説明

化合物半導体素子およびその製造方法

【課題】素子特性の劣化を抑制することができる化合物半導体素子を提供することを主要な目的とする。
【解決手段】基板101の上に、上下に隣接して、不純物がドープされたp型クラッド層106と、不純物がドープされていない活性層104とが設けられている。p型クラッド層106と活性層104との間に、歪を有する半導体層105が設けられている。歪を有する半導体層105の結晶は、その格子間結合に歪がかかることにより、無歪の場合に比べて結晶の内部エネルギーが高い状態になる。そのため、ドーパントは、歪のかかったこの格子間を通過し難くなくなる。こうして、p型クラッド層106から活性層104へのドーパントの拡散が防がれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に化合物半導体素子に関し、より特定的には、光ディスク装置や光通信システム等に好適に使用される半導体レーザや発光ダイオード等および高電子移動度トランジスタやヘテロ接合バイポーラトランジスタ等の化合物半導体素子に関する。この発明は、またド−パントの拡散を防止することができるように改良された化合物半導体素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化合物半導体素子には、大きく分けて、高電子移動度トランジスタやヘテロ接合バイポーラトランジスタ等の電子デバイスと、半導体レーザや発光ダイオード等の光デバイスがある。これらの素子では、半導体に極性を持たせるために、不純物を混入させる技術が重要である。この技術を一般的にドーピングと呼び、その不純物をドーパントと呼ぶ。上記化合物半導体素子ではドーピングにより不純物濃度を適切に制御することによって、所望の素子特性を実現している。
【0003】
例えば、高電子移動度トランジスタは、電子を供給するための不純物を添加した層と高純度チャネル層から構成されている。チャネル層は不純物をほとんど含まないため、このチャネル層を通過する電子は不純物とほとんど衝突せず、その結果、電子の移動度は高くなる。
【0004】
また、例えば半導体レーザは、ドーピングにより極性を持たせたp型半導体およびn型半導体を用いて、ノンドープ半導体層を挟み、中央部で接合させたサンドイッチ構造を持ち、これらp型半導体とn型半導体で挟まれた半導体層が発光層に対応する。この発光層を活性層と呼び、さらに、この活性層を挟む両側の層をクラッド層と呼ぶ。このクラッド層と活性層とはバンドギャップの異なる半導体材料からなり、ダブルヘテロ接合を形成する。このダブルヘテロ接合において電子とホールが結合し、光に効率良く変換され、クラッド層で光が閉じ込められてレーザ発振する。
【0005】
上述したように化合物半導体素子には、電子デバイスと光デバイスがあるが、ここでは光デバイスの中から半導体レーザを例に挙げて説明することにする。
【0006】
従来の半導体レーザとして、例えば、特許文献1に開示されたリッジ埋め込み型半導体レーザがある。この従来の半導体レーザの主な製造工程とその素子構造を図7(A)〜(D)に示し、説明する。
【0007】
まず、図7(A)に示すように、n型GaAs基板301上に、n型AlGaAsのバッファ層302を形成し、さらにその上にn型AlxGa1-xAs(0.3<X<1)の第1クラッド層303、AlyGa1-yAs(0<Y<0.2)の活性層304、p型AlxGa1-xAsの第2クラッド層305とp型GaAsコンタクト層306を、順番に、MOCVD(metal organic chemical vapor deposition:有機金属化学気相成長)法を用いて積層した後、この積層体上の必要な部分にSiO2マスク307を形成する。
【0008】
次に、図7(A)と(B)に示すように、硫酸と過酸化水素水の混合水溶液であるエッチング液を用いて、第2クラッド層305に対してエッチングを行い、第2クラッド層305とp型GaAsコンタクト層306を含むメサ部308の側面を形成する。
【0009】
さらに、図7(C)に示すように、MOCVD法を用いて再成長を行い、メサ部308の側面に接するように、SiO2マスク307を用いて選択成長させた、n型GaAsからなる電流阻止層309を埋め込む。
【0010】
最後に、図7(C)と(D)に示すようにSiO2マスク7を除去し、この積層体の上下にp型電極310およびn型電極311を形成し、へき開することにより、チップに分割して、リッジ埋め込み型半導体レーザを作製できる。
