説明

半導体封止用樹脂組成物、その製造方法及び半導体装置

【課題】熱伝導性、成形性、耐湿信頼性、耐リフロー性に優れた半導体封止用樹脂組成物、その製造方法及び半導体装置を提供する。
【解決手段】クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック樹脂、硬化促進剤、平均粒子径10〜60μmの結晶性シリカを少なくとも含むシリカ、及び800℃以上で加熱処理されてなる、平均粒子径10〜80μmの炭化珪素を含み、前記シリカと前記炭化珪素の合計含有量が75〜90質量%であり、前記結晶性シリカの体積充填率が25体積%以上、50体積%以下、前記炭化珪素の体積充填率が20体積%以上、37体積%以下である半導体封止用樹脂組成物、その製造方法及び半導体装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーデバイス用途に好適な半導体封止用樹脂組成物、その製造方法及びこれを用いた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーデバイス等の半導体装置の樹脂封止に使用されるエポキシ樹脂組成物には、半導体素子が放出する多量の熱に対応するため高い熱伝導性が要求される。そこで、良好な熱伝導率を得るために、例えば、結晶性シリカと粒径の小さい溶融球状シリカを併用して、無機充填剤を高密度に充填させたエポキシ樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
結晶性シリカは、溶融シリカ等に比べて熱伝導率が高いため、これを充填剤として用いた場合、高い熱伝導率が期待できるが、鋭角な破砕形の結晶性シリカでは高充填化した際に良好な流動性が得られないという欠点を有する。これを解消するため、鈍角結晶性シリカ粉末を含有する半導体封止用樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、流動性が十分に改善されているとはいえない。
【0004】
また、表面を800℃以上の温度で酸化処理した炭化珪素粉末と、絶縁性粉末と、樹脂とを含み、絶縁性粉末の体積充填率が、炭化珪素粉末の体積充填率の1/2以下である樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献4参照)。これは、炭化珪素は熱伝導率が高いものの、不純物が多く、電気的には半導体であることから、このままでは絶縁性を要求される用途には使用できないため、炭化珪素の外周部に酸化皮膜層を形成することで無機充填材として使用できるようにしたものである。
ところが、このような炭化珪素粉末を半導体装置の封止樹脂に使用した場合、流動性が悪く、金型内の充填性に劣ることから、吸湿時の耐リフロー性に劣るおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許2811933号公報
【特許文献2】特開2001−44337号公報
【特許文献3】特開平8−81540号公報
【特許文献4】特開2007−84705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の課題を解決するためになされたもので、良好な熱伝導性を有し、成形性、耐リフロー性、耐湿信頼性に優れた半導体封止用樹脂組成物、及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック樹脂、硬化促進剤、シリカ、炭化珪素を必須成分とした半導体封止用樹脂組成物において、特定のシリカ及び炭化珪素を特定の配合割合に調整することで、良好な熱伝導性を有し、成形性、耐湿信頼性、耐リフロー性に優れる半導体封止用樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の半導体封止用樹脂組成物、その製造方法及び半導体装置を提供する。
【0009】
1.(A)クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、(B)フェノールノボラック樹脂、(C)硬化促進剤、(D)シリカ、及び(E)炭化珪素を含み、(D)シリカと(E)炭化珪素の合計含有量が全樹脂組成物の75〜90質量%である半導体封止用樹脂組成物であって、
(D)シリカが、平均粒子径10〜60μmの結晶性シリカ(d1)を少なくとも含み、樹脂組成物中の(d1)結晶性シリカの体積充填率が25体積%以上、50体積%以下であり、
(E)炭化珪素が、800℃以上で加熱処理された平均粒子径10〜80μmの炭化珪素であり、樹脂組成物中の(E)炭化珪素の体積充填率が20体積%以上、37体積%以下である半導体封止用樹脂組成物。
