説明

半導体封止用エポキシ樹脂組成物及び半導体装置

【課題】無機充填材の配合量を高めた場合でも、封止成形時において良好な流動性、硬化性、離型性、連続成形性を有し、かつ樹脂硬化物の外観汚れや金型汚れが発生し難い半導体封止用エポキシ樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】エポキシ樹脂(A)、フェノール樹脂系硬化剤(B)、無機充填材(C)、硬化促進剤(D)、及び離型剤(E)を含むエポキシ樹脂組成物において、前記硬化促進剤(D)がカチオン部とシリケートアニオン部とを有する硬化促進剤(D1)を含み、前記離型剤(E)がペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル(E1)及び/又はジペンタエリスリトールヘキサ脂肪酸エステル(E2)を含むことを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体封止用エポキシ樹脂組成物、及びこれを用いた半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
IC、LSI等の半導体素子の封止方法として、半導体封止用エポキシ樹脂組成物のトランスファー成形が低コスト、大量生産に適しており、採用されて久しく、信頼性の点でもエポキシ樹脂や硬化剤であるフェノール樹脂系硬化剤の改良により特性の向上が図られてきた。しかし、近年の電子機器の小型化、軽量化、高性能化の市場動向において、半導体の高集積化も年々進み、また半導体装置の表面実装化が促進されるなかで、半導体封止用エポキシ樹脂組成物への要求は益々厳しいものとなってきている。このため、従来からの半導体封止用エポキシ樹脂組成物では解決出来ない問題点も出てきている。
その最大の問題点は、表面実装の採用により半導体装置が半田浸漬或いは半田リフロー工程で急激に200℃以上の高温にさらされ、吸湿した水分が爆発的に気化する際の応力により、半導体装置内、特に半導体素子、リードフレーム、インナーリード上の金メッキや銀メッキ等の各種メッキされた各接合部分とエポキシ樹脂組成物の硬化物の界面で剥離が生じたりして、信頼性が著しく低下する現象である。また、環境問題に端を発した有鉛半田から無鉛半田への移行に伴い、半田処理時の温度が高くなり、半導体装置中に含まれる水分の気化によって発生する爆発的な応力による耐半田性が、従来以上に大きな問題となってきている。
【0003】
半田処理による信頼性低下を改善するために、エポキシ樹脂組成物中の無機質充填材の充填量を増加させることでエポキシ樹脂組成物の硬化物の低吸湿化、高強度化、低熱膨張化を達成し、半導体装置の耐半田性を向上させ、かつ低溶融粘度の樹脂を使用することでエポキシ樹脂組成物の成形時に低粘度性と高流動性とを維持させる手法がある(例えば、特許文献1参照。)。この手法を用いることによりエポキシ樹脂組成物の硬化物の耐半田性はかなり改良されるが、無機充填材の充填割合の増加と共に、エポキシ樹脂組成物の成形時の流動性が犠牲になり、エポキシ樹脂組成物がパッケージ内に十分に充填されず、空隙が生じやすくなる欠点があった。
また、生産性向上への取り組みとしては、離型効果の高い離型剤の適用が提案されている(例えば、特許文献2参照。)が、無機充填材の増加に伴う樹脂成分の減少により、離型剤成分の分散性不足と思われる離型性不良、金型への樹脂トラレや樹脂硬化物の外観不良が問題となっており、特に離型効果の高い離型剤は必然的に樹脂硬化物の表面に浮き出しやすく、連続生産すると樹脂硬化物の外観を著しく汚してしまう欠点があった。このようなことから、無機充填材の配合量を高めても成形時の流動性及び充填性を損なわず、連続成形性、樹脂硬化物の外観、金型汚れといった課題にも対応し、かつ半導体装置の信頼性を満足させる更なる技術が求められていた。
【0004】
【特許文献1】特開昭64−65116号公報
【特許文献2】特開2002−80695号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、無機充填材の配合量を高めた場合でも、封止成形時において良好な流動性、硬化性、離型性、連続成形性を有し、かつ樹脂硬化物の外観汚れや金型汚れが発生し難い半導体封止用エポキシ樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
[1] エポキシ樹脂(A)、フェノール樹脂系硬化剤(B)、無機充填材(C)、硬化促進剤(D)、及び離型剤(E)を含むエポキシ樹脂組成物において、前記硬化促進剤(D)がカチオン部とシリケートアニオン部とを有する硬化促進剤(D1)を含み、前記離型剤(E)がペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル(E1)及び/又はジペンタエリスリトールヘキサ脂肪酸エステル(E2)を含むことを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物、
[2] 前記第[1]項に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、前記ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル(E1)と前記ジペンタエリスリトールヘキサ脂肪酸エステル(E2)との合計配合量が全エポキシ樹脂組成物中に0.01重量%以上、1重量%以下の割合であることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物、
[3] 前記第[1]項又は第[2]項に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、前記カチオン部とシリケートアニオン部とを有する硬化促進剤(D1)のカチオン部が燐カチオンを含むものであることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物、
【0007】
[4] 前記第[1]項ないし第[3]項のいずれかに記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、前記カチオン部とシリケートアニオン部とを有する硬化促進剤(D1)が下記一般式(1)で表される化合物であることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物、
【化1】

