説明

印刷物及びこの印刷物形成に用いられる下地形成用塗料

【課題】着色インクの滲み防止性及び屋外暴露後の下層着色塗膜とインク層やクリヤ塗膜との付着性の優れた印刷物を提供する。
【解決手段】基材面上に、下地塗膜層(A)、該下地塗膜層(A)上にインクによる印刷層(B)が形成され、さらにその上にクリヤコート層(C)が形成されてなる印刷物において、該下地塗膜層(A)が、水酸基含有塗膜形成性樹脂とアミノ樹脂架橋剤とを含有する樹脂バインダを含有する縮み形成用塗料を塗装、硬化させてなり、かつ表面張力33mN/m以下の縮み下地塗膜層であることを特徴とする印刷物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷物などの印刷物、より詳しくは、建築物壁面、屋外看板、道路標識、車体など屋外用途に好適な、好みの図柄を有し且つ耐候性に優れたインクジェット印刷物、及びこの印刷物形成に用いられる下地形成用塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、コンピュータの印刷装置として、インクジェット方式によるプリンタが広く普及している。このインクジェットプリンタは、コンピュータの記憶装置に保存されている画像データの各画素の色調に応じて、赤・青・黄の3原色と黒色の4色のインクをそれぞれノズルから吐出させて印刷紙上にドット状に付着させ、印刷紙上で重ね合せることにより、その画素の色調を再現し、さらに、ノズルを左右方向に駆動させるとともに印刷紙を垂直方向に駆動させることにより、印刷紙上に画像データを描画するものである。
【0003】
近年、インクジェット方式による描画対象物が、印刷紙上だけでなく、建築物壁面、屋外看板、道路標識、車体などに拡大しており、インクジェット印刷物には耐水性や耐候性の向上が求められている。
【0004】
他方、インクジェット方式による印刷物に耐候性、耐スリキズ性、耐酸性などの機能を付与する方法として、該印刷層に紫外線吸収剤等を含むプラスチックフィルム等をラミネートし接着させる方法等が採用されている。しかしながら、この方法では、ラミネート加工に多大な工数を要し、また上記機能の付与も十分ではない等の問題がある。
【0005】
また、表面に下層着色塗膜を予め施した被塗物表面に、インクジェットプリンターのノズルから着色インクを吐出して模様状に塗布し、所望によりこの模様塗膜の全面にクリヤー塗料を塗布する、模様塗膜の形成方法が開示されている(特許文献1参照)。しかしながら、この方法では、着色インクが滲んだり、屋外暴露後において、クリヤー塗料とインク層や下層着色塗膜との付着性が劣る場合があった。
【0006】
さらに、金属板の表面に数平均分子量2,000〜30,000、ガラス転移温度−10〜80℃のポリエステル樹脂とアミノプラスト樹脂を含有する下塗塗料を塗布し、硬化して硬化下塗塗膜を形成し、次いで該硬化下塗塗膜上に、ジェットプリンターを用いて着色インクによる部分的または全面の柄模様を設け、次いで該柄模様が設けられた硬化下塗塗膜上に、数平均分子量2,000〜30,000、ガラス転移温度0〜80℃のポリエステル樹脂とアミノプラスト樹脂を含有する上塗透明塗料を塗布し、焼付硬化することを特徴とする模様プレコートメタルの製造方法が開示されている(特許文献2参照)。しかしながら、この方法においても、着色インクが滲んだり、屋外暴露後において、クリヤー塗料とインク層や下層着色塗膜との付着性が劣る場合があった。
【0007】
また、本特許出願人は、基材面上に、吸油量が10〜400ml/100gのシリカ微粒子を含有し且つ顔料体積濃度が5〜90%である白色系塗料を用いて白色系下地塗膜層(I)を形成した後、その上に水性インク組成物を用いてインクジェット方式により印刷層(II)を形成し、さらにその上にクリヤー塗料を用いてクリヤーコート層(III)を形成することからなる、インクジェット印刷物の製造方法を提案した(特許文献3参照)。この方法において、着色インクの滲みはかなり解消され、また、屋外暴露後において、クリヤー塗料とインク層や下層着色塗膜との付着性のかなり改善されたが、着色インクの滲み防止のさらなる改良及び屋外暴露後のクリヤー塗料とインク層や下層着色塗膜との付着性のさらなる向上が求められていた。
【0008】
【特許文献1】特開平9−1049号公報
【特許文献2】特開2000−107683号公報
【特許文献3】国際公開WO2002/100652公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、上記の如き問題を解決すべく鋭意検討した結果、基材面上に、下地塗膜層を形成した後、その上にインクによる印刷層を形成し、さらにその上にクリヤー塗料を用いてクリヤーコート層が形成されてなる印刷物において、下地塗膜層形成用塗料として、
特定の縮み形成用塗料を用いて、表面張力33mN/m以下の下地塗膜層を形成することにより、着色インクの滲みが解消され仕上り外観に優れた印刷層を形成することができ、かつ屋外暴露後において、下地塗膜層と印刷層やクリヤー塗料との付着性に優れた印刷物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かくして、本発明によれば、「1.基材面上に、下地塗膜層(A)、該下地塗膜層(A)上にインクによる印刷層(B)が形成され、さらにその上にクリヤコート層(C)が形成されてなる印刷物において、該下地塗膜層(A)が、水酸基含有塗膜形成性樹脂とアミノ樹脂架橋剤とを含有する樹脂バインダを含有する縮み形成用塗料を塗装、硬化させてなり、かつ表面張力33mN/m以下の縮み下地塗膜層であることを特徴とする印刷物。
【0011】
2.縮み形成用塗料が、樹脂バインダ100質量部に対して、有機スルホン酸0.1〜3.0質量部と、該有機スルホン酸1当量に対して1.5〜30当量となる量の沸点30〜250℃の2級又は3級のアミン化合物との反応混合物を含有することを特徴とする上記項1記載の印刷物、
3.前記水酸基含有塗膜形成性樹脂が、水酸基価3〜200mgKOH/g樹脂であるポリエステル樹脂であることを特徴とする前記項1又は2記載の印刷物、
4.前記アミノ樹脂架橋剤が、メチルエーテル化メラミン樹脂、又はメチルエーテル化メラミン樹脂とブチルエーテル化メラミン樹脂との混合メラミン樹脂である前記項1〜3のいずれか一項に記載の印刷物。
【0012】
5.前記縮み形成用塗料が、さらに平均粒子径0.2〜80μmの有機樹脂微粉末を、樹脂バインダ100質量部に対して、0.5〜50質量部含有することを特徴とする前記項1〜4のいずれか一項に記載の印刷物、
6.上記下地塗膜層(A)の中心線平均粗さRaが2.0〜10.0μm、凸凹の平均間隔Smが10〜150μmである請求項1〜5のいずれか一項に記載の印刷物。
【0013】
7.基材面上に、表面張力33mN/m以下で、かつ中心線平均粗さRaが2.0〜10.0μm、凸凹の平均間隔Smが10〜150μmである縮み下地塗膜層(A1)、該下地塗膜層上にインクによる印刷層(B)が形成され、さらにその上にクリヤコート層(C)が形成されてなる印刷物における縮み下地塗膜層(A1)の形成に用いられる塗料であって、水酸基含有塗膜形成性樹脂とアミノ樹脂架橋剤とを含有する樹脂バインダを含有し、かつ樹脂バインダ100質量部に対して、有機スルホン酸0.1〜3.0質量部と、該有機スルホン酸1当量に対して1.5〜30当量となる量の沸点30〜250℃の2級又は3級のアミン化合物との反応混合物及び平均粒子径0.2〜80μmの有機樹脂微粉末0.5〜50質量部を含有する縮み形成用塗料。
【0014】
8.前記項1〜6のいずれか一項に記載のインクジェット印刷物の形成に用いられる下地塗膜層(A)が形成された基板。」を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の印刷物においては、特定の縮み下地塗膜層が形成されており、この上に形成されるインクによる印刷層のインクの滲みが解消され仕上り外観に優れた印刷層を形成することができる。また、本発明による印刷物は、屋外暴露後においても、クリヤ塗膜と印刷層や下層着色塗膜との付着性に優れたものである。
