説明

制御装置及び車両

【課題】走行中における一時的な車輪のスリップの発生を有効に防止し得る制御装置及び車両を提供すること。
【解決手段】本発明の制御装置及び車両によれば、車両の車輪状態検出手段により検出される各車輪の状態の比較に基づいて、複数の車輪の中にスリップの可能性がある車輪が存在するか否かが判定手段によって判定される。ここで、スリップの可能性がある車輪が存在すると判定された場合には、キャンバ角調整手段によって、キャンバ角調整装置を作動させ、該スリップの可能性があると判定された車輪のキャンバ角を、ネガティブ側又はポジティブ側に所定角度傾斜するように調整する。その結果、車輪の面圧を上げたり車高を下げたりできるので、車輪の接地荷重が高まり、走行中における一時的な車輪のスリップの発生を防止することできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪のキャンバ角を変更可能な車両及びその車両に用いられる制御装置に関し、特に、走行中における車輪のスリップを防止し得る制御装置及びその制御装置を備えた車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特開平10−297239号公報(特許文献1)は、車体と車軸との間に設けたアクチュエータの伸張加速度で車体に垂直方向の慣性力を発生させ、その反力によってタイヤの接地荷重を一時的に増大させることによって、車両重量を超えた加重をタイヤの接地面に一時的に加えてスリップ(空転)を防止し、急発進時や急加速時等の一時的な加速性能を向上させることができる接地荷重制御装置を記載している。
【特許文献1】特開平10−297239号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載される接地荷重制御装置は、急発進時や急加速時におけるタイヤのスリップを防止するための技術であり、走行中に路面状態などに起因して一時的に生じる車輪のスリップについては想定されていない。
【0004】
また、特許文献1に記載される接地荷重装置では、急加速時におけるスロットル開度と車速とから駆動輪のスリップを予測するので、走行中における車輪のスリップ予測としては十分でない。さらに、特許文献1に記載される接地荷重装置では、駆動輪のスリップが予測されると、駆動輪の接地荷重を増加させるための付勢接地荷重を算出するが、かかる付勢接地荷重の算出に必要なパラメータの1つである路面状態設定値が、ユーザによるマニュアル設定値であるので、精度の点においても十分でない。
【0005】
本発明は上述した事情を鑑みてなされたものであり、走行中における一時的な車輪のスリップの発生を有効に防止し得る制御装置及び車両を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を解決するために請求項1記載の制御装置は、複数の車輪と、その車輪のキャンバ角を調整するキャンバ角調整装置とを有する車両に用いられるものであって、前記車両は、走行中における前記車輪の各々の状態を検出する車輪状態検出手段を有し、前記車輪状態検出手段により検出された各車輪の状態の比較に基づいて、前記複数の車輪の中にスリップの可能性がある車輪が存在するか否かを判定する判定手段と、前記判定手段により前記スリップの可能性がある車輪が存在すると判定された場合に、前記キャンバ角調整装置を作動させて、前記スリップの可能性があると判定された車輪のキャンバ角を、ネガティブ側又はポジティブ側に所定角度傾斜するように調整するキャンバ角調整手段とを備えている。
【0007】
請求項2記載の制御装置は、請求項1記載の制御装置において、前記判定手段は、前記車輪状態検出手段により検出された各車輪の状態の比較に基づいて、前記複数の車輪の中にスリップの可能性がある1の車輪が存在するか否かを判定するか否かを判定する。
【0008】
請求項3記載の車両は、車輪と、その車輪のキャンバ角を調整するキャンバ角調整装置と、前記車輪の状態を検出する車輪状態検出手段と、請求項1又は2に記載の制御装置とを有しており、前記車輪は、トレッド面の曲率が所定値より大きく構成され、前記キャンバ角調整装置は、前記車輪のキャンバ回転軸が前記車輪の回転軸より下方に設定されている。
【0009】
請求項4記載の車両は、車輪と、その車輪のキャンバ角を調整するキャンバ角調整装置と、前記車輪の状態を検出する車輪状態検出手段と、請求項1又は2に記載の制御装置とを有しており、前記車輪は、トレッド面の曲率が所定値より小さく構成され、前記キャンバ角調整装置は、前記車輪のキャンバ回転軸が前記車輪の回転軸より上方に設定されている。
【0010】
請求項5記載の車両は、請求項3又は4に記載の車両において、前記車輪状態検出手段は、前記車輪の回転数を検出する。
【0011】
請求項6記載の車両は、請求項3又は4に記載の車両において、前記車輪状態検出手段は、前記車輪の接地荷重を検出する。
【0012】
請求項7記載の車両は、請求項3又は4に記載の車両において、前記車輪を車体に懸架するサスペンションを備え、前記車輪状態検出手段は、前記サスペンションのストローク量を検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の制御装置によれば、車両の車輪状態検出手段により検出される各車輪の状態の比較に基づいて、複数の車輪の中にスリップの可能性がある車輪が存在するか否かが判定手段によって判定される。ここで、スリップの可能性がある車輪が存在すると判定された場合には、キャンバ角調整手段によって、キャンバ角調整装置を作動させ、該スリップの可能性があると判定された車輪のキャンバ角を、ネガティブ側又はポジティブ側に所定角度傾斜するように調整する。
【0014】
ここで、車輪にネガティブ側又はポジティブ側に傾斜されるキャンバ角を付与することにより、車輪の面圧を上げることができる。あるいは、車輪にネガティブ側又はポジティブ側に傾斜されるキャンバ角を付与することにより、車高を下げて重心を下げることができる。
【0015】
よって、走行中にスリップの可能性がある車輪に対し、ネガティブ側又はポジティブ側に傾斜されるキャンバ角を付与することにより、接地荷重を高めることができるので、走行中における一時的な車輪のスリップの発生を防止することできるという効果がある。
【0016】
また、請求項1記載の制御装置によれば、走行中における各車輪の状態の比較、即ち、走行中における相対的な車輪の状態に基づき、複数の車輪の中からスリップの可能性がある車輪が存在するか否かを判定するので、スリップの可能性がある車輪を見出し易く、特に、路面状態(例えば、路面の凹みや、路面上における部分的な摩擦係数の低い部分の存在)などに起因して一部の車輪の荷重が一時的に抜ける状況に対する判定精度が向上する。よって、スリップ防止に対する確実性の高い見込み制御をすることができるという効果がある。
【0017】
請求項2記載の制御装置によれば、請求項1記載の制御装置の奏する効果に加えて、次の効果を奏する。車輪状態検出手段により検出された各車輪の状態の比較に基づいて、複数の車輪の中にスリップの可能性がある1の車輪が存在するか否かが判定手段によって判定される。よって、走行中に、いずれか1の車輪にスリップの可能性が生じた場合に、その車輪のスリップを防止することができるので、走行安定性が確保されるという効果がある。
【0018】
請求項3及び請求項4に記載の車両によれば、どちらも、請求項1又は2に記載の制御装置とを有するので、上述した請求項1又は2に記載の制御装置が奏する効果と同様の効果を奏する。
【0019】
さらに、請求項3記載の車両によれば、車輪のトレッド面の曲率が所定値より大きく構成されると共に、車輪のキャンバ回転軸が車輪の回転軸より下方に設定されているキャンバ角調整装置が用いられているので、走行中にスリップの可能性がある車輪に対してネガティブ側又はポジティブ側に傾斜されるキャンバ角を付与することによって、車輪の面圧を上げ易く、その結果として、走行中における一時的な車輪のスリップの発生を有効に防止することできるという効果がある。
【0020】
一方、請求項4記載の車両によれば、車輪のトレッド面の曲率が所定値より小さく構成されると共に、車輪のキャンバ回転軸が車輪の回転軸より上方に設定されているキャンバ角調整装置が用いられているので、走行中にスリップの可能性がある車輪に対してネガティブ側又はポジティブ側に傾斜されるキャンバ角を付与することによって、車高が下がり易く(即ち、重心が下がり易く)、その結果として、走行中における一時的な車輪のスリップの発生を有効に防止することできるという効果がある。
【0021】