【特許文献1】特開平7−50446号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、このような化合物半導体素子では、ドーパントが熱履歴などの原因によりドープ層から活性層304にまで拡散し、キャリアの非発光再結合中心となる結晶欠陥が形成され、素子特性が低下する、また、このドーパントが動作時の注入電流や発熱の影響により素子動作中にも容易に拡散し、その結果、素子寿命が短くなるという問題があった。
【0012】
さらにまた、p型コンタクト層306は低抵抗化のために高濃度にドーピングされているが、結晶成長またはその後の製造プロセスなどにおける熱履歴や素子動作中の注入電流や発熱の影響により、ドーパントがコンタクト層306から拡散し、その結果コンタクト層306のキャリア濃度が低下して抵抗が高くなり、電流が流れにくくなるという問題があった。
【0013】
ここでは光デバイスである半導体レーザを例として説明したが、電子デバイスでも同様である。例えば、高電子移動度トランジスタの場合、不純物を添加した層からチャネル層へ不純物が拡散により進入すると、この不純物により電子の移動が妨げられ、高い移動度が得られなくなり、素子の特性を低下させる問題があった。
【0014】
以上のように化合物半導体素子では、不純物の拡散が生じると、素子の特性が劣化するという問題があった。
【0015】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、素子特性の劣化を抑制することができるように改良された化合物半導体素子を提供することにある。
【0016】
この発明の他の目的は、不純物の拡散が抑制され、設計通りのドーピングプロファイルを形成でき、本来の素子特性を実現できるように改良された、化合物半導体素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この発明に従う化合物半導体素子は、基板の上に上下に隣接して設けられた、不純物がドープされた第1の半導体層と、不純物がドープされていない、若しくは上記第1の半導体層よりも低濃度にドープされた第2の半導体層とを備える。上記第1の半導体層と上記第2の半導体層との間に、歪を有する第3の半導体層が設けられている。
【0018】
この発明によれば、歪を有する第3の半導体層を設けることにより、結晶の内部エネルギーを高い状態に変化させ、ドーパントが格子間を通過できないようにする、もしくは格子位置にある原子と置換できないようにするものである。
【0019】
この発明の好ましい実施態様によれば、上記第3の半導体層の歪量の絶対値が、0.5%以上、10%以下であることを特徴とする。
【0020】
このように歪を有する半導体層の歪量の絶対値が0.5%以上、10%以下の歪量にすることにより、結晶の内部エネルギーを高い状態に変化させ、ドーパントが格子間を通過できないようにする、もしくは格子位置にある原子と置換できないようにするものである。0.5%より小さくなると、不純物拡散の防止効果が不十分になり、不純物拡散によって結晶性の劣化が発生する。また、10%を超えると、ミスフィット転位を発生させることなく、平坦な結晶を単分子層以上形成することが困難となる。したがって、歪を有する半導体層の歪量を0.5%以上、10%以下にすることにより、不純物の拡散を防ぎ、結晶性の劣化を防ぐことができるため、化合物半導体素子の本来の特性を実現することができる。
【0021】
この発明のさらに好ましい実施態様によれば、上記歪を有する第3の半導体層の膜厚が単分子層厚以上であり、10nm以下であることを特徴とする。
【0022】
歪を有する第3の半導体層の膜厚が単分子層厚より薄くなると、不純物の拡散を防止することが不十分になり、素子特性や信頼性が劣化し、また10nmより厚くなると、臨界膜厚を超え、結晶性が低下し、素子の特性を劣化させてしまう。したがって、歪を有する半導体層の膜厚が単分子層厚以上、10nm以下である必要がある。
【0023】
さらに好ましい実施態様によれば、上記基板がGaAsであって、上記第3の半導体層がIn1-xGaxAs1-yy「0≦x、y≦1」である。
【0024】
In1-xGaxAs1-yy(0≦x、y≦1)を使用するとバンドギャップの選択の幅が広くなり、隣接する半導体層とのバンドギャップを調整しやすい利点がある。つまり、ある一定のバンドギャップを保ちつつ、組成を調節することによって所望の歪量に調整することができるという利点がある。
【0025】
また、上記基板がGaAsであって、上記歪を有する第3の半導体層が、Gaよりも原子半径の大きなIII族元素、もしくはAsよりも原子半径の大きなV族元素を含む二元化合物からなり、その層厚が単分子層以上であるのが好ましい。単分子層であっても、高い歪量を有するため、不純物の拡散を防止する効果が高い。