(ただし、上記一般式(1)において、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ、芳香環又は複素環を有する有機基、或いは脂肪族基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。X1は、基Y1及びY2と結合する有機基である。X2は、基Y3及びY4と結合する有機基である。Y1及びY2はプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基であり、同一分子内の基Y1、及びY2が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。Y3及びY4はプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基であり、同一分子内の基Y3及びY4が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。X1、及びX2は互いに同一であっても異なっていてもよく、Y1、Y2、Y3、及びY4は互いに同一であっても異なっていてもよい。Z1は芳香環又は複素環を有する有機基、或いは脂肪族基である。)
【0008】
[5] 前記第[1]項ないし第[4]項のいずれかに記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、前記ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル(E1)がペンタエリスリトールと炭素数22以上、36以下の飽和脂肪酸とのテトラエステルであることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物、
[6] 前記第[1]項ないし第[4]項のいずれかに記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、前記ジペンタエリスリトールヘキサ脂肪酸エステル(E2)がジペンタエリスリトールと炭素数22以上、36以下の飽和脂肪酸とのヘキサエステルであることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物、
[7] 前記第[1]項ないし第[6]項のいずれかに記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、前記ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル(E1)及びジペンタエリスリトールヘキサ脂肪酸エステル(E2)の酸価が10mgKOH/g以上、50mgKOH/g以下であることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物、
[8] 前記第[1]項ないし第[7]項のいずれかに記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物の硬化物により半導体素子が封止されてなることを特徴とする半導体装置、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明に従うと、無機充填材の配合量を高めた場合でも、半導体素子等の封止成形時において良好な流動性、硬化性、離型性、連続成形性を有し、かつ樹脂硬化物の外観汚れや金型汚れが発生し難い半導体封止用エポキシ樹脂組成物が得られるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、エポキシ樹脂(A)、フェノール樹脂系硬化剤(B)、無機充填材(C)、カチオン部とシリケートアニオン部とを有する硬化促進剤(D1)を含む硬化促進剤(D)、及びペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル(E1)及び/又はジペンタエリスリトールヘキサ脂肪酸エステル(E2)を含む離型剤(E)を含むことにより、成形封止する時の流動性、硬化性、離型性、連続成形性に優れ、かつ樹脂硬化物の外観汚れや金型汚れが発生し難い半導体封止用エポキシ樹脂組成物が得られるものである。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明に用いるエポキシ樹脂(A)は、1分子内にエポキシ基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般であり、その分子量、分子構造は特に限定するものではないが、例えば、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、トリアジン核含有エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂、フェニレン骨格、ビフェニレン骨格等を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、硫黄原子含有型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェニレン骨格、ビフェニレン骨格等を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂等が挙げられ、これらは1種類を単独で用いても2種類以上を併用しても差し支えない。これらの内で特に耐半田性が求められる場合には、常温では結晶性の固体であるが、融点以上では極めて低粘度の液状となり、無機質充填材を高充填化できるビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂等の結晶性エポキシ樹脂が好ましい。また、無機質充填材の高充填化という観点からは、その他のエポキシ樹脂の場合も極力粘度の低いものを使用することが望ましい。また、耐半田性、可撓性、低吸湿化が求められる場合には、エポキシ基が結合した芳香環の間にエポキシ基を有さず、疎水性を示すフェニレン骨格やビフェニレン骨格等を有することで、低吸湿性や実装時の高温域において低弾性を示すフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂等のアラルキル型エポキシ樹脂が好ましい。しかしながら、上記のような低粘度や可撓性を有するエポキシ樹脂を用いた場合には、樹脂硬化物の架橋密度が低くなるため、樹脂硬化物の金型からの離型性が低下するという問題点もあり、後述するペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル(E1)及び/又はジペンタエリスリトールヘキサ脂肪酸エステル(E2)を用いることにより離型性を改善する必要がある場合もある。
【0012】
本発明に用いられるエポキシ樹脂(A)全体の配合割合は、特に限定されないが、全エポキシ樹脂組成物中に、2重量%以上、10重量%以下であることが好ましく、4重量%以上、8重量%以下であることがより好ましい。エポキシ樹脂(A)全体の配合割合が上記範囲内であると、耐半田性の低下、流動性の低下等を引き起こす恐れが少ない。
【0013】
本発明に用いるフェノール樹脂系硬化剤(B)は、1分子内にフェノール性水酸基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般であり、その分子量、分子構造を特に限定するものではないが、例えばフェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、トリフェノールメタン型樹脂、フェニレン骨格、ビフェニレン骨格等を有するフェノールアラルキル樹脂、硫黄原子含有型フェノール樹脂、ナフトールノボラック樹脂、フェニレン骨格、ビフェニレン骨格等を有するナフトールアラルキル樹脂等が挙げられ、これらは1種類を単独で用いても2種類以上を併用しても差し支えない。これらの内で特に耐半田性が求められる場合には、エポキシ樹脂と同様に、低粘度の樹脂が無機質充填材の高充填化できるという点で好ましく、更に可撓性、低吸湿性が求められる場合には、フェニレン骨格、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂の使用が好ましい。しかしながら、低粘度や可撓性を有するフェノール樹脂系硬化剤を用いた場合には、樹脂硬化物の架橋密度が低くなるため、樹脂硬化物の金型からの離型性が低下するという問題点もあり、後述するペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル(E1)及び/又はジペンタエリスリトールヘキサ脂肪酸エステル(E2)を用いることにより離型性を改善する必要がある場合もある。
【0014】
本発明に用いられるフェノール樹脂系硬化剤(B)の配合割合は、特に限定されないが、全エポキシ樹脂組成物中に、2重量%以上、8重量%以下であることが好ましく、3重量%以上、6重量%以下であることがより好ましい。フェノール樹脂系硬化剤(B)全体の配合割合が上記範囲内であると、耐半田性の低下、流動性の低下等を引き起こす恐れが少ない。
【0015】
本発明に用いるエポキシ樹脂(A)とフェノール樹脂系硬化剤(B)の配合比率としては、全エポキシ樹脂のエポキシ基数(EP)と全フェノール樹脂系硬化剤のフェノール性水酸基数(OH)の比(EP/OH)が、0.7以上、1.3以下であることが好ましい。この範囲であると、エポキシ樹脂組成物の硬化性の低下、或いは樹脂硬化物のガラス転移温度の低下、耐湿信頼性の低下等を抑えることができる。
【0016】
本発明に用いる無機充填材(C)としては、一般に半導体封止用エポキシ樹脂組成物に使用されているものを用いることができ、特に限定されるものではないが、例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、タルク、アルミナ、窒化珪素等が挙げられ、最も好適に使用されるものとしては、球状の溶融シリカである。これらの無機充填材は、1種類を単独で用いても2種類以上を併用しても差し支えない。無機充填材(C)の最大粒径については、特に限定されないが、無機充填材の粗大粒子が狭くなったワイヤー間に挟まることによって生じるワイヤー流れ等の不具合の防止を考慮すると、105μm以下であることが好ましく、75μm以下であることがより好ましい。
【0017】
本発明で用いられる無機充填材(C)の含有量は、特に限定されないが、全エポキシ樹脂組成物中に80重量%以上、94重量%以下であることが好ましく、84重量%以上、92重量%以下であることがより好ましい。この範囲であると、耐半田性の低下、流動性の低下等を抑えることができる。
【0018】
本発明で用いられる硬化促進剤(D)は、エポキシ樹脂の硬化反応を促進し得るカチオン部と前記硬化反応を促進するカチオン部の触媒活性を抑制するシリケートアニオン部とを有する硬化促進剤(D1)(以下、単に「硬化促進剤(D1)」ともいう。)を含むことが必須である。硬化促進剤(D1)は、エポキシ樹脂(A)とフェノール樹脂系硬化剤(B)の成形温度よりも低温域においては、容易には硬化反応を開始、促進させないため、流動性や保存安定性に優れた特性を付与することができるものである。また、硬化促進剤(D1)は、成形温度域においては、容易にカチオン部が遊離して、硬化反応を促進するため、上記特性に加え、優れた硬化性をも同時に付与することができるものである。カチオン部とシリケートアニオン部とを有する硬化促進剤(D1)としては、カチオン部が燐カチオンを含むものが好ましく、下記一般式(1)で表される化合物がさらに好ましい。
【化2】

