説明

動的群集密度のリアルタイム推定方法及び群集事故防止システム

【課題】本発明は、商店や各種イベント会場などにおける群集事故の発生を警戒・防止するための、画像処理に基づく、動的群集密度のリアルタイム推定技術に関するものである。
【解決手段】リアルタイムに混雑状況を把握し雑踏警備に寄与するためには、個々の人間に注視して正確に人数を数えるのではなく、群集としての性質を背景と明るさの異なるかたまりや移動するかたまりに特徴化し、厳密性を追求せず、実用性を損なわない程度にできるだけ単純化した動的群集密度のリアルタイム推定方法および群集事故防止システムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、商店や各種イベント会場などにおける事故の発生を警戒・防止する画像処理技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大勢の人が混雑する祭りやイベント会場、新店舗オープン会場等では限られた場所に不特定多数の人や車の集中と混雑が発生する。雑踏警備の業務は、訪問人の適切な交通誘導、入退場整理を行い、雑踏に伴う事故や混乱を防ぐことである。近年、発生した事故で兵庫県の明石祭り(花火大会)事故の調査報告の例(非特許文献1)では、事故現場の歩道橋がボトルネックになることは予想可能であったのにもかかわらず、事前の対応策を用意していなかったことに問題があり、歩道橋への流入を制限することで事故を防止できたと主張している。当時の各種データから歩道橋の滞留人数を算出し、流入制限のタイミングについても述べているが、これに適切に対応できるシステムは存在しなかったし、当然のことながらそのようなシステムが設置もされていなかった。
【0003】
【非特許文献1】明石市民夏まつり事故調査委員会:第32回明石市民夏まつりにおける花火大会事故調査報告書(2002) http://www.city.akashi.hyogo.jp/soumu/h safety/natsumatsuri houkoku.html
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
人数が時間を追って増える状況を知ることは、規制を行うタイミングを判断するために重要である。このタイミングは混雑がひどくなってからでは、群集の反発もあり難しい。人数変化を一定時間にわたって追跡することで、客観的かつ効果的なタイミングを得ることができると思われる。第32回明石市民夏まつりにおける花火大会事故調査報告書(2002)が、混雑に伴う事故発生直後の臨機応変な対応は困難であると考えなければいけないと提言していることからも、事故の芽を事前に摘み取る対策をタイミングよく実施することが重要である。
【0005】
本発明では、リアルタイムに混雑状況を把握し雑踏警備に寄与する技術を実現した。本発明技術は既存技術と異なり、個々の人間に注視して正確に人数を数えるのではなく、群集としての性質の特徴化にオリジナリティーがある。また、厳密性を追求せず、実用性を損なわない程度にできるだけ単純化し、必要な条件を確定する技術である。
【0006】
本発明に関わる既報/既存の技術としては次の三つの技術があった。
【0007】
第1は、奈良先端科学技術大学院大学修士論文(2002年)「前田宏二 指導教官 千原國宏」に記載の、「街中の歩行者分布の実時間計測と地図の作成」(非特許文献2)である。この技術内容は以下の通りである。歩行者分布情報は、マーケティングや都市整備計画の検討材料として利用できるなど、人それぞれの利用目的を持った有益な街中情報でもある。街中の歩行者分布情報を抽出して、ユーザーに対して提供可能なシステムを提案している。歩行者分布計測には不特定多数のセンシングが可能な画像処理を用い、カメラには広範囲撮影可能な魚眼レンズを装着したものを利用する。歩行者分布計測は複数の場所で行なう必要があるが、ネットワークを利用することにより抽出した情報を1ヵ所に収集することで地図上への統合を可能にしている。この既存技術が静的な歩行者分布情報を基に複数のカメラ画像情報を用いるのに対し、本発明が1台のカメラの動的歩行者分布情報(時間変化情報)を基にしている点で根本的に異なる。
【0008】
