説明

回路基板の製造方法、及び前記製造方法により得られた回路基板

【課題】線幅及び線間隔の狭い電気回路であっても、絶縁基材上に高精度に形成することができる回路基板の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】絶縁基材1表面に樹脂被膜2を形成する被膜形成工程と、前記樹脂被膜2の外表面側から前記絶縁基材1にレーザ加工又は機械加工することにより、所望の形状及び深さの回路溝3等の回路パターン部を形成する回路パターン形成工程と、前記回路パターン部の表面及び前記樹脂被膜2の表面にめっき触媒又はその前駆体5を被着させる触媒被着工程と、前記絶縁基材1から前記樹脂被膜2を剥離する被膜剥離工程と、前記樹脂被膜2が剥離された絶縁基材1に無電解めっきを施すめっき処理工程とを備え、前記被膜形成工程が、前記絶縁基材1として、表面粗さが、Raで0.5μm以下の平滑面を有するものを用い、前記平滑面側に、前記樹脂被膜2を形成する回路基板の製造方法を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板の製造方法、及び前記製造方法により得られた回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機等の携帯情報端末機器、コンピュータ及びその周辺機器、及び各種情報家電製品等の電気機器において、高機能化が急速に進行している。それに伴って、これら電気機器に搭載される回路基板には、電気回路のさらなる高密度化が要求されている。このような回路の高密度化の要求を満たすために、線幅及び線間隔(隣り合う電気回路と電気回路との間の部分の幅)のより狭い電気回路の配線を正確に形成できる方法が求められている。高密度化された回路配線においては、配線間における短絡やマイグレーション等が発生しやすくなっている。
【0003】
回路基板の製造方法としては、サブトラクティブ法やアディティブ法等によって、絶縁基材上に電気回路を形成する方法等が知られている。サブトラクティブ法とは、金属箔張積層板の表面の電気回路を形成したい部分以外の金属箔を除去(サブトラクティブ)することにより、電気回路を形成する方法である。一方、アディティブ法とは、絶縁基材上の回路を形成したい部分のみに無電解めっきを施すことにより、電気回路を形成する方法である。
【0004】
サブトラクティブ法は、金属箔張積層板表面の金属箔をエッチングすることにより、電気回路を形成したい部分のみの金属箔を残し、その他の部分を除去する方法である。この方法によれば、除去される部分の金属を浪費することになるために製造コストの点等から不利である。一方、アディティブ法は、電気回路を形成したい部分にのみ、無電解めっきによって金属配線を形成することができる。このために、金属を浪費せず、資源の無駄が少ない。このような点からも、アディティブ法は、好ましい回路形成方法である。
【0005】
従来の代表的なアディティブ法の1つであるフルアディティブ法により、金属配線からなる電気回路を形成する方法について、図5を参照しながら説明する。なお、図5は、従来のフルアディティブ法による金属配線を形成する各工程を説明するための模式断面図である。
【0006】
はじめに、図5(A)に示すように、スルーホール101が形成された絶縁基材100の表面にめっき触媒102を被着させる。なお、絶縁基材100の表面は、予め粗化されている。次に、図5(B)に示すように、めっき触媒102を被着させた絶縁基材100上に、フォトレジスト層103を形成させる。次に、図5(C)に示すように、所定の回路パターンが形成されたフォトマスク110を介して、前記フォトレジスト層103を露光させる。次に、図5(D)に示すように、露光したフォトレジスト層103を現像して、回路パターン104を形成させる。そして、図5(E)に示すように、無電解銅めっき等の無電解めっきを施すことによって、現像により形成された回路パターン104の表面及びスルーホール101の内壁面に金属配線105を形成させる。上記のような各工程を施すことにより、絶縁基材100上に金属配線105からなる回路が形成される。
【0007】
上述した従来のアディティブ法においては、絶縁基材100の表面全体にめっき触媒102が被着される。そのために、次のような問題が生じていた。すなわち、フォトレジスト層103が高精度に現像された場合には、フォトレジストで保護されていない部分のみにめっきを形成させることができる。しかしながら、フォトレジスト層103が高精度に現像されなかった場合には、図6に示すように、本来めっきを形成したくない部分に不要なめっき部分106が残ることがある。これは、絶縁基材100の表面全体にめっき触媒102が被着されているために起こる。不要なめっき部分106は、隣接する回路間に短絡やマイグレーション等を引き起こす。このような短絡やマイグレーションは、線幅及び線間隔の狭い回路を形成する場合にはより生じやすくなる。なお、図6は、従来のフルアディティブ法により形成された回路の輪郭形状を説明するための模式断面図である。
【0008】
また、上記の回路基板の製造方法とは異なる製造方法としては、例えば、特許文献1及び特許文献2に記載の製造方法等が挙げられる。
【0009】
特許文献1には、別のアディティブ法として以下のような方法が開示されている。
【0010】
はじめに、絶縁基板(絶縁基材)に溶剤可溶性の第1の感光性樹脂層とアルカリ可溶性の第2の感光性樹脂層を形成する。そして、第1及び第2の感光性樹脂層を所定の回路パターンを有するフォトマスクを介して露光する。次に、第1及び第2の感光性樹脂層を現像する。次に、現像により生じた凹部を含む表面全体に触媒を吸着させた後、アルカリ可溶性の第2の感光性樹脂をアルカリ溶液で溶解させることにより不要な触媒のみを除去する。そして、その後、無電解めっきを施すことにより触媒が存在する部分にのみ正確に回路を形成する。
【0011】
また、下記特許文献2には、以下のような方法が開示されている。
【0012】
はじめに、絶縁基板(絶縁基材)上に樹脂の保護膜をコーティングする(第1の工程)。次に、前記保護膜をコーティングした絶縁基板上に機械加工あるいはレーザービームの照射により配線パターンに対応した溝及びスルーホールを単独又は同時に描画形成する(第2の工程)。次に、前記絶縁基板全面に活性化層を形成する(第3の工程)。次に、前記保護膜を剥離して前記絶縁基板上の活性化層を除去し溝及びスルーホールの内壁面にのみ活性化層を残す(第4の工程)。次に、前記絶縁基板にめっき保護膜を用いないめっきを施し前記活性化された溝およびスルーホールの内壁面にのみ選択的に導電層を形成する(第5の工程)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開昭57−134996号公報
【特許文献2】特開昭58−186994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1に記載の方法によれば、溶剤溶解性の異なる2種の感光性樹脂層を形成し、また、現像時においても2種の溶剤で現像し、触媒を吸着させた後に、さらに、アルカリ溶液で第2の感光性樹脂を溶解させる必要があるなど、製造工程が非常に煩雑であった。
【0015】
また、特許文献2には、絶縁基板上に保護膜として熱硬化性樹脂をコーティングし加熱硬化させた後、所定の配線パターンに従って保護膜及び絶縁基板を切削加工することや、絶縁基板表面の熱硬化性樹脂を溶剤で除去することが記載されている(特許文献2の第2頁左下欄第16行〜右下欄第11行)。
【0016】
特許文献2に記載された保護膜として用いられる熱硬化性樹脂については、その種類については特に記載されていない。一般的な熱硬化性樹脂は、耐溶剤性に優れているために単なる溶剤では除去しにくいという問題があった。また、このような熱硬化性樹脂は、樹脂基材との密着性が高すぎて、樹脂基材の表面に保護膜の断片を残すことなく、保護膜のみを正確に除去することは困難であった。また、充分に剥離するために強い溶剤を用いたり、長時間浸漬したりした場合には、基材表面のめっき触媒も除去されてしまう。この場合には、めっき触媒が除去された部分には導電層が形成されなくなる。また、強い溶剤を用いたり、長時間浸漬したりした場合には、熱硬化性樹脂からなる保護膜がバラバラになるように崩れ、保護膜中のめっき触媒が溶剤中に再分散されることがあった。このように溶剤中に再分散されためっき触媒は、樹脂基材表面に再付着してしまい、その部分に不要なめっき膜が形成されてしまうおそれもあった。そのために特許文献2に開示された方法のような方法によれば、正確な輪郭を有する回路を形成することが困難であった。
