説明

吸音材およびこれを用いた構造体

【課題】難燃性を有し、200Hz以下の低周波領域のみならず、200Hzを超える高周波領域の広帯域の騒音を効果的に吸収し、製品形態の自由度を向上させる。
【解決手段】本発明の吸音材1aは、アクリル樹脂から成る樹脂膜11と、樹脂膜11の背面側に積層される多孔質体層(第1の多孔質体層)12とを備えている。
樹脂膜11は、難燃性を有し、燃焼時に有害ガスを発生しないもの、例えばアクリル樹脂で形成されている。
樹脂膜11としては、第1に、酸素指数が25以上のもの、第2に、単位体積当たりの燃焼発熱量が8MJ/m以下のもの、第3に、燃焼発熱速度が[200kW/m] ・10sec以下のものを使用することが好ましい。
第1の多孔質体層12は、難燃性を有する材料、例えばグラスウール、ロックウールの何れかまたはこれらの混合物から成るもので形成されている。
このような構成の吸音材1aは、剛壁2に対して、第1の多孔質体層12を剛壁2側に向けて、かつ剛壁2と平行に設置されることで、本発明の構造体3aが形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音材およびこれを用いた構造体に係り、特に、200Hz以下の低周波領域のみならず200Hzを超える高周波領域の騒音を効果的に吸収し、製品形態の自由度を向上させることができる吸音材およびこれを用いた構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、この種の吸音材として、(a)グラスウールやロックウール等から成る多孔質体層を使用するもの、(b)音源側に空気層を設けたもの、(c)吸音材の音源側に空気層を設けて成るもの、(d)通気度が5〜100倍程度異なる高密度と低密度の繊維集合体を少なくとも2層以上積層して成るものなどが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、(a)および(b)の吸音材においては、周波数帯域が500Hzを超えるような騒音や500Hz以下の騒音に対して、所要の吸音効果を発揮させるためには、多孔質体層の肉厚を厚くしなければならず、ひいては、全体的に吸音材の重量が重くなるという難点があった。また、(c)の吸音材においては、吸音材の音源側に空気層が存在するため、吸音材の重量が重くなり、また、スペースを広くとらなければならないという難点があった。一方、(d)の吸音材は、空気の粘性抵抗を利用し、音波のエネルギーを熱エネルギーに変換して吸音する多孔質吸音構造体に、さらに密度が異なる繊維集合体を積層することで、高密度部分が付加質量、低密度部分がバネの役割を担う、いわゆる動吸振機を構成させて特に低周波数帯域の吸音率を向上させるものであるが、このような構成の吸音材においては、特に100Hz以下のいわゆる低周波帯域においては、十分な吸音効果が得られないという難点があった。また、低周波帯域の音や振動は空気伝搬音だけではなく、建物や窓のがたつきなども発生するため、固体伝搬音および振動防止に対する対策を同時に行う必要があり、従来の吸音材ではその対策が困難であった。
【0004】
このため、本出願人は、先に、空気の粘性抵抗を利用し、音波のエネルギーを熱エネルギーに変換して吸音する多孔質吸音構造体に、さらに密度が異なる繊維集合体を積層した吸音材を開発し、出願している(特開2003−316364号公報)。
【0005】
この吸音材は、音源側に配置される発泡体層と、この発泡体層の剛壁側に積層される多孔質体層とを備えている。ここで、発泡体層は、分子量500〜5000の第1のジオール、分子量500以下の第2のジオール、無機充填材、発泡剤としての水、およびイソシアネートの各成分を含有する発泡体で形成され、また、多孔質体層は、汎用のグラスウールで形成されている。
【0006】
このような構成の吸音材によれば、高密度部分が付加質量、低密度部分がバネの役割を担う、いわゆる動吸振機を構成させて、特に低周波数帯域の吸音率を向上させることができる。
【0007】
しかしながら、このような構成の吸音材においては、次のような難点があった。
【0008】
第1に、吸音材自身に難燃性が付与されていないため、建築基準法における難燃の規格に適合しない。
【0009】
第2に、多孔質体層を構成するグラスウールは、200Hzを超える高周波領域、若しくは200Hz以下の低周波領域では吸音効果が弱くなる。
【0010】
第3に、発泡体層と多孔質体層とが別体で構成されているため、現場における施工が煩雑になる。
【0011】
【特許文献1】特開平8−152890号公報
