説明

可変剛性機構及びロボット

【課題】小型の機構で安全性と制御性能を両立できるようにするとともに、最も剛性を高くした状態での剛性を非常に高くすることができる可変剛性機構及びロボットを提供する。
【解決手段】固定部材と、収縮量によってばね定数が変化する非線形ばねと、固定部材との位置を非線形ばねによって支持される支持部材と、非線形ばねに力を加えて非線形ばねの収縮量を変化させる加圧部材と、加圧部材の位置を動かすための剛性調節アクチュエータとを有し、支持部材は、少なくとも1つの突起部を備え、突起部はそれぞれ非線形ばねによって挟まれており、剛性調節アクチュエータは固定部材と加圧部材との位置を変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機構的にばね剛性を可変とすることにより本質安全性と制御性能を両立する可変剛性機構とそれを用いたロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
産業用や家庭用など、ロボットが人間と同じ環境に共存して作業ができるようにしたいという要望は常にあった。しかし、従来の産業用ロボットは、人が衝突した際の衝撃が大きく、危険であるため、防護柵で囲われて人間が可動範囲内に進入しないようにして用いられてきた。
【0003】
従来のロボットが危険である原因の一つに、減速機の問題がある。一般的なロボットは、減速機を用いてモータのトルクを増幅して関節を駆動している。
ところが、ロボット関節に減速機を用いると、ロボットが意図せず周囲に衝突した際の衝撃が大きくなる。
また、減速機の歯車等の摩擦でロボット関節のバックドライバビリティが低くなることによる。バックドライバビリティが低ければ、ロボットのアームリンク側から力が加わっても関節が動かず、衝撃力が緩衝されない。この結果、周囲の環境に衝突した際に被衝突物に与える衝撃が大きくなることが考えられる。
かかる技術課題を解決するために、ロボットの関節に柔軟な機構を備え、安全性を高める研究がなされてきた(例えば、特許文献1参照)。これを直列弾性機構とよぶ。
【0004】
特許文献1では、弾性部材の後に増速機構を備えることで、指令応答速度性能を上げようとしている。
また、直列弾性機構の弾性要素のばね剛性を変えられるような機構として、加減速時には剛性を高くし、等速動作時や停止時には剛性を低くするなどして、安全性と制御性能を両立させようとするものもある(例えば、特許文献2参照)。これを可変剛性機構とよぶ。
このように、減速機とアームリンクとの間に環状ばねを備えることで安全性を高め、その後に増速機構を備えることで、指令応答速度性能を上げるのである。また、従来の可変剛性機構は、ボールねじによる非線形弾性機構を複数組み合わせたパラレル機構として関節の剛性を変えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−55541号公報(第26頁、図5)
【特許文献2】特開2006−250296号公報(第14頁、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の直列弾性機構は、環状ばねを用いることにより小型の機構で関節を柔軟にできるために安全性が高められるものの、ばねがほぼ線形となっている上、剛性を変えるアクチュエータも備えておらず、剛性を変えることができないので、前述のように、たわみによってアームの位置が想定した位置とずれたり、モータでアームリンクを動かす際、動作に遅れが生じ、低い周波数の共振が発生しやすくなり、アームの位置や速度の制御帯域が低くなってしまうという課題があった。
【0007】
増速機構を備えることで、指令応答速度性能を上げたとしても、この問題を根本的に解決することはできず、通常の剛性の高い産業用ロボット等と比べると、要望されるレベルの制御性能は実現できないという課題があった。また、環状ばねの変形が頻繁に起こるので、金属疲労により破断しやすいことが考えられる。
【0008】
また、従来の可変剛性機構は、一般に、関節を駆動するためのモータと別に剛性を調節するためのアクチュエータが必要であり、その分、機構が大型化しやすいという課題もある。
また、特許文献2の技術では、パラレル機構となっており、剛性調節モータと関節駆動モータの区別がなく、同じ種類のモータを2つ用いているため比較的小型化できているが、このような機構で剛性の高い状態を維持する場合、複数のモータが拮抗するトルクを発生し続ける必要があり、エネルギーを無駄に浪費するという課題がある。
