分光計測装置及び分光計測方法
【課題】空間的、時間的に分解能の高い高感度な分光計測装置及びその方法を提供する。
【解決手段】被測定物Sの1輝点から多様な方向に向かって放射状に生じる散乱光や蛍光発光等の光線群(「物体光」ともいう)は、対物レンズ12に入射し、透過した後、位相シフター14の固定ミラー部15及び可動ミラー部16に到達する。そして、固定ミラー部15及び可動ミラー部16でそれぞれ反射された後、結像レンズ22により検出部24の結像面で干渉像を形成する。このような状態で、可動ミラー部16を移動させると、検出部の結像面における干渉光の強度が徐々に変化し、インターフェログラムと呼ばれる結像強度変化(干渉光強度変化)の波形が得られる。このインターフェログラムをフーリエ変換することにより、被測定物Sの一輝点から発せられた光の波長毎の相対強度である分光特性を取得することができる。
【解決手段】被測定物Sの1輝点から多様な方向に向かって放射状に生じる散乱光や蛍光発光等の光線群(「物体光」ともいう)は、対物レンズ12に入射し、透過した後、位相シフター14の固定ミラー部15及び可動ミラー部16に到達する。そして、固定ミラー部15及び可動ミラー部16でそれぞれ反射された後、結像レンズ22により検出部24の結像面で干渉像を形成する。このような状態で、可動ミラー部16を移動させると、検出部の結像面における干渉光の強度が徐々に変化し、インターフェログラムと呼ばれる結像強度変化(干渉光強度変化)の波形が得られる。このインターフェログラムをフーリエ変換することにより、被測定物Sの一輝点から発せられた光の波長毎の相対強度である分光特性を取得することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ライフサイエンスの分野における極微小な単一細胞内の生体成分分析技術や、ナノテクノロジーの分野における微細構造デバイスの材料評価技術として有用な分光計測装置及び分光計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトゲノム計画が終了し、ライフサイエンス分野においてはポストゲノムと呼ばれる時代を迎えるに至った。ポストゲノム時代においては、ヒトゲノム計画で構造解析が行われた人間の設計図とも呼ばれる、およそ30億もの塩基対で構成される塩基配列の機能的な役割を明らかにすることに重点をおいて研究が進められている。しかし、人体はおよそ60兆個という膨大な数の細胞から構成されていると言われており、このような人体を用いて30億の塩基対の一部の塩基配列の違いによる生体機能への影響を評価するのは容易ではない。そこで、ポストゲノム時代においては、シャーレなどで培養した生きたままの細胞を用いて機能解明を行う研究が強力に推進されている。
【0003】
また、テーラーメイド治療やオーダーメイド医療と呼ばれる、個々人の体質に適合した治療方法を選定する臨床的な試みがなされてきている。具体的には、例えば外科的に採取したガン細胞(腫瘍細胞)をシャーレ上で培養し、この培養細胞を用いて複数の抗ガン剤の効果を実験的に検証することにより特定の個人に効果的な薬剤を選定する。そのためには、直径が十ミクロン程度の極微小な単一細胞の内部における生体成分の変化を詳細に観察する必要がある。
【0004】
このようなライフサイエンス分野の研究開発や需要を背景に、単一細胞内部の生体成分分布を、高い空間解像度で詳細に観察する技術が鋭意研究開発されている。その代表的な観察手法として、蛍光物質により特定の成分を標識し、その蛍光の空間的な位置を観察することにより生体成分の空間的な分布を測定する方式が挙げられる。
特定の生体成分を標識する蛍光物質としては、例えば量子ドットや緑色蛍光タンパク質(GFP:Green Florescent Protein)が用いられている。量子ドットは、その粒径に応じて異なる色の蛍光を発する数十ナノ程度の極微小粒子である。そこで、粒径の揃った1ないし複数種類の量子ドットを作り、特定の生体成分に化学的に結合させれば、量子ドットが発する蛍光の空間的な分布を観察することにより特定の生体成分の空間的な分布を間接的に計測することができる。
【0005】
微小粒子内における蛍光の分布を計測する技術として、分散型分光法或いはフーリエ分光法と呼ばれる分光技術を用いた手法が提案されている(非特許文献1参照)。
波長分散型分光法は、測定試料を透過した光、或いは測定試料面で反射した光(以下、物体光という)を回折格子に照射したときに、当該物体光の波長に応じて回折角が異なる原理を利用した分光法である。
【0006】
一方、フーリエ分光法は、マイケルソン型の2光束干渉光学系を用いた位相シフト干渉による分光計測技術である。物体光をハーフミラーなどのビームスプリッタにより2分岐し、それぞれの光束をミラーにより反射させて再度ハーフミラーに到達させ、2光束を合流させて干渉現象を観察する。2分岐した光束のうちの一方(参照光)を反射するミラーは参照ミラーと呼ばれる。フーリエ分光法では、参照ミラーを光の波長よりも短い分解能で高精度に移動させて干渉光強度を変化させ、いわゆるインターフェログラムを検出し、このインターフェログラムを数学的にフーリエ変換することにより分光特性を取得する。
【0007】
測定試料面から射出される物体光の光線方向は、散乱、屈折、反射等により様々な方向となる。このように多様な方向の光線成分が回折格子や参照ミラーに照射されると、分光精度が低下する。そのため、いずれの分光法においても物体光の空間的コヒーレンシー(可干渉性)を高めるために、微小開口を有するピンホールやスリットを用いて物体光のうち特定方向の光線成分のみを回折格子や参照ミラーに照射させている。求められる分光性能にもよるが、分散型分光法では穴径が数十ミクロン程度のピンホールが、フーリエ分光法では数ミリ程度の開口幅を有するスリットが用いられる。
【非特許文献1】平石次郎編「フーリエ変換赤外分光法」学会出版センター, 1985年11月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、ピンホールやスリットを用いると、大半の物体光はピンホールやスリットを通過せず、計測に用いられないことから、光の利用効率が低い。上述した量子ドットやGFPが発する蛍光は、量子効率の高い高感度冷却CCDカメラでやっと観察できる程度の極微弱光である。このため、従来の分光技術は微弱光計測には不向きであり、単一細胞内部の任意の位置で発する蛍光を観察したり、その蛍光色を弁別したりすることは困難であった。
【0009】
また、いずれの分光法も、測定試料上の所定の測定領域から生じている光の全てについて分光を行うことから、測定領域内の平均的な分光特性を取得することとなる。この測定領域の面積を狭くすれば空間解像度は向上するが、検出される物体光の総量は少なくなり分光感度は低下する。また、試料上の1点から生じた物体光を計測する技術であることから2次元で分光計測するためには測定領域を2次元で走査しなくてはならない。従って、2次元分光像の空間解像度は測定領域面積だけではなく、各計測点の間隔にも大きく依存する。そのため、高い空間解像度で2次元分光する為には、測定領域面積を狭くし、かつ空間的に高い密度で計測点を設けなくてはならず、測定時間が長くなる。測定時間が長くなると、生きたままの細胞など動きを伴う試料を分光計測する場合には、測定時間内に測定対象が移動してしまい、画像にぶれを生じる。
また、測定試料が光学的に透明体の場合、深さ方向の測定領域を限定して分光を行うことはできない。そのため、例えば3次元の分光吸収率分布などは計測できなかった。
【0010】
上記した課題はライフサイエンスの分野に限らず、半導体メモリーや液晶、プラズマ、有機EL方式によるフラットパネルディスプレイなど、ナノメートルオーダーの微細構造を有する電子デバイスの製品がめざましい発展を遂げているナノテクノロジーの分野でも存在する。つまり、微細構造デバイスの分光計測による材料評価技術としても、2次元、あるいは3次元の高い空間解像度を有する分光光学手法の需要は高い。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、空間的、時間的に分解能の高い高感度な分光計測装置及びその方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために成された本発明に係る分光計測装置は、
a) 被測定物の各測定点から多様な方向に向かって発せられた光が入射する分割光学系と、
b) 前記分割光学系を透過した光をほぼ同一点に導き干渉像を形成するを結像光学系と、
c) 前記干渉像の光強度を検出する検出部と、
d) 前記分割光学系から前記結像光学系に向かう光の一部と残りの光の相対的な光学光路長差を伸縮する光路長差伸縮手段と、
e) 前記光路長差伸縮手段によって光学光路長差を伸縮させることにより前記検出部で検出される光強度変化に基づき、前記被測定物の各測定点のインターフェログラムを求め、このインターフェログラムをフーリエ変換することによりスペクトルを取得する処理部と、
