説明

動力伝達装置

【課題】 車載性に優れ、また潤滑油量の確保が容易な動力伝達装置を提供する。
【解決手段】 動力源1からトルクが伝達される入力部材8と出力部材9との間に配置され、前記入力部材8に連結された第1回転部材24と前記出力部材に連結された第2回転部材28との相対移動によってオイルを吸入しかつそのオイルを加圧して吐出するオイルポンプ3を備え、かつそのオイルポンプからのオイルの吐出状態を制御する制御弁48を備えた動力伝達装置であって、オイルポンプ3から吐出されたオイルを流通させる吐出油路37の一部に他の部分よりも流路断面積の小さい細径油路部49が形成され、その細径油路部49におけるオイルの流動方向に対して交差する方向に向けて開口する連通油路50が細径油路部49の周壁部に開口して接続され、かつその連通油路50がオイル溜め部51に連通されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、動力源からトルクの入力される入力部材と、所定の部材にトルクを伝達する出力部材との間の動力の伝達を、オイルポンプを介して行うように構成された動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンやモータなどの動力源から所定の目的とする部材までに動力を伝達する場合、トルクや回転数などを適宜に変化させ、あるいは動力の断続を行うために、動力伝達装置を介在させることが一般的である。その動力伝達装置として、歯車装置や巻き掛け伝動装置など以外に、オイルなどの流体を介した装置が知られている。その一例が、車両に多く使用されているトルクコンバータであり、これは、エンジンなどの動力源に連結されたポンプインペラによってオイルの螺旋流を生じさせ、これをタービンランナに供給してタービンランナを回転させ、さらにタービンランナからポンプインペラに還流するオイルの向きをステータによって制御するように構成されている。
【0003】
一方、上記の動力伝達装置を含む各種の装置や機器では、軸受や歯車などの摩擦部位を備えているから、これらの摩擦部位に対して潤滑油を供給する必要がある。上記のトルクコンバータは、タービンランナの回転によってオイルを加圧して螺旋流を生じさせるが、その圧油は、タービンランナを回転させてトルクを伝達するためのものであり、トルクコンバータ以外の油圧機器に対する油圧源としては機能することができない。そのため、例えば特許文献1に記載されているように、トルクコンバータに加えてオイルポンプを設け、潤滑や油圧制御のための圧油をオイルポンプによって発生させるように構成している。
【特許文献1】特開2001−323978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献1に記載された装置では、トルクコンバータとオイルポンプとを備えている。これらトルクコンバータとオイルポンプとは、共に、オイルを加圧して流動させるいわゆる油圧源としての機能を備えており、したがって特許文献1に記載された構成では、少なくとも二つの油圧源を備えることになり、そのために構成部材が多くなり、車載性や重量の低減などの点で改善すべき余地があった。
【0005】
この発明は上記事情を背景としてなされたものであって、全体としての小型化を図り、ひいては車両への搭載性を向上させることのできる動力伝達装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため請求項1の発明は、動力源からトルクが伝達される入力部材とその入力部材から伝達されたトルクを他の所定の部材に伝達する出力部材との間に配置され、前記入力部材に連結された第1回転部材と前記出力部材に連結された第2回転部材との相対移動によってオイルを吸入しかつそのオイルを加圧して吐出するオイルポンプを備えるとともに、そのオイルポンプからのオイルの吐出状態を制御する制御弁を備えた動力伝達装置であって、前記オイルポンプから吐出されたオイルを流通させる吐出油路の一部に他の部分よりも流路断面積の小さい細径油路部が形成され、その細径油路部におけるオイルの流動方向に対して交差する方向に向けて開口する連通油路が前記細径油路部の周壁部に開口して接続され、かつその連通油路がオイル溜め部に連通されていることを特徴とする動力伝達装置である。
【0007】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記吐出油路が回転軸と該回転軸を支持する固定部とのそれぞれの内部を通るように形成され、前記細径油路部が前記回転軸の内部に形成される一方、前記細径油路部より流路断面積の大きい他の部分が前記固定部の内部に形成されていることを特徴とする動力伝達装置である。