【0026】
また、用いる基板がGaAsであって、上記二元化合物がInAsであるのが好ましい。InAs単分子層は約7%の歪量を有し、十分な拡散の抑止効果を得ることができる。
【0027】
また、上記第1の半導体層の、上記第3の半導体層と接触する側の一部の厚み部分では、不純物がドープされていないのが好ましい。
【0028】
本発明の他の局面に従う化合物半導体素子の製造法は、基板上に、不純物がドープされた第1の半導体層と、不純物がドープされていない、もしくは上記第1の半導体層よりも低濃度にドープされた第2の半導体層とを上下に隣接して形成するIII−V族化合物半導体素子の製造方法において、上記第1の半導体層と上記第2の半導体層との間に、歪を有する第3の半導体層を形成する工程を含むことを特徴とする。
【0029】
本製造法によって不純物の拡散が抑制され、良質の結晶性が確保できるため、良好な特性と高い信頼性を有する化合物半導体素子を得ることが可能となる。
【0030】
また、上記第1の半導体層を形成する工程において、上記第3の半導体層と接触する側では、不純物をドープしないで、該第1の半導体層の一部の厚み部分を形成するのが好ましい。
【0031】
結晶成長中の熱履歴により、不純物が拡散した場合、予め第2の半導体層の中に不純物の拡散を防ぐための歪を有する半導体層を形成してあるので、第1の半導体層から第2の半導体層へ成長中に拡散してくる不純物を、歪を有する半導体層を用いて防止できる利点がある。
【発明の効果】
【0032】
上述の本発明による化合物半導体素子によれば、不純物の拡散が抑制され、設計通りのドーピングプロファイルを形成でき、本来の素子特性を実現できる。そのため、結晶性の劣化を防ぐことができるので、半導体レーザの場合は素子寿命の長い化合物半導体素子が得られ、高電子移動度トランジスタの場合は移動度が大きい化合物半導体素子が得られ、また電極と低抵抗で接続する化合物半導体素子が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
基板上に不純物がドープされた第一の半導体層と第一の半導体層に上下に隣接して形成された、不純物がドープされていない第二の半導体層を有する化合物半導体素子において、設計通りのドーピングプロファイルを形成でき、本来の素子特性を実現できるようにするという目的を、第一の半導体層と第二の半導体層との間に、歪を有する第3の半導体層を形成し、第一の半導体層から第二の半導体層への不純物の拡散を防ぐということによって実現した。
【0034】
ここで、歪には、圧縮歪及び引っ張り歪が含まれる。歪量を「 e 」と表すと、e>0の場合、圧縮歪と呼び、e<0の場合、引っ張り歪(伸張歪)と呼ぶ。
【0035】
歪量の算出は次のように行った。すなわち、一般的な手法としてX線回折装置を用いて、歪の生じた薄膜の結晶格子間隔を測定し、歪の無い正常な結晶格子間隔との差を求め、歪量を算出する。まず、手順として、歪の生じた薄膜の結晶格子間隔の値を「a(歪有り)」とする。次に、歪の無い正常な結晶格子間隔を「a(歪無し)」とする。本実施の形態の場合、基板であるGaAs基板の格子間隔が“歪の無い正常な結晶格子間隔”に相当する。次に、歪量eは、「a(歪有り)」と「a(歪無し)」を用いて、
e = (a(歪有り) -a(歪無し))/ a(歪無し)
と定義する。このままでは単位のない数値であるので、%表示するために、 e に改めて100%を乗じて、e =e ×100% と計算した。
【0036】
以下、この発明の実施例を図を用いて説明する。
【実施例1】
【0037】
図1は、実施例1に係るIII−V族化合物半導体素子である、リッジ埋め込み型半導体レーザの素子の断面図である。
【0038】
図1を参照して、n型GaAs基板101(Siキャリア濃度2×1018cm-3)の上に、n型Al0.5Ga0.5Asのバッファ層102(厚さ0.5μm、Siキャリア濃度1.5×1018cm-3)が設けられ、さらにその上にn型Al0.4Ga0.6Asの第1クラッド層103(厚さ0.9μm、Siキャリア濃度8×1017cm-3)、Al0.1Ga0.9As(厚さ0.2μm)の活性層104、引っ張り歪を有するIn0.1Ga0.9As0.470.53半導体層105(厚さ5nm、歪量−1.17%)、p型Al0.4Ga0.6Asの第2クラッド層106(厚さ0.6μm、Znキャリア濃度2×1018cm-3)が設けられている。
【0039】
