説明

医療用デバイスおよび医療用デバイスの表面改質方法

【課題】生体組織との優れた結合性を有する医療用デバイス表面改質用部材である金属性多孔質薄板が多層化された金属製多孔体を、高い接合強度でもって医療用デバイス本体の表面に接合することができることにより、生体組織との結合性に優れた医療用デバイスを提供する。また、前記金属製多孔体を、様々な表面形状を有する医療用デバイス本体の表面に容易に接合することができる医療用デバイスの表面改質方法を提供する。
【解決手段】本発明は、金属製多孔体32が医療用デバイス本体31表面の少なくとも一部に接合された医療用デバイスであって、前記金属製多孔体32は多層化されたものであることを特徴とする医療用デバイスである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用デバイスおよび医療用デバイスの表面改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内に埋入されて用いられる人工歯根、人工股関節等の医療用デバイスには、生体内において、その周辺の生体組織との優れた親和性と高い結合性が求められる。
医療用デバイスの表面性状は、これらの特性に与える影響が大きいため、従来から、医療用デバイス表面に望ましい形状・特性を付与するための各種表面改質処理方法が提案されてきた。
【0003】
例えば特許文献1には、無数の微細な空隙があり、かつこの空隙を表面に連通させる多孔質状態に金属粉末を焼結し、医療用デバイスそのものを多孔質金属体により構成し、該医療用デバイス表面を多孔質金属粉末からなる性状とする医療用デバイスが提案されている。また、特許文献2には、医療用デバイス本体表面に、金属製の球状粒子どうしが焼結により結合してなる多孔層を付着する表面改質処理方法が提案されている。
また、予め形成した生体組織との高い結合性を有する医療用デバイス表面改質用部材を医療用デバイス本体表面に接合し、医療用デバイス本来の特性を損なわず、かつ周辺の生体組織との高い結合性を両立する表面改質処理方法も各種検討されている。このような医療用デバイス表面改質用部材としては、特許文献3〜8に示されるようなものがある。
【特許文献1】特開2002−320667号公報
【特許文献2】特開2004−141234号公報
【特許文献3】特開平6−7388号公報
【特許文献4】特開平7−184987号公報
【特許文献5】特開平10−155823号公報
【特許文献6】特開2003−94109号公報
【特許文献7】特表2002−541984号公報
【特許文献8】特許第3445301号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者らの検討によると、医療用デバイス表面を直接改質する方法では、医療用デバイスと周辺の生体組織との間で充分に高い結合性を得ることは困難である。また、従来提案されてきた医療用デバイス表面改質用部材を医療用デバイス本体に接合する方法を用いた場合でも、医療用デバイスと周辺の生体組織との結合性と、医療用デバイス本体と該表面改質用部材との間での接合強度を同時に満足できるには至っていない。
生体組織との高い結合性を得るためには、医療用デバイスの埋入部周辺の生体組織を形成する細胞が、該表面改質用部材へ侵入しやすいように、該表面改質用部材を充分な空隙体積を有する(高空隙率の)多孔体とする必要がある。
一方、医療用デバイス本体との高い接合強度を得るためには、該表面改質用部材と医療用デバイス本体との接合面で充分な接合面積を確保することが重要である。
【0005】
したがって、特許文献1〜2に記載された金属粉末等の材料を焼結する方法では、焼結により形成される金属製の多孔体の孔径および空隙率の制御が困難であり、その結果、多孔体への細胞の侵入性が低く、医療用デバイスと生体組織との結合性が不充分である。
また、特許文献3〜8に記載された方法では、生体組織との結合性を向上するために金属製多孔体の空隙率を高くすると、金属製多孔体と医療用デバイス本体との接合強度が低下してしまうため、両方の要求を充分に満足することができない。
【0006】
また、医療用デバイス本体は、製品規格や個人差等に合わせて様々な形状のものが存在する。そのため、これら様々な表面形状の医療用デバイス本体に対応するため、医療用デバイス表面改質用部材自体が変形性に富んでいること、また、該表面改質用部材を医療用デバイス本体に必要十分な強度で接合する方法が必要である。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、生体組織との優れた結合性を有する医療用デバイス表面改質用部材である金属性多孔質薄板が多層化された金属製多孔体を、高い接合強度でもって医療用デバイス本体の表面に接合することができることにより、生体組織との結合性に優れた医療用デバイスを提供することを目的とする。また、前記金属製多孔体を、様々な表面形状を有する医療用デバイス本体の表面に容易に接合することができる医療用デバイスの表面改質方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、特定の金属製多孔体を医療用デバイス本体表面に接合することにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の第一の態様は、金属製多孔体が医療用デバイス本体表面の少なくとも一部に接合された医療用デバイスであって、前記金属製多孔体は多層化されたものであることを特徴とする医療用デバイスである。
また、本発明においては、前記金属製多孔体は、金属粉を含有するスラリーをシート状に成形し、乾燥させた成形体を脱脂、焼結することにより製造される金属製多孔質薄板が多層化されたものであることが好ましい。さらに、前記金属製多孔質薄板は、金属粉と発泡剤を含有するスラリーをシート状に成形し、発泡プロセスを経た後、乾燥させた成形体を脱脂、焼結することにより製造される金属製多孔質薄板を含むことが好ましい。
また、本発明においては、前記金属製多孔質薄板の空隙率は40〜97%であることが好ましい。さらに、医療用デバイス本体と接合する金属製多孔質薄板の空隙率が、生体組織と接触する金属製多孔質薄板の空隙率より低いことが好ましい。
また、本発明においては、前記金属粉の金属は、純チタン、チタン合金、ステンレス鋼、コバルトクロム合金、タンタル、ニオブおよびこれらの合金から選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。さらに、前記金属粉の金属は、医療用デバイス本体と同種の金属であることが好ましい。
また、本発明においては、前記金属製多孔質薄板の金属粉の焼結体からなる骨格表面は、生体親和性を有する無機化合物により被覆されていてもよい。
【0009】
本発明の第二の態様は、金属粉を含有するスラリーをシート状に成形し、乾燥させた成形体を脱脂、焼結することにより金属製多孔質薄板を製造しておき、該金属製多孔質薄板を多層化することにより金属製多孔体を製造し、該金属製多孔体を、医療用デバイス本体の少なくとも一部の表面形状に沿わせるように変形させて接合することを特徴とする医療用デバイスの表面改質方法である。さらに、前記金属製多孔質薄板は、金属粉と発泡剤を含有するスラリーをシート状に成形し、発泡プロセスを経た後、乾燥させた成形体を脱脂、焼結することにより製造される金属製多孔質薄板を含むことが好ましい。
また、本発明においては、前記スラリーをドクターブレード法によりシート状に成形することが好ましい。
また、本発明においては、前記接合は拡散接合であることが好ましい。
【0010】
なお、本特許請求の範囲および明細書において、「医療用デバイス」とは、医療用デバイス本体と、医療用デバイス表面改質用部材である金属製多孔質薄板が多層化された金属製多孔体から構成され、医療用デバイス本体表面の少なくとも一部に金属製多孔体が接合されたものをいい、例えば人工歯根や人工股関節等の人体の骨または関節などの硬組織と接合する部位を有する骨補綴部材等、広く体内に埋入されて用いられる人工補綴部材を包含する。
