説明

回転式流体機械

【課題】回転式流体機械において、駆動軸とスラスト軸受との間の摺動部を確実に潤滑する。
【解決手段】ケーシング内を上下方向に延びるように形成され駆動機構によって回転される駆動軸と、駆動軸により駆動されて流体を圧縮又は膨張する流体機構と、駆動軸に形成される被支持面19cを下側から支持するスラスト軸受21と、前記スラスト軸受21の下側に形成され前記ケーシングの底壁部の油溜まりからの潤滑油を吐出する吐出流路67bを介してケーシングの底壁部に形成される油溜まりの潤滑油を上方へ汲み上げる容積ポンプ60と、を備える回転式流体機械のスラスト軸受21に、流入端が吐出流路67bに向かって開口し、流出端が駆動軸の被支持面19cに向かって開口する給油穴21bを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容積ポンプによって潤滑油が摺動部へ供給される回転式流体機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、冷媒を圧縮又は膨張する回転式流体機械が知られている。このような回転式流体機械として、特許文献1には、ケーシング内に配置され冷媒を圧縮する圧縮機構部(流体機構)と、ケーシング内を上下方向に延びて前記圧縮機構部を駆動する回転軸(駆動軸)と、前記流体機構や駆動軸の各摺動部に潤滑油を供給するための給油ポンプ(容積ポンプ)とを備えた冷媒圧縮機(回転式流体機械)が開示されている。この回転式流体機械では、駆動軸のスラスト荷重は、転がり軸受によって支持されている。
【0003】
また、特許文献2にも、回転式流体機械としての圧縮機が開示されている。この回転式流体機械は、各摺動部に潤滑油を供給するための第1油ポンプと、圧縮機の油溜の油面が所定の油面高さまで上昇したときに潤滑油をケーシング外部に排出する第2油ポンプとを備えている。特許文献2では、駆動軸のスラスト荷重は、第2油ポンプの上側に配置される閉鎖カバー(スラスト軸受)の上面によって支持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−138885号公報
【特許文献2】特開平8−219062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に開示される回転式流体機械の駆動軸のスラスト荷重を支持するために、該特許文献1に開示される転がり軸受の代わりに、特許文献2に開示されるスラスト軸受を用いることが考えられる。しかし、スラスト軸受の上面(摺動面)は、ケーシングの底部に溜められる潤滑油の油面が該スラスト軸受よりも上方に位置する場合には該潤滑油によって潤滑されるものの、スラスト軸受の摺動面よりも油面が低くなると、スラスト軸受を潤滑できず、スラスト軸受の摩耗が発生する虞がある。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、駆動軸とスラスト軸受との間の摺動部を確実に潤滑することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、回転式流体機械を対象とし、ケーシング(10)内を上下方向に延びるように形成され、駆動機構(16)によって回転される駆動軸(17)と、該駆動軸(17)により駆動されて流体を圧縮又は膨張する流体機構(15)と、前記駆動軸(17)に形成される被支持面(19c)を下側から支持するスラスト軸受(21)と、該スラスト軸受(21)の下側に形成され前記ケーシング(10)の底壁部(13)の油溜まり(14)からの潤滑油を吐出する吐出流路(67b)を有し、該吐出流路(67b)を介して前記潤滑油を上方へ汲み上げる容積ポンプ(60)と、を備え、前記駆動軸(17)には、前記吐出流路(67b)からの潤滑油を所定の摺動部に供給するための給油路(20)が形成され、前記スラスト軸受(21)には、流入端が前記吐出流路(67b)に向かって開口するとともに流出端が前記駆動軸(17)の被支持面(19c)に向かって開口し、前記吐出流路(67b)からの潤滑油を前記被支持面(19c)に供給するための給油穴(21b)が形成されていることを特徴とする。
【0008】
第1の発明では、駆動機構(16)によって回転される駆動軸(17)によって流体機構(15)が駆動され、その結果流体が圧縮又は膨張される。駆動軸(17)は、被支持面(19c)がスラスト軸受(21)に支持された状態で回転する。また、ケーシング(10)の底壁部(13)に形成される油溜まり(14)の潤滑油は、容積ポンプ(60)によって、該容積ポンプ(60)の吐出流路(67b)を介して給油路(20)へ供給される。この潤滑油は、該給油路(20)を通じて回転式流体機械における所定の摺動部(例えば、駆動軸(17)のラジアル荷重を支持する軸受の摺動部や、流体機構(15)の摺動部等)へ搬送され、各摺動部を潤滑する。
