説明

周波数推定方法、広帯域周波数弁別器及び無線位置測定用受信機

【課題】 サンプリング周波数の2倍の周波数における回転因子の集合に対応する、DFT演算子と1/2DFT演算子の組み合わせにもとづく周波数弁別器である。
【解決手段】 周波数弁別器は、ゼロ又は不連続点を持たないように選定される。そのため、この発明の弁別器は、拡張された動作範囲において、より安定的かつ良好に動作する。この発明の弁別器は、GPS受信機に適用された場合、初めに大きな誤差が有っても、より確実にキャリヤ周波数にロックすることが可能であるとともに、誤ってロックする問題を防止するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、信号の周波数を推定する方法とそれに対応する装置に関する。この発明は、特に、位置測定信号、例えば、1つ以上のGPS(衛星航法システム)から放射された信号又はその他の無線位置測定システムに関連した信号のような位置測定信号の捕捉と追跡のための前記の方法及び装置への利用に関するが、それに限定されるものではない。
【背景技術】
【0002】
周波数の推定、特に、正弦波信号の周波数の推定は、多くの用途で使用される操作である。
【0003】
ここでは、周波数弁別器という用語は、機能に関して言う場合、サンプリング信号を表すベクトルに適用して、信号自身の基本周波数を推定することを可能とするアルゴリズム又は数学的な演算を示すために用いられる。同じく、周波数弁別器という用語は、この発明の文脈において、例えば、一連の時間サンプルにより表される信号の周波数を決定するソフトウェアの一部を示すこともある。また、以下において、周波数弁別器という用語は、機器を参照する場合、入力に供給されたアナログ又はデジタル信号の基本周波数を推定するような形に構成又はプログラミングされた電子回路の部品を示すものとする。
【0004】
周波数弁別器の使用例は、図1に模式的に図示されたFLL(周波数ロックループ)である。この例では、入力信号43が、混合器45で局部発振器46の信号と結合されている。その結果得られた差分周波数が、周波数弁別器47に適用されている。周波数弁別器の結果は、基本的に入力の基本周波数と公称周波数の差分に比例し、フィルター48を含むフィードバックループ内の局部発振器を駆動して、受信信号と同じ周波数で同調するために使用されている。
【0005】
周波数弁別器の重要な用途は、GPS受信機のキャリヤトラッキングループにある。GPS受信機の動作は、通常宇宙飛行体(SV)から受信した信号を検索する捕捉モードと、キャリヤ周波数又は位相とコード位相の両方に関して捕捉した信号を追尾する追跡モードとを有する。
【0006】
GPSシステムでSVから受信した信号の周波数は、基本的に幾つかの器械誤差、例えば、局部発振器の周波数のバイアス及びドリフトと、SVと受信機間の相対的な速度と関連した物理的なドップラーシフトとによる影響を受け、SVの追跡を維持して、位置測定に到達するためには、これらを適切に測定しなければならない。それは、GPS受信機では、一般的にPLL及びFLLフィードバックループを用いて実現されている。
【0007】
典型的には、FLLループは、その優れた雑音余裕のために、捕捉フェーズの間に使用される。PLLは、信号長が適切であれば、良好な追跡性能を提供する。FLLフォールバックモードは、しばしばPLLの代わりに、弱い信号を追跡するために、並びに受信機の動きによるピーク変動の間に提供される。
【0008】
多数の用途において、周波数の推定は、その周波数の周波数に関する数学的な定義を位相の時間微分として適用することによって行われる(
【0009】
【数1】

