説明

含フッ素トリシクロノネン重合体およびそれを用いるレジスト組成物

【課題】現像液溶解速度が大きく、しかも耐ドライエッチング性にも優れた性能を発揮するレジスト組成物、およびそれに用いる含フッ素トリシクロノネン重合体を提供する。
【解決手段】式(I):
−(T)−(N)−(A)− (I)
(式中、TはOH基および/または酸で解離してOH基に変化する酸解離性官能基含有含フッ素トリシクロノネン誘導体(t)由来の構造単位;Nはノルボルネン誘導体から選ばれる少なくとも1種の単量体(n)由来の構造単位;Aは前記単量体(t)および/または単量体(n)と共重合可能な他の単量体(a)由来の構造単位)で表されるポリマーであって、構造単位Tが55〜100モル%、構造単位Nが0〜45モル%、構造単位Aが0〜20モル%であって、T+Nが80〜100モル%であり、かつT/Nのモル比が55/45〜100/0である含フッ素トリシクロノネン重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジスト組成物の成分としても有用な新規な含フッ素トリシクロノネン重合体およびそれを用いたレジスト組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路をはじめとする各種の電子部品は超微細加工が必要とされ、その加工技術にはレジストが広く用いられている。また、電子部品の多機能化、高密度化に伴い、形成されるレジストパターンの超微細化が求められている。
【0003】
これまで、化学増幅型レジストの樹脂成分としては、KrFエキシマレーザー(248nm)に対して高い透明性を有するポリヒドロキシスチレンやこのヒドロキシ基を酸解離性の保護基で保護したものが主に用いられてきた。しかし、近年の半導体素子の微細化要求により、その光源もKrFエキシマレーザーからより短い波長のArFエキシマレーザー(193nm)を用いるプロセスに移行してきた。
【0004】
ところで、ArFエキシマレーザー(193nm)を光源とするプロセスにおいては、従来用いられてきたポリヒドロキシスチレンのような芳香族環を持つ樹脂では、ArFエキシマレーザーに対する透明性が不十分で使用できないため、ArFリソグラフィープロセスにおけるレジスト材料のベースポリマーとして、芳香環に換えて脂肪族環構造を導入する方法が知られている。たとえば、特許文献1には、(メタ)アクリル系樹脂のエステル部位に脂肪族環構造を導入した重合体を使用した化学増幅型レジストが提案されている。また、特許文献2では、主鎖にノルボルネン骨格を有する樹脂を使用した化学増幅型レジストが提案されている。
【0005】
また、ArFレジストやF2レジストにおいては、透明性やドライエッチング耐性を低下させない、または向上させるという課題があり、その改善のために種々の提案がなされている。
【0006】
その1つとして、特許文献2などの主鎖にノルボルネン骨格を有する重合体を使用する提案のほか、特許文献3に記載されているようなテトラフルオロエチレン(TFE)などのエチレン性不飽和含フッ素単量体と1種または2種以上のトリシクロノネン誘導体との共重合体を使用する提案がある。
【0007】
しかし、特許文献3ではTFE単位などのエチレン性不飽和含フッ素構造単位を必ず含むため、耐ドライエッチング性および現像液溶解速度の点で、改良の余地が残されている。
【0008】
また、トリシクロノネン構造単位を含む重合体としては、非特許文献1および非特許文献2がある。
【0009】
非特許文献1には水酸基含有含フッ素ノルボルネン誘導体単位とカルボン酸エステル基含有含フッ素トリシクロノネン誘導体単位との2元共重合体が記載されており、レジスト組成物としての用途が示唆されている。
【0010】
一方、非特許文献2にはカルボン酸またはカルボン酸エステル基を含有する含フッ素または非フッ素のトリシクロノネン誘導体の単独重合体が記載されており、レジスト組成物としての用途が示唆されている。
【0011】
しかし、非特許文献1の水酸基含有含フッ素ノルボルネン誘導体単位とカルボン酸エステル基含有含フッ素トリシクロノネン誘導体単位との2元共重合体は、アルカリ現像液にて現像時に樹脂が膨潤する点で不充分である。
【0012】
非特許文献2のカルボン酸またはカルボン酸エステル基を含有する含フッ素または非フッ素のトリシクロノネン誘導体の単独重合体も、アルカリ現像液にて現像時に樹脂が膨潤する点で不充分である。
【0013】
【特許文献1】特開平7−234511号公報
【特許文献2】特開平10−218941号公報
【特許文献3】国際公開2004/014964号パンフレット
【非特許文献1】Macromolecules, Vol.35, No.17, pp.6539(2002)
【非特許文献2】Macromolecules, Vol.36, No.5, pp.1534(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、現像液溶解速度が大きく、しかも耐ドライエッチング性にも優れた性能を発揮するレジスト組成物、およびそれに用いる含フッ素トリシクロノネン重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち本発明は、式(I):
−(T)−(N)−(A)− (I)
[式中、
Tは含フッ素トリシクロノネン誘導体由来の構造単位であって、T中に式(1):
【0016】
【化1】