【0008】
さらに、請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記オイルポンプにオイルを戻す吸入油路が、前記オイルによって潤滑を行うべき被潤滑部に連通されていることを特徴とする動力伝達装置である。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によれば、第1回転部材と第2回転部材との相対移動によって動作するオイルポンプが、入力部材と出力部材との間に介在させられているので、そのオイルポンプの吐出油量を制御することにより、第1回転部材と第2回転部材、すなわち入力部材と出力部材との相対回転が制御されるので、入力部材から出力部材に対して動力を伝達することができ、またオイルポンプからオイルを加圧して出力させることができる。また特に、請求項1の発明によれば、細径油路部を流れるオイルの流速が相対的に速くなってその部分での圧力が低くなるから、連通油路を介してオイル溜め部からオイルが吸引され、したがってオイルポンプから吐出されるオイルに、オイル溜め部から吸引されたオイルが加わるので、実質的な吐出流量を多くすることができる。
【0010】
また、請求項2の発明によれば、細径油路部が回転軸の内部に形成されるので、回転軸の径を細くしても、その肉厚を確保でき、したがって回転軸の径の増大を防止して、小型軽量化を図ることができる。
【0011】
さらに、請求項3の発明によれば、吸入油路が被潤滑部に連通されているので、オイル溜め部から汲み上げたオイルを加えた充分な量のオイルが吸入油路に戻り、ここから被潤滑部に対して供給されるので、入力部材と出力部材との相対的な回転数差が小さい場合であっても潤滑のための油量を十分確保して潤滑不足を未然に回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
先ず、この発明に係る動力伝達装置を含むパワートレーンの一例を説明すると、図4は車両用のパワートレーンを示し、動力源1の出力側にトランスアクスル2が連結されている。このトランスアクスル2は、この発明に係る動力伝達装置としてのオイルポンプ3と、前後進切換機構4と、無段変速機5と、左右の駆動輪6の差動を行うデファレンシャル7とを主体として構成されている。前記動力源1は、要は、走行などのための動力を出力する機関であって、内燃機関(エンジン)や電動機、もしくはこれらを組み合わせた装置を使用することができる。以下の説明では、動力源1をエンジン1と記す。
【0013】
オイルポンプ3は、入力部材である入力軸8と出力部材である中間軸9との間でトルクを伝達するとともに、これら入力軸8と中間軸9とに相対回転が生じた場合に、オイルを加圧して吐出するように構成されている。このオイルポンプ3の詳細は後述する。
【0014】
中間軸9は、前後進切換機構4の入力軸に連結され、あるいは前後進切換機構4の入力軸を兼ねている。この前後進切換機構4は、エンジン1の回転方向が一方向に限られていることに伴って採用されている機構であって、図4に示す例では、ダブルピニオン型の遊星歯車機構が採用されている。すなわち、中間軸9と一体回転するサンギヤ10と、サンギヤ10と同心状に配置されたリングギヤ11と、サンギヤ10に噛合したピニオンギヤ12と、ピニオンギヤ12およびリングギヤ11に噛合した他のピニオンギヤ13とが設けられ、ピニオンギヤ12,13がキャリヤ14によって、自転かつ公転自在に保持されている。
【0015】
さらに、中間軸9と、キャリヤ14とを選択的に連結・解放する前進用クラッチ15が設けられている。またリングギヤ11を選択的に固定することにより、中間軸9の回転方向に対するキャリヤ14の回転方向を反転する後進用ブレーキ16が設けられている。これらのクラッチ15およびブレーキ16は、油圧などの流体圧によって係合・解放の状態が制御される摩擦係合装置である。
【0016】
上記のキャリヤ14が出力要素となっており、このキャリヤ14が無段変速機5に連結されている。図4に示す例では、ベルト式無段変速機が用いられており、その駆動プーリ(プライマリプーリ)17にキャリヤ14が連結されている。すなわち、ベルト式無段変速機3は、ベルト18を捲き掛ける溝の幅を変更できるプライマリプーリ17と従動プーリ(セカンダリプーリ)19とを、それらの回転中心軸線が互いに平行になるように配置して構成されている。なお、溝幅を変更するための機構は、各プーリ17,19を、固定プーリ片と可動プーリ片とによって構成し、可動プーリ片を固定プーリ片に接近・離隔させる機構とすることができる。
【0017】