請求項5記載の車両によれば、請求項3又は4に記載の車両の奏する効果に加えて、次の効果を奏する。車輪状態検出手段によって車輪の回転数が車輪の状態として検出され、各車輪の回転数の比較に基づいて、複数の車輪の中にスリップの可能性がある車輪が存在するか否かが判定手段によって判定される。ここで、車輪の回転数は走行中における該車輪のスリップの可能性を反映する数値であるので、各車輪間で比較する車輪の状態として車輪の回転数を利用することにより、走行中における一時的なスリップの発生の可能性を見い出し易く、スリップ発生を有効に防止し得るという効果がある。
【0022】
請求項6記載の車両によれば、請求項3又は4に記載の車両の奏する効果に加えて、次の効果を奏する。車輪状態検出手段によって車輪の接地荷重が車輪の状態として検出され、各車輪の接地荷重の比較に基づいて、複数の車輪の中にスリップの可能性がある車輪が存在するか否かが判定手段によって判定される。ここで、車輪の接地荷重は走行中における該車輪のスリップの可能性を反映する数値であるので、各車輪間で比較する車輪の状態として車輪の接地荷重を利用することにより、走行中における一時的なスリップの発生の可能性を見い出し易く、スリップ発生を有効に防止し得るという効果がある。
【0023】
請求項7記載の車両によれば、請求項3又は4に記載の車両の奏する効果に加えて、次の効果を奏する。車輪状態検出手段によって車輪と車体とを懸架するサスペンションのストローク量が車輪の状態として検出され、各車輪に対するサスペンションのストローク量の比較に基づいて、複数の車輪の中にスリップの可能性がある車輪が存在するか否かが判定手段によって判定される。ここで、サスペンションのストローク量は走行中における車輪のスリップの可能性を反映する数値であるので、各車輪間で比較する車輪の状態としてサスペンションのストローク量を利用することにより、走行中における一時的なスリップの発生の可能性を見い出し易く、スリップ発生を有効に防止し得るという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1実施形態における制御装置100が搭載される車両1の上面視を模式的に示した模式図である。なお、図1の矢印FWDは、車両1の前進方向を示す。
【0025】
まず、車両1の概略構成について説明する。車両1は、図1に示すように、車体フレームBFと、その車体フレームBFに支持される複数(本実施形態では4輪)の車輪2と、それら各車輪2の内の一部(本実施形態では左右の前輪2FL,2FR)を回転駆動する車輪駆動装置3と、各車輪2を車体フレームBFに懸架すると共に各車輪2のキャンバ角を独立に調整する懸架装置4と、ステアリング63の操作に伴って各車輪2の内の一部(本実施形態では左右の前輪2FL,2FR)を操舵するステアリング装置5とを主に備えている。
【0026】
車両1は、上述のように懸架装置4が各車輪2のキャンバ角を独立して調整できる構成とされているので、各車輪2のキャンバ角を必要に応じて調整し、走行性能を上げることができる。特に、本実施形態の車両1は、全車輪2FL〜2RRのうちの1輪にスリップの可能性が生じた場合に、スリップの可能性のある車輪2のキャンバ角をマイナス方向(ネガティブ)が調整することによって当該車輪のスリップを防止する構成とされている。
【0027】
次いで、各部の詳細構成について説明する。車体フレームBFは、車両1の骨格をなすと共に各種装置(車輪駆動装置3など)を搭載するためのものであり、懸架装置4に支持されている。
【0028】
車輪2は、図1に示すように、車体BFの前方側(矢印FWD側)に配置される左右の前輪2FL,2FRと、車体フレームBFの後方側(反矢印FWD側)に配置される左右の後輪2RL,2RRとの4輪を備えている。また、左右の前輪2FL,2FRは、車輪駆動装置3から付与される回転駆動力により回転駆動される駆動輪として構成される一方、左右の後輪2RL,2RRは、車両1の走行に伴って従動する従動輪として構成されている。
【0029】
なお、本実施形態では、車輪2として、トレッド面(踏面)2aの曲率が大きい車輪を採用している。よって、車輪2を路面に対して傾斜させることにより、接地幅(接地面積)を低下させて車輪2の面圧を上げることができ、その車輪の接地荷重を高めることができる。
【0030】
車輪駆動装置3は、上述したように、左右の前輪2FL,2FRに回転駆動力を付与して回転駆動するための装置であり、後述するように電動モータ3aにより構成されている(図7参照)。電動モータ3aは、図1に示すように、ディファレンシャルギヤ(図示せず)及び一対のドライブシャフト31を介して、左右の前輪2FL,2FRに接続されている。
【0031】
運転者がアクセルペダル61を操作した場合には、車輪駆動装置3から左右の前輪2FL,2FRに回転駆動力が付与され、それら左右の前輪2FL,2FRがアクセルペダル61の踏み込み状態に応じた回転速度で回転駆動される。なお、左右の前輪2FL,2FRの回転差は、ディファレンシャルギヤにより吸収される。
【0032】
懸架装置4は、いわゆるサスペンションとして機能する装置であり、図1に示すように、各車輪2に対応して設けられている。本実施形態における懸架装置4は、本発明のキャンバ角調整装置であるキャンバ角調整装置70(図2,図3参照)を含んでおり、かかるキャンバ角調整装置70により車輪2のキャンバ角を調整できるように構成されている。
【0033】
ここで、図2を参照して、懸架装置4の詳細構成について説明する。図2は、懸架装置4の正面図であり、なお、各懸架装置4の構成はそれぞれ共通であるので、ここでは右の前輪2FRに対応する懸架装置4を代表例として図2に図示する。また、図2では、発明の理解を容易とするために、ドライブシャフト31やロアアーム等の図示を省略し、図面を簡素化している。
【0034】
本実施形態における懸架装置4は、ストラット式のサスペンションとして構成されており、図2に示すように、車両1のほぼ上下方向に延びるストラット部材41と、車輪2を回動自在に支持する車輪支持部材としてのナックル42と、車両1のほぼ車幅方向に延びるロアアーム(図示せず)とを有している。
【0035】
ストラット部材41は、サスペンションスプリング41a及びそのサスペンションスプリング41aの振動を減衰させるショックアブソーバ41bなどから構成されている。このストラット部材41の下端41(ショックアブソーバ41bの筒体側)は、ナックル42に剛結合されている。一方、図示はしないが、ストラット部材41の上端(ショックアブソーバ41bのピストンロッド側)は、車体フレームBFに枢着されている。
【0036】
また、本実施形態における懸架装置4は、車輪2のキャンバ角を調整するキャンバ角調整装置70を含み、各車輪2のキャンバ角を独立して調整できるように構成されている。FRアクチュエータ70FRは、油圧シリンダから構成され、ロッド部70bが図示されないジョイント部(ユニバーサルジョイントなど)を介してナックル42に枢着されている。一方、FRアクチュエータ70FRの本体部70aは、車体フレーム側に枢着されている。
【0037】
かかるキャンバ角調整装置70を含む懸架装置4によれば、FL〜RRアクチュエータ70FL〜70RRが伸張されることにより、車輪2(2FL〜2RR)が所定のキャンバ軸を中心として揺動されて、キャンバ角がマイナス方向(ネガティブ)に調整される。一方で、FL〜RRアクチュエータ70FL〜70RRが収縮されることにより、キャンバ角がプラス方向(ポジティブ)に調整される。
【0038】
再度、図1に戻って説明する。ステアリング装置5は、ラックアンドピニオン式の機構により構成され、ステアリングシャフト51と、フックジョイント52と、ステアリングギヤ53と、タイロッド54と、連結部材55と、ナックル42(図4(b)参照)とを主に備えている。
【0039】
このステアリング装置5によれば、運転者によるステアリング63の操作は、まず、ステアリングシャフト51を介してフックジョイント52に伝達されると共に、フックジョイント52により角度を変えられつつ、ステアリングギヤ53のピニオン53aに回転運動として伝達される。そして、ピニオン53aに伝達された回転運動は、ラック53bの直線運動に変換され、ラック53bが直線運動することで、ラック53bの両端に接続されたタイロッド54が移動して、連結部材55を介してナックル42を押し引きすることで、車輪2の操舵角が調整される。
【0040】
