説明

半導体装置

【課題】保護素子としてサイリスタを用いる場合に、サイリスタのトリガ電圧をホールド電圧から独立して変更することができるようにする。
【解決手段】第1の第1導電型拡散層120、第1の第2導電型拡散層130、第2の第1導電型拡散層150、及び第2の第2導電型拡散層140はこの順に並んでいる。そして第2の第2導電型拡散層140及び第1導電型層100が互いに接する領域におけるこれらの不純物濃度は、第2の第2導電型拡散層140の底面に位置する部分よりも、第2の第2導電型拡散層140の側面に位置する部分のほうが高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電気などの異常電圧から内部回路を保護する保護素子を有する半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置には、静電気などの異常電流から内部回路を保護するために、保護素子が設けられている。保護素子としては、例えば特許文献1や非特許文献1に記載されているようにバイポーラトランジスタを用いるものや、例えば特許文献2や非特許文献2に記載されているようにサイリスタを用いるものがある。
【0003】
具体的には、特許文献1には、バイポーラトランジスタのベース領域の横に不純物濃度が低い第2のベース領域を形成すること、及び第2のベース領域をベース領域よりも浅くすることが記載されている。
【0004】
非特許文献1には、NPNバイポーラトランジスタのコレクタとベースの距離により、NPNバイポーラトランジスタが保護素子として動作するときのトリガ電圧をコントロールすることが記載されている。
【0005】
特許文献2には、耐圧やホールド電圧が異なる2つのサイリスタを同一基板内に作成し、それぞれ異なる向きの異常電圧を放電するように配線することが記載されている。
【0006】
非特許文献2には、サイリスタを構成する縦型のNPNバイポーラトランジスタにおいて、表面側のN層の横にP層を追加することが記載されている。追加されたP層は、NPNバイポーラトランジスタのベース(P層)とともに、横型のPNPトランジスタを形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−4763号公報
【特許文献2】米国特許第7566914号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】藤井他、"A novel 80V-class HV-MOS platform technology featuring high-side capable 30V-gate-voltage drift-NMOSFET and a trigger controllable ESD protection BJT",2009 IEEE
【非特許文献2】N. Jensen et al, Coupled Bipolar Transistors as very robust ESD Protection Devices for Automotive Applications. EOS/ESD 2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
保護素子は、HBM(Human Body Model)耐量が高いことを要求される場合がある。保護素子のHBM耐量を高くするためには、保護素子としてはサイリスタを用いるほうがよい。
【0010】
一方で保護素子は、互いに異なるトリガ電圧を有する複数の保護素子を一つの半導体装置に組み込むことがある。このため、保護素子を設計する場合、トリガ電圧を容易に変更できるようにする必要がある。
【0011】
しかし非特許文献2には、トリガ電圧を調整する方法そのものが記載されていない。また特許文献2には、トリガ電圧を調整する方法が記載されている。ただしここで記載されている方法は、不純物領域の不純物濃度や不純物深さなどを変更するものであり、トリガ電圧のみではなくホールド電圧にも影響を与えてしまうものである。
【0012】
このように、上記した文献に記載の方法では、サイリスタを用いた保護素子において、トリガ電圧をホールド電圧から独立して変更することはできなかった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば第1導電型層と、
上面が前記第1導電型層に接しており、前記第1導電型層より不純物濃度が高い第1導電型の埋込層と、
前記第1導電型層に接して形成され、底部が前記埋込層に接している第1の第1導電型拡散層と、
前記第1導電型層に形成され、底部が前記埋込層に接していない第1の第2導電型拡散層と、
前記第1導電型層に形成され、底部が前記埋込層に接しておらず、かつ側面の少なくとも一部が前記第1導電型層に接している第2の第2導電型拡散層と、
前記第2の第2導電型拡散層に形成され、前記第2の第2導電型拡散層よりも浅い第2の第1導電型拡散層と、
前記第1の第1導電型拡散層の表層に形成された第1の第1導電型高濃度拡散層及び前記第1の第2導電型拡散層の表層に形成された第1の第2導電型高濃度拡散層に接続している第1配線と、
前記第2の第1導電型拡散層、及び前記第2の第2導電型拡散層の表層に形成された第2の第2導電型高濃度拡散層に接続している第2配線と、
を備え、
平面視において、前記第1の第1導電型高濃度拡散層のうちコンタクトが接続されている領域、前記第1の第2導電型拡散層、前記第2の第1導電型拡散層、及び前記第2の第2導電型拡散層の順に並んでおり、
前記第2の第2導電型拡散層及び前記第1導電型層が互いに接する領域におけるこれらの不純物濃度は、前記第2の第2導電型拡散層の底面に位置する部分よりも、前記第2の第2導電型拡散層の側面に位置する部分のほうが高い半導体装置が提供される。
【0014】
本発明に係る半導体装置において、第1の第2導電型拡散層、第1導電型層、及び第2の第2導電型拡散層によって横型の第1のバイポーラトランジスタが形成され、かつ第2の第1導電型拡散層、第2の第2導電型拡散層、及び第1導電型層によって縦型の第2のバイポーラトランジスタが形成される。すなわち第2の第1導電型拡散層、第2の第2導電型拡散層、第1導電型層、及び第2の第2導電型拡散層によってサイリスタが形成される。
【0015】
そして第1配線に異常電圧が加わると、この異常電圧は第1の第1導電型拡散層及び埋込層を介して第1導電型層に加わる。このため、第1導電型層と第2の第2導電型拡散層の間には電圧が加わる。第2の第2導電型拡散層及び第1導電型層が互いに接する領域におけるこれらの不純物濃度は、第2の第2導電型拡散層の底面に位置する部分よりも、第2の第2導電型拡散層の側面に位置する部分のほうが高い。このため、第2の第2導電型拡散層及び第1導電型層のジャンクション部分におけるブレークダウンは、第2の第2導電型拡散層の底面ではなく側面で生じる。このブレークダウンが生じる電圧は、サイリスタのトリガ電圧になる。このためサイリスタのトリガ電圧は、第2の第2導電型拡散層の側面の状態によって定まる。
【0016】
その後、横型の第1のバイポーラトランジスタと縦型の第2のバイポーラトランジスタがオンし、これによりサイリスタが動作する。一方、サイリスタが動作した後、電流は、第2の第2導電型拡散層及び第1導電型層が互いに接する領域のうち第2の第2導電型拡散層の底面に位置する部分を流れる。従って、サイリスタのホールド電圧は、第2の第2導電型拡散層の底面の状態によって定まる。
【0017】
このように、本発明によれば、サイリスタのトリガ電圧を決める要素は、サイリスタのホールド電圧を決める要素とは異なる。従って、トリガ電圧をホールド電圧から独立して変更することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、保護素子としてサイリスタを用いる場合に、サイリスタのトリガ電圧をホールド電圧から独立して変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1の実施形態に係る半導体装置の構成を示す断面図である。
【図2】図1に示した半導体装置の平面図である。
【図3】図1及び図2に示した保護素子の等価回路図を、半導体装置の断面図に重ねた図である。
【図4】図1及び図2に示した保護素子の動作を説明する断面図及び等価回路図である。
【図5】図1及び図2に示した保護素子の動作を説明する断面図及び等価回路図である。
【図6】図1及び図2に示した保護素子の動作を説明する断面図及び等価回路図である。
【図7】図1及び図2に示した保護素子の動作を説明する等価回路図である。
【図8】第1配線と第2配線の間に加わる電圧と第1配線と第2配線の間を流れる電流のI−V特性を示す図である。