第2は、株式会社シー・イー・デー・システムによる、「人数計測システム(IBSカウンター)」という発明(非特許文献3)である。この技術内容は以下の通りである。移動物体の認識に映像の時空間差分情報を主体とせず、オプティカルフロー推定のみかけ速度場情報から3次元空間の物体移動情報を抽出し、正確に移動物体の同定を行う技術を開発している。この技術を応用してビルの出入り口付近や大規模ホール、公共集客施設、コンビニ、エレベータ入退出の通過人数集計装置及び侵入者検知装置を販売している。この既存技術が個々の人間に注視して正確に人数を数える技術(3次元空間の物体移動情報を抽出し、正確に移動物体の同定を行う技術)であるのに対し、本発明は群集としての性質の特徴化を主眼とし、厳密性を追求せず、実用性を損なわない程度にできるだけ単純化し、必要な条件を確定する技術である点で根本的に異なる。
【0009】
第3は、独立行政法人防災科学技術研究所による、「密集空間を対象とした総合避難誘導シミュレーションシステム研究」である。この技術内容は以下の通りである。施設内リアルタイム管理システムとして次の4つの要素技術(現存人数計測システム、群集シミュレーションシステム、データベースシステム、誘導情報表示システム)について特許出願中(非特許文献4)ということである。この既存技術が、人数カウンタを用い一人一人を正確に計測した施設内の現存人数情報(静的人数情報)を基に、群集の行動を予測するのに対し、本発明はモニターカメラの動画情報を全体画面上の人的密度を近似的に求め、動的歩行者分布情報(時間変化情報)を与える点で根本的に異なる。
【0010】
そこで、本発明の目的は、個々の人間に注視して人数を計測するのではなく、群集としての性質の特徴化を主眼とし、厳密性を追求せず、実用性を損なわない程度にできるだけ単純化し、必要な条件を確定し、リアルタイムに混雑状況を把握し雑踏警備に寄与する技術を提供しようというものである。
【非特許文献2】http://chihara.aist−nara.ac.jp/public/thesis/master/2002/maeda0051096.pdf
【非特許文献3】http://www.ced.co.jp/riv3.htm
【非特許文献4】http://www.pref.miyagi.jp/hk−tihouken/sodan/jirei7−5.html、http://www.kedm.bosai.go.jp/japanese/kenkykaihatsu/005_nisshukukan.html
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以上の点を解決するために、現場の混雑状況を撮影した画像中に、群集の面積が占める割合を群集密度の特徴量とする。続いて、群集と背景を分ける2値化操作を画像に対して行い、2値化の方法は判別分析法(非特許文献5)を用いる。この方法は、濃度tで2つのグループに分けたとき、グループ間の分散が最大となる濃度tmaxを閾値とするというものである。この操作は背景を表す画素群と群集を表す画素群を分ける濃度の推定を目的としている。画像全体に用いると適切に動作しないため、領域を限定して閾値を推定し、これを画像全体の閾値として用いる。画像は撮影された角度θに応じて、図1のように見かけ上の歪みを生じる。Pをカメラの位置としたとき、地面に垂直なOAはAA′なり、水平なOBはBB′となる。このことから、群集の面積はcosθ倍、画像全体の面積はsinθ倍となって写ることになる。したがって、画像全体の画素数をm、群集に相

領域の面積から求める。実際の人数は画像に写っている人の数を目視により数え、画像処理から得られる人数とのカリブレーション(更正曲線)のためのリファランス値として用いた。人が重なっている場合は頭部の数を数え、対象領域の面積は、画像内の物体から縮尺の基準を定めて推定した。群集の移動方向検出はテンプレートマッチングを利用した。固定カメラにより撮影した隣接時刻のサンプリング画像のうち、新しい画像内の局所部分(位置s,sサイズm×n)をテンプレートに定め、古い画像内で上下左右に移動し不一致度を計算した。古い画像内で不一致度の低い位置から、新しい画像内の局所領域の位置へ物体が移動したと推定できる。古い画像内の位置を(i,j)、移動量をaとすれば、不一致度行列Rをa×aの行列として次式で計算した。

