説明

回転カップ式塗布装置

【課題】 塗布液の飛散を有効に防止し得る回転カップ式塗布装置を提供する。
【解決手段】 インナーカップ3上にはトレイ7を固定し、このトレイ7の各隅部からはドレイン誘導管10が導出されている。ドレイン誘導管10は先部11が前記ドレイン回収通路3aの底部に向かうように外側に向かって斜め下方に傾斜している。そして、先部11の下端11aはインナーカップ3の底面3bよりも低くなっている。このためインナーカップ3とトレイ7を一体的に回転することで、板状被処理物Wの表面に供給された塗布液は遠心力で、庇状壁部9に形成した穴、ドレイン誘導管10内の流路およびドレイン誘導管10の先部11を通って排出される際に、インナーカップ3の内周壁に直接衝突することがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はSOG(Spin-On-Glass:珪素化合物を有機溶媒に溶解した溶液、及びこの溶液を塗布・焼成することで形成される酸化珪素膜)やレジスト液等の塗布液からなる膜をガラス基板等の板状被処理物の表面に形成する回転カップ式塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アウターカップ内にスピンナーによって回転せしめられるインナーカップを配置した回転カップ式塗布装置は、従来から知られており、この回転カップ式塗布装置では、板状被処理物(ガラス基板や半導体ウェーハ)とインナーカップ内周面との隙間が大きすぎ、乱流が生じやすくまた圧力変動も起きるため塗布液の飛散を十分に防止できない。
【0003】
そこで、本出願人は特許文献1として、インナーカップ内に板状被処理物の形状に合わせた形状のトレイを設置し、このトレイ内に板状被処理物をセットして回転せしめて塗布するとともに、トレイの四隅からドレイン誘導管を導出し、このドレイン誘導管を介してインナーカップの内底部周縁に形成した貯留部に板状被処理物から飛散した塗布液を排出する提案を行なっている。
【0004】
【特許文献1】特開平09−122561号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1にあっては、ドレイン誘導管が水平に導出されているため、ドレイン誘導管から排出される塗布液はインナーカップの内周壁に垂直に衝突し、その一部は斜め上方に跳ね上がって再びインナーカップの内方に戻されることがある。戻された塗布液は微細なパーティクルとなって板状被処理物の表面に付着し、歩留り低下の原因になる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため本発明は、アウターカップ内にスピンナーによって回転せしめられるインナーカップが設けられ、前記インナーカップ内にはインナーカップと一体的に回転するトレイが設けられ、このトレイの中央部には板状被処理物を保持する手段が配置され、トレイからはドレイン誘導管が導出された回転カップ式塗布装置において、前記ドレイン誘導管の先部をインナーカップの内底部周縁に形成した貯留部に臨ませるとともに、当該先部は外側に向かって斜め下方に傾斜した形状にした。
【0007】
このような構成にすることで、ドレイン誘導管から排出される塗布液は、インナーカップ内周壁に斜め下向きに当たることになり、インナーカップの内方に戻される塗布液が殆どなくなる。
【0008】
また、ドレイン誘導管の先部の最外部分の下端をインナーカップの底面よりも低く設定することで、ドレイン誘導管の先部から水平方向に飛び出す塗布液がなくなり、確実に貯留部に排出することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る回転カップ式塗布装置によれば、回転中の乱流および圧力変動による塗布液の飛散は勿論のこと、トレイのドレイン誘導管から排出される塗布液のほぼ全量を飛散させることなく、インナーカップの内底部周縁に形成した貯留部に回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。図1は本発明に係る回転カップ式塗布装置の待機状態の断面図、図2は同回転カップ式塗布装置のインナーカップを蓋体で閉じた状態の拡大断面図、図3はトレイの全体平面図である。
【0011】
回転カップ式塗布装置1はベース等に固定されたアウターカップ2内にインナーカップ3を配置し、このインナーカップ3をアウターカップ2を貫通するスピンナー4にて回転せしめるようにしている。
【0012】
インナーカップ3は内底部周縁に環状のドレイン回収通路3aが形成され、中央部にはガラス基板や半導体ウェーハ等の板状被処理物Wを保持する保持手段として真空チャック5を配置している。尚、保持手段はこれに限定されるものではなく、メカチャックや静電チャック等板状被処理物Wを固定できる保持手段であればどのようなものでも用いることができる。
【0013】
また、インナーカップ3上にはトレイ7を固定している。このトレイ7は外形が平面視で略四角形状をなし、中央には前記真空チャック5が臨む開口8が形成され、周縁部には内方に折れ曲がった庇状壁部9が設けられ、更にトレイ7の各隅部からはドレイン誘導管10が導出されている。
【0014】
ドレイン誘導管10の導出方向はトレイの回転方向を基準として先行する辺と平行となっている。一例を示すと、ドレイン誘導管10aの導出方向と、トレイ7の辺7aとが平行となっている。
【0015】
ドレイン誘導管10は先部11が前記ドレイン回収通路3aの底部に向かうように外側に向かって斜め下方に傾斜している。そして、先部11の下端11aはインナーカップ3の底面3bよりも低くなっている。このためインナーカップ3とトレイ7を一体的に回転することで、板状被処理物Wの表面に供給された塗布液は遠心力で、庇状壁部9に形成した穴、ドレイン誘導管10内の流路およびドレイン誘導管10の先部11を通って排出される際に、インナーカップ3の内周壁に直接衝突することがない。
【0016】