【0010】
)。その場合、位相の増加率は、次の通り周波数の推定量として看做される。
【0011】
【数2】

【0012】
しかし、このアプローチは、雑音が或る閾値を上回り、位相信号が明確に検出することができない場合、実際に使用することができない。
【0013】
別の一般的なアプローチは、次に述べる通りの時間領域での周波数弁別を使用することである。残念ながら、そのような弁別器は、むしろ狭いロック周波数範囲とロック範囲外のスプリアスゼロ又不連続点を示す。そのような弁別器を周波数制御ループ内に採用した場合、これらの範囲外のゼロ又は不連続点が、設計上のロック範囲外に安定したスプリアスロック位置を作り出してしまうこととなる。上述した時間領域にもとづく位相微分式弁別器も、同じ問題による影響を受ける。
【0014】
別の可能な方法は、入力信号の1つ以上のDFT(離散フーリエ変換)を抽出することである。そのような部分的な振幅は、所望の周波数を提供するために、数学的に様々な手法で組み合わせることが可能である。しかし、既知のDFT周波数弁別器は、非線形性と範囲外のゼロ又は不連続点による影響を受け、そのため前段の機器を制限することとなる。
【特許文献1】特開平10−294675号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
この発明の課題は、前述した欠点の無い周波数推定方法及び周波数弁別器を提供すること、特に、拡張されたロック範囲を持ち、そのロック範囲内で安定している周波数弁別器を提供することである。
【0016】
この発明の別の課題は、ロック範囲外にスプリアスロック点を持たない周波数弁別器を提供することである。
【0017】
この発明の更に別の課題は、精度が改善された周波数制御回路とその周波数制御回路を採用した無線位置測定用受信機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
これらの課題は、この発明にもとづき、独立請求項に記載された内容を用いて達成される。任意選択的な別の特徴は、従属請求項に記載されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
この発明は、図面に図示された例示としての実施例の記述により、より良く理解される。
【0020】
例えば、無線位置測定用受信機で広く使われている周知の周波数弁別器は、以下の式で表される単純な「クロス(cross)式」弁別器である。
【0021】
【数3】

【0022】
ここで、I1 ,I2 は、2つの時点T1 <T2 での複素正弦波信号の実数成分であり、Q1 とQ2 は、同じ時点T1 とT2 での同じ信号の対応する虚数成分である。観察時間ΔT=T2 −T1 は、公称ロック範囲とWCross =1/(2・ΔT)の関係を有する。
【0023】
図16を参照すると、この発明による弁別器の出力190dと共に、「クロス式」弁別器の応答が曲線190bで表されている。「クロス式」弁別器の出力は、そのロック範囲内で良好に動作するが、それ以外でも安定してロックするゼロ点を示す。
【0024】
図16は、このクラスの弁別器のその他の周知の変化形態も図示しており、「サインドットクロス(signDotCross)式」弁別器は、次の通り、曲線190aに対応し、
【0025】
【数4】

【0026】
アークタンジェント式弁別器(AtanDisc)の出力は、次の通り、曲線190cで示される。
【0027】
【数5】

【0028】
これらの両弁別器は、動作範囲外の誤ったロック点に対応するゼロ又は不連続点を示す。
【0029】
デジタル信号に関する周波数弁別器を実現するために離散フーリエ変換(DFT)を用いることが知られている。概念的には、このクラスの弁別器は、異なる周波数に中心を置く、少なくとも2つの相異なるDFT演算の出力を比較するとの原則をベースとする。
【0030】
DFTは、フーリエ変換の1つの要素に等しい、入力信号の単一のスペクトル成分を離散的に推定するものである。
【0031】
より詳しくは、{xi }が、1つの複素信号のN個のサンプルに対応する複素値の離散的なシーケンスである場合、{xi }のチャネルkのDFTは、次の通り定義される。
【0032】
【数6】

【0033】
又はコンパクトな形で、
【0034】
【数7】

【0035】
ここで、
【0036】
【数8】

【0037】
従って、DFTは、サンプルxi の線形的な組み合わせと看做すことができ、そこでは、「回転因子(Twiddle factor)」とも呼ばれる重みWは、kを増分として、複素領域におけるN個の相異なる1のN乗根である。「2つの側面を持つ」スペクトルkに関して、負と正の両方の整数値を仮定することができる(−N<k<N)。
【0038】
周知の周波数シフト理論では、上記の式6)は、周波数をシフトさせた一連の正弦曲線の平均として解釈することもできる。実際に、7)項は、周波数がk/NTの複素正弦曲線である。積
【0039】
【数9】

【0040】
は、ちょうどxi のスペクトルを、xi のスペクトル形状自体を変えないで周波数軸上をk/NTの大きさだけ後方にシフトさせたものである。周波数領域での平均演算は、次の伝達関数を有する。
【0041】
【数10】

【0042】
ここで、fは周波数で、Nはサンプル数である。
【0043】
従って、DFT演算子の伝達関数は、次の通り「周波数をシフトさせた」信号のスペクトルに平均伝達関数8)を乗算することにより得ることができる。
【0044】
【数11】

