096】
ここで、式(26)の右辺について、上述したようにAr2 は物体光なしで参照光のみを撮像することで得られる測定値、αおよびβは既知の値である。また、撮像面3a・3bでの干渉光の強度I(x,y,z) 、およびI(x,y,z+Δz) が測定値であり、これらから、L(fx,fy,z) 、およびL(fx,fy,z+Δz) を計算することができる。よって、式(24)の左辺を計算することができ、Re[M] およびIm[M] を計算することができる。得られた測定値から式(26)の右辺を計算することができるので、0次回折光の物体光成分Ao2(x,y,z) を求めることができる。
【0097】
求めた0次回折光の物体光成分Ao2(x,y,z) と参照光成分Ar2 とを用いて、式(25)から次式が得られる。
【0098】
【数27】
【0099】
式(27)の右辺がそれぞれ物体光の複素振幅分布uo(x,y,z)=Ao(x,y,z)exp[jφo(x,y,z)] の実部および虚部にあたる。左辺は測定値から計算可能であるため、これにより、物体光の複素振幅分布を求めることができる。式(27)の左辺は、撮像面3a(位置z)での干渉光と撮像面3b(位置z+Δz)での干渉光とから共役像成分を除去するように差分をとったもの(すなわちM)から、0次回折光の物体光成分Ao2(x,y,z) および参照光成分Ar2 を減算することにより、直接像成分(すなわち物体光の複素振幅分布)が求められることを表している。
【0100】
この後、回折計算により物体光の複素振幅分布(直接像成分)を被写体の位置まで伝播させることで被写体の直接像を再生することができる。以降の回折計算等の処理は周知の技術であるのでここでの説明は省略する。なお、位置(x,y,z) での物体光の複素振幅分布(Ao(x,y,z)cosφo(x,y,z) の値およびAo(x,y,z)sinφo(x,y,z) の値)を求めることと、位置(x,y,z) での物体光の振幅分布としてAo(x,y,z) の値およびφo(x,y,z) の値を求めることは同義であり、いずれからでも被写体の直接像を再生することができる。
【0101】
本実施の形態によれば、物体光の複素振幅分布を求める際に「物体光の振幅が参照光の振幅に対して十分に小さい」という条件を用いて近似を行う必要がない。本実施の形態において行う近似は、「撮像素子の画素ピッチがレーザ光の波長より十分に大きい」という条件において成立し、通常のCCDカメラおよび可視光のレーザ光であれば条件を満たしている。そのため、本実施の形態によれば、物体光の強度を小さくする必要がなく、CCDカメラに流れる暗電流およびノイズの影響を受けずに、高精度計測を行うことができる。
【0102】
なお、式(25)について、あらかじめMから0次回折光の参照光成分Ar2 を減算した結果をM´とすると、M´の実部と虚部は次式で表される。
【0103】
【数28】
【0104】
これを用いて、式(26)は、次式のように書き換えることができる。
【0105】
【数29】
【0106】
このように式変形をすることで、0次回折光の物体光成分Ao2(x,y,z) を求める式を簡素化することができる。なお、式(29)では、式(26)を用いて計算する場合と本質的には同じ計算を行っている。式(29)を用いて、式(27)は次式のように書き換えることができる。
【0107】
【数30】
【0108】
式(30)を用いて、同様に、物体光の複素振幅分布を求めることができる。
【0109】
<再生装置の構成>
図2は、再生像の計算を行うコンピュータの機能ブロックを示すブロック図である。コンピュータ(再生装置)4は、データ入力部(取得部)10、物体光算出部(第1処理部)11、および回折処理部(第2処理部)12を備える。データ入力部10は、CCDカメラ3(図1参照)から物体光と参照光とから形成される2つの干渉パターンI(x,y,z) 、I(x,y,z+Δz) のデータ、および参照光のみの強度Ar2 のデータの入力を受け付ける。また、データ入力部10は、レーザ光の波長λ、および2つの撮像面の距離(光路長の差)Δz等の各種設定値の入力を受け付ける。データ入力部10は、入力された各データおよび設定値を物体光算出部11に出力する。
【0110】
物体光算出部11は、2つの干渉パターンI(x,y,z) 、I(x,y,z+Δz) をそれぞれフーリエ変換し、差分を取って共役像成分を除去する(式(24)に対応)。物体光算出部11は、共役像成分を除去した結果と参照光のみの強度とを用いて、1つの撮像面(3aまたは3b)上の複数の点(各画素)における0次回折光の物体光成分を求める(式(26)に対応)。物体光算出部11は、求めた0次回折光の物体光成分と共役像成分を除去した結果と参照光のみの強度とを用いて、上記の撮像面上の複数の点(各画素)における物体光の複素振幅分布(直接像成分)を求める(式(27)に対応)。物体光算出部11は、求めた物体光の複素振幅分布のデータを回折処理部12に出力する。なお、0次回折光の物体光成分および物体光の複素振幅分布を求める際には、レーザ光の波長λおよび2つの撮像面の距離Δzの代わりに、レーザ光の波長λと2つの撮像面の距離Δzとの比が分かればよい。
【0111】
回折処理部12は、受け取った上記の撮像面上の複数の点(各画素)における物体光の複素振幅分布を用いて回折計算処理を行って被写体の位置まで物体光の複素振幅分布を伝播させ、被写体の位置での物体光の複素振幅分布を求める。なお、回折計算処理はフーリエ空間で行われる。これにより被写体の再生像(3次元形状を示す位置情報および明暗等を示す画像情報)を得ることができる。
【0112】
<光路長シフト量の最適値>
本実施の形態の光路長シフト法においては、被写体と撮像面との光路長が異なる2つの干渉パターンを用いて差分を計算し、共役像成分を除去するが、差分をとる際に所望の直接像成分も除去してしまうおそれがある。本実施の形態の光路長シフト法においては、撮像面3a・3bの光路長の差Δzは、最適となる値が存在する。
【0113】
共役像成分を除去した差分は式(18)である。式(18)の左辺は測定値から得られる情報であり、DC(fx,fy,z) は0次回折光成分(Ar2+Ao2(x,y,z)) のフーリエ変換、U(fx,fy,z) は直接像成分ArAo(x,y,z)exp[jφo(x,y,z)] のフーリエ変換である。所望の成分は直接像成分であるU(fx,fy,z) であるので、その係数[1−H(fx,fy,2Δz)] が大きいことが望ましい。式(21)から係数[1−H(fx,fy,2Δz)] は次のようになる。
【0114】
【数31】
【0115】
ここで、
【0116】
【数32】
【0117】
となり、式(31)に示す直接像成分の係数は最小値0となり、直接像成分が除去されてしまう。また、
【0118】
【数33】
【0119】
となり、式(31)に示す直接像成分の係数は最大値2となり、直接像の情報が最も多く残る。よって、光路長の差Δzの最適値は、Δz=λ/4+n(λ/2) である(nは整数)。
【0120】
<シミュレーション結果>
本願発明者は、本実施の形態に基づくデジタルホログラフィの再生処理の計算機によるシミュレーションを行った。また、従来のデジタルホログラフィの再生処理のシミュレーション結果との比較も行った。以下に、そのシミュレーション結果について説明する。
【0121】
本シミュレーションで用いた被写体の撮像を行う光学系は、図1に示すデジタルホログラフィ装置1である。図3(a)は、被写体の見た目の明暗を表す振幅分布を示す画像である。被写体は底面が正方形の物体であり、被写体には本願発明者の人物像が形成されている。図3(b)は、図3(a)に対応して、被写体の高さ(底面を基準としたCCDカメラ側への奥行き)について、レーザ光の波長を基準とした位相分布によって示す図であり、被写体の高さはレーザ光の1波長分の高さ毎に明暗のグラデーションで示されている。被写体はフレネルレンズの形状をしており、明るい部分が高い(CCDカメラとの距離が短い)ことを示している。被写体の最大高さは、用いるレーザ光の波長λと同じ532nmであり、被写体の底面のサイズ(図3(a)に示す画像の縦横のサイズ)は、2.560[mm]×2.560[mm]である。
【0122】
シミュレーションの条件として、レーザ光源2が発生するレーザ光の波長λは532nm、CCDカメラ3の画素数は512×512ピクセル、CCDカメラ3の画素ピッチは5μm、被写体の底面から撮像面3aの距離(光軸に沿った光路長)は30cm、撮像面3aと撮像面3bとの光路長の差Δzは最適値である+λ/4=133nmとした。撮像面3a・3bに入射する物体光の強度と参照光の強度の比を様々に変えてシミュレーションを行った。なお、従来の再生処理方法を用いる場合も、光路長の差Δzの最適値はλ/4である。
【0123】
なお、式(26)において0次回折光の物体光成分Ao(x,y,z) を求める際に、実際の計算においては式(26)の右辺の平方根の中身が負になる場合がある。この場合、コンピュータで数値計算を行うために例外処理として平方根の中身を0に置き換えて計算を行っている。
【0124】
図4(a)〜(f)は、被写体の再生像に関して、本実施の形態に基づくシミュレーション結果と、背景技術の欄に記載した従来の再生処理方法よるシミュレーション結果とを対比して示す画像である。図4(a)は、物体光と参照光の強度比が1:4(すなわち振幅の比は1:2)である場合の、従来の再生処理方法を用いて生成した再生像(振幅分布)であり、図4(b)は、物体光と参照光の強度比が1:4である場合の、本発明の再生処理方法を用いて生成した再生像である。図4(c)は、物体光と参照光の強度比が1:49(すなわち振幅の比は1:7)である場合の、従来の再生処理方法を用いて生成した再生像であり、図4(d)は、物体光と参照光の強度比が1:49である場合の、本発明の再生処理方法を用いて生成した再生像である。図4(e)は、物体光と参照光の強度比が1:100(すなわち振幅の比は1:10)である場合の、従来の再生処理方法を用いて生成した再生像であり、図4(f)は、物体光と参照光の強度比が1:100である場合の、本発明の再生処理方法を用いて生成した再生像である。なお、強度比については、撮像面上の物体光の強度の最大値を用いて、参照光の強度と比較して求めている。
【0125】
図4(a)に示すように、従来の再生処理方法を用いた場合、物体光の強度が参照光の強度に比べて十分小さくない場合(物体光と参照光の強度比が1:4の場合)、直接像成分以外の不要な成分を含んだ不鮮明な再生像が生成される。図4(c)、図4(e)に示すように、物体光と参照光の強度比を大きくすると、従来の再生処理方法を用いて比較的鮮明な再生像を生成することができるが、図3(a)に示す被写体と比較すると、未だ不要な成分が再生像に残留していることが分かる。また、実際は干渉パターンの撮像において受ける暗電流およびノイズの影響が大きくなるため、実用的ではない。
【0126】
一方、図4(b)に示すように、本発明の再生処理方法を用いた場合、物体光の強度が参照光の強度に比べて十分小さくない場合(物体光と参照光の強度比が1:4の場合)においても、不要な成分を含まない鮮明な再生像を生成することができた。
【0127】
図5(a)〜(f)は、被写体の3次元形状計測に関して、本実施の形態に基づくシミュレーション結果と、背景技術の欄に記載した従来の再生処理方法よるシミュレーション結果とを対比して示す図である。図5(a)は、物体光と参照光の強度比が1:4(すなわち振幅の比は1:2)である場合の、従来の再生処理方法を用いて生成した被写体の位相分布であり、図5(b)は、物体光と参照光の強度比が1:4である場合の、本発明の再生処理方法を用いて生成した被写体の位相分布である。ここで、位相分布とは、再生した被写体の高さをレーザ光の波長λを単位とした位相によって表すものであり、再生した被写体の高さはレーザ光の1波長分の高さ毎に明暗のグラデーションで示されている。図5(c)は、物体光と参照光の強度比が1:49(すなわち振幅の比は1:7)である場合の、従来の再生処理方法を用いて生成した被写体の位相分布であり、図5(d)は、物体光と参照光の強度比が1:49である場合の、本発明の再生処理方法を用いて生成した被写体の位相分布である。図5(e)は、物体光と参照光の強度比が1:100(すなわち振幅の比は1:10)である場合の、従来の再生処理方法を用いて生成した被写体の位相分布であり、図5(f)は、物体光と参照光の強度比が1:100である場合の、本発明の再生処理方法を用いて生成した被写体の位相分布である。
【0128】
図5(a)に示すように、従来の再生処理方法を用いた場合、物体光の強度が参照光の強度に比べて十分小さくない場合(物体光と参照光の強度比が1:4の場合)、被写体の精確な位相分布を生成できない。図5(c)、図5(e)に示すように、物体光と参照光の強度比を大きくすると、従来の再生処理方法を用いて生成した位相分布は徐々に精確になるが、未だ不十分である。また、実際は干渉パターンの撮像において受ける暗電流およびノイズの影響が大きくなるため、実用的ではない。
【0129】
一方、図5(b)に示すように、本発明の再生処理方法を用いた場合、物体光の強度が参照光の強度に比べて十分小さくない場合(物体光と参照光の強度比が1:4の場合)においても、従来の再生処理方法では得られなかった被写体の精確な位相分布を生成することができた。
【0130】
次に、シミュレーション結果を定量的に評価するために、本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果について、平均二乗平方根誤差(RMSE:Root Mean Square Error)を計算した。RMSEは、原画像と評価画像との差の二乗誤差であり、RMSEの値が小さいほど、評価画像が原画像に近い画像であることを示す。RMSEは、次式で与えられる。
【0131】
【数34】
【0132】
ここで、画像の横および縦方向の画素数をそれぞれNおよびMとする。原画像におけるi行目j列目の画素における画素値をXi,j とし、評価画像におけるi行目j列目の画素における画素値をYi,jとする。RMSEの計算においては、被写体の画像を原画像、各方法による再生像を評価画像として計算を行った。