また、前記トレイ7の上面にはカバー12が着脱自在とされている。このカバー12はネジや他の係止具にてトレイ7に止着され、中央部には板状被処理物Wよりも若干大きめの開口が形成されている。このカバー12はドレイン誘導管10の回転によって発生する乱流を低減する効果がある。
【0017】
一方、インナーカップ3及びアウターカップ3の上方には直線動、回転動、上下動或いはこれらを合成した動きが可能なアーム13が臨み、このアーム13の先端には下方に伸びる軸14を取り付けている。この軸14を介してチッ素ガス等を供給する構成とすることもできる。例えば、塗布後インナーカップ内は減圧状態なっているので、いきなり蓋体を外すと外部の埃などを巻き込むおそれがある。そこで、チッ素ガス等を供給してインナーカップ内の減圧を解除するのが好ましい。
【0018】
また、前記軸14にはベアリング及び磁気シールを介してボス部15を回転自在に嵌合し、このボス部15にインナーカップ3の上面開口を閉塞するための円板状蓋体16を取り付け、この蓋体16の下面にインナーカップ3内の乱流を防止する整流板17を取り付けている。この整流板17はガラス基板Wより若干大きな寸法でガラス基板と相似形或いは円形をしている。
【0019】
また、インナーカップ用の蓋体16の上面にはアングル状をなす爪部材18が固着され、一方、インナーカップ3の外周面で前記爪部材18に対応する箇所には爪受け部材19が取り付けられ、蓋体16でインナーカップ3を閉じる際に決まった位置に固定できるようにしている。尚、本実施例では爪受け部材19の取り付け位置を調整することで、蓋体16でインナーカップ3の上面開口を閉じた状態で、インナーカップの上面開口とインナーカップ用蓋体との間に、10mm以下、好ましくは0.5〜2mmの隙間を形成するようにしている。このように若干の隙間を形成することで、圧力変動を抑制しつつ外部からのミストの流入を防ぎ、良好な膜を形成することができる。
【0020】
また、アーム13の先端には保持ブロック20を設け、この保持ブロック20には上下方向のガイドロッド21を取り付け、このガイドロッド21にアウターカップ2の上面開口を閉塞する蓋体22を上下方向にフリーの状態で支持している。このように、アウターカップ用の蓋体22を上下方向にフリーの状態とすることで、インナーカップ用の蓋体16でインナーカップ3上面を閉じた際に、アウターカップ用の蓋体22でアウターカップ2上面を隙間なく確実に閉じることができる。
【0021】
以上において、ガラス基板等の板状被処理物W表面にレジスト液等を均一に塗布するには、アウターカップ2及びインナーカップ3の上面を開放して真空チャック5上に板状被処理物Wを受け渡し、吸引固着し、次いで板状被処理物Wの表面にノズルからレジスト液等の塗布液を滴下し、この後、アウターカップ2及びインナーカップ3上にアーム13を回動させて蓋体16,22を臨ませる。
【0022】
そして、アーム13を下降することで蓋体16によりインナーカップ3の上面を閉塞し、蓋体22によりアウターカップ2の上面開口を閉塞したならば、スピンナーによってチャック5とインナーカップ3を一体的に回転せしめ、遠心力により塗布液を板状被処理物Wの表面に均一に拡散塗布する。
【0023】
板状被処理物Wの表面から飛散したレジスト液等は、遠心力でトレイ7の壁部内側に集り、壁部内側を回転方向に沿って伝い、ドレイン誘導管10から、インナーカップのドレイン回収通路3aに排出される。そして、この排出されたドレインは蓋を開けた後に、吸引パイプ23によって回収される。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明に係る回転カップ式塗布装置は、半導体チップや液晶表示装置の製造工程に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る回転カップ式塗布装置の待機状態の断面図
【図2】同回転カップ式塗布装置のインナーカップを蓋体で閉じた状態の拡大断面図
【図3】トレイの全体平面図
【符号の説明】
【0026】
1…回転カップ式塗布装置、2…アウターカップ、3…インナーカップ、3a…ドレイン回収通路、3b…インナーカップの底面、4…スピンナー、5…真空チャック、7…トレイ、7a…トレイの辺、8…開口、9…庇状壁部、10,10a…ドレイン誘導管、11…ドレイン誘導管の先部、11a…ドレイン誘導管の先部の下端、12…カバー、13…アーム、14…軸、15…ボス部、16…インナーカップ用の蓋体、17…整流板、18…爪部材、19…爪受け部材、20…保持ブロック、21…ガイドロッド、22…アウターカップ用の蓋体、23…吸引パイプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウターカップ内にスピンナーによって回転せしめられるインナーカップが設けられ、このインナーカップ内にはインナーカップと一体的に回転するトレイが設けられ、このトレイの中央部には板状被処理物を保持する手段が配置され、トレイからはドレイン誘導管が導出され、このドレイン誘導管のインナーカップの内底部周縁に形成した貯留部に臨む先部は、外側に向かって斜め下方に傾斜していることを特徴とする回転カップ式塗布装置。
【請求項2】
請求項1に記載の回転カップ式塗布装置において、前記ドレイン誘導管の先部の最外部分の下端はインナーカップの底面よりも低く設定されていることを特徴とする回転カップ式塗布装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−13243(P2006−13243A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−190202(P2004−190202)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【出願人】(000220239)東京応化工業株式会社 (1,407)
【出願人】(000108753)タツモ株式会社 (73)
【Fターム(参考)】