説明

吸着性ガス分析装置

【課題】NH、HC等の吸着性を有するガス成分が低濃度であっても精度良く測定可能であり、さらにその濃度測定の応答速度を向上させる。
【解決手段】試料ガスを測定するための測定セル21及び当該測定セル21に試料ガスを導入するための導入ポート2Pを有する装置本体2と、測定セル21にレーザ光L1を照射するためのレーザ光照射部22と、導入ポート2Pに導入される試料ガスを加熱するための加熱管4と、試料ガスを負圧して、加熱管4によってその負圧にされた試料ガスを加熱して装置本体2に導入させるための流量制限部32と、測定セル21内及び流量制限部32の下流側から測定セル21までの流路を負圧に維持する負圧ポンプ24とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス等の試料ガスに含まれるアンモニア(NH)成分又はハイドロカーボン(HC)成分等の吸着性を有するガス成分の濃度を測定するガス分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題への関心の高まりに伴って、自動車からのNOx排出量はより一層の削減が求められている。そのため、ガソリンエンジン用リーンNOxトラップ触媒やディーゼルエンジン用選択触媒還元(SCR)触媒など、さまざまなNOx後処理装置の研究・開発が活発に行なわれている。このようなNOx後処理装置の評価のため、NO、NO、NO、NHといった各種の窒素化合物の測定が注目されている。特に、SCRの評価では、NHスリップ評価のため、NHの計測が重要となっている。また、欧州で2014年に実施予定のEuro VIでは、NHに関しての規制があり、NHの低濃度かつ高速応答の測定が求められている。
【0003】
従来、NHの濃度測定に用いられているガス分析装置は、特許文献1に示すように、自動車等の排気管から出る排ガスをサンプリング配管によって測定セルに導入して、NHの吸光度を用いて濃度測定するものである。
【0004】
しかしながら、このサンプリング方式のガス分析装置では、排ガス中に含まれるNHは付着性が高く、サンプリング配管の内壁や配管上に設けられた流量制御機器の内壁等へ付着してしまうという問題がある。そうすると、NHの濃度を精度よく測定することが難しいという問題がある。特に排ガス中に含まれるNHは低濃度であり、上記の配管の内壁等によって測定セル内に導入されるまで時間を要することから、応答速度が低下してしまい、高速測定が難しいという問題がある。
【0005】
また、サンプリング方式のガス分析装置では、サンプリング配管と測定セルとの間に排ガスをサンプリングするとともに、そのサンプリングした試料ガスを測定セルに導入するための吸引ポンプが設けられている。
【0006】
しかしながら、この吸引ポンプにより排ガスのサンプリングを行う場合には、排出管(テールパイプ)から出る排ガスの圧力によって、サンプリング配管内が負圧になったり正圧になったりして変動する。正圧になった場合には、サンプリング配管の内壁にNHが吸着し易くなってしまう。また、測定セルにおいて行われる濃度測定は、フーリエ変換赤外分光計(FTIR)又は非分散型赤外線分析法(NDIR)を用いたものであり、これらの測定を行うためには、測定セル内をほぼ大気圧と同等の圧力にする必要がある。そうすると、測定セル内にNHが吸着してしまうという問題がある。さらに、測定セルに排ガスを導入するにあたってポンプを通過する構成であり、ポンプにNHが吸着してしまうという問題も生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−159587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、上記問題点を一挙に解決すべく、レーザ光を用いた吸光光度法によりガス成分を分析する構成であれば、測定セルの試料ガスをほぼ大気圧と同等の圧力で測定する必要が無いことに着目して初めてなされ、NH成分又はHC成分等の極性を有する吸着性ガス成分が低濃度であっても精度良く測定可能であり、さらにその濃度測定の応答速度を向上させることをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明に係る吸着性ガス分析装置は、試料ガス中に含まれる極性を有する吸着性成分の濃度を測定するものであって、前記試料ガスを測定するための測定セル及び当該測定セルに試料ガスを導入するための導入ポートを有する装置本体と、前記測定セルにレーザ光を照射するためのレーザ光照射部と、前記導入ポートに接続されて、当該導入ポートに導入される試料ガスを加熱するための加熱管と、前記試料ガスを負圧にして、前記加熱管によってその負圧にされた試料ガスを加熱して装置本体に導入させるための流量制限部と、前記測定セルに接続されて、前記測定セル内をサンプリング開始時から測定終了時まで負圧に維持するとともに、前記流量制限部の下流側から測定セルまでの流路をサンプリング開始時から測定終了時まで負圧に維持する負圧ポンプとを具備することを特徴とする。