を備えることを特徴とする。
【0013】
また、同じ原理であるが、別の構成として本発明に係る分光計測装置は、
a) 被測定物の各測定点から多様な方向に向かって発せられた光を第1反射部と第2反射部とに分割して導く分割光学系と、
b) 前記第1及び第2反射部によって反射された光をほぼ同一点に導き干渉像を形成する結像光学系と、
c) 前記第1及び第2反射部を相対的に移動させることにより前記分割光学系から前記第1反射部を経て前記結像光学系に向かう光と前記分割光学系から前記第2反射部を経て前記結像光学系に向かう光の光学光路長差を伸縮する光路長差伸縮手段と、
d) 前記干渉像の光強度を検出する検出部と、
e) 前記光路長差伸縮手段によって光学光路長差を伸縮させることにより前記検出部で検出される光強度変化に基づき、前記被測定物の各測定点のインターフェログラムを求め、このインターフェログラムをフーリエ変換することによりスペクトルを取得する処理部と、
を備えることを特徴とする。
【0014】
上記構成においては、第1及び第2反射部の反射面を、それぞれ分割光学系を透過した平行光束の光軸に対して45°傾いた状態で配置すると、第1及び第2反射部で反射した光をそのまま結像光学系に導くことができる。
【0015】
更に、本発明の分光計測方法は、
a) 被測定物の各測定点から多様な方向に向かって発せられた光を分割光学系によって位相固定光線群と位相可変光線群に分割し、
b) 前記位相可変光線群の光学光路長差を伸縮させつつ前記位相可変光線群と前記位相固定光線群を結像光学系によってほぼ同一点に導いて干渉像を形成させ、
c) 前記干渉像の光強度変化に基づき前記被測定物の各測定点のインターフェログラムを求め、このインターフェログラムをフーリエ変換することによりスペクトルを取得することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る分光計測装置及び分光計測方法は、結像光学系を用いたものであり、被測定物を光学的に構成する各輝点から生じる光を分割光学系で分割し、分割された光同士の干渉現象を利用して被測定物のインターフェログラムを求めている。ここで、「分割光学系」の用語は、各輝点からの光を単純に分割するものとして、光学的に光を波長毎に分割する「分光光学系」と区別して用いている。
本発明では、分割光学系を透過してきた光線の全てを分析に用いることができるため、極めて光の利用効率が高く、微弱光計測に適している。
また、本発明は結像光学系を用いていることから、検出部として1次元の検出デバイスを用いれば高感度な1次元分光計測が可能となり、2次元の検出デバイスを用いれば高感度な2次元の分光計測が可能となる。
【0017】
一般に、結像光学系の空間解像度は、λ/NAに比例して決まることが知られている。なお、λは光の波長、NAは対物レンズの数値開口数(Numerical Aperture)を示す。従って、高NAの対物レンズを用いれば高い解像度を得ることができる。また、液侵レンズや変形照明など超解像技術を組み合わせて用いれば、解像度の一層の向上を図ることができる。
【0018】
更に、本発明では、分割光学系の合焦位置から発せられ結像に作用する光線のみの分光特性を計測できる。これにより、分割光学系を構成する対物レンズあるいは試料を焦点深度方向に移動させ合焦位置を移動させることにより3次元の分光特性を取得できる。
焦点深度はλ/NA2に比例して光学的に決定されることから、超解像技術を用いて高NA光学システムを用いれば深さ方向の空間的な分解能も容易に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
物体に光を照射すると、反射、屈折、散乱、蛍光など様々な光学現象に起因して物体光が生成される。これらの生成された光により物体を光学的にモデル化すると、理想的な点光源である輝点の集合体と見なすことができる。照明方式や物体光を生成する光学現象により指向性は異なるが、理想的な点光源である1つの輝点からは、放射状に光線が射出される。このように光学的に物体を構成している輝点群を、レンズを用いて結像面上に再構成して光学的に共役な輝点群を像として形成するのが結像光学系であり、本発明はこの結像光学系を用いている。
【0020】
本発明では、物体を光学的に構成する各輝点から生じる物体光を2つの光線群に分割し、これら光線群同士の干渉現象によって検出器の結像面に形成される干渉光強度(結像強度)を検出する。2つの光線群の相対的な光路長差を変化させると、両光線群を構成する種々の波長の光線の干渉光強度は、その波長の長さに応じて周期的に変化することから、干渉光強度変化、即ちインターフェログラムを取得することができる。このインターフェログラムをフーリエ変換することにより波長ごとの相対強度である分光特性を取得することができる。
【0021】
また、物体を構成する各輝点から生じる物体光が入射する対物レンズの合焦位置を走査可能に構成すれば、物体の三次元画像を取得することができる。例えば蛍光色素で物体内に含まれるであろう特定成分を標識した場合、物体に励起光を照射することにより蛍光色素が自発光体となって多様な方向に光線が射出する。この光線の干渉光強度を検出することにより、細胞を生きたままの状態で内部の詳細な成分分布を観察することができる。また、照明光により励起された電気双極子から生じる電界成分である散乱光線についても同様である。
【0022】
蛍光発光や散乱光線の場合、各輝点間の光線の初期位相は必ずしも一致していない。つまり、物体上に初期位相の揃わない輝点が多数分布していると光学的にモデル化して考えられる。しかし、物体面から結像面に至るまでの空間において、各光線の光路を辿れば、物体を光学的に構成している1つの輝点から発生した光線群は結像面上で位相が揃って1点に集光することにより結像していると考えることができる。
以下、本発明を分光計測装置である分光断層像計測装置に適用した具体的な実施例について説明する。
【実施例1】
【0023】
図1〜図8は本発明の第1の実施例を示しており、図1は本実施例に係る分光断層像計測装置10の全体構成の概略図である。図示しない光源から被測定物Sに対して光が照射されることにより当該被測定物Sの1輝点から多様な方向に向かって放射状に生じる散乱光や蛍光発光等の光線群(「物体光」ともいう)は、対物レンズ12に入射し、平行光束へ変換される。
前記対物レンズ12は、レンズ駆動機構13によって光軸方向に移動可能に構成されている。レンズ駆動機構13は、対物レンズ12の合焦位置を走査するためのもので、例えばピエゾ素子により構成することができる。
【0024】
なお、対物レンズ12を透過した後の光束は完全な平行光束である必要はない。後述するように、1つの輝点から生じた光線群を2分割あるいはそれ以上に分割できる程度に広げることができればよい。ただし、平行光束でない場合は、後述の位相シフト量に応じて生じる位相差量に誤差を生じ易い。従って、より高い分光計測精度を得るためにはできるだけ平行光束とすることが望ましい。
【0025】
対物レンズ12を透過してきた平行光束は位相シフター14に到達する。位相シフター14は、例えば図2に示すように、矩形板状の固定ミラー部15、その中央の円孔部15aに挿入された円柱状の可動ミラー部16、可動ミラー部16を保持する保持部17、保持部17を移動する駆動ステージ18を備えて構成されている。固定ミラー部15及び可動ミラー部16の表面は光学的に平坦で且つ本装置10が計測対象とする光の波長帯域を反射可能な光学鏡面となっている。
【0026】
本実施例では、位相シフター14が本発明の光路長差伸縮手段に相当し、固定ミラー部15及び可動ミラー部16がそれぞれ第1及び第2反射部に相当する。
なお、以下の説明では、位相シフター14に到達した光束のうち固定ミラー部15の反射面に到達して反射される光束を固定光線群、可動ミラー部16の反射面に到達して反射される光束を可動光線群ともいう。
【0027】
駆動ステージ18は、例えば静電容量センサーを具備する圧電素子から構成されており、制御部20からの制御信号を受けて保持部を矢印A方向に移動する。これにより、可動ミラー部16は光の波長に応じた精度で矢印A方向に移動する。分光計測能力にもよるが、例えば可視光領域では10nm程度の高精度な位置制御が必要となる。
【0028】
また、位相シフター14は、対物レンズ12からの平行光束の光軸に対して固定ミラー部15及び可動ミラー部16の反射面が45度傾くように配置されている。駆動ステージ18は、可動ミラー部16の反射面の光軸に対する傾きを45度に維持した状態で当該可動ミラー部16を移動する。このような構成により、可動ミラー部16の光軸方向の移動量は、駆動ステージ18の移動量の1/√2となる。また、固定光線群と可動光線群の2光束間の相対的な位相変化を与える光路長差は、可動ミラー部16の光軸方向の移動量の2倍となる。
【0029】
このように固定ミラー部15及び可動ミラー部16を斜めに配置すれば、光線を分岐するためのビームスプリッタが不要となるため、物体光の利用効率を高くすることができる。また、可動ミラー部16を傾けたことにより、駆動ステージ18の移動量に対する可動ミラー部16の光軸方向の移動量が小さくなるため、ステージ移動誤差の分光計測精度への劣化の影響を小さくできる。
