説明

制動装置、輸送用機器及び産業用機器

【課題】高い精度でディスクの減速を制御することができる技術を提供すること。
【解決手段】第1のパッドを第2のパッドに向かって移動させ、第1のパッドと第2のパッドとで挟み込んでディスクを押圧して、その回転を抑える電動アクチュエータと、前記ディスクに対するパッドの押圧力を設定するための設定信号を出力する押圧力設定部と、前記第1のパッドまたは第2のパッドに互いに異なる位置に設けられ、パッドの応力を検出する複数の圧電素子と、前記複数の圧電素子から得られた電気信号を処理して、前記ディスクに対するパッドの押圧力に対応する押圧力の検出信号を生成する信号処理部と、設定信号と検出信号との偏差を求め、この偏差に基づいて前記電動アクチュエータの操作信号を演算して出力する演算部と、を備えるように制動装置を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子を備えた制動装置並びに、この制動装置を備えた輸送用機器及び産業用機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のガソリンで駆動する自動車などの車両のブレーキ装置として、例えばディスクブレーキが用いられてきた。このディスクブレーキとしては、タイヤに接続され、当該タイヤと共に回転するディスクの両面に、互いに対となるパッドが配置される。そして、運転者が運転席に設けられるブレーキペダルを踏み込むと、例えば油圧機構により一方のパッドが他方のパッドへ向けて移動して、ディスクがパッドにより挟み込まれる。そして、パッドとディスクとの摩擦力によりディスクの回転速度が減少し、ひいては当該ディスクの回転が停止する。このディスクの回転の停止によって、タイヤの回転も停止する。
【0003】
近年では環境を保護するために、ガソリンの代わりに電気で駆動するエンジンを備えた電気自動車の開発が進められている。この電気自動車では構造を簡素化するために、前記油圧機構を設ける代わりにモータを設けて、当該モータにより前記パッドを動作させることが検討されている。
【0004】
ところで、このような電気自動車において、より安全性高く、快適に走行させるために、自動車のブレーキペダルの踏み込み角度とタイヤの減速度とを密接に対応させることが検討されている。そのためには、ブレーキペダルの踏み込み角度とモータによるパッドの押圧力とを互いに対応させることが要求されるが、モータにより前記押圧力を精度高く調整することが難しい。そこで、パッドの裏面(ディスクを押圧面とは逆の面)に圧電素子を設けることが検討されている。具体的に、この圧電素子によりパッドの裏面の圧力検出領域の圧力変化を検出し、その検出結果に基づいて、モータの動作を制御することが検討されている。
【0005】
しかし、ディスクを押圧する際には、例えばパッドの押圧面及びディスクの各面の微小な凹凸により、パッドのある一点における圧力が、他点における圧力に比べて、一時的に大きくなったり小さくなったりする場合が有る。このように圧力のばらつきが大きくなる場合が有るため、安定した制御を行えない場合が有る。電気自動車のディスクブレーキについて説明してきたが、このようにディスクを押圧して、ディスクの回転速度を制御する制動装置を用いる機器は、当該ディスクブレーキと同様にユーザの操作に対して精度高く制動が行われることが求められる。
【0006】
特許文献1には水晶により構成された圧力センサにおいて、複数の電極を水晶片の片側に形成する構造について記載されているが、上記の問題を解決できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−349816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の問題を解決するためになされたものであり、その課題は、高い精度でディスクの減速を制御することができる技術を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の制動装置は、回転するディスクと、
前記ディスクの一面側に、ディスクと対向して設けられた第1のパッドと、
ディスクの他面側に、ディスクを挟んで第1のパッドと対向するように設けられた第2のパッドと、