【0133】
図6は、逐次光路長シフト法を用いた本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果について、RMSEを計算した結果を示す表である。物体光と参照光の強度比を1:1から1:100まで変化させ(すなわち物体光の振幅を1とした場合の参照光の振幅arを1から10まで変化させ)、それぞれの場合について、本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法で生成した再生像の振幅分布(明暗を示す画素値)および位相分布についてRMSEの値を計算した。なお、振幅分布の各画素値は、255で規格化されており、0から255の値を有する。位相分布の各画素値は、レーザ光の波長λに関連して2πで規格化されており、0から2πの値を有する。
【0134】
図7は、逐次光路長シフト法を用いた本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果について、物体光と参照光の振幅比(物体光の振幅を1とした場合の参照光の振幅ar)を横軸にとり、再生像の振幅分布のRMSEをプロットしたグラフである。
【0135】
図8は、逐次光路長シフト法を用いた本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果について、物体光と参照光の振幅比(物体光の振幅を1とした場合の参照光の振幅ar)を横軸にとり、再生像の位相分布のRMSEをプロットしたグラフである。
【0136】
図7、8からも分かるように、本発明の再生処理方法は高精度の再生像を生成することができる。物体光と参照光の強度比がいずれの場合であっても、本発明の再生処理方法は、従来の再生処理方法より精確な再生像を生成しており、より優れた再生処理方法である。また、本発明の再生処理方法を用いることにより、従来と比較して、物体光と参照光の強度比が1:4の場合では、振幅のRMSEの値が約1/25になり、物体光と参照光の強度比が1:9以上の場合では、振幅のRMSEの値が約1/5000になった。この結果を考慮すると、物体光と参照光の強度比が1:4以上であれば、本発明の再生処理方法を用いて高精度計測を行うことができることが分かる。
【0137】
なお、被写体の連続的な3次元形状の情報は、得られた位相分布に対して位相接続を行うことにより得ることができる。本実施の形態では精確な位相分布を得ることができるので、そこから、従来では困難であった精確な3次元形状の情報を得ることができる。
【0138】
従来の再生処理方法では、0次回折光の物体光成分を求めることなく「物体光の振幅が参照光の振幅に対して十分に小さい」という条件を用いて0次回折光の物体光成分を無視し、その後、共役像成分を求めて撮像した干渉光から共役像成分を除去することにより物体光の複素振幅分布を求めていた。そのため、従来の再生処理方法では、再生像に不要な0次回折光成分および共役像成分が残留することが避けられなかった。
【0139】
これに対して、本発明の再生処理方法では、まず共役像成分を除去し、次に「撮像素子の画素ピッチがレーザ光の波長より十分に大きい」という条件を用いて0次回折光の物体光成分を求めて、撮像した干渉光から0次回折光の物体光成分を除去することにより物体光の複素振幅分布を求める。これにより、干渉光の撮像条件を改善(物体光の強度を大きくしてホログラフィの測定を行うことができる)し、かつ、高精度の再生像を生成することを可能とする。
【0140】
以上のシミュレーションは光路長の差Δzが最適値のλ/4(=133nm)の条件で行った。以下では、光路長の差Δzを0.05λから0.95λまで変化させた場合についてシミュレーションを行い、再生像の振幅分布および位相分布のRMSEを計算したものについて説明する。なお、物体光と参照光の振幅比は1:3(強度比は1:9)としてシミュレーションを行った。
【0141】
図9は、逐次光路長シフト法を用いた本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果について、光路長の差Δzを横軸にとり、再生像の振幅分布のRMSEをプロットしたグラフである。横軸は0.05λ[nm]刻みでRMSEの計算結果をプロットしている。なお、Δz=λ/2の場合については、光路長シフト法を適用することが妥当ではないので、シミュレーションを行っていない。
【0142】
図10は、逐次光路長シフト法を用いた本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果について、光路長の差Δzを横軸にとり、再生像の位相分布のRMSEをプロットしたグラフである。横軸は0.05λ[nm]刻みでRMSEの計算結果をプロットしている。なお、Δz=λ/2の場合については、光路長シフト法を適用することが妥当ではないので、シミュレーションを行っていない。
【0143】
図9、10からも分かるように、光路長の差Δzがいずれの場合であっても、本発明の再生処理方法は、従来の再生処理方法より精確な再生像を生成しており、より優れた再生処理方法である。また、本発明の再生処理方法では、光路長の差Δzが約30nmから約160nm、および約400nmから約500nmの間において、高精度計測を行うことができた(なお、λ=532nm)。よって、本発明の再生処理方法では、2つの撮像面の光路長の差Δzが最適値からある程度ずれていても高精度計測を行うことができる。すなわち、本発明の再生処理方法では、2つの撮像面の位置決めを厳密に行う必要がなく、デジタルホログラフィ装置をより簡単に構成することができる。
【0144】
[実施の形態2]
本実施の形態では、並列光路長シフト法によるデジタルホログラフィ装置について説明する。並列光路長シフト法は、1つのCCDカメラで1回撮像することにより被写体8からの距離(光路長)が異なる2つの干渉パターンを得る方法である。尚、説明の便宜上、実施の形態1にて説明した図面と同じ機能を有する部材・構成については、同じ符号を付記し、その詳細な説明を省略する。
【0145】
<デジタルホログラフィ装置の構成>
図11は、並列光路長シフト法を用いたデジタルホログラフィ装置の構成を示す模式図である。デジタルホログラフィ装置13は、レーザ光源2を含む光学系と、CCDカメラ(撮像素子)14と、コンピュータ4とを備える。CCDカメラ14は、干渉パターンを撮像する撮像面14aを有する。また、CCDカメラ14は、撮像面14aの前に設置された光路長シフトアレイ素子15を備える。
【0146】
レーザ光源2から出射されたレーザ光は、ビームエキスパンダ5およびコリメータレンズ6を通過することにより平行光となる。それから、レーザ光はビームスプリッタ7によって参照光と物体光とに分割される。物体光は被写体8に照射される。被写体8によって反射(散乱)された物体光は、ビームスプリッタ7を通過し、光路長シフトアレイ素子15を通過してCCDカメラ14の撮像面14aに到達する。一方、参照光は、ミラー9およびビームスプリッタ7によって反射され、光路長シフトアレイ素子15を通過してCCDカメラ14の撮像面14aに到達する。CCDカメラ14は、撮像面14aに到達した物体光と参照光とが作る干渉パターンを撮像し、干渉パターンのデータをコンピュータ4に出力する。入力された干渉パターンに対して、コンピュータ4が計算処理を施すことにより、被写体8の再生像が得られる。
【0147】
図12(a)は、光路長シフトアレイ素子の一部と撮像面14aの一部とを示す斜視図である。撮像面14a上の各画素に対応して、光路長シフトアレイ素子15は、アレイ状に交互に配列した光路長シフト領域15a・15bを有する。光路長シフト領域15a・15bは通過したレーザ光の光路長を互いに異ならせる。光路長シフトアレイ素子15は、例えばガラスで形成し、光路長シフト領域15a・15b毎にガラスの厚みを変えることで構成できる。各光路長シフト領域15a・15bを通過した物体光および参照光は、隣接する撮像面14aのそれぞれが対応する各画素に入射する。
【0148】
図12(b)は、撮像面側から見た光路長シフトアレイ素子の一部を示す模式図である。光路長シフト領域15a・15bが、市松模様に配列している。本実施の形態では、光路長シフト領域15bを通過したレーザ光は、光路長シフト領域15aを通過したレーザ光に対してΔzだけ光路長が長くなる。
【0149】
図13は、並列光路長シフト法を用いたデジタルホログラフィ装置における再生像の生成のアルゴリズムを説明するための図である。コンピュータ4(図11参照)は、CCDカメラ14から、撮像面14aで撮像された干渉パターン16のデータを取得する。図13には、取得した干渉パターンの一部だけを示す。
【0150】
干渉パターン16の格子は各画素を示し、画素16aは光路長シフト領域15a(図12(a)参照)を通過した物体光と参照光との干渉光(光路長シフト量=0)を示す画素値を有し、画素16bは光路長シフト領域15bを通過した物体光と参照光との干渉光(光路長シフト量=Δz)を示す画素値を有する。被写体から画素15aまでの光軸に沿った光学的な距離をzとし、被写体から画素15bまでの光軸に沿った光学的な距離をz+Δzとする。ここで、光学的な距離とは光路長シフトアレイ素子15(図11参照)等の屈折率を考慮してレーザ光の波長に換算した距離(光路長)を意味する。
【0151】
コンピュータ4は、干渉パターン16から画素16a・16bのそれぞれを抽出することにより、画素16aだけを抽出した干渉パターン17a(光路長シフト量=0)と、画素16bだけを抽出した干渉パターン17b(光路長シフト量=Δz)とを生成する。
【0152】
次にコンピュータ4は、光路長シフト量が0である干渉パターン17a、および光路長シフト量がΔzである干渉パターン17bの欠落している画素の画素値を補間し、された光路長シフト量が0である補間された干渉パターン18a、および、光路長シフト量がΔzである補間された干渉パターン18bを得る。これにより、1つのCCDカメラを用いて、1回の撮像により光路長の異なる2つの干渉パターン18a・18bを得ることができる。この後の再生像(振幅分布および位相分布)の計算は、実施の形態1で説明した再生処理方法を適用して行うことができる。なお、画素値の補間は線形補間等を用いて補間することができるが、これに限らない。
【0153】
本実施の形態によれば、再生像の生成に必要な2つの干渉パターンを1回の撮像で得ることができるので、光路長の異なる2つの干渉パターン18a・18bから求められる物体光の複素振幅分布を用いて、例えば動的に変化している被写体20の3次元情報を得ることができる。そのため、本実施の形態のデジタルホログラフィ装置は、被写体の振動にも強い。
【0154】
<シミュレーション結果>
以下に、本実施の形態に基づくデジタルホログラフィの再生処理の計算機によるシミュレーション結果と、従来のデジタルホログラフィの再生処理のシミュレーション結果との比較について説明する。
【0155】
本シミュレーションで用いた被写体の撮像を行う光学系は、図11に示すデジタルホログラフィ装置13である。被写体は実施の形態1のシミュレーションで用いた図3(a)、図3(b)に示すものを用いた。
【0156】
シミュレーションの条件は実施の形態1と同じであり、レーザ光源2が発生するレーザ光の波長λは532nm、CCDカメラ3の画素数は512×512ピクセル、CCDカメラ3の画素ピッチは5μm、被写体の底面から撮像面14aの距離(光軸に沿った光路長)は30cm、光路長シフトアレイ素子15による光路長シフト領域15a・15bの光路長の差Δzは最適値である+λ/4=133nmとした。撮像面14aに入射する物体光の強度と参照光の強度の比を様々に変えてシミュレーションを行った。
【0157】
図14(a)〜(f)は、被写体の再生像に関して、本実施の形態に基づくシミュレーション結果と、背景技術の欄に記載した従来の再生処理方法よるシミュレーション結果とを対比して示す画像である。図14(a)は、物体光と参照光の強度比が1:4(すなわち振幅の比は1:2)である場合の、従来の再生処理方法を用いて生成した再生像(振幅分布)であり、図14(b)は、物体光と参照光の強度比が1:4である場合の、本発明の再生処理方法を用いて生成した再生像である。図14(c)は、物体光と参照光の強度比が1:49(すなわち振幅の比は1:7)である場合の、従来の再生処理方法を用いて生成した再生像であり、図14(d)は、物体光と参照光の強度比が1:49である場合の、本発明の再生処理方法を用いて生成した再生像である。図14(e)は、物体光と参照光の強度比が1:100(すなわち振幅の比は1:10)である場合の、従来の再生処理方法を用いて生成した再生像であり、図14(f)は、物体光と参照光の強度比が1:100である場合の、本発明の再生処理方法を用いて生成した再生像である。
【0158】
図14(a)に示すように、従来の再生処理方法を用いた場合、物体光の強度が参照光の強度に比べて十分小さくない場合(物体光と参照光の強度比が1:4の場合)、直接像成分以外の不要な成分を含んだ不鮮明な再生像が生成される。図14(c)、図14(e)に示すように、物体光と参照光の強度比を大きくすると、従来の再生処理方法を用いて比較的鮮明な再生像を生成することができるが、図3(a)に示す被写体と比較すると、未だ不要な成分が再生像に残留していることが分かる。また、実際は干渉パターンの撮像において受ける暗電流およびノイズの影響が大きくなるため、実用的ではない。
【0159】
一方、図14(b)に示すように、本発明の再生処理方法を用いた場合、実施の形態1と同様に、物体光の強度が参照光の強度に比べて十分小さくない場合(物体光と参照光の強度比が1:4の場合)においても、不要な成分を含まない鮮明な再生像を生成することができた。
【0160】
