説明

半導体ウエハの洗浄方法及び洗浄装置

【課題】被洗浄物に欠陥が発生してもその成長を抑えることができるとともに、洗浄作業を行う際に洗浄装置の各種異常を目視で検知することができる半導体ウエハの洗浄方法及び洗浄装置を提供する。
【解決手段】半導体ウエハWを、洗浄液3が満たされた洗浄槽40に浸漬して洗浄ユニットで半導体ウエハW表面の洗浄を行う半導体ウエハWの洗浄方法において、少なくとも、半導体ウエハWの洗浄液3浸漬中及び洗浄槽40から引き上げた後の半導体ウエハW表面に洗浄液3が付着している間、半導体ウエハWに対して可視光のうち所定の短波長域の光のみを照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハなどの被洗浄物の洗浄方法及び洗浄装置に係り、詳しくは、洗浄中に発生する半導体ウエハなどの鏡面加工された表面欠陥の成長を抑制することができる半導体ウエハの洗浄方法及び洗浄装置に関わる。
【背景技術】
【0002】
従来、鏡面仕上げされた半導体ウエハ(シリコンウエハ)などのウエハ洗浄には、RCA洗浄が一般的に用いられている。このRCA洗浄とは、基本的には、
(1)ウエハ表面に付着した粒子をアンモニア水、過酸化水素水、純水からなる洗浄液で洗浄する洗浄作業(「SC1洗浄」という。)と、
(2)ウエハ表面に付着した重金属(Fe,Ni,Cr,Cuなど)を希塩酸、過酸化水素水、純水からなる洗浄液で洗浄する洗浄作業(「SC2洗浄」という。)と、の組み合わせより構成されており、更に必要に応じて、
(3)ウエハ表面に付着した有機物を硫酸、過酸化水素水からなる洗浄液で洗浄する洗浄作業(「SPM洗浄」という。)と、
(4)ウエハ表面であるシリコン表面の不要な自然酸化膜を希フッ酸洗浄液で洗浄除去する洗浄作業(「DHF洗浄」という。)と、
を加える場合がある。
【0003】
また、このRCA洗浄に用いる洗浄装置としては、上記洗浄液の入った複数の洗浄槽へのウエハの搬入、浸漬、搬出を、人手を介して行う手動式と、洗浄装置内に設けられたロボット(アーム)によって行う自動搬送洗浄装置と、がある。近年は半導体製造関連の装置の自動化が進み、洗浄装置についてもそのほとんどが自動搬送洗浄装置となっているが、このような洗浄装置においても作業者による洗浄状態の目視確認のため、洗浄装置内に照明器具を取付けたり、覗き窓を設けたりする等の措置を施していた。
【0004】
このような自動搬送洗浄装置では、通常、洗浄槽の上方に設けたロボットアームにより、被洗浄物であるウエハの洗浄槽への搬入、浸漬、搬出を行っている。さらに、この自動搬送洗浄装置では、このウエハ搬出入の際のチャックミス(被洗浄物の不搬出)を検知するために、例えば図6に示すように、洗浄槽100に対して光センサ(例えば赤色発光ダイオード)101の光を照射し、被洗浄物(例えばシリコンウエハ)103による光の遮断の有無を受光素子102で検知し、チャックミスを確認するのが一般的に行われていた。また、同様な構成の液面センサを付設して、液面の高さの確認などを行う場合も多い。
【0005】
ところが、上記した従来の洗浄装置を用いて、鏡面処理されたシリコンウエハの洗浄をSC1洗浄のようにエッチングを伴う洗浄液で行った場合、洗浄中のウエハに照明等の光が照射され、これが原因の一つとなりシリコンウエハ鏡面には以下に述べる欠陥が発生するとともに成長し、シリコンウエハ品質に重大な悪影響を及ぼすことが見出された。
【0006】
即ち、前工程である研磨工程などで付着した銅などの不純物金属が、シリコン(Si)との間で局所電池を形成し、銅原子が付着したシリコンウエハ200表面がSC1洗浄で溶解され肉眼では見えない微細な溝などの欠陥201が形成され成長するという現象である(例えば図7(A)〜(C)を参照)。
【0007】
このような溝が形成されたシリコンウエハを特にSC1洗浄する場合、洗浄室を照明する蛍光灯や洗浄槽内に設置した加熱用ヒータなどから放出される光の何らかの作用により前述の溝のエッチングが促進される。このため、溝などの欠陥が成長して、例えば図8に示すように、数十nm(数十〜数百原子程度の直径)程度の大きさを有する、無視できないピットの集合体(以下、これを「大型ピット」とよぶ)が形成されることがある。
【0008】
