説明

冷媒圧縮機

【課題】 吸入圧が大気圧以下の負圧となる条件下でも、ハウジング内部への外気の侵入を防止して運転を継続することが可能な、冷媒圧縮機を提供することを目的とする。
【解決手段】 駆動軸6の一端が圧縮機構15に連結されるとともに、他端がハウジング2を貫通して外部に突出され、外部駆動源により駆動されるよう構成され、ハウジング2の駆動軸6が貫通する部位に、外気と吸入側空間25との間をシールするリップシール11が設置される冷媒圧縮機1において、ハウジング2内には、リップシール11から圧縮機構15側に、仕切り手段26により吸入側空間25から仕切られるリップシール室27が形成され、該リップシール室27には、大気圧よりも高く吐出圧力よりも低い中間圧の冷媒ガスが導入されるガス導入通路28が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部駆動源により駆動される冷媒圧縮機であって、吸入圧力が大気圧以下の負圧状態になっても、外気のハウジング内への侵入を防止して運転を継続することが可能な冷媒圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハウジングの内部に、圧縮機構とそれを駆動する駆動軸とが収容設置される圧縮機であって、駆動軸の一端部がハウジングを貫通して外部に突出され、この突出部を介して外部駆動源により駆動される、いわゆる開放型タイプの冷媒圧縮機においては、ハウジングの駆動軸が貫通する部位にリップシールが設置される。そして、このリップシールによってハウジング内の冷媒ガスが外部に漏出しないように、また、外気がハウジング内に侵入しないように、外気とハウジング内部の吸入側空間との間が気密にシールされる。
【0003】
上記のように、外気とのシールにリップシールが用いられている冷媒圧縮機では、冷凍機が比較的高い温度領域で使用される場合、吸入側圧力が大気圧以下の負圧状態となることはない。しかし、極低温の冷凍領域で使用された場合、吸入側圧力が大気圧以下の負圧状態となることがある。例えば、冷凍機用であって、冷媒にR404Aが使用されている冷媒圧縮機では、蒸発温度が−45℃以下になると、吸入側圧力が大気圧以下の負圧状態となる。この場合、リップシール部分を通して、外気より空気等の不凝縮ガスがハウジング内部に吸い込まれることとなる。これが圧縮性能の低下、潤滑油の劣化、内部部品のサビ発生等をもたらすため、圧縮機を運転することが困難となるという問題がある。
【0004】
一方、ハウジング内部を外気から遮断する軸シール部材と駆動軸を支持する軸受との間に、周囲から遮蔽される軸受部空間を形成し、この軸受部空間をハウジング内部の油溜め室に減圧チューブを介して連通させ、吐出側空間と吸入側空間との間の圧力差を利用して軸受部空間に中間圧の潤滑油を導入し、ここから潤滑油を軸受や吸入側空間等に供給する構成のスクロール型冷媒圧縮機が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特許第3274778号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1が提供しているのは、もっぱら圧力差を利用して油溜め室に溜まる潤滑油を、軸受部空間を介して軸受や吸入側空間に供給することであって、スクロール型冷媒圧縮機の極低温領域での使用や、その際におけるハウジング内部へのリップシール部からの外気侵入に関しては、些かの記載も示唆もされていない。
従って、いわゆる開放型タイプのスクロール型圧縮機を極低温領域で使用した場合において発生する可能性がある、リップシール部からの外気侵入に関する課題は、依然残されている状況にある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、吸入圧が大気圧以下の負圧となる条件下でも、ハウジング内部への外気の侵入を防止して圧縮機を継続して運転することが可能な、外部駆動源により駆動されるタイプの冷媒圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の冷媒圧縮機は、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明にかかる冷媒圧縮機は、圧縮機構と、該圧縮機構を駆動する駆動軸と、前記圧縮機構および前記駆動軸が内部に収容設置されるハウジングとを備え、前記ハウジングの内部は、前記圧縮機構を境に吸入側空間と吐出側空間とに区切られ、前記駆動軸は、前記吸入側空間内にて前記ハウジングにその軸線回りに軸受を介して回転可能に支持され、その一端が前記圧縮機構に連結されるとともに、他端が前記ハウジングを貫通して外部に突出されて外部駆動源により駆動されるよう構成され、前記ハウジングの前記駆動軸が貫通する部位に、外気と前記吸入側空間との間をシールするリップシールが設置される冷媒圧縮機において、前記ハウジング内には、前記リップシールから前記圧縮機構側に、仕切り手段により前記吸入側空間から仕切られるリップシール室が形成され、該リップシール室には、大気圧よりも高く吐出圧力よりも低い中間圧の冷媒ガスを導入するガス導入通路が設けられることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、ハウジング内には、リップシールから圧縮機構側に、仕切り手段により吸入側空間から仕切られるリップシール室が形成され、このリップシール室に、大気圧よりも高く吐出圧力よりも低い中間圧の冷媒ガスを導入するガス導入通路が設けられるので、リップシール室内は、常に大気圧よりも高い圧力に維持されることとなる。これにより、吸入圧が外気よりも低い負圧状態となる条件下においても、リップシールを通して外気から空気等の不凝縮性ガスがハウジング内に侵入するのを防止することができる。従って、吸入圧が負圧となる条件下でも圧縮機を継続して運転することが可能となり、圧縮機の運転可能範囲を拡大することができる。また、負圧運転を避けるための保護装置を不要とすることができるため、コスト低減を図ることができる。
【0010】
さらに、本発明の冷媒圧縮機は、上記の冷媒圧縮機において、前記圧縮機構は、固定スクロール部材と旋回スクロール部材とが噛み合わされて圧縮室が形成されるスクロール圧縮機構により構成されることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、圧縮機構が固定スクロール部材と旋回スクロール部材とが噛み合わされて圧縮室が形成されるスクロール圧縮機構により構成されるので、連続圧縮が可能で効率がよく、低騒音のスクロール圧縮機構を備える圧縮機の運転可能範囲を拡大することができる。従って、スクロール型の圧縮機をより低温領域で使用することが可能となる。