【0045】
ここで、Tはサンプリング周期を、fは正弦波信号の周波数を、NはDFTで使用されるサンプル数を、kは前述した通りの1/(N・T)を単位数として表されるDFT中心周波数の離散的な位置を示す。
【0046】
ここで、図2を参照すると、それぞれn=−1,n=0及びn=1に対応する3つの連続した周波数ビンを中心とする3つの相異なるDFT演算子の周波数応答曲線50a,50b及び50cを識別することが可能である。
【0047】
このように、各DFTの応答は、f=k/NTにおける中心ピーク502と第2極大点504とを有する。DFT演算子の応答は、中心ピーク周波数からDFTビン幅1/NTの各倍数の周波数だけ離れた所でちょうどゼロとなる。
【0048】
絶対値の抽出は、複素数のDFT出力の実数の負でない振幅値を抽出するために使用される。
【0049】
DFT周波数推定器を構築するための可能な手法は、次の量の評価と関連したものである。
【0050】
【数12】

【0051】
ここで、DFTD とDFTU は、演算子|DFT(x,−1)|と|DFT(x,+1)|、即ち、図2の曲線50aと50cに対応するDFTを表し、明確には次の式の通りとなる。
【0052】
【数13】

【0053】
式10)の弁別器では、k=+1とk=−1を持つ2つのDFT間の振幅差を用いて、周波数を推定している。この場合、この差は、2つのDFTの振幅の合計を用いて正規化される。
【0054】
図3と4は、式10)の弁別器の理論的な応答と相対的な利得を図示している。この弁別器の利点は、f=−1/(NT)〜f=1/(NT)の周波数範囲において、応答が厳密に線形的である、即ち、利得が一定であることである。
【0055】
しかし、このアプローチの大きな制約は、f=0に近い周波数領域において、両方のDFTが、ゼロとなる傾向にあり、差分ノイズを支配的にしてしまうことである。この問題は、応答Rx の形状のために、正規化係数もゼロとなる傾向にあるという事実により増幅されることとなる。従って、その結果は、f=0の近傍で数学的に不定となる。図5は、図3と同じ応答であるが、シミュレーションしたランダム雑音を入力信号に加えた応答を図示している。この弁別器が、f=0に近い周波数に対して、本質的にランダムな結果を示すことは明らかである。
【0056】
従って、式10)の弁別器は、その周波数範囲の中心に不安定な点を有し、そのため大抵の実際の用途には使えない。この問題を未然に防ぐ手法は、次の通り、k=0に対応するDFT50cを正規化係数に追加することである。
【0057】
【数14】

【0058】
図6には、式13)の弁別器応答が、図7には、シミュレーションした雑音をそれに加えた応答が図示されている。ここで、雑音余裕は満足すべきものであるが、この弁別器は、本質的にf=0に非常に近い周波数に対して利得を持たない。或る用途では、この事実は、不利になる場合があり、特に、図1のFFLループにおいて、ヒステリシスを生じさせることとなる。
【0059】
この発明の1つの特徴では、周波数弁別器は、異なる周波数における2つの1/2ビン離散フーリエ変換(HDFT)の評価を含み、その場合1/2ビンDFTは、上記の式13)によって定義され、指数kは、半整数値を採る。
【0060】
特に、
【0061】
【数15】

【0062】
である。
【0063】
しかし、回転因子Wを定義する式を調べると、以下の通りとなる。
【0064】
【数16】

【0065】
従って、HDFTは、通常のDFTと同じ手法で計算されるが、回転因子Wは、フーリエ変換の次数がNではなく、2Nであるものとした値を採る。
【0066】
(絶対値での)HDFTの伝達関数は、尚も式9)により与えられる。HDFT演算子の伝達関数が、サンプル集合(xi )のサンプリング周波数に関して、半整数値での周波数で最大値を持つのに対して、前に定義したDFT演算子が、整数の周波数値で最大値を持つことが分かる。
【0067】
より詳しくは、次の通り定義される。
【0068】
【数17】