【特許文献2】特開2003−316364号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、200Hz以下の低周波領域のみならず200Hzを超える高周波領域の騒音を効果的に吸収し、製品形態の自由度を向上させることができる吸音材およびこれを用いた構造体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様である吸音材は、アクリル樹脂から成る樹脂膜と、樹脂膜の背面側に積層される多孔質体層とを備えるものである。
【0014】
本発明の第2の態様である吸音材は、アクリル樹脂から成る樹脂膜と、樹脂膜の背面側に積層される多孔質体層と、樹脂膜の前面側に積層される他の多孔質体層とを備えるものである。
【0015】
本発明の第3の態様は、第1の態様または第2の態様である吸音材において、樹脂膜の燃焼発熱量は、8MJ/m以下とされているものである。
【0016】
本発明の第4の態様は、第1の態様乃至第3の態様の何れかの態様である吸音材において、樹脂膜の燃焼発熱速度は、[200kW/m]・10sec以下とされているものである。
【0017】
本発明の第5の態様は、第1の態様乃至第4の態様の何れかの態様である吸音材において、樹脂膜は、無機化合物および/または炭素繊維を含むものである。
【0018】
本発明の第6の態様は、第5の態様である吸音材において、無機化合物は、Si、Ca、Sr、Ba、Al、Mgの何れか1種を含む化合物または前記Si、Ca、Sr、Ba、Al、Mgの何れか1種を含む化合物の混合物から成るものである。
【0019】
本発明の第7の態様は、第5の態様である吸音材において、炭素繊維は、繊維径が10〜30μm、長さの平均値が0.3〜2mm、添加量が主剤のアクリル樹脂に対し0.5〜10部であるものである。
【0020】
本発明の第8の態様は、第1の態様乃至第7の態様の何れかの態様である吸音材において、多孔質体層は、難燃性を有する材料で形成されているものである。
【0021】
本発明の第9の態様は、第1の態様乃至第7の態様の何れかの態様である吸音材において、多孔質体層は、グラスウール、ロックウールの何れかまたはこれらの混合物から成るものである。
【0022】
本発明の第10の態様は、第1の態様乃至第9の態様の何れかの態様である吸音材において、樹脂膜は多孔質体層と一体化しているものである。
【0023】
本発明の第11の態様は、第2の態様乃至第9の態様の何れかの態様である吸音材において、樹脂膜は、多孔質体層および他の多孔質体層のうち何れか一方と一体化しているものである。
【0024】
本発明の第12の態様は、第10の態様または第11の態様である吸音材において、樹脂膜は、接着により多孔質体層および/または他の多孔質体層と一体化しているものである。
【0025】
本発明の第13の態様は、第10の態様または第11の態様である吸音材において、樹脂膜は、熱融着により多孔質体層および/または他の多孔質体層と一体化しているものである。
【0026】
本発明の第14の態様は、第10の態様または第11の態様である吸音材において、樹脂膜は、樹脂膜の一部が多孔質体層および/または他の多孔質体層の孔部に入り込むことで多孔質体層および/または他の多孔質体層と一体化しているものである。
【0027】
本発明の第15の態様である構造体は、第1の態様1乃至第14の態様の何れかの態様の吸音材と、剛壁とを備え、吸音材は、吸音材を構成する多孔質体層を剛壁側に向けて、剛壁と平行に設置されているものである。
【0028】
本発明の第16の態様である構造体は、第1の態様1乃至第14の態様の何れかの態様の吸音材と、遮音板とを備え、吸音材は、吸音材を構成する他の多孔質体層を遮音板側に向けて、遮音板と平行に設置されているものである。
【0029】
本発明の第17の態様である構造体は、第1の態様1乃至第14の態様の何れかの態様の吸音材と、剛壁とを備え、吸音材は、空気層を介して吸音材を構成する多孔質体層を剛壁側に向けて、剛壁と平行に設置されているものである。
【0030】
本発明の第18の態様である構造体は、第1の態様1乃至第14の態様の何れかの態様の吸音材と、遮音板とを備え、吸音材は、空気層を介して前記吸音材を構成する他の多孔質体層を遮音板側に向けて、遮音板と平行に設置されているものである。
【0031】
本発明の第19の態様である構造体は、第1の態様1乃至第14の態様の何れかの態様の吸音材の燃焼発熱量が8MJ/m以下、燃焼発熱速度が[200kW/m]・10sec以下とされているものである。