【0010】
このようなものであれば、装置本体外に加熱管及び流量制限部を設け、負圧ポンプにより、測定セル内及び流量制限部の下流側から測定セルまでの流路を負圧に維持しているので、測定セルに繋がる流路において負圧とされる領域を大きくすることができ、NH又はHC等の極性を有する吸着性ガス成分の吸着を低減することができる。また、流量制限部を設けるとともに、負圧ポンプによってサンプリング開始時から測定終了時まで負圧に維持することにより、試料ガスの流入圧力によって流量制限部下流側が正圧になることを防止することができ、吸着性ガス成分の付着を防止することができる。これにより、NH成分又はHC成分等の極性を有する吸着性ガス成分が低濃度であっても精度良く測定可能であり、さらにその濃度測定の応答速度を向上させることができる。また、加熱管によって、負圧にされた試料ガスが加熱されることになり、配管内の結露に伴う吸着性ガス成分の溶解損失を防止でき、測定精度及び応答速度をより一層向上させることができる。さらに、常圧における吸収スペクトルを観測すると吸収ピークが広がりを持つことが知られているが、測定セル内を負圧状態にすることにより、よりシャープなピークが得られ、吸着性ガス成分の吸収ピークに対する干渉影響が低減できる。
【0011】
測定セル内及び加熱管における流量制限部の下流側から測定セルまでの流路を負圧に維持することによって内壁への吸着性ガス成分の吸着量を低減するができるものの、測定セルに導入される試料ガスの量も少なくなってしまう。そうすると、得られる検出信号が低下し検出感度が低下してしまうという問題がある。この問題を解決するためには、前記測定セルが多重反射型のものであることが望ましい。これならば、測定セル内での光路長を長くすることができ、検出信号を大きくすることができ、検出感度を向上させることができる。特に試料ガスに含まれるNH等の低濃度ガスの濃度測定において有効である。なお、本発明はレーザ光を照射するものであるから、多重反射型セルを用いることで有効に光路長を長くすることができる。
【発明の効果】
【0012】
このように構成した本発明によれば、NH等の極性を有する吸着性ガス成分が低濃度であっても精度良く測定可能であり、さらにその濃度測定の応答速度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態の排ガス分析装置を模式的に示す構成図である。
【図2】吸着性ガスを有する試料ガスの吸収スペクトルの圧力変動を示す図。
【図3】各種加熱管を用いた場合の応答時間を示す実験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明に係る排ガス分析装置100の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0015】
本実施形態に係る排ガス分析装置100は、例えば自動車等の排気管(テールパイプ)に接続されて、その排気管から排出される試料ガスである排ガス中に含まれるNO、NO、NO及びNHの濃度を吸光光度法を用いて測定するものである。
【0016】
具体的にこのものは、図1に示すように、試料ガスを測定するための装置本体2と、当該装置本体2とは別体に設けられて、自動車の排気管に取り付けられる前置きの流量制御ユニット3と、装置本体2及び流量制御ユニット3に接続され、流量制御ユニット3から導入される排ガスを装置本体2に導入する加熱管4とを備えている。なお、装置本体2と流量制御ユニット3とはそれぞれ異なる場所に設けられており、それらを一緒に収容する別のケーシング等は無く、それらは加熱管のみにより接続されている。
【0017】
装置本体2は、試料ガスを測定するための多重反射型の測定セル21と、この測定セル21の光導入窓からレーザ光L1を導入して測定セル21内の試料ガスに直線性の高いレーザ光L1を照射するレーザ光照射部22と、測定セル21から出る透過レーザ光L2を検出する光検出部23と、測定セル21に接続されて測定セル21内を負圧にする負圧ポンプ24とを備えている。ここで、測定セル21を多重反射型としているので、測定成分が低濃度であっても、検出感度を大きくすることができる。また、負圧ポンプ24は、測定セル21内を、例えば、1kPa(ガス濃度が小さくなりすぎて測定が困難になる圧力)〜80kPa(ピークがなだらかになり他のガス成分との干渉が生じやすくなる圧力)の範囲内の負圧に維持し、好ましくは、NH成分の吸着が起こりにくく、測定が可能なガス濃度を実現しつつ、さらに他のガス成分との干渉が生じない圧力範囲である、20kPa〜50kPaの範囲内の負圧に維持する。このように20kPa〜50kPaであれば、1つの負圧ポンプ24によって測定セル21と後述する加熱管4の両方を同じ圧力にすることができる。なお、図2に示すとおり、吸着性ガス成分を有する試料ガスの吸収スペクトルは、80kPa以下においてピークが立ち始めており、50kPa以下においてそのピークが明確に現れている。
