説明

半導電性シームレスベルトの製造方法

【課題】本発明の目的は、左右の周長差の小さい半導電性シームレスベルトを短時間で安価に製造できる製造方法を提供することにある。
【解決手段】シームレスベルトの原料である樹脂溶液を、金型の円柱形状の内面にシームレス状に塗布させた後、乾燥、硬化してフィルム化するシームレスベルトの製造方法であって、金型の長さと金型直径の比(金型長さ/金型直径)が3以上であり、初期乾燥工程の際に、金型内表面に風速2m/秒以上の送風を行なうことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シームレスベルトの製造方法に関するものであり、特に、画像形成装置を備えた電子写真複写機、プリンタ、ファクシミリ、これらの複合機等に用いる転写搬送体、中間転写体、転写定着体、定着体に使用される半導電性シームレスベルトを製造する場合に有用である。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真複写機、プリンタ、ファクシミリ、これらの複合機等の画像形成装置に用いられる転写搬送ベルト、中間転写ベルト、転写定着ベルト、感光体ベルトには、高速化・高画質化が要求されるため、これら機能性ベルトにはシームレス化が望まれている。そのため樹脂からなるシームレスベルトの製造は、例えば樹脂の溶液を円筒状金型の内面に展開し、これを一定の厚みに塗布した後、熱風により金型を加温し溶液を蒸発させ、乾燥させることが一般的に行われてきた(例えば、特許文献1参照)。また、金型の昇温を行うために、誘導加熱を用いる方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
また、上記の画像形成装置における画像形成方法には、多種多様の方法がある。例えば、紙等の被転写紙に顕画像を転写する方式として、転写ドラム上に紙等の被転写紙を巻き付け、感光体上の顕画像を各色毎に被転写紙に転写する転写ドラム方式や感光体上の顕画像を各色毎に中間転写体に転写した後、一括して被転写紙に中間転写体上の顕画像を転写する中間転写体方式等が知られている。
【0004】
そして、近年では、画像形成装置の高遠化・高画質化や紙の種類を選ばないというトレンドから、中間転写体を用いる新規な画像形成装置として、各色の現像器を備えた複数の像担持体を中間転写体上に直列に配置し、各色に感光体上の顕画像を中間転写体上に転写した後、一括して紙等の被転写体へ転写するタンデム式中間転写方式のカラー画像形成装置が増加してきている。
【0005】
また、プリント速度の高速化の観点から中間転写ベルトには、左右の周長差が小さいものが要求されている。
【特許文献1】特開2002−225051号公報
【特許文献2】特開2004−171831号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1で製造されるシームレスベルトは、熱風により金型を加温しており、熱風加温は熱効率が悪く、金型を加温するためには長時間を要する。一方、特許文献2で示すように、誘導加熱を用いると熱風よりも急速な昇温が可能であるが、製造されるベルトにハジキができ易く、またベルト左右の周長差が大きくなるという欠点があった。特に、金型長さと金型直径の比(金型長さ/金型直径)が3以上の時に、顕著に現れていた。
【0007】
そこで、本発明は、上記の従来技術における問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明の目的は、左右の周長差の小さい半導電性シームレスベルトを短時間で安価に製造できる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、半導電性シームレスベルトの製造方法において鋭意研究したところ以下の発明をするに至ったものである。すなわち、シームレスベルトの原料である樹脂溶液を、金型の円柱形状の内面にシームレス状に塗布させた後、乾燥、硬化してフィルム化するシームレスベルトの製造方法であって、金型の長さと金型直径の比(金型長さ/金型直径)が3以上であり、初期乾燥工程の際に、金型内表面に風速2m/秒以上の送風を行なうことを特徴とする。
【0009】
この構成の作用効果は以下のとおりである。半導電性シームレスベルトの原料である樹脂溶液を準備(原料秤量、混合、保存)する。次いで、中空円柱形状である金型の内面にシームレス状となるように、展開・塗布させる。次いで、樹脂溶液を乾燥手段を用いて乾燥・硬化してフィルム化させる。以上の工程を少なくとも具備している半導電性シームレスベルトの製造方法である。本製造方法では、金型長さと当該金型直径の比(金型長さ/金型直径)が3以上である金型が用いられる。そして、初期乾燥の際に、金型内表面に対して、風速2m/秒以上の送風を行なうように構成される。その結果、左右の周長差の小さい半導電性シームレスベルトを製造することができる。