【0069】
そして、周波数弁別器の式は、次の通りとなる。
【0070】
【数18】

【0071】
しかし、ピーク周波数は、1/NTのDFTビン幅の半整数値の所に中心を有する。
【0072】
周波数抽出演算子HD とHU は、2N個の相異なる1の2N乗根の中のN個の1の複素根である重み又は回転因子をサンプルxi と線形的に組み合わせることに関連する。
【0073】
例えば、図8は、k=−1/2に対応するHDFT応答曲線55aとk=1/2に対応するHDFT応答曲線55cを図示している。k=0に対応する応答曲線55bは、図2の応答曲線50bと同じである。
【0074】
図2のDFT曲線と比べて、曲線55aと55cが、f=0に関して同時にゼロとなっていないことが分かる。このことにより、図9と10に図示した応答と利得を持つ1/2ビン周波数弁別器を構成することが可能となる。
【0075】
有利には、この発明の1/2ビン弁別器は、式17)の分母がf=0に対してゼロに成る傾向にないので、fD =−1/2NT〜fU =1/2NTに渡る動作範囲全体に沿って線形的な応答を示し、その動作範囲全般において安定している。図11は、標準的な分布の雑音が存在する状態における、この発明による1/2ビン弁別器の動作を図示している。
【0076】
「1/2ビンDFT」の数学的な式は、FFTアルゴリズムの特別な特徴から導き出すこともできる。複素FFTは、信号のN個のサンプルのベクトルを採り、0≦i<Nに対して、i/NTにおけるN個のスペクトル線を算出する。時には、算出されたスペクトルの分解能を人為的に高めるために、入力サンプルベクトルの最後にN個のゼロを追加して、2N個の点のFFTを計算する。この演算は、2N個のFFT周波数ビンのちょうど中央に位置する、0≦i<Nに対して、(2i+1)/2NTの所に、N個の新しいスペクトル線を生成する。FFTアルゴリズムが、N個のDFTの集まりの最適化と再構成に過ぎないことを考慮すると、2N個の点におけるFFTの1〜2N−1(負の周波数)のスペクトル線をそれと等価のDFTと置き換えることによって、1/2ビンDFTの式を導き出すことができる。k=1〜k=2N−1に関する2N個の点におけるDFTは、次の通りとなる。
【0077】
【数19】

【0078】
しかし、入力ベクトルの最後のN個の点がゼロであることを考慮すると、次の通りとなる。
【0079】
【数20】

【0080】
この最後の式は、前に導き出した1/2ビンDFTの式と全く同じである。
【0081】
従って、この発明の1つの特徴では、周波数弁別器は、入力信号の少なくとも2つの離散的なスペクトル成分、好ましくは、ゼロ周波数の上と下に対称的に位置する2つの周波数fD とfU に対応する2つのスペクトル成分を計算するステップを有する。
【0082】
各スペクトル成分は、所望のスペクトル成分fD とfU に関して、応答の最大値を持つ演算子HD 又はHU によって抽出される。当然のことながら、この応答は、異なる周波数に関しては低下するが、fD とfU の間の中間的な周波数に関して、応答がゼロに成らない形で低下する。特に、HD とHU の応答は、f=0の中間的な点でゼロに成らない。
【0083】
この特性のために、この発明の弁別器は、HDFTD とHDFTU の出力の絶対値の差分をHDFTD とHDFTU の出力の絶対値の合計で割る計算ステップにより得られる周波数誤差信号を抽出することができる。
【0084】
HDFTD とHDFTU の出力の絶対値の合計と差分の両方は、fD とfU の間の範囲の如何なる点においてもゼロには成ることは許されないので、そのようにして得られた弁別器は、雑音の避けることができない影響を考慮したとしても良好に動作し、その値は、fD とfU の間で線形的である。
【0085】
上述したHDFT演算子を用いることによって、HDFTD とHDFTU の周波数fD とfU は、fD =−1/2NTとfU =1/2NTとなる、即ち、Tサンプリング速度でサンプリングされたN個の入力デジタルデータ{xi }のシーケンスの自然なビンへの区分(natural binnig)に際して、半整数値の中心に位置することとなる。
【0086】
好ましい実施形態では、演算子HDFTD とHDFTU は、上記の式17)で表される形を持つ。しかし、演算子HDFTD とHDFTU は、この発明にもとづき、必要な状況に応じて、入力信号の周波数成分を抽出するための異なる数学的な演算子から得ることもできる。
【0087】
上述した1/2ビン弁別器は、その明確な利点にも関わらず、依然として周波数範囲外の±1.5,±2.5等の周波数において、不安定な点を持つという制約が有る。特に、雑音が大きい場合、そのような弁別器を使うFLLは、これらのスプリアス周波数にロックしてしまう可能性が有る。
【0088】
この問題を防止する手法は、それぞれ基準周波数(ここでは従来通りゼロ周波数とする)の上と下の周波数に関して伝達関数のピークを有し、動作周波数範囲内にゼロ又は不連続を示さない上方の演算子と下方の演算子にもとづき周波数弁別器を作ることである。
【0089】
式11)で規定されるDFTU ,DFTD と式16)で規定されるHDFTU ,HDFTD の両方を用いた、そのような上方と下方の演算子を定義することは可能であるが、唯一ではない手法が、次の通り、図15に図示された伝達関数を持つ演算子CD とCU により表される。
【0090】
【数21】