第1のパッドを第2のパッドに向かって移動させ、前記ディスクを、第1のパッドと第2のパッドとで挟み込んで押圧して、ディスクの回転を抑える電動アクチュエータと、
前記ディスクに対するパッドの押圧力を設定するための設定信号を出力する押圧力設定部と、
前記第1のパッドまたは第2のパッドに互いに異なる位置に設けられ、パッドの応力を検出する複数の圧電素子と、
前記複数の圧電素子から得られた電気信号を処理して、前記ディスクに対するパッドの押圧力に対応する押圧力の検出信号を生成する信号処理部と、
前記設定信号と検出信号との偏差を求め、この偏差に基づいて前記電動アクチュエータの操作信号を演算して出力する演算部と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
本発明の具体的な態様としては、例えば次の通りである。
(a)前記信号処理部は、複数の圧電素子から得られた電気信号の最大値、最小値または平均値に基づいて前記検出信号を作成する。
(b)複数の圧電素子は、圧電片を共有する。
(c)圧電素子は、水晶片により構成される。
(d)前記電動アクチュエータは、モータと、当該モータのトルクを前記第1のパッドを移動させるための直線運動に変換するための変換部材と、を備え、前記操作信号は、前記モータに出力される。
(e)前記ディスクは走行車両の車輪と連動して回転する。
また、本発明の輸送用機器及び産業用機器は夫々上記の制動装置を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、パッドの互いに異なる複数の位置に圧電素子を設けて、各位置におけるパッドの応力を検出し、各検出信号を処理して、処理後の信号をフィードバック信号としているため、局部的に偏った応力の影響を小さくして、高い精度でディスクの減速を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る自動車の斜視図である。
【図2】ディスクブレーキの横断平面図である。
【図3】圧力センサの平面図である。
【図4】圧力センサが設けられる支持部材の平面図である。
【図5】ディスクブレーキの構成図である。
【図6】ディスクブレーキの構成図である。
【図7】前記ディスクブレーキが適用されたクレーンの側面図である。
【図8】前記クレーンの平面図である。
【図9】前記ディスクブレーキが適用された風車の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は本発明に係る車両である自動車1の概略斜視図である。この自動車1では、タイヤ毎にディスクブレーキ11が設けられている。図中12は自動車1の運転席に設けられたブレーキペダルである。ブレーキペダル12は、押圧力設定部をなす設定信号出力部13に接続されている。運転者がブレーキペダル12を踏むと、設定信号出力部13から当該ブレーキペダル12の角度に応じたレベルの設定信号V0が出力される。この設定信号V0は、後述するディスク21に対する摩擦パッド31、32の押圧力を設定するための信号である。図中14は、設定信号出力部13と各ディスクブレーキ11のモータ2とを接続するケーブルである。
【0014】
ディスクブレーキ11は、起立した円形のディスク21を備えている。図示は省略しているがディスク21の外側には自動車1のタイヤが、ディスク21と並行に接続されており、ディスク21とタイヤとは連動して回転する。
【0015】
図2も参照しながら説明を続ける。ディスク21の両側を跨ぐように、その概形がコ字型に形成されたキャリパ22が配設されている。キャリパ22は、ディスク21から見て自動車1の内側、外側に夫々設けられた脚部23、24とこれら脚部23、24を接続する橋部25とを備えている。脚部23、24とディスク21との間には、ディスク21に対向する板状の摩擦パッド31、32が設けられている。摩擦パッド31は脚部23に設けられるピストン26に固定されており、摩擦パッド32は脚部24に固定されている。摩擦パッド31、32はパッド本体33と、支持部材34とからなり、パッド本体33の押圧面35がディスク21に対向する。
【0016】