【0018】
さらに装置本体2は、後述する加熱管4が接続されて、当該加熱管4を流れる排ガスを測定セル21に導入するための導入ポート2Pを有する。導入ポートP2及び測定セル21は内部接続管25により接続されている。なお、導入ポート2P、内部接続管25及び測定セル21は、排ガス中の水分の結露を防止すべく、例えば113℃や191℃に加熱されている。
【0019】
レーザ光照射部22は、レーザ光L1を射出するレーザ光源221と、当該レーザ光源221からの光を測定セルに案内する反射ミラー等からなる案内機構222とを備えている。なお、本実施形態では、吸着性ガス成分としてNHを対象としており、レーザ光源221は、NHが吸収特性を有する中赤外領域や近赤外領域等の赤外領域波長又は紫外領域の発振波長を有するレーザ光を射出する波長可変レーザであり、例えば量子カスケードレーザ(QCL)、波長可変半導体レーザ等の半導体レーザ、固体レーザ又は液体レーザを用いることが考えられる。
【0020】
レーザ光源221としては、特に量子カスケードレーザ(QCL)を用いることが好ましい。QCL素子は、一定間隔の電流パルスによりレーザ光を発振するものであり、レーザ素子からの発振波数は温度に依存するため、結果的に発振波数はある狭い波数範囲でのスキャンを繰り返す。このQCLを用いた吸光光度法(QCL−IR法)では、目的とする成分の吸収ピーク位置がこの範囲内に入るように、発振中心波数を調整した素子を使用する。なお、後述するように負圧にした測定セル21では、試料ガス中のNH等の吸着性ガス成分の密度が小さく、その吸収ピークが小さくなり、感度が下がってしまう。しかしながら、近赤外領域の発振波長(パルス幅は500nsec)を有するQCLを用いることで、吸収ピークを大きくすることができ、負圧下においても感度を低下させることなく、吸着性ガス成分の濃度を測定でき高速応答が可能となる。
【0021】
光検出部23は、測定セル21で多重反射された後に、当該測定セル21から出る透過レーザ光L2を検出するものであり、例えば常温動作型のMCT(HgCdTe)検出器23を用いることが考えられる。なお、MCT検出器231及び測定セル21の間には、透過レーザ光L2を光検出器231に案内するための反射ミラー等からなる案内機構232が設けられている。光検出器231により得られた光強度信号は図示しない演算装置に出力される。そして演算装置により、各成分の吸光度が算出されて、各成分の濃度が演算される。
【0022】
流量制御ユニット3は、自動車の排気管に接続されるものであり、排気管から出る排ガス中のダストを除去するためのフィルタ31と、当該フィルタ31を通過した排ガスの流量を制限するための流量制限部32とを備えている。また、流量制御ユニット3は、排気管の排気口に直接又はその排気口から配管を介して2m以内の位置に取り付けられていることが好ましい。特に、50cm以内の位置に取り付けることが好ましい。これにより、排気管から出る排ガスを上流側で早い段階で負圧状態にすることができる。
【0023】
フィルタ31は、ユーザにより交換可能な上流側の例えば円筒状フィルタ31aと、流量制御ユニット3の内部に設けられてユーザが交換不可である下流側の例えばディスク状フィルタ31bとからなる。また、流量制限部32には、接ガス面積を小さくして応答時間を短くするために臨界オリフィス(CFO)を用いている。このように流量制御ユニット3は、フィルタ31及び臨界オリフィス(CFO)を有するユニットであり、小型化が可能である。
【0024】
具体的には、流量制限部32は、直列に配置された2つの臨界オリフィスCFO1、COF2を用いて構成されている。また2つの臨界オリフィスCFO1、COF2の間には、チェックバルブCVが設けられた分岐流路33が設けられている。このような構成により、流量制御ユニット3に流れる排ガスが高圧の場合には、一部の試料ガスが分岐流路33から外部に排出されるようにしている。また、下流側の臨界オリフィスCFO2には、後述する加熱管4が接続される。これらフィルタ31及び流量制限部32は、排ガス中の水分の結露を防止すべく例えば113℃や191℃に加熱されている。
【0025】
加熱管4は、それぞれ別体に設けられた装置本体2及び流量制御ユニット3を接続するものであり、管の周囲にヒータが巻回されて構成されている。具体的に加熱管4は、下流側が装置本体2の導入ポート2Pに接続されるとともに、上流側が流量制御ユニット3の流量制限部32(具体的にはCFO2)に接続されている。
【0026】
