説明

可変容量圧縮機のための容量制御弁、容量制御システム及び可変容量圧縮機

【課題】吸入圧力制御の安定性を損なうことなく、吸入圧力制御の制御範囲の拡大をもたらす容量制御弁を提供するとともに、該容量制御弁を用いた可変容量圧縮機、及び、該可変容量圧縮機の容量制御システムを提供する。
【解決手段】可変容量圧縮機のための容量制御弁(300)は、バルブハウジング(302)と、バルブハウジング(302)内に配置された弁体(314)と、弁体(314)に電磁力を作用させるためのソレノイド(336)とを備える。弁体(314)は、吐出室(142)の圧力が開弁方向にて作用する第1受圧面(354)、及び、吐出室(142)の圧力と対抗する閉弁方向にて吸入室(140)の圧力が作用する第2受圧面(356)を有する。第2受圧面(356)の面積は第1受圧面(354)の面積よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変容量圧縮機のための容量制御弁、該容量制御弁を用いた可変容量圧縮機及び可変容量圧縮機のための容量制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、車両用空調システムに用いられる往復動型の可変容量圧縮機は、吐出室、クランク室、吸入室及びシリンダボアが内部に区画形成されたハウジングと、このハウジングのシリンダボアに配設されたピストンと、ハウジング内に回転可能に支持されてエンジンを動力源として回転する駆動軸と、この駆動軸の回転をピストンの往復運動に変換する変換機構を備えており、このピストンが駆動軸の回転力を得て往復運動することで、吸入室からシリンダボア内への作動流体の吸入が成されると共に、この吸入した作動流体の圧縮及び圧縮された作動流体の吐出室への吐出が成されるようになっている。
【0003】
この往復動型の可変容量圧縮機において、ピストンのストローク長、即ち圧縮機の吐出容量は、クランク室の圧力(制御圧力)を変化させることで可変となっており、吐出容量を制御する容量制御弁は、吐出室とクランク室とを連通する給気通路に配置され、一方、クランク室と吸入室とを連通する抽気通路には絞りが配置されている。
吐出容量の制御には吸入室の圧力(吸入圧力)を制御対象とする吸入圧力制御があり、吸入圧力制御を実行するための容量制御弁には、ソレノイドとともに、吸入圧力を感知するための感圧器を内蔵するものがある(例えば特許文献1参照)。このような容量制御弁を用いた可変容量圧縮機の容量制御システムでは、吸入圧力の目標である目標吸入圧力がソレノイドの電磁力即ち通電量によって決定され、吸入圧力は、目標吸入圧力に近付くように感圧器によって機械的にフィードバック制御される。
【0004】
より詳しくは、感圧器は、例えばベローズ若しくはダイアフラムを用いて構成される。ベローズを用いた感圧器の場合、真空又は大気圧に保たれたベローズの内側に圧縮コイルばねが配置され、ベローズの一端には、外側から吸入圧力が作用する。従って、感圧器のベローズは、吸入圧力の減少に伴い伸張しようとする。
容量制御弁の弁体は、ソレノイドの電磁力とともに、感圧器のベローズが伸張しようとして発生する押圧力が作用するよう配置されている。そして、吸入圧力がソレノイドの通電量に対応して定まる目標吸入圧力に収束するよう、ベローズが伸縮することにより容量制御弁の開度が変化する。
【特許文献1】特開平11−107929号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
吸入圧力を制御対象とする吸入圧力制御方式は、空調システムに適した吐出容量制御方法であり、現在最も広く利用されている。吸入圧力制御方式において吐出容量を減少させるときには、制御対象となる吸入圧力の目標値がより高い値に変更される。しかしながら、例えば、冷凍サイクルにかかる熱負荷が大きく、且つ、圧縮機の回転数が低い場合には、吸入圧力がすでに高くなっているため、十分に吐出容量を減少させられないことがある。更に、実際の吸入圧力が吸入圧力の制御範囲の上限を超えている場合には、吐出容量を全く制御不能となることもある。
【0006】
このような問題は、ベローズを有する感圧器を内蔵した容量制御弁を用いた場合、吸入圧力の制御範囲の上限が低いことに起因している。具体的には、特許文献1の図2は、冷媒がR134aのときの吸入室の圧力とソレノイドに供給される電流との関係を示し、吸入圧力の制御範囲の上限は、0.3〜0.4MPaの範囲にある。熱負荷が大きい場合でも吐出容量制御を可能とするためには、この上限を高くして吸入圧力の制御範囲を大幅に拡大する必要がある。
【0007】
吸入圧力の制御範囲を拡大する手段としては、ソレノイドにより発生する電磁力を大きくすればよいが、制御範囲を大幅に拡大するにはソレノイドの大型化は避けられず、設計的に合理的な手段とはいえない。
制御範囲を拡大する別の手段として、ベローズを小型化し、吸入圧力を感知するベローズの感圧面積(有効面積)を小さくすることも考えられる。しかしながら、真空又は大気圧となっているベローズの内部には、コイルばねとともに、ベローズの伸縮量を規制するストッパを設ける必要があるため、ベローズの小型化には限界がある。
【0008】
また、吸入圧力を感知するために、ベローズに代えてダイアフラムを感圧器に使用したとしても、ダイアフラムの感圧面積を小さくすると、その寿命を確保すべくダイアフラムの変位量、即ち弁ストロークも小さくしなければならない。このため、ダイアフラムを用いた感圧器の小型化にも限界がある。
更に、ベローズ及びダイアフラムの感圧面積を小さくした場合、感圧器に作用する荷重が減少するため、吸入圧力の変化に対する感圧器の感度が鈍くなり、吸入圧力制御の安定性が悪化するという問題がある。
【0009】
本発明は、上述した事情に基づいてなされ、その目的とするところは、吸入圧力制御の安定性を損なうことなく、吸入圧力制御の制御範囲の拡大をもたらす容量制御弁を提供するとともに、該容量制御弁を用いた可変容量圧縮機、及び、該可変容量圧縮機の容量制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するべく、本発明によれば、吐出室、吸入室、クランク室及びシリンダボアが内部に区画形成されたハウジングと、前記シリンダボアに配設されたピストンと、前記ハウジング内に回転可能に支持された駆動軸と、前記駆動軸の回転を前記ピストンの往復運動に変換するための傾角可変の斜板要素を含む変換機構とを具備し、前記クランク室の圧力が変化させられることによって前記ピストンのストロークが調整されながら、前記吸入室から前記シリンダボアに吸入された冷媒を圧縮して前記吐出室に吐出する可変容量圧縮機のための容量制御弁において、バルブハウジングと、前記バルブハウジング内に配置され、前記吐出室の圧力が開弁方向にて作用する第1受圧面、及び、前記吐出室の圧力と対抗する閉弁方向にて前記吸入室の圧力が作用する第2受圧面を有する弁体と、前記弁体に対し、前記閉弁方向にて電磁力を作用させるためのソレノイドとを備え、前記第2受圧面の面積は前記第1受圧面の面積よりも大きいことを特徴とする可変容量圧縮機のための容量制御弁が提供される(請求項1)。
【0011】
好ましくは、前記弁体は、前記クランク室の圧力が所定値から低くなるのにつれて大きくなる押圧力が開弁方向にて作用する領域を更に有する(請求項2)。
好ましくは、前記弁体は相互に同軸に連結されたそれぞれ円柱形状の小径部と大径部とを含み、前記小径部は、前記大径部とは反対側に前記第1受圧面を有し、前記大径部は、前記小径部とは反対側に前記第2受圧面を有し且つ前記小径部よりも大径であり、前記バルブハウジングは、前記弁体を収容する弁室であって、前記弁体の大径部によって、前記小径部が配置され且つ前記クランク室に連通する流動領域と、前記吸入圧力領域に連通する感圧領域とに気密に仕切られた弁室と、前記弁室の流動領域に開口して前記弁体の小径部の第1受圧面によって開閉される一端及び前記吐出室に連通する他端を有する弁孔と、前記クランク室に連通し且つ前記押圧力を発生する感圧器を収容した感圧室と、前記感圧室と前記弁孔の他端との間に設けられた挿通孔とを有し、前記弁孔及び挿通孔を貫通し、前記感圧器と前記弁体の小径部との間を前記クランク室の圧力に対応して断続的に連結する伝達部材とを備える(請求項3)。
【0012】
好ましくは、前記弁体と前記感圧器とが前記伝達部材を介して連結されているときに、前記弁体及び感圧器に対して、前記クランク室の圧力が全体として作用しないか若しくは全体として前記閉弁方向に作用するように、前記感圧器において前記クランク室の圧力が閉弁方向に作用する有効面積が設定されている(請求項4)。
好ましくは、前記感圧器は、前記クランク室の圧力に応答して変位する変位部を有し、前記伝達部材は前記弁体の小径部から一体に延びる伝達ロッドであり、前記伝達ロッドの先端は、前記弁体と前記感圧器の変位部との距離が所定値以下であるときに前記感圧器の変位部に当接し、一方、前記弁体と前記感圧器の変位部との距離が所定値よりも大であるときに前記感圧器の変位部から離間する(請求項5)。
【0013】
好ましくは、前記弁室の周壁は、前記弁体の大径部を摺動自在に支持し、前記挿通孔の周壁は、前記伝達ロッドを摺動自在に支持している(請求項6)。
好ましくは、前記弁体及び伝達ロッドが前記弁体及び伝達ロッドに対して傾斜した場合、前記弁体及び伝達ロッドは、前記弁室の周壁及び挿通孔の周壁に対して1箇所にてそれぞれ当接する(請求項7)。
【0014】
また、本発明によれば、上記した目的を達成するため、請求項1乃至7の何れか一項に記載の可変容量圧縮機のための容量制御弁を具備したことを特徴とする可変容量圧縮機が提供される(請求項8)。
更に、本発明によれば、上記した目的を達成するため、空調システムの冷凍サイクルを構成すべく冷媒が循環する循環路に放熱器、膨張器及び蒸発器とともに介挿される可変容量圧縮機のための容量制御システムであって、請求項1乃至7の何れか一項に記載の可変容量圧縮機のための容量制御弁と、少なくとも1つ以上の外部情報を検知する外部情報検知手段と、前記外部情報検知手段によって検知された前記外部情報に基づいて、前記吸入室の圧力の目標値としての目標吸入圧力を設定する目標吸入圧力設定手段と、前記吐出室の圧力を検知するための吐出圧力検知手段と、前記吐出圧力検知手段により検知された前記吐出室の圧力及び前記目標吸入圧力設定手段により設定された目標吸入圧力に基づいて前記ソレノイドに供給される制御電流を調整する電流調整手段とを備えることを特徴とする可変容量圧縮機のための容量制御システムが提供される(請求項9)。
【0015】