【0012】
さらに、本発明の冷媒圧縮機は、上述のいずれかの冷媒圧縮機において、前記ガス導入通路は、前記ハウジング内部において前記吐出側空間に連通され、前記ガス導入通路中に設けられる絞りを介して前記中間圧の冷媒ガスが前記リップシール室に導入されることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、ガス導入通路がハウジング内部において吐出側空間に連通され、ガス導入通路中に設けられる絞りを介して中間圧の冷媒ガスがリップシール室に導入されるので、吐出側空間から高圧冷媒ガスの一部を抽出し、これをガス導入通路中の絞りにより減圧し、所要圧力の中間圧冷媒ガスとしてリップシール室に導入することができる。従って、リップシール室内を常に大気圧よりも高い圧力に維持することができるとともに、ガス導入通路をハウジングの内部に形成することができ、圧縮機の外形とコンパクト性を維持することができる。
【0014】
さらに、本発明の冷媒圧縮機は、上述のいずれかの冷媒圧縮機において、前記ガス導入通路は、前記ハウジング内部において前記圧縮機構の圧縮室に連通され、前記ガス導入通路中に設けられる絞りを介して前記中間圧の冷媒ガスが前記リップシール室に導入されることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、ガス導入通路がハウジング内部において圧縮機構の圧縮室に連通され、ガス導入通路中に設けられる絞りを介して中間圧の冷媒ガスがリップシール室に導入されるので、圧縮室から圧縮済ないし圧縮中の冷媒ガスの一部を抽出し、これをガス導入通路中の絞りによって減圧し、所要圧力の中間圧冷媒ガスとしてリップシール室に導入することができる。従って、リップシール室内を常に大気圧よりも高い圧力に維持することができるとともに、ガス導入通路をハウジングの内部に形成することができ、圧縮機の外形とコンパクト性を維持することができる。
【0016】
さらに、本発明の冷媒圧縮機は、上記の冷媒圧縮機において、前記圧縮機構のスクロール部材背面には、圧縮済ないし圧縮中の冷媒ガスの一部が導入される背圧室が設けられ、該背圧室を介して前記ガス導入通路が前記圧縮室に連通させることを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、圧縮機構のスクロール部材背面に圧縮済ないし圧縮中の冷媒ガスの一部が導入される背圧室を設けたので、スクロール部材の圧力変形防止やチップ面のシール向上あるいはスラスト荷重の低減が実現される。また、この背圧室を介してガス導入通路が圧縮室に連通されるので、背圧室内に導入された後の圧縮済ないし圧縮中の冷媒ガスの一部を再利用して、リップシール室内の圧力を常に大気圧よりも高い中間圧とすることができる。従って、圧縮室から抽出される冷媒ガスを多目的に有効活用することができる。
【0018】
さらに、本発明の冷媒圧縮機は、上述のいずれかの冷媒圧縮機において、前記ガス導入通路は、前記ハウジングの外部に配設され、その一端が前記吐出側空間に連通接続されるとともに、他端が前記リップシール室に連通接続される管路により構成され、該管路中に設けられる絞りを介して前記中間圧の冷媒ガスが前記リップシール室に導入されることを特徴とする。
【0019】
本発明によれば、ガス導入通路がハウジングの外部に配設され、その一端が吐出側空間に連通接続されるとともに、他端がリップシール室に連通接続される管路により構成され、この管路中に設けられる絞りを介して中間圧の冷媒ガスがリップシール室に導入されるので、吐出側空間から高圧冷媒ガスの一部を抽出し、これをハウジング外部に配設される管路を介して絞りにより減圧し、所要圧力の中間圧冷媒ガスとしてリップシール室に導入することができる。従って、リップシール室内を常に大気圧よりも高い圧力に維持することができるとともに、ハウジング内の狭隘なスペースや構造物に制約されることなく、ガス導入通路を簡便に構成することができる。また、管路を全て圧縮機に付属させることができるため、圧縮機単体でハウジング内への外気侵入防止機能を完結することができる。
【0020】
さらに、本発明の冷媒圧縮機は、上述のいずれかの冷媒圧縮機において、前記ガス導入通路は、前記ハウジングの外部に配設され、その一端が冷凍サイクルの高圧ガス系路に連通接続されるとともに、他端が前記リップシール室に連通接続される管路により構成され、該管路中に設けられる絞りを介して前記中間圧の冷媒ガスが前記リップシール室に導入されることを特徴とする。
【0021】
本発明によれば、ガス導入通路がハウジングの外部に配設され、その一端が冷凍サイクルの高圧ガス系路に連通接続されるとともに、他端がリップシール室に連通接続される管路により構成され、この管路中に設けられる絞りを介して中間圧の冷媒ガスがリップシール室に導入されるので、圧縮機から冷凍サイクル中に吐出された高圧冷媒ガスの一部を抽出し、これをハウジング外部に配設された管路を介して絞りにより減圧し、所要圧力の中間圧冷媒ガスとしてリップシール室に導入することができる。従って、リップシール室内を常に大気圧よりも高い圧力に維持することができるとともに、ハウジング内の狭隘なスペースや構造物に制約されることなく、ガス導入通路を簡易に構成することができる。
【0022】
さらに、本発明の冷媒圧縮機は、上述のいずれかの冷媒圧縮機において、前記ガス導入通路には、吸入側圧力が設定圧以下のときに開放される開閉手段が設けられることを特徴とする。
【0023】
本発明によれば、ガス導入通路には、吸入側圧力が設定圧以下のときに開放される開閉手段が設けられるので、吸入側圧力が大気圧以下の負圧となるおそれがある場合に限り、リップシール室に中間圧の冷媒ガスを導入し、リップシールを通して外気が侵入するのを防止することができる。従って、通常の運転時にリップシール室に圧縮冷媒ガスの一部が導入されることによって生じる冷媒ガスの再圧縮による微小な効率低下を防止することができる。なお、吸入側圧力の検出には、通常冷凍サイクルの吸入側系路に設置される低圧センサをそのまま利用することができる。
【0024】
さらに、本発明の冷媒圧縮機は、上述のいずれかの冷媒圧縮機において、前記仕切り手段は、前記駆動軸を支持する前記軸受の一側面を蓋って当該軸受と共に前記ハウジングに付設される仕切り板により構成されることを特徴とする。
【0025】
本発明によれば、仕切り手段が駆動軸を支持する軸受の一側面を蓋って当該軸受と共にハウジングに付設される仕切り板により構成されるので、駆動軸を支持するボール軸受やニードル軸受の軸受隙間を蓋う一枚の仕切り板を追加することによって、ハウジング内に吸入側空間から仕切られるリップシール室を形成することができる。従って、リップシール室を簡便に形成することができる。