【0017】
(式中、Rf1およびRf2は同じかまたは異なり、エーテル結合を含んでいてもよい炭素数1〜10の含フッ素アルキル基;R1は同じかまたは異なり、いずれもHまたは炭素数1〜10のアルキル基;X、X1、X2、X3およびX4は同じかまたは異なり、いずれもH、FまたはCF3;Xaは水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されていてもよくエーテル結合を含んでいてもよい炭素数1〜10の2価の有機基;Y1はOH基および/または酸で解離してOH基に変化する酸解離性官能基;m1は0〜2の整数;n1は0または1)で表される部位を有する含フッ素トリシクロノネン誘導体から選ばれる少なくとも1種の単量体(t)由来の構造単位;
Nはノルボルネン誘導体から選ばれる少なくとも1種の単量体(n)由来の構造単位;
Aは前記単量体(t)および/または単量体(n)と共重合可能な他の単量体(a)由来の構造単位]
で表されるポリマーであって、構造単位Tが55〜100モル%、構造単位Nが0〜45モル%、構造単位Aが0〜20モル%であって、T+Nが80〜100モル%であり、かつT/Nのモル比が55/45〜100/0である含フッ素トリシクロノネン重合体に関する。
【0018】
すなわち本発明の含フッ素トリシクロノネン重合体は、構造単位Tのみの単独重合体、または構造単位Tと構造単位Nを特定割合で必須として含む共重合体である。
【0019】
本発明はまた、前記の含フッ素トリシクロノネン重合体、および(ii)光酸発生剤からなるレジスト組成物にも関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、現像液溶解速度が大きく、しかも耐ドライエッチング性にも優れた性能を発揮するレジスト組成物、およびそれに用いる含フッ素トリシクロノネン重合体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
まず、本発明の含フッ素トリシクロノネン重合体について説明する。
【0022】
本発明の含フッ素トリシクロノネン重合体は、式(I):
−(T)−(N)−(A)− (I)
で示される重合体である。
【0023】
以下、各構造単位について説明する。
【0024】
(1)構造単位T
構造単位Tは含フッ素トリシクロノネン誘導体由来の構造単位であって、構造単位中に式(1):
【0025】
【化2】

【0026】
で表される部位を有する含フッ素トリシクロノネン誘導体から選ばれる少なくとも1種の単量体(t)由来の構造単位である。
【0027】
Rf1およびRf2は同じかまたは異なり、エーテル結合を含んでいてもよい炭素数1〜10の含フッ素アルキル基であり、好ましくはエーテル結合を含んでいてもよい炭素数1〜5の含フッ素アルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1〜5の含フッ素アルキル基、特に同時にCF3であることが、酸解離性官能基の酸性度を高めることができる点から好ましい。
【0028】
1は同じかまたは異なり、いずれもHまたは炭素数1〜10のアルキル基であり、好ましくはHまたは炭素数1〜5のアルキル基であり、さらに好ましくはHまたは炭素数1〜3のアルキル基、特に同時にHであることが、合成上の点から好ましい。
【0029】
X、X1、X2、X3およびX4は同じかまたは異なり、いずれもH、FまたはCF3であり、好ましくはX、X1、X2、X3およびX4の少なくとも1種がFまたはCF3であり、特にX、X1、X2の少なくとも1種がFまたはCF3であることが、重合体としたときの透明性、現像液溶解性が良好な点から好ましい。
【0030】
aは水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されていてもよくエーテル結合を含んでいてもよい炭素数1〜10の2価の有機基であり、好ましくは水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されていてもよくエーテル結合を含んでいてもよい炭素数1〜5の2価の有機基であり、さらに好ましくはエーテル結合を含んでいてもよい炭素数1〜5の2価の有機基であり、特に炭素数1〜3の2価の有機基であることが、合成上の点から好ましい。
【0031】
1はOH基および/または酸で解離してOH基に変化する酸解離性官能基である。
【0032】
m1は0〜2の整数、n1は0または1である。
【0033】
構造単位Tに含まれる式(1)で示される部位として、好ましいものは、式(1−1):
【0034】
【化3】

【0035】
(式中、R1、X〜X4、Xa、Y1、m1およびn1は式(1)と同じ)で示される部位である。
【0036】
また、Y1のうち、酸で解離してOH基に変化する酸解離性官能基としては、式:−O−P(式中、Pは保護基)で示される官能基があげられる。
【0037】
−O−Pの具体例としては、たとえば、式(5−1):
−OCH2OR (5−1)
(式中、Rは炭素数1〜20の有機基)で表されるアセタール化合物;または式(5−2):
【0038】
【化4】

【0039】
(式中、Rは前記式(5―1)と同じ)で表されるアセタール化合物が反応性が高い点で特に好ましい。
【0040】
さらに式(5−3):
【0041】
【化5】

【0042】
(式中、Rは前記式(5―1)と同じ)で表されるアルコキシカーボネート基;
式(5−4):
−OR (5−4)
(式中、Rは前記式(5―1)と同じ)で表されるアルコキシル基などが挙げられる。
式(5−1)、(5−2)におけるRは、
−Z11a (R−1)
−C(R2a3 (R−2)
−R3a (R−3)
〔式(R−1)において、Z1は単結合、直鎖状もしくは分岐状の2価の有機基、または脂環式構造を有する2価の有機基を示し、R1aは水素原子または1価の官能基を示す。
式(R−2)において、各R2aは相互に独立して炭素数1〜4の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基もしくはその誘導体または炭素数4〜20の1価の脂環式炭化水素基もしくはその誘導体を示すか、あるいはいずれか2つのR2aが相互に結合して、それぞれが結合している炭素原子と共に、炭素数4〜20の2価の脂環式炭化水素基もしくはその誘導体を形成し、残りのR2aが炭素数1〜4の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基もしくはその誘導体または炭素数4〜20の1価の脂環式炭化水素基もしくはその誘導体を示す。
式(R−3)において、R3aは炭素数1〜12の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、脂環式構造を有する炭素数4〜20の1価の有機基、環状エーテル構造を有する1価の有機基、または置換されてもよいラクトン骨格を有する1価の有機基を示す。〕
で表される炭素数1〜20の1価または2価の有機基が例示される。
【0043】
式(5−3)、(5−4)におけるRは、(R−2)で表される炭素数1〜20の1価または2価の有機基が、化学増幅型レジストとして機能できる点で好ましく例示さる。
【0044】
特に式(5−1)、(5−2)においては、式(R−1)からなる有機基が、反応性が高い点で好ましく、特にZ1がCH2Rで表される構造を有する有機基がさらに反応性が高い点で好ましい。式(5−3)においても、式(R−2)からなる有機基が、特にt−ブチル基またはメチルアダマンチル基であることが反応性が高い点で好ましい。
【0045】
構造単位Tに含まれる式(1)で示される部位の好ましい具体例としては、たとえば
【0046】
【化6】