【0017】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、線幅及び線間隔の狭い電気回路であっても、絶縁基材上に高精度に形成することができる回路基板の製造方法を提供することを目的とする。また、前記回路基板の製造方法により得られた回路基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者等は、絶縁基材上に電気回路を高精度に形成するために、まず、絶縁基材表面に樹脂被膜を形成する被膜形成工程と、前記樹脂被膜の外表面側から前記絶縁基材にレーザ加工又は機械加工することにより、所望の形状及び深さの回路溝及び孔の少なくともいずれか一方を形成して回路パターン部を形成する回路パターン形成工程と、前記回路パターン部の表面及び前記樹脂被膜の表面にめっき触媒又はその前駆体を被着させる触媒被着工程と、前記絶縁基材から前記樹脂被膜を剥離する被膜剥離工程と、前記樹脂被膜が剥離された絶縁基材に無電解めっきを施すめっき処理工程とを備える、従来とは異なる回路基板の製造方法を開発した。そして、本発明者等は、上記のような回路基板を製造する方法において使用する絶縁基材や樹脂被膜、特に絶縁基材の表面粗さに着目した。
【0019】
通常、回路基板を製造する際、使用する絶縁基材の表面粗さは、あまり考慮されない場合が多かった。また、絶縁基材の表面粗さが考慮されても、一般的に、絶縁基材上に電気回路を形成させる従来の方法の場合には、電気回路と絶縁基材との密着性を高めるために、ある程度、表面粗さが大きいほうが好ましいと考えられていた。また、プリプレグに金属箔を積層して、加熱加圧成形して得られた金属張積層板の表面の金属箔を部分的に除去することにより、電気回路を形成させる場合、金属箔の除去時に、電気回路の支持基材である絶縁基材の平滑性が低下する傾向があった。このような事情から鑑みれば、使用する絶縁基材としては、平滑化処理を施す等して表面粗さを低減させることはあえてせず、表面粗さの比較的大きいものをそのまま用いるのが一般的であったと考えられる。
【0020】
しかしながら、本発明者等は、上記のような回路基板を製造する方法において、表面粗さの比較的大きい絶縁基材を用いた場合、精度高く電気回路を形成することが困難であるという現象が生じることを発見した。
【0021】
そして、本発明者等は、この現象は以下のことによると推察した。
【0022】
表面粗さの比較的大きい絶縁基材を用いると、前記被膜形成工程において、前記絶縁基材表面に樹脂被膜、特に、膜厚5μm以下の樹脂被膜を形成する際、均一な膜厚の樹脂被膜を形成することが困難になると考えられる。そして、このことが原因で上記現象が生じると考えられる。
【0023】
具体的には、まず、表面粗さの比較的大きい絶縁基材、例えば、表面粗さが、Raで0.6μm、Rzで7μmである絶縁基材等を用いると、前記絶縁基材表面に、樹脂被膜、特に薄い樹脂被膜を形成させると、前記樹脂被膜から前記絶縁基材が露出しやすいと考えられる。そして、前記樹脂被膜から前記絶縁基材が露出した部分が存在すると、その露出した部分は、電気回路を形成したい箇所ではないにもかかわらず、めっき層が形成されてしまうと考えられる。
【0024】
さらに、前記樹脂被膜から前記絶縁基材が露出しなくても、前記絶縁基材表面に形成させた樹脂被膜の特定の箇所のみ薄くなると考えられる。そして、例えば、回路溝又は孔を形成する箇所に近い場所に、このような樹脂被膜が薄い箇所があると、回路溝又は孔を形成する際に、回路溝又は孔の形成箇所近傍の、樹脂被膜が薄い箇所の樹脂被膜も除去してしまうと考えられる。そして、回路溝又は孔の周辺の、電気回路を形成したい箇所ではない箇所にも、めっき層が形成されてしまうと考えられる。
【0025】
上記の不具合については、前記絶縁基材表面に形成させる樹脂被膜を厚くする、例えば、膜厚を10μmにすることによって解消可能であるように考えられるが、前記樹脂被膜を厚くすると、前記回路パターン形成工程において、例えば、レーザ加工等では、回路溝や孔を高精度に形成することが困難になる傾向がある。よって、上述した回路基板の製造方法において、電気回路を高精度に形成させるためには、前記樹脂被膜の膜厚は、5μm以下であることが好ましいが、そうすると、上記のような不具合が発生すると考えられる。
【0026】
したがって、本発明者等は、上述した回路基板の製造方法において、表面粗さの比較的大きい絶縁基材を用いると、絶縁基材の表面に形成させる樹脂被膜の膜厚にかかわらず、精度高く電気回路を形成することが困難になると考えた。
【0027】
そこで、本発明者等は、上述したような、回路基板の製造方法において、表面粗さの比較的低い絶縁基材をあえて使用することによって、以下のような本発明に想到するに到った。
【0028】
本発明の一態様に係る回路基板の製造方法は、絶縁基材表面に樹脂被膜を形成する被膜形成工程と、前記樹脂被膜の外表面側から前記絶縁基材にレーザ加工又は機械加工することにより、所望の形状及び深さの回路溝及び孔の少なくともいずれか一方を形成して回路パターン部を形成する回路パターン形成工程と、前記回路パターン部の表面及び前記樹脂被膜の表面にめっき触媒又はその前駆体を被着させる触媒被着工程と、前記絶縁基材から前記樹脂被膜を剥離する被膜剥離工程と、前記樹脂被膜が剥離された絶縁基材に無電解めっきを施すめっき処理工程とを備え、前記被膜形成工程において、前記絶縁基材として、表面粗さが、Raで0.5μm以下の平滑面を有するものを用い、前記平滑面側に、前記樹脂被膜を形成することを特徴とする。
【0029】
このような構成によれば、線幅及び線間隔の狭い電気回路であっても、精度高く絶縁基材上に形成することができる。
【0030】
このことは以下のことによると考えられる。
【0031】
まず、前記絶縁基材の、前記樹脂被膜を形成する側の表面である平滑面の表面粗さが、Raで0,5μm以下と平滑性が高いので、前記絶縁基材の平滑面上に形成する樹脂被膜が薄くても、前記樹脂被膜を均一に形成することができると考えられる。具体的には、前記樹脂被膜から前記絶縁基材が露出しにくく、さらに、前記樹脂被膜の特定の箇所のみが薄くなるということが発生しにくいと考えらえられる。よって、前記絶縁基材の露出や前記樹脂被膜の特定の箇所のみが薄いことによる、上記不具合の発生が抑制されるためと考えられる。
【0032】
また、前記平滑面の、Raで表される表面粗さが、前記樹脂被膜の厚みに対して、1/10以下であることが好ましい。このような構成によれば、より精度高く電気回路を絶縁基材上に形成することができる。
【0033】
このことは、前記絶縁基材の露出や前記樹脂被膜の特定の箇所のみが薄くなることをより抑制できるので、前記絶縁基材の露出等が原因の、上記不具合の発生をより抑制できるためと考えられる。
【0034】
また、前記平滑面の、Rzで表される表面粗さが、前記樹脂被膜の厚み以下であることが好ましい。このような構成によれば、より精度高く電気回路を絶縁基材上に形成することができる。
【0035】
このことは、前記絶縁基材の露出や前記樹脂被膜の特定の箇所のみが薄くなることをより抑制できるので、前記絶縁基材の露出等が原因の、上記不具合の発生をより抑制できるためと考えられる。
【0036】
また、前記被膜形成工程において用いる絶縁基材が、平滑板、平滑フィルム、平滑シート、又は平滑箔で加圧することにより得られたものであることが好ましい。
【0037】
このような構成によれば、表面粗さの比較的大きな絶縁基材を用いた場合であっても、平滑板、平滑フィルム、平滑シート、又は平滑箔で加圧することにより得られた絶縁基材を用いることによって、精度高く電気回路を絶縁基材上に容易に形成することができる。
【0038】
また、本発明の他の一態様に係る回路基板は、前記回路基板の製造方法により得られたものである。このような構成によれば、線幅及び線間隔の狭い電気回路であっても、精度高く絶縁基材上に形成されている回路基板が得られる。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、線幅及び線間隔の狭い電気回路であっても、絶縁基材上に高精度に形成することができる回路基板の製造方法を提供することができる。また、前記回路基板の製造方法により得られた回路基板が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】第1実施形態に係る回路基板の製造方法における各工程を説明するための模式断面図である。
【図2】第1実施形態における各工程後の絶縁基材1の状態を説明するための図面である。
【図3】表面粗さの比較的大きい絶縁基材21を用いた場合の絶縁基材21の状態を説明するため図面である。
【図4】第3実施形態に係る立体回路基板を製造する各工程を説明するための模式断面図である。
【図5】従来のフルアディティブ法による金属配線を形成する各工程を説明するための模式断面図である。
【図6】従来のフルアディティブ法により形成された回路の輪郭形状を説明するための模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明に係る実施形態について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0042】
(第1実施形態)