を提供する。
【非特許文献5】南敏,中村納:画像工学,コロナ社(1989)
【発明の効果】
【0012】
本発明は次のような効果を奏する。場所と状況を変えて群集密度の推定行った実施例の結果より、各場所毎で実際の群集密度と群集密度の特徴量には強い相関があり、群集の増減を掌握するためには本発明の手法は十分であり、雑踏警備における人員の効果的配置と即時対応に寄与できる。適用範囲を確定すれば実用的な要素技術と考えられ、システムとして構築することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。
<実施例1>
【0014】
2003年11月4日、天気晴れ、八王子駅北口前スクランブル交差点の横断部分を午後7時からおよそ10分間撮影した(八王子駅前交差点(夜))。交差点を見下ろす駅前歩道橋上に、家庭用ビデオカメラを三脚で固定して撮影した。群集を見下ろす角度はおよそ10°であった。次に、ビデオキャプチャボードを装着したパーソナルコンピュータを用いてビデオ映像から静止画像を1秒毎に取り出した。この画像内の特定領域の面積と領域内の人数から実際の群集密度を推定した。特定領域の面積は画像中の物体を縮尺の基準に定めて推定した。その際に、撮影角度によって生じる奥行き方向の歪みを補正した結果、面積は149.7mであった。領域内の人数は目視により数えた。人が重なっている場合は頭部の数を数えた。その結果、最小人数13人、最大人数37人であった。群集密度は0.09人/mから0.25人/mまで変化したと推定される。次に、画像中の人間と背景の明るさの違いに着目し、両者を分離する2値化処理を行い、特定領域内に占める人物面積と、特定領域全域との面積比を、群集密度の特徴量とした。特定領域面積と人物面積は撮影角度による歪みを生じているため、この2つから求めた特徴量を補正する。その結果、図2に示すように、得られた群集密度の特徴量(比率)と、実際の群集密度(人数/m)は相関係数0.96となる強い相関があった。次に、同一の撮影領域について、異なる時刻の静止画像をビデオ映像から取り出し、新しい画像内に局所部分を定める。古い画像内の同一部分を初期対応点と定める。両画像の対応点について、濃度差の2乗を、対応点全てについて足したものを不一致度と定める。古い画像内の対応点を上下左右に10ドットずつ移動させて不一致度行列を得た。この結果、図3に示すように、不一致度行列の各要素の値は、物体の移動元を示す要素で最小となり、群集の移動方向を推定できた。
<実施例2>
【0015】
2003年11月5日、天気晴れ、八王子駅北口前スクランブル交差点の横断部分を午前9時からおよそ10分間撮影した(八王子駅前交差点(朝))。交差点を見下ろす駅前歩道橋上に、家庭用ビデオカメラを三脚で固定して撮影した。群集を見下ろす角度はおよそ10°であった。次に、ビデオキャプチャボードを装着したパーソナルコンピュータを用いてビデオ映像から静止画像を1秒毎に取り出した。この画像内の特定領域の面積と領域内の人数から実際の群集密度を推定した。特定領域の面積は画像中の物体を縮尺の基準に定めて推定した。その際に、撮影角度によって生じる奥行き方向の歪みを補正した結果、面積は149.7mであった。領域内の人数は目視により数えた。人が重なっている場合は頭部の数を数えた。その結果、最小人数5人、最大人数25人であった。群集密度は0.03人/mから0.17人/mまで変化したと推定される。次に、画像中の人間と背景の明るさの違いに着目し、両者を分離する2値化処理を行い、特定領域内に占める人物面積と、特定領域全域との面積比を、群集密度の特徴量とした。特定領域面積と人物面積は撮影角度による歪みを生じているため、この2つから求めた特徴量を補正する。その結果、図4に示すように、得られた群集密度の特徴量と、実際の群集密度とは相関係数0.92となる強い相関があった。次に、画像中の移動体のすべてが人間であることに着目し、特定領域内の移動体面積と特定領域全域との面積比を、群集密度の特徴量とした。移動体の検出は、同一の撮影領域に発生する濃度変化を2値化処理することで行う。即ち、異なる時刻の画像を用い、対応点の濃度変化が一定以上増加した部分を移動体として検知する。その結果、図5に示すように、得られた群集密度の特徴量と、実際の群集密度とは相関係数0.84となる強い相関があった。