【0009】
また、パラレル機構となっているために、関節の可動範囲が小さいという課題もある。即ち、弾性変形の量は小さくても構わないが、関節の可動範囲は大きくすることが求められている。また、非線形ばねにより剛性が変えられるとしても、その剛性の最大値は通常の剛性の高い産業用ロボット等と比べると低く、要望されるレベルの制御性能は実現できないという課題があった。
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、小型の機構で安全性と制御性能を両立できるようにするとともに、最も剛性を高くした状態での剛性を非常に高くすることができる可変剛性機構及びロボットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、次のように構成したのである。
請求項1に記載の発明は、固定部材と、収縮量によってばね定数が変化する非線形ばねと、前記固定部材との位置を前記非線形ばねによって支持される支持部材と、前記非線形ばねに力を加えて前記非線形ばねの収縮量を変化させる加圧部材と、前記加圧部材の位置を動かすための剛性調節アクチュエータとを有し、
前記支持部材は、少なくとも1つの突起部を備え、前記突起部はそれぞれ前記非線形ばねによって挟まれており、前記剛性調節アクチュエータは前記固定部材と前記加圧部材との位置を変化させるものである。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、前記非線形ばねは、巻きピッチが一定でないコイルばねであるとするものである。
また、請求項3に記載の発明は、前記非線形ばねは、複数の弾性素材を重ね合わせたものであるものである。
また、請求項4に記載の発明は、前記非線形ばねは、永久磁石の同極どうしを向きわせて配置したものであるとするものである。
【0012】
また、請求項5に記載の発明は、前記支持部材は、前記駆動モータの固定子または前記関節駆動モータの回転子であるとするものである。
また、請求項6に記載の発明は、前記支持部材は、前記関節駆動モータの固定子または前記関節駆動モータの回転子に固定されているとするものである。
また、請求項7に記載の発明は、前記剛性調節アクチュエータによって回転させられるボールねじを備え、前記ボールねじによって前記加圧部材が前記固定部材に対して直線動するとするものである。
【0013】
また、請求項8に記載の発明は、前記固定部材は円筒穴を備え、前記支持部材または前記加圧部材のうちの少なくともいずれかは前記円筒穴に内接して回転支持されるものである。
また、請求項9に記載の発明は、前記固定部材または前記支持部材または前記加圧部材のうちの少なくともいずれかはシャフトを備えており、前記固定部材および前記支持部材および前記加圧部材は、前記シャフト周りに回転可能に支持されているとするものである。
また、請求項10に記載の発明は、前記剛性調節アクチュエータによって回転させられるウォームギアを備え、前記ウォームギアによって前記加圧部材が前記固定部材に対して前記シャフト周りに回転するとするものである。
【0014】
また、請求項11に記載の発明は、前記シャフトは中空であるとするものである。
また、請求項12に記載の発明は、前記剛性調節アクチュエータによって回転させられる傘歯車を備え、前記傘歯車によって前記加圧部材が前記固定部材に対して前記シャフト周りに回転するとするものである。
また、請求項13に記載の発明は、前記剛性調節アクチュエータによって回転させられるハイポイドギアを備え、前記ハイポイドギアによって前記加圧部材が前記固定部材に対して前記シャフト周りに回転するとするものである。
【0015】
また、請求項14に記載の発明は、前記シャフトの回転軸はロボットの関節軸に一致するとするものである。
また、請求項15に記載の発明は、前記突起部はクラッチ面を備え、前記剛性調節アクチュエータが前記固定部材と前記加圧部材との位置を変化させたとき、その可動範囲の少なくとも一方の端の位置で前記クラッチ面との接触により前記固定部材と前記支持部材が固定されたクラッチ状態となるとするものである。
また、請求項16に記載の発明は、固定部材と、収縮量によってばね定数が変化する非線形ばねと、前記固定部材との位置を前記非線形ばねによって支持される支持部材と、前記非線形ばねに力を加えて前記非線形ばねの収縮量を変化させる加圧部材と、前記加圧部材の位置を動かすための剛性調節アクチュエータとを有し、前記固定部材と前記支持部材が固定されたクラッチ状態と解放されたばね支持状態を切り替えるクラッチを備えたものである。