ステアリング63は、運転者により操作される操作部材であり、その操作に伴って、車輪2が上述したステアリング装置5により操舵される。また、アクセルペダル61及びブレーキペダル62は、運転者により操作される操作部材であり、各ペダル61,62の踏み込み状態(踏み込み量、踏み込み速度など)に応じて、車両1の加速量や制動量などが決定される。
【0041】
制御装置100は、上述したように構成される車両1の各部を制御するための装置であり、例えば、各ペダル61,62の踏み込み状態を検出し、その検出結果に応じて車輪駆動装置3を制御することで、各車輪2を回転駆動する。
【0042】
また、本実施形態の制御装置100は、回転数が示す各車輪2の状態を比較することに基づいてスリップの可能性がある車輪2が存在するか否かを判定し、スリップの可能性がある車輪2が存在する場合には、キャンバ角調整装置70を制御して、スリップの可能性がある車輪2のキャンバ角を調整するように構成されている。
【0043】
ここで、図3を参照して、本実施形態の制御装置100の詳細構成について説明する。図3は、制御装置100の電気的構成を示したブロック図である。制御装置100は、図3に示すように、CPU71、ROM72及びRAM73を備え、それらがバスライン74を介して入出力ポート75に接続されている。また、入出力ポート75には、車輪駆動装置3等の複数の装置が接続されている。
【0044】
CPU71は、バスライン74によって接続された各部を制御する演算装置である。ROM72は、CPU71によって実行される制御プログラム(例えば、図4に図示されるスリップ防止処理のプログラム)や固定値データ等を記憶するための書き換え不能な不揮発性のメモリであり、RAM73は、制御プログラムの実行時に各種のデータを書き換え可能に記憶するためのメモリである。
【0045】
車輪駆動装置3は、上述したように、左右の前輪2FL,2FR(図1参照)を回転駆動するための装置であり、それら左右の前輪2FL,2FRに回転駆動力を付与する電動モータ3aと、その電動モータ3aをCPU71からの命令に基づいて制御する制御回路(図示せず)とを主に備えている。
【0046】
キャンバ角調整装置70は、各車輪2(2FL〜2RR)のキャンバ角を調整するための装置であり、本発明におけるキャンバ角調整装置として機能するものである。このキャンバ角調整装置70は、4個のFL〜RRアクチュエータ70FL〜70RRと、それら各アクチュエータ70FL〜70RRをCPU71からの命令に基づいて制御する制御回路(図示せず)とを主に備えている。
【0047】
なお、FL〜RRアクチュエータ70FL〜70RRは、上述したように、本体部70aとロッド部70bとを有する油圧シリンダから構成されている。この各油圧シリンダ(FL〜RRアクチュエータ70FL〜70RR)は、各油圧シリンダにオイル(油圧)を供給する油圧ポンプ(図示せず)と、その油圧ポンプから各油圧シリンダに供給されるオイルの供給方向を切り換える電磁弁(図示せず)とをさらに有している。
【0048】
CPU71からの指示に基づいて、キャンバ角調整装置70の制御回路が油圧ポンプを駆動制御すると、その油圧ポンプから供給されるオイル(油圧)によって、各油圧シリンダが伸縮駆動される。また、電磁弁がオン/オフされると、各油圧シリンダの駆動方向(伸長または収縮)が切り替えられる。
【0049】
キャンバ角調整装置70の制御回路は、各油圧シリンダの伸縮量を伸縮センサ(図示せず)により監視し、CPU71から指示された目標値(伸縮量)に達した油圧シリンダは、伸縮駆動が停止される。なお、伸縮センサによる検出結果は、制御回路からCPU71に出力され、CPU71は、その検出結果に基づいて各車輪2のキャンバ角を得ることができる。
【0050】
車輪速センサ装置81は、各車輪2(2FL〜2RR)の回転速度(車輪速)を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、本発明における車輪状態検出手段として機能するものである。CPU71は、車輪速センサ装置81から出力された結果に基づいて、各車輪2(2FL〜2RR)の回転数を得ることができる。
【0051】
この車輪速センサ装置81は、左の前輪2FLの車輪速を検出するFL車輪速センサ81FLと、右の前輪2FRの車輪速を検出するFR車輪速センサ81FRと、左の後輪2RLの車輪速を検出するRL車輪速センサ81RLと、右の後輪2RRの車輪速を検出するRR車輪速センサ81RRと、それらの車輪速センサ81FL〜81RRの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを備えている。
【0052】
なお、本実施形態では、これらの各車輪速センサ81FL〜81RRが、車輪2と共に回転するセンターロータ(図示せず)の磁界変動を、ホール素子(図示せず)によって検出する電磁的センサとして構成されている。
【0053】
接地荷重センサ装置82は、各車輪2(2FL〜2RR)と路面との間に発生する接地荷重を検出すると共に、その結果をCPU71に出力するための装置である。CPU71は、接地荷重センサ装置82から出力された結果に基づいて、各車輪2(2FL〜2RR)の接地荷重を得ることができる。
【0054】
この接地荷重センサ装置82は、左の前輪2FLの接地荷重を検出するFL荷重センサ82FLと、右の前輪2FRの接地荷重を検出するFR荷重センサ82FRと、左の後輪2RLの接地荷重を検出するRL荷重センサ82RLと、右の後輪2RRの接地荷重を検出するRR荷重センサ82RRと、それらの荷重センサ82FL〜82RRの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを備えている。
【0055】
なお、本実施形態では、各荷重センサ82FL〜82RRがピエゾ抵抗型の3軸荷重センサとして構成されている。これら各荷重センサ82FL〜82RRは、各車輪2を保持するストラット部材41上に配設され、各車輪2の接地荷重を車両1の前後方向(図1における上下方向)、左右方向(図1における左右方向)、及び上下方向(図1における紙面表裏方向)で検出する。
【0056】
ストロークセンサ装置83は、各車輪2を保持するストラット部材41のショックアブソーバ41bのサスペンションストローク量を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置である。CPU71は、車輪速センサ装置81から出力された結果に基づいて、各車輪2(2FL〜2RR)におけるサスペンションストローク量を得ることができる。
【0057】
このストロークセンサ装置83は、左の前輪2FLにおけるサスペンションストローク量を検出するFLストロークセンサ83FLと、右の前輪2FRにおけるサスペンションストローク量を検出するFRストロークセンサ83FRと、左の後輪2RLにおけるサスペンションストローク量を検出するRLストロークセンサ83RLと、右の後輪2RRにおけるサスペンションストローク量を検出するRRストロークセンサ83RRと、それらのストロークセンサ83FL〜83RRの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを備えている。なお、本実施形態では、これらの各ストロークセンサ83FL〜83RRが、光学式変位センサ(例えば、レーザ変位センサ)として構成されている。
【0058】
アクセルペダルセンサ装置61aは、アクセルペダル61の踏み込み状態を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、アクセルペダル61の踏み込み量を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU71に出力する処理回路(図示せず)とを備えている。CPU71は、アクセルペダルセンサ装置61aの検出結果(アクセルべダル61の踏み込み量)から、アクセル開度を算出することができる。
【0059】
ブレーキペダルセンサ装置62aは、ブレーキペダル62の踏み込み状態を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、ブレーキペダル62の踏み込み量を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU71に出力する処理回路(図示せず)とを備えている。CPU71は、ブレーキペダルセンサ装置62aの検出結果(ブレーキべダル62の踏み込み量)から、ブレーキ踏量を算出することができる。
【0060】