「医療用デバイスの表面改質」とは、医療用デバイス本体表面の特性が、金属製多孔体が接合されることにより変化することをいう。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、生体組織との優れた結合性を有する医療用デバイス表面改質用部材である金属性多孔質薄板が多層化された金属製多孔体を、高い接合強度でもって医療用デバイス本体の表面に接合することができることにより、生体組織との結合性に優れた医療用デバイスを提供することができる。また、前記金属製多孔体を、様々な表面形状を有する医療用デバイス本体の表面に容易に接合することができる医療用デバイスの表面改質方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
≪医療用デバイス≫
本発明の医療用デバイスは、金属製多孔体が医療用デバイス本体表面の少なくとも一部に接合された医療用デバイスであって、前記金属製多孔体は多層化されたものである。
好ましくは、前記金属製多孔体は、金属粉を含有するスラリーをシート状に成形し、乾燥させた成形体を脱脂、焼結することにより製造される金属製多孔質薄板が多層化されたものである。さらに好ましくは、前記金属製多孔質薄板は、金属粉と発泡剤を含有するスラリーをシート状に成形し、発泡プロセスを経た後、乾燥させた成形体を脱脂、焼結することにより製造される金属製多孔質薄板を含むものである。
【0013】
(金属製多孔体)
本発明における金属製多孔体は多層化されたものである。
層をなすものとしては、本発明の効果が得られるものであれば特に制限されるものではなく、中でもシート状に成形されたものが好ましく、金属製多孔質薄板がより好ましい。
該金属製多孔質薄板としては、医療用デバイス本体との接合性が向上することから、金属粉を含有するスラリーをシート状に成形し、乾燥させた成形体を脱脂、焼結することにより製造されるものが好ましく、さらに、生体組織との結合性が向上することから、金属粉と発泡剤を含有するスラリーをシート状に成形し、発泡プロセスを経た後、乾燥させた成形体を脱脂、焼結することにより製造される金属製多孔質薄板を含むものがより好ましい。
以下、本発明において好適に用いられる金属製多孔質薄板について説明する。
【0014】
本発明における金属製多孔質薄板は、金属粉を含有するスラリーを成形、加工することにより製造される。
スラリー(以下、スラリーSということがある。)は、少なくとも金属粉を含有し、好ましくは発泡剤、水溶性樹脂バインダーおよび水を含有し、必要に応じて可塑剤や有機溶媒などのその他の成分を含有する。
【0015】
製造される金属製多孔質薄板は3次元網目状セル構造を有し、金属粉はその骨格を構成する。
金属粉としては、生体為害性のない金属やその酸化物等の粉末が好ましく用いられる。
金属粉の金属としては、中でも純チタン、チタン合金、ステンレス鋼、コバルトクロム合金、タンタル、ニオブおよびこれらの合金から選択される少なくとも一種が好ましく、純チタン、ステンレス鋼がより好ましい。これら金属は、後述するガルバニック腐食の点から、1種を単独で用いることが特に好ましい。
金属粉はスラリーSの主原料であり、その含有量は、スラリーS中、30〜80質量%であることが好ましい。より好ましくは、後述する金属製多孔質薄板を製造する工程において、発泡プロセスが無い場合は50〜80質量%であり、発泡プロセスが有る場合は40〜70質量%である。該範囲であれば、金属製多孔質薄板の最終形状(開孔径、空隙率、厚み等)の制御が容易であり、また金属の種類やスラリーS中の他の成分(発泡剤など)とのバランスをとることができる。
金属粉の平均粒径は、0.5〜50μmが好ましい。該範囲であることにより、金属製多孔質薄板において所望とする空隙率や平均孔径が得られやすくなる。なお、金属粉の平均粒径は、レーザー回折法等により測定することができる。
【0016】
また、金属粉の金属は、医療用デバイス本体と同種の金属であることが好ましい。これにより、金属製多孔質薄板と医療用デバイス本体との接合強度がより高くなる。さらに、生体内で異なる金属同士が接した場合に問題となるガルバニック腐食(金属イオン溶出)が抑制され、耐食性が向上する。メッキ法等により製造された従来の金属製多孔質体の場合、ガルバニック腐食や、生体内における異物反応(炎症反応、免疫反応等)により、常に金属製多孔質体表面層の破壊の恐れがあるものと考えられる。本発明においては、容易に、金属製多孔質薄板と医療用デバイス本体の材料を同種の金属とすることが可能であり、前記のような恐れがなくなる。具体例としては、SUS316L製の医療用デバイス本体に対してはSUS316L製多孔質薄板、純チタン製の医療用デバイス本体に対しては純チタン製多孔質薄板、Ti−6Al−4V製の医療用デバイス本体に対してはTi−6Al−4V製多孔質薄板が挙げられる。
【0017】
前記スラリーSは、発泡剤を含有することが好ましい。発泡剤を含有することにより、空隙率の高い金属製多孔質薄板が得られやすくなる。
発泡剤としては、例えば界面活性剤、揮発性有機溶剤等が挙げられる。中でも、炭素数5〜8の非水溶性炭化水素系有機溶剤が好ましく、ネオペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンがより好ましい。これら発泡剤は、1種を単独で用いてもよく、または2種以上を併用してもよい。
【0018】
また、前記スラリーSは、水溶性樹脂バインダーを含有することが好ましい。水溶性樹脂バインダーを含有することにより、金属製多孔質薄板の骨格がより良好に形成される。
水溶性樹脂バインダーとしては、例えばメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール等が好ましく用いられる。これら水溶性樹脂バインダーは、1種を単独で用いてもよく、または2種以上を併用してもよい。
また、前記スラリーSは、水を含有することも好ましい。
その他の成分としては、必要に応じて、例えばグリセリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール等の可塑剤;メタノール、エタノール、イソプロパノール等の有機溶媒等を用いることができる。
なお、前記スラリーS(ペースト)に発泡剤を含有しない場合、空隙率や平均孔径の調整用に、粒度別に調製された市販のアクリルやポリエチレン、ポリスチレン等のプラスチック製ビーズ等を用いてもよい。
【0019】
図1に、本発明における金属製多孔質薄板の一実施形態例を示す。図1(a)は、その拡大平面図であり、図1(b)は、発泡プロセスが有る(前記スラリーS中に発泡剤を含有する)場合に製造される金属製多孔質薄板の側面を示す概念図である。
図1に示す金属製多孔質薄板は、シート状であるとともに、図1(a)に示すように、その内部に無数の気孔25aが、該金属製多孔質薄板21の表裏面および側面に開口した状態で形成されている。
すなわち、金属製多孔質薄板は、同一の気孔25aが金属製多孔質薄板21の表裏面に開口するとともに、3次元網目状の構造を有している。
また、金属製多孔質薄板21の表裏面は、図1(b)に示すように、発泡プロセスにより、3次元的に膨らんだ発泡孔が形成された面(表面)23と、後述するキャリアシート12との接面であった裏面24からなっている。
金属製多孔質薄板21の厚さは、150〜2000μmであることが好ましい。
なお、この金属製多孔質薄板21においては、用いる原料金属を上記のように適宜選択することができる。また、金属粉の平均粒径やペースト配合を調整したり、発泡プロセスを制御等することにより、金属製多孔質薄板21の平均孔径、空隙率等の制御が可能である。さらに、金属製多孔質薄板21の厚みや空隙率、表面の平坦度を、所定の目標に正確に制御する目的から、焼結後の金属製多孔質薄板21に対して圧延やプレス加工等を行うことが望ましい。
【0020】
本発明における金属製多孔質薄板の平均孔径は、20〜800μmであることが好ましく、100〜600μmであることがより好ましい。該範囲の下限値以上であることにより、生体組織の侵入、増殖に適したサイズとなり、細胞の侵入率および増殖率が向上する。一方、該範囲の上限値以下であることにより、細胞が増殖する場となる骨格同士の位置関係(間隔)がより良好なものとなり、細胞の侵入率および増殖率が向上する。