【0026】
さらに、本発明の冷媒圧縮機は、上記の冷媒圧縮機において、前記仕切り板の少なくとも前記軸受の一部が当接摺動する面には、摺動性および耐摩耗性のコーティングが施されることを特徴とする。
【0027】
本発明によれば、仕切り板の少なくとも軸受の一部が当接摺動する面には、摺動性および耐摩耗性の、例えばポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)等のコーティングが施されるので、軸受の当接摺動に対してその摺動損失を最小限とすることができるとともに、磨耗に対して十分な寿命を確保することができる。
【0028】
さらに、本発明の冷媒圧縮機は、上述のいずれかの冷媒圧縮機において、前記仕切り手段は、前記駆動軸を支持する前記軸受の一側面を蓋うとともに、該軸受の一部が当接摺動するシール材を備え、当該軸受と共に前記ハウジングに付設されるシールリングにより構成されることを特徴とする。
【0029】
本発明によれば、仕切り手段が駆動軸を支持する軸受の一側面を蓋うとともに、軸受の一部が当接摺動するシール材を備え、当該軸受と共にハウジングに付設されるシールリングにより構成されるので、一枚のシールリングを追加することによって、ハウジング内に吸入側空間から仕切られるリップシール室を形成することができる。また、軸受が当接摺動する部位をシール材に限定することができる。従って、リップシール室を簡便に形成することができるとともに、シール材の適切な選択により、十分な摺動性および耐摩耗性を確保することができる。
【0030】
さらに、本発明の冷媒圧縮機は、上述のいずれかの冷媒圧縮機において、前記仕切り手段は、前記駆動軸を支持する前記軸受を構成するすべり軸受により構成されることを特徴とする。
【0031】
本発明によれば、仕切り手段が駆動軸を支持する軸受を構成するすべり軸受により構成されるので、仕切り手段として別部材を設けることなく、ハウジング内に吸入側空間から仕切られたリップシール室を構成することができる。つまり、ハウジングに駆動軸を回転可能に支持する軸受にすべり軸受が用いられる場合、ハウジングと駆動軸との間はすべり軸受のすべり隙間のみとなるため、当該すべり軸受によりリップシール室を吸入側空間から仕切ることができる。従って、軸受以外の仕切り部材を不要とすることができる。
【0032】
さらに、本発明の冷媒圧縮機は、上述のいずれかの冷媒圧縮機において、前記仕切り手段には、前記リップシール室内に導入された前記中間圧の冷媒ガスを減圧して前記吸入側空間に戻す減圧通路が設けられることを特徴とする。
【0033】
本発明によれば、仕切り手段には、リップシール室内に導入された中間圧の冷媒ガスを減圧して吸入側空間に戻す減圧通路が設けられるので、リップシール室内を常に絞りにより調整された所要の中間圧に維持することができる。従って、リップシール室の圧力が過剰に上昇するのを抑え、リップシールに対する過剰な圧力負荷を防止し、リップシールを保護することができる。また、減圧通路を利用することによりリップシール室内で冷媒ガスから分離される潤滑油を速やかに吸入側空間に戻すことができる。
【0034】
さらに、本発明の冷媒圧縮機は、上記の冷媒圧縮機において、前記ガス導入通路は、前記リップシール室の上方部位に連通され、前記減圧通路は、前記リップシール室の下方部位において前記仕切り手段に設けられることを特徴とする。
【0035】
本発明によれば、ガス導入通路がリップシール室の上方部位に連通され、減圧通路がリップシール室の下方部位において仕切り手段に設けられるので、ガス導入通路により冷媒ガス中に含まれてリップシール室に導入され、そこで冷媒ガスから分離されてリップシール室に溜まる潤滑油を、減圧通路を介して合理的に排出することができる。従って、リップシール室を適正に機能させることができるとともに、潤滑油の不要な溜まり込みを防止することができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によると、リップシール室内を常に大気圧よりも高い圧力に維持することができるので、吸入圧が外気よりも低圧の負圧状態となることがあっても、リップシールを通して外気がハウジング内に侵入するのを防止することができる。このため、吸入圧が負圧となる条件下でも圧縮機を継続して運転することが可能となる。
また、吸入圧が負圧となり易い極低温領域での使用が可能となるため、圧縮機の運転可能範囲を拡大することができる。
さらに、吸入圧が負圧となる運転を回避するための保護装置を省略することができるため、コスト低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下に、本発明にかかる実施形態について、図面を参照して説明する。
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態について、図1および図2を用いて説明する。
図1には、本実施形態にかかる外部駆動源により駆動されるタイプのスクロール型冷媒圧縮機1の縦断面図が示されている。このスクロール型冷媒圧縮機1は、低温輸送用の冷凍ユニット等に適用されるものである。
スクロール型冷媒圧縮機1は、その概略外形を構成するハウジング2を有する。このハウジング2は、カップ形状のリアハウジング3と、このリアハウジング3の開口端にシール材5を介して嵌合され、図示省略のボルトにより一体的に締め付け固定されるフロントハウジング4とから構成される。
【0038】
フロントハウジング4の内部には、駆動軸6がメイン軸受7およびサブ軸受8を介して軸線L回りに回転自在に支持されている。駆動軸6の一端側(図において左側)は小径軸部6Aとされ、この小径軸部6Aは、フロントハウジング4を貫通して図1の左側に突出されている。小径軸部6Aの突出部には、公知の如く、動力を受ける電磁クラッチ9およびプーリー10等が設けられ、図示省略されたエンジン等の外部駆動源からVベルト等を介して動力が伝達されることとなる。
【0039】
フロントハウジング4の小径軸部6Aが貫通する部位には、リップシール11が設置されている。このリップシール11は、メイン軸受7とサブ軸受8間の中間位置において駆動軸6の回りに配置され、ハウジング2内の吸入側圧力を利用することにより、ハウジング2内部から冷媒ガスが漏出しないよう、また、ハウジング2内部に外気が侵入しないよう、外気との間を気密にシールしている。
【0040】