ステアリングセンサ装置63aは、ステアリング63の操作状態を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、ステアリング63の回転角を回転方向に対応付けて検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU71に出力する処理回路(図示せず)とを備えている。
【0061】
なお、本実施形態では、各角度センサが電気抵抗を利用した接触型のポテンショメータとして構成されている。CPU71は、各センサ装置61a,62a,63aから入力された各角度センサの検出結果により、各ペダル61,62の踏み込み量およびステアリング63の回転角を得ると共に、その検出結果を時間微分することで、各ペダル61,62の踏み込み速度およびステアリング63の回転速度を得ることができる。
【0062】
また、入出力装置84としては、車両1の前後方向の加速度や横加速度を検出する加速度センサ装置や、車両1(車体フレームBF)の路面に対する姿勢(傾斜など)を非接触で計測する光学センサなどが例示される。
【0063】
次いで、図4を参照して、上記構成を有する制御装置100(CPU71)により実行されるスリップ防止処理について説明する。図4は、スリップ防止処理を示すフローチャートである。かかるスリップ防止処理は、制御装置100の電源が投入されている間、CPU71により繰り返し(例えば、0.2ms間隔で)実行される。
【0064】
図4に示すように、このスリップ防止処理では、まず、全車輪2について、各車輪2FL〜2RRの回転数を取得する(S11)。具体的には、S11では、本発明の車輪状態検出手段である車輪速センサ装置81からの出力値に基づいて各車輪2FL〜2RRの回転数の取得を行う。
【0065】
S11の処理後、アクセルペダルセンサ装置61aからの出力値に基づいてアクセル開度を取得し(S12)、ブレーキペダルセンサ装置62aからの出力値に基づいてブレーキ踏量を取得する(S13)。
【0066】
S13の処理後、S12の処理により取得したアクセル開度が規定値以上であるか否かを確認する(S14)。S14の処理により確認した結果、アクセル開度が規定値以上であれば(S14:Yes)、車両1が加速走行中であるので、他輪(他の3輪)の回転数の平均値に比べ、規定値以上の回転数(例えば、他輪の回転数の平均値の約120%以上の回転数)で回転する1の車輪(車輪2FL〜2RRのいずれかの車輪)があり、かつ、それら他輪の回転数のばらつきが規定値以内であるかを確認する(S15)。
【0067】
このS15の判定処理を実行することによって、各車輪2の状態(具体的には、各車輪2の回転数)の比較に基づいて、加速走行中の全車輪2(2FL〜2RR)の中にスリップの可能性がある1の車輪が存在するか否かを判定することができる。なお、S15の処理は、本発明の判定手段に該当する。
【0068】
S15の処理により確認した結果、他輪の回転数の平均値に比べ、規定値以上の回転数で回転する1の車輪があり、かつ、それら他輪の回転数のばらつきが規定値以内であれば(S15:Yes)、全車輪2(2FL〜2RR)の中にスリップの可能性がある1の車輪が存在すると判断して、該当車輪(スリップの可能性がある車輪)に規定角度(例えば、5°)のネガティブキャンバを付与し(S16)、このスリップ防止処理を終了する。なお、S16の処理は、本発明のキャンバ角調整手段に該当する。
【0069】
一方で、S15の処理により確認した結果、他輪の回転数の平均値に比べ、規定値以上の回転数で回転する1の車輪がない、又は、比較する他輪の回転数のばらつきが規定値を超えている場合には(S15:No)、S17の処理へ移行する。
【0070】
S17の処理では、左輪2FL,2RLの回転数の平均値と右輪2FR,2RRの回転数の平均値との間に規定値以上の差があり(例えば、一方の側の車輪の回転数が他方の側の車輪の回転数に比べて120%以上高い)、かつ、左輪2FL,2RLの回転数のばらつきと右輪2FR,2RRの回転数のばらつきとが各々規定値以内であるかを確認する(S17)。
【0071】
このS17の判定処理を実行することによって、各車輪2の状態の比較に基づいて、加速走行中の全車輪2(2FL〜2RR)の中にスリップの可能性がある車輪が存在するか否か、より具体的には、加速走行中、左輪2FL,2RL又は右輪2FR,2RRのいずれかにスリップの可能性があるか否かを判定することができる。なお、S17の処理は、本発明の判定手段に該当する。
【0072】
S17の処理により確認した結果、左輪2FL,2RLの回転数の平均値と右輪2FR,2RRの回転数の平均値との間に規定値以上の差があり、かつ、左輪2FL,2RLの回転数のばらつきと右輪2FR,2RRの回転数のばらつきとが各々規定値以内であれば(S17:Yes)、左輪2FL,2RL又は右輪2FR,2RRのいずれかの側にスリップの可能性があると判断して、スリップの可能性がある回転数の高い側の車輪(左輪2FL,2RL、又は、右輪2FR,2RR)に規定角度(例えば、5°)のネガティブキャンバを付与し(S18)、このスリップ防止処理を終了する。なお、S18の処理は、本発明のキャンバ角調整手段に該当する。
【0073】
一方で、S17の処理により確認した結果、左輪2FL,2RLの回転数の平均値と右輪2FR,2RRの回転数の平均値との間に規定値以上の差がない、あるいは、左輪2FL,2RLの回転数のばらつき又は右輪2FR,2RRの回転数のばらつきのうち少なくとも一方が規定値を超えるばらつきを示す場合には(S17:No)、左輪2FL,2RL又は右輪2FR,2RRのいずれの側にもスリップの可能性がないと判断して、車輪2のキャンバ角を調整することなく、このスリップ防止処理を終了する。
【0074】
また、S14の処理により確認した結果、アクセル開度が規定値未満であれば(S14:No)、S13の処理により取得したブレーキ踏量が規定値以上であるか否かを確認する(S19)。S19の処理により確認した結果、ブレーキ踏量が規定値未満であれば(S19:No)、スリップ判定を行うべき状態にないので、このスリップ防止処理を終了する。
【0075】
一方、S19の処理により確認した結果、ブレーキ踏量が規定値以上であれば(S19:Yes)、車両1が減速走行中であるので、他輪(他の3輪)の回転数の平均値に比べ、規定値以下の回転数(例えば、他輪の回転数の平均値の約80%以下の回転数)で回転する1の車輪(車輪2FL〜2RRのいずれかの車輪)があり、かつ、それら他輪の回転数のばらつきが規定値以内であるかを確認する(S20)。
【0076】
このS20の判定処理を実行することによって、各車輪2の状態(具体的には、各車輪2の回転数)の比較に基づいて、減速走行中の全車輪2(2FL〜2RR)の中にスリップの可能性がある1の車輪が存在するか否かを判定することができる。なお、S20の処理は、本発明の判定手段に該当する。
【0077】
S20の処理により確認した結果、他輪の回転数の平均値に比べ、規定値以下の回転数で回転する1の車輪があり、かつ、それら他輪の回転数のばらつきが規定値以内であれば(S20:Yes)、全車輪2(2FL〜2RR)の中にスリップの可能性がある1の車輪が存在すると判断して、該当車輪(スリップの可能性がある車輪)に規定角度(例えば、5°)のネガティブキャンバを付与し(S21)、このスリップ防止処理を終了する。なお、S21の処理は、本発明のキャンバ角調整手段に該当する。
【0078】
一方で、S20の処理により確認した結果、他輪の回転数の平均値に比べ、規定値以下の回転数で回転する1の車輪がない、又は、比較する他輪の回転数のばらつきが規定値を超えている場合には(S20:No)、S22の処理へ移行する。
【0079】
S22の処理では、左輪2FL,2RLの回転数の平均値と右輪2FR,2RRの回転数の平均値との間に規定値以上の差があり、かつ、左輪2FL,2RLの回転数のばらつきと右輪2FR,2RRの回転数のばらつきとが各々規定値以内であるかを確認する(S22)。
【0080】
このS22の判定処理を実行することによって、各車輪2の状態の比較に基づいて、減速走行中の全車輪2(2FL〜2RR)の中にスリップの可能性がある車輪が存在するか否か、より具体的には、減速走行中、左輪2FL,2RL又は右輪2FR,2RRのいずれかにスリップの可能性があるか否かを判定することができる。なお、S22の処理は、本発明の判定手段に該当する。
【0081】
S22の処理により確認した結果、左輪2FL,2RLの回転数の平均値と右輪2FR,2RRの回転数の平均値との間に規定値以上の差があり、かつ、左輪2FL,2RLの回転数のばらつきと右輪2FR,2RRの回転数のばらつきとが各々規定値以内であれば(S22:Yes)、左輪2FL,2RL又は右輪2FR,2RRのいずれかの側にスリップの可能性があると判断して、スリップの可能性がある回転数の高い側の車輪(左輪2FL,2RL、又は、右輪2FR,2RR)に規定角度(例えば、5°)のネガティブキャンバを付与し(S23)、このスリップ防止処理を終了する。なお、S23の処理は、本発明のキャンバ角調整手段に該当する。