【0016】
また、請求項17に記載の発明は、前記ロボットの関節の加減速時にはクラッチ状態とし、停止時または一定速時にはばね支持状態とするものである。
また、請求項18に記載の発明は、前記剛性調節アクチュエータは、位置制御とトルク制御を切替可能なサーボアクチュエータであり、前記サーボアクチュエータは、前記ばね支持状態では位置制御され、前記クラッチ状態ではトルク制御されるものである。
また、請求項19に記載の発明は、前記剛性調節アクチュエータは、前記クラッチ状態ではトルクの発生を停止するものである。
また、請求項20に記載の発明は、前記剛性調節アクチュエータを制御する剛性調節コントローラを備え、前記剛性調節コントローラは、前記加圧部材の位置と前記非線形ばねのばね剛性との関係式を保有しており、前記ばね支持状態の時に所望のばね剛性となるように剛体調節アクチュエータの位置を制御するものである。
また、請求項21に記載の発明は、アームと、前記アームを動作させる駆動モータと、
請求項1〜20のいずれか1項に記載の可変剛性機構と、を有していることを特徴とするロボットである。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載の発明によると、小型の機構で可変剛性機構を実現でき、安全性と制御性能を両立できる。
また、請求項2に記載の発明によると、容易に製作または入手可能な部品を使って可変剛性機構を実現することができる。
また、請求項3に記載の発明によると、任意のばね特性や粘性特性が容易に実現でき、容易に製作または入手可能な部品を使って故障時にも安全性の高い可変剛性機構を実現することができる。
また、請求項4に記載の発明によると、ばね部が非接触で実現でき、高精度で低摩擦で支持することができ、容易に製作または入手可能な部品を使って故障時にも安全性の高い可変剛性機構を実現することができる。
【0018】
また、請求項5に記載の発明によると、部品点数を減らして製造のコストや作業工数を減らすことができ、機構も小型軽量化できる。
また、請求項6に記載の発明によると、支持部材を介すことで汎用性を高めることができ、各種アクチュエータに取付けて使用でき、部品が共通化できる。
また、請求項7に記載の発明によると、容易に製作または入手可能な部品を使って可変剛性機構を実現することができる。
また、請求項8に記載の発明によると、可変剛性機構を軸方向に小型化することができ、軽量化できる。
【0019】
また、請求項9に記載の発明によると、固定部材や支持部材や加圧部材の突起部などばね力の加わる面を回転軸を含む平面などに固定することができ、小型の機構でばねの変形に対してのストロークを大きくできる。
また、請求項10に記載の発明によると、容易に製作または入手可能な部品を使って、小型の機構で加圧部材を動かすことができ、保持トルクも小さくでき、消費電力を抑えられる。
また、請求項11に記載の発明によると、中空シャフトの中に電力線やエンコーダやコントローラの通信線やエアアクチュエータのエアや液冷のための液体を供給するチューブなどの配線を通すことができ、ロボット関節等への組み込みが容易になる。
また、請求項12に記載の発明によると、加圧部材の回転軸と垂直方向にモータの駆動軸を配置でき、加圧部材の回転軸方向に小型化でき、ロボット関節等への組み込みが容易になる。
【0020】
また、請求項13に記載の発明によると、加圧部材の回転軸と垂直方向で中央よりずれた位置にモータの駆動軸を配置でき、機構部を干渉しにくくでき、加圧部材の回転軸方向に小型化でき、ロボット関節等への組み込みが容易になり、小型で高減速比を得ることができ、保持トルクも小さくでき、消費電力を抑えられる。
また、請求項14に記載の発明によると、ロボットアームに外力を受けた際に可変剛性機構が効果的に働いて柔軟にばね支持でき、安全性が高められる。
また、請求項15に記載の発明によると、剛性調節アクチュエータとクラッチのアクチュエータを別々に用意することなくばね支持状態でのばね剛性の操作とクラッチの操作を1つのアクチュエータで実現することができ、コストが安くでき、小型軽量化できる。
【0021】
また、請求項16
に記載の発明によると、剛性調節アクチュエータとクラッチのアクチュエータをそれぞれに適した設計にしてそれぞれの性能を高めることができ、消費電力を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態を示す可変剛性機構の正面図および側断面図
