説明

半導体モジュール

【課題】本明細書は、半導体カードと冷却プレートを交互に積層し、その積層体を積層方向に付勢して密着する半導体モジュールに関し、半導体カードと冷却プレートの間に挟んだ絶縁板を破損から保護する技術を提供する。
【解決手段】半導体モジュール100は、複数の平板型の冷却プレート2と半導体素子を収めた複数の平板型の半導体カード3を交互に積層したものである。その半導体モジュール100は、半導体カード3を冷却プレート2から絶縁する絶縁板4を、冷却プレートと半導体カードの間に挟んでいる。積層体は、板バネ14によりその積層方向に付勢され、冷却プレート2、絶縁板4、半導体カード3の密着が維持される。半導体モジュール100では、絶縁板4と対向する冷却プレート表面に窪み2aが設けられており、その窪み2aは、その縁の少なくとも一部が半導体カード3の端部よりも内側に位置するように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子を収めた平板型の複数の半導体カードと冷却器が一体となった半導体モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
インバータや電圧コンバータで用いられるIGBTや還流ダイオードなどの半導体素子は、発熱量が大きい。それらの素子は、パワー半導体素子、あるいは単にパワー素子などと呼ばれることがある。発熱量は、流れる電流の大きさに依存する。従って、大きな出力が要求される車輪駆動用のモータ(ハイブリッド車を含む電気自動車用の走行用モータ)に電力を供給するインバータや電圧コンバータは、発熱量の大きいパワー素子を多数用いる。他方、車両搭載機器にはコンパクト性も求められる。そこで、電気自動車用に、多数のパワー素子と冷却器を一体化した半導体モジュールが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、発熱量の大きい半導体素子(パワー素子)を平板型の筐体(半導体カード、あるいは半導体パッケージと呼ばれることがある)に収め、複数の半導体カードと扁平チューブ(内部を冷媒が流れる平板型の冷却プレート)を交互に積層した半導体モジュールが提案されている。その半導体モジュールは、半導体カードを両面から冷却することで、コンパクトで高い冷却能力を確保している。
【0004】
半導体カードから冷却プレートへの熱伝達効率を高めるため、特許文献1に例示される積層型の半導体モジュールでは、その積層方向に付勢し、半導体カードと冷却プレートの密着性を高めている。特許文献1の半導体モジュールでは、積層体をその積層方向からみて両側に冷媒を通すタンク(冷媒流路)が接続されている。従って各冷却プレートは、その両側でタンクに支持されつつ、2本のタンクの間で積層方向に圧力を受け、撓む可能性がある。特許文献1には、冷却プレートが弓なりに変形すると半導体カードとの密着性が低下し冷却効率が低下してしまうことを避けるため、冷却プレートのタンク支持部の近傍にくびれを設けることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−228877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したように、半導体カードと冷却プレートを交互に積層した半導体モジュールでは、半導体カードから冷却プレートへの熱伝達効率を高めるために積層体をその積層方向に付勢する。他方、半導体カードと冷却プレートの間の絶縁を確保するため、半導体カードと冷却プレートの間に絶縁板を挟む場合がある。絶縁板は、絶縁性が高いことが望ましいので、セラミクス板(セラミクスを主成分とする板)が用いられる。他方、伝熱性の観点からは、絶縁板は薄い方が望ましい。ところがセラミクス板は柔軟性に乏しく割れ易い。半導体カードと冷却プレートの間にセラミクス製の絶縁体を挟んだ積層体をその積層方向に付勢すると、冷却プレートが撓んだりして絶縁体に応力集中が生じ、破損する虞がある。
【0007】