上で説明した光によるシリコンウエハ表面の欠陥の成長について、従来の洗浄方法或いは洗浄装置ではその発生を十分防止することができなかった。そこでかかるシリコンウエハ表面の欠陥の発生・成長を抑制することができる洗浄方法或いは洗浄装置の開発が待たれていた。
【0009】
一例として、エッチングを伴う洗浄液中であっても、浸漬、洗浄中または当該洗浄後の搬出、搬送中にはシリコンウエハに光が照射されず、光の照射が原因で引き起こされるウエハ表面の欠陥を防止できる洗浄方法及び洗浄装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
この洗浄方法では、少なくとも片面が鏡面仕上げまたはその面にエピタキシャル層が積層され、鏡面の表面粗さ(マイクロラフネス)がP−V値で10nm以下のシリコンウエハを、洗浄液が満たされた複数の洗浄槽に順に浸漬し洗浄を行うウエハ洗浄方法において、少なくともシリコンウエハの浸漬洗浄中及び洗浄槽間の移動中、シリコンウエハに対し光の照射を遮断するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−330030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
一方このような光の照射を遮断した下での洗浄方法或いは洗浄装置にあっては、真っ暗な環境下で洗浄作業を行うので、以下のような重大な問題の発生を発見できなかった。
(i)洗浄作業中のシリコンウエハを把持するチャックにチャックミスが生じ、洗浄槽に浸漬させてあるシリコンウエハを完全に引き上げることができないとか、チャックずれを生じ、洗浄作業中のシリコンウエハを把持できないこと。
(ii)洗浄槽内のヒータの破損によりピンホール等が発生し、そこから薬液がしみこんでヒータ線を腐食しヒータ用金属が液中に溶出すること。
【0013】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、ウエハに欠陥が発生してもその成長を抑えることができるとともに、洗浄作業を行う際に洗浄装置の各種異常を目視で検知することができる半導体ウエハの洗浄方法及び洗浄装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記問題点を解決すべく鋭意研究開発した結果、以下のような知見を得るに至った。即ち、洗浄作業を行う際に用いる照明等の光の波長と、洗浄ウエハに形成される欠陥の成長との関係を、SC1洗浄、SC2洗浄、SPM洗浄、DHF洗浄の各作業工程において調べた。その結果次の知見を得た。
i)照射光の波長依存性は、SC1洗浄においてのみ見られた、またii)特定波長の光において特に顕著に見られた。すなわち、
λ<β≦λ ・・・(1)
(但し、λ;可視光と赤外光の境界波長)
λ;緑色波長)
の可視光(以下、「禁止波長帯域光」とよぶ)が欠陥の成長に特に大きく関わっていた。
【0015】
この知見に基づき、洗浄作業、少なくともSC1洗浄液中に浸漬した作業、或いはそのSC1洗浄液がウエハ表面に付着した状態での作業においては、照明光として、下記の短波長可視光、つまり、
λ≦γ≦λ ・・・(2)
(但し、λ;紫外光と可視光の境界波長)
の可視光(以下、「許容波長帯域光」とよぶ)のみを用いるように波長を制限することが好ましいとの結論を得、本発明を完成したものである。
また、前述の(2)式の範囲の許容波長帯域光であれば、その光強度には特に依存しないことも確認された。
【0016】
すなわち本発明に係る洗浄方法は、
洗浄槽内の洗浄液に浸漬することにより表面の洗浄を行うシリコン半導体ウエハの洗浄方法において、
前記洗浄液が、アンモニア、水酸化テトラメチルアンモニウム、及びコリンのうちの少なくとも1つと、過酸化水素水と、純水とからなり、さらに
洗浄液浸漬中、及び洗浄槽から引き上げた後ウエハの表面に洗浄液が付着している間、ウエハに短波長可視光を照射することを特徴とする。
また本発明の洗浄方法は、
前記短波長可視光の波長域が、
可視光と紫外光との境界波長から580nmの波長であることを特徴とする。
さらに本発明に係る半導体ウエハの表面の洗浄装置は、
筐体と、
前記筐体内に設置したシリコン半導体ウエハを浸漬する洗浄槽とからなり、
前記筺体内に照明装置が配置されており、該照明装置により、ウエハが洗浄液に浸漬中、及び洗浄槽から引き上げた後ウエハ表面に洗浄液が付着している間、ウエハに短波長可視光を照射し、かつ