駆動軸6の他端側(図において右側)には、大径軸部6Bが設けられ、さらにこの大径軸部6Bには、駆動軸6の軸線Lより所定寸法だけ偏心した状態で偏心ピン6Cが一体に設けられている。この大径軸部6Bおよび上記小径軸部6Aが、それぞれメイン軸受7およびサブ軸受8を介してフロントハウジング4に回転自在に支持される。そして、偏心ピン6Cには、ドライブブッシュ12、ドライブ軸受13を介して後述する旋回スクロール部材17が連結され、駆動軸6が回転されることにより、旋回スクロール部材17が旋回駆動されるようになっている。
【0041】
ドライブブッシュ12には、旋回スクロール部材17が旋回駆動されることにより生じるアンバランス荷重を除去するためのバランスウェイト14が設けられ、旋回スクロール部材17の旋回駆動と共に旋回されるようになっている。
リアハウジング3の内部には、スクロール圧縮機構15を構成する一対の固定スクロール部材16と旋回スクロール部材17が組み込まれる。固定スクロール部材16は、端板16Aと該端板16Aから立設された渦巻き状ラップ16Bとから構成され、一方、旋回スクロール部材17は、端板17Aと該端板17Aから立設された渦巻き状ラップ17Bとから構成される。
【0042】
固定スクロール部材16および旋回スクロール部材17は、それぞれ渦巻き状ラップ16B,17Bの先端面とボトム面との渦巻き方向に沿う所定位置に、それぞれ図示省略の段部を備えている。そして、この段部を境にしてラップ先端面では、軸線L方向に外周側の先端面が高く、内周側の先端面が低くされている。また、ボトム面では、軸線L方向に外周側のボトム面が低く、内周側のボトム面が高くされている。これによって、渦巻き状ラップ16B,17Bは、その外周側におけるラップ高さが内周側のラップ高さよりも高くされている。
【0043】
上記の固定スクロール部材16および旋回スクロール部材17は、各々の中心を旋回半径分だけ離すとともに、渦巻き状ラップ16B,17B同士が180度位相をずらせて噛み合わせた状態で組み込まれる。これによって、図1に示されるように、両スクロール部材16,17間には、端板16A,17Aと渦巻き状ラップ16B,17Bとにより限界される一対の圧縮室18が、スクロール中心に対して対称に形成されることとなる。圧縮室18は、その軸線L方向高さが渦巻き状ラップ16B,17Bの外周側において内周側の高さよりも高くされ、これによって、周方向およびラップ高さ方向に圧縮ができる三次元圧縮が可能な圧縮機構とされる。
【0044】
固定スクロール部材16は、リアハウジング3の内面にボルト19により固定設置される。また。旋回スクロール部材17は、端板17Aの背面に設けられているボス部17Cに、駆動軸6の一端側に設けられている偏心ピン6Cが前述のとおり連結され、旋回駆動されるようになっている。
また、旋回スクロール部材17は、フロントハウジング4に形成されているスラスト受け面に端板17Aの背面が支持されており、このスラスト受け面と旋回スクロール部材17の背面との間に介装されるオルダムリング等の自転阻止機構20により、旋回スクロール部材17は、自転が阻止されながら固定スクロール部材16に対して公転旋回駆動されるよう構成される。
【0045】
固定スクロール部材16の端板16Aの中央部には、圧縮された冷媒ガスを吐出する吐出ポート16Cが開口されており、この吐出ポート16Cには、端板16Aにリテーナ21を介して取付けられた吐出リード弁22が設けられる。さらに、固定スクロール部材16の端板16Aの外周面には、リアハウジング3の内周面に密接されるようOリング等のシール部材23が介装され、リアハウジング3の内面との間でハウジング2の内部空間から区画された吐出側空間24を形成している。これによって、スクロール圧縮機構15を境に、吐出側空間24を除くハウジング2の内部空間が、吸入側空間25として区画されることとなる。吸入側空間25には、図示省略の吸入口を介して冷凍サイクルから戻ってくる冷媒ガスが吸入され、この吸入側空間25を経て固定スクロール部材16と旋回スクロール部材17間に形成される圧縮室18に冷媒ガスが吸い込まれるようになっている。
【0046】
本実施形態においては、上記構成のスクロール型冷媒圧縮機において、さらに、図2に示されるように、リップシール11からスクロール圧縮機構15側となる位置、すなわちリップシール11とメイン軸受7との間に、仕切り板26によって吸入側空間25から仕切られたリップシール室27が形成される。
リップシール室27は、メイン軸受7をフロントハウジング4に圧入する際、フロントハウジング4とメイン軸受7の一側面との間にドーナツ形状の仕切り板26を付設し、この仕切り板26によりメイン軸受7の一側面を蓋うことにより形成することができる。つまり、メイン軸受7を構成するボール軸受の内輪と外輪間の隙間を仕切り板26により閉塞することによって、リップシール室27を周囲から遮蔽されたリップシール室27を形成している。
【0047】
上記仕切り板26の少なくともメイン軸受7(ボール軸受)の内輪が当接摺動する側面には、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(以下、PTFEという。)等の摺動性および耐摩耗性のコーティング26Aを施すことができる。
また、仕切り板26には、リップシール室27内に導入された中間圧の冷媒ガスを減圧して吸入側空間25に戻すための減圧孔26Bを設けることができる。
【0048】
リップシール室27には、大気圧よりも高く吐出圧力よりも低い中間圧の冷媒ガスがガス導入通路28を介して導入されることとなる。
ガス導入通路28は、一端が吐出側空間24に面して開口され、他端が固定スクロール部材16の最外周側壁内を軸線L方向に貫通してその他端面に開口される吐出ガス通路28Aと、この吐出ガス通路28Aの他端開口とフロントハウジング4との間に接続される管状ガス通路28Bと、管状ガス通路28Bが一端に接続され、他端がリップシール室27に開口されるようフロントハウジング4内に穿設されているガス通路28Cと、から構成される。
【0049】
吐出ガス通路28A内には、ストレーナ29と絞り30とが設けられ、吐出側空間24から導入される高圧冷媒ガスを、大気圧よりも高く吐出冷媒ガスの圧力よりも低い中間圧の冷媒ガスに減圧し、これを管状ガス通路28Bおよびガス通路28Cを経てリップシール室27に導入できるよう構成されている。
【0050】
続いて、本実施形態にかかるスクロール型圧縮機の作用を説明する。
外部駆動源からプーリー10および電磁クラッチ9を介して回転駆動力が駆動軸6に伝達され、駆動軸6が回転されると、駆動軸6の偏心ピン6Cにドライブブッシュ12およびドライブ軸受13を介して連結されている旋回スクロール部材17が、自転阻止機構20により自転を阻止されながら、固定スクロール部材16に対して公転旋回駆動される。