なお、金属製多孔質薄板の平均孔径は、光学顕微鏡や電子顕微鏡による直接観察や、バブルポイント法、水銀ポロシメーター法等により測定される。
【0021】
本発明における金属製多孔質薄板の比表面積は、0.01〜0.5m/gであることが好ましく、0.02〜0.2m/gであることがより好ましい。比表面積については、比表面積が大きいほど細胞の着床・増殖可能な表面積が増加する。ただし、0.5m/gより大きくなると、細胞の着床・増殖にとって有効ではなくなる。
なお、金属製多孔質薄板の比表面積は、クリプトンガスや窒素ガスなどを用いた気体吸脱着法(BET法)等により測定される。
【0022】
また、本発明における金属製多孔質薄板の空隙率は、40〜97%であることが好ましく、50〜95%であることがより好ましい。空隙率が40%より小さいと、多孔質構造の空孔部分の体積が少なくなり、生体組織からの細胞の侵入や増殖率が低下する。一方、97%より大きくなることにより、金属製多孔質薄板の骨格部分が少なくなり、金属製多孔質薄板の強度や、金属製多孔質薄板と医療用デバイス本体との接合強度が不足する。
ここで、本明細書および特許請求の範囲において「空隙率」とは、金属製多孔質薄板全体(単層)の容積に対して気孔(図1(a)に示す符号25aに相当する。)が占める割合を意味する。
なお、金属製多孔質薄板の空隙率は、目付重量(g/cm)と薄板の厚み、構成材料の理論比重から算出される。
【0023】
一般に、金属製焼結体においては、空隙率が小さいほど金属部分が増加するため強度が向上し、また、他の金属と接合する場合の接合強度も向上し、一方、空隙率が高いほど強度が低下し、他の金属と接合する場合の接合強度も低下する。
スラリー成形法を経ない一般的な金属粉末成形体の場合、空隙率が50%以上では、隣接する金属粉末同士の接合強度が弱く、70%以上になると自立した成形体として存在するのは困難である。
これに対して本発明に用いられる金属製多孔質薄板は、上記のように空隙率が高いが、高い強度を有するものである。これは、図1に示すように、金属製多孔質薄板が、金属粉同士が気孔25aの表面に連続的に焼結されることにより、中実構造の金属製の骨格が形成されるためであると考えられる。さらに、このことにより、本金属製多孔質薄板は、高い強度とともに良好な変形性も兼ね備える。これにより、本金属製多孔質薄板は、医療用デバイス本体の表面形状に沿うように変形させやすく、医療用デバイス本体との密着性が高まることにより、強固に接合することができる。また、本金属製多孔質薄板が接合された医療用デバイスが体内に埋入された後、医療用デバイスが荷重を受けて変形する際、それに合わせて金属製多孔質薄板も容易に変形することができるため、医療用デバイス本体からの金属製多孔質薄板の剥離等を防ぐ効果をもたらす。これら効果は、該金属製多孔質薄板を多層化した際にも同様に得られるものである。
【0024】
本発明における金属製多孔体は多層化されたものであり、例えば、シート状に成形された金属製焼結体、発泡プロセスが有る(前記スラリーS中に発泡剤を含有する)場合に製造される金属製多孔質薄板、発泡プロセスが無い(前記スラリーS中に発泡剤を含有しない)場合に製造される金属製多孔質薄板等を適宜、組み合わせて多層化することにより、金属製多孔体が得られる。中でも、発泡プロセスが有る(前記スラリーS中に発泡剤を含有する)場合に製造される金属製多孔質薄板を含むものが好ましく、具体的には、発泡プロセスが有る(前記スラリーS中に発泡剤を含有する)場合に製造される金属製多孔質薄板が多層化されたもの、発泡プロセスが無い場合に製造される金属製多孔質薄板と発泡プロセスが有る場合に製造される金属製多孔質薄板とが多層化されたものが好適なものとして挙げられる。さらに好ましくは、空隙率が異なる複数の金属製多孔質薄板が多層化されたものである。金属製多孔体は多層化されたものであることにより、金属製多孔体における医療用デバイス本体側と生体組織側の面の特性(空隙率など)をより容易に制御することができる。
このとき、金属製多孔体において、医療用デバイス本体と接合する金属製多孔質薄板の空隙率が、生体組織と接触する金属製多孔質薄板の空隙率より低いことが好ましい。
医療用デバイス本体との接合面は、金属製多孔体と医療用デバイス本体との接合強度を高めるため、空隙率の低い金属製多孔質薄板を用いることが好ましく、一方、生体組織との接触面は、生体組織からの細胞の侵入や生体組織構造を制御するために空隙率は高い方が好ましい。したがって、多層化の際に金属製多孔体の空隙率を上記のように制御することにより、生体組織からの細胞の侵入性、あるいは金属製多孔体周囲に形成される生体組織の構造の制御性(医療用デバイスと生体組織との結合性)に優れ、かつ金属製多孔体と医療用デバイス本体とが強固に接合し、該金属製多孔体が剥離しにくい医療用デバイスの表面改質用部材を得ることができる。
【0025】
図2に、金属製多孔質薄板が多層化された金属製多孔体の一実施形態例を示す。
図2では、医療用デバイス本体31表面に、空隙率が異なる金属製多孔質薄板21a、21b、21cの三層からなる金属製多孔体32が接合されている。
また、図2において、金属製多孔質薄板21a、21b、21cは、医療用デバイス本体31側から生体組織側へと厚さ方向、すなわち、金属製多孔質薄板21c、金属製多孔質薄板21b、金属製多孔質薄板21aの順に空隙率が大きくなっている。
【0026】
前記金属製多孔体においては、医療用デバイス本体と接合する金属製多孔質薄板の平均孔径は20〜150μmであることが好ましく、生体組織と接触する金属製多孔質薄板の平均孔径は100〜600μmであることが好ましい。
また、医療用デバイス本体と接合する金属製多孔質薄板の空隙率は50〜85%であることが好ましく、生体組織と接触する金属製多孔質薄板の空隙率は80〜95%であることが好ましい。
なお、「生体組織との接触面」とは、金属製多孔質薄板の生体組織側の最表面をいう。
【0027】
また、前記金属製多孔質薄板の金属粉の焼結体からなる骨格表面は、生体親和性を有する無機化合物により被覆されていてもよい。
これにより、金属製多孔質薄板、および該金属製多孔質薄板が多層化された金属製多孔体の生体組織に対する親和性が高まり、生体組織からの細胞の侵入率および増殖率が向上する。
生体親和性を有する無機化合物としては、酸化チタン等の金属酸化物、リン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト等が挙げられる。これら生体親和性を有する無機化合物は、1種を単独で用いてもよく、または2種以上を併用してもよい。
被覆方法は、生体親和性を有する無機化合物の粉末含有スラリーの塗布、溶射等の物理的な被覆方法、もしくは水溶液からの析出方法、化学蒸着(CVD)法等の化学反応を伴う方法など、適宜選択することが可能である。
該無機化合物による被覆処理は、前記金属製多孔体を医療用デバイス本体の表面に接合する前に行ってもよく、接合後に行ってもよい。なお、該無機化合物を、金属製多孔質薄板の金属粉の焼結体からなる骨格表面に被覆する際に焼成を要することがあり(化学析出法などの場合)、このとき、該無機化合物の焼成温度が接合温度よりも低く、焼成後、加熱により、生体組織に対する親和性向上の機能が損なわれることが懸念される場合などは、該被覆処理を接合後に行うことが好ましい。
また、本発明においては、生体親和性を有する無機化合物により、金属製多孔質薄板の骨格表面を全面的に被覆してもよく、部分的に被覆してもよい。
【0028】
また、前記金属製多孔体、または該金属製多孔体を構成する金属製多孔質薄板の一部は、その孔径を制御して孔内に薬剤を包含し、必要に応じて孔表面にポリ乳酸等の生分解性ポリマーを被覆することもできる。これにより、体内に埋入後、医療用デバイス表面から薬剤が徐放することにより、疾病の治療や医療用デバイス周辺の生体組織の修復を促進することができる。さらに、薬剤に限らず、あらかじめ体外で播種・培養した細胞を前記金属製多孔体、または該金属製多孔体を構成する金属製多孔質薄板の一部に包含させることにより、体内埋入後に医療用デバイス周辺の生体組織再生や疾病治療を促すことも可能である。