【0010】
また、本発明の好適な実施形態として、前記金型の加熱を誘導加熱方法により行なうことが好ましい。誘導加熱方法の利点は、他の加熱方法(例えば、熱風、遠赤外線装置等)と比較し急速にかつ均一に金型を加熱(加温)することができるので好ましい。また、本発明において、金型内面に対し風速2m/秒以上の送風を行なうため、他の加熱方法では、加熱の邪魔になるが、誘導加熱方法では、その邪魔になることが無く好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に関し詳細に説明する。
【0012】
(半導電性ポリイミドベルトの原料)
本発明の製造方法及び製造装置で製造されるシームレスベルトの原料樹脂として、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアリレート樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、芳香族ポリアミド樹脂等を用いることができる。また、これらをブレンドして使用することもできる。特に、本発明のシームレスベルトを転写定着体や定着用ベルトとして用いる場合には、耐熱強度が必要になることから、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂が好ましく、さらに好ましくは熱硬化性のポリイミド樹脂が好ましい。ポリイミド樹脂の原料液としては、例えば、ポリアミド酸の溶液が好適に使用可能である。このポリアミド酸は、テトラカルボン酸二無水物あるいはその誘導体とジアミンの略等モルを有機溶媒中で反応させることにより得られ、通常、溶液状で用いられることから本発明に用いる樹脂溶液の主成分に用いることができる。
【0013】
テトラカルボン酸二無水物の例として、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0014】
また、ジアミンの例としては、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジクロロベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン、1,5−ジアミノナフタレン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニルジアミン、ベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン等が挙げられる。
【0015】
また、有機溶媒としては、アセトン、クロロホルム、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリル、アルコ−ル系(メタノール、エタノール、イソプロパノールなど)、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン(NMP)などを用いることができるが、極性のアミド系溶媒であるN,N−ジメチルアセトアミド、NMP、ジメチルホルムアミドが好ましい。
【0016】
本発明で製造されたシームレスベルトを中間転写体や転写搬送用ベルトして用いる場合には、高弾性率が必要であり、具体的には、JIS−K7127に準じて測定した周方向の引張弾性率が2000MPa以上であることが好ましい。したがって、この観点から、樹脂溶液の主成分を選択する必要があり、例えば、樹脂溶液の主成分としてポリアミド酸を用いる場合、全溶液に対して10重量%から30重量%のポリアミド酸含有の溶液を本発明の樹脂溶液に用いれば、中間転写体等に好ましいシームレスベルトを製造できる。
【0017】
また、本発明で製造されたシームレスベルトを中間転写体・転写搬送体・転写定着体として使用する場合には、半導電性を得るために樹脂中に各種導電材料を添加する必要がある。具体的には、各種カーボン、アルミニウム、ニッケル、酸化錫、チタン酸カリウム等の無機化合物やポリアニリンやポリピロ−ルなどに代表される導電性高分子を用いることができる。特に、ベルト全体を均一な抵抗とするために、また、ベルトの抵抗を低くする観点からは、各種導電材料を均一に分散させることが重要である。そのため、カーボンブラック等を用いる場合は、分散性の良いカーボンブラックの選定や分散方法を適宣選択する必要がある。また、半導電性シームレスベルトの電気抵抗値は、電子写真記録装置の中間転写ベルトとして用いられる場合、表面抵抗率が10〜1014Ω/□であることが好ましく、1010〜1013Ω/□であることがより好ましい。
