説明

半導体発光装置および半導体発光装置の製造方法

【課題】半導体膜に対するコンタクト層として機能するITO膜を有する半導体発光装置において、ITO膜と半導体膜との接触の増大を抑制することができる半導体発光装置およびその製造方法を提供する。
【解決手段】
半導体発光装置1は、発光層を含む半導体膜20と、半導体膜上に設けられたITO膜30と、ITO膜30の上面の一部および側面を覆う酸素吸着性を有する酸素吸着部80と、ITO膜30の上面に設けられた光反射性を有する反射電極40と、ITO膜30、酸素吸着部80および反射電極40からなる積層体を覆うキャップ層50と、キャップ層50上に接合層61を介して接合された支持基板60と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LED(発光ダイオード)等の半導体発光装置に関し、特に半導体膜に対するコンタクト層として機能するITO(スズドープ酸化インジウム)膜を有する半導体発光装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LED等の半導体発光装置は、近年の技術の進歩により高効率、高出力化されている。しかし、高出力化に伴って発光素子から発せられる熱量も増加し、これによる信頼性の低下が問題となっている。これを解決するために結晶成長に用いられる比較的熱伝導率の低い成長用基板を除去し、これに代えて比較的熱伝導率の高い部材で半導体層を支持する所謂thin-film構造のLEDが提案されている。Thin-film構造によれば、発光素子の放熱性が改善される他、成長用基板を除去することにより光取り出し効率の向上も期待できる。例えば、GaN系半導体結晶を含む半導体層から成長用基板を剥離する方法として成長用基板の裏面側からレーザを照射してGaNを分解するレーザリフトオフ(LLO)法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−516415号公報
【特許文献2】特開2000−228539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図1は、従来のthin-film構造を有する半導体発光装置の構成を示す断面図である。GaN等のIII族窒化物半導体からなる半導体膜20は、MOCVD(有機金属気相成長法)によりサファイア基板等の成長用基板(図示せず)上にn型半導体層、発光層、p型半導体層を順次積層することにより形成される。半導体膜20(p型半導体層)上には、半導体膜20に対して電気的コンタクトをとるためにITO膜30が形成される。ITO膜30を成膜した後に酸素雰囲気下においてアニール処理を行うことによりITO膜30は、半導体膜20との間でオーミック性接触を形成する。続いて、ITO膜30の表面を覆うように、高反射率を有するAg等からなる反射電極40が形成される。次に、ITO膜30と反射電極40からなる積層体を覆うようにキャップ層50を形成する。キャップ層50は、支持基板60と半導体膜20とを接合するためのAuSn等の共晶接合材の反射電極40への拡散を防止する役割を担う。次に、キャップ層50の表面を接合面として、支持基板60と半導体膜20とを共晶接合する。支持基板60として、例えば熱伝導性が良好なSi基板を用いることができる。次に、レーザリフトオフ法などにより成長用基板を除去する。その後、成長用基板を除去することにより表出した半導体膜20(n型半導体層)の表面にn電極70を形成する。
【0005】
上記の構造を有する従来の半導体発光装置において、半導体発光装置が、酸素存在下において高温環境に曝されると、ITO膜30の半導体膜20に対する接触抵抗が増加することが明らかとなった。本発明者らの調査により、ITO膜30の接触抵抗の増加は、キャップ層50に生じる空隙(クラック)(図1参照)に起因するものであることが判明した。
【0006】
