説明

半導体レーザ素子、光電変換装置および光情報処理装置

【課題】発熱に起因する活性層の劣化を抑制することの可能な半導体レーザ素子、光電変換装置および光情報処理装置を提供する。
【解決手段】活性層を含むと共に上面に第1電極を有するメサ部と、前記メサ部を覆うと共に前記第1電極に達する第1接続孔を有する埋め込み部と、前記埋め込み部上に前記第1接続孔を跨がるよう設けられると共に前記第1接続孔を介して前記第1電極に電気的に接続された第1配線とを備えた半導体レーザ素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、メサ部を有する半導体レーザ素子、光電変換装置および光情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、MPU(Microprocessor Unit)の高機能化に伴い、LSI(Large Scale Integration)等の半導体チップ間のデータの授受量が著しく増大しており、信号授受の高速化および大容量化が切望されている。この実現手段の一つとして、電気信号を光信号に変換して信号を伝送する、光伝送結合技術(光インターコネクション)が注目されている(例えば、“光配線との遭遇”、日経エレクトロニクス、2001年12月3日、122〜125頁、図4〜7および、安藤泰博、“光インタコネクション技術の動向と次世代装置実装技術”、NTT R&D、Vol.48,No.3,p.271-280(1999)参照)。
【0003】
光伝送結合技術(光配線)は、プリント配線基板上に発光素子(例えば面発光型半導体レーザー素子)と受光素子(例えばフォトダイオード)とを設け、光導波路を介して光信号を伝送するものである(例えば、特許文献1,2,3)。
【0004】
この発光素子としての面発光型半導体レーザ(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)素子は、例えば基板側から、n側電極、下部DBR(Distributed Bragg Reflector)層、活性層、上部DBR層およびp側電極をこの順に有し、一部にはメサ部が設けられている。このメサ部は樹脂からなる絶縁層に埋め込まれている。即ち、このような積層体の上面は平坦面となりフリップチップ実装が可能となる(例えば、特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−181610号公報
【特許文献2】特開2006−237428号公報
【特許文献3】特開2006−258835号公報
【特許文献4】特開2010−141087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この半導体レーザ素子では、絶縁層のないものと比較して発光寿命が短いという問題が生じていた。
【0007】
本技術はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、メサ部の周囲に埋め込み部を設けてフリップチップ実装を可能とし、かつ、発光寿命を向上させた半導体レーザ素子、光電変換装置および光情報処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本技術の半導体レーザ素子は、活性層を含むと共に上面に第1電極を有するメサ部と、メサ部を覆うと共に第1電極に達する第1接続孔を有する埋め込み部と、埋め込み部上に第1接続孔を跨がるよう設けられると共に第1接続孔を介して第1電極に電気的に接続された第1配線とを備えたものである。具体的に、例えば、第1配線は第1接続孔の両側に円柱状のメサ部の半径以上の長さで延在するものである。
【0009】
半導体レーザ素子では、起動させた際の発熱により、あるいは周囲の温度変化により埋め込み部の熱膨張が起こるが、ここでは、第1配線が第1接続孔の両側に跨がるように設けられているので、埋め込み部と第1配線との熱膨張率の差に起因してメサ部にかかる応力が第1接続孔の両側で互いに相殺されやすくなる。
【0010】
本技術の光電変換装置は、複数の上記半導体レーザ素子を備えたものであり、本技術の光情報処理装置は、上記半導体レーザ素子、およびこの半導体レーザ素子から出射された光の受光素子を備えたものである。
【発明の効果】
【0011】