【0009】
そして、第1の発明では、スラスト軸受(21)に給油穴(21b)が形成されている。この給油穴(21b)は、具体的には、流入端が容積ポンプ(60)の吐出流路(67b)へ向かって開口し、流出端が駆動軸(17)の被支持面(19c)に向かって開口している。これにより、容積ポンプ(60)の吐出流路(67b)を流れる潤滑油は、給油路(20)へ供給されるだけでなく、給油穴(21b)を通じてスラスト軸受(21)と駆動軸(17)の被支持面(19c)との間の摺動部へも供給される。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、前記容積ポンプ(60)は、前記吐出流路(67b)からの潤滑油を前記給油路(20)へ吐出する吐出口(62d)が形成されるポンプ軸(62)と、該ポンプ軸(62)によって回転駆動される回転部材(65)と、該回転部材(65)の外側を囲むように配置され該回転部材(65)との間で前記吐出流路(67b)を形成する外側部材(66)とを備え、前記回転部材(65)の回転により潤滑油を前記給油路(20)へ供給する回転式の容積ポンプ(60)で構成され、前記駆動軸(17)は、下方に向かって開口する開口部(20c)が下端に形成される駆動軸本体(18)と、該駆動軸本体(18)と前記ポンプ軸(62)とを連結する連結部(19)とを備え、該連結部(19)は、筒状に形成され、外周面が前記駆動軸本体(18)の開口部(20c)に挿通固定されるとともに、内周面には前記ポンプ軸(62)が挿通固定されて該ポンプ軸(62)の吐出口(62d)が前記給油路(20)に連通する筒部(19a)と、該筒部(19a)の下端から径方向外方へ拡がるように形成され、下面(19c)が前記駆動軸(17)の被支持面を構成する鍔部(19b)と、を備えることを特徴とする。
【0011】
第2の発明では、容積ポンプ(60)が、回転式の容積ポンプ(60)で構成されている。この回転式の容積ポンプ(60)のポンプ軸(62)は、駆動軸本体(18)の開口部(20c)に挿通固定される連結部(19)に固定されている。これにより、ポンプ軸(62)は、駆動機構(16)によって回転駆動される駆動軸(17)とともに回転する。その結果、回転部材(65)が回転され、潤滑油が該回転部材(65)と外側部材(66)との間に形成される吐出流路(67b)を流れた後、ポンプ軸(62)の吐出口(62d)から給油路(20)へ吐出される。給油路(20)へ吐出された潤滑油は、所定の摺動部を潤滑する。
【0012】
第2の発明では、スラスト軸受(21)は、連結部(19)における筒部(19a)の下端に形成された鍔部(19b)の下面(19c)と摺接する。鍔部(19b)は、筒部(19a)の下端から径方向外方へ拡がるように形成されているため、その下面(19c)の面積を比較的広くできる。こうすると、スラスト軸受(21)と、駆動軸(17)の被支持面を構成する前記鍔部(19b)の下面(19c)との摺動面積が拡大される。
【0013】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記駆動軸(17)の被支持面(19c)を支持する前記スラスト軸受(21)の摺動面には、溝部(21c,21d)が形成されていることを特徴とする。
【0014】
第3の発明では、駆動軸(17)の被支持面(19c)とスラスト軸受(21)との間を流れる潤滑油は、スラスト軸受(21)の摺接面に形成された溝部(21c,21d)にも流入する。その結果、駆動軸(17)の被支持面(19c)とスラスト軸受(21)との間に介在する潤滑油の量が増加する。
【0015】
第4の発明は、第3の発明において、前記溝部(21c)は、前記給油穴(21b)の流出端に連通し且つ前記駆動軸(17)の軸心線を囲む環状に形成されていることを特徴とする。
【0016】
第4の発明では、給油路(20)からの潤滑油は、溝部(21c)へ流入する。この溝部(21c)は、駆動軸(17)の軸心線を囲む環状に形成されているため、該溝部(21c)内の潤滑油は、駆動軸(17)の被支持面(19c)を周方向に均一に潤滑する。
【発明の効果】
【0017】
上記第1の発明によれば、スラスト軸受(21)に、駆動軸(17)の被支持面(19c)とスラスト軸受(21)との間の摺動部に潤滑油を供給するための給油穴(21b)を形成したため、油溜まり(14)に溜められる潤滑油の油面がスラスト軸受(21)より低くなった場合であっても、該摺動部を確実に潤滑できる。しかも、この給油穴(21b)は、スラスト軸受(21)を上下方向に貫通する貫通穴を形成することで、スラスト軸受(21)に容易に形成することができる。