【0091】
所望の通り、下方の合成演算子CD は、図15のグラフで0と表示した基準周波数の下の周波数fD において伝達関数の最大値を有する。上方の合成演算子CU は、その反対に基準周波数の上の周波数fU において最大値を有する。
【0092】
D とCU が、それらの範囲全体において、ゼロ点と不連続点の両方を持たないことを見ることができる。従って、CD とCU は、ロック範囲の内と外の両方で良好に動作する周波数弁別器を作るのに用いることができることが分かる。
【0093】
x<0に対して、CD <CU である一方、x>0に対して、CD >CU であるので、この発明による弁別器の簡単な例は、次の弁別器関数によって規定される。
【0094】
【数22】

【0095】
式12)により規定される通りの比例項DFTcentreを分母に含めることによって、上記の弁別器の性能を帯域幅と線形性の両方において更に改善することができる。この発明による改善された弁別器は、例えば、次の対称的な1/2ビンDFT弁別器である。
【0096】
【数23】

【0097】
ここで、係数k1 は、原則的に任意に選択可能な正規化係数であり、k2 は、応答の帯域幅と線形性の間で妥協した最適値を持つように選択される。他の弁別器と等しい良好な性能と中心利得は、例えば、
【0098】
【数24】

【0099】
とk2 =3/2により得られる。
【0100】
図13と14は、それぞれ式22)の弁別器HSDFT(x)の伝達関数と利得を表している。−0.75と0.75の間の拡大された周波数範囲内において、利得が良く一定であることが分かる。この場合、HSDFT(x)にもとづく弁別器のロック範囲は、前述した他の弁別器のどれよりも目立つ程広い。
【0101】
その他の有利な特性は、周波数スペクトル全体の中に、ロック範囲を大きく超えた所でさえ、ゼロ点も不連続又は不安定点が無いことである。そのことは、この発明による弁別器のHSDFT(x)の伝達関数109dを、「クロス(cross)式」弁別器の伝達関数190b、「クロスサイン(crossSign)式」弁別器の伝達関数190a及び「アークタンジェント(atan)式」弁別器の伝達関数190cと比較した図16を調べることによって一層明らかとなる。この比較は、周知のものと比べて、伝達関数190dの帯域幅がより広くなっていることも示している。
【0102】
この発明のこれらの特性のおかげで、周知の弁別器にもとづく機器よりも速くかつ精確に目標周波数に集束する周波数制御機器を実現することが可能である。更に、スプリアスロック状態を持たない周波数制御機器を実現することが可能である。
【0103】
この発明は、ここから図17と関連して述べる無線位置測定システムに関する受信機、特に、GPS受信機も含むものである。
【0104】
この受信機は、無線位置測定システムのソースからの特定の無線信号に適合した受信アンテナ20を有する。GPSシステムでは、ソースは、1575.42MHzの無線位置測定信号を放射する軌道上のGPS宇宙飛行体である。このアンテナで受信した信号は、キャリヤ除去ステージ49に供給される前に、低雑音増幅器30によって増幅され、変換ユニット35で中間周波数信号(IF信号)にダウンコンバートされる。例えば、アナログデジタル変換を含む、RF信号を処理するためのその他の方法は、従来から周知であり、この発明に含まれる。
【0105】
次に、IF信号は、先ずは相関プロセッサに供給され、その機能は、各SVから受信した信号を逆拡散し、それらを各SVに特有の擬似ランダムレンジングコードの局部的に生成したコピーに対して一時的に配列するためのものであり、例えば、GPS受信機の場合、相関プロセッサの役割は、粗い捕捉(C/A)用のGPSレンジング信号の復調と追跡である。そのような配列を実行するために、相関プロセッサは、追跡モジュール38のアレーを有し、その各々は、例えば、特定のSVの捕捉と追跡に特化したものである。
【0106】
以下において、図17を参照して、追跡モジュール38の様々な機能について述べる。しかし、この記述は、単に例として挙げたものであり、この発明を制限するものと解釈してはならないことを理解されたい。特に、ここで述べる様々な構成要素及びモジュールは、機能的な用語として理解し、必ずしも物理的な回路部品に相当するものではない。特に、幾つかの機能は、1つ以上のデジタルプロセッサにより実行されるソフトウェアモジュールによって提供される。
【0107】