【0016】
インクの滲みが解消される理由は、下地塗膜層が縮み模様であるため、その縮み模様の凹凸によってインクの広がりを抑制すること、及び下地塗膜層の表面張力を所定範囲としたことによりインクの濡れ広がりを抑制することによるものであると本発明者らは考えている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明のインクジェット印刷物の製造方法について、さらに詳細に説明する。
【0018】
基材:
本発明に従いその上に印刷物を形成することができる基材としては、特に限定されるものではなく、例えば、紙、木材、金属、プラスチックスなどの材質からなる基材、モルタル、スレートなどの基材、これらの基材に表面処理及び/ 又は塗膜形成を施したものなどが挙げられる。また、これら基材は、必要に応じて、その印刷層が形成される面と反対側の面に接着層を設けて粘着シートの形態にすることも可能である。
【0019】
基材として、金属を用いることによって印刷されたプレコートメタルを製造することができる。金属としては、亜鉛メッキ鋼板、合金亜鉛(鉄−亜鉛、ニッケル−亜鉛、アルミニウム−亜鉛)メッキ鋼板、アルミニウム板、銅板、ブリキ板、ティンフリースチール、鋼板、真鍮などを挙げることができる。これらの金属は、必要に応じて、リン酸塩処理、複合酸化物処理などの化成処理を施したものであってもよい。また、これらの基材は、表面にプライマー塗膜などの塗膜層が1層以上形成されたものであってもよい。
【0020】
基材としては、なかでも金属、化成処理を施した金属、及び化成処理を施していてもよい金属の表面にプライマー塗膜などの塗膜層が1層以上形成されたものが強度、加工性、耐熱性などの観点から好適である。
【0021】
縮み下地塗膜層(A)の形成:
本発明に従えば、上記の如き基材の表面上に印刷層を形成するに先立ち、基材面上に、縮み形成用塗料を塗装、硬化させて、表面張力33mN/m以下の縮み下地塗膜層(A)が形成される。
【0022】
上記縮み下地塗膜層(A)は、上層となる印刷層のインクの滲みなどが生じないようにインクの受容層としての役割を果たすものであり、上記縮み形成用塗料は、水酸基含有塗膜形成性樹脂とメラミン樹脂架橋剤とを樹脂バインダとして含有する塗面に縮み模様を形成する塗料であって、好ましくは、有機スルホン酸と過剰当量となる量のアミン化合物との反応混合物及び平均粒子径3〜50μmの有機樹脂微粉末を含有するものである。
【0023】
水酸基含有塗膜形成性樹脂
上記樹脂バインダを構成する水酸基含有塗膜形成性樹脂としては、熱硬化型塗料の基体樹脂として通常用いられる、水酸基含有塗膜形成性樹脂が使用でき、代表例として、水酸基含有ポリエステル樹脂、水酸基含有アクリル樹脂、水酸基含有シリコン変性ポリエステル樹脂、水酸基含有シリコン変性アクリル樹脂、水酸基含有エポキシ樹脂、水酸基含有ビニル樹脂(塩化ビニル共重合樹脂)、水酸基含有フッ素樹脂などが挙げられ、これらは単独で又は組合せて使用することができる。上記水酸基含有ポリエステル樹脂はオイルフリーポリエステル樹脂、油変性ポリエステル樹脂のいずれも包含するものである。
【0024】
これらのうち、水酸基含有ポリエステル樹脂、水酸基含有アクリル樹脂、水酸基含有シリコン変性ポリエステル樹脂、水酸基含有シリコン変性アクリル樹脂および水酸基含有フッ素樹脂が得られる塗膜の機械的強度、耐候性などの点から好ましい。なかでも、ポリエステル樹脂が特に好適である。
【0025】
上記水酸基含有ポリエステル樹脂のうち、オイルフリーポリエステル樹脂は、直接エステル化法、エステル交換法、開環重合法などの公知の方法を用いて製造することができる。直接エステル化法の具体例としては、主に多塩基酸と多価アルコールとを重縮合する方法が挙げられる。多塩基酸としては無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、アジピン酸、フマル酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸などから選ばれた1種以上の二塩基酸;無水トリメリット酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸、無水ピロメリット酸などの3価以上の多塩基酸などが用いられ、酸成分として、必要に応じて安息香酸、クロトン酸、p−tertブチル安息香酸などの一塩基酸も用いることができる。また、多価アルコールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどの二価アルコールが主に用いられ、さらに必要に応じてグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの3価以上の多価アルコールを併用することもできる。これらの成分の直接エステル化反応は、酸基に対して水酸基が過剰となる配合比にて公知の方法で行なうことができる。
【0026】
また、オイルフリーポリエステル樹脂は、多塩基酸の低級アルキルエステルと多価アルコールとのエステル交換による縮重合によっても製造することができる。さらに、オイルフリーポリエステル樹脂は、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンなどのラクトン類の開環重合によっても製造することができる。
【0027】
また、水酸基含有ポリエステル樹脂のうち、油変性ポリエステル樹脂は、上記オイルフリーポリエステル樹脂に油脂肪酸を反応せしめたものであって、油脂肪酸としては例えばヤシ油脂肪酸、大豆油脂肪酸、アマニ油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、トール油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸、キリ油脂肪酸などがあげられ、ポリエステル樹脂と油脂肪酸との反応も公知の方法で行なうことができ、その油長は、通常30%以下が好ましい。
【0028】
前記水酸基含有アクリル樹脂としては、その骨格に水酸基を有しているものが使用でき、水酸基を有する重合性不飽和モノマーおよびこのモノマーと共重合可能なその他のモノマーとを共重合させることによって得ることができる。水酸基含有不飽和モノマーとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート及びポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の、多価アルコールとアクリル酸又はメタクリル酸とのモノエステル化物;上記多価アルコールとアクリル酸又はメタクリル酸とのモノエステル化物にラクトン類を開環重合した化合物等を挙げることができる。これらは1種で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。上記ラクトン類としては、例えば、ε−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−ブチロラクトン、β−プロピオンラクトンなどのラクトン類が挙げられる。本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート又はメタアクリレート」を意味するものである。
【0029】