この第2クラッド層106は、成長するとき、活性層104側に接する第2クラッド層106のドーピングするタイミングを少し遅らせて行われている。つまり、最初の0.1μmだけ積層する間は、Znを反応炉に流さず、成長層にZnがドープされないように、成長させている。0.1μmを過ぎると通常の成長を行い、DEZnを供給し、ドーピングを行っている。
【0040】
第2クラッド層106の上に、p型GaAsコンタクト層107(厚さ0.3μm、Znキャリア濃度5×1018cm-3)が積層されている。
【0041】
第2クラッド層106とp型GaAsコンタクト層107はエッチングされ、第2クラッド層106とp型GaAsコンタクト層107を含むメサ部109の側面が形成されている。メサ部109の側面に接するように、n型GaAsからなる電流阻止層110(厚さ0.3μm、キャリア濃度1.5×1018cm-3)が埋め込まれている。この積層体の上に厚さ100nm程度のチタン(Ti)、厚さ50nm程度の白金(Pt)および厚さ400nm程度の金(Au)が順次、蒸着されてなるTi/Pt/Auからなるp型電極111が形成されている。一方、GaAs基板の裏面側には、厚さ100nm程度の金−ゲルマニウム合金(Au−Ge)、厚さ15nm程度のニッケル(Ni)および厚さ300nm程度の金(Au)を順次蒸着してなる、Au-Ge/Ni/Auからなるn型電極112が形成されている。
【0042】
上記において歪を有する半導体層105にはIn0.1Ga0.9As0.470.53が用いられた。この半導体層105のバンドギャップは、活性層からの発光を吸収しないように、活性層のバンドギャップよりも大きいことが望ましい。ここでは歪を有する半導体層105のバンドギャップを約1.92eVとしたが、これは第2クラッド層106のバンドギャップ1.92eVと同じであり、活性層のバンドギャップよりも大きい。本発明はこのバンドギャップ1.92eVに限定されるものではない。InGaAsP混晶は、直接遷移を満たすバンドギャップを考慮すると、下限は約0.36eVから上限は約2eVまでの選択の幅がある。このようにInGaAsP材料を使用するとバンドギャップの選択の幅が広く、隣接する半導体層とのバンドギャップを調整しやすい利点がある。また、ここでの歪量は−1.17%であるが、Gaの組成をxで、Pの組成をyで表現して(x>0.9、y>0.53)とすると、歪量は符号も含めて−2%(厚さ5nmにおける歪量)まで絶対値を大きくすることが可能であり、さらに拡散抑制の効果を高めることができる。
【0043】
図2は、歪を有する半導体層を設けることによって、ドーパント拡散が防止されるという作用効果を説明するための概念図である。一般的に歪を有する半導体層の結晶は、その格子間結合に歪がかかることにより、無歪の場合に比べて結晶の内部エネルギーが高い状態になる。そのため、図2(B)に示すように、歪のかかった格子間を拡散により移動しようとする格子間の不純物原子は、高い内部エネルギー(越すべき山が高いこと)を感じるため、図2(A)に示す無歪の場合(越すべき山が低い場合)に比べて、より大きなエネルギーを持たなければ、この格子間を通過できなくなる。こうして、p型クラッド層106から活性層104へのドーパントの拡散が抑制されるのである。これは、歪が引っ張り歪である場合のみならず。後述する圧縮歪の場合でも同様である。
【0044】
p型電極111とn型電極112間に電流を通じると、図3を参照して、矢印に示すように光を出力する。
【実施例2】
【0045】
次に、本発明のリッジ埋め込み型半導体レーザの製造方法を説明する。なお、結晶成長はMOCVD法を用いて行い、その成長条件は、成長温度が750℃、成長圧力は76Torr、V/III(V族元素とIII族元素との供給量の比)=120とした。また、III族原料としてTMG(トリメチルガリウム)、TMA(トリメチルアルミニウム)、V族原料としてAsH3(アルシン)、n型、p型ドーパント原料としてSiH4(シラン)、DEZn(ジエチルジンク)を用いた。キャリアガスは水素(H2)を用いた。
【0046】
まず、図4(A)に示すようにn型GaAs基板101(Siキャリア濃度2×1018cm-3)上に、n型Al0.5Ga0.5Asのバッファ層102(厚さ0.5μm、Siキャリア濃度1.5×1018cm-3)を成長し、さらにその上にn型Al0.4Ga0.6Asの第1クラッド層103(厚さ0.9μm、Siキャリア濃度8×1017cm-3)、Al0.1Ga0.9As(厚さ0.2μm)の活性層104、引っ張り歪を有するIn0.1Ga0.9As0.470.53半導体層105(厚さ5nm、歪量−1.17%)、p型Al0.4Ga0.6Asの第2クラッド層106(厚さ0.6μm、Znキャリア濃度2×1018cm-3)を積層するが、このとき第2クラッド層106を成長するとき、活性層104側に接する第2クラッド層106のドーピングするタイミングを少し遅らせて行う。つまり、最初の0.1μmだけ積層する間は、Znを反応炉に流さず、成長層にZnがドープされないように成長する。0.1μmを過ぎると通常の成長を行い、DEZnを供給し、ドーピングを行う。そしてp型GaAsコンタクト層107(厚さ0.3μm、Znキャリア濃度5×1018cm-3)を順番に積層した後、この積層体上の必要な部分に、SiO2マスク108(厚さ0.3μm)を形成する。