【0030】
位相シフター14に到達し、固定ミラー部15及び可動ミラー部16の反射面で反射された固定光線群及び可動光線群は、それぞれ結像レンズ22により収束されて検出部24の結像面に入る。検出部24は例えば二次元CCDカメラから構成されている。固定ミラー部15の反射面と可動ミラー部16の反射面は、検出部24の結像面で2つの光線群の集光位置がずれない程度の精度で平行に構成されている。
【0031】
上記構成を有する分光断層像計測装置10の光学的作用について説明する。
まず、蛍光や散乱光など初期位相が必ずしも揃っていない光線群が、対物レンズ12と結像レンズ22を経て検出部24の結像面で位相が揃った波として1つの点に集光し、輝点像(干渉像)を形成する光学モデルに基づいて説明する。
【0032】
前述したように、被測定物Sの一輝点から発せられた光線群は、対物レンズ12を経て位相シフター14の固定ミラー部15及び可動ミラー部16の表面に到達する。このとき、図4(a)に示すように、固定ミラー部15の表面及び可動ミラー部16の表面に光線群が二分割されて到達する。なお、固定ミラー部15の表面に到達した光線群即ち固定光線群と、可動ミラー部16の表面に到達した光線群即ち可動光線群の光量がほぼ等しくなるように、可動ミラー部16の表面の面積は設定されているが、固定光線群及び可動光線群の一方或いは両方の光路に減光フィルタを設置して相対的な光量差を調整し、光量の均等化を行うことも可能である。
【0033】
固定ミラー部15及び可動ミラー部16の表面で反射された光線群は、それぞれ固定光線群及び可動光線群として結像レンズ22に入射し、検出部24の結像面において干渉像を形成する。このとき、被測定物Sから発せられる光線群には様々な波長の光が含まれる(且つ各波長の光の初期位相が必ずしも揃っていない)ことから、可動ミラー部16を移動させて固定光線群と可動光線群との光路長差を変化させることにより、図6(a)に示すようなインターフェログラムと呼ばれる結像強度変化(干渉光強度変化)の波形が得られる。図6(a)は検出部24の一つの画素におけるインターフェログラムである。なお、図6(a)において、横軸は可動ミラー部16の移動に伴う固定光線群と可動光線群間の光路長差を、縦軸は結像面上の一点における結像強度を示す。
【0034】
このインターフェログラムをフーリエ変換することにより、被測定物Sの一輝点から発せられた光の波長毎の相対強度である分光特性を取得することができる(図6(b)参照)。検出部24の全ての画素において分光特性を得ることができれば、被測定物Sの2次元分光計測が可能となる。
【0035】
ここで、インターフェログラムの生成原理について説明する。
まず、測定波長が単一波長の光の場合の光路長差と干渉光強度との関係について図7(a)〜(c)を参照しながら説明する。図7において、横軸は可動ミラー部の移動に伴う固定光線群と可動光線群間の相対的な光路長差を示し、縦軸は、検出部の一つの画素における結像強度を示している。
【0036】
図7(a)〜(c)は波長の長さが異なる3種類の単色光(λa>λb>λc)の光路長差と干渉光強度との関係を示している。図7の中央付近に示す位相シフト原点(図中、一点鎖線で示す)は、図3(b)に示す可動ミラー部16の反射面が固定ミラー部15の反射面と一致している状態をいう。可動ミラー部16と固定ミラー部15の反射面が一致しているときは、固定光線群と可動光線群に相対的な位相差が生じていない。つまり、これら2光線群の光線は結像面において位相が揃って到達するため、互いに強め合う。このため、結像面には明るい輝点が形成され、結像強度が大きくなる。
【0037】
これに対して、可動ミラー部16を図3(b)に示す位置から移動して固定光線群と可動光線群との間に相対的な光路長差を生じさせると、この光路長差が半波長(λ/2)の奇数倍になった時点で弱め合う干渉条件となるため結像強度は小さくなる。また、光路長差が1波長の整数倍になると、2光束間の干渉条件が強め合う状態となり、結像強度が大きくなる。
従って、可動ミラー部16を図3(a)から(b)を経て(c)の状態へと移動させて光路長差を順次変化させていくと、2光束間の干渉現象による結像強度は周期的に変化することになる。この結像強度変化の周期は、図7(a)〜(c)に示すように、波長が長い光の場合は長く、波長が短い光の場合は短くなる。
【0038】
多波長の光を測定する分光計測装置では、多様な長さの波長の干渉光強度変化が足し合わされた輝度値変化として検出されることになる。これが図6(a)に示すインターフェログラムである。固定光線群と可動光線群の相対的な光路長差が無い位相シフト原点では、波長に依存せずに2光束は強め合うため、多波長の強度変化を足し合わせた測定値においても高い結像強度となる。しかし、光路長差が大きくなると、各波長の強度変化の周期が合わないため、多波長の強度変化を足し合わせても結像強度は大きくならない。このため、インターフェログラムは、光路長差が大きくなるに従い徐々に輝度値が小さくなっていく結像強度変化が観察される。このようにインターフェログラムは、単一波長の単周期結像強度変化が足し合わされた波形であることから、この波形データをフーリエ変換することにより波長ごとの相対強度である分光特性を取得することができる。
【0039】
次に、被測定物Sから発せられる光に0次回折光と1次以降の高次回折光が含まれる場合の光学モデルについて説明する。
被測定物Sから発せられる0次回折光と高次回折光は、対物レンズ12の後ろ側焦点であるフーリエ変換面において空間的に最も分離できる。そこで、被測定物Sが回折光を生じる場合は、図5に示すように、固定ミラー部15及び可動ミラー部16の反射面をフーリエ変換面に配置する。これにより、それぞれの回折光成分を容易に分離して結像レンズ22に照射することができる。
【0040】
この場合、図5に示すように、0次回折光を可動光線群、±1次回折光等の高次回折光を固定光線群として可動ミラー部16及び固定ミラー部15に照射する。なお、0次回折光を固定光線群、高次回折光を可動光線群としても良い。要は、2光線群間で相対的に光路長差を生じさせることができれば良い。
例えば、ある特定の空間周波数の明暗縞からなる模様を有する被測定物Sからは、その明暗縞の直交方向に±1次回折光を生じる。図4(b)は、このような最も基本的な回折光の可動ミラー部16及び固定ミラー部15の反射面における照射分布の例を示している。
【0041】
結像理論によれば、対物レンズ12の合焦位置から生じる光線群のみが結像面において位相が揃い干渉像としての結像画像を取得することが可能である。つまり、合焦位置以外から生じる光は鮮明なインターフェログラムの形成に寄与しない。このため、上記分光断層像計測装置10では、合焦位置における分光特性のみを計測できる。従って、レンズ駆動機構13により対物レンズ12を光軸方向に移動させて合焦位置を走査すれば、3次元の分光特性を計測することが可能となる。
【0042】
図8は本発明の分光断層像計測装置10で得られた単一細胞の分光断層像の例を示している。ここでは、細胞膜表層の糖タンパク質を量子ドットで標識し、その量子ドットの蛍光発光を観察している。図8に示す細胞断層像は、対物レンズ12を移動させて合焦面(合焦位置を含む面)を走査することにより順次得られる2次元分光像である。これらの2次元分光像から3次元の分光像を取得できる。
【0043】
合焦面における解像度は対物レンズ12の開口数と光の波長から決まり、深さ方向の解像度は焦点深度により決まる。従って、液浸レンズのような高い開口数の対物レンズを用いれば高い解像度を得られる。また、高次回折光成分を用いた結像による高解像度化を行う変形照明などの超解像技術を用いることも可能である。
【実施例2】
【0044】
図9及び図10は本発明の第2の実施例を示している。図9に示すように、本実施例の分光断層像計測装置10は対物レンズ12と結像レンズ22の光軸が一致するように構成されている。そして、対物レンズ12と結像レンズ22の間には、光路長差伸縮手段を構成する第1及び第2ガラス板30,32が対物レンズ12及び結像レンズ22の光軸と直交するように配置されている。第1及び第2ガラス板30,32は、対物レンズ12から結像レンズ22に向かう光線群のうちの一部が第1ガラス板30を、残りが第2ガラス板32を透過するように配置されている。以下の説明では、第1及び第2ガラス板30,32を透過する光線群をそれぞれ固定光線群、可動光線群という。なお、本実施例では、固定光線群及び可動光線群の光量が同等になるように構成されている。
【0045】
図10(a)及び(b)は、図9中、左方或いは右方から見た第1及び第2ガラス板30,32の形状を示している。第1及び第2ガラス板30,32は、いずれも波長依存性の低い光学ガラスから構成されている。第1ガラス板30は断面形状がほぼ長方形状の1枚の板状部材から構成されている。