【0018】
また、上記第2の発明によれば、駆動軸(17)の被支持面(19c)の面積を拡大できるため、該駆動軸(17)の被支持面(19c)とスラスト軸受(21)との摺動面積を確保できる。
【0019】
また、上記第3の発明によれば、駆動軸(17)の被支持面(19c)とスラスト軸受(21)との間の溝部(21c,21d)にも潤滑油を供給できるため、何らかの理由により潤滑油が搬送されない場合であっても、溝部(21c,21d)内の潤滑油を利用して駆動軸(17)の被支持面(19c)とスラスト軸受(21)との間の潤滑を維持できる。
【0020】
また、上記第4の発明によれば、駆動軸(17)の被支持面(19c)を周方向に均一に潤滑できるため、スラスト軸受の局所的な摩耗を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係るスクロール型圧縮機の全体構成を示す縦断面図である。
【図2】図2は、スクロール型圧縮機におけるトロコイドポンプ付近の部分を拡大して示す図である。
【図3】図3は、ローターアッシーの構造を示す平面図である。
【図4】図4(A),(B)及び(C)は、ロータ側流路の動作を説明する図である。
【図5】図5は、スラストプレートの形状を示す斜視図である。
【図6】図6は、スラストプレートとローターアッシーとの位置関係を示す図である。
【図7】図7は、その他の実施形態におけるスラストプレートの形状を示す斜視図である。
【図8】図8は、その他の実施形態におけるスラストプレートの形状を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0023】
−全体構成−
本発明の実施形態に係るスクロール型圧縮機(1)は、流体としての冷媒を圧縮又は膨張する回転式流体機械を構成している。スクロール型圧縮機(1)は、冷媒が循環して冷凍サイクル運転動作を行う図示しない冷媒回路に接続され、冷媒を圧縮するものである。
【0024】
スクロール型圧縮機(1)は、図1に示すように、縦長円筒状の密閉ドーム型のケーシング(10)と、該ケーシング(10)内の下方に設けられた駆動機構としての電動機(16)と、該電動機(16)から上下方向に延びる駆動軸(17)と、該駆動軸(17)によって駆動されて冷媒を圧縮する流体機構としての圧縮機構(15)と、スクロール型圧縮機(1)における各摺動部へ潤滑油を供給するためのトロコイドポンプ(60)とを備えている。
【0025】
ケーシング(10)は、上下方向に延びる円筒状の胴部であるケーシング本体(11)と、その上端部に溶接されて一体接合され、上方に突出した椀状の上壁部(12)と、ケーシング本体(11)の下端部に溶接されて一体接合され、下方に突出した椀状の底壁部(13)とで圧力容器に構成されており、その内部は空洞とされている。
【0026】
ケーシング(10)の上壁部(12)には、冷媒回路の冷媒を圧縮機構(15)に導く吸入管(2)が挿通固定されている。ケーシング本体(11)の上部には、圧縮された冷媒をケーシング(10)外へ吐出する吐出管(3)が気密状に挿通固定されている。また、ケーシング(10)の底壁部(13)には、潤滑油が貯留される油溜まり(14)が形成されている。
【0027】
電動機(16)は、いわゆるDCブラシレスモータにより構成されている。この電動機(16)は、ケーシング(10)内壁面に固定された環状のステータ(51)と、このステータ(51)の内側にエアギャップ隙間(図示省略)を介して挿通されステータ(51)に対して回転可能に構成された略円柱状のロータ(52)とを備えている。ロータ(52)には、該ロータ(52)を上下方向に貫通する貫通穴(52a)が、該ロータ(52)の中心軸と同軸となるように形成されている。
【0028】
駆動軸(17)は、駆動軸本体(18)と、該駆動軸本体(18)の下端部に取り付けられる連結部(19)とを備えている。
【0029】
駆動軸本体(18)は、上下方向に延びる細長い棒状に形成された主軸部(18a)と、該主軸部(18a)の上端に立設された円柱状の偏心ピン(18b)とを備えている。駆動軸本体(18)は、下端がケーシング(10)内における底壁部(13)寄りに配置されている。偏心ピン(18b)は、主軸部(18a)の軸心から所定距離だけ偏心している。駆動軸本体(18)は、電動機(16)のロータ(52)の貫通穴(52a)に挿通固定されている。偏心ピン(18b)の外周面には、該偏心ピン(18b)の上端から下端まで上下方向に延びる偏心ピン給油路(18c)が形成されている。
【0030】
