説明

半導体封止用エポキシ樹脂組成物およびそれを用いた半導体装置

【課題】金属フレーム部・放熱板との接着力が向上し、成形時の金属フレーム部・放熱板との間での剥離の発生を抑制することのできる半導体封止用エポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】下記の(A)〜(D)成分を含有するエポキシ樹脂組成物である。
(A)エポキシ樹脂。
(B)フェノール樹脂。
(C)下記の式(1)で表される無水トリメリット酸および下記の式(2)で表されるトリメリット酸の少なくとも一方からなる接着付与剤。
【化1】


【化2】


(D)無機質充填剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パッケージフレームに対する接着力が向上し、パッケージモールド時における、封止樹脂とフレーム・放熱板の剥離発生を抑制することのできる半導体封止用エポキシ樹脂組成物およびそれを用いた半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トランジスタ、IC、LSI等の半導体素子は、外部環境の保護の観点および半導体素子のハンドリングを可能にする観点から、プラスチックパッケージ等により封止され半導体装置化されている。この種のパッケージ形態の代表例としては、ピン挿入型パッケージと表面実装用パッケージがあげられる。
【0003】
最近は、LSIチップ等の半導体装置の高集積化と高速化が進んでおり、加えて電子装置を小形で高機能にするという要求から、実装の高密度化が進んでいる。このような観点から、ピン挿入型パッケージに代えて、表面実装用パッケージが主流になってきている。この種のパッケージを用いた半導体装置は、平面的にピンを取り出し、これを実装基板表面に直接半田等によって固定するようになっている。このような表面実装型半導体装置は、平面的にピンが取り出せるようになっており、薄い,軽い,小さいという特徴を有しており、したがって実装基板に対する占有面積が小さくてすむという利点を備えている他、基板に対する両面実装も可能であるという長所も有している。
【0004】
一方、上記ピン挿入型パッケージの種類によっては、金属フレーム部や放熱板等の金属部分(Cu,42アロイ合金)に、Ag,パラジウム等のメッキが使用されている。また、近年主流となっている表面実装用パッケージにおいても、金属フレーム部表面をNiメッキ処理した放熱板を搭載したパッケージが用いられている。特に、Niメッキされたフレームや放熱板において、パッケージ成形時に、上記封止材料からなる封止樹脂部分(硬化体)と上記フレーム・放熱板との間で剥離が発生するという問題がある。
【0005】
このような半導体装置において、接着性,耐湿性等の特性向上を図るために、例えば、硬化促進剤として、無水トリメリット酸と1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7との反応生成物と、メルカプト基含有シランカップリング剤を配合した封止材料を用いることが提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10−176036号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記封止材料では、未だ、Niメッキされたフレームや放熱板に対する接着性に関して充分とは言えず、また、無水トリメリット酸と1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7との等モル混合物から得られる塩の融点は90〜100℃であり、通常の70〜95℃の熱ロールで混合する際に溶融が不充分で硬化促進剤の分散が悪くなり、硬化性にばらつきが生じやすいという問題がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、金属フレーム部・放熱板との接着力が向上し、成形時の金属フレーム部・放熱板との間での剥離の発生を抑制することのできる半導体封止用エポキシ樹脂組成物およびそれを用いた半導体装置の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、下記の(A)〜(D)成分を含有する半導体封止用エポキシ樹脂組成物を第1の要旨とする。
(A)エポキシ樹脂。
(B)フェノール樹脂。
(C)下記の式(1)で表される無水トリメリット酸および下記の式(2)で表されるトリメリット酸の少なくとも一方からなる接着付与剤。
【化1】