【0047】
【化7】

【0048】
などがあげられる。
【0049】
(2)構造単位N
構造単位Nはノルボルネン誘導体から選ばれる少なくとも1種の単量体(n)由来の構造単位である。
【0050】
前記構造単位Nとしては、官能基を1個または2個以上含有する官能基含有ノルボルネン誘導体単位であっても、含フッ素ノルボルネン誘導体単位であっても、両者を有する官能基含有含フッ素ノルボルネン誘導体単位であってもよい。
【0051】
構造単位Nが官能基を有する場合、含まれる官能基としては−OH基、−COOH基、エステル基、カルボン酸無水物基、りん酸基、りん酸エステル基、スルホン酸基、ニトリル基、および/または酸で解離して−OH基もしくは−COOH基に変化する酸解離性官能基があげられ、これらのうち−OH基または酸で解離して−OH基に変化する酸解離性官能基、または−COOH基または酸で解離して−COOH基に変化する酸解離性官能基が、現像液溶解性が良好な点で好ましい。
【0052】
官能基を有するノルボルネン誘導体単位Nは、フッ素原子を含んでいても含んでいなくてもよい。
【0053】
官能基を含有する含フッ素ノルボルネン誘導体単位としては、式(2):
【0054】
【化8】

【0055】
(式中、Rf3およびRf4は同じかまたは異なり、エーテル結合を含んでいてもよい炭素数1〜10の含フッ素アルキル基;R2は同じかまたは異なり、いずれもHまたは炭素数1〜10のアルキル基;X5、X6およびX7は同じかまたは異なり、いずれもH、FまたはCF3;Xb1は水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されていてもよくエーテル結合を含んでいてもよい炭素数1〜10の2価の有機基;Y2はOH基および/または酸で解離してOH基に変化する酸解離性官能基;m2は0〜2の整数;n2は0または1)で表される部位を有する官能基含有含フッ素ノルボルネン誘導体(以下、「OH基等含有ノルボルネン誘導体単位N1」という)から選ばれる少なくとも1種の単量体由来の構造単位N1が、重合体としたときの透明性、現像液溶解性が良好な点から好ましくあげられる。
【0056】
式(2)において、Rf3およびRf4は、それぞれ前記式(1)におけるRf1およびRf2と同じものが好ましい具体例と共にあげられる。なかでも、いずれもCF3であることが酸解離性官能基の酸性度を高めることができる点で好ましい。
【0057】
同様に、R2は式(1)のR1と、Xb1は式(1)のXaと、Y2は式(1)のY1と、m2およびn2はそれぞれ式(1)のm1およびn1と同じものが好ましい具体例と共にあげられる。
【0058】
5、X6およびX7は特に少なくとも1種がFまたはCF3であることが、重合体としたときの透明性、現像液溶解性が良好な点から好ましい。
【0059】
OH基等含有ノルボルネン誘導体単位N1の好ましいものとしては、式(2−1):
【0060】
【化9】

【0061】
(式中、R2、X5、X6およびX7、Xb1、Y2、m2およびn2は式(2)と同じ)で示される構造単位N1−1があげられる。
【0062】
より具体的には、
【0063】
【化10】

【0064】
【化11】

【0065】
などがあげられる。これらのうちでもm2=0のものが重合時の透明性および合成上の点から好ましい。
【0066】
また、官能基含有ノルボルネン誘導体単位としては、式(2)の構造単位に代えて、または加えて式(3):
【0067】
【化12】

【0068】
(式中、R3は同じかまたは異なり、いずれもHまたは炭素数1〜10のアルキル基;X8、X9およびX10は同じかまたは異なり、いずれもH、FまたはCF3;Xb2は水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されていてもよくエーテル結合を含んでいてもよい炭素数1〜10の2価の有機基;Y3はCOOH基および/または酸で解離してCOOH基に変化する酸解離性官能基;m3は0〜2の整数;n3は0または1)で表される部位を有する官能基含有ノルボルネン誘導体から選ばれる少なくとも1種の単量体由来の構造単位(以下、「COOH基等含有ノルボルネン誘導体単位N2」という)が、共重合体の現像液溶解性が良好な点から好ましくあげられるが、これらのみに限定されるものではない。
【0069】
COOH基等含有ノルボルネン誘導体単位N2は、構造単位N1と同様のノルボルネン誘導体であるためN1と同様の反応性を示し、共重合性に優れ、組成比の調整が用意で、官能基の分布をポリマー中で均一にできる点が優れている。また、N2はアルカリ現像液への溶解能力の高い−COOH基を有しているため、共重合体中にN2を少量の割合で導入しても、共重合体のアルカリ現像液への溶解特性を改善できる点で優れており、さらには、これを用いたレジスト組成物に高いアルカリ現像液への溶解性を付与できる。しかし、−COOH基は同時に高い親水性も持ち合わせているため現像の際、露光不足の部分の樹脂まで膨潤してしまい良好なパターンが得られない恐れがあるので、N2の共重合体中での組成は45モル%以下が好ましい。
【0070】
3は、−COOH基または酸で解離して−COOH基に変化する酸解離性官能基である。酸で解離して−COOH基に変化する酸解離性官能基としては、式:−COOQ1(式中、Q1は保護基)で表される官能基があげられる。
【0071】
保護基Q1としては、式(1)におけるY1の保護基Pと同様に例示できる。
【0072】
構造単位N2としては、特に安価に合成できる点で好ましいことから、つぎに例示するものが好ましい。
【0073】
【化13】