キャップ層50に空隙(クラック)が生じる理由は、ITO膜30と反射電極40からなる積層体の側面近傍、すなわち段差部におけるキャップ層50のカバレージ性が良好ではないためである。ITO膜30および反射電極40は、それぞれコンタクト層および反射層としての機能を確保するために一定以上の厚さが必要とされる故、段差部をなくすことは困難であり、従って、キャップ層50の空隙(クラック)の発生を完全に排除することは困難である。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、半導体膜に対するコンタクト層として機能するITO膜を有する半導体発光装置において、ITO膜と半導体膜との接触の増大を抑制することができる半導体発光装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る半導体発光装置は、発光層を含む半導体膜と、前記半導体膜上に設けられたITO膜と、前記ITO膜の上面の一部および側面を覆う酸素吸着性を有する酸素吸着部と、前記ITO膜の上面に設けられた光反射性を有する反射電極と、前記ITO膜、前記酸素吸着部および前記反射電極からなる積層体を覆うキャップ層と、前記キャップ層上に接合層を介して接合された支持基板と、を含むことを特徴としている。
【0009】
また、本発明に係る半導体発光装置の製造方法は、成長用基板上に発光層を含む半導体膜を形成する工程と、前記半導体膜上にITO膜を形成する工程と、前記ITO膜の外縁部において前記ITO膜の上面および側面を覆うように酸素吸着性を有する酸素吸着部を形成する工程と、前記ITO膜の上面に光反射性を有する反射電極を形成する工程と、前記ITO膜、前記酸素吸着部および前記反射電極からなる積層体を覆うようにキャップ層を形成する工程と、前記キャップ層上に接合層を介して支持基板を接合する工程と、を含み、前記キャップ層は、前記ITO膜に対して非接触であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の半導体発光装置によれば、ITO膜とキャップ層との間には酸素吸着部が介在しているので、キャップ層に空隙(クラック)が生じた場合でも、この空隙(クラック)がITO膜に達することはない。キャップ層に生じた空隙(クラック)を介して進入した酸素は、ITO膜に達する前に酸素吸着部によって吸着されるので、ITO膜が酸素に曝されることが防止される。従って、ITO膜における酸素欠損ドナーの減少を抑制することができ、ITO膜の半導体膜に対する接触抵抗の増大を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、従来のthin-film構造を有する半導体発光装置の構成を示す断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施例に係る半導体発光装置の構成を示す断面図である。
【図3】図3(a)〜(e)は、本発明の実施例に係る半導体発光装置の製造方法を示す断面図である。
【図4】図4(a)〜(c)は、本発明の実施例に係る半導体発光装置の製造方法を示す断面図である。
【図5】図5は、本発明の実施例に係る酸素吸着部の形成まで完了したウエハの一部を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
はじめに、本発明者らによって推定された、キャップ層50に生じた空隙(クラック)によりITO膜30の接触抵抗が増加する理由を以下に示す。ITO膜30は、n型の導電型を有し、そのドナーはInの位置を置換してイオン化したSn+と、Inから酸素が欠損した酸素欠損ドナーの2つからなる。ITO膜30と半導体膜20との間でオーミック性接触を形成するためのアニール処理を行った後に、更に酸素雰囲気下でアニール処理を行うと、ITO膜30の結晶性が向上して酸素欠損ドナーが減少する。これにより、ITO膜30と半導体膜20との接触抵抗が増大する。キャップ層50は、共晶接合材の拡散防止機能に加え、ITO膜30と酸素との接触を抑制する機能を有するところ、キャップ層50にクラックが生じると、このクラックを介して酸素が進入する。従って、キャップ層50にクラックが生じた状態において、ITO膜30が高温環境に曝されるとITO膜30の酸素欠損ドナーが減少してITO膜30の半導体膜20に対する接触抵抗が増大する。ITO膜30が高温環境に曝される場合としては、例えば、半導体膜20と支持基板60との接合時、半導体発光装置の基板への実装時、発光動作時などが挙げられる。
【0013】
表1は、図1に示す構成の半導体発光装置において、半導体膜20と支持基板60との接合を大気中および真空中で行った場合のITO膜30と半導体膜20との接触抵抗を測定した結果である。いずれも設定温度は340℃とした。測定に使用したサンプルは各条件につき3個ずつである。半導体膜20と支持基板60との接合を大気中で行うと、真空中で行う場合よりも接触抵抗が10倍程度高くなることが明らかとなった。すなわち、上記したITO膜30の接触抵抗増大のメカニズムを裏付ける結果が得られた。