本実施形態に係る回路基板の製造方法は、絶縁基材表面に樹脂被膜を形成する被膜形成工程と、前記樹脂被膜の外表面側から前記絶縁基材にレーザ加工又は機械加工することにより、所望の形状及び深さの回路溝及び孔の少なくともいずれか一方を形成して回路パターン部を形成する回路パターン形成工程と、前記回路パターン部の表面及び前記樹脂被膜の表面にめっき触媒又はその前駆体を被着させる触媒被着工程と、前記絶縁基材から前記樹脂被膜を剥離する被膜剥離工程と、前記樹脂被膜が剥離された絶縁基材に無電解めっきを施すめっき処理工程とを備え、前記被膜形成工程において、前記絶縁基材として、表面粗さが、Raで0.5μm以下の平滑面を有するものを用い、前記平滑面側に、前記樹脂被膜を形成することを特徴とする。
【0043】
まず、本発明の第1実施形態に係る回路基板の製造方法について説明する。図1は、第1実施形態に係る回路基板の製造方法における各工程を説明するための模式断面図である。
【0044】
はじめに、図1(A)に示すように、絶縁基材1の表面に樹脂被膜2を形成させる。前記絶縁基材1としては、詳細は後述するが、表面粗さが、Raで0.5μm以下の平滑面を有するものを用いる。そして、前記樹脂被膜2は、前記平滑面上に形成させる。なお、この工程は、被膜形成工程に相当する。
【0045】
次に、図1(B)に示すように、前記樹脂被膜2が形成された絶縁基材1に、前記樹脂被膜2の外表面側からレーザ加工又は機械加工することにより所望の形状及び深さの回路溝3及び貫通孔4の少なくともいずれか一方を形成させる。すなわち、必要に応じて、前記回路溝3のみを形成させてもよいし、前記貫通孔4のみを形成させてもよいし、前記回路溝3と前記貫通孔4との両方を形成させてもよい。なお、前記回路溝3を形成させるためのレーザ加工又は機械加工は、前記樹脂被膜2の外表面を基準として、前記樹脂被膜2の厚み分を超えて切削する。また、前記貫通孔4を形成させるためのレーザ加工又は機械加工は、前記樹脂被膜2及び前記絶縁基材1の厚み分を超えて切削する穴あけ加工である。なお、前記回路溝3と前記貫通孔4とは、回路パターン部に相当し、この工程は、回路パターン形成工程に相当する。
【0046】
次に、図1(C)に示すように、前記回路溝3や前記貫通孔4の表面及び前記回路溝3や前記貫通孔4が形成されなかった前記樹脂被膜2の表面にめっき触媒又はその前駆体5を被着させる。なお、この工程は、触媒被着工程に相当する。
【0047】
次に、図1(D)に示すように、前記絶縁基材1から前記樹脂被膜2を剥離させる。そうすることによって、前記絶縁基材1の、前記回路溝3や前記貫通孔4が形成された部分の表面にのみめっき触媒又はその前駆体5を残留させることができる。一方、前記樹脂被膜2の表面に被着されためっき触媒又はその前駆体5は、前記樹脂被膜2に担持された状態で、前記樹脂被膜2とともに除去される。なお、この工程は、被膜剥離工程に相当する。
【0048】
次に、前記樹脂被膜2が剥離された絶縁基材1に無電解めっきを施す。そうすることによって、前記めっき触媒又はその前駆体5が残存する部分にのみめっき層が形成される。すなわち、図1(E)に示すように、前記回路溝3や前記貫通孔4が形成された部分に、電気回路6となるめっき層が形成される。そして、この電気回路6は、このめっき層からなるものであってもよいし、前記めっき層にさらに無電解めっき(フィルアップめっき)を施して、さらに厚膜化させたものであってもよい。具体的には、例えば、図1(E)に示すように、前記回路溝3や前記貫通孔4全体を埋めるようにめっき層からなる電気回路6を形成させ、前記絶縁基材1と前記電気回路との段差をなくすようにしてもよい。なお、この工程は、めっき処理工程に相当する。
【0049】
上記各工程によって、図1(E)に示すような回路基板10が形成される。このように形成された回路基板10は、線幅及び線間隔の狭い電気回路であっても、絶縁基材上に高精度に形成されたものである。すなわち、上述の製造方法によれば、線幅及び線間隔の狭い電気回路であっても、絶縁基材上に高精度に形成することができる。
【0050】
なお、めっき処理工程を施した後、具体的には、フィルアップめっきを施す前又は施した後に、デスミア処理を施してもよい。デスミア処理を施すことによって、めっき層に付着してしまった不要な樹脂を除去することができる。また、得られた回路基板を備える多層回路基板を想定した場合、前記絶縁基材の、めっき層が形成されていない部分の表面を粗し、前記回路基板の上層等との密着性を向上させることができる。さらに、ビア底にデスミア処理を施してもよい。そうすることによって、ビア底に付着してしまった不要な樹脂を除去することができる。
【0051】
また、前記デスミア処理としては、特に限定されず、公知のデスミア処理を用いることができる。具体的には、例えば、過マンガン酸溶液等に浸漬する処理等が挙げられる。
【0052】
上述したような、絶縁基材上に形成させる電気回路の精度を高める効果は、以下のメカニズムによると推察される。なお、図2は、第1実施形態における各工程後の絶縁基材1の状態を説明するための図面である。図2(A)は、前記被膜形成工程後の絶縁基材1の状態を示し、図2(B)は、前記回路パターン形成工程後の絶縁基材1の状態を示し、図2(C)は、前記触媒被着工程後の絶縁基材1の状態を示し、図2(D)は、前記被膜剥離工程後の絶縁基材1の状態を示し、図2(E)は、前記めっき処理工程後の絶縁基材1の状態を示す。また、図2は、回路パターン部として、前記回路溝3を形成した場合について示したものである。以下、この前記回路溝3を形成した場合について説明するが、前記貫通孔4を形成する場合であっても同様である。
【0053】
まず、前記被膜形成工程後の絶縁基材1は、図2(A)に示すように、前記絶縁基材1上に、膜厚等が比較的均一な樹脂被膜2が形成されると考えられる。このことは、前記絶縁基材1の、前記樹脂被膜2を形成する側の表面である平滑面の表面粗さが、Raで0.5μm以下と平滑性が高いことによると考えられる。より具体的には、前記樹脂被膜2から前記絶縁基材1が露出しにくく、さらに、前記樹脂被膜2の特定の箇所のみが薄くなるということが発生しにくいと考えられる。
【0054】
次に、前記回路パターン形成工程後の絶縁基材1は、図2(B)に示すように、絶縁基材1にレーザ加工又は機械加工を施すことによって、回路溝3が形成されている。そして、前記絶縁基材1表面に形成されている前記樹脂被膜2についても、前記回路溝3が形成された位置に対応する箇所の樹脂被膜のみが高精度に除去されると考えられる。すなわち、前記回路溝3が形成された位置に対応する箇所以外の樹脂被膜2は、高精度に残存しているものと考えられる。
【0055】
そして、前記触媒被着工程を施すことによって、図2(C)に示すように、前記回路溝3の表面及び前記回路溝3が形成されなかった前記樹脂被膜2の表面にめっき触媒又はその前駆体5を被着させる。
【0056】
その後、前記被膜剥離工程を施すことによって、図2(D)に示すように、前記回路溝3の表面にのみ高精度にめっき触媒又はその前駆体5が残留されると考えられる。
【0057】
そして、前記めっき処理工程を施すことによって、図2(E)に示すように、電気回路となるめっき層7が、高精度に形成できると考えられる。
【0058】
以上のことから、本実施形態に係る回路基板の製造方法によれば、絶縁基材上に、線幅及び線間隔の狭い電気回路を形成する場合であっても、高精度に電気回路を形成することができると考えられる。
【0059】
これに対して、表面粗さがRaで0.5μmを超えるような、表面粗さが比較的大きな絶縁基材21を用いた場合、本実施形態と同様の方法で、電気回路を形成しても、精度高く電気回路を形成することが困難である、すなわち、形成される電気回路の精度が低くなるという現象が生じることを、本発明者等は発見した。そして、この形成される電気回路の精度が低くなる現象は、以下のことによると推察される。
【0060】
なお、図3は、表面粗さの比較的大きい絶縁基材21を用いた場合の絶縁基材21の状態を説明するため図面である。図3(A)〜(E)は、それぞれ、図2(A)〜(E)に対応する図面である。
【0061】
まず、表面粗さの比較的大きい絶縁基材21の表面に樹脂被膜を形成すると、形成された樹脂被膜22の膜厚等が不均一なものになると考えられる。具体的には、例えば、前記樹脂被膜22から前記絶縁基材21が露出したり、図3(A)に示すように、前記樹脂被膜22が薄くなる箇所ができると考えられる。以下、前記樹脂被膜22が薄くなる箇所ができた場合について説明する。
【0062】
このような場合、回路溝23を形成する箇所に近い場所に、前記樹脂被膜22の薄い箇所があると、回路溝23を形成する際に、図3(B)に示すように、回路溝23近傍の樹脂被膜22も除去してしまう。すなわち、前記回路溝23が形成された位置に対応する箇所の樹脂被膜以外の樹脂被膜も除去され、前記回路溝23が形成された位置以外に前記絶縁基材の露出部分23aが形成されると考えられる。
【0063】