【0074】
【化14】

【0075】
【化15】

【0076】
(式中、m2は前記と同じ;nは0〜10の整数;R10はFまたはCF3
これらのうち、m2が0のものが特に好ましくあげられる。
【0077】
式(3)以外の官能基を有する非フッ素系のノルボルネン誘導体単位N3としては、たとえばつぎのものが例示できる。
【0078】
【化16】

【0079】
【化17】

【0080】
ノルボルネン誘導体単位Nとしてはまた、官能基もフッ素原子も有さないノルボルネン誘導体単位N4も使用できる。その具体例としては、たとえばつぎのものがあげられる。
【0081】
【化18】

【0082】
【化19】

【0083】
(3)構造単位A
構造単位Aは前記単量体(t)および/または単量体(n)と共重合可能な他の単量体(a)由来の構造単位である。
【0084】
構造単位Aの好ましい単位の1つとしては、−COOH基または−COOH基に酸で解離する保護基を導入したカルボン酸誘導体(−COOQ1)を有するエチレン性単量体(a1)由来の構造単位A1であり、フッ素原子を含んでいても、含まなくてもよい。
【0085】
具体的には、式(A1):
【0086】
【化20】

【0087】
(式中、COOQ1は−COOH基または−COOH基に酸で解離する保護基を導入した基;X14はH、ClまたはCH3;X15およびX16は同じかまたは異なり、H、FまたはCF3;Rfは炭素数1〜40のフッ素原子を含んでいてもよいアルキレン基または炭素数2〜100のエーテル結合を有するフッ素原子を含んでいてもよいアルキレン基、aは0〜3の整数;bおよびcは同じかまたは異なり、0または1)で示される構造単位があげられる。
【0088】
具体例としては、たとえばつぎのものがあげられる。
【0089】
CH2=CHCH2COOQ1、CH2=CHCH2OCH2CH2COOQ1、CH2=CHCF2CF2CH2COOQ1、CH2=CHCF2CF2CF2COOQ1、CH2=CHCF2CF2CF2CH2COOQ1、CH2=CH−O−CH2CF2CF2COOQ1、CH2=CH−O−CH2CF2CF2CH2COOQ1などがあげられる。
【0090】
また構造単位Aを構成する別の構造単位A2としては、エチレン系単量体、環状オレフィン系単量体、アリル系単量体、アリルエーテル系単量体、ビニルエーテル系単量体などに由来する構造単位があげられる。
【0091】
エチレン系単量体としては、たとえばCH2=CH2、CH2=CHCH3、CH2=CHClなどがあげられる。
【0092】
環状オレフィン系単量体としては、たとえば
【0093】
【化21】

【0094】
などがあげられる。
【0095】
アリル系単量体としては、たとえばCH2=CHCH2Cl、CH2=CHCH2OH、CH2=CHCH2Brなどがあげられる。
【0096】
アリルエーテル系単量体としては、たとえば式:
CH2=CHCH2−O−R14
(式中、R14は炭素数1〜20のハロゲン原子を含んでいてもよく、エポキシ基や水酸基を含んでいてもよい炭化水素基)で示される単量体があげられる。
【0097】
具体的には、CH2=CHCH2−O−CH2(CF2n8−R15(n8は1〜10の整数;R15はH、ClまたはF)、
【0098】
【化22】