(ただし、上記一般式(1)において、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ、芳香環又は複素環を有する有機基、或いは脂肪族基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。X1は、基Y1及びY2と結合する有機基である。X2は、基Y3及びY4と結合する有機基である。Y1及びY2はプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基であり、同一分子内の基Y1、及びY2が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。Y3及びY4はプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基であり、同一分子内の基Y3及びY4が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。X1、及びX2は互いに同一であっても異なっていてもよく、Y1、Y2、Y3、及びY4は互いに同一であっても異なっていてもよい。Z1は芳香環又は複素環を有する有機基、或いは脂肪族基である。)
【0019】
前記一般式(1)において、基R1、R2、R3及びR4としては、例えば、フェニル基、メチルフェニル基、メトキシフェニル基、ヒドロキシフェニル基、ナフチル基、ヒドロキシナフチル基、ベンジル基、メチル基、エチル基、n-ブチル基、n-オクチル基及びシクロヘキシル基等が挙げられ、これらの中でも、フェニル基、メチルフェニル基、メトキシフェニル基、ヒドロキシフェニル基、ヒドロキシナフチル基などの芳香族基がより好ましい。
【0020】
また、前記一般式(1)において、基X1は、基Y1及びY2と結合する有機基である。同様に、基X2は、基Y3及びY4と結合する有機基である。基Y1及びY2はプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基であり、同一分子内の基Y1、及びY2が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。同様に基Y3、及びY4はプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基であり、同一分子内の基Y3及びY4が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。基X1、及びX2は互いに同一であっても異なっていてもよく、基Y1、Y2、Y3、及びY4は互いに同一であっても異なっていてもよい。
このような一般式(1)中のY1X1Y2、及びY3X2Y4で示される基は、プロトン供与体が、プロトンを2個放出してなる基で構成されるものであり、プロトン供与体としては、例えば、カテコール、ピロガロール、1,2−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、2,2’−ビフェノール、2,2’−ビナフトール、サリチル酸、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、クロラニル酸、タンニン酸、2−ヒドロキシベンジルアルコール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,2−プロパンジオール及びグリセリン等が挙げられるが、これらの中でも、カテコール、1,2−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレンがより好ましい。
【0021】
また、一般式(1)中のZ1は、芳香環または複素環を有する有機基または脂肪族基を表し、これらの具体的な例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基およびオクチル基等の脂肪族炭化水素基や、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基およびビフェニル基等の芳香族炭化水素基、グリシジルオキシプロピル基、メルカプトプロピル基、アミノプロピル基およびビニル基等の反応性置換基などが挙げられるが、これらの中でも、メチル基、エチル基、フェニル基、ナフチル基およびビフェニル基が熱安定性の面から、より好ましい。
【0022】
本発明で用いられるカチオン部とシリケートアニオン部とを有する硬化促進剤(D1)の配合量は、特に限定されないが、全エポキシ樹脂組成物中に0.1重量%以上、1.5重量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.2重量%以上、1重量%以下である。上記範囲内であると、エポキシ樹脂組成物の成形時の低粘度化、高流動化、及び貯蔵時の保存安定性の向上を図ることができる。
【0023】
本発明では、カチオン部とシリケートアニオン部とを有する硬化促進剤(D1)を用いることによる効果を損なわない範囲であれば、該硬化促進剤(D1)以外の硬化促進剤も、エポキシ基とフェノール性水酸基の反応を促進するものであれば特に限定なく併用できるが、カチオン部シリケートアニオン部とを有する硬化促進剤(D1)の配合割合は、全硬化促進剤(D)に対して50重量%以上であることが好ましい。併用可能な硬化促進剤としては、例えば、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物;1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7等のジアザビシクロアルケン及びその誘導体;トリブチルアミン、ベンジルジメチルアミン等のアミン系化合物;2−メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物;トリフェニルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン等の有機ホスフィン類;テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウム・テトラキス(ベンゾイルオキシ)ボレート、テトラフェニルホスホニウム・テトラキス(ナフトイルオキシ)ボレート等のテトラ置換ホスホニウム・テトラ置換ボレート等が挙げられ、これらは1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。
【0024】
本発明では、離型剤(E)として、ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル(E1)及び/又はジペンタエリスリトールヘキサ脂肪酸エステル(E2)を含むことを必須とする。
【0025】