【図2】本発明の第1実施形態を示す可変剛性機構の各部品の斜視図
【図3】本発明の第1実施形態の動作を示す可変剛性機構の正面図
【図4】本発明の第1実施形態の可変剛性機構を組み込んだロボット関節の正面図
【図5】本発明の実施形態の非線形ばねの例を示す可変剛性機構の正面図
【図6】本発明の実施形態の可変剛性機構を用いたロボット関節の構成を示す模式図
【図7】本発明の第1実施形態の非線形ばねの特性を示すグラフ
【図8】本発明の第1実施形態の可変剛性機構のばね剛性特性を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【実施例1】
【0024】
図1(a)は、本発明の可変剛性機構の正面図であり、図1(b)はその断面図である。図において、1はモータ支持部材であり、図示しないロボット関節駆動モータの固定子に固定される。4は固定部材であり、図示しない地面に固定された構造体やロボットのベース側リンクなどに固定される。固定部材4は円筒形にくりぬかれた穴を備えており、その穴に内接するようにベアリング6を介してモータ支持部材1を回転可能に支持している。モータ支持部材1の中央にはシャフト1aがあり、ベアリング7を介して加圧部材5を回転可能に支持している。
【0025】
加圧部材5、固定部材4、モータ支持部材1のそれぞれの構造がわかりやすいように分解した分解図を図2に示す。モータ支持部材1には突起部1bがある。2は非線形ばねであり、突起部1bの両側に配置されており、一方は加圧部材、もう一方は固定部材との間に挟まれている。このような構造にすることにより、固定部材4とモータ支持部材1との回転が非線形ばね2により、弾性支持される。
【0026】
非線形ばね2は自然長からの縮み量が大きくなるとばね剛性が高くなるばねである。同様の突起部を複数か所に設けて複数点支持する構造としても良い。加圧部材5は、固定部材4に固定された図示しない剛性調節モータによって回転させられる。加圧部材5が図の反時計回りに回転すると、2つの非線形ばね2が圧縮され、ばね剛性が高くなる。加圧部材5をさらに回転させていくと、突起部1bに設けられたクラッチ面1cが固定部材4および加圧部材5と同時に接触するようになっている。この状態をクラッチ状態と呼ぶ。図3に自然長状態(a)とクラッチ状態(b)の正面図を示す。クラッチ状態では、固定部材4とモータ支持部材1との回転ばね剛性が非常に大きくなり、剛体支持とみなせる。
【0027】
本実施形態の可変剛性機構をロボットの関節に用いる場合、シャフト1aで作られる回転軸は、ロボット関節の回転軸と一致させておく。これにより、ロボットアーム先端などに外力が加わったとき、関節駆動モータにバックドライバビリティの低い減速機を用いたとしても、非線形ばね2が収縮することによって関節駆動モータごとモータ支持部材1が回転軸まわりに回転し、緩衝されるため、外力に対して柔軟になる。衝突した際でも、関節駆動モータの固定子と回転子は相対的に回転することなくモータ全体が回転するため、モータ回転子の重量が減速比の2乗倍されて衝突した物体にかかることがなくなる。
【0028】
加圧部材5を回転させる方法は様々考えられるが、その一例を図4に示す。図4は本発明の可変剛性機構を組み込んだロボット関節の正面図である。図で、41はウォームホイールであり、加圧部材5に固定されている。42はウォームであり、41とともにウォームギヤ40を構成する。ウォーム42が回転すると減速されてウォームホール41が回転する。
【0029】
剛性調節モータ44は固定部材64に固定されておりウォーム42を回転させるトルクを発生する。ウォームギヤ40による減速でも剛性調節モータのトルクが不足する場合にはさらに減速機を備えても良い。非線形ばね2を収縮させると、加圧部材5にばねの力がかかるが、ウォームギヤは逆伝達効率が悪いため、回転させた位置での剛性調節モータの保持トルクが小さくてすむ。固定部材64はロボットのベース側リンクとなっており、モータ支持部材1に取付けられた関節駆動モータを回転させると可動部材66すなわちマニピュレータ先端側リンクが動く。
【0030】
次に図7を用いて本実施形態の機構によって可変剛性機構が得られる理由を説明する。図7はモータ支持部材1の位置、すなわちシャフト1aまわりの回転量と、非線形ばねの発生するトルクとの関係を示したグラフである。(a)と(b)は加圧部材5の位置が異なる2つの場合を示しており、(a)に比べ、(b)の方が非線形ばね2の収縮量が大きくなるように加圧部材を動かした状態を示している。(c)はクラッチ状態を示す。2つの非線形ばね2をそれぞれA、Bとすると、非線形ばねAおよびBの発生するトルクは、それぞれ図の破線のように表される。