本発明は、上記課題を解決する。本明細書は、半導体カードと冷却プレートを交互に積層し、その積層体を積層方向に付勢した半導体モジュールに関し、半導体カードと冷却プレートの間に挟んだ絶縁板を破損から保護する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書が開示する半導体モジュールは、複数の平板型の冷却プレートと半導体素子を収めた複数の平板型の半導体カードを交互に積層したものである。その半導体モジュールは、半導体カードを冷却プレートから絶縁する絶縁板を、冷却プレートと半導体カードの間に挟んでいる。積層体は、バネによりその積層方向に付勢され、冷却プレート、絶縁板、半導体カードの密着が保たれている。さらに本明細書が開示する半導体モジュールでは、絶縁板と対向する冷却プレート表面に窪みが設けられており、窪みは、その縁の少なくとも一部が、半導体カードの端部よりも内側に位置するように配置されている。
【0009】
本明細書が開示する技術は、主に次の2点の工夫により絶縁板を破損から保護する。一つは、冷却プレートに窪みを設け、冷却プレート自体の剛性を高めることである。内部を冷媒が流れる冷却プレートは、内部がほとんど空洞の管であり、剛性が低い。さらに、加工性やコストの観点から冷却プレートはアルミや銅のプレス加工で製造されることがよくある。即ち、冷却プレートは、金属板をプレス加工して作られ、内部がほとんど空洞の筒状であることが多く、通常は剛性が高くはない。冷却プレートに設ける窪みは、冷却プレートの内側からみると「リブ」に相当し、冷却プレートの剛性を高める。即ち、窪みは、積層方向の荷重に対して冷却プレートの撓みを小さくする。冷却プレートの撓みは、絶縁板に偏荷重を加える要因となり、偏荷重は絶縁板を破損させる要因となる。窪みは冷却プレートの撓みを小さくし、それによって絶縁板を破損し難くする。
【0010】
他の一つは、上記した窪みを、その縁の少なくとも一部が半導体カードの端部よりも内側に位置するように配置することである。窪みの縁は剛性が高くなるため、縁部分の圧縮応力が大きくなる。その縁部分の圧縮応力を絶縁板のみで受けずに、半導体素子で受けることによって、絶縁板に加わる圧縮応力を低減し、絶縁板を破損から保護する。
【0011】
冷却プレートは、好ましくは、内部に冷却媒体が流れる流路を有しているのがよい。また、窪みは、好ましくは、流路側に突出し、半導体カードの四隅近傍に配置されているのがよい。窪みは、流路の幅を狭め、これによって半導体素子の中央部に集中的に冷媒が流れることになる。即ち、窪みは半導体素子の冷却能力の向上に貢献する。
【0012】
本明細書が開示する半導体モジュールの詳細、及び、さらなる改良については発明の実施の形態において説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】半導体モジュールの斜視図である。
【図2】冷却プレートと半導体カードと絶縁板の位置関係を示す斜視図である。
【図3】冷却プレートと半導体カードと絶縁板の位置関係を示す平面図(A)と側面図(B)である。
【図4】冷却プレートの分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に、半導体モジュール100の模式的斜視図を示す。半導体モジュール100は、電気自動車のモータに交流電力を供給するインバータや電圧コンバータに用いられるユニットである。半導体モジュール100は、インバータやコンバータの電子回路のうち、発熱の特に大きな素子、具体的には交流を発生するスイッチング素子や、昇圧/降圧回路のスイッチング素子を集積し、冷却装置と一体化したユニットである。スイッチング素子は、典型的にはIGBTであるが、IGBTの逆並列に接続される還流ダイオードを含んでもよい。半導体モジュール100は、IGBTなどの半導体素子を封止した複数のパッケージ(半導体カード3)と複数の冷却プレート2を積層した構造を有している。半導体カード3も冷却プレート2も共に平板型に形成されている。別言すれば、半導体モジュール100は、複数の冷却プレート2が平行に配置され、隣接する冷却プレート2の間に半導体カード3を挟んだ構造を有している。冷却プレート2はアルミや銅などの熱伝導率の高い金属で作られている。他方、半導体カード3は、典型的には、樹脂モールドで半導体素子を封止したものである。なお、図示を省略しているが、半導体カード3の表面には、内部の半導体素子の熱を表面に移送する放熱板が備えられることもある。さらに、図示を省略しているが、内部の半導体素子から各半導体カード3の外部へと電極が伸びており、他の回路と接続される。
