説明

可視光硬化性繊維強化樹脂複合材の成形方法

【課題】可視光硬化プリプレグの粘着性を制御して生産性のよい可視光硬化繊維強化樹脂複合材の成形方法を提供する。
【解決手段】暗室でカチオン重合性化合物を含み所定温度以下で粘着性のないように調整された可視光硬化性樹脂が含浸された可視光硬化プリプレグを遮光性ボックス(暗箱)からなるカートリッジに充填し(P1)、カートリッジを自動積層装置に装填する(P2)。その後、自動積層装置が、カートリッジからプリプレグをフィードして取り出し(S1)、加熱されたコンパクションローラとの接触により加熱してタック性(粘着性)を付与し(S2)、コンパクションローラによりプリプレグを成形治具上に押圧して積層し(S3)、可視光ランプにより積層されたプリプレグに可視光を照射し硬化させる(S4)。S1〜S4を繰り返して多層に積層する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光硬化性樹脂が含浸された繊維強化樹脂複合材の成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、市販されている光(可視光)硬化プリプレグは、一般用途(ガラス強化繊維または有機強化繊維)でハンドレイアップ用に限定されており、自動積層用に開発されたものがなかった。
特許文献1及び特許文献2には、炭素繊維を強化繊維とした光(可視光)硬化複合材が、樹脂及びその反応機構を含めて記載されているが、自動積層成形法に関するものではない。
炭素繊維を強化繊維とした光(可視光)硬化複合材の成形法は、特許文献3の中で、実施例として積層終了後、光(実施例では紫外線を使用)を照射して硬化させている。この時使用される材料は、ハンドレイアップの場合は、プリプレグであり、フィラメントワインディング成形の場合は、糸に樹脂を含浸後糸を巻きつけており、いずれの場合も、樹脂はタック性(粘着性)のあるWETタイプである。
【特許文献1】特開平8-57971号公報
【特許文献2】特開2001-2760号公報
【特許文献3】特開平11-193322号公報
【特許文献4】特開平11-263804号公報
【非特許文献1】大背戸浩樹、田中剛、富岡伸之、荒井信之(東レ)、中村裕之(富士重工業) 可視光硬化マトリックス樹脂の研究 第29回複合材料シンポジウム(2004年) 講演要旨集P91-92
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来より、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維などの強化繊維に熱硬化性又は熱可塑性のマトリックス樹脂が含浸されたプレプリグが、産業界で広く用いられている。例えば、熱硬化性のマトリックス樹脂を採用した熱硬化型プレプリグによって航空機翼の外板を成形する場合には、未硬化の状態の成形用中間基材であるプレプリグを所定の大きさに切り取って外板表面形状を有する成形治具上に積層し、オートクレーブで加圧・加熱して硬化成形しているために、コスト高、成形熱歪等の課題がある。
また近年では、これらの問題点を考慮して、自動積層法、加熱を必要としない成形法が開発されている。自動積層法については熱硬化及び熱可塑型プリプレグに関するもの、加熱を必要としない成形法については光硬化型プリプレグが開発されているが、ハンドレイアップに限定されているのが現状で、自動積層で光(可視光)硬化複合材料を成形する方法は開発されていない。