【0014】
【表1】

【0015】
以下、本発明の実施例について図面を参照しつつ説明する。尚、以下に示す図において、実質的に同一又は等価な構成要素、部分には同一の参照符を付している。
【0016】
図2は、本発明の実施例に係る半導体発光装置1の構成を示す断面図である。半導体発光装置1は、半導体膜20が、その結晶成長に用いられる成長用基板とは異なる支持基板60によって支持されるthin-film構造のLEDである。半導体膜20は、n型半導体層、発光層、p型半導体層が積層されて構成され、n型半導体層の表面が光取り出し面となっている。n型半導体層の表面には、n電極70が形成されている。
【0017】
半導体膜20の光取り出し面とは反対側の面(すなわち、p型半導体層の表面)には、半導体膜20に対して電気的なコンタクトをとるためのITO膜30が形成されている。すなわち、ITO膜30は、半導体膜20との間でオーミック性接触を形成している。ITO膜30は、半導体膜20表面の比較的広い範囲を覆うように形成され、正方向、長方形などの形状にパターニングされている。
【0018】
酸素吸着部80は、ITO膜30の外縁部を覆うように形成されている。すなわち、酸素吸着部80は、ITO膜30の各辺に沿った矩形環状パターンを有し、ITO膜の上面の一部と側面とを覆っている。ITO膜30の上面は、その外縁部が酸素吸着部80で覆われているものの、大部分は後述する反射電極40で覆われている。酸素吸着部80は、半導体発光装置1の内部に存在する酸素を吸着する機能を有する材料により構成される。酸素吸着部80は、イオン化傾向が比較的高く、酸化しやすい被酸化性金属、例えば、Ni、Alなどにより構成されえる。特に水素よりもイオン化傾向が高い材料が好ましい。また、酸素に対してゲッタリング効果を有するTi等により酸素吸着部80を構成することも可能である。「酸素に対してゲッタリング効果を有する」とは、酸素吸着部80が、半導体発光装置内部に侵入した酸素を捕捉する機能を持つことを意味する。
【0019】
ITO膜30の表面には、Agなどの高反射率を有する金属からなる反射電極40が設けられている。反射電極40は、ITO膜30との界面において光反射面を形成し、発光層から発せられた光を光取り出し面に向けて反射させる。ITO膜30の上面および側面は、酸素吸着部80および反射電極40によって完全に覆われている。
【0020】
キャップ層50は、ITO膜30、酸素吸着部80および反射電極40からなる積層体を全体的に覆うように設けられている。キャップ層50は、AuSn等の共晶接合材に対してバリア機能を持つTiW層およびTi層を含んでいる。また、キャップ層50を設けることによりITO膜30と酸素との接触が抑制される。ITO膜30の上面および側面は、酸素吸着部80および反射電極40によって完全に覆われている為、ITO膜30とキャップ層50とは非接触となっている。
【0021】
支持基板60は、Si基板等により構成され、AuSn等の共晶接合材からなる共晶メタル層61を介してキャップ層50に接合されている。
【0022】
上記した構成を有する半導体発光装置1の製造方法について以下に説明する。図3(a)〜(e)および図4(a)〜(c)は、本発明の実施例に係る半導体発光装置の製造方法を示す断面図である。
【0023】
(半導体層形成工程)
半導体結晶の成長を行うための成長用基板としてサファイア基板10を用意する。サファイア基板10を水素雰囲気中で1000℃、10分間加熱してサファイア基板10のサーマルクリーニングを行う。次にMOCVD法(有機金属気相成長法)によりサファイア基板10上に低温バッファ層、下地GaN層、n型GaN層、発光層、p型AlGaNクラッド層、p型GaN層からなる半導体膜20を形成する。具体的には、基板温度を500℃とし、TMG(トリメチルガリウム)(流量10.4μmol/min)およびNH(流量3.3LM)を約3分間供給してGaNからなる低温バッファ層をサファイア基板10上に形成する。その後、基板温度を1000℃まで昇温し、約30秒間保持することで低温バッファ層を結晶化させる。続いて、基板温度を1000℃に保持したままTMG(流量45μmol/min)およびNH(流量4.4LM)を約20分間供給し、厚さ約1μmの下地GaN層を形成する。次に、基板温度1000℃にてTMG(流量45μmol/min)、NH(流量4.4LM)およびドーパントガスとしてSiH(流量2.7×10-9mol/min)を約100分間供給し、厚さ約5μmのn型GaN層を形成する。