【発明の効果】
【0032】
本発明の第1の態様乃至第18の態様の吸音材およびこれを用いた構造体によれば、次のような効果がある。
【0033】
第1に、吸音材自身に建築基準法における難燃の規格に適合する難燃性が付与されているので、当該吸音材を難燃性が必要とされる場所に配設することがでる。
【0034】
第2に、難燃剤として、ハロゲン系難燃剤や鉛系化合物が使用されていないので、燃焼時に有毒ガスが発生する虞がなく、環境保全対策を施した吸音材を提供することができる。
【0035】
第3に、樹脂膜の両面に多孔質体層を備えた吸音材構造体およびこれを用いた構造体によれば、200Hz以下の低周波領域のみならず200Hzを超える高周波領域の騒音を効果的に吸収することができる。
【0036】
第4に、樹脂膜が多孔質体層と一体化された吸音材構造体およびこれを用いた構造体によれば、製品形態の自由度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の吸音材を適用した実施の形態例について、図面を参照して説明する。
[第1の実施の形態]
図1は、本発明における吸音材およびこれを用いた構造体の第1の実施の形態を示す断面図である。
【0038】
同図において、本発明の吸音材1aは、アクリル樹脂から成る樹脂膜11と、樹脂膜11の背面側に積層される多孔質体層(以下「第1の多孔質体層」という。)12とを備えている。ここで、アクリル樹脂から成る樹脂膜11の背面側に、第1の多孔質体層12を積層するのは、樹脂膜11部分が付加質量、すなわち錘の役割として作用し、第1の多孔質体層12の部分がバネ、すなわち空気バネの役割として作用し、膜振動による吸音を行わせるためである。
【0039】
かかる吸音材1aは、剛壁2に対して、第1の多孔質体層12を剛壁2側に向けて、かつ剛壁2と平行に設置されることで、本発明の構造体3aが形成されることになる。
【0040】
樹脂膜11は、難燃性を有し、かつ燃焼時に有害ガスを発生しない材料で形成されている。具体的には、後述するようにアクリル樹脂に硫酸バリウムを混入したもので形成されている。
【0041】
次に、このような構成の樹脂膜11に要求される諸性能について説明する。
【0042】
第1に、樹脂膜11としては単位体積当たりの燃焼発熱量が8MJ/m以下のものを使用することが好ましい。樹脂膜11の単位体積当たりの燃焼発熱量が8MJ/mを越えると、本実施例による製品の適用法規である建築基準法第2条第9号に規定される不燃グレードに適合できないからである。なお、樹脂膜11の燃焼発熱量は樹脂膜11の原料用樹脂に配合させる無機フィラーの種類や配合量などにより調節することができる。
【0043】
前述のアクリル樹脂から成る樹脂膜11によれば、幅100mm、長さ100mm、厚さ3〜50mmの試験片において、ISO5660で規定する燃焼発熱量試験において、単位体積当たりの燃焼発熱量を8MJ/m以下にすることができる。
【0044】
第2に、樹脂膜11としては燃焼発熱速度が[200kW/m] ・10sec以下のもの使用することが好ましい。樹脂膜11の燃焼発熱速度が[200kW/m] ・10secを越えると、建築基準法第2条第9号に規定の不燃グレードに適合しないからである。
【0045】
前述のアクリル樹脂から成る樹脂膜11によれば、幅100mm、長さ100mm、厚さ3〜50mmの試験片において、ISO5660で規定する燃焼発熱速度試験において、燃焼発熱速度を[200kW/m] ・10sec以下にすることができる。
【0046】
次に、第1の多孔質体層12は、難燃性を有する材料で形成されている。具体的には、グラスウール、ロックウールの何れかまたはこれらの混合物から成るもので形成されている。
【0047】
このような構成の樹脂膜11は、製品形態の自由度を向上させ、現場における施工を簡単にするため、接着により第1の多孔質体層12と一体化することが好ましい。
【0048】
このような構成の吸音材1aを用いた構造体3aによれば、吸音材自身に建築基準法における難燃の規格に適合する難燃性が付与されているので、当該吸音材を難燃性が必要とされる場所に設置することができ、また、難燃剤としてハロゲン系難燃剤や鉛系化合物が使用されていないので、吸音材が燃焼しても燃焼時に有毒ガスを発生する虞がなく、さらに、樹脂膜11が第1の多孔質体層12と一体化されているので、現場における施工を簡単に行なうことができる。
【0049】