【図9】トリガ電圧の調整方法の一例について説明するための図である。
【図10】図9に示した距離dを変化させたときの、ブレークダウン時(トリガ電圧印加時)の空乏層の様子と電界分布の変化を示したものである。
【図11】第2の実施形態に係る半導体装置の構成を示す断面図である。
【図12】図11に示した半導体装置の平面図である。
【図13】図11及び図12に示した保護素子の第1の動作を説明する断面図である。
【図14】図11及び図12に示した保護素子の第1の動作を説明する断面図である。
【図15】図11及び図12に示した保護素子の第1の動作を説明する断面図である。
【図16】図11及び図12に示した保護素子の第2の動作を説明する断面図である。
【図17】図11及び図12に示した保護素子の第2の動作を説明する断面図である。
【図18】図11及び図12に示した保護素子の第2の動作を説明する断面図である。
【図19】第3の実施形態に係る半導体装置の構成を示す断面図である。
【図20】第4の実施形態に係る半導体装置の構成を示す断面図である。
【図21】図20に示した保護素子の動作を説明するための断面図である。
【図22】図20に示した保護素子の動作を説明するための断面図である。
【図23】第5の実施形態に係る半導体装置の構成を示す断面図である。
【図24】図23に示した保護素子の動作を示す断面図である。
【図25】図23に示した保護素子の動作を示す断面図である。
【図26】第6の実施形態に係る半導体装置の構成を示す断面図である。
【図27】第7の実施形態に係る半導体装置の構成を示す断面図である。
【図28】第1の半導体装置の変形例を示す断面図である。
【図29】図11に示した半導体装置の等価回路図を示す図である。
【図30】図29の等価回路図を図11に示した半導体装置の断面図に重ねた図である。
【図31】図11に示した半導体装置におけるトリガ電圧の調整方法を説明するための図である。
【図32】図23に示した半導体装置の平面図である。
【図33】図26に示した半導体装置の平面図である。
【図34】図27に示した半導体装置の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0021】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る半導体装置の構成を示す断面図である。図2は、図1に示した半導体装置の平面図である。なお図2においては、後述する素子分離膜200の図示を省略している。
【0022】
この半導体装置は、基板30、第1導電型層100、第1導電型(例えばn型)の埋込層110、第1の第1導電型拡散層120、第1の第2導電型(例えばp型)拡散層130、第2の第2導電型拡散層140、第2の第1導電型拡散層150、第1配線300、及び第2配線310を備えている。基板30は例えばSiなどの半導体基板である。埋込層110は、平面視で第1導電型層100及び第1の第2導電型拡散層130の全面と重なっており、上面が第1導電型層100に接している。埋込層110は、第1導電型層100より不純物濃度が高い。第1の第1導電型拡散層120は、第1導電型層100に接して形成され、底部が埋込層110に接している。第1の第2導電型拡散層130は、第1導電型層100に形成され、底部が埋込層110に接していない。第2の第2導電型拡散層140は、第1導電型層100の表層に形成されており、底部が埋込層110に接しておらず、かつ側面の少なくとも一部が第1導電型層100に接している。第2の第1導電型拡散層150は、第2の第2導電型拡散層140に形成されており、第2の第2導電型拡散層140よりも浅い。第1配線300は高濃度拡散層122及び高濃度拡散層132に接続しており、第2配線310は第2の第1導電型拡散層150及び第2導電型高濃度拡散層142に接続している。
【0023】
平面視において、高濃度拡散層122のうちコンタクトが配置される領域122aの直下に位置する第1の第1導電型拡散層120と、第1の第2導電型拡散層130、第2の第1導電型拡散層150、及び第2の第2導電型拡散層140がこの順に並んでいる。そして第2の第2導電型拡散層140及び第1導電型層100が互いに接する領域におけるこれらの不純物濃度は、第2の第2導電型拡散層140の底面に位置する部分よりも、第2の第2導電型拡散層140の側面に位置する部分のほうが高い。
【0024】
この半導体装置には、図示しない内部回路が形成されている。そして第1導電型層100、第1導電型の埋込層110、第1の第1導電型拡散層120、第1の第2導電型拡散層130、第2の第2導電型拡散層140、第2の第1導電型拡散層150、第1配線300、及び第2配線310は、上記した内部回路を静電気等の異常電圧から保護するための保護素子として機能する。第1配線300は異常電圧(例えばESD:Electrostatic Discharge)が加わる配線であり、第2配線310はグランド配線に接続されている。以下、詳細に説明する。
【0025】
平面視において、第1の第1導電型拡散層120は、第1の第2導電型拡散層130、第2の第1導電型拡散層150、及び第2の第2導電型拡散層140を挟む形状を有している。図2に示す例では第1の第1導電型拡散層120は、平面視において、正方形などの矩形の4辺に沿って形成されている。そして第1の第1導電型拡散層120によって囲まれた領域内に、第1の第2導電型拡散層130、第2の第1導電型拡散層150、及び第2の第2導電型拡散層140が形成されている。
【0026】
また第1の第1導電型拡散層120、第1の第2導電型拡散層130、及び第2の第2導電型拡散層140は互いに離れている。そして第1導電型層100は第1の第2導電型拡散層130および第2の第2導電型拡散層140を囲んでおり、第2の第2導電型拡散層140は第2の第1導電型拡散層150を囲んでいる。
【0027】
第1の第1導電型拡散層120の表面の一部には、高濃度拡散層122が形成されている。高濃度拡散層122は第1導電型の拡散層であり、第1の第1導電型拡散層120より不純物濃度が高い。高濃度拡散層122は、平面視で高濃度拡散層132及び第2の第2導電型拡散層140が形成されている領域を取り囲むように形成されているが、その一部の領域122aの中に、コンタクト(図示せず)が複数配置される。ここでコンタクトは、図2の領域122aにおいて上下方向に複数並べて配置される。コンタクトは単列であってもよいし複数列であってもよい。高濃度拡散層122は、例えば第2の第1導電型拡散層150と同一のイオン注入工程で形成される。この場合、高濃度拡散層122は第2の第1導電型拡散層150と不純物濃度及び深さが同じになる。
【0028】
第1の第2導電型拡散層130の表面には高濃度拡散層132が形成されており、第2の第2導電型拡散層140の表面には第2導電型高濃度拡散層142が形成されている。高濃度拡散層132,142は第2導電型の拡散層であり、第1の第2導電型拡散層130及び第2の第2導電型拡散層140より不純物濃度が高い。
【0029】
半導体装置の表面には素子分離膜200が形成されている。素子分離膜200は、保護素子が形成されている領域においては、基板30の表面のうち、高濃度拡散層122,132,142が形成されている領域及び第2の第1導電型拡散層150が形成されている領域を除いた領域に形成されている。第1の第1導電型拡散層120、第1の第2導電型拡散層130、及び第2の第2導電型拡散層140は、素子分離膜200より深い。本実施形態において、トリガ電圧は、詳細を図9を用いて後述するように、第2の第2導電型拡散層140から第1の第1導電型拡散層120および高濃度拡散層122までの距離dによって調節できる。以下、距離dは第2の第2導電型拡散層140から高濃度拡散層122までの距離として説明を行う。
【0030】