【化2】

(D)無機質充填剤。
【0009】
そして、本発明は、上記半導体封止用エポキシ樹脂組成物を用いて半導体素子を樹脂封止してなる半導体装置を第2の要旨とする。
【0010】
すなわち、本発明者らは、金属フレーム部および放熱板との接着力に優れ、成形時の金属フレーム部や放熱板との間での剥離の発生を抑制することのできる封止材料を得るべく鋭意検討を行った。そして、封止材料を構成する配合成分として、接着性向上に寄与する成分を中心に研究を重ねた結果、前記式(1)で表される無水トリメリット酸および前記の式(2)で表されるトリメリット酸の少なくとも一方からなる接着付与剤〔(C)成分〕を用いると、上記化合物において、遊離カルボン酸が金属フレーム上の金属とイオン結合する、あるいは金属フレーム上の水酸基等と水素結合する作用を奏すると推測されるため、形成された封止樹脂部分と、金属フレーム部や放熱板との接着力が向上し、結果、両者間での剥離等の発生が抑制されることを見出し本発明に到達した。
【発明の効果】
【0011】
このように、本発明は、前記式(1)で表される無水トリメリット酸および式(2)で表されるトリメリット酸の少なくとも一方からなる接着付与剤〔(C)成分〕を含有するものである。このため、金属フレーム部や放熱板との接着力が向上し、半田実装等での金属フレーム部や放熱板との間での剥離の発生が抑制され、信頼性の高い半導体装置を得ることができる。
【0012】
また、上記フェノール樹脂〔(B)成分〕と上記特定の接着付与剤〔(C)成分〕とを予備混合したものを用いると、上記接着付与剤が樹脂中に均一に溶解,分散することにより、安定した接着性が得られる。
【0013】
さらに、前記各成分に加えて特定のシリコン化合物を配合すると、半導体装置を構成するリードフレーム等の金属フレーム部や放熱板との接着性が一層向上し、半田実装時における剥離やクラック等の発生が抑制され、より信頼性の高い半導体装置を得ることができる。
【0014】
そして、本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、金属フレーム部や放熱板のなかでも、封止樹脂との接着性に劣る表面がNiメッキ処理された金属フレーム部や放熱板に対して特に優れた接着性を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A成分)と、フェノール樹脂(B成分)と、特定の接着付与剤(C成分)と、無機質充填剤(D成分)を用いて得られるものであって、通常、粉末状もしくはこれを打錠したタブレット状になっている。
【0016】
上記エポキシ樹脂(A成分)は、特に限定されるものではなく1分子内にエポキシ基を2個以上有する化合物が用いられる。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。このようなエポキシ樹脂としては、エポキシ当量150〜250、軟化点もしくは融点が50〜130℃のものが好ましい。
【0017】
上記エポキシ樹脂(A成分)とともに用いられるフェノール樹脂(B成分)は、上記エポキシ樹脂の硬化剤としての作用を奏するものであり、特に限定するものではなく1分子内に2個以上のフェノール性水酸基を有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般をいう。例えば、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ビフェニル型ノボラック、トリフェニルメタン型、ナフトールノボラック、フェノールアラルキル樹脂等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0018】
上記エポキシ樹脂(A成分)とフェノール樹脂(B成分)の配合割合は、エポキシ樹脂中のエポキシ基1当量あたり、フェノール樹脂中の水酸基当量が0.7〜1.3当量となるように配合することが好ましい。より好ましくは0.8〜1.2当量である。
【0019】
上記A成分およびB成分とともに用いられる特定の接着付与剤(C成分)は、下記の式(1)で表される無水トリメリット酸,下記の式(2)で表されるトリメリット酸であり、それぞれ単独で用いるか、もしくは併せて用いられる。本発明では、この特定の接着付与剤(C成分)を用いることにより、金属フレーム部および放熱板に対する優れた接着力を備えた半導体封止用エポキシ樹脂組成物が得られる。
【0020】
【化3】