ここで、前述の実施例では、樹脂膜11をアクリル樹脂のみで形成した場合について述べているが、樹脂膜11は、アクリル樹脂に2:1〜1:1の比で、Si、Ca、Sr、Ba、Al、Mgの何れか1種を含む化合物またはSi、Ca、Sr、Ba、Al、Mgの何れか1種を含む化合物の混合物から成る無機化合物、並びに次に示す炭素繊維を混入したもので形成してもよい。
【0050】
このような構成の樹脂膜11においては、アクリル樹脂に炭素繊維を添加することで、不燃性でかつ柔軟性がある上、所定の面密度を有する樹脂膜を形成することができる。ここで炭素繊維としては、繊維径が10〜30μm、長さの平均値が0.3〜2mm、添加量が主剤のアクリル樹脂に対し0.5〜10部のものを使用することが好ましい。ここで、繊維径を10〜30μmとしたのは、繊維径を10μm未満にすると樹脂間の結合が低下するからであり、繊維径が30μmを超えると樹脂の柔軟性が低下するからである。また、長さの平均値が0.3〜2mmとしたのは、長さの平均値を0.3mm未満にすると樹脂間の結合が低下するからであり、長さの平均値が2mmを超えると樹脂の柔軟性が低下するからである。さらに、添加量が主剤のアクリル樹脂に対し0.5〜10部としたのは、添加量が主剤のアクリル樹脂に対し0.5部未満では樹脂間の結合が低下するからであり、添加量が主剤のアクリル樹脂に対し10部を超えると樹脂の柔軟性が低下するからである。
【0051】
図2は、本発明の実施例における樹脂膜の吸音率、面密度、膜厚、発熱量、発熱速度を比較例とともに示した説明図である。
【0052】
ここで、本実施例の樹脂膜は、アクリル樹脂に2:1の比でシリカ、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムを混入したもの形成されており、比較例としてウレタンから成る樹脂膜が使用されている。
【0053】
なお、発熱量は建築基準法第2条第9号に規定する方法により、発熱速度はISO5660に規定する方法により測定した。
【0054】
同図より、本実施例における樹脂膜は、その膜厚を比較例の膜厚より略1/3程度薄くしても、比較例と同等の吸音率および面密度を得ることができる。また、建築基準法第2条第9号に規定する不燃グレードに適合させることができ、さらに、燃焼発熱速度を[200kW/m]・10sec未満にすることができる。
【0055】
図3は、第1の実施の形態における吸音材1aの吸音特性を示している。ここで、図中、点線L1は、多孔質体層(グラスウール)の厚さを100mmとした従来の吸音材の吸音特性、実線L2は、樹脂膜(アクリル樹脂膜)11の厚さを0.5mm、第1の多孔質体層(グラスウール)12の厚さを75mmとした第1の実施の形態における不燃性吸音材の吸音特性を示している。
【0056】
同図より、従来の吸音材(L1)は、200Hz程度を超える高周波領域では吸音率が高いものの、200Hz程度以下の低周波領域では吸音率が低く、これに対して、第1の実施の形態における吸音材(L2)は、200Hz以上の高周波領域では吸音率が低いものの、200Hz以下の低周波領域では吸音率が高いことが分かる。従って、第1の実施の形態における吸音材を使用すれば、低周波領域に対応可能な吸音材を提供することができる。
[第2の実施の形態]
図4は、第1の実施の形態における吸音材1aを使用した膜状吸音構造の構造体の断面図を示している。なお、同図において、図1と共通する部分に同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0057】
図4において、本発明の構造体3bは、剛壁2と、剛壁2の音源側に、第1の多孔質体層12を剛壁2側に向けて、一対の支持部材4a、4bを介して剛壁2と平行に設置される膜状(厚さ:0.5mm程度)の吸音材1aと、吸音材1aと剛壁2により区画される背後空気層5とを備えている。
【0058】
このような構成の膜状吸音構造の構造体3bにおいては、膜状の吸音材1aの質量に対して背後空気層5がバネとして作用し、単一共振系を形成し、音波の周波数がこの単一共振系の共振周波数と一致したとき膜状の吸音材1aが振動し内部摩擦により吸音されることになる。従って、第2の実施の形態における構造体3bによれば、前述と同様に、難燃性が必要とされる場所に設置することができ、また、難燃剤としてハロゲン系難燃剤や鉛系化合物が使用されていないので、吸音材が燃焼しても燃焼時に有毒ガスを発生する虞がなく、さらに、樹脂膜11が第1の多孔質体層12と一体化されているので、現場における施工を簡単に行なうことができる上、第1の実施の形態における構造体3aよりもさらに吸音率を向上させることができる。