続いて、n型GaN層の上に発光層を形成する。本実施例では、発光層としてInGaN/GaNからなる多重量子井戸構造を適用した。すなわち、InGaN/GaNを1周期として5周期の成長を行う。具体的には、基板温度を700℃とし、TMG(流量3.6μmol/min)、TMI(トリメチルインジウム)(流量10μmol/min)、NH(流量4.4LM)を約33秒間供給し、厚さ約2.2nmのInGaN井戸層を形成し、続いてTMG(流量3.6μmol/min)、NH(流量4.4LM)を約320秒間供給して厚さ約15nmのGaN障壁層を形成する。かかる処理を5周期分繰り返すことにより発光層が形成される。次に、基板温度を870℃まで昇温し、TMG(流量8.1μmol/min)、TMA(トリメチルアルミニウム)(流量7.5μmol/min)、NH(流量4.4LM)およびドーパントとしてCpMg(bis-cyclopentadienyl Mg)(流量2.9×10-7μmol/min)を約5分間供給し、厚さ約40nmのp型AlGaNクラッド層を形成する。続いて、基板温度を保持したまま、TMG(流量18μmol/min)、NH(流量4.4LM)およびドーパントとしてCpMg(流量2.9×10-7μmol/min)を約7分間供給し、厚さ約150nmのp型GaN層を形成する。サファイア基板10上には、これらの各層によって構成される半導体膜20が形成される(図3(a))。
【0024】
(p型GaN層活性化工程)
ウエハをMOCVD装置から取り出し、p型GaN層の活性化を行う。成長過程において、p型GaN層の層内にはキャリアガスの原料である水素が混入しており、Mg−H結合が形成されている。このような状態では、ドープされたMgはドーパントとしての機能を果たすことができず、p型GaN層は高抵抗化している。この為、p型GaN層内に混入している水素を脱離させる活性化工程が必要となる。具体的には、400℃の不活性ガス雰囲気中でウエハの熱処理を行ってp型GaN層を活性化させる。
【0025】
(ITO膜形成工程)
半導体膜20のp型GaN層の表面を洗浄した後、基板温度を約200℃とし、スパッタ法によりp型GaN層の表面に厚さ約40nmのITO膜30を形成する。次に、ITO膜30上に、半導体発光装置の1区画を画定する分割ラインに沿った格子状の開口パターンを有するレジストマスク(図示せず)を形成し、このレジストマスクを介してITO膜30を硝酸と塩酸の混合液を用いたウェットエッチングにより除去してITO膜30にパターニングを施す。このウェットエッチングによりITO膜30には上記分割ラインに沿った格子状の溝が形成され、ITO膜30は、ウエハ内に形成される複数の発光素子毎に分割される。分割されたITO膜30の個片の各々が正方形または長方形となるようにパターニングされる。レジストマスクを除去した後、450℃の酸素を含む雰囲気中にウエハを投入し、1分間の熱処理を行う。この熱処理によりITO膜30と半導体膜20との間にオーミック性接触が形成され、接触抵抗が大幅に低減される(図3(b))。
【0026】
(酸素吸着部形成工程)
正方形または長方形にパターニングされたITO膜30の外縁部を覆うように酸素吸着部80を形成する。具体的には、ITO膜30が形成されたウエハ上にITO膜30のエッジ部周辺に開口を有するレジストを形成した後、EB蒸着法などにより厚さ20nm程度のNiをウエハ上に成膜する。その後、不要部分のNiをレジストと共に除去することにより酸素吸着部80を形成する(図3(c))。酸素吸着部80は、イオン化傾向の比較的高く、酸化しやすい金属により構成することができ、Ni以外にはAlなどが候補材料として挙げられる。また、酸素に対してゲッタリング効果を有するTi等により酸素吸着部80を構成することも可能である。
【0027】
図5は、酸素吸着部80の形成まで完了したウエハの一部を示す上面図である。酸素吸着部80は、ITO膜30の外縁を囲むように形成され、ITO30膜の上面の一部と側面を覆う。酸素吸着部80がITO膜30の上面を覆う範囲は、例えばITO膜30の各辺から約5μmの範囲とすることができる。酸素吸着部80がITO膜30の上面を被覆する面積が大きくなりすぎると、酸素吸着部80を構成する金属による光吸収の影響が大きくなり光取り出し効率が低下する。酸素吸着部80がITO膜30の上面を覆う範囲は、パターンずれ等の影響をも考慮してITO膜30の各辺から2μm以上20μm以下の範囲に設定することが好ましい。また、酸素吸着部80は、ITO膜30の外側にもITO膜30の各辺から約5μm程度の範囲に延在していることが好ましい。尚、酸素吸着部80がITO膜の外側に延在する範囲は、上記と同様の理由によりITO膜30の各辺から2μm以上20μm以下の範囲に設定することが好ましい。