本発明で用いられるペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル(E1)は、ペンタエリスリトールと飽和脂肪酸より得られるテトラエステルであり、離型性が非常に優れている。モノエステル、ジエステル、トリエステルでは、残存する水酸基の影響によりエポキシ樹脂組成物の硬化物の耐湿性が低下し、その結果として半田耐熱性に悪影響を及ぼす場合があるところ、テトラエステルであるペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル(E1)では、上記のような悪影響が生じないため、半導体封止用樹脂組成物に用いる離型剤として好適である。本発明で用いられるペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル(E1)としては、具体的にはペンタエリスリトールテトラカプロン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラカプリル酸エステル、ペンタエリスリトールテトラカプリン酸エステル、ペンタエリスリトールテトララウリン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラミリスチン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラパルミチン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラステアリン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラアラキン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラベヘン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラリグノセリン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラセロチン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラモンタン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラメリシン酸エステル等が挙げられる。中でもペンタエリスリトールと炭素数22以上、36以下の飽和脂肪酸とのテトラエステルが、離型性と樹脂硬化物の外観の観点から、好ましい。さらにペンタエリスリトールテトラモンタン酸エステルがより好ましい。尚、本発明中の飽和脂肪酸の炭素数とは飽和脂肪酸中のアルキル基とカルボキシル基の炭素数を合計したものを指す。
【0026】
本発明で用いられるジペンタエリスリトールヘキサ脂肪酸エステル(E2)は、ジペンタエリスリトールと飽和脂肪酸より得られるヘキサエステルであり、離型性が非常に優れている。ヘキサエステルではない場合、残存する水酸基の影響によりエポキシ樹脂組成物の硬化物の耐湿性が低下し、その結果として半田耐熱性に悪影響を及ぼす場合があるところ、ヘキサエステルであるジペンタエリスリトールヘキサ脂肪酸エステル(E2)では、上記のような悪影響が生じないため、半導体封止用樹脂組成物に用いる離型剤として好適である。本発明で用いられるジペンタエリスリトールヘキサ脂肪酸エステル(E2)としては、具体的にはジペンタエリスリトールヘキサカプロン酸エステル、ジペンタエリスリトールヘキサカプリル酸エステル、ジペンタエリスリトールヘキサカプリン酸エステル、ジペンタエリスリトールヘキサラウリン酸エステル、ジペンタエリスリトールヘキサミリスチン酸エステル、ジペンタエリスリトールヘキサパルミチン酸エステル、ジペンタエリスリトールヘキサステアリン酸エステル、ジペンタエリスリトールヘキサアラキン酸エステル、ジペンタエリスリトールヘキサベヘン酸エステル、ジペンタエリスリトールヘキサリグノセリン酸エステル、ジペンタエリスリトールヘキサセロチン酸エステル、ジペンタエリスリトールヘキサモンタン酸エステル、ジペンタエリスリトールヘキサメリシン酸エステル等が挙げられる。中でもジペンタエリスリトールと炭素数22以上、36以下の飽和脂肪酸とのヘキサエステルが、離型性と樹脂硬化物の外観の観点から、好ましい。さらにジペンタエリスリトールヘキサモンタン酸エステルがより好ましい。尚、本発明中の飽和脂肪酸の炭素数とは飽和脂肪酸中のアルキル基とカルボキシル基の炭素数を合計したものを指す。
【0027】
本発明で用いられるペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル(E1)及び/又はジペンタエリスリトールヘキサ脂肪酸エステル(E2)の滴点は、60℃以上、100℃以下が好ましく、より好ましくは70℃以上、90℃以下である。滴点は、ASTM D127に準拠した方法により測定することができる。具体的には、金属ニップルを用いて、溶融したワックスが金属ニップルから最初に滴下するときの温度として測定される。以下の例においても、同様の方法により測定することができる。滴点が上記範囲内であると、ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル(E1)及び/又はジペンタエリスリトールヘキサ脂肪酸エステル(E2)は熱安定性に優れ、成形時にペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル(E1)及び/又はジペンタエリスリトールヘキサ脂肪酸エステル(E2)が焼き付きにくい。そのため、金型からの樹脂硬化物の離型性に優れるとともに、連続成形性にも優れる。さらに、上記範囲内であると、エポキシ樹脂組成物を硬化させる際、ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル(E1)及び/又はジペンタエリスリトールヘキサ脂肪酸エステル(E2)が十分に溶融する。これにより、樹脂硬化物中にペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル(E1)及び/又はジペンタエリスリトールヘキサ脂肪酸エステル(E2)が略均一に分散する。そのため、樹脂硬化物表面におけるペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル(E1)及び/又はジペンタエリスリトールヘキサ脂肪酸エステル(E2)の偏析が抑制され、金型の汚れや樹脂硬化物の外観の悪化を低減することができる。
【0028】
本発明で用いられるペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル(E1)及び/又はジペンタエリスリトールヘキサ脂肪酸エステル(E2)の酸価は、10mgKOH/g以上、50mgKOH/g以下が好ましく、より好ましくは15mgKOH/g以上、40mgKOH/g以下である。酸価は樹脂硬化物との相溶性に影響を及ぼす。酸価は、JIS K 3504に準拠した方法により測定することができる。具体的には、ワックス類1g中に含有する遊離脂肪酸を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数として測定される。以下の例においても、同様の方法により測定することができる。酸価が上記範囲内にあると、ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル(E1)及び/又はジペンタエリスリトールヘキサ脂肪酸エステル(E2)は、樹脂硬化物中において、エポキシ樹脂マトリックスと好ましい相溶状態となる。これにより、ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル(E1)及び/又はジペンタエリスリトールヘキサ脂肪酸エステル(E2)と、エポキシ樹脂マトリックスとが、相分離を起こすことがない。そのため、樹脂硬化物表面におけるペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル(E1)及び/又はジペンタエリスリトールヘキサ脂肪酸エステル(E2)の偏析が抑制され、金型の汚れや樹脂硬化物の外観の悪化を低減することができる。さらに、ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル(E1)及び/又はジペンタエリスリトールヘキサ脂肪酸エステル(E2)が樹脂硬化物表面に存在するため、樹脂硬化物は金型からの離型性に優れる。一方、エポキシ樹脂マトリックスとの相溶性が高すぎると、ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル(E1)及び/又はジペンタエリスリトールヘキサ脂肪酸エステル(E2)が樹脂硬化物表面に染み出すことができず、十分な離型性を確保することができない場合がある。