図3(a)は、図1及び図2に示した保護素子の等価回路図(図3(b)参照)を、半導体装置の断面図に重ねた図である。この保護素子は、第1の第2導電型拡散層130、第1導電型層100、第2の第2導電型拡散層140、及び第2の第1導電型拡散層150からなるサイリスタを有している。詳細には、第1の第2導電型拡散層130、第1導電型層100、及び第2の第2導電型拡散層140によって横型の第1のバイポーラトランジスタ、たとえばpnp型バイポーラトランジスタが形成され、第2の第1導電型拡散層150、第2の第2導電型拡散層140、及び第1導電型層100によって縦型の第2のバイポーラトランジスタ、例えばnpn型バイポーラトランジスタが形成されている。そして埋込層110及び第1の第1導電型拡散層120は、第1導電型層100に接続する電流経路として機能する。以下の説明では、横型の第1のバイポーラトランジスタがpnp型バイポーラトランジスタであり、縦型の第2のバイポーラトランジスタがnpn型バイポーラトランジスタとする。また第1の第1導電型拡散層120、埋込層110、第1導電型層100、及び第2の第2導電型拡散層140にも抵抗成分がある。埋込層110の抵抗成分のうち第1の第2導電型拡散層130の直下に位置する部分から左側の第1の第1導電型拡散層120に至る部分が持つ抵抗成分と、図中左側の第1の第1導電型拡散層120の抵抗成分との直列抵抗を、後述する説明に対応させる上で、ここではrbpと記載する。また、第2の第2導電型拡散層140の抵抗成分は、後述する説明に対応させる上で、ここではrsp、rbnと記載する。rspは横型のpnp型バイポーラトランジスタのコレクタ部分の抵抗成分であり、第2の第2導電型拡散層140の抵抗のうち第2の第1導電型拡散層150の直下から左端までの抵抗成分を示しており、rbnは縦型のnpnバイポーラトランジスタのベースの抵抗成分を示している。
【0031】
次に、図4(a)、図5(a)、及び図6(a)の断面図、並びに図4(b)、図5(b)、及び図6(b)の等価回路図を用いて、図1及び図2に示した保護素子の動作を説明する。なお図4(b)、図5(b)、及び図6(b)の等価回路図の各素子は、図3に示した各素子に対応している。但し、横型のpnpバイポーラトランジスタが動作したときのホール電流によるインパクトイオン化電流Iiipは、Iiinに比較すると小さく動作に与える影響は少ないと考えられる。このため、インパクトイオン化電流Iiipについては、図4(b)、図5(b)、及び図6(b)の等価回路図からは、説明を簡単にするために省略しているが、実際にはインパクトイオン化電流Iiinと同様で、インパクトイオン化電流Iiinよりも少ない効果の影響を与える。第1配線300に異常電圧が加わると、この異常電圧は高濃度拡散層122、第1の第1導電型拡散層120、及び埋込層110を介して第1導電型層100に加わる。このため、第1導電型層100と第2の第2導電型拡散層140の間には電圧が加わる。上記したように、第2の第2導電型拡散層140及び第1導電型層100が互いに接する領域におけるこれらの不純物濃度は、第2の第2導電型拡散層140の底面に位置する部分よりも、第2の第2導電型拡散層140の側面に位置する部分のほうが高い。このため、図4(a)に示すように、第2の第2導電型拡散層140及び第1導電型層100のジャンクション部分におけるブレークダウンは、第2の第2導電型拡散層140の底面ではなく側面で生じる。このブレークダウンにより生じる正孔(ホール)は矢印に示すホール電流hの通り、第2導電型高濃度拡散層142に向かって移動し、電子は図4(a),(b)の矢印に示す電子流eの通り、埋込層110及び第1の第1導電型拡散層120を介して高濃度拡散層122に移動する。図4(b)に示す等価回路図上では、ブレークダウンにより生じた電子流eは、図3に示した抵抗rsn、rbpを介して第1配線300に流れ、ホール電流hはそのまま第2配線310に流れる。なお、電子流は実際の電子の流れを示しているため、電流の向きは電子流の向きとは逆になる。
【0032】
電子が高濃度拡散層122に移動すると、これに伴って第1の第1導電型拡散層120の抵抗に起因した電圧降下や埋込層110の抵抗の一部に起因した電圧降下により、第1導電型層100の電位が低下し、これに伴って第1の第2導電型拡散層130の下に位置する第1導電型層100の電位も低下する。このため、第1の第2導電型拡散層130の下方に位置する第1導電型層100の電位は、第1の第2導電型拡散層130の電位よりも低くなり、その結果、図5(a),(b)に示すように、第1の第2導電型拡散層130と第1導電型層100により形成されるダイオードがオンし、ホール電流が第1の第2導電型拡散層130から第1導電型層100に流れ出し、このpnp型バイポーラトランジスタは動作し始める。その結果、第1の第2導電型拡散層130と第2の第2導電型拡散層140の間には、ホールをキャリアとしたホール電流hが流れる。図5(b)に示す等価回路図上では、ホール電流hは、図3に示した抵抗rsp、rbnを介して第1配線300から第2配線310に流れる。なお、第1の第2導電型拡散層130と第1導電型層100とで構成されるダイオードが動作すると、上記した電子流eの一部は電子流eとして、第1導電型層100から第1の第2導電型拡散層130に流れ込む。
【0033】
そして、図6に示すように、第1の第2導電型拡散層130、第1導電型層100、第2の第2導電型拡散層140、及び第2導電型高濃度拡散層142の順にホール電流hが流れると、第2の第2導電型拡散層140には、抵抗rbnに起因した電圧上昇が生じる。その結果、第2の第1導電型拡散層150の下において第2の第2導電型拡散層140の電位は、グランド電位より高くなる。その結果、第2の第1導電型拡散層150と第2の第2導電型拡散層140からなるダイオードがオンし、縦型のnpnバイポーラトランジスタジスが動作し始める。その結果、第2の第1導電型拡散層150、第2の第2導電型拡散層140、第1導電型層100、埋込層110、第1の第1導電型拡散層120、及び高濃度拡散層122の順に、電子流eが流れる。なお、電子流eによる電流の向きは、電子流eの向きとは逆になる。
【0034】
ここで電子流eは、第2の第2導電型拡散層140及び第1導電型層100のジャンクション付近で形成されている空乏層を通過する。空乏層には強い電界が存在しているため、図6に示すように、電子流eがこの空乏層を通過する際に、図6(a)において矢印Zで示すようにインパクトイオン化が生じ、電子とホールのペアが生じる。ここで発生した電子は電子流eとして電子流eとともに移動する。なお、電子流eと電子流eが合わさった電子流の一部eは、pnp型バイポーラトランジスタのベース電流となる。またインパクトイオン化によるホール流hは第2導電型高濃度拡散層142及び第2配線310に向かって移動する。この移動により、第2の第2導電型拡散層140には抵抗rbnに起因した電圧上昇が生じる。これにより、第2の第1導電型拡散層150の下において第2の第2導電型拡散層140の電位がさらに上昇し、その結果、第2の第1導電型拡散層150、第2の第2導電型拡散層140、及び第1導電型層100からなる縦型のnpn型バイポーラトランジスタの動作は、ホール電流hによって引き起こされる状態から、インパクトイオン化によるホール電流hによって引き起こされる状態に移行する。言い換えれば、ホール電流hは、ブレークダウン電流Ibdが元になって引き起こしているものであることから、第2の第1導電型拡散層150、第2の第2導電型拡散層140、及び第1導電型層100からなる縦型のnpn型バイポーラトランジスタの動作は、ブレークダウン電流Ibdによって引き起こされる状態から、インパクトイオン化によるホール電流hによって引き起こされる状態に移行する、と言える。すなわち、電子流eにより引き起こされるインパクトイオン化電流は、ブレークダウン電流Ibdに比較すると、低い電圧で同じ量の電流を発生させる。このことは、Ibdとホール電流hが、同じ電流値である場合に、Ibdを発生させるのに必要な電圧と、ホール電流hを発生させるのに必要な電圧は、ホール電流hを発生させるのに必要な電圧の方が低いことを意味する。この理由は、Ibdはブレークダウンであり、少ない種電流から一定のキャリアを発生させるものであるのに対し、ホール電流hは、電子流eが供給する多量のキャリアを種電流として、インパクトイオン化により一定のキャリアを発生させるものであるため、種電流が多い分、ホール電流hは少ない電圧でIbdと同等のキャリアを発生させることができることによるものである。この移行により、npnバイポーラトランジスタがスナップバック状態に入る。その結果、第1配線300と第2配線310にかかる電圧は下がり、図6(b)に示すように、Ibdを発生させるための必要な電圧が供給されず、ブレークダウンによるIbdの供給は停止する。このnpn型バイポーラトランジスタによる電子流eは、第2の第2導電型拡散層140の下方に高濃度の埋込層110が位置しているため、第2の第2導電型拡散層140の側面ではなく底面を流れる。なお、電子流eによる電流の向きは、電子流eの向きとは逆になる。図6(a)及び図6(b)に示す等価回路図上では、ホール流h及びホール流hが合わさったホール流の一部hは、縦型のnpnトランジスタのベース電流として、第2の第2導電型拡散層140から第2の第1導電型拡散層150を介して第2配線310に流れる。
【0035】