そして、前記触媒被着工程を施すことによって、図3(C)に示すように、前記回路溝23の表面及び前記回路溝23が形成されなかった前記樹脂被膜22の表面だけではなく、前記絶縁基材の露出部分23aの表面にも、めっき触媒又はその前駆体25が被着されると考えられる。
【0064】
その後、前記被膜剥離工程を施すことによって、図3(D)に示すように、前記回路溝23の表面にめっき触媒又はその前駆体25が残留されるだけではなく、前記絶縁基材の露出部分23aの表面にも、めっき触媒又はその前駆体25aが残留されると考えられる。
【0065】
そして、前記めっき処理工程を施すことによって、図3(E)に示すように、電気回路となるめっき層26が形成されるだけではなく、前記絶縁基材の露出部分23aに起因するめっき層26aも形成されると考えられる。
【0066】
以上のことから、回路を形成しようとしている箇所以外にもめっき層が形成されてしまうと考えられる。すなわち、絶縁基材上に、高精度に電気回路を形成することが困難であると考えられる。
【0067】
以下、本実施形態の各構成について、説明する。
【0068】
前記被膜形成工程において用いる絶縁基材1は、表面粗さが、Raで0.5μm以下の平滑面を有する基材である。その基材としては、具体的には、例えば、樹脂を含む樹脂基材等が挙げられる。また、前記絶縁基材1は、表面粗さが、Raで0.5μm以下の平滑面を有すればよく、表面粗さが、Raで0.5μm以下の平滑面を有する樹脂基材等をそのまま用いてもよいし、表面粗さが比較的大きい樹脂基材等に対して、後述する平滑化処理を施したものであってもよい。なお、前記被膜形成工程は、前記平滑面側に、樹脂被膜を形成する。よって、前記絶縁基材は、樹脂被膜を形成させない面、つまり前記平滑面以外の面は、表面粗さが比較的大きくてもよい。
【0069】
また、前記平滑面の表面粗さとしては、Raで0.5μm以下であればよいが、0.3μm以下であるとより好ましい。前記平滑面の表面粗さが大きすぎると、上述したように、電気回路を高精度に形成できなくなる傾向がある。また、前記平滑面の表面粗さとしては、小さいほどよいので、その下限値としては、製造可能な表面粗さであればよい。例えば、製造できるのであれば、0.01μm等であってもよい。
【0070】
前記樹脂としては、回路基板の製造に用いられうる各種有機基板を構成する樹脂であれば、特に限定なく用いることができる。具体的には、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂等が挙げられる。
【0071】
前記エポキシ樹脂としては、回路基板の製造に用いられうる各種有機基板を構成するエポキシ樹脂であれば、特に限定されない。具体的には、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、アラルキルエポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、アルキルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フェノール類とフェノール性水酸基を有する芳香族アルデヒドとの縮合物のエポキシ化物、トリグリシジルイソシアヌレート、指環式エポキシ樹脂等が挙げられる。さらに、難燃性を付与するために、臭素化又はリン変性した、上記エポキシ樹脂等も挙げられる。また、前記エポキシ樹脂としては、上記各エポキシ樹脂を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
また、上記各樹脂で基材を構成する場合、一般的に、硬化させるために、硬化剤を含有させる。前記硬化剤としては、硬化剤として用いることができるものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、ジシアンジアミド、フェノール系硬化剤、酸無水物系硬化剤、アミノトリアジンノボラック系硬化剤等が挙げられる。前記フェノール系硬化剤としては、例えば、ノボラック型、アラルキル型、テルペン型等が挙げられる。また、前記硬化剤としては、上記各硬化剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
また、前記絶縁基材1には、フィラーを含有していてもよい。前記フィラーとしては、無機微粒子であっても、有機微粒子であってもよく、特に限定されない。
【0074】
前記無機微粒子を構成する材料としては、具体的には、例えば、酸化アルミニウム(Al)、酸化マグネシウム(MgO)、窒化ホウ素(BN)、窒化アルミニウム(AlN)、シリカ(SiO)、チタン酸バリウム(BaTiO)、酸化チタン(TiO)等の高誘電率充填材;ハードフェライト等の磁性充填材;水酸化マグネシウム(Mg(OH))、水酸化アルミニウム(Al(OH))、三酸化アンチモン(Sb)、五酸化アンチモン(Sb)、グアニジン塩、ホウ酸亜鉛、モリブテン化合物、スズ酸亜鉛等の無機系難燃剤;タルク(Mg(Si10)(OH))、硫酸バリウム(BaSO)、炭酸カルシウム(CaCO)、雲母等が挙げられる。前記無機微粒子としては、上記無機微粒子を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの無機微粒子は、熱伝導性、比誘電率、難燃性、粒度分布、色調の自由度等が高いことから、所望の機能を選択的に発揮させる場合には、適宜配合及び粒度設計を行って、容易に高充填化を行うことができる。
【0075】
また、前記無機微粒子は、前記絶縁基材中での分散性を高めるために、シランカップリング剤で表面処理してもよい。また、前記絶縁基材は、前記無機微粒子の、前記絶縁基材中での分散性を高めるために、シランカップリング剤を含有してもよい。前記シランカップリング剤としては、具体的には、例えば、エポキシシラン系、メルカプトシラン系、アミノシラン系、ビニルシラン系、スチリルシラン系、メタクリロキシシラン系、アクリロキシシラン系、チタネート系等のシランカップリング剤等が挙げられる。前記シランカップリング剤としては、上記シランカップリング剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
また、前記絶縁基材は、前記無機微粒子の、前記絶縁基材中での分散性を高めるために、分散剤を含有してもよい。前記分散剤としては、具体的には、例えば、アルキルエーテル系、ソルビタンエステル系、アルキルポリエーテルアミン系、高分子系等の分散剤等が挙げられる。前記分散剤としては、上記分散剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0077】
また、前記有機微粒子としては、具体的には、例えば、ゴム微粒子等が挙げられる。
【0078】
また、前記絶縁基材の形態としては、特に限定されない。具体的には、シート、フィルム、プリプレグ、及び三次元形状の成形体等が挙げられる。前記絶縁基材1の厚みは、特に限定されない。具体的には、シート、フィルム、プリプレグの場合には、例えば、10〜200μmであることが好ましく、20〜100μm程度であることがより好ましい。また、前記絶縁基材としては、シリカ粒子等の無機微粒子を含有してもよい。
【0079】
前記樹脂被膜2は、前記被膜剥離工程で剥離可能なものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、有機溶剤やアルカリ溶液により容易に溶解しうる可溶型樹脂や、後述する所定の液体(膨潤液)で膨潤しうる膨潤性樹脂からなる樹脂被膜等が挙げられる。これらの中では、正確な除去が容易である点から膨潤性樹脂被膜が特に好ましい。前記膨潤性樹脂被膜としては、例えば、後述する所定の液体(膨潤液)に対して実質的に溶解せず、膨潤により前記絶縁基材1表面から容易に剥離するような樹脂被膜等が挙げられる。
【0080】
前記樹脂被膜2の形成方法としては、特に限定されない。具体的には、例えば、前記絶縁基材1の主面に液状材料を塗布した後、乾燥させる方法や、前記絶縁基材1の主面に予め形成された樹脂フィルム等の樹脂被膜2になり得るものを貼り合せる方法等が挙げられる。なお、液状材料を塗布する方法としては、特に限定されない。具体的には、例えば、従来から知られたスピンコート法やバーコーター法等が挙げられる。
【0081】
前記樹脂被膜2の厚みとしては、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。一方、前記樹脂被膜2の厚みとしては、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましい。前記樹脂被膜2の厚みが厚すぎる場合には、レーザ加工又は機械加工することにより形成される溝や孔等の精度が低下する傾向がある。また、前記樹脂被膜2の厚みが薄すぎる場合は、均一な膜厚の樹脂被膜を形成しにくくなる傾向があるが、本実施形態では、上述したように、前記樹脂被膜2が薄くても、均一な樹脂被膜が形成されやすい。
【0082】
また、前記平滑面の表面粗さは、上述したように、小さいほうが好ましい。より具体的には、前記平滑面上に形成する樹脂被膜の厚みとの関係で、以下の範囲であるとより好ましい。
