回転電機制御装置
【課題】2相変調によりインバータをスイッチング制御する際にも安定した3相交流が励起されるように、2相変調パルスを生成する。
【解決手段】3相の内の少なくとも1相を所定の固定期間TFの間ハイ状態又はロー状態に固定して、他相を変調する2相変調によりインバータをスイッチング制御する2相変調パルスSPを生成する2相変調パルス生成部は、固定期間TFを回転電機の回転に同期させて固定パルスを生成すると共に、固定期間TF以外の期間TMではパルス幅変調により変調パルスを生成する。
【解決手段】3相の内の少なくとも1相を所定の固定期間TFの間ハイ状態又はロー状態に固定して、他相を変調する2相変調によりインバータをスイッチング制御する2相変調パルスSPを生成する2相変調パルス生成部は、固定期間TFを回転電機の回転に同期させて固定パルスを生成すると共に、固定期間TF以外の期間TMではパルス幅変調により変調パルスを生成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電力と3相交流電力との間で電力変換するインバータを備えて回転電機を駆動する回転電機駆動装置を制御する回転電機制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、駆動源として、回転電機を用いた電気自動車や、回転電機と内燃機関とを併用したハイブリッド自動車が実用化されている。回転電機は、これらの自動車に搭載されたバッテリなどの直流電源から供給される直流電力をインバータにより交流電力に変換して駆動される。インバータによる直流交流変換に際しては、多くの場合、インバータのスイッチング素子がパルス幅変調(PWM:pulse width modulation)制御によりスイッチング制御される。PWMには、正弦波PWM(SPWM:sinusoidal PWM)、空間ベクトルPWM(SVPWM:space vector PWM)、不連続PWM(DPWM:discontinuous PWM)などの種々の種類がある。DPWMは、3相の内の1相のパルスを部分的にハイレベル又はローレベルに固定して、他の2相を変調する2相変調の際に利用されることも多い。また、2相変調をさらに拡張して、各相のパルスが電気角の1周期の間に1パルスとなる矩形波制御(1パルス制御)という制御方法も用いられている。特開2009−118544号公報(特許文献1)の図7や図8、第49〜52段落等に記載されているように、これら種々の変調方式は、回転電機の回転速度や、回転電機に求められる出力トルクに応じて適宜選択される場合がある。
【0003】
2相変調においても、電気角1周期の内、部分的にハイレベル又はローレベルに固定される位相以外の位相では、SVPWMなどによってスイッチング用の変調パルスが生成される。2相変調において部分的にハイレベル又はローレベルに固定される位相は、例えばπ/3ラジアンなど、3相の全てに共通する長さに設定されて固定パルスが生成される。多くの場合、変調パルスのパルス幅は、電圧指令とキャリアとの関係で定まる。このような変調方式を用いて、変調パルスに固定パルスを混在させて2相変調パルスを生成する場合には、所定の固定期間を通じてキャリア振幅以上となる振幅を有する電圧指令が設定され、当該電圧指令とキャリアとに基づいて固定パルスが生成される。つまり、固定パルスは、パルス幅の長い変調パルスとして生成されることになる。
【0004】
ところで、スイッチング用のパルスを生成する制御装置は、マイクロコンピュータ等を用いて構成される場合が多い。一般的にマイクロコンピュータは所定の制御周期に応じてプログラムを実行し、パルスのハイレベルとローレベルとを切り換えてパルスを生成する。従って、制御周期の分解能との関係で、固定パルスのパルス幅を精度良く制御できない場合があり、固定パルスの固定期間の長さ(位相)が設定値と異なってしまう可能性がある。固定パルスの固定期間に不均衡が生じると、2相変調によって励起される3相交流の対称性が崩れ、回転電機に供給する電流に脈動を生じるなど回転電機の制御の安定性も低下する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−118544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記背景に鑑みて、3相の内の少なくとも1相を所定の固定期間ハイ状態又はロー状態に固定して、他相を変調する2相変調によりインバータをスイッチング制御する際にも安定した3相交流が励起されるように、2相変調パルスを生成することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑みた本発明に係る回転電機制御装置の特徴構成は、直流電力と3相交流電力との間で電力変換するインバータを備えて回転電機を駆動する回転電機駆動装置を制御する回転電機制御装置であって、3相の内の少なくとも1相を所定の固定期間ハイ状態又はロー状態に固定して、他相を変調する2相変調により前記インバータをスイッチング制御する2相変調パルスを生成する2相変調パルス生成部を備え、前記2相変調パルス生成部は、前記固定期間を前記回転電機の回転に同期させて固定パルスを生成すると共に、当該固定期間以外の期間ではパルス幅変調により変調パルスを生成する点にある。
【0008】
この構成によれば、固定パルスが回転電機の回転に同期して生成され、固定期間以外の期間ではパルス幅変調により変調パルスが生成される。つまり、固定パルスは、一般的な電圧指令とキャリアとに依存することなく回転電機の回転に同期して生成され、固定期間以外では電圧指令とキャリアとに応じたパルスが生成される。これにより、電気角に対して精度よく固定パルスが生成されることになる。その結果、固定パルスの固定期間が不均衡を生じることがなく、2相変調によって励起される3相交流も安定する。
【0009】
ここで、固定期間とパルス幅変調のキャリアとが非同期であると、固定期間と固定期間との間に生成される変調パルスと、固定期間に生成される固定パルスとの関係が定まらない可能性がある。変調パルスと固定パルスとの関係が定まらず、2相変調パルスが安定しないと、2相変調によって励起される3相交流の安定性も損なわれる可能性がある。そこで、変調パルスと固定パルスとの関係を規定し、2相変調によって励起される3相交流の安定性をさらに向上させると好適である。好適な一態様として、本発明に係る回転電機制御装置は、前記固定期間以外の期間において前記回転電機の回転に同期する同期キャリアを3相各相に対して生成する同期キャリア生成部を備え、前記2相変調パルス生成部が、前記同期キャリアに基づいて前記変調パルスを前記回転電機の回転に少なくとも間接的に同期した準同期変調パルスとして生成するとよい。上述したように、固定パルスは、回転電機の回転に同期して生成される。パルス幅変調のキャリアが回転電機の回転に同期した同期キャリアとなることで、同期キャリアに基づいて生成される準同期変調パルスと固定パルスとの関係も、回転電機の回転によって規定されることになる。従って、変調パルスと固定パルスとの関係が安定し、2相変調によって励起される3相交流の安定性も向上する。
【0010】
準同期変調パルスを生成する上記の態様によれば、変調パルスと固定パルスとの関係が安定するので励起される3相交流の安定性も向上する。但し、固定パルスの先頭及び末尾と、準同期変調パルスとが干渉すると、固定パルスのパルス幅が設定値と異なってしまう可能性がある。つまり、ハイ状態に固定された固定パルスとハイ状態となる準同期変調パルスとが連続して生成されたり、ロー状態に固定された固定パルスとロー状態となる準同期変調パルスとが連続して生成されたりした場合、見かけ上の固定パルスの固定期間が長くなる。このようになると、2相変調によって励起される3相交流の安定性が損なわれる可能性がある。従って、固定パルスのパルス幅を安定させ、2相変調によって励起される3相交流の安定性をさらに向上させると好適である。
【0011】
具体的には、同期キャリアが以下のように生成されるとよい。好適な一態様として、前記同期キャリア生成部は、前記固定パルスの固定期間の終了時及び開始時にピーク及びボトムの一方が一致する三角波の前記同期キャリアを生成するものであり、前記固定パルスがハイ状態の前記固定期間を終了してからロー状態の前記固定期間を開始するまでの期間では、前記準同期変調パルスがロー状態から始まりハイ状態で終わるように、前記ピーク及び前記ボトムを前記固定パルスの終了時及び開始時に一致させ、前記固定パルスがロー状態の前記固定期間を終了してからハイ状態の前記固定期間を開始するまでの期間では、前記準同期変調パルスがハイ状態から始まりロー状態で終わるように、前記ピーク及び前記ボトムを前記固定パルスの終了時及び開始時に一致させる。この態様によれば、固定パルスと準同期変調パルスとが、特に固定パルスの立ち上がり及び立ち下がりのタイミングで干渉することなく、安定した固定期間を有する固定パルスが生成される。