また、上記水酸基を有する重合性不飽和モノマーと共重合せしめるその他のモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸などのカルボキシル基含有不飽和モノマー;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどのアクリル酸もしくはメタクリル酸とのアルキルエステル;スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、アクリロニトリル、アクリルアミド、メタアクリルアミド、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルアクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートなどが挙げられる。これらは1種で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0030】
水酸基含有シリコン変性ポリエステル樹脂は、前記のポリエステル樹脂にシリコン中間体を反応させてなるものである。該シリコン中間体としてはシロキサン結合をもつポリシロキサンであって、ポリエステル樹脂の水酸基などと反応する水酸基またはアルコキシ基などの官能基を有し、さらにメチル基、エチル基、フェニル基などの置換基をもっているものも用いられる。これらの具体例として、例えば「SH−6188」(メトキシ基含有、分子量600)、「SH−6018」(水酸基含有、分子量1,600)(これらはいずれも東レダウコーニングシリコーン(株)製、商品名);「TSR−160」(水酸基含有、分子量1,300)、「TSR−165」(メトキシ基含有、分子量650)(これらはいずれも東芝シリコーン(株)製、商品名)、KR218(信越化学(株)製、商品名)などの市販品を挙げることができる。ポリエステル樹脂とシリコン中間体との反応(脱水反応もしくは脱アルコール反応)は、両成分の合計量に基づいて、ポリエステル樹脂95〜40重量%、シリコン中間体5〜60重量%の割合で、公知の方法によって行なうことができる。
【0031】
水酸基含有シリコン変性アクリル樹脂は前記アクリル樹脂にシリコン中間体を反応させてなるものである。該シリコン中間体としては、上記水酸基含有シリコン変性ポリエステル樹脂の製造に用いられるシリコン中間体と同様のものが用いられる。アクリル樹脂とシリコン中間体との反応は両成分の合計量に基づいて、アクリル樹脂95〜40重量%、シリコン中間体5〜60重量%の割合で、公知の方法によって行なうことができる。
【0032】
前記水酸基含有フッ素樹脂は、前記水酸基含有アクリル樹脂の製造において、その他のモノマー成分の一部として、フッ素原子を有する重合性不飽和モノマーを使用して共重合させてなる樹脂である。上記フッ素原子を有する重合性不飽和モノマーとしては、ヘキサフルオロプロペン、テトラフルオロエチレン、モノクロロトリフルオロエチレン、ジクロロジフルオロエチレン、パーフルオロシクロヘキシルエチレン、フッ化ビニリデン、モノフルオロエチレン等のフルオロオレフィン;「ビスコート8F」、「ビスコート8FM」、「ビスコート3F」、「ビスコート3FM」(いずれも大阪有機化学(株)製、側鎖にフッ素原子を有する(メタ)アクリレート類)、パーフルオロシクロヘキシル(メタ)アクリレートなどのフッ素原子を有する(メタ)アクリレート類;などが挙げられる。共重合反応は、フッ素樹脂の公知の重合反応に基づいて行なうことができる。水酸基含有フッ素樹脂の市販品としては、例えば、ルミフロンシリーズ(旭硝子社製)、セフラルコートシリーズ(セントラル硝子社製)、ゼッフルシリーズ(ダイキン工業社製)、コータックス(東レ社製)などを挙げることができる。
【0033】
水酸基含有塗膜形成性樹脂は、メラミン樹脂架橋剤との架橋点となる水酸基を有することが必須であり、水酸基含有塗膜形成性樹脂の樹脂固形分の水酸基価は、硬化性、耐水性などの面から7〜180mgKOH/gであることが好ましく、7〜100mgKOH/gであることがさらに好適である。また水酸基含有塗膜形成性樹脂は、得られる塗膜物性、塗装作業性などの観点から数平均分子量約2,000〜33,000であることが好ましく、2,500〜30,000であることがさらに好適であり、得られる塗膜の硬度、加工性などの観点からガラス転移温度−25〜35℃、好ましくは−20〜25℃を有することが適している。
【0034】
本明細書において、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(東ソー(株)社製、「HLC8120GPC」)で測定したクロマトグラムから標準ポリスチレンの分子量を基準にして算出した値である。カラムは、「TSKgel G−4000HXL」、「TSKgel G−3000HXL」、「TSKgel G−2500HXL」、「TSKgel G−2000HXL」(いずれも東ソー(株)社製、商品名)の4本を用い、移動相;テトラヒドロフラン、測定温度;40℃、流速;1cc/分、検出器;RIの条件で行ったものである。また、本明細書において、ガラス転移温度(Tg)は、示差熱分析(DSC)によるものである。
【0035】
アミノ樹脂架橋剤
アミノ樹脂架橋剤は、上記水酸基含有塗膜形成性基体樹脂と架橋反応するアミノ樹脂であり、例えば、メラミン、尿素、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、スピログアナミン、ジシアンジアミド等のアミノ成分とアルデヒドとの反応によって得られるメチロール化アミノ樹脂が挙げられる。アルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド等が挙げられる。また、このメチロール化アミノ樹脂を1種又は2種以上のアルコールによってエーテル化したものも使用でき、エーテル化に用いられるアルコールの例としてはメチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、2−エチルブタノール、2−エチルヘキサノール等の1価アルコールが挙げられる。これらのうち、なかでもメチロール化メラミン樹脂やメチロール化メラミン樹脂のメチロール基の少なくとも一部を炭素原子数1〜4の一価アルコールでエーテル化してなるメラミン樹脂が好適である。
上記メラミン樹脂の市販品としては、例えばユーバン20SE−60、ユーバン225(いずれも三井化学社製、商品名)、スーパーベッカミンG840、同G821(いずれも大日本インキ化学工業社製、商品名)などのブチルエーテル化メラミン樹脂;スミマールM−100、同M−40S、同M−55(いずれも住友化学社製、商品名)、サイメル303、同325、同327、同350、同370(以上、いずれも三井サイテック社製、商品名)、ニカラックMS17、同MS15(いずれも三和ケミカル社製、商品名)、レジミン741(モンサント社製、商品名)等のメチルエーテル化メラミン樹脂;サイメル235、同202、同238、同254、同272、同1130(いずれも日本サイテックインダストリイズ社製、商品名)、スマミールM66B(住友化学社製、商品名)等のメチル化とイソブチル化との混合エーテル化メラミン樹脂;サイメルXV805(日本サイテックインダストリイズ社製、商品名)、ニカラックMS95(三和ケミカル社製、商品名)等のメチル化とn−ブチル化との混合エーテル化メラミン樹脂などを挙げることができる。
【0036】
アミノ樹脂架橋剤としては、なかでもメチルエーテル化メラミン樹脂、又はメチルエーテル化メラミン樹脂とブチルエーテル化メラミン樹脂との混合メラミン樹脂であることが、得られる塗膜における縮み形成性、加工性などの面から好適である。
【0037】
本発明における縮み形成用塗料において、上記水酸基含有塗膜形成性樹脂とアミノ樹脂架橋剤との配合割合は、両者の合計樹脂バインダの固形分100質量部に基き、水酸基含有塗膜形成性樹脂が60〜95質量部、好ましくは70〜90質量部であり、アミノ樹脂架橋剤が5〜40質量部、好ましくは10〜30質量部であることが、得られる塗膜の硬化性、機械的強度、加工性、耐溶剤性、耐食性、耐候性などの点から好ましい。
【0038】