【0031】
固定部材4と支持部材1との間に発生するトルクはこれらの和として実線のように表される。実線の傾きがばね剛性を示している。(a)に比べ、(b)の方が非線形ばねAも非線形ばねBも共にばね剛性が高くなるため、その和である固定部材4と支持部材1との間のばね剛性も高くなる。その結果、固定部材4と支持部材1との間のばね剛性は加圧部材5の位置によって変えることができる。図8に加圧部材5の位置とばね剛性の関係を示す。剛性調節モータを制御するコントローラは、クラッチ面が接触しないばね支持状態での図8で表される曲線を、ばね剛性kと加圧部材の位置xとの関係式
x=f(k)
として持っておき、ばね剛性の指令値を加圧部材の位置に置き換え、その位置に剛性調節モータを制御する。
【0032】
このような位置制御がしやすいアクチュエータとしては、位置センサを備えてフィードバック制御するサーボモータや、開ループで位置指令を与えるステッピングモータがある。ただし、ステッピングモータを用いた場合は脱調に注意する必要があり、通常は何らかの位置センサを併用する必要がある。
【0033】
このように、モータ支持部材1に突起部1bを備え、両側から非線形ばね2で挟む構造で回転を支持し、さらに加圧部材5と固定部材4で挟む構造とし、加圧部材5と固定部材4との距離を変える剛性調節アクチュエータを備えている部分である。このような構造にしているので,小型の機構でモータ支持部材1の支持剛性を変化させることができ、この機構を用いて安全性と制御性能を両立したロボットを実現することができる。
【0034】
本発明が従来技術と異なるその他の部分は、固定部材4に円筒形にくりぬかれた穴を備えて、その穴に内接するようにモータ支持部材1を回転可能に支持している部分である。このような構造にしているので、固定部材4、モータ支持部材1、加圧部材5の3つの部品が、回転軸方向にはモータ支持部材1と加圧部材5の2枚分の厚みの中に収まり、小型化できる。
【0035】
本発明が従来技術と異なるその他の部分は、クラッチ面1cを備え、ある縮み量になるとクラッチ状態となるようにした部分である。通常の非線形ばね支持の状態で、縮み量を大きくしたとしてもばね剛性の最大値は十分に大きくできないが、本発明では、非常に剛性の高い状態にもすることができる。
なお、ウォームギヤを用いたが、ウォームギアの替わりに傘歯車やハイポイドギアを用いても良い。ハイポイドギアも逆伝達効率が悪いため、本発明に適している。
【0036】
また、ワイヤーやベルトや直径が大きめの平歯車などを用いて剛性調節モータの回転軸とシャフト1aが平行になるように配置するようにしてもよい。このようにすれば、加圧部材等と機構的に干渉しやすく、剛性調節モータのモータシャフトが比較的長くなることを防ぐことができる。
【0037】
また、モータ支持部材1が関節駆動モータの固定子に固定されるとしていたが、関節駆動モータの固定子自体が突起を備えているとしても良い。また、実施形態1では、加圧部材5が剛性調節モータで回転させられるとしていたが、加圧部材5自体をモータとし、シャフト1aと加圧部材5とが剛性調節モータの固定子と回転子のいずれかであるとしても良い。
【0038】
また、モータ支持部材と可動部材と固定部材はシャフト1aの中央の回転軸まわりに回転可能に支持されていたが、モータ支持部材の回転量が小さい場合、図5に示すように、剛性調節モータはボールねじによって固定部材に対して加圧部材を直動させ、非線形ばねの縮み量を変えるようにしても良い。
【0039】
また、関節駆動モータが回転型のモータであったが、リニアモータであってもよい。その場合には、特に加圧部材を駆動する機構として、ボールねじによる直動機構を用いるとモータ支持部材のばね変形量のストロークを確保しやすい。
【0040】
また、上述の実施形態では、固定部材4および加圧部材5との接触面であるクラッチ面1cが、回転軸を含む平面となるようにし、剛性調節モータを使ってクラッチ状態にしているため、クラッチのために新たにアクチュエータを追加する必要がなく、小型軽量化および低コスト化できている。ただし、このようにすると、非線形ばね2の縮み量が大きいときに負荷がかかるとクラッチ面1cが固定部材4や加圧部材5に衝突し、柔軟性を失う問題がある。