【0012】
尚、2相変調における固定パルスの固定期間は、一律ではなく、直流電力に対する3相交流電力の割合を示す変調率に応じて変更されると好適である。上述したように、インバータのスイッチング制御には、2相変調を拡張させ、各相のパルスが電気角の1周期の間に1パルスとなる矩形波制御という方式もある。2相変調における固定期間を変調率の上昇に応じて延長していくことで、2相変調から矩形波制御への遷移を円滑に実現することができる。好適な一態様として、本発明に係る回転電機制御装置の前記2相変調パルス生成部は、前記直流電力に対する前記3相交流電力の割合を示す変調率が、前記直流電力の正負両極間電圧を波高値とする正弦波を基調とする変調における最大変調率を超える過変調領域に設定されているとき、前記固定パルスの前記固定期間を前記変調率に応じて拡大させるとよい。
【0013】
尚、基調となる正弦波の波形(3相電圧指令に相当する波形)は、変調方式によって異なるものである。例えば、公知の正弦波パルス幅変調(SPWM)方式では、基調となる正弦波がほぼ歪みのない正弦波であり、最大変調率は約0.61である。従って、正弦波パルス幅変調と共に2相変調が実施される場合には、変調率がこの最大変調率(≒0.61)を超える値に設定されていると、過変調領域に設定されていることになる。また、公知の空間ベクトルパルス幅変調(SVPWM)方式では、基調となる正弦波が歪み波であり、最大変調率は約0.707となる。従って、空間ベクトルパルス幅変調と共に2相変調が実施される場合には、変調率がこの最大変調率(≒0.707)を超える値に設定されていると、過変調領域に設定されていることになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】回転電機駆動装置及び回転電機制御装置の構成例を模式的に示すブロック図
【図2】回転電機の要求トルク及び回転速度と変調モードとの関係の一例を示す図
【図3】変調率と変調モードとの関係の一例を示す図
【図4】非同期制御の模式的な制御ブロック図
【図5】同期制御の模式的な制御ブロック図
【図6】部分同期制御の模式的な制御ブロック図
【図7】固定期間が60°での2相変調パルスの生成例を示すタイムチャート
【図8】拡張固定期間での2相変調によるパルスの生成例を示すタイムチャート
【図9】同期キャリアを用いたパルスの生成例を示すタイムチャート
【図10】3相のパルス及びU相電流の波形例を示す波形図
【図11】U相電流の振幅方向の対称性(安定性)を示す波形図
【図12】変調率と変調モードとの関係の他の例を示す図
【図13】変調率と変調モードとの関係の他の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、電気自動車やハイブリッド自動車の駆動力源となる回転電機を駆動する駆動装置を制御する制御装置に本発明を適用した場合を例とし、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。本実施形態の回転電機5は、3相交流により動作する交流電動機であり、必要に応じて電動機としても発電機としても動作する。また、回転電機5は、例えば埋込磁石構造の同期電動機(IPMSM : interior permanent magnet synchronous motor)である。
【0016】
図1に示すように、駆動装置(回転電機駆動装置)2は、直流電源3と回転電機5との間に介在されて直流電力と交流電力との間で電力変換するインバータ4を備えている。直流電源3は、インバータ4を介して回転電機5に電力を供給可能であると共に、回転電機5が発電して得られた電力を蓄電可能に構成されている。好適な態様として、直流電源3は、ニッケル水素二次電池やリチウムイオン二次電池等の各種二次電池により構成されるバッテリである。この他、直流電源3は、キャパシタや、二次電池とキャパシタとの組み合わせにより構成されてもよい。
【0017】
インバータ4は、システム電圧Vdcを有する直流電力を交流電力に変換して回転電機5に供給する。インバータ4は、上段アーム及び下段アームからなる一対のスイッチング素子の直列回路により構成される1回線のレッグを、U,V,Wの各相に対応して3回線有したブリッジ回路として構成され、直流電力と3相交流との間で電力変換を行う。本実施形態では、スイッチング素子として、IGBT(insulated gate bipolar transistor)を用いる例を示している。スイッチング素子としては、IGBTの他に、バイポーラ型、電界効果型、MOS型など種々の構造のパワートランジスタを用いることができる。また、各スイッチング素子には、それぞれフリーホイールダイオードが並列接続されている。
【0018】
インバータ4のそれぞれのスイッチング素子は、制御装置(回転電機制御装置)1のインバータ制御部19から出力されるインバータ制御信号S(S1〜S6)に従って動作する。本実施形態では、インバータ制御信号S1〜S6は、各スイッチング素子をオン/オフするスイッチング制御信号、より詳しくは、各IGBTのゲートを駆動するゲート駆動信号である。これにより、インバータ4は、直流電力を交流電力に変換して回転電機5に供給し、目標トルク(トルク指令)T*に応じたトルクを回転電機5に出力させる。この際、インバータ制御部19は、パルス幅変調制御モードや矩形波制御モード等の制御モードに従ったインバータ制御信号S1〜S6を生成して出力する。各IGBTは、インバータ制御信号S1〜S6に従って、各制御モードに応じたスイッチング動作を行う。また、インバータ4は、回転電機5が発電機として機能する際には、発電により得られた交流電力を直流電力に変換して直流電源3に回生する。
【0019】
制御装置1は、目標トルクT*、ロータの回転情報である回転速度ω及び回転角度(電気角)θ、回転電機5のステータコイルを流れる各相電流Iu,Iv,Iwに基づいてフィードバック制御を行う。本実施形態では、制御装置1は、ベクトル制御法を用いた電流フィードバック制御を行って、インバータ4を介して回転電機5を制御する。目標トルクT*は、図示しない車両制御装置等の他の制御装置等からの要求信号として制御装置1に入力される。制御装置1の電流指令決定部11は、システム電圧Vdc、目標トルクT*、変調率Mに基づいて電流指令id*,iq*を演算する。変調率Mは、直流電力に対する3相交流電力の割合を示す指標である。電流指令id*は、ベクトル制御における直交ベクトル空間の一方の軸であるd軸方向の電流指令(d軸電流指令)である。電流指令iq*は、直交ベクトル空間の他方の軸であるq軸方向の電流指令(q軸電流指令)である。
【0020】
制御装置1の電圧指令決定部12は、電流指令id*,iq*と、回転電機5のU,V,Wの各相のステータコイルを流れる電流Iu,Iv,Iwを回転角度θに基づいてベクトル空間へ変換した2相電流との偏差に対して比例積分制御(PI制御)や比例微積分制御(PID制御)を行って2相電圧指令vd*,vq*を演算する。変調率・電圧指令位相演算部13は、2相電圧指令vd*,vq*に基づいて、変調率M及び電圧指令位相θv*を演算する。インバータ制御部19は、U,V,W各相の3相電圧指令vu*,vv*,vw*(図1では不図示)に再変換して、インバータ4のIGBTをスイッチング制御するインバータ制御信号S1〜S6を生成する。以上、ベクトル制御について俯瞰的に説明したが、ベクトル制御は公知技術であり、上述した以上の詳細な説明は省略する。
【0021】
回転電機5のロータの回転角度θ、即ち各時点での磁極位置は、回転センサ10により検出されて、検出結果を制御装置1が取得する。回転センサ10は、例えばレゾルバ等により構成される。U,V,Wの各相のステータコイルを流れる電流Iu,Iv,Iwは電流センサ9により検出され、その検出結果を制御装置1が取得する。本実施形態では、電流がバスバーなどの導体を流れる際に生じる磁界を検出することによって、非接触で電流を検出する例を示している。尚、本例では、3相全ての電流を検出する構成を示しているが、3相は平衡状態にあり、電流の瞬時値の総和は零であるので2相のみの電流を検出し、制御装置1において残りの1相の電流を演算により求めてもよい。
【0022】