前記縮み形成用塗料において、塗面に縮み模様を発生させるためには、有機スルホン酸と過剰当量となる量のアミン化合物との反応混合物を含有することが好適である。
【0039】
有機スルホン酸
上記有機スルホン酸は、前記樹脂バインダである水酸基含有塗膜形成性樹脂とアミノ樹脂架橋剤との硬化反応を促進する触媒である。有機スルホン酸としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸などが挙げられ、これらは単独で、又は2種以上混合して使用できる。有機スルホン酸の配合量は、反応促進効果及び得られる塗膜の加工性、耐水性などの観点から、前記樹脂バインダ100重量部に基き、0.1〜3.0質量部、好ましくは0.2〜2.5質量部、さらに好ましくは0.5〜2.0質量部であることが好適である。
【0040】
アミン化合物
上記有機スルホン酸とともに反応混合物を構成する前記アミン化合物は、沸点30〜250℃の2級又は3級のアミン化合物であり、上記有機スルホン酸を中和し、アミン塩を形成することによって、貯蔵中における有機スルホン酸の硬化触媒作用を抑制して塗料組成物の貯蔵安定性に寄与することができ、加熱硬化の際に、アミン化合物が蒸発してフリーのスルホン酸基を有する有機スルホン酸が再生し、硬化触媒として働く。
【0041】
沸点30〜250℃の上記アミン化合物としては、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジ−n−プロピルアミン、ジアリルアミン、ジアミルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジイソブチルアミン、ジ−sec−ブチルアミン、N−エチル−1,2−ジメチルプロピルアミン、N−メチルヘキシルアミン、ジ−n−オクチルアミン、ピペリジン、2−ピペコリン、3−ピペコリン、4−ピペコリン、2,4−,2,6−,3,5−ルペチジン、3−ピペリジンメタノールなどの第2級アミン;トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリアリルアミン、N−メチルジアリルアミン、N−メチルモルホリン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,2−ジアミノエタン、N−メチルピペリジン、ピリジン、4−エチルピリジンなどの第3級アミン;N−メチルピペラジンなどの第2級および第3級アミノ基を有するアミンなどの1種又は2種以上の混合物が挙げられる。これらのうち、特にジイソプロピルアミン、ジ−n−プロピルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジイソブチルアミンなどのジアルキルアミンが、低臭であること、初期の耐汚染性にも優れること、良好な塗膜外観を形成することから好ましい。
【0042】
アミン化合物の配合量は、有機スルホン酸のスルホン酸1当量に対して、1.5〜30当量、好ましくは2.0〜20当量、さらに好ましくは5〜15当量である。この量的範囲内であることによって、塗膜内部においてスルホン酸の硬化触媒作用の発揮が遅れ、塗膜表面が先に硬化することによって縮み模様の塗膜を形成でき、アミン化合物が揮散するとともに、塗膜内部においてスルホン酸の硬化触媒作用が効果的に発揮され、硬化性の良好な塗膜を得ることができる。
【0043】
前記縮み形成用塗料において、塗面に縮み模様を発生させるためには、有機スルホン酸と過剰当量となる量の2級又は3級のアミン化合物との反応混合物を含有することが好ましい。この反応混合物を塗料中に含有させるには、下記の(1)〜(3)の配合方法などによることができ、いずれの配合方法であってもよい。(1)スルホン酸1当量とアミン化合物1.5〜30当量との反応混合物を配合する方法、(2)スルホン酸および該スルホン酸に対して1.5〜30当量に相当する量の沸点30〜250℃のアミン化合物を別々に配合する方法、(3)上記(1)及び(2)の中間的な方法であって、スルホン酸と一部のアミン化合物との反応混合物と、残りのアミン化合物とを別々に配合する方法。
【0044】
上記(1)の方法における反応混合物は、スルホン酸1当量に対して上記アミン化合物1.5〜30当量を、例えば室温で混合することによって容易に得られるもので、スルホン酸とアミン化合物との塩と過剰量のアミン化合物との混合物である。上記(2)方法は、塗料化に際し、スルホン酸およびアミン化合物を別々に配合する方法であって、塗料中に両者を配合、撹拌することによって、スルホン酸とアミン化合物との塩が形成され、(1)の方法により反応混合物を配合した場合と同様に塗料中にスルホン酸とアミン化合物との塩およびアミン化合物が存在することになる。(3)の方法は、例えば、市販の有機スルホン酸触媒がアミン塩として供給される場合において、その市販の触媒であるスルホン酸アミン塩とアミン化合物を別々に配合する場合などが挙げられる。
【0045】
前記縮み形成用塗料において、有機樹脂微粉末を含有することが均一な縮み模様形成の観点から好適である。
【0046】
有機樹脂微粉末
有機樹脂微粉末は、前記縮み形成用塗料において必要に応じて配合されるものである。
【0047】
上記有機樹脂微粉末としては、平均粒子径0.2〜80μm、好ましくは3〜50μmを有する有機高分子微粒子であって、塗料の硬化時に溶融、流展せずに、硬化後においても粒子として存在し、塗面に凹凸を付与することができるものである。有機樹脂微粉末の樹脂種としては、ポリアミド樹脂(ナイロン11、ナイロン12など)、シリコン樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン三元共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン樹脂、メラミン樹脂、ポリプロピレン樹脂、フェノール樹脂などを挙げることができる。就中、ポリアミド樹脂、ポリアクリロニトリルが付着性、耐食性などの面から好適である。
【0048】
有機樹脂微粉末を配合する場合、その配合量は、樹脂バインダ100重量部に対して、0.5〜50質量部の範囲であり、好ましくは3〜30質量部の範囲であることが均一な縮み模様形成性、塗装作業性、塗膜の加工性などの観点から好適である。
【0049】
上記縮み形成用塗料は、樹脂バインダ、及び必要に応じて配合される有機スルホン酸とアミン化合物との反応混合物、有機樹脂微粉末の他に、着色顔料、シリカ微粒子などの体質顔料、無機質骨材、顔料分散剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、消泡剤や表面調整剤などの塗料添加剤、溶剤等従来から塗料に使用されている公知の材料も使用することができる。
【0050】
上記縮み形成用塗料は、前記の基材表面に、例えば、エアスプレー、エアレススプレー、静電回転霧化式塗装法、ロールコータ塗装法、カーテン塗装法などのそれ自体既知の方法によって塗装され、加熱硬化させることによって縮み下地塗膜層(A)を形成せしめることができる。縮み下地塗膜層(A)は、通常、硬化膜厚で約8〜約50μm、好ましくは約10〜約30μmの範囲内の厚さを有することができる。上記塗料の加熱硬化条件は、上記塗料が硬化する、温度−焼付時間条件の中から適宜設定できるが、コイルコーティングなどによって塗装するプレコート塗装分野においては、通常、素材到達最高温度160〜260℃で15〜90秒の範囲、特に200〜230℃で、30〜70秒の範囲が好適である。
【0051】
さらに縮み下地塗膜層(A)は、表面張力が33mN/m以下、好ましくは27mN/m〜33mN/m、さらに好ましくは27mN/m〜32mN/mであることが、この上に印刷されるインクの仕上り外観の面から好適である。表面張力は、樹脂バインダ、有機樹脂微粉末、その他の添加剤などの塗料組成及び塗膜の表面形態によって変化する。これらを適宜調整することによって、上記表面張力の範囲内とすることができる。