【0099】
などがあげられる。
【0100】
ビニルエーテル系単量体としては、たとえば
【0101】
【化23】

【0102】
などがあげられる。
【0103】
そのほか、構造単位T以外のトリシクロノネン誘導体単位、および構造単位N以外のノルボルネン誘導体も任意の構造単位Aとして採用してもよい。
【0104】
本発明のトリシクロノネン重合体は、構造単位Tが55〜100モル%、構造単位Nが0〜45モル%、構造単位Aが0〜20モル%であって、T+Nが80〜100モル%であり、かつT/Nのモル比が55/45〜100/0の重合体である。すなわち、構造単位Tの単独重合体、構造単位TとNの共重合体、構造単位TとAの共重合体、さらには構造単位TとNとAの共重合体が含まれるが、構造単位T(または構造単位Tおよび構造単位N)の割合が80〜100モル%と高いので、結果として、現像液溶解速度が大きく、しかも耐ドライエッチング性にも優れた性能を発揮するレジスト組成物を提供することが可能となる。
【0105】
また現像の際、露光不足の部分の樹脂まで膨潤してしまうことが少なく、良好なパターンを得やすい点から、−COOH基よりも水酸基、特に含フッ素アルコール基の方が透明性が高いため、より好ましくは、トリシクロノネン重合体中に、構造単位Tが70〜100モル%、構造単位Nが0〜30モル%、構造単位Aが0〜15モル%であって、T+Nが85〜100モル%であり、かつT/Nのモル比が70/30〜100/0、特に構造単位Tが80〜100モル%、構造単位Nが0〜20モル%、構造単位Aが0〜10モル%であって、T+Nが90〜100モル%であり、かつT/Nのモル比が80/20〜100/0である。
【0106】
本発明のトリシクロノネン重合体の分子量は、数平均分子量で1000〜100000、好ましくは2000〜50000、より好ましくは2000〜10000であり、重量平均分子量で2000〜200000、好ましくは2000〜50000、より好ましくは3000〜20000である。
【0107】
本発明のトリシクロノネン重合体の製造は、前記単量体(t)、要すれば単量体(n)、さらには必要に応じて、単量体(a)を、各単量体の構造に対応する不飽和単量体のラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合または付加重合といった公知の重合方法に従って重合または共重合して製造される。たとえば、Macromolecules 1996,29,pp2755−2763に記載の方法が具体的に示されるが、それぞれの単量体、重合触媒に適した条件で製造することが好ましい。
【0108】
重合形態としては、単量体を溶解させる有機溶媒中で行なう溶液重合法、水性媒体中で適当な有機溶剤の存在下または非存在下に行なう懸濁重合法、水性媒体に乳化剤を添加して行なう乳化重合法、無溶媒で行なうバルク重合法などを用いることができる。なかでも、有機溶剤を用いての溶液重合、懸濁重合、バルク重合法が好ましい。
【0109】
反応温度は、−20〜200℃の範囲で適宜選ばれ、なかでも0〜150℃、好ましくは、10℃から100℃の温度範囲で行うことが好ましい。また、室温(15〜30℃)付近の温度でも充分反応が進行する。
【0110】
重合溶剤としては特に制限されないが、炭化水素系溶剤、フッ素系溶剤、塩素系溶剤、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、酢酸エステル系溶剤、エーテル系溶剤などが好ましく用いられる。具体的には、塩化メチレン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ニトロベンゼン、クロロベンゼンなどが好ましく用いられ、金属触媒の溶解性の点でアセトニトリル、テトラヒドロフラン、クロロベンゼンがより好ましく用いられる。
【0111】
付加重合を行う場合の金属触媒には、パラジウム系触媒、ニッケル系触媒、および白金系触媒が好ましく用いられる。具体的には、(η3−C35)Pd(SbF6)、(η3−C35)Pd(BF4)、[Pd(CH3CN)4][BF42などが挙げられる。なかでも、(η3−C35)Pd(SbF6)は反応性が高い点で好ましく、[Pd(CH3CN)4][BF42は分子量分布が狭いポリマーが得られる点で好ましい。
【0112】
特に、本発明のトリシクロノネン重合体は、フッ素含有率が高く、また193nm波長の光(ArFエキシマレーザー光)および157nm波長の光(F2エキシマレーザー光)の吸光係数が小さい。たとえば、193nm光で1.5μm-1以下、さらには1.0μm-1以下、特にμm-1以下である重合体、または157nm光で1.5μm-1以下、さらには1.0μm-1以下、特に0.8μm-1以下である重合体である。
【0113】
さらにまた本発明のトリシクロノネン重合体は、レジストパターンの形成時に使用するアルカリ現像液への溶解性にも優れており、たとえば現像液(TMAH)溶解速度として100nm/s(0.595%TMAH溶液。以下同様)以上、さらには200nm/s以上、特に300nm/s以上という溶解速度を達成できる。
【0114】
加えて、耐ドライエッチング性も向上している。
【0115】
このように本発明のトリシクロノネン重合体は、透明性に優れ、現像液溶解速度も大きく、しかも耐ドライエッチング性にも優れているので、たとえばレジスト組成物のベースポリマーや溶解抑止剤などとして有用である。
【0116】
すなわち、本発明はまた、(i)前記の含フッ素トリシクロノネン重合体、および(ii)光酸発生剤からなるレジスト組成物にも関する。
【0117】
含フッ素トリシクロノネン重合体(i)としては、前述の含フッ素トリシクロノネン重合体を使用する。
【0118】
本発明のレジスト組成物のベースポリマーとして、含フッ素トリシクロノネン重合体に加えてレジスト組成物に使用されている従来公知の酸解離性官能基含有ポリマーを併用してもよい。
【0119】
具体的には、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリシロキサン系重合体、含フッ素ジエンを単量体とする重合体などのホモ重合体、また、アクリル酸系単量体、メタクリル酸系単量体、スチレン系単量体、ノルボルネン系単量体、マレイン酸系単量体、ビニルエーテル系単量体、アリル系単量体、含フッ素エチレン性単量体などから選ばれる2種以上の単量体から得られる共重合体があげられる。これらの重合体は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用したものでもよい。
【0120】
これらの中でもアクリル酸系単量体、メタクリル酸系単量体、ノルボルネン系単量体、マレイン酸系単量体、含フッ素エチレン性単量体から選ばれる2種以上の単量体から得られる共重合体、ポリシロキサン系重合体、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステルが、現像特性が良好な点から好ましくあげられる。
【0121】
さらにはポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、アクリル酸系単量体とメタクリル酸系単量体との共重合体、ポリシロキサン系重合体、ノルボルネン系単量体と含フッ素エチレン性単量体の共重合体、あるいはそれらの混合物が、ドライエッチング耐性に優れることから特に好ましく選ばれる。
【0122】
透明性の観点から、ArFレーザーを用いる場合には、アクリル酸系単量体、メタクリル酸系単量体、ノルボルネン系単量体、マレイン酸系単量体、含フッ素エチレン性単量体から選ばれる2種以上の単量体から得られる共重合体、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリシロキサン系重合体、含フッ素ジエンを単量体とする重合体が、好ましくあげられる。F2レーザーを用いる場合には、ポリシロキサン系重合体、ノルボルネン系単量体と含フッ素エチレン性単量体の共重合体、含フッ素ジエンを単量体とする重合体が、好ましくあげられる。
【0123】
本発明のレジスト組成物で用いる光酸発生剤(ii)としては、国際公開公報WO01/74916号パンフレットに記載の光酸発生剤と同様のものが同様に好ましく例示でき、本発明でも有効に使用できる。
【0124】
具体的には、光を照射することによって酸またはカチオンを発生する化合物であって、たとえば有機ハロゲン化合物、スルホン酸エステル、オニウム塩(特に中心元素がヨウ素、イオウ、セレン、テルル、窒素またはリンであるフルオロアルキルオニウム塩など)、ジアゾニウム塩、ジスルホン化合物、スルホンジアジド類など、またはこれらの混合物があげられる。
【0125】
より好ましい具体例としては、つぎのものがあげられる。
(1)TPS系:
【0126】
【化24】