【0029】
本発明で用いられるペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル(E1)及び/又はジペンタエリスリトールヘキサ脂肪酸エステル(E2)の配合量はエポキシ樹脂組成物中に、0.01重量%以上、1重量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.03重量%以上、0.5重量%以下である。配合量が上記範囲内であると、金型からの樹脂硬化物の離型性に優れる。さらに、リードフレーム部材との密着性に優れるため、半田処理時において、リードフレーム部材と樹脂硬化物との剥離を抑制することができる。また、金型の汚れや樹脂硬化物の外観の悪化を抑制することもできる。
【0030】
本発明で用いられるペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル(E1)及び/又はジペンタエリスリトールヘキサ脂肪酸エステル(E2)の製法については、特に限定するものではないが、例えば、原料化合物としてペンタエリスリトール及び/又はジペンタエリスリトール、脂肪酸を用い、公知の方法に従ってエステル反応させる方法などにより得ることができる。また、本発明で用いられるペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル(E1)及び/又はジペンタエリスリトールヘキサ脂肪酸エステル(E2)は、クラリアントジャパン(株)製、リコモントET141等、市販のものを入手し、必要に応じて回転円板型ミル(ピンミル)、スクリーンミル(ハンマーミル)、遠心分離型ミル(ターボミル)、ジェットミル等の粉砕機を用い、粉砕し粒度調整して使用することができる。
【0031】
本発明で用いられるペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル(E1)及び/又はジペンタエリスリトールヘキサ脂肪酸エステル(E2)を用いることによる効果を損なわない範囲で他の離型剤を併用することもできる。併用できる離型剤としては、例えばカルナバワックス等の天然ワックス、ステアリン酸亜鉛等の高級脂肪酸の金属塩類等が挙げられる。
【0032】
本発明は、エポキシ樹脂の硬化反応を促進し得るカチオン部と前記硬化反応を促進するカチオン部の触媒活性を抑制するシリケートアニオン部とを有する硬化促進剤(D1)と、ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル(E1)及び/又はジペンタエリスリトールヘキサ脂肪酸エステル(E2)と、を併用することによってその相乗効果を発現するものである。この2種を併用することにより、無機充填剤を増量しても、離型剤の分散性を損なうことなく、理想的な離型挙動を示すものとなる。
【0033】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)、フェノール樹脂系硬化剤(B)、無機充填材(C)、カチオン部とシリケートアニオン部とを有する硬化促進剤(D1)を含む硬化促進剤(D)、並びにペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル(E1)及び/又はジペンタエリスリトールヘキサ脂肪酸エステル(E2)を含む離型剤(E)を含むものであるが、更に必要に応じて、アミノシラン、エポキシシラン、メルカプトシラン、アルキルシラン、ウレイドシラン、アクリルシラン等のカップリング剤;ハイドロタルサイト類やマグネシウム、アルミニウム、ビスマス、チタン、ジルコニウムから選ばれる元素の含水酸化物等のイオントラップ剤;シリコーンオイル、ゴム等の低応力添加剤;チアゾリン、トリアゾール、トリアジン、ピリミジン等の密着付与剤;臭素化エポキシ樹脂や三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ほう酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛、フォスファゼン等の難燃剤等の添加剤を適宜配合しても差し支えない。
【0034】
また、本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、例えば、ミキサー等を用いて原料を充分に均一に混合したもの、更にその後、熱ロール、ニーダー、押出機等の混練機で溶融混練し、冷却後粉砕したものなど、必要に応じて適宜分散度や流動性等を調整したものを用いることができる。
【0035】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物を用いて、半導体素子等の各種の電子部品を封止し、半導体装置を製造するには、トランスファーモールド、コンプレッションモールド、インジェクションモールド等の従来からの成形方法で硬化成形すればよい。
【0036】
本発明で封止を行う半導体素子としては、特に限定されるものではなく、例えば、集積回路、大規模集積回路、トランジスタ、サイリスタ、ダイオード、固体撮像素子等が挙げられる。
本発明の半導体装置の形態としては、特に限定されないが、例えば、デュアル・インライン・パッケージ(DIP)、プラスチック・リード付きチップ・キャリヤ(PLCC)、クワッド・フラット・パッケージ(QFP)、スモール・アウトライン・パッケージ(SOP)、スモール・アウトライン・Jリード・パッケージ(SOJ)、薄型スモール・アウトライン・パッケージ(TSOP)、薄型クワッド・フラット・パッケージ(TQFP)、テープ・キャリア・パッケージ(TCP)、ボール・グリッド・アレイ(BGA)、チップ・サイズ・パッケージ(CSP)等が挙げられる。
上記トランスファーモールドなどの成形方法で封止された半導体装置は、そのまま、或いは80℃から200℃程度の温度で、10分から10時間程度の時間をかけて完全硬化させた後、電子機器等に搭載される。
【0037】
図1は、本発明に係るエポキシ樹脂組成物を用いた半導体装置の一例について、断面構造を示した図である。ダイパッド3上に、ダイボンド材硬化体2を介して半導体素子1が固定されている。半導体素子1の電極パッドとリードフレーム5との間は金線4によって接続されている。半導体素子1は、封止用樹脂組成物の硬化体6によって封止されている。
【実施例】
【0038】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。配合割合は重量部とする。
なお、実施例、比較例で用いた硬化促進剤と離型剤の内容について以下に示す。
【0039】
硬化促進剤1:下記化学式(2)で表される化合物
【化3】