【0051】
この旋回スクロール部材20の公転旋回駆動により、半径方向最外方に形成される圧縮室18内に、吸入側空間25内の冷媒ガスが吸い込まれる。圧縮室18は、所定の旋回角位置で吸入締め切りされた後、その容積が周方向およびラップ高さ方向に減少されながら中心側へと移動される。この間に冷媒ガスは圧縮され、当該圧縮室18が吐出ポート16Cに連通する位置に達すると、吐出リード弁22が押し開かれて圧縮されたガスは吐出側空間24内に吐き出され、この圧縮冷媒ガスは、吐出側空間24を経て圧縮機外へと吐出される。
【0052】
しかして、吐出側空間24に吐出された高圧の冷媒ガスの一部は、ガス導入通路28内に、吐出ガス通路28Aの一端開口から導入され、ストレーナ29、絞り30を経て大気圧よりも高く吐出圧力よりも低い中間圧の冷媒ガスに減圧された後、管状ガス通路28Bおよびガス通路28Cを通ってリップシール室27に導入されることとなる。
このため、リップシール室27は、常に大気圧よりも高く吐出圧力よりも低い中間圧に維持されることとなるので、仮に、冷媒にR404Aを用いている圧縮機が極低温領域で使用され、蒸発温度が−45℃以下となり吸入圧力が大気圧以下となった場合でも、リップシール11を介して外気(空気等の不凝縮性ガス)がハウジング2内に侵入するのを防止することができる。
【0053】
従って、本実施形態によると、以下の効果を奏する。
リップシール室27内を常に大気圧よりも高い圧力に維持することができるので、吸入圧が外気よりも低い負圧状態となる運転条件下においても、リップシール11を通して外気から空気等の不凝縮性ガスがハウジング2内に侵入するのを防止することができる。このため、吸入圧が大気圧よりも低い負圧状態となってもスクロール型圧縮機1を継続して運転することができる。
また、吸入圧が負圧となる極低温条件下においても、外部駆動源により駆動されるタイプのスクロール型圧縮機1を使用することが可能となるため、スクロール型圧縮機1の運転可能範囲を拡大することができる。
【0054】
また、吸入圧が負圧となる運転を回避するための保護装置を不要とすることができるので、保護装置相当分のコスト低減を図ることができる。
また、仕切り板26の少なくともメイン軸受7(ボール軸受)の内輪が当接摺動する側面に、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(以下、PTFEという。)等の摺動性および耐摩耗性のコーティング26Aを施しているため、メイン軸受7の内輪が当接摺動することによる摺動損失を抑制することができるとともに、仕切り板26の磨耗を防止して十分な寿命を確保することができる。
【0055】
さらに、仕切り板26に、リップシール室27内に導入された中間圧の冷媒ガスを減圧して吸入側空間25に戻す減圧孔26Bを設けているため、リップシール室27内の圧力を常に絞り30により調整された中間圧に維持し、その過剰な圧力上昇を抑制することができる。従って、リップシール11に対する過剰な圧力負荷を防止し、リップシール11を保護することができる。また、この減圧孔26Bを利用してリップシール室27内で冷媒ガスから分離された潤滑油を速やかに吸入側空間25に戻すことができる。
また、ガス導入通路28がハウジング2内部に設けられているため、圧縮機1の外形形状に影響を及ぼすことがなく、そのコンパクト性を維持することができる。
【0056】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について、図3を用いて説明する。
本実施形態は、上記した第1実施形態に対して、リップシール室27を形成する仕切り手段の構成が異なっている。その他の点については第1実施形態と同様であるので、説明は省略する。
図3には、本実施形態にかかるリップシール室27付近の構成図が示されている。本実施形態において、リップシール室27は、フロントハウジング4とメイン軸受7の一側面との間に付設されるシールリング31によって形成される。
【0057】
シールリング31は、フロントハウジング4とメイン軸受7との間に圧入されるドーナツ形状のリング材31Aと、このリング材31Aの一側面に保持され、メイン軸受(ボール軸受)7の内輪の側面が当接摺動するリング状のシール材31Bとから構成される。なお、シール材31Bには、摺動性および耐摩耗性の面からPTFE樹脂が好適である。
また、シールリング31には、リップシール室27内に導入された中間圧の冷媒ガスを減圧して吸入側空間25に戻すための減圧孔31Cを設けることができる。
このような構成のシールリング31を用いることによっても、リップシール11とメイン軸受7との間に周囲から遮蔽されたリップシール室27を形成することができる。そして、このリップシール室27内にガス導入通路28を経て中間圧の冷媒ガスを導入することにより、リップシール室27内の圧力を常に大気圧よりも高く吐出圧力よりも低い中間圧に維持することができる。
【0058】
従って、本実施形態においても、上記した第1実施形態と同様の効果を得ることができる。また、シールリング36のメイン軸受7が当接摺動する部位が、PTFE製のリング状シール材36Bにより構成されているため、十分な摺動性および耐摩耗性を確保し、当該部位における摺動損失および磨耗を防止することができる。さらに、シールリング31に設けられている減圧孔31Cによって、リップシール室27内の過剰な圧力上昇を抑制することができるとともに、冷媒ガスから分離された潤滑油を吸入側空間25側に戻すことができる。
【0059】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態について、図4を用いて説明する。
本実施形態は、上記した第1および第2実施形態に対して、リップシール室27を形成する仕切り手段の構成が異なっている。その他の点については第1実施形態と同様であるので、説明は省略する。
図4には、本実施形態にかかるリップシール室27付近の構成図が示されている。本実施形態において、リップシール室27は、メイン軸受7を構成するすべり軸受7Aによって形成される。
【0060】
駆動軸6を支持するメイン軸受7としてすべり軸受7Aが用いられる場合、フロントハウジング4と駆動軸6との間に存在する隙間は、すべり軸受7Aのすべり隙間のみとなるため、このすべり軸受7Aによってリップシール室27を吸入側空間25から仕切ることができる。従って、上記により、リップシール11とすべり軸受7Aとの間に周囲から遮蔽されたリップシール室27を形成することができる。そして、このリップシール室27内にガス導入通路28を経て中間圧の冷媒ガスを導入することにより、リップシール室27内の圧力を常に大気圧よりも高く吐出圧力よりも低い中間圧に維持することができる。