図15(a)〜(f)は、被写体の3次元形状計測に関して、本実施の形態に基づくシミュレーション結果と、背景技術の欄に記載した従来の再生処理方法よるシミュレーション結果とを対比して示す図である。図15(a)は、物体光と参照光の強度比が1:4(すなわち振幅の比は1:2)である場合の、従来の再生処理方法を用いて生成した被写体の位相分布であり、図15(b)は、物体光と参照光の強度比が1:4である場合の、本発明の再生処理方法を用いて生成した被写体の位相分布である。図15(c)は、物体光と参照光の強度比が1:49(すなわち振幅の比は1:7)である場合の、従来の再生処理方法を用いて生成した被写体の位相分布であり、図15(d)は、物体光と参照光の強度比が1:49である場合の、本発明の再生処理方法を用いて生成した被写体の位相分布である。図15(e)は、物体光と参照光の強度比が1:100(すなわち振幅の比は1:10)である場合の、従来の再生処理方法を用いて生成した被写体の位相分布であり、図15(f)は、物体光と参照光の強度比が1:100である場合の、本発明の再生処理方法を用いて生成した被写体の位相分布である。
【0161】
図15(a)に示すように、従来の再生処理方法を用いた場合、物体光の強度が参照光の強度に比べて十分小さくない場合(物体光と参照光の強度比が1:4の場合)、被写体の精確な位相分布を生成できない。図15(c)、図15(e)に示すように、物体光と参照光の強度比を大きくすると、従来の再生処理方法を用いて生成した位相分布は徐々に精確になるが、未だ不十分である。また、実際は干渉パターンの撮像において受ける暗電流およびノイズの影響が大きくなるため、実用的ではない。
【0162】
一方、図15(b)に示すように、本発明の再生処理方法を用いた場合、実施の形態1と同様に、物体光の強度が参照光の強度に比べて十分小さくない場合(物体光と参照光の強度比が1:4の場合)においても、従来の再生処理方法では得られなかった被写体の精確な位相分布を生成することができた。
【0163】
図16は、並列光路長シフト法を用いた本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果について、RMSEを計算した結果を示す表である。物体光と参照光の強度比を1:1から1:100まで変化させ(すなわち物体光と参照光の振幅比を1:1から1:10まで変化させ)、それぞれの場合について、本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法で生成した再生像の振幅分布(明暗を示す画素値)および位相分布についてRMSEの値を計算した。なお、振幅分布の各画素値は、255で規格化されており、0から255の値を有する。位相分布の各画素値は、レーザ光の波長λに関連して2πで規格化されており、0から2πの値を有する。
【0164】
図17は、逐次光路長シフト法を用いた本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果、および、並列光路長シフト法を用いた本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果について、物体光と参照光の振幅比を横軸にとり、再生像の振幅分布のRMSEを棒グラフである。
【0165】
図18は、逐次光路長シフト法を用いた本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果、および、並列光路長シフト法を用いた本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果について、物体光と参照光の振幅比を横軸にとり、再生像の位相分布のRMSEを棒グラフである。
【0166】
図17、18からも分かるように、本発明の再生処理方法は、逐次光路長シフト法の場合と同様に、並列光路長シフト法においても高精度の再生像を生成することができる。物体光と参照光の強度比がいずれの場合であっても、本発明の再生処理方法は、従来の再生処理方法より精確な再生像を生成しており、並列光路長シフト法においても適用できる優れた再生処理方法である。この結果を考慮すると、物体光と参照光の強度比が1:4以上であれば、並列光路長シフト法のデジタルホログラフィにおいて本発明の再生処理方法を用いて高精度計測を行うことができることが分かる。なお、並列光路長シフト法に本発明の再生処理方法を適用したシミュレーション結果が、逐次光路長シフト法に本発明の再生処理方法を適用したシミュレーション結果に比べて劣っているのは、並列光路長シフト法において行った2つの干渉パターンの補間処理によって生じる誤差が原因である。
【0167】
本実施の形態によれば、1回の撮像で得られる情報から被写体の高精度な3次元形状計測を行うことができる。そのため、従来では困難であった高精度な瞬時3次元動画像計測が可能になる。本実施の形態による方法は、他の従来の瞬時3次元動画像計測法より簡素かつコンパクトなデジタルホログラフィ装置によって実現することができる。
【0168】
これにより、デジタルホログラフィを利用した高精度な生体(細胞)の観察・計測のための生体顕微鏡、部品・製品の工業検査装置、人体の形状計測装置・運動解析装置、および、粒子・流体の分布・形状・大きさ・密度の計測装置等を実現することが可能になる。例えば、これらは創薬における研究・検査・製造に利用することができる。そのため、本発明の技術は、種々の製造分野およびバイオテクノロジー分野の技術進歩に寄与するものである。
【0169】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0170】
最後に、コンピュータ4の各ブロックは、ハードウェアロジックによって構成してもよいし、次のようにCPU(central processing unit)を用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0171】
すなわち、コンピュータ4は、各機能を実現する制御プログラムの命令を実行するCPU、上記プログラムを格納したROM(read only memory)、上記プログラムを展開するRAM(random access memory)、上記プログラムおよび各種データを格納するメモリ等の記憶装置(記録媒体)などを備えている。そして、本発明の目的は、上述した機能を実現するソフトウェアである上記コンピュータ4の制御プログラムのプログラムコード(実行形式プログラム、中間コードプログラム、ソースプログラム)をコンピュータで読み取り可能に記録した記録媒体を、上記コンピュータ4に供給し、そのコンピュータ(またはCPUやMPU(microprocessor unit))が記録媒体に記録されているプログラムコードを読み出し実行することによっても、達成可能である。
【0172】
上記記録媒体としては、例えば、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フロッピー(登録商標)ディスク/ハードディスク等の磁気ディスクやCD−ROM(compact disc read-only memory)/MO(magneto-optical)/MD(Mini Disc)/DVD(digital versatile disk)/CD−R(CD Recordable)等の光ディスクを含むディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系、あるいはマスクROM/EPROM(erasable programmable read-only memory)/EEPROM(electrically erasable and programmable read-only memory)/フラッシュROM等の半導体メモリ系などを用いることができる。
【0173】
また、コンピュータ4を通信ネットワークと接続可能に構成し、上記プログラムコードを通信ネットワークを介して供給してもよい。この通信ネットワークとしては、特に限定されず、例えば、インターネット、イントラネット、エキストラネット、LAN(local area network)、ISDN(integrated services digital network)、VAN(value-added network)、CATV(community antenna television)通信網、仮想専用網(virtual private network)、電話回線網、移動体通信網、衛星通信網等が利用可能である。また、通信ネットワークを構成する伝送媒体としては、特に限定されず、例えば、IEEE(institute of electrical and electronic engineers)1394、USB、電力線搬送、ケーブルTV回線、電話線、ADSL(asynchronous digital subscriber loop)回線等の有線でも、IrDA(infrared data association)やリモコンのような赤外線、Bluetooth(登録商標)、802.11無線、HDR(high data rate)、携帯電話網、衛星回線、地上波デジタル網等の無線でも利用可能である。なお、本発明は、上記プログラムコードが電子的な伝送で具現化された、搬送波に埋め込まれたコンピュータデータ信号の形態でも実現され得る。
【産業上の利用可能性】
【0174】
本発明は、デジタルホログラフィ再生装置、生体顕微鏡、工業顕微鏡、運動解析装置、製品検査装置、形状計測装置、または粒子・流体計測装置等にも利用することができる。
【符号の説明】
【0175】
1、13 デジタルホログラフィ装置(干渉計測装置)
2 レーザ光源(光源)
3、14 CCDカメラ(撮像素子)
3a、3b、14a 撮像面
4 コンピュータ(再生装置)
5 ビームエキスパンダ
6 コリメータレンズ
7 ビームスプリッタ(光分割素子)
8 被写体
9 ミラー
10 データ入力部(取得部)
11 物体光算出部(第1処理部)
12 回折処理部(第2処理部)
15 光路長シフトアレイ素子
15a、15b 光路長シフト領域
16、17a、17b、18a、18b 干渉パターン
16a、16b 画素
【技術分野】
【0001】
本発明は、参照光と物体光との干渉像を測定して得られた測定結果から被写体の像を再生する再生装置、該再生装置を備える干渉計測装置、制御プログラム、および記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
以後の文章中で位相の単位はラジアンで表す。加工技術の精密化や多様化に伴い、物体の3次元形状等の高度な計測や解析が求められ、様々な測定法が開発されている。該測定法のうち、光の干渉を利用した干渉計測技術、特にデジタルホログラフィは、非接触かつ非破壊で、物体の3次元情報を得ることができるため、近年、注目を集めている測定法の一つとなっている。
【0003】
デジタルホログラフィは、3次元物体への光照射によって得られる干渉パターン(干渉光が形成する干渉縞)から、コンピュータを用いて3次元物体の像を再生する技術である。具体的には例えば、3次元物体への光照射によって得られる物体光と、該物体光に対して可干渉(コヒーレント)である参照光とが作る干渉パターンを、CCD(charge coupled device)等の撮像素子を用いて記録する。記録された干渉パターンに基づいて、コンピュータで3次元物体の像を再生する。これにより、物体の3次元の像再生だけでなく、3次元形状測定も行うことができる。
【0004】
図19は、従来のデジタルホログラフィ装置の構成の一例を示す模式図である。デジタルホログラフィ装置101は、レーザ光源102を含む光学系と、CCDカメラ103と、コンピュータ104とを備える。レーザ光源102から出射されたレーザ光は、ビームエキスパンダ105およびコリメータレンズ106を通過することにより平行光となる。それから、レーザ光はビームスプリッタ107によって参照光と物体光とに分割される。物体光は被写体108に照射される。被写体108によって反射された物体光は、ビームスプリッタ107を通過しCCDカメラ103の撮像面103aに到達する。一方、参照光は、ミラー109およびビームスプリッタ107によって反射され、CCDカメラ103の撮像面103aに到達する。CCDカメラ103は、撮像面103aに到達した物体光と参照光とが作る干渉パターンを撮像し、干渉パターンのデータをコンピュータ104に出力する。入力された干渉パターンに対して、コンピュータ104がフレネル変換する等の計算処理を施すことにより、被写体108の再生像が得られる。
【0005】
上記のデジタルホログラフィ装置101は、インライン(in-line)型のデジタルホログラフィ装置であり、CCDカメラ103の撮像面3aに対して参照光がほぼ垂直に入射する。すなわち、CCDカメラ103の撮像面3aには、参照光と物体光とがほぼ同じ方向から入射する。そのため、干渉パターンをフレネル変換して得られる再生像は、0次回折像および±1次回折像(直接像および共役像)が重なったものとなり、被写体108の鮮明な再生像を得ることが困難となっている。
【0006】
そこで、1次回折像(直接像、すなわち真の像)を分離して高精度な再生像を得るために、被写体と撮像面との距離が異なる複数の干渉パターンを撮像し、この複数の干渉パターンから所望の再生像を得る技術がある(非特許文献1)。以後、この技術を光路長シフト法と呼ぶ。以下に光路長シフト法を用いたデジタルホログラフィについて説明する。
【0007】
図20は、従来の光路長シフト法を用いたデジタルホログラフィ装置の構成を示す模式図である。デジタルホログラフィ装置111は、レーザ光源102を含む光学系と、CCDカメラ112と、コンピュータ113とを備える。光路長シフト法を用いるために、CCDカメラ112は、撮像面112aと、撮像面112aからΔz離れた撮像面112bとにおいて干渉パターンを撮像する。被写体108からの距離(光路長)が異なる2つの干渉パターンは、例えばCCDカメラ112を移動させることにより2回に分けて逐次撮像してもよい。
【0008】