また、光硬化プレプリグの自動積層において、含浸した樹脂が常時タック性(粘着性)のあるWETタイプであるプレプリグを自動積層用として用いる場合は、プレプリグが自動積層装置中のガイド等を通過する時にガイドに粘着してしまうという問題があり、少なくともプレプリグの片面には離型紙または離型フィルムが必要となる。
【0004】
本発明は以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであって、可視光硬化プリプレグの粘着性を積層直前に制御して積層し、可視光を照射して硬化させるという、自動積層で生産性のよい可視光硬化繊維強化樹脂複合材の成形方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するための発明は、カチオン重合性化合物を含み所定温度以下で粘着性のないように調整された可視光硬化性樹脂が含浸された可視光硬化プリプレグを加熱し軟化させて粘着性を持たせコンパクションローラにより成形治具上に押圧して積層し、一層積層するごとに可視光を当てて硬化させることを特徴とする可視光硬化性繊維強化樹脂複合材の成形方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、カチオン重合性化合物を含み所定温度以下で粘着性のないように調整された可視光硬化性樹脂が含浸されたプリプレグを加熱し軟化させて粘着性を持たせコンパクションローラにより成形治具上に押圧して積層するので、積層する直前にタック性(粘着性)を付与することができ、離型紙または離型フィルムが不要であるとともに、材料が自動積層装置中のガイド等を通過する場合にガイドに粘着しないという効果がある。
また本発明によれば、一層積層するごとに可視光を当てて硬化させるので、炭素繊維の様な可視光を通さない強化繊維を使用していても硬化させやすく、厚さに対する制限が少ないという効果がある。
プリプレグへの粘着性の付与は、積層する直前に加熱することにより行う。そのため、成形室の環境を一定の範囲の温度、湿度に保つ必要がないという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に本発明の一実施の形態につき図面を参照して説明する。以下は本発明の一実施形態であって本発明を限定するものではない。
【0008】
図1は、本実施形態の可視光硬化性繊維強化樹脂複合材の成形方法を示すフローチャートである。図2は、本実施形態の成形方法に適用する自動積層装置の正面図である。自動積層装置10には、プレプリグ供給部11、積層成形部12、照光部13が構成される。プレプリグ供給部11には、プレプリグを収めたカートリッジ1が装填される。プレプリグ供給部11は遮光ボックス2により覆われており、カートリッジ1からプレプリグ3を取り出して積層成形部12に供給する。積層成形部12は、成形治具に押圧されるコンパクションローラを備えたユニットをエアシリンダ6により上下動させる構成を有する。照光部13には、可視光照射ランプ8が備えられる。
【0009】
まず、含有する全エポキシ樹脂中、60wt%〜90wt%の固形エポキシ樹脂と40wt%〜10wt%の液状エポキシ樹脂が配合され、通常の積層作業環境温度である30℃以下では粘着性のないように調整された樹脂が含浸されたプレプリグを暗室で遮光性のボックス(暗箱)からなるカートリッジに充填する(工程P1)。