【0083】
前記平滑面の、Raで表される表面粗さが、前記樹脂被膜の厚みに対して、1/10以下であることが好ましく、1/15以下であることがより好ましい。また、前記平滑面の、Rzで表される表面粗さが、前記樹脂被膜の厚み以下であることが好ましく、前記樹脂被膜の厚みの2/3以下であることがより好ましい。
【0084】
上述したように、そうすることによって、より精度高く電気回路を絶縁基材上に形成することができる。このことは、回路溝や貫通孔を高精度に形成できるような薄い樹脂被膜、例えば、膜厚5μm以下の樹脂被膜を形成しても、前記絶縁基材の露出や前記樹脂被膜の特定の箇所のみが薄くなることをより抑制できるためと考えられる。よって、前記絶縁基材の露出等が原因の、上述したような不具合の発生をより抑制できるためと考えられる。
【0085】
なお、本発明での、Raは、JIS B 0601:2001で定義される、粗さ曲線の算術平均高さである。また、本発明での、Rzは、JIS B 0601:2001で定義される最大高さ粗さである。Ra及びRzは、例えば、表面粗さ測定機、レーザ顕微鏡、及び原子間力顕微鏡等を用いて測定できる。具体的には、走査型共焦点レーザ顕微鏡(オリンパス株式会社製のLEXT OLS3000)による表面粗さ解析等を用いて測定できる。
【0086】
次に、前記樹脂被膜2として好適な膨潤性樹脂被膜を例に挙げて説明する。
【0087】
前記膨潤性樹脂被膜としては、膨潤液に対する膨潤度が50%以上である樹脂被膜が好ましく用いられうる。さらに、膨潤液に対する膨潤度が100%以上である樹脂被膜がより好ましく、1000%以下である樹脂被膜がさらに好ましい。なお、前記膨潤度が低すぎる場合には、前記被膜剥離工程において膨潤性樹脂被膜が剥離しにくくなる傾向がある。また、前記膨潤度が高すぎる場合には、被膜強度が低下することにより剥離する際に破れる等して剥離が困難になる傾向がある。
【0088】
前記膨潤性樹脂被膜の形成方法は、特に限定されない。具体的には、例えば、前記絶縁基材1の平滑面に、膨潤性樹脂被膜を形成しうる液状材料を塗布した後、乾燥させる方法や、支持基板に前記液状材料を塗布した後、乾燥することにより形成される被膜を絶縁基材1の平滑面に転写する方法等が挙げられる。
【0089】
膨潤性樹脂被膜を形成しうる液状材料としては、例えば、エラストマーのサスペンジョン又はエマルジョン等が挙げられる。前記エラストマーの具体例としては、例えば、スチレン−ブタジエン系共重合体等のジエン系エラストマー、アクリル酸エステル系共重合体等のアクリル系エラストマー、及びポリエステル系エラストマー等が挙げられる。このようなエラストマーによれば、サスペンジョン又はエマルジョンとして分散されたエラストマー樹脂粒子の架橋度又はゲル化度等を調整することにより所望の膨潤度の膨潤性樹脂被膜を容易に形成することができる。
【0090】
なお、前記膨潤性樹脂被膜としては、特に、膨潤度が膨潤液のpHに依存して変化するような被膜であることが好ましい。このような被膜を用いた場合には、前記触媒被着工程における液性条件と、前記被膜剥離工程における液性条件とを異なるものにすることにより、触媒被着工程におけるpHにおいては膨潤性樹脂被膜は絶縁基材に対する高い密着力を維持し、被膜剥離工程におけるpHにおいては容易に膨潤性樹脂被膜を剥離させることができる。
【0091】
さらに具体的には、例えば、前記触媒被着工程が、例えば、pH1〜3の範囲の酸性めっき触媒コロイド溶液(酸性触媒金属コロイド溶液)中で処理する工程を備え、前記被膜剥離工程がpH12〜14の範囲のアルカリ性溶液中で膨潤性樹脂被膜を膨潤させる工程を備える場合には、前記膨潤性樹脂被膜は、前記酸性めっき触媒コロイド溶液に対する膨潤度が25%以下、さらには10%以下であり、前記アルカリ性溶液に対する膨潤度が50%以上、さらには100%以上、さらには500%以上であるような樹脂被膜であることが好ましい。
【0092】
このような膨潤性樹脂被膜の例としては、所定量のカルボキシル基を有するエラストマーから形成されるシートや、プリント配線板のパターニング用のドライフィルムレジスト(以下、DFRとも呼ぶ)等に用いられる光硬化性のアルカリ現像型のレジストを全面硬化して得られるシートや、熱硬化性やアルカリ現像型シート等が挙げられる。
【0093】
カルボキシル基を有するエラストマーの具体例としては、カルボキシル基を有するモノマー単位を共重合成分として含有することにより、分子中にカルボキシル基を有する、スチレン−ブタジエン系共重合体等のジエン系エラストマー;アクリル酸エステル系共重合体等のアクリル系エラストマー;及びポリエステル系エラストマー等が挙げられる。このようなエラストマーによれば、サスペンジョン又はエマルジョンとして分散されたエラストマーの、酸当量,架橋度またはゲル化度等を調整することにより所望のアルカリ膨潤度を有する膨潤性樹脂被膜を形成することができる。エラストマー中のカルボキシル基はアルカリ水溶液に対して膨潤性樹脂被膜を膨潤させて、絶縁基材表面から膨潤性樹脂被膜を剥離する作用をする。また、酸当量とは1当量のカルボキシル基当たりのポリマー重量である。
【0094】
カルボキシル基を有するモノマー単位の具体例としては、(メタ)アクリル酸、フマル酸、ケイ皮酸、クロトン酸、イタコン酸、及びマレイン酸無水物等が挙げられる。
【0095】
このようなカルボキシル基を有するエラストマー中のカルボキシル基の含有割合としては、酸当量で100〜2000、さらには100〜800であることが好ましい。酸当量が小さすぎる場合には、溶媒または他の組成物との相溶性が低下することにより、めっき前処理液に対する耐性が低下する傾向がある。また、酸当量が小さすぎる場合には、アルカリ水溶液に対する剥離性が低下する傾向がある。
【0096】
また、エラストマーの分子量としては、1万〜100万、さらには、2万〜6万であることが好ましい。エラストマーの分子量が大きすぎる場合には剥離性が低下する傾向があり、小さすぎる場合には粘度が低下するために膨潤性樹脂被膜の厚みを均一に維持することが困難になるとともに、めっき前処理液に対する耐性も悪化する傾向がある。
【0097】
また、DFRとしては、所定量のカルボキシル基を含有する、アクリル系樹脂;エポキシ系樹脂;スチレン系樹脂;フェノール系樹脂;ウレタン系樹脂等を樹脂成分とし、光重合開始剤を含有する光硬化性樹脂組成物のシートが用いられうる。このようなDFRの具体例としては、特開2000−231190号公報、特開2001−201851号公報、特開平11−212262号公報に開示されたような光重合性樹脂組成物のドライフィルムを全面硬化させて得られるシートや、アルカリ現像型のDFRとして市販されている、例えば、旭化成株式会社製のUFGシリーズ等が挙げられる。
【0098】
さらに、その他の膨潤性樹脂被膜の例としては、カルボキシル基を含有する、ロジンを主成分とする樹脂(例えば、吉川化工株式会社製の「NAZDAR229」)やフェノールを主成分とする樹脂(例えば、LEKTRACHEM社製「104F」)等が挙げられる。
【0099】
膨潤性樹脂被膜は、絶縁基材表面に樹脂のサスペンジョン又はエマルジョンを従来から知られたスピンコート法やバーコーター法等の塗布手段を用いて塗布した後、乾燥する方
法や、支持基材に形成されたDFRを真空ラミネーター等を用いて絶縁基材表面に貼りあわせた後、全面硬化することにより容易に形成することができる。
【0100】
また、前記回路パターン形成工程で形成される回路溝や貫通孔の幅は特に限定されない。具体的には、例えば、前記回路溝が、少なくとも5〜30μmの線幅の部分を含むことが好ましい。前記回路溝3によって、無電解めっきによってめっき層が形成される部分、すなわち、電気回路が形成される部分が規定される。具体的には、例えば、ここで形成される回路溝の幅は、本実施形態で形成する電気回路の線幅となる。すなわち、このような線幅の狭い電気回路の場合、充分に高密度化された回路を備える回路基板が得られる。なお、回路溝の深さは、フィルアップめっきにより、電気回路と絶縁基材とに段差をなくした場合には、本実施形態で形成する電気回路の深さとなる。また、レーザ加工を用いた場合には、線幅20μm以下のような微細な回路も容易に形成できる。
【0101】
前記めっき触媒又はその前駆体5は、前記めっき処理工程において無電解めっきによりめっき層を形成したい部分にのみめっき層を形成させるために付与される触媒である。めっき触媒としては、無電解めっき用の触媒として知られたものであれば特に限定なく用いられうる。また、予めめっき触媒の前駆体を被着させ、樹脂被膜の剥離後にめっき触媒を生成させてもよい。めっき触媒の具体例としては、例えば、金属パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)等、または、これらを生成させるような前駆体等が挙げられる。
【0102】