【0082】
一方で、S22の処理により確認した結果、左輪2FL,2RLの回転数の平均値と右輪2FR,2RRの回転数の平均値との間に規定値以上の差がない、あるいは、左輪2FL,2RLの回転数のばらつき又は右輪2FR,2RRの回転数のばらつきのうち少なくとも一方が規定値を超えるばらつきを示す場合には(S22:No)、左輪2FL,2RL又は右輪2FR,2RRのいずれの側にもスリップの可能性がないと判断して、車輪2のキャンバ角を調整することなく、このスリップ防止処理を終了する。
【0083】
上述した通り、このスリップ防止処理によれば、S15、S17,S20,S22の判定処理により、走行中(加速走行中又は減速走行中)の全車輪2の中にスリップの可能性がある車輪が存在すると判定された場合には、スリップの可能性がある車輪に規定角度のネガティブキャンバ(即ち、マイナス方向のキャンバ角)が付与される。
【0084】
ここで、図5を参照して、スリップの可能性がある車輪にネガティブキャンバが付与されることによって得られる効果について説明する。図5(a)は、キャンバ角が定常角(本実施形態では略0°)の状態にある車輪2を示す模式的な正面図であり、図5(b)は、上述したスリップ防止処理によってキャンバ角がネガティブ(マイナス方向)に調整された車輪2を示す模式的な正面図である。なお、図5では、車輪2の代表例として右の前輪2FRを図示している。
【0085】
本実施形態では、車輪2として、トレッド面(踏面)2aの曲率が大きい車輪を使用している。このようにトレッド面2aの曲率が大きい車輪2を用いた場合には、車輪2にネガティブキャンバが付与され、車輪2を路面に対して傾斜させることによって、車輪2が傾斜によって変形する。その結果、車輪2のキャンバ角が定常角にある場合に車輪2と路面Gとの接地幅がW1(図5(a))であったのに対し、路面Gとの接地幅がW2に減少する(図5(b))。よって、車輪2の面圧が、接地幅がW1である場合(即ち、定常角の場合)に比べて増加する。
【0086】
従って、キャンバ角の付与によって面圧が増加する車輪2を有する車両1は、走行中にスリップの可能性がある車輪2にネガティブキャンバを付与することにより、車輪2の面圧が増加して接地荷重を高めることができるので、荷重抜けを抑制することができ、走行中における一時的な車輪のスリップの発生を防止できる。
【0087】
なお、トレッド面2aの曲率が大きい車輪2にキャンバ角を付与する場合、キャンバ回転軸は、路面Gに近ければ近いほど効果的に面圧を上げることができる。よって、トレッド面2aの曲率が大きい車輪2を使用する場合、例えば、キャンバ回転軸は、車輪2の回転軸より下方に設定されていることが好ましく、路面Gの近傍に設定されていることがより好ましい。
【0088】
以上説明したように、第1実施形態によれば、走行中(加速走行中又は減速走行中)の全車輪2の中にスリップの可能性がある車輪が存在すると判定された場合には、スリップの可能性がある車輪に規定角度のネガティブキャンバが付与される。ここで、車輪2として、トレッド面2aの曲率が大きくキャンバ角の付与によって面圧が増加する車輪2が使用されているので、ネガティブキャンバの付与により、面圧が増加して接地荷重が増加する。よって、走行中における荷重抜けを抑制し、当該車輪にスリップが発生することを防止することができる。
【0089】
また、第1実施形態によれば、走行中における各車輪2の状態(回転数)の比較、即ち、走行中における相対的な車輪の状態に基づき、全車輪2(2FL〜2RRの4輪)の中からスリップの可能性がある車輪が存在するか否かを判定するので、スリップの可能性がある車輪を見出し易い。特に、路面状態(例えば、路面の凹みや、路面上における部分的な摩擦係数の低い部分の存在)などに起因して一部の車輪2の荷重が一時的に抜ける状況に対する判定精度が向上する。よって、スリップ防止に対する確実性の高い見込み制御をすることができる。
【0090】
ここで、第1実施形態によれば、他の3輪の状態(回転数)との比較によってスリップの可能性がある1の車輪が存在するか否かを判定するので、走行中に、車輪2FL〜2RRのうちいずれか1の車輪にスリップの可能性が生じた場合に、その車輪のスリップを防止することができ、走行安定性を確保できる。
【0091】
また、第1実施形態によれば、左側に位置する車輪(左輪2FL,2RL)の状態と右側に位置する車輪(右輪2FR,2RR)の状態との比較によって、左輪2FL,2RL又は右輪2FR,2RRのいずれかにスリップの可能性があるか否かを判定するので、走行中に、左右のいずれかの側の車輪にスリップの可能性が生じた場合に、その車輪のスリップを防止することができ、走行安定性を確保できる。
【0092】
次に、図6を参照して、第2実施形態について説明する。上述した第1実施形態では、トレッド面2aの曲率が大きい車輪を使用したが、この第2実施形態では、車輪2として、トレッド面2aの曲率が小さい車輪を使用する。なお、上記した第1実施形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0093】
図6(a)は、キャンバ角が定常角(本実施形態では略0°)の状態にある第2実施形態の車輪2を示す模式的な正面図であり、図6(b)は、上述したスリップ防止処理によってキャンバ角がネガティブ(マイナス方向)に調整された第2実施形態の車輪2を示す模式的な正面図である。なお、図6では、車輪2の代表例として右の前輪2FRを図示している。
【0094】
このように、トレッド面2aの曲率が小さい車輪を車輪2とした場合には、ネガティブキャンバの付与によって車高が下がる。即ち、図6(b)に示すように、第2実施形態の車輪2にネガティブキャンバが付与されると、車高がHだけ下がる。
【0095】
よって、キャンバ角の付与によって車高が下がる構成(本実施形態では、トレッド面2aの曲率が小さい車輪2)を有する車両1は、走行中にスリップの可能性がある車輪2にネガティブキャンバを付与することにより、車高が下がり、車両1の重心を下げることができるので、荷重抜けを抑制することができ、走行中における一時的な車輪のスリップの発生を防止できる。
【0096】
なお、第2実施形態の車輪2(即ち、トレッド面2aの曲率が小さい車輪)にキャンバ角を付与する場合、キャンバ回転軸は、路面Gから離れれば離れるほど効果的に車高を下げることができる。よって、トレッド面2aの曲率が小さい車輪2を使用する場合、例えば、キャンバ回転軸は、車輪2の回転軸より上方に設定されていることが好ましい。
【0097】
以上説明したように、第2実施形態によれば、走行中(加速走行中又は減速走行中)の全車輪2の中にスリップの可能性がある車輪が存在すると判定された場合には、スリップの可能性がある車輪に規定角度のネガティブキャンバが付与される。ここで、トレッド面2aの曲率が小さくキャンバ角の付与によって車高を下げることのできる車輪2が使用されているので、ネガティブキャンバの付与により、車高が下がり車両1の重心が下がる。よって、走行中における荷重抜けを抑制し、当該車輪にスリップが発生することを防止することができる。
【0098】
次に、図7を参照して、第3実施形態について説明する。上述した第1実施形態では、スリップの可能性のある車輪を判定するための各車輪2の状態として各車輪2の回転数を用いる構成としたが、この第3実施形態では、スリップの可能性のある車輪を判定するための各車輪2の状態として各車輪2の接地荷重を用いる。
【0099】
よって、この第3実施形態では、車輪速センサ装置81に換えて接地荷重センサ装置82が車輪状態検出手段として機能する。なお、上記した第1実施形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0100】
図7は、第3実施形態におけるスリップ防止処理を示すフローチャートである。この第3実施形態におけるスリップ防止処理もまた、第1実施形態におけるスリップ防止処理と同様に、制御装置100の電源が投入されている間、CPU71により繰り返し(例えば、0.2ms間隔で)実行される。
【0101】
図7に示すように、この第3実施形態におけるスリップ防止処理では、まず、全車輪2について、各車輪2FL〜2RRの接地荷重を取得する(S31)。具体的には、S31では、本発明の車輪状態検出手段である接地荷重センサ装置82からの出力値に基づいて各車輪2FL〜2RRの接地荷重の取得を行う。