前記洗浄液が、アンモニア、水酸化テトラメチルアンモニウム、及びコリンのうちの少なくとも何れか1つと、過酸化水素水と、純水とからなる、
ことを特徴とする。
また本発明に係る洗浄装置は、
さらに加熱用ヒータ、及び循環用ポンプと、ポンプと洗浄槽とを連通させる連通管とを備え、かつ加熱用ヒータ及び洗浄槽に前記短波長可視光のみを透過させる手段を設けたことを特徴とする。
また、前記洗浄液に浸漬中及び洗浄槽から引き上げた後の表面に前記洗浄液が付着して
いる間、前記シリコン半導体ウエハに対して可視光のうち所定の短波長側の光のみを照射
する、ことが好ましい。
また本発明に係る洗浄装置は、
前記短波長可視光の波長域が、
可視光と紫外光との境界波長から580nmの波長であることを特徴とする。
また本発明に係る方法及び装置は、前記短波長可視光の波長域が、好ましくは380〜580nmの範囲、より好ましくは480〜580nmの範囲、最も好ましくは480〜520nmの範囲である。係る波長範囲よりも短波長の光は可視領域外であり目視点検のための照明としての役割を果たせないため好ましくない。また係る波長範囲よりも長波長ではウエハ表面の欠陥の発生・成長が促進されるため好ましくない。
【発明の効果】
【0017】
本発明の洗浄方法は、被洗浄物であるシリコン半導体ウエハの洗浄液浸漬中及び洗浄槽から引き上げた後の表面に洗浄液が付着している間、被洗浄物に対して、可視光のうち所定の短波長域側の光のみが照射されるように照明することにより、被洗浄物に発生した欠陥の成長を抑えることができる。また本発明の洗浄方法は、所定の短波長域側の可視光を使用するものであり、洗浄工程又は洗浄装置の異常を目視で検知できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る半導体ウエハの洗浄装置を示す概略構成図である。
【図2】図1に示す半導体ウエハの洗浄装置を構成する照明装置、半導体ウエハ搬出を行う自動搬送装置、被洗浄物の洗浄ユニットなどを示す説明図である。
【図3】図1に示す半導体ウエハの洗浄装置に用いる照明装置の光源に関する波長特性を示すグラフである。
【図4】図1に示す半導体ウエハの洗浄装置の照明装置に用いるフィルタの透過特性を示すグラフである。
【図5】本発明に係る照明光と一般に使用されている照明光とを用いた環境下でのウエハに形成される大型ピットの割合を示すグラフである。
【図6】(A)から(C)は従来の洗浄ユニットに付設した液面センサの作用を示す説明図である。
【図7】シリコン基板にピットが形成される状態を説明する説明図である。
【図8】走査電子顕微鏡により撮影した、大型ピットが形成された状態を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1及び図2は、本発明に係る半導体ウエハの洗浄装置1を示すものであり、この半導体ウエハの洗浄装置1は、透明窓60を備えた半密閉の箱型筐体2の内部に、照明灯として所定の短波長域の可視光(前述した許容波長帯域(γ))のみを出射する照明装置10と、半導体ウエハWの浸漬及び搬出を行う自動搬送装置20と、半導体ウエハWの洗浄を行う洗浄ユニット30と、を備えており、その筐体2がクリーンルーム50の室内に設置されている。
【0020】
クリーンルーム50には、天井50Aに室内を照明させるための照明器具70が設置されている。この照明器具70には、一般の白色蛍光灯を光源として用いている。例えば本実施形態では、後述する半導体ウエハの洗浄装置1の筐体2の内部に設置した照明装置10と同様の波長分布特性(図3参照;但し、可視光のみを出射するものとする)を有する蛍光灯を用いている。このため、照明装置10と同様、詳細は後述するが、可視光域の波長の光のうち不要な帯域の波長の光(禁止波長帯域光)を除去させる図示外のフィルタ膜を光源の外面に固着させている。
【0021】
半導体ウエハWは、本実施形態の場合、インゴット状のシリコン結晶からスライサによって所定の厚さ、例えば数百ミクロン程度の厚さにスライスさせるとともに、例えばCMP(Chemical Mechanical Polishing)法などにより鏡面加工させた直後の枚葉状の数十枚程度のものを、所要のフッソ樹脂などの容器(例えば、カセットCなど)に収容させて洗浄作業を行う。