【0127】
(式中、X-はPF6-、SbF6-、CF3SO3-、C49SO3-など;Rb1、Rb2、Rb3は同じかまたは異なり、CH3O、H、t−Bu、CH3、OHなど)
(2)DPI系:
【0128】
【化25】

【0129】
(式中、X-はCF3SO3-、C49SO3-、CH3−φ−SO3-、SbF6-
【0130】
【化26】

【0131】
など;Rb4、Rb5は同じかまたは異なり、H、OH、CH3、CH3O、t−Buなど)
(3)スルホネート系:
【0132】
【化27】

【0133】
(式中、Rb6
【0134】
【化28】

【0135】
など)
本発明のレジスト組成物における光酸発生剤(ii)の含有量は、官能基含有トリシクロノネン重合体(i)100重量部に対して0.1〜30重量部が好ましく、さらには0.2〜20重量部が好ましく、最も好ましくは0.5〜10重量部である。
【0136】
光酸発生剤(ii)の含有量が0.1重量部より少なくなると感度が低くなり、30重量部より多く使用すると光酸発生剤が光を吸収する量が多くなり、光が基板まで充分に届かなくなって解像度が低下しやすくなる。
【0137】
また本発明のレジスト組成物には、上記の光酸発生剤(ii)から生じた酸に対して塩基として作用できる有機塩基を添加してもよい。有機塩基は国際公開公報WO01/74916号パンフレットに記載のものと同様のものが好ましく例示でき、本発明でも有効に使用できる。
【0138】
具体的には、含窒素化合物から選ばれる有機アミン化合物であり、たとえばピリジン化合物類、ピリミジン化合物類、炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基で置換されたアミン類、アミノフェノール類などがあげられ、特にヒドロキシル基含有アミン類が好ましい。
【0139】
具体例としては、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリアミルアミン、ピリジンなどが好ましくあげられる。
【0140】
本発明のフォトレジスト組成物における有機塩基の含有量は、光酸発生剤(ii)の含有量に対して0.1〜100モル%が好ましく、さらに好ましくは、1〜50モル%である。0.1モル%より少ない場合は解像性が低くなり、100モル%よりも多い場合は低感度になる傾向にある。
【0141】
その他、本発明のレジスト組成物に、必要に応じて国際公開公報WO01/74916号パンフレットに記載の添加物、たとえば増感剤、染料、接着性改良剤、保水剤などこの分野で慣用されている各種の添加剤を含有させることもできる。
【0142】
また、本発明のレジスト組成物において溶剤は、国際公開公報WO01/74916号パンフレットに記載の溶剤と同様のものが同様に好ましく例示でき、本発明でも有効に使用できる。
【0143】
具体的には、セロソルブ系溶剤、エステル系溶剤、プロピレングリコール系溶剤、ケトン系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、またはこれらの混合溶剤が好ましくあげられる。さらに酸解離性官能基含有トリシクロノネン重合体(i)の溶解性を高めるために、CH3CCl2F(HCFC−141b)などの含フッ素炭化水素系溶剤やフッ素アルコール類などのフッ素系溶剤を併用してもよい。
【0144】
これらの溶剤の量は、溶解させる固形分の種類や塗布する基材、目標の膜厚、などによって選択されるが、塗布のし易さという観点から、レジスト組成物の全固形分濃度が0.5〜70質量%、好ましくは1〜50質量%となるように使用するのが好ましい。
【実施例】
【0145】
つぎに本発明を合成例および実験例などに基づいて説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0146】
なお、物性の評価に使用した装置および測定条件は以下のとおりである。
(1)NMR:BRUKER社製
1H−NMR測定条件:300MHz(テトラメチルシラン=0ppm)
19F−NMR測定条件:282MHz(トリクロロフルオロメタン=0ppm)
(2)重量平均分子量
ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により、東ソー(株)製のGPC HLC−8020を用い、Shodex社製のカラム(GPC KF−801を1本、GPC KF−802を1本、GPC KF−806Mを2本直列に接続)を使用し、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を流速1ml/分で流して測定したデータより算出する。
(3)フッ素含有率(質量%):
酸素フラスコ燃焼法により試料10mgを燃焼し、分解ガスを脱イオン水20mlに吸収させ、吸収液中のフッ素イオン濃度をフッ素選択電極法(フッ素イオンメータ。オリオン社製の901型)で測定することによって求めた値を採用する。
(4)波長193nmに対する吸収係数:
(株)日立ハイテクノロジー製のU−4000・SPECTROMETERを使用する。
【0147】
合成例1 (−COF基を有するトリシクロノネン化合物の合成)
圧力計、安全弁、攪拌器および温度計、滴下ロートを備えたガラス製の500mlのオートクレーブにα−フルオロアクリル酸フルオライド(CH2=CFCOF)233gとハイドロキノン1.0g、ジエチルエーテル100mLを仕込み、0〜5℃に冷却した。窒素気流下、クアドリシクラン184gを滴下した。滴下終了後、110℃で16時間攪拌した。
【0148】
反応混合物から減圧蒸留により、−COF基を有する次式で示されるトリシクロノネン化合物(以下、「TCN−1」と略す)を350g得た。
【0149】
【化29】

【0150】
合成例2 (1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−(3−フルオロ−トリシクロ[4.2.1.02,5]ノン−7−エン−3−イル)−プロパン−2−オールの合成)
温度計、3方コックを付けた冷却管および滴下ロートを備えた100ml三口フラスコに合成例1で合成したトリシクロノネン化合物(TCN−1)30.9gおよびフッ化カリウム28gを仕込み、窒素ガス雰囲気下氷浴中で冷却した。フラスコ内の温度を3〜10℃に保ちながら、攪拌下にCF3SiMe362gを2時間かけて滴下を行った。室温に戻し一晩攪拌した。反応溶液を氷水中に注ぎ、ジエチルエーテルで抽出を行った。有機層を水、希塩酸続いて飽和重曹水で洗浄後、有機層を塩化カルシウムで乾燥した。減圧蒸留により精製し、次式で示される1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−(3−フルオロ−トリシクロ[4.2.1.02,5]ノン−7−エン−3−イル)−プロパン−2−オール(以下、「TCN−2」と略す)50g得た。
【0151】
【化30】