【0040】
硬化促進剤2:下記化学式(3)で表される化合物
【化4】

【0041】
硬化促進剤3:下記化学式(4)で表される化合物
【化5】

【0042】
硬化促進剤4:下記化学式(5)で表される化合物
【化6】

【0043】
硬化促進剤5:下記化学式(6)で表される化合物
【化7】

【0044】
硬化促進剤6:下記化学式(7)で表される化合物
【化8】

【0045】
硬化促進剤7:下記化学式(8)で表される化合物
【化9】

【0046】
離型剤1:ペンタエリスリトールテトラモンタン酸エステル(クラリアントジャパン(株)製、リコモントET141、滴点76℃、酸価25mgKOH/g)
離型剤2:ペンタエリスリトールテトラベヘン酸エステル(ベヘン酸を溶融し、ペンタエリスリトール(ペンタエリスリトールとベヘン酸のモル比=1:4.2)及びスズ化合物(ペンタエリスリトールとベヘン酸の合計量100重量%に対し0.15重量%)を加え、200℃、窒素雰囲気下、反応水の留出下、酸価が35未満に低下するまで攪拌した。反応終了後、水酸化カリウム水溶液を用いて反応混合物中の遊離脂肪酸を中和し、その後温水による洗浄、脱水、ろ過、粉砕の処理を行った。滴点71℃、酸価30mgKOH/g)
離型剤3:ジペンタエリスリトールヘキサベヘン酸エステル(理研ビタミン(株)製、リケスターEW−861、滴点80℃、酸価20mgKOH/g)
離型剤4:ジペンタエリスリトールヘキサモンタン酸エステル(モンタン酸を溶融し、ジペンタエリスリトール(ジペンタエリスリトールとモンタン酸のモル比=1:6.3)及び70%濃度メタンスルホン酸(ジペンタエリスリトールとモンタン酸の合計量100重量%に対し0.2重量%)を加え、220℃、窒素雰囲気下、反応水の留出下、酸価が30未満に低下するまで攪拌した。反応終了後、水酸化カリウム水溶液を用いて反応混合物中の遊離脂肪酸を中和し、その後温水による洗浄、脱水、ろ過、粉砕の処理を行った。滴点84℃、酸価25mgKOH/g)
離型剤5:ペンタエリスリトールジステアリン酸エステル(理研ビタミン(株)製、リケマールHT−10、滴点52℃、酸価3mgKOH/g)
離型剤6:カルナバワックス(日興ファインプロダクツ(株)製、商品名ニッコウカルナバ、滴点83℃、酸価5mgKOH/g)
【0047】
ここで一例として硬化促進剤1の合成方法について示すが、これにより本発明が限定されるものではない。
メタノール1800gを入れたフラスコに、フェニルトリメトキシシラン249.5g、2,3−ジヒドロキシナフタレン384.0gを加えて溶かし、次に室温攪拌下28%ナトリウムメトキシド−メタノール溶液231.5gを滴下した。さらにそこへ予め用意したテトラフェニルホスホニウムブロマイド503.0gをメタノール600gに溶かした溶液を室温攪拌下滴下すると結晶が析出した。析出した結晶を濾過、水洗、真空乾燥し、桃白色結晶の硬化促進剤1を得た。
【0048】
実施例1
エポキシ樹脂1:下記式(9)で表されるビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂(日本化薬(株)製、商品名NC3000P、軟化点58℃、エポキシ当量273。下記式(9)におけるnの平均値1.8。) 6.19重量部
【化10】