本技術の半導体レーザ素子、光電変換装置および光情報処理装置によれば、第1配線を第1接続孔に跨がって設けるにしたので、メサ部に偏った方向の応力がかかることを抑えることができる。よって、埋め込み部の熱膨張による活性層の劣化を防止して、発光寿命を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本開示の一実施の形態に係る光電変換装置における半導体レーザ素子の構成を表す図である。
【図2】図1に示した光電変換装置の製造方法を工程順に表す図である。
【図3】図2に続く工程を表す図である。
【図4】図3に続く工程を表す図である。
【図5】図4に続く工程を表す図である。
【図6】図5に続く工程を表す図である。
【図7】図6に続く工程を表す図である。
【図8】図7に続く工程を表す図である。
【図9】図8に続く工程を表す図である。
【図10】図9に続く工程を表す図である。
【図11】図10に続く工程を表す図である。
【図12】比較例に係る半導体レーザ素子の構成を表す図である。
【図13】変形例に係る半導体レーザ素子の構成を表す図である。
【図14】図1に示した光電変換装置の適用例に係る光情報処理装置の構成を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本技術の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.実施の形態
第1配線が第1接続孔に跨がるように設けられている例
2.変形例
第1配線に加え、第2配線も第2接続孔に跨がるように設けられている例
3.適用例
光情報処理装置の例
【0014】
〔実施の形態〕
図1は本開示の一実施の形態に係る光電変換装置(光電変換装置1)を構成する面発光型半導体レーザ素子(半導体レーザ素子2)の構造を表している。光電変換装置1には、この半導体レーザ素子2が複数配置されている。光電変換装置1は入力された電気信号を光信号に変換して送信する発光装置であり、受光装置(受光素子)と組み合わせることにより光情報処理装置(例えば、後述の図14 光情報処理装置3)を構成する。図1(A)は半導体レーザ素子2の上面の構成を表し、図1(B)は図1(A)のB−B線に沿った断面構成を表している。光電変換装置1を一つ(単数)の半導体レーザ素子2により構成するようにしてもよい。
【0015】
半導体レーザ素子2は、基板11上に活性層24を含む積層体20、絶縁層31、配線(p側配線41およびn側配線42)、パッシベーション層51、UBM(Under Bump Metal)層61,62および、はんだバンプ71,72をこの順に有している。はんだバンプ71,72は、インターポーザなどにフリップチップ実装し、電気的に接続するために設けられている。この半導体レーザ素子2は、インターポーザなどに搭載された制御用半導体チップからの信号を受けて基板11側からレーザ光が出射するものである。
【0016】
基板11は光透過性基板(透明基板)であり、例えばガラス基板,樹脂基板またはサファイア基板により構成されている。サファイア基板からなる基板11は放熱性の点で優れている。この基板11の表面には台座12が設けられ、この台座12上に積層体20が配置されている。台座12および積層体20の互いの対向面は同一形状、例えば正方形となっている。詳細は後述するが、この台座12によって、密に積層体20を形成した素子形成基板(図2 素子形成基板29A)から所望の数の積層体20を容易に基板11に転写することが可能となる。基板11の厚み(積層方向の厚み、以下、単に厚みという)は例えば500μmであり、台座12の高さは例えば1〜10μmである。基板11の下面(裏面)の活性層24(積層体20)に対向する位置にはレンズ13(コリメートレンズ)設けられており、活性層24から出射された光を平行光化して射出するようになっている。レンズ13の直径は例えば240μmであり、台座12の中心はレンズ13の中心と平面視で同位置にある。
【0017】
積層体20は、基板11側からN−GaAs層21、下部DBR層22(第1多層反射膜)、活性層24、上部DBR層25(第2多層反射膜)およびp側電極26(第1電極)をこの順に有している。この積層体20の下部DBR層22の一部より上層(下部DBR層22の上部、活性層24、上部DBR層25およびp側電極26)に円柱状のメサ部20Mが設けられている。p側電極26はメサ部20Mの上面に、p側電極26と対をなすn側電極23(第2電極)はメサ部20Mの周囲に設けられている。n側電極23は一つであってもあるいは複数であってもよい。p側電極26は上部DBR層25の上部に、n側電極23は下部DBR層22の下部にそれぞれ接している。積層体20は、メサ部20Mおよびn側電極23が絶縁層27(第1絶縁層)に覆われたものである。即ち、メサ部20Mは絶縁層27に埋め込まれることにより保護され、積層体20はその上面が平坦化された柱状(四角柱)の形状を有して、フリップチップ実装が可能となる。メサ部20Mは例えば平面視で直径42μmの円であり、積層体20は例えば一辺が46μmの正方形である。メサ部20Mの円の中心と積層体20の正方形の中心とは略同位置である。