2.前記(D)シリカが、さらにジェットミル法により粉砕されてなる、平均粒子径10μm未満の結晶性シリカ(d2)を含み、樹脂組成物中の(d2)結晶性シリカの体積充填率が1体積%以上、10体積%以下である前記1の半導体封止用樹脂組成物。
3.前記(E)炭化珪素の体積充填率が、前記(D)シリカの体積充填率よりも小さい前記1又は2の半導体封止用樹脂組成物。
4.前記1〜3のいずれかの半導体封止用樹脂組成物を製造する方法であって、予め(B)フェノールノボラック樹脂と(E)炭化珪素とを予備混練する工程を有する半導体封止用樹脂組成物の製造方法。
5.前記1〜3のいずれかの半導体封止用樹脂組成物の硬化物、又は前記4の方法により得られた半導体封止用樹脂組成物の硬化物により封止された半導体素子を具備する半導体装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、熱伝導性、成形性、耐リフロー性、及び耐湿信頼性に優れた半導体封止用樹脂組成物、その製造方法、及び半導体封止装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
まず、本発明の半導体封止用樹脂組成物に用いられる各成分について説明する。
本発明に用いられる(A)成分のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂は、成形性及びはんだ耐熱性に優れるという特徴を有する。クレゾールノボラック型エポキシ樹脂は、下記一般式(1)で示され、中でも、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂が好ましい。
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、nは0以上の整数である。)
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂のエポキシ当量は、硬化性の観点から、150〜300の範囲のものが好ましく、180〜250の範囲のものがより好ましい。
(A)成分としては、具体的には、ESCN−190(住友化学工業株式会社製、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂の商品名;エポキシ当量195、軟化点65℃)等が好ましく使用される。クレゾールノボラック型エポキシ樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0014】
本発明においては、必要に応じて、(A)成分のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂を併用することができる。(A)成分以外のエポキシ樹脂としては、一分子中に2個以上のエポキシ基をもつ化合物であれば特に制限されず、例えば、硬化性等を調整する目的で、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、トリアジン核含有エポキシ樹脂、ビフェニル型またはスチルベン型二官能エポキシ化合物等を使用することができる。これらのエポキシ樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。(A)成分以外のエポキシ樹脂を併用する場合、エポキシ樹脂総質量の50質量%以下の範囲で配合することが好ましい。より好ましい範囲は、エポキシ樹脂総質量の30質量%以下である。
【0015】
本発明に用いられる(B)成分のフェノールノボラック樹脂としては、上記(A)成分のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂のエポキシ基と反応し得るフェノール性水酸基を分子中に2個以上有するものであれば、特に制限されることなく使用される。本発明の目的のためには、(B)成分のフェノール性水酸基当量は100〜200の範囲が好ましく、硬化性の観点から、100〜150の範囲が特に好ましい。また、(B)成分の軟化点は50〜130℃の範囲が好ましく、70〜110℃の範囲がより好ましい。
具体的には、(B)成分としては、TEH−1085(明和化成株式会社製の商品名;水酸基当量104、軟化点102℃)等が好ましく使用される。(B)成分のフェノールノボラック樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0016】
このフェノールノボラック樹脂の配合量は、上記(A)成分のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、および必要に応じて配合される(A)成分以外のエポキシ樹脂中のエポキシ基1当量当たり、フェノールノボラック樹脂中のフェノール性水酸基当量が0.5〜2.0当量となる範囲が好ましく、0.8〜1.2当量となる範囲がより好ましい。0.5当量以上の範囲であると難燃性等が向上する。また、2.0当量以下の範囲であると吸水率が低下して耐湿信頼性が向上する。