また、本実施形態においても、リップシール室27内に導入された中間圧の冷媒ガスを減圧して吸入側空間25に戻すための減圧通路32を設けることができる。この場合、減圧通路32は、フロントハウジング4におけるすべり軸受7Aの圧入部内面に軸線L方向に沿って設けられる溝により構成することができる。
【0061】
従って、本実施形態によっても、上記した第1実施形態と同様の効果をえることができる。また、本実施形態の場合、リップシール室27を形成する仕切り手段として、駆動軸6を支持するすべり軸受7A(メイン軸受7)を利用できるので、軸受以外の別個の仕切り部材を不要とすることができるため、第1および第2実施形態に比べ内部構造を簡素化することができる。
【0062】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態について、図5を用いて説明する。
本実施形態は、上記した第1ないし第3実施形態に対して、ガス導入通路41の構成が異なっている。その他の点については第1実施形態と同様であるので、説明は省略する。
図5には、本実施形態にかかるスクロール型冷媒圧縮機1の縦断面図が示されている。本実施形態において、ガス導入通路41は、旋回スクロール部材17の背面に構成される背圧室42に連通される。
【0063】
背圧室42は、旋回スクロール部材17の端板背面に設けられているボス部17C内に形成される。ボス部17Cには、上述のとおりドライブ軸受13を介してドライブブッシュ12が嵌合されている。このドライブブッシュ12の頂面とボス部17Cの内面との間に、リング状のU字断面を有するUシール43を介装することによって、吸入側空間25から区画された背圧室42を形成することができる。
旋回スクロール部材17の端板17Aには、圧縮済の高圧冷媒ガスを圧縮室18から背圧室42に導入するための高圧冷媒ガス導入孔44が設けられる。
【0064】
背圧室42に連通されるガス導入通路41は、偏心ピン6Cとこれに嵌合されるドライブブッシュ12との間に形成され、背圧室42に連なる隙間通路41Aと、駆動軸6の大径軸部6Bを軸線L方向に貫通して設けられ、隙間通路41Aとリップシール室27との間を連通する貫通孔41Bとにより構成される。貫通孔41Bには、高圧冷媒ガスを減圧するための絞り45が設けられる。
また、駆動軸6の大径軸部6Bには、ドライブブッシュ12との間の軸線L方向隙間をシールするためのPTFE樹脂製シールリング46が設けられる。
【0065】
上記構成によると、圧縮室18で圧縮された高圧冷媒ガスの一部を、高圧冷媒ガス導入孔44を介して背圧室42に導入することができる。この高圧冷媒ガスは、背圧室42内において、公知の如く、旋回スクロール部材17の端板17Aに負荷される圧縮室18内の圧縮ガスに対する反力として作用する。これによって、端板17Aの圧力変形の防止、両渦巻き状ラップ16B,17Bのチップ面のシール性向上、さらには旋回スクロール部材17のスラスト支持面にかかるスラスト荷重の低減等の機能が達成される。
【0066】
一方、背圧室42内において、上記の用に供された高圧冷媒ガスは、その後、ガス導入通路41を構成する隙間通路41Aおよび貫通孔41Bを経て、この間に絞り45により減圧され、大気圧よりも高く吐出圧力よりも低い中間圧の冷媒ガスとなってリップシール室27に導入される。これにより、リップシール室27内の圧力を常に大気圧よりも高く吐出圧力よりも低い中間圧に維持することができる。
【0067】
従って、本実施形態によっても、第1実施形態と同様、吸入圧が大気圧よりも低い負圧状態となる運転条件下においても、リップシール11を通して外気から空気等の不凝縮性ガスがハウジング2内に侵入するのを防止することができる。このため、吸入圧が大気圧よりも低い負圧状態となる極低温領域でも、スクロール型圧縮機1を継続して運転することが可能となり、その運転可能範囲を拡大することができる。
【0068】
[第5実施形態]
次に、本発明の第5実施形態について、図6を用いて説明する。
本実施形態は、上記した第4実施形態に対して、背圧室42に圧縮ガスを導入する中間圧冷媒ガス導入孔51の構成が異なっている。その他の点については第4実施形態と同様であるので、説明は省略する。
図6には、本実施形態にかかるスクロール型冷媒圧縮機1の縦断面図が示されている。本実施形態においては、旋回スクロール部材17の端板17Aに、圧縮途中の中間圧の冷媒ガスを、絞り52を介して背圧室42に導入するための中間圧冷媒ガス導入孔51が設けられている。そして、この中間圧冷媒ガス導入孔51を介して圧縮室18から圧縮途中の中間圧の冷媒ガスを背圧室42に導入することができる。
【0069】
このような構成とすることによっても、圧縮室18から絞り52を有する中間圧冷媒ガス導入孔51、背圧室42、ガス導入通路41を介して、大気圧よりも高く吐出圧力よりも低い中間圧の冷媒ガスをリップシール室27に導入することができる。このため、リップシール室27内の圧力を常に大気圧よりも高く吐出圧力よりも低い中間圧に維持することができる。
従って、本実施形態によっても、上記した第4実施形態と同様の効果を得ることができる。なお、本実施形態の場合、圧縮ガス導入孔51内に絞り52を設けているため、ガス導入通路41を構成する貫通孔41B内の絞り45は省略されることとなる。
【0070】
[第6実施形態]
次に、本発明の第6実施形態について、図7を用いて説明する。
本実施形態は、上記した第1ないし第5実施形態に対して、ガス導入通路61の構成が異なっている。その他の点については第1ないし第5実施形態と同様であるので、説明は省略する。
図6には、本実施形態にかかるスクロール型冷媒圧縮機1の縦断面図が示されている。本実施形態にあって、ガス導入通路61は、ハウジング2の外部において管路61Aにより構成される。
【0071】
管路61Aは、一端が継ぎ手61Bを介してリアハウジング3に接続され、ハウジング2内の吐出側空間24に連通されるとともに、他端が継ぎ手61Cを介してフロントハウジング4に接続され、ハウジング2内のリップシール室27に連通される。この管路61A中には、キャピラリチューブ等の絞り62が設けられる。
ここで、管路61Aは、リップシール室27の上方部位に連通されるよう継ぎ手61Cがフロントハウジング4に接続される。また、リップシール室27を仕切る仕切り板26に設けられる減圧孔26Bは、リップシール室27の下方部位に設けられる。