【0021】
【化4】

【0022】
上記式(1)で表される無水トリメリット酸および式(2)で表されるトリメリット酸をそれぞれ単独で用いる場合、特に樹脂成分に対する溶解性という点から、上記無水トリメリット酸を用いることが好ましい。
【0023】
また、上記式(1)で表される無水トリメリット酸および式(2)で表されるトリメリット酸を併用する場合は、無水トリメリット酸(x)とトリメリット酸(y)の両者の混合割合は、x/y=0/100〜100/0の範囲に設定することが好ましい。より好ましくは、樹脂成分への溶解性の点から、x/y=50/50〜100/0である。
【0024】
そして、上記特定の接着付与剤(C成分)は、単独でそのまま他の成分と配合して用いてもよいが、上記フェノール樹脂(B成分)と後述の硬化促進剤さらには離型剤とともに予備混合して用いてもよいし、上記フェノール樹脂(B成分)のみと予備混合して用いてもよい。特に特定の接着付与剤(C成分)と上記フェノール樹脂(B成分)のみを予備混合して用いることが好ましい。このように、予めフェノール樹脂(B成分)と上記特定の接着付与剤(C成分)とを予備混合することにより、酸性のフェノール樹脂は、酸性の粘着付与剤を溶解しやすいため、均一溶解ないし均一分散され、接着性が安定した組成物を得ることができる。
【0025】
上記特定の接着付与剤(C成分)の含有量は、半導体封止用エポキシ樹脂組成物全体中の0.05〜1重量%の範囲に設定することが好ましく、特に好ましくは0.1〜0.7重量%である。すなわち、0.05重量%未満では、金属フレーム部に対する接着力の向上効果が得られ難く、逆に1重量%を超えると、封止樹脂の吸湿性が上がり、耐湿信頼性における不良発生等が生起する傾向がみられるからである。
【0026】
上記A〜C成分とともに用いられる無機質充填剤(D成分)としては、特に限定するものではなく従来公知の各種充填剤が用いられる。例えば、石英ガラス粉末、タルク、シリカ粉末、アルミナ粉末、窒化アルミニウム、窒化珪素粉末等があげられる。これら無機質充填剤は、破砕状、球状、あるいは摩砕処理したもの等いずれのものでも使用可能である。なかでも、得られる硬化物の線膨張係数を低減できるという点から上記シリカ粉末を用いることが好ましく、さらに上記シリカ粉末としては、溶融シリカ粉末、結晶性シリカ粉末等が用いられる。そして、これら無機質充填剤は単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0027】
そして、上記無機質充填剤(D成分)の含有量は、エポキシ樹脂組成物全体の70重量%以上に設定することが好ましく、より好ましくは75〜90重量%である。すなわち、70重量%未満では、封止樹脂の吸湿量が増大し、かつ樹脂強度が低下するため、半導体パッケージのリフロー時にクラックや剥離が発生しやすくなる傾向がみられるからである。
【0028】
本発明では、上記A〜D成分に加えて、シリコン化合物(E成分)を用いてもよい。上記シリコン化合物(E成分)を用いることにより、上記特定の接着付与剤(C成分)との併用による相乗効果が得られ、半導体装置を構成するリードフレーム等の金属フレーム部や放熱板と、封止樹脂との接着性が一層向上し、半田実装時における剥離やクラックの発生が抑制され、より一層信頼性の高い半導体装置を得ることのできる半導体封止用エポキシ樹脂組成物が得られるようになる。
【0029】
上記シリコン化合物(E成分)としては、エポキシ基,ポリエーテル基,カルボキシル基,フェノール性水酸基,チオール基およびアミノ基からなる群から選ばれた少なくとも一つの官能基を有するシリコン化合物を用いることが好ましい。これらの化合物としては、例えば、シランカップリング剤,上記官能基を有するオルガノポリシロキサン等があげられる。
【0030】
上記シランカップリング剤としては、特に限定するものではなく各種シランカップリング剤を用いることができる。具体的には、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノ系シランカップリング剤、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のエポキシ系シランカップリング剤、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト系シランカップリング剤等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0031】
上記官能基を有するオルガノポリシロキサンとしては、下記の一般式(3)に記載のエポキシ基,ポリエーテル基,カルボキシル基,フェノール性水酸基,チオール基およびアミノ基からなる群から選ばれた少なくとも一つの官能基を含有するものがあげられる。なかでも、ポリエーテル基とともに他の官能基を有するものが、金属フレーム等に対する接着性も良好である。
【0032】
【化5】