なお、第1の第2導電型拡散層130から第2の第2導電型拡散層140に向かうホール流及び電子流も、ジャンクションを通るため、インパクトイオン化を生じさせる。このインパクトイオン化で生じたホールは、縦型のnpnバイポーラトランジスタと横型のpnpバイポーラトランジスタの動作を助長する。また、本デバイスの動作は、通常のサイリスタと異なり、npn型バイポーラトランジスタが、pnp型バイポーラトランジスタからのフィードバックのみで動作していない。そのため、100パーセントのサイリスタ動作ではないが、部分的なサイリスタ動作であると考えることができる。本発明においては、この部分的なサイリスタ動作を行うサイリスタについても、サイリスタとしている。
【0036】
また本実施形態では、サイリスタ動作時の電流(図6のe、h、h、e、h、e)は、最初にブレークダウンを生じさせている、第2の第2導電型拡散層140と第1導電型層100で構成されるジャンクションのうちの素子分離膜200側の側面は通らないため、前述の素子分離膜200側の側面のジャンクションはホールド電圧を決めるファクターとはなっていない。その為、図9の距離dを変更して、ジャンクション付近の不純物濃度を変更したとしても、ホールド電圧は変わらない。よって、ホールド電圧を変えずに、トリガ電圧を調整することが可能である。
【0037】
図8は、第1配線300と第2配線310の間に加わる電圧と第1配線300と第2配線310の間を流れる電流のI−V特性を示す図である。トリガ電圧は、ESD保護デバイスが動作を始める電圧であり、ホールド電圧は、同デバイスが電流を流す際、最小となる電圧である。前述したように、トリガ電圧とホールド電圧が独立に設定できる保護素子であることが望ましい。
【0038】
動作の初期段階では、電流がわずかに増加しても電圧は急激に上昇する。これは、npn型のバイポーラトランジスタのコレクタ(第1導電型層100)とベース(第2の第2導電型拡散層140)の間のジャンクションがもつ寄生容量に電荷が蓄えられることにより、容量の電圧が増加するためである。そしてこの寄生容量に加わる電圧が、ジャンクションの逆方向耐圧に達すると、図4に示したブレークダウンが起きる。そして上記したようにこのブレークダウンをトリガとしてサイリスタが動作する。このため、このブレークダウンが起こる電圧が、サイリスタのトリガ電圧になる。
【0039】
ブレークダウンによる電流は、npn型のバイポーラトランジスタのコレクタ(第1導電型層100)とベース(第2の第2導電型拡散層140)の間のうち、図中右側の第1の第1導電型拡散層120に対向する側面に位置する電流源(図3等に記載のIbd))と考えることができる。そして図4及び図5の各図を用いて説明したように、ブレークダウンで発生した電流が、抵抗(第2の第2導電型拡散層140)に流れ込み、これによって最終的にはnpn型のバイポーラトランジスタがオンする。そしてnpn型のバイポーラトランジスタがスナップバック動作に入るため、ESDの端子の電圧は、図8のホールド電圧まで降下する。
【0040】
なお、サイリスタの動作について、図6、図7、及び図8を用いて補足する。まず、図7を用いて縦型のnpnバイポーラトランジスタのみが動作する場合に、ホールド電圧がどのように決まるかについて説明する。この場合、第1配線300から電流値Iesdの電流を流すために必要なホールド電圧Vesdは、
esd= [rbpでの電圧降下]+ [rsnでの電圧降下]+Vbc+Veb
となる。
なお、Vbcは、コレクタ−ベース間のダイオードの逆方向電圧であり、Vebは、エミッタ−ベース間のダイオードの順方向電流を流すために必要な電圧である。ここで、ホールド電圧は、図8に示す様に、デバイスが電流を流し始めた後、一番低い電圧であるが、一般的にこのときの電流は小さい値となる。すなわち、[rbpでの電圧降下]や[rsnでの電圧降下]の値が、Vesdに比較して、充分小さい程度の値であると考えられる。よって、上記の式は、以下のように近似される。
esd ≒ Vbc+Veb
【0041】
また、特に耐圧のある程度高いデバイスでは、Vbcは、Vebよりも充分大きいと考えられる。これは、Vebは、上記したようにエミッタ−ベース間のダイオードの順方向電流を流すために必要な電圧であるため、大きくても数ボルト程度と考えられるが、Vbcは、コレクタ−ベース間のダイオードの逆方向耐圧であり、耐圧のある程度高いデバイスでは、大きめに設定されると考えられるためである。よって、ここでは説明の便宜上、Vbc≧Vebと考えられるケースを例としてホールド電圧の説明を行う。この場合、上記の式は、更に、以下のように近似される。
esd ≒ Vbc
ここで、デバイスがホールド電圧程度の電圧で電流を流している場合は、デバイスの電圧は、ベース−コレクタ間電圧Vbcとほぼ等しくなるということになる。
【0042】
次にVbcはどのように決まるかについて説明する。デバイスに流すべき電流が決まっており、この電流がデバイスに流れているとすると、Vbcは、必要なベース電流を流すことのできる電圧である必要がある。Vbcの電圧は、コレクターベース間のダイオードの逆方向電圧として印加される。その為、Vbcの電圧によって、コレクターベース間には、Vbcに相当する電界をもつ空乏層が生じる。この空乏層にエミッターコレクタ間に流れる電流(電子をキャリアとする)が流れ込むことにより、インパクトイオン化が生じてエレクトロン−ホールペアが発生し、ホールによる電流がベースに流れ込む。このベース電流によって、エミッターコレクタ間に電流が流れる。エミッターコレクタ間の電流は、デバイスに流すべき電流であり、ある一定の電流値の電流である。この電流を流すためには、ある一定のベース電流が必要となる。ある一定のベース電流を流すためには、コレクタ−ベース間の空乏層の電界は、ある一定の強度を持つ必要がある。従って、Vbcがある一定の値の電圧になる必要があるため、Vbcは必然的に決まることになる。
【0043】
次に、横型のpnpバイポーラトランジスタも動作する場合について、図6を参照して説明する。pnpバイポーラトランジスタが動作すると、そのホール流hが図6(a)又は図6(b)のrbn(図6(a)では、図示せず)に流れ込み、rbnに起因した電圧上昇が生じる。これにより、npnバイポーラトランジスタのベース電位がさらに上昇し、エミッタからの電子流eが増加し、その結果、npnバイポーラトランジスタに流れる電流が増加することになる。
【0044】
しかし、第2配線310に流れる電流量すなわち放電すべき電流量は予め決まった大きさの電流であるため、npnバイポーラトランジスタのベース電流(hが加わるため、h+hになる)が増加してベース電位を上昇させ、npnバイポーラトランジスタが流せる電流量を増加しようとしても電流の増加分は供給されない。このため、npnバイポーラトランジスタにおいて、コレクタ−エミッタ間の電圧を減少させることにより電流量を一定に保とうとする。この結果、コレクタ−ベース間の空乏層の電圧を下げることになり、インパクトイオン化による電流が減少する。そしてESDが印加される端子(すなわち第1配線300)の電圧が小さい状態で、pnpバイポーラトランジスタが動作していないときと同じ量の電流(I_esd)を流すことができることになる。すなわち、pnpバイポーラトランジスタが働くことにより、ホールド電圧を下げることになる。
【0045】
このように、図3及び図6(b)の回路図の構成要素のうち、Ibdを供給する電流源以外は、それら全てがホールド電圧を決める要素となっている。これら構成要素は、サイリスタの電流経路に存在しており、その為に、サイリスタのホールド電圧に影響を与える要素であるといえる。このため、本実施形態のように、サイリスタのトリガになるブレークダウン部分(図3のIbdを供給する電流源)を、サイリスタの動作時における電流経路とは関係ないところで決めることにより、トリガ電圧とホールド電圧を互いに独立に調整することが可能となる。
【0046】
次に、本発明の作用及び効果について説明する。第2の第2導電型拡散層140及び第1導電型層100が互いに接する領域におけるこれらの不純物濃度は、第2の第2導電型拡散層140の底面に位置する部分よりも、第2の第2導電型拡散層140の側面に位置する部分のほうが高い。このため、第1配線300に異常電圧が加わると、第2の第2導電型拡散層140及び第1導電型層100のジャンクション部分におけるブレークダウンは、図4に示すように、第2の第2導電型拡散層140の底面ではなく側面で生じる。一方、サイリスタが動作しているときの電流経路は、第2の第2導電型拡散層の側面ではなく底面を経由する。このように、図4に示したブレークダウンの場所は、サイリスタが動作しているときの電流経路(図6参照)とは異なる。このため、トリガ電圧は、第2の第2導電型拡散層140の側面の状態によって決まり、サイリスタのホールド電圧を決めるための条件、すなわち第2の第2導電型拡散層140の底面の状態から独立している。このため、トリガ電圧をホールド電圧から独立して調整することができる。