<実施例3>
【0016】
2003年11月5日、天気晴れ、八王子駅構内のエスカレータと階段が併設された通路を午前9時30分からおよそ10分間撮影した(八王子駅構内エスカレータ昇降)。撮影は通路を見下ろす場所に家庭用ビデオカメラを固定して行った。群集を見下ろす角度はおよそ30°であった。次に、ビデオキャプチャボードを装着したパーソナルコンピュータを用いてビデオ映像から静止画像を1秒毎に取り出した。この画像内の特定領域の面積と領域内の人数から実際の群集密度を推定した。特定領域の面積は画像中の物体を縮尺の基準に定めて推定した。その際に、撮影角度によって生じる奥行き方向の歪みを補正した結果、面積は16mであった。領域内の人数は目視により数えた。人が重なっている場合は頭部の数を数えた。その結果、最小人数2人、最大人数9人であった。群集密度は0.13人/mから0.56人/mまで変化したと推定される。次に、画像中の人間と背景の明るさの違いに着目し、両者を分離する2値化処理を行い、特定領域内に占める人物面積と、特定領域全域との面積比を、群集密度の特徴量とした。特定領域面積と人物面積は撮影角度による歪みを生じているため、この2つから求めた特徴量を補正する。その結果、図6に示すように、得られた群集密度の特徴量と、実際の群集密度は強い相関(相関係数0.8)があった。次に、同一の撮影領域について、異なる時刻の静止画像をビデオ映像から取り出し、新しい画像内に局所部分を定める。古い画像内の同一部分を初期対応点と定める。両画像の対応点について、濃度差の2乗を、対応点全てについて足したものを不一致度と定める。古い画像内の対応点を上下左右に10ドットずつ移動させて不一致度行列を得た。この結果、図7に示すように、不一致度行列の各要素の値は、物体の移動元を示す要素で最小となり、群集の移動方向を推定できた。
<実施例4>
【0017】
2003年11月5日、八王子みなみ野駅構内において、電車から降車後、改札へ向かう群集を改札とホームを結ぶ階段の上部にカメラを固定して、午前10時からおよそ10分間撮影した(八王子みなみ野駅ホーム)。群集を見下ろす角度はおよそ50°であった。次に、ビデオキャプチャボードを装着したパーソナルコンピュータを用いてビデオ映像から静止画像を1秒毎に取り出した。この画像内の特定領域の面積と領域内の人数から実際の群集密度を推定した。特定領域の面積は画像中の物体を縮尺の基準に定めて推定した。その際に、撮影角度によって生じる奥行き方向の歪みを補正した結果、面積は8.9mであった。領域内の人数は目視により数えた。人が重なっている場合は頭部の数を数えた。その結果、最小人数1人、最大人数13人であった。群集密度は0.11人/mから1.46人/mまで変化したと推定される。次に、画像中の人間と背景の明るさの違いに着目し、両者を分離する2値化処理を行い、特定領域内に占める人物面積と、特定領域全域との面積比を、群集密度の特徴量とした。特定領域面積と人物面積は撮影角度による歪みを生じているため、この2つから求めた特徴量を補正する。その結果、図8に示すように、得られた群集密度の特徴量と、実際の群集密度は強い相関(相関係数0.94)があった。次に、同一の撮影領域について、異なる時刻の静止画像をビデオ映像から取り出し、新しい画像内に局所部分を定める。古い画像内の同一部分を初期対応点と定める。両画像の対応点について、濃度差の2乗を、対応点全てについて足したものを不一致度と定める。古い画像内の対応点を上下左右に10ドットずつ移動させて不一致度行列を得た。この結果、図9に示すように、不一致度行列の各要素の値は、物体の移動元を示す要素で最小となり、群集の移動方向を推定できた。
<実施例5>
【0018】