駆動軸本体(18)には、給油路(20)が形成されている。給油路(20)は、駆動軸本体(18)を上下に貫通する主給油路(20a)と、該主給油路(20a)から分岐する複数の分岐給油路(20b)とを有する。分岐給油路(20b)は、主軸部(18a)のうち上部ハウジング(23)の軸受穴(33)に対応する部分と、主軸部(18a)のうち下部ハウジング(25)の軸受穴(25c)に対応する部分とに形成されている。各分岐給油路(20b)は、主給油路(20a)から水平方向に延びて径方向外方へ向けて開口している。
【0031】
連結部(19)は、図2に示すように、駆動軸本体(18)の下端に形成された開口部(20c)に挿通固定されるとともに、該連結部(19)には、詳しくは後述するトロコイドポンプ(60)のポンプシャフト(62)が、オイルポンプパッキン(64)を介して挿通固定されている。つまり、連結部(19)は、駆動軸本体(18)とトロコイドポンプ(60)のポンプシャフト(62)とを連結させるためのものである。
【0032】
連結部(19)は、円筒状の筒部(19a)と、該筒部(19a)の下端部から径方向外方へ延びる円環のプレート状の鍔部(19b)とを備え、これら(19a,19b)が一体となるように形成されている。筒部(19a)は、その外径が駆動軸本体(18)の開口部(20c)の内径よりもやや大きくなるように形成されている。連結部(19)は、筒部(19a)が駆動軸本体(18)の開口部(20c)に圧入されることにより、駆動軸本体(18)に対して固定される。鍔部(19b)は、外径が駆動軸本体(18)の下端面の外径と概ね同等である。鍔部(19b)の上面は、駆動軸本体(18)の下端面と当接している。鍔部(19b)の下面(19c)は、平坦になるように形成されている。
【0033】
駆動軸(17)の下面、すなわち連結部(19)の鍔部(19b)の下面(19c)は、スラスト軸受としてのスラストプレート(21)によって回転自在に支持される被支持面を構成している。なお、このスラストプレート(21)の構成については、詳しくは後述する。
【0034】
圧縮機構(15)は、固定スクロール(24)と、固定スクロール(24)に組み合わされる可動スクロール(26)と、可動スクロール(26)を支持する上部ハウジング(23)とを備えている。
【0035】
上部ハウジング(23)は、電動機(16)の上方に設けられている。上部ハウジング(23)は、その外周面において周方向の全体に亘ってケーシング本体(11)に圧入固定されている。つまり、ケーシング本体(11)と上部ハウジング(23)とは全周に亘って密着されている。そして、ケーシング(10)内が上部ハウジング(23)によって、上部ハウジング(23)下方の高圧空間(28)と上部ハウジング(23)上方の低圧空間(29)とに区画されている。
【0036】
上部ハウジング(23)には、上面中央に凹設されたハウジング凹部(31)と、下面中央から下方に突設され、軸受穴(33)が形成された筒部(32)とが形成されている。この軸受穴(33)には、駆動軸(17)が回転自在に挿通されている。また、上部ハウジング(23)には、ハウジング凹部(31)の下部から水平方向に延びる排油路(図示省略)が形成されている。また、上部ハウジング(23)には、環状の溝部が形成され、該溝部にはシールリング(39)が嵌め込まれている。シールリング(39)は、可動スクロール(26)の鏡板(26a)の背面に密着している。
【0037】
なお、スクロール型圧縮機(1)は、下部ハウジング(25)を更に備えている。下部ハウジング(25)は、筒部(25a)と、該筒部(25a)をケーシング本体(11)の内周面に固定するための固定部(25b)とを含んでいる。筒部(25a)は、軸受穴(25c)が形成される上側筒部(25d)と、該上側筒部(25d)の下端から下方へ筒状に延びる下側筒部(25e)とを備えている。下部ハウジング(25)の軸受穴(25c)には、駆動軸(17)が回転自在に挿通されている。
【0038】
固定スクロール(24)は、鏡板(24a)と該鏡板(24a)の下面に形成された渦巻き状(インボリュート状)のラップ(24b)とから構成されている。この固定スクロール(24)は、その下端面が上部ハウジング(23)の上端面に密着した状態で固定されている。
【0039】
可動スクロール(26)は、鏡板(26a)と該鏡板(26a)の上面に形成された渦巻き状(インボリュート状)のラップ(26b)と、ボス部(26c)と、偏心軸受メタル(26d)とを備えている。鏡板(26a)は、略円板状に形成され、上記上部ハウジング(23)の上方に位置している。ラップ(26b)は、固定スクロール(24)のラップ(24b)に噛合するように構成されている。ボス部(26c)は、円筒状に形成され、鏡板(26a)の下面から突出するように該鏡板(26a)に一体形成されている。ボス部(26c)の内周面には、駆動軸(17)の偏心ピン(18b)が偏心軸受メタル(26d)を介して挿通されている。可動スクロール(26)は、オルダム継手(図示省略)及びシールリング(39)を介して上部ハウジング(23)に支持されるとともに駆動軸(17)の上端が嵌入され、この駆動軸(17)の回転により自転することなく上部ハウジング(23)内を公転するようになっている。