【0047】
ここで図9を用いて、トリガ電圧の調整方法の一例について具体的に説明する。図9は、A−B断面における不純物の濃度分布(a)、及びC−D断面における不純物の濃度分布(b)を示している。具体的には、A−B断面は、第2の第2導電型拡散層140からその隣に位置する第1の第1導電型拡散層120の間を示している。またC−D断面は、第2の第2導電型拡散層140の不純物濃度の深さ方向の分布を示している。
【0048】
図9(a)のグラフに示すように、第1導電型層100と第2の第2導電型拡散層140の境界部分は、第1導電型の不純物濃度と第2導電型の不純物濃度が等しくなる領域(すなわち符号Jで示す部分)として定義できる。一方、第1の第1導電型拡散層120に近づくにつれて第1導電型の不純物が高くなる。このため、第2の第2導電型拡散層140が第1の第1導電型拡散層120に近づくにつれて、第1導電型層100と第2の第2導電型拡散層140の境界における不純物濃度は高くなる。従って、サイリスタのトリガ電圧は、第2の第2導電型拡散層140と第1の第1導電型拡散層120の間隔dによって調節することができる。
【0049】
なお図9(b)のグラフは、第1導電型層100のうち第2の第2導電型拡散層140の底面側の濃度が決まる様子を示している。第1導電型層100のうち第2の第2導電型拡散層140の底面側の不純物分布は、イオン注入による深さ方向の不純物プロファイルによって決定されており、図9に示している距離d(第2の第2導電型拡散層140から高濃度拡散層122までの距離)には影響されない。その為、距離dによって、第1導電型層100のうち第2の第2導電型拡散層140の側面側の不純物濃度を、第1導電型層100のうち第2の第2導電型拡散層140の底面側の不純物濃度に影響を与えずに増減することができる。
【0050】
図10は、図9に示した距離dを変化させたときの、ブレークダウン時(トリガ電圧印加時)の空乏層の様子と電界分布の変化を示したものである。(a)は、距離dが長く、(b)は距離dが短いときを示している。ブレークダウンが生じるために必要な電界強度は、距離dによらず一定である。一方、p型の拡散層とn型の拡散層の境界部分における不純物濃度は、距離dが小さくなるにつれて大きくなる。このため、p型の拡散層とn型の拡散層の境界に発生する空乏層の幅は、図10(b)のほうが図10(a)よりも狭くなる。従って、電界強度の積分値であるブレークダウン電圧すなわちトリガ電圧は、距離dが大きくなるにつれて高くなる。
【0051】
なお、図28に示すように、第2導電型高濃度拡散層142の一部が第2の第2導電型拡散層140よりも第1の第1導電型拡散層120の近くに位置するようにした場合、図4に示したブレークダウンは、第2の第2導電型拡散層140と第1の第1導電型拡散層120の境界の側面ではなく、第2導電型高濃度拡散層142と第1導電型拡散層100の境界で生じる。この場合、第2導電型高濃度拡散層142から高濃度拡散層122までの距離d´を調節することにより、サイリスタのトリガ電圧を調節することができる。
【0052】
(第2の実施形態)
図11は、第2の実施形態に係る半導体装置の構成を示す断面図であり、第1の実施形態における図1に相当している。図12は図11に示した半導体装置の平面図であり、第1の実施形態における図2に相当している。本実施形態に係る半導体装置は、保護素子が第3の第1導電型拡散層152を備えている点を除いて、第1の実施形態に係る半導体装置と同様の構成である。なお図29は、図11に示した半導体装置の等価回路図を示しており、図30は、図29の等価回路図を図11に示した半導体装置の断面図に重ねたものである。
【0053】
第3の第1導電型拡散層152は、第2の第2導電型拡散層140に形成されており、第2導電型高濃度拡散層142を挟んで第2の第1導電型拡散層150とは逆側に位置している。そして第2配線310は、第3の第1導電型拡散層152にも接続している。第3の第1導電型拡散層152は、例えば第2の第1導電型拡散層150と同様の構成を有している。ただし第3の第1導電型拡散層152は、第2の第2導電型拡散層140の表層に形成されていれば良く、第2の第1導電型拡散層150と同様の平面形状や深さでなくてもよい。そして図29及び図30に示すように、本図に示す半導体装置は、縦型のnpnバイポーラトランジスタが2つ並列に設けられている点を除いて、第1の実施形態に示した半導体装置と同様の回路構成になる。
【0054】
次に、図13〜図15を用いて、図11及び図12に示した保護素子の第1の動作を説明する。第1配線300に異常電圧が加わると、図13に示すように、第2の第2導電型拡散層140及び第1導電型層100のジャンクション部分におけるブレークダウンは、第2の第2導電型拡散層140の底面ではなく側面で生じる。この理由は、第1の実施形態と同様である。そしてこのブレークダウンにより生じる正孔は第2導電型高濃度拡散層142に向かって移動して電流eを生じさせ、電子は埋込層110及び第1の第1導電型拡散層120を介して高濃度拡散層122に移動して電子流eを生じさせる。
【0055】
次いで図14に示すように、第1の第2導電型拡散層130と第1導電型層100により形成されるダイオードがオンする。これにより、第1の第2導電型拡散層130、第1導電型層100、及び第2の第2導電型拡散層140によって構成されるpnp型バイポーラトランジスタは動作し始め、その結果、第1の第2導電型拡散層130と第2の第2導電型拡散層140の間には、ホールをキャリアとする電流が流れる。この一連の動作の詳細は、第1の実施形態と同様である。
【0056】
次いで図15に示すように、第2の第2導電型拡散層140に電流が流れ始めると、これによって第2の第1導電型拡散層150、第2の第2導電型拡散層140、及び第1導電型層100からなる縦型のnpn型バイポーラトランジスタの動作が始まる。このようにして、サイリスタは動作を開始する。この一連の動作の詳細は、第1の実施形態と同様である。
【0057】
図14を用いて説明したように、ブレークダウンによる電流(図13(b)のe)により生じる電圧降下によって、第1の第2導電型拡散層130と第1導電型層100により形成されるダイオードが動作する場合、上記で説明したように図14、図15で説明した動作を経てサイリスタ動作に入るが、ブレークダウンによる電流eが、第1導電型層100と第1の第2導電型拡散層130からなるダイオードをオンさせるのに充分大きい電流値でない場合は、図16、図17、及び図18に示す第2の動作によってサイリスタ動作に入る。
【0058】
まず図16(a)及び図16(b)に示すように、図13と同様に、第2の第2導電型拡散層140及び第1導電型層100のジャンクション部分の側面においてブレークダウンが生じる。そしてこのブレークダウンにより生じる正孔はホール流hとして第2導電型高濃度拡散層142に向かって移動し、電子は電子流eとして埋込層110及び図中左側の第1の第1導電型拡散層120を介して高濃度拡散層122に移動する。
【0059】
ホール流hは、第2導電型高濃度拡散層142に移動する途中でr´bnを経由する。これにより、抵抗r´bnによる電圧降下が生じて第2の第2導電型拡散層140のうち第1導電型拡散層152の直下の部分の電位がGND電位より上昇する。このため、第1導電型拡散層152及び第2の第2導電型拡散層140で構成されるダイオードがオンして、その結果、第1導電型拡散層152、第2の第2導電型拡散層140、及び第1導電型層100からなる縦型のnpn型バイポーラトランジスタの動作が開始し、電子流eが流れ出す。ここで、第1導電型拡散層152、第2の第2導電型拡散層140、及び第1導電型層100で構成されるnpnバイポーラトランジスタは、図17に示すように、一旦電子流eが流れ出した後は、電子流eに起因するインパクトイオン化によるホール電流hがベース抵抗r´bnに供給されることにより、ホール電流h無しでも電流を流し続けることになる。すなわち、図17に示すコレクタ電流I'cele(これはe6と同じものである)によるインパクトイオン化電流I'iinがベース抵抗r´bnに流れることにより、上記した第1導電型拡散層152、第2の第2導電型拡散層140、及び第1導電型層100からなるnpnバイポーラトランジスタは動作する。インパクトイオン化電流I'iin(図17(a)の第2の第2導電型拡散層140内ではhに相当する)と、コレクタ電流I'celeは、以下の関係がある。
I'iin=αiin×I'cele
ここで、αiinは、I'celeの電流が流れたときのインパクトイオン化が起こる割合を表した係数であり、コレクタ−ベース間電圧に依存するものとして記載している。なお、電子流eに起因するインパクトイオン化による電子流eは、電子流eとともに流れる。