2003年12月22日、天気晴れ、渋谷駅構内の京王線とJR線の連絡通路を午前10時から10分間撮影した(渋谷駅(京王線とJR線の連絡通路))。連絡通路を見下ろす位置(併設の飲食店街入口付近)で、家庭用ビデオカメラを三脚で固定して撮影した。群集を見下ろす角度はおよそ35°である。次に、ビデオキャプチャボードを装着したパーソナルコンピュータを用いてビデオ映像から静止画像を1秒毎に取り出した。この画像内の特定領域の面積と領域内の人数から実際の群集密度を推定する。特定領域の面積は画像中の物体を縮尺の基準に定めて推定した。その際に、撮影角度によって生じる奥行き方向の歪みを補正した。その結果面積は60mであった。領域内の人数は目視により数えた。人が重なっている場合は頭部の数を数えた。その結果、最小人数2人、最大人数13人であった。群集密度は0.03人/mから0.22/mまで変化したと推定される。次に、画像中の人間と背景の明るさの違いに着目し、両者を分離する2値化処理を行い、特定領域内に占める人物面積と、特定領域全域との面積比を、群集密度の特徴量とした。特定領域面積と人物面積は撮影角度による歪みを生じているため、この2つから求めた特徴量を補正する。その結果、図10に示すように、得られた群集密度の特徴量と、実際の群集密度は強い相関(相関係数0.96)があった。次に、画像中の移動体のすべてが人間であることに着目し、特定領域内の移動体面積と特定領域全域との面積比を、群集密度の特徴量とした。移動体の検出は、同一の撮影領域に発生する濃度変化を2値化処理することで行う。即ち、異なる時刻の画像を用い、対応点の濃度変化が一定以上増加した部分を移動体として検知する。その結果、図11に示すように得られた群集密度の特徴量と、実際の群集密度とは相関係数0.95となる強い相関があった。
<実施例6>
【0019】
2003年12月22日、天気晴れ。渋谷駅前交差点の横断部分を午前11時から10分間撮影した(渋谷駅交差点)。交差点を見下ろす喫茶店内に家庭用ビデオカメラを三脚で固定して撮影した。群集を見下ろす角度はおよそ20°であった。次に、ビデオキャプチャボードを装着したパーソナルコンピュータを用いてビデオ映像から静止画像を1秒毎に取り出した。この画像内の特定領域の面積と領域内の人数から実際の群集密度を推定した。特定領域の面積は画像中の物体を縮尺の基準に定めて推定した。その際に、撮影角度によって生じる奥行き方向の歪みを補正した結果、面積は180mであった。領域内の人数は目視により数えた。人が重なっている場合は頭部の数を数えた。その結果、最小人数7人、最大人数75人であった。群集密度は0.04人/mから0.42人/mまで変化したと推定される。次に、画像中の人間と背景の明るさの違いに着目し、両者を分離する2値化処理を行い、特定領域内に占める人物面積と、特定領域全域との面積比を、群集密度の特徴量とした。特定領域面積と人物面積は撮影角度による歪みを生じているため、この2つから求めた特徴量を補正する。その結果、図12に示すように、得られた群集密度の特徴量と、実際の群集密度は強い相関(相関係数0.93)があった。次に、画像中の移動体のすべてが人間であることに着目し、特定領域内の移動体面積と特定領域全域との面積比を、群集密度の特徴量とした。移動体の検出は、同一の撮影領域に発生する濃度変化を2値化処理することで行う。即ち、異なる時刻の画像を用い、対応点の濃度変化が一定以上増加した部分を移動体として検知する。その結果、図13に示すように、得られた群集密度の特徴量と、実際の群集密度は強い相関(相関係数0.96)があった。
<応用例1>
【0020】
本発明の動的群集密度のリアルタイム推定方法は、イベント会場における群集事故を未然に防止するために、入場券販売機と動的群集密度推定システムを通信機能で結び、イベント会場に向かう人ごみを過度に密集しないよう調節するのに適用できる。その検証の目的で、学生食堂をイベント会場に見立て、食券販売機を入場券販売機とし次のシステム構成を検討した。検証実験のタイミングとしては、学内で学会等の催しものがあるときを選んだ。一般に、学外からの来訪者にも食堂を利用してもらい、食券は自動発券機で販売するが、普段でも昼時は混雑し行列ができている。そのため、学外の来訪者のために特設コーナーを設けて対応している。普段の混雑時でも、厨房の人達は大変忙しく、次々と来る人に食膳を提供するので手一杯である。食堂内の混雑を監視する担当者は置かれていない。学外者に気分良く食事をしてもらうためには、学内者の入場を制限する必要がある。食堂内に設置した監視カメラから混雑の変化を監視し、混雑に応じて食券発売機の稼動台数を制御した。図14に本システムの基本構成を示す。