脚部23にはディスク21の厚さ方向に伸びる回転軸36が設けられており、回転軸36の外周面にはネジが切られている。前記ピストン26にはナット38が当該ピストン26に固定されて設けられており、ナット38の内周面には前記回転軸36のネジと螺合するネジが切られている。そして、回転軸36が回転することで、ピストン26が摩擦パッド31をディスク21の厚さ方向に進退させることができる。また、回転軸36にはウォームホイール37が接続されている。
【0017】
キャリパ22には電動アクチュエータを構成する前記モータ2が設けられ、モータ2のモータ回転軸27にはウォームギア28が設けられている。後述するように前記設定信号V0に基づいて演算される操作信号Vcがモータ2へ入力されると、この操作信号Vcとフィードバック信号とに応じたトルクでモータ2が駆動し、ウォームギア28が回転する。それによって、ウォームホイール37を介して回転軸27が回転し、摩擦パッド31がディスク21に対して進退する。摩擦パッド31がディスク21へ向かって移動すると、ディスク21が摩擦パッド31、32に挟み込まれて、モータ2のトルクに応じた押圧力で押圧される。そして、ディスク21と摩擦パッド31、32との摩擦力によりディスク21の回転が減速され、ひいては停止する。
【0018】
摩擦パッド32の脚部24側の面(裏面)には圧電素子4が設けられている。圧電素子4の表面、裏面を図3(a)、図3(b)に夫々示している。圧電素子4はXカットされた円形の水晶片40により構成されている。なお、水晶片40としては、当該水晶片40に加わる圧力に対して、比較的大きな電荷を発生するものが用いられればよく、Xカット以外にもSTBCカットされた水晶片も効果的に用いられる。
【0019】
水晶片40の表面において、中央部に電極41が設けられている。電極41の周囲には電極42〜45が設けられている。水晶片40の裏面においては、電極41〜45に対向するように共通電極46が設けられており、この共通電極46は接地されている。圧電素子4において、各電極41〜45が設けられる水晶片40の中央部の領域及び周縁部を周方向に4つに区切った領域を、夫々領域51〜55とする。
【0020】
図4は、摩擦パッド32における支持部材34の裏面を示している。前記摩擦パッド32において、水晶片40の各領域51〜55に重なる各領域51a〜55aを圧力検出領域とする。各圧力検出領域51a〜55aには、電極41〜45から信号を取り出すための電極61〜65が設けられている。電極61〜65は水晶片40の電極41〜45に重なるように設けられている。
【0021】
摩擦パッド32の圧力検出領域51a〜55aが受ける応力に応じて、水晶片40の各領域51〜55に応力が加わる。水晶の圧電効果により、水晶片40の各領域51〜55に加わる応力に応じて電荷が生じ、この電荷の量に応じたレベルの信号が電極41〜45から出力される。つまり、この例では圧電素子4は、1基のみ設けられているが、実質的に各圧力検出領域51a〜55aに個別に圧電素子が設けられ、各圧電素子が水晶片を共有しているものと見ることができる。
【0022】
図5は、ディスクブレーキ11の回路構成図である。この図5では図示の便宜上圧電素子4の各電極41〜45及び水晶片40の領域51〜55を紙面に展開して示している。各電極41〜45はアンプ71に接続され、各電極41〜45からの出力V1〜V5が所定の増幅率で増幅される。増幅された出力信号をV'1〜V'5とする。各アンプ71の後段には最大値検出部72、最小値検出部73、平均化部74が夫々接続されている。
【0023】
最大値検出部72は、出力信号V'1〜V'5のうち最大値をとる信号(V'maxとする)を検出し、この信号V'maxを後段に出力する。最小値検出部73は、出力信号V'1〜V'5のうち最小値をとる信号(V'minとする)を検出し、この信号V'minを後段に出力する。また、平均化部74は、V'1〜V'5の平均値を演算し、演算したレベルの信号(V'aveとする)を後段に出力する。これら最大値検出部72、最小値検出部73、平均化部74、第1の比較部75及び第2の比較部76は、ディスク21に対する摩擦パッド32の押圧力に対応する検出信号を生成する信号処理部に相当する。
【0024】