そして、この加熱管4は、流量制御ユニット3を通過した排ガスを、100℃〜200℃に加熱して装置本体2の導入ポート2Pに導く。なお、100℃より低温であれば、加熱管4内でNHガス等の吸着性ガス成分が吸着又は結露し易くなる。一方、200℃より高温であれば、加熱管4を例えばフッ素樹脂(PTFE)で構成した場合に、そのPTFEが溶けてしまう恐れがある。本実施形態では、前記測定セル21の加熱温度と同一温度である113℃に加熱して装置本体2の導入ポート2Pに導く。このような構成により、加熱管4の上流側端部に流量制御部32が設けられる構成となる。
【0027】
なお、加熱管4の管の材質としては、ステンレススチール(SUS)又はフッ素樹脂(PTFE)等が考えられるが、NHの吸着を低減して応答時間を短くするためにはフッ素樹脂(PTFE)を用いることが好ましい。なお、ステンレススチール(SUS)を用いる場合には、加熱管4の内面に多孔質シリコン等の多孔質材をコーティングすることによって極性分子であるNHガスを吸着することが考えられる。また加熱管4の内壁面に表面処理や鏡面加工を施すことによってさらに吸着を低減することができる。
【0028】
ここで、加熱管4の管の材質として、(1)フッ素樹脂(PTFE)を用いた場合、(2)通常のステンレススチール(SUS)を用いた場合、(3)鏡面加工が施されたステンレススチール(SUS)を用いた場合、(4)表面処理が施されたステンレススチール(SUS)を用いた場合の応答時間の実験結果を図3に示す。なお、この図3は、50ppmのNHガスを、サンプル流量10L/min、サンプル配管長さ2m、配管温度を室温(約25℃)の条件で測定した結果である。また、ここでの応答時間は、T10(濃度10%を示す測定時間)からT90(濃度90%を示す時間)までの時間である。図3から分かるように、各種加熱管の応答時間は、PTFE管で1.1秒、通常のSUS管で1.8秒、鏡面加工のSUS管で1.4秒、表面処理のSUS管で1.8秒である。この結果から、PTFE管を用いることが応答時間の観点から最も優れていることが分かる。
【0029】
しかして、本実施形態の排ガス分析装置100においては、サンプリング開始時から測定終了時まで、測定セル21に接続された負圧ポンプ24が、測定セル21内を負圧にするとともに、流量制限部32(具体的にはCFO2)の下流側から測定セル21までの流路を負圧にする。つまり、負圧ポンプ24により、測定セル21から加熱管4の流量制限部32までの流路が、測定セル21と略同一の圧力(例えば25kPa)に負圧にされることになる。本実施形態では、流量制限部32(具体的にはCFO2)の下流側から測定セル21までの流路とは、加熱管4内の流路と、導入ポート2P内の流路と、導入ポート2P及び測定セル21を接続する内部接続管25内の流路とからなる。
【0030】
なお、測定セル21には、排ガス分析装置100(具体的には光検出部23)のゼロ点調整を行うために測定セル21にゼロガスを供給するゼロガス配管6と、排ガス分析装置100(具体的には光検出部23)のスパン調整を行うために測定セル21内にスパンガスを供給するスパンガス配管7とが接続されている。このゼロガス配管6及びスパンガス配管7には、それらガスの供給を切り替えるための電磁弁等の開閉弁61、71が設けられている。また、ゼロガス配管6及びスパンガス配管7は、流量制限要素である臨界オリフィス(CFO)8の上流側で合流しており、当該臨界オリフィス8を介して測定セル21内に供給される。ここで臨界オリフィス8及びその近傍の配管は、前記流量制御ユニット3の流量制限部32と同様に、例えば113℃や191℃に加熱されている。これにより、測定条件と同様の条件で、ゼロ調整及びスパン調整を行うことが可能となる。
【0031】
また、負圧ポンプ24と測定セル21との間にはバッファタンク26が設けられている。このバッファタンク26により、負圧ポンプ24の脈動により測定セル21に導入される試料ガスの流量が変動することを防止する構成としている。なお、負圧ポンプ24の下流側には、ドレンセパレータ27及びドレンポット28が接続されている。ドレンセパレータ27によりドレンと分離された排ガスはドレンセパレータ27から外部に排出される。また、ドレンセパレータ27によりガスと分離されたドレンは、ドレンポット28に収容されて排出される。
【0032】
さらに流量制御ユニット3の流量制限部32が臨界オリフィスであり、負圧ポンプ24のみでは、測定セル21に導入される試料ガスの圧力を調整できない。このため本実施形態では、測定セル21に導入される試料ガスの圧力を調整するための流量圧力調整機構5が設けられている。この流量圧力調整機構5は、負圧ポンプ24及び測定セル21の間の接続管上に接続されており、大気等の補償ガスを導入する流路51と、当該流路51上に設けられたフィルタ52と、補償ガスの流量を調整するための圧力調整弁等のレギュレータ53とを備えている。このレギュレータ53は、測定セル21内が一定圧になるように補償ガスの圧力を調整する。ここで排気管から測定セル21に至るまでレギュレータを設けていないので、レギュレータによるNHの吸着の恐れが無い。なお、本実施形態では、流路51はバッファタンク26に接続されている。