インバータ制御部19は、本実施形態では、模式的に、3相変調パルス生成部14と、非同期キャリア生成部15と、2相変調パルス生成部16と、同期キャリア生成部17と、矩形波制御パルス生成部18とを有して構成される。即ち、本実施形態において、制御装置1は、少なくとも、3相変調モードと、2相変調モードと、矩形波制御モードとにより回転電機5を駆動制御する。3相変調モードは、U,V,W各相をパルス幅変調する変調モードである。2相変調モードは、3相の内の少なくとも1相を所定の固定期間ハイ状態又はロー状態に固定して、他相をパルス幅変調する変調モードである。尚、固定期間が長くなると、部分的に3相の内の2相が固定され、他の1相がパルス幅変調される場合もあるが、これも2相変調に含まれる。矩形波制御モードは、U,V,W各相のパルスが電気角の1周期の間に1パルスとなる制御であり、1パルス制御とも称される。
【0023】
パルス幅変調では、回転電機5の回転とは同期せず(非同期)に電圧指令vu*,vv*,vw*の波形とキャリアとの関係によってパルスが生成されるが、矩形波制御のパルスは、回転電機5の回転に同期して生成される。従って、キャリアを用いたパルス幅変調は非同期制御とも呼ばれ、矩形波制御は同期制御とも呼ばれる。また、同期制御には、電気角の1周期の間に1パルスではなく、回転電機の回転に同期した2つ以上のパルスを生成する多パルス制御という方式も実用化されている。パルス数を除けば、回転電機の回転に同期するパルスにより制御するという核心部分が共通するため、本実施形態においては、広義の矩形波制御に多パルス制御も含むものとして説明する。
【0024】
3相変調モード及び2相変調モードでは、パルス幅変調が実行される。本実施形態では、3相変調モードにおいては非同期キャリア生成部15により生成される非同期キャリアに基づいてパルス幅変調される。また、2相変調モードにおいては同期キャリア生成部17により生成される同期キャリアに基づいてパルス幅変調される。これら、非同期キャリア、同期キャリアを用いたパルス幅変調の詳細については後述する。
【0025】
本実施形態において3相変調モードにおけるパルス幅変調の変調方式は、空間ベクトルPWM(SVPWM)である。また、2相変調モードにおけるパルス幅変調の変調方式は、不連続PWM(DPWM)である。図2は、要求トルクを縦軸に、回転速度を横軸に取り、SVPWM、DPWM、矩形波(1パルス・多パルス)が適用される領域を模式的に示している。主に、SVPWMは、低回転領域で採用され、DPWMは、中回転領域で採用され、矩形波(1パルス・多パルス)は、高回転領域で採用される。インバータ制御部19は、要求トルクと回転速度とに基づいて、さらには変調率も考慮して、3相変調モードと、2相変調モードと、矩形波制御モードとの何れかを選択的に採用し、インバータ制御信号S1〜S6となるパルスを生成する。
【0026】
尚、SVPWMやDPWMでは、電圧指令vu*,vv*,vw*とキャリアとの関係によってパルスが生成されるが、このキャリアの周波数は切り換え可能となっていてもよい。例えば、要求トルクや回転速度に応じて、キャリア周波数が変更されると好適である。
【0027】
図3は、変調率Mと制御モードとの関係を模式的に示している。図3の上段は、本実施形態の制御装置1が採用する制御モードの遷移形態の一例を示しており、図3の下段は、一般的な制御モードの遷移形態の一例を示している。上述したように、変調率とは、直流電力に対する3相交流電力の実効値の割合を示す指標である。例えば、正負両極間電圧がVdcの直流電力を、Vdcを波高値とする正弦波を基調とする変調として、ほぼ歪みのない正弦波に基づいて正弦波パルス幅変調する場合における最大変調率は、約0.61である。即ち、変調された3相交流の相間電圧の実効値は0.61Vdcである。同様の直流電力を歪みのある正弦波を基調とする変調に相当するSVPWM方式で変調する場合の最大変調率は約0.707である。
【0028】
変調方式に応じた最大変調率を超える変調率で3相交流に変調される場合は、過変調と称される。変調率Mは、理論的には最大0.78まで高めることができ、この場合には1パルス制御によりインバータ4がスイッチング制御される。図3に示す変調率M3は概ね0.707であり、変調率M4は0.78である。変調率M3から変調率M4までの領域は、過変調領域である。図3に示した例では、この過変調領域において多パルス制御が適用される。しかし、この過変調領域においてDPWM方式を用いて2相変調されてもよい。本実施形態における過変調領域での2相変調については、図8や図12を用いて後述する。
【0029】
本実施形態においても、一般的な制御装置と同様に、変調率Mが低い領域では、SVPWM方式やDPWM方式により変調される。ここでは、本実施形態及び一般的な制御装置の双方とも、変調率MがM1(一例としてM1=0.509)まではSVPWM方式で変調され、変調率MがM3(一例としてM3=0.707)まではDPWM方式で変調される例を示している。ここで、変調率MがM2(一例としてM2=0.6)〜M3の領域では、一般的な制御装置が図3の下段に示すように、DPWM方式を用いた非同期制御により2相変調を行うのに対して、本実施形態の制御装置1は部分的に回転電機5の回転に同期した部分同期制御により2相変調を行う。
【0030】
具体的には、DPWM方式を用いた非同期制御により2相変調を行う際には、所定の固定期間を通じてキャリア振幅以上となる振幅を有する電圧指令が設定され、当該電圧指令とキャリアとに基づいて固定パルスが生成される。固定期間以外では、電圧指令の振幅がキャリア振幅未満で変化するので、当該電圧指令とキャリアとに基づいて変調パルスが生成される。つまり、固定パルスは、DPWM方式を用いた非同期制御によりパルス幅の長い変調パルスとして生成されることになる。
【0031】
一方、部分的に回転電機5の回転に同期した部分同期制御により2相変調を行う本実施形態の制御装置1は、回転電機5の回転に同期した固定パルスを生成する。具体的には、制御装置1は、各相において回転電機5の回転に同期させて60°(π/3)ずつ、ハイ固定の期間とロー固定の期間とを設け、この期間に固定パルスを生成する。一方、制御装置1は、これらの固定期間を除く期間は電圧指令とキャリアとを用いて変調パルスを生成する。即ち、制御装置1は、「DPWM(60°固定)」の方式により2相変調を実施する。
【0032】
変調率MがM3=0.707に達して過変調領域となると、本実施形態においても、一般的な制御装置と同様に、2相変調から広義の矩形波制御の1つである多パルス制御へと移行する。さらに、変調率MがM4に達すると、狭義の矩形波制御である1パルス制御に移行する。
【0033】
本実施形態においては、変調率M2までは、回転電機5の回転角度(ロータの磁極位置)θに同期することなく、所定周波数のキャリアに基づいて変調され、制御パルスが生成される。つまり、回転電機5の回転に対して非同期にパルスが生成される非同期制御が実施される。変調率M2から変調率M3までは、少なくとも固定期間において回転電機5の回転に同期させて固定パルスを生成する部分同期制御が実施される。変調率M3以降では、多パルス制御や1パルス制御により、回転電機5の回転に同期した同期制御が実施される。本発明は、DPWMによる2相変調において、少なくとも部分的に回転電機5の回転に同期してパルスが生成される同期制御が実施される点に特徴がある。
【0034】
一般的には、図3の下段に示すように、2相変調の際にも、回転電機5の回転に同期しないDPWM制御の中で2相変調が実施される。上述したように、電圧指令vu*,vv*,vw*の一部の区間をキャリアの振幅以上の振幅とすることで、パルス幅変調の中で強制的に固定期間を作り出して2相変調を行う。つまり、固定パルスは、回転電機5の回転に同期して生成されるものではなく、回転に対して非同期に生成されるので、2相変調においても非同期制御が継続されることになる。このような非同期制御では、キャリアと電圧指令vu*,vv*,vw*との関係を判定してパルスを生成する際の制御遅れにより、高い精度で固定パルスを生成できない場合がある。このため、固定パルスの固定期間の長さ(位相)が設定値と異なってしまう可能性がある。固定パルスの固定期間が不均衡を生じると、2相変調によって励起される3相交流が安定性を欠き、回転電機5に供給する電流に脈動を生じるなど、回転電機5の制御が不安定となる場合がある。
【0035】