本システムは、食券売機3台、カメラ1台、データ処理及び制御を行うパーソナルコンピュータ、これらを接続する通信ケーブルで構成する。パーソナルコンピュータには、ビデオカメラと接続するためのビデオキャプチャボード、券売機と接続するための制御ボードを装着している。図15、図16に本システムの設置状況を示す。食堂は3階にあり、階段を上った場所に券売機が設置してある。利用者は、食券を購入して、券売機右側の入口から食堂内に入室し、食事を済ませると利用者は出口から退出する。人の流れを図内の矢印で示す。室内高所に設置したカメラで、俯瞰風景を撮影した。撮影範囲を決定するために、データ処理装置からカメラを制御した。室内全域を撮影対象とするように、カメラの画角調整と撮影角度調整を行った。この時の角度θは撮影範囲の中央部分を示している。撮影範囲の上部、中部、下部では角度が異なっているため、撮影範囲の上部と下部の対象を映像の中央部分に一時的に移動させて角度を計測した。それぞれθu、θdとする。撮影角度による歪みを補正するために、これらの角度を用いる。撮影面積の推定は、撮影範囲の上部、中部、下部における縮尺の基凖を、各部分に写った人物の身長が射影する床面上の距離とした。このとき、撮影範囲の選定で測定した上部、中部、下部の角度を用いて補正した。データ処理装置からビデオカメラを制御し室内の様子の撮影を開始した。映像の調整(色、映像の明暗)はカメラのオート機能に任せ、データ処理装置に装着したビデオキャプチャボードを通じて、ビデオ映像をデータ処理装置内に蓄積した。データ処理装置では、映像から1秒毎に取り出した静止画に対して明るさを2値化することで特徴量を得た。特徴量に従って各発券機の状態を”発売中”あるいは”発売中止”のいずれかに、各食券販売機を独立に制御した。特徴量と券売機の稼動台数を下記の通りとした。特徴量<0.6の場合は3台、0.6<特徴量<0.8の場合は2台、0.8<特徴量<0.9の場合は1台、0.9<特徴量の場合は0台の券売機を稼動させる。
【0021】
この、結果実験対象とした東京工科大学厚生棟3階の食堂の12時から13時の昼食時にかけての混雑は学会開催中というイベント時にも関わらず解消し、食堂内での配膳場所での学会関係の学外者と学生とによる混乱は避けられ、本システムがイベント会場での密集した群集による事故を未然に防止するのに極めて有効であることが明らかとなった。
<応用例2>
【0022】
本発明の動的群集密度のリアルタイム推定方法は、イベント会場に向かう群集事故を未然に防止するために、動的群集密度推定システムと中央監視センターとを通信機能で結び、イベント会場に向かう群衆を過度に密集しないよう中央監視センターで調節するのに適用できる。その検証の目的で、東京工科大学をイベント会場に見立て、最寄の駅である八王子みなみ野駅を降りて東京工科大学行バス発着場までのルート(図17)を花火大会等のイベント会場までのルートの途中の陸橋や階段など群集事故の発生しやすい場所と見立て、図18に示すような位置にモニターカメラを配置して来場者の動きを監視し、誘導する群集事故防止システムとして図19のようなシステム構成を検討した。八王子みなみ野駅前の本学専用のバス停では、午前中の混雑時は、およそ500メートルに渡って列ができる。現在、整理員を数人配置して混雑に対応している。日中は数人の整理員によって、バス停前の混雑は統制されている。バスの運行は、利用者の多い時間帯は2分〜5分間隔で行われている。それ以外の時間帯では、大変な行列でも一台しか来ないときもある。バスの運転手の報告により、バスを増減することも可能であるが、空いている状態から混雑した状態に対応するのは難しい。混雑の状況を本発明のモニタカメラの画像を用いたリアルタイム推定方法で計測し、事後対応でなく事前対応でバスの増発を行い、円滑な輸送を朝の8:30から11:00までの時間帯に実施した。アーケードの天井から駅方向を撮影し、階段部分を歩行する人を含めないようにする。階段を歩行する人はカメラに接近しすぎて補正が難しい。アーケードの天井に設置したカメラで、俯瞰風景を撮影した。撮影範囲を決定するために、データ処理装置からカメラを制御した階段直前までを撮影対象とするように、カメラの画角調整と撮影角度調整を行った。