【0047】
次に、図4(B)に示すように、硫酸と過酸化水素水の混合水溶液であるエッチング液を用いて、第2クラッド層106の厚さhの部分を0.3μmだけ残すようにエッチングを行い、第2クラッド層106とp型GaAsコンタクト層107を含むメサ部109の側面を形成する。
【0048】
さらに、図4(C)に示すように、有機金属化学気相成長法を用いて再成長を行い、メサ部109の側面に接するようにSiO2マスク108を用いて選択成長させたn型GaAsからなる電流阻止層110(厚さ0.3μm、キャリア濃度1.5×1018cm-3)を埋め込む。
【0049】
最後に、図4(D)に示すように、SiO2マスク108を除去し、この積層体の上に厚さ100nm程度のチタン(Ti)、厚さ50nm程度の白金(Pt)および厚さ400nm程度の金(Au)を順次、蒸着により被着し、これを、フォトリソグラフィーおよびエッチングによりパターニングして、Ti/Pt/Auからなるp型電極111を形成する。一方、GaAs基板の裏面側には、厚さ100nm程度の金−ゲルマニウム合金(Au−Ge)、厚さ15nm程度のニッケル(Ni)および厚さ300nm程度の金(Au)を順次蒸着し、Au−Ge/Ni/Auからなるn型電極112を形成する。それから、この積層体をへき開することにより、チップに分割して、リッジ埋め込み型半導体レーザを作製できる。
【0050】
本発明では、ノンドープ活性層104、歪を有するIn0.1Ga0.9As0.470.53半導体層105(厚さ5nm、歪量−1.17%)、p型Al0.4Ga0.6Asの第2クラッド層106(厚さ0.6μm、Znキャリア濃度2×1018cm-3)と順次積層するところで、半導体層105側に接する第2クラッド層106に対してドーピングするタイミングを少し遅らせて行った。つまり、最初の0.1μmだけ積層する間は、DEZnを供給せず成長を行い、半導体層105側に接する第2クラッド層106に、Znがドープされないようにした。このことにより、成長中では半導体層105側に接する第2クラッド層106の中に、0.1μmだけZnをドーピングしていない層を形成しておき、成長中の熱履歴により、ドーピングされた第2クラッド層106から生じるZnの拡散によって、第2クラッド層106のノンドープ領域までドーピングさせた。しかし、第2クラッド層106とノンドープ活性層104の間に形成された半導体層105の存在によって、Znの拡散は妨げられた。
【0051】
このように、予め、ノンドープの領域に歪を有する半導体層を形成しておけば、成長中の熱履歴によりドーパントが拡散した場合、歪を有する半導体層でドーパントを防ぎ、所望の領域をドーピングすることができる。ここで、ドープ層とノンドープ層の界面に、歪を有する半導体層が形成されている場合を考えてみると、歪を有する半導体層によって、ドープ層からノンドープ層へ拡散するドーパントを防ぐ効果があるが、上述のように、予めノンドープの領域に歪を有する半導体層を形成した場合、さらに拡散するドーパントを防ぐ効果があることが分かる。
【0052】
このように上述の半導体レーザの構成および製造方法では、歪を有する半導体層105がp型クラッド層106から活性層104へのドーパントの拡散を防ぎ、ドーパントによる活性層の劣化を抑制できる利点があり、本来の素子特性を実現できる。
【0053】
なお、本実施例では、歪を有するIn0.1Ga0.9As0.470.53半導体層105を活性層とクラッド層の間に設けた場合を例示したが、この発明はこれに限られるものでなく、例えば活性層とクラッド層の間にさらにノンドープ光ガイド層を設け、その光ガイド層とクラッド層の間に、歪を有する半導体層を設けてもよい。これにより、ドーパントがガイド層内に拡散した場合、ドーパントによって形成される欠陥が、ガイド層に分布した光の再結合中心となることで、素子の特性を劣化させることを防ぐ効果がある。
【実施例3】
【0054】
図5は、実施例3にかかるIII−V族化合物半導体素子である、リッジ埋め込み型半導体レーザの断面図である。