【0028】
ITO膜30は、比較的小さい膜厚で形成される為、ITO膜30側面、すなわち段差部を覆う酸素吸着部80のカバレージ性は良好であり、酸素吸着部80に空隙やクラックが生じることはない。尚、酸素吸着部80の厚さは1nm以上1μm以下であることが好ましい。酸素吸着部80の厚さが大きくなりすぎると、半導体膜20と支持基板60との接合面に形成される段差が大きくなり好ましくない。一方、酸素吸着部80の厚さが小さくなりすぎると、酸素吸着部80による酸素吸着機能が低下する。
【0029】
(反射電極形成工程)
ITO膜30上に開口部を有するレジスト(図示せず)を形成した後、逆スパッタ法によりITO膜30の表面を浄化する。次に、スパッタ法によりウエハ全面に厚さ150nm程度のAg膜を形成した後、不要部分のAg膜を上記のレジストと供に除去することによりAg膜のパターニングを行って、反射電極40を形成する(図3(d))。反射電極40は、ITO膜30の表面を覆うと共にITO膜30の上面を部分的に覆う酸素吸着部80をも覆うように形成される。ITO膜30の上面および側面は、露出部分が生じないように酸素吸着部80および反射電極40によって完全に覆われている。
【0030】
(キャップ層形成工程)
ITO膜30の形成領域に対応する部分に開口部を有するレジスト(図示せず)を形成する。次に、ITO膜30、酸素吸着部80および反射電極40からなる積層体を全体的に覆うようにスパッタ法などによりTiW(厚さ400nm)、Ti(厚さ100nm)、Pt(厚さ200nm)、Au(厚さ200nm)を順次堆積した後、不要部分を上記のレジストと供に除去することによりパターニングを行って、キャップ層50を形成する(図3(e))。キャップ層50を形成する上記の金属のうち、TiW層およびTi層は、共晶メタル層61を構成するAuSnの反射電極40への拡散を防止するバリア層として機能する。Pt層およびAu層は、AuSnに対する濡れ性を向上させるための層である。ITO膜30の上面および側面は、酸素吸着部80および反射電極40によって完全に覆われている為、ITO膜30とキャップ層50は非接触となっている。
【0031】
(素子分割溝形成工程)
半導体膜20に半導体発光装置の1区画を画定する素子分割溝22を形成する。具体的には、半導体膜20の表面に素子分割溝22のパターンに対応した格子状パターンのレジスト(図示せず)を形成する。次に、ウエハをRIE(反応性イオンエッチング)装置に投入し、Clプラズマによるドライエッチングにより上記レジストの開口部において露出している半導体膜20をエッチングする。これにより半導体膜20には、サファイア基板10に達する格子状の素子分割溝22が形成される。素子分割溝22の形成により、半導体膜20は例えば一辺が1000μmの個片(チップ)に分割される(図4(a))。
【0032】
(支持基板接合工程)
半導体膜20を支持するための支持基板60を用意する。支持基板60は、例えば熱伝導率がサファイア基板10よりも高く、半導体膜20を支持するのに十分な機械的強度を有する部材が好ましい。支持基板60として、例えばシリコン基板、セラミック基板、ガラスエポキシ基板、金属基板などを用いることが可能である。支持基板60の表面には、共晶接合材であるAuSnなどからなる共晶メタル層61が形成されている。共晶メタル層61と、キャップ層50とを密着させ真空中でこれらを熱圧着することにより、半導体膜20と支持基板60とを接合する(図4(b))。
【0033】
(成長用基板除去工程)
サファイア基板10を半導体膜20から剥離する。サファイア基板10の剥離には、レーザリフトオフ法を用いることができる。具体的には、サファイア基板10の裏面(半導体膜20の形成面とは反対側の面)からエキシマレーザを照射する。これによりサファイア基板10との界面近傍におけるGaN結晶がGaとNガスに分解し、サファイア基板10が半導体膜20から剥離する。
【0034】
(n電極形成工程)