最大値検出部72、最小値検出部73の後段には第1の比較部75に接続されており、第1の比較部75では、最大値検出部72からの出力と及び最小値検出部73からの出力との偏差が演算され、その偏差に対応した信号が後段に出力される。第1の比較部75の後段側は、第2の比較部76に接続されている。第2の比較部76は、第1の比較部75からの出力値と、予め設定された基準値ΔVaと、の大小を比較する。そして、この比較結果に応じてスイッチ77の切り替え動作を行う。このスイッチ77の前段側には、最小値検出部73と平均化部74とが設けられており、スイッチ77により最小値検出部73、平均化部74の一方の出力が、後段側に供給される。
【0025】
前記スイッチ77の後段には、第3の比較部78が設けられている。また、第3の比較部78の前段には、設定信号出力部13が接続されており、最小値検出部73からの出力信号V'minまたは平均化部74からの出力信号V'aveと、設定信号出力部13からの設定信号V0との偏差が演算されて、後段に出力される。第3の比較部78の後段には、例えばアンプ79を含む積分回路81が接続されており、積分回路81の後段側はモータ2に接続されている。この積分回路81から出力される操作信号Vcにより、モータ2のトルクが制御される。第3の比較部78、アンプ79及びコンデンサ80は、モータ2の設定信号を演算して出力する演算部に相当する。
【0026】
続いて、上記のディスクブレーキ11の作用について説明する。自動車1の走行中、運転者によるブレーキペダル12の踏み込み角度が大きくなると、角度が大きくなった分だけ、設定信号出力部13から出力される設定信号V0が増大し、第3の比較部78から積分回路81への出力が増大する。そして、積分回路81から出力される操作信号Vcが上昇し、モータ2のトルクが上昇し、摩擦パッド31が摩擦パッド32へ向かって移動し、ディスク21を摩擦パッド32へ押圧する押圧力が大きくなる。
【0027】
そして、摩擦パッド32の各圧力検出領域51a〜55aのディスク21に対する押圧力が大きくなり、水晶片40の各領域51〜55に加わる応力が増大する。それによって、各領域51〜55から出力される圧力検出信号V1〜V5も大きくなり、各アンプ71から出力される増幅信号V'1〜V'5も大きくなる。そして、増幅信号V'1〜V'5は、最大値検出部72、最小値検出部73、平均化部74に夫々出力される。
【0028】
増幅信号V'1〜V'5が増加しているため、最大値検出部72から出力されるV'max、最小値検出部73から出力されるV’min及び平均化部74から出力されるV'aveが増加する。信号V'max、V'minが第1の比較部75に入力され、V'max−V'minが演算される。この差分信号V'max−V'minが、第2の比較部76に入力され、第2の比較部76は基準値ΔVaとV'max−V'minとの大小を比較する。
【0029】
ここで、V'max−V'min>ΔVaである場合は、平均化部74と第3の比較部78とが接続されるようにスイッチ77が切り替わる。そして、第3の比較部78で、設定信号V0と平均化部74から出力されるV'aveとの偏差V0−V'aveが演算される。上記のようにV'aveが大きくなっているため、前記偏差が小さくなり、モータ2に出力される操作信号Vcが減少し、モータ2のトルクの上昇が抑えられる。そして、前記偏差が0になると、操作信号Vcの増加が停止し、モータ2のトルクの上昇が停止する。
【0030】
V'max−V'min≦ΔVaである場合は、最小値検出部73と第3の比較部78とが接続されるようにスイッチ77が切り替わる。そして、第3の比較部78で、設定信号V0と平均化部74から出力されるV'minとの偏差V0−V'minが演算される。上記のようにV'minが大きくなっているため、前記偏差が小さくなり、モータ2に出力される操作信号Vcが減少し、モータ2のトルクの上昇が抑えられる。そして、前記偏差が0になると、操作信号Vcの増加が停止し、モータ2のトルクの上昇が停止する。
【0031】
自動車1の走行中、運転者によるブレーキペダル12の踏み込み角度が小さくなると、角度が小さくなった分だけ、設定信号出力部13からの設定信号V0が減少し、第3の比較部78から積分回路81への出力が減少する。そして、積分回路81から出力される操作信号Vcが減少し、モータ2のトルクが小さくなる。摩擦パッド31が摩擦パッド32から離れる方向に移動し、ディスク21を摩擦パッド32へ押圧する押圧力が小さくなる。
【0032】