【0018】
絶縁層27は樹脂により構成されており、例えばポリイミドからなる。絶縁層27にはp側電極26をp側配線41に、n側電極23をn側配線42にそれぞれ電気的に接続するためのp側電極26に達する接続孔28HA、n側電極23に達する28HBが設けられている。接続孔28HAはメサ部20M(積層体20)の中心部に1箇所、接続孔28HBは積層体20の角部周辺に2箇所配置されている。この2つの接続孔28HBは、積層体20の上面に対角線上に設けられており、メサ部20Mの中心を対称点として点対称に配置されていることが好ましい。n側配線42のうち、積層体20の直上の対向領域(後述の対向領域42A)を点対称に設けることができるからである。
【0019】
n側電極(カソード電極)23は、p側電極(アノード電極)27と共に下部DBR層22、活性層24および上部DBR層25に電圧を印加するためのものであり、例えばゲルマニウム(Ge)、金(Au)、ニッケル(Ni)および金をこの順に積層させたものにより構成されている。N−GaAs層21はn型GaAs層からなる。下部DBR層22は低屈折率層と高屈折率層とが交互に積層されたものであり、例えばn型AlGaAs層からなる。活性層24は量子井戸構造を有し、例えば井戸層、障壁層としてGaAs層およびAlGaAs層を有している。上部DBR層25は、下部DBR層22と同様に低屈折率層と高屈折率層とが積層されたものであり、例えばp型AlGaAs層からなる。上部DBR層25のうち活性層24の近傍には酸化狭窄部25Aが設けられ、電流狭搾機能を担っている。酸化狭窄部25Aは上部DBR層25の周縁に環状に設けられ、これにより中心部に電流注入領域が生じるようになっている。酸化狭窄部25Aは、例えば酸化アルミニウム(Al23)を含んで構成されている。p側電極26は、例えばチタン(Ti)、白金(Pt)、ニッケルおよび金の積層構造を有している。積層体20全体の厚みは例えば6μmである。
【0020】
絶縁層31(第2絶縁層)は積層体20の上面および隣り合う積層体20の間に設けられ、積層体20を覆っている。絶縁層31は樹脂、例えば厚み10〜15μm程度のポリイミドからなる。絶縁層31には、接続孔28HA,28HBと平面視で同位置に接続孔31HA,31HBが設けられている。接続孔31HA,31HBの直径は、例えば10μmである。本技術の埋め込み部は、絶縁層31および上述の絶縁層27により構成されており、本技術の第1接続孔が接続孔31HA,28HA、第2接続孔が接続孔31HB,28HBに相当する。
【0021】
p側配線41およびn側配線42は絶縁層31上に設けられている。p側配線41はp側電極26とはんだバンプ71(UBM層61)とを、n側配線42はn側電極23とはんだバンプ72(UBM層62)とを電気的に接続するものである。p側配線41は、積層体20の直上に対向領域41Aを有している。本実施の形態のp側配線41では、この対向領域41Aに余剰配線部41Bが設けられている。余剰配線部41Bは、対向領域41Aのうち接続孔31HAからはんだバンプ71と反対方向(180度反対方向)に延在している部分である。換言すれば、p側配線41は、はんだバンプ71から接続孔31HAを超えて延び、接続孔31HAの両側(はんだバンプ71側とその反対側)に跨がるように設けられている。余剰配線部41Bの一端(はんだバンプ71の反対側)は、他の端子に接続されておらず、p側配線41にははんだバンプ71側からのみ信号が入力されるようになっている。詳細は後述するが、この余剰配線部41Bにより絶縁層31に埋め込まれたメサ部20Mの劣化を抑えることができる。メサ部20Mの劣化抑制効果をより向上させるため、余剰配線部41Bはメサ部20Mの半径以上の長さを有することが好ましく、対向領域41Aがメサ部20Mの中心を対称点として、実質的に点対称の形状となっていることがより好ましい。即ち、p側配線41は接続孔31HAの両側にメサ部20Mの半径以上の長さで延在している。