【0018】
また、導電性高分子などを用いる楊合には、樹脂素材が溶解されている溶媒と同じものに溶解する事が望ましい。
【0019】
これら各種導電材料の含有量は、導電材料の種類に応じて適宜選択する事ができるが、樹脂に対して5〜50重量%程度が好ましく、より好ましくは7〜40重量%である。この含有量が5重量%未満であると、電気抵抗の均一性が低下し、耐久使用時の表面抵抗率の低下が大きくなる場合がある。一方、50重量%を超えると、所望の抵抗値が得られ難く、また、シームレスベルトの成型物として脆くなるため好ましくない。
【0020】
本発明の樹脂溶液は、B型粘度計で測定した溶液粘度が5〜1000Pa・sであることが好ましい。溶液粘度が5Pa・s以下になると初期乾燥の工程内において、僅かなゴミや異物が混入すると、それを起点に溶液樹脂がはじき、その部分が薄くなり、不良品となる。その回避策として、従来から乾燥速度を遅くする方法を採用していたが、製造時間が長くなり生産性が低下し好ましい方法ではなかった。また、他の対策として、ゴミや異物の混入を防ぐための装置を設置する方法があるが、高コスト化に繋がり好ましくない。
【0021】
一方、溶液粘度が1000Pa・s以上になると樹脂が広がりにくくなり、均一な厚みを形成しにくくなり好ましくない。
【0022】
(製造方法)
以下に、半導電性シームレスベルトの製造方法について説明する。本発明のシームレスベルトの製造方法は、主に、シームレスベルトの原料となる溶液状の樹脂溶液を作製する工程、樹脂溶液を金型内面に展開・塗布を行う工程、乾燥・硬化工程、イミド化反応を行う工程からなる。
【0023】
本発明では、前記樹脂溶液を円筒状金型(第1金型)内面に供給(展開・塗布)する。この供給方法は、ディスペンサーによる方法、ダイスによる方法等適宜選択して行うことができる。このようにして供給した樹脂溶液を、加熱しながら遠心成形する方法、弾丸状走行体を用いて成形する方法、回転成形する方法等適宜選択して均一な膜厚の被膜形成工程を行っても良い。
【0024】
次に、前工程において、第1金型の内面に均一に塗布された樹脂溶液を加熱する。先ず、自己支持できるまで一次加熱(初期乾燥に相当する)を行う。この際、第1金型内表面に流れる送風は風速2m/sec以上である必要がある。第1金型内表面を流れる送風が風速2m/sec未満の場合、ベルトにハジキができるだけでなく、左右の周長差が大きくなるので好ましくない。送風の温度・湿度条件は、樹脂溶液によって設定されるが、乾燥を好適に行なうためには、温度が25℃以上、湿度が50%以下が好ましい。送風装置は公知のものが適宜採用できる。
【0025】
また、上記一次加熱温度は適用した溶媒を蒸発させることができる温度であれば特に制限はなく、適宜設定できるが、80〜230℃が好ましい。加熱時間は加熱温度に応じて適宜設定され、通常、10〜60分程度である。この時、230℃で急激に加熱すると樹脂溶液中の溶媒が急激に蒸発するために微小ボイドが発生し、80℃未満で長時間加熱すると製造時間がかかりすぎて生産性が低くなるため好ましくない。
【0026】
次に、二次加熱することで、残存溶媒の除去、開環水の除去、或いはイミド化反応を行う。二次加熱の温度は、かかる目的に適した温度であれば特に制限はないが、通常、250℃から400℃が好ましい。加熱時間は加熱温度に応じて適宜設定され、通常、10〜60分程度である。
【0027】
なお、シームレスベルトの内径を規制するために用いられる筒状の第2金型の外側に、一次加熱後に第1金型から剥離したシームレスベルトを挿入し、この挿入した状態で、三次加熱を行うことも可能である。
【0028】
一時加熱または二次加熱の加熱方法及び加熱装置としては、急速昇温が可能でエネルギーコストが小さい誘導加熱方法及び誘導加熱装置を用いて、第1金型を昇温することが望ましい。誘導加熱装置を用いる場合の第1金型は、その材質が鉄等のような磁性体である事が好ましい。
【0029】
次に、第1金型の内面に塗布され硬化しフィルム化したシームレスベルトを剥離する。この剥離方法としては、例えば金型端部の周壁に予め設けられた微小貫通孔に空気を圧送する方法等が挙げられる。なお、金型内面に予めシリコーン樹脂等による離型処理を施しておけば、シームレスベルトの剥離作業性が向上するため好ましい。
【0030】
以上の製造方法で得られた半導電性シームレスベルトは、ハジキなどの欠点も無く、左右の周長差も小さいものとなる。そのため、この半導電性シームレスベルトをカラープリンタ等の中間転写ベルトとして使用しても、色むらもなく非常に良好である。