【0040】
そして、固定スクロール(24)のラップ(24b)と可動スクロール(26)のラップ(26b)とが互いに噛合しており、これにより固定スクロール(24)と可動スクロール(26)との間において、両ラップ(24b,26b)の接触部の間が圧縮室(40)として構成されている。この圧縮室(40)は、可動スクロール(26)の公転に伴い、両ラップ(24b,26b)間の容積が中心に向かって縮小することで冷媒を圧縮するように構成されている。
【0041】
固定スクロール(24)の鏡板(24a)には、圧縮室(40)に連通する吐出通路(41)と、吐出通路(41)に連続する拡大凹部(42)とが形成されている。吐出通路(41)は、固定スクロール(24)の鏡板(24a)における中央において上下方向に延びるように形成されている。拡大凹部(42)は、鏡板(24a)の上面に凹設された水平方向に広がる凹部により構成されている。
【0042】
固定スクロール(24)の上面には、この拡大凹部(42)を塞ぐように蓋体(44)が固定されている。そして、拡大凹部(42)に蓋体(44)が覆い被せられることで圧縮機構(15)の運転音を消音させる膨張室からなるマフラー空間(45)が形成されている。固定スクロール(24)と蓋体(44)とは、ガスケット(図示省略)を介して密着させることでシールされている。
【0043】
固定スクロール(24)及び上部ハウジング(23)には、固定スクロール(24)と上部ハウジング(23)とに亘って形成された連絡通路(46)が設けられている。この連絡通路(46)は、固定スクロール(24)に形成されたスクロール側通路(47)と、上部ハウジング(23)に形成されたハウジング側通路(48)とが連通されて構成されている。
【0044】
そして、連絡通路(46)の上端、すなわちスクロール側通路(47)の上端は拡大凹部(42)に開口し、連絡通路(46)の下端、すなわちハウジング側通路(48)の下端は上部ハウジング(23)の下端面に開口している。ハウジング側通路(48)の下端から流出するガス冷媒は、案内板(49)を通じて高圧空間(28)へ流入する。
【0045】
トロコイドポンプ(60)は、ケーシング(10)内における底壁部(13)寄りに配置されている。トロコイドポンプ(60)は、油溜まり(14)に貯留される潤滑油を給油路(20)へ供給するための容積ポンプを構成している。トロコイドポンプ(60)は、図2に示すように、ポンプボディ(61)と、ポンプ軸としてのポンプシャフト(62)と、ローターアッシー(63)とを備えている。
【0046】
ポンプボディ(61)は、上方へ向かって開口する凹部(70a)が形成される略有底筒状の本体部(70)と、該本体部(70)の外周壁のうち上側の部分から径方向外方へ延びる環状鍔部(71)とを備えている。凹部(70a)は、駆動軸(17)の中心軸から偏心した円柱穴状に形成されている。ポンプボディ(61)は、環状鍔部(71)の外周縁部が下部ハウジング(25)の下側筒部(25e)の下端部に固定されることにより、ケーシング(10)に対して固定されている。また、本体部(70)の底部(70b)の中央部分には、貫通穴(70c)が形成されている。
【0047】
ポンプボディ(61)は、底部(70b)の貫通穴(70c)の外周縁部から下方へ延びる筒状のポンプ軸受部(72)と、底部(70b)における外周縁付近の部分から下方へ延びる略筒状の吸入管部(73)とを更に備えている。ポンプ軸受部(72)には、ポンプシャフト(62)が回転自在に挿通される。吸入管部(73)の内周面は、油溜まり(14)の潤滑油をポンプボディ(61)の凹部の内部へ導くための案内流路(73a)を形成している。吸入管部(73)の案内流路(73a)の断面は、下端(流入端)から上端(流出端)へ向かって徐々に狭くなるように形成されている。
【0048】
ポンプボディ(61)には、吸入口(61a)と吐出口(61b)とが形成されている。吸入口(61a)は、吸入管部(73)の案内流路(73a)を流れる潤滑油をポンプボディ(61)の凹部(70a)へ導くためのものである。吐出口(61b)は、ローターアッシー(63)内を搬送された潤滑油を、後述するシャフト側流路(62a)へ導くためのものである。
【0049】
ポンプシャフト(62)は、トロコイドポンプ(60)のインナーロータ(65)を回転させるためのものである。ポンプシャフト(62)は略棒状に形成されていて、上下方向に延びるように配置されている。ポンプシャフト(62)は、上端部が駆動軸(17)の連結部(19)に挿通され、下端部がケーシング(10)の底壁部(13)付近に位置している。ポンプシャフト(62)における上側の部分は、軸直角断面がD字状となるように形成されている。