なお、本発明における金属製多孔体を構成するものは、上述の金属製多孔質薄板が好ましく用いられるが、これに限定されず、従来公知の医療用デバイス表面改質用部材も用いることができる。
【0029】
(医療用デバイス本体)
医療用デバイス本体は、生体為害性のない材料、例えばステンレス鋼、コバルトクロム合金、チタン、チタン合金などの金属;セラミック等からなる広く体内に埋入されて用いられる人工補綴部材が挙げられる。
なお、本発明において「医療用デバイス本体」とは、人工補綴部材に、本発明における金属製多孔体が接合されていないものをいい、その他の医療用デバイス表面改質用部材等が設けられたものを包含する。
本発明の医療用デバイスにおいては、前記金属製多孔体が前記医療用デバイス本体表面の少なくとも一部に接合され、目的により医療用デバイス本体表面の一部に接合されてもよく、全面に接合されてもよい。
【0030】
(製造方法)
本発明の医療用デバイスは、金属製多孔体を構成する、例えばシート状の成形体を製造し、該成形体を適宜、多層化、医療用デバイス本体と接合することにより製造することができる。
以下、上述の本発明において好適に用いられる金属製多孔質薄板を用いた医療用デバイスの製造方法について、金属製多孔体を製造する工程と、金属製多孔体と医療用デバイス本体とを接合する工程に分けて、好適な具体例を示して詳述する。
【0031】
<金属製多孔体を製造する工程>
本工程では、前記スラリーSをシート状に成形し、乾燥させた成形体を脱脂、焼結することにより金属製多孔質薄板を製造しておき、該金属製多孔質薄板を多層化することにより金属製多孔体を製造する。
好ましくは、前記金属製多孔質薄板は、金属粉と発泡剤を含有するスラリーSをシート状に成形し、発泡プロセスを経た後、乾燥させた成形体を脱脂、焼結することにより製造される金属製多孔質薄板を含む。
また、好ましくは、前記スラリーSをドクターブレード法によりシート状に成形する。
以下、本工程について、図を参照しながら説明する。
【0032】
図3に、金属製多孔質薄板を製造する方法の一例を示す。この図においては、ドクターブレード法が用いられており、また、発泡プロセスを有する例が示されている。
スラリーSは、少なくとも金属粉を含有するスラリーであり、好ましくは発泡剤、水溶性樹脂バインダーおよび水を用い、必要に応じて可塑剤や有機溶媒などのその他の成分を含有する。
そして、このスラリーSを薄くシート状に成形する。この成形方法としては、所望とするシート状に成形可能であれば特に制限されるものではなく、中でもドクターブレード法を用いることが好ましい。例えば、図3に示すグリーンシート製造装置10を用いることにより、前記スラリーSを薄くシート状に成形することができる。
【0033】
グリーンシート製造装置10において、まず、スラリーSが貯蔵されたホッパー11から、キャリアシート12上にスラリーSが供給される。キャリアシート12は、ローラ13によって搬送されており、キャリアシート12上のスラリーSは、移動するキャリアシート12とドクターブレード14との間で延ばされ、所要の厚さに成形される。
キャリアシート12とドクターブレード14との間のギャップは、100〜1500μmとすることが好ましい。
【0034】
ここで、多層化された金属製多孔質薄板(金属製多孔体)を得るため、ドクターブレード法による成形を複数回行ってもよい。この方法としては、例えば図4に示すような方法を用いることができる。
図4は、二層の金属製多孔質薄板からなる金属製多孔体を形成する方法の一例を示した図である。
グリーンシート製造装置10において、まず、スラリーSが貯蔵されたホッパー11から、キャリアシート12上にスラリーSが供給され、移動するキャリアシート12とドクターブレード14との間で延ばされ、第一スラリー層S1が成形される。
次に、第一スラリー層S1の上に、配合割合等が異なるスラリーSaがホッパー11aから供給される。そして、ドクターブレード14aにより、所要の厚さの第二スラリー層S2が第一スラリー層S1上に成形される。
なお、三層以上の金属製多孔質薄板を形成する場合は、第二スラリー層S2上に第三スラリー層S3、第三スラリー層S3上に第四スラリー層S4と順に成形して行う。これにより、厚さ方向に空隙率や平均孔径が制御され、両最表面の空隙率や平均孔径が異なる金属製多孔体を製造することができる。
【0035】
次いで、成形されたスラリーSは、さらにキャリアシート12によって搬送され、加熱処理が行われる。図3においては、発泡槽15および加熱炉16を順次通過する。
発泡槽15では、湿度80%以上の高湿度雰囲気下で温度条件を制御することにより、発泡剤の働きにより形成される無数の発泡孔の孔径を、スラリーS全体に亘って均一に制御し、金属粉を含有するスラリー成分から構成される3次元網目状の骨格(金属製多孔質薄板の骨格)が形成される。
この際、スラリーSのキャリアシート12との接面(裏面)においては、平坦な発泡孔が形成される。一方、スラリーSのキャリアシート12との接面とは反対側の面(表面)においては、自由発泡により3次元的に膨らんだ発泡孔が形成される。そのため、前記裏面と表面とは、互いに非対称的な発泡構造を有する。例えば、上記の図1(b)に示すような3次元的に膨らんだ発泡孔が形成された表面23と、平坦な発泡孔が形成されたキャリアシート12との接面であった裏面24を有する金属製多孔質薄板21が一実施形態例として挙げられる。
このようにして、キャリアシート12上に形成された発泡体を、加熱炉16において、そのまま大気中や不活性ガス雰囲気中などで、100℃以下の温度により水分を乾燥させることによって成形体(以下、グリーンシートGということがある。)が形成される。
【0036】
このグリーンシートGを、キャリアシート12から剥離し、350〜600℃の温度範囲で、1〜10時間程度保持して、発泡孔構造を維持したままスラリーS中に含有される金属粉以外の成分を分解脱脂し、金属粉が凝集した骨格から形成される多孔質金属脱脂体とし、さらに非酸化性雰囲気中で、1100〜1350℃の温度範囲で、1〜10時間程度保持することにより、金属粉どうしが焼結した金属製多孔質焼結シートが得られる。得られた金属製多孔質焼結シートを任意の大きさに裁断することにより、金属製多孔質薄板が製造される。
そして、あらかじめ複数枚の金属製多孔質薄板を製造しておき、その金属製多孔質薄板どうしを接合等により多層化することによって金属製多孔体が製造される。
【0037】
なお、本発明において金属製多孔質薄板どうしの多層化は、例えば上記のように、あらかじめ製造しておいた金属製多孔質薄板どうしを積層してもよく、ドクターブレード法による成形を複数回行ってもよく、後述する工程において複数枚の金属製多孔質薄板を医療用デバイス本体の上に重ねて一回の処理で接合してもよい。例えば、特に発泡プロセスを必要としない金属製多孔質薄板と発泡プロセスを必要とする金属製多孔質薄板を多層化する場合、最初に、ドクターブレード法により、発泡プロセスを必要としない金属製多孔質薄板を成形し、その後、同じくドクターブレード法により、発泡プロセスを必要とする金属製多孔質薄板を成形して、その両者を積層する方法が、両者間での接合力の高さや製造プロセスの簡素化という観点から好ましい。
【0038】
なお、本発明において、ドクターブレード法は必須ではないが、医療用デバイスの表面改質用部材として適した形状である薄板形状が容易に成形可能であることから、ドクターブレード法を用いることが好ましい。
また、発泡プロセスも必須ではないが、空隙率や平均孔径の制御が容易であることや、高空隙率と高強度を有する金属製多孔質薄板が得られやすいことから、発泡プロセスを有することが好ましい。特に、金属製多孔体における生体組織との接触面を構成する金属製多孔質薄板については、発泡プロセスを経て成形されることが好ましい。
【0039】
<金属製多孔体と医療用デバイス本体とを接合する工程>