【0022】
筐体2には、床面に載置した作業台の上に複数種類の前述した洗浄槽40が配置されているとともに、天井面(特にここには限らない)に単一の又は複数の前述した照明装置10が設置されている。また、この筐体2には、壁などの一部に窓60を設けており、クリーンルーム50の天井50Aに設けた照明器具70から照射される照明光が窓60から筐体2の内部に差し込む虞があるので、後述するフィルタ膜Fが窓60にも固着(蒸着)されている。
【0023】
このフィルタ膜Fは、長波長帯域の可視光(禁止波長帯域光)を吸収させるものであり、例えばダイクロイックフィルタ(2色フィルタ)などの帯域干渉フィルタ、バンドパスフィルタ、或いは誘電体エッジフィルタなど所定の波長帯域のみを透過させる機能を有するもので構成できる。本実施形態のフィルタ膜Fでは、例えば図3に示すような波長透過特性を有するものを照明装置10の出射面に蒸着させることで構成できる。なお、このフィルタ膜Fには、上記した許容波長帯域(γ)の波長を有する可視光のうち比較的広帯域の波長を透過させる特性のもので構成したが、この許容波長帯域(γ)内であれば、例えば透過波長が狭くて急峻な誘電体多層膜フィルタや適宜のカラーフィルタなどで構成してもよい。
【0024】
このように、照明装置10を構成する光源11として、図3に示す波長特性の蛍光灯(例えば、現パナソニック株式会社(旧社名:松下電器産業株式会社)製の蛍光灯など)を使用しているので、上述のフィルタ膜Fを透過後の光には、上述した可視光のうち、短波長、例えば青色から緑色までの許容波長帯域(γ)の光のみが筐体2内に出射され、照明される。
【0025】
なお、クリーンルーム50に設置する照明器具70からの照明光に、前述した禁止波長帯域(β)の可視光を含まない場合には、勿論、この窓60へのフィルタ膜Fの蒸着などは不要である。また、この照明器具70からの照明光に、前述した禁止波長帯域(β)の可視光の他に、近赤外光などの赤外光を含む場合には、その波長帯域の光もカットできるフィルタを設けることが必要である。
【0026】
照明装置10は、SC1洗浄液を用いたSC1洗浄において特に可視光の波長帯のうち長波長の光、即ち、青色から緑色までの短波長帯域を除く長波長帯側の光、が欠陥の成長に大きく関わっている、といった本発明者の知見に基づき、前述の短波長帯域側の波長のみからなる可視光(許容波長帯域光(γ))により、筐体2内の照明を行うものである。
【0027】
このような波長の可視光(許容波長帯域光(γ))で照明することで目視点検が可能になるので、半導体ウエハWの洗浄作業において、洗浄作業に伴う各種のトラブルを未然に防止でき、確実で信頼度の高い洗浄作業が行える。従って、このような照明光のもとでは、以下のような点検作業が実行可能である。即ち、
(i)洗浄作業中の半導体ウエハWを把持するロボットアーム24のチャックにチャックミスを起こすなどの故障が発生した場合には、これを作業者が肉眼で直接確認できる。従って、洗浄作業を直ちに停止して、故障の修理ができる。
(ii)さらに、洗浄槽40内に設置したヒータ32が破損してピンホールなどが形成される場合には、その泡を目視で確認することにより、この破損の有無を肉眼で確認できるので、ヒータ32を速やかに交換できる。
【0028】
本実施形態の照明装置10では、図3に示すような波長分布特性(但し、可視光のみを出射するものとする)を有する通常の白色蛍光灯(前述した蛍光灯)を光源11として用いている。このため、可視光域の波長の光のうち不要な帯域の波長の光(禁止波長帯域光)を除去させる後述のフィルタ膜Fを光源11の出射面に固着させているが、前述の不要な波長帯域を除くいずれかの波長の可視光、つまり許容波長帯域光のみを出射する光源を用いるようにすれば、例えば青色発光ダイオードなどであれば、このフィルタ膜Fは必要ない。
【0029】
また、本実施形態では、光源11に可視光域の光のみを出射するものを用いたが、近赤外光などの可視光域をこえた、長波長の赤外光を含んでいる場合には、長波長側の可視光(禁止波長帯域光)と同じように、その近赤外光や赤外光も欠陥に対してこれを成長させる負の効果があると予想されるので、カットが必要である。そこで、この場合には、後述する禁止波長帯域の可視光とともに近赤外光などの光もカットさせるような、フィルタを用いるようにすればよい。なお、近紫外光や紫外光は存在していても特に問題ない。