【0015】
冷却プレート2の内部は冷媒が流れる空洞(冷媒流路)になっている。それぞれの冷却プレート2には、その長手方向の両端に2個の貫通孔が設けられており、隣接する冷却プレート同士が接続管5によって連結される。積層体の端に位置する冷却プレートの貫通孔には冷媒を供給する供給管8と冷媒を排出する排出管7が接続される。供給管8から供給される冷媒は、冷却プレート2内の冷媒流路と接続管5に分流し、次々に下流の冷却プレート2へと流れる。冷媒は、冷却プレート内を通過する間に半導体カード3の熱を吸収し、半導体カード3を冷却する。冷却プレート内を通過した冷媒は、他方の貫通孔を通じて合流し、最終的に排出管7へ至る。なお、冷媒は好ましくは液体であり、例えばLLC(Long Life Coolant)である。
【0016】
冷却プレート2と半導体カード3の間には、絶縁板4が挟まれている。絶縁板4は、セラミクス製である。また、冷却プレート2と半導体カード3の積層体は、ブラケット12に挟まれて固定される。ブラケット12の一端には板バネ14が配置されており、その板バネ14が、積層体をその積層方向に付勢する。板バネ14により、冷却プレート2、絶縁板4、及び、半導体カード3が強く密着し、高い熱伝達効率が確保される。他方、セラミクス製の絶縁板4は、冷却プレート等と比較して脆弱であり、板バネ14の荷重により割れる虞がある。
【0017】
絶縁板4の破損を防止するため、冷却プレート2の表面には窪み2aが設けられている。図2に、2枚の冷却プレート2と、それらに挟まれる絶縁板4と半導体カード3の分解斜視図を示す。図1に示したように、冷却プレート2と半導体カード3は何重にも積層されるが、理解し易くするために、図2では2枚の冷却プレート2とそれらの間に挟まれる1枚の半導体カード3と2枚の絶縁板4のみを示している。図3に、冷却プレート2と絶縁板4と半導体カード3の位置関係を示す平面図(図3(A))と側面図(図3(B))を示す。窪み2aは、半導体カード3と対向する冷却プレート表面に、一面につき4箇所設けられている。窪み2aは、貫通孔よりも内側に設けられている。また、窪み2aは、冷却プレート2の側面(積層方向と交差する方向の側面)に向かって開いている。図3に良く示されているように、窪み2aは、その上を半導体カード3の縁3aと絶縁板4の縁4aが通過するように配置されている。別言すれば、窪み2aは、その上に、2つの交点、即ち、冷却プレート2の縁と半導体カード3の縁3aとが交差する点、及び、冷却プレート2の縁と絶縁板4の縁4aとが交差する点、が位置するように配置される。冷却プレート2の縁と半導体カード3の縁3a(絶縁板4の縁4a)とが交差する点は冷却プレート一面あたり4箇所あり、その4箇所のそれぞれに窪み2aが設けられている。
【0018】
冷却プレート2の内部構造を説明する。図4に、冷却プレート2の分解図を示す。冷却プレート2は、筐体に相当する外板21、23と、それらの間に挟まれる中板22を有する。容器状の外板21、23は、アルミニウムの板をプレス加工して成形される。外板21の内部には波板で構成されるフィン24が配置され、中板22がフィン24を抑える。また、外板23の内部にもフィン24が配置され、これも中板22が抑える。フィン24は中板22と外板21、23の双方に接触し、半導体カード3から伝わる熱を冷却プレート2の全体に拡散し易くしている。また、フィン24は、冷却プレート2の内部を流れる冷媒との接触面積を増加させ、冷媒への熱伝達効率を向上させる。図4によく示されているように、外側から見たときの窪み2aは、外板21、23の内側からみるとリブに相当し、外板21、23の剛性を高める。
【0019】
窪み2aの利点を説明する。冷却プレート2は、アルミニウムの板をプレス加工により容器状に成形したものである。そのため、剛性が低い。窪み2aは、冷却プレート2の内部からみるとリブに相当し、冷却プレート2の剛性を高める役割を果たす。それゆえ、冷却プレート2は積層方向の荷重を受けても撓み難くなり、絶縁板4に大きな偏荷重が加わることを抑制し、絶縁板4を破損し難くする。
【0020】