【0017】
本発明においては、必要に応じて、(B)フェノールノボラック樹脂以外の、上記エポキシ樹脂の硬化剤として作用するフェノール樹脂を併用することができる。具体的に(B)成分以外のフェノール樹脂としては、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、ノボラック型フェノール樹脂(例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂等)の変性樹脂(例えば、エポキシ化もしくはブチル化したノボラック型フェノール樹脂等)、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂、パラキシレン変性フェノール樹脂、トリフェノールアルカン型フェノール樹脂、多官能型フェノール樹脂等を使用することができる。
これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。(B)成分以外のフェノール樹脂を併用する場合、フェノール樹脂総質量の50質量%以下の範囲で配合することが好ましく、フェノール樹脂総質量の30質量%以下で配合することがより好ましい。なお、(B)成分のフェノールノボラック樹脂以外のフェノール樹脂を併用する場合、それらの樹脂中のフェノール性水酸基当量が、(A)成分のクレールノボラック型エポキシ樹脂、および必要に応じて配合されるその他のエポキシ樹脂中のエポキシ基1当量当たり、前述した範囲、すなわち0.5〜2.0当量となる範囲が好ましく、0.8〜1.2当量となる範囲がより好ましい。
【0018】
本発明に用いる(C)硬化促進剤としては、特に制限はなく、公知のものを広く使用することができる。(C)硬化促進剤としては、例えば、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリ(p−メチルフェニル)ホスフィン、トリ(ノニルフェニルホスフィン)、メチルジフェニルホスフィン、ジブチルフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、ビス(ジフェニルホスフィノ)メタン等のリン系硬化促進剤、2−メチルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール等のイミダゾール系硬化促進剤、1、8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7(DBU)等のDBU系硬化促進剤等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよく、又は2種以上を併用してもよい。
(C)硬化促進剤の配合割合は、全樹脂組成物に対して0.01〜5質量%含有するように配合することが好ましい。その割合が0.01質量%以上であると樹脂組成物のゲルタイムが短くなり、硬化特性が向上する。また、5質量%以下であると流動性が良好となり成形性が向上し、さらに電気特性も良好となるため耐湿信頼性が得られる。
【0019】
本発明に用いる(D)シリカとしては、平均粒子径が10〜60μmの結晶性シリカ(d1)を少なくとも用いる。(d1)結晶性シリカを用いることによって、得られる封止樹脂に高熱伝導性を付与することができ、パワーデバイスのような高熱伝導性を要求する封止樹脂に好適となるので、溶融シリカや無定形シリカなどと比べて、優れた特性を付与することができる。以上の観点から、(d1)結晶性シリカの平均粒子径としては、30〜60μmの範囲が好ましく、40〜60μmの範囲がより好ましい。
【0020】
さらに、(D)シリカとして、ジェットミル法により粉砕されてなる、平均粒子径10μm未満の結晶性シリカ(d2)を用いることが好ましい。(d2)ジェットミル粉砕した結晶性シリカを配合することで、高熱伝導性を有し、成形性や充填性が良好で、耐リフロー性にも優れる半導体封止用樹脂組成物を得ることができる。
(d2)結晶性シリカの平均粒子径は、1μm以上、10μm未満の範囲がより好ましい。さらに、(d2)結晶性シリカは、長軸と短軸との比の平均値が1〜1.5の範囲であることが好ましい。ここで、結晶性シリカは溶融シリカに比較して熱伝導率は高いが、形状が不定形のため充填性に劣るおそれがある。そこで、このようなジェットミル法により粉砕された結晶性シリカを用いることで、角が取れて丸みを帯びた形状となり、溶融球状シリカを用いることなく高密度充填が可能となる。