【0030】
なお、本実施形態の照明装置10では、上述した通常の白色蛍光灯を用いた光源11からの照明光が、この光源11の外周面に設けたフィルタFを透過して、後述する洗浄ユニット30の洗浄槽40に差し込むように照明するが、光源11からの照明光(窓60を介して差し込む照明器具70からの光も一部に含んだ状態でもよい)については、目視点検に必要な最小限の明るさを確保するため、光源11の光度(Cd;カンデラ)調整がなされている。これにより、上述したように洗浄作業に伴う各種のトラブルを目視で確認することで、それらのトラブルを未然に防止できる。
【0031】
即ち、本実施形態では、自動搬送装置20や洗浄ユニット30の異常事態、例えば洗浄ユニット30の洗浄槽40での液面の異常低下や異常上昇、或いはヒータ32の破損、さらには自動搬送装置20でのチャックミスなどを作業者が直接目視で点検確認できる最低限の光度(又は光量)を確保するため、光源11の光度(Cd;カンデラ)調整によって、自動搬送装置20や洗浄ユニット30付近での照度(Lx;ルクス)を、最低限、例えば1ルクス以上の明るさに確保させている。
【0032】
一般に蛍光灯は、その全光束が例えば40W直管型で2800〜3500ルーメン程度であって、通常(従来)の操業時には、400ルクス程度の照度が確保されている。一方、本発明では、照明装置10の光源11の光度を調整しており、自動搬送装置20や洗浄ユニット30の付近で上記のような最低限の照度(1ルクス)を確保することで、これらの部分での各種異常が目視で検出できることが確認されている。
【0033】
自動搬送装置20は、被洗浄物を構成する半導体ウエハWを各洗浄液3の入った複数の洗浄槽40へ逐次搬送させて行き、各洗浄槽40では搬送させてきた半導体ウエハWを洗浄液3へ浸漬させ所要の洗浄を行うとともに、洗浄作業の完了後にその洗浄槽40から搬出させるように構成される。
【0034】
本実施形態の自動搬送装置20は、たとえば筐体2内の天井面に沿って平行に配置されたスライドシャフト21と、このスライドシャフト21に螺合されたスライダ22と、このスライダ22から垂下するガイドシャフト23と、このガイドシャフト23に沿って自在に昇降可能なロボットアーム24と、を備えている。
【0035】
ロボットアーム24は、半導体ウエハWを把持しながら水平方向に移動することで、次位の洗浄槽40に半導体ウエハWを移送させることができる。さらに、このロボットアーム24が半導体ウエハWを把持しながら上下方向に移動して把持動作を開始するとともに把持動作を解除することで、半導体ウエハWの搬入、浸漬、及び搬出の各動作を行う。
【0036】
洗浄ユニット30には、RCA洗浄に用いる洗浄ユニットを設けており、具体的には、図2に示すように、循環用ポンプ31と、加熱用ヒータ32と、洗浄液3中に微細粒子などが混入した場合その通過中にこれを取除くフィルタ34と、これらを取付けているとともに(後述する)洗浄槽40に連通させた連通管33と、を備える。さらに、本実施形態では、加熱用ヒータ32、連通管33、フィルタ34及び洗浄槽40の外周面を、所定の短波長域の可視光(許容波長帯域光)の透過を許容するとともに、長波長帯域の可視光(禁止波長帯域光)を吸収させるフィルタ膜Fで覆う。なお、本実施形態では、加熱用ヒータ32を、連通管33を介して洗浄槽40の外部に設置する構成であるが、洗浄槽40内に設置する構成でもよい。
【0037】
ポンプ31は、連通管33の上部から洗浄槽40内の洗浄液3を取り込むとともに、連通管33の下部から洗浄槽40内へ洗浄液3を放出させて洗浄槽40内の洗浄液3を循環させるものであって、この連通管33内部を通過する洗浄液3を加熱用ヒータ32で加温する。
【0038】
加熱用ヒータ32は、外管である石英管と、この石英管内に設けた熱源であるニクロム線(或いは白金線、カンタル線などでもよい)とを含む構成であって、外部からニクロム線へ通電させることで発熱し、この発熱に伴って石英管全体が熱せられることで、ここを通過する連通管33内部の洗浄液3を加温する。
【0039】