p側配線41と同様に、n側配線42も積層体20の直上に対向領域42Aを有している。n側配線42は、絶縁層31(絶縁層27)に2つの接続孔31HB(28HB)が設けられているため、2つの対向領域42Aを有している。n側配線42では、この2つの対向領域42Aがメサ部20Mの中心を対称点として実質的に点対称に配置されている。n側配線42は接続孔31HBの片側のみに設けられているものの、このような対向領域42Aの配置により更にメサ部20Mの劣化抑制効果が高まる。なお、実質的に点対称である、とは上記のメサ部20Mの劣化抑制効果を奏する程度であればよく、製造上の誤差等を含むものである。p側配線41およびn側配線42は互いに同層に配置されており、例えば、厚さ50nmのチタン(Ti)層と厚さ1000nmの銅(Cu)層との積層構造を有している。
【0022】
パッシベーション層51は例えば2μmの厚みのポリイミドからなり、p側配線41およびn側配線42の引き出し位置に例えば直径60μmの開口を有している。このパッシベーション層51の開口に、例えば直径80μmのUBM層61,62が設けられている。UBM層61,62は、例えば厚み50nmの金(Au)層および厚み5μmのニッケル(Ni)層により構成されている。はんだバンプ71,72は、例えば錫(Sn)・銀(Ag)・銅(Cu)の合金からなり、UBM層61,62上に設けられている。UBM層61,62およびはんだバンプ71,72は、例えば積層体20の対角方向に配置されている。
【0023】
この半導体レーザ素子2を複数有する光電変換装置1の製造方法を図2〜図11を用いて説明する。図2(A)〜図11(A)は各工程の平面図、図2(B)〜図11(B)は、図2(A)〜図11(A)に示したB−B線の断面図を表している。
【0024】
まず、例えば素子形成基板29A上に積層体20を形成する。積層体20の形成は、例えば、以下のように行う。ガリウム砒素(GaAs)からなる素子形成基板29A上に、例えばn型GaAs層、n型AlGaAs層、i−GaAs層およびp型AlGaAs層をこの順に結晶成長させた後、フォトリソグラフィおよびエッチングによって素子間を分離すると共にメサ部20Mを形成する。このとき、p型AlGaAs層のうちGaAs層側の一部にはAlAs層を形成しておく。このAlAs層を酸化させることにより酸化狭窄部25Aが形成される。次いで、p側電極26およびn側電極23を設けた後、絶縁層27を形成する。素子形成基板29A上にはできるだけ密に半導体レーザ素子2を形成しておくことにより、コストを下げることが可能となる。
【0025】
素子形成基板29A上に積層体20を設けた後、図2に示したように、接着層29Cを表面に有する支持基板29Bに絶縁層27(p側電極26側)を接触させて固定させる。その後、素子形成基板29Aをエッチングによって除去する。支持基板29Bは例えば石英基板であり、接着層29Cは例えばシリコーン樹脂などである。
【0026】
一方、台座12およびレンズ13を有する基板11を準備しておく(図3)。基板11には、レンズ13を保護するための保護壁14を設けておくことが好ましい。台座12は、例えば基板11がガラスなどの透明基板であればエッチングにより形成することができ、基板11が樹脂基板であれば射出成形により形成することができる。あるいは、基板11にアクリル系樹脂などの紫外線硬化樹脂、ポリイミドまたはSOG(Spin-On-Glass)等の樹脂層を設けた後、フォトリソグラフィおよびエッチングによって形成するようにしてもよい。このとき、隣り合う台座12同士の間隔を支持基板29B(素子形成基板29A)での隣り合う積層体20同士の間隔よりも大きくしておく。レンズ13および保護壁14は、ウエーハレベルでの半導体作製工程の応用により高精度かつ歩留りよく形成することが可能である。具体的には、グレイマスクを用いた三次元露光技術などによる三次元形状成形法などを応用すればよい。
【0027】
続いて、図4に示したように、基板11の表面(台座12側の面)に接着層15を設けた後、この接着層15に支持基板29Bに保持された積層体20を押し当てる。接着層15は、台座12を含む基板11の全面に、例えば紫外線硬化樹脂をスピンコート法などの塗布法によって形成する。積層体20は、この紫外線硬化樹脂の硬化前に当接させる。このとき、台座12の座面は台座12の周囲の面よりもわずかに高くなっており、支持基板29Bに保持されている積層体20のうち台座12と対向する領域の積層体20のみが基板11の接着層15に接触する。これにより、支持基板29Bから積層体20を間引き、所望の数の積層体20を基板11に転写することができる。換言すれば、素子形成基板29A上には効率良く(密に)積層体20を形成することができ、低コストで半導体レーザ素子2を形成することが可能となる。