【0102】
S31の処理後、アクセル開度を取得し(S12)、ブレーキ踏量を取得した後(S13)、S12の処理により取得したアクセル開度が規定値以上であるか否かを確認する(S14)。
【0103】
S14の処理により確認した結果、アクセル開度が規定値以上であれば(S14:Yes)、他輪(他の3輪)の接地荷重の平均値に比べ、規定値以下の接地荷重(例えば、他輪の接地荷重の約80%以下の接地荷重)を示す1の車輪(車輪2FL〜2RRのいずれかの車輪)があり、かつ、それら他輪の接地荷重のばらつきが規定値以内であるかを確認する(S35)。
【0104】
このS35の判定処理を実行することによって、各車輪2の状態(具体的には、各車輪2の接地荷重)の比較に基づいて、加速走行中の全車輪2(2FL〜2RR)の中にスリップの可能性がある1の車輪が存在するか否かを判定することができる。なお、S35の処理は、本発明の判定手段に該当する。
【0105】
S35の処理により確認した結果、他輪の接地荷重の平均値に比べ、規定値以下の接地荷重を示す1の車輪があり、かつ、それら他輪の接地荷重のばらつきが規定値以内であれば(S35:Yes)、全車輪2(2FL〜2RR)の中にスリップの可能性がある1の車輪が存在すると判断して、該当車輪(スリップの可能性がある車輪)に規定角度(例えば、5°)のネガティブキャンバを付与し(S16)、このスリップ防止処理を終了する。
【0106】
一方で、S35の処理により確認した結果、他輪の接地荷重の平均値に比べ、規定値以下の接地荷重を示す1の車輪がない、又は、比較する他輪の接地荷重のばらつきが規定値を超えている場合には(S35:No)、S37の処理へ移行する。
【0107】
S37の処理では、左輪2FL,2RLの接地荷重の平均値と右輪2FR,2RRの接地荷重の平均値との間に規定値以上の差があり(例えば、一方の側の車輪の接地荷重が他方の側の車輪の接地荷重に比べて120%以上高い)、かつ、左輪2FL,2RLの接地荷重のばらつきと右輪2FR,2RRの接地荷重のばらつきとが各々規定値以内であるかを確認する(S37)。
【0108】
このS37の判定処理を実行することによって、各車輪2の状態の比較に基づいて、加速走行中の全車輪2(2FL〜2RR)の中にスリップの可能性がある車輪が存在するか否か、より具体的には、加速走行中、左輪2FL,2RL又は右輪2FR,2RRのいずれかにスリップの可能性があるか否かを判定することができる。なお、S37の処理は、本発明の判定手段に該当する。
【0109】
S37の処理により確認した結果、左輪2FL,2RLの接地荷重の平均値と右輪2FR,2RRの接地荷重の平均値との間に規定値以上の差があり、かつ、左輪2FL,2RLの接地荷重のばらつきと右輪2FR,2RRの接地荷重のばらつきとが各々規定値以内であれば(S37:Yes)、左輪2FL,2RL又は右輪2FR,2RRのいずれかの側にスリップの可能性があると判断して、スリップの可能性がある接地荷重の低い側の車輪(左輪2FL,2RL、又は、右輪2FR,2RR)に規定角度(例えば、5°)のネガティブキャンバを付与し(S38)、このスリップ防止処理を終了する。なお、S38の処理は、本発明のキャンバ角調整手段に該当する。
【0110】
一方で、S37の処理により確認した結果、左輪2FL,2RLの接地荷重の平均値と右輪2FR,2RRの接地荷重の平均値との間に規定値以上の差がない、あるいは、左輪2FL,2RLの接地荷重のばらつき又は右輪2FR,2RRの接地荷重のばらつきのうち少なくとも一方が規定値を超えるばらつきを示す場合には(S37:No)、左輪2FL,2RL又は右輪2FR,2RRのいずれの側にもスリップの可能性がないと判断して、車輪2のキャンバ角を調整することなく、このスリップ防止処理を終了する。
【0111】
また、S14の処理により確認した結果、アクセル開度が規定値未満であれば(S14:No)、S13の処理により取得したブレーキ踏量が規定値以上であるか否かを確認し(S19)、ブレーキ踏量が規定値未満であれば(S19:No)、このスリップ防止処理を終了する。
【0112】
一方、S19の処理により確認した結果、ブレーキ踏量が規定値以上であれば(S19:Yes)、他輪(他の3輪)の接地荷重の平均値に比べ、規定値以上の接地荷重(例えば、他輪の接地荷重の平均値の約120%以上の接地荷重)を示す1の車輪(車輪2FL〜2RRのいずれかの車輪)があり、かつ、それら他輪の接地荷重のばらつきが規定値以内であるかを確認する(S40)。
【0113】
このS40の判定処理を実行することによって、各車輪2の状態(具体的には、各車輪2の接地荷重)の比較に基づいて、減速走行中の全車輪2(2FL〜2RR)の中にスリップの可能性がある1の車輪が存在するか否かを判定することができる。なお、S40の処理は、本発明の判定手段に該当する。
【0114】
S40の処理により確認した結果、他輪の接地荷重の平均値に比べ、規定値以上の接地荷重を示す1の車輪があり、かつ、それら他輪の接地荷重のばらつきが規定値以内であれば(S40:Yes)、全車輪2(2FL〜2RR)の中にスリップの可能性がある1の車輪が存在すると判断して、該当車輪(スリップの可能性がある車輪)に規定角度(例えば、5°)のネガティブキャンバを付与し(S21)、このスリップ防止処理を終了する。
【0115】
一方で、S40の処理により確認した結果、他輪の接地荷重の平均値に比べ、規定値以上の接地荷重を示す1の車輪がない、又は、比較する他輪の接地荷重のばらつきが規定値を超えている場合には(S40:No)、S42の処理へ移行する。
【0116】
S42の処理では、左輪2FL,2RLの接地荷重の平均値と右輪2FR,2RRの接地荷重の平均値との間に規定値以上の差があり、かつ、左輪2FL,2RLの接地荷重のばらつきと右輪2FR,2RRの接地荷重のばらつきとが各々規定値以内であるかを確認する(S42)。
【0117】
このS42の判定処理を実行することによって、各車輪2の状態の比較に基づいて、減速走行中の全車輪2(2FL〜2RR)の中にスリップの可能性がある車輪が存在するか否か、より具体的には、減速走行中、左輪2FL,2RL又は右輪2FR,2RRのいずれかにスリップの可能性があるか否かを判定することができる。なお、S42の処理は、本発明の判定手段に該当する。
【0118】
S42の処理により確認した結果、左輪2FL,2RLの接地荷重の平均値と右輪2FR,2RRの接地荷重の平均値との間に規定値以上の差があり、かつ、左輪2FL,2RLの接地荷重のばらつきと右輪2FR,2RRの接地荷重のばらつきとが各々規定値以内であれば(S42:Yes)、左輪2FL,2RL又は右輪2FR,2RRのいずれかの側にスリップの可能性があると判断して、スリップの可能性がある接地荷重の低い側の車輪(左輪2FL,2RL、又は、右輪2FR,2RR)に規定角度(例えば、5°)のネガティブキャンバを付与し(S43)、このスリップ防止処理を終了する。なお、S43の処理は、本発明のキャンバ角調整手段に該当する。
【0119】
一方で、S42の処理により確認した結果、左輪2FL,2RLの接地荷重の平均値と右輪2FR,2RRの接地荷重の平均値との間に規定値以上の差がない、あるいは、左輪2FL,2RLの接地荷重のばらつき又は右輪2FR,2RRの接地荷重のばらつきのうち少なくとも一方が規定値を超えるばらつきを示す場合には(S42:No)、左輪2FL,2RL又は右輪2FR,2RRのいずれの側にもスリップの可能性がないと判断して、車輪2のキャンバ角を調整することなく、このスリップ防止処理を終了する。
【0120】
上述した通り、第3実施形態におけるスリップ防止処理によれば、S35、S37,S40,S42の判定処理により、走行中(加速走行中又は減速走行中)の全車輪2の中にスリップの可能性がある車輪が存在すると判定された場合には、スリップの可能性がある車輪に規定角度のネガティブキャンバ(即ち、マイナス方向のキャンバ角)が付与される。
【0121】
以上説明したように、この第3実施形態によれば、走行中における各車輪2の状態(接地荷重)の比較、即ち、走行中における相対的な車輪の状態に基づき、全車輪2(2FL〜2RRの4輪)の中からスリップの可能性がある車輪が存在するか否かを判定するので、第1実施形態と同様に、スリップ防止に対する確実性の高い見込み制御をすることができる。
【0122】