各プーリ17,19は、その溝幅を変更するように機能する油圧アクチュエータ20,21を備えている。これらの油圧アクチュエータ20,21のうち、例えばプライマリプーリ17側の油圧アクチュエータ20によってプライマリプーリ17の溝幅を変更することにより変速比を変化させ、また他方のセカンダリプーリ19側の油圧アクチュエータ21によって、ベルト18を挟み付ける挟圧力を生じさせるように構成されている。
【0018】
そして、セカンダリプーリ19が減速ギヤ対22を介してデファレンシャル7に連結され、このデファレンシャル7から左右の駆動輪6にトルクを伝達するとともに、左右の駆動輪6の差動回転を許容するように構成されている。
【0019】
上記のオイルポンプ3の具体的な構成を説明すると、このオイルポンプ3は図1および図2に示すように、ピストン23が前記入力軸8の半径方向に往復動するいわゆるラジアルピストンポンプであり、そのピストン23を収容する本体部24が入力軸8に一体化されている。この本体部24は、図2に示すように、全体として円盤状を成し、その外周面に開口する複数の凹部25が、中心部から放射状に、かつほぼ等間隔に形成された部材であり、前記入力軸8にスプライン嵌合されている。各凹部25は、シリンダとなる部分であり、したがって各凹部25の内部にピストン23が、液密状態を維持して往復動するように嵌合させられている。
【0020】
各ピストン23は、カムによって駆動されるように構成されており、そのためにカムフォロアーとして機能する円柱状の部材(ローラ)26が、各ピストン23の先端部すなわち各凹部25から突出した端部に保持されている。具体的には、各ピストン23の先端部に凹部27が形成され、その凹部27にローラ26が配置されている。これに対して前記本体部24の外周側には、カムリング28が、同心円状に配置されている。このカムリング28は、その内周面をカム面29とした環状の部材であって、前記中間軸9に一体となって回転するように連結されている。このカムリング28の中心軸線と前記ローラ26および凹部27の中心軸線とが平行になっており、その結果、ローラ26は、カムリング28の円周方向に回転自在となっている。したがって入力軸8がこの発明の入力部材に相当し、また中間軸9がこの発明の出力部材に相当し、さらに本体部24もしくは凹部25とピストン23とがこの発明の第1回転部材と第2回転部材とに相当している。
【0021】
そのカム面29は、一例として、半径方向に向けて凹凸となるよう滑らかに連続するいわゆる波形状の面として形成されている。そして、前記ローラ26をカム面29に押し付けてカム面29に追従させるために、前記ピストン23の底部側(図1での下側)にスプリング30が配置されている。
【0022】
つぎに上記のオイルポンプ3に対してオイルを給排するための油路の構成について説明すると、各凹部25における底部(開口部とは反対側の回転中心側の部分)には、各凹部25の内面と前記本体部24の内周面(すなわち前記入力軸8に嵌合している内周面)とに開口する貫通部31,32が形成されている。また、各凹部25の底部には、バルブユニット33が配置されている。このバルブユニット33は、開閉の方向が互いに反対となる一対の逆止弁34,35を備えている。すなわち、各逆止弁34,35は、前記貫通部31,32に連通する貫通孔の開口端に半球状の凹部を弁座として形成し、その弁座に、弁体としてのボールを配置したものであって、その弁座の向きが各逆止弁34,35で反対になっている。したがって、図1の左側の逆止弁34はボールが弁座から上側に離隔して開き動作し、したがって吸入弁となっている。これに対して図1の右側の逆止弁35はボールが弁座から下側に離隔して開き動作し、したがって吐出弁となっている。
【0023】
一方、入力軸8の内部には、その中心軸線と平行に、吸入油路36と吐出油路37とが形成されている。その吸入油路36に連通し、かつ入力軸8の外面に開口する複数の小孔が入力軸8の半径方向に向けて形成されており、そのうちの一つの小孔38が、前記吸入用の逆止弁34に連通する前記貫通部31に対応する箇所に形成されている。前記入力軸8の外周面で、その小孔38の開口端に相当する箇所には、環状溝が形成され、その小孔38と貫通部31とが、円周方向に相対的にずれても、環状溝によって常時連通するようになっている。
【0024】
また、他の小孔39が、上記のオイルポンプ3を外れた位置で、入力軸8の外周面に開口するように形成されており、その小孔39は図示しない適宜の被潤滑部に連通し、吸入油路36におけるオイルの一部を被潤滑部に供給するようになっている。
【0025】