【0041】
この問題に対する1つの対策は,クラッチ面1cに衝撃吸収性の良い素材を貼り付けることである。
ただしクランプ状態での剛性は若干低下する。この問題を根本的に解決するもう1つの対策は、回転軸と垂直なクラッチ面を備え、これにより円盤状のモータ支持部材1を挟む構造でクラッチ状態にすることである。この場合でも、剛性調節アクチュエータによって加圧部材5とクラッチ面が同時に動くようにしておけば、1つのアクチュエータだけで、非線形ばね2のばね剛性を変化させる操作とクラッチ面を接触させてクラッチ状態とする操作とを実現でき、小型軽量化および低コスト化できる。
【0042】
また、上述の実施形態では、非線形ばね2は自然長からの縮み量が大きくなるとばね剛性が高くなるばねを用いて構成していた。このような特性を持つばねとしては複数考えられる。
【0043】
図5は、非線形ばねの種類を変えた場合の概念図である。(a)は、非線形ばね32として巻きピッチが一定でないコイルばねを用いた場合の例である。31はモータ支持部材、31aはシャフト、31bは突起部、32は非線形ばね、34は固定部材、35は加圧部材であり、それぞれ実施形態1の同じ名称の部分を模式的に示したものであり、同様の役割を果たす。33は剛性調節モータであり、固定部材34に固定され、可動部材35の位置をかえる。図はボールねじによって可動部材35が直動するように示しているが、容易に考え得る他の構成でも同じである。
【0044】
図5(b)は、非線形ばね32として、複数種類の弾性素材を重ね合わせたもの32aを用いた場合の例である。弾性素材としては、スポンジ、ゴム、エアクッション等が考えられる。幅を狭くしていくと、剛性が低いものから先につぶれ、完全につぶれた弾性素材は剛性が急激に上がるので幅を狭くするほど剛性が高くなる。また、粘性特性を持つ素材を並列または直列に重ねてダンパの効果を得ることも容易である。弾性素材を用いると、長く使ってひび割れ等が発生しても、ばね特性が維持されるため、金属ばねを用いた場合のように破断してフリー状態になってしまうなどの危険がなくなる。
【0045】
図5(c)は、非線形ばね32として、永久磁石の同極どうしを向きわせて配置したもの32bを用いた場合の例である。永久磁石の反発力で両側から支えられるが、反発力は距離の2乗に反比例するので幅を狭くするほど剛性が高くなる。ただし、永久磁石の反発力は磁石間の距離が遠いと弱く、近づくと急激に強くなる。すなわち、非線形性が強すぎるため、図のように正面から向き合わせるのではなく、斜め方向に向けて少しずらして配置したり、剛性調節アクチュエータによって永久磁石の角度を変化させるなどしても良い。
【0046】
次に第2実施形態として可変剛性機構をロボットに適用する例について説明する。
本発明の可変剛性機構を用いたロボット関節の構成法の概念図を図6に示す。60は本発明の可変剛性機構である。61は関節駆動モータ固定子、62は関節駆動モータ回転子である。
ただし、関節駆動モータは、通常剛性の高い減速機で減速して用いられる。その場合の関節駆動モータ回転子62とは、減速機の出力軸を意味し、関節駆動モータ固定子61には減速機の固定部も含む。64は固定部材であり、ロボットの場合、ベース側のリンクになる。
【0047】
ベース側のリンクとは、例えば一般的な産業用の垂直多関節ロボットでは、地面に近い方のリンクであり、ヒューマノイドロボットなどでは、胴体部に近い方のリンクである。66は可動部材であり、逆にマニピュレータ先端側のリンクである。
【0048】
図6(a)は、関節駆動モータ固定子61を固定部材64に固定し、関節駆動モータ回転子62と可動部材66との間に可変剛性機構60を配置した例である。ロボットアーム先端などに外力が加わったときには、可変剛性機構60の部分のばねが収縮して緩衝される。このような構成とした場合、ばねの先が可動部材66のみとなり、軽量で安全性が高くなるため、直列弾性駆動のロボットではこの構成が最も一般的に用いられる。関節駆動モータに減速機などを用いて摩擦など予測しにくい外乱があったとしても、ばねの収縮量を検出するセンサを備えることで、可動部材66にかかっている外力を正しく知ることができるため、これを用いてインピーダンス制御をすることもできる。この構成は、モータ固定子に電力を供給する電力線が固定部材64側にあるので引き回しが容易というメリットもある。
【0049】