この加熱用ヒータ32は、熱源であるニクロム線の発熱に伴って各種波長の光、特に本発明では半導体ウエハWのSC1洗浄作業の際に、赤色等の長波長側の可視光が同時に出射される(また、使用する照明器具によっては近赤外光などが出射される場合もある)。そこで、本実施形態では、このような波長帯の光(禁止波長帯域光)が洗浄液に到達するのを防止するため、ヒータ外周面全体あるいはヒータユニットの収められているボックスに先述のフィルタ膜Fなどを蒸着させて設けている。なお、この加熱用ヒータ32の表面発熱温度が高い場合には、蒸着させずに適宜手段で取囲むようにしてもよい。
【0040】
洗浄槽40は、本実施形態の場合、多層バッチ式洗浄タイプであって、少なくとも2種類の洗浄液(薬液)、特に本実施形態では4種類の洗浄液(SC1、SC2、SMP、DHF)とともにリンス用の純水がそれぞれ湛えられた複数槽の洗浄槽40で構成されている。また、この洗浄液としては、これに限定されるものではなく、例えば、アンモニア、水酸化テトラメチルアンモニウム、及びコリンのうちの少なくとも何れか1種類の薬液と、過酸化水素水と、純水と混合させた洗浄液であってもよい。
尚、本発明の洗浄ユニット30は、本実施形態のような多層バッチ式洗浄タイプに限定されるものではなく、例えば1槽バッチ式洗浄タイプや枚葉洗浄タイプへの適用も可能である。
【0041】
また、本実施形態の場合、少なくとも、SC1洗浄用及びSC2洗浄用に用いる2種類の洗浄液(SC1、SC2)3とSPM洗浄及びDHF洗浄に用いる2種類の洗浄液(SMP、DHF)3との都合4種類の洗浄液3を用いるだけでなく、これらの洗浄液3での洗浄直後には、次位の洗浄作業での洗浄液3に浸漬させるのに先立って、半導体ウエハWの表面に付着する残留洗浄液を純水によってリンスさせて除去させる構成となっている。このため、本実施形態では、洗浄液3を収める洗浄槽のほかに、純水が収められている図示外の専用のリンス槽も設置されている。
【0042】
本実施形態の洗浄槽40は、図2に示すように、各洗浄液(薬液)で侵食されることがない石英ガラスなどの耐液性材料で形成された本体41と、この本体41の開口された上部を必要に応じて閉鎖可能な透明材料で形成された蓋体42と、を備えている。このうち、本体41の外表面、即ち4つの側面及び底面には、凡そ380〜760(nm)前後(但し、可視光の波長帯域は個人差により若干幅にずれがある場合もある。)の全可視光域のうち、前述の禁止波長帯域(β)である、(1)式を満たす波長の光、即ち、本実施形態では580(nm)を上回る波長(λ)のものをカットする後述のフィルタ膜Fを直接蒸着あるいは周囲に貼付している。従って、これによって、万一加熱用ヒータ31からの光が漏れることがあっても、その光が洗浄槽4の本体41から洗浄槽40内へ入射するのを阻止できる。
【0043】
また、洗浄槽40内の洗浄液の蒸散を防止するため、半導体ウエハWの搬出入以外のときは本体41の開口された上部を必要に応じて蓋体42で閉じるようになっているが、この蓋体42は透明材料で形成されているので、半導体ウエハWの浸漬中の洗浄槽40内での各種トラブルの発生を目視によって確認できる。なお、本実施形態では、筐体2外部からの外光などの洩入を極力防止させているが、万一のために、この蓋体42にもフィルタ膜Fを直接蒸着あるいは周囲に貼付しておくのが好ましい。
【0044】
このようなフィルタ膜Fを蒸着させた蓋体32によれば、可視光域の光のうち前述の許容波長帯域λ≦γ≦λ、即ち短波長側での限界波長(λ;凡そ380nm)から長波長側での限界波長(λ;凡そ580nm)までの可視光が透過できるので、洗浄槽内で浸漬中の半導体ウエハWの様子や洗浄液の液面レベルなどをその照明光により直接目視で確認可能である。
なお、筐体2の内壁面、天井面、床面などには上記のような波長帯域の可視光を吸収させる適宜の光吸収材を貼着させるようにすれば、さらに好ましい。
【0045】
洗浄液3は、本実施形態の場合、上述したように、SC1洗浄用及びSC2洗浄用に用いる2種類の洗浄液とSPM洗浄及びDHF洗浄に用いる2種類の洗浄液との都合4種類の洗浄液を用いるように構成されており、これらの洗浄液が4つの洗浄槽40にそれぞれ収められている。また、さらに本実施形態の場合、前述したように、これらの洗浄液3での洗浄直後には、次位の洗浄作業での洗浄液3に浸漬させるのに先立ち、半導体ウエハWの表面に付着する残留洗浄液を完全に除去させるために、純水でのリンスも行われている。