【0050】
ポンプシャフト(62)の内部には、潤滑油の流路としてのシャフト側流路(62a)が形成されている。シャフト側流路(62a)は、ポンプシャフト(62)の上下方向における中央部付近に形成され、該ポンプシャフト(62)を径方向に貫通する第1流路(62b)と、ポンプシャフト(62)の軸心と同軸となるように前記第1流路(62b)から上方へ延びてポンプシャフト(62)外へ開口する第2流路(62c)とを備えている。第2流路(62c)の吐出口(62d)は、駆動軸(17)の主給油路(20a)へ向かって開口している。
【0051】
ローターアッシー(63)は、図2及び図3に示すように、回転部材としてのインナーロータ(65)と、外側部材としてのアウターロータ(66)とを備えている。
【0052】
インナーロータ(65)は、ポンプボディ(61)の凹部(70a)に収容されている。インナーロータ(65)は、略円板状に形成され、その外周面に複数の歯部(65a)が互いに等間隔となるように形成されている。本実施形態の場合、インナーロータ(65)の歯部(65a)の歯数は19本である。インナーロータ(65)には、D字状の貫通穴(65b)が形成されている。この貫通穴(65b)には、D字状に形成されたポンプシャフト(62)の上側の部分が挿通されている。
【0053】
アウターロータ(66)は、インナーロータ(65)を内部に収容可能な略円筒状に形成されている。アウターロータ(66)は、インナーロータ(65)を内部に収容した状態で、ポンプボディ(61)の凹部(70a)内を回転自在に収容されている。アウターロータ(66)の高さは、インナーロータ(65)の高さと概ね同じである。アウターロータ(66)の内周面には、複数の歯部(66a)が互いに等間隔となるように形成されている。本実施形態の場合、アウターロータ(66)の歯部(66a)は20本である。
【0054】
上述のような構成のローターアッシー(63)において、インナーロータ(65)が回転すると、これに伴ってアウターロータ(66)も回転する。このように2つのロータ(65,66)が回転することで、インナーロータ(65)の外周面とアウターロータ(66)の内周面との間に形成されるロータ側流路(67)が、案内流路(73a)から潤滑油を吸引し、該潤滑油を吐出口(61b)側へ吐出する。
【0055】
ロータ側流路(67)における潤滑油の流れを、ロータ側流路(67)の一部(図4における空間A)に注目して説明する。空間Aは、図4(A)の状態では、容積は非常に小さい。この状態からインナーロータ(65)が図4における反時計回り方向へ回転すると、空間Aは、その容積を徐々に増大させながら、インナーロータ(65)と同じ回転方向(図4における反時計回り方向)へ移動し、図4(B)の位置に到達する。この間、空間Aには、油溜まり(14)の潤滑油が案内流路(73a)及び吸入口(61a)を通じて吸入される。すなわち、ロータ側流路(67)のうち図3の右側の部分(67a)は、油溜まり(14)から潤滑油を吸入する吸入流路(67a)を構成する。
【0056】
インナーロータ(65)が更に回転すると、空間Aは、図4(B)の状態から、その容積を徐々に減少させながら反時計回りへ移動し、図4(C)の位置に到達する。この間、空間Aからは、該空間A内の潤滑油が吐出される。すなわち、ロータ側流路(67)のうちの図3における左側の部分(67b)は、潤滑油を吐出する吐出流路(67b)を構成する。
【0057】
−スラストプレートの構成−
スラストプレート(21)は、駆動軸(17)の下面(すなわち、連結部(19)の鍔部(19b)の下面(19c))を回転自在に支持するスラスト軸受を構成している。スラストプレート(21)は、図5及び図6に示すように、中央部に貫通穴(21a)を有する円環のプレート状に形成されている。この貫通穴(21a)には、ポンプシャフト(62)が挿通される。スラストプレート(21)の上面及び下面は平坦に形成されている。スラストプレート(21)は、ローターアッシー(63)を上方から覆った状態で、ポンプボディ(61)に固定されている。
【0058】
そして、スラストプレート(21)には、該スラストプレート(21)を上下方向に貫通する給油穴(21b)が形成されている。この給油穴(21b)は、平面視で吐出流路(67b)と重なるような位置に形成されている。具体的には、給油穴(21b)は、流入端が吐出流路(67b)に向かって開口し、流出端が駆動軸(17)の下面(すなわち、連結部(19)の鍔部(19b)の下面(19c))に向かって開口している。
【0059】
−運転動作−