また更に、本発明によれば、上記した目的を達成するため、空調システムの冷凍サイクルを構成すべく冷媒が循環する循環路に放熱器、膨張器及び蒸発器とともに介挿される可変容量圧縮機のための容量制御システムであって、請求項2乃至7の何れか一項に記載の可変容量圧縮機のための容量制御弁と、少なくとも1つ以上の外部情報を検知する外部情報検知手段と、前記外部情報検知手段によって検知された前記外部情報に基づいて、前記吸入室の圧力の目標値としての目標吸入圧力を設定する目標吸入圧力設定手段と、前記吐出室の圧力を検知するための吐出圧力検知手段と、前記吐出圧力検知手段により検知された前記吐出室の圧力及び前記目標吸入圧力設定手段により設定された目標吸入圧力に基づいて前記ソレノイドに供給される制御電流を調整する電流調整手段とを備え、前記電流調整手段は、前記目標吸入圧力が所定圧力以上である場合は、第1演算式に基づいて前記制御電流を調整し、一方、前記目標吸入圧力が所定圧力よりも低い場合は、前記第1演算式とは異なる第2演算式に基づいて前記制御電流を調整することを特徴とする可変容量圧縮機のための容量制御システムが提供される(請求項10)。
好ましくは、前記第1演算式は、前記弁体と前記感圧器の変位部とが切り離された状態での前記容量制御弁の動作を反映するよう決定され、前記第2演算式は、前記弁体と前記感圧器の変位部とが連結された状態での前記容量制御弁の動作を反映するよう決定されている(請求項11)。
【発明の効果】
【0016】
本発明の請求項1の可変容量圧縮機の容量制御弁では、吐出室の圧力(吐出圧力)に対し、吸入室の圧力(吸入圧力)及びソレノイドの電磁力が対抗するように弁体に作用する。かかる容量制御弁を用いた可変容量圧縮機のための容量制御システムの場合、吸入圧力の目標値である目標吸入圧力と吐出圧力とに基づいて、ソレノイドに供給される制御電流を調整することにより、目標吸入圧力の設定範囲、換言すれば、吸入圧力の制御範囲が拡大される。
【0017】
一方、この容量制御弁では、弁体の第2受圧面の面積を第1受圧面の面積よりも大きくすることにより、弁体に対して作用する吸入圧力に基づく荷重が増大する。このため、この容量制御弁を用いた容量制御システムにあっては、吸入圧力の変化に対する弁体の応答性が向上し、吸入圧力の制御安定性が向上する。
請求項2の可変容量圧縮機の容量制御弁では、弁体は、クランク室の圧力(クランク圧力)が所定値から小さくなるのに連れて大きくなる押圧力が閉弁方向に作用する領域を更に有する。この容量制御弁では、押圧力が弁体に作用するときとしないときとで弁体の動作特性を切り換えることができる。
【0018】
請求項3の可変容量圧縮機の容量制御弁では、簡単な構成により、弁体の動作特性を確実に切り換えることができる。
請求項4の可変容量圧縮機の容量制御弁では、弁体に対してクランク圧力が全体として作用しないように感圧器の有効面積を調整することにより、弁体の動作特性に与えるクランク圧力の影響が排除される。これにより、弁体の動作特性が吸入圧力、吐出圧力及び電磁力に基づいてほぼ決定され、吸入圧力制御の安定性が更に向上する。
【0019】
また、閉弁方向にクランク圧力が全体として作用するように感圧器の有効面積を調整することにより、弁体が開弁方向に過度に移動することが防止され、弁体の動作特性が安定する。これによっても、吸入圧力制御の安定性が更に向上する。
請求項5の可変容量圧縮機の容量制御弁では、伝達部材として伝達ロッドを用いることにより、簡単な構成にて、感圧器と弁体との間が断続される。
【0020】
請求項6の可変容量圧縮機の容量制御弁では、弁体の軸線方向に相互に離間した第1挿通孔及び第2挿通孔によって弁体及び伝達ロッドをそれぞれ支持することにより、弁体が安定に支持される。
請求項7の可変容量圧縮機の容量制御弁では、弁体及び伝達ロッドが第1挿通孔及び第2挿通孔に対して傾いたときに、弁体及び伝達ロッドと第1挿通孔及び第2挿通孔とがそれぞれ1箇所で当接することにより、弁体及び伝達ロッドのかじりが防止され、弁体の円滑な移動が確保される。
【0021】
請求項8の可変容量圧縮機によれば、当該可変容量圧縮機が上述した容量制御弁を具備することから、吸入圧力制御の安定性を損なうことなく、吸入圧力の制御範囲が拡大される。
請求項9の可変容量圧縮機のための容量制御システムでは、上述した容量制御弁を用いることにより、吸入圧力制御の安定性を損なうことなく、吸入圧力の制御範囲が拡大される。
【0022】
請求項10の可変容量圧縮機のための容量制御システムでは、弁体と感圧器との間の断続に対応して、相互に異なる第1演算式又は第2演算式に基づいて制御電流が調整される。この結果として、この容量制御システムによれば、弁体と感圧器との間が断続的に連結されても、容量制御弁に適切な制御電流が供給され、吸入圧力を目標吸入圧力に確実に近付けられる。
【0023】
請求項11の可変容量圧縮機の容量制御システムでは、第1演算式が、弁体と感圧器とが切り離された状態での容量制御弁の動作を反映するよう決定され、第2演算式が、弁体と感圧器とが連結された状態での容量制御弁の動作を反映するよう決定されているため、容量制御弁に適切な制御電流が供給されて、吸入圧力を目標吸入圧力に確実に近付けられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態に係る可変容量圧縮機のための容量制御システムAについて説明する。
図1は、容量制御システムAが適用された車両用空調システムの冷凍サイクル10を示しており、冷凍サイクル10は、作動流体としての冷媒が循環する循環路12を備える。循環路12には、冷媒の流動方向でみて、圧縮機100、放熱器(凝縮器)14、膨張器(膨張弁)16及び蒸発器18が順次介挿され、圧縮機100が作動すると、圧縮機100の吐出容量に応じて循環路12を冷媒が循環する。すなわち、圧縮機100は、冷媒の吸入工程、吸入した冷媒の圧縮工程及び圧縮した冷媒の吐出工程からなる一連のプロセスを行う。
【0025】
蒸発器18は、車両用空調システムの空気回路の一部も構成しており、蒸発器18を通過する空気流は、蒸発器18内の冷媒によって気化熱を奪われることで冷却される。
容量制御システムAが適用される圧縮機100は可変容量圧縮機であり、例えば斜板式のクラッチレス圧縮機である。圧縮機100はシリンダーブロック101を備え、シリンダーブロック101には、複数のシリンダボア101aが形成されている。シリンダーブロック101の一端にはフロントハウジング102が連結され、シリンダーブロック101の他端には、バルブプレート103を介してリアハウジング(シリンダヘッド)104が連結されている。
【0026】
シリンダーブロック101及びフロントハウジング102はクランク室105を規定し、クランク室105内を縦断して駆動軸106が延びている。駆動軸106は、クランク室105内に配置された環状の斜板107を貫通し、斜板107は、駆動軸106に固定されたロータ108と連結部109を介してヒンジ結合されている。従って、斜板107は、駆動軸106に沿って移動しながら傾動可能である。
【0027】
ロータ108と斜板107との間を延びる駆動軸106の部分には、斜板107を最小傾角に向けて付勢するコイルばね110が装着され、斜板107を挟んで反対側の部分、即ち斜板107とシリンダーブロック101との間を延びる駆動軸106の部分には、斜板107を最大傾角に向けて付勢するコイルばね111が装着されている。
駆動軸106は、フロントハウジング102の外側に突出したボス部102a内を貫通し、駆動軸106の外端には、動力伝達装置としてのプーリ112に連結されている。プーリ112は、ボール軸受113を介してボス部102aによって回転自在に支持され、外部駆動源としてのエンジン114のプーリとの間にベルト115が架け回される。
【0028】
ボス部102aの内側には軸封装置116が配置され、フロントハウジング102の内部と外部とを遮断している。駆動軸106はラジアル方向及びスラスト方向にベアリング117,118,119,120によって回転自在に支持され、エンジン114からの動力がプーリ112に伝達され、プーリ112の回転と同期して回転可能である。
シリンダボア101a内にはピストン130が配置され、ピストン130には、クランク室105内に突出したテール部が一体に形成されている。テール部に形成された凹所130a内には一対のシュー132が配置され、シュー132は斜板107の外周部に対し挟み込むように摺接している。従って、シュー132を介して、ピストン130と斜板107とは互いに連動し、駆動軸106の回転によりピストン130がシリンダボア101a内を往復動する。
【0029】
リアハウジング104には、吸入室140及び吐出室142が区画形成され、吸入室140は、バルブプレート103に設けられた吸入孔103aを介してシリンダボア101aと連通可能である。吐出室142は、バルブプレート103に設けられた吐出孔103bを介してシリンダボア101aと連通している。なお、吸入孔103a及び吐出孔103bは、図示しない吸入弁及び吐出弁によってそれぞれ開閉される。
【0030】
シリンダーブロック101の外側にはマフラ150が設けられ、マフラケーシング152は、シリンダーブロック101に一体に形成されたマフラベース101bに図示しないシール部材を介して接合されている。マフラケーシング152及びマフラベース101bはマフラ空間154を規定し、マフラ空間154は、リアハウジング104、バルブプレート103及びマフラベース101bを貫通する吐出通路156を介して吐出室142と連通している。
【0031】
マフラケーシング152には吐出ポート152aが形成され、マフラ空間154には、吐出通路156と吐出ポート152aとの間を遮るように逆止弁200が配置されている。具体的には、逆止弁200は、吐出通路156側の圧力とマフラ空間154側の圧力との圧力差に応じて開閉し、圧力差が所定値より小さい場合閉作動し、圧力差が所定値より大きい場合開作動する。
【0032】
したがって吐出室142は、吐出通路156、マフラ空間154及び吐出ポート152aを介して循環路12の往路部分と連通可能であり、マフラ空間154は逆止弁200によって断続される。一方、吸入室140は、リアハウジング104に形成された吸入ポート104aを介して循環路12の復路部分と連通している。
リアハウジング104には、容量制御弁(電磁制御弁)300が収容され、容量制御弁300は給気通路160に介挿されている。給気通路160は、吐出室142とクランク室105との間を連通するようにリアハウジング104からバルブプレート103を経てシリンダーブロック101にまで亘っている。
【0033】
一方、吸入室140は、クランク室105と抽気通路162を介して連通している。抽気通路162は、駆動軸106とベアリング119,120との隙間、空間164及びバルブプレート103に形成された固定オリフィス103cからなる。
また、吸入室140は、リアハウジング104に形成された感圧通路166を通じて、給気通路160とは独立して容量制御弁300に接続されている。
【0034】
より詳しくは、図2に示したように、容量制御弁300は、弁ユニットと弁ユニットを開閉作動させる駆動ユニットとからなる。弁ユニットは、略円筒形状のバルブハウジング302を有し、バルブハウジング302の一端側には弁孔304が形成されている。