なお、本発明において(d2)結晶性シリカの平均粒子径は次のようにして求めた。即ち、サンプリングしたジェットミル粉砕シリカを電子顕微鏡により500倍で撮影した写真を用い、任意に選択された100個の粒子について撮影面積に等しい円の直径を求め、その算術平均値をもって平均粒子径とした。また、長軸及び短軸は、前記写真を用い、任意に選択された100個の粒子について粒子の外接円の直径を長軸、粒子輪郭に接する平行線間の最短距離を短軸とした。
【0021】
ジェットミル粉砕方法は、ミル装置内部の空気の流れにより生じる流体エネルギーで、粒子同士を衝突させるとともに器壁との衝突で物理的に磨砕することを利用した粉砕方法であり、微粉砕が可能である。ジェットミル粉砕を行うことで、比較的粒子径の揃った微粉を得ることができる。
本発明においてジェットミル法で粉砕されたシリカ粒子は、例えば日本ニューマチック工業株式会社製の装置PJM−200SPを用いて、結晶性シリカ粒子をジェット気流圧2〜10kg/cm2で投入することによって得ることができる。また、適宜市販されているものを用いてもよい。
また、本発明において、(d1)及び(d2)成分以外の(D)シリカとして、溶融シリカを本発明の効果を阻害しない範囲で必要に応じて配合することもできる。
【0022】
本発明で使用する(E)炭化珪素は800℃以上に加熱処理してなることを特徴としている。800℃以上で加熱処理することによって、特に炭化珪素に含まれるイオン性不純物が減少する。具体的には炭化珪素を酸素雰囲気において1100℃で2時間加熱処理することによって、炭化珪素に含まれるナトリウムイオンは1/5以下に、塩素イオンは1/10以下に減少し、さらに、炭化珪素を純水中で180℃で2時間浸漬した後の抽出水の電気伝導度は1/3以下に減少する。これによって半導体封止用樹脂組成物の耐湿信頼性が向上し、信頼性の高い樹脂封止型半導体装置を歩留まり良く得ることができる。
前記炭化珪素の加熱処理方法は、特に限定されないが、例えば、空気または酸素雰囲気中における熱酸化法等が挙げられる。
(E)炭化珪素の加熱処理温度としては、800〜1200℃が好ましく、900〜1100℃がより好ましい。
【0023】
本発明で使用する(E)炭化珪素の平均粒子径は10〜80μmであり、30〜60μmであることが好ましい。
(E)炭化珪素の平均粒子径が10μm以上の範囲であると良好な熱伝導性が得られ、80μm以下の範囲であると適正な流動性が得られる。
【0024】
このように(d1)平均粒子径が10〜60μmの結晶性シリカと(E)800℃以上で加熱処理された平均粒子径10〜80μmの炭化珪素を組み合わせることによって、好ましくは、さらに(d2)ジェットミル粉砕された平均粒子径10μm未満の結晶性シリカを組み合わせることによって、熱伝導性と流動性のバランスが良好となる。
【0025】
本発明において、前記(D)シリカと前記(E)炭化珪素の合計含有量は、組成物全体の75〜90質量%であり、好ましくは80〜90質量%である。前記(D)及び(E)成分の合計含有量が、この範囲にあると、流動性に優れるとともに、良好な熱伝導性が得られる。
また、本発明の半導体封止用樹脂組成物において、組成物中の前記(d1)シリカの体積充填率は25体積%以上、50体積%以下であり、組成物中の前記(E)炭化珪素の体積充填率は20体積%以上、37体積%以下である。さらに、組成物中の前記(d2)シリカの体積充填率が1体積%以上、10体積%以下であることが好ましい。
前記(E)炭化珪素の体積充填率が20体積%未満であると所望の熱伝導性が得られなくなるため好ましくない。また、前記(d1)、(E)及び(d2)成分の体積充填率がこの範囲にあると、流動性に優れるとともに、良好な熱伝導性が得られる。
【0026】
さらに、前記(E)炭化珪素の体積充填率が、前記(D)シリカの体積充填率よりも小さいことが好ましい。絶縁性粉末であるシリカの体積充填率に対して、炭化珪素の体積充填率が多くなると、成形性が低下すると共に、耐リフロー性や耐湿信頼性も低下するおそれがある。そのため、前記(E)炭化珪素の体積充填率を前記(D)シリカの体積充填率よりも小さくすることにより流動性や成形性、耐リフロー性、耐湿信頼性に優れた半導体封止用樹脂組成物を得ることができる。
【0027】
本発明の半導体封止用樹脂組成物には、充填性、無機充填剤と樹脂との密着性等を高める目的で、さらにカップリング剤を配合することができる。カップリング剤としては、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、アルミニウムキレート類、アルミニウム/ジルコニウム系化合物等が挙げられるが、添加による効果等の観点から、なかでもシランカップリング剤が好ましい。
【0028】