【0055】
図5を参照して、n型GaAs基板201(Siキャリア濃度2×1018cm-3)上に、n型Al0.5Ga0.5Asのバッファ層202(厚さ0.5μm、Siキャリア濃度1.5×1018cm-3)が設けられ、さらにその上にn型Al0.4Ga0.6Asの第1クラッド層203(厚さ0.9μm、Siキャリア濃度8×1017cm-3)、Al0.1Ga0.9As(厚さ0.2μm)の活性層204、p型Al0.4Ga0.6Asの第2クラッド層205(厚さ0.6μm、Znキャリア濃度2×1018cm-3)と圧縮歪を有するIn0.08Ga0.92As半導体層206(厚さ5nm、歪量+0.5%)とp型GaAsコンタクト層207(厚さ0.3μm、Znキャリア濃度5×1018cm-3)が順番に積層されている。
エッチングにより、第2クラッド層205と歪を有する半導体層206とp型GaAsコンタクト層207を含むメサ部209が形成されている。
【0056】
メサ部209の側面に接するように、n型GaAsからなる電流阻止層210(厚さ0.3μm、キャリア濃度1.5×1018cm-3)が埋め込まれている。この積層体の上に、厚さ100nm程度のチタン(Ti)、厚さ50nm程度の白金(Pt)および厚さ400nm程度の金(Au)が順次、蒸着により被着された、Ti/Pt/Auからなるp型電極211が形成されている。一方、この積層体の下、つまりGaAs基板201の裏面側には、厚さ100nm程度の金−ゲルマニウム合金(Au−Ge)、厚さ15nm程度のニッケル(Ni)および厚さ300nm程度の金(Au)を順次蒸着されてなる、Au−Ge/Ni/Auからなるn型電極212が設けられている。
【0057】
歪を有する半導体層206が、p型コンタクト層207からクラッド層205へ拡散してくるZnを通過させず、p型コンタクト層207のキャリア濃度を低下させない。そのため、設計通りのドーピングプロファイルを形成でき、p型コンタクト層207の低抵抗化を維持することができ、素子の本来の閾値電流を実現できる。
【実施例4】
【0058】
図6を参照して、図5に示すリッジ埋め込み型半導体レーザの製造方法を説明する。なお、結晶成長はMOCVD法を用いて行い、その成長条件は、成長温度が750℃、成長圧力は76Torr、V/III(V族元素とIII族元素との供給量の比)=120とした。また、III族原料としてTMG(トリメチルガリウム)、TMA(トリメチルアルミニウム)、V族原料としてAsH3(アルシン)、n型、p型ドーパント原料としてSiH4(シラン)、DEZn(ジエチルジンク)を用いた。キャリアガスは水素(H2)を用いた。
【0059】
まず、図6(A)に示すように、n型GaAs基板201(Siキャリア濃度2×1018cm-3)上に、n型Al0.5Ga0.5Asのバッファ層202(厚さ0.5μm、Siキャリア濃度1.5×1018cm-3)を成長し、さらにその上にn型Al0.4Ga0.6Asの第1クラッド層203(厚さ0.9μm、Siキャリア濃度8×1017cm-3)、Al0.1Ga0.9As(厚さ0.2μm)の活性層204、p型Al0.4Ga0.6Asの第2クラッド層205(厚さ0.6μm、Znキャリア濃度2×1018cm-3)と圧縮歪を有するIn0.08Ga0.92As半導体層206(厚さ5nm、歪量+0.5%)とp型GaAsコンタクト層207(厚さ0.3μm、Znキャリア濃度5×1018cm-3)を順番に積層した後、この積層体上の必要な部分にSiO2マスク208を形成する。
【0060】
次に、図6(A)と(B)に示すように、硫酸と過酸化水素水の混合水溶液であるエッチング液を用いて、第2クラッド層205の厚さhの部分を0.3μmだけ残すようにエッチングを行い、第2クラッド層205と、歪を有する半導体層206と、p型GaAsコンタクト層207を含むメサ部209の側面を形成する。
【0061】
さらに、図6(C)に示すように,有機金属化学気相成長法を用いて再成長を行い、メサ部209の側面に接するように、SiO2マスク208(厚さ0.3μm)を用いて選択成長させた、n型GaAsからなる電流阻止層210(厚さ0.3μm、キャリア濃度1.5×1018cm-3)を埋め込む。
【0062】
最後に、図6(C)と(D)に示すように、SiO2マスク208を除去し、この積層体の上に、厚さ100nm程度のチタン(Ti)、厚さ50nm程度の白金(Pt)および厚さ400nm程度の金(Au)を順次、蒸着により被着し、これを、フォトリソグラフィーおよびエッチングによりパターニングして、Ti/Pt/Auからなるp型電極211を形成する。一方、この積層体の下、つまりGaAs基板201の裏面側には、厚さ100nm程度の金−ゲルマニウム合金(Au−Ge)、厚さ15nm程度のニッケル(Ni)および厚さ300nm程度の金(Au)を順次蒸着し、Au−Ge/Ni/Auからなるn型電極212を形成する。それから、この積層体をへき開することにより、チップに分割してリッジ埋め込み型半導体レーザを作製できる。