次に、本実施形態に係るスクロール型圧縮機(1)の運転動作について説明する。
【0060】
−基本動作−
電動機(16)を駆動すると、ステータ(51)に対してロータ(52)が回転し、それによって駆動軸(17)が回転する。駆動軸(17)が回転すると、可動スクロール(26)が固定スクロール(24)に対して自転せずに公転のみ行う。これにより、低圧の冷媒が吸入管(2)を通して圧縮室(40)の周縁側から該圧縮室(40)に吸引され、この冷媒は圧縮室(40)の容積変化に伴って圧縮される。
【0061】
そして、この圧縮されたガス冷媒は、高圧となって圧縮室(40)の半径方向内周側から吐出通路(41)を通してマフラー空間(45)へと吐出される。このガス冷媒はマフラー空間(45)から連絡通路(46)へ流入し、スクロール側通路(47)、ハウジング側通路(48)及び案内板(49)を流通して高圧空間(28)へ流れ込む。高圧空間(28)へ流れ込んだガス冷媒は、吐出管(3)からケーシング(10)外に吐出される。
【0062】
−トロコイドポンプの運転動作及び潤滑油の流れ−
電動機(16)を駆動して駆動軸(17)が回転すると、トロコイドポンプ(60)のポンプシャフト(62)が回転するため、インナーロータ(65)及びアウターロータ(66)が回転する。すると、油溜まり(14)の潤滑油が、吸入管部(73)の案内流路(73a)及び吸入口(61a)を通じてロータ側流路(67)に吸引される。この潤滑油は、ロータ側流路(67)を流れ、該ロータ側流路(67)の吐出流路(67b)から吐出口(61b)へ吐出される。潤滑油は、吐出口(61b)からシャフト側流路(62a)の第1流路(62b)及び第2流路(62c)を流れた後、駆動軸(17)の主給油路(20a)へ向かって吐出される。この潤滑油は、主給油路(20a)を上昇し、複数の分岐給油路(20b)や偏心ピン給油路(18c)を通じて各摺動部へ供給される。これにより、スクロール型圧縮機(1)の各摺動部を潤滑できる。
【0063】
一方、ロータ側流路(67)の吐出流路(67b)を流れる潤滑油は、吐出口(61b)だけでなく、スラストプレート(21)に形成された給油穴(21b)へも吐出される。この給油穴(21b)を流れた潤滑油は、駆動軸(17)の下面(すなわち、連結部(19)の鍔部(19b)の下面(19c))とスラストプレート(21)の上面との間へ供給される。これにより、駆動軸(17)の下面とスラストプレート(21)の上面との間の摺動部が潤滑される。
【0064】
−実施形態の効果−
以上のように、本実施形態に係るスクロール型圧縮機(1)では、駆動軸(17)の下面を支持するスラストプレート(21)に、流入端がローターアッシー(63)の吐出流路(67b)と繋がり流出端が駆動軸(17)の下面に向かって開口する給油穴(21b)を形成している。これにより、吐出流路(67b)から吐出される潤滑油が、該給油穴(21b)を通じてスラストプレート(21)の摺動部へ供給されるため、油溜まり(14)に溜められた潤滑油の油面がスラストプレート(21)より低い場合であっても、スラストプレート(21)の摺動面を確実に潤滑できる。しかも、前記給油穴(21b)は、スラストプレート(21)を上下方向に貫通する貫通穴を形成することにより、容易に形成できる。
【0065】
−その他の実施形態−
前記実施形態については、以下のような構成にしてもよい。
【0066】
前記実施形態では、スラストプレート(21)の上面を平坦状に形成したが、この限りでなく、例えば図7に示すように、スラストプレート(21)の上面に、給油穴(21b)に連通し且つ駆動軸(17)の軸心線を囲む環状の溝部(21c)を形成してもよい。これにより、給油穴(21b)を流れた潤滑油が該溝部(21c)に溜まるため、例えば何らかの理由により潤滑油が供給されない場合であっても、溝部(21c)に溜められた潤滑油によって、スラストプレート(21)と駆動軸(17)との摺動部を潤滑できる。しかも、上述のように溝部(21c)は駆動軸(17)の軸心線を囲む環状に形成されているため、駆動軸(17)の下面を周方向において均一に潤滑でき、スラストプレート(21)の局所的な摩耗を抑制できる。
【0067】
また、溝部(21c)は、上述のような環状に限らない。例えば図8に示すように、溝部(21d)を、例えばスラストプレート(21)の貫通穴(21a)から径方向外方へ直線状に延びるように形成してもよい。図8では、溝部(21d)は4本形成され、周方向において互いに等間隔となるように配置されている。これらの溝部(21d)は、スラストプレート(21)の内周縁から外周縁に亘って延びるように形成されている。このように、溝部(21d)を周方向に等間隔に配列することによって、スラストプレート(21)の局所的な摩耗を抑制できる。
【0068】