【0046】
次に、本実施形態に係る半導体ウエハの洗浄装置1を用いた、半導体ウエハの洗浄方法について説明する。
照明装置10の光源11を作動させて許容波長帯域(γ;但しλ≦γ≦λ)の照明光で筐体2内部を照明させておくことで使用し、許容波長帯域としてバンドパスフィルターを用いて、λは380〜480nmを、またλは520〜580nmを使用した。
次に、半導体ウエハWをカセットCに所要枚数を収め、所定位置のウエハローダにセットする。
【0047】
すると、半導体ウエハWを収めたカセットCを自動搬送装置20のロボットアーム24が包持して第1の洗浄槽40Aの直上まで移送させるとともに、その直上位置でカセットCを降下させて第1の洗浄槽40A内へ搬入させる。
次に、ロボットアーム24は、半導体ウエハWを収めたカセットCの把持動作を解除した後、洗浄槽40内の洗浄液3から後退する位置まで上昇する。そして、この直後に、ロボットアーム24が蓋体42を把持して洗浄槽40Aの上部に移動し、その蓋体42で洗浄槽40Aを閉じると、洗浄ユニット30の循環用ポンプ31及び加熱用ヒータ32が作動を開始する。
【0048】
これによって、洗浄槽内での半導体ウエハWの洗浄動作が所定時間行われるとともに、その所定時間の経過とともにロボットアーム24が蓋体42の取外し及びその後のカセットCの搬出動作を行う。そして、そのカセットCを把持したロボットアーム24が純水の納められたリンス槽の直上に移動し、そのリンス槽内へ半導体ウエハWを浸漬させて半導体ウエハWに付着残留する洗浄液3をすすぎ落とす。
【0049】
次に、前回の洗浄動作と同様の動作を繰り返し、第2の洗浄槽40Bでの洗浄動作及びリンス動作を行う。このようにして、以下同様に、最後の洗浄槽での洗浄及びリンス動作を完了したならば、図示外の乾燥手段へ移動して乾燥動作を行う。
【0050】
このように、本実施形態によれば、照明装置10を構成する光源から出射する光は、許容波長帯域の光のみを用いて筐体2内を照明している。従って、洗浄槽40内の洗浄液3に浸漬する半導体ウエハWには、その表面にかりに微細な溝などの欠陥が形成されていても、その欠陥の成長を促す禁止波長帯域光が照射されないので、例えば20〜30nm程度のピットの集合体、つまり前述した大型ピットの形成が抑えられる。
【0051】
しかも、本実施形態によれば、大型ピットの形成を避けるために真っ暗な筐体2内での洗浄作業を行う必要がないので、従来のような不都合、例えば、
(i)洗浄作業中の半導体ウエハWを把持するロボットアーム24のチャックにチャックミスを起こして、洗浄槽に浸漬させてある半導体ウエハWを引き上げきれなかったり、チャックずれを起こして把持できなかったりする、といったトラブルの見逃し・見落としが回避できる。
(ii)さらに、洗浄槽40内に設置したヒータ32が破損してピンホール等を発生しているような場合であっても、本実施形態では許容波長帯域光で筐体2内を照明しているので、その照明光のもとでピンホール発生に伴う気泡などを作業者が直接目で確認でき、ヒータ32の交換が迅速に対応できる。これにより、洗浄槽内の破損したヒータから発生するピンホールから薬液がしみこんでヒータ線を腐食し金属が洗浄液中に溶出する、などといったトラブルの見逃し・見落としを回避できる。
【実施例】
【0052】
[実施例1]
次に、図5を参照しながら、本発明の照明装置の許容波長帯域(γ)の光を用いた照明により洗浄作業を行った場合と、禁止波長帯域(β)の光を用いた照明により洗浄作業を行った場合とについて、欠陥の成長に伴って発生する大型ピットの形成数などを調べる比較実験を説明する。
【0053】
本実施形態の自動搬送装置20及び洗浄ユニット30を備えた半導体ウエハの洗浄装置1において、特に許容波長帯域光を出射する照明装置A又はBを用いた場合と、禁止波長帯域光を出射する一般的な照明装置Cを用いた場合について、所定の洗浄作業を行わせた時に発生する欠陥(ピット)の成長具合、つまり大型ピット、例えば20〜30nm程度まで成長したものの集合体が形成される割合を調べる実験を行ってみた。ここで使用した薬液は、29%アンモニア水と31%過酸化水素水と超純水とを1:5:50で混合したもので、温度は80℃、洗浄時間はピット生成を加速するため80分とした。
【0054】