本工程では、前記工程により製造された金属製多孔体を、医療用デバイス本体の少なくとも一部の表面形状に沿わせるように変形させて接合する。好ましくは、前記接合は拡散接合である。これにより、医療用デバイス本体表面の特性が変化する。
以下、本工程について詳述する。
【0040】
前記工程により製造される金属製多孔体を、医療用デバイス本体の接合対象部である表面形状に合わせて切断する。
切断方法としては、カッター等の刃物、レーザーカット、ウォータージェット、放電ワイヤー加工、超音波切断等の一般的な薄片切断加工方法を適用することができる。
次に、所定形状に切断した金属製多孔体を、医療用デバイス本体の接合対象部の表面に密着させ、金属製多孔体をその表面形状に沿わせるように塑性変形させる。
その後、金属製多孔体を医療用デバイス本体表面に接合、一体化して医療用デバイスが製造される。
このとき、金属製多孔体32と医療用デバイス本体31表面との密着性を高めるために、図5に示すような接合対象部の表面形状に合わせた「型」41を使用することが好ましい。
【0041】
接合方法については、金属製多孔体32と医療用デバイス本体31との接合強度の点から、両者を加圧固定した型41を、真空中もしくは不活性ガス中などの非酸化性雰囲気中にて、昇温・保持する拡散接合が好ましい。このとき、金属製多孔体32と医療用デバイス本体31との接合強度を確保するため、接合面に対して0.01〜10MPaの加圧を与えることが好ましい。該範囲の下限値以上であることにより、より良好な接合強度が得られる。一方、上限値以下であることにより、金属製多孔体32の必要以上の変形を抑制することができ、所望とする厚みが得られやすくなる。
【0042】
また、接合中の変形を利用して、所望とする厚みに合わせたギャップを有する接合用の型を使用して加圧・加熱する方法を用いることもできる。この場合、接合面に対して0.1〜10MPaの加圧を与えることが好ましい。この加圧力については、金属製多孔体32の材質、空隙率及び表面処理方法(形態、処理温度、塑性変形させるか否か等)などにより、適宜、最適値を選ぶことが好ましい。
なお、型41の使用は、接合時の異物混入の防止にも効果的である。
【0043】
また、接合形状など、必要に応じて拡散接合以外の接合方法、例えばレーザー、抵抗加熱または超音波等を利用したスポットもしくはシーム溶接法、ロウ付け法等も適宜適用可能である。
【0044】
数種類の金属製多孔質薄板を医療用デバイス本体31に接合する場合、図4に示す方法等を用いることにより、金属製多孔質薄板どうしをあらかじめ所望とする性状(孔径分布)に接合して多層化した金属製多孔体32を、医療用デバイス本体31に接合することができ、これは、特に複雑形状の場合には好ましく用いられる。
なお、複数枚の金属製多孔質薄板を医療用デバイス本体31の上に重ねて、一回の処理で接合することもできる。
【0045】
金属製多孔体32と医療用デバイス本体31との接合条件は、具体的には、型41材質としてはグラファイト、アルミナ、ジルコニア、シリカ、高純度石英、ボロンナイトライド等が挙げられる。中でも、加工性に優れることからグラファイト、清浄性に優れることから高純度石英が好ましい。
なお、グラファイトを型に用いる際、接合対象の金属と反応する場合があるため、必要に応じて金属製多孔体32と接触する部分にはバリア層を設けてもよい。このバリア層としては、例えばジルコニア、アルミナ等のセラミック部材などの溶射層が好適である。
真空度は、5.0×10−2Pa以下が好ましい。また、Ar雰囲気中でも可能である。
接合時間は、所定温度に到達後1〜5時間程度保持することが好ましい。
接合方法は、拡散接合であることが好ましい。拡散接合であることにより、より高い接合強度が得られる。
接合温度は、700〜1200℃であることが好ましく、より好ましくは800〜1100℃である。700℃以上であることにより、より良好な接合強度が得られる。一方、1200℃以下であることにより、金属製多孔体32の焼結の進行が抑制されて安定に所望とする空隙率が得られ、また医療用デバイス本体31への熱影響を低く抑えることができて機械的特性が向上する。なお、接合温度は、金属製多孔質薄板および該金属製多孔質薄板が多層化された金属製多孔体32の材質、空隙率などに応じて適宜最適値を選ぶことが好ましい。
また、金属製多孔体32は、医療用デバイス本体31の少なくとも一部の表面に接合され、目的により医療用デバイス本体31の一部の表面に接合されてもよく、全面に接合されてもよい。
【0046】
また、金属製多孔体は、通常のバルク状金属材料に比べて変形抵抗が小さく、また、金属製多孔体と医療用デバイス本体との接合は、実質的に接触面の一部に存在する骨格部で行われ、接合面積が小さいため、同形状のバルク状金属材料と比較して低い応力や温度での接合が可能である。
したがって、医療用デバイス本体が曲率の高い表面形状であっても、予め金属製多孔体を医療用デバイス本体の表面形状に沿わせて変形させ、両者を接合することが可能である。
【0047】
本発明により提供される医療用デバイスとしては、例えば人工股関節、人工肘関節、人工膝関節、人工肩関節、人工歯根、人工椎体、骨補綴部材等の硬組織を補綴するもの;靭帯等軟組織あるいは軟組織と硬組織の両方を同時に補綴するもの;あらかじめ生体外で細胞を播種・培養することにより体内埋入後に組織再生を促すもの等が挙げられる。
図6に、医療用デバイスの実施形態例を示す。
図6(a)は、本発明における金属製多孔体32が大腿骨ステム52表面に接合された人工股関節51が、大腿骨53髄腔内に挿入され、骨盤54に固定された状態を示す模式図である。
図6(b)は、本発明における金属製多孔体32が芯材56表面に接合された人工歯根55が、歯槽骨57内に挿入された状態を示す模式図である。図中、58は結合組織、59は上皮である。
図6(c)は、本発明における金属製多孔体32が上腕骨ステム71および尺骨ステム72表面に接合された人工肘関節が、上腕骨および尺骨内に挿入、固定された状態を示す模式図である。
図6(d)は、本発明における金属製多孔体32が脛骨ステム73表面に接合された人工膝関節が、脛骨内に挿入、固定された状態を示す模式図である。図中、74は人工大腿骨頭(膝関節側)、75は関節摺動部、76はベースプレート、77は大腿骨である。
図6(e)は、本発明における金属製多孔体32が上腕骨ステム78表面に接合された人工肩関節が、人工上腕骨頭と接続された状態で上腕骨内に挿入、固定された状態を示す模式図である。図中、79は人工上腕骨頭、80は人工関節嵩である。
【0048】
≪医療用デバイスの表面改質方法≫
本発明の医療用デバイスの表面改質方法は、金属粉を含有するスラリーをシート状に成形し、乾燥させた成形体を脱脂、焼結することにより金属製多孔質薄板を製造しておき、該金属製多孔質薄板を多層化することにより金属製多孔体を製造し、該金属製多孔体を、医療用デバイス本体の少なくとも一部の表面形状に沿わせるように変形させて接合する方法である。好ましくは、前記金属製多孔質薄板は、金属粉と発泡剤を含有するスラリーをシート状に成形し、発泡プロセスを経た後、乾燥させた成形体を脱脂、焼結することにより製造される金属製多孔質薄板を含む。
また、本発明の医療用デバイスの表面改質方法においては、前記スラリーをドクターブレード法によりシート状に成形することが好ましい。さらに、前記接合は拡散接合であることが好ましい。
各処理方法については、上述の医療用デバイスの製造方法の場合と同様であり、説明を省略する。
【0049】
本発明によれば、生体組織との優れた結合性を有する医療用デバイス表面改質用部材である金属性多孔質薄板が多層化された金属製多孔体を、高い接合強度でもって医療用デバイス本体の表面に接合することができることにより、生体組織との結合性に優れた医療用デバイスを提供することができる。また、前記金属製多孔体を、様々な表面形状を有する医療用デバイス本体の表面に容易に接合することができる医療用デバイスの表面改質方法を提供することができる。
【0050】
また、本発明により提供される医療用デバイスは、従来の焼結法やエッチング・パンチング等により製造される類似の金属製多孔体よりも空隙率が高い金属製多孔質薄板を用いることが可能であり、生体組織との結合性に優れ、さらに細胞の侵入・増殖率が高く、硬組織だけでなく、軟組織においても結合性に優れる。