[実施例]
【0031】
以下、本発明を、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。ただし、これら各実施例は、本発明を制限するものではない。
【0032】
(評価方法)
(1)表面抵抗(全体)評価:測定機器にハイレスタUPMCP−H1450(三菱化学社製、ブローブUR)を用い、測定条件25℃で、半導電性シームレスベルト表面の任意の24点に、電圧100Vを印加し、その印加開始から10秒後の表面抵抗値を測定した。ここでは、測定された24点の値の平均値を表面抵抗とした。
(2)内周長差評価:ベルトを図1に示すようにシームレスベルトを2本の平行な軸(直径30mm)で4kgの荷重をかけることにより張架した。その時の平行な軸の間隔を左右で測定した(軸間距離:A(右)、A(左))。左右の内周長は下記式(1)にて計算した。
(式1)内周長=30*3.14+30+2×A
得られた左右の内周長の差を内周長差とした。
【0033】
(実施例1)
N−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に、カーボンブラック(SPECIAL BLACK4、デグサ社製)を添加し、ボールミルで8時間、撹拌してカーボンブラック分散NMP液を得た。このカーボンブラック分散NMP液に3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、4,4’−ジアミノジフェニルニーテルを等モル数溶解し、窒素雰囲気下において室温で5時間、撹拌しながら反応させた後、粘度調整を行い、カーボンブラックを分散したポリアミド酸溶液(固形分20重量%、23℃におけるB型粘度計による溶液粘度300Pa・s)を得た。このポリアミド酸溶液420gを環状ダイス(外径250mm、長さ500mm)より押し出して中空状樹脂溶液を形成しつつ、この中空状樹脂溶液を筒状金型内面(金型長さと金型直径の比3.3(内径300mm、長さ1000mm))に塗布する。次に、誘導加熱装置を用いて、一次加熱を行うとともに、金型内面に対し、風速8m/secの送風(温度25℃、湿度50%以下)を行なった。ここでの一次加熱では誘導加熱装置を用いて130℃、20分間の加熱を行なった。次に、残存溶媒の除去、脱閉環水の除去、およびイミド化の完結反応を行うために、誘導加熱装置を用いて、360℃まで40℃/分の昇温速度で昇温した後、室温まで冷却した。得られたベルトの両端の不要部分と中央部2箇所切断し、半導電性シームレスベルトを3本得た。このベルトには、ハジキもなく良好なものであった。
【0034】
(比較例1)
金型内面に対する送風を風速1m/secにする以外は、実施例1と同様にして、半導電性シームレスベルトを作製した。
【表1】

【0035】
(結果)
表1から明らかなように、実施例1は、比較例1と比べて、周長差が小さく、またハジキの発生がない。また、実施例1の表面抵抗値は例えば中間転写ベルトとして好適な値であるが、比較例1は中間転写ベルトとして不適切なものである。
【0036】
以上の実施例において得られた半導電性シームレスベルトは、ハジキなどの欠点も無く、左右の周長差も小さいものとなる。そのため、この半導電性シームレスベルトをカラープリンタ等の中間転写ベルトとして使用しても、色むらもなく非常に良好である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】内周長の測定方法を説明する図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シームレスベルトの原料である樹脂溶液を、金型の円柱形状の内面にシームレス状に塗布させた後、乾燥、硬化してフィルム化するシームレスベルトの製造方法であって、
金型の長さと金型直径の比(金型長さ/金型直径)が3以上であり、
初期乾燥工程の際に、金型内表面に風速2m/秒以上の送風を行なうことを特徴としたシームレスベルトの製造方法。
【請求項2】
前記製造方法であって、前記金型の加熱を誘導加熱方法により行なうことを特徴とする請求項1に記載のシームレスベルトの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−173855(P2008−173855A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−9309(P2007−9309)
【出願日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】