【0028】
接着層15に積層体20を接触させた後、接着層15を硬化させて台座12上の積層体20を固定する。接着層15が紫外線硬化樹脂であれば、基板11の裏面から紫外線を照射すればよく、例えばI線を60秒間照射する。次いで、図5に示したように、支持基板29Bと基板11とを穏やかに離間させると台座12に対向する積層体20のみが基板11に接着して固定される。これ以外の積層体20は支持基板29Bに保持されたままとなり、次回以降の転写に使用される。
【0029】
台座12上に積層体20を設けた後、図6に示したように絶縁層31を形成する。続いて、図7に示したように、絶縁層31および絶縁層27に接続孔31HA(28HA),31HB(28HB)を形成する。
【0030】
接続孔31HA(28HA),31HB(28HB)を設けた後、図8に示したようにp側配線41およびn側配線42を形成する。p側配線41およびn側配線42は、例えば厚さ50nmのチタン層と厚さ1000nmの銅層とを絶縁層31上にこの順にスパッタリング法などにより成膜した後、これをパターニングして形成する。p側配線41およびn側配線42は、積層体20の直上から離間した部分にはんだバンプ71,72(UBM層61,62)と接続させるための略円状あるいは略楕円状の部分を設けると共に、この部分から接続孔31HA,31HBまで延在させ、更にp側配線41には余剰配線部41Bを形成する。この余剰配線部41Bは上述のようにメサ部20Mの劣化を抑制するためのものであり、対向領域41Aが点対称となるように形成することが好ましいが、効果が発揮できる程度の長さ(大きさ)であればよい。n側配線42は対向領域42Aに加え、その近傍も積層体20(メサ部20M)に対して点対称となるように形成することが好ましい。
【0031】
p側配線41およびn側配線42を形成した後、図9に示したようにp側配線41およびn側配線42上に例えばポリイミドを設けてパッシベーション層51を形成する。パッシベーション層51には、p側配線41およびn側配線42の引き出し位置に開口を形成しておく。次いで、このパッシベーション層51の開口にUBM層61,62を例えば無電解めっき法によって形成した後(図10)、はんだバンプ71,72を例えばめっき法により形成する(図11)。最後に、保護壁14の中央部に設けられたスクラブライン(図示せず)に沿って基板11を切断することにより、光電変換装置1が完成する。
【0032】
この光電変換装置1では、制御用半導体チップからはんだバンプ71,72を介した信号伝送により、p側電極26とn側電極23との間に電圧が印加され、レーザ発振のための駆動電流がp側電極26からn側電極23に向かって流れる。このとき、上部DBR層25を流れる電流は正孔となり、酸化狭窄部25Aにより狭窄されて活性層24に到達する。この活性層24に注入された正孔はn側電極23側から注入される電子と再結合して発光し、下部DBR層22と上部DBR層25との間を往復することにより増幅してレーザ発振となる。このレーザ光がN−GaAs層21、基板11を通過し、レンズ13によってコリメートされて取り出される。ここでは、p側配線41が余剰配線部41Bを有しているため、メサ部20Mの劣化が抑制される。以下、これについて比較例を用いつつ詳細に説明する。
【0033】
図12は比較例に係る半導体レーザ素子(半導体レーザ素子200)の構成を表したものであり、図12(A)は半導体レーザ素子200の上面図、図12(B)は図12(A)に示したB−B線の断面図である。この半導体レーザ素子200のp側配線141ははんだバンプ71から接続孔31HAまでのみに設けられており、積層体20の直上の対向領域141Aに余剰配線部を有していない。このp側配線141の延在方向には接続孔31HBが設けられている。接続孔31HB(28HB)はメサ部20Mの角部に3箇所設けられており、点対称に配置されていない。このような半導体レーザ素子200は、絶縁層27,31等がないもの、つまり、埋め込み化されていない半導体レーザ素子と比較して発光寿命が低下する。発明者らはこれが次のような理由によることを明らかにした。
【0034】