【0033】
上記一般式(3)において、Rは一価の炭化水素であって、それぞれ異なっていてもよいし同一であってもよい。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等の脂肪族アルキル基、シクロヘキシル基等の脂環式アルキル基、フェニル基等のアリール基、ベンジル基等のアラルキル基等があげられる。なかでも、応力低減性が良好であることからメチル基であることが好ましい。また、繰り返し数pは、低応力性の点から1〜1000の整数が好ましく、特に好ましくは10〜500の整数である。すなわち、繰り返し数pの数値が小さすぎると充分な低応力化効果を得ることが困難であり、逆に大きくなりすぎると、エポキシ樹脂組成物に対する分散性が悪くなる傾向がみられるからである。
【0034】
また、上記一般式(3)で表される化合物は、エポキシ基,ポリエーテル基,カルボキシル基,フェノール性水酸基,チオール基およびアミノ基からなる群から選ばれた少なくとも一つの官能基を含有するものである。式(3)中のDは、エポキシ基,カルボキシル基,フェノール性水酸基,チオール基およびアミノ基からなる群から選ばれる基のいずれかを含み、繰り返し数mは0〜100の整数である。そして、式(3)中のGは、上記式(4)に示されるポリエーテル基を示し、繰り返し数nは0〜100の整数である。さらに、上記式(4)において、R3 は好ましくは低級アルキレン基であり、R4 は好ましくは低級アルキル基である。また、式(3)中のAは、上記R,D,Gのなかから選択されるものであり、それぞれ異なっていてもよいし同一であってもよい。なお、上記AがD,Gのいずれかでない場合には、繰り返し数m,nのいずれか一方は0ではない。
【0035】
そして、上記一般式(3)で表される化合物としては、具体的には、末端にアミノ基、カルボキシル基、フェノール性水酸基を有する化合物、側鎖にエポキシ基、ポリエーテル基、カルボキシル基、フェノール性水酸基、チオール基またはアミノ基を有する化合物があげられる。
【0036】
そして、上記シリコン化合物(E成分)の含有量は、半導体封止用エポキシ樹脂組成物全体の0.05〜2重量%の範囲に設定することが好ましく、特に好ましくは0.1〜1重量%である。すなわち、0.05重量%未満では、前記特定の接着付与剤(C成分)との併用においても著しい接着力の向上効果が得られ難く、2重量%を超えると、封止樹脂の吸湿性が上がり、耐湿信頼性における不良発生等が生起する傾向がみられるからである。
【0037】
なお、本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物では、上記A〜E成分に加えて、離型剤、硬化促進剤、難燃剤、難燃助剤、カップリング剤、イオントラップ剤、カーボンブラックや酸化チタン等の顔料、低応力化剤等の他の添加剤を適宜配合することができる。
【0038】
上記離型剤としては、例えば、カルナバワックス、ポリエチレン系ワックス等があげられる。
【0039】
上記硬化促進剤としては、特に限定するものではなく従来公知の各種硬化促進剤が用いられる。具体的には、アミン系、リン系等があげられ、上記アミン系硬化促進剤としては、2−メチルイミダゾール等のイミダゾール類、トリエタノールアミン、1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7等の三級アミン類等があげられる。また、上記リン系硬化促進剤としては、トリフェニルホスフィン等のトリアリールホスフィン類、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。なかでも、上記トリエタノールアミン、1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7等の三級アミン類を用いることが、半導体装置を構成するリードフレーム等の金属フレーム部・放熱板と、封止樹脂との接着性が向上し、封止樹脂と成形時の金属フレーム部や放熱板との剥離の発生が抑制される点から好ましい。そして、上記アミン系硬化促進剤を用いる場合には、接着付与剤(C成分)とで塩を形成してしまう可能性があり、接着付与剤(C成分)をアミン当量よりも過剰に使用することが好ましい。具体的には、遊離カルボン酸がアミノ基に対してモル比で15%以上過剰となるよう設定することが好ましい。また、接着付与剤(C成分)をフェノール樹脂に加熱溶解あるいは微分散させた後、これに硬化促進剤を加えマスターバッチ化することにより、接着付与剤(C成分)の均一分散とアミンとの塩形成の防止が図られ、接着性,硬化性の均一化、速硬化性等の効果が得られるようになる。
【0040】
なお、上記硬化促進剤の含有量は、上記フェノール樹脂(B成分)100重量部(以下「部」と略す)に対して1〜20部の範囲に設定することが好ましく、より好ましくは2〜15部である。すなわち、1部未満では、目的とするエポキシ樹脂(A成分)とフェノール樹脂(B成分)との硬化反応が進み難いため、充分な硬化性を得ることが困難となり、20部を超えると、硬化反応が速過ぎて成形性を損なう傾向がみられるからである。
【0041】
上記難燃剤としては、ノボラック型ブロム化エポキシ樹脂等のハロゲン系難燃剤があげられ、さらに上記難燃助剤としては、三酸化二アンチモンや五酸化二アンチモン等が用いられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0042】
さらに、上記ハロゲン系難燃剤以外に、下記の一般式(5)で表される多面体形状の金属水酸化物を用いることができる。この金属水酸化物は、結晶形状が多面体形状を有するものであり、従来の六角板形状を有するもの、あるいは、鱗片状等のように、いわゆる厚みの薄い平板形状の結晶形状を有するものではなく、縦、横とともに厚み方向(c軸方向)への結晶成長が大きい、例えば、板状結晶のものが厚み方向(c軸方向)に結晶成長してより立体的かつ球状に近似させた粒状の結晶形状、例えば、略12面体、略8面体、略4面体等の形状を有する金属水酸化物をいう。
【0043】
【化6】