[第3の実施の形態]
図5は、第1の実施の形態における吸音材1aを遮音壁に適用した構造体の断面図を示している。なお、同図において、図1と共通する部分に同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0059】
図5において、本発明の構造体3cは、例えば建物内部の床上に簡易間仕切りとして設けられた中空二重壁体6を備えている。
【0060】
中空二重壁体6は、音源側に配設される第1の壁部材6aと、受音側に第1の壁部材6aから所定長離間した位置に第1の壁部材6aと平行に配設される第2の壁部材6bとを備えており、これらの第1、第2の壁部材6a、6b間に、前述の吸音材1aが第1の壁部材6a(若しくは第2の壁部材6b)と平行に配設されている。
【0061】
このような構成の構造体によれば、第1、第2の壁部材6a、6b間に吸音材自身に建築基準法における難燃の規格に適合する難燃性が付与された吸音材1aが配設されているので、前述と同様に、難燃性が必要とされる場所に設置することができ、また、難燃剤としてハロゲン系難燃剤や鉛系化合物が使用されていないので、吸音材が燃焼しても燃焼時に有毒ガスを発生する虞がなく、さらに、樹脂膜11が第1の多孔質体層12と一体化されているので、現場における施工を簡単に行なうことができる。
【0062】
[第4の実施の形態]
図6は、本発明における他の吸音材およびこれを用いた構造体の第4の実施の形態を示す断面図である。なお、同図において、図1と共通する部分には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0063】
図6において、本発明の他の吸音材1bは、アクリル樹脂から成る樹脂膜11と、樹脂膜11の背面側に積層される第1の多孔質体層12と、樹脂膜11の前面側に積層される多孔質体層(以下「第2の多孔質体層」という。)13とを備えている。
【0064】
ここで、樹脂膜11の両面に、第1、第2の多孔質体層12、13を積層するのは、樹脂膜11部分が付加質量、すなわち錘の役割として作用し、第1、第2の多孔質体層12、13がバネ、すなわち空気バネの役割として作用し、膜振動による吸音を行わせるためである。
【0065】
なお、第2の多孔質体層13は、前述の第1の多孔質体層12と同様の材料で形成されている。また、樹脂膜11は、第1、第2の多孔質体層12、13のうち少なくとも何れか一方と、前述と同様の手段により、一体化させることが好ましい。
【0066】
このような構成の他の吸音材1bは、剛壁2に対して、第1の多孔質体層12を剛壁2側に向けて、かつ剛壁2と平行に設置されることで本発明の構造体3dが形成されることになる。
【0067】
図7は、第4の実施の形態における吸音材の吸音特性を示している。ここで、図中、点線L1は、図3に示すものと同様に、多孔質体層(グラスウール)の厚さを100mmとした従来の吸音材の吸音特性、実線L3は、樹脂膜(アクリル樹脂膜)11の厚さを0.5mm、第1、第2の多孔質体層(グラスウール)12、13の厚さを75mmとした第4の実施の形態における吸音材の吸音特性を示している。
【0068】
同図より、従来の吸音材(L1)は、前述と同様に、200Hz程度を超える高周波領域では吸音率が高いものの、200Hz程度以下の低周波領域では吸音率が低く、これに対して、第4の実施の形態における吸音材(L3)は、200Hz程度以下の低周波領域のみならず、200Hz程度以上の高周波領域にわたって、優れた吸音特性を示していることが分かる。従って、第4の実施の形態における吸音材を使用すれば、広帯域の周波数領域に対応可能な吸音材を提供することができる。
[第5の実施の形態]
図8は、第4の実施の形態における吸音材1bを使用した膜状吸音構造の構造体の断面図を示している。なお、同図において、図1、図4および図6と共通する部分には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0069】
図8において、本発明の構造体3eは、剛壁2と、剛壁2の音源側に、第1の多孔質体層12を剛壁2側に向けて、一対の支持部材4a、4bを介して剛壁2と平行に設置される膜状(厚さ:0.5mm程度)の吸音材1bと、吸音材1bと剛壁2により区画される背後空気層5とを備えている。
【0070】