弁孔304は、バルブハウジング302の端壁を貫通している。弁孔304は、バルブハウジング302の外端面に開口した外端を有し、弁孔304の外端に給気通路160の上流側部分が接続される。従って、弁孔304は、入口ポートとしての機能も有し、給気通路160の上流側部分を介して吐出室142と連通する。
【0035】
一方、弁孔304は、バルブハウジング302の軸線方向に延び、弁孔304の内端は、バルブハウジング302の内部に区画された円柱形状の第1の空間306に開口している。
第1の空間306には、弁孔304とは反対側にそれぞれ円柱形状の第2の空間308及び第3の空間310がこの順序で連なり、バルブハウジング302内には、弁孔304、第1の空間306、第2の空間308及び第3の空間310が直列且つ同軸上に形成されている。これら第1の空間306、第2の空間308及び第3の空間310は、バルブハウジング302の周壁の一部分によってそれぞれ囲まれているが、第1の空間306の直径よりも、第2の空間308の直径の方が大きく、第2の空間308の直径よりも第3の空間310の直径の方が大きい。なお、第3の空間310の空間は、バルブハウジング302の他端にて開口しており、換言すれば、駆動ユニットに向けて開口している。
【0036】
第1の空間306、第2の空間308及び第3の空間310は、1つの弁室312を形成しており、弁室312内には、バルブハウジング302の軸線方向に往復動可能に弁体314が収容されている。
弁体314は、相互に同軸に連結されたそれぞれ円柱形状の小径部316及び大径部318を有し、小径部316は、第1の空間306及び第2の空間308内に配置されている。小径部316の外径は、弁孔304の内径よりも大きく、小径部316は、バルブハウジング302の内端面に当接することにより弁孔304の一端を閉塞可能である。従って、バルブハウジング302の内端面は弁座として機能する。
【0037】
大径部318の外径は、小径部316の外径よりも大であり、且つ、第2の空間308の直径に略等しい。大径部318は、第3の空間310内に部分的に突出しているけれども、大径部318の少なくとも一部は、第2の空間308を囲むバルブハウジング302の周壁の領域に対して摺動自在に嵌合している。このため、大径部318の一部によって、弁室312の内部は、2つの領域に気密に仕切られている。
【0038】
2つの領域のうち一方は、小径部316が配置され且つ弁孔304が開口した領域(流動領域320)である。流動領域320を区画するバルブハウジング302の周壁の部分には、出口ポート322が形成されており、出口ポート322には、給気通路160の下流側部分が接続されている。従って、弁室312の流動領域320は、出口ポート322及び給気通路160の下流側部分を通じて、クランク室105に連通している。
【0039】
また、2つの領域のうち他方は、バルブハウジング302の他端にて開口した領域(感圧領域324)である。感圧領域324を区画するバルブハウジング302の周壁の部分には、感圧ポート326が形成されており、感圧ポート326には、感圧通路166が接続されている。従って、弁室312の感圧領域324は、感圧ポート326及び感圧通路166の下流側部分を通じて、吸入室140に連通している。
【0040】
なお、第1の空間306と第2の空間308との境界には、環状の段差面が形成されており、この段差面と、弁体314の大径部318との間には、圧縮コイルばねからなる開放ばね328が配置されている。開放ばね328は、弁体314を開弁方向に付勢している。
駆動ユニットは略円筒形状のソレノイドハウジング330を有し、ソレノイドハウジング330はバルブハウジング302の他端に同軸的に連結されている。ソレノイドハウジング330の開口端には、環状のエンドキャップ332が嵌合され、ソレノイドハウジング330内には、樹脂材料で表面を固められたソレノイド336が収容されている。
【0041】
またソレノイドハウジング330内には、同心上に略円筒形状の固定コア338が収容され、固定コア338は、バルブハウジング302からエンドキャップ332に向けてソレノイド336の中央まで延びている。固定コア338は、自身の中央を貫通する貫通孔340を有するけれども、弁室312の感圧領域324内に突出した固定コア338の突出部342において、貫通孔340の内径は縮小されている。
【0042】
固定コア338のエンドキャップ332側には外側からスリーブ341が嵌合され、スリーブ341はエンドキャップ332側に閉塞端を有する。固定コア338とスリーブ341の閉塞端との間には、略円筒形状の可動コア343を収容する可動コア収容空間344が規定されている。
貫通孔340には、ソレノイドロッド346が挿通され、ソレノイドロッド346は固定コア338の突出部342によって摺動可能に支持されている。ソレノイドロッド346の一端は、突出部342よりも弁室312の感圧領域324内に突出し、弁体314の大径部318の端面に当接している。ソレノイドロッド346の他端は、可動コア収容空間344内に突出し、ソレノイドロッド346の他端部は、可動コア343の嵌合孔に嵌合され、ソレノイドロッド346と可動コア343とは一体化されている。
【0043】
また、可動コア343と、スリーブ341の閉塞端との間には、スペーサ348が配置され、スペーサ348と可動コア343との間には、可動コア343を閉弁方向に付勢する圧縮コイルばね350が配置されている。ただし、可動コア343と固定コア338との間には所定の隙間が確保されている。
固定コア338の突出部342には、径方向孔352が形成され、径方向孔352及び貫通孔340を通じて、弁室312の感圧領域324と可動コア収容空間344とが連通している。従って、感圧領域324に面する弁体314の大径部318の端面には、感圧領域324に位置する大径部318の横断面積と等しい面積にて、吸入室140の圧力(以下、吸入圧力Psという)が作用する。
【0044】
可動コア343、固定コア338、ソレノイドハウジング330及びエンドキャップ332は磁性材料で形成され、磁気回路を構成する。スリーブ341は非磁性材料のステンレス系材料で形成されている。
ソレノイド336には、圧縮機100の外部に設けられた制御装置400Aが接続され、制御装置400Aから制御電流Iが供給されると、ソレノイド336は電磁力F(I)を発生する。ソレノイド336の電磁力F(I)は、可動コア343を固定コア338に向けて吸引し、ソレノイドロッド336を介し弁体314に対して閉弁方向に作用する。
【0045】
容量制御弁300にあっては、弁体314の小径部316が弁孔304を閉じた時に、小径部316の端面に対し、吐出室142の圧力(以下、吐出圧力Pdという)が作用する。そして、このとき小径部316の端面において、吐出圧力Pdが作用する領域のことを第1受圧面354と呼ぶこととすると、第1受圧面354の面積(以下、シール面積Svともいう)は、弁孔304の開口面積に等しい。
【0046】
一方、弁体314の大径部318に対しては、大径部318の端面に対して、閉弁方向に吸入圧力Psが作用する。このとき、大径部318の端面における、吸入圧力Psが閉弁方向に作用する領域を第2受圧面356と呼ぶこととすると、第2受圧面356の面積(以下、感圧面積Sr1ともいう)は、大径部318の横断面積に実質的に等しい。
そして、容量制御弁300にあっては、感圧面積Sr1は、シール面積Svよりも大に形成されている(Sr1>Sv)。
【0047】
この場合、弁体314に作用する力は、吐出圧力Pd、クランク室105の圧力(クランク圧力Pc)、吸入圧力Ps、ソレノイド336の電磁力F(I)、開放ばね328の付勢力fs1、及び、圧縮コイルばね350の付勢力fs2である。
これらの力の関係は、以下の式(1)で示され、Pc=Ps+αとして式(1)を変形すると式(2)となる。Pc=Ps+α、すなわち、クランク圧力Pcと吸入圧力Psとの差αが略一定の範囲にあることは、経験的に知られている。
【0048】
そして、式(2)において、F(I)=A・I(ただしAは定数である。)とすると、式(3)及び式(4)が得られる。
式(3)及び式(4)から、吐出圧力Pd及び開放ばね328の付勢力fs1は開弁方向、これら以外の吸入圧力Ps、ソレノイド336の電磁力F(I)及び圧縮コイルばね350の付勢力fs2は、開弁方向とは対抗する閉弁方向に作用することがわかる。
【0049】
そして、式(3)から、吐出圧力Pdと、電磁力F(I)即ち制御電流Iが決まれば、吸入圧力Psが決まることがわかる。
【0050】
【数1】

【0051】
このような関係に基づけば、図3に示したように、吸入圧力Psの目標値として目標吸入圧力Pssを予め決定し、変動する吐出圧力Pdの情報がわかれば、発生させるべき電磁力F(I)つまり制御電流Iを演算できる。そして、ソレノイド336に供給された制御電流Iをこの演算された制御電流Iに等しくなるよう調整すれば、吸入圧力Psが目標吸入圧力Pssに近付くように弁体314が動作し、クランク圧力Pcが調整される。すなわち、吸入圧力Psが目標吸入圧力Pssに近付くように吐出容量が制御される。
【0052】
このように吸入圧力Psを目標吸入圧力Pssに近付けるような制御では、図3を参照すれば、吐出圧力Pdの高低に応じて、目標吸入圧力Pssの設定範囲、換言すれば吸入圧力Psの制御範囲を高低スライド可能である。すなわち、任意の吐出圧力Pd1のときの吸入圧力Psの制御範囲は、吐出圧力Pd1よりも低い吐出圧力Pd2のときの吸入圧力Psの制御範囲よりも高圧側にスライドさせられる。
【0053】
また式(3)から、シール面積Svを小さく設定すれば、小さな電磁力F(I)で、任意の吐出圧力Pdにおける目標吸入圧力Pssの制御範囲を拡大可能であることがわかる。上記目標吸入圧力Pssの制御範囲のスライドと、この制御範囲の拡大との相乗効果を発揮させれば、目標吸入圧力Pssの制御範囲が大幅に拡大される。
なお、ソレノイド336への通電量を増加させると、吸入圧力Psを低下させることができる。一方、ソレノイド336への通電量をゼロとすれば、開放ばね328の付勢力fs1は、圧縮コイルばね350の付勢力fs2よりも大きいため、弁体314が弁孔304から離間して弁孔304が強制開放される。これにより吐出室142からクランク室105に冷媒が導入され、吐出容量は最小に維持される。
【0054】
図4は、制御装置400Aを含む容量制御システムAの概略構成を示したブロック図である。
容量制御システムAは、1つ以上の外部情報を検知する外部情報検知手段を有し、外部情報検知手段は、蒸発器目標出口空気温度設定手段401及び蒸発器温度センサ402を有する。
【0055】