次に、図8を参照して、第4実施形態について説明する。上述した第1実施形態では、スリップの可能性のある車輪を判定するための各車輪2の状態として各車輪2の回転数を用いる構成としたが、この第4実施形態では、スリップの可能性のある車輪を判定するための各車輪2の状態として各車輪2のストローク量(サスペンションストローク量)を用いる。
【0123】
よって、この第4実施形態では、車輪速センサ装置81に換えてストロークセンサ装置83が車輪状態検出手段として機能する。なお、上記した第1実施形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0124】
図8は、第4実施形態におけるスリップ防止処理を示すフローチャートである。この第4実施形態におけるスリップ防止処理もまた、第1実施形態におけるスリップ防止処理と同様に、制御装置100の電源が投入されている間、CPU71により繰り返し(例えば、0.2ms間隔で)実行される。
【0125】
図8に示すように、この第4実施形態におけるスリップ防止処理では、まず、全車輪2について、各車輪2FL〜2RRのストロークを取得する(S51)。具体的には、S51では、本発明の車輪状態検出手段であるストロークセンサ装置83からの出力値に基づいて各車輪2FL〜2RRのストロークの取得を行う。
【0126】
S51の処理後、アクセル開度を取得し(S12)、ブレーキ踏量を取得した後(S13)、S12の処理により取得したアクセル開度が規定値以上であるか否かを確認する(S14)。
【0127】
S14の処理により確認した結果、アクセル開度が規定値以上であれば(S14:Yes)、他輪(他の3輪)のストロークの平均値に比べ、規定値以上のストローク(例えば、他輪のストロークの約120%以上のストローク)を示す1の車輪(車輪2FL〜2RRのいずれかの車輪)があり、かつ、それら他輪のストロークのばらつきが規定値以内であるかを確認する(S55)。
【0128】
このS55の判定処理を実行することによって、各車輪2の状態(具体的には、各車輪2のストローク)の比較に基づいて、加速走行中の全車輪2(2FL〜2RR)の中にスリップの可能性がある1の車輪が存在するか否かを判定することができる。なお、S55の処理は、本発明の判定手段に該当する。
【0129】
S55の処理により確認した結果、他輪のストロークの平均値に比べ、規定値以上のストロークを示す1の車輪があり、かつ、それら他輪のストロークのばらつきが規定値以内であれば(S55:Yes)、全車輪2(2FL〜2RR)の中にスリップの可能性がある1の車輪が存在すると判断して、該当車輪(スリップの可能性がある車輪)に規定角度(例えば、5°)のネガティブキャンバを付与し(S16)、このスリップ防止処理を終了する。
【0130】
一方で、S55の処理により確認した結果、他輪のストロークの平均値に比べ、規定値以上のストロークを示す1の車輪がない、又は、比較する他輪のストロークのばらつきが規定値を超えている場合には(S55:No)、S57の処理へ移行する。
【0131】
S57の処理では、左輪2FL,2RLのストロークの平均値と右輪2FR,2RRのストロークの平均値との間に規定値以上の差があり(例えば、一方の側の車輪のストロークが他方の側の車輪のストロークに比べて120%以上大きい)、かつ、左輪2FL,2RLのストロークのばらつきと右輪2FR,2RRのストロークのばらつきとが各々規定値以内であるかを確認する(S57)。
【0132】
このS57の判定処理を実行することによって、各車輪2の状態の比較に基づいて、加速走行中の全車輪2(2FL〜2RR)の中にスリップの可能性がある車輪が存在するか否か、より具体的には、加速走行中、左輪2FL,2RL又は右輪2FR,2RRのいずれかにスリップの可能性があるか否かを判定することができる。なお、S57の処理は、本発明の判定手段に該当する。
【0133】
S57の処理により確認した結果、左輪2FL,2RLのストロークの平均値と右輪2FR,2RRのストロークの平均値との間に規定値以上の差があり、かつ、左輪2FL,2RLのストロークのばらつきと右輪2FR,2RRのストロークのばらつきとが各々規定値以内であれば(S57:Yes)、左輪2FL,2RL又は右輪2FR,2RRのいずれかの側にスリップの可能性があると判断して、スリップの可能性があるストロークの大きい側の車輪(左輪2FL,2RL、又は、右輪2FR,2RR)に規定角度(例えば、5°)のネガティブキャンバを付与し(S58)、このスリップ防止処理を終了する。なお、S58の処理は、本発明のキャンバ角調整手段に該当する。
【0134】
一方で、S57の処理により確認した結果、左輪2FL,2RLのストロークの平均値と右輪2FR,2RRのストロークの平均値との間に規定値以上の差がない、あるいは、左輪2FL,2RLのストロークのばらつき又は右輪2FR,2RRのストロークのばらつきのうち少なくとも一方が規定値を超えるばらつきを示す場合には(S57:No)、左輪2FL,2RL又は右輪2FR,2RRのいずれの側にもスリップの可能性がないと判断して、車輪2のキャンバ角を調整することなく、このスリップ防止処理を終了する。
【0135】
また、S14の処理により確認した結果、アクセル開度が規定値未満であれば(S14:No)、S13の処理により取得したブレーキ踏量が規定値以上であるか否かを確認し(S19)、ブレーキ踏量が規定値未満であれば(S19:No)、このスリップ防止処理を終了する。
【0136】
一方、S19の処理により確認した結果、ブレーキ踏量が規定値以上であれば(S19:Yes)、他輪(他の3輪)のストロークの平均値に比べ、規定値以下のストローク(例えば、他輪のストロークの平均値の約80%以下のストローク)を示す1の車輪(車輪2FL〜2RRのいずれかの車輪)があり、かつ、それら他輪のストロークのばらつきが規定値以内であるかを確認する(S60)。
【0137】
このS60の判定処理を実行することによって、各車輪2の状態(具体的には、各車輪2のストローク)の比較に基づいて、減速走行中の全車輪2(2FL〜2RR)の中にスリップの可能性がある1の車輪が存在するか否かを判定することができる。なお、S60の処理は、本発明の判定手段に該当する。
【0138】
S60の処理により確認した結果、他輪のストロークの平均値に比べ、規定値以下のストロークを示す1の車輪があり、かつ、それら他輪のストロークのばらつきが規定値以内であれば(S60:Yes)、全車輪2(2FL〜2RR)の中にスリップの可能性がある1の車輪が存在すると判断して、該当車輪(スリップの可能性がある車輪)に規定角度(例えば、5°)のネガティブキャンバを付与し(S21)、このスリップ防止処理を終了する。
【0139】
一方で、S60の処理により確認した結果、他輪のストロークの平均値に比べ、規定値以下のストロークを示す1の車輪がない、又は、比較する他輪のストロークのばらつきが規定値を超えている場合には(S60:No)、S62の処理へ移行する。
【0140】
S62の処理では、左輪2FL,2RLのストロークの平均値と右輪2FR,2RRのストロークの平均値との間に規定値以上の差があり、かつ、左輪2FL,2RLのストロークのばらつきと右輪2FR,2RRのストロークのばらつきとが各々規定値以内であるかを確認する(S62)。
【0141】
このS62の判定処理を実行することによって、各車輪2の状態の比較に基づいて、減速走行中の全車輪2(2FL〜2RR)の中にスリップの可能性がある車輪が存在するか否か、より具体的には、減速走行中、左輪2FL,2RL又は右輪2FR,2RRのいずれかにスリップの可能性があるか否かを判定することができる。なお、S62の処理は、本発明の判定手段に該当する。
【0142】
S62の処理により確認した結果、左輪2FL,2RLのストロークの平均値と右輪2FR,2RRのストロークの平均値との間に規定値以上の差があり、かつ、左輪2FL,2RLのストロークのばらつきと右輪2FR,2RRのストロークのばらつきとが各々規定値以内であれば(S62:Yes)、左輪2FL,2RL又は右輪2FR,2RRのいずれかの側にスリップの可能性があると判断して、スリップの可能性があるストロークの大きい側の車輪(左輪2FL,2RL、又は、右輪2FR,2RR)に規定角度(例えば、5°)のネガティブキャンバを付与し(S63)、このスリップ防止処理を終了する。なお、S63の処理は、本発明のキャンバ角調整手段に該当する。
【0143】
一方で、S62の処理により確認した結果、左輪2FL,2RLのストロークの平均値と右輪2FR,2RRのストロークの平均値との間に規定値以上の差がない、あるいは、左輪2FL,2RLのストロークのばらつき又は右輪2FR,2RRのストロークのばらつきのうち少なくとも一方が規定値を超えるばらつきを示す場合には(S62:No)、左輪2FL,2RL又は右輪2FR,2RRのいずれの側にもスリップの可能性がないと判断して、車輪2のキャンバ角を調整することなく、このスリップ防止処理を終了する。