その結果、図5に示すようなデータが得られた。なお、同図では、試料となる半導体ウエハWの全表面において、上記大型ピットが発生する頻度(発生割合)を縦軸に、筐体2内部での照明光(洗浄槽40に入射する可視光)の波長(nm)を横軸に、それぞれ設定した。
【0055】
この図5によれば、本発明に係る許容波長帯域光を用いれば、従来の一般的な照明光、つまり禁止波長帯域光を含む可視光を出射する場合に比べて、大型ピットの発生頻度が大幅に抑えられることが確認できた。即ち、可視光線の波長帯域のうち、580nmより長波長側である禁止波長帯域(β)の光を遮断する照明装置Bの方が、580nmより長波長側である禁止波長帯域光を出射する照明装置Cを用いた場合の大型ピットの発生頻度に比べて、その4割程度に発生頻度を抑えることができることが確認できた。
【0056】
一方、近紫外光に近い短波長域側の可視光を出射する照明装置Aでは、照明装置Bよりは効果が少ないが、580nmより長波長側である禁止波長帯域光を出射する照明装置Cを用いた場合の大型ピットの発生頻度に対して、その6割程度の発生頻度に抑えることができることが確認できた。
【0057】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、各種の態様が適用可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 半導体ウエハの洗浄装置
2 筐体
3 洗浄液
10 照明装置
11 光源
20 自動搬送装置
24 ロボットアーム
30 洗浄ユニット
31 循環用ポンプ
32 加熱用ヒータ
33 連通管
34 フィルタ
40 洗浄槽
41 本体
42 蓋体
50 クリーンルーム
60 透明窓
70 照明器具
F フィルタ膜
W 半導体ウエハ(被洗浄物)
γ 許容波長帯域(但し、λ≦γ≦λ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄槽内の洗浄液に浸漬することにより表面の洗浄を行うシリコン半導体ウエハの洗浄方法において、
前記洗浄液が、アンモニア、水酸化テトラメチルアンモニウム、及びコリンのうちの少なくとも1つと、過酸化水素水と、純水とからなり、さらに
洗浄液浸漬中、及び洗浄槽から引き上げた後ウエハの表面に洗浄液が付着している間、ウエハに短波長可視光を照射することを特徴とする半導体ウエハの洗浄方法。
【請求項2】
前記短波長可視光の波長域が、
可視光と紫外光との境界波長から580nmの波長であることを特徴とする、請求項1に記載の半導体ウエハの洗浄方法。
【請求項3】
半導体ウエハの表面の洗浄装置であって、
筐体と、
前記筐体内に設置したシリコン半導体ウエハを浸漬する洗浄槽とからなり、
前記筺体内に照明装置が配置されており、該照明装置により、ウエハが洗浄液に浸漬中、及び洗浄槽から引き上げた後ウエハ表面に洗浄液が付着している間、ウエハに短波長可視光を照射し、かつ
前記洗浄液が、アンモニア、水酸化テトラメチルアンモニウム、及びコリンのうちの少なくとも何れか1つと、過酸化水素水と、純水とからなる、
ことを特徴とする半導体ウエハの洗浄装置。
【請求項4】
さらに加熱用ヒータ、及び循環用ポンプと、ポンプと洗浄槽とを連通させる連通管とを備え、かつ加熱用ヒータ及び洗浄槽に前記短波長可視光のみを透過させる手段を設けたことを特徴とする、請求項3に記載の半導体ウエハの洗浄装置。
【請求項5】
前記短波長可視光の波長域が、
可視光と紫外光との境界波長から580nmの波長であることを特徴とする、請求項3又は4に記載の半導体ウエハの洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−171395(P2010−171395A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285574(P2009−285574)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(599119503)ジルトロニック アクチエンゲゼルシャフト (223)
【氏名又は名称原語表記】Siltronic AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】