そして、摩擦パッド32の各圧力検出領域51a〜55aのディスク21に対する押圧力が小さくなり、水晶片40の各領域51〜55に加わる応力が減少する。それによって、各領域51〜55から出力される圧力検出信号V1〜V5も小さくなり、各アンプ71から出力される増幅信号V'1〜V'5も小さくなる。そして、増幅信号V'1〜V'5は、最大値検出部72、最小値検出部73、平均化部74に夫々出力される。
【0033】
増幅信号V'1〜V'5が減少しているため、最大値検出部72から出力されるV'max、最小値検出部73から出力されるV’min及び平均化部74から出力されるV'aveが減少する。信号V'max、V'minが第1の比較部75に入力され、V'max−V'minが演算される。この差分信号V'max−V'minが、第2の比較部76に入力され、第2の比較部76は基準値ΔVaとV'max−V'minとの大小を比較する。
【0034】
ここで、V'max−V'min>ΔVaである場合は、平均化部74と第3の比較部78とが接続されるようにスイッチ77が切り替わる。そして、第3の比較部77で、設定信号V0と平均化部74から出力されるV'aveとの偏差V0−V'aveが演算される。上記のようにV'aveが小さくなっているため、前記偏差が次第に小さくなり、モータ2に出力される操作信号Vcの減少が抑えられ、それによって当該モータ2のトルクの減少が抑えられる。そして、前記偏差が0になると、操作信号Vcの減少が停止し、モータ2のトルクの減少が停止する。
【0035】
V'max−V'min≦ΔVaである場合は、最小値検出部73と第3の比較部78とが接続されるようにスイッチ77が切り替わる。そして、第3の比較部78で、設定信号V0と平均化部74から出力されるV'minとの偏差V0−V'minが演算される。上記のようにV'minが小さくなっているため、前記偏差が小さくなり、モータ2に出力される操作信号Vcの減少が抑えられ、モータ2のトルクの減少が抑えられる。そして、前記偏差が0になると、操作信号Vcの減少が停止し、モータ2のトルクの減少が停止する。
【0036】
上記のように、自動車1に設けられたディスクブレーキ11においては、圧電素子4が摩擦パッド32の裏面に設けられている。圧電素子4の各領域51〜55から出力される信号V'1〜V'5について、その最大値と最小値との開きが大きいときは、これらV'1〜V'5の平均値を用いることで、圧電素子4の面内の圧力が不均一な状態でも、外れた値に制御が引き込まれること無く、安定したディスクブレーキ11の制御が行える。最大値と最小値との開きが小さいときは、最小値を用いることで、ディスク21の押圧力が低くなりすぎることを防ぐように、ディスクブレーキ11を安全側に動作させることができる。このようにディスクブレーキ11では、圧電素子4で検出される圧力がばらついても、ディスクブレーキ11の制御が影響を受けることが抑えられる。結果として、ブレーキペダル12の踏み込みに対応して、高い精度でディスク21の減速を精度高く制御することができる。
【0037】
図6にはディスクブレーキ11の他の構成例を示しており、図5に示すディスクブレーキ11の構成例との差異点を説明する。平均化部74及び最小値検出部73の後段側が第1の比較部75に接続され、第1の比較部75ではV'ave−V'minが演算される。そして、第2の比較部76は予め設定された基準値ΔVbと、この演算値V'ave−V'minとの大小を比較した結果に基づいてスイッチ77を切り替える。最小値検出部73及び平均化部74の後段には、前記スイッチ77が設けられ、最小値検出部73または平均化部74が第3の比較部78に接続される。
【0038】
図6のディスクブレーキ11の作用について、図5のディスクブレーキとの差異点を説明する。第2の比較部76で、V'ave−V'min>ΔVbと判定された場合、平均化部74と第3の比較部78とが接続されるように、スイッチ77が切り替わる。そして、第3の比較部78で偏差V0−V'aveが演算され、その演算値に対応する信号が積分回路81で積分されて、モータ2へ出力される。
【0039】
第2の比較部76でV'ave−V'min≦Vbと判定された場合、最小値検出部73と第3の比較部78とが接続されるように、スイッチ77が切り替わる。そして、第3の比較部78で偏差V0−V'minが演算され、その演算値に対応する信号が積分回路81で積分されて、モータ2へ出力される。