サファイア基板10を除去することにより表出した半導体膜20のn型GaN層の表面にTiおよびAlを順次蒸着した後、これをエッチングまたはリフトオフなどによりパターニングしてn電極70を形成する。尚、n電極70を形成する前に、水酸化カリウム(KOH)等のアルカリ溶液を用いた表面処理を行うことにより、n型GaN層の表面に凹凸を形成することとしてもよい。これにより、半導体発光装置の光取り出し効率の向上を図ることができる(図4(c))。以上の各工程を経ることにより、半導体発光装置1が完成する。
【0035】
本発明の実施例に係る半導体発光装置1において、ITO膜30、酸素吸着部80および反射電極40からなる積層体の厚さは比較的大きい故、キャップ層50には依然として空隙(クラック)が生じ得る。キャップ層50に空隙(クラック)が生じると、空隙(クラック)を介して酸素が進入することが考えられる。キャップ層50とITO膜30の間には酸素吸着部80が介在している故、キャップ層50に生じた空隙(クラック)は、ITO膜30に達することはない。キャップ層50に生じた空隙(クラック)を介して進入した酸素は、ITO膜30に達する前に酸素吸着部80によって吸着されるので、ITO膜30が酸素に曝されることが防止される。すなわち、キャップ層50に生じた空隙(クラック)を介して進入した酸素は、酸素吸着部80を酸化させるために消費されるか、または酸素吸着部80によるゲッタリング効果によって捕捉される。これにより、キャップ層50に空隙(クラック)が生じている状態において、半導体発光装置1が高温環境に曝されても、ITO膜30における酸素欠損ドナーの減少を抑制することができ、ITO膜30の半導体膜20に対する接触抵抗の増大を防止することが可能となる。酸素吸着部80をITO膜30の側面のみならず上面の一部をも覆うように形成することで、ITO膜30と酸素との接触をより確実に防ぐことができる。
【符号の説明】
【0036】
1 半導体発光装置
10 サファイア基板
20 半導体膜
30 ITO膜
40 反射電極
50 キャップ層
60 支持基板
80 酸素吸着部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光層を含む半導体膜と、
前記半導体膜上に設けられたITO膜と、
前記ITO膜の上面の一部および側面を覆う酸素吸着性を有する酸素吸着部と、
前記ITO膜の上面に設けられた光反射性を有する反射電極と、
前記ITO膜、前記酸素吸着部および前記反射電極からなる積層体を覆うキャップ層と、
前記キャップ層上に接合層を介して接合された支持基板と、を含むことを特徴とする半導体発光装置。
【請求項2】
前記酸素吸着部は、前記ITO膜の外縁部を覆うように設けられ、
前記キャップ層は、前記ITO膜に対して非接触であることを特徴とする請求項1に記載の半導体発光装置。
【請求項3】
前記酸素吸着部は、被酸化性を有する金属からなることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体発光装置。
【請求項4】
前記酸素吸着部は、NiまたはAlを含むことを特徴とする請求項3に記載の半導体発光装置。
【請求項5】
前記酸素吸着部は、酸素を捕捉する金属からなることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体発光装置。
【請求項6】
前記酸素吸着部は、Tiを含むことを特徴とする請求項5に記載の半導体発光装置。
【請求項7】
前記反射電極はAgを含むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1つに記載の半導体発光装置。
【請求項8】
成長用基板上に発光層を含む半導体膜を形成する工程と、
前記半導体膜上にITO膜を形成する工程と、
前記ITO膜の外縁部において前記ITO膜の上面および側面を覆うように酸素吸着性を有する酸素吸着部を形成する工程と、
前記ITO膜の上面に光反射性を有する反射電極を形成する工程と、
前記ITO膜、前記酸素吸着部および前記反射電極からなる積層体を覆うようにキャップ層を形成する工程と、
前記キャップ層上に接合層を介して支持基板を接合する工程と、を含み、
前記キャップ層は、前記ITO膜に対して非接触であることを特徴とする半導体発光装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−98516(P2013−98516A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243197(P2011−243197)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】