【0052】
本明細書において、「表面張力」(単位:mN/m)は、協和界面科学株式会社製、接触角計「CA−X150」を用いて20℃にて測定した、下地塗膜層における水との接触角及びパラフィンとの接触角から下記式(*1)により求めたものである。
【0053】
表面張力=γd+γp (1)
上記式(1)中、
γd=(26.4×(1+COSAp)2)/4
γp=〔{72.8×(1+COSAw)−2×(21.8×γd)0.5〕/204
を意味し、Apは、下地塗膜層とパラフィンとの接触角、Awは、下地塗膜層と水との接触角を表し、26.4はパラフィンの表面張力、72.8は水の表面張力、21.8は水の表面張力の分散成分を表す。
【0054】
また、縮み下地塗膜層(A)は、JIS B0601(1982)の「表面粗さの定義と表示」に規定される中心線平均粗さRaが、2.0〜10.0μm、好ましくは2.5〜6.0μmであり、凸凹の平均間隔Smが10〜150μm、好ましくは50〜110μmであることが、この上に印刷される印刷インクの仕上り外観、印刷インクやクリヤ塗膜との付着性の面から好適である。上記Ra及びSmは、水酸基含有塗膜形成性樹脂の水酸基価、有機スルホン酸とアミン化合物との反応混合物におけるアミン化合物の種類と量、有機スルホン酸の配合量、及び有機樹脂微粉末の種類と量などによって変化する。本明細書において、上記「Ra」及び「Sm」は、「サーフコム550A」(東京精密機器社製、表面粗度測定器)によって測定したものである。
【0055】
印刷層(B)の形成:
本発明に従えば、上記の如くして形成される縮み下地塗膜層(A)の上にインクによる印刷層(B)が形成される。インクによる印刷層の形成方法は、それ自体公知の方法を特に制限なく用いることができ、たとえば、シルクスクリーン方式、インクジェット方式、グラビア印刷方式などを挙げることができる。なかでもインクジェット方式を好適に用いることができる。インク組成物としては、文字、図形、模様、記号など又はこれらの組み合わせを印刷することがでるものであれば、特に制限なく有機溶剤型インク組成物、水性インク組成物のいずれも使用することができる。地球環境保全の面から水性インク組成物であることが好適である。
【0056】
上記水性インク組成物は、特に制限されるものではないが、顔料の濡れ性や分散安定性、さらには発色性などの観点から、好適なものとして、例えば、(a)3級アミノ基、4級アンモニウム塩基及びスルホン酸基から選ばれる少なくとも1 種のイオン性官能基を含有する重合性不飽和モノマー、(b)ポリオキシアルキレン鎖を有する非イオン性重合性不飽和モノマー及び(c)その他のエチレン性不飽和モノマーの共重合体である顔料分散用樹脂、顔料及び水性媒体を含有する水性インク組成物(1)を挙げることができる。
【0057】
以下、この好適な水性インク組成物についてさらに詳細に説明する。
【0058】
顔料分散用樹脂
印刷層(B)の形成のために好適に使用される水性インク組成物(1)に含有せしめられる顔料分散用樹脂は、以下に述べるイオン性官能基含有重合性不飽和モノマー(a)、ポリオキシアルキレン鎖を有する非イオン性重合性不飽和モノマー(b)及びその他のエチレン性不飽和モノマー(c)の共重合体である。
【0059】
イオン性官能基を含有する重合性不飽和モノマー(a):
モノマー(a)は、顔料分散用樹脂に特定のイオン性官能基を導入するためのモノマー成分であって、3級アミノ基、4級アンモニウム塩基及びスルホン酸基よりなる群から選ばれる少なくとも1種のイオン性官能基を含有する重合性不飽和モノマーが使用される。
【0060】
モノマー(a)の代表例としては、例えば、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロライド及び2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などが挙げられる。これらのモノマーは1種のみ又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0061】
ポリオキシアルキレン鎖を有する非イオン性重合性不飽和モノマー(b):
モノマー(b)は、形成される共重合体に親水性を付与するモノマー成分であり、1分子中に、ポリオキシアルキレン鎖と重合性不飽和基を有するモノマーである。上記ポリオキシアルキレン鎖としては、ポリオキシエチレン鎖、ポリオキシプロピレン鎖、ポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンとのブロック鎖などを挙げることができる。ポリオキシアルキレン鎖は、200〜3,000、特に300〜2,500の範囲内の分子量を有するのが好適である。
【0062】
モノマー(b)の代表例としては、例えば、下記式(2)
【0063】
【化1】

【0064】
(式中、R1は水素原子またはメチル基を表し、R2は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、mは4〜60、好ましくは6〜50の整数であり、nは2〜3の整数、好ましくは2である、ここでm個のオキシアルキレン単位(CnH2nO)は同じであっても又は互に異なっていてもよい)で示される化合物を挙げることができる。
【0065】
そのようなモノマー(b)の具体例としては、例えば、テトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、n−ブトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシテトラピロプレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシテトラプロピレングリコール(メタ)アクリレート、n−ブトキシテトラプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。これらの中、特に、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレートが好適である。これらはそれぞれ単独で又は2種以上組合わせて使用することができる。
【0066】
その他のエチレン性不飽和モノマー(c):
その他のエチレン性不飽和モノマー(c)は、以上に述べたモノマー(a)及びモノマー(b)と共重合可能な、これらモノマー(a)及びモノマー(b)以外の重合性不飽和モノマーであって、顔料分散用樹脂に望まれる特性などに応じて適宜選択して使用される。
そのようなモノマー(c)の具体例としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エ
チル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート等のC1〜C24直鎖状又は環状アルキル(メタ)アクリレートモノマー;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどの水酸基含有重合性不飽和モノマー(典型的にはヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマー);メタクリル酸、アクリル酸などのカルボキシル基含有重合性不飽和モノマー; アクリルアミド、メタクリルアミド;3−エチル−3−(メタ)アクリロイルオキシメチルオキセタン、3−メチル−3−(メタ)アクリロイルオキシメチルオキセタン、3−ブチル−3−(メタ)アクリロイルオキシメチルオキセタンなどのオキセタン環含有(メタ)アクリレート
;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどの芳香族ビニル化合物;(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニルなどを挙げることができる。これらの重合性不飽和モノマ