次に、工程P1で作製された可視光硬化プレプリグが充填されたカートリッジ1を自動積層装置10のプレプリグ供給部11に装填する(工程P2)。
【0010】
その後、自動積層装置10による自動積層形成工程S1〜S4が行われる。
まず、自動積層装置10のプレプリグ供給部11は、カートリッジ1からプリプレグ3をフィードしてカートリッジ1から取り出す(工程S1)。
【0011】
次に、工程S1でカートリッジ1から取り出したプリプレグ3をコンパクションローラ4で加熱しタック性(粘着性)を付与する(工程S2)。このとき、コンパクションローラ4の温度を40℃〜150℃に加熱し、より好ましくは60℃〜80℃に加熱しておく。すなわち、本工程のプリプレグの加熱は、成形治具の表面とコンパクションローラ4との間にプリプレグ3を挟む時のコンパクションローラ4のプリプレグ3への接触により行う。
コンパクションローラ4によりプリプレグ3を成形治具上に押圧して積層する(工程S3)。
【0012】
次に、自動積層装置10の照光部13は可視光ランプ8により、工程3で積層されたプリプレグに可視光を照射し硬化させる(工程S4)。この可視光は、工程S2で成形治具表面とコンパクションローラ4に接触したプレプリグ3に加圧直前に照射してもよい。このときの光(可視光)は、波長400nm〜500nm、照度0.1W/cm〜10W/cm、露光量0.1J/cm〜30J/cmとすることが好ましい。
以上で、1層目のプリプレグが積層成形される。
【0013】
次に、2層目以降のプリプレグ3に対し、一層毎に、工程S1から工程S4を行う。
自動積層装置は必要な層数に達したら自動積層形成工程を終了する。
【0014】
(1)使用する可視光硬化プリプレグは、積層作業環境温度以下でタック性(粘着性)のないDRYタイプの樹脂が含浸されたプリプレグである。したがって、離型紙またはフィルムが不要である。また、自動積層する上で以下の点で有利である。
・可視光硬化プリプレグが自動積層装置に入る直前に離型紙または離型フィルムを除去する必要がない。
・可視光硬化プリプレグが自動積層装置中のガイド等を通過する場合にガイドに粘着しない。
(2)自動積層により一層積層するごとに可視光を当てて硬化させるので、炭素繊維の様な可視光を通さない強化繊維を使用していても硬化させやすく、厚さに対する制限が少ない。
(3)材料への粘着性の付与は、コンパクションローラで自動積層する直前に加熱することにより、瞬時に粘着性を付与する。そのため、成形室の環境を一定の範囲の温度、湿度に保つ必要がない。
(4)可視光硬化プリプレグは、自動積層される直前まで、遮光されているので、成形室を暗室化しなくとも、不必要に光硬化されることがない。
【0015】
上記可視光硬化プリプレグに含浸させた樹脂としては、非特許文献1に記載の樹脂を用いるが、以下にその詳細を説明する。
【0016】
30℃以下で粘着性がなく40〜150℃で粘着性が出る可視光硬化性樹脂であれば、全て使用できるが、本実施形態の可視光硬化プリプレグ用樹脂組成物は、下記の構成要素(A)、(B)、(C)を含み、構成要素(B)の配合量が構成要素(A)に対して0.01〜20重量%であり、構成要素(B)と構成要素(C)とのモル比が5/1〜0.2/1の割合である。
(A)カチオン重合性化合物
(B) 一般式(I)で表されるヨードニウム塩
【化1】