このような構成の膜状吸音構造の構造体3eにおいては、前述と同様に、膜状の吸音材1bの質量に対して背後空気層5がバネとして作用し、単一共振系を形成し、音波の周波数がこの単一共振系の共振周波数と一致したとき膜状の吸音材1bが振動し内部摩擦により吸音されることになる。従って、第5の実施の形態における構造体3eによれば、前述と同様に、難燃性が必要とされる場所に設置することができ、また、難燃剤としてハロゲン系難燃剤や鉛系化合物が使用されていないので、吸音材が燃焼しても燃焼時に有毒ガスを発生する虞がなく、さらに、樹脂膜11が第1の多孔質体層12と一体化されているので、現場における施工を簡単に行なうことができる上、さらに、第4の実施の形態における構造体3bよりもさらに吸音率を向上させることができる。
[第6の実施の形態]
図9は、第4の実施の形態における吸音材1bを遮音壁に適用した構造体の断面図を示している。なお、同図において、図1、図5および図6と共通する部分に同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0071】
図9において、本発明の構造体3fは、前述と同様に、建物内部の床上に簡易間仕切りとして設けられた中空二重壁体6を備えている。
【0072】
中空二重壁体6は、前述と同様に、音源側に配設される第1の壁部材6aと、受音側に第1の壁部材6aから所定長離間した位置に第1の壁部材6aと平行に配設される第2の壁部材6bとを備えており、これらの第1、第2の壁部材6a、6b間に、第4の実施の形態における吸音材1bが第1の壁部材6a(若しくは第2の壁部材6b)と平行に配設されている。
【0073】
このような構成の構造体によれば、第1、第2の壁部材6a、6b間に、吸音材自身に建築基準法における難燃の規格に適合する難燃性が付与された吸音材1bが配設されているので、前述と同様に、難燃性が必要とされる場所に設置することができ、また、難燃剤としてハロゲン系難燃剤や鉛系化合物が使用されていないので、吸音材が燃焼しても燃焼時に有毒ガスを発生する虞がなく、さらに、樹脂膜11が第1の多孔質体層12と一体化されているので、現場における施工を簡単に行なうことができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、特許請求の範囲内で、次のように、変更、修正を加えることができる。
【0075】
第1に、前述の実施例においては、樹脂膜11が接着等の手段により第1、第2の多孔質体層12、13のうち、すくなくとも何れか一方と一体化させる場合について述べているが、樹脂膜11および/または第1、第2の多孔質体層12、13を加熱し、樹脂膜11および/または第1、第2の多孔質体層12、13が軟化する温度(例えば、80℃)になったときに、多少の圧力を付与することで両者を一体化させることができる。
【0076】
第2に、前述の実施例(図5、図9)においては、第1、第2の壁部材2、3間に、第1、第4の実施の形態における吸音材1a、1bを配設した遮音壁について述べているが、第1、第2の壁部材2、3間に、第2の壁部材3の音源側に一対の支持部材5a、5bを介して第2の壁部材3と平行に第1、第4の実施の形態における吸音材1a、1bを配設してもよい。
【0077】
第3に、前述の実施例においては、樹脂膜の燃焼発熱量および燃焼発熱速度について述べているが、吸音材自身の燃焼発熱量を8MJ/m以下、燃焼発熱速度を[200kW/m]・10sec以下としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の第1の実施の形態における吸音材およびこれを用いた構造体の断面図。
【図2】本発明の第1の実施の形態における樹脂膜の他の実施例を示す説明図。
【図3】本発明の第1の実施の形態における吸音材の吸音特性を示す説明図。
【図4】本発明の第1の実施の形態における吸音材を使用した膜状吸音構造の構造体の断面図。
【図5】本発明の第1の実施の形態における吸音材を遮音壁に適用した構造体の断面図。
【図6】本発明の第4の実施の形態における吸音材およびこれを用いた構造体の断面図。
【図7】本発明の第4の実施の形態における吸音材の吸音特性を示す説明図。
【図8】本発明の第4の実施の形態における吸音材を使用した膜状吸音構造の構造体の断面図。
【図9】本発明の第4の実施の形態における吸音材を遮音壁に適用した構造体の断面図。
【符号の説明】
【0079】
1a、1b・・・吸音材
11・・・アクリル樹脂から成る樹脂膜
12・・・多孔質体層(第1の多孔質体層)
13・・・多孔質体層(第2の多孔質体層)
2・・・剛壁
3a、3b、3c、3d、3e・・・構造体
4a、4b・・・支持部材
5・・・背後空気層
6・・・中空二重壁体
6a・・・第1の壁部材