レーザ光源102から出射されたレーザ光は、ビームエキスパンダ105およびコリメータレンズ106を通過することにより平行光となる。それから、レーザ光はビームスプリッタ107によって参照光と物体光とに分割される。物体光は被写体108に照射される。被写体108によって反射された物体光は、ビームスプリッタ107を通過しCCDカメラ112の撮像面112a・112bに到達する。一方、参照光は、ミラー109およびビームスプリッタ107によって反射され、CCDカメラ112の撮像面112a・112bに到達する。CCDカメラ112は、撮像面112a・112bに到達した物体光と参照光とが作る干渉パターンをそれぞれ撮像し、干渉パターンのデータをコンピュータ113に出力する。入力された干渉パターンに対して、コンピュータ113が計算処理を施すことにより、被写体108の再生像が得られる。なお、撮像面112a・112bに入射する物体光の振幅は参照光の振幅よりも十分に小さくなるようにする。
【0009】
<従来の再生像の計算方法>
以下に、光路長シフト法による直接像を再生する計算方法の概要を説明する。ここで、撮像面に垂直な軸をZ軸、撮像面に平行な2つの軸をX軸、Y軸とする。被写体108の一点を原点とし、被写体108から撮像面112aまでの光軸に沿った距離をz、被写体108から撮像面112bまでの光軸に沿った距離をz+Δzとする。
【0010】
参照光は平面波であると仮定する。参照光は撮像面112a・112bに対して垂直に入射するので、撮像面112a上での参照光の複素振幅分布はur(z)=Arexp[jφr(z)] とおくことができる。撮像面112a上での物体光の複素振幅分布はuo(x,y,z) とおく。Ar は参照光の振幅、φr(z) は位置zでの参照光の位相である。j は虚数単位を示す。これらから、撮像面112a上での参照光と物体光による干渉光(干渉パターン)の複素振幅分布は次式で与えられる。
【0011】
【数1】
【0012】
また、撮像面112a上で撮像される干渉光の強度I(x,y,z)は、次式で与えられる。
【0013】
【数2】
【0014】
この4つの項のうち、|ur(z)|2 は0次回折光の参照光成分を表し、|uo(x,y,z)|2は0次回折光の物体光成分を表し、ur(z)*uo(x,y,z) は直接像成分(+1次回折光)を含んだ成分を表し、ur(z)uo(x,y,z)*は共役像成分(−1次回折光)を含んだ成分を表している。被写体の像を再生するために必要な成分はuo(x,y,z) の直接像成分であり、以下ではこれを求める。なお、|ur(z)|2、|uo(x,y,z)|2 の0次回折光成分およびur(z)uo(x,y,z)*の共役像成分を含んだ成分は不要であり、式(2)からこれらの不要な成分を除去しなければ鮮明な再生像が得られない。なお、干渉光の強度I(x,y,z)は、各撮像面で干渉パターンを撮像することで測定することができる値であり、参照光の振幅の2乗|Ar|2は、物体光なしで参照光のみを撮像面112a・112bのいずれかにおいて撮像することにより測定することができる値である。
【0015】
ここで、撮像面112a上での参照光の位相φr(z)=0とすると、式(1)は以下のようになる。
【0016】
【数3】
【0017】
ここで、物体光の振幅が参照光の振幅に対して十分に小さいとき、すなわちuo(x,y,z)≪Ar のとき、式(3)はテイラー展開の2次以上の項を無視することにより、以下のように近似することができる。
【0018】
【数4】
【0019】
よって、式(2)の干渉光の強度I(x,y,z) は、以下のようになる。
【0020】
【数5】
【0021】
uo(x,y,z) は直接像成分、uo(x,y,z)*は共役像成分である。式(3)から式(4)への近似により、0次回折光の物体光成分|uo(x,y,z)|2 の項を無視して除去していることになる。
【0022】
また、同様に、被写体から距離z+Δz離れた撮像面112b上での干渉光の強度I(x,y,z+Δz) は、以下のようになる。
【0023】
【数6】
【0024】
式(5)を変形して次式が得られる。
【0025】
【数7】
【0026】
式(7)の左辺は測定可能な値であるので、これにより、直接像成分の項と共役像成分の項の和が求まる。ここから共役像成分の項を除去して直接像成分の項を求める。
【0027】
ここで、式(7)の両辺をXY平面に関してフーリエ変換すると次式が得られる。
【0028】
【数8】
【0029】
ここで、H(fx,fy,z) は光学伝達関数である。また、距離z+Δz離れた撮像面112b上での干渉光の強度I(x,y,z+Δz) からも、同様にフーリエ変換することにより、次式が得られる。
【0030】
【数9】
【0031】
次に、式(9)の両辺に光学伝達関数H(fx,fy,Δz) をかけると次式が得られる。
【0032】
【数10】
【0033】
式(8)から(10)を減算して共役像成分に関する項を除去することができ、式を整理することにより、次式が得られる。
【0034】
【数11】
【0035】
式(11)の右辺は測定値から計算可能である。求まったU(fx,fy,0) から、逆フーリエ変換を用いて、被写体がある位置での物体光の複素振幅分布uo(x,y,0) を求めることができ、物体の直接像を再生することができる。
【0036】
また、非特許文献2には、上記の方法を応用し、アレイ状の素子を用いることにより、1つの撮像面での1回の撮像によって、被写体までの距離が異なる2つの干渉パターンを得る光路長シフト法を用いたデジタルホログラフィ装置が開示されている。この技術を並列光路長シフト法と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0037】
【特許文献1】特開2005−283683号公報(2005年10月13日公開)
【非特許文献】
【0038】
【非特許文献1】Yan Zhang, et. al.、「Reconstruction of in-line digital holograms from two intensity measurements」、OPTICS LETTERS、1 August 2004、Vol.29、No.15、pp.1787-1789
【非特許文献2】Yasuhiro AWATSUJI, et. al.、「Single-Shot In-Line Digital Holography Recording Two Fringe Images Generated at Two Different Planes」、International Topical Meeting on Information Photonics (IP2008) Technical Digest、62(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0039】
しかしながら、上記従来の構成では、以下の問題が生じる。上記従来の計算方法は、式(3)から(4)へ近似する際に、「物体光の振幅が参照光の振幅に対して十分に小さい」という条件を用いている。そのため、物体光が参照光に対して十分に小さくない場合、上記近似が成立せず、得られる直接像の再生像は不鮮明なものとなり、高精度な3次元形状計測を行うことができない。一方で物体光の振幅を参照光の振幅に対して小さくすると、干渉パターンのコントラストが低下し、高精度計測ができなくなる。また、物体光の振幅を小さくすると、CCDカメラに流れる暗電流およびノイズの影響を受けやすくなり、高精度計測ができなくなる。
【0040】
また、光路長シフト法とは別に、参照光の位相を複数段階にシフトさせ、得られた複数の干渉パターンから所望の再生像を得る位相シフト法という技術がある(特許文献1)。位相シフト法によるデジタルホログラフィ装置は、参照光のみの位相を変化させる必要があるため、光路長シフト法によるデジタルホログラフィ装置よりも構成が複雑になる。
【0041】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、光路長シフト法を用いたデジタルホログラフィにおいて、高精度計測を行うことができるデジタルホログラフィ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0042】
本発明に係る再生装置は、被写体からの物体光と物体光に対してコヒーレントな参照光とが干渉して形成される干渉パターンを示すデータから、物体光の複素振幅分布を求める再生装置であって、上記の課題を解決するために、上記被写体からの光路長が異なる2つの干渉パターンを示すデータを取得する取得部と、上記2つの干渉パターンのデータを用いて、0次回折光の物体光成分を求め、上記0次回折光の物体光成分を用いて物体光の複素振幅分布を求める第1処理部とを備えることを特徴としている。
【0043】
上記の構成によれば、被写体からの光路長が異なる2つの干渉パターンを用いて再生像を得る光路長シフトデジタルホログラフィにおいて、0次回折光の物体光成分を求めることができる。そして、0次回折光の物体光成分を用いて物体光の複素振幅分布を求めることにより、上記2つの干渉パターンから0次回折光の物体光成分の影響を除去した高精度の物体光の複素振幅分布を得ることができる。
【0044】
よって、その後、得られた物体光の複素振幅分布に対して回折計算処理等を行うことにより、高精度の再生像を得ることができる。そのため、被写体の3次元形状を高精度で計測でき、被写体の明暗を示す鮮明な画像を得ることができる。
【0045】
また、上記物体光の複素振幅分布を用いて上記被写体の再生像を求める第2処理部をさらに備えてもよい。
【0046】
上記の構成によれば、高精度の物体光の複素振幅分布を用いて、高精度の再生像を得ることができる。
【0047】
また、上記取得部は、参照光の強度を示すデータ、および、参照光の波長と2つの干渉パターンの上記被写体からの光路長の差との比を示すデータを受け取り、上記第1処理部は、上記2つの干渉パターンのデータ、上記参照光の強度を示すデータ、および、上記参照光の波長と上記光路長の差との比を示すデータとを用いて、上記0次回折光の物体光成分と上記物体光の複素振幅分布とを求めるよう構成してもよい。
【0048】
また、上記第1処理部は、フーリエ空間において上記2つの干渉パターンの差分を求めることにより上記2つの干渉パターンに含まれる共役像成分を除去し、上記2つの干渉パターンの差分から、上記0次回折光の物体光成分を減算することにより上記物体光の複素振幅分布を求めるよう構成してもよい。
【0049】
本発明に係る干渉計測装置は、上記再生装置と、コヒーレントな光を発生する光源と、上記光源から出射される光を参照光および物体光に分割する光分割部と、撮像素子とを備え、上記光分割部で分割された物体光は被写体を介して撮像素子に到達し、上記撮像素子は、参照光と物体光とが干渉して形成される干渉パターンについて、被写体からの光路長が互いに異なる2つの干渉パターンを撮像し、上記2つの干渉パターンを示すデータを上記取得部に出力するよう構成してもよい。
【0050】
上記の構成によれば、参照光と被写体によって散乱された物体光とが干渉して形成される干渉パターンについて、被写体からの光路長が互いに異なる2つの干渉パターンを撮像し、上記2つの干渉パターンを示すデータを得ることができる。再生装置は、上記被写体からの光路長が互いに異なる2つの干渉パターンを示すデータを用いて、高精度の物体光の複素振幅分布を求めることができる。
【0051】
なお、上記再生装置の取得部、第1処理部、および第2処理部は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを上記各部として動作させることにより、上記各部をコンピュータにて実現させる再生装置の制御プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に含まれる。
【発明の効果】
【0052】
本発明に係る再生装置は、被写体からの物体光と物体光に対してコヒーレントな参照光とが干渉して形成される干渉パターンを示すデータから、物体光の複素振幅分布を求める再生装置であって、上記被写体からの光路長が異なる2つの干渉パターンを示すデータを取得する取得部と、上記2つの干渉パターンのデータを用いて、0次回折光の物体光成分を求め、上記0次回折光の物体光成分を用いて物体光の複素振幅分布を求める第1処理部とを備えることを特徴としている。
【0053】
よって、被写体からの光路長が異なる2つの干渉パターンを用いて再生像を得る光路長シフトデジタルホログラフィにおいて、0次回折光の物体光成分を求めることができる。そして、0次回折光の物体光成分を用いて物体光の複素振幅分布を求めることにより、上記2つの干渉パターンから0次回折光の物体光成分の影響を除去した高精度の物体光の複素振幅分布を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】逐次光路長シフト法を用いたデジタルホログラフィ装置の構成を示す模式図である。
【図2】再生像の計算を行うコンピュータの機能ブロックを示すブロック図である。
【図3】(a)は、被写体の見た目の明暗を表す振幅分布を示す画像であり、(b)は、被写体の高さについて、レーザ光の波長を基準とした位相分布によって示す図である。
【図4】(a)〜(f)は、被写体の再生像に関して、本実施の形態に基づくシミュレーション結果と、従来の再生処理方法よるシミュレーション結果とを対比して示す画像である。
【図5】(a)〜(f)は、被写体の3次元形状計測に関して、本実施の形態に基づくシミュレーション結果と、従来の再生処理方法よるシミュレーション結果とを対比して示す図である。
【図6】逐次光路長シフト法を用いた本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果について、RMSEを計算した結果を示す表である。
【図7】逐次光路長シフト法を用いた本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果について、物体光と参照光の振幅比を横軸にとり、再生像の振幅分布のRMSEをプロットしたグラフである。
【図8】逐次光路長シフト法を用いた本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果について、物体光と参照光の振幅比を横軸にとり、再生像の位相分布のRMSEをプロットしたグラフである。