【0040】
このように図6の構成例では、圧電素子4の各圧力検出領域51〜55から出力される信号V'1〜V'5について、その平均値と最小値との開きが大きいときは、これらV'1〜V'5の平均値を用いて設定信号V0との偏差を演算しており、その平均値と最小値との開きが小さいときはこれらV'1〜V'5の最小値を用いている。このような構成としても図5のディスクブレーキ11と同様の効果が得られる。また、最大値検出部72を設けなくてもよいという利点がある。
【0041】
上記実施形態の圧電素子4は、共通の水晶片40に電極が形成され、実質的に5つの圧電素子として機能するように構成されているが、水晶片を個片に分割し、夫々別々の圧電素子として構成してもよい。ただし、上記の実施形態のように共通の水晶片40に複数の電極を設けることで、温度特性などの水晶片が各々有する特性のばらつきにより、水晶片の各電極から出力される信号がばらつくことが抑えられる。従って、より高い精度でディスク21の減速を制御することができる。
【0042】
水晶片40の形状としてはどのような形状であってもよく、図3に示した円形の他に正方形、長方形、菱形など、どのような形状であってもよい。また、水晶片に形成される各電極の形状も図3で示した長方形に限られず、どのような形状であってもよい。例えば、正方形、長方形、菱形、丸形、扇形などであってもよい。
【0043】
圧電素子4は、摩擦パッド31の裏面(押圧面35とは逆の面)に設けられていてもよいし、摩擦パッド31、32に埋め込まれていてもよい。また、摩擦パッド31、32が両側からディスク21を押圧するように構成されていてもよい。
【0044】
制動装置をなすディスクブレーキ11について、輸送用機器である自動車への適用例を説明してきたが、このディスクブレーキ11は、それ以外の輸送用機器にも適用することができる。例えば、ディスクブレーキ11を列車に適用して、上記のタイヤの代わりに当該列車の車輪とディスク21とが連動して回転するように構成することによって、前記車輪の制動を精度高く行うことができる。また、飛行機の車輪にディスクブレーキ11を適用することで列車の場合と同様に、前記車輪の制動を精度高く行うことができる。また、車輪以外にも、船舶のスクリューや飛行機のプロペラにディスクブレーキ11を適用することができる。つまり、プロペラやスクリューに連動してディスク21が回転するように構成し、ディスクブレーキ11によりこれらプロペラやスクリューの回転を精度高く制御することができる。このようにディスクブレーキ11が適用された自動車、船舶、飛行機などの輸送用機器についても本発明の権利範囲に含まれる。
【0045】
その他に本発明が適用される各種の産業機器について説明する。図7は建設機器であるクレーン8の側面図、図8は同平面図である。図中81は基台、図中82は不図示のモータにより基台81に対して鉛直軸回りに回転する支柱、図中83は支柱82に固定された回転台である。図中84は回転台83から上方へ伸びるアームであり、回転台83に設けられたモータ84bにより水平面に対して任意の角度に調整自在である。
【0046】
85はアーム84の先端側に設けられたプーリであり、アーム84に設けられた不図示のモータにより水平軸回りに回動する。このプーリ85にはワイヤー86の一端が固定されており、ワイヤー86の他端には資材搬送用のフック87が接続されている。前記モータによりプーリ85へのワイヤーの巻き取りまたは懸垂が行われ、フック87が昇降自在に構成される。プーリ85、アーム84、支柱82には夫々これらの各部と共に回転するようにフランジ85a、84a、82aが設けられている。これらフランジ85a、84a、82aは既述の実施形態のディスク21に相当する。そして、これらフランジ85a、84a、82aに対応して各々キャリパ22が設けられる。
【0047】
例えばユーザがブレーキペダル12に相当する操作レバーを操作すると、既述の実施形態と同様にキャリパ22により各フランジ85a、84a、82aの回転速度が夫々独立して抑えられ、回転台83の向きの変更速度、アーム84の角度変更速度及びフック87の昇降速度について精度高く制御することができる。それによって前記資材の搬送が容易になり、作業の効率化を図ることができる。ところで、この例でフック87の代わりに人や資材を搬送する台や箱状体を昇降できるように構成し、エレベータ装置として構成することができる。その他に本発明の制動装置を例えばフォークリフトに適用し、フォークの昇降速度を精度高く制御することもできる。