駆動により発熱した、あるいは外気温の上昇により高温化した半導体レーザ素子200では絶縁層27,31の熱膨張が生じる。絶縁層27,31の構成材料である樹脂は、p側配線141の構成材料である金属(銅、金等)よりも熱膨張率が一桁程度大きく、この熱膨張率の差によりメサ部20Mにはp側配線141の延在方向(はんだバンプ71の方向)に応力がかかる。即ち、メサ部20Mははんだバンプ71の方向(図12(B) 紙面右方向)にふられる。この応力がメサ部20Mの発光領域(活性層24)に偏った方向の力のモーメントを生じさせるため、活性層24が劣化して寿命が低下してしまう。特に、酸化狭窄部25Aは酸化により僅かに体積が変化して、微小な内部応力が発生するため強度が低下する虞がある。このような脆弱な酸化狭窄部25Aを有する電流狭窄構造の半導体レーザ素子ではより寿命が低下し易い。
【0035】
これに対し本実施の形態の半導体レーザ素子2では、p側配線41が接続孔31HAからはんだバンプ71と反対方向に延び、対向領域41Aに余剰配線部41Bが設けられている。つまり、p側配線41が接続孔31HAの両側に跨がるように設けられ、対向領域41Aが対称形に近づく。このため、メサ部20Mかかる応力が両側(図1(B) 紙面左右方向)で互いに相殺され、活性層24に偏った方向の力のモーメントが生じることが抑えられる。
【0036】
以上、本実施の形態では、p側配線41の対向領域41Aに余剰配線部41Bを設けるようにしたので、メサ部20Mに偏った方向の応力がかかることを抑えることができる。よって、絶縁層27の熱膨張による活性層24の劣化を防止して、発光寿命を向上させることが可能となる。
【0037】
また、接続孔31HAが積層体20(メサ部20M)の中心に配置されて対向領域41Aが点対称の形状を有することにより、両方向にかかる応力が均等になり、より発光寿命を向上させることができる。更に、n側配線41の2つの接続孔31HB(対向領域42A)を、メサ部20Mに対して点対称に配置することにより、偏った方向の応力をより低減させることができる。
【0038】
〔変形例〕
図13は、上記実施の形態の変形例に係る半導体レーザ素子(半導体レーザ素子2A)の構成を表したものであり、図13(A)は半導体レーザ素子2Aの平面構成、図13(B)は図13(A)に示したB−B線に沿った断面構成を表している。この半導体レーザ素子2Aは、n側配線42にも余剰配線部42Bが設けられている点において上記実施の形態の半導体レーザ素子2と異なるものである。その点を除き、半導体レーザ素子2Aは半導体レーザ素子2と同様の構成を有し、その作用および効果も同様である。上記実施の形態と共通の構成要素については同一符号を付してその説明は省略する。
【0039】
余剰配線部42Bは、接続孔31HBからはんだバンプ72と反対方向に延在する部分である。即ち、半導体レーザ素子2Aのn側配線42は、はんだバンプ72から接続孔31HBを越えて延び、接続孔31HBの両側に跨がるように設けられている。この余剰配線部42Bは、2つの接続孔31HBそれぞれに設けられている。余剰配線部42Bは、対向領域42Aとは別に積層体20の近傍に設けられ、例えばメサ部20Mの半径以上の長さを有している。このように対向領域42Aの近傍に余剰配線部42Bを設けることにより、直上のみでなく、その近傍からメサ部20Mにかかる偏った応力を抑え、更に発光寿命を向上させることが可能となる。
【0040】
〔適用例〕
上記実施の形態等で説明した光電変換装置は、例えば図14に示したような光情報処理装置(光情報処理装置3)に組み込まれる。
【0041】
光情報処理装置3は、プリント配線板310に実装された光導波路320、発光用光電変換装置330および受光用光電変換装置340により構成されている。例えば、この発光用光電変換装置330として本技術の光電変換装置を用いることができる。
【0042】
発光用光電変換装置330および受光用光電変換装置340は、インターポーザ350にはんだにより実装されている。このインターポーザ350の貫通電極361,362を介して発光用光電変換装置330および受光用光電変換装置340はIC371,372に電気的に接続されている。この光情報処理装置3では、発光用光電変換装置330の半導体レーザ素子により信号変調されたレーザ光が光導波路320を介して受光用光電変換装置340のフォトダイオードに受光される。このような光伝送・通信システムは、電子機器間、電子機器内のボード間、ボード内の半導体チップ間など、種々の箇所に適用可能である。
【0043】
