説明

半導体封止用エポキシ樹脂組成物及びこれを用いた半導体装置

【課題】良好なレーザーマーキング性を有し、半導体装置の種別や製造者等の容易かつ明確な識別を可能とするマーキングに供するための半導体封止用エポキシ樹脂組成物及びこれを用いて封止した半導体装置を提供する。
【解決手段】光を吸収して発光する成形体とする半導体封止用樹脂組成物であって、少なくともエポキシ樹脂、硬化剤、無機充填材、硬化触媒及び蓄光蛍光体が配合されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子の封止に用いられる半導体封止用エポキシ樹脂組成物及びこれを用いて封止した半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、接着性や低吸湿性に優れ、安価なことから、電気、電子部品や半導体装置の封止において、従来のガラス、金属、セラミック等を用いたハーメチックシール法に代わる封止材として主流になっている。
【0003】
このようなエポキシ樹脂による封止材としては、主に樹脂成分としてo−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂を用い、硬化剤としてフェノールノボラック樹脂を用いたエポキシ樹脂組成物が使用されている。
【0004】
このようなエポキシ樹脂組成物により封止された半導体装置の製品表面には、通常、種別や製造者等がマーキングされている。このマーキング方法として、COレーザーやYAGレーザー等によるレーザーマーキングが行われている。
【0005】
しかしながら、近年の半導体装置の高密度化、高集積化に伴い、封止材の薄肉化が進んでおり、このような半導体装置においてはレーザーマーキングが施された半導体装置の封止効果が不十分となり、可視光や赤外光の透過を原因とする不具合が生じる場合があった。
【0006】
このような半導体装置に対するレーザーマーキングについての改良はいくつか提案されているが、従来の半導体の封止パッケージは殆どが黒色を呈していることから、レーザーマーキングによる半導体装置の種別や製造者等の識別がしづらいという問題があった。
【0007】
このような問題に対し、これまで封止材自体に特別な機能を持たせて半導体装置等の種別や製造者等の明確な識別性の付与を目的とするものが提案されている。これらのものとしては、例えば、半導体封止用エポキシ樹脂組成物中に蛍光剤を配合したものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
この提案では、蛍光剤を配合した半導体封止用エポキシ樹脂組成物を用いて封止された半導体装置にブラックライトを照射することにより半導体装置の封止パッケージを蛍光発光させて、半導体装置に識別性を付与させるものである。
【0009】
この提案によれば、半導体装置に確実な識別性を付与する点では優れたものであるが、識別を行うためにはブラックライトの照射が必須であるため容易かつ明確な識別がしづらく、識別手段の点で改良の余地があった。
【0010】
一方、蛍光材料としては近年多くの提案が成されており、中でも特殊な蛍光材料として、光を吸収した後、暗所で自己蛍光発光する蓄光性蛍光体が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0011】
この蓄光性蛍光体は、従来一般に知られている硫化物系化合物を主成分とする蛍光体とは異なり、アルミン酸塩化合物を主成分とするものであり、これまでの蛍光材料に比べて長時間の残光特性を有している。また、化学的に安定であり、かつ長期間にわたり耐候性に優れた特性を有するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−36940号公報
【特許文献2】特許第2543825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、この蓄光性蛍光体は、ほとんどが屋内外で光を十分に照射吸収して、暗くなったときに高輝度特性を発揮させるものであり、主に特殊塗料として用いられている。蓄光性蛍光体の半導体封止用エポキシ樹脂組成物への応用については、検討も、考慮もされていないのが実状である。
【0014】
そこで本発明は、良好なレーザーマーキング性を有し、しかも、光を吸収することで暗所で発光する蓄光性蛍光体の特徴を生かして半導体装置の種別や製造者等の容易かつ明確な識別を可能とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物を提供する。また、本発明は、これを用いて封止した半導体装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、前記の課題を解決するために以下のことを特徴としている。
【0016】
即ち、本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、光を吸収して発光する成形体とする半導体封止用樹脂組成物であって、少なくともエポキシ樹脂、硬化剤、無機充填材、硬化触媒及び蓄光蛍光体が配合されていることを特徴とする。
【0017】
この半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、前記蓄光蛍光体が、母結晶としてアルミン酸塩化合物を含むことが好ましい。
【0018】
また、この半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、前記蓄光蛍光体が、組成物全体100質量部に対して3.0〜9.0質量部の範囲内で含有されていることが好ましい。
【0019】
また、本発明の半導体装置は、前記半導体封止用エポキシ樹脂組成物を用いて封止したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、半導体封止用エポキシ樹脂組成物の成分として蓄光蛍光体を配合することにより、良好なマーキング性を有し、半導体装置の種別や製造者等の識別を、容易かつ明確に行うことができる半導体封止用エポキシ樹脂組成物とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0022】
本発明で用いられるエポキシ樹脂としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであれば特に制限なく用いることができる。このようなエポキシ樹脂としては、例えば、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型フェノール樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂等を挙げることができる。さらにこれらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0023】