さらに、前記入力軸8は、この発明における固定部に相当するトランスアクスルケース40の一部を形成している隔壁部41を貫通するとともにその隔壁部41に回転自在に密着嵌合している。前記吸入油路36に連通する他の小孔42が、その密着嵌合部に開口するように設けられている。その小孔42の開口端には、前述した小孔38の開口端部と同様に、環状溝が形成されている。そして、隔壁部41には、その環状溝に対向するように開口する油路43が形成されている。この油路43は、例えば図4に示す油圧制御回路44に連通されている。
【0026】
また一方、前記吐出油路37に連通し、かつ入力軸8の外面に開口する複数の小孔が入力軸の半径方向に向けて形成されており、そのうちの一つの小孔45が、前記吐出用の逆止弁35に連通する前記貫通部32に対応する箇所に形成されている。前記入力軸8の外周面で、その小孔45の開口端に相当する箇所には、環状溝が形成され、その小孔45と貫通部32とが、円周方向に相対的にずれても、環状溝によって常時連通するようになっている。
【0027】
また、吐出油路37に連通する他の小孔46が、入力軸8と隔壁部41との密着嵌合部に開口するように設けられており、その開口端には、前記小孔45と同様に、環状溝が形成されている。そして、隔壁部41には、その環状溝に対向するように開口する油路47が形成されている。この油路47は、例えば図4に示す吐出制御弁48を介して前記油圧制御回路44に連通されている。その吐出制御弁48は、オイルポンプ3から吐出されるオイルの流量を制御するためのものであって、一例としてデューティ比や電流値に応じて流量を制御できるバルブを採用することができる。なお、上述した各環状溝の両側(軸線方向での両側)には、入力軸8と本体部24あるいは隔壁部42との間の液密性(油密性)を確保するためにシール部材(シールリング)(図示せず)が配置されている。
【0028】
したがって、吐出油路37は、オイルポンプ3から吐出した圧油を、吐出制御弁48を介して油圧制御回路44に送る油路となっている。そして、その吐出油路37の一部に、他の部分より内径(すなわち流路断面積)の小さい細径油路部49が形成され、この部分でのオイルの流速が他の部分での流速に比較して速くなるように構成されている。なお、この吐出油路37とオイルポンプ3とを連通させている前記逆止弁35および貫通部32ならびに小孔45の開口面積(流路断面積)は、細径油路部49の流路断面積に対して十分広くなっている。そのために、これら貫通部32や小孔45が複数設けられることがある。
【0029】
さらに、その細径油路部49に連通した連通油路50が形成されている。この連通油路50は、細径油路部49を形成している周壁部に、該細径油路部49でのオイルの流動方向に対して交差する方向に開口するように、細径油路部49に連通されている。また、この細径油路部49は、他方で、オイルパンなどのオイル溜め部51に連通されている。
【0030】
なお、図4において符号52は電子制御装置を示し、この電子制御装置52は、マイクロコンピュータを主体として構成され、入力されたデータおよび予め記憶しているデータならびにプログラムに従って演算を行い、エンジン1や油圧制御回路44あるいは吐出制御弁48に制御指令信号を出力するように構成されている。その制御のため、電子制御装置52には、加速要求、制動要求、エンジン回転数、スロットル開度、中間軸9の回転数、プライマリプーリ17の回転数、セカンダリプーリ19の回転数、シフトポジションなどの信号が入力される。これに対して、電子制御装置52からは、油圧制御回路44を制御する信号、吐出制御弁48を制御する信号、エンジン1を制御する信号などが出力される。
【0031】
つぎに上述したオイルポンプ3を含む動力伝達装置の作用について説明する。エンジン1が出力したトルクは入力軸8に伝達され、その入力軸8から中間軸9には、オイルポンプ3を介してトルクが伝達される。したがって、入力軸8から中間軸9に伝達されるトルクは、オイルポンプ3の動作状態に応じて変化する。すなわち、前記吐出制御弁48をいわゆる完全開放状態に制御して、オイルポンプ3からの自由なオイルの吐出を許容する状態では、ピストン23のスプリング30を圧縮する自由な下降動作が可能となる。したがって、ピストン23を保持している本体部24が、カムリング28に対して相対回転し、ピストン23の先端部に設けてあるローラ26がカム面29に追従して移動し、これと同様にピストン23がシリンダとしての凹部25の内部で往復動する。
【0032】