一方、本発明においては、変調率が比較的高い領域(ここでは変調率M2以上)においては、2相変調の際にも、少なくとも部分的に回転電機5の回転に同期してパルスを生成する同期制御が実施される。つまり、少なくとも固定期間において回転電機5の回転に同期させて固定パルスを生成する部分同期制御が実施される。従って、キャリアと3相電圧指令vu*,vv*,vw*との関係を判定することなく、精度良く固定パルスを生成することができる。固定パルスの固定期間が安定するので、2相変調によって励起される3相交流が安定し、回転電機5に供給する電流も安定して回転電機5の制御も安定する。
【0036】
非同期制御、同期制御についての理解を容易にするために、非同期制御の制御ブロック図である図4、同期制御の制御ブロック部である図5を利用して、両制御について説明する。また、非同期制御と同期制御とを組み合わせた2相変調の制御ブロック図である図6を利用して、部分同期制御について説明する。
【0037】
非同期制御は、図1に示した3相変調パルス生成部14、非同期キャリア生成部15、及び2相変調パルス生成部16を中核として実行される。本実施形態では、公知のベクトル制御により、SVPWMやDPWMにより出力パルスが生成される。ベクトル制御の概要については図1を利用して上述したので、簡単に説明する。図4に示すように、電圧位相演算部21は、回転角度θと、電圧指令位相θv*と、所定期間における回転角度の変化量Δθとに基づいて、電圧位相θvを演算する。電圧指令位相θv*は、2相の電圧指令vd*とvq*が表す電圧ベクトルの位相角であり、「θv*=tan−1(vq*/vd*)」で求められる。回転角度の変化量Δθに対する所定期間は、例えばパルス幅変調のキャリアの1.5周期である。
【0038】
PWMモード設定部(モード設定部)22Aは、図2及び図3を用いて上述したように、要求トルクT*と回転速度ωと変調率Mとに基づいてパルス幅変調方式を設定する機能部である。本実施形態では、SVPWMとDPWMとの内の一方を選択する。DPWMが3相の内の少なくとも1相を所定の固定期間ハイ状態又はロー状態に固定して、他相をパルス幅変調する2相変調を実施する場合には、PWMモード設定部(モード設定部)22Aは、3相変調(SVPWM)と2相変調(DPWM)との何れかを選択する機能部であるということもできる。尚、この場合の2相変調は、後述する部分同期制御による2相変調とは異なるので、非同期2相変調モードと称する。非同期2相変調モードは、図3に示すように、比較的変調率Mが低い領域における2相変調である。当然ながら、固定期間以外の期間における電圧指令(vu*,vv*,vw*)の振幅を小さくすることによって、固定期間を60°としたままで低変調率に対応させてもよい。
【0039】
3相電圧指令決定部23は、変調率M及び電圧位相θvを用いて、設定された変調方式に従って、3相電圧指令vu*,vv*,vw*を決定する機能部である。上述したように、パルス幅変調のキャリア周波数が可変となっている場合、非同期キャリア生成部15は、要求トルクT*と回転速度ωとに基づき、パルス幅変調のキャリア周波数を決定し、キャリアを生成する。このキャリアは、回転電機5の回転に同期するものではないので、ここでは非同期キャリアと称する。変調パルス生成部24は、3相電圧指令vu*,vv*,vw*と非同期キャリアとに基づいて各相の出力パルスSu,Sv,Swを生成する。非同期キャリアに基づいて生成されるので、出力パルスSu,Sv,Swは非同期パルスとなる。また、これらの出力パルスSu,Sv,Swを利用したインバータ4の制御は非同期制御となる。
【0040】
同期制御は、図1に示した矩形波制御パルス生成部18を中核として実行される。図5に示すように、同期制御の制御ブロックは、電圧位相演算部21と、同期制御モード設定部(モード設定部)22Cと、同期パルス生成部25Cとを有して構成される。電圧位相演算部21は、上述したように、電圧位相θvを演算する機能部である。同期制御モード設定部22Cは、回転速度ω、変調率M、弱め界磁指令fw*に基づいて、同期制御方式(変調方式)を設定する機能部である。本実施形態では、多パルス制御と1パルス制御との内の一方を選択する。尚、弱め界磁指令fw*は、回転電機5が高回転する際に、回転電機5の界磁を弱めて誘起電力を抑制するための指令であり、d軸電流idの調整値として提供される場合がある。同期パルス生成部25Cは、電圧位相θvを用いて、設定された同期制御方式(変調方式)に従って、各相の出力パルスSu,Sv,Swを生成する。同期制御においては、3相電圧指令vu*,vv*,vw*は参照されず、電圧位相θvに基づいて位相調整されて(オフセットされて)、回転電機5の回転に同期した同期パルスとして出力パルスSu,Sv,Swが生成される。
【0041】
次に、図6のブロック図を参照して、部分同期制御による2相変調について説明する。部分同期制御は、図1に示した2相変調パルス生成部16及び同期キャリア生成部17を中核として実行される。非同期制御、同期制御と同様に、電圧位相演算部21により、電圧位相θvが演算される。そして、非同期制御と同様に、3相電圧指令決定部23は、変調率M及び電圧位相θvに基づいて、3相電圧指令vu*,vv*,vw*を決定する。
【0042】
非同期制御の際には、PWMモード設定部(モード設定部)22Aが、SVPWMとDPWMとの内、何れの変調方式を採用するかを設定し、その結果に従って3相電圧指令決定部23が電圧指令vu*,vv*,vw*を決定した。本実施形態では、部分同期制御の際のパルス幅変調にはDPWM方式のみを用いるため、モード設定部による変調方式の設定は必須でない。しかし、後述する2相変調モード設定部(モード設定部)22Bにより、電圧指令vu*,vv*,vw*を生成する変調方式がDPWMであることが改めて設定されてもよい。上述したようにPWMモード設定部(モード設定部)22Aにより設定されるDPWMは「非同期2相変調モード」であったが、2相変調モード設定部(モード設定部)22Bにより設定されるDPWMは「部分同期2相変調モード」となる。ただし、これは出力パルスの生成方法による違いであるから、DPWMに対応する電圧指令vu*,vv*,vw*は、「非同期2相変調モード」と「部分同期2相変調モード」とで同一であっても問題はない。また、詳細は後述するが、2相変調モード設定部(モード設定部)22Bは、「固定期間=60°」となる基本固定モードと、「60°<固定期間<180°」となる拡張固定モードとの2つのモード(固定期間モード)を選択可能に構成されていてもよい。
【0043】
電圧位相演算部21により電圧位相θvが演算されると、同期制御と同様に、変調率Mと電圧位相θvとに基づいて、同期パルスが生成される。この同期パルスは、2相変調では、固定パルスに相当する。図6における同期信号生成部25A及び固定パルス生成部25Bは、図5における同期パルス生成部25Cに対応する。同期信号生成部25Aは、同期パルスを生成するために、回転電機5の回転に同期した各相同期信号Usync,Vsync,Wsyncを生成して、固定パルス生成部25Bに提供する。固定パルス生成部25Bは、これら各相同期信号Usync,Vsync,Wsyncに基づいて固定パルスを生成する。
【0044】
また、同期信号生成部25Aは、固定期間以外の期間における変調パルスの生成にも関与する。同期キャリア生成部17は、各相同期信号Usync,Vsync,Wsyncに基づいて、回転電機5の回転に同期した同期キャリアを生成する。変調パルス生成部24は、3相電圧指令vu*,vv*,vw*と同期キャリアとに基づいて各相の変調パルス(準同期変調パルス)を生成する。即ち、同期キャリアに基づいて生成される変調パルスは、少なくとも間接的に回転電機5の回転に同期するので、準同期変調パルスとなる。パルス合成部27は、固定パルス生成部25Bにより生成された固定パルスと、変調パルス生成部24により生成された変調パルス(準同期変調パルス)とを合成して、2相変調パルスとしての各相の出力パルスSu,Sv,Swを生成する。
【0045】
尚、同期信号生成部25Aは、2相変調モード設定部(モード設定部)22Bにより設定された2相変調モードに応じて各相同期信号Usync,Vsync,Wsyncを生成する。2相変調は、3相の内の少なくとも1相を所定の固定期間ハイ状態又はロー状態に固定して、他相を変調する変調方式である。本実施形態では、部分同期2相変調モードとしてこの固定期間が60°(=π/3)に固定される基本固定モードと、60°を超え180°未満の間で変動する拡張固定モードとの2つのモードを選択可能に構成されている。当然ながら、固定期間の位相長さによって同期信号Usync,Vsync,Wsyncは異なるものとなるので、同期信号生成部25Aは、2相変調モード設定部(モード設定部)22Bにより設定されたモード(固定期間モード)に応じて同期信号Usync,Vsync,Wsyncを生成する。固定期間が、「60°<固定期間<180°」となる拡張固定モードの詳細については、後述する。