また、本発明により提供される医療用デバイスは、従来よりも医療用デバイス本体との接合強度に優れ、かつ安価に製造が可能である。
また、本発明の医療用デバイスの表面改質方法により、高い空隙率を有する医療用デバイスを提供することができる。
また、本発明の医療用デバイスの表面改質方法は、医療用デバイス表面改質用部材である金属製多孔体を、様々な表面形状を有する既存の医療用デバイス本体に容易に接合することができる。
【0051】
また、本発明により提供される医療用デバイスは、医療用デバイスが体内に埋入された後に起こる医療用デバイス表面改質用部材(金属製多孔体)の医療用デバイス本体からの剥離や、生体組織との結合性が不足するために起こる不具合などが減少し、これまでよりも長期間に渡って体内にて使用することができる。
さらに、本発明に用いられる金属製多孔体は、種々の部位の医療用デバイス本体に対して適用することができる。
以上のように、本発明により、患者のQOL(Quality of Life)向上や医療費の削減等が期待できる。
【実施例】
【0052】
以下に、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
本発明にかかる、金属製多孔質薄板が多層化された金属製多孔体を接合した接合試験片(実施例1)に対して接合強度の評価を行った。
また、本発明にかかる、金属製多孔質薄板が多層化された金属製多孔体を接合した多層接合体(実施例2〜3)に対して、生体組織の結合性の評価を行った。
【0053】
[接合強度の評価]
本発明にかかる、金属製多孔質薄板が多層化された金属製多孔体を接合した接合試験片(実施例1)に対して接合強度の評価を行った。
なお、試験例として、本発明に用いられる金属製多孔質薄板(単層)を接合した接合試験片に対して、実施例1と同様の接合強度の評価(試験例1〜2)を行った。また、試験例1〜2に対する比較試験として、同じ金属製多孔質薄板単体を用いた比較評価(試験例3〜4)を行った。
【0054】
(試験例1)
20mm×50mmの形状にそれぞれカットした3次元連通孔構造を有するSUS316L製多孔質薄板61(平均開孔径150μm、空隙率87%、厚さ0.31mm)と、SUS316L製の箔体62(厚さ0.5mm)を、図7(a)に示すように、10mmずつ重ね合わせて固定し、1.5MPaで圧着・加圧した状態で、Ar中で1050℃に加熱して拡散接合を行い、幅20mm×長さ90mmの接合試験片を5本作製した。
【0055】
上記で作製した接合試験片5本に対して、島津製作所製 オートグラフ精密万能試験機(ロードセル容量:5kN)を用いて、接合試験片の両端部の各10mmを固定し、引張速度0.5mm/min.の条件で引張試験を実施した。
なお、引張試験は、接合試験片が破断するまで行い、破断過程及び破断を起こした部位について評価した。接合試験片の破断が開始した平均引張強度は7.4MPaであった。
【0056】
(試験例2)
純Ti製多孔質薄板(平均開孔径50μm、空隙率79%、厚さ0.30mm)と、純Ti製の箔体(厚さ0.5mm)を用い、2.0MPaで圧着・加圧した状態で、真空中で950℃に加熱して拡散接合を行った以外は、試験例1と同様にして接合試験片を作製し、評価を行った。接合試験片の破断が開始した平均引張強度は12.4MPaであった。
【0057】
(実施例1)
20mm×50mmの形状にそれぞれカットした3次元連通孔構造を有するSUS316製多孔質薄板A(平均開孔径300μm、空隙率89.5%、厚さ0.42mm)と、SUS316L製箔体(厚さ0.1mm)を、図7(a)に示すように、10mmずつ重ね合わせ、1.5 MPaで圧着・加圧した状態で、真空中で1050℃に加熱して拡散接合を行い、幅20mm×長さ90mmの接合試験片Aを5本作製した。
【0058】
次に、120mm×70mmの形状にそれぞれカットした前記SUS316製多孔質薄板Aと、3次元連通孔構造を有するSUS316L製多孔質薄板B(平均開孔径50μm、空隙率65.3%、厚さ0.27mm)を完全に重なるように積層し、1.5MPaで圧着・加圧した状態で、真空中で1050℃ に加熱して拡散接合を行い、金属製多孔体Cを作製した。
この金属製多孔体C(厚さ0.66mm)から幅20mm×長さ50mmのサンプルを5本切り出し、この切り出された該金属製多孔体Cと、同じく幅20mm×長さ50mmの形状にカットしたSUS316L製箔体(厚さ0.1mm)とを、前記接合試験片Aと同様にして接合することにより接合試験片Bを5本作製した。
【0059】
さらに、図4に示すような複数成形プロセスにより、第一層として発泡剤を含まないスラリー(ペースト)を用いて作製したSUS316製多孔質薄板D−1(平均開孔径30μm、空隙率 約53%、厚み 約0.15mm)の上に、第二層として発泡剤を含有したスラリー(ペースト)を用い、発泡プロセスを経て作製したSUS316L製多孔質薄板D−2(平均開孔径300μm、空隙率 約85%、厚み 約0.3mm)を積層成形し、多層化したシートを、乾燥・脱脂・焼結することにより金属製多孔体シートE(厚み0.45mm)を作製した。得られた金属製多孔体シートEから、幅20mm×50mmのサンプルを切り出し、この切り出された金属製多孔体シートEと、同じく幅20mm×長さ50mmの形状にカットしたSUS316L製箔体(厚さ0.1mm)とを、前記接合試験片Aと同様にして接合することにより接合試験片Cを5本作製した。
得られた接合試験片A、B及びCについて、試験例1と同様にして、それぞれ引張試験評価を実施した。接合試験片の破断が開始した平均引張強度は、接合試験片Aが6.5MPaであり、接合試験片Bが13.6MPaであり、接合試験片Cが20.8MPaであった。
【0060】
(試験例3)
SUS316L製多孔質薄板(平均開孔径150μm、空隙率87%、厚さ0.31mm)を、幅20mm×長さ90mmに切断した試験片を5本作製し、試験例1と同様にして評価を行った。SUS316L製多孔質薄板の破断が開始した平均引張強度は7.5MPaであった。
【0061】
(試験例4)
純Ti製多孔質薄板(平均開孔径50μm、空隙率79%、厚さ0.30mm)を、幅20mm×長さ90mmに切断した試験片を5本作製し、試験例1と同様にして評価を行った。純Ti製多孔質薄板の破断が開始した平均引張強度は12.6MPaであった。
【0062】
<接合強度の評価の結果>
(試験例1〜4)
試験例1〜4のいずれの引張試験においても、降伏後、試験片の1箇所に生じたクラックを起点に、試験片の破壊が進行していた。
また、図7(b)に示すように、試験例1〜2の接合試験片において、破断部64はいずれも接合部63から金属製多孔質薄板61側に位置していた。なお、箔体62と金属製多孔質薄板61との剥離は生じていなかった。
試験片の破断が開始した引張強度については、試験例1〜2の接合試験片と試験例3〜4の金属製多孔質薄板との平均引張強度には、最大で5%程度の差しか認められず、ほぼ同一レベルの強度を有していることが確認された。
以上の結果から、本発明に用いられる金属製多孔質薄板61は、箔体62の表面形状に沿って容易に接合することができることが確認できた。さらに、箔体62と金属製多孔質薄板61との接合部強度は、少なくとも金属製多孔質薄板61より高く、拡散接合としては充分な強度を有していることが確認できた。
【0063】
(実施例1)
また、実施例1において、いずれの接合試験片も、破断部64は接合部63ではなく、金属製多孔質薄板(金属製多孔体)側に位置していた。
また、接合試験片B及び接合試験片Cの破断部64の断面を観察したところ、金属製多孔質薄板同士の接合(積層)面での目立った剥離は観察されなかった。
以上の結果から、高空隙率の金属製多孔質薄板A単体と比較すると、より空隙率の低い金属製多孔質薄板が多層化された金属製多孔体Cや金属製多孔体シートEの方が、材料強度が高くなっていることが確認された。