第2ガラス板32は、大小2枚の断面台形状の板状部材32a,32bから構成されている。大小の板状部材32a、32bの傾斜面は同一の傾き(角度)を有している。大きい板状部材32aはスライド機構34によって矢印B方向にスライド可能となっており、スライドさせることにより第2ガラス板32の厚み寸法が連続的に変化する。
【0046】
第1及び第2ガラス板30,32を構成する光学ガラスは空気よりも屈折率が大きいため、その厚み寸法に応じて光学光路長が変化する。このため、第2ガラス板32の厚み寸法が変化すると、固定光線群と可動光線群の光路長差が伸縮する。
具体的には、実線で示す位置に板状部材32aがあるときは第2ガラス板32の厚み寸法は第1ガラス板30の厚み寸法と等しいため、固定光線群P1と可動光線群P2の光学光路長は等しくなる。これに対して、一点鎖線で示す位置に板状部材32aがあるときの第2ガラス板32の厚み寸法は第1ガラス板30の厚み寸法よりも小さいため、可動光線群P2の光学光路長は固定光線群P1の光学光路長よりも短くなる。一方、二点鎖線で示す位置に板状部材32aがあるときの第2ガラス板32の厚み寸法は第1ガラス板30の厚み寸法よりも大きいため、可動光線群P2の光学光路長は固定光線群P1の光学光路長よりも長くなる。
【0047】
従って、第2ガラス板32の板状部材32aをスライドさせることにより、固定光線群及び可動光線群の光学光路長差を連続的に伸縮させることができる。そして、このように固定光線群及び可動光線群の光学光路長差を伸縮させつつ前記検出部24で検出される光強度変化に基づき、前記被測定物の各測定点のインターフェログラムを求めることができ、このインターフェログラムをフーリエ変換することによりスペクトルを取得することができる。
【0048】
また、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、例えば次のような変形、拡張が可能である。
位相シフター14を構成する可動ミラー部16は円柱である必要はなく、角柱など製造の容易な形状に加工すればよい。
上記した実施例では固定ミラー部15の中央に可動ミラー部16を配置したが、例えば図11及び図12に示すように長方形の板状の固定ミラー部15及び可動ミラー部16を左右或いは上下に配置しても良い。鮮明な干渉強度変化を得るには、固定光線群と可動光線群の光量が同等に揃っていることが望ましい。上記構成によれば、固定光線群と可動光線群の光量を容易に同等に揃えることができる。
物体光の光束の分割数は2つに限らない。3つ以上の光線群間の干渉光強度変化を計測できる光学系を用いた場合は、物体光の光束を3つ以上の光線群に分割することができる。
【0049】
上記実施例では光路長差が連続的に伸縮するように構成したが、例えば図13に示すような光路長差伸縮用ガラス板40を用い、固定光線群と可動光線群の光路長差を段階的に(離散的に)変化させても良い。光路長差伸縮用ガラス板40の一面には深さ寸法が段階的に変化する多数の凹部40a及び突出寸法が段階的に変化する多数の凸部40bが設けられている。各凹部40a間、各凸部40b間に位置する部分40cは全て同じ厚み寸法に設定されており、当該ガラス板40を矢印C方向に移動させることにより、固定光線群は部分40cを、可動光線群は凹部40a或いは凸部40bを透過するようになっている。
【0050】
従って、例えば図13(a)に示すように固定光線群P1が部分40cを、可動光線群P2が凹部40aを透過するときは、固定光線群P1よりも可動光線群P2の方が光学光路長が短くなる。図13(b)に示すように、固定光線群P1及び可動光線群P2の両方が部分40cを透過するときは固定光線群P1と可動光線群P2の光学光路長は等しくなる。また、図13(c)に示すように固定光線群P1が部分40cを、可動光線群P2が凸部40bを透過するときは固定光線群P1よりも可動光線群P2の方が光学光路長が長くなる。
【0051】
上記実施例では、対物レンズ12から結像レンズ22に向かう光線群を2つに分割し、一方の光学光路長を伸縮するようにしたが、両光線群の相対的な光学光路長差を伸縮させることができれば、両光線群の光学光路長を伸縮させる構成でも良い。
【0052】
対物レンズ12ではなく被測定物Sを移動させることにより対物レンズ12の合焦面を走査するようにしても良い。
位相シフター14の固定ミラー部15及び可動ミラー部16の反射面と光軸との角度は45度でなくても良い。但し、この場合は、光軸と可動ミラー部16の移動方向の角度誤差によって分光特性が劣化する可能性が大きい。これは、静電容量センサー付ピエゾステージの光軸方向への移動量が分光精度に重要な意味を持つからである。光軸方向への移動量が、可動光線群に与える位相シフト量となり、この位相シフト量が分光計測に必要なパラメータとなる。
【0053】
被測定物から放出され対物レンズを透過した光が一点に合焦するように対物レンズと被測定物の位置関係を設定すれば、分割光学系及び結像光学系を一つのレンズで構成することも可能である。
また、測定対象となる光が紫外光や長波長光の場合には、反射型光学系により分割光学系、結像光学系を構成すると良い。
更に、実際の光学系では、調整誤差によって可動ミラー部の設置角度がずれる場合がある。この角度のずれ量が、分光特性上問題となる場合は、水銀ランプなど既知の輝線スペクトルを有する光源を用いて分光特性を計測するなどにより位相シフターと光軸との傾き量の校正を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の第1実施例を示す分光断層像計測装置の概略的なシステム構成図。
【図2】位相シフターの全体構成図。
【図3】位相シフターの動作説明図。
【図4】固定ミラー部及び可動ミラー部の反射面における物体光の照射分布(a)および0次回折光と±1次回折光の照射分布(b)を示す図。
【図5】0次回折光と±1次回折光を空間的に分離する様子を示す図。
【図6】インターフェログラム(a)とそれをフーリエ変換したスペクトルの波形図(b)。
【図7】インターフェログラムの生成原理を説明するための図。
【図8】細胞膜表層の糖タンパク質を量子ドットで標識した単一細胞の分光断層像を計測する様子を示す図。
【図9】本発明の第2の実施例を示す図1相当図。
【図10】光路長差伸縮手段の構成を示す図。
【図11】固定ミラー部及び可動ミラー部の変形例を示す図1相当図。
【図12】図3相当図。
【図13】光路長差伸縮手段の別の実施例を示す図。
【符号の説明】
【0055】
10…分光断層像計測装置
12…対物レンズ
13…レンズ駆動機構
14…位相シフター
15…固定ミラー部
16…可動ミラー部
18…駆動ステージ
20…制御部
22…結像レンズ
24…検出部
30…第1ガラス板
32…第2ガラス板
40…光路長差伸縮用ガラス
【技術分野】
【0001】
本発明は、ライフサイエンスの分野における極微小な単一細胞内の生体成分分析技術や、ナノテクノロジーの分野における微細構造デバイスの材料評価技術として有用な分光計測装置及び分光計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトゲノム計画が終了し、ライフサイエンス分野においてはポストゲノムと呼ばれる時代を迎えるに至った。ポストゲノム時代においては、ヒトゲノム計画で構造解析が行われた人間の設計図とも呼ばれる、およそ30億もの塩基対で構成される塩基配列の機能的な役割を明らかにすることに重点をおいて研究が進められている。しかし、人体はおよそ60兆個という膨大な数の細胞から構成されていると言われており、このような人体を用いて30億の塩基対の一部の塩基配列の違いによる生体機能への影響を評価するのは容易ではない。そこで、ポストゲノム時代においては、シャーレなどで培養した生きたままの細胞を用いて機能解明を行う研究が強力に推進されている。
【0003】
また、テーラーメイド治療やオーダーメイド医療と呼ばれる、個々人の体質に適合した治療方法を選定する臨床的な試みがなされてきている。具体的には、例えば外科的に採取したガン細胞(腫瘍細胞)をシャーレ上で培養し、この培養細胞を用いて複数の抗ガン剤の効果を実験的に検証することにより特定の個人に効果的な薬剤を選定する。そのためには、直径が十ミクロン程度の極微小な単一細胞の内部における生体成分の変化を詳細に観察する必要がある。
【0004】
このようなライフサイエンス分野の研究開発や需要を背景に、単一細胞内部の生体成分分布を、高い空間解像度で詳細に観察する技術が鋭意研究開発されている。その代表的な観察手法として、蛍光物質により特定の成分を標識し、その蛍光の空間的な位置を観察することにより生体成分の空間的な分布を測定する方式が挙げられる。
特定の生体成分を標識する蛍光物質としては、例えば量子ドットや緑色蛍光タンパク質(GFP:Green Florescent Protein)が用いられている。量子ドットは、その粒径に応じて異なる色の蛍光を発する数十ナノ程度の極微小粒子である。そこで、粒径の揃った1ないし複数種類の量子ドットを作り、特定の生体成分に化学的に結合させれば、量子ドットが発する蛍光の空間的な分布を観察することにより特定の生体成分の空間的な分布を間接的に計測することができる。