また、窪み2aは、その上を絶縁板4の縁4aと半導体カード3の縁3aが通るように配置されている。特に、窪み2aは、冷却プレート2の一表面の4箇所に設けられている。その4箇所のそれぞれは、冷却プレート2の縁と絶縁板4の縁4aが交差する箇所、及び、冷却プレート2の縁と半導体カード3の縁3aが交差する箇所である。剛性の高い窪み2aの周囲と半導体カード3に挟まれる絶縁板4の部位は集中荷重を受け易くなる。特に、絶縁板4において、半導体カード3の縁3aが当接する部位は、縁3aから曲げ荷重を受ける。しかし、絶縁板4の縁4aと半導体カード3の縁3aは窪み2aの空間によって撓む余地があり、集中荷重を受けても撓むことで応力が分散する。絶縁板4の縁4aの付近は、冷却プレート2の窪み2aの周辺で集中荷重が加わるが応力が分散するので割れ難くなる。窪み2aは、主として、(1)冷却プレート2の剛性を高めること、及び、(2)絶縁板4に生じる応力を分散させること、の2点の効果により絶縁板4を破損から保護する。
【0021】
窪み2aの配置は、別言すれば、窪み2aの少なくとも一部が、半導体3の端部よりも内側に位置しているということができる。また、冷却プレート2の内側から見れば、窪み2aは、流路側に突出し、半導体カード3の四隅近傍に配置されていることになる。窪み2aの縁は剛性が高くなるため、縁部分の圧縮応力が大きくなる。窪み2aの少なくとも一部が、半導体3の端部よりも内側に位置するように窪み2aを配置することによって、その縁部分の圧縮応力を絶縁板4のみで受けずに、半導体素子で受けることになり、絶縁板4に加わる圧縮応力が低減される。その結果、絶縁板4を破損から保護することになる。また、流路側に突出する窪みは、流路の幅を狭める役割を果たす。これによって半導体素子の中央部に集中的に冷媒が流れることになる。即ち、窪み2aは、半導体素子の冷却能力の向上に貢献する。
【0022】
実施例の技術に関する留意点を述べる。積層体を付勢するバネは、板状のバネであってもよいし、コイルバネであってもよい。窪みの幅、深さ、及び、長さは、本明細書が開示する技術的思想の範囲内で個別の半導体モジュールの特性に応じて適宜に選定すればよい。図2、図4に良く示されているように、実施例における窪みの底は平坦である。窪みの底は、湾曲していてもよい。さらには、窪み全体の形状も、本明細書が開示する技術的思想の範囲内で個別の半導体モジュールの特性に応じて適宜に選定すればよい。
【0023】
また、窪みを冷却プレートの中央まで延設し、絶縁板のより広い面積で応力を受けるようにしてもよい。また、窪みを浅くすることで、窪みの縁の剛性を低下させ、応力を低下させるようにしてもよい。さらには、窪みを冷却プレートの中央まで延設するとともに浅くすることも好適である。
【0024】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0025】
2:冷却プレート
2a:窪み
3:半導体カード
4:絶縁板
5:接続管
7:排出管
8:供給管
21、23:外板
22:中板
24:フィン
100:半導体モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の平板型の冷却プレートと、
半導体素子を収めた複数の平板型の半導体カードと、
半導体カードを冷却プレートから絶縁する絶縁板と、
冷却プレートと半導体カードを交互に積層した積層体であり、冷却プレートと半導体カードの間に絶縁板を挟んだ積層体をその積層方向に付勢するバネと、
を備えており、
絶縁板と対向する冷却プレート表面に窪みが設けられており、当該窪みの縁の少なくとも一部が、半導体カードの端部よりも内側にある、ことを特徴とする半導体モジュール。
【請求項2】
冷却プレートは内部に冷却媒体が流れる流路を有し、前記窪みは流路側に突出し、半導体カードの四隅近傍に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の半導体モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−115137(P2013−115137A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258043(P2011−258043)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】