また、2枚の金属製多孔質薄板どうしの接合強度、及び金属製多孔質薄板と金属製箔体との接合強度は、いずれも、金属製多孔質薄板単体の強度や金属製多孔体自体の強度よりも高いことが確認された。
以上の結果から、金属製多孔質薄板どうしの接合は、容易かつ強固であることが確認されると共に、高空隙率の金属製多孔質薄板をより低空隙率の金属製多孔質薄板と多層化することにより、実質的な強度(金属製箔体との接合強度)の向上が図られることが確認できた。
【0064】
[生体組織の結合性の評価]
本発明にかかる、金属製多孔質薄板が多層化された金属製多孔体を接合した多層接合体(実施例2〜3)に対して、生体組織の結合性の評価を行った。
なお、試験例として、本発明に用いられる金属製多孔質薄板(試験例5〜9)に対して同様の生体組織の結合性の評価を行った。試験例においては、金属製多孔質薄板を医療用デバイス本体表面に接合させた医療用デバイスにおける評価と、該金属製多孔質薄板単体での評価とは同様の傾向が得られることから、金属製多孔質薄板単体に対して簡便な評価を実施した。
また、細胞培養用培地として、ダルベッコ変法Eagle最小必須培地(D−MEM
)に、10容量%牛胎児血清(FBS)を添加したものを用いた。
【0065】
(試験例5)
3次元連通孔構造を有する純チタン製多孔質薄板(平均開孔径150μm、空隙率89%、厚さ0.5mm、11mm角)を、12穴の組織培養用マイクロプレート内に静置し、細胞培養用培地(D−MEM+10容量%FBS)2mL中に、ヒト骨肉腫由来細胞Saos−2を約10万個播種した。
次に、温度37℃・大気95%+炭酸ガス5%の環境下のインキュベーター内にて1,4,7日間培養後、4容量%ホルマリン緩衝液で固定、蛍光色素(テキサスレッド)で染色し、共焦点顕微鏡により細胞を観察した。評価結果を図8に示す。
なお、共焦点顕微鏡像において、明るい部分が細胞であり、明るいほど細胞が増殖していることを示す。
【0066】
(実施例2)
3次元連通孔構造を有する純チタン製多孔質薄板91(平均開孔径600μm、空隙率75.3%、厚さ0.32mm)に孔径の異なる別の純チタン製多孔質薄板91(平均開孔径50μm、空隙率79.8%、厚さ0.30mm)を重ね合わせ、さらに純チタン製箔体(厚さ0.03mm)を重ねて2.0MPaで圧着・加圧した状態で、真空中で950℃に加熱して拡散接合を行った。得られた純チタン製多孔体を接合した多層接合体を11mm角に切断後、アセトン洗浄・滅菌を行い、12穴の組織培養用マイクロプレート(細胞接着性処理なし)内に、図9に示すようにシリコンチューブ92を用いて垂直に設置し、細胞培養用培地(D−MEM+10容量%FBS)2mL中に、ヒト骨肉腫由来細胞Saos−2を約10万個播種した。
次に、温度37℃・大気95%+炭酸ガス5%の環境下のインキュベーター内にて1, 4,7日間培養後、WST−1法(発色検出法)により生細胞数を測定した。評価結果を図10に示す。
【0067】
(試験例6)
異なる4枚の3次元連通孔構造を有するSUS316L製多孔質薄板91(平均開孔径50、150、300、600μm;空隙率85.3、84.9、84.7、85.3%;厚さ0.31、0.63、0.43、0.46mm;11mm角)を、12穴の組織培養用マイクロプレート(細胞接着性処理なし)内に、図9に示すようにシリコンチューブ92を用いて垂直にそれぞれ設置し、細胞培養用培地(D−MEM+10容量%FBS)2mL中に、Saos−2の約10万個をそれぞれ播種した。
次に、温度37℃・大気95%+炭酸ガス5%の環境下のインキュベーター内にて1,4,7日間培養後、WST−1法により生細胞数を測定した。評価結果を図11に示す。
【0068】
(試験例7)
12穴の組織培養用マイクロプレートを用い、細胞培養用培地(D−MEM+10容量%FBS)2mL中に、Saos−2を約10万個播種し、温度37℃・大気95%+炭酸ガス5%の環境下のインキュベーター内にて1日間、前培養した。
そこへ、3次元連通孔構造を有する純チタン製多孔質薄板(平均開孔径150μm、空隙率89%、厚さ0.5mm、11mm角)を細胞の上から静置し、温度37℃・大気95%+炭酸ガス5%の環境下のインキュベーター内にて、さらに5,10,15日間培養後、4容量%ホルマリン緩衝液で固定、蛍光色素(テキサスレッド)で染色し、共焦点顕微鏡により細胞を観察して、最も内部に侵入していた細胞の多孔質薄板表面からの距離を測定した。評価結果を図12に示す。
【0069】
(試験例8)
12穴の組織培養用マイクロプレートを用い、細胞培養用培地(D−MEM+10容量%FBS)2mL中に、Saos−2を約10万個播種し、温度37℃・大気95%+炭酸ガス5%の環境下のインキュベーター内にて1日間、前培養した。
そこへ、3次元連通孔構造を有する純チタン製多孔質薄板で空隙率の異なる3種類(いずれも 平均開孔径50μm、11mm角;空隙率87.5%、84.0%、78.7%、71.9%;厚さは空隙率の高い方から順に0.34mm、0.29mm、0.22mm、0.20mm)を細胞の上から静置し、温度37℃・大気95%+炭酸ガス5%の環境下のインキュベーター内にて、さらに10日間培養後、4容量%ホルマリン緩衝液で固定、蛍光色素(テキサスレッド)で染色し、共焦点顕微鏡により細胞を観察して、最も内部に侵入していた細胞の多孔質薄板表面からの距離を測定した。評価結果を図13に示す。
【0070】
(実施例3)
12穴の組織培養用マイクロプレートを用い、細胞培養用培地(D−MEM+10容量%FBS)2mL中に、ヒト骨肉腫由来細胞Saos−2を約10万個播種し、温度37℃・大気95%+炭酸ガス5%の環境下のインキュベーター内にて1日間、前培養した。
そこへ、実施例2と同様に作成した純チタン製多孔体を接合した多層接合体および同様の手法で作成した純チタン製多孔質薄板(平均開孔径50μm、空隙率79.8%、厚さ0.3mm)を、純チタン製箔体(厚さ0.03mm)に圧着・拡散接合を行った試料(以下、単層接合体と記す。)を作成し、11mm角に切断後、アセトン洗浄・滅菌を行ったものを細胞の上から箔を接合した方を上にして静置し、温度37℃・大気95%+炭酸ガス5%の環境下のインキュベーター内にてさらに5, 10日間培養した。培養終了後、4容量%ホルマリン緩衝液で固定後、蛍光色素(テキサスレッド)で染色し、共焦点顕微鏡により細胞を観察して、最も内部に侵入していた細胞の多層接合体および単層接合体表面からの距離を測定した。評価結果を図14に示す。
【0071】
(試験例9)
3次元連通孔構造を有する純チタン製多孔質薄板(平均開孔径150μm、空隙率89%、厚さ0.5mm、11mm角)を、12穴の組織培養用マイクロプレート底部に置いたシリコーンゴム製Oリング上に静置し、細胞培養用培地(D−MEM+10容量%FBS)2mL中に、ヒト骨肉腫由来細胞Saos−2を約10万個播種した。
次に、温度37℃・大気95%+炭酸ガス5%の環境下のインキュベーター内にて1日間、前培養した後、細胞培養用培地を、0.5mM β−glycerophosphateおよび50μg/mL L−ascorbic acidを含むものに交換した。
その後、さらに7,14,21,28日間培養後、細胞培養用培地を、1μg/mL calceinを含むものに交換し、4時間培養することでカルシウムを標識した後、4容量%ホルマリン緩衝液で固定、共焦点顕微鏡により石灰化状態を観察した。評価結果を図
15に示す。
【0072】
<生体組織の結合性の評価結果>
(試験例5〜8)
図8から、純チタン製多孔質薄板では、細胞は、多孔質薄板表面および内部の橋梁部に接着・伸展していること、また培養日数が長くなるにつれて順調に増殖していることが確認された。
図11から、いずれの開孔径のSUS316L製多孔質薄板においても、培養日数が長くなるにつれて生細胞数は増加することが確認された。また、開孔径が300μm以下のSUS316L製多孔質薄板では、開孔径が大きいほど生細胞数が多いことが確認された。
一方、開孔径が600μmのSUS316L製多孔質薄板については、培養1日後の生細胞数は300μmのものと同等であったが、その後の細胞増殖率は300μmのものよりも低い傾向にあることが確認された。