好ましいシランカップリング剤の例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランはNUC A−187、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランはNUC A−189、γ−アミノプロピルトリエトキシシランはNUC A−1100、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシランはNUC A−1160、N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランはNUC A−1120という商品名で、いずれも日本ユニカー株式会社より市販されている。
【0029】
カップリング剤の配合量は、添加による効果、耐熱性、コスト等の観点から、組成物の全量に対して0.03〜5.0質量%の範囲が好ましく、0.1〜2.5質量%の範囲がより好ましい。
【0030】
本発明の半導体封止用樹脂組成物には、以上の各成分の他、この種の組成物に一般に配合される、合成ワックス、天然ワックス、エステル類、直鎖脂肪酸の金属塩、酸アミド等の離型剤、カーボンブラック等の着色剤、シリコーンオイル、シリコーンゴム等の低応力付与剤等を、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて配合することができる。
【0031】
本発明の半導体封止用樹脂組成物の一般的な製造方法は、まず、乾式混合装置に(D)成分のシリカ、(E)成分の炭化珪素を加え、混合する。なお、(D)成分に含まれる(d1)成分と必要に応じて用いる(d2)成分は、粉末混合物として加えても、又は予め混合することなく乾式混合装置に個々に加えてもよい。次に、予め粉末状態にした(A)クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、(B)フェノールノボラック樹脂、(C)硬化促進剤、および必要に応じて配合される各種成分を加え、均一に混合する。その後、この混合物を二本ロール、連続混練装置等により溶融混練し、シート化した後、適当な大きさに粉砕することで半導体封止用樹脂組成物を得ることができる。
【0032】
特に、本発明の半導体封止用樹脂組成物の製造方法において、予め前記(B)フェノールノボラック樹脂と前記(E)炭化珪素を予め混練し、予備混練組成物を調製することが好ましい。(B)フェノールノボラック樹脂と(E)炭化珪素とを予備混練することで炭化珪素が均一に分散されることにより、成形性、耐リフロー性及び耐湿信頼性に優れた半導体封止用樹脂組成物を得ることができる。
予備混練組成物を調製するには、前記(B)フェノールノボラック樹脂と前記(E)炭化珪素粉末を混合した後、ニーダ、熱ロール、押出混練機のような、樹脂成分の加熱溶融混練が可能な装置により溶融混練し、冷却して固化させた後、半導体封止用樹脂材料の調製に適した粒度に粉砕する方法が採られる。
調製した予備混練組成物は、(A)成分、(C)成分、(D)成分、さらに必要に応じて配合される各種成分と均一に混合し、次いで上記と同様に溶融混練し、シート化した後、粉砕することで半導体封止用樹脂組成物を製造することができる。
このような方法で予備混練をすると共に、上記したように(E)炭化珪素の体積充填率を、(D)シリカの体積充填率よりも低く設定することにより(E)炭化珪素の分散性に優れ、良好な熱伝導率を発現すると共に、成形性、耐リフロー性及び耐湿信頼性に優れた半導体封止用樹脂組成物を得ることができる。
【0033】
本発明の半導体装置は、上記半導体封止用樹脂組成物を用いて各種の半導体素子を封止することにより製造することができる。封止を行う半導体泰子としては、IC、ダイオード、サイリスタ、トランジスタ等が例示される。封止方法としては、低圧トランスファー法が一般的であるが、射出成形、圧縮成形、注型等による封止も可能である。半導体封止用樹脂組成物で封止後は、加熱して硬化させ、最終的にその硬化物によって封止された半導体装置が得られる。なお、硬化物は、熱線法により測定される熱伝導率が2.5W/m・K以上であることが好ましく、3.0W/m・K以上であることがより好ましい。
【0034】
本発明の半導体封止用樹脂組成物は、高い熱伝導性を有するとともに、流動性が良好で成形性に優れ、耐リフロー性及び耐湿信頼性にも優れている。したがって、各種半導体装置の封止材として、なかでも、パワーデバイスと称するトランジスタ、ダイオード、サイリスタ等の半導体装置の封止材として非常に有用である。
【実施例】
【0035】
次に、本発明について実施例を参照してさらに詳細に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって制限されるものではない。