本発明で用いられる硬化剤としては、エポキシ樹脂と反応するフェノール樹脂であれば特に制限なく用いることができ、このような硬化剤としては、例えば、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、フェノールアラルキル、ナフトールアラルキル等、各種多価フェノール化合物、あるいはナフトール化合物を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0024】
硬化剤の配合量は、エポキシ樹脂との化学量論上の当量比(硬化剤当量/エポキシ基当量)が0.5〜1.5となる量であり、より好ましくは当量比が0.8〜1.2となる量である。
【0025】
当量比が0.5〜1.5の範囲であると、半導体封止用エポキシ樹脂組成物の硬化特性を良好にすることが可能となり、さらに、優れた耐湿性を得ることができる。
【0026】
本発明で用いられる無機充填材としては、一般にエポキシ樹脂組成物に用いられるものであれば特に制限なく用いることができる。このような無機充填材としては、例えば、溶融シリカ、球状シリカ、球状溶融シリカ、破砕シリカ、結晶シリカ、球状アルミナ、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム等を挙げることができる。
【0027】
また、これらの他に、チタン酸バリウムや、酸化チタンのような高誘電率フィラー、ハードフェライトのような磁性フィラー、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、グアニジン塩、ホウ酸亜鉛、モリブデン化合物、スズ酸亜鉛等の無機系難燃剤や、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、雲母粉等を用いることができる。そして、これらの無機充填材は1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0028】
無機充填材の配合量は、半導体封止用エポキシ樹脂組成物全体100質量部に対して60〜90質量部、好ましくは65〜85質量部の範囲である。
【0029】
無機充填材の配合量を60〜90質量部の範囲とすることにより、耐パッケージ反りや耐吸湿リフロー性を良好にすることができ、さらに優れた混練性と成形性を得ることができる。
【0030】
本発明で用いられる硬化触媒としては、エポキシ樹脂とフェノール性水酸基の反応を促進させるものであれば特に制限なく用いることができる。このような硬化触媒としては、例えば、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレートや、トリフェニルホスフィン等の有機フォスフィン類、ジアザビシクロウンデセン等の三級アミン類、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール類を用いることができ、これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0031】
前記の硬化触媒の配合量は、半導体封止用エポキシ樹脂組成物全体100質量部に対して0.01〜5質量部、好ましくは0.2〜0.5質量部の範囲である。硬化触媒の配合量が0.01質量部未満であると、半導体封止用エポキシ樹脂組成物の硬化特性が低下する場合があり、5質量部を超えると、耐湿信頼性が不十分になる場合がある。
【0032】
本発明で用いられる蓄光蛍光体は、光を吸収して、暗所で自己蛍光発光する特性を有する物質であり、各種の文献や市販品として知られているものでもある。例えば市販品としては根本特殊化学社:Gシリーズ、Vシリーズ、Bシリーズ、BGシリーズ、テールナビ社:B102シリーズ、B105シリーズ、シンロイヒ社:蓄光顔料等が知られている。
【0033】
これら市販品を含めて、本発明においての好ましい蓄光蛍光体は、アルミン酸塩化合物を含むものである。例えば母結晶としてM(1−X)Al(4−X)又はM(4−X)Al14(25−X)の化学式で表されるアルミン酸塩化合物である。これらは1種単独で用いてもよいし、2種を併用して用いてもよい。
【0034】
化学式中、Mはアルカリ土類金属の群から選ばれる金属元素であり、これらのものとしては、カルシウム、ストロンチウム、バリウムを挙げることができる。
【0035】
そして、少なくとも1つ以上の前記金属元素からなる化合物を母結晶としている。また、化学式において、Xは−0.33≦X≦0.60の範囲である。
【0036】
さらに、本発明で用いられる蓄光蛍光体には前記アルミン酸塩化合物に賦活剤としてユウロピウムを添加したものが好ましく用いられる。この賦活剤としてのユウロピウムは、化学式中のMで表す金属元素に対するモル%で0.001%以上10%以下の範囲で添加する。
【0037】
前記の組成とすることにより、従来の蓄光材料に比べて飛躍的に優れた蓄光性能を発揮し、発光輝度を大きくすることができる。
【0038】
さらにまた、蓄光蛍光体には、共賦活剤としてユウロピウム以外のランタノイドの群から選ばれる少なくとも1つ以上の元素を添加することも好ましい。
【0039】
このユウロピウム以外のランタノイドとしては、ネオジウム、サマリウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムを挙げることができる。
【0040】
これらのユウロピウム以外のランタノイドの群から選ばれる少なくとも1つ以上の元素は、前記式中のMで表す金属元素に対するモル%で0.001%以上10%以下の範囲で添加する。
【0041】
これらの共賦活剤を添加することにより、さらに蓄光蛍光体としての優れた蓄光発光性能を発揮することができる。
【0042】
蓄光蛍光体の配合量は、半導体封止用エポキシ樹脂組成物全体100質量部に対して3.0〜9.0質量部、好ましくは5.0〜7.0質量部の範囲である。
【0043】
蓄光蛍光体の配合量を3.0〜9.0質量部の範囲とすることにより、発光性、レーザーマーキング性を十分に得ることができ、半導体封止用エポキシ樹脂組成物の硬化性を良好なものとすることができる。