図12から、培養日数が長くなるにつれ、細胞は多孔質薄板内部に侵入し、成長していくことが確認された。
図13から、空隙率が高い方が、細胞侵入距離が大きく、細胞の侵入を促進する傾向があることが確認された。
以上、試験例5〜8の結果から、評価に用いた本発明に用いられる金属製多孔質薄板は生体組織との結合性に優れること、また開孔径あるいは空隙率が高い方が細胞の侵入を促進することが確認された。
【0073】
(試験例9)
図15から、純チタン製多孔質薄板および内部の橋梁部分で骨形成の最初の段階となる石灰化が生じていること、また、7日間よりも14,21,28日間培養の方が、石灰化が進行していることが確認された。
また、細胞を蛍光色素(テキサスレッド)で標識した28日間培養後の試料について、共焦点顕微鏡により高倍率で観察した結果、純チタン製多孔質薄板表面および内部の橋梁部分に接着している細胞近傍で石灰化が生じていることが確認された。
以上の結果から、本発明に用いられる金属製多孔質薄板内部への細胞の侵入・増殖性が、石灰化およびその後の骨形成に重要であることが確認できた。
【0074】
(実施例2〜3)
図10から、多層接合体内において、細胞は培養日数の増加に伴い、順調に成育することが確認された。
図14から、いずれの試料についても、培養日数の増加に伴い、細胞侵入距離が増加することが確認された。中でも、単層接合体(片面を箔と接合した試料)よりも多層接合体内の方が、細胞侵入距離が大きく、細胞が侵入しやすいことが確認できた。
【0075】
以上、実施例2〜3の結果から、本発明にかかる実施例の多層接合体においては、開孔径および空隙率の異なる多孔質薄板が多層化されることにより、単層の場合よりも細胞の侵入性を促進する効果があることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】金属製多孔質薄板の一実施形態例を示す。図1(a)はその拡大平面図であり、図1(b)は金属製多孔質薄板の側面を示す概念図である。
【図2】多層に形成された金属製多孔体の一実施形態例を示す断面図である。
【図3】金属製多孔質薄板を製造する方法の一例を示す模式図である。
【図4】二層の金属製多孔質薄板からなる金属製多孔体を形成する方法の一例を示す模式図である。
【図5】金属製多孔体と医療用デバイス本体とを接合するための型を示す模式図である。
【図6】医療用デバイスの実施形態例を示す模式図であり、図6(a)は人工股関節、図6(b)は人工歯根、図6(c)は人工肘関節、図6(d)は人工膝関節、図6(e)は人工肩関節である。
【図7】接合強度の評価方法を示した平面図であり、図7(a)は接合試験片の平面図であり、図7(b)は引張試験後の接合試験片が破断した状態を表した平面図である。
【図8】純チタン製多孔質薄板中でSaos−2を培養し、蛍光染色して共焦点顕微鏡で観察した像である(試験例5)。
【図9】金属製薄板を、シリコンチューブを用いて垂直に固定する方法を示した模式図である。
【図10】純チタン製多層接合体を垂直に静置した状態でSaos−2を培養し、WST−1法により生細胞数を測定した結果を表すグラフである(実施例2)。
【図11】平均孔径の異なるSUS316L製多孔質薄板をそれぞれ垂直に静置した状態でSaos−2を培養し、WST−1法により生細胞数を測定した結果を表すグラフである(試験例6)。
【図12】純チタン製多孔質薄板を、細胞培養用マイクロプレート底面に一様に接着・増殖した状態の細胞上に接触させて培養後、蛍光染色して共焦点顕微鏡で細胞侵入距離を測定した結果を表すグラフである(試験例7)。
【図13】空隙率の異なる純チタン製多孔質薄板を、細胞培養用マイクロプレート底面に一様に培養・増殖した状態の細胞上に接触させて培養後、蛍光染色して共焦点顕微鏡で細胞侵入距離を測定した結果を表すグラフである(試験例8)。
【図14】純チタン製多層接合体および単層接合体を細胞培養用マイクロプレート底面に一様に培養・増殖した状態の細胞上に接触させて培養後、蛍光染色して共焦点顕微鏡で細胞侵入距離を測定した結果を表すグラフである(実施例3)。
【図15】純チタン製多孔質薄板中でSaos−2を培養し、共焦点顕微鏡により石灰化状態を観察した像である(試験例9)。
【符号の説明】
【0077】
10 グリーンシート製造装置
11 ホッパー
11a ホッパー
12 キャリアシート
13 ローラ
14 ドクターブレード
14a ドクターブレード
15 発泡槽
16 加熱炉
21 金属製多孔質薄板
21a 金属製多孔質薄板
21b 金属製多孔質薄板
21c 金属製多孔質薄板
22 骨格
23 表面
24 裏面
25a 気孔
31 医療用デバイス本体
32 金属製多孔体
41 型
51 人工股関節
52 大腿骨ステム
53 大腿骨
54 骨盤
55 人工歯根
56 芯材
57 歯槽骨
58 結合組織
59 上皮
61 金属製多孔質薄板
62 箔体
63 接合部
64 破断部
71 上腕骨ステム
72 尺骨ステム
73 脛骨ステム
74 人工大腿骨頭
75 関節摺動部
76 ベースプレート
77 大腿骨
78 上腕骨ステム
79 人工上腕骨頭
80 人工関節嵩
91 金属製薄板
92 シリコンチューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製多孔体が医療用デバイス本体表面の少なくとも一部に接合された医療用デバイスであって、前記金属製多孔体は多層化されたものであることを特徴とする医療用デバイス。
【請求項2】
前記金属製多孔体は、金属粉を含有するスラリーをシート状に成形し、乾燥させた成形体を脱脂、焼結することにより製造される金属製多孔質薄板が多層化されたものである請求項1記載の医療用デバイス。
【請求項3】
前記金属製多孔質薄板は、金属粉と発泡剤を含有するスラリーをシート状に成形し、発泡プロセスを経た後、乾燥させた成形体を脱脂、焼結することにより製造される金属製多孔質薄板を含む請求項2記載の医療用デバイス。
【請求項4】
前記金属製多孔質薄板の空隙率は40〜97%である請求項2または3記載の医療用デバイス。
【請求項5】
医療用デバイス本体と接合する金属製多孔質薄板の空隙率が、生体組織と接触する金属製多孔質薄板の空隙率より低い請求項4記載の医療用デバイス。
【請求項6】
前記金属粉の金属は、純チタン、チタン合金、ステンレス鋼、コバルトクロム合金、タンタル、ニオブおよびこれらの合金から選択される少なくとも一種を含む請求項2〜5のいずれか一項に記載の医療用デバイス。
【請求項7】
前記金属粉の金属は、医療用デバイス本体と同種の金属である請求項6記載の医療用デバイス。
【請求項8】
前記金属製多孔質薄板の金属粉の焼結体からなる骨格表面は、生体親和性を有する無機化合物により被覆されている請求項2〜7のいずれか一項に記載の医療用デバイス。
【請求項9】
金属粉を含有するスラリーをシート状に成形し、乾燥させた成形体を脱脂、焼結することにより金属製多孔質薄板を製造しておき、該金属製多孔質薄板を多層化することにより金属製多孔体を製造し、該金属製多孔体を、医療用デバイス本体の少なくとも一部の表面形状に沿わせるように変形させて接合することを特徴とする医療用デバイスの表面改質方法。
【請求項10】
前記金属製多孔質薄板は、金属粉と発泡剤を含有するスラリーをシート状に成形し、発泡プロセスを経た後、乾燥させた成形体を脱脂、焼結することにより製造される金属製多孔質薄板を含む請求項9記載の医療用デバイスの表面改質方法。
【請求項11】
前記スラリーをドクターブレード法によりシート状に成形する請求項9または10記載の医療用デバイスの表面改質方法。
【請求項12】
前記接合は拡散接合である請求項9〜11のいずれか一項に記載の医療用デバイスの表面改質方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−151805(P2007−151805A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−350667(P2005−350667)
【出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】