ーは1種のみ又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0067】
以上に述べたモノマー(a)、モノマー(b)及びモノマー(c)から形成される共重合体を顔料分散用樹脂として用いた水性インク組成物の被印刷面へのヌレ易さ、インクのノリ易さ、さらには硬化剤成分との反応性等の点から、上記モノマー(c)は、その成分の少なくとも一部として水酸基含有重合性不飽和モノマーを含有することが望ましい。
【0068】
また、該樹脂の水分散性を確保するため、親水性の前記モノマー(b)に加えて、さらに必要に応じて、上記その他のエチレン性不飽和モノマー(c)の少なくとも一部としてカルボキシル基含有重合性不飽和モノマーを用いることができる。
【0069】
さらに、形成される印刷層(B)の耐候性を向上させることを目的として、上記モノマ
ー(c)の少なくとも一部として、場合により、以下に述べる如き紫外線吸収性重合性不
飽和モノマー及び/又は紫外線安定性重合性不飽和モノマー(d)を使用することができる。
【0070】
上記紫外線吸収性重合性不飽和モノマーの代表例としては、例えば、(2’−ヒドロキシフェニル)−ベンゾトリアゾール構造と(メタ)アクリロイル基を有するもの、具体的には、上記で例示した2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールなどを挙げることができる。
【0071】
また、紫外線安定性重合性不飽和モノマーの代表例としては、例えば、4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジンなどを挙げることができる。
【0072】
上記顔料分散用樹脂は、以上に述べたイオン性官能基を含有する重合性不飽和モノマー(a)、非イオン性重合性不飽和モノマー(b)及びその他のエチレン性不飽和モノマー(c)を共重合することによって得られる。共重合に際してのモノマー(a)、(b)及び(c)の使用割合は厳密に制限されるものではなく、形成される共重合体に望まれる物性等に応じて変えることができるが、一般には、モノマー(a)、(b)及び(c)の合計量を基準にして下記の範囲内とすることができる。
【0073】
モノマー(a): 0.5〜40重量% 、好ましくは1〜35重量%、さらに好ましくは1.5〜30重量%、
モノマー(b):5〜40重量%、好ましくは7〜35重量%、さらに好ましくは10〜25重量%、
モノマー(c):20〜94.5重量%、好ましくは30〜92重量%、さらに好ましくは45〜88.5重量%。
【0074】
特に、モノマー(c)の一部として紫外線吸収性重合性不飽和モノマー及び/又は紫外線安定性重合性不飽和モノマー(d)を使用する場合には、モノマー(a)、(b)、(c)の合計量を基準にして、モノマー(d)が、0.1〜5重量%、好ましくは0.5〜3重量% 、さらに好ましくは1〜2.5重量%であることが好適である。
【0075】
モノマー(a)、(b)及び(c)の共重合は、それ自体既知の方法、例えば、有機溶媒中での溶液重合法、水中でのエマルション重合法などの方法により行なうことができるが、なかでも溶液重合法が好適である。
【0076】
顔料分散樹脂の分子量は、特に制限されるものではないが、水分散安定性、顔料分散性、粘度、有機溶剤含有量、樹脂の色数(着色度)などの面から、通常、重量平均分子量で500〜100,000、特に1,000〜70,000、さらに特に3,000〜50,000の範囲内にあることが好ましい。
【0077】
印刷層(B)の形成に好適に用いられる水性インク組成物(1)は、上記した顔料分散用樹脂などの顔料分散用樹脂に、顔料、水性媒体、及び必要に応じて、分散助剤、塩基性中和剤、その他の添加剤、例えば、消泡剤、防腐剤、防錆剤、可塑剤、水溶性樹脂、増粘剤、流動調整剤、造膜助剤、界面活性剤、pH調整剤、防カビ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、キレート化剤等の添加剤、さらには染料類を配合することによって調製することができる。
【0078】
上記顔料としては、例えば、アルミニウム粉、銅粉、ニッケル粉、ステンレス粉、クロム粉、雲母状酸化鉄、酸化チタン被覆マイカ粉、酸化鉄被覆マイカ粉、光輝性グラファイト等の光輝性顔料;ピンクEB、アゾ系やキナクリドン系等の有機赤系顔料、シアニンブルー、シアニングリーンなどの有機青系顔料、ベンゾイミダゾロン系、イソインドリン系及びキノフタロン系等の有機黄色系顔料;チタン白、チタンイエロー、ベンガラ、カーボンブラック、黄鉛、酸化鉄、及び各種焼成顔料等の無機着色顔料等が挙げられる。また、体質顔料を含んでもよい。これらの顔料は、それ自体既知の表面処理、例えば酸・塩基処理、カップリング剤処理、プラズマ処理、酸化/還元処理などが施されたものであってもよい。
【0079】
これらの顔料の配合割合は、特に制限されるものではないが、通常、顔料分散用樹脂100質量部あたり、10〜3,000質量部、特に15〜2,000質量部、さらに特に15〜1500質量部の範囲内にあることが、顔料分散性、分散安定性、得られる顔料分散体の着色力などの面から好ましい。
【0080】
上記水性インク組成物(1)に必要に応じて配合される紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系、サリシレート系、蓚酸アニリド系などの化合物を挙げることができ、紫外線安定剤としては、ヒンダードアミン系化合物などを挙げることができる。
【0081】
上記水性インク組成物(1)は、以上に述べた各成分を、例えば、ペイントシェイカー、スキャンディクス、LMZミル、DCPパールミルなどの分散機を用いて均一に混合、分散させることにより調製することができる。
【0082】
かくして調製される上記水性インク組成物は、その中に含まれる分散粒子の平均粒子径が1〜300nm、特に1〜200nmの範囲内にあることが好ましく、また、インク液の粘度は、1.0〜10mPa・s、特に1.5〜7mPa・sの範囲内にあることが好ましい。
【0083】
本発明印刷物において、印刷層は、従来公知の種々の印刷方法により形成することができるものである。印刷層をインクジェット描画方式により、基材面上に形成された前記下地塗膜層(A)上に形成する場合には、インクジェット描画は、ピエゾインクジェット方式や、熱インクジェット方式等、従来公知のいずれの方式によって行なってもよい。また、通常のインクジェット描画装置はもちろん、インクの乾燥を制御するためのヒーター等を搭載した描画装置、または、中間体転写機構を搭載し、中間体に記録材料を印字した後、紙等の記録媒体に転写する記録装置、壁面、屋外看板等に直接描画する自動描画装置などを用いて印刷層(B)を形成することができる。
【0084】
印刷層(B)を、上記の如きインクジェット描画方式に従い形成させる場合には、通常、基本原色である赤、青、黄、黒の4色の各専用ノズルを有するヘッドを用いて、所望の図柄や文字等を描画することにより形成させることができる。
【0085】
形成される印刷層(B)は、通常、乾燥膜厚で約0.01〜約10μm、特に約0.01〜約5μmの範囲内の薄膜層とすることができる。
【0086】
形成される印刷層(B)は、必要に応じて風乾、ホットエア吹き付けなどによって指触乾燥、半硬化又は加熱硬化され、その上にクリヤ塗料を用いてクリヤコート層(C)が形成せしめられる。
【0087】
クリヤコート層(C)の形成:
印刷層(B)の上に塗布されるクリヤ塗料は、印刷層(B)を保護し、さらに印刷層(B)が全面に形成されていない場合には、下地塗膜層(A)をも保護するためのものであり、耐候性の良いクリヤ塗料であれば、有機溶剤型塗料、水系塗料、粉体塗料など制限なく使用することができる。該塗料に用いられる基体樹脂成分としては、例えば、アクリル樹脂系、ポリエステル樹脂系、アルキド樹脂系、シリコーン変性アクリル樹脂系、シリコーン変性ポリエステル樹脂系、シリコーン樹脂系、フッ素樹脂系などの種々の樹脂が挙げられ、これらの樹脂は1種で又は2種以上を組合せて使用することができる。また、必要に応じて、ポリイソシアネート化合物、アミノ樹脂、エポキシ基含有化合物、カルボキシル基含有化合物などの架橋剤を併用することもできる。