【図9】逐次光路長シフト法を用いた本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果について、光路長の差Δzを横軸にとり、再生像の振幅分布のRMSEをプロットしたグラフである。
【図10】逐次光路長シフト法を用いた本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果について、光路長の差Δzを横軸にとり、再生像の位相分布のRMSEをプロットしたグラフである。
【図11】並列光路長シフト法を用いたデジタルホログラフィ装置の構成を示す模式図である。
【図12】(a)は、光路長シフトアレイ素子の一部と撮像面の一部とを示す斜視図であり、(b)は、撮像面側から見た光路長シフトアレイ素子の一部を示す模式図である。
【図13】並列光路長シフト法を用いたデジタルホログラフィ装置における再生像の生成のアルゴリズムを説明するための図である。
【図14】(a)〜(f)は、被写体の再生像に関して、本実施の形態に基づくシミュレーション結果と、背景技術の欄に記載した従来の再生処理方法よるシミュレーション結果とを対比して示す画像である。
【図15】(a)〜(f)は、被写体の3次元形状計測に関して、本実施の形態に基づくシミュレーション結果と、背景技術の欄に記載した従来の再生処理方法よるシミュレーション結果とを対比して示す図である。
【図16】並列光路長シフト法を用いた本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果について、RMSEを計算した結果を示す表である。
【図17】逐次光路長シフト法を用いた本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果、および、並列光路長シフト法を用いた本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果について、物体光と参照光の振幅比を横軸にとり、再生像の振幅分布のRMSEを棒グラフである。
【図18】逐次光路長シフト法を用いた本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果、および、並列光路長シフト法を用いた本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果について、物体光と参照光の振幅比を横軸にとり、再生像の位相分布のRMSEを棒グラフである。
【図19】従来のデジタルホログラフィ装置の構成の一例を示す模式図である。
【図20】従来の光路長シフト法を用いたデジタルホログラフィ装置の構成の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0056】
[実施の形態1]
本実施の形態では、逐次光路長シフト法によるデジタルホログラフィ装置について説明する。逐次光路長シフト法は、1つのCCDカメラで2回撮像することにより被写体8からの距離(光路長)が異なる2つの干渉パターンを得る、または、2つのCCDカメラを用いて1回撮像することにより被写体8からの距離が異なる2つの干渉パターンを得る方法である。
【0057】
<デジタルホログラフィ装置の構成>
図1は、逐次光路長シフト法を用いたデジタルホログラフィ装置の構成を示す模式図である。デジタルホログラフィ装置1は、レーザ光源(光源)2を含む光学系と、CCDカメラ(撮像素子)3と、コンピュータ(再生装置)4とを備える。光路長シフト法を用いるために、CCDカメラ3は、撮像面3aと、撮像面3aからΔz離れた撮像面3bとにおいて干渉パターンを撮像する。被写体8からの距離(光路長)が異なる2つの干渉パターンは、例えばCCDカメラ3を移動させることにより2回に分けて逐次撮像してもよい。また、ビームスプリッタ7によって参照光と物体光とを結合させた後に、別のビームスプリッタ(図示せず)によって参照光および物体光をそれぞれ2つに分割し、光路長の異なる位置(撮像面)にそれぞれCCDカメラを配置して2つの干渉パターンを撮像してもよい。
【0058】
レーザ光源2から出射されたレーザ光は、ビームエキスパンダ5およびコリメータレンズ6を通過することにより平行光となる。それから、レーザ光はビームスプリッタ(光分割素子)7によって参照光と物体光とに分割される。物体光は被写体8に照射される。被写体8によって反射(散乱)された物体光は、ビームスプリッタ7を通過しCCDカメラ3の撮像面3a・3bに到達する。一方、参照光は、ミラー9およびビームスプリッタ7によって反射され、CCDカメラ3の撮像面3a・3bに到達する。CCDカメラ3は、撮像面3a・3bに到達した物体光と参照光とが作る干渉パターンをそれぞれ撮像し、干渉パターンのデータをコンピュータ4に出力する。入力された干渉パターンに対して、コンピュータ4が計算処理を施すことにより、被写体8の再生像が得られる。
【0059】
なお、再生像を計算する過程において参照光の強度の情報が必要になる。参照光の強度分布は定常的で変化しないため、予め、または被写体8の干渉パターンを撮像した後に、物体光を遮る等して参照光だけを撮像しておく。参照光の強度分布を得る際に被写体8は不要である。
【0060】
また、光学系として、被写体が反射した物体光を撮像する上記構成に替えて、被写体を透過(散乱)した物体光を撮像する構成を採用することもできる。
【0061】
<再生像の計算方法>
以下に、本発明の光路長シフト法による直接像を再生する計算方法を説明する。ここで、撮像面に垂直な軸をZ軸、撮像面に平行な2つの軸をX軸、Y軸とする。被写体8の一点を原点とし、被写体8から撮像面3aまでの光軸に沿った距離をz、被写体8から撮像面3bまでの光軸に沿った距離をz+Δzとする。
【0062】
参照光は平面波であると仮定する。参照光は撮像面3a・3bに対して垂直に入射するので、撮像面3a上での参照光の複素振幅分布はur(z)=Arexp[jφr(z)] とおくことができる。撮像面3a上での物体光の複素振幅分布はuo(x,y,z)=Ao(x,y,z)exp[jφo(x,y,z)] とおく。Ar は参照光の振幅、φr(z) は位置zでの参照光の位相である。Ao(x,y,z) は物体光の振幅、φo(x,y,z) は位置(x,y,z) での物体光の位相である。j は虚数単位を示す。これらから、撮像面3a上での参照光と物体光による干渉光(干渉パターン)の複素振幅分布は次式で与えられる。
【0063】
【数12】
【0064】
ここで、撮像面3a上での参照光の位相を基準にする(φr(z)=0)と、撮像面3a上で撮像される干渉光の強度I(x,y,z)は、次式で与えられる。
【0065】
【数13】
【0066】
この4つの項のうち、|ur(z)|2 は0次回折光の参照光成分を表し、|uo(x,y,z)|2は0次回折光の物体光成分を表し、ur(z)*uo(x,y,z) は直接像成分(+1次回折光)を含んだ成分を表し、ur(z)uo(x,y,z)*は共役像成分(−1次回折光)を含んだ成分を表している。被写体の像を再生するために必要な成分はuo(x,y,z) の直接像成分であり、以下ではこれを求める。なお、|ur(z)|2、|uo(x,y,z)|2 の0次回折光成分およびur(z)uo(x,y,z)*の共役像成分を含んだ成分は不要であり、式(13)からこれらの不要な成分を除去しなければ鮮明な再生像が得られない。なお、干渉光の強度I(x,y,z)は、各撮像面で干渉パターンを撮像することで測定することができる値であり、参照光の振幅の2乗|Ar|2は、物体光なしで参照光のみを撮像面3a・3bのいずれかにおいて撮像することにより測定することができる値である。本発明の計算方法では、2つの干渉パターンから0次回折光成分|uo(x,y,z)|2を求めて、0次回折光成分の影響を除去した直接像成分を求める。
【0067】
次に、式(13)の両辺をXY平面に関してフーリエ変換すると次式が得られる。
【0068】
【数14】
【0069】
ここで、L(fx,fy,z) は撮像面3a上での干渉光の強度I(x,y,z) のフーリエ変換、DC(fx,fy,z) は0次回折光成分(Ar2+Ao2(x,y,z)) のフーリエ変換、U(fx,fy,z) は直接像成分ArAo(x,y,z)exp[jφo(x,y,z)] のフーリエ変換、U*(fx,fy,z) は共役像成分ArAo(x,y,z)exp[−jφo(x,y,z)] のフーリエ変換である。また、距離z+Δz離れた撮像面3b上での干渉光の強度I(x,y,z+Δz) からも、同様にフーリエ変換することにより、次式が得られる。
【0070】
【数15】
【0071】
ここで、H(fx,fy,z) は光学伝達関数である。また、物体光および参照光の強度値が、撮像面3aの画素と光路長がΔz異なる撮像面3bの対応する画素とにおいて略同一であれば、0次回折光成分(Ar2+Ao2(x,y,z)) は光路長Δzの違いでは変化しないとみなすことができる。CCDカメラ3は、物体光に関しては、撮像面3a・3bに対して略垂直に入射する成分を記録する。そのため、Δzの値が小さければ、物体光のみの強度Ao2(x,y,z) の分布は、撮像面3aおよび撮像面3bにおいて略同一であるとみなすことができる。H(fx,fy,z) は次式で与えられる。
【0072】
【数16】
【0073】
λはレーザ光の波長、fx ,fy はそれぞれx、y方向の空間周波数、τx ,τyはそれぞれx、y方向のCCDカメラ3の画素ピッチである。
【0074】
次に式(15)の両辺に光学伝達関数H(fx,fy,Δz) をかけると次式が得られる。
【0075】
【数17】
【0076】
式(14)および式(17)の差をとると、次式のように共役像成分U*(fx,fy,z) を削除することができる。
【0077】
【数18】
【0078】
式(18)を整理すると、次式が得られる。
【0079】
【数19】
【0080】
可視光のレーザ光を用いた場合、その波長λは750nmから380nmである。また通常、CCDカメラ3の画素ピッチは数μmである。そのため、CCDカメラの画素ピッチがレーザ光の波長より十分に大きいという条件(2τx≫λ,2τy≫λ)が成立する。すなわち次式の関係が成立する。
【0081】
【数20】
【0082】
式(20)の関係を用いて近似することにより、式(16)の右辺のfx2 ,fy2 の項を削除することができ、式(16)の光学伝達関数は次のようになる。
【0083】
【数21】
【0084】
なお、上記の近似は、1/λに対して微小である項(fx およびfy )の2次の項を無視する近似である。式(21)を用いると、式(19)の右辺第1項は、実部をα、虚部をβとおくと次のようになる。
【0085】
【数22】
【0086】
すなわち、αは定数、βはΔzおよびλから求められる値である。これにより、式(19)は次のようになる。
【0087】
【数23】
【0088】
式(23)の両辺をXY平面に関して逆フーリエ変換したものをMとおくと、次式が得られる。
【0089】
【数24】
【0090】
ここで、F-1[] は、逆フーリエ変換を表す。Ar は参照光の振幅、Ao(x,y,z) は物体光の振幅、φo(x,y,z) は位置(x,y,z) での物体光の位相である。式(24)の左辺は、撮像面3a(位置z)での干渉光と撮像面3b(位置z+Δz)での干渉光とから共役像成分を除去するように差分をとったものを表している。
【0091】
また、Mの実部Re[M]および虚部Im[M]は次式で表される。
【0092】
【数25】
【0093】
ここで、Ar2 は0次回折光の参照光成分であり、Ao2(x,y,z) は0次回折光の物体光成分である。ArAo(x,y,z)cosφo(x,y,z) およびArAo(x,y,z)sinφo(x,y,z) は直接像成分に関する項である。
【0094】
式(25)と、sin2θ+cos2θ=1の関係より、φo(x,y,z) を削除して次式が得られる。
【0095】
【数26】
【0096】
ここで、式(26)の右辺について、上述したようにAr2 は物体光なしで参照光のみを撮像することで得られる測定値、αおよびβは既知の値である。また、撮像面3a・3bでの干渉光の強度I(x,y,z) 、およびI(x,y,z+Δz) が測定値であり、これらから、L(fx,fy,z) 、およびL(fx,fy,z+Δz) を計算することができる。よって、式(24)の左辺を計算することができ、Re[M] およびIm[M] を計算することができる。得られた測定値から式(26)の右辺を計算することができるので、0次回折光の物体光成分Ao2(x,y,z) を求めることができる。
【0097】
求めた0次回折光の物体光成分Ao2(x,y,z) と参照光成分Ar2 とを用いて、式(25)から次式が得られる。
【0098】
【数27】
【0099】
式(27)の右辺がそれぞれ物体光の複素振幅分布uo(x,y,z)=Ao(x,y,z)exp[jφo(x,y,z)] の実部および虚部にあたる。左辺は測定値から計算可能であるため、これにより、物体光の複素振幅分布を求めることができる。式(27)の左辺は、撮像面3a(位置z)での干渉光と撮像面3b(位置z+Δz)での干渉光とから共役像成分を除去するように差分をとったもの(すなわちM)から、0次回折光の物体光成分Ao2(x,y,z) および参照光成分Ar2 を減算することにより、直接像成分(すなわち物体光の複素振幅分布)が求められることを表している。
【0100】
この後、回折計算により物体光の複素振幅分布(直接像成分)を被写体の位置まで伝播させることで被写体の直接像を再生することができる。以降の回折計算等の処理は周知の技術であるのでここでの説明は省略する。なお、位置(x,y,z) での物体光の複素振幅分布(Ao(x,y,z)cosφo(x,y,z) の値およびAo(x,y,z)sinφo(x,y,z) の値)を求めることと、位置(x,y,z) での物体光の振幅分布としてAo(x,y,z) の値およびφo(x,y,z) の値を求めることは同義であり、いずれからでも被写体の直接像を再生することができる。
【0101】