【0060】
第1導電型拡散層152、第2の第2導電型拡散層140、及び第1導電型層100で構成される縦型のnpn型バイポーラトランジスタの動作が開始して埋込層110を介して第1の第1導電型拡散層120に電流が流れると、埋込層110の抵抗成分のうち第1の第2導電型拡散層130の直下に位置する部分から左側の第1の第1導電型拡散層120に至る部分が持つ抵抗成分と、図中左側の第1の第1導電型拡散層120の抵抗成分との直列抵抗(rbp)に起因した電圧降下により、第1の第2導電型拡散層130の近傍に位置する第1導電型層100の電位が低下する。これにより、第1の第2導電型拡散層130の下方又はその図中右側付近に位置する第1導電型層100の電位は、第1の第2導電型拡散層130の電位よりも低くなる。その結果、図17に示すように、第1の第2導電型拡散層130と第1導電型層100により形成されるダイオードがオンする。これにより、第1の第2導電型拡散層130、第1導電型層100、及び第2の第2導電型拡散層140によって構成されるpnp型バイポーラトランジスタは動作し始め、ホール電流hが流れ出す。また同時に、電子流eの一部である電子流eが、埋込層110から第1導電型層100を介して第1の第2導電型拡散層130に流れ込む。
【0061】
次に図18に示すように、ホール流hが抵抗rbnに流れることにより、第2の第2導電型拡散層140の内の第2の第1導電型拡散層150の直下に位置する部分の電位がグラウンド電位より上昇する。その為、第2の第1導電型拡散層150と第2の第2導電型拡散層140で構成されるダイオードがオンする。その結果、第2の第1導電型拡散層150、第2の第2導電型拡散層140、及び第1導電型層100で構成されるnpnバイポーラトランジスタが動作して、電子流eが流れ出す。また同時に、ホール流hの一部はホール流hとなって、第1導電型層100から第2の第2導電型拡散層140を介して第2の第1導電型拡散層150に流れ込む。ここで、第2の第1導電型拡散層150、第2の第2導電型拡散層140、及び第1導電型層100で構成されるnpnバイポーラトランジスタと、第1導電型拡散層152、第2の第2導電型拡散層140、及び第1導電型層100で構成されるnpnバイポーラトランジスタとが同時に動作することになる。
【0062】
しかし、第2の第1導電型拡散層150、第2の第2導電型拡散層140、及び第1導電型層100で構成されるバイポーラトランジスタのベース電位は、ホール電流hが抵抗rbnに流れることにより、第1導電型拡散層152、第2の第2導電型拡散層140、及び第1導電型層100で構成されるバイポーラトランジスタのベース電位より高くなる。もともと、第2の第1導電型拡散層150、第2の第2導電型拡散層140、及び第1導電型層100で構成されるバイポーラトランジスタと、第1導電型拡散層152、第2の第2導電型拡散層140、及び第1導電型層100で構成されるバイポーラトランジスタは、いずれもコレクタ(第1導電型層100)とベース(第2の第2導電型拡散層140)のジャンクション付近に存在する空乏層内の高い電界にエミッタから電子流が流れ込むことにより、インパクトイオン化によるホール電流を発生させ、その電流によってベースの電位をGNDよりも上昇させて動作をする素子である。ここで第2の第1導電型拡散層150、第2の第2導電型拡散層140、及び第1導電型層100で構成されるnpnバイポーラトランジスタは、eに起因したインパクトイオン化によるホール流(図18(a)には図示していないが、図18(b)におけるIiinに相当する)の他に、pnpバイポーラトランジスタから流れ込むホール流hがあるために、インパクトイオン化によるホール電流が、第1導電型拡散層152、第2の第2導電型拡散層140、及び第1導電型層100からなるnpnバイポーラトランジスタのホール電流より少ない場合でも十分動作することになる。その為、十分なインパクトイオン化を起こさせるために必要な空乏層内の電界の強度は、hが無い場合よりも小さくてよいことになり、そのため、コレクタ(第1導電型層100)電圧も小さい電圧で良いことになる。そこで、ESD、GNDの端子間にかかる電圧は、第2の第1導電型拡散層150、第2の第2導電型拡散層140、及び第1導電型層100で構成されるnpnバイポーラトランジスタを動作させるのに十分な電圧まで低下する。つまり、第1導電型拡散層150、第2の第2導電型拡散層140、及び第1導電型層100で構成されるバイポーラトランジスタは、第1導電型拡散層152、第2の第2導電型拡散層140、及び第1導電型層100で構成されるバイポーラトランジスタよりも、より低い電圧で、同量の電流を流すことできる。このため、ESDにより注入されたある一定量の電流は、第1導電型拡散層150、第2の第2導電型拡散層140、及び第1導電型層100で構成されるバイポーラトランジスタの方へほとんど流れることになり、このとき必要な電圧は、第1導電型拡散層152、第2の第2導電型拡散層140、及び第1導電型層100で構成されるバイポーラトランジスタで電流を流すよりも低い電圧で良いことから、電圧は低下することになる。その結果、第1導電型拡散層152、第2の第2導電型拡散層140、及び第1導電型層100で構成されるnpnバイポーラトランジスタの動作は停止し、第2の第1導電型拡散層150、第2の第2導電型拡散層140、及び第1導電型層100で構成されるnpnバイポーラトランジスタのみが動作することになる。その結果、第2の第1導電型拡散層150、第2の第2導電型拡散層140、及び第1導電型層100で構成されるnpnバイポーラトランジスタと、第1の第2導電型拡散層130、第1導電型層100、及び第2の第2導電型拡散層140で構成されるpnpバイポーラトランジスタによるサイリスタが動作することになる。
【0063】
ここで、第1の実施形態での効果と同様に、本実施形態では、ホールド電圧と独立にブレークダウン電圧を任意に決めることができる。その理由は、図30の回路図を伴った断面図において、ブレークダウン電流Idbを供給する素子が、サイリスタ動作時の電流経路に配置されていないことによるものである。ここで、ホールド電流を決めるメカニズムは、第1の実施形態で図6、図7、及び図8を用いてホールド電圧がどの様に決まるかを説明したメカニズムと同様である。このサイリスタ動作のホールド電圧の説明を第2の実施形態での説明として読み替える場合において、npnバイポーラトランジスタとpnpバイポーラトランジスタを第2の実施形態のものに読み替える必要がある。具体的には、第2の実施形態の場合、npnバイポーラトランジスタは第1導電型拡散層150、第2の第2導電型拡散層140、及び第1導電型層100で構成されるものであり、pnpバイポーラトランジスタは、第1の第2導電型拡散層130、第1導電型層100、及び第2の第2導電型拡散層140によって構成されるものとなる。
【0064】
また、前述したように、本実施形態に示したデバイスの動作は、通常のサイリスタと異なり、npn型バイポーラトランジスタ が、pnp型バイポーラトランジスタからのフィードバックのみで動作していない。そのため、100パーセントのサイリスタ動作ではないが、部分的なサイリスタ動作であると考えることができる。本発明においては、この部分的なサイリスタ動作を行うサイリスタについても、サイリスタとしている。
【0065】
また、ここまでの説明で、例えば第1導電型拡散層150、第2の第2導電型拡散層140、及び第1導電型層100で構成されるバイポーラトランジスタが動作する際、第2の第2導電型拡散層140(ベース)、及び第1導電型層100(コレクタ)のジャンクション付近に空乏層ができて、その空乏層内に第1導電型拡散層150(エミッタ)か らの電子流が流れ込むことでインパクトイオン化が生じるという説明をしているが、実際には空乏層は必ずしもジャンクション付近に常に存在しているとは限らず、高濃度層である埋込層110と薄い濃度の層である第1導電型層100(コレクタ)の境界付近にまで移動してくる現象がある。
【0066】
また、図30に示す第2の実施形態の構造や、その他全ての実施形態について、ESD保護素子はESD端子及びGND端子に接続されているものとして説明しているが、ESD保護素子は必ずしもGND端子に接続されている必要はなく、また同様に、必ずしもESD端子に接続されている必要はない。ESD保護素子が持つ2つの端子は、ESDによる電流が流れる経路に接続されていればよく、例えば端子Aから端子BにESD保護素子を導通させて電流を流す場合は、例えば、端子Aに図30に示すESD端子を接続し、端子Bに図30に示すGND端子を接続すれば良い。
【0067】