【0044】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物には前記成分のほかに離型剤を配合するのが好ましい。離型剤としては、カルナバワックス、ステアリン酸、モンタン酸、カルボキシル基含有ポリオレフィン等を用いることができ、これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0045】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに他の添加剤を配合することができる。
【0046】
このような添加剤の具体例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメトキシシラン等のシランカップリング剤、三酸化アンチモン等の難燃剤、カーボンブラック等の着色剤、シリコーン可撓剤等を挙げることができる。
【0047】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、前記のエポキシ樹脂、硬化剤、無機充填材、硬化触媒及び蓄光蛍光体に、必要に応じて他の成分を配合してミキサー、ブレンダー等を用いて十分均一に混合する。次いでニーダーやロール等を用いて加熱、溶融混合し、室温に冷却固化した後、粉砕して粉粒状の樹脂組成物を製造することができる。
【0048】
なお、本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、通常、前記の製造方法により、粉粒状の半導体封止用エポキシ樹脂組成物として製造されるが、取り扱いを容易にするために、成形条件に合うような寸法と質量を有するタブレットとしてもよい。
【0049】
また、本発明の半導体装置は、前記のようにして得られた本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物を用いて半導体チップを封止することにより製造することができる。この封止には、トランスファーモールド、コンプレッションモールド、インジェクションモールド等の従来より用いられている成形方法を適用することができる。
【0050】
トランスファーモールドを適用する場合、たとえば、まず、ICチップ等の半導体チップを搭載したリードフレームまたは基板を成形金型のキャビティに配置した後、キャビティに半導体封止用エポキシ樹脂組成物を充填する。これを加熱下にて硬化させることで、半導体チップを半導体封止用エポキシ樹脂組成物で封止した半導体装置を製造することができる。
【0051】
トランスファーモールドを適用する場合、たとえば、金型温度170〜180℃、成形時間60〜120秒に設定することができるが、金型温度、成形時間及びその他の成形条件は、半導体封止用エポキシ樹脂組成物の配合組成等に応じて適宜に変更すればよい。
【0052】
前記のように本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物で封止した半導体装置は、光を照射した後、暗所にて自己蛍光発光するため、この発光自体で半導体装置の識別性の効果を有している。さらに、この表面にレーザーマーキング等により種別や製造者等を印字することにより、自己発光した光をバックライトとしてレーザーマーキング等による印字を浮かび上がらせて、より明確な識別性を付与することができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
<半導体封止用エポキシ樹脂組成物の作成>
表1に示す各配合成分を、表1に示す割合で配合し、ブレンダーで30分間混合し均一化した後、80℃に加熱した2本ロールで混練溶融させて押し出し、冷却後、粉砕機で所定粒度に粉砕して、粒状の半導体封止用エポキシ樹脂組成物を得た。なお、表1に示す配合量は質量部を表す。
【0054】
表1に示す配合成分として、以下のものを使用した。
エポキシ樹脂:クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC(株)製 EPICLON N−695 エポキシ当量218 軟化点95℃)
硬化剤:フェノールノボラック樹脂(荒川化学(株)製 タマノール752 水酸基当量104 軟化点115℃)
無機充填材:球状溶融シリカ(電気化学工業(株)製 FB820)
硬化触媒:トリフェニルホスフィン(北興化学(株)製 TPP)
蓄光蛍光体:蓄光顔料(根本特殊化学製 BGL−300FF)
離型剤:カルナバワックス(大日化学工業(株)製 F1−100)
シランカップリング剤:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製 KBM403)
難燃剤:三酸化アンチモン(日本精鉱製 PATOX−M)
着色剤:カーボンブラック(三菱化学(株)製 40B)
【0055】
[発光性評価]
前記の条件で得られた、実施例1〜7、比較例1の半導体封止用エポキシ樹脂組成物を以下の成形条件で成形して、得られた成形品について、暗室にて発光の有無を目視により評価した。評価の基準は、◎:良好に発光、○:発光、×:発光せずとした。その結果を表1に示す。
【0056】
<成形条件>
成形品:50φ円板
金型温度:175℃
注入圧力:6.86MPa(70kgf/cm
成形時間:90秒
【0057】
【表1】

【0058】
<評価結果>
蓄光蛍光体を配合した実施例1〜7において自己発光特性が確認され、レーザーマーキングでの識別に有用であることがわかった。特に、蓄光蛍光体の配合量割合が3質量部〜9質量部の範囲内にある実施例1〜5においては、発光は良好であることが確認された。
【0059】
一方、蓄光蛍光体を配合しなかった比較例1は発光しなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を吸収して発光する成形体とする半導体封止用樹脂組成物であって、少なくともエポキシ樹脂、硬化剤、無機充填材、硬化触媒及び蓄光蛍光体が配合されていることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記蓄光蛍光体が、母結晶としてアルミン酸塩化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記蓄光蛍光体が、組成物全体100質量部に対して3.0〜9.0質量部の範囲内で配合されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物を用いて封止したことを特徴とする半導体装置。

【公開番号】特開2012−67290(P2012−67290A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182009(P2011−182009)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】