【0046】
図4から図6を参照して説明した各制御ブロックには、同一符号を付して例示したように、機能の一部又は全てが重複する機能部が含まれている。従って、インバータ制御部19は、図4から図6の機能ブロックを全て個別に有することなく、各制御モードにおいて各機能部を選択的に用いたり、統合したりすることによって、より小規模に構築可能である。例えば、図4から図6において同一符号で示した機能部は明らかに共用可能である。また、例えば、PWMモード設定部22A、2相変調モード設定部22B、同期制御モード設定部22Cは、入力がほぼ等価であるから、3つの機能を備えた1つの「モード設定部」として構築されてもよい。同様に、同期信号生成部25A、固定パルス生成部25B、同期パルス生成部25Cも、統合された1つの機能部として構築可能である。さらに、非同期制御の場合には同期制御によるパルスが生成されず、同期制御の場合には非同期制御によるパルスが生成されない。このため、非同期制御及び同期制御において、パルス合成部27を介して出力パルスSu,Sv,Swを出力しても一方がそのまま出力されるだけである。従って、非同期制御、部分同期制御、同期制御の全てにおいてパルス合成部27を介して出力パルスSu,Sv,Swを出力するように構成されても問題ないことは明らかである。
【0047】
以下、具体的なパルスの生成例について波形図も参照しながら説明する。図7は、「固定期間=60°」の基本固定モードでの部分同期2相変調によるパルスの一例を示すタイムチャートである。図8は、「60°<固定期間<180°」の拡張固定モードでの部分同期2相変調によるパルスの一例を示すタイムチャートである。ここでは、出力パルスSu,Sv,Swの何れかを代表して、出力パルスSPとして例示する。また、3相電圧指令vu*,vv*,vw*の何れかを代表して電圧指令V*として例示する。パルス幅変調のキャリアの振幅は、Vdc/2とする。
【0048】
尚、図7において電圧指令V*は、ハイからロー、ローからハイへの遷移の途中に指令値が振動する(反転する)位相を有している。DPWMでは、電圧指令V*の基本波である正弦波のピーク(及びボトム)の前後において直流電圧の正負両極から離間する分の振幅を加えて電圧指令V*を生成している。3相の電圧指令を平衡させ、瞬時値をゼロとするために、振幅を調整された相以外の2相から補正値を差し引き、振幅を縮小する補正が実施される。3相電圧指令のトップ及びボトムは1周期の間に合計6回出現するから、60度ごとにこの補正値の極性が変化することになる。この変化点の位相は、電圧指令V*が振幅中心を超えて極性が変わる位相に一致する。変調率Mが相対的に低い場合(過変調領域よりも低い変調率の場合)には、電圧指令V*と補正値との極性が異なるため、図7に示すように電圧指令V*が反転する。一方、変調率Mが相対的に高い場合(過変調領域の場合)には、電圧指令V*と補正値との極性が同極性となるため、図8に示すように電圧指令V*が反転しない。このような電圧指令V*の波形については、公知であるから、上述した以上の詳細な説明は省略する。
【0049】
上述したように、2相変調パルス生成部16は、3相の内の少なくとも1相を図7〜図9に示すように所定の固定期間TFの間ハイ状態又はロー状態に固定して、他相を変調する2相変調によりインバータ4をスイッチング制御する2相変調パルス(SP)を生成する。図7〜図9では、ハイ状態への固定期間をTFHで示し、ロー状態への固定期間をTFLで示している。具体的には、2相変調パルス生成部16は、固定期間TFを回転電機5の回転に同期させて固定パルスを生成すると共に、固定期間TF以外の期間TMではパルス幅変調により変調パルスを生成する。図7〜図9では、期間TM1は、固定パルスがハイ状態の固定期間TFHを終了してからロー状態の固定期間TFLを開始するまでの期間を示す。また、期間TM2は、固定パルスがロー状態の固定期間TFLを終了してからハイ状態の固定期間TFHを開始するまでの期間を示す。
【0050】
上述したように、ハイ状態への固定期間TFH、ロー状態への固定期間TFLは共に回転角度θに起因する電圧位相θvに基づいて、同期信号生成部25Aにより決定される。そして、これらの固定期間TF(TFH,TFL)に基づいて固定パルス生成部25Bにより固定パルスが生成されるので、固定パルスのパルス幅は安定する。固定期間TF以外の期間TMではパルス幅変調により変調パルスが生成されるが、図7及び図8に示すように、変調パルスは固定パルスに対して対称に生成されている。つまり、変調パルスと固定パルスとの関係を安定させ、2相変調によって励起される3相交流の安定性がさらに向上するように変調パルスが生成されている。
【0051】
このように変調パルスを生成するために、同期キャリア生成部17は、固定期間TF以外の期間において回転電機5の回転に同期する同期キャリアを3相各相に対して生成する。そして、変調パルス生成部24は、これら同期キャリアに基づいて、少なくとも間接的に回転電機5の回転に同期した準同期変調パルスとして変調パルスを生成する。固定期間TFとパルス幅変調のキャリアとが非同期であると、固定期間TFと固定期間TFとの間の期間TMに生成される変調パルスと、固定パルスとの関係が安定しない可能性がある。そして、変調パルスと固定パルスとの関係が安定しないと、2相変調によって励起される3相交流の安定性も損なわれる可能性がある。しかし、本実施形態においては、同期キャリアを用いることによって、固定パルスと変調パルスとの関係が共に回転電機5の回転状態に対して規定され、両パルスの相対関係が安定する。その結果、2相変調によって励起される3相交流の安定性がさらに向上する。
【0052】
本実施形態では、図7及び図8に示すように、さらに好適に、ハイ状態への固定期間TFHの前後、つまり、ハイ状態の固定パルスの前後ではロー状態の準同期変調パルスが生成され、ロー状態への固定期間TFLの前後、つまり、ロー状態の固定パルスの前後ではハイ状態の準同期変調パルスが生成される。これにより、固定パルスと準同期変調パルスとが、特に固定パルスの立ち上がり及び立ち下がりのタイミングで干渉することがない。従って、固定パルスの固定期間がさらに安定する。固定パルスの先頭及び末尾、即ち固定パルスの立ち上がり及び立ち下がりのタイミングにおいて、固定パルスと準同期変調パルスとが干渉すると、固定パルスのパルス幅が設定値と異なってしまう可能性がある。仮に、準同期変調パルスが固定パルスに対して対称に生成され、準同期変調パルスと固定パルスとの相対関係が安定していても、固定パルスと準同期変調パルスとが干渉すると、2相変調によって励起される3相交流の実効値が電圧指令V*と異なってしまう可能性がある。このため、本実施形態では、さらに固定パルスのパルス幅を安定させ、2相変調によって励起される3相交流の安定性が向上するように同期キャリアが生成されている。
【0053】
具体的には、同期キャリア生成部17は、図9において一点鎖線で示すように、以下の要領で同期キャリアを生成する。即ち、同期キャリア生成部17は、固定パルスの固定期間TFの終了時及び開始時にピーク及びボトムの一方が一致する三角波の同期キャリアを生成するものである。つまり、電圧指令V*は、固定期間TFにおいて同期キャリアの振幅以上の値に設定されており、固定パルスの固定期間TFの終了時及び開始時に三角波の同期キャリアのピーク及びボトムの一方を一致させている。具体的には、期間TM1及び期間TM2において次のように同期キャリアが生成される。
【0054】
同期キャリア生成部17は、固定パルスがハイ状態の固定期間TFHを終了してからロー状態の固定期間TFLを開始するまでの期間TM1では、準同期変調パルスがロー状態から始まりハイ状態で終わるように、ピーク及びボトムを固定パルスの終了時及び開始時に一致させて三角波の同期キャリアを生成する。一方、固定パルスがロー状態の固定期間TFLを終了してからハイ状態の固定期間TFHを開始するまでの期間TM2では、準同期変調パルスがハイ状態から始まりロー状態で終わるように、ピーク及びボトムを固定パルスの終了時及び開始時に一致させて三角波の同期キャリアを生成する。従って、固定パルスと変調パルスとが、特に固定パルスの立ち上がり及び立ち下がりのタイミングで干渉することなくなく、安定した固定パルスが生成される。
【0055】