本実施の形態によれば、物体光の複素振幅分布を求める際に「物体光の振幅が参照光の振幅に対して十分に小さい」という条件を用いて近似を行う必要がない。本実施の形態において行う近似は、「撮像素子の画素ピッチがレーザ光の波長より十分に大きい」という条件において成立し、通常のCCDカメラおよび可視光のレーザ光であれば条件を満たしている。そのため、本実施の形態によれば、物体光の強度を小さくする必要がなく、CCDカメラに流れる暗電流およびノイズの影響を受けずに、高精度計測を行うことができる。
【0102】
なお、式(25)について、あらかじめMから0次回折光の参照光成分Ar2 を減算した結果をM´とすると、M´の実部と虚部は次式で表される。
【0103】
【数28】
【0104】
これを用いて、式(26)は、次式のように書き換えることができる。
【0105】
【数29】
【0106】
このように式変形をすることで、0次回折光の物体光成分Ao2(x,y,z) を求める式を簡素化することができる。なお、式(29)では、式(26)を用いて計算する場合と本質的には同じ計算を行っている。式(29)を用いて、式(27)は次式のように書き換えることができる。
【0107】
【数30】
【0108】
式(30)を用いて、同様に、物体光の複素振幅分布を求めることができる。
【0109】
<再生装置の構成>
図2は、再生像の計算を行うコンピュータの機能ブロックを示すブロック図である。コンピュータ(再生装置)4は、データ入力部(取得部)10、物体光算出部(第1処理部)11、および回折処理部(第2処理部)12を備える。データ入力部10は、CCDカメラ3(図1参照)から物体光と参照光とから形成される2つの干渉パターンI(x,y,z) 、I(x,y,z+Δz) のデータ、および参照光のみの強度Ar2 のデータの入力を受け付ける。また、データ入力部10は、レーザ光の波長λ、および2つの撮像面の距離(光路長の差)Δz等の各種設定値の入力を受け付ける。データ入力部10は、入力された各データおよび設定値を物体光算出部11に出力する。
【0110】
物体光算出部11は、2つの干渉パターンI(x,y,z) 、I(x,y,z+Δz) をそれぞれフーリエ変換し、差分を取って共役像成分を除去する(式(24)に対応)。物体光算出部11は、共役像成分を除去した結果と参照光のみの強度とを用いて、1つの撮像面(3aまたは3b)上の複数の点(各画素)における0次回折光の物体光成分を求める(式(26)に対応)。物体光算出部11は、求めた0次回折光の物体光成分と共役像成分を除去した結果と参照光のみの強度とを用いて、上記の撮像面上の複数の点(各画素)における物体光の複素振幅分布(直接像成分)を求める(式(27)に対応)。物体光算出部11は、求めた物体光の複素振幅分布のデータを回折処理部12に出力する。なお、0次回折光の物体光成分および物体光の複素振幅分布を求める際には、レーザ光の波長λおよび2つの撮像面の距離Δzの代わりに、レーザ光の波長λと2つの撮像面の距離Δzとの比が分かればよい。
【0111】
回折処理部12は、受け取った上記の撮像面上の複数の点(各画素)における物体光の複素振幅分布を用いて回折計算処理を行って被写体の位置まで物体光の複素振幅分布を伝播させ、被写体の位置での物体光の複素振幅分布を求める。なお、回折計算処理はフーリエ空間で行われる。これにより被写体の再生像(3次元形状を示す位置情報および明暗等を示す画像情報)を得ることができる。
【0112】
<光路長シフト量の最適値>
本実施の形態の光路長シフト法においては、被写体と撮像面との光路長が異なる2つの干渉パターンを用いて差分を計算し、共役像成分を除去するが、差分をとる際に所望の直接像成分も除去してしまうおそれがある。本実施の形態の光路長シフト法においては、撮像面3a・3bの光路長の差Δzは、最適となる値が存在する。
【0113】
共役像成分を除去した差分は式(18)である。式(18)の左辺は測定値から得られる情報であり、DC(fx,fy,z) は0次回折光成分(Ar2+Ao2(x,y,z)) のフーリエ変換、U(fx,fy,z) は直接像成分ArAo(x,y,z)exp[jφo(x,y,z)] のフーリエ変換である。所望の成分は直接像成分であるU(fx,fy,z) であるので、その係数[1−H(fx,fy,2Δz)] が大きいことが望ましい。式(21)から係数[1−H(fx,fy,2Δz)] は次のようになる。
【0114】
【数31】
【0115】
ここで、
【0116】
【数32】
【0117】
となり、式(31)に示す直接像成分の係数は最小値0となり、直接像成分が除去されてしまう。また、
【0118】
【数33】
【0119】
となり、式(31)に示す直接像成分の係数は最大値2となり、直接像の情報が最も多く残る。よって、光路長の差Δzの最適値は、Δz=λ/4+n(λ/2) である(nは整数)。
【0120】
<シミュレーション結果>
本願発明者は、本実施の形態に基づくデジタルホログラフィの再生処理の計算機によるシミュレーションを行った。また、従来のデジタルホログラフィの再生処理のシミュレーション結果との比較も行った。以下に、そのシミュレーション結果について説明する。
【0121】
本シミュレーションで用いた被写体の撮像を行う光学系は、図1に示すデジタルホログラフィ装置1である。図3(a)は、被写体の見た目の明暗を表す振幅分布を示す画像である。被写体は底面が正方形の物体であり、被写体には本願発明者の人物像が形成されている。図3(b)は、図3(a)に対応して、被写体の高さ(底面を基準としたCCDカメラ側への奥行き)について、レーザ光の波長を基準とした位相分布によって示す図であり、被写体の高さはレーザ光の1波長分の高さ毎に明暗のグラデーションで示されている。被写体はフレネルレンズの形状をしており、明るい部分が高い(CCDカメラとの距離が短い)ことを示している。被写体の最大高さは、用いるレーザ光の波長λと同じ532nmであり、被写体の底面のサイズ(図3(a)に示す画像の縦横のサイズ)は、2.560[mm]×2.560[mm]である。
【0122】
シミュレーションの条件として、レーザ光源2が発生するレーザ光の波長λは532nm、CCDカメラ3の画素数は512×512ピクセル、CCDカメラ3の画素ピッチは5μm、被写体の底面から撮像面3aの距離(光軸に沿った光路長)は30cm、撮像面3aと撮像面3bとの光路長の差Δzは最適値である+λ/4=133nmとした。撮像面3a・3bに入射する物体光の強度と参照光の強度の比を様々に変えてシミュレーションを行った。なお、従来の再生処理方法を用いる場合も、光路長の差Δzの最適値はλ/4である。
【0123】
なお、式(26)において0次回折光の物体光成分Ao(x,y,z) を求める際に、実際の計算においては式(26)の右辺の平方根の中身が負になる場合がある。この場合、コンピュータで数値計算を行うために例外処理として平方根の中身を0に置き換えて計算を行っている。
【0124】
図4(a)〜(f)は、被写体の再生像に関して、本実施の形態に基づくシミュレーション結果と、背景技術の欄に記載した従来の再生処理方法よるシミュレーション結果とを対比して示す画像である。図4(a)は、物体光と参照光の強度比が1:4(すなわち振幅の比は1:2)である場合の、従来の再生処理方法を用いて生成した再生像(振幅分布)であり、図4(b)は、物体光と参照光の強度比が1:4である場合の、本発明の再生処理方法を用いて生成した再生像である。図4(c)は、物体光と参照光の強度比が1:49(すなわち振幅の比は1:7)である場合の、従来の再生処理方法を用いて生成した再生像であり、図4(d)は、物体光と参照光の強度比が1:49である場合の、本発明の再生処理方法を用いて生成した再生像である。図4(e)は、物体光と参照光の強度比が1:100(すなわち振幅の比は1:10)である場合の、従来の再生処理方法を用いて生成した再生像であり、図4(f)は、物体光と参照光の強度比が1:100である場合の、本発明の再生処理方法を用いて生成した再生像である。なお、強度比については、撮像面上の物体光の強度の最大値を用いて、参照光の強度と比較して求めている。
【0125】
図4(a)に示すように、従来の再生処理方法を用いた場合、物体光の強度が参照光の強度に比べて十分小さくない場合(物体光と参照光の強度比が1:4の場合)、直接像成分以外の不要な成分を含んだ不鮮明な再生像が生成される。図4(c)、図4(e)に示すように、物体光と参照光の強度比を大きくすると、従来の再生処理方法を用いて比較的鮮明な再生像を生成することができるが、図3(a)に示す被写体と比較すると、未だ不要な成分が再生像に残留していることが分かる。また、実際は干渉パターンの撮像において受ける暗電流およびノイズの影響が大きくなるため、実用的ではない。
【0126】
一方、図4(b)に示すように、本発明の再生処理方法を用いた場合、物体光の強度が参照光の強度に比べて十分小さくない場合(物体光と参照光の強度比が1:4の場合)においても、不要な成分を含まない鮮明な再生像を生成することができた。
【0127】
図5(a)〜(f)は、被写体の3次元形状計測に関して、本実施の形態に基づくシミュレーション結果と、背景技術の欄に記載した従来の再生処理方法よるシミュレーション結果とを対比して示す図である。図5(a)は、物体光と参照光の強度比が1:4(すなわち振幅の比は1:2)である場合の、従来の再生処理方法を用いて生成した被写体の位相分布であり、図5(b)は、物体光と参照光の強度比が1:4である場合の、本発明の再生処理方法を用いて生成した被写体の位相分布である。ここで、位相分布とは、再生した被写体の高さをレーザ光の波長λを単位とした位相によって表すものであり、再生した被写体の高さはレーザ光の1波長分の高さ毎に明暗のグラデーションで示されている。図5(c)は、物体光と参照光の強度比が1:49(すなわち振幅の比は1:7)である場合の、従来の再生処理方法を用いて生成した被写体の位相分布であり、図5(d)は、物体光と参照光の強度比が1:49である場合の、本発明の再生処理方法を用いて生成した被写体の位相分布である。図5(e)は、物体光と参照光の強度比が1:100(すなわち振幅の比は1:10)である場合の、従来の再生処理方法を用いて生成した被写体の位相分布であり、図5(f)は、物体光と参照光の強度比が1:100である場合の、本発明の再生処理方法を用いて生成した被写体の位相分布である。
【0128】
図5(a)に示すように、従来の再生処理方法を用いた場合、物体光の強度が参照光の強度に比べて十分小さくない場合(物体光と参照光の強度比が1:4の場合)、被写体の精確な位相分布を生成できない。図5(c)、図5(e)に示すように、物体光と参照光の強度比を大きくすると、従来の再生処理方法を用いて生成した位相分布は徐々に精確になるが、未だ不十分である。また、実際は干渉パターンの撮像において受ける暗電流およびノイズの影響が大きくなるため、実用的ではない。
【0129】
一方、図5(b)に示すように、本発明の再生処理方法を用いた場合、物体光の強度が参照光の強度に比べて十分小さくない場合(物体光と参照光の強度比が1:4の場合)においても、従来の再生処理方法では得られなかった被写体の精確な位相分布を生成することができた。
【0130】
次に、シミュレーション結果を定量的に評価するために、本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果について、平均二乗平方根誤差(RMSE:Root Mean Square Error)を計算した。RMSEは、原画像と評価画像との差の二乗誤差であり、RMSEの値が小さいほど、評価画像が原画像に近い画像であることを示す。RMSEは、次式で与えられる。
【0131】
【数34】
【0132】
ここで、画像の横および縦方向の画素数をそれぞれNおよびMとする。原画像におけるi行目j列目の画素における画素値をXi,j とし、評価画像におけるi行目j列目の画素における画素値をYi,jとする。RMSEの計算においては、被写体の画像を原画像、各方法による再生像を評価画像として計算を行った。
【0133】
図6は、逐次光路長シフト法を用いた本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果について、RMSEを計算した結果を示す表である。物体光と参照光の強度比を1:1から1:100まで変化させ(すなわち物体光の振幅を1とした場合の参照光の振幅arを1から10まで変化させ)、それぞれの場合について、本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法で生成した再生像の振幅分布(明暗を示す画素値)および位相分布についてRMSEの値を計算した。なお、振幅分布の各画素値は、255で規格化されており、0から255の値を有する。位相分布の各画素値は、レーザ光の波長λに関連して2πで規格化されており、0から2πの値を有する。
【0134】
図7は、逐次光路長シフト法を用いた本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果について、物体光と参照光の振幅比(物体光の振幅を1とした場合の参照光の振幅ar)を横軸にとり、再生像の振幅分布のRMSEをプロットしたグラフである。
【0135】
図8は、逐次光路長シフト法を用いた本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果について、物体光と参照光の振幅比(物体光の振幅を1とした場合の参照光の振幅ar)を横軸にとり、再生像の位相分布のRMSEをプロットしたグラフである。
【0136】
図7、8からも分かるように、本発明の再生処理方法は高精度の再生像を生成することができる。物体光と参照光の強度比がいずれの場合であっても、本発明の再生処理方法は、従来の再生処理方法より精確な再生像を生成しており、より優れた再生処理方法である。また、本発明の再生処理方法を用いることにより、従来と比較して、物体光と参照光の強度比が1:4の場合では、振幅のRMSEの値が約1/25になり、物体光と参照光の強度比が1:9以上の場合では、振幅のRMSEの値が約1/5000になった。この結果を考慮すると、物体光と参照光の強度比が1:4以上であれば、本発明の再生処理方法を用いて高精度計測を行うことができることが分かる。
【0137】