図6(b)は、関節駆動モータ回転子62を可動部材66に固定し、関節駆動モータ固定子61と固定部材64との間に可変剛性機構60を配置した例であり、実施形態1で述べた構成である。このような構成とすると、可変剛性機構60の変形量を検出するエンコーダ等を備えて固定部材64と可動部材66との角度を検出して関節駆動モータを制御した場合、仮に関節駆動モータ固定子61の慣性モーメントが十分に大きいとすると、可変剛性機構60の部分のばね剛性に関係なく可動部材66の位置を高帯域で制御できることになる。第1実施形態のように、ロボットアーム先端などに外力が加わったとき、可動部材66に加えて関節駆動モータ全体が回転するため、図6(a)に比べると若干重くなるものの、減速比によって2乗倍されることがなくなるため、ばねを入れない場合に比べると衝突時の安全性は大幅に高められる。この構成は、関節駆動モータ固定子61がばねの変形量分だけ回転するものの、回転量が小さいため、電力線の引き回しも容易である。
【0050】
図6(c)は、関節駆動モータ固定子61を可動部材66に固定し、関節駆動モータ回転子62と固定部材64との間に可変剛性機構60を配置した例である。この構成は、図6(a)と比べると固定部材64と可動部材66を逆に考えたものと見なすことができる。ただし、電源を取るために電力線をベース側リンクの方へ引き回すために、関節駆動モータ回転子62や可変剛性機構60の中空の径を大きくするなどしなければならない点で劣る。
【0051】
図6(b)と比べると、関節駆動モータ固定子61と関節駆動モータ回転子62を入れ替えたものと見なすことができる。図6(b)と同様に高帯域で制御できる可能性があるが、一般にモータの回転子は固定子に比べ慣性モーメントが小さいため、可動部材66を動かすための反力を得にくい点で劣る。図6(d)は、関節駆動モータ回転子62を可動部材66に固定し、関節駆動モータ固定子61と固定部材64との間に可変剛性機構60を配置した例である。この構成は、図6(b)と比べると固定部材64と可動部材66を逆に考えたものと見なすことができる。ただし、電力線を引き回すために、関節駆動モータ回転子62の中空の径を大きくするなどしなければならない点で劣る。図6(a)と比べると、関節駆動モータ固定子61と関節駆動モータ回転子62を入れ替えたものと見なすことができ、図6(a)と同様に、ばねの先が可動部材66のみとなり、軽量で安全性を高くできる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
小型の機構でばね剛性を変化させることができるので、産業用ロボット、家庭用ロボット、脚式歩行ロボット等の腕、脚、指などの関節として適用できるのみならず、各種車両のサスペンションや、航空宇宙分野の乗り物やロボットなどの着地の必要な装置で着地時の衝撃を和らげる干渉機構などの用途にも適用できる。
【符号の説明】
【0053】
1 モータ支持部材
1a シャフト
1b 突起部
1c クラッチ面
2 非線形ばね
4 固定部材
5 加圧部材
6 ベアリング
7 ベアリング
40 ウォームギヤ
41 ウォームホイール
42 ウォーム
31 モータ支持部材
31a シャフト
31b 突起部
32 非線形ばね
32a 弾性素材
32b 永久磁石
33 剛性調節モータ
34 固定部材
35 加圧部材
60 可変剛性機構
61 関節駆動モータ固定子
62 関節駆動モータ回転子
64 固定部材
66 可動部材
101 中心部
102 周辺部
103 可撓部
104 連結部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部材と、収縮量によってばね定数が変化する非線形ばねと、前記固定部材との位置を前記非線形ばねによって支持される支持部材と、前記非線形ばねに力を加えて前記非線形ばねの収縮量を変化させる加圧部材と、前記加圧部材の位置を動かすための剛性調節アクチュエータとを備え、
前記支持部材は、少なくとも1つの突起部を備え、前記突起部はそれぞれ前記非線形ばねによって挟まれており、前記剛性調節アクチュエータは前記固定部材と前記加圧部材との位置を変化させる
ことを特徴とする可変剛性機構。
【請求項2】
前記非線形ばねは、巻きピッチが一定でないコイルばねである
ことを特徴とする請求項1記載の可変剛性機構。
【請求項3】
前記非線形ばねは、複数の弾性素材を重ね合わせたものである
ことを特徴とする請求項1記載の可変剛性機構。
【請求項4】
前記非線形ばねは、永久磁石の同極どうしを向きわせて配置したものである
ことを特徴とする請求項1記載の可変剛性機構。
【請求項5】