以上、実施の形態および変形例を挙げて本技術を説明したが、本技術は上記実施の形態等に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態では、基板11に台座12およびレンズ13を有する半導体レーザ素子について説明したが台座およびレンズのない基板を使用するようにしてもよい。
【0044】
また、上記実施の形態等では、積層体20が四角柱状である場合を例示したが、積層体20は他の形状であってもよく、例えば、メサ部20Mを円形の深溝にして設けるようにしてもよい。
【0045】
更に、上記実施の形態等では、酸化狭窄部25Aを上部DBR層25の一部に設けた例について説明したが、酸化狭窄部は、他の場所に配置されていてもよく、あるいは、酸化狭窄部を省略してもよい。
【0046】
加えて、例えば、上記実施の形態において説明した各層の材料および厚み、または成膜方法および成膜条件などは限定されるものではなく、他の材料および厚みとしてもよく、または他の成膜方法および成膜条件としてもよい。
【0047】
更に、例えば、上記実施の形態では、半導体レーザ素子の構成を具体的に挙げて説明したが、全ての層を備える必要はなく、また、他の層を更に備えてもよい。更に、各層(部)の配置はこれに限定されるものではない。例えば、上記実施の形態等では、1つの接続孔31HAと2つの接続孔31HBとを設けるようにしたが、接続孔の個数は本技術の効果を発揮し得るものであればいくつであってもよい。
【0048】
更にまた、本技術は、AlGaAs系以外の半導体レーザ素子にも適用可能である。
【0049】
加えて、上記実施の形態では、半導体レーザ素子2を備えた光電変換装置1、即ち発光装置を例に挙げて説明したが例えばフォトダイオード等を備えた受光装置に適用させるようにしてもよい。
【0050】
なお、本技術は以下のような構成をとることも可能である。
(1)活性層を含むと共に上面に第1電極を有するメサ部と、前記メサ部を覆うと共に前記第1電極に達する第1接続孔を有する埋め込み部と、前記埋め込み部上に前記第1接続孔を跨がるよう設けられると共に前記第1接続孔を介して前記第1電極に電気的に接続された第1配線とを備えた半導体レーザ素子。
(2)前記メサ部は円柱状であり、前記第1配線は前記第1接続孔の両側に前記メサ部の半径以上の長さで延在している前記(1)記載の半導体レーザ素子。
(3)前記埋め込み部は、第1絶縁層および第2絶縁層を有し、前記メサ部は、前記第1絶縁層に覆われて柱状の積層体を構成し、前記第2絶縁層は、前記積層体を覆っている前記(1)または(2)記載の半導体レーザ素子。
(4)前記第1配線の前記積層体上の領域は、前記メサ部の中心を対称点として実質的に点対称の形状を有し、この領域のうち前記第1接続孔から一方に延在する部分は余剰配線部である前記(3)記載の半導体レーザ素子。
(5)前記積層体に設けられ、前記第1電極と対をなす第2電極と、前記埋め込み部に設けられ、前記第2電極に達する第2接続孔と、前記埋め込み部上に設けられると共に前記第2接続孔を介して前記第2電極に電気的に接続された第2配線とを有し、前記第2配線の前記積層体上の領域は、前記メサ部の中心を対称点として実質的に点対称の形状を有している前記(3)または(4)記載の半導体レーザ素子。
(6)前記第2配線は前記第2接続孔を跨がるよう設けられている前記(5)記載の半導体レーザ素子。
(7)透明基板の一方の面上に前記メサ部、他方の面に前記活性層に対応したレンズがそれぞれ設けられた前記(1)乃至(6)のうちいずれか1つに記載の半導体レーザ素子。
(8)前記透明基板の一方の面に台座を有し、前記台座上に前記メサ部が配置されている前記(7)記載の半導体レーザ素子。
(9)前記メサ部は、第1多層膜反射膜、前記活性層、酸化狭窄部を有する第2多層膜反射膜および第1電極をこの順に有する前記(1)乃至(8)のうちいずれか1つに記載の半導体レーザ素子。
(10)前記第1配線は、当該延在方向における前記第1接続孔の一方の側からのみ信号が入力される前記(1)乃至(9)のうちいずれか1つに記載の半導体レーザ素子。
(11)半導体レーザ素子を備え、前記半導体レーザ素子は、活性層を含むと共に上面に第1電極を有するメサ部と、前記メサ部を覆うと共に前記第1電極に達する第1接続孔を有する埋め込み部と、前記埋め込み部上に前記第1接続孔を跨がるよう設けられると共に前記第1接続孔を介して前記第1電極に電気的に接続された第1配線とを備えた光電変換装置。