【0088】
これらの塗料は常温硬化型もしくは熱硬化型のいずれであってもよく、また、紫外線や電子線などの活性光線によって硬化するものであってもよい。なかでも、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、シリコーン変性アクリルポリオール及びシリコーン変性ポリエステルポリオールから選ばれる水酸基含有樹脂とブロックされていてもよいポリイソシアネート化合物の組み合わせを樹脂成分として含んでなるウレタン硬化型のクリヤ塗料や、紫外線硬化性のアクリル樹脂などをベースとする紫外線硬化型のクリヤ塗料が好適である。
【0089】
また、クリヤ塗料は、耐候性の点から、紫外線吸収剤及び/又は紫外線安定剤を含有するものであることが望ましい。該紫外線吸収剤及び紫外線安定剤としては、前記好適な水性インク組成物の説明で列記したものを使用することができ、また、それらの配合量は、通常、塗料中の樹脂固形分100重量部に対して0.1〜5重量部の範囲内とすることができる。
【0090】
上記クリヤ塗料は、それ自体既知の方法、例えば、エアスプレー、エアレススプレー、
静電回転霧化式塗装法、ロールコータ塗装法、カーテン塗装法などの方法によって塗装することができる。クリヤコート層(C)の厚さは、通常、乾燥膜厚で約10〜約50μm、好ましくは約20〜約45μmの範囲内とすることができる。
【0091】
上記クリヤ塗料の硬化条件は、上記塗料が硬化する条件から適宜設定できる。上記クリヤ塗料が、熱硬化型である場合、温度−焼付時間条件の中から適宜設定できるが、コイルコーティングなどによって塗装するプレコート塗装分野においては、通常、素材到達最高温度160〜260℃で15〜90秒の範囲、特に200〜230℃で、30〜70秒の範囲が好適である。
【実施例】
【0092】
以下、製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、特に断らない限り「部」及び「% 」は、それぞれ「重量部」及び「重量% 」を意味する。
【0093】
下地塗膜層形成用塗料の製造
製造例1〜13
下記表1に示す組成配合にて、塗料化を行ない各下地塗膜層形成用塗料を得た。
【0094】
なお、表1における基体樹脂、架橋剤の量は固形分質量による表示であり、(注7)乃至(注10)の硬化触媒(アミン中和)の量は有効成分量(スルホン酸化合物とアミン化合物との和)による表示である。なお、各各下地塗膜層形成用塗料の塗料化に際しては、チタン白顔料の分散を行ない、また、シクロヘキサノン/スワゾール1500(丸善石油(株)製、芳香族石油系高沸点溶剤)=60/40(重量比)の混合溶剤を粘度調整などのために使用した。
【0095】
【表1】

【0096】
なお、表1における註は下記のとおりである。
(注1)バイロンKS−1430V:東洋紡績(株)製、ポリエステル樹脂、樹脂の数平均分子量12000、水酸基価11mgKOH/g、Tg点1℃。
(注2)バイロンKS−1520V:東洋紡績(株)製、ポリエステル樹脂、樹脂の数平均分子量6400、水酸基価約42mgKOH/g、Tg点2℃。
(注3)バイロンKS−1660V:東洋紡績(株)製、ポリエステル樹脂、樹脂の数平均分子量2700、水酸基価98mgKOH/g、Tg点12℃。
(注4)サイメル303:日本サイテックインダストリイズ(株)製、低分子量メチル化メラミン樹脂。
(注5)ニカラックMS95:三和ケミカル社製、低核体メチルエーテル、ブチルエーテルの混合エーテル化メラミン樹脂。
(注6)ユーバン20SE−60:三井化学社製、ブチルエーテル化メラミン樹脂。
(注7)DNBA−DDBSA:ジ−n−ブチルアミン/ドデシルベンゼンスルホン酸=10/1(モル比)中和物。
(注8)DIPA−DDBSA:ジイソプロピルアミン/ドデシルベンゼンスルホン酸=10/1(モル比)中和物。
(注9)TEA−DDBSA:トリエチルアミン/ドデシルベンゼンスルホン酸=10/1(モル比)中和物。
(注10)ネイキュア5225:米国キング・インダストリーズ製、ドデシルベンゼンスルホン酸の第2級アミン中和物のイソプロパノール溶液。アミン/DDBSAの中和度は約1.1(モル比)。有効成分約33重量%で、うち、アミン/DDBSA(質量比)は約8/25。
(注11)オルガソール2002ES3:仏国、アト・シミー社製、平均粒子径約30μmのナイロン12微粒子。
(注12)タフチックA−20:東洋紡績(株)製、商品名、平均粒子径約18μmのポリアクリロニトリル樹脂微粒子、
(注13)TEXTURE5378:シャムロックケミカル社製、平均粒子径約25μmのポリプロピレン微粒子。
(注14)サイロイド161W:GRACE GMBH社製、商品名、有機処理されたシリカ微粉末、吸油量170ml/100g。
【0097】
顔料分散用樹脂(I)の製造
製造例14
撹拌機、温度計、還流冷却管を備えた通常のアクリル樹脂反応槽に、エチレングリコールモノブチルエーテル38部、イソブチルアルコール12部を仕込み、加熱撹拌して110℃に保持した。この中に、メチルメタクリレート48.5部、n−ブチルアクリレート20部、2−(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロライド5部、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール1.5部、2−ヒドロキシエチルアクリレート5部、「NFバイソマーS2 0W」(第一工業製薬(株)製、商品名、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレートの50%水希釈品、分子量約2080)40部、アゾビスイソブチロニトリル1部及びイソブチルアルコール20部からなる混合物を3時間かけて滴下した。滴下終了後、110℃で30分間熟成し、次にエチレングリコールモノブチルエーテル10部及びアゾビスイソブチロニトリル0.5部からなる追加触媒混合液を1時間かけて滴下した。ついで110℃で1時間熟成したのち冷却し、固形分50%の顔料分散用樹脂溶液(I)−1を得た。
【0098】
製造例15及び16
上記製造例14において、後記表1に示す配合とする以外は製造例14と同様の操作を行い、顔料分散用樹脂溶液(I)−2及び(I)−3を得た。これらの顔料分散用樹脂溶液の固形分、及び顔料分散用樹脂の樹脂酸価等を下記表2に示す。尚、表2において「NFバイソマーS20W」の量は固形分量を示す。
【0099】
【表2】

【0100】
水性インクの作成
製造例17〜20
前記製造例14〜16で得た固形分50%の各顔料分散用樹脂溶液、顔料、「BYK−028」(BYK−Chemie社製、商品名、シリコーン系消泡剤)、イソプロパノール、グリセリン及び脱イオン水を、下記表3に示す組成配合にて容量225ccの広口ガラスビン中に入れ、分散メジアとして直径約1.3mmφのガラスビーズを加えて密封し、ペイントシェイカーにて4時間分散して各水性インクNo.1〜4を得た。
【0101】
また、市販の「BCI−31e」(キャノン社製、インクジェット用インク)の青、赤、
黄、黒の各色のインクを水性インクNo.5〜8とする。
【0102】
【表3】

【0103】
実施例1
〔下地塗膜層(A)の形成〕