【0152】
合成例3 (1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−(3,4,4−トリフルオロ−トリシクロ[4.2.1.02,5]ノン−7−エン−3−イル)−プロパン−2−オールの合成)
圧力計、安全弁、攪拌器を備えた100mlオートクレーブに1,1−ビストリフルオロメチル−2,3,3−トリフルオロ−2−プロペン−1−オールのジエチルエーテル溶液45gおよびクアドリシクラン6.9g、ハイドロキノン0.5gを仕込み、130℃で24時間加熱攪拌を行った。
【0153】
粗生成物を1リットルのビーカーに移し、氷浴で冷やしながら磁気攪拌子で攪拌し、2N−NaOH水溶液0.1リットルをゆっくり加えた。室温で30分間攪拌した後、これに水0.6リットルを加え、アルカリ性水層をn−ヘキサン100mlで数回洗浄した。さらにこの水層を減圧下で処理することにより系中のエーテル分を取り除いた。得られた水層にpH1になるまで濃塩酸を加え、分離した有機層を分液し、得られた有機層をMgSO4で乾燥した後に減圧蒸留にて精製し、次式で示される1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−(3,4,4−トリフルオロ−トリシクロ[4.2.1.02,5]ノン−7−エン−3−イル)−プロパン−2−オール(以下、「TCN−3」と略す)5.5gを得た。
【0154】
【化31】

【0155】
合成例4 (OH基含有含フッ素トリシクロノネン誘導体(TCN−2)のホモポリマーの合成)
内容量50mlの二口フラスコに、窒素雰囲気下で、OH基含有含フッ素トリシクロノネン誘導体(TCN−2)2.6g、[Pd(CH3CN)4][BF4242mgをTHF10mLに溶解し、30℃で6時間重合した。その後、反応溶液をセライトでろ過した後、ろ液をエバポレーターで濃縮した。濃縮後、固形分を再び酢酸エチル10mlに溶かしヘキサンに再沈殿させ、重合体を分離した。恒量になるまで真空乾燥を行ない、重合体1.5gを得た。
【0156】
この重合体は、1H−NMRおよび19F−NMR分析の結果より、前記OH基含有含フッ素トリシクロノネン化合物(TCN−2)の単独重合体であることを確認した。
【0157】
GPC分析により重量平均分子量は6,500であった。
【0158】
合成例5 (OH基含有含フッ素トリシクロノネン誘導体(TCN−3)のホモポリマーの合成)
合成例4においてOH基含有含フッ素トリシクロノネン誘導体(TCN−2)に代えてOH基含有含フッ素トリシクロノネン誘導体(TCN−3)2.7gを用いた以外は合成例4と同様の操作を行ない、重合体1.6gを得た。
【0159】
この重合体は、1H−NMRおよび19F−NMR分析の結果より、前記OH基含有含フッ素トリシクロノネン誘導体(TCN−3)の単独重合体であることを確認した。
【0160】
GPC分析よりこの単独重合体の重量平均分子量は7,000であった。
【0161】
比較合成例1(TFEとOH基含有含フッ素トリシクロノネン誘導体(TCN−2)との共重合体の合成)
バルブ、圧力ゲージ、攪拌器および温度計を備えた3リットルのオートクレーブを窒素で数回置換した後に真空にして、OH基含有含フッ素トリシクロノネン誘導体(TCN−2):
【0162】
【化32】

【0163】
の290gとHCFC−141bの1500gを仕込んだ。ついでバルブよりテトラフルオロエチレン(TFE)ガス350gを仕込み、ヘプタフルオロブタノイルパーオキサイド:(CF3CF2CF2COO)2の10.0重量%パーフルオロヘキサン溶液96gを仕込み、攪拌しながら反応を開始し、内温を35℃に保った。
【0164】
反応の進行と共に内圧が低下し、反応前の0.9MPaG(9.2kgf/cm2G)から0.85MPaG(8.7kgf/cm2G)に低下する毎にTFEを追加し0.9MPaG(9.2kgf/cm2G)に昇圧し、反応による降圧、TFE追加による昇圧を繰り返し、重合反応を30時間行なった。
【0165】
重合中、開始より6時間間隔でヘプタフルオロブタノイルパーオキサイド:(CF3CF2CF2COO)2の10.0重量%パーフルオロヘキサン溶液48gを計5回添加した。
【0166】
反応終了後、未反応モノマーを放出したのち、重合溶液を取り出し、濃縮後ヘキサンで再沈殿させ、共重合体を分離した。恒量になるまで真空乾燥を行ない、共重合体170gを得た。
【0167】
この共重合体の組成比は、1H−NMRおよび19F−NMR分析の結果より、TFE/前記OH基含有含フッ素トリシクロノネン誘導体(TCN−2)が50/50モル%の共重合体であった。
【0168】
GPC分析により重量平均分子量は4,500であった。
【0169】
比較合成例2(TFEとOH基含有含フッ素トリシクロノネン誘導体(TCN−3)との共重合体の合成)
比較合成例1においてOH基含有含フッ素トリシクロノネン誘導体(TCN−2)の変わりにOH基含有含フッ素トリシクロノネン誘導体(TCN−3):
【0170】
【化33】