【0005】
微小粒子内における蛍光の分布を計測する技術として、分散型分光法或いはフーリエ分光法と呼ばれる分光技術を用いた手法が提案されている(非特許文献1参照)。
波長分散型分光法は、測定試料を透過した光、或いは測定試料面で反射した光(以下、物体光という)を回折格子に照射したときに、当該物体光の波長に応じて回折角が異なる原理を利用した分光法である。
【0006】
一方、フーリエ分光法は、マイケルソン型の2光束干渉光学系を用いた位相シフト干渉による分光計測技術である。物体光をハーフミラーなどのビームスプリッタにより2分岐し、それぞれの光束をミラーにより反射させて再度ハーフミラーに到達させ、2光束を合流させて干渉現象を観察する。2分岐した光束のうちの一方(参照光)を反射するミラーは参照ミラーと呼ばれる。フーリエ分光法では、参照ミラーを光の波長よりも短い分解能で高精度に移動させて干渉光強度を変化させ、いわゆるインターフェログラムを検出し、このインターフェログラムを数学的にフーリエ変換することにより分光特性を取得する。
【0007】
測定試料面から射出される物体光の光線方向は、散乱、屈折、反射等により様々な方向となる。このように多様な方向の光線成分が回折格子や参照ミラーに照射されると、分光精度が低下する。そのため、いずれの分光法においても物体光の空間的コヒーレンシー(可干渉性)を高めるために、微小開口を有するピンホールやスリットを用いて物体光のうち特定方向の光線成分のみを回折格子や参照ミラーに照射させている。求められる分光性能にもよるが、分散型分光法では穴径が数十ミクロン程度のピンホールが、フーリエ分光法では数ミリ程度の開口幅を有するスリットが用いられる。
【非特許文献1】平石次郎編「フーリエ変換赤外分光法」学会出版センター, 1985年11月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、ピンホールやスリットを用いると、大半の物体光はピンホールやスリットを通過せず、計測に用いられないことから、光の利用効率が低い。上述した量子ドットやGFPが発する蛍光は、量子効率の高い高感度冷却CCDカメラでやっと観察できる程度の極微弱光である。このため、従来の分光技術は微弱光計測には不向きであり、単一細胞内部の任意の位置で発する蛍光を観察したり、その蛍光色を弁別したりすることは困難であった。
【0009】
また、いずれの分光法も、測定試料上の所定の測定領域から生じている光の全てについて分光を行うことから、測定領域内の平均的な分光特性を取得することとなる。この測定領域の面積を狭くすれば空間解像度は向上するが、検出される物体光の総量は少なくなり分光感度は低下する。また、試料上の1点から生じた物体光を計測する技術であることから2次元で分光計測するためには測定領域を2次元で走査しなくてはならない。従って、2次元分光像の空間解像度は測定領域面積だけではなく、各計測点の間隔にも大きく依存する。そのため、高い空間解像度で2次元分光する為には、測定領域面積を狭くし、かつ空間的に高い密度で計測点を設けなくてはならず、測定時間が長くなる。測定時間が長くなると、生きたままの細胞など動きを伴う試料を分光計測する場合には、測定時間内に測定対象が移動してしまい、画像にぶれを生じる。
また、測定試料が光学的に透明体の場合、深さ方向の測定領域を限定して分光を行うことはできない。そのため、例えば3次元の分光吸収率分布などは計測できなかった。
【0010】
上記した課題はライフサイエンスの分野に限らず、半導体メモリーや液晶、プラズマ、有機EL方式によるフラットパネルディスプレイなど、ナノメートルオーダーの微細構造を有する電子デバイスの製品がめざましい発展を遂げているナノテクノロジーの分野でも存在する。つまり、微細構造デバイスの分光計測による材料評価技術としても、2次元、あるいは3次元の高い空間解像度を有する分光光学手法の需要は高い。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、空間的、時間的に分解能の高い高感度な分光計測装置及びその方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために成された本発明に係る分光計測装置は、
a) 被測定物の各測定点から多様な方向に向かって発せられた光が入射する分割光学系と、
b) 前記分割光学系を透過した光をほぼ同一点に導き干渉像を形成するを結像光学系と、
c) 前記干渉像の光強度を検出する検出部と、
d) 前記分割光学系から前記結像光学系に向かう光の一部と残りの光の相対的な光学光路長差を伸縮する光路長差伸縮手段と、
e) 前記光路長差伸縮手段によって光学光路長差を伸縮させることにより前記検出部で検出される光強度変化に基づき、前記被測定物の各測定点のインターフェログラムを求め、このインターフェログラムをフーリエ変換することによりスペクトルを取得する処理部と、
を備えることを特徴とする。
【0013】
また、同じ原理であるが、別の構成として本発明に係る分光計測装置は、
a) 被測定物の各測定点から多様な方向に向かって発せられた光を第1反射部と第2反射部とに分割して導く分割光学系と、
b) 前記第1及び第2反射部によって反射された光をほぼ同一点に導き干渉像を形成する結像光学系と、
c) 前記第1及び第2反射部を相対的に移動させることにより前記分割光学系から前記第1反射部を経て前記結像光学系に向かう光と前記分割光学系から前記第2反射部を経て前記結像光学系に向かう光の光学光路長差を伸縮する光路長差伸縮手段と、
d) 前記干渉像の光強度を検出する検出部と、
e) 前記光路長差伸縮手段によって光学光路長差を伸縮させることにより前記検出部で検出される光強度変化に基づき、前記被測定物の各測定点のインターフェログラムを求め、このインターフェログラムをフーリエ変換することによりスペクトルを取得する処理部と、
を備えることを特徴とする。
【0014】
上記構成においては、第1及び第2反射部の反射面を、それぞれ分割光学系を透過した平行光束の光軸に対して45°傾いた状態で配置すると、第1及び第2反射部で反射した光をそのまま結像光学系に導くことができる。
【0015】
更に、本発明の分光計測方法は、
a) 被測定物の各測定点から多様な方向に向かって発せられた光を分割光学系によって位相固定光線群と位相可変光線群に分割し、
b) 前記位相可変光線群の光学光路長差を伸縮させつつ前記位相可変光線群と前記位相固定光線群を結像光学系によってほぼ同一点に導いて干渉像を形成させ、
c) 前記干渉像の光強度変化に基づき前記被測定物の各測定点のインターフェログラムを求め、このインターフェログラムをフーリエ変換することによりスペクトルを取得することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る分光計測装置及び分光計測方法は、結像光学系を用いたものであり、被測定物を光学的に構成する各輝点から生じる光を分割光学系で分割し、分割された光同士の干渉現象を利用して被測定物のインターフェログラムを求めている。ここで、「分割光学系」の用語は、各輝点からの光を単純に分割するものとして、光学的に光を波長毎に分割する「分光光学系」と区別して用いている。
本発明では、分割光学系を透過してきた光線の全てを分析に用いることができるため、極めて光の利用効率が高く、微弱光計測に適している。
また、本発明は結像光学系を用いていることから、検出部として1次元の検出デバイスを用いれば高感度な1次元分光計測が可能となり、2次元の検出デバイスを用いれば高感度な2次元の分光計測が可能となる。
【0017】
一般に、結像光学系の空間解像度は、λ/NAに比例して決まることが知られている。なお、λは光の波長、NAは対物レンズの数値開口数(Numerical Aperture)を示す。従って、高NAの対物レンズを用いれば高い解像度を得ることができる。また、液侵レンズや変形照明など超解像技術を組み合わせて用いれば、解像度の一層の向上を図ることができる。
【0018】
更に、本発明では、分割光学系の合焦位置から発せられ結像に作用する光線のみの分光特性を計測できる。これにより、分割光学系を構成する対物レンズあるいは試料を焦点深度方向に移動させ合焦位置を移動させることにより3次元の分光特性を取得できる。
焦点深度はλ/NA2に比例して光学的に決定されることから、超解像技術を用いて高NA光学システムを用いれば深さ方向の空間的な分解能も容易に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
物体に光を照射すると、反射、屈折、散乱、蛍光など様々な光学現象に起因して物体光が生成される。これらの生成された光により物体を光学的にモデル化すると、理想的な点光源である輝点の集合体と見なすことができる。照明方式や物体光を生成する光学現象により指向性は異なるが、理想的な点光源である1つの輝点からは、放射状に光線が射出される。このように光学的に物体を構成している輝点群を、レンズを用いて結像面上に再構成して光学的に共役な輝点群を像として形成するのが結像光学系であり、本発明はこの結像光学系を用いている。