なお、被写体の連続的な3次元形状の情報は、得られた位相分布に対して位相接続を行うことにより得ることができる。本実施の形態では精確な位相分布を得ることができるので、そこから、従来では困難であった精確な3次元形状の情報を得ることができる。
【0138】
従来の再生処理方法では、0次回折光の物体光成分を求めることなく「物体光の振幅が参照光の振幅に対して十分に小さい」という条件を用いて0次回折光の物体光成分を無視し、その後、共役像成分を求めて撮像した干渉光から共役像成分を除去することにより物体光の複素振幅分布を求めていた。そのため、従来の再生処理方法では、再生像に不要な0次回折光成分および共役像成分が残留することが避けられなかった。
【0139】
これに対して、本発明の再生処理方法では、まず共役像成分を除去し、次に「撮像素子の画素ピッチがレーザ光の波長より十分に大きい」という条件を用いて0次回折光の物体光成分を求めて、撮像した干渉光から0次回折光の物体光成分を除去することにより物体光の複素振幅分布を求める。これにより、干渉光の撮像条件を改善(物体光の強度を大きくしてホログラフィの測定を行うことができる)し、かつ、高精度の再生像を生成することを可能とする。
【0140】
以上のシミュレーションは光路長の差Δzが最適値のλ/4(=133nm)の条件で行った。以下では、光路長の差Δzを0.05λから0.95λまで変化させた場合についてシミュレーションを行い、再生像の振幅分布および位相分布のRMSEを計算したものについて説明する。なお、物体光と参照光の振幅比は1:3(強度比は1:9)としてシミュレーションを行った。
【0141】
図9は、逐次光路長シフト法を用いた本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果について、光路長の差Δzを横軸にとり、再生像の振幅分布のRMSEをプロットしたグラフである。横軸は0.05λ[nm]刻みでRMSEの計算結果をプロットしている。なお、Δz=λ/2の場合については、光路長シフト法を適用することが妥当ではないので、シミュレーションを行っていない。
【0142】
図10は、逐次光路長シフト法を用いた本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果について、光路長の差Δzを横軸にとり、再生像の位相分布のRMSEをプロットしたグラフである。横軸は0.05λ[nm]刻みでRMSEの計算結果をプロットしている。なお、Δz=λ/2の場合については、光路長シフト法を適用することが妥当ではないので、シミュレーションを行っていない。
【0143】
図9、10からも分かるように、光路長の差Δzがいずれの場合であっても、本発明の再生処理方法は、従来の再生処理方法より精確な再生像を生成しており、より優れた再生処理方法である。また、本発明の再生処理方法では、光路長の差Δzが約30nmから約160nm、および約400nmから約500nmの間において、高精度計測を行うことができた(なお、λ=532nm)。よって、本発明の再生処理方法では、2つの撮像面の光路長の差Δzが最適値からある程度ずれていても高精度計測を行うことができる。すなわち、本発明の再生処理方法では、2つの撮像面の位置決めを厳密に行う必要がなく、デジタルホログラフィ装置をより簡単に構成することができる。
【0144】
[実施の形態2]
本実施の形態では、並列光路長シフト法によるデジタルホログラフィ装置について説明する。並列光路長シフト法は、1つのCCDカメラで1回撮像することにより被写体8からの距離(光路長)が異なる2つの干渉パターンを得る方法である。尚、説明の便宜上、実施の形態1にて説明した図面と同じ機能を有する部材・構成については、同じ符号を付記し、その詳細な説明を省略する。
【0145】
<デジタルホログラフィ装置の構成>
図11は、並列光路長シフト法を用いたデジタルホログラフィ装置の構成を示す模式図である。デジタルホログラフィ装置13は、レーザ光源2を含む光学系と、CCDカメラ(撮像素子)14と、コンピュータ4とを備える。CCDカメラ14は、干渉パターンを撮像する撮像面14aを有する。また、CCDカメラ14は、撮像面14aの前に設置された光路長シフトアレイ素子15を備える。
【0146】
レーザ光源2から出射されたレーザ光は、ビームエキスパンダ5およびコリメータレンズ6を通過することにより平行光となる。それから、レーザ光はビームスプリッタ7によって参照光と物体光とに分割される。物体光は被写体8に照射される。被写体8によって反射(散乱)された物体光は、ビームスプリッタ7を通過し、光路長シフトアレイ素子15を通過してCCDカメラ14の撮像面14aに到達する。一方、参照光は、ミラー9およびビームスプリッタ7によって反射され、光路長シフトアレイ素子15を通過してCCDカメラ14の撮像面14aに到達する。CCDカメラ14は、撮像面14aに到達した物体光と参照光とが作る干渉パターンを撮像し、干渉パターンのデータをコンピュータ4に出力する。入力された干渉パターンに対して、コンピュータ4が計算処理を施すことにより、被写体8の再生像が得られる。
【0147】
図12(a)は、光路長シフトアレイ素子の一部と撮像面14aの一部とを示す斜視図である。撮像面14a上の各画素に対応して、光路長シフトアレイ素子15は、アレイ状に交互に配列した光路長シフト領域15a・15bを有する。光路長シフト領域15a・15bは通過したレーザ光の光路長を互いに異ならせる。光路長シフトアレイ素子15は、例えばガラスで形成し、光路長シフト領域15a・15b毎にガラスの厚みを変えることで構成できる。各光路長シフト領域15a・15bを通過した物体光および参照光は、隣接する撮像面14aのそれぞれが対応する各画素に入射する。
【0148】
図12(b)は、撮像面側から見た光路長シフトアレイ素子の一部を示す模式図である。光路長シフト領域15a・15bが、市松模様に配列している。本実施の形態では、光路長シフト領域15bを通過したレーザ光は、光路長シフト領域15aを通過したレーザ光に対してΔzだけ光路長が長くなる。
【0149】
図13は、並列光路長シフト法を用いたデジタルホログラフィ装置における再生像の生成のアルゴリズムを説明するための図である。コンピュータ4(図11参照)は、CCDカメラ14から、撮像面14aで撮像された干渉パターン16のデータを取得する。図13には、取得した干渉パターンの一部だけを示す。
【0150】
干渉パターン16の格子は各画素を示し、画素16aは光路長シフト領域15a(図12(a)参照)を通過した物体光と参照光との干渉光(光路長シフト量=0)を示す画素値を有し、画素16bは光路長シフト領域15bを通過した物体光と参照光との干渉光(光路長シフト量=Δz)を示す画素値を有する。被写体から画素15aまでの光軸に沿った光学的な距離をzとし、被写体から画素15bまでの光軸に沿った光学的な距離をz+Δzとする。ここで、光学的な距離とは光路長シフトアレイ素子15(図11参照)等の屈折率を考慮してレーザ光の波長に換算した距離(光路長)を意味する。
【0151】
コンピュータ4は、干渉パターン16から画素16a・16bのそれぞれを抽出することにより、画素16aだけを抽出した干渉パターン17a(光路長シフト量=0)と、画素16bだけを抽出した干渉パターン17b(光路長シフト量=Δz)とを生成する。
【0152】
次にコンピュータ4は、光路長シフト量が0である干渉パターン17a、および光路長シフト量がΔzである干渉パターン17bの欠落している画素の画素値を補間し、された光路長シフト量が0である補間された干渉パターン18a、および、光路長シフト量がΔzである補間された干渉パターン18bを得る。これにより、1つのCCDカメラを用いて、1回の撮像により光路長の異なる2つの干渉パターン18a・18bを得ることができる。この後の再生像(振幅分布および位相分布)の計算は、実施の形態1で説明した再生処理方法を適用して行うことができる。なお、画素値の補間は線形補間等を用いて補間することができるが、これに限らない。
【0153】
本実施の形態によれば、再生像の生成に必要な2つの干渉パターンを1回の撮像で得ることができるので、光路長の異なる2つの干渉パターン18a・18bから求められる物体光の複素振幅分布を用いて、例えば動的に変化している被写体20の3次元情報を得ることができる。そのため、本実施の形態のデジタルホログラフィ装置は、被写体の振動にも強い。
【0154】
<シミュレーション結果>
以下に、本実施の形態に基づくデジタルホログラフィの再生処理の計算機によるシミュレーション結果と、従来のデジタルホログラフィの再生処理のシミュレーション結果との比較について説明する。
【0155】
本シミュレーションで用いた被写体の撮像を行う光学系は、図11に示すデジタルホログラフィ装置13である。被写体は実施の形態1のシミュレーションで用いた図3(a)、図3(b)に示すものを用いた。
【0156】
シミュレーションの条件は実施の形態1と同じであり、レーザ光源2が発生するレーザ光の波長λは532nm、CCDカメラ3の画素数は512×512ピクセル、CCDカメラ3の画素ピッチは5μm、被写体の底面から撮像面14aの距離(光軸に沿った光路長)は30cm、光路長シフトアレイ素子15による光路長シフト領域15a・15bの光路長の差Δzは最適値である+λ/4=133nmとした。撮像面14aに入射する物体光の強度と参照光の強度の比を様々に変えてシミュレーションを行った。
【0157】
図14(a)〜(f)は、被写体の再生像に関して、本実施の形態に基づくシミュレーション結果と、背景技術の欄に記載した従来の再生処理方法よるシミュレーション結果とを対比して示す画像である。図14(a)は、物体光と参照光の強度比が1:4(すなわち振幅の比は1:2)である場合の、従来の再生処理方法を用いて生成した再生像(振幅分布)であり、図14(b)は、物体光と参照光の強度比が1:4である場合の、本発明の再生処理方法を用いて生成した再生像である。図14(c)は、物体光と参照光の強度比が1:49(すなわち振幅の比は1:7)である場合の、従来の再生処理方法を用いて生成した再生像であり、図14(d)は、物体光と参照光の強度比が1:49である場合の、本発明の再生処理方法を用いて生成した再生像である。図14(e)は、物体光と参照光の強度比が1:100(すなわち振幅の比は1:10)である場合の、従来の再生処理方法を用いて生成した再生像であり、図14(f)は、物体光と参照光の強度比が1:100である場合の、本発明の再生処理方法を用いて生成した再生像である。
【0158】
図14(a)に示すように、従来の再生処理方法を用いた場合、物体光の強度が参照光の強度に比べて十分小さくない場合(物体光と参照光の強度比が1:4の場合)、直接像成分以外の不要な成分を含んだ不鮮明な再生像が生成される。図14(c)、図14(e)に示すように、物体光と参照光の強度比を大きくすると、従来の再生処理方法を用いて比較的鮮明な再生像を生成することができるが、図3(a)に示す被写体と比較すると、未だ不要な成分が再生像に残留していることが分かる。また、実際は干渉パターンの撮像において受ける暗電流およびノイズの影響が大きくなるため、実用的ではない。
【0159】
一方、図14(b)に示すように、本発明の再生処理方法を用いた場合、実施の形態1と同様に、物体光の強度が参照光の強度に比べて十分小さくない場合(物体光と参照光の強度比が1:4の場合)においても、不要な成分を含まない鮮明な再生像を生成することができた。
【0160】
図15(a)〜(f)は、被写体の3次元形状計測に関して、本実施の形態に基づくシミュレーション結果と、背景技術の欄に記載した従来の再生処理方法よるシミュレーション結果とを対比して示す図である。図15(a)は、物体光と参照光の強度比が1:4(すなわち振幅の比は1:2)である場合の、従来の再生処理方法を用いて生成した被写体の位相分布であり、図15(b)は、物体光と参照光の強度比が1:4である場合の、本発明の再生処理方法を用いて生成した被写体の位相分布である。図15(c)は、物体光と参照光の強度比が1:49(すなわち振幅の比は1:7)である場合の、従来の再生処理方法を用いて生成した被写体の位相分布であり、図15(d)は、物体光と参照光の強度比が1:49である場合の、本発明の再生処理方法を用いて生成した被写体の位相分布である。図15(e)は、物体光と参照光の強度比が1:100(すなわち振幅の比は1:10)である場合の、従来の再生処理方法を用いて生成した被写体の位相分布であり、図15(f)は、物体光と参照光の強度比が1:100である場合の、本発明の再生処理方法を用いて生成した被写体の位相分布である。
【0161】
図15(a)に示すように、従来の再生処理方法を用いた場合、物体光の強度が参照光の強度に比べて十分小さくない場合(物体光と参照光の強度比が1:4の場合)、被写体の精確な位相分布を生成できない。図15(c)、図15(e)に示すように、物体光と参照光の強度比を大きくすると、従来の再生処理方法を用いて生成した位相分布は徐々に精確になるが、未だ不十分である。また、実際は干渉パターンの撮像において受ける暗電流およびノイズの影響が大きくなるため、実用的ではない。
【0162】
一方、図15(b)に示すように、本発明の再生処理方法を用いた場合、実施の形態1と同様に、物体光の強度が参照光の強度に比べて十分小さくない場合(物体光と参照光の強度比が1:4の場合)においても、従来の再生処理方法では得られなかった被写体の精確な位相分布を生成することができた。
【0163】
図16は、並列光路長シフト法を用いた本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果について、RMSEを計算した結果を示す表である。物体光と参照光の強度比を1:1から1:100まで変化させ(すなわち物体光と参照光の振幅比を1:1から1:10まで変化させ)、それぞれの場合について、本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法で生成した再生像の振幅分布(明暗を示す画素値)および位相分布についてRMSEの値を計算した。なお、振幅分布の各画素値は、255で規格化されており、0から255の値を有する。位相分布の各画素値は、レーザ光の波長λに関連して2πで規格化されており、0から2πの値を有する。