【0044】
上記一般式(5)で表される金属水酸化物に関して、式(5)中の金属水素を示すMとしては、Al,Mg,Ca,Ni,Co,Sn,Zn,Cu,Fe,Ti等があげられる。
【0045】
また、上記一般式(5)で表される金属水酸化物中のもう一つの金属元素を示すQは、周期律表のIVa,Va,VIa, VIIa,VIII,Ib,IIbから選ばれた族に属する金属である。例えば、Fe,Co,Ni,Pd,Cu,Zn等があげられ、単独でもしくは2種以上併せて選択される。
【0046】
このような結晶形状が多面体形状を有する金属水酸化物は、例えば、金属水酸化物の製造工程における各種条件等を制御することにより、縦,横とともに厚み方向(c軸方向)への結晶成長が大きい、所望の多面体形状、例えば、略12面体、略8面体、略4面体等の形状を有する金属水酸化物を得ることができ、通常、これらの混合物からなる。
【0047】
上記多面体形状を有する金属水酸化物の具体的な代表例としては、酸化マグネシウム・酸化ニッケルの水和物、酸化マグネシウム・酸化亜鉛の水和物、酸化マグネシウム・酸化銅の水和物等があげられる。
【0048】
そして、上記多面体形状の金属水酸化物では、その最大粒径が10μm以下であることが好ましい。特に好ましくは最大粒径が6μm以下である。さらに、上記多面体形状の金属水酸化物の比表面積が2.0〜4.0m2 /gの範囲であることが好ましい。なお、上記多面体形状の金属水酸化物の比表面積の測定は、BET吸着法により測定される。
【0049】
また、上記多面体形状を有する金属水酸化物のアスペクト比は、通常1〜8、好ましくは1〜7、特に好ましくは1〜4である。ここでいうアスペクト比とは、金属水酸化物の長径と短径との比で表したものである。すなわち、アスペクト比が8を超えると、この金属水酸化物を含有するエポキシ樹脂組成物が溶融したときの粘度が上昇し粘度低下に対する効果が乏しくなる。
【0050】
上記カップリング剤としては、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノ系シランカップリング剤、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のエポキシ系シランカップリング剤、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト系シランカップリング剤等があげられる。
【0051】
上記イオントラップ剤としては、イオントラップ能力を有する公知の化合物全てが使用でき、例えば、ハイドロタルサイト類、水酸化ビスマス等が用いられる。
【0052】
また、上記低応力化剤としては、アクリロニトリル、ブタジエンゴム等があげられる。
【0053】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、例えば、つぎのようにして製造することができる。すなわち、上記A〜D成分および場合によりE成分ならびに必要に応じて他の添加剤を配合した後、ミキシングロール機等の混練機にかけ加熱状態で溶融混練し、これを室温に冷却した後、公知の手段によって粉砕し、必要に応じて打錠するという一連の工程により製造することができる。あるいは、先に述べたように、フェノール樹脂(B成分)と接着付与剤(C成分)とを予備混合する。ついで、この予備混合物と、残りの成分を配合する。ついで、上記と同様、ミキシングロール機等の混練機にかけ加熱状態で溶融混練し、これを室温に冷却した後、公知の手段によって粉砕し、必要に応じて打錠するという一連の工程により製造することができる。なお、上記フェノール樹脂(B成分)と接着付与剤(C成分)とを予備混合する工程としては、具体的には、フェノール樹脂(B成分)を150〜190℃にて溶融攪拌し、これに上記特定の接着付与剤(C成分)を添加して、0.25〜2時間攪拌した後、冷却し粉砕する方法があげられる。
【0054】
このようなエポキシ樹脂組成物を用いての半導体素子の封止方法は、特に限定するものではなく、通常のトランスファー成形等の公知のモールド方法により行うことができ、半導体装置化することができる。
【0055】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物を封止材料として用いる場合、金属フレーム部、例えば、リードフレームに対する接着性の向上という点から、特に上記リードフレームに関して、従来の封止材料では充分な接着力が得られなかった、最外層にNiメッキ層が形成されたリードフレームがあげられる。さらに、放熱板の表面にNiメッキ層が形成されたものがあげられる。上記Niメッキ層は、通常、銅あるいは銅合金製のリードフレーム素体表面あるいは放熱板表面にNiメッキを施すことにより形成される。そして、上記Niメッキ処理されたものは、一般に、封止樹脂硬化体との接着性に乏しいものであるが、本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物を用いた場合、前記特定の接着付与剤(C成分)を含有するため、得られる封止樹脂硬化体は優れた接着性を示すようになり、その結果、剥離等の発生が抑制され、信頼性の高い半導体装置が得られるようになる。
【0056】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。
【0057】
まず、実施例に先立って下記に示す各成分を準備した。
【0058】
〔エポキシ樹脂a〕
o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量195、軟化点70℃)
【0059】
〔エポキシ樹脂b〕
ノボラック型ブロム化エポキシ樹脂(エポキシ当量455、軟化点80℃)
【0060】
〔フェノール樹脂〕
フェノールノボラック樹脂(水酸基当量105、軟化点83℃)
【0061】
〔接着付与剤A〕
下記の式(1)で表される無水トリメリット酸
【化7】