この時の角度は撮影範囲の中央部分を示している。撮影範囲の上部、中部、下部では角度が異なっているため、撮影範囲の上部と下部の対象を映像の中部分に一時的に移動させて角度を計測した。それぞれθu、θc、θdとする。撮影角度による歪みを補正するために、それぞれの角度を用いる。撮影面積の推定は、撮影範囲の上部、中部、下部における縮尺の基準を、各部分に写った人物の身長が射影する床面上の距離とした。このとき、撮影範囲の選定で測定した上部、中部、下部の角度を用いて補正した。データ処理装置からビデオカメラを制御し行列の様子の撮影を開始した。映像の調整(色、映像の明暗)はカメラのオート機能に任せ、データ処理装置に装着したビデオキャプチャボードを通じて、ビデオ映像をデータ処理装置内に蓄積した。データ処理装置では、映像から1秒毎に取り出した静止画に対して明るさを2値化することで特徴量を得た。アーケード天井から駅方向を撮影した映像から取り出した静止画の混雑に関する特徴量を無線ネットワークで約数キロメーター離れた東京工科大学内のバス溜りに停車中のバス内にいる運行指示者に、10秒間の平均特徴量が0.1以下の場合は全LED無点灯、0.1<特徴量<0.5の場合は青のLED点灯、0.5<特徴量<0.8の場合は黄色のLED点灯、特徴量が0.8以上の場合は赤のLEDが点灯する信号を無線送信し、バス運行指示者は常時1台のバス(可搬のバス運行監視端末あるいは監視ボックスが設置されたバス)でこれを監視し、無線で待機バスに発車命令を出した。バスの運行指示者は特徴量が0.1以下の場合は0台(待機)、0.1<特徴量<0.5(青のLED点灯)の場合は1台、0.5<特徴量<0.8(黄色のLED点灯)の場合は2台、0.8<特徴量(赤のLED点灯)の場合は3台のバスを東京工科大学内のバス溜りより連続発車させ、シャトル運行させるように指示した。この場合、各バスは指示を受けると八王子みなみ野駅へ向かい、乗客を大学へ搬送すると東京工科大学内のバス溜りに待機し、次の指示を受ける。
【0023】
この、結果八王子みなみ野の駅前の東京工科大学行きバス停に向かって並ぶ数百mの長蛇の列は8:30から11:00の時間で全く発生せずに、最大で50m程度の2列の整然とした乗り合いバス待ち風景が常時見られる状況となった。なお、8:30から11:00以外の時間では予め決められた季節ごとの定時運行を行っている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】撮影角度による画像の歪みを補正するための図である。
【図2】八王子駅前交差点(夜)風景撮影の画像を用い、明るさの2値化画像処理から得られた群集密度の特徴量と、実際の群集密度を時系列に対比した図である。
【図3】八王子駅前交差点(夜)風景撮影の画像を用いて、群集の移動方向推定のために不一致度を可視化した図である。左図は、ある瞬間の映像である。右図は左隣の映像より1/30秒前の画像と対応点の位置を上下左右にずらしたときの不一致度の最小を黒、最大を白とする階調で表している。座標は上下左右のずらした量に対応する。
【図4】八王子駅前交差点(朝)風景撮影の画像を用い、明るさの2値化画像処理から得られた群集密度の特徴量と、実際の群集密度を時系列に対比した図である。
【図5】八王子駅前交差点(朝)風景撮影の画像を用い、移動体の検出に基づいて、得られた群集密度の特徴量と実際の群集密度を時系列に対比した図である。
【図6】八王子駅構内エスカレータ昇降風景撮影の画像を用い、明るさの2値化画像処理から得られた群集密度の特徴量と、実際の群集密度を時系列に対比した図である。
【図7】八王子駅構内エスカレータ昇降風景撮影の画像を用いて、群集の移動方向推定のために不一致度を可視化した図である。左図は、ある瞬間の映像である。右図は左隣の映像より1/30秒前の画像と対応点の位置を上下左右にずらしたときの不一致度の最小を黒、最大を白とする階調で表している。座標は上下左右のずらした量に対応する。
【図8】八王子みなみ野駅ホーム風景撮影の画像を用い、明るさの2値化画像処理から得られた群集密度の特徴量と、実際の群集密度を時系列に対比した図である。