また、管路61A中に電磁弁等の開閉手段63を設け、この開閉手段63を、吸入側圧力を検出してそれが設定圧以下のとき、開放されるよう構成してもよい。
【0072】
上記のように、ガス導入通路61をハウジング2の外部に配設することにより、吐出側空間24から高圧の冷媒ガスの一部を一旦ハウジング2の外部に導出し、これを管路61Bを経る途中で絞り62により減圧し、大気圧よりも高く吐出圧力よりも低い中間圧の冷媒ガスとした後、再びハウジング2内のリップシール室27に導入することができる。
このような構成とすることによっても、リップシール室27内の圧力を常に大気圧よりも高く吐出圧力よりも低い中間圧に維持することができるため、吸入圧が大気圧よりも低い負圧状態となる条件下においても、リップシール11を通して外気から空気等の不凝縮性ガスがハウジング内に侵入するのを防止することができる。
【0073】
従って、本実施形態によっても、上記した第1実施形態と同様の効果を得ることができる。また、本実施形態の場合、スペース的に狭隘で構造物の多いハウジング2の内部を避け、ハウジング2の外部に管路61Aにより構成されるガス導入通路61を配設しているため、ガス導入通路61を簡便に構成することができる。また、管路61A、継ぎ手61B,61C、絞り62の全てをスクロール型圧縮機1に付属させて設けることができるため、圧縮機単体でハウジング2内への外気侵入防止機能を完結することができる。
【0074】
また、ガス導入通路61を構成する管路61Aがリップシール室27の上方部位に連通接続され、リップシール室27内の冷媒ガスを吸入側空間25に戻す減圧孔26Bがリップシール室27の下方部位において仕切り板26に設けられているため、リップシール室27の過剰な圧力上昇を抑制できるのみならず、ガス導入通路61により冷媒ガス中に含まれてリップシール室27に導入され、そこで冷媒ガスから分離されてリップシール室27に溜まる潤滑油を、減圧孔26Bから速やかに排出することができる。このため、リップシール室27の機能を適正に発揮させることができるとともに、リップシール室27への潤滑油の不要な溜まり込みを防止することができる。
【0075】
さらに、管路61A中に電磁弁等の開閉手段63を設け、これを吸入力が設定圧以下のとき、開放するようにしているため、吸入側圧力が大気圧以下の負圧となるおそれがある場合に限り、開閉手段63を開き、ガス導入通路61を介してリップシール室27に中間圧の冷媒ガスを導入し、リップシール室27内を大気圧より高く吐出圧力よりも低い中間圧とすることができる。従って、これによっても、リップシール11を通して外気が侵入するのを防止することができる。また、この場合、通常の運転時には、開閉手段63を閉じておくことができるため、リップシール室27に圧縮ガスの一部が導入されることによって生じるガスの再圧縮による微小な効率低下を防止することができる。なお、吸入側圧力の検出には、通常冷凍サイクルの吸入側系路に設置される低圧センサをそのまま利用することができる。
【0076】
[第7実施形態]
次に、本発明の第7実施形態について、図8を用いて説明する。
本実施形態は、上記した第1ないし第6実施形態に対して、ガス導入通路71の構成が異なっている。その他の点については第1ないし第6実施形態と同様であるので、説明は省略する。
図8には、本実施形態にかかるスクロール型冷媒圧縮機1を含む冷凍サイクル図が示されている。本実施形態において、スクロール型冷媒圧縮機1は、図7に示したものと同様の構成であってもよく、ガス導入通路71は、ハウジング2の外部において管路71Aにより構成される。
【0077】
管路71Aは、スクロール型圧縮機1、オイルセパレータ74、凝縮器75、ドライヤ76、膨張弁77、蒸発器78等を冷媒配管により接続して構成される冷凍サイクルの高圧ガス系路、すなわちスクロール型圧縮機1から凝縮器75に至るまでの間の冷媒回路に一端が接続され、他端が継ぎ手71Bを介してフロントハウジング4に接続され、ハウジング2内のリップシール室27に連通される。この管路71A中には、キャピラリチューブ等の絞り72と電磁弁等の開閉手段73とが設けられる。
【0078】
上記のような構成とすることによって、スクロール型圧縮機1から冷凍サイクルへと吐出された高圧冷媒ガスの一部を、ガス導入通路71を介して絞り72により減圧し、大気圧よりも高く吐出圧力よりも低い中間圧の冷媒ガスとしてリップシール室27に導入することにより、リップシール室27内の圧力を常に大気圧よりも高く吐出圧力よりも低い中間圧に維持することができる。このため、吸入圧が大気圧よりも低い負圧状態となる条件下においても、リップシールを通して外気から空気等の不凝縮性ガスがハウジング内に侵入するのを防止し、圧縮機1の運転を継続することができる。
【0079】
従って、本実施形態によっても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
また、スペース的に狭隘で構造物の多いハウジング2の内部を避けて、ハウジング2の外部にガス導入通路71を配設しているため、ガス導入通路71を簡便に構成することができる。
また、管路71A中に電磁弁等の開閉手段73を設けているため、上記第6実施形態と同様に、吸入圧が大気圧以下になる可能性のある場合のみ、開閉手段73を開け、リップシール室27内に中間圧の冷媒ガスを導入して、リップシール11からの外気侵入を防止するようにし、通常運転時は効率優先の運転を行わせることが可能となる。
【0080】
なお、上記第6実施形態において説明した、ガス導入通路61をリップシール室27の上方部位に連通接続し、減圧孔26Bをリップシール室27の下方部位に設ける構成は、他の各実施形態においても同様に適用することができる。
同様に、第6および第7実施形態において説明した、ガス導入通路61,71中に開閉手段63,73を設ける構成は、他の各実施形態においても適用可能である。
また、上記第4ないし第7実施形態におけるリップシール室27を形成するための仕切り手段は、第1ないし第3実施形態に示された仕切り手段のいずれであってもよい。
【0081】
さらに、上記各実施形態では、スクロール型圧縮機を例に説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、外部駆動源により駆動される開放タイプの他の回転型、揺動型、往復動型、斜板型等の圧縮機にも広く適用することが可能である。特に、冷凍車等のように走行用エンジンもしくはサブエンジンで駆動される圧縮機が搭載される冷凍ユニット用であって、冷媒の蒸発温度がマイナス数十度となる低温輸送用に適用される冷凍ユニットの圧縮機として好適なものである。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の第1実施形態に係るスクロール型圧縮機の縦断面である。