めっき触媒又はその前駆体5を被着させる方法としては、例えば、pH1〜3の酸性条件下で処理される酸性Pd−Snコロイド溶液で処理した後、酸溶液で処理するような方法等が挙げられる。具体的には、例えば、次のような方法が挙げられる。
【0103】
はじめに、回路溝3及び貫通孔4が形成された絶縁基材1の表面に付着している油分等を界面活性剤の溶液(クリーナー・コンディショナー)中で所定の時間湯洗する。次に、必要に応じて、過硫酸ナトリウム−硫酸系のソフトエッチング剤でソフトエッチング処理する。そして、pH1〜2の硫酸水溶液や塩酸水溶液等の酸性溶液中でさらに酸洗する。次に、濃度0.1%程度の塩化第一錫水溶液等を主成分とするプリディップ液に浸漬して絶縁基材1表面に塩化物イオンを吸着させるプリディップ処理を行う。その後、塩化第一錫と塩化パラジウムを含む、pH1〜3の酸性Pd−Snコロイド等の酸性めっき触媒コロイド溶液にさらに浸漬することによりPd及びSnを凝集させて吸着させる。そして、吸着した塩化第一錫と塩化パラジウムとの間で、酸化還元反応(SnCl+PdCl→SnCl+Pd↓)を起こさせる。これにより、めっき触媒である金属パラジウムが析出する。
【0104】
なお、酸性めっき触媒コロイド溶液としては、公知の酸性Pd−Snコロイドキャタリスト溶液等が使用でき、酸性めっき触媒コロイド溶液を用いた市販のめっきプロセスを用いてもよい。このようなプロセスは、例えば、ローム・アンド・ハース電子材料株式会社からシステム化されて販売されている。
【0105】
前記樹脂被膜2を除去する方法としては、アルカリ溶液等の液に樹脂被膜2で被覆された絶縁基材1を所定の時間浸漬することにより、樹脂被膜2を溶解除去又は膨潤剥離するような方法が挙げられる。アルカリ溶液としては、例えば、1〜10%程度の濃度の水酸化ナトリウム水溶液等が用いられうる。また、浸漬中に超音波照射することにより除去効率を高めてもよい。なお、膨潤させて剥離するときには、軽い力で引き剥がしてもよい。
【0106】
また、前記樹脂被膜2として、前記膨潤性樹脂被膜を用いた場合について、説明する。
【0107】
前記膨潤性樹脂被膜2を膨潤させる液体(膨潤液)としては、絶縁基材1、膨潤性樹脂被膜2及びめっき触媒又はその前駆体5を実質的に分解又は溶解させることなく、膨潤性樹脂被膜2が容易に剥離される程度に膨潤させうる液体であれば特に限定なく用いられうる。このような膨潤液は、膨潤性樹脂被膜2の種類や厚みにより適宜選択されうる。具体的には、例えば、膨潤性樹脂被膜がジエン系エラストマー、アクリル系エラストマー、及びポリエステル系エラストマーのようなエラストマーから形成されている場合には、例えば、1〜10%程度の濃度の水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液が好ましく用いられうる。
【0108】
なお、触媒被着工程において上述したような酸性条件で処理するメッキプロセスを用いた場合には、膨潤性樹脂被膜2が、酸性条件下においては膨潤度が10%以下であり、アルカリ性条件下では膨潤度が50%以上であるような、例えば、ジエン系エラストマー、アクリル系エラストマー、及びポリエステル系エラストマーのようなエラストマーから形成されていることが好ましい。このような膨潤性樹脂被膜は、pH12〜14であるようなアルカリ水溶液、例えば、1〜10%程度の濃度の水酸化ナトリウム水溶液等により容易に膨潤し、剥離する。なお、剥離性を高めるために、浸漬中に超音波照射してもよい。また、必要に応じて軽い力で引き剥がすことにより剥離してもよい。
【0109】
膨潤性樹脂被膜2を膨潤させる方法としては、膨潤液に、膨潤性樹脂被膜2で被覆された絶縁基材1を所定の時間浸漬する方法が挙げる。また、剥離性を高めるために、浸漬中に超音波照射することが特に好ましい。なお、膨潤のみにより剥離しない場合には、必要に応じて軽い力で引き剥がしてもよい。
【0110】
前記無電解めっき処理の方法としては、部分的にめっき触媒又はその前駆体5が被着された絶縁基材1を無電解めっき液に浸漬して、めっき触媒又はその前駆体5が被着された部分のみに無電解めっき膜(めっき層)を析出させるような方法が用いられうる。
【0111】
無電解めっきに用いられる金属としては、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)等が挙げられる。これらの中では、Cuを主成分とするメッキが導電性に優れている点から好ましい。また、Niを含む場合には、耐食性や、はんだとの密着性に優れる点から好ましい。
【0112】
無電解めっき層6の膜厚は、特に限定されない。具体的には、例えば、0.1〜10μm、さらには1〜5μm程度であることが好ましい。特に、前記回路溝3の深さを深くすることにより、膜厚の厚いめっきであって、断面積が大きい金属配線を容易に形成することができる。この場合には、金属配線の強度を向上させることができる点から好ましい。
【0113】
めっき処理工程により、絶縁基材1表面のめっき触媒又はその前駆体5が残留する部分のみに無電解めっき膜が析出する。そのために、回路溝を形成したい部分のみに正確に導電層を形成することができる。一方、回路溝を形成していない部分に対する無電解めっき膜の析出を抑制することができる。従って、狭いピッチ間隔で線幅が狭いような微細な回路を複数本形成するような場合でも、隣接する回路間に不要なめっき膜が残らない。そのために、短絡の発生やマイグレーションの発生を抑制することができる。
【0114】
(第2実施形態)
前記被膜形成工程において用いる絶縁基材1が、平滑板、平滑フィルム、平滑シート、又は平滑箔で加圧することにより得られたものであってもよい。すなわち、前記被膜形成工程の前に、前記被膜形成工程で用いる絶縁基材の少なくとも樹脂被膜を形成する面を平滑化する平滑化工程を備えていてもよい。より具体的には、本実施形態に係る回路基板の製造方法は、絶縁基材を平滑板、平滑フィルム、平滑シート、又は平滑箔で加圧することにより、少なくとも一方の表面粗さが、Raで0.5μm以下となるように平滑化する平滑化工程と、前記絶縁基材の平滑化された表面に樹脂被膜を形成する被膜形成工程と、前記樹脂被膜の外表面側から前記絶縁基材にレーザ加工又は機械加工することにより所望の形状及び深さの回路溝及び孔の少なくともいずれか一方を形成して回路パターン部を形成する回路パターン形成工程と、前記回路パターン部の表面及び前記樹脂被膜の表面にめっき触媒又はその前駆体を被着させる触媒被着工程と、前記絶縁基材から前記樹脂被膜を剥離する被膜剥離工程と、前記樹脂被膜が剥離された絶縁基材に無電解めっきを施すめっき処理工程とを備えることを特徴とする。なお、前記平滑化工程以外の工程である、被膜形成工程、回路パターン形成工程、触媒被着工程、被膜剥離工程、及びめっき処理工程は、上記第1実施形態と同様である。
【0115】
前記平滑化工程は、絶縁基材を平滑板、平滑フィルム、平滑シート、又は平滑箔で加圧することにより、前記被膜形成工程で用いる絶縁基材の少なくとも樹脂被膜を形成する面を、表面粗さが、Raで0.5μm以下の平滑面にすることができれば、特に限定されない。具体的には、例えば、以下のような工程が挙げられる。まず、絶縁基材の表面に、PETフィルムを積層させる。そして、その積層体を加圧加熱成形する。その後、前記PETフィルムを剥離する。そうすることによって、表面粗さが、Raで0.5μm以下の平滑面を有する絶縁基材を得る。また、平滑板、平滑フィルム、平滑シート、又は平滑箔で加圧する前の絶縁基材は、表面粗さにかかわらず利用できる。具体的には、表面粗さが、Raで0.5μmを超えるものであれば、Raで0.5μm以下の平滑面を有する絶縁基材を得ることができる。また、表面粗さが、もともとRaで0.5μm以下のものであれば、表面粗さをより小さくすることができ、より高精度に電気回路を形成できる。
【0116】
前記平滑板、平滑フィルム、平滑シート、及び平滑箔としては、表面粗さが、Raで0.5μm以下であれば、特に限定されない。具体的には、例えば、表面粗さが、Raで0.5μm以下の、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリテトラフルオロエチレンシート、金属箔のS面、及び低粗度の金属箔M面等が挙げられる。また、PETフィルム等を、絶縁基材が硬化成形された後に剥離する場合は、剥離しやすいように、予めPETフィルムの表面に離型処理を施しておいてもよい。
【0117】
前記加圧加熱成形の条件としては、例えば、0.1〜4Pa、40〜200℃で、0.5〜180分間等が挙げられる。
【0118】
また、前記平滑化工程としては、上述したように、平滑板、平滑フィルム、平滑シート、又は平滑箔で加圧して、絶縁基材の少なくとも樹脂被膜を形成する面を、表面粗さが、Raで0.5μm以下の平滑面にすることができれば、特に限定されない。具体的には、例えば、以下のような工程が挙げられる。
【0119】
まず、基材の表面に、平滑板、平滑フィルム、平滑シート、又は平滑箔を積層させ、得られた積層体を加圧加熱成形し、絶縁基材を構成する樹脂が硬化した後、平滑板、平滑フィルム、平滑シート、又は平滑箔を剥離、又はエッチング等で除去する方法が挙げられる。