【0036】
(実施例1)
炭化珪素(福島窯業株式会社製)を、酸素雰囲気下、1100℃で2時間加熱処理して得られた(E)炭化珪素(平均粒子径35μm)100質量部と、(B)フェノールノボラック樹脂(商品名:TEH−1085、明和化成株式会社製)5質量部とを、ミキサーを用いて常温混合した後、加圧ニーダにより70〜100℃の温度で加熱混練し、冷却して固化させた後、粉砕して、予備混練組成物を得た。
次に、前記予備混練組成物に加えて、(A)クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(商品名:CNE−200ELB−65、長春人造樹脂社製)15質量部、臭素化エポキシ樹脂(商品名:EPICLON153、DIC株式会社製)5質量部、硬化促進剤(2−フェニル−4−メチルイミダゾール、商品名:2P4MZ、四国化成工業株式会社製)1質量部、(d1)結晶性シリカ(平均粒径40〜50μm、商品名シリカパウダーT、福島窯業株式会社製)を110質量部、平均粒子径28μmの結晶性シリカ粉をジェットミル(PJM−200EP、日本ニューマチック工業株式会社製)を用いてジェット気流2〜10kg/cm2で投入し、粉砕・篩分けして得た(d2)ジェットミル粉砕シリカ粉(平均粒子径5.0μm)10質量部、離型剤(商品名:Licowax−E、クラリアント社製)4質量部、着色剤(カーボンブラック、商品名:CB#30、三菱化学株式会社製)0.6質量部、カップリング剤(3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、商品名:S−510、チッソ株式会社製)0.1質量部を常温で混合した後、90〜110℃で溶融混練し、冷却及び粉砕して半導体封止用樹脂組成物を製造した。
【0037】
(実施例2)
(d2)ジェットミル粉砕シリカ粉の代わりに、溶融球状シリカ(商品名SO−32R、株式会社龍森製、平均粒子径1.6〜2.0μm)10質量部とした以外は、実施例1と同様にして半導体封止用樹脂組成物を製造した。
【0038】
(実施例3)
実施例1の樹脂組成物において、炭化珪素とフェノールノボラック樹脂を予備混練せずに、全材料を一括で常温混合した後、90〜110℃で溶融混練し、冷却及び粉砕して半導体封止用樹脂組成物を製造した。
【0039】
(実施例4)
実施例2の樹脂組成物において、炭化珪素とフェノールノボラック樹脂を予備混練せずに、全材料を一括で常温混合した後、90〜110℃で溶融混練し、冷却及び粉砕して半導体封止用樹脂組成物を製造した。
【0040】
(比較例1)
実施例4で用いた(E)成分に代えて、加熱酸化処理をしない炭化珪素(福島窯業株式会社製)を使用した以外は、実施例4と同様にして半導体封止用樹脂組成物を製造した。
【0041】
(比較例2)
実施例3で用いた(E)加熱酸化処理した炭化珪素を150質量部、(d1)結晶性シリカ(商品名:シリカパウダーT、福島窯業株式会社製、平均粒径40〜50μm)を50質量部、(d2)ジェットミル粉砕シリカ粉を0質量部とした以外は実施例3と同様にして半導体封止用樹脂組成物を製造した。
【0042】
(比較例3)
実施例4で用いた(E)加熱酸化処理した炭化珪素を60質量部、(d1)結晶性シリカ(商品名:シリカパウダーT、福島窯業株式会社製、平均粒径40〜50μm)を140質量部とした以外は実施例4と同様にして半導体封止用樹脂組成物を製造した。
【0043】
実施例及び比較例で得られた半導体封止用樹脂組成物は、下記方法で評価し、結果を表1に示した。
(スパイラルフロー)
EMMI−1−66に準じたスパイラルフロー金型を用い、半導体封止用樹脂組成物を175℃、成形圧力9.8MPaでトランスファー成形したときのスパイラルフロー長さを測定した。
【0044】
(成形性評価)
半導体封止用樹脂組成物を、20個取り金型(3ピン小型半導体装置(大きさ:縦約5mm×横1.5mm×高さ0.5mm)を使用して、金型温度175℃、注入圧力7.0MPa、硬化時間120秒で成形し、かつ後硬化を175℃で5時間にて行なった。その後、割れまたは欠けの発生数を目視で評価した。また、パッケージ裏面の未充填したパッケージの発生数を目視で以下の基準で評価した。
(評価基準)
○:何も異常が認められない
△:巣の発生などの外観不良が認められる
×:未充填や割れまたは欠けが認められる
【0045】
(吸湿リフロー試験)
半導体封止用樹脂組成物を用いて、2本以上のアルミニウム配線を有するシリコン製チップを通常の42アロイフレームに接着し、170℃で2分間トランスファー成形した後、170℃で4時間の後硬化を行った。こうして得た成形品を用いて、85℃、85%RHの環境下で72時間放置して、その後、赤外線(IR)リフロー処理(240℃、10秒)を行った。