ここでは、分かり易くするために、様々な追跡モジュール38を全く独立に並行して述べるが、必要な状況に応じて、追跡モジュールの間で幾つかの特性又はソースを共有することも可能である。
【0108】
各追跡モジュールは、局部発振器信号を生成するための従来からの局部的なNCO40と、局部発振器信号の直交成分の複製(replica)を生成するための90°移相器41とを備えたキャリヤ除去ステージ49を有する。可能な変化形態では、90°の位相シフトは、外部の前置回路で行うこともできる。無線入力信号は、同相ベースバンド信号Iと直交ベースバンド信号Qを生成するために、それぞれ掛算器44と42で局部発振器の同相及び直交信号と乗算される。追跡モードでは、NCO40の周波数又は位相は、追跡しているSVのキャリヤ周波数又は位相にロックされる。
【0109】
各追跡モジュール38は、特定のGPS宇宙飛行体に対応するC/Aコードの局部的な複製を生成するために、局部ゴールド系列擬似ランダムコード発生器50も有する。ゴールド系列擬似ランダムコードは、例えば、タップ付シフトレジスタによって内部で生成するか、同様に予めロードしておいたテーブルから抽出するか、或いはその他の手法により生成することができる。
【0110】
ゴールド系列コード生成器50は、独立して数値制御されるC/Aクロックを備えており、その周波数は、1.023MHzのチップレートでC/Aコードを生成するように設定されている。IF信号の同相成分(I)と直交成分(Q)の2つの成分は、掛算器52,54により、局部C/Aコードと乗算される。追跡している間、局部C/Aコードは、SVから受信したC/Aコードに時間的にロックする必要がある。局部キャリヤ周波数及び位相は、SV信号のドップラーシフトと局部発振器の周波数ドリフトとバイアスを補正するために、受信信号のキャリヤの周波数と位相にロックする必要がある。
【0111】
同相信号と直交信号用の相関データは、複素信号の実数部と虚数部と看做すことができる。理想的な周波数ロック状態では、NCO40の周波数とキャリヤの周波数は同じであり、弁別器70の入力に生じる信号は、基本周波数がゼロである純粋なベースバンド信号である。追跡している間、弁別器モジュール70は、受信信号の周波数にロックするために、フィードバックループ内のキャリヤ除去ステージのNCO40を駆動するために用いられる周波数誤差信号65を生成する。
【0112】
この発明では、ここで図18を参照して述べる弁別器モジュール70は、前述したHDFT又は好ましくは、HSDFTにもとづく周波数弁別器で構成される。より詳しくは、この発明による弁別器モジュール70は、入力信号の少なくとも2つの離散的なスペクトル成分、好ましくは、ゼロ周波数の上と下に対称的に位置する2つの周波数fD とfU に対応する2つのスペクトル成分を抽出する。
【0113】
各スペクトル成分は、それぞれ所望のスペクトル成分fD ,fU に対して最大の応答を有する周波数抽出手段702又は704により抽出される。この応答は、当然のことながら異なる周波数に対しては減少するが、その応答は、fD とfU の間の如何なる中間周波数に対してもゼロにならないような形で減少する。特に、周波数抽出手段702と704の応答は、f=0の中間点でゼロにならない。このようにして、ロック範囲内における弁別器モジュール70の安定した動作が保証される。
【0114】
より好ましくは、周波数抽出手段702と704は、如何なる周波数においても決してゼロにならない周波数応答を有する。このようにして、弁別器モジュール70とNCO40を含む制御ループは、所望の点以外にスプリアスロック点を持たない。
【0115】
この特性のおかげで、この発明の弁別器は、702と704の出力の絶対値の差分を計算するために、好ましくは、この差分を周波数抽出手段702と704の出力の絶対値の合計により除算することにより正規化するために配備された比較手段706によって得られる周波数誤差信号を抽出することができる。別の実施形態では、周波数抽出手段は、しばしばマイクロプロセッサにより実行される場合、値HD とHU を計算するためのコードを有するソフトウェアモジュールから構成される。上記の式22)の弁別器に対応する実装の変化形態では、HDFTcentreの項を抽出するために、図示されていない補助的な抽出手段を用いる。
【0116】
単純化するために、この例では、周波数抽出手段702と704を別個の要素として図示しているが、この発明は、所要の2つのスペクトル成分fD ,fU を順番に抽出する単一の周波数抽出手段を有するものと理解することもできる。
【0117】