【0033】
<本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態に係る排ガス分析装置100によれば、装置本体2の外部に設けられた加熱管4の上流側端部に流量制限部32を設け、負圧ポンプ24により、測定セル21内及び流量制限部32の下流側から測定セル21までの流路を負圧にしているので、測定セル21に繋がる流路において負圧にされる領域を可及的に大きくすることができ、NH成分の吸着を低減することができる。また、流量制限部32を設けるとともに、負圧ポンプ24によってサンプリング開始時から測定終了時まで負圧に維持することにより、試料ガスの流入圧力によって流量制限部32下流側が正圧になることを防止することができ、NH成分の付着を防止することができる。これにより、NH成分が低濃度であっても精度良く測定可能であり、さらにその濃度測定の応答速度を向上させることができる。なお、NH成分は一度吸着すると出てきにくいことから上述の通り、サンプリング開始時から測定終了時まで、常時負圧にする必要がある。
【0034】
また、加熱管4の上流側端部に流量制限部32が設けられていることから、負圧にされた試料ガスが加熱されることになり、加熱管4内の結露に伴うNH成分の溶解損失をより一層防止することができる。
【0035】
さらに、常圧における吸収スペクトルを観測すると吸収ピークが広がりを持つことが知られているが、測定セル21内を負圧状態にすることにより、よりシャープなピークが得られ、NH成分の吸収ピークに対する干渉影響が低減できる。
【0036】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0037】
例えば、前記実施形態では、流量制御部が加熱管の上流側端部に配置される構成として、負圧にされる流路容積を最大にする構成としているが、その他、加熱管上に設けるようにしても良い。
【0038】
また、流量制御部としては、臨界オリフィスの他、圧力調整弁等の真空レギュレータ、キャピラリ、ベンチュリを用いても良い。
【0039】
さらに、前記実施形態では、吸着性ガス成分としてNH成分について説明したが、その他、ハイドロカーボン(HC)成分等の吸着性の高いガス成分を分析するものであっても良い。ハイドロカーボン(HC)成分の例としては、トルエン等の芳香族炭化水素、メタノールやエタノール等のアルコール、高沸点HC等が挙げられる。また吸着性の高いガス成分とは、NO、SO、HO等の極性を持った分子が挙げられる。
【0040】
その上、前記実施形態では、装置本体2と流量制御ユニット3とが別体に構成されているが、別体でなくても良い。
【0041】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0042】
100・・・排ガス分析装置(吸着性ガス分析装置)
2 ・・・装置本体
21 ・・・測定セル
2P ・・・導入ポート
22 ・・・レーザ光照射部
24 ・・・負圧ポンプ
32 ・・・流量制限部
4 ・・・加熱管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料ガス中に含まれる極性を有する吸着性成分の濃度を測定するものであって、
前記試料ガスを測定するための測定セル及び当該測定セルに試料ガスを導入するための導入ポートを有する装置本体と、
前記測定セルにレーザ光を照射するためのレーザ光照射部と、
前記導入ポートに接続されて、当該導入ポートに導入される試料ガスを加熱するための加熱管と、
前記試料ガスを負圧にして、前記加熱管によってその負圧にされた試料ガスを加熱して装置本体に導入させるための流量制限部と、
前記測定セルに接続されて、前記測定セル内をサンプリング開始時から測定終了時まで負圧に維持するとともに、前記流量制限部の下流側から測定セルまでの流路をサンプリング開始時から測定終了時まで負圧に維持する負圧ポンプとを具備する吸着性ガス分析装置。
【請求項2】
前記測定セルが多重反射型のものである請求項1記載の吸着性ガス分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−2799(P2012−2799A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52090(P2011−52090)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】