蒸発器目標出口空気温度設定手段401は、車室内温度設定を含む種々の外部情報に基づいて、圧縮機100の吐出容量制御の最終的な目標となる蒸発器18の出口での空気温度Teの目標値(蒸発器目標出口空気温度)Tesを設定し、そして、設定した蒸発器目標出口空気温度Tesを外部情報の1つとして制御装置400Aに入力する。蒸発器目標出口空気温度設定手段401は、例えば、空調システム全体の動作を制御するエアコン用ECUの一部により構成することができる。
【0056】
蒸発器温度センサ402は、空気回路における蒸発器18の出口に設置され、蒸発器18を通過した直後の空気温度Teを検知する(図1参照)。検知された空気温度Teは、外部情報の1つとして制御装置400Aに入力される。
更に、外部情報検知手段は吐出圧力検知手段を含み、吐出圧力検知手段は、その一部を構成する圧力センサ403を有する。吐出圧力検知手段は、弁体314に作用する吐出圧力Pdを検知するための手段である。圧力センサ403は、放熱器14の入口側に装着され、当該部位における冷媒の圧力(以下、検知圧力Phという)を検知し、制御装置400Aに入力する(図1参照)。
【0057】
なお、吐出圧力Pd及び検知圧力Phは、冷凍サイクル10の吐出圧力領域の圧力という一般的な意味においては、いずれも吐出圧力である。冷凍サイクル10の吐出圧力領域とは、吐出室142から放熱器14の入口までの領域をさす。
これに対し、冷凍サイクル10の吸入圧力領域とは、蒸発器18の出口から吸入室140に亘る領域をさす。また、吐出圧力領域には、圧縮工程にあるシリンダボア101aも含まれ、吸入圧力領域には、吸入工程にあるシリンダボア101aも含まれる。
【0058】
制御装置400Aは、例えば、独立したECU(電子制御ユニット)によって構成されるが、エアコン用ECU又はエンジン114の動作を制御するエンジン用ECUに含ませてもよい。また、蒸発器目標出口空気温度設定手段401を制御装置400Aに含ませてもよい。
制御装置400Aは、目標吸入圧力設定手段410、圧力補正手段411、制御信号演算手段412及びソレノイド駆動手段413を有する。
【0059】
目標吸入圧力設定手段410は、蒸発器温度センサ402によって実際に検知された蒸発器出口空気温度Teと、蒸発器目標出口空気温度設定手段401によって設定された蒸発器目標出口空気温度Tesとの偏差ΔTに基づいて、制御目標となる吸入圧力Psの目標値である目標吸入圧力Pssを設定する。
つまり、目標吸入圧力設定手段410にとって、蒸発器温度センサ402及び蒸発器目標出口空気温度設定手段401は、外部情報としての蒸発器出口空気温度Te及びその目標値である蒸発器目標出口空気温度Tesをそれぞれ提供する外部情報検知手段である。
【0060】
そして、目標吸入圧力設定手段410は、設定した目標吸入圧力Pssを制御信号演算手段412に入力する。
圧力補正手段411は、圧力センサ403とともに吐出圧力検知手段を構成しており、圧力センサ403によって検知された検知圧力Phを補正することにより、吐出圧力Pdを演算により求める。そして、圧力補正手段411は、演算した吐出圧力Pdを制御信号演算手段412に入力する。
【0061】
このように検知圧力Phを補正するのは、吐出室142と放熱器14の入口との間では、同じ吐出圧力領域であっても、特に熱負荷が大きいときには、冷媒の圧力に差が生じるためである。吐出圧力Pdは、検知圧力Phを変数とする関数f(Ph)によって演算することができる。関数f(Ph)は予め求めておくことができる。
従って、圧力センサ403の設置位置は、放熱器14の入口側に限定されず、冷凍サイクル10の高圧領域のいずれかの部位に設置してもよい。この場合も、圧力センサ403によって検知された圧力を補正することにより、圧力補正手段411が吐出圧力Pdを演算により求める。
【0062】
なお、冷凍サイクル10の高圧領域とは、冷凍サイクル10の吐出圧力領域に、更に膨張器16の入口までの領域を加えた領域である。
制御信号演算手段412は、目標吸入圧力設定手段410によって設定された目標吸入圧力Pssと、吐出圧力検知手段によって検知された吐出圧力Pdとから所定の演算式により、ソレノイド336に供給されるべき制御電流Iを演算する。
【0063】
制御信号演算手段412は、演算された制御電流Iが、予め定められた下限値Iminよりも小さいときには、演算された制御電流Iを下限値Iminで置き換える。また、制御信号演算手段412は、演算された制御電流Iが可変の上限値Imaxよりも大きいときには、演算された制御電流Iを可変上限値Imaxで置き換える。これらの場合を除き、制御信号演算手段412は、演算された制御電流Iをそのまま制御電流Iとして設定する。
【0064】
そして、制御信号演算手段412は、設定された制御電流Iを吐出容量制御信号としてソレノイド駆動手段413に入力する。
ソレノイド駆動手段413は、吐出容量制御信号に基づき、制御信号演算手段412で設定された制御電流Iに等しくなるよう、ソレノイド336に制御電流Iを供給し、容量制御弁300を駆動する。つまり、制御信号演算手段412及びソレノイド駆動手段413は、吐出圧力検知手段によって検知された吐出圧力Pd及び目標吸入圧力設定手段410によって設定された目標吸入圧力Pssに基づいて、容量制御弁300のソレノイド336に供給される制御電流I若しくは当該制御電流Iに関連するパラメータを調整する制御電流調整手段を構成する。
【0065】
図5は、ソレノイド駆動手段413の構成を示す。
ソレノイド駆動手段413は、スイッチング素子420を有し、スイッチング素子420は、電源450とアースとの間を延びる電源ラインに、容量制御弁300のソレノイド336と直列に介挿されている。スイッチング素子420は、電源ラインを断続可能であり、スイッチング素子420の動作によって、所定の駆動周波数(例えば400〜500Hz)のPWM(パルス幅変調)にてソレノイド336に制御電流Iが供給される。
【0066】
なお、フライホイール回路を形成すべく、ソレノイド336と並列にダイオード421が接続される。
スイッチング素子420には、制御信号発生手段422から所定の駆動信号が入力され、この信号に対応して、PWMにおけるデューティ比が変更される。
また、電源ラインには、電流センサ423が介挿され、電流センサ423は、ソレノイド336を流れる制御電流Iを検知する。電流センサ423については、制御電流Iを検知することができればその設置箇所は特に限定されず、制御電流Iに相当する物理量を検知可能であれば電流計に限られず、電圧計であってもよい。
【0067】
電流センサ423は、制御電流比較判定手段424に検知した制御電流Iを入力し、制御電流比較判定手段424は、制御信号演算手段412によって設定された制御電流Iと、電流センサ423によって検知された制御電流Iとを比較する。そして、制御電流比較判定手段424は、比較結果に基づいて、検知された制御電流Iが制御電流Iに近付くように、制御信号発生手段422が発生する駆動信号を変更する。
【0068】
すなわち、ソレノイド駆動手段413は、所定の駆動周波数(例えば400〜500Hz)のPWM(パルス幅変調)にてデューティ比を変更することで、ソレノイド336に供給される制御電流Iを調整する。そして、ソレノイド駆動手段413は、ソレノイド336に流れる制御電流Iを検知して、検知した制御電流Iが制御信号演算手段412で演算された制御電流Iに近付くようにフィードバック制御する。
【0069】
なお、ソレノイド駆動手段413がデューティ比で制御電流Iを調整する場合、制御信号演算手段412は、制御電流Iと関連を有するパラメータとしてデューティ比を演算してもよく、この場合、制御信号演算手段412によって生成される吐出容量制御信号は、ソレノイド駆動手段413に所定のデューティ比で制御電流Iを供給させるための信号である。
【0070】
つまり、吐出容量制御信号は、制御電流Iに対応する信号であってもよいし、制御電流Iと関連のあるデューティ比等のパラメータに対応する信号であってもよい。
以下、上述した容量制御システムAの動作(使用方法)を説明する。
図6は制御装置400Aが実行するメインルーチンを示したフローチャートである。メインルーチンは、例えば車両のエンジンキーがオン状態になると起動され、オフ状態になると停止される。
【0071】
このメインルーチンでは、起動すると先ず、初期条件が設定される(S10)。具体的には、フラグF1,F2がゼロに、制御電流の可変上限値Imaxが初期値Imaxiに、目標吸入圧力Pssが初期値Pssに設定される。初期値Pssは、例えば、外気温度Tambに応じて次式により設定される。
Pss0=K1・Tamb+K2 (K1,K2は定数)
また、S10では、制御電流Iが、圧縮機100の吐出容量が最小容量となるIに設定される。Iはゼロであってもよい。
【0072】
次に、車両用空調システムのエアコンスイッチ(A/C)がオンであるか否かが判定される(S11)。即ち、乗員が、車室の冷房又は除湿を要求しているか否かが判定される。エアコンスイッチがオンの場合(Yesの場合)、圧力補正手段411は、圧力センサ403によって検知された検知圧力Phを読み込み(S12)、吐出圧力Pdを演算する(S13)。
【0073】
演算された吐出圧力Pdは、予め設定された上限圧力PdHよりも小さいか否か比較判定される(S14)。
S14の判定結果がYesの場合、フラグF1が0であるか否かが判定される(S15)。初期条件ではF1=0であるので、S15の判定結果はYesとなる。従って、吸入圧力制御ルーチンS16が実行された後、S11が再び実行される。
【0074】
S14の判定結果がNoの場合、フラグF1が1に設定され(S17)、制御電流上限値減少ルーチンS18を経て、吸入圧力制御ルーチンS16が実行される。
フラグF1が1に設定されている間は、S15の判定結果がNoになり、制御電流上限値増大ルーチンS19を経て、吸入圧力制御ルーチンS16が実行される。なお、フラグF1を0に設定するステップは、制御電流上限値増大ルーチンS19に含まれている。
【0075】
エアコンスイッチがオフにされS11の判定結果がNoになると、S10が実行され、フラグF1,F2、可変上限値Imax、目標吸入圧力Pss及び制御電流Iが初期値にそれぞれリセットされる。
かくして上述したメインルーチンでは、吸入圧力制御を実行している間、吐出圧力Pdが上限圧力PdHを超えないようにソレノイド336に供給される制御電流Iの可変上限値Imaxが制限される。そして、可変上限値Imaxが制限された後は、吐出圧力Pdが上限圧力PdHを超えないように、ソレノイド336に供給される制御電流Iの可変上限値Imaxが増大される。
【0076】
図7は、図6中の吸入圧力制御ルーチンS16の詳細を示すフローチャートである。
吸入圧力制御ルーチンS16では、まず、フラグF2が0であるか否かが判定される(S100)。初期条件ではフラグF2は0であるので判定結果はYesとなり、タイマがスタートさせられて経過時間tの計測が開始され(S101)、フラグF2が1に設定される(S102)。
【0077】