【0164】
図17は、逐次光路長シフト法を用いた本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果、および、並列光路長シフト法を用いた本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果について、物体光と参照光の振幅比を横軸にとり、再生像の振幅分布のRMSEを棒グラフである。
【0165】
図18は、逐次光路長シフト法を用いた本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果、および、並列光路長シフト法を用いた本発明の再生処理方法および従来の再生処理方法のシミュレーション結果について、物体光と参照光の振幅比を横軸にとり、再生像の位相分布のRMSEを棒グラフである。
【0166】
図17、18からも分かるように、本発明の再生処理方法は、逐次光路長シフト法の場合と同様に、並列光路長シフト法においても高精度の再生像を生成することができる。物体光と参照光の強度比がいずれの場合であっても、本発明の再生処理方法は、従来の再生処理方法より精確な再生像を生成しており、並列光路長シフト法においても適用できる優れた再生処理方法である。この結果を考慮すると、物体光と参照光の強度比が1:4以上であれば、並列光路長シフト法のデジタルホログラフィにおいて本発明の再生処理方法を用いて高精度計測を行うことができることが分かる。なお、並列光路長シフト法に本発明の再生処理方法を適用したシミュレーション結果が、逐次光路長シフト法に本発明の再生処理方法を適用したシミュレーション結果に比べて劣っているのは、並列光路長シフト法において行った2つの干渉パターンの補間処理によって生じる誤差が原因である。
【0167】
本実施の形態によれば、1回の撮像で得られる情報から被写体の高精度な3次元形状計測を行うことができる。そのため、従来では困難であった高精度な瞬時3次元動画像計測が可能になる。本実施の形態による方法は、他の従来の瞬時3次元動画像計測法より簡素かつコンパクトなデジタルホログラフィ装置によって実現することができる。
【0168】
これにより、デジタルホログラフィを利用した高精度な生体(細胞)の観察・計測のための生体顕微鏡、部品・製品の工業検査装置、人体の形状計測装置・運動解析装置、および、粒子・流体の分布・形状・大きさ・密度の計測装置等を実現することが可能になる。例えば、これらは創薬における研究・検査・製造に利用することができる。そのため、本発明の技術は、種々の製造分野およびバイオテクノロジー分野の技術進歩に寄与するものである。
【0169】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0170】
最後に、コンピュータ4の各ブロックは、ハードウェアロジックによって構成してもよいし、次のようにCPU(central processing unit)を用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0171】
すなわち、コンピュータ4は、各機能を実現する制御プログラムの命令を実行するCPU、上記プログラムを格納したROM(read only memory)、上記プログラムを展開するRAM(random access memory)、上記プログラムおよび各種データを格納するメモリ等の記憶装置(記録媒体)などを備えている。そして、本発明の目的は、上述した機能を実現するソフトウェアである上記コンピュータ4の制御プログラムのプログラムコード(実行形式プログラム、中間コードプログラム、ソースプログラム)をコンピュータで読み取り可能に記録した記録媒体を、上記コンピュータ4に供給し、そのコンピュータ(またはCPUやMPU(microprocessor unit))が記録媒体に記録されているプログラムコードを読み出し実行することによっても、達成可能である。
【0172】
上記記録媒体としては、例えば、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フロッピー(登録商標)ディスク/ハードディスク等の磁気ディスクやCD−ROM(compact disc read-only memory)/MO(magneto-optical)/MD(Mini Disc)/DVD(digital versatile disk)/CD−R(CD Recordable)等の光ディスクを含むディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系、あるいはマスクROM/EPROM(erasable programmable read-only memory)/EEPROM(electrically erasable and programmable read-only memory)/フラッシュROM等の半導体メモリ系などを用いることができる。
【0173】
また、コンピュータ4を通信ネットワークと接続可能に構成し、上記プログラムコードを通信ネットワークを介して供給してもよい。この通信ネットワークとしては、特に限定されず、例えば、インターネット、イントラネット、エキストラネット、LAN(local area network)、ISDN(integrated services digital network)、VAN(value-added network)、CATV(community antenna television)通信網、仮想専用網(virtual private network)、電話回線網、移動体通信網、衛星通信網等が利用可能である。また、通信ネットワークを構成する伝送媒体としては、特に限定されず、例えば、IEEE(institute of electrical and electronic engineers)1394、USB、電力線搬送、ケーブルTV回線、電話線、ADSL(asynchronous digital subscriber loop)回線等の有線でも、IrDA(infrared data association)やリモコンのような赤外線、Bluetooth(登録商標)、802.11無線、HDR(high data rate)、携帯電話網、衛星回線、地上波デジタル網等の無線でも利用可能である。なお、本発明は、上記プログラムコードが電子的な伝送で具現化された、搬送波に埋め込まれたコンピュータデータ信号の形態でも実現され得る。
【産業上の利用可能性】
【0174】
本発明は、デジタルホログラフィ再生装置、生体顕微鏡、工業顕微鏡、運動解析装置、製品検査装置、形状計測装置、または粒子・流体計測装置等にも利用することができる。
【符号の説明】
【0175】
1、13 デジタルホログラフィ装置(干渉計測装置)
2 レーザ光源(光源)
3、14 CCDカメラ(撮像素子)
3a、3b、14a 撮像面
4 コンピュータ(再生装置)
5 ビームエキスパンダ
6 コリメータレンズ
7 ビームスプリッタ(光分割素子)
8 被写体
9 ミラー
10 データ入力部(取得部)
11 物体光算出部(第1処理部)
12 回折処理部(第2処理部)
15 光路長シフトアレイ素子
15a、15b 光路長シフト領域
16、17a、17b、18a、18b 干渉パターン
16a、16b 画素
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体からの物体光と物体光に対してコヒーレントな参照光とが干渉して形成される干渉パターンを示すデータから、物体光の複素振幅分布を求める再生装置であって、
上記被写体からの光路長が異なる2つの干渉パターンを示すデータを取得する取得部と、
上記2つの干渉パターンのデータを用いて、0次回折光の物体光成分を求め、上記0次回折光の物体光成分を用いて物体光の複素振幅分布を求める第1処理部とを備えることを特徴とする再生装置。
【請求項2】
上記物体光の複素振幅分布を用いて上記被写体の再生像を求める第2処理部をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の再生装置。
【請求項3】
上記取得部は、参照光の強度を示すデータ、および、参照光の波長と2つの干渉パターンの上記被写体からの光路長の差との比を示すデータを受け取り、
上記第1処理部は、上記2つの干渉パターンのデータ、上記参照光の強度を示すデータ、および、上記参照光の波長と上記光路長の差との比を示すデータとを用いて、上記0次回折光の物体光成分と上記物体光の複素振幅分布とを求めることを特徴とする請求項1または2に記載の再生装置。
【請求項4】
上記第1処理部は、フーリエ空間において上記2つの干渉パターンの差分を求めることにより上記2つの干渉パターンに含まれる共役像成分を除去し、上記2つの干渉パターンの差分から、上記0次回折光の物体光成分を減算することにより上記物体光の複素振幅分布を求めることを特徴とする請求項3に記載の再生装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の再生装置を備える干渉計測装置であって、
コヒーレントな光を発生する光源と、上記光源から出射される光を参照光および物体光に分割する光分割部と、撮像素子とを備え、
上記光分割部で分割された物体光は被写体を介して撮像素子に到達し、
上記撮像素子は、参照光と物体光とが干渉して形成される干渉パターンについて、被写体からの光路長が互いに異なる2つの干渉パターンを撮像し、上記2つの干渉パターンを示すデータを上記取得部に出力することを特徴とする干渉計測装置。
【請求項6】
被写体からの物体光と物体光に対してコヒーレントな参照光とが干渉して形成される干渉パターンを示すデータから、物体光の複素振幅分布を求めるようにコンピュータを機能させるための制御プログラムであって、
上記コンピュータに、上記被写体からの光路長が異なる2つの干渉パターンを示すデータを用いて0次回折光の物体光成分を求めさせ、上記0次回折光の物体光成分を用いて物体光の複素振幅分布を求めさせることを特徴とする制御プログラム。
【請求項7】
請求項6に記載の制御プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項1】
被写体からの物体光と物体光に対してコヒーレントな参照光とが干渉して形成される干渉パターンを示すデータから、物体光の複素振幅分布を求める再生装置であって、
上記被写体からの光路長が異なる2つの干渉パターンを示すデータを取得する取得部と、
上記2つの干渉パターンのデータを用いて、0次回折光の物体光成分を求め、上記0次回折光の物体光成分を用いて物体光の複素振幅分布を求める第1処理部とを備えることを特徴とする再生装置。
【請求項2】
上記物体光の複素振幅分布を用いて上記被写体の再生像を求める第2処理部をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の再生装置。
【請求項3】
上記取得部は、参照光の強度を示すデータ、および、参照光の波長と2つの干渉パターンの上記被写体からの光路長の差との比を示すデータを受け取り、
上記第1処理部は、上記2つの干渉パターンのデータ、上記参照光の強度を示すデータ、および、上記参照光の波長と上記光路長の差との比を示すデータとを用いて、上記0次回折光の物体光成分と上記物体光の複素振幅分布とを求めることを特徴とする請求項1または2に記載の再生装置。
【請求項4】
上記第1処理部は、フーリエ空間において上記2つの干渉パターンの差分を求めることにより上記2つの干渉パターンに含まれる共役像成分を除去し、上記2つの干渉パターンの差分から、上記0次回折光の物体光成分を減算することにより上記物体光の複素振幅分布を求めることを特徴とする請求項3に記載の再生装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の再生装置を備える干渉計測装置であって、
コヒーレントな光を発生する光源と、上記光源から出射される光を参照光および物体光に分割する光分割部と、撮像素子とを備え、
上記光分割部で分割された物体光は被写体を介して撮像素子に到達し、
上記撮像素子は、参照光と物体光とが干渉して形成される干渉パターンについて、被写体からの光路長が互いに異なる2つの干渉パターンを撮像し、上記2つの干渉パターンを示すデータを上記取得部に出力することを特徴とする干渉計測装置。
【請求項6】
被写体からの物体光と物体光に対してコヒーレントな参照光とが干渉して形成される干渉パターンを示すデータから、物体光の複素振幅分布を求めるようにコンピュータを機能させるための制御プログラムであって、
上記コンピュータに、上記被写体からの光路長が異なる2つの干渉パターンを示すデータを用いて0次回折光の物体光成分を求めさせ、上記0次回折光の物体光成分を用いて物体光の複素振幅分布を求めさせることを特徴とする制御プログラム。
【請求項7】
請求項6に記載の制御プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【図1】
【図2】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図3】
【図4】
【図5】
【図14】
【図15】
【図2】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図3】
【図4】
【図5】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−99781(P2011−99781A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255138(P2009−255138)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【Fターム(参考)】
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