・・・(I)
(式中、R、Rは水素原子、アルキル基、アルコキシ基のいずれかを示し、それぞれのR、Rは互いに同一であっても異なっていてもよい。また、R、R、R、Rは 水素原子、アルキル基のいずれかを示し、それぞれのR,R,R,Rは互いに同一であっても異なっていてもよい。さらに、XはSbF、B(Cのいずれかを示す。)
(C)一般式(II)または(III)で表される増感剤
【化2】

・・・(II)
(式中、Rはハロゲン原子を示す。)
【化3】

・・・(III)
(式中、RおよびRは水素原子、アルキル基のいずれかを示し、それぞれのR、Rは互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【0017】
本可視光硬化プリプレグ用樹脂組成物により、低エネルギーな可視光照射で繊維強化複合材料の内部や裏面まで短時間に硬化できる可視光硬化プリプレグ用樹脂組成物を提供することができる。
さらに、様々なカチオン重合性化合物の配合量を変えることで、樹脂の粘度制御やプリプレグの取り扱い性の改善効果が発現される。
【0018】
カチオン重合性化合物(A)としては、一般に知られているカチオン重合性基を有するモノマー、オリゴマーやポリマーであれば特に限定されないが、例えば、ビニル樹脂、エポキシ樹脂、ビシクロオルソエステル樹脂、スピロオルソカーボネート樹脂、オキセタン樹脂などを挙げることができる。
なかでも、耐熱性および可視光硬化性をより有する点からエポキシ樹脂またはオキセタン樹脂が好ましく用いられる。
【0019】
エポキシ樹脂としては、フェニルグリシジルエーテル、p−tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、1,2−ブチレンオキサイド、1,3−ブタジエンモノオキサイド、1,2−ドデシレンオキサイド、エピクロロヒドリン、1,2−エポキシデカン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、スチレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、リモネンオキサイド、α−ピネンオキサイド、3−メタクリロイルオキシメチルシクロヘキセンオキサイド、3−アクリロイルオキシメチルシクロヘキセンオキサイド、3−ビニルシクロヘキセンオキサイドなどの単官能のモノマー、1,1,3−テトラデカジエンジオキサイド、リモネンジオキサイド、4−ビニルシクロヘキセンジオキサイド、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシシクロヘキシルペンチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ジ(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、o−,m−,p−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン環含有エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、多価アルコールのポリグリシジルエーテル、信越シリコーン社製のK−62−722や東芝シリコーン社製のUV9300などのエポキシシリコーンのような多官能エポキシ樹脂などを挙げることができる。
【0020】
オキセタン樹脂としては、3,3−ジメチルオキセタン、3,3−ビス(クロロメチル)オキセタン、2−ヒドロキシメチルオキセタン、3−メチル−3−オキセタンメタノール、3−メチル−3−メトキシメチルオキセタン、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、1,4−ビス{〔(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ〕メチル}ベンゼン、3−エチル−3−フェノキシメチルオキセタン、レゾルシノールビス(3−メチル−3−オキセタニルエチル)エーテル、m−キシリレンビス(3−エチル−3−オキセタニルエチルエーテル)、ジ[1−エチル(3−オキセタニル)] メチルエーテル、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−{[3−(トリエトキシシリル)プロポキシ]メチル}オキセタン、オキセタニルシルセスキオキサン、フェノールノボラック型オキセタンなどを挙げることができる。これらエポキシ樹脂およびオキセタン樹脂は、単独もしくは2種以上を併用して用いても差し支えない。
樹脂の粘度制御やプリプレグの取り扱い性の改善を行うためには、エポキシ樹脂のなかでも、固形エポキシ樹脂と液状エポキシ樹脂を配合することが好ましく用いられる。含有する全エポキシ樹脂100wt%に対して、固形エポキシ樹脂が60wt%〜90wt%であることが好ましい。固形エポキシ樹脂が60wt%未満であると、液状エポキシ樹脂の配合量が多く、常温(〜30℃)で粘着性を有する恐れがあり、固形エポキシ樹脂が90wt%を超えると、液状エポキシ樹脂の配合量が少ないために、強化繊維への樹脂含浸性が悪くなる恐れがある。
【0021】
用いられるヨードニウム塩(B)としては、上記一般式(I)で表されるヨードニウム塩である。
一般式(I)で表されるヨードニウム塩の具体例としては、下記の化合物などをあげることが出来、これらを単独または複数種併用して使用することができる。
なかでも、可視光硬化性がより高い一般式(IV)が好ましく用いられる。
【0022】
【化4】