【0020】
本発明では、物体を光学的に構成する各輝点から生じる物体光を2つの光線群に分割し、これら光線群同士の干渉現象によって検出器の結像面に形成される干渉光強度(結像強度)を検出する。2つの光線群の相対的な光路長差を変化させると、両光線群を構成する種々の波長の光線の干渉光強度は、その波長の長さに応じて周期的に変化することから、干渉光強度変化、即ちインターフェログラムを取得することができる。このインターフェログラムをフーリエ変換することにより波長ごとの相対強度である分光特性を取得することができる。
【0021】
また、物体を構成する各輝点から生じる物体光が入射する対物レンズの合焦位置を走査可能に構成すれば、物体の三次元画像を取得することができる。例えば蛍光色素で物体内に含まれるであろう特定成分を標識した場合、物体に励起光を照射することにより蛍光色素が自発光体となって多様な方向に光線が射出する。この光線の干渉光強度を検出することにより、細胞を生きたままの状態で内部の詳細な成分分布を観察することができる。また、照明光により励起された電気双極子から生じる電界成分である散乱光線についても同様である。
【0022】
蛍光発光や散乱光線の場合、各輝点間の光線の初期位相は必ずしも一致していない。つまり、物体上に初期位相の揃わない輝点が多数分布していると光学的にモデル化して考えられる。しかし、物体面から結像面に至るまでの空間において、各光線の光路を辿れば、物体を光学的に構成している1つの輝点から発生した光線群は結像面上で位相が揃って1点に集光することにより結像していると考えることができる。
以下、本発明を分光計測装置である分光断層像計測装置に適用した具体的な実施例について説明する。
【実施例1】
【0023】
図1〜図8は本発明の第1の実施例を示しており、図1は本実施例に係る分光断層像計測装置10の全体構成の概略図である。図示しない光源から被測定物Sに対して光が照射されることにより当該被測定物Sの1輝点から多様な方向に向かって放射状に生じる散乱光や蛍光発光等の光線群(「物体光」ともいう)は、対物レンズ12に入射し、平行光束へ変換される。
前記対物レンズ12は、レンズ駆動機構13によって光軸方向に移動可能に構成されている。レンズ駆動機構13は、対物レンズ12の合焦位置を走査するためのもので、例えばピエゾ素子により構成することができる。
【0024】
なお、対物レンズ12を透過した後の光束は完全な平行光束である必要はない。後述するように、1つの輝点から生じた光線群を2分割あるいはそれ以上に分割できる程度に広げることができればよい。ただし、平行光束でない場合は、後述の位相シフト量に応じて生じる位相差量に誤差を生じ易い。従って、より高い分光計測精度を得るためにはできるだけ平行光束とすることが望ましい。
【0025】
対物レンズ12を透過してきた平行光束は位相シフター14に到達する。位相シフター14は、例えば図2に示すように、矩形板状の固定ミラー部15、その中央の円孔部15aに挿入された円柱状の可動ミラー部16、可動ミラー部16を保持する保持部17、保持部17を移動する駆動ステージ18を備えて構成されている。固定ミラー部15及び可動ミラー部16の表面は光学的に平坦で且つ本装置10が計測対象とする光の波長帯域を反射可能な光学鏡面となっている。
【0026】
本実施例では、位相シフター14が本発明の光路長差伸縮手段に相当し、固定ミラー部15及び可動ミラー部16がそれぞれ第1及び第2反射部に相当する。
なお、以下の説明では、位相シフター14に到達した光束のうち固定ミラー部15の反射面に到達して反射される光束を固定光線群、可動ミラー部16の反射面に到達して反射される光束を可動光線群ともいう。
【0027】
駆動ステージ18は、例えば静電容量センサーを具備する圧電素子から構成されており、制御部20からの制御信号を受けて保持部を矢印A方向に移動する。これにより、可動ミラー部16は光の波長に応じた精度で矢印A方向に移動する。分光計測能力にもよるが、例えば可視光領域では10nm程度の高精度な位置制御が必要となる。
【0028】
また、位相シフター14は、対物レンズ12からの平行光束の光軸に対して固定ミラー部15及び可動ミラー部16の反射面が45度傾くように配置されている。駆動ステージ18は、可動ミラー部16の反射面の光軸に対する傾きを45度に維持した状態で当該可動ミラー部16を移動する。このような構成により、可動ミラー部16の光軸方向の移動量は、駆動ステージ18の移動量の1/√2となる。また、固定光線群と可動光線群の2光束間の相対的な位相変化を与える光路長差は、可動ミラー部16の光軸方向の移動量の2倍となる。
【0029】
このように固定ミラー部15及び可動ミラー部16を斜めに配置すれば、光線を分岐するためのビームスプリッタが不要となるため、物体光の利用効率を高くすることができる。また、可動ミラー部16を傾けたことにより、駆動ステージ18の移動量に対する可動ミラー部16の光軸方向の移動量が小さくなるため、ステージ移動誤差の分光計測精度への劣化の影響を小さくできる。
【0030】
位相シフター14に到達し、固定ミラー部15及び可動ミラー部16の反射面で反射された固定光線群及び可動光線群は、それぞれ結像レンズ22により収束されて検出部24の結像面に入る。検出部24は例えば二次元CCDカメラから構成されている。固定ミラー部15の反射面と可動ミラー部16の反射面は、検出部24の結像面で2つの光線群の集光位置がずれない程度の精度で平行に構成されている。
【0031】
上記構成を有する分光断層像計測装置10の光学的作用について説明する。
まず、蛍光や散乱光など初期位相が必ずしも揃っていない光線群が、対物レンズ12と結像レンズ22を経て検出部24の結像面で位相が揃った波として1つの点に集光し、輝点像(干渉像)を形成する光学モデルに基づいて説明する。
【0032】
前述したように、被測定物Sの一輝点から発せられた光線群は、対物レンズ12を経て位相シフター14の固定ミラー部15及び可動ミラー部16の表面に到達する。このとき、図4(a)に示すように、固定ミラー部15の表面及び可動ミラー部16の表面に光線群が二分割されて到達する。なお、固定ミラー部15の表面に到達した光線群即ち固定光線群と、可動ミラー部16の表面に到達した光線群即ち可動光線群の光量がほぼ等しくなるように、可動ミラー部16の表面の面積は設定されているが、固定光線群及び可動光線群の一方或いは両方の光路に減光フィルタを設置して相対的な光量差を調整し、光量の均等化を行うことも可能である。
【0033】
固定ミラー部15及び可動ミラー部16の表面で反射された光線群は、それぞれ固定光線群及び可動光線群として結像レンズ22に入射し、検出部24の結像面において干渉像を形成する。このとき、被測定物Sから発せられる光線群には様々な波長の光が含まれる(且つ各波長の光の初期位相が必ずしも揃っていない)ことから、可動ミラー部16を移動させて固定光線群と可動光線群との光路長差を変化させることにより、図6(a)に示すようなインターフェログラムと呼ばれる結像強度変化(干渉光強度変化)の波形が得られる。図6(a)は検出部24の一つの画素におけるインターフェログラムである。なお、図6(a)において、横軸は可動ミラー部16の移動に伴う固定光線群と可動光線群間の光路長差を、縦軸は結像面上の一点における結像強度を示す。
【0034】
このインターフェログラムをフーリエ変換することにより、被測定物Sの一輝点から発せられた光の波長毎の相対強度である分光特性を取得することができる(図6(b)参照)。検出部24の全ての画素において分光特性を得ることができれば、被測定物Sの2次元分光計測が可能となる。
【0035】
ここで、インターフェログラムの生成原理について説明する。
まず、測定波長が単一波長の光の場合の光路長差と干渉光強度との関係について図7(a)〜(c)を参照しながら説明する。図7において、横軸は可動ミラー部の移動に伴う固定光線群と可動光線群間の相対的な光路長差を示し、縦軸は、検出部の一つの画素における結像強度を示している。
【0036】
図7(a)〜(c)は波長の長さが異なる3種類の単色光(λa>λb>λc)の光路長差と干渉光強度との関係を示している。図7の中央付近に示す位相シフト原点(図中、一点鎖線で示す)は、図3(b)に示す可動ミラー部16の反射面が固定ミラー部15の反射面と一致している状態をいう。可動ミラー部16と固定ミラー部15の反射面が一致しているときは、固定光線群と可動光線群に相対的な位相差が生じていない。つまり、これら2光線群の光線は結像面において位相が揃って到達するため、互いに強め合う。このため、結像面には明るい輝点が形成され、結像強度が大きくなる。
【0037】
これに対して、可動ミラー部16を図3(b)に示す位置から移動して固定光線群と可動光線群との間に相対的な光路長差を生じさせると、この光路長差が半波長(λ/2)の奇数倍になった時点で弱め合う干渉条件となるため結像強度は小さくなる。また、光路長差が1波長の整数倍になると、2光束間の干渉条件が強め合う状態となり、結像強度が大きくなる。