それから、目標吸入圧力設定ルーチンS103で制御目標となる目標吸入圧力Pssが設定された後、設定された目標吸入圧力PssとメインルーチンのS13で読み込まれた吐出圧力Pdから、所定の演算式に基づいて制御電流Iが演算される(S104)。なお、S104で用いられる演算式は、前述した式(4)に相当する。
S104で演算された制御電流Iは、予め設定された下限値Imin以上であるか否か比較判定される(S105)。S105の判定の結果、演算された制御電流Iが下限値Iminよりも小さい場合(Noの場合)、下限値Iminが制御電流Iとして読み込まれ(S106)、制御電流Iが出力される(S107)。
【0078】
一方、S105の判定の結果、演算された制御電流Iが下限値Imin以上であれば(Yesの場合)、演算された制御電流Iは、予め設定された可変上限値Imax以下であるか否か比較判定される(S108)。S108の判定の結果、制御電流Iが可変上限値Imaxを超えていれば(Noの場合)、可変上限値Imaxが制御電流Iとして読み込まれ(S109)、制御電流Iが出力される(S107)。
【0079】
すなわち、S107では、演算された制御電流IがImin≦I≦Imaxの関係を満たしていれば、S104にて演算された制御電流Iがそのまま出力され、それ以外の場合には、下限値Imin若しくは可変上限値Imaxが制御電流Iとして出力される。
2回目の吸入圧力制御ルーチンS16では、前回のS102でフラグF2が1に設定されたためS100の判定結果がNoとなり、タイマにより計測された経過時間tが所定時間t1に到達したか否かが判定される(S110)。S110の判定の結果、タイマのスタートから所定時間t1経過していなければ(Yesの場合)、制御電流演算ステップS104等を経て、プログラムはメインルーチンに戻る。
【0080】
一方、タイマの経過時間tが所定時間t1を超えると、S110の判定結果がNoとなり、タイマがリセットされ(S111)、フラグF2が0に設定される(S112)。この後、制御電流演算ステップS104等を経て、プログラムはメインルーチンに戻るけれども、次に吸入圧力制御ルーチンS16が実行されるときには、S100の判定結果がYesとなるので、目標吸入圧力設定ルーチンS103が実行される。
【0081】
つまり、目標吸入圧力設定ルーチンS103は所定時間t1毎に実行され、それによって目標吸入圧力Pssは所定時間t1毎に更新される。更新時間としての所定時間t1は、例えば5秒に設定される。そして制御装置400Aでは、メインルーチンのS13で常時読込まれる吐出圧力Pdと、所定時間t1ごとに更新される目標吸入圧力Pssとに基づいて、吸入圧力Psが目標吸入圧力Pssに近付くように制御電流Iが演算される。換言すれば、目標吸入圧力Pssが変更されなくても、吐出圧力Pdが変化すれば制御電流Iが変更され、これにより吸入圧力Psが目標吸入圧力Pssに近付くように吐出容量が制御される。
【0082】
図8は、図7中の目標吸入圧力設定ルーチンS103の詳細を示すフローチャートである。
目標吸入圧力設定ルーチンS103では、まず圧縮機100の吐出容量制御の目標となる蒸発器目標出口空気温度Tesが設定され読み込まれる(S200)。次に、蒸発器温度センサ402によって検知された蒸発器出口空気温度Teが読み込まれ(S201)、蒸発器目標出口空気温度Tesと、実際の蒸発器出口空気温度Teとの偏差ΔTが演算される(S202)。そして、演算された偏差ΔTに基づいて、例えばPI制御のための所定の演算式により目標吸入圧力Pssが演算される(S203)。
【0083】
なお、S203の演算式中、左側に目標吸入圧力Pssが含まれているが、目標吸入圧力Pssの初期値はPssである。
また、目標吸入圧力設定ルーチンS103を1回実行するごとに、S202で偏差ΔTが演算され、S203の演算式中の偏差ΔTの添字nは、偏差ΔTが今回のS202で演算されたものであることを示す。同様に添字n−1は、偏差ΔTが前回のS202で演算されたものであることを示す。
【0084】
この後、演算された目標吸入圧力Pssは、予め設定された目標吸入圧力Pssの下限値PsL以下であるか否か比較判定される(S204)。S204の判定結果がYesであれば、下限値PsLが目標吸入圧力Pssとして読み込まれてから(S205)、プログラムは、吸入圧力制御ルーチンS16に戻り、S104が実行される。このときのS104では、目標吸入圧力Pssとしての下限値PsLと吐出圧力Pdとに基づいて制御電流Iが演算される。
【0085】
一方、S204の判定結果がNoの場合、S203で演算された目標吸入圧力Pssが維持されたまま、S104が実行される。このときのS104では、S203で演算された目標吸入圧力Pssと吐出圧力Pdとに基づいて制御電流Iが演算される。
このように、目標吸入圧力設定ルーチンS103によれば、蒸発器目標出口空気温度設定手段401で設定された蒸発器目標出口空気温度Tesと、蒸発器温度センサ402によって検知された蒸発器出口空気温度Teとの偏差ΔTに基づいて、目標吸入圧力Pssが設定される。従って、目標吸入圧力設定ルーチンS103によれば、蒸発器出口空気温度Teが蒸発器目標出口空気温度Tesに近付くように吐出容量が制御される。この結果として、車室内が所定の空調状態に維持され、車室の快適性が確保される。なお、蒸発器目標出口空気温度Tesは、空調の設定や熱負荷条件等によって変更される。
【0086】
図9は、図6中の制御電流上限値減少ルーチンS18の詳細を示すフローチャートである。
制御電流上限値減少ルーチンS18では、まず、現在設定されている制御電流Iが読み込まれる(S230)。それから、読み込まれた制御電流Iから所定値ΔI1を減算することにより、変更値Ia1が演算される(S231)。
【0087】
演算された変更値Ia1は、予め設定された制御電流Iの下限値Iminよりも大きいか否か比較判定される(S232)。S232の判定結果がYesの場合、つまり演算された変更値Ia1が下限値Iminよりも大きい場合、現在の可変上限値Imaxが、変更値Ia1に書き換えられて更新され(S233)、それから吸入圧力制御ルーチンS16が実行される。
【0088】
S232の判定結果がNoの場合、制御電流Iとして0が読み込まれてから(S234)、制御電流Iが出力される(S235)。つまり、S231で演算された変更値Ia1が下限値Imin以下の場合、ソレノイド336に供給される制御電流Iがゼロになる。そして、S235の後、メインルーチン、つまり吐出容量制御が停止される(S236)。
【0089】
上述した制御電流上限値減少ルーチンS18によれば、メインルーチンのS14で吐出圧力Pdが上限圧力PdH以上であると判定された場合、現在の制御電流Iを低減させることにより変更値Ia1を演算し、制御電流Iの可変上限値Imaxを変更値Ia1に更新するため、吐出圧力Pdが上限圧力PdH以上にならないよう吐出容量が減少される。
一方、変更値Ia1が下限値Imin以下となった場合は、車両、空調システム又は圧縮機100に何らかの異常が発生したものとして、圧縮機100が停止される。
【0090】
図10は、図6中の制御電流上限値増大ルーチンS19の詳細を示すフローチャートである。
制御電流上限値増大ルーチンS19では、まず、現在設定されている制御電流Iが読み込まれる(S250)。それから、読み込まれた制御電流Iに所定値ΔI1を加算することにより、変更値Ia2が演算される(S251)。
【0091】
演算された変更値Ia2は、可変上限値Imaxの初期値Imaxi以上であるか否か比較判定される(S252)。S252の判定結果がYesの場合、つまり演算された変更値Ia2が初期値Imaxi以上である場合、現在の可変上限値Imaxが、初期値Imaxiに書き換えられて更新されるとともに(S253)、フラグF1が0に設定され(S254)、それから、吸入圧力制御ルーチンS16が実行される。
【0092】
S252の判定結果がNoの場合には、現在の可変上限値Imaxが、演算された変更値Ia2に書き換えられて更新されてから(S255)、吸入圧力制御ルーチンS16が実行される。
つまり、吐出圧力Pdが上限圧力PdH以上に一度なると、メインルーチンのS17で状態値としてのフラグF1が1に設定され、その後吐出圧力Pdが上限圧力PdHより低下した場合、S15により当該制御電流上限値増大ルーチンS19が実行される。制御電流上限値増大ルーチンS19では、現在の制御電流Iを増加させることにより変更値Ia2を演算し、制御電流Iの可変上限値Imaxを変更値Ia2に更新し、更新は、可変上限値Imaxがその初期値Imaxi以上になるまで継続される。これにより、吐出圧力Pdが上限圧力PdH以上にならない程度で可変上限値Imaxが増加され、これにより本来の空調制御に使用可能な制御電流Iの範囲が拡大される。
【0093】
上述した可変容量圧縮機100のための容量制御弁300では、吐出圧力Pdに対し、吸入圧力Ps及びソレノイド336の電磁力F(I)が対抗するように弁体314に作用する。かかる容量制御弁300を用いた可変容量圧縮機100のための容量制御システムAの場合、吸入圧力Psの目標値である目標吸入圧力Pssと吐出圧力Pdとに基づいて、ソレノイド336に供給される制御電流Iを調整することにより、目標吸入圧力Pssの設定範囲、換言すれば、吸入圧力Psの制御範囲が拡大される。
【0094】
一方、この容量制御弁300では、弁体314の第2受圧面356の面積(感圧面積Sr1)を第1受圧面354の面積(シール面積Sv)よりも大きくすることにより、弁体314に対して作用する吸入圧力Psに基づく荷重が増大する。このため、この容量制御弁300を用いた容量制御システムAにあっては、吸入圧力Psの変化に対する弁体314の応答性が向上し、吸入圧力Psの制御安定性が向上する。
【0095】
換言すれば、上述した可変容量圧縮機100によれば、当該可変容量圧縮機100が上述した容量制御弁300を具備することから、吸入圧力制御の安定性を損なうことなく、吸入圧力Psの制御範囲が拡大される。また、可変容量圧縮機100のための容量制御システムAでは、上述した容量制御弁300を用いることにより、吸入圧力制御の安定性を損なうことなく、吸入圧力Psの制御範囲が拡大される。
【0096】
以下、本発明の第2実施形態に係る可変容量圧縮機のための容量制御システムBについて説明する。図1を参照すると、容量制御システムBは、容量制御弁300に代えて、容量制御弁500を有する。図11は、容量制御弁500の構成を示しているが、容量制御弁500において、容量制御弁300と同じ構成については、同じ符号を付して説明を省略する。
【0097】
容量制御弁500では、バルブハウジング302が、弁孔304が形成された一端側に、感圧室502を更に形成する部分を有する。弁孔304と感圧室502との間は、バルブハウジング302の区画壁によって区画され、バルブハウジング302の周壁には、弁孔304の他端に連通するように、入口ポート504が設けられている。入口ポート504には給気通路160の上流側部分が接続され、入口ポート504及び給気通路160の上流側部分を通じて、弁孔304は吐出室142と連通する。