【0062】
〔接着付与剤B〕
下記の式(2)で表されるトリメリット酸
【化8】

【0063】
〔離型剤〕
カルナバワックス
【0064】
〔シリコーン化合物〕
下記の構造式(a)で表される化合物
【化9】

【0065】
〔硬化促進剤〕
1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7
【0066】
〔シリカ粉末〕
球状溶融シリカ粉末
【0067】
〔シランカップリング剤〕
γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン
【0068】
〔カーボンブラック〕
〔三酸化二アンチモン〕
【実施例】
【0069】
〔実施例1〜16、比較例1〜3〕
下記の表1〜表3に示す各成分を同表に示す割合で配合し、80℃に加熱したミキシングロール混練機にかけて溶融混練した。つぎに、この溶融物を冷却した後粉砕し、さらにタブレット状に打錠することにより目的とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物を得た。なお、実施例1〜6および9〜14は、フェノール樹脂を温度180℃で溶融攪拌し、これに下記の表1〜表2に示す割合で接着付与剤A,Bを添加して、2時間攪拌して予備混合した。ついで、この予備混合物に、残りの成分を配合し、80℃に加熱したミキシングロール混練機にかけて溶融混練した。つぎに、この溶融物を冷却した後粉砕し、さらにタブレット状に打錠することにより目的とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物を得た。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
【表3】