ピストン23が往復動することにより、凹部25の内部に形成されている空間部分(すなわち油室)の容積が増減する。その容積が減少する場合には、その内部のオイルが加圧されるから、吐出用の逆止弁35が開いてオイルが吐出させられる。そのオイルが吐出油路37を流動する場合、前記細径油路部49においては流動断面積が絞られるために流速が速くなり、そのためにその部分での圧力が低下する。一方、細径油路部49には連通油路50が連通されるとともに、その連通油路50の他方の端部が接続されているオイル溜め部51の圧力は大気圧になっている。したがって、オイル溜め部51のオイルが、連通油路50を介して吐出油路37側に吸引される。そのため、吐出油路37から油圧制御回路44あるいは吐出制御弁48に送られるオイルの量は、オイルポンプ3が直接吐出した量に、連通油路50を介してオイル溜め部51から吸引した量を加えた量となり、実質的な吐出量が増大させられる。
【0033】
上記のようにして吐出されたオイルは、吸入油路36を介してオイルポンプ3に戻る。その場合、還流するオイルの量が、オイル溜め部51から吸引した分を含めて十分確保されているので、本体部24がカムリング28に対して相対的に高速回転した場合、すなわち入力部材である入力軸8と出力部材である中間軸9との相対回転数が大きくなってピストン23が激しく往復運動する場合であっても、ピストン23と本体部24とによって形成される油室に対するオイルの吸入が円滑に行われる。言い換えれば、油室の圧力が負圧になることを防止もしくは抑制することができるので、ピストン23のカム面29に対する追従性を良好なものにすることができる。また、吸入油路36におけるオイルの量を十分な量に確保できるので、前記小孔39を介した被潤滑部に対する潤滑油の供給を確実に行うことができる。
【0034】
上述したいわゆるフリーな状態では、オイルポンプ3によるオイルの吸入および吐出が自由に行われるので、入力軸8から中間軸9に対するトルクの伝達は、オイルの流動抵抗やローラ26とカム面29との間の摩擦抵抗などに応じて行われ、実質的にゼロに近いトルクの伝達となる。これに対して、吐出制御弁48によって吐出流量を絞ると、ピストン23を押し下げるために要す力が大きくなる。そのために、本体部24とカムリング28との間、すなわち入力軸8と中間軸9との間の実質的な抵抗力が増大するので、これらの軸8,9の間で伝達されるトルクが増大する。その場合、本体部24とカムリング28との相対回転数(すなわち入力軸8と中間軸9との相対回転数)が小さくなるので、オイルポンプ3によるオイルの吐出流量が少なくなるが、その場合であっても前記細径油路部49でのオイルの流速が増大させられてその部分の圧力が低下するから、オイル溜め部51からオイルを吸引して油圧制御回路44あるいは吐出制御弁48に向けて流動させることができ、したがって実質的な吐出量を増大させることができる。
【0035】
入力軸8と中間軸9との間で伝達されるトルクは、オイルポンプ3による吐出量の制限に応じて次第に増大し、吐出制御弁48を完全に閉じた状態で、伝達トルクが最大となる。したがって、車両を発進させる場合、オイルポンプ3から吐出されて流動するオイルの量を次第に制限すれば、入力軸8から中間軸9を介して駆動輪6に伝達されるトルクを次第に増大させることができるので、車両を滑らかに発進させることができる。このような機能は、いわゆる発進用クラッチを開放状態から半係合(半クラッチ)状態とし、さらに完全係合させる機能と同様であり、したがって上記のオイルポンプ3は、いわゆる発進装置としても使用できる。
【0036】
なお、中間軸9に伝達されたトルクは、前後進切換機構4を介して無段変速機5に伝達され、さらに減速ギヤ対22ならびにデファレンシャル7を介して左右の駆動輪6に伝達される。その場合、前進用クラッチ15を係合させれば、前後進切換機構4を構成している遊星歯車機構の全体が一体となって回転するので、中間軸9のトルクがそのまま無段変速機5に伝達される。これに対して前進用クラッチ15を解放するとともに後進用ブレーキ16を係合させれば、キャリヤ14がサンギヤ10とは反対方向に回転し、そのトルクが無段変速機5に伝達されるので、後進状態となる。
【0037】
上述した具体例は、入力軸8の内部に形成された吐出油路37の一部を細径油路部49とした例であるが、このような構成に替えて、吐出油路37を回転軸からこれを支持するケース部材に亘って形成し、回転軸の内部における吐出油路37の全体を細径油路部とし、これより流路断面積の大きい部分を、この発明の固定部に相当するケース部材に形成するようにしてもよい。その例を図3に示してある。
【0038】
ここに示す例は、前記ピストン23を保持している本体部24の取り付けられた回転軸53が、ケース部材54によって回転自在に支持されており、その回転軸53の内部にその軸線方向に沿って吐出油路37が形成されている。その吐出油路37は、回転軸53の前記ケース部材54との密着嵌合部(回転支持部)に開口しており、その開口部とオイルポンプ3との間の全長に亘って、流路断面積が相対的に小さい細径油路部49とされている。
【0039】