また、前記実施形態では、容積ポンプとしてトロコイドポンプ(60)を用いているが、この限りでなく、ヨークポンプ、歯車ポンプ、ベーンポンプ等の回転式のポンプや、レシプロ式のポンプを用いることもできる。
【0069】
また、前記実施形態では、駆動軸(17)とポンプシャフト(62)とが別体に形成され、連結部(19)によって連結固定されているが、この限りでなく、ポンプシャフト(62)は駆動軸(17)と一体に形成されていてもよい。
【0070】
また、前記実施形態では、スクロール型圧縮機(1)を対象としたが、この限りでなく、ロータリー式の圧縮機等の回転式圧縮機や、回転式の膨張機を対象としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上説明したように、本発明は、回転式圧縮機に特に有用である。
【符号の説明】
【0072】
10 ケーシング
13 底壁部
14 油溜まり
15 圧縮機構(流体機構)
16 電動機(駆動機構)
17 駆動軸
18 駆動軸本体
19 連結部
19a 筒部
19b 鍔部
19c 下面(被支持面)
20 給油路
21 スラストプレート(スラスト軸受)
21b 給油穴
21c,21d 溝部
60 トロコイドポンプ(容積ポンプ)
62 ポンプシャフト(ポンプ軸)
62d 吐出口
65 インナーロータ(回転部材)
66 アウターロータ(外側部材)
67b 吐出流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング(10)内を上下方向に延びるように形成され、駆動機構(16)によって回転される駆動軸(17)と、
前記駆動軸(17)により駆動されて流体を圧縮又は膨張する流体機構(15)と、
前記駆動軸(17)に形成される被支持面(19c)を下側から支持するスラスト軸受(21)と、
前記スラスト軸受(21)の下側に形成され前記ケーシング(10)の底壁部(13)の油溜まり(14)からの潤滑油を吐出する吐出流路(67b)を有し、該吐出流路(67b)を介して前記潤滑油を上方へ汲み上げる容積ポンプ(60)と、を備え、
前記駆動軸(17)には、前記吐出流路(67b)からの潤滑油を所定の摺動部に供給するための給油路(20)が形成され、
前記スラスト軸受(21)には、流入端が前記吐出流路(67b)に向かって開口するとともに流出端が前記駆動軸(17)の被支持面(19c)に向かって開口し、前記吐出流路(67b)からの潤滑油を前記被支持面(19c)に供給するための給油穴(21b)が形成されていることを特徴とする回転式流体機械。
【請求項2】
請求項1において、
前記容積ポンプ(60)は、前記吐出流路(67b)からの潤滑油を前記給油路(20)へ吐出する吐出口(62d)が形成されるポンプ軸(62)と、該ポンプ軸(62)によって回転駆動される回転部材(65)と、該回転部材(65)の外側を囲むように配置され該回転部材(65)との間で前記吐出流路(67b)を形成する外側部材(66)とを備え、前記回転部材(65)の回転により潤滑油を前記給油路(20)へ供給する回転式の容積ポンプ(60)で構成され、
前記駆動軸(17)は、下方に向かって開口する開口部(20c)が下端に形成される駆動軸本体(18)と、該駆動軸本体(18)と前記ポンプ軸(62)とを連結する連結部(19)とを備え、
前記連結部(19)は、
筒状に形成され、外周面が前記駆動軸本体(18)の開口部(20c)に挿通固定されるとともに、内周面には前記ポンプ軸(62)が挿通固定されて該ポンプ軸(62)の吐出口(62d)が前記給油路(20)に連通する筒部(19a)と、
前記筒部(19a)の下端から径方向外方へ拡がるように形成され、下面(19c)が前記駆動軸(17)の被支持面を構成する鍔部(19b)と、を備えることを特徴とする回転式流体機械。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記駆動軸(17)の被支持面(19c)を支持する前記スラスト軸受(21)の摺動面には、溝部(21c,21d)が形成されていることを特徴とする回転式流体機械。
【請求項4】
請求項3において、
前記溝部(21c)は、前記給油穴(21b)の流出端に連通し且つ前記駆動軸(17)の軸心線を囲む環状に形成されていることを特徴とする回転式流体機械。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−219654(P2012−219654A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83724(P2011−83724)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】