【0049】
フェノール樹脂系硬化剤1:下記式(10)で表されるビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂(明和化成(株)製、商品名MEH−7851SS、軟化点67℃、水酸基当量204。下記式(10)におけるnの平均値1.5。)
4.61重量部
【化11】

【0050】
溶融球状シリカ1:(平均粒径20μm、最大粒径75μm、比表面積3.6m/g) 78.00重量部
溶融球状シリカ2:(平均粒径0.5μm、最大粒径10μm、比表面積5.9m/g) 10.00重量部
硬化促進剤1 0.50重量部
離型剤1 0.10重量部
カップリング剤:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学(株)製、商品名KBM−403) 0.30重量部
カーボンブラック:(三菱化学(株)製、商品名MA−600) 0.30重量部
をミキサーにて混合した後、熱ロールを用いて95℃で8分間混練し、更に冷却後粉砕してエポキシ樹脂組成物を得た。得られたエポキシ樹脂組成物を、以下の方法で評価した。結果を表1に示す。
【0051】
評価方法
スパイラルフロー:低圧トランスファー成形機(コータキ精機株式会社製、KTS−15)を用いて、EMMI−1−66に準じたスパイラルフロー測定用金型に、金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、保圧時間120秒の条件で、エポキシ樹脂組成物を注入し、流動長を測定した。単位はcm。スパイラルフローは、流動性のパラメータであり、数値が大きい方が良好な流動性を示す。
【0052】
金線流れ率:低圧トランスファー自動成形機(第一精工製、GP−ELF)を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間70秒の条件で、エポキシ樹脂組成物によりシリコンチップ等を封止成形して、160ピンLQFP(プリプレーティングフレーム:ニッケル/パラジウム合金に金メッキしたもの、パッケージ外寸:24mm×24mm×1.4mm厚、パッドサイズ:8.5mm×8.5mm、チップサイズ7.4mm×7.4mm×350μm厚)を得た。得られた160ピンLQFPパッケージを軟X線透視装置(ソフテックス(株)製、PRO−TEST100)で観察し、金線の流れ率を(流れ量)/(金線長)の比率を求めた。判定基準は5%未満を○、5%以上を×とした。
【0053】
硬化性(硬化トルク比):キュラストメータ((株)オリエンテック製、JSRキュラストメータIVPS型)を用いて、ダイスの直径35mm、振幅角1°、金型温度175℃の条件で、装置内に投入した樹脂組成物の硬化挙動をトルクの変化により測定した。測定開始60秒後と300秒後のトルク値から、硬化トルク比:(60秒後のトルク)/(300秒後のトルク)を計算した。キュラストメータにおける硬化トルク比は硬化性を表すパラメータであり、硬化トルク比の大きい方が硬化性が良好である。判定基準は0.7以上を○、0.7未満を×とした。
【0054】
連続成形性:低圧トランスファー自動成形機(第一精工製、GP−ELF)を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間70秒の条件で、エポキシ樹脂組成物によりシリコンチップ等を封止して80ピンQFP(プリプレーティングフレーム:ニッケル/パラジウム合金に金メッキしたもの、パッケージ外寸:14mm×20mm×2mm厚、パッドサイズ:6.5mm×6.5mm、チップサイズ6.0mm×6.0mm×350μm厚)を得る成形を、連続で800ショットまで行った。判定基準は未充填、離型不良等の問題が全く発生せずに800ショットまで連続成形できたものを◎、500ショットまで連続成形できたものを○、それ以外を×とした。
【0055】
パッケージ外観及び金型汚れ性:上記連続成形性の評価において、500ショット経過後のパッケージ及び金型について、目視で汚れを評価した。パッケージ外観及び金型汚れ性の判定基準は、500ショットまでに汚れが発生したものを×、500ショットまで汚れていないものを○、800ショットまで汚れていないものを◎で表す。また、上記連続成形性において、800ショットまで問題なく成形できなかったものについては、連続成形を断念した時点でのパッケージ外観及び金型汚れ状況で判断した。
【0056】
耐半田性:上記連続成形性の評価において成形したパッケージを175℃、8時間で後硬化し、得られたパッケージを85℃、相対湿度60%で168時間加湿処理後、260℃のIRリフロー処理をした。パッケージ20個について、半導体素子とエポキシ樹脂組成物の硬化物との界面の密着状態を超音波探傷装置により観察し、剥離発生率[(剥離発生パッケージ数)/(全パッケージ数)×100]を算出した。耐半田性の判断基準は、剥離が発生しなかったものは○、剥離発生率が20%未満のものは△、剥離発生率が20%以上のものは×とした。
【0057】
実施例2〜13、比較例1〜7
表1、表2、表3の配合に従い、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を得て、実施例1と同様にして評価した。結果を表1、表2、表3に示す。
実施例1以外で用いた原材料を以下に示す。
エポキシ樹脂2:下記式(11)で表されるビフェニル型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製、商品名YX−4000、エポキシ当量190、融点105℃)
【化12】