図31は、図11に示した半導体装置におけるトリガ電圧の調整方法を説明するための図であり、第1の実施形態における図9と同様の図である。本図に示すように、本実施形態によっても、サイリスタのトリガ電圧は、第2の第2導電型拡散層140と図中右側に配置されている第1導電型の高濃度拡散層122の間隔dによって調節することができる。
【0068】
なお、本実施形態において図28に示すような構造をとった場合は、第2導電型高濃度拡散層142から第1導電型の高濃度拡散層122までの距離d´を調節することにより、サイリスタのトリガ電圧を調節することができる。
【0069】
本実施形態によっても、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。またサイリスタが動作し始めるまでの経緯には2つのパターンがある。特に第2の動作例では、npn型のバイポーラトランジスタが動作し始めてからpnp型のバイポーラトランジスタがオンする。npn型のバイポーラトランジスタは、pnp型のバイポーラトランジスタに対してオンしやすい。従って、サイリスタがオンしない可能性が低くなる。
【0070】
(第3の実施形態)
図19は、第3の実施形態に係る半導体装置の構成を示す断面図である。本実施形態に係る半導体装置は、第1配線300が抵抗素子302を有している点を除いて、第2の実施形態に係る半導体装置と同様の構成である。
【0071】
抵抗素子302は、第1配線300のうち、高濃度拡散層132に接続する配線と高濃度拡散層122に接続する配線とが分岐する分岐点と、第1の第2導電型拡散層130の間に位置している。すなわち抵抗素子302は、高濃度拡散層132に接続しているが、高濃度拡散層122には接続していない。
【0072】
本実施形態によっても、第2の実施形態と同様の効果を得ることができる。また抵抗素子302を設けているため、第1配線300を流れる異常電流のうち第1の第2導電型拡散層130に流れ込む量を制限できる。この結果、第1の第2導電型拡散層130、第1導電型層100、及び第2の第2導電型拡散層140からなるバイポーラトランジスタの動作が制限される。これにより、サイリスタのホールド電圧を高くすることができる。
【0073】
なお第1の実施形態において本実施形態に示した抵抗素子302を設けてもよい。この場合、第1の実施形態と同様の効果が得られるほか、上述した抵抗素子302に関する効果を得ることができる。
【0074】
(第4の実施形態)
図20は、第4の実施形態に係る半導体装置の構成を示す断面図である。本実施形態に係る半導体装置は、以下の点を除いて第1の実施形態に係る半導体装置と同様の構成である。
【0075】
まず、第1導電型層100、埋込層110、第1の第1導電型拡散層120、第1の第2導電型拡散層130、第2の第2導電型拡散層140、及び第2の第1導電型拡散層150からなる保護素子が2つ(保護素子10,20)形成されている。そしてこの2つの保護素子10,20は、第1配線300を介して高濃度拡散層122及び高濃度拡散層132が互いに接続されている。そして保護素子10の第2配線310は、異常電圧が加わる可能性のある配線に接続しており、保護素子20の第2配線310は、グランド配線に接続されている。また保護素子10,20において、いずれの拡散層、又は埋込層は互いにつながっていない。
【0076】
図21及び図22の各図は、図20に示した保護素子の動作を説明するための断面図である。まず図21(a)に示すように、保護素子10の第2配線310に異常電圧が加わると、この電圧は、保護素子10の第2の第2導電型拡散層140及び第1導電型層100からなるダイオードに対しては順方向の電圧になる。このため、この電圧は、保護素子10の第1導電型層100、埋込層110、及び第1の第1導電型拡散層120、第1配線300、並びに保護素子20の第1の第1導電型拡散層120、埋込層110、及び第1導電型層100を介して、保護素子20の第2の第2導電型拡散層140と第1導電型層100のジャンクションに加わる。このため、保護素子20は、第1の実施形態の図4と同様の作用により、第2の第2導電型拡散層140の側面でブレークダウンが生じる。このブレークダウンによって生じる電子流は、保護素子20の第1導電型層100、埋込層110、及び第1の第1導電型拡散層120、第1配線300、並びに保護素子10の第1の第1導電型拡散層120、埋込層110、第1導電型層100、及び第2の第2導電型拡散層140を介して、保護素子10の第2配線310に流れる。
【0077】
すると、図21(b)に示すように、保護素子20においては、第1の実施形態の図5と同様の作用により、第1の第2導電型拡散層130と第1導電型層100により形成されるダイオードがオンする。これにより、第1の第2導電型拡散層130、第1導電型層100、及び第2の第2導電型拡散層140によって構成されるpnp型バイポーラトランジスタは動作し始め、その結果、第1の第2導電型拡散層130と第2の第2導電型拡散層140の間には、ホールをキャリアとした電流が流れる。
【0078】
すると図22に示すように、第2の第2導電型拡散層140に電流が流れ始めることになるため、第1の実施形態の図6と同様の作用により、保護素子20において、第2の第1導電型拡散層150、第2の第2導電型拡散層140、及び第1導電型層100からなる縦型のnpn型バイポーラトランジスタの動作が始まる。npn型バイポーラトランジスタを流れる電流は、第1配線300、並びに保護素子10の第1の第1導電型拡散層120、埋込層110、第1導電型層100、及び第2の第2導電型拡散層140を介して、保護素子10の第2配線310に流れる。このようにして、保護素子20のサイリスタは動作を開始し、これによって異常電圧がグランド配線に放電される。
【0079】
なお、図20に示した半導体装置のグランド配線に異常電圧が加わった場合も、保護素子10,20を逆にした上で図21,22に示した動作が行われる。すなわちこの場合は、保護素子10のサイリスタが動作する。このため、グランド配線に印加した異常電圧も保護素子10の第2配線310に接続している配線(図示せず)に放電される。
【0080】
なお本実施形態において、保護素子10,20は、第2の実施形態又は第3の実施形態に示した保護素子と同様の構成となっていてもよい。
【0081】
本実施形態によっても第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。また保護素子を、双方向に耐圧を有していて双方向に動作する構造とすることができる。
【0082】
(第5の実施形態)
図23は、第5の実施形態に係る半導体装置の構成を示す断面図である。図32は、図23に示した半導体装置の平面図である。図23は、図32のA−A´断面図である。この半導体装置は、以下の点を除いて第4の実施形態に係る半導体装置と同様の構成である。
【0083】
まず保護素子10,20の埋込層110が互いにつながっている。そして保護素子10,20の第1配線300は互いに独立している。
【0084】
図24,25の各図は、図23に示した保護素子の動作を示す断面図である。まず図24(a)に示すように、保護素子10の第2配線310に異常電圧が加わると、この電圧は、保護素子10の第2の第2導電型拡散層140及び第1導電型層100からなるダイオードに対しては順方向の電圧になる。このため、この電圧は、保護素子10の第1導電型層100、埋込層110、及び保護素子20の第1導電型層100を介して、保護素子20の第2の第2導電型拡散層140と第1導電型層100のジャンクションに加わる。このため、保護素子20は、第1の実施形態の図4と同様の作用に、第2の第2導電型拡散層140の側面でブレークダウンが生じる。このブレークダウンによって生じる電子流は、保護素子20の第1導電型層100、埋込層110、及び保護素子10の第2の第2導電型拡散層140を介して、保護素子10の第2配線310に流れる。
【0085】
すると、図24(b)に示すように、保護素子20においては、第1の実施形態の図5と同様の作用により、第1の第2導電型拡散層130と第1導電型層100により形成されるダイオードがオンする。これにより、第1の第2導電型拡散層130、第1導電型層100、及び第2の第2導電型拡散層140によって構成されるpnp型バイポーラトランジスタは動作し始め、その結果、第1の第2導電型拡散層130と第2の第2導電型拡散層140の間には、ホールをキャリアとした電流が流れる。
【0086】