【0098】
一方、感圧室502は、バルブハウジング302に形成された内部流路505を通じて出口ポート322と連通し、このため、感圧室502内の圧力は、クランク圧力Pcと等しくなる。
感圧室502の内部には、感圧器506が収容されている。感圧器506は、円板形状のベース508を有し、ベース508は、バルブハウジング302の周壁の開口端に対して圧入され、これにより気密に嵌合される。ベース508の内面の中央からは、円柱形状のストッパ510が一体に突出し、ストッパ510には、圧縮コイルばね512の一端側に嵌められている。
【0099】
また、ベース508の内面上には、ベローズ514の一端が気密に固定され、ベローズ514は、ストッパ510及び圧縮コイルばね512を囲んでいる。圧縮コイルばね512及びベローズ514は、バルブハウジング302の軸線方向、則ち、開弁方向又は閉弁方向に伸縮可能である。
ベローズ514の他端にはキャップ516が配置され、キャップ516は、円筒部と、円筒部の一端に連なるフランジ部と、円筒部の他端を閉塞する端壁部517とからなる。キャップ516のフランジ部は、ベローズ514に気密に固定されて感圧器506の端面を形成し、一方、キャップ516の円筒部及び端壁部517は、感圧器506の端面からストッパ510に向けて凹んだ凹部を形成している。
【0100】
感圧器506の内部は真空(減圧状態)にされ、感圧器506は、周囲の圧力、即ち感圧室502の圧力に応じて伸縮する。感圧器506の伸縮に伴い、キャップ516は、弁体314に対し接離するように開弁方向又は閉弁方向に変位する。ただし、感圧器506の伸縮量には限界があり、キャップ516の端壁部517がストッパ510に当接することにより、感圧器506の収縮は制限される。
【0101】
弁孔304と感圧室502との間を区画する区画壁には、弁孔304の他端と感圧室502との間を延びる挿通孔518が形成され、挿通孔518には、伝達ロッド520が摺動自在に挿通されている。なお、弁孔304と感圧室502との間の気密性は、伝達ロッド520と挿通孔518との間の隙間を十分に小さくすることによって確保されている。
伝達ロッド520は、弁体314の小径部316の端面から同軸且つ一体に延び、伝達ロッド520の外径は、小径部316の外径及び弁孔304の内径よりも小さい。伝達ロッド520の先端は、感圧室502内に突出し、感圧器506のキャップ516の凹部内に到達している。
【0102】
キャップ516の端壁部517は、感圧器506の伸縮量に対応して、伝達ロッド520の先端に対して接離可能である。図12は、感圧器506が収縮して、伝達ロッド520の先端がキャップ516の端壁部517から離間した状態を示しており、この状態では、感圧器506と弁体514との間は切断されている。
一方、図13は、図12に比べて感圧器506が伸張して、伝達ロッド520の先端が、キャップ516の端壁部517に対し当接した状態を示しており、この状態では、感圧器506と弁体514との間が伝達ロッド520を介して連結されている。このように、クランク圧力Pcが低下して感圧器506のキャップ516が弁体314に向けて変位し、キャップ516の端壁部517が伝達ロッド520の先端に当接すると、伝達ロッド520を介して弁体314が開弁方向に押圧される。
【0103】
伝達ロッド520の先端は、感圧器506が最も収縮したときでもキャップ516の円筒部から抜けることはなく、キャップ516の円筒部は、キャップ516の端壁部517が伝達ロッド520の先端に対して接離する際にガイドとして機能する。
なお、感圧器506のベース508の圧入量は、容量制御弁500が所望の動作をするように調整される。
【0104】
上述した容量制御弁500にあっては、弁体314の小径部316が弁孔304を閉じた時に、弁孔304を閉じるために必要なシール面積Svは、容量制御弁300の場合と同じく、弁孔304の開口面積と等しい。
ただし、容量制御弁500では、小径部316の端面に伝達ロッド520が連なっている。このため、小径部316が弁孔304を閉じた時に、小径部316の端面において吐出圧力Pdが作用する領域を第1受圧面522と呼ぶこととすると、第1受圧面522は環状である(図11参照)。そして、第1受圧面522の面積は、伝達ロッド520の横断面積をSr2とすると、シール面積Svから伝達ロッド520の横断面積Sr2を差し引いた値(Sv−Sr2)となる。
【0105】
そして、感圧室502内において、キャップ516の端壁部517から伝達ロッド520の先端が離間しているときには、伝達ロッド520の先端面に対して、クランク圧力Pcが開弁方向に作用する。
一方、キャップ516の端壁部517が伝達ロッド520の先端に当接しているときには、感圧器506の圧縮コイルばね512の付勢力fs3が伝達ロッド520を介して弁体314に伝達されるが、付勢力fs3は、クランク圧力Pcによって減殺される。このときの減殺量は、クランク圧力Pcと有効面積Sbとの積で表される。有効面積Sbとは、ベローズ514において、クランク圧力Pcが収縮方向に作用する領域の面積である。
【0106】
つまり、弁体314には、付勢力fs3に基づく押圧力が伝達ロッド520を介して開弁方向に作用するが、この押圧力は、クランク圧力Pcが所定値から低くなるのにつれて大きくなる。
容量制御弁500における、上述した弁体314に作用する力の関係を数式にまとめると以下のようになる。
【0107】
【数2】

【0108】
上記の式(5)は、伝達ロッド520の先端が感圧器506のキャップ516の端壁部517から離間しているときの関係を表し、式(6)は、Pc=Ps+αとして式(5)を変形したものである。そして、式(6)において、F(I)=A・I(ただしAは定数である。)とすると、式(7)及び(8)が得られる。
上記の式(9)は、伝達ロッド520の先端が感圧器506のキャップ516の端壁部517に対し当接しているときの関係を表す。そして、この容量制御弁500では、Sb=Sr1−Sv+Sr2となるようにシール面積Sv、感圧面積Sr1及び感圧面積Sr2が設定されるのが好ましく、この場合、式(9)は式(10)に変形される。
【0109】
そして、式(10)において、F(I)=A・I(ただしAは定数である。)とすると、式(11)及び(12)が得られる。
式(8)及び式(12)から、容量制御弁500を用いた場合も、吐出圧力Pdと、電磁力F(I)即ち制御電流Iが決まれば、吸入圧力Psが決まることがわかる。そして、吸入圧力Psの目標値として目標吸入圧力Pssを予め決定し、変動する吐出圧力Pdの情報がわかれば、発生させるべき電磁力F(I)つまり制御電流Iを演算できる。
【0110】
従って、容量制御弁500を用いた場合でも、容量制御弁300を用いた場合と同様に、吸入圧力Psの制御範囲を高低スライド可能であり、また、式(7)から、シール面積Svと感圧面積Sr2との差を小さく設定すれば、小さな電磁力F(I)で、任意の吐出圧力Pdにおける目標吸入圧力Pssの制御範囲を拡大可能である。
ここで、図14は、容量制御弁500を用いた場合における、目標吸入圧力Pssと、吐出圧力Pdと、制御電流Iとの関係を示している。目標吸入圧力Pssが低下するに連れて、制御電流Iが増加するが、吐出圧力Pdの大きさにかかわらず、目標吸入圧力Pssが動作切換点Psbよりも低くなると、目標吸入圧力Pssの減少量に対する制御電流Iの増加量の割合が大きくなる。
【0111】
これは、吸入圧力Psが動作切換点Psb以上であるときには、感圧器506と弁体314との間が切断されており、弁体314に作用する力の関係が式(5)〜(8)で示されるのに対し、吸入圧力Psが動作切換点Psbよりも低くなると、感圧器506と弁体314との間が連結され、弁体314に作用する力の関係が式(9)〜(12)で示されることに起因している。
【0112】
ここで、動作切換点Psbは、式(5)と式(9)に基づいて、Psb=fs3/Sbで示され、吐出圧力Pdの高低に係わらず一定である。
容量制御システムBは、容量制御システムAと同様に、図6のメインルーチン及び図7の吸入圧力制御ルーチンS16を実行する。図15は、容量制御システムBが、吸入圧力制御ルーチンS16を実行するときに、目標吸入圧力設定ルーチンS103に代えて実行する目標吸入圧力設定ルーチンS120のフローチャートを示している。目標吸入圧力設定ルーチンS120は、S203とS204との間に、S206〜S209を更に有する点において、目標吸入圧力設定ルーチンS103と異なる。
【0113】
具体的には、S206では、S203で演算された目標吸入圧力Pssが、予め設定されている下限閾値P1以下であるか否か、又は、予め設定されている上限閾値P2以上であるか否か比較判定される。S206の判定結果がYesの場合にはS204が実行される。
ここで、下限閾値P1及び上限閾値P2は、動作切換点Psbのばらつきを考慮して設定され、例えば、下限閾値P1は、容量制御弁500の動作切換点Psbのばらつき範囲の下限値であり、上限閾値P2は、動作切換点Psbのばらつき範囲の上限値である。このため、下限閾値P1、上限閾値P2及び動作切換点Psbは、P1<Psb<P2で示される関係を満足する。動作切換点Psbのばらつきは、容量制御弁500の製造上のばらつきにより発生するものである。
【0114】
S206の判定結果がNoの場合には、S207にて、蒸発器出口空気温度Teが、蒸発器目標出口空気温度Tesよりも高いか否か比較判定される。S207の判定結果がYesの場合、即ち、蒸発器出口空気温度Teが蒸発器目標出口空気温度Tesよりも高い場合、S208にて、下限閾値P1が目標吸入圧力Pssとして設定される。一方、S207の判定結果がNoの場合、S209にて、上限閾値P2が目標吸入圧力Pssとして設定される。
【0115】
これにより、S204において下限値PsLと比較される目標吸入圧力Pssは、下限閾値P1以下若しくは上限閾値P2以上となり、P1<Pss<P2の範囲には、目標吸入圧力Pssは設定されない。
これは、感圧器506の動作切換点Psbのばらつきにより、P1<Pss<P2の範囲では、容量制御弁500によって、感圧器506が弁体314に連結されている状態と、非連結である状態とが有り得るため、目標吸入圧力Pssを決定したとしても、制御電流Iを一義的に決定不可能であることによる。
【0116】
そこで、この目標吸入圧力設定ルーチンS130では、S203で演算された目標吸入圧力PssがP1<Pss<P2の範囲にある場合、蒸発器目標出口空気温度Tesが現実の蒸発器出口空気温度Teよりも低いときには、吐出容量を増大する必要があると判断して、目標吸入圧力Pssを下限閾値P1に設定する。一方、蒸発器目標出口空気温度Tesが現実の蒸発器出口空気温度Te以上であるときには、吐出容量を減少させる必要があると判断して、目標吸入圧力Pssを上限閾値P2に設定する。