6a・・・第2の壁部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル樹脂から成る樹脂膜と、前記樹脂膜の背面側に積層される多孔質体層とを備えることを特徴とする吸音材。
【請求項2】
アクリル樹脂から成る樹脂膜と、前記樹脂膜の背面側に積層される多孔質体層と、前記樹脂膜の前面側に積層される他の多孔質体層とを備えることを特徴とする吸音材。
【請求項3】
前記樹脂膜の燃焼発熱量は、8MJ/m以下であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の吸音材。
【請求項4】
前記樹脂膜の燃焼発熱速度は、[200kW/m]・10sec以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項記載の吸音材。
【請求項5】
前記樹脂膜は、無機化合物および/または炭素繊維を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項記載の吸音材。
【請求項6】
前記無機化合物は、Si、Ca、Sr、Ba、Al、Mgの何れか1種を含む化合物または前記Si、Ca、Sr、Ba、Al、Mgの何れか1種を含む化合物の混合物から成ることを特徴とする請求項5記載の吸音材。
【請求項7】
前記炭素繊維は、繊維径が10〜30μm、長さの平均値が0.3〜2mm、添加量が主剤のアクリル樹脂に対し0.5〜10部であることを特徴とする請求項5記載の吸音材。
【請求項8】
前記多孔質体層は、難燃性を有する材料で形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項7何れか1項記載の吸音材。
【請求項9】
前記多孔質体層は、グラスウール、ロックウールの何れかまたはこれらの混合物から成ることを特徴とする請求項1乃至請求項7何れか1項記載の吸音材。
【請求項10】
前記樹脂膜は前記多孔質体層と一体化していることを特徴とする請求項1乃至請求項9何れか1項記載の吸音材。
【請求項11】
前記樹脂膜は、前記多孔質体層および前記他の多孔質体層のうち何れか一方と一体化していることを特徴とする請求項2乃至請求項9何れか1項記載の吸音材。
【請求項12】
前記樹脂膜は、接着により前記多孔質体層および/または前記他の多孔質体層と一体化していることを特徴とする請求項10または請求項11記載の吸音材。
【請求項13】
前記樹脂膜は、熱融着により前記多孔質体層および/または前記他の多孔質体層と一体化していることを特徴とする請求項10または請求項11記載の吸音材。
【請求項14】
前記樹脂膜は、前記樹脂膜の一部が前記多孔質体層および/または前記他の多孔質体層の孔部に入り込むことで前記多孔質体層および/または前記他の多孔質体層と一体化していることを特徴とする請求項10または請求項11記載の吸音材。
【請求項15】
請求項1乃至請求項14の何れか1項記載の吸音材と、剛壁とを備え、前記吸音材は、前記吸音材を構成する多孔質体層を前記剛壁側に向けて、前記剛壁と平行に設置されていることを特徴とする構造体。
【請求項16】
請求項1乃至請求項14の何れか1項記載の吸音材と、遮音板とを備え、前記吸音材は、前記吸音材を構成する他の多孔質体層を前記遮音板側に向けて、前記遮音板と平行に設置されていることを特徴とする構造体。
【請求項17】
請求項1乃至請求項14の何れか1項記載の吸音材と、剛壁とを備え、前記吸音材は、空気層を介して前記吸音材を構成する多孔質体層を剛壁側に向けて、前記剛壁と平行に設置されていることを特徴とする構造体。
【請求項18】
請求項1乃至請求項14の何れか1項記載の吸音材と、遮音板とを備え、前記吸音材は、空気層を介して前記前記吸音材を構成する他の多孔質体層を遮音板側に向けて、前記遮音板と平行に設置されていることを特徴とする構造体。
【請求項19】
請求項1乃至請求項14の何れか1項記載の吸音材の燃焼発熱量は、8MJ/m以下、燃焼発熱速度が[200kW/m]・10sec以下であることを特徴とする構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−3827(P2007−3827A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−183874(P2005−183874)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(306013119)昭和電線デバイステクノロジー株式会社 (118)
【Fターム(参考)】