すると図25に示すように、第2の第2導電型拡散層140に電流が流れ始めることになるため、第1の実施形態の図6と同様の作用により、第2の第1導電型拡散層150、第2の第2導電型拡散層140、及び第1導電型層100からなる縦型のnpn型バイポーラトランジスタの動作が始まる。npn型バイポーラトランジスタを流れる電流は、埋込層110、並びに保護素子10の第1導電型層100及び第2の第2導電型拡散層140を介して、保護素子10の第2配線310に流れる。このようにして、サイリスタは動作を開始し、これによって異常電圧がグランド配線に放電される。
【0087】
なお、図23に示した半導体装置のグランド配線に異常電圧が加わった場合も、保護素子10,20を逆にした上で図24,24に示した動作が行われる。このため、グランド配線に印加した異常電圧も保護素子10の第2配線310に接続している配線(図示せず)に放電される。
【0088】
なお本実施形態において、保護素子10,20は、第2の実施形態又は第3の実施形態に示した保護素子と同様の構成となっていてもよい。
【0089】
本実施形態によっても第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。また保護素子を、双方向に耐圧を有していて双方向に動作する構造とすることができる。
【0090】
(第6の実施形態)
図26は、第6の実施形態に係る半導体装置の構成を示す断面図である。図33は、図26に示した半導体装置の平面図である。図26は、図33のA−A´断面図である。この半導体装置は、保護素子10,20が互いに対向する部分において、第1の第1導電型拡散層120を共通にしている点を除いて、第4の実施形態に係る半導体装置と同様の構成である。
【0091】
本実施形態によっても、第4の実施形態と同様の効果を得ることができる。また保護素子10,20が互いに対向する部分において、第1の第1導電型拡散層120を共通にしているため、保護素子の平面形状を小さくすることができる。
【0092】
(第7の実施形態)
図27は、第7の実施形態に係る半導体装置の構成を示す断面図である。図34は、図27に示した半導体装置の平面図である。図27は、図34のA−A´断面図である。本実施形態に係る半導体装置は、保護素子10,20が第2の実施形態に示した構造を有している点を除いて、第6の実施形態に係る半導体装置と同様の構成である。
【0093】
本実施形態によっても、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。また保護素子10,20は第2の実施形態に示した構造を有しているため、第2の実施形態で説明したように、保護素子10,20のサイリスタが動作し始めるまでの経緯には2つのパターンがある。このため、サイリスタがオンしない可能性が低くなる。
【0094】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【符号の説明】
【0095】
10 保護素子
20 保護素子
30 基板
100 第1導電型層
110 埋込層
120 第1の第1導電型拡散層
122 高濃度拡散層(第1の第1導電型高濃度拡散層)
122a コンタクトを配置する領域
130 第1の第2導電型拡散層
132 高濃度拡散層(第1の第2導電型高濃度拡散層)
140 第2の第2導電型拡散層
142 第2導電型高濃度拡散層(第2の第2導電型高濃度拡散層)
150 第2の第1導電型拡散層
152 第1導電型拡散層(第3の第1導電型拡散層)
200 素子分離膜
300 第1配線
302 抵抗素子
310 第2配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型層と、
上面が前記第1導電型層に接しており、前記第1導電型層より不純物濃度が高い第1導電型の埋込層と、
前記第1導電型層に接して形成され、底部が前記埋込層に接している第1の第1導電型拡散層と、
前記第1導電型層に形成され、底部が前記埋込層に接していない第1の第2導電型拡散層と、
前記第1導電型層に形成され、底部が前記埋込層に接しておらず、かつ側面の少なくとも一部が前記第1導電型層に接している第2の第2導電型拡散層と、
前記第2の第2導電型拡散層に形成され、前記第2の第2導電型拡散層よりも浅い第2の第1導電型拡散層と、
前記第1の第1導電型拡散層の表層に形成された第1の第1導電型高濃度拡散層及び前記第1の第2導電型拡散層の表層に形成された第1の第2導電型高濃度拡散層に接続している第1配線と、
前記第2の第1導電型拡散層、及び前記第2の第2導電型拡散層の表層に形成された第2の第2導電型高濃度拡散層に接続している第2配線と、
を備え、
平面視において、前記第1の第1導電型高濃度拡散層のうちコンタクトが接続されている領域、前記第1の第2導電型拡散層、前記第2の第1導電型拡散層、及び前記第2の第2導電型拡散層の順に並んでおり、
前記第2の第2導電型拡散層及び前記第1導電型層が互いに接する領域におけるこれらの不純物濃度は、前記第2の第2導電型拡散層の底面に位置する部分よりも、前記第2の第2導電型拡散層の側面に位置する部分のほうが高い半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記第1の第1導電型拡散層は、前記第1の第2導電型拡散層、前記第2の第1導電型拡散層、及び前記第2の第2導電型拡散層を囲んでいる半導体装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の半導体装置において、
前記第2の第2導電型拡散層は、素子分離膜より深い半導体装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一つに記載の半導体装置において、
前記第2の第2導電型拡散層に形成され、前記第2の第2導電型高濃度拡散層を挟んで前記第2の第1導電型拡散層とは逆側に位置する第3の第1導電型拡散層を備え、
前記第2配線は、前記第3の第1導電型拡散層にも接続している半導体装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の半導体装置において、
前記第1配線は、前記第1の第2導電型高濃度拡散層に接続する抵抗素子を備える半導体装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の半導体装置において、
前記第1導電型層、前記埋込層、前記第1の第1導電型拡散層、前記第1の第2導電型拡散層、前記第2の第2導電型拡散層、及び前記第2の第1導電型拡散層により保護素子が形成されており、
前記保護素子を2つ有しており、かつ前記2つの保護素子は、前記第1配線を介して、前記第1の第1導電型高濃度拡散層が接続されている半導体装置。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の半導体装置において、
前記第1導電型層、前記埋込層、前記第1の第1導電型拡散層、前記第1の第2導電型拡散層、前記第2の第2導電型拡散層、及び前記第2の第1導電型拡散層により保護素子が形成されており、
前記保護素子を2つ有しており、前記2つの保護素子は、前記第1の第1導電型拡散層の少なくとも一部を共有しており、
共有されている前記第1の第1導電型高濃度拡散層、及び前記2つの保護素子それぞれの前記第2の第2導電型高濃度拡散層が互いに接続されており、
かつ前記埋込層が互いにつながっている半導体装置。
【請求項8】
請求項7に記載の半導体装置において、
前記2つの保護素子は、それぞれ、第2の第2導電型拡散層の表面に形成されている第3の第1導電型拡散層を備え、
平面視において、前記第3の第1導電型拡散層は、前記第2の第2導電型高濃度拡散層を挟んで前記第2の第1導電型拡散層とは逆側に位置しており、
前記2つの保護素子それぞれにおいて、前記第3の第1導電型拡散層、前記第2の第2導電型高濃度拡散層、及び前記第2の第1導電型拡散層は互いに接続されている半導体装置。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の半導体装置において、
前記第1導電型層、前記埋込層、前記第1の第1導電型拡散層、前記第1の第2導電型拡散層、前記第2の第2導電型拡散層、及び前記第2の第1導電型拡散層により保護素子が形成されており、
前記保護素子を2つ有しており、
前記2つの保護素子は、前記埋込層が互いにつながっている半導体装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【公開番号】特開2012−38974(P2012−38974A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178930(P2010−178930)
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】