【0120】
他の方法としては、基材の表面に、平滑板、平滑フィルム、平滑シート、又は平滑箔を積層させ、得られた積層体を加圧加熱成形し、Bステージの状態になるまで硬化した後、平滑板、平滑フィルム、平滑シート、又は平滑箔を剥離し、その後、加熱してさらに硬化させる方法が挙げられる。
【0121】
また、さらに他の方法としては、基材の表面に、平滑板、平滑フィルム、平滑シート、又は平滑箔を積層させ、得られた積層体を加圧し、必要に応じて、硬化しない程度の加熱をした後、平滑板、平滑フィルム、平滑シート、又は平滑箔を剥離し、その後、加熱してさらに硬化させる方法が挙げられる。
【0122】
また、さらに他の方法としては、基材の表面に、平滑板、平滑フィルム、平滑シート、又は平滑箔を積層させ、得られた積層体を加圧加熱成形し、Bステージの状態になるまで硬化した後、加圧をやめて、加熱してさらに硬化させる方法が挙げられる。
【0123】
上記のような製造方法によれば、表面粗さが、Raで0.5μmを超える絶縁基材を用いても、上記第1実施形態と同様、絶縁基材上に高精度に電気回路を形成することができる。
【0124】
(第3実施形態)
前記第1実施形態及び前記第2実施形態では、平面の絶縁基材上に電気回路を形成して得られる回路基板について説明したが、本発明は、特に、それに限定されない。具体的には、絶縁基材として、段差状の立体面を有するような三次元形状の絶縁基材を用いても、正確な配線の電気回路を備える回路基板(立体回路基板)が得られる。
【0125】
以下、第3実施形態に係る立体回路基板の製造方法について説明する。
【0126】
図4は、第3実施形態に係る立体回路基板を製造する各工程を説明するための模式断面図である。
【0127】
はじめに、図4(A)に示すように、段差部分を有する立体絶縁基材51の表面に樹脂被膜2を形成させる。なお、この工程は、被膜形成工程に相当する。
【0128】
前記立体絶縁基材51としては、従来から知られた立体回路基板の製造に用いられうるような各種樹脂成形体が特に限定なく用いられうる。このような成形体は射出成形により得ることが、生産効率の点から好ましい。樹脂成形体を得るための樹脂材料の具体例としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、各種ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂等が挙げられる。
【0129】
前記樹脂被膜2の形成方法は、特に限定されない。具体的には、例えば、前記第1実施形態の場合と同様の形成方法等が挙げられる。
【0130】
次に、図4(B)に示すように、前記樹脂被膜2が形成された立体絶縁基材51に、前記樹脂被膜2の外表面側からレーザ加工又は機械加工することにより所望の形状及び深さの回路溝3及び貫通孔の少なくともいずれか一方を形成させる。すなわち、必要に応じて、前記回路溝3のみを形成させてもよいし、前記貫通孔4のみを形成させてもよいし、前記回路溝3と前記貫通孔4との両方を形成させてもよい。なお、前記回路溝3を形成させるためのレーザ加工又は機械加工は、前記樹脂被膜2の外表面を基準として、前記樹脂被膜2の厚み分を超えて切削する。また、前記貫通孔を形成させるためのレーザ加工又は機械加工は、前記樹脂被膜2及び前記絶縁基材1の厚み分を超えて切削する穴あけ加工である。なお、前記回路溝3と前記貫通孔とは、回路パターン部に相当し、この工程は、回路パターン形成工程に相当する。また、図4は、回路パターン部として、前記回路溝3を形成した場合について示したものである。以下、この前記回路溝3を形成した場合について説明するが、前記貫通孔を形成する場合であっても同様である。
【0131】
前記回路溝3によって、無電解めっきによってめっき層が形成される部分、すなわち、電気回路が形成される部分が規定される。
【0132】
次に、図4(C)に示すように、前記回路溝3の表面及び前記回路溝3が形成されなかった前記樹脂被膜2の表面にめっき触媒又はその前駆体5を被着させる。なお、この工程は、触媒被着工程に相当する。このような触媒被着処理により、図4(C)に示すように、回路溝3の表面、及び樹脂被膜2の表面にめっき触媒又はその前駆体5を被着させることができる。
【0133】
次に、図4(D)に示すように、前記立体絶縁基材51から前記樹脂被膜2を剥離させる。そうすることによって、前記立体絶縁基材51の前記回路溝3が形成された部分の表面にのみめっき触媒又はその前駆体5を残留させることができる。一方、前記樹脂被膜2の表面に被着されためっき触媒又はその前駆体5は、前記樹脂被膜2に担持された状態で、前記樹脂被膜2とともに除去される。なお、この工程は、被膜剥離工程に相当する。
【0134】
次に、図4(E)に示すように、前記樹脂被膜2が剥離された立体絶縁基材51に無電解めっきを施す。そうすることによって、前記めっき触媒又はその前駆体5が残存する部分にのみめっき層6が形成される。すなわち、前記回路溝3や前記貫通孔4が形成された部分に、電気回路となるめっき層6が形成される。なお、この工程は、めっき処理工程に相当する。
【0135】
上記各工程によって、図4(E)に示すような、三次元形状の立体絶縁基材51に電気回路6が形成された回路基板60が形成される。このように形成された回路基板60は、絶縁基材上に形成される電気回路の線幅及び線間隔が狭くても、電気回路を高精度に形成できる。また、本実施形態に係る回路基板は、立体回路基板の段差部を有する面にも、正確且つ容易に回路形成されている。
【実施例】
【0136】
以下、本実施形態の製造方法を実施例により、さらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲は、以下の実施例により何ら限定されて解釈されるものではない。
【0137】
(実施例1)
まず、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC株式会社製の850S)と、硬化剤としてのジシアンジアミド(日本カーバイド工業株式会社製のDICY)、硬化促進剤として、2−メチルー4−メチルイミダゾール(四国化成工業製の2E4MZ)、無機フィラーとして、シリカ(電気化学工業株式会社製のFB1SDX)、溶剤として、メチルエチルケトン(MEK)及びN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を含む樹脂組成物からなる基材の表面に、PETフィルム(東洋紡績株式会社製のTN100、Ra:0.05μm、Rz:0.8μm)を積層させた。そして、その積層体を、0.4Pa、100℃で、1分間、加圧加熱成形した。その後、175℃で90分間、加熱乾燥し、前記基材を硬化させた。その後、前記PETフィルムを剥離した。そうすることによって、絶縁基材が得られた。そして、得られた絶縁基材の、表面粗さを、走査型共焦点レーザ顕微鏡(オリンパス株式会社製のLEXT OLS3000)で測定した。その結果、Raが0.05μm、Rzが0.8μmであった。
【0138】
次に、前記絶縁基材の表面に、3μm厚のスチレン−ブタジエン共重合体(SBR)の被膜(樹脂被膜)を形成した。なお、被膜の形成は、前記絶縁基材の主面(平滑面)に、スチレン−ブタジエン共重合体(SBR)のメチルエチルケトン(MEK)サスペンジョン(日本ゼオン(株)製、酸当量600、粒子径200nm、固形分15%)を塗布し、80℃で30分間乾燥することにより行った。また、前記樹脂被膜の厚みに対する、前記絶縁基材のRaの比率が、1/60であり、前記絶縁基材のRzは、前記樹脂被膜の厚みより小さかった。
【0139】
そして、樹脂被膜が形成された絶縁基材に対して、レーザ加工により幅20μm、深さ20μm、長さ30mmの略長方形断面の回路溝の形成を行った。なお、レーザ加工には、UV−YAGレーザを備えたレーザ光照射装置(ESI社製のMODEL5330)を用いた。
【0140】
次に、回路溝が形成された絶縁基材をクリーナーコンディショナ(界面活性剤溶液、pH<1:ローム・アンド・ハース電子材料株式会社製のC/N3320)中に浸漬し、その後、水洗した。そして、過硫酸ナトリウム−硫酸系のpH<1のソフトエッチング剤でソフトエッチング処理した。そして、PD404(シプレイ・ファーイースト株式会社製、pH<1)を用いてプリディップ工程を行った。そして、塩化第一錫と塩化パラジウムを含むpH1の酸性Pd−Snコロイド溶液(CAT44、シプレイ・ファーイースト(株)製)に浸漬することにより、無電解銅めっきの核(めっき触媒)となるパラジウムをスズ−パラジウムコロイドの状態で絶縁基材に吸着させた。
【0141】