・・・(IV)
【0023】
【化5】

【0024】
【化6】

【0025】
【化7】

【0026】
【化8】

【0027】
【化9】

【0028】
【化10】

【0029】
【化11】

【0030】
【化12】

(式中、XはSbF、B(Cのいずれかを示す。)
【0031】
用いられる増感剤(C)は、上記一般式(II)または(III)で表される増感剤である。
一般式(II)または(III)で表されるヨードニウム塩の具体例としては、チオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントンなどの化合物を挙げることが出来、これらを単独または複数種併用して使用することができる。
【0032】
ヨードニウム塩(B)の配合量は、好ましくはカチオン重合性化合物(A)に対して0.01〜20重量%であり、より好ましくは0.1重量%〜10重量%である。ヨードニウム塩(B)が0.01重量%未満であると可視光硬化プリプレグ用樹脂組成物の可視光硬化性が低下し、20重量%を超えると可視光硬化プリプレグ用樹脂組成物の硬化物の機械特性が低下する。
【0033】
また、ヨードニウム塩(B)と増感剤(C)とのモル比は、5/1〜0.2/1の割合である必要があり、より好ましくは2/1〜0.5/1の割合である。ヨードニウム塩(B)と増感剤(C)とのモル比が5/1より高いと、可視光硬化プリプレグ用樹脂組成物の可視光硬化性が低下し、モル比0.2/1より低いと可視光硬化プリプレグ用樹脂組成物の硬化物の機械特性が低下する。さらに、この範囲のモル比とすることで、特許文献4における構成要件である多環芳香族化合物がなくとも、ヨードニウム塩(B)の光反応性を十分に向上させることが可能である。
【0034】
可視光硬化プリプレグ用樹脂組成物は、波長404nm、照度5.0mW/cm、露光量200mJ/cmの可視光を照射したとき、「示差走査熱量分析により得られる反応率」が、好ましくは50%以上であり、より好ましくは70%以上である。
反応率が50%未満であると炭素繊維に含浸してなるプリプレグの硬化を行った場合、繊維強化複合材料の成形時に多大な可視光照射エネルギーが必要となり、また得られた繊維強化複合材料も耐熱性や力学特性が不十分なものとなる。
【0035】
次に、プリプレグにつき補足する。
【0036】
可視光硬化プリプレグ用樹脂組成物を強化繊維に含浸し、プリプレグを構成する。可視光硬化プリプレグ用樹脂組成物をメチルエチルケトン、メタノールなどの溶媒に溶解して低粘度化し、含浸させるウエット法や、マトリックス樹脂を加熱により低粘度化し含浸させるホットメルト法(ドライ法)などの方法により製造される。
【0037】
まず、ウェット法は、強化繊維を可視光硬化プリプレグ用樹脂組成物の溶液に浸漬した後引き上げ、オーブンなどを用いて溶媒を蒸発させてプリプレグを得る方法である。一方、ホットメルト法は、加熱により低粘度化した可視光硬化プリプレグ用樹脂組成物を直接強化繊維に含浸させる方法、または、一旦、可視光硬化プリプレグ用樹脂組成物を離型紙などの上にコーティングしたフィルムをまず作成し、次いで、強化繊維の両側或いは片側から該フィルムを重ね、加熱加圧することにより、樹脂を含浸させてプリプレグを得る方法である。これらの中でも、ホットメルト法がプリプレグ中に残留する溶媒がないため好ましい方法である。
かかるプリプレグに用いる強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、あるいはこれらを組合せたものなどが使用される。なかでも、軽量化と高強度化が求められる用途(例えば、航空機や宇宙機部材など)においては、優れた比強度と比弾性率を有する炭素繊維が好ましく使用される。
【0038】
強化繊維の形態は特に限定されるものではなく、例えば、一方向に引き揃えた長繊維、トウ、織物、マット、ニット、組み紐などが用いられる。また、特に、比強度、比弾性率が高いことを要求される用途には強化繊維が単一方向に引き揃えられた配列が最も適しているが、取り扱いの容易な織物状の配列も適している。
【0039】
得られる可視光硬化繊維強化複合材料の強度と弾性率は、強化繊維量に大きく依存する。つまり一定量の強化繊維を含有する場合、組み合わせるマトリックス樹脂の量を少なくするほど、繊維強化複合材料や最終製品の性能をほぼ一定に維持したままで、製品重量を軽量化することができる。このような目的等のため、プリプレグおよび可視光硬化性繊維強化複合材料全重量に対する強化繊維の含有量は、好ましくは40〜90重量%であり、より好ましくは50〜80重量%であり、さらに好ましくは50〜70重量%である。強化繊維の含有量が40重量%未満の場合は、軽量化効果が十分でない場合があり、90重量%を超えると樹脂量が少ないため複合材料中にボイドが残存し、機械特性が低下する場合がある。
【0040】