【0171】
325gを用いた以外は合成例1と同様の操作を行ない、重合体180gを得た。
【0172】
この共重合体の組成比は、1H−NMRおよび19F−NMR分析の結果より、TFE/前記OH基含有含フッ素トリシクロノネン誘導体(TCN−3)が50/50モル%の共重合体であった。
【0173】
GPC分析により重量平均分子量は4,900であった。
【0174】
実験例1(現像液に対する溶解性の測定)
合成例4〜5および比較合成例1〜2でそれぞれ得られた重合体を以下のようにして水晶振動子法(QCM法)により現像液溶解速度を測定した。結果を表1に示す。
(1)試料の作製:金で被覆された直径24mmの水晶振動子板に、上記重合体混合物をPGMEAに溶解させた溶液(重合体濃度:1〜10重量%)を塗布し110℃で90秒間乾燥後、100nmの被膜を作製した。
(2)溶解速度の測定:膜厚は水晶振動子板の振動数から換算して算出し測定する。
【0175】
上記、含フッ素重合体を塗布した水晶振動子板を標準現像液である2.38重量%濃度および0.595重量%濃度のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液に浸し、浸漬させた時点から時間に対する被膜の膜厚変化を、振動数の変化により測定し、単位時間あたりの溶解速度(nm/sec)を算出した(参考文献:Advances in Resist Technology and Proceedings of SPIE Vol. 4690, 904(2002))。
【0176】
実験例2(透明性の測定)
合成例4〜5および比較合成例1〜2でそれぞれ得られた重合体を以下のようにして透明性(193nmでの吸収係数)を測定した。結果を表1に示す。
(透明性の測定方法)
(1)試料の作製:CaF2板に、上記重合体混合物をPGMEAに溶解させた溶液(重合体濃度:1〜10重量%)を塗布し110℃で90秒間乾燥し、被膜を作製した。
(2)透明性の測定:上記で作成した皮膜をスキャンスピード60nm/min、サンプリング間隔0.10nm、スリット4.00nmにて、開始波長400nmから終了波長190nmで測定を行い、193nmの吸収と膜厚から吸収係数を算出した。
【0177】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I): −(T)−(N)−(A)− (I)
[式中、
Tは含フッ素トリシクロノネン誘導体由来の構造単位であって、式(1):
【化1】

(式中、Rf1およびRf2は同じかまたは異なり、エーテル結合を含んでいてもよい炭素数1〜10の含フッ素アルキル基;R1は同じかまたは異なり、いずれもHまたは炭素数1〜10のアルキル基;X、X1、X2、X3およびX4は同じかまたは異なり、いずれもH、FまたはCF3;Xaは水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されていてもよくエーテル結合を含んでいてもよい炭素数1〜10の2価の有機基;Y1はOH基および/または酸で解離してOH基に変化する酸解離性官能基;m1は0〜2の整数;n1は0または1)で表される部位を有する含フッ素トリシクロノネン誘導体から選ばれる少なくとも1種の単量体(t)由来の構造単位;
Nはノルボルネン誘導体から選ばれる少なくとも1種の単量体(n)由来の構造単位;
Aは前記単量体(t)および/または単量体(n)と共重合可能な他の単量体(a)由来の構造単位]
で表されるポリマーであって、構造単位Tが55〜100モル%、構造単位Nが0〜45モル%、構造単位Aが0〜20モル%であって、T+Nが80〜100モル%であり、かつT/Nのモル比が55/45〜100/0である含フッ素トリシクロノネン重合体。
【請求項2】
前記構造単位Tが、式(1)において、Rf1およびRf2がいずれもCF3である構造単位である請求項1記載の含フッ素トリシクロノネン重合体。
【請求項3】
前記構造単位Nが、含フッ素ノルボルネン誘導体単位である請求項1または2記載の含フッ素トリシクロノネン重合体。
【請求項4】
前記構造単位Nが、官能基を1個または2個以上含有するノルボルネン誘導体単位である請求項1〜3のいずれかに記載の含フッ素トリシクロノネン重合体。
【請求項5】
前記構造単位Nが有する官能基が、−OH基、−COOH基、エステル基、カルボン酸無水物基、りん酸基、りん酸エステル基、スルホン酸基、ニトリル基、および/または酸で解離して−OH基もしくは−COOH基に変化する酸解離性官能基である請求項4記載の含フッ素トリシクロノネン重合体。
【請求項6】
前記構造単位Nが、式(2):
【化2】

(式中、Rf3およびRf4は同じかまたは異なり、エーテル結合を含んでいてもよい炭素数1〜10の含フッ素アルキル基;R2は同じかまたは異なり、いずれもHまたは炭素数1〜10のアルキル基;X5、X6およびX7は同じかまたは異なり、いずれもH、FまたはCF3;Xb1は水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されていてもよくエーテル結合を含んでいてもよい炭素数1〜10の2価の有機基;Y2はOH基および/または酸で解離してOH基に変化する酸解離性官能基;m2は0〜2の整数;n2は0または1)で表される部位を有する官能基含有含フッ素ノルボルネン誘導体から選ばれる少なくとも1種の単量体由来の構造単位、および/または式(3):
【化3】

(式中、R3は同じかまたは異なり、いずれもHまたは炭素数1〜10のアルキル基;X8、X9およびX10は同じかまたは異なり、いずれもH、FまたはCF3;Xb2は水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されていてもよくエーテル結合を含んでいてもよい炭素数1〜10の2価の有機基;Y3はCOOH基および/または酸で解離してCOOH基に変化する酸解離性官能基;m3は0〜2の整数;n3は0または1)で表される部位を有する官能基含有ノルボルネン誘導体から選ばれる少なくとも1種の単量体由来の構造単位である請求項1〜5のいずれかに記載の含フッ素トリシクロノネン重合体。
【請求項7】
(i)請求項1〜6のいずれかに記載の含フッ素トリシクロノネン重合体、および(ii)光酸発生剤からなるレジスト組成物。

【公開番号】特開2006−342265(P2006−342265A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−170009(P2005−170009)
【出願日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】