本実施形態では、キャリアに対して電圧指令V*の方が小さい場合にはロー状態の変調パルスが生成され、キャリアに対して電圧指令V*の方が大きい場合にはハイ状態の変調パルスが生成される。このような比較論理の場合には、同期キャリア生成部17は、固定パルスがハイ状態の固定期間TFHを終了してからロー状態の固定期間TFLを開始するまでの期間TM1では、ハイ状態の固定期間TFHの終了時においてピークから始まり、ロー状態の固定期間TFLの開始時においてボトムで終わる三角波の同期キャリアを生成する。図9に示すように、固定期間TFHの終了後、電圧指令V*はキャリアのピークであるVdcよりも小さい値となる。これにより、準同期変調パルスは、ロー状態から始まる。また、固定期間TFLの開始前、電圧指令V*はキャリアのボトムである0よりも大きい値となる。これにより、準同期変調パルスは、ハイ状態で終わる。同様の考え方により、同期キャリア生成部17は、固定パルスがロー状態の固定期間TFLを終了してからハイ状態の固定期間TFHを開始するまでの期間TM2では、ロー状態の固定期間TFLの終了時においてボトムから始まり、ハイ状態の固定期間TFHの開始時においてトップで終わる三角波の同期キャリアを生成する。これにより、期間TM2において、準同期変調パルスは、ハイ状態から始まりロー状態で終わることになる。
【0056】
図9には、このような同期キャリアが、固定期間TFと固定期間TFとの間の期間TMにおいて、1.5周期/2.5周期/3.5周期分生成される場合の準同期変調パルスを示している。同期キャリアの周波数は、制御装置1の演算周期や、ノイズ耐性などから設定可能な範囲で、できるだけ高い周波数であると好適である。発明者らによる実験解析により、同期キャリアを含めキャリアの周波数が高い方が、モータ電流が安定することが確かめられている。
【0057】
ここで、本発明により生成される2相変調パルスSPの効果をシミュレーションにより確認した結果を示す。図10は、3相のパルス及びU相電流Iuの波形例を示す波形図である。図中、Su,Sv,Swは、それぞれU相、V相、W相のインバータ制御信号の元となるパルスSPを示す。図11は、U相電流Iuの安定性を示す波形図である。図10(a)及び図11(a)は、キャリアの周波数が5kHzの場合を例示しており、図10(b)及び図11(b)は、キャリアが同期キャリアであり、その周波数が10kHzの場合を例示している。図10(a)及び図10(b)を参照すると、同期キャリアを用いた図10(b)では図10(a)に比べてパルスSPの対称性が高い。さらに、キャリアの周波数も高いので、PWM変調による変調パルスの分解能も高くなっている。その結果、図11(a)及び(b)の比較により明らかなように、U相電流Iu(回転電機電流)が安定する。
【0058】
〔他の実施形態〕
(1)上述した実施形態においては、図3に例示したように、変調率Mが高くなるに従って、部分同期制御によるDPWM、即ち部分同期2相変調から多パルス制御を経由して1パルス制御に移行する場合を例示した。この場合、部分同期2相変調における固定期間は、基本固定期間(=60°)であり、一定の値である。しかし、本発明は、この形態に限定されるものではない。図12に示すように、変調率M3から変調率M4の過変調領域において、図8に例示したように拡張固定期間(60°<固定期間<180°)による2相変調を実施してもよい。尚、固定期間が180°に達すると、電気角の1周期においてパルスが1つだけとなるので、必然的に1パルス制御となる。従って、この形態によれば、基本固定期間による2相変調から、拡張固定期間によるフレキシブルな2相変調を経由して、円滑に1パルス制御へ移行することができる。尚、固定期間が長くなると、部分的に3相の内の2相が固定され、他の1相がパルス幅変調される場合も生じるが、既に述べたようにこれも本発明における2相変調に含まれる。
【0059】
(2)図3及び図12を用いて例示した上記各実施形態においては、非同期制御におけるパルス幅変調の方式として、SVPWMとDPWMとを用い、変調率M1まではSVPWMにより変調し、変調率M1以降はDPWMにより変調する場合を例示した。しかし、2種類の変調の方式に限定されることなく、1種類の変調方式により変調率M2までパルス幅変調を行っても良いし、3種類以上の変調方式により変調率M2までパルス幅変調を行っても良い。また、SVPWMを用いて非同期制御を実施した場合において、変調率M1以降、部分同期制御を実施してもよい。具体的には、図13に示すように、非同期制御においてはSPWMのみを実施し、DPWMを実施する際には部分同期制御を行ってもよい。また、この際、部分同期制御を開始する変調率Mは、図13に例示する変調率M1に限定されることなく、M=M2であってもよい。
【0060】
(3)上記実施形態においては、三角波の同期キャリアが固定パルスの固定期間TFの終了時及び開始時にピーク及びボトムの一方が一致するように生成される例を示したが、本発明はこの構成に限定されるものではない。固定パルスに対して変調パルスの対称性が高ければ、ある程度回転電機5の電流は安定する。所望の範囲内で電流の安定性が確保されるのであれば、同期キャリアのピーク及びボトムと、固定パルスの固定期間TFの始端及び終端とが一致していなくてもよい。
【0061】
(4)上記実施形態においては、固定期間以外の期間では、同期キャリアに基づき、パルス幅変調により変調パルスが生成される例を示したが、本発明はこの構成に限定されるものではない。固定パルスは、回転電機5の回転に同期して生成されることにより、固定期間に不均衡を生じることなく精度よく生成される。従って、2相変調によって励起される3相交流の対称性が向上し、ある程度回転電機5の電流は安定する。所望の範囲内で電流の安定性が確保されるのであれば、キャリアは回転電機5の回転に対して同期していない非同期キャリアであってもよい。
【0062】
(5)上記実施形態においては、図1に示すように、1つの回転電機を駆動制御する駆動装置2並びに制御装置1を例として説明した。しかし、本発明はそのような構成に限定されることなく、複数の回転電機を駆動制御する駆動装置並びに制御装置を有する構成であっても、適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、直流電力と3相交流電力との間で電力変換するインバータを備えて回転電機を駆動する回転電機駆動装置を制御する回転電機制御装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1:回転電機制御装置
2:回転電機駆動装置
4:インバータ
5:回転電機
16:2相変調パルス生成部
17:同期キャリア生成部
M:変調率
TF,TFH,TFL:固定期間
TFH:ハイ状態の固定期間
TFL:ロー状態の固定期間
TM,TM1,TM2:固定期間以外の期間
TM1:ハイ状態の固定期間を終了してからロー状態の固定期間を開始するまでの期間
TM2:ロー状態の固定期間を終了してからハイ状態の固定期間を開始するまでの期間
Vdc:直流電力の正負両極間電圧
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電力と3相交流電力との間で電力変換するインバータを備えて回転電機を駆動する回転電機駆動装置を制御する回転電機制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、駆動源として、回転電機を用いた電気自動車や、回転電機と内燃機関とを併用したハイブリッド自動車が実用化されている。回転電機は、これらの自動車に搭載されたバッテリなどの直流電源から供給される直流電力をインバータにより交流電力に変換して駆動される。インバータによる直流交流変換に際しては、多くの場合、インバータのスイッチング素子がパルス幅変調(PWM:pulse width modulation)制御によりスイッチング制御される。PWMには、正弦波PWM(SPWM:sinusoidal PWM)、空間ベクトルPWM(SVPWM:space vector PWM)、不連続PWM(DPWM:discontinuous PWM)などの種々の種類がある。DPWMは、3相の内の1相のパルスを部分的にハイレベル又はローレベルに固定して、他の2相を変調する2相変調の際に利用されることも多い。また、2相変調をさらに拡張して、各相のパルスが電気角の1周期の間に1パルスとなる矩形波制御(1パルス制御)という制御方法も用いられている。特開2009−118544号公報(特許文献1)の図7や図8、第49〜52段落等に記載されているように、これら種々の変調方式は、回転電機の回転速度や、回転電機に求められる出力トルクに応じて適宜選択される場合がある。
【0003】