【0073】
このようにして得られた実施例および比較例のエポキシ樹脂組成物を用い、下記の方法に従って、接着性、成形時のフレーム剥離を測定・評価した。これらの結果を後記の表4〜表6に併せて示す。
【0074】
〔接着性〕
上記各エポキシ樹脂組成物と金属フレーム板とを用いて、図1に示すように、金属フレーム板3の左端表面に円錐台形状の樹脂硬化体5が設けられた接着力測定サンプルを、トランスファーモールド法(175℃×2分間、175℃×5時間後硬化)によって成形した(接着部の面積は10mm2 )。これを用いて、図2に示すように、測定治具6により樹脂硬化体5を挟持した後、この測定治具6の端部をオートグラフ装置のチャック7で固定するとともに、測定サンプルの金属フレーム板3の端部を他のオートグラフ装置のチャック8で固定して矢印方向に荷重を加えながら金属フレーム板3表面の樹脂硬化体5が金属フレーム板3から剥がれ落ちる際の剪断力を測定しこの値を接着力とした。なお、上記金属フレーム板3の材質として、Niメッキ(Cu素材表面にNiメッキ処理を施したフレーム)と銅の2種類を用いて測定した。
【0075】
また、上記実施例および比較例で得られたエポキシ樹脂組成物を用い、半導体素子をトランスファー成形(条件:175℃×2分)し、175℃×5時間で後硬化することにより半導体装置を得た。この半導体装置は、TO−220(Cu素材表面にNiメッキ処理を施したリードフレームであり、放熱板を有するトランジスターパッケージ)である。
【0076】
〔リードフレーム界面の剥離状況〕
上記半導体装置を用い、リードフレームと封止樹脂層(硬化体)との界面に剥離が発生しなかったものを○、剥離が発生したものを×として評価した。なお、界面剥離の解析は超音波顕微鏡を用いた。
【0077】
【表4】

【0078】
【表5】

【0079】
【表6】

【0080】
上記結果から、実施例品は、金属フレーム板に対して高い接着力を示しており、成形時のリードフレームとの剥離評価結果においても剥離が発生せず信頼性の高い半導体装置が得られたことがわかる。特に、Cu素材表面にNiメッキ処理を施したフレーム板に対して従来では得られなかった高い接着力が得られた。これに対して、比較例品は、Cu素材表面にNiメッキ処理を施したフレーム板および銅製のフレーム板の双方ともに実施例品に比べて接着力が低く、リードフレームとの界面において剥離が発生しており、半導体装置として信頼性の低いものであった。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】エポキシ樹脂組成物からなる樹脂硬化体の接着性を評価する際に用いられる接着力測定サンプルを示す斜視図である。
【図2】樹脂硬化体とフレームとの剪断力の測定方法を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)〜(D)成分を含有することを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
(A)エポキシ樹脂。
(B)フェノール樹脂。
(C)下記の式(1)で表される無水トリメリット酸および下記の式(2)で表されるトリメリット酸の少なくとも一方からなる接着付与剤。
【化1】

【化2】

(D)無機質充填剤。
【請求項2】
上記(C)成分の含有量が、半導体封止用エポキシ樹脂組成物全体の0.05〜1重量%の範囲に設定されている請求項1記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
上記(B)成分であるフェノール樹脂と(C)成分である接着付与剤とを予備混合して用いる請求項1または2記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
上記(A)〜(D)成分に加えて、下記の(E)成分を含有する請求項1〜3のいずれか一項記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
(E)エポキシ基,ポリエーテル基,カルボキシル基,フェノール性水酸基,チオール基およびアミノ基からなる群から選ばれた少なくとも一つの官能基を有するシリコン化合物。
【請求項5】
上記(E)成分の含有量が、半導体封止用エポキシ樹脂組成物全体の0.05〜2重量%の範囲に設定されている請求項4記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
表面がニッケルメッキ処理されたリードフレームを備えた半導体装置の樹脂封止に用いられる請求項1〜5のいずれか一項記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物を用いて半導体素子を樹脂封止してなる半導体装置。
【請求項8】
表面がニッケルメッキ処理されたリードフレームを備えている請求項7記載の半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−36974(P2006−36974A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−220498(P2004−220498)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】