次に、pH<1のアクセラレータ薬液(ACC19E、シプレイ・ファーイースト株式会社製)に浸漬することにより、パラジウム核を発生させた。そして、絶縁基材を、pH14の5%水酸化ナトリウム水溶液中に超音波処理しながら10分間浸漬した。これにより、表面のSBR被膜は膨潤し、きれいに剥離された。このとき、絶縁基材表面にSBR被膜の断片等が残っていなかった。そして、絶縁基材を無電解めっき液(シプレイ・ファーイースト株式会社製の、CM328A,CM328L、CM328C)に浸漬させて無電解銅めっき処理を行った。
【0142】
前記無電解銅めっき処理により、前記回路溝上に厚み5μmのめっき層が形成された。さらに、無電解銅めっき処理(フィルアップめっき)を、前記回路溝を埋めるまで行った。
【0143】
なお、膨潤性樹脂被膜の膨潤度は、以下のように求めた。
【0144】
離型紙上に膨潤性樹脂被膜を形成するために塗布したSBRサスペンジョンを塗布し、80℃で30分間乾燥した。これにより3μm厚の樹脂被膜を形成した。そして、形成された被膜を強制的に剥離することにより、試料を得た。
【0145】
そして、得られた試料0.02g程度を秤量した。このときの試料重量を膨潤前重量m(b)とする。そして、秤量された試料を20±2℃の水酸化ナトリウム5%水溶液10ml中に15分間浸漬した。また、別の試料を同様にして、20±2℃の塩酸5%水溶液(pH1)10ml中に15分間浸漬した。
【0146】
そして、遠心分離器を用いて1000Gで約10分間遠心分離処理を行い、試料に付着した水分等を除去した。そして、遠心分離後の膨潤した試料の重量を測定し、膨潤後重量m(a)とした。得られた、膨潤前重量m(b)及び膨潤後重量m(a)から、「膨潤度SW=(m(a)−m(b))/m(b)×100(%)」の式から、膨潤度を算出した。なお、その他の条件は、JIS L1015 8.27(アルカリ膨潤度の測定方法)に準じて行った。
【0147】
このとき、pH14の水酸化ナトリウム5%水溶液に対する膨潤度は750%であった。一方、pH1の塩酸5%水溶液に対する膨潤度は3%であった。
【0148】
(実施例2)
厚みが7μmになるように樹脂被膜を形成したこと以外、実施例1と同様である。なお、前記樹脂被膜の厚みに対する、前記絶縁基材のRaの比率が、1/140であり、前記絶縁基材のRzは、前記樹脂被膜の厚みより小さかった。
【0149】
(実施例3)
絶縁基材として、後述する絶縁基材を用い、厚みが5μmになるように樹脂被膜を形成したこと以外、実施例1と同様である。
【0150】
実施例3で用いた絶縁基材は、以下のようにして製造されたものである。まず、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC株式会社製の850S)と、硬化剤としてのジシアンジアミド(日本カーバイド工業株式会社製のDICY)、硬化促進剤として、2−メチルー4−メチルイミダゾール(四国化成工業株式会社製の2E4MZ)、無機フィラーとして、シリカ(電気化学工業株式会社製のFB1SDX)に、溶剤として、メチルエチルケトン(MEK)及びN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を含む樹脂組成物からなる基材の表面に、銅箔(日鉱金属株式会社製のJTC 12μm箔)のM面が前記基材表面に接触させるように積層させた。そして、その積層体を、0.4Pa、100℃で、1分間、加圧加熱成形した。その後、175℃で90分間、加熱乾燥し、前記基材を硬化させた。その後、エッチングにより前記銅箔を除去した。そうすることによって、絶縁基材が得られた。そして、得られた絶縁基材の、表面粗さを、走査型共焦点レーザ顕微鏡(オリンパス株式会社製のLEXT OLS3000)で測定した。その結果、Raが0.4μm、Rzが5μmであった。
【0151】
なお、前記樹脂被膜の厚みに対する、前記絶縁基材のRaの比率が、0.4/5であり、前記絶縁基材のRzは、前記樹脂被膜の厚みは同程度であった。
【0152】
(比較例1)
絶縁基材として、後述する絶縁基材を用いること以外、実施例1と同様である。
【0153】
比較例1で用いた絶縁基材は、以下のようにして製造されたものである。硬化されたCCL(パナソニック電工株式会社製R1515T)の銅箔をエッチング除去した。そうすることによって、絶縁基材が得られた。得られたその絶縁基材の表面粗さを、走査型共焦点レーザ顕微鏡(オリンパス株式会社製のLEXT OLS3000)で測定した。その結果、Raが0.6μm、Rzが7.0μmであった。
【0154】
なお、記樹脂被膜の厚みに対する、前記絶縁基材のRaの比率が、1/5であり、前記絶縁基材のRzは、前記樹脂被膜の厚みより大きかった。
【0155】
(比較例2)
厚みが7μmになるように樹脂被膜を形成したこと以外、比較例1と同様である。なお、前記樹脂被膜の厚みに対する、前記絶縁基材のRaの比率が、0.6/7であり、前記絶縁基材のRzは、前記樹脂被膜の厚みと同程度であった。
【0156】
前記実施例1〜3及び比較例1,2を以下のように評価した。
【0157】
(電気回路の精度)
絶縁基材上に形成された電気回路(幅20μm、長さ30mm)全体の周辺を、マイクロスコープ(株式会社ハイロックス製のKH−7700)を用いて観察した。そして、以下の基準で評価した。回路形成部以外にめっき層が形成された箇所が全く確認できなければ、「○」と評価し、回路形成部以外にめっき層が形成された箇所が2箇所以下であれば、「△」と評価し、回路形成部以外にめっき層が形成された箇所が2箇所を超えた場合、「×」と評価した。
【0158】
その結果、実施例1〜3に係る回路基板は、両方とも「○」と評価された。これに対して、比較例1に係る回路基板は、「×」と評価され、比較例2に係る回路基板は、「△」と評価された。上記評価結果からわかるように、表面粗さが、Raで0.5μm以下の平滑面を有する絶縁基材を用い、その平滑面上に樹脂被膜を形成させる回路基板の製造方法(実施例1〜3)によって得られた回路基板は、電気回路を高精度に形成することができた。これに対して、表面粗さが、Raで0.5μmを超える面を有する絶縁基材を用いる回路基板の製造方法(比較例1及び比較例2)によって得られた回路基板は、電気回路を高精度に形成することが困難であった。これらのことから、実施例1〜3によれば、高精度な電気回路を有する回路基板が得られることがわかった。
【0159】
また、比較例2は、比較例1と比較して、前記絶縁基材表面に形成させる樹脂被膜を厚くしている。そうすると、回路形成部以外にめっき層が形成された箇所が少なくなった。しかしながら、前記絶縁基材表面に形成させる樹脂被膜を厚くすると、形成される回路溝及び貫通孔を高精度に形成しにくくなる傾向があって、好ましくない。よって、本発明によれば、樹脂被膜の厚みが2μmと薄くても、回路形成部以外にめっき層が形成された箇所が確認されない、高精度な電気回路を形成できるものである。
【符号の説明】
【0160】
1,21 絶縁基材
2,22 樹脂被膜
3,23 回路溝
4 貫通孔
5 めっき触媒又はその前駆体
6 めっき層(電気回路)
7 めっき層
10 回路基板
11 フィラー
51 立体絶縁基材
60 回路基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基材表面に樹脂被膜を形成する被膜形成工程と、
前記樹脂被膜の外表面側から前記絶縁基材にレーザ加工又は機械加工することにより、所望の形状及び深さの回路溝及び孔の少なくともいずれか一方を形成して回路パターン部を形成する回路パターン形成工程と、
前記回路パターン部の表面及び前記樹脂被膜の表面にめっき触媒又はその前駆体を被着させる触媒被着工程と、
前記絶縁基材から前記樹脂被膜を剥離する被膜剥離工程と、
前記樹脂被膜が剥離された絶縁基材に無電解めっきを施すめっき処理工程とを備え、
前記被膜形成工程において、前記絶縁基材として、表面粗さが、Raで0.5μm以下の平滑面を有するものを用い、前記平滑面側に、前記樹脂被膜を形成することを特徴とする回路基板の製造方法。
【請求項2】
前記平滑面の、Raで表される表面粗さが、前記樹脂被膜の厚みに対して、1/10以下である請求項1に記載の回路基板の製造方法。
【請求項3】
前記平滑面の、Rzで表される表面粗さが、前記樹脂被膜の厚み以下である請求項1又は請求項2に記載の回路基板の製造方法。
【請求項4】
前記被膜形成工程において用いる絶縁基材が、平滑板、平滑フィルム、平滑シート、又は平滑箔で加圧することにより得られたものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の回路基板の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の回路基板の製造方法により得られた回路基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−49294(P2011−49294A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195515(P2009−195515)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】