従って、可動ミラー部16を図3(a)から(b)を経て(c)の状態へと移動させて光路長差を順次変化させていくと、2光束間の干渉現象による結像強度は周期的に変化することになる。この結像強度変化の周期は、図7(a)〜(c)に示すように、波長が長い光の場合は長く、波長が短い光の場合は短くなる。
【0038】
多波長の光を測定する分光計測装置では、多様な長さの波長の干渉光強度変化が足し合わされた輝度値変化として検出されることになる。これが図6(a)に示すインターフェログラムである。固定光線群と可動光線群の相対的な光路長差が無い位相シフト原点では、波長に依存せずに2光束は強め合うため、多波長の強度変化を足し合わせた測定値においても高い結像強度となる。しかし、光路長差が大きくなると、各波長の強度変化の周期が合わないため、多波長の強度変化を足し合わせても結像強度は大きくならない。このため、インターフェログラムは、光路長差が大きくなるに従い徐々に輝度値が小さくなっていく結像強度変化が観察される。このようにインターフェログラムは、単一波長の単周期結像強度変化が足し合わされた波形であることから、この波形データをフーリエ変換することにより波長ごとの相対強度である分光特性を取得することができる。
【0039】
次に、被測定物Sから発せられる光に0次回折光と1次以降の高次回折光が含まれる場合の光学モデルについて説明する。
被測定物Sから発せられる0次回折光と高次回折光は、対物レンズ12の後ろ側焦点であるフーリエ変換面において空間的に最も分離できる。そこで、被測定物Sが回折光を生じる場合は、図5に示すように、固定ミラー部15及び可動ミラー部16の反射面をフーリエ変換面に配置する。これにより、それぞれの回折光成分を容易に分離して結像レンズ22に照射することができる。
【0040】
この場合、図5に示すように、0次回折光を可動光線群、±1次回折光等の高次回折光を固定光線群として可動ミラー部16及び固定ミラー部15に照射する。なお、0次回折光を固定光線群、高次回折光を可動光線群としても良い。要は、2光線群間で相対的に光路長差を生じさせることができれば良い。
例えば、ある特定の空間周波数の明暗縞からなる模様を有する被測定物Sからは、その明暗縞の直交方向に±1次回折光を生じる。図4(b)は、このような最も基本的な回折光の可動ミラー部16及び固定ミラー部15の反射面における照射分布の例を示している。
【0041】
結像理論によれば、対物レンズ12の合焦位置から生じる光線群のみが結像面において位相が揃い干渉像としての結像画像を取得することが可能である。つまり、合焦位置以外から生じる光は鮮明なインターフェログラムの形成に寄与しない。このため、上記分光断層像計測装置10では、合焦位置における分光特性のみを計測できる。従って、レンズ駆動機構13により対物レンズ12を光軸方向に移動させて合焦位置を走査すれば、3次元の分光特性を計測することが可能となる。
【0042】
図8は本発明の分光断層像計測装置10で得られた単一細胞の分光断層像の例を示している。ここでは、細胞膜表層の糖タンパク質を量子ドットで標識し、その量子ドットの蛍光発光を観察している。図8に示す細胞断層像は、対物レンズ12を移動させて合焦面(合焦位置を含む面)を走査することにより順次得られる2次元分光像である。これらの2次元分光像から3次元の分光像を取得できる。
【0043】
合焦面における解像度は対物レンズ12の開口数と光の波長から決まり、深さ方向の解像度は焦点深度により決まる。従って、液浸レンズのような高い開口数の対物レンズを用いれば高い解像度を得られる。また、高次回折光成分を用いた結像による高解像度化を行う変形照明などの超解像技術を用いることも可能である。
【実施例2】
【0044】
図9及び図10は本発明の第2の実施例を示している。図9に示すように、本実施例の分光断層像計測装置10は対物レンズ12と結像レンズ22の光軸が一致するように構成されている。そして、対物レンズ12と結像レンズ22の間には、光路長差伸縮手段を構成する第1及び第2ガラス板30,32が対物レンズ12及び結像レンズ22の光軸と直交するように配置されている。第1及び第2ガラス板30,32は、対物レンズ12から結像レンズ22に向かう光線群のうちの一部が第1ガラス板30を、残りが第2ガラス板32を透過するように配置されている。以下の説明では、第1及び第2ガラス板30,32を透過する光線群をそれぞれ固定光線群、可動光線群という。なお、本実施例では、固定光線群及び可動光線群の光量が同等になるように構成されている。
【0045】
図10(a)及び(b)は、図9中、左方或いは右方から見た第1及び第2ガラス板30,32の形状を示している。第1及び第2ガラス板30,32は、いずれも波長依存性の低い光学ガラスから構成されている。第1ガラス板30は断面形状がほぼ長方形状の1枚の板状部材から構成されている。
第2ガラス板32は、大小2枚の断面台形状の板状部材32a,32bから構成されている。大小の板状部材32a、32bの傾斜面は同一の傾き(角度)を有している。大きい板状部材32aはスライド機構34によって矢印B方向にスライド可能となっており、スライドさせることにより第2ガラス板32の厚み寸法が連続的に変化する。
【0046】
第1及び第2ガラス板30,32を構成する光学ガラスは空気よりも屈折率が大きいため、その厚み寸法に応じて光学光路長が変化する。このため、第2ガラス板32の厚み寸法が変化すると、固定光線群と可動光線群の光路長差が伸縮する。
具体的には、実線で示す位置に板状部材32aがあるときは第2ガラス板32の厚み寸法は第1ガラス板30の厚み寸法と等しいため、固定光線群P1と可動光線群P2の光学光路長は等しくなる。これに対して、一点鎖線で示す位置に板状部材32aがあるときの第2ガラス板32の厚み寸法は第1ガラス板30の厚み寸法よりも小さいため、可動光線群P2の光学光路長は固定光線群P1の光学光路長よりも短くなる。一方、二点鎖線で示す位置に板状部材32aがあるときの第2ガラス板32の厚み寸法は第1ガラス板30の厚み寸法よりも大きいため、可動光線群P2の光学光路長は固定光線群P1の光学光路長よりも長くなる。
【0047】
従って、第2ガラス板32の板状部材32aをスライドさせることにより、固定光線群及び可動光線群の光学光路長差を連続的に伸縮させることができる。そして、このように固定光線群及び可動光線群の光学光路長差を伸縮させつつ前記検出部24で検出される光強度変化に基づき、前記被測定物の各測定点のインターフェログラムを求めることができ、このインターフェログラムをフーリエ変換することによりスペクトルを取得することができる。
【0048】
また、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、例えば次のような変形、拡張が可能である。
位相シフター14を構成する可動ミラー部16は円柱である必要はなく、角柱など製造の容易な形状に加工すればよい。
上記した実施例では固定ミラー部15の中央に可動ミラー部16を配置したが、例えば図11及び図12に示すように長方形の板状の固定ミラー部15及び可動ミラー部16を左右或いは上下に配置しても良い。鮮明な干渉強度変化を得るには、固定光線群と可動光線群の光量が同等に揃っていることが望ましい。上記構成によれば、固定光線群と可動光線群の光量を容易に同等に揃えることができる。
物体光の光束の分割数は2つに限らない。3つ以上の光線群間の干渉光強度変化を計測できる光学系を用いた場合は、物体光の光束を3つ以上の光線群に分割することができる。
【0049】
上記実施例では光路長差が連続的に伸縮するように構成したが、例えば図13に示すような光路長差伸縮用ガラス板40を用い、固定光線群と可動光線群の光路長差を段階的に(離散的に)変化させても良い。光路長差伸縮用ガラス板40の一面には深さ寸法が段階的に変化する多数の凹部40a及び突出寸法が段階的に変化する多数の凸部40bが設けられている。各凹部40a間、各凸部40b間に位置する部分40cは全て同じ厚み寸法に設定されており、当該ガラス板40を矢印C方向に移動させることにより、固定光線群は部分40cを、可動光線群は凹部40a或いは凸部40bを透過するようになっている。
【0050】
従って、例えば図13(a)に示すように固定光線群P1が部分40cを、可動光線群P2が凹部40aを透過するときは、固定光線群P1よりも可動光線群P2の方が光学光路長が短くなる。図13(b)に示すように、固定光線群P1及び可動光線群P2の両方が部分40cを透過するときは固定光線群P1と可動光線群P2の光学光路長は等しくなる。また、図13(c)に示すように固定光線群P1が部分40cを、可動光線群P2が凸部40bを透過するときは固定光線群P1よりも可動光線群P2の方が光学光路長が長くなる。
【0051】