【0058】
フェノール樹脂系硬化剤2:下記式(12)で表されるフェノールアラルキル樹脂(三井化学(株)製、商品名XLC−LL、水酸基当量165、軟化点79℃)
【化13】

【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
実施例1〜13は、カチオン部とシリケートアニオン部とを有する硬化促進剤(D1)、ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル(E1)及び/又はジペンタエリスリトールヘキサ脂肪酸エステル(E2)を含むものであり、エポキシ樹脂(A)及びフェノール樹脂系硬化剤(B)の種類と配合割合、無機充填材(C)の配合割合、カチオン部とシリケートアニオン部とを有する硬化促進剤(D1)の種類と配合割合、ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル(E1)及び/又はジペンタエリスリトールヘキサ脂肪酸エステル(E2)の種類と配合割合を変えたものを含むものであるが、いずれにおいても、良好な流動性(スパイラルフロー)、金線流れ率、硬化性、離型性、連続成形性、パッケージ外観、金型汚れ性及び耐半田性を有する結果となった。
一方、ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル(E1)及び/又はジペンタエリスリトールヘキサ脂肪酸エステル(E2)を用いていない比較例1、2、6では、連続成形性が悪化し、パッケージ外観、金型汚れ性、耐半田性も劣る結果となった。
また、カチオン部とシリケートアニオン部とを有する硬化促進剤(D1)を用いていない比較例3、4、5、7では、樹脂組成物の流動性が低下することにより金線変形率が悪化し、連続成形性、パッケージ外観、金型汚れ性、耐半田性も劣る結果となった。また、硬化促進剤の種類及び量によっては、硬化性も劣る結果となった。
以上より、本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、無機充填材の配合量が樹脂組成物全体の88重量%、90重量%と高いにもかかわらず、成形時の流動性、硬化性、離型性、連続成形性、パッケージ外観、金型汚れ性及び耐半田性のバランスに優れ、信頼性に優れた半導体装置パッケージを提供することができることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、無機充填材の配合量を高めた場合でも、成形時において良好な流動性、硬化性、離型性、連続成形性を有し、かつ樹脂硬化物の外観汚れや金型汚れが発生し難いエポキシ樹脂組成物が得られるものである。従って、低粘度や可撓性を有するエポキシ樹脂及び/又はフェノール樹脂系硬化剤と組合せて用いることで無機充填材の配合量を高めることができ、それによって無鉛半田に対応する高温の半田処理によってもクラックが発生しない良好な耐半田性を有する半導体封止用エポキシ樹脂組成物を得ることができるため、無鉛半田を用いて表面実装を行う半導体装置に好適に用いることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明に係るエポキシ樹脂組成物を用いた半導体装置の一例について、断面構造を示した図である。
【符号の説明】
【0065】
1 半導体素子
2 ダイボンド材硬化体
3 ダイパッド
4 金線
5 リードフレーム
6 封止用樹脂組成物の硬化体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)、
フェノール樹脂系硬化剤(B)、
無機充填材(C)、
硬化促進剤(D)、
及び離型剤(E)を含む半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、
前記硬化促進剤(D)がカチオン部とシリケートアニオン部とを有する硬化促進剤(D1)を含み、
前記離型剤(E)がペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル(E1)及び/又はジペンタエリスリトールヘキサ脂肪酸エステル(E2)を含むことを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、前記ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル(E1)と前記ジペンタエリスリトールヘキサ脂肪酸エステル(E2)との合計配合量が全エポキシ樹脂組成物中に0.01重量%以上、1重量%以下の割合であることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、前記カチオン部とシリケートアニオン部とを有する硬化促進剤(D1)のカチオン部が燐カチオンを含むものであることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、前記カチオン部とシリケートアニオン部とを有する硬化促進剤(D1)が下記一般式(1)で表される化合物であることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【化1】

(ただし、上記一般式(1)において、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ、芳香環又は複素環を有する有機基、或いは脂肪族基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。X1は、基Y1及びY2と結合する有機基である。X2は、基Y3及びY4と結合する有機基である。Y1及びY2はプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基であり、同一分子内の基Y1、及びY2が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。Y3及びY4はプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基であり、同一分子内の基Y3及びY4が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。X1、及びX2は互いに同一であっても異なっていてもよく、Y1、Y2、Y3、及びY4は互いに同一であっても異なっていてもよい。Z1は芳香環又は複素環を有する有機基、或いは脂肪族基である。)
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、前記ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル(E1)がペンタエリスリトールと炭素数22以上、36以下の飽和脂肪酸とのテトラエステルであることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、前記ジペンタエリスリトールヘキサ脂肪酸エステル(E2)がジペンタエリスリトールと炭素数22以上、36以下の飽和脂肪酸とのヘキサエステルであることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、前記ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル(E1)及びジペンタエリスリトールヘキサ脂肪酸エステル(E2)の酸価が10mgKOH/g以上、50mgKOH/g以下であることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物の硬化物により半導体素子が封止されてなることを特徴とする半導体装置。

【図1】
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【公開番号】特開2008−106230(P2008−106230A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−195373(P2007−195373)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】