前記支持部材は、前記駆動モータの固定子または前記関節駆動モータの回転子である
ことを特徴とする請求項1記載の可変剛性機構。
【請求項6】
前記支持部材は、前記関節駆動モータの固定子または前記関節駆動モータの回転子に固定されている
ことを特徴とする請求項1記載の可変剛性機構。
【請求項7】
前記剛性調節アクチュエータによって回転させられるボールねじを備え、
前記ボールねじによって前記加圧部材が前記固定部材に対して直線動する
ことを特徴とする請求項1記載の可変剛性機構。
【請求項8】
前記固定部材は円筒穴を備え、前記支持部材または前記加圧部材のうちの少なくともいずれかは前記円筒穴に内接して回転支持される
ことを特徴とする請求項1記載の可変剛性機構。
【請求項9】
前記固定部材または前記支持部材または前記加圧部材のうちの少なくともいずれかはシャフトを備えており、前記固定部材および前記支持部材および前記加圧部材は、前記シャフト周りに回転可能に支持されている
ことを特徴とする請求項1記載の可変剛性機構。
【請求項10】
前記剛性調節アクチュエータによって回転させられるウォームギアを備え、前記ウォームギアによって前記加圧部材が前記固定部材に対して前記シャフト周りに回転する
ことを特徴とする請求項9記載の可変剛性機構。
【請求項11】
前記シャフトは中空である
ことを特徴とする請求項9記載の可変剛性機構。
【請求項12】
前記剛性調節アクチュエータによって回転させられる傘歯車を備え、前記傘歯車によって前記加圧部材が前記固定部材に対して前記シャフト周りに回転する
ことを特徴とする請求項9記載の可変剛性機構。
【請求項13】
前記剛性調節アクチュエータによって回転させられるハイポイドギアを備え、前記ハイポイドギアによって前記加圧部材が前記固定部材に対して前記シャフト周りに回転する
ことを特徴とする請求項9記載の可変剛性機構。
【請求項14】
前記シャフトの回転軸はロボットの関節軸に一致する
ことを特徴とする請求項9記載の可変剛性機構。
【請求項15】
前記突起部はクラッチ面を備え、前記剛性調節アクチュエータが前記固定部材と前記加圧部材との位置を変化させたとき、その可動範囲の少なくとも一方の端の位置で前記クラッチ面との接触により前記固定部材と前記支持部材が固定されたクラッチ状態となる
ことを特徴とする請求項1記載の可変剛性機構。
【請求項16】
固定部材と、収縮量によってばね定数が変化する非線形ばねと、前記固定部材との位置を前記非線形ばねによって支持される支持部材と、前記非線形ばねに力を加えて前記非線形ばねの収縮量を変化させる加圧部材と、前記加圧部材の位置を動かすための剛性調節アクチュエータとを有し、
前記固定部材と前記支持部材が固定されたクラッチ状態と解放されたばね支持状態を切り替えるクラッチとを備えた
ことを特徴とする可変剛性機構。
【請求項17】
前記ロボットの関節の加減速時にはクラッチ状態とし、停止時または一定速時にはばね支持状態とする
ことを特徴とする請求項15又は16記載の可変剛性機構。
【請求項18】
前記剛性調節アクチュエータは、位置制御とトルク制御を切替可能なサーボアクチュエータであり、前記サーボアクチュエータは,前記ばね支持状態では位置制御され、前記クラッチ状態ではトルク制御される
ことを特徴とする請求項15記載の可変剛性機構。
【請求項19】
前記剛性調節アクチュエータは,前記クラッチ状態ではトルクの発生を停止する
ことを特徴とする請求項16記載の可変剛性機構。
【請求項20】
前記剛性調節アクチュエータを制御する剛性調節コントローラを備え,
前記剛性調節コントローラは,前記加圧部材の位置と前記非線形ばねのばね剛性との関係式を保有しており,前記ばね支持状態の時に所望のばね剛性となるように剛体調節アクチュエータの位置を制御することを特徴とする請求項18記載の可変剛性機構。
【請求項21】
アームと、
前記アームを動作させる駆動モータと、
請求項1〜20のいずれか1項に記載の可変剛性機構と、を有している
ことを特徴とする、ロボット。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−83884(P2011−83884A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−240755(P2009−240755)
【出願日】平成21年10月19日(2009.10.19)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】