【0063】
ところで、歪を有する半導体層206はInGaAsから成り、この材料では、Inを少し加えることでGaAsコンタクト層と同じくらいのバンドギャップを保ちつつ、歪を発生させ、コンタクト層からの不純物の拡散を防ぐことができる。さらに拡散を防ぐ効果を高める場合は、層厚が5nmなので歪量を約2%まで高くできる。このときの組成はIn0.3Ga0.7Asとなる。なお、5nmを超えて結晶成長を行うと、ミスフィット転位が発生し、素子としては使用できない結晶になってしまう。
【0064】
また、ここでは歪を有する半導体層206に、InGaAs材料を用いた場合を例示したが、In0.1Ga0.9As0.470.53材料でもよい。
【0065】
さらに、歪を有する半導体層206にInAsを用いてもよい。InAsの単原子層を用いた場合、InAsは高い歪量(約7%)を有するので、単原子層でもドーパントの拡散を効果的に防止することができる。
【0066】
また、このInAs単原子層を複数枚無歪層と組み合わせた構造にしても良い。この場合、臨界膜厚を超えてドーパントの拡散防止層を形成できるため、より拡散防止の効果は高まる。つまり、二元化合物であるInAsを単分子層形成しているので、結晶内に高い局所歪を有するInからなる原子層が形成されているため、ドーパント原子がInAs層を通過する際には、必ずこのIn原子による高い局所歪の影響を受ける。そのため、例えばInGaAsなどの混晶により歪層が形成され、局所歪が結晶中に離散的に形成される場合よりも、より薄い膜厚で、より効果的にドーパントの拡散を抑制することが可能となる。ここではInAsの例を示したが、InSbやGaSbやAlSbなどを用いても同様の効果を得ることができる。
【0067】
このように上述の半導体レーザの構成および製造方法では、歪を有する半導体層206が、p型コンタクト層207からクラッド層205へ拡散してくるZnを通過させず、p型コンタクト層207のキャリア濃度を低下させない。そのため、設計通りのドーピングプロファイルを形成でき、p型コンタクト層207の低抵抗化を維持することができ、素子の本来の閾値電流を実現できる。
【0068】
なお、上記実施例では、化合物半導体素子としてリッジ埋め込み型半導体レーザ素子を例示したが、この発明はこれに限られるものでなく、他の半導体レーザ、発光ダイオード等の光デバイスおよび高電子移動度トランジスタやヘテロ接合バイポーラトランジスタ等の電子デバイスに応用することが可能である。
【0069】
また、上記実施例では、III−V族化合物半導体素子について例示したが、ドーパントの拡散の問題は、他の化合物半導体素子にも見られる。本発明は、基板としてGaAsを使用する場合に限られず、III−V族以外の他の基板、たとえばInP基板やGaN基板などを用いた化合物半導体素子に適用しても相当の効果を奏する。
【0070】
今回開示された実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明にかかる化合物半導体素子によれば、素子寿命の長い、また電極と低抵抗で接続する化合物半導体素子が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】実施例1にかかるリッジ埋め込み型半導体レーザの素子の断面図である。
【図2】歪を有する半導体層を設けることによって、ドーパント拡散が防止される作用効果を説明するための概念図である。 (A) 歪を有する半導体層が形成されていない場合 (B) 歪を有する半導体層が形成されている場合
【図3】実施例1にかかるリッジ埋め込み型半導体レーザの光出力の様子を示す概念図である。
【図4】実施例2にかかるリッジ埋め込み型半導体レーザの主な製造工程の順序の各工程における断面図である。 (A)各半導体層を積層し、レジストマスクをつけた状態を表す模式断面図である。 (B)リッジストライプを形成した状態を表す模式断面図である。 (C)電流阻止層を形成した状態を表す模式断面図である。 (D)キャップ層を積層した状態を表す模式断面図である。
【図5】実施例3にかかるリッジ埋め込み型半導体レーザ素子の断面図である。