また、ケース部材54の内部には、回転軸53における吐出油路37に、回転軸53とケース部材54との回転嵌合部で連通する他の吐出油路37が形成され、そのケース部材54側の吐出油路37が、油圧制御回路44に連通している。そして、このケース部材54側の吐出油路37の内径は、回転軸53側で、前記細径油路部49の内径とほぼ等しくなっており、これに対して油圧制御回路44側では、細径油路部49の内径より十分に大きくなっている。そして、その内径の小さい部分(すなわちケース部材54側の細径油路部49)に、連通油路50が接続され、その連通油路50がオイル溜め部51に連通している。
【0040】
したがって、オイルポンプ3から吐出されたオイルの流速は、回転軸53およびケース部材54における細径油路部49において速く、これより油圧制御回路44側の大径の部分で遅くなり、その流速の速い部分で圧力が低くなり、その結果、オイル溜め部51のオイルが吸引されて、オイルポンプ3から吐出されたオイルに加えられる。その結果、図3に示す構成であっても、上述した例と同様にオイルの流量を十分に確保でき、それに伴ってピストン23のカム面29に対する追従性が良好になり、また被潤滑部に対して十分な量の潤滑油を供給することができる。これに加えて、図3に示す構成では、回転軸53の内部に形成される油路が細いので、回転軸53の剛性もしくは強度を維持するためにその外径を大きくする必要性が抑制され、したがって回転軸53の大径化を抑制して装置の小型軽量化を図ることができる。
【0041】
なお、上記の各具体例では、入力軸8側に本体部24を取り付けるとともに中間軸9側にカムリング28を設けたが、この発明では、入力軸8側にカムリグを設けるとともに、中間軸9側にピストン23を有する本体部24を取り付けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】この発明の一例を説明するための断面図であって、入力軸の軸線を通る平面で切断した模式的な断面図である。
【図2】この発明の一例を説明するための断面図であって、入力軸の軸線に対して垂直な平面で切断した模式的な断面図である。
【図3】この発明の他の例を説明するための断面図であって、入力軸の軸線を通る平面で切断した模式的な断面図である。
【図4】この発明の動力伝達装置を有する車両パワートレーンおよびその制御系統を示す概念図である。
【符号の説明】
【0043】
1…動力源(エンジン)、 3…オイルポンプ、 8…入力軸、 9…中間軸、 23…ピストン、 24…本体部、 25…凹部、 36…吸入油路、 37…吐出油路、 39…小孔、 48…吐出制御弁、 49…細径油路部、 50…連通油路、 51…オイル溜め部、 53…回転軸、 54…ケース部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源からトルクが伝達される入力部材とその入力部材から伝達されたトルクを他の所定の部材に伝達する出力部材との間に配置され、前記入力部材に連結された第1回転部材と前記出力部材に連結された第2回転部材との相対移動によってオイルを吸入しかつそのオイルを加圧して吐出するオイルポンプを備えるとともに、そのオイルポンプからのオイルの吐出状態を制御する制御弁を備えた動力伝達装置であって、
前記オイルポンプから吐出されたオイルを流通させる吐出油路の一部に他の部分よりも流路断面積の小さい細径油路部が形成され、その細径油路部におけるオイルの流動方向に対して交差する方向に向けて開口する連通油路が前記細径油路部の周壁部に開口して接続され、かつその連通油路がオイル溜め部に連通されていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
前記吐出油路が回転軸と該回転軸を支持する固定部とのそれぞれの内部を通るように形成され、前記細径油路部が前記回転軸の内部に形成される一方、前記細径油路部より流路断面積の大きい他の部分が前記固定部の内部に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記オイルポンプにオイルを戻す吸入油路が、前記オイルによって潤滑を行うべき被潤滑部に連通されていることを特徴とする請求項1または2に記載の動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−226460(P2006−226460A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−42726(P2005−42726)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】