プリプレグに使用される強化繊維の目付は、好ましくは10〜400g/mであり、より好ましくは50〜200g/mである。強化繊維の目付が10g/mに満たないと、プリプレグに割れが発生しやすく、取り扱い性が著しく悪化する。また、強化繊維の目付が400g/mを超えると、マトリックス樹脂の含浸時に樹脂が厚み方向の中央部まで到達せず、未含浸部を有するプリプレグとなり、硬化時にボイドが残存し、成形体の物性低下を招く可能性がある。「また、プリプレグの厚みは、適用用途に求められる力学特性や積層作業のし易さ等を考慮して決定されるので特に限定されるものではないが、好ましくは数μm〜300μmである。プリプレグの厚みが数μm未満であると、プリプレグに割れが発生しやすく、取り扱い性が著しく悪化し、300μmを超えると含浸時に樹脂が厚み方向の中央部まで到達せず、未含浸部を有するプリプレグとなってしまう。
【0041】
次に、図2に示した自動積層装置のコンパクションローラにつき補足する。
可視光硬化プリプレグへの粘着性付与に用いるコンパクションローラとして、加熱が可能であれば、材質はいずれでも良い。例えば、スチール、ステンレススチール、アルミニウム、ウレタン系樹脂、シリコン系樹脂、フッ素系樹脂等が用いられる。特にステンレススチール、ウレタン系樹脂が用いられる。またコンパクションローラの温度を100℃以上にコントロールする必要がある場合はステンレススチールを用いる。コンパクションローラの温度を40℃〜150℃にコントロールして、常温では粘着性のない可視光硬化プリプレグに粘着性を付与することで、可視光硬化プリプレグが積層面に密着する。コンパクションローラの温度が40℃以下の場合は、可視光硬化プリプレグに十分な粘着性が発現しないため、積層面に密着しない。またコンパクションローラの温度が150℃より高い場合は可視光硬化プリプレグの粘度が低下しすぎるため、積層体の厚みを確保できない。
【0042】
次に、光源について補足する。
可視光硬化性プリプレグ樹脂組成物の硬化に用いられる光源として、可視光を発すればいずれでも良い。例えば、太陽光、白熱電球、ハロゲンランプ、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、蛍光灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、カーボンアーク灯、マイクロ波発光無電極ランプなどが用いられ、また半導体レーザー、アルゴンレーザー、ヘリウム−カドミウムレーザーなどのレーザーを用いることもできる。特に、メタルハライドランプ、マイクロ波発光無電極ランプおよび高圧水銀灯が好ましく用いられる。
可視光硬化性樹脂組成物の硬化に用いられる可視光のスペクトルは特に限定されるものではないが、380nm〜500nmの範囲の光を含むことが好ましく、380〜450nmの範囲の光を含むことがさらに好ましい。500nm以下の光を含まない場合、感度が不十分となることがあり、硬化不良に陥りやすい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明実施形態の可視光硬化性繊維強化樹脂複合材の成形方法を示すフローチャートである。
【図2】本発明実施形態の成形方法に適用する自動積層装置の正面図である。
【符号の説明】
【0044】
1 カートリッジ
2 遮光ボックス
3 プリプレグ
4 コンパクションローラ
5 プリプレグ巻き込みガイド
6 エアシリンダ
7 プリプレグ供給ガイド
8 可視光ランプ
10 自動積層装置
11 プレプリグ供給部
12 積層成形部
13 照光部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン重合性化合物を含み所定温度以下で粘着性のないように調整された可視光硬化性樹脂が含浸された可視光硬化プリプレグを加熱し軟化させて粘着性を持たせコンパクションローラにより成形治具上に押圧して積層し、一層積層するごとに可視光を当てて硬化させることを特徴とする可視光硬化性繊維強化樹脂複合材の成形方法。
【請求項2】
前記所定の温度が30℃以下であることを特徴とする請求項1記載の可視光硬化性繊維強化樹脂複合材の成形方法。
【請求項3】
前記カチオン重合性化合物はエポキシ樹脂であり、該エポキシ樹脂は、60wt%〜90wt%の固形エポキシ樹脂と40wt%〜10wt%の液状エポキシ樹脂が配合されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の可視光硬化性繊維強化樹脂複合材の成形方法。
【請求項4】
前記可視光は、波長400nm〜500nm、照度0.1W/cm〜10W/cm、露光量0.1J/cm〜30J/cmであることを特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか一に記載の可視光硬化性繊維強化樹脂複合材の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−281548(P2006−281548A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−103243(P2005−103243)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度、経済産業省、「次世代構造部材創製・加工技術開発」に係わる「光(可視光)硬化プロセスによる航空機用構造部材の開発」委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】