成形品20個を超音波探傷機で観察し、パッケージ内部の剥離、クラック等の不良発生個数を確認した。
【0046】
(抽出水の電気伝導度)
半導体封止用樹脂組成物を粉砕して、5gを坪量して抽出容器に入れ、50mlの純水中で、180℃で2時間抽出後、伝導度計(CM−40S、東亜ディーケーケー株式会社製)で電気伝導率を測定した。抽出水の電気伝導度は、40μS/cm以下であると、信頼性の高い半導体封止材料として有用である。
【0047】
(耐湿信頼性試験)
半導体封止用樹脂組成物を用いて、2本以上のアルミニウム配線を有するシリコン製チップを通常の42アロイフレームに接着し、170℃で2分間トランスファー成形した後、170℃で4時間の後硬化を行った。
こうして得た成形品20個を用いて127℃、2.5atmの飽和水蒸気中でプレッシャークッカー試験(PCT、)を行い、アルミニウム配線のオープン・ショートの発生数を確認した。
【0048】
(熱伝導率)
半導体封止用樹脂組成物を175℃においてトランスファー成形した成形品(φ100mm、25mm厚)を作成し、迅速熱伝導率測定装置を用いて熱伝導率(単位:W/m・K)を測定した。以下の基準で熱伝導性を判定した。
(判定基準)
○:熱伝導率3以上
△:熱伝導率2.5以上、3未満
×:熱伝導率2.5以下
【0049】
【表1】

【0050】
表1の評価結果に示されるように、実施例1〜4の半導体封止用樹脂組成物は比較例1〜3の半導体封止用樹脂組成物に比べて、流動性、成形性において優れると共に、その硬化物は吸湿リフロー及び試験耐湿信頼性試験の結果も良好であることが認められた。また、熱伝導性に優れることが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の半導体封止用樹脂組成物は、良好な熱伝導性を発現し、耐リフロー性、耐湿信頼性に優れるとともに、成形性に優れているため未充填の発生が無く、信頼性に優れた半導体装置を得ることができる。
さらに、本発明の半導体封止用樹脂組成物の製造方法によれば、(E)炭化珪素が予め(B)フェノールノボラック樹脂に混練されているため、(E)炭化珪素の粗粒あるいは凝集物が存在せず、耐湿信頼性に優れている。
したがって、このような半導体封止用樹脂組成物の硬化物で封止することにより、ファインピッチ化された半導体パッケージのような装置において、リーク不良などの絶縁不良の発生を防止し、信頼性の高い樹脂封止型半導体装置を歩留まり良く得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、(B)フェノールノボラック樹脂、(C)硬化促進剤、(D)シリカ、及び(E)炭化珪素を含み、(D)シリカと(E)炭化珪素の合計含有量が全樹脂組成物の75〜90質量%である半導体封止用樹脂組成物であって、
(D)シリカが、平均粒子径10〜60μmの結晶性シリカ(d1)を少なくとも含み、樹脂組成物中の(d1)結晶性シリカの体積充填率が25体積%以上、50体積%以下であり、
(E)炭化珪素が、800℃以上で加熱処理された平均粒子径10〜80μmの炭化珪素であり、樹脂組成物中の(E)炭化珪素の体積充填率が20体積%以上、37体積%以下である半導体封止用樹脂組成物。
【請求項2】
前記(D)シリカが、さらにジェットミル法により粉砕されてなる、平均粒子径10μm未満の結晶性シリカ(d2)を含み、樹脂組成物中の(d2)結晶性シリカの体積充填率が1体積%以上、10体積%以下である請求項1に記載の半導体封止用樹脂組成物。
【請求項3】
前記(E)炭化珪素の体積充填率が、前記(D)シリカの体積充填率よりも小さい請求項1又は2に記載の半導体封止用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の半導体封止用樹脂組成物を製造する方法であって、予め(B)フェノールノボラック樹脂と(E)炭化珪素とを予備混練する工程を有する半導体封止用樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の半導体封止用樹脂組成物の硬化物、又は請求項4に記載の方法により得られた半導体封止用樹脂組成物の硬化物により封止された半導体素子を具備する半導体装置。

【公開番号】特開2013−1861(P2013−1861A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136118(P2011−136118)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(390022415)京セラケミカル株式会社 (424)
【Fターム(参考)】