厚さ0.5mmのリン酸亜鉛処理電気亜鉛メッキ鋼板上に、関西ペイント社製KPカラー8620プライマー(プレコート鋼板用ポリエステル系プライマ)を乾燥膜厚が5μmとなるよう塗装し、素材到達最高温度220℃となるよう45秒間焼付け、プライマー塗装鋼板を得た。このプライマー塗装鋼板上に、前記製造例1で得た下地塗膜層形成用塗料(縮み形成用塗料)を下記のように粘度調整し、バーコータにて乾燥膜厚が約18μmとなるよう塗装し、素材到達最高温度が230℃となるよう60秒間焼付けて下地塗膜層(A)を形成した。塗装に際しては、シクロヘキサノン/スワゾール1500(丸善石油(株)製、芳香族石油系高沸点溶剤)=60/40(重量比)の混合溶剤を用い塗料粘度をフォードカップ#4で約100秒(25℃)に調整した。
【0104】
得られた下地塗膜層(A)の表面張力、中心線平均粗さRa、凸凹の平均間隔Smを後記表4に記載する。
【0105】
〔印刷層(B)及びクリヤコート層(C)の形成〕
得られた下地塗膜層(A)の上に、製造例17〜20で得た水性インクNO.1〜4を用いてインクジェット方式による自動塗装機「ミケランジェロV7」((株)エルエーシー製)により、ブース湿度70%にて塗装・印字して印刷層を形成し、室温で10分間乾燥させた後、印刷層の上に2液型アクリルウレタン系有機溶剤型クリヤ塗料「レタンPG2Kクリヤー」(関西ペイント社製、紫外線吸収剤を含む)を乾燥膜厚で30〜40μmとなるようにエアスプレー塗装し、60℃で20分間乾燥させてインクジェット印刷物を得た。
【0106】
実施例2〜10及び比較例1〜3
実施例1において、下地塗膜層(A)の形成に用いる製造例1で得た下地塗膜層形成用塗料(縮み形成用塗料)の代わりに、後記表4に示す塗料を使用する以外は、実施例1と同様の操作を行なってインクジェット印刷物を得た。
【0107】
実施例11
実施例1において、印刷層の形成に用いる水性インクを水性インクNO.5〜8とする以外は実施例1と同様の操作を行なってインクジェット印刷物を得た。
【0108】
後記表4において、印刷層(B)形成前の塗装板について、下地塗膜層の縮み状態、下地塗膜層における表面張力、中心線平均粗さRa、及び凸凹の平均間隔Smは、下記の方法により評価、測定した。
【0109】
下地塗膜層の縮み状態:目視により下地塗膜層の縮み状態を下記基準により評価した。
○:均一で良好な縮み状態、 △:縮みがみられるが、均一ではなく、やや不良、
×:縮みがみられない。
【0110】
表面張力:協和界面科学株式会社製、接触角計「CA−X150型接触角計」にて20℃にて測定した、下地塗膜層における水との接触角及びパラフィンとの接触角から、前記式(1)により表面張力(単位:mN/m)を算出した。
【0111】
中心線平均粗さRa:東京精密機器社製、表面粗度測定器「サーフコム550A」で測定した中心線平均粗さ(Ra)
凸凹の平均間隔Sm:東京精密機器社製、表面粗度測定器「サーフコム550A」で測定した平均間隔(Sm)。
【0112】
上記各実施例及び比較例で得たインクジェット印刷物について、下記の方法に従い印字適性及び耐水性試験を実施し評価した。その結果を後記表4に示す。
【0113】
(*1)印字適性:各インクジェット印刷物のクリヤ塗料塗装前の印字状態(ドットの形状)及びインクの色について評価した。
・印字状態については、クリヤ塗料塗装前のインクジェット印刷物をマイクロスコープにより観察し下記基準により評価した。
◎:インクの滲みがない、
○:インクの滲みが僅かに認められるが良好、
△:インクの滲みがかなり認められる、
×:インクの滲みが多く認められる。
【0114】
(*2)耐水性:各インクジェット印刷物を脱イオン水に常温で24時間浸漬し、印字面の滲み具合を下記基準により目視評価した。
◎:インクの滲みがない、
○:インクの滲みが僅かに認められるが良好、
△:インクの滲みがかなり認められる、
×:インクが滲滲んで印字面の像が崩れた状態。
【0115】
(*3)耐水密着性:各インクジェット印刷物を脱イオン水に40℃で5日間(60℃で5日間)浸漬した後、JIS K5400 8.5.2(1990)に準じて、塗膜にナイフを使用して、素地に達するよう約1mm幅で縦、横それぞれ11本の切り目を碁盤目に入れ、ついで、その表面にセロハン粘着テープを密着させ、瞬時に剥がした後の塗膜状態を下記基準により評価した。
◎:全く剥離、塗膜の欠けが認められない、
○:碁盤目の縁に僅かに欠けがみられる、
△:碁盤目100個のうち、1〜5個が剥離する、
×:碁盤目100個のうち、6個以上が剥離する。
【0116】
また、実施例1で得たインクジェット印刷物について、キセノンウエザォメーターにて600時間試験に供し、試験前後の塗板の色差ΔEを「カラービュー分光色彩計」(BYK−Chemie社製)によって測色し、耐候性を評価した。その結果、ΔE値は、各色において、青が1.5、赤が2.0、黄が3.0、黒が0.2といずれも小さく、耐候性が良好でった。
【0117】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材面上に、下地塗膜層(A)、該下地塗膜層(A)上にインクによる印刷層(B)が形成され、さらにその上にクリヤコート層(C)が形成されてなる印刷物において、該下地塗膜層(A)が、水酸基含有塗膜形成性樹脂とアミノ樹脂架橋剤とを含有する樹脂バインダを含有する縮み形成用塗料を塗装、硬化させてなり、かつ表面張力33mN/m以下の縮み下地塗膜層であることを特徴とする印刷物。
【請求項2】
縮み形成用塗料が、樹脂バインダ100質量部に対して、有機スルホン酸0.1〜3.0質量部と、該有機スルホン酸1当量に対して1.5〜30当量となる量の沸点30〜250℃の2級又は3級のアミン化合物との反応混合物を含有することを特徴とする請求項1記載の印刷物。
【請求項3】
前記水酸基含有塗膜形成性樹脂が、水酸基価3〜200mgKOH/g樹脂であるポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項1又は2記載の印刷物。
【請求項4】
前記アミノ樹脂架橋剤が、メチルエーテル化メラミン樹脂、又はメチルエーテル化メラミン樹脂とブチルエーテル化メラミン樹脂との混合メラミン樹脂である請求項1〜3のいずれか一項に記載の印刷物。
【請求項5】
前記縮み形成用塗料が、さらに平均粒子径0.2〜80μmの有機樹脂微粉末を、樹脂バインダ100質量部に対して、0.5〜50質量部含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の印刷物。
【請求項6】
上記下地塗膜層(A)の中心線平均粗さRaが2.0〜10.0μm、凸凹の平均間隔Smが10〜150μmである請求項1〜5のいずれか一項に記載の印刷物。
【請求項7】
基材面上に、表面張力33mN/m以下で、かつ中心線平均粗さRaが2.0〜10.0μm、凸凹の平均間隔Smが10〜150μmである縮み下地塗膜層(A1)、該下地塗膜層上にインクによる印刷層(B)が形成され、さらにその上にクリヤコート層(C)が形成されてなる印刷物における縮み下地塗膜層(A1)の形成に用いられる塗料であって、水酸基含有塗膜形成性樹脂とアミノ樹脂架橋剤とを含有する樹脂バインダを含有し、かつ樹脂バインダ100質量部に対して、有機スルホン酸0.1〜3.0質量部と、該有機スルホン酸1当量に対して1.5〜30当量となる量の沸点30〜250℃の2級又は3級のアミン化合物との反応混合物及び平均粒子径0.2〜80μmの有機樹脂微粉末0.5〜50質量部を含有する縮み形成用塗料。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のインクジェット印刷物の形成に用いられる下地塗膜層(A)が形成された基板。

【公開番号】特開2008−68453(P2008−68453A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−247255(P2006−247255)
【出願日】平成18年9月12日(2006.9.12)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】