2相変調においても、電気角1周期の内、部分的にハイレベル又はローレベルに固定される位相以外の位相では、SVPWMなどによってスイッチング用の変調パルスが生成される。2相変調において部分的にハイレベル又はローレベルに固定される位相は、例えばπ/3ラジアンなど、3相の全てに共通する長さに設定されて固定パルスが生成される。多くの場合、変調パルスのパルス幅は、電圧指令とキャリアとの関係で定まる。このような変調方式を用いて、変調パルスに固定パルスを混在させて2相変調パルスを生成する場合には、所定の固定期間を通じてキャリア振幅以上となる振幅を有する電圧指令が設定され、当該電圧指令とキャリアとに基づいて固定パルスが生成される。つまり、固定パルスは、パルス幅の長い変調パルスとして生成されることになる。
【0004】
ところで、スイッチング用のパルスを生成する制御装置は、マイクロコンピュータ等を用いて構成される場合が多い。一般的にマイクロコンピュータは所定の制御周期に応じてプログラムを実行し、パルスのハイレベルとローレベルとを切り換えてパルスを生成する。従って、制御周期の分解能との関係で、固定パルスのパルス幅を精度良く制御できない場合があり、固定パルスの固定期間の長さ(位相)が設定値と異なってしまう可能性がある。固定パルスの固定期間に不均衡が生じると、2相変調によって励起される3相交流の対称性が崩れ、回転電機に供給する電流に脈動を生じるなど回転電機の制御の安定性も低下する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−118544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記背景に鑑みて、3相の内の少なくとも1相を所定の固定期間ハイ状態又はロー状態に固定して、他相を変調する2相変調によりインバータをスイッチング制御する際にも安定した3相交流が励起されるように、2相変調パルスを生成することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑みた本発明に係る回転電機制御装置の特徴構成は、直流電力と3相交流電力との間で電力変換するインバータを備えて回転電機を駆動する回転電機駆動装置を制御する回転電機制御装置であって、3相の内の少なくとも1相を所定の固定期間ハイ状態又はロー状態に固定して、他相を変調する2相変調により前記インバータをスイッチング制御する2相変調パルスを生成する2相変調パルス生成部を備え、前記2相変調パルス生成部は、前記固定期間を前記回転電機の回転に同期させて固定パルスを生成すると共に、当該固定期間以外の期間ではパルス幅変調により変調パルスを生成する点にある。
【0008】
この構成によれば、固定パルスが回転電機の回転に同期して生成され、固定期間以外の期間ではパルス幅変調により変調パルスが生成される。つまり、固定パルスは、一般的な電圧指令とキャリアとに依存することなく回転電機の回転に同期して生成され、固定期間以外では電圧指令とキャリアとに応じたパルスが生成される。これにより、電気角に対して精度よく固定パルスが生成されることになる。その結果、固定パルスの固定期間が不均衡を生じることがなく、2相変調によって励起される3相交流も安定する。
【0009】
ここで、固定期間とパルス幅変調のキャリアとが非同期であると、固定期間と固定期間との間に生成される変調パルスと、固定期間に生成される固定パルスとの関係が定まらない可能性がある。変調パルスと固定パルスとの関係が定まらず、2相変調パルスが安定しないと、2相変調によって励起される3相交流の安定性も損なわれる可能性がある。そこで、変調パルスと固定パルスとの関係を規定し、2相変調によって励起される3相交流の安定性をさらに向上させると好適である。好適な一態様として、本発明に係る回転電機制御装置は、前記固定期間以外の期間において前記回転電機の回転に同期する同期キャリアを3相各相に対して生成する同期キャリア生成部を備え、前記2相変調パルス生成部が、前記同期キャリアに基づいて前記変調パルスを前記回転電機の回転に少なくとも間接的に同期した準同期変調パルスとして生成するとよい。上述したように、固定パルスは、回転電機の回転に同期して生成される。パルス幅変調のキャリアが回転電機の回転に同期した同期キャリアとなることで、同期キャリアに基づいて生成される準同期変調パルスと固定パルスとの関係も、回転電機の回転によって規定されることになる。従って、変調パルスと固定パルスとの関係が安定し、2相変調によって励起される3相交流の安定性も向上する。
【0010】
準同期変調パルスを生成する上記の態様によれば、変調パルスと固定パルスとの関係が安定するので励起される3相交流の安定性も向上する。但し、固定パルスの先頭及び末尾と、準同期変調パルスとが干渉すると、固定パルスのパルス幅が設定値と異なってしまう可能性がある。つまり、ハイ状態に固定された固定パルスとハイ状態となる準同期変調パルスとが連続して生成されたり、ロー状態に固定された固定パルスとロー状態となる準同期変調パルスとが連続して生成されたりした場合、見かけ上の固定パルスの固定期間が長くなる。このようになると、2相変調によって励起される3相交流の安定性が損なわれる可能性がある。従って、固定パルスのパルス幅を安定させ、2相変調によって励起される3相交流の安定性をさらに向上させると好適である。
【0011】
具体的には、同期キャリアが以下のように生成されるとよい。好適な一態様として、前記同期キャリア生成部は、前記固定パルスの固定期間の終了時及び開始時にピーク及びボトムの一方が一致する三角波の前記同期キャリアを生成するものであり、前記固定パルスがハイ状態の前記固定期間を終了してからロー状態の前記固定期間を開始するまでの期間では、前記準同期変調パルスがロー状態から始まりハイ状態で終わるように、前記ピーク及び前記ボトムを前記固定パルスの終了時及び開始時に一致させ、前記固定パルスがロー状態の前記固定期間を終了してからハイ状態の前記固定期間を開始するまでの期間では、前記準同期変調パルスがハイ状態から始まりロー状態で終わるように、前記ピーク及び前記ボトムを前記固定パルスの終了時及び開始時に一致させる。この態様によれば、固定パルスと準同期変調パルスとが、特に固定パルスの立ち上がり及び立ち下がりのタイミングで干渉することなく、安定した固定期間を有する固定パルスが生成される。
【0012】
尚、2相変調における固定パルスの固定期間は、一律ではなく、直流電力に対する3相交流電力の割合を示す変調率に応じて変更されると好適である。上述したように、インバータのスイッチング制御には、2相変調を拡張させ、各相のパルスが電気角の1周期の間に1パルスとなる矩形波制御という方式もある。2相変調における固定期間を変調率の上昇に応じて延長していくことで、2相変調から矩形波制御への遷移を円滑に実現することができる。好適な一態様として、本発明に係る回転電機制御装置の前記2相変調パルス生成部は、前記直流電力に対する前記3相交流電力の割合を示す変調率が、前記直流電力の正負両極間電圧を波高値とする正弦波を基調とする変調における最大変調率を超える過変調領域に設定されているとき、前記固定パルスの前記固定期間を前記変調率に応じて拡大させるとよい。
【0013】
尚、基調となる正弦波の波形(3相電圧指令に相当する波形)は、変調方式によって異なるものである。例えば、公知の正弦波パルス幅変調(SPWM)方式では、基調となる正弦波がほぼ歪みのない正弦波であり、最大変調率は約0.61である。従って、正弦波パルス幅変調と共に2相変調が実施される場合には、変調率がこの最大変調率(≒0.61)を超える値に設定されていると、過変調領域に設定されていることになる。また、公知の空間ベクトルパルス幅変調(SVPWM)方式では、基調となる正弦波が歪み波であり、最大変調率は約0.707となる。従って、空間ベクトルパルス幅変調と共に2相変調が実施される場合には、変調率がこの最大変調率(≒0.707)を超える値に設定されていると、過変調領域に設定されていることになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】回転電機駆動装置及び回転電機制御装置の構成例を模式的に示すブロック図
【図2】回転電機の要求トルク及び回転速度と変調モードとの関係の一例を示す図
【図3】変調率と変調モードとの関係の一例を示す図
【図4】非同期制御の模式的な制御ブロック図
【図5】同期制御の模式的な制御ブロック図
【図6】部分同期制御の模式的な制御ブロック図
【図7】固定期間が60°での2相変調パルスの生成例を示すタイムチャート