【図2】図1に示すスクロール型圧縮機の部分拡大図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係るスクロール型圧縮機の部分拡大図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係るスクロール型圧縮機の部分拡大図(A)とその右側面図(B)である。
【図5】本発明の第4実施形態に係るスクロール型圧縮機の縦断面図である。
【図6】本発明の第5実施形態に係るスクロール型圧縮機の縦断面図である。
【図7】本発明の第6実施形態に係るスクロール型圧縮機の縦断面図である。
【図8】本発明の第7実施形態に係るスクロール型圧縮機を含む冷凍サイクル図である。
【符号の説明】
【0083】
1 スクロール型圧縮機
2 ハウジング
6 駆動軸
7 メイン軸受
7A すべり軸受
11 リップシール
15 スクロール圧縮機構
16 固定スクロール部材
17 旋回スクロール部材
18 圧縮室
24 吐出側空間
25 吸入側空間
26 仕切り板
26A コーティング
26B 減圧孔
27 リップシール室
28,41,61,71 ガス導入通路
30,45,52,62,72 絞り
31 シールリング
31B シール材
31C 減圧孔
32 減圧通路
42 背圧室
44 高圧冷媒ガス導入孔
51 中間圧冷媒ガス導入孔
61A 管路
63,73 開閉手段




【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機構と、該圧縮機構を駆動する駆動軸と、前記圧縮機構および前記駆動軸が内部に収容設置されるハウジングとを備え、
前記ハウジングの内部は、前記圧縮機構を境に吸入側空間と吐出側空間とに区切られ、
前記駆動軸は、前記吸入側空間内にて前記ハウジングにその軸線回りに軸受を介して回転可能に支持され、その一端が前記圧縮機構に連結されるとともに、他端が前記ハウジングを貫通して外部に突出されて外部駆動源により駆動されるよう構成され、
前記ハウジングの前記駆動軸が貫通する部位に、外気と前記吸入側空間との間をシールするリップシールが設置される冷媒圧縮機において、
前記ハウジング内には、前記リップシールから前記圧縮機構側に、仕切り手段により前記吸入側空間から仕切られるリップシール室が形成され、
該リップシール室には、大気圧よりも高く吐出圧力よりも低い中間圧の冷媒ガスを導入するガス導入通路が設けられることを特徴とする冷媒圧縮機。
【請求項2】
前記圧縮機構は、固定スクロール部材と旋回スクロール部材とが噛み合わされて圧縮室が形成されるスクロール圧縮機構により構成されることを特徴とする請求項1に記載の冷媒圧縮機。
【請求項3】
前記ガス導入通路は、前記ハウジング内部において前記吐出側空間に連通され、前記ガス導入通路中に設けられる絞りを介して前記中間圧の冷媒ガスが前記リップシール室に導入されることを特徴とする請求項1または2に記載の冷媒圧縮機。
【請求項4】
前記ガス導入通路は、前記ハウジング内部において前記圧縮機構の圧縮室に連通され、前記ガス導入通路中に設けられる絞りを介して前記中間圧の冷媒ガスが前記リップシール室に導入されることを特徴とする請求項1または2に記載の冷媒圧縮機。
【請求項5】
前記圧縮機構のスクロール部材背面には、圧縮済ないし圧縮中の冷媒ガスの一部が導入される背圧室が設けられ、該背圧室を介して前記ガス導入通路が前記圧縮室に連通させることを特徴とする請求項4に記載の冷媒圧縮機。
【請求項6】
前記ガス導入通路は、前記ハウジングの外部に配設され、その一端が前記吐出側空間に連通接続されるとともに、他端が前記リップシール室に連通接続される管路により構成され、該管路中に設けられる絞りを介して前記中間圧の冷媒ガスが前記リップシール室に導入されることを特徴とする請求項1または2に記載の冷媒圧縮機。
【請求項7】
前記ガス導入通路は、前記ハウジングの外部に配設され、その一端が冷凍サイクルの高圧ガス系路に連通接続されるとともに、他端が前記リップシール室に連通接続される管路により構成され、該管路中に設けられる絞りを介して前記中間圧の冷媒ガスが前記リップシール室に導入されることを特徴とする請求項1または2に記載の冷媒圧縮機。
【請求項8】
前記ガス導入通路には、吸入側圧力が設定圧以下のときに開放される開閉手段が設けられることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の冷媒圧縮機。
【請求項9】
前記仕切り手段は、前記駆動軸を支持する前記軸受の一側面を蓋って当該軸受と共に前記ハウジングに付設される仕切り板により構成されることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の冷媒圧縮機。
【請求項10】
前記仕切り板の少なくとも前記軸受の一部が当接摺動する面には、摺動性および耐摩耗性のコーティングが施されることを特徴とする請求項9に記載の冷媒圧縮機。
【請求項11】
前記仕切り手段は、前記駆動軸を支持する前記軸受の一側面を蓋うとともに、該軸受の一部が当接摺動するシール材を備え、当該軸受と共に前記ハウジングに付設されるシールリングにより構成されることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の冷媒圧縮機。
【請求項12】
前記仕切り手段は、前記駆動軸を支持する前記軸受を構成するすべり軸受により構成されることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の冷媒圧縮機。
【請求項13】
前記仕切り手段には、前記リップシール室内に導入された前記中間圧の冷媒ガスを減圧して前記吸入側空間に戻す減圧通路が設けられることを特徴とする請求項1ないし12のいずれかに記載の冷媒圧縮機。
【請求項14】
前記ガス導入通路は、前記リップシール室の上方部位に連通され、前記減圧通路は、前記リップシール室の下方部位において前記仕切り手段に設けられることを特徴とする請求項13に記載の冷媒圧縮機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−19802(P2008−19802A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−192927(P2006−192927)
【出願日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】