【0048】
図9では産業機器として本発明の制動装置を備えた風力発電装置9を示している。図中91は風車、図中92は風車に接続された支持部である。図中93は支持部に設けられたフランジであり、ディスク21に相当する。図中94は支持部92の回転速度に応じて発電する発電部である。例えばブレーキペダル12に相当する操作レバーによりキャリパ22を動作させて、風車91の回転を減速させることができる。それによって例えば風力が強すぎる場合に、風力発電装置9の破損を抑え、且つ適切な発電量を得ることができる。このようにディスクを押圧して、ディスクの回転速度を制御する制動装置を用いた各種の産業機器に本発明を適用することができ、本発明の制動装置が適用された産業機器も本発明の権利範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0049】
1 自動車
11 ディスクブレーキ
12 ブレーキペダル
13 設定信号出力部
21 ディスク
22 キャリパ
31,32 摩擦パッド
4 圧電素子
40 水晶片
41〜45 電極
51a〜55a 圧力検出領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転するディスクと、
前記ディスクの一面側に、ディスクと対向して設けられた第1のパッドと、
ディスクの他面側に、ディスクを挟んで第1のパッドと対向するように設けられた第2のパッドと、
第1のパッドを第2のパッドに向かって移動させ、前記ディスクを、第1のパッドと第2のパッドとで挟み込んで押圧して、ディスクの回転を抑える電動アクチュエータと、
前記ディスクに対するパッドの押圧力を設定するための設定信号を出力する押圧力設定部と、
前記第1のパッドまたは第2のパッドに互いに異なる位置に設けられ、パッドの応力を検出する複数の圧電素子と、
前記複数の圧電素子から得られた電気信号を処理して、前記ディスクに対するパッドの押圧力に対応する押圧力の検出信号を生成する信号処理部と、
前記設定信号と検出信号との偏差を求め、この偏差に基づいて前記電動アクチュエータの操作信号を演算して出力する演算部と、を備えたことを特徴とする制動装置。
【請求項2】
前記信号処理部は、複数の圧電素子から得られた電気信号の最大値、最小値または平均値に基づいて前記検出信号を作成することを特徴とする請求項1記載の制動装置。
【請求項3】
複数の圧電素子は、圧電片を共有することを特徴とする請求項1または2に記載の制動装置。
【請求項4】
前記圧電素子は、水晶片により構成されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載の制動装置。
【請求項5】
前記電動アクチュエータは、モータと、当該モータのトルクを前記第1のパッドを移動させるための直線運動に変換するための変換部材と、を備え、前記操作信号は、前記モータに出力されることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一つに記載の制動装置。
【請求項6】
前記ディスクは走行車両の車輪と連動して回転することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一つに記載の制動装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか一つに記載の制動装置を備えた輸送用機器。
【請求項8】
請求項1ないし5のいずれか一つに記載の制動装置を備えた産業用機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−37047(P2012−37047A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80004(P2011−80004)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】