【0144】
上述した通り、第4実施形態におけるスリップ防止処理によれば、S55、S57,S60,S62の判定処理により、走行中(加速走行中又は減速走行中)の全車輪2の中にスリップの可能性がある車輪が存在すると判定された場合には、スリップの可能性がある車輪に規定角度のネガティブキャンバ(即ち、マイナス方向のキャンバ角)が付与される。
【0145】
以上説明したように、この第4実施形態によれば、走行中における各車輪2の状態(ストローク)の比較、即ち、走行中における相対的な車輪の状態に基づき、全車輪2(2FL〜2RRの4輪)の中からスリップの可能性がある車輪が存在するか否かを判定するので、第1実施形態と同様に、スリップ防止に対する確実性の高い見込み制御をすることができる。
【0146】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0147】
例えば、上記各実施形態で挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。また、上記各実施形態における構成の一部または全部を他の実施形態における構成の一部または全部と組み合わせることは当然可能である。
【0148】
また、上記各実施形態では、スリップ防止処理により、走行中の全車輪2の中にスリップの可能性がある車輪が存在すると判定された場合には、スリップの可能性がある車輪に規定角度のネガティブキャンバを付与する構成としたが、ポジティブキャンバ(プラス方向のキャンバ角)を付与する構成としてもよい。
【0149】
また、上記各実施形態では、懸架装置4として、ストラット式サスペンションを例示したが、その他の形式、例えば、ダブルウィッシュボーン式サスペンションやマルチリンク式サスペンションなど用いる場合であっても同様に適用できる。
【0150】
また、上記第2実施形態では、トレッド面2aの曲率が小さい車輪2を用いることにより、キャンバ角の付与に伴う車高の低下を実現する構成としたが、懸架装置4の構造として、車輪2へのキャンバ角の付与によって車高を下げる構造を利用する構成であってもよい。
【0151】
また、上記各実施形態では、左車輪と右車輪とを比較して、スリップの可能性のある側を比較し、スリップの可能性のある側の車輪にキャンバ角(ネガティブキャンバ)を付与する構成としたが、その他の組み合わせ、例えば、前車輪と後車輪とにおいてスリップの可能性のある側を比較し、スリップの可能性のある側の車輪にキャンバ角を付与する構成としてもよい。
【0152】
また、上記各実施形態では、複数の車輪2(上記実施形態では、4つの車輪2)のうち、1の車輪にスリップの可能性があるか否かを判定し、スリップの可能性のある1の車輪にキャンバ角(ネガティブキャンバ)を付与する構成としたが、複数輪(例えば、2輪)のスリップ可能性を判定し、スリップの可能性のある1の車輪にキャンバ角を付与する構成としてもよい。
【0153】
また、スリップの可能性のある車輪を判定するための各車輪2の状態として、上記第1実施形態では各車輪2の回転数を、上記第3実施形態では各車輪2の接地荷重を、上記第4実施形態では各車輪2のストローク量を、それぞれ用いる構成としたが、各車輪2の回転数及び接地荷重を共に用いるなど、各車輪2の状態として複数種類のパラメータを用い、これらを組み合わせてスリップの可能性のある車輪を判定するように構成してもよい。
【0154】
また、上記各実施形態では、車輪駆動装置3により左右前輪(2FL,2FR)を回転駆動させる構成としたが、車輪駆動装置の構成にかかわらず、車輪にキャンバ角を付与可能な車両であれば、本発明を適用できる。例えば、車輪駆動装置をホイールモータやエンジンとする車両であっても、車輪にキャンバ角を付与可能な車両であればよい。
【図面の簡単な説明】
【0155】
【図1】本発明の第1実施形態における制御装置が搭載される車両の上面視を模式的に示した模式図である。
【図2】懸架装置の正面図である。
【図3】制御装置の電気的構成を示したブロック図である。
【図4】第1実施形態のスリップ防止処理を示すフローチャートである。
【図5】(a)は、キャンバ角が定常角の状態にある第1実施形態の車輪を示す模式的な正面図であり、(b)は、キャンバ角がネガティブに調整された第1実施形態の車輪を示す模式的な正面図である。
【図6】(a)は、キャンバ角が定常角の状態にある第2実施形態の車輪を示す模式的な正面図であり、(b)は、キャンバ角がネガティブに調整された第2実施形態の車輪を示す模式的な正面図である。
【図7】第3実施形態のスリップ防止処理を示すフローチャートである。
【図8】第4実施形態のスリップ防止処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0156】
100 制御装置
1 車両
2 車輪
2a トレッド面
2FL 左前輪(車輪)
2FR 右前輪(車輪)
2RL 左後輪(車輪)
2RR 右後輪(車輪)
70 キャンバ角調整装置
81 車輪速センサ装置(車輪状態検出手段)
82 接地荷重センサ装置(車輪状態検出手段)
83 ストロークセンサ装置(車輪状態検出手段)
S15,S17,S20,S22 判定手段
S16,S21 キャンバ角調整手段
S18,S23 キャンバ角調整手段
S35,S37,S40,S42 判定手段
S38,S43 キャンバ角調整手段
S55,S57,S60,S62 判定手段
S58,S63 キャンバ角調整手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の車輪と、その車輪のキャンバ角を調整するキャンバ角調整装置とを有する車両に用いられる制御装置であって、
前記車両は、走行中における前記車輪の各々の状態を検出する車輪状態検出手段を有し、
前記車輪状態検出手段により検出された各車輪の状態の比較に基づいて、前記複数の車輪の中にスリップの可能性がある車輪が存在するか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段により前記スリップの可能性がある車輪が存在すると判定された場合に、前記キャンバ角調整装置を作動させて、前記スリップの可能性があると判定された車輪のキャンバ角を、ネガティブ側又はポジティブ側に所定角度傾斜するように調整するキャンバ角調整手段とを備えていることを特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記判定手段は、前記車輪状態検出手段により検出された各車輪の状態の比較に基づいて、前記複数の車輪の中にスリップの可能性がある1の車輪が存在するか否かを判定するか否かを判定することを特徴とする請求項1記載の制御装置。
【請求項3】
車輪と、
その車輪のキャンバ角を調整するキャンバ角調整装置と、
前記車輪の状態を検出する車輪状態検出手段と、
請求項1又は2に記載の制御装置とを有する車両であって、
前記車輪は、トレッド面の曲率が所定値より大きく構成され、
前記キャンバ角調整装置は、前記車輪のキャンバ回転軸が前記車輪の回転軸より下方に設定されていることを特徴とする車両。
【請求項4】
車輪と、
その車輪のキャンバ角を調整するキャンバ角調整装置と、
前記車輪の状態を検出する車輪状態検出手段と、
請求項1又は2に記載の制御装置とを有する車両であって、
前記車輪は、トレッド面の曲率が所定値より小さく構成され、
前記キャンバ角調整装置は、前記車輪のキャンバ回転軸が前記車輪の回転軸より上方に設定されていることを特徴とする車両。
【請求項5】
前記車輪状態検出手段は、前記車輪の回転数を検出することを特徴とする請求項3又は4に記載の車両。
【請求項6】
前記車輪状態検出手段は、前記車輪の接地荷重を検出することを特徴とする請求項3又は4に記載の車両。
【請求項7】
前記車輪を車体に懸架するサスペンションを備え、
前記車輪状態検出手段は、前記サスペンションのストローク量を検出することを特徴とする請求項3又は4に記載の車両。







【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−184540(P2009−184540A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−27204(P2008−27204)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】