上述したHDFTとHSDFT演算子を使用することによって、fD とfU の周波数は、fD =−1/2NT及びfU =1/2NTとなる、即ち、Tサンプリング速度でサンプリングされたN個の入力デジタルデータ{xi }のシーケンスの自然なビンへの区分に関して、半整数値の中心に位置することとなる。
【0118】
好ましい実施形態では、周波数抽出手段702と704は、上記の式17)で規定される形を持つ演算子HD とHU を実装する。しかし、この発明では、入力信号の周波数成分を抽出するために、演算子HD とHU は、必要な状況に応じて、異なる数学的な演算子から取得することもできる。
【0119】
この発明の周波数弁別器は、通常の回転因子を、サンプリング点の実際の数の2倍の数の点におけるDFTに関する回転因子と置き換えたDFT変換の変化形態をベースとしている。そのように修正されたDFTにより、計算負荷が僅かしか増大しない1/2ビン周波数弁別器が可能となる。ゼロ周波数に関して1/2ビンだけシフトさせた2つのDFTは、弁別の線形的な応答と雑音に対する良好な耐性を提供する。弁別器関数において1/2ビンの項と完全なビンの項の両方を使用することによって、周波数の推定と動特性を更に改善することができ、HSDFTは、この手法の一例である。この発明の弁別器は、特に、GPS受信機内の追跡信号用のFLLにおいて有用である。
【0120】
状況に応じて、弁別器モジュール70は、専用の電子デジタル回路として、或いはこの発明による方法のステップを実行する形にプログラミングされたマイクロコントローラ機器として実現することができる。この発明には、プログラムを実行する際に前述したステップを実行するための、コンピュータ機器のプログラムメモリにロードすることができるソフトウェアコードも含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】周波数弁別器を含む周知のFLLのブロック図
【図2】3つの隣接した周波数ビンを中心とする3つのDFT演算の伝達関数の絶対値グラフ
【図3】雑音の無い理想的な状態における図2のDFTの中の2つにもとづく周波数弁別器の応答グラフ
【図4】図3の弁別器の利得グラフ
【図5】標準的な分布の雑音が存在する状態における図3の弁別器の動作グラフ
【図6】雑音の無い理想的な状態における図2の3つのDFTにもとづく周波数弁別器の応答グラフ
【図7】標準的な分布の雑音が存在する状態における図6の周波数弁別器の動作グラフ
【図8】1/2周波数ビンだけシフトした場合の3つのDFT演算の絶対値グラフ
【図9】図8の両端の2つのDFTにもとづく周波数弁別器の応答グラフ
【図10】図9の弁別器の利得グラフ
【図11】標準的な分布の雑音が存在する状態における図9の周波数弁別器の動作グラフ
【図12】1/2周波数ビンだけシフトした場合の5つのDFT演算の絶対値グラフ
【図13】図12のDFTにもとづく周波数弁別器の応答グラフ
【図14】図12のDFTにもとづく周波数弁別器の利得グラフ
【図15】図14の弁別器で使用される2つのシフトして合成した演算子の伝達関数のグラフ
【図16】この発明による周波数弁別器と従来技術による周波数弁別器の応答の比較グラフ
【図17】この発明の1つの特徴にもとづくGPS受信機の受信・追跡モジュールの模式図
【図18】図17の受信機内に配備された周波数弁別器モジュールの模式図
【符号の説明】
【0122】
10 無線位置測定システムに関する受信機(GPS受信機)
20 受信アンテナ
30 低雑音増幅器
35 変換ユニット
38 追跡モジュール
40 局部発振器(NCO)
41 90°移相器
42 掛算器
43 入力信号
44 掛算器
45 混合器
46 局部発振器
47 周波数弁別器
48 フィルター
49 キャリヤ除去ステージ
50 局部ゴールド系列擬似ランダムコード発生器
50a,50b,50c DFT演算子の周波数応答曲線
502 DFT応答の中心ピーク
504 DFT応答の第2極大点
52 掛算器
54 掛算器
55a,55b,55c HDFT演算子の周波数応答曲線
65 周波数誤差信号
70 弁別器モジュール
702,704 周波数抽出手段
706 比較手段
155a,155b,155c,155d,155e HDFT演算子の絶対値曲線
190a サインドットクロス式弁別器の応答曲線
190b クロス式弁別器の応答曲線
190c アークタンジェント式弁別器の応答曲線
190d この発明による弁別器の応答曲線
D 下方の周波数
U 上方の周波数
D 下方の合成演算子
U 上方の合成演算子
IF 中間周波数