【図9】八王子みなみ野駅ホーム風景撮影の画像を用いて、群集の移動方向推定のために不一致度を可視化した図である。左図は、ある瞬間の映像である。右図は左隣の映像より1/30秒前の画像と対応点の位置を上下左右にずらしたときの不一致度の最小を黒、最大を白とする階調で表している。座標は上下左右のずらした量に対応する。
【図10】渋谷駅(京王線とJR線の連絡通路)風景撮影の画像を用い、明るさの2値化画像処理から得られた群集密度の特徴量と、実際の群集密度を時系列に対比した図である。
【図11】渋谷駅構内(京王線とJR線の連絡通路)風景撮影の画像を用い、移動体の検出に基づいて、得られた群集密度の特徴量と実際の群集密度を時系列に対比した図である。
【図12】渋谷駅交差点風景撮影の画像を用い、明るさの2値化画像処理から得られた群集密度の特徴量と、実際の群集密度を時系列に対比した図である。
【図13】渋谷駅前交差点風景撮影の画像を用い、移動体の検出に基づいて、得られた群集密度の特徴量と実際の群集密度を時系列に対比した図である。
【図14】食堂の混雑を制御するシステムの装置構成図である。
【図15】撮影角度による歪みの補正を示す図である。
【図16】食堂への各装置の設置状況を示す図である。
【図17】東京工科大学行バス発着場へのルート図である。
【図18】カメラの配置断面図である。
【図19】バス運行制御システム構成図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動的群集密度をリアルタイムに推定する方法において、時間的相関のある静止画像を複数用いて、この画像に人間と背景を区別するデータ処理を加え、群集の密度を推定することを特徴とする動的群集密度のリアルタイム推定方法。
【請求項2】
前記請求項1の静止画像において、ビデオ映像から静止画像を取り出すことを特徴とする請求項1に記載の動的群集密度のリアルタイム推定方法。
【請求項3】
前記請求項1の静止画像において、ビデオキャプチャボードを装着したパーソナルコンピュータを用いてビデオ映像から静止画像を取り出ことを特徴とする請求項1に記載の動的群集密度のリアルタイム推定方法。
【請求項4】
前記請求項1に記載のデータ処理において、ビデオ映像から取り出した静止画像に2値化処理を行い、対象領域に占める移動物体と全領域の面積比を群集密度の特徴量とすることを特徴とする請求項1に記載の動的群集密度のリアルタイム推定方法。
【請求項5】
前記請求項4の移動物体の検出においては、同一の撮影領域に対して異なる時刻の画像を用い、対応点の濃度変化について2値化処理を行うことを特徴とする請求項4に記載の動的群集密度のリアルタイム推定方法。
【請求項6】
前記請求項4の群集密度の特徴量において、画像中での人間と背景の明るさの違いに着目し、両者を分離する2値化処理を行い、対象領域に占める人間の面積と全領域の面積との比を群集密度の特徴量とすることを特徴とする請求項4に記載の動的群集密度のリアルタイム推定方法。
【請求項7】
前記請求項5の動的群集密度をリアルタイムに推定する方法において、群集の移動方向推定のために同一の撮影対象領域について、異なる時刻の静止画像をビデオ映像から取り出し、新しい画像の局所部分が、古い画像内で類似度が高くなる位置を調べ、古い画像中で類似度の高い位置から、新しい画像中の局所領域の位置へ物体が移動したと推定することを特徴とする請求項5に記載の動的群集密度のリアルタイム推定方法。
【請求項8】
請求項7の群集の移動方向推定において、2つの画像の類似度を表す指標は、画像の対応する点について濃度差の2乗和の逆数であらわすこととしたことを特徴とする請求項7に記載の動的群集密度のリアルタイム推定方法。
【請求項9】
請求項1の動的群集密度のリアルタイム推定方法を用いて、イベント会場、食堂、停留所等への人の密集を制御することを特徴とする、群集事故防止システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2006−31645(P2006−31645A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−231672(P2004−231672)
【出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(504303159)
【Fターム(参考)】