【0117】
これにより、目標吸入圧力PssがP1<Pss<P2の範囲に設定されることを回避し、Pss≦P1の範囲に設定されれば、感圧器506と弁体314とが確実に連結されているものとして、或いは、P2≦Pssの範囲に設定されれば、感圧器506と弁体314とが確実に非連結であるとして、目標吸入圧力Pssに基づいて制御電流Iが一義的に決定される。
【0118】
図16は、上述の目標吸入圧力設定ルーチンS130を受けて、容量制御システムBが実行する制御電流演算ルーチンS130のフローチャートを示しており、制御電流演算ルーチンS130は、吸入圧力制御ルーチンS16の制御電流演算ステップS104に代えて実行される。
制御電流演算ルーチンS130では、まず、目標吸入圧力Pssが、下限閾値P1以下であるか否か比較判定される(S260)。S260の判定結果がNoの場合、制御電流Iが所定の演算式に基づいて演算される(S261)。S261で用いられる演算式は、前述の式(8)に相当し、S261では、弁体314と感圧器506とが切り離されている状態であることを前提として、制御電流Iが演算される。
【0119】
一方、S260の判定結果がYesの場合、S261とは異なる演算式に基づいて制御電流Iが演算される(S262)。S262で用いられる演算式は、前述の式(12)に相当し、S262では、弁体314と感圧器506とが連結されている状態であることを前提として、制御電流Iが演算される。
かくして、容量制御システムBにおいては、容量制御弁500の吸入圧力制御特性が、目標吸入圧力Pssが下限閾値P1以下であるか上限閾値P2以上であるかに応じて変更され、目標吸入圧力Pssの設定を通じて選択された吸入圧力制御特性に応じて制御電流Iが演算される。
【0120】
なお、S202において偏差ΔTがゼロに近付き、目標吸入圧力Pssが下限閾値P1と上限閾値P2に交互に繰り返し設定されるような場合には、蒸発器目標出口空気温度設定手段401で設定された蒸発器目標出口空気温度Tesを変更するような指令信号を、容量制御システムBの制御装置400Bを構成するECUからエアコン用ECUに出力させてもよい。これにより、目標吸入圧力Pssが、P1<Pss<P2の範囲外で収束するようになり、蒸発器出口空気温度Teの変動が抑制される。
【0121】
上述した可変容量制御システムBのための容量制御弁500においても、弁体314の第2受圧面356の面積(感圧面積Sr1)をシール面積Sv若しくは第1受圧面522の面積よりも大きくすることにより、弁体314に対して作用する吸入圧力Psに基づく荷重が増大する。このため、この容量制御弁500を用いた容量制御システムBにあっては、吸入圧力Psの変化に対する弁体314の応答性が向上し、吸入圧力Psの制御安定性が向上する。
【0122】
また、容量制御弁500にあっては、弁体314と感圧器506とが連結されている間、感圧器506を介して弁体314にクランク圧力Pcが作用することとなるけれども、これは、Pc=Ps+αの関係を考慮すれば、感圧器506を介して弁体314に吸入圧力Psが作用しているとも考えられる。
このような考えによれば、容量制御弁500にあっては、感圧器506の有効面積Sbだけ、弁体314に対して吸入圧力Psが閉弁方向に作用する面積が増大しているといえる。そして、これにより、容量制御弁500にあっては、吸入圧力Psの変化に対する弁体314の応答性が向上し、吸入圧力Psの制御安定性が向上している。
【0123】
上述した容量制御弁500では、感圧器506の変位部、即ちキャップ516の端壁部517と、弁体314とが、これらの間の距離に対応して、伝達部材としての伝達ロッド520を介して断続的に連結される。弁体314の動作特性は、弁体314が感圧器506のキャップ516の端壁部517と連結されているときと、切断されているときとでは異なる。かかる容量制御弁500を用いた容量制御システムBでは、弁体314の動作特性の相違を利用することによって、吐出容量の制御特性が切り換えられる。
【0124】
具体的には、容量制御弁500の場合、式(7)と式(11)とを比較すると、式(11)におけるIの係数(−A/Sr1)及びPdの係数((Sv−Sr2)/Sr1)の絶対値が、式(7)におけるIの係数(−A/(Sv−Sr2))及びPdの係数(=1)の絶対値よりもそれぞれ小さい。なぜならば、Sr2<Sv<Sr1の関係が成立しているからである。
【0125】
この場合、図14に示したように、弁体314と感圧器506とが連結されることにより、非連結のときに比べて、制御電流I又は吐出圧力Pdの変化量に対する目標吸入圧力Pssの変化量の割合が格段に小さくなり、吸入圧力Psの制御精度が高くなる。
上述した容量制御弁500では、感圧器506において、クランク圧力Pcが収縮方向に作用する有効面積Sbは、特に限定されないけれども、弁体314に対してクランク圧力Pcが全体として作用しないように、有効面積Sbを調整することが好ましい。具体的には、前述したようにSb=Sr1−Sv+Sr2となるようにシール面積Sv、感圧面積Sr1及び感圧面積Sr2を設定すれば、これにより弁体314の動作特性に与えるクランク圧力Pcの影響が排除されて、弁体314の動作特性が吸入圧力Ps、吐出圧力Pd及び電磁力F(I)に基づいてほぼ決定され、吸入圧力制御の安定性が更に向上するからである。
【0126】
また、閉弁方向にクランク圧力Pcが全体として作用するように感圧器506の有効面積Sbを調整してもよい。具体的には、Sb>Sr1−Sv+Sr2となるようにシール面積Sv、感圧面積Sr1及び感圧面積Sr2を設定してもよい。この場合、弁体314が開弁方向に過度に移動することが防止され、弁体314の動作特性が安定する。これによっても、吸入圧力制御の安定性が更に向上する。
【0127】
上述した容量制御弁500では、感圧器506と弁体314との間が、伝達ロッド520によって断続可能であったけれども、感圧器506と弁体314との間を断続する伝達部材は特には限定されない。ただし、伝達部材として伝達ロッド520を用いることにより、簡単な構成にて、感圧器506と弁体314との間が断続される。
上述した可変容量圧縮機100のための容量制御弁500では、弁体314の軸線方向に相互に離間した弁室312及び挿通孔518の壁面によって、弁体314の大径部318及び伝達ロッド520をそれぞれ支持することによって、弁体314が安定に支持される。
【0128】
そして、可変容量圧縮機100の容量制御弁500では、弁体314及び伝達ロッド520が弁室312及び挿通孔518の壁面に対して傾いたときに、弁体314及び伝達ロッド520と弁室312及び挿通孔518の壁面とがそれぞれ1箇所で当接する2点支持構造としているため、弁体314に対して横力が作用してもかじりが防止され、弁体314の円滑な移動が確保される。
【0129】
上述した可変容量圧縮機100のための容量制御システムBでは、弁体314と感圧器506のキャップ516の端壁部517との間の断続に対応して、式(8)又は式(12)に基づいて制御電流Iが演算される。この結果として、この容量制御システムBによれば、弁体314とキャップ516の端壁部517との間が断続的に連結されても、容量制御弁500に適切な制御電流Iが供給され、吸入圧力Psを目標吸入圧力Pssに確実に近付けられる。
【0130】
上述した可変容量圧縮機100のための容量制御システムBでは、動作切換点Psb、すなわち、感圧器506における圧縮コイルばね512の付勢力fs3に対する感圧器506の有効面積Sbの比率fs3/Sbに基づいて、容量制御弁500による容量制御特性が確実に切り換えられる。
本発明は、上述した第1実施形態及び第2実施形態以外にも種々の変形が可能である。
【0131】
第1施形態の容量制御システムAにおいては、容量制御弁300のために感圧器は不要である。ただし、弁体314に対し、吐出圧力Pd、吸入圧力Ps又は電磁力F(I)を作用させるために、ベローズやダイアフラムを用いてもよい。
例えば、一端が開口し、他端が閉塞した小型のベローズを用いた場合、ベローズの閉塞端を、弁孔304とは反対側の弁体314の一端に固定する。ソレノイドロッド346の先端側の部分は、ベローズの開口端を通じてベローズの内側に挿入され、ソレノイドロッド346の先端をベローズの閉塞端の内面に連結する。これにより、ソレノイドロッド346が弁体314を電磁力F(I)にて付勢可能にする。そして、ベローズの内側の圧力は吸入圧力Psに等しくなるようにし、弁体314に吸入圧力Psを作用させる。
【0132】
第2実施形態に係る容量制御弁500では、感圧室502とクランク室105との間を内部流路505を通じて連通させたけれども、感圧室502に開口するポートをバルブハウジング302に形成し、当該ポートを通じて感圧室502とクランク室105との間を連通させてもよい。
第1及び第2実施形態の容量制御システムA,Bが適用された圧縮機100は、クラッチレス圧縮機であったが、容量制御システムA,Bは、電磁クラッチを装着した圧縮機にも適用可能である。圧縮機100は斜板式の往復動圧縮機であったけれども、揺動板式の往復動圧縮機であってもよい。揺動板式の圧縮機は、揺動板を揺動させるための要素を有し、斜板107及びこの要素をまとめて斜板要素という。圧縮機100は、電動モータで駆動されるものであってもよい。
【0133】
第1及び第2実施形態の容量制御システムA,Bが適用された圧縮機100では、抽気通路162の流量を規制してクランク圧力Pcを昇圧するために、抽気通路162に絞り要素として固定オリフィス103cを配置したが、絞り要素として、流量可変の絞りを用いてもよく、また、弁を配置して弁開度を調整してもよい。
第1及び第2実施形態の容量制御システムA,Bが適用される冷凍サイクル10では、冷媒はR134aや二酸化炭素に限定されず、その他の新冷媒を使用してもよい。つまり、容量制御システムA,Bは、従来の空調システムのみならず新規な空調システムにも適用可能である。
【0134】
第1及び第2実施形態の容量制御システムA,Bは、外部情報検知手段として、蒸発器目標出口空気温度設定手段401と蒸発器温度センサ402とを有し、蒸発器目標出口空気温度Tesと蒸発器出口空気温度Teに基づいて目標吸入圧力Pssを演算したけれども、目標吸入圧力Pssを演算するための外部情報検知手段はこれに限定されない。
すなわち、以下に示す熱負荷に関する情報、圧縮機の運転状態に関する情報、及び、車両の運転状態に関する情報のうちから選択された1つ若しくは複数の情報を外部情報検知手段によって検知し、当該外部情報に基づいて、目標吸入圧力Pssを設定してもよい。
<熱負荷>
外気温度、外気湿度、日射量、空調システム各種設定(蒸発器ファンの送風量、内外気切換ドア位置、車内温度設定、吹き出し口位置、エアミックスドア位置)、車室内温度、車室内湿度、空気回路における蒸発器18の入口での空気の温度及び湿度等。