上記実施例では、対物レンズ12から結像レンズ22に向かう光線群を2つに分割し、一方の光学光路長を伸縮するようにしたが、両光線群の相対的な光学光路長差を伸縮させることができれば、両光線群の光学光路長を伸縮させる構成でも良い。
【0052】
対物レンズ12ではなく被測定物Sを移動させることにより対物レンズ12の合焦面を走査するようにしても良い。
位相シフター14の固定ミラー部15及び可動ミラー部16の反射面と光軸との角度は45度でなくても良い。但し、この場合は、光軸と可動ミラー部16の移動方向の角度誤差によって分光特性が劣化する可能性が大きい。これは、静電容量センサー付ピエゾステージの光軸方向への移動量が分光精度に重要な意味を持つからである。光軸方向への移動量が、可動光線群に与える位相シフト量となり、この位相シフト量が分光計測に必要なパラメータとなる。
【0053】
被測定物から放出され対物レンズを透過した光が一点に合焦するように対物レンズと被測定物の位置関係を設定すれば、分割光学系及び結像光学系を一つのレンズで構成することも可能である。
また、測定対象となる光が紫外光や長波長光の場合には、反射型光学系により分割光学系、結像光学系を構成すると良い。
更に、実際の光学系では、調整誤差によって可動ミラー部の設置角度がずれる場合がある。この角度のずれ量が、分光特性上問題となる場合は、水銀ランプなど既知の輝線スペクトルを有する光源を用いて分光特性を計測するなどにより位相シフターと光軸との傾き量の校正を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の第1実施例を示す分光断層像計測装置の概略的なシステム構成図。
【図2】位相シフターの全体構成図。
【図3】位相シフターの動作説明図。
【図4】固定ミラー部及び可動ミラー部の反射面における物体光の照射分布(a)および0次回折光と±1次回折光の照射分布(b)を示す図。
【図5】0次回折光と±1次回折光を空間的に分離する様子を示す図。
【図6】インターフェログラム(a)とそれをフーリエ変換したスペクトルの波形図(b)。
【図7】インターフェログラムの生成原理を説明するための図。
【図8】細胞膜表層の糖タンパク質を量子ドットで標識した単一細胞の分光断層像を計測する様子を示す図。
【図9】本発明の第2の実施例を示す図1相当図。
【図10】光路長差伸縮手段の構成を示す図。
【図11】固定ミラー部及び可動ミラー部の変形例を示す図1相当図。
【図12】図3相当図。
【図13】光路長差伸縮手段の別の実施例を示す図。
【符号の説明】
【0055】
10…分光断層像計測装置
12…対物レンズ
13…レンズ駆動機構
14…位相シフター
15…固定ミラー部
16…可動ミラー部
18…駆動ステージ
20…制御部
22…結像レンズ
24…検出部
30…第1ガラス板
32…第2ガラス板
40…光路長差伸縮用ガラス
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 被測定物の各測定点から多様な方向に向かって発せられた光が入射する分割光学系と、
b) 前記分割光学系を透過した光をほぼ同一点に導き干渉像を形成するを結像光学系と、
c) 前記干渉像の光強度を検出する検出部と、
d) 前記分割光学系から前記結像光学系に向かう光の一部と残りの光の相対的な光学光路長差を伸縮する光路長差伸縮手段と、
e) 前記光路長差伸縮手段によって光学光路長差を伸縮させることにより前記検出部で検出される光強度変化に基づき、前記被測定物の各測定点のインターフェログラムを求め、このインターフェログラムをフーリエ変換することによりスペクトルを取得する処理部と、
を備えることを特徴とする分光計測装置。
【請求項2】
a) 被測定物の各測定点から多様な方向に向かって発せられた光を第1反射部と第2反射部とに分割して導く分割光学系と、
b) 前記第1及び第2反射部によって反射された光をほぼ同一点に導き干渉像を形成する結像光学系と、
c) 前記第1及び第2反射部を相対的に移動させることにより前記分割光学系から前記第1反射部を経て前記結像光学系に向かう光と前記分割光学系から前記第2反射部を経て前記結像光学系に向かう光の光学光路長差を伸縮する光路長差伸縮手段と、
d) 前記干渉像の光強度を検出する検出部と、
e) 前記光路長差伸縮手段によって光学光路長差を伸縮させることにより前記検出部で検出される光強度変化に基づき、前記被測定物の各測定点のインターフェログラムを求め、このインターフェログラムをフーリエ変換することによりスペクトルを取得する処理部と、
を備えることを特徴とする分光計測装置。
【請求項3】
第1及び第2反射部の反射面は、それぞれ分割光学系を透過した光束の光軸に対して45°傾いた状態で配置されていることを特徴とする請求項2に記載の分光計測装置。
【請求項4】
処理部は、被測定物のうち分割光学系の合焦位置に位置する測定点から発せられた光のスペクトルを求めることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の分光計測装置。
【請求項5】
被測定物に対する分割光学系の合焦位置を相対的に変更する合焦位置変更手段を備えることを特徴とする請求項4に記載の分光計測装置。
【請求項6】
a) 被測定物の各測定点から多様な方向に向かって発せられた光を分割光学系によって位相固定光線群と位相可変光線群に分割し、
b) 前記位相可変光線群の光学光路長差を伸縮させつつ前記位相可変光線群と前記位相固定光線群を結像光学系によってほぼ同一点に導いて干渉像を形成させ、
c) 前記干渉像の光強度変化に基づき前記被測定物の各測定点のインターフェログラムを求め、このインターフェログラムをフーリエ変換することによりスペクトルを取得する分光計測方法。
【請求項1】
a) 被測定物の各測定点から多様な方向に向かって発せられた光が入射する分割光学系と、
b) 前記分割光学系を透過した光をほぼ同一点に導き干渉像を形成するを結像光学系と、
c) 前記干渉像の光強度を検出する検出部と、
d) 前記分割光学系から前記結像光学系に向かう光の一部と残りの光の相対的な光学光路長差を伸縮する光路長差伸縮手段と、
e) 前記光路長差伸縮手段によって光学光路長差を伸縮させることにより前記検出部で検出される光強度変化に基づき、前記被測定物の各測定点のインターフェログラムを求め、このインターフェログラムをフーリエ変換することによりスペクトルを取得する処理部と、
を備えることを特徴とする分光計測装置。
【請求項2】
a) 被測定物の各測定点から多様な方向に向かって発せられた光を第1反射部と第2反射部とに分割して導く分割光学系と、
b) 前記第1及び第2反射部によって反射された光をほぼ同一点に導き干渉像を形成する結像光学系と、
c) 前記第1及び第2反射部を相対的に移動させることにより前記分割光学系から前記第1反射部を経て前記結像光学系に向かう光と前記分割光学系から前記第2反射部を経て前記結像光学系に向かう光の光学光路長差を伸縮する光路長差伸縮手段と、
d) 前記干渉像の光強度を検出する検出部と、
e) 前記光路長差伸縮手段によって光学光路長差を伸縮させることにより前記検出部で検出される光強度変化に基づき、前記被測定物の各測定点のインターフェログラムを求め、このインターフェログラムをフーリエ変換することによりスペクトルを取得する処理部と、
を備えることを特徴とする分光計測装置。
【請求項3】
第1及び第2反射部の反射面は、それぞれ分割光学系を透過した光束の光軸に対して45°傾いた状態で配置されていることを特徴とする請求項2に記載の分光計測装置。
【請求項4】
処理部は、被測定物のうち分割光学系の合焦位置に位置する測定点から発せられた光のスペクトルを求めることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の分光計測装置。
【請求項5】
被測定物に対する分割光学系の合焦位置を相対的に変更する合焦位置変更手段を備えることを特徴とする請求項4に記載の分光計測装置。
【請求項6】
a) 被測定物の各測定点から多様な方向に向かって発せられた光を分割光学系によって位相固定光線群と位相可変光線群に分割し、
b) 前記位相可変光線群の光学光路長差を伸縮させつつ前記位相可変光線群と前記位相固定光線群を結像光学系によってほぼ同一点に導いて干渉像を形成させ、
c) 前記干渉像の光強度変化に基づき前記被測定物の各測定点のインターフェログラムを求め、このインターフェログラムをフーリエ変換することによりスペクトルを取得する分光計測方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図8】
【公開番号】特開2008−309706(P2008−309706A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−159096(P2007−159096)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【Fターム(参考)】
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