(12)半導体レーザ素子および前記半導体レーザ素子から出射された光の受光素子を備え、前記半導体レーザ素子は、活性層を含むと共に上面に第1電極を有するメサ部と、前記メサ部を覆うと共に前記第1電極に達する第1接続孔を有する埋め込み部と、前記埋め込み部上に前記第1接続孔を跨がるよう設けられると共に前記第1接続孔を介して前記第1電極に電気的に接続された第1配線とを備えた光情報処理装置。
【符号の説明】
【0051】
1・・・光電変換装置、2,2A・・・半導体レーザ素子、3・・・光情報処理装置、11・・・ 基板、12・・・台座、13・・・レンズ、20・・・積層体、20M・・・メサ部、21・・・N−GaAs層、22・・・下部DBR層、23・・・n側電極、24・・・活性層、25・・・上部DBR層、26・・・p側電極、27・・・絶縁層、31・・・絶縁層、41・・・p側配線、42・・・n側配線、51・・・パッシベーション層、61,62・・・UBM層、71,72・・・はんだバンプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性層を含むと共に上面に第1電極を有するメサ部と、
前記メサ部を覆うと共に前記第1電極に達する第1接続孔を有する埋め込み部と、
前記埋め込み部上に前記第1接続孔を跨がるよう設けられると共に前記第1接続孔を介して前記第1電極に電気的に接続された第1配線と
を備えた半導体レーザ素子。
【請求項2】
前記メサ部は円柱状であり、
前記第1配線は前記第1接続孔の両側に前記メサ部の半径以上の長さで延在している
請求項1記載の半導体レーザ素子。
【請求項3】
前記埋め込み部は、第1絶縁層および第2絶縁層を有し、
前記メサ部は、前記第1絶縁層に覆われて柱状の積層体を構成し、
前記第2絶縁層は、前記積層体を覆っている
請求項1記載の半導体レーザ素子。
【請求項4】
前記第1配線の前記積層体上の領域は、前記メサ部の中心を対称点として実質的に点対称の形状を有し、この領域のうち前記第1接続孔から一方に延在する部分は余剰配線部である
請求項3記載の半導体レーザ素子。
【請求項5】
前記積層体に設けられ、前記第1電極と対をなす第2電極と、
前記埋め込み部に設けられ、前記第2電極に達する第2接続孔と、
前記埋め込み部上に設けられると共に前記第2接続孔を介して前記第2電極に電気的に接続された第2配線とを有し、
前記第2配線の前記積層体上の領域は、前記メサ部の中心を対称点として実質的に点対称の形状を有している
請求項3記載の半導体レーザ素子。
【請求項6】
前記第2配線は前記第2接続孔を跨がるよう設けられている
請求項5記載の半導体レーザ素子。
【請求項7】
透明基板の一方の面上に前記メサ部、他方の面に前記活性層に対応したレンズがそれぞれ設けられた
請求項1記載の半導体レーザ素子。
【請求項8】
前記透明基板の一方の面に台座を有し、前記台座上に前記メサ部が配置されている
請求項7記載の半導体レーザ素子。
【請求項9】
前記メサ部は、第1多層膜反射膜、前記活性層、酸化狭窄部を有する第2多層膜反射膜および第1電極をこの順に有する
請求項1記載の半導体レーザ素子。
【請求項10】
前記第1配線は、当該延在方向における前記第1接続孔の一方の側からのみ信号が入力される
請求項1記載の半導体レーザ素子。
【請求項11】
半導体レーザ素子を備え、
前記半導体レーザ素子は、
活性層を含むと共に上面に第1電極を有するメサ部と、
前記メサ部を覆うと共に前記第1電極に達する第1接続孔を有する埋め込み部と、
前記埋め込み部上に前記第1接続孔を跨がるよう設けられると共に前記第1接続孔を介して前記第1電極に電気的に接続された第1配線とを備えた
光電変換装置。
【請求項12】
半導体レーザ素子および前記半導体レーザ素子から出射された光の受光素子を備え、
前記半導体レーザ素子は、
活性層を含むと共に上面に第1電極を有するメサ部と、
前記メサ部を覆うと共に前記第1電極に達する第1接続孔を有する埋め込み部と、
前記埋め込み部上に前記第1接続孔を跨がるよう設けられると共に前記第1接続孔を介して前記第1電極に電気的に接続された第1配線とを備えた
光情報処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−84846(P2013−84846A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224950(P2011−224950)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】