<圧縮機及び車両の運転状態>
エンジン回転数、圧縮機回転数、車速、アクセル開度(スロットル開度)、ギアシフト位置、ブレーキ踏み込み量、ラジエータ冷却水温度、エンジンオイル温度、圧縮機100の吐出圧力Pd、圧縮機100の各部温度、圧縮機100の振動、圧縮機100の目標トルク等。
【0135】
具体的には、例えば、蒸発器目標出口空気温度Tesと熱負荷に基づいて、目標吸入圧力Pssを設定してもよい。あるいは、吐出圧力Pd又は圧縮機100のトルクが目標値に近付くように、目標吸入圧力Pssを設定してもよい。
更に、圧縮機100及び車両の運転状態に関する外部情報に基づいて目標吸入圧力Pssを設定し、圧縮機100の機械的負荷を調整しても良い。
【0136】
第1及び第2実施形態の容量制御システムA,Bでは、時間t1ごとに目標吸入圧力Pssを更新することとし、時間t1を5秒に設定したけれども、1秒<t1<10秒の範囲を目安として時間t1を設定することができる。
第1及び第2実施形態の容量制御システムA,Bでは、制御電流Iを更新(演算)する時間をt2とすれば、0.1秒<t2<1秒の範囲を目安として時間t2を設定することができる。
【0137】
第1及び第2実施形態の容量制御システムA,BのS203では、設定された目標に対して現在値が近付くように目標吸入圧力Pssを設定するものであれば、どのような演算式を用いてもよい。
第1及び第2実施形態の容量制御システムA,Bでは、F(I)=A・Iとしたけれども、F(I)=a1・I+a2としてもよく、非線形としても良い。
【0138】
第2実施形態に係る容量制御弁500では、感圧器506が真空の領域とクランク圧力Pcの領域とを区画する部材としてベローズ514を有していたけれども、ベローズ514の代わりにダイアフラムを用いても良い。
最後に、第1及び第2実施形態の容量制御システムA,Bは、車両用空調システム以外の空調システムにも適用可能であるのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】第1実施形態に係る容量制御システムを適用した車両用空調システムの冷凍サイクルの概略構成を可変容量縮機の縦断面とともに示す図である。
【図2】図1の圧縮機における容量制御弁の接続状態を説明するための図である。
【図3】図1の容量制御弁における制御電流Iと目標吸入圧力Pssと吐出圧力Pdとの関係を示すグラフである。
【図4】図1の容量制御システムの概略構成を示すブロック図である。
【図5】図4の容量制御システムにおける、ソレノイド駆動手段の概略構成を説明するためのブロック図である。
【図6】図4の容量制御システムが実行するメインルーチンを示す制御フローチャートである。
【図7】図6のメインルーチンに含まれる吸入圧力制御ルーチンの制御フローチャートである。
【図8】図6のメインルーチンに含まれる目標吸入圧力設定ルーチンの制御フローチャートである。
【図9】図6のメインルーチンに含まれる制御電流上限値減少ルーチンの制御フローチャートである。
【図10】図6のメインルーチンに含まれる制御電流上限値増大ルーチンの制御フローチャートである。
【図11】図1の圧縮機における、第2実施形態に係る容量制御弁の接続状態を説明するための図である。
【図12】図11の容量制御弁において、弁体と感圧器とが切り離されている状態にあるときの感圧室近傍を拡大して示した図である。
【図13】図11の容量制御弁において、弁体と感圧器とが連結されている状態にあるときの感圧室近傍を拡大して示した図である。
【図14】図11の容量制御弁における制御電流Iと目標吸入圧力Pssと吐出圧力Pdとの関係を示すグラフである。
【図15】第2実施形態に係る容量制御システムが実行する目標吸入圧力設定ルーチンの制御フローチャートである。
【図16】第2実施形態に係る容量制御システムが実行する制御電流演算ルーチンの制御フローチャートである。
【符号の説明】
【0140】
140 吸入室
142 吐出室
302 バルブハウジング
314 弁体
336 ソレノイド
354 第1受圧面
356 第2受圧面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐出室、吸入室、クランク室及びシリンダボアが内部に区画形成されたハウジングと、前記シリンダボアに配設されたピストンと、前記ハウジング内に回転可能に支持された駆動軸と、前記駆動軸の回転を前記ピストンの往復運動に変換するための傾角可変の斜板要素を含む変換機構とを具備し、前記クランク室の圧力が変化させられることによって前記ピストンのストロークが調整されながら、前記吸入室から前記シリンダボアに吸入された冷媒を圧縮して前記吐出室に吐出する可変容量圧縮機のための容量制御弁において、
バルブハウジングと、
前記バルブハウジング内に配置され、前記吐出室の圧力が開弁方向にて作用する第1受圧面、及び、前記吐出室の圧力と対抗する閉弁方向にて前記吸入室の圧力が作用する第2受圧面を有する弁体と、
前記弁体に対し、前記閉弁方向にて電磁力を作用させるためのソレノイドとを備え、
前記第2受圧面の面積は前記第1受圧面の面積よりも大きい
ことを特徴とする可変容量圧縮機のための容量制御弁。
【請求項2】
前記弁体は、前記クランク室の圧力が所定値から低くなるのにつれて大きくなる押圧力が開弁方向にて作用する領域を更に有することを特徴とする請求項1に記載の可変容量圧縮機のための容量制御弁。
【請求項3】
前記弁体は相互に同軸に連結されたそれぞれ円柱形状の小径部と大径部とを含み、
前記小径部は、前記大径部とは反対側に前記第1受圧面を有し、
前記大径部は、前記小径部とは反対側に前記第2受圧面を有し且つ前記小径部よりも大径であり、
前記バルブハウジングは、
前記弁体を収容する弁室であって、前記弁体の大径部によって、前記小径部が配置され且つ前記クランク室に連通する流動領域と、前記吸入圧力領域に連通する感圧領域とに気密に仕切られた弁室と、
前記弁室の流動領域に開口して前記弁体の小径部の第1受圧面によって開閉される一端及び前記吐出室に連通する他端を有する弁孔と、
前記クランク室に連通し且つ前記押圧力を発生する感圧器を収容した感圧室と、
前記感圧室と前記弁孔の他端との間に設けられた挿通孔と
を有し、
前記弁孔及び挿通孔を貫通し、前記感圧器と前記弁体の小径部との間を前記クランク室の圧力に対応して断続的に連結する伝達部材と
を備える
ことを特徴とする請求項2に記載の可変容量圧縮機のための容量制御弁。
【請求項4】
前記弁体と前記感圧器とが前記伝達部材を介して連結されているときに、前記弁体及び感圧器に対して、前記クランク室の圧力が全体として作用しないか若しくは全体として前記閉弁方向に作用するように、前記感圧器において前記クランク室の圧力が閉弁方向に作用する有効面積が設定されていることを特徴とする請求項3に記載の可変容量圧縮機のための容量制御弁。
【請求項5】
前記感圧器は、前記クランク室の圧力に応答して変位する変位部を有し、
前記伝達部材は前記弁体の小径部から一体に延びる伝達ロッドであり、
前記伝達ロッドの先端は、前記弁体と前記感圧器の変位部との距離が所定値以下であるときに前記感圧器の変位部に当接し、一方、前記弁体と前記感圧器の変位部との距離が所定値よりも大であるときに前記感圧器の変位部から離間する
ことを特徴とする請求項3又は4に記載の可変容量圧縮機のための容量制御弁。
【請求項6】
前記弁室の周壁は、前記弁体の大径部を摺動自在に支持し、
前記挿通孔の周壁は、前記伝達ロッドを摺動自在に支持している
ことを特徴とする請求項5に記載の可変容量圧縮機のための容量制御弁。
【請求項7】
前記弁体及び伝達ロッドが前記弁体及び伝達ロッドに対して傾斜した場合、前記弁体及び伝達ロッドは、前記弁室の周壁及び挿通孔の周壁に対して1箇所にてそれぞれ当接することを特徴とする請求項6に記載の可変容量圧縮機のための容量制御弁。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか一項に記載の可変容量圧縮機のための容量制御弁を具備したことを特徴とする可変容量圧縮機。
【請求項9】
空調システムの冷凍サイクルを構成すべく冷媒が循環する循環路に放熱器、膨張器及び蒸発器とともに介挿される可変容量圧縮機のための容量制御システムであって、
請求項1乃至7の何れか一項に記載の可変容量圧縮機のための容量制御弁と、
少なくとも1つ以上の外部情報を検知する外部情報検知手段と、
前記外部情報検知手段によって検知された前記外部情報に基づいて、前記吸入室の圧力の目標値としての目標吸入圧力を設定する目標吸入圧力設定手段と、
前記吐出室の圧力を検知するための吐出圧力検知手段と、
前記吐出圧力検知手段により検知された前記吐出室の圧力及び前記目標吸入圧力設定手段により設定された目標吸入圧力に基づいて前記ソレノイドに供給される制御電流を調整する電流調整手段と
を備えることを特徴とする可変容量圧縮機のための容量制御システム。
【請求項10】
空調システムの冷凍サイクルを構成すべく冷媒が循環する循環路に放熱器、膨張器及び蒸発器とともに介挿される可変容量圧縮機のための容量制御システムであって、
請求項2乃至7の何れか一項に記載の可変容量圧縮機のための容量制御弁と、
少なくとも1つ以上の外部情報を検知する外部情報検知手段と、
前記外部情報検知手段によって検知された前記外部情報に基づいて、前記吸入室の圧力の目標値としての目標吸入圧力を設定する目標吸入圧力設定手段と、
前記吐出室の圧力を検知するための吐出圧力検知手段と、
前記吐出圧力検知手段により検知された前記吐出室の圧力及び前記目標吸入圧力設定手段により設定された目標吸入圧力に基づいて前記ソレノイドに供給される制御電流を調整する電流調整手段と
を備え、
前記電流調整手段は、前記目標吸入圧力が所定圧力以上である場合は、第1演算式に基づいて前記制御電流を調整し、一方、前記目標吸入圧力が所定圧力よりも低い場合は、前記第1演算式とは異なる第2演算式に基づいて前記制御電流を調整する
ことを特徴とする可変容量圧縮機のための容量制御システム。
【請求項11】
前記第1演算式は、前記弁体と前記感圧器の変位部とが切り離された状態での前記容量制御弁の動作を反映するよう決定され、
前記第2演算式は、前記弁体と前記感圧器の変位部とが連結された状態での前記容量制御弁の動作を反映するよう決定されている
ことを特徴とする請求項10に記載の可変容量圧縮機の容量制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−79532(P2009−79532A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−249111(P2007−249111)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000001845)サンデン株式会社 (1,791)
【Fターム(参考)】