I IF信号の同相成分
Q IF信号の直交成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N個の数の連続したサンプルで構成される入力信号の周波数と基準周波数の間の周波数差分を得るための方法であって、
当該のサンプルに対して、入力信号の対応するスペクトル成分を抽出するための離散的な数のスペクトル成分抽出演算子を適用するステップと、
当該のスペクトル成分に対して、低い方の周波数の所に伝達関数の最大値を有する下方の振幅演算子と、基準周波数より上で、この低い方の周波数よりも高い周波数である高い方の周波数の所に伝達関数の最大値を有する上方の振幅演算子とを数学的に組み合わせるステップと、
これらの下方の振幅演算子と上方の振幅演算子の値から、当該の周波数差分を取得するステップと、
を有する方法において、
これらの下方の振幅演算子と上方の振幅演算子の応答が、動作周波数範囲内においてゼロ点又は不連続点を示さないことを特徴とする方法。
【請求項2】
当該の下方と上方の演算子の応答が、如何なる周波数においてもゼロ点又は不連続点を示さない請求項1に記載の方法。
【請求項3】
当該の上方の周波数と下方の周波数が、基準周波数の周りで対称的に位置することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
当該の下方と上方の演算子の各々が、N個の相異なる1の複素N乗根を重み係数とするサンプルの線形的な組み合わせにより得られるDFT演算と、2N個の相異なる1の複素2N乗根を重み係数とするサンプルの線形的な組み合わせにより得られる1/2ビンDFT演算との組み合わせであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
当該の周波数差分が、当該の下方と上方の演算子の単一値によって得られる請求項1に記載の方法。
【請求項6】
当該の周波数差分が、当該の下方と上方の演算子によって得られ、かつ1つ以上のDFT演算子と1/2演算子の値から得られる請求項1に記載の方法。
【請求項7】
入力信号を受け取るための入力と、入力信号の基本周波数と基準周波数の差分に応じて出力信号を生成するための周波数弁別器手段とを有する周波数弁別器装置であって、周波数弁別器手段が、下方の周波数と上方の周波数における入力信号の離散的なスペクトル成分を抽出するための周波数抽出手段を有し、これらの下方の周波数と上方の周波数が、それぞれ基準周波数の上と下に位置し、この周波数弁別器装置の応答が、入力信号の下方の周波数と上方の周波数における離散的なスペクトル成分により決定される周波数弁別器装置において、
この周波数抽出手段の応答が、動作周波数範囲内の如何なる周波数に関してもゼロとならないことを特徴とする周波数弁別器装置。
【請求項8】
入力信号が、N個の数の連続したサンプルから構成され、これらのサンプルに対して、当該の周波数抽出手段の各々が、N個の相異なる1の複素N乗根を重み係数とするサンプルの線形的な組み合わせによって得られるDFT演算と、2N個の相異なる1の複素2N乗根を重み係数とするサンプルの線形的な組み合わせによって得られる1/2ビンDFT演算との組み合わせを実行する形で動作可能なように構成されている請求項7に記載の周波数弁別器装置。
【請求項9】
周波数弁別器手段の入力信号の基本周波数と基準周波数の差分に依存する出力信号を生成するための周波数弁別器ステージを有するGPS受信機であって、この周波数弁別器ステージが、入力信号の下方の周波数と上方の周波数における離散的なスペクトル成分を抽出するための周波数抽出手段を備えており、これらの上方の周波数と下方の周波数が、それぞれ基準周波数の上と下に位置し、周波数弁別器装置の応答が、入力信号の下方の周波数と上方の周波数における離散的なスペクトル成分により決定されるGPS受信機において、
この周波数抽出手段の応答が、動作周波数範囲内の如何なる周波数においてもゼロにならないことを特徴とするGPS受信機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2007−259447(P2007−259447A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−71843(P2007−71843)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(506422261)ネメリクス・ソシエテ・アノニム (10)
【Fターム(参考)】