【図6】実施例4に係るリッジ埋め込み型半導体レーザの主な製造工程の順序の各工程における断面図である。 (A)各半導体層を積層し、レジストマスクをつけた状態を表す模式断面図である。 (B)リッジストライプを形成した状態を表す模式断面図である。 (C)電流阻止層を形成した状態を表す模式断面図である。 (D)キャップ層を積層した状態を表す模式断面図である。
【図7】従来のリッジ埋め込み型半導体レーザの素子の主な製造工程の順序の各工程における断面図である。 (A)各半導体層を積層し、レジストマスクをつけた状態を表す模式断面図である。 (B)リッジストライプを形成した状態を表す模式断面図である。 (C)電流阻止層を形成した状態を表す模式断面図である。 (D)キャップ層を積層した状態を表す模式断面図である。
【符号の説明】
【0073】
102 n型Al0.5Ga0.5Asのバッファ層
103 n型Al0.4Ga0.6Asの第1クラッド層
104 Al0.1Ga0.9Asの活性層
105 In0.1Ga0.9As0.470.53半導体層(歪層)
106 p型Al0.4Ga0.6Asの第2クラッド層
107 p型GaAsコンタクト層
108 SiO2マスク
109 メサ部
110 n型GaAs電流阻止層
111 p型電極
112 n型電極
201 n型GaAs基板
202 n型Al0.5Ga0.5Asのバッファ層
203 n型Al0.4Ga0.6Asの第1クラッド層
204 Al0.1Ga0.9Asの活性層
205 p型Al0.4Ga0.6Asの第2クラッド層
206 In0.08Ga0.92As半導体層(歪層)
207 p型GaAsコンタクト層
208 SiO2マスク
209 メサ部
210 n型GaAs電流阻止層
211 p型電極
212 n型電極
301 n型GaAs基板
302 バッファ層
303 第1クラッド層
304 活性層
305 第2クラッド層
306 p型GaAsコンタクト層
307 SiO2マスク
308 メサ部
309 n型GaAs電流阻止層
310 p型電極
311 n型電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に上下に隣接して設けられた、不純物がドープされた第1の半導体層と、不純物がドープされていない、若しくは前記第1の半導体層よりも低濃度にドープされた第2の半導体層とを備え、
前記第1の半導体層と前記第2の半導体層との間に、歪を有する第3の半導体層が設けられている化合物半導体素子。
【請求項2】
前記第3の半導体層の歪量の絶対値が、0.5%以上、10%以下であることを特徴とする請求項1に記載の化合物半導体素子。
【請求項3】
前記第3の半導体層の膜厚が単分子層厚以上であり、10nm以下であることを特徴とする請求項1に記載する化合物半導体素子。
【請求項4】
前記基板がGaAsであって、前記第3の半導体層がIn1-xGaxAs1-yy「0≦x、y≦1」であることを特徴とする請求項1に記載する化合物半導体素子。
【請求項5】
前記基板がGaAsであって、
前記歪を有する第3の半導体層が、Gaよりも原子半径の大きなIII族元素、もしくはAsよりも原子半径の大きなV族元素を含む二元化合物からなり、その層厚が単分子層以上であることを特徴とする請求項1に記載する化合物半導体素子。
【請求項6】
前記二元化合物がInAsであることを特徴とする請求項1に記載する化合物半導体素子。
【請求項7】
前記第1の半導体層の、前記第3の半導体層と接触する側の一部の厚み部分では、不純物がドープされていない請求項1から5のいずれか1項に記載の化合物半導体素子。
【請求項8】
基板上に、不純物がドープされた第1の半導体層と、不純物がドープされていない、もしくは前記第1の半導体層よりも低濃度にドープされた第2の半導体層とを上下に隣接して形成するIII−V族化合物半導体素子の製造方法において、
前記第1の半導体層と前記第2の半導体層との間に、歪を有する第3の半導体層を形成する工程を含むことを特徴とする化合物半導体素子の製造方法。
【請求項9】
前記第1の半導体層を形成する工程において、前記第3の半導体層と接触する側では、不純物をドープしないで、該第1の半導体層の一部の厚み部分を形成することを特徴とする請求項6に記載の化合物半導体素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−108856(P2008−108856A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−289364(P2006−289364)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】