【図8】拡張固定期間での2相変調によるパルスの生成例を示すタイムチャート
【図9】同期キャリアを用いたパルスの生成例を示すタイムチャート
【図10】3相のパルス及びU相電流の波形例を示す波形図
【図11】U相電流の振幅方向の対称性(安定性)を示す波形図
【図12】変調率と変調モードとの関係の他の例を示す図
【図13】変調率と変調モードとの関係の他の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、電気自動車やハイブリッド自動車の駆動力源となる回転電機を駆動する駆動装置を制御する制御装置に本発明を適用した場合を例とし、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。本実施形態の回転電機5は、3相交流により動作する交流電動機であり、必要に応じて電動機としても発電機としても動作する。また、回転電機5は、例えば埋込磁石構造の同期電動機(IPMSM : interior permanent magnet synchronous motor)である。
【0016】
図1に示すように、駆動装置(回転電機駆動装置)2は、直流電源3と回転電機5との間に介在されて直流電力と交流電力との間で電力変換するインバータ4を備えている。直流電源3は、インバータ4を介して回転電機5に電力を供給可能であると共に、回転電機5が発電して得られた電力を蓄電可能に構成されている。好適な態様として、直流電源3は、ニッケル水素二次電池やリチウムイオン二次電池等の各種二次電池により構成されるバッテリである。この他、直流電源3は、キャパシタや、二次電池とキャパシタとの組み合わせにより構成されてもよい。
【0017】
インバータ4は、システム電圧Vdcを有する直流電力を交流電力に変換して回転電機5に供給する。インバータ4は、上段アーム及び下段アームからなる一対のスイッチング素子の直列回路により構成される1回線のレッグを、U,V,Wの各相に対応して3回線有したブリッジ回路として構成され、直流電力と3相交流との間で電力変換を行う。本実施形態では、スイッチング素子として、IGBT(insulated gate bipolar transistor)を用いる例を示している。スイッチング素子としては、IGBTの他に、バイポーラ型、電界効果型、MOS型など種々の構造のパワートランジスタを用いることができる。また、各スイッチング素子には、それぞれフリーホイールダイオードが並列接続されている。
【0018】
インバータ4のそれぞれのスイッチング素子は、制御装置(回転電機制御装置)1のインバータ制御部19から出力されるインバータ制御信号S(S1〜S6)に従って動作する。本実施形態では、インバータ制御信号S1〜S6は、各スイッチング素子をオン/オフするスイッチング制御信号、より詳しくは、各IGBTのゲートを駆動するゲート駆動信号である。これにより、インバータ4は、直流電力を交流電力に変換して回転電機5に供給し、目標トルク(トルク指令)T*に応じたトルクを回転電機5に出力させる。この際、インバータ制御部19は、パルス幅変調制御モードや矩形波制御モード等の制御モードに従ったインバータ制御信号S1〜S6を生成して出力する。各IGBTは、インバータ制御信号S1〜S6に従って、各制御モードに応じたスイッチング動作を行う。また、インバータ4は、回転電機5が発電機として機能する際には、発電により得られた交流電力を直流電力に変換して直流電源3に回生する。
【0019】
制御装置1は、目標トルクT*、ロータの回転情報である回転速度ω及び回転角度(電気角)θ、回転電機5のステータコイルを流れる各相電流Iu,Iv,Iwに基づいてフィードバック制御を行う。本実施形態では、制御装置1は、ベクトル制御法を用いた電流フィードバック制御を行って、インバータ4を介して回転電機5を制御する。目標トルクT*は、図示しない車両制御装置等の他の制御装置等からの要求信号として制御装置1に入力される。制御装置1の電流指令決定部11は、システム電圧Vdc、目標トルクT*、変調率Mに基づいて電流指令id*,iq*を演算する。変調率Mは、直流電力に対する3相交流電力の割合を示す指標である。電流指令id*は、ベクトル制御における直交ベクトル空間の一方の軸であるd軸方向の電流指令(d軸電流指令)である。電流指令iq*は、直交ベクトル空間の他方の軸であるq軸方向の電流指令(q軸電流指令)である。
【0020】
制御装置1の電圧指令決定部12は、電流指令id*,iq*と、回転電機5のU,V,Wの各相のステータコイルを流れる電流Iu,Iv,Iwを回転角度θに基づいてベクトル空間へ変換した2相電流との偏差に対して比例積分制御(PI制御)や比例微積分制御(PID制御)を行って2相電圧指令vd*,vq*を演算する。変調率・電圧指令位相演算部13は、2相電圧指令vd*,vq*に基づいて、変調率M及び電圧指令位相θv*を演算する。インバータ制御部19は、U,V,W各相の3相電圧指令vu*,vv*,vw*(図1では不図示)に再変換して、インバータ4のIGBTをスイッチング制御するインバータ制御信号S1〜S6を生成する。以上、ベクトル制御について俯瞰的に説明したが、ベクトル制御は公知技術であり、上述した以上の詳細な説明は省略する。
【0021】
回転電機5のロータの回転角度θ、即ち各時点での磁極位置は、回転センサ10により検出されて、検出結果を制御装置1が取得する。回転センサ10は、例えばレゾルバ等により構成される。U,V,Wの各相のステータコイルを流れる電流Iu,Iv,Iwは電流センサ9により検出され、その検出結果を制御装置1が取得する。本実施形態では、電流がバスバーなどの導体を流れる際に生じる磁界を検出することによって、非接触で電流を検出する例を示している。尚、本例では、3相全ての電流を検出する構成を示しているが、3相は平衡状態にあり、電流の瞬時値の総和は零であるので2相のみの電流を検出し、制御装置1において残りの1相の電流を演算により求めてもよい。
【0022】
インバータ制御部19は、本実施形態では、模式的に、3相変調パルス生成部14と、非同期キャリア生成部15と、2相変調パルス生成部16と、同期キャリア生成部17と、矩形波制御パルス生成部18とを有して構成される。即ち、本実施形態において、制御装置1は、少なくとも、3相変調モードと、2相変調モードと、矩形波制御モードとにより回転電機5を駆動制御する。3相変調モードは、U,V,W各相をパルス幅変調する変調モードである。2相変調モードは、3相の内の少なくとも1相を所定の固定期間ハイ状態又はロー状態に固定して、他相をパルス幅変調する変調モードである。尚、固定期間が長くなると、部分的に3相の内の2相が固定され、他の1相がパルス幅変調される場合もあるが、これも2相変調に含まれる。矩形波制御モードは、U,V,W各相のパルスが電気角の1周期の間に1パルスとなる制御であり、1パルス制御とも称される。
【0023】
パルス幅変調では、回転電機5の回転とは同期せず(非同期)に電圧指令vu*,vv*,vw*の波形とキャリアとの関係によってパルスが生成されるが、矩形波制御のパルスは、回転電機5の回転に同期して生成される。従って、キャリアを用いたパルス幅変調は非同期制御とも呼ばれ、矩形波制御は同期制御とも呼ばれる。また、同期制御には、電気角の1周期の間に1パルスではなく、回転電機の回転に同期した2つ以上のパルスを生成する多パルス制御という方式も実用化されている。パルス数を除けば、回転電機の回転に同期するパルスにより制御するという核心部分が共通するため、本実施形態においては、広義の矩形波制御に多パルス制御も含むものとして説明する。
【0024】
3相変調モード及び2相変調モードでは、パルス幅変調が実行される。本実施形態では、3相変調モードにおいては非同期キャリア生成部15により生成される非同期キャリアに基づいてパルス幅変調される。また、2相変調モードにおいては同期キャリア生成部17により生成される同期キャリアに基づいてパルス幅変調される。これら、非同期キャリア、同期キャリアを用いたパルス幅変調の詳細については後述する。
【0025】
本実施形態において3相変調モードにおけるパルス幅変調の変調方式は、空間ベクトルPWM(SVPWM)である。また、2相変調モードにおけるパルス幅変調の変調方式は、不連続PWM(DPWM)である。図2は、要求トルクを縦軸に、回転速度を横軸に取り、SVPWM、DPWM、矩形波(1パルス・多パルス)が適用される領域を模式的に示している。主に、SVPWMは、低回転領域で採用され、DPWMは、中回転領域で採用され、矩形波(1パルス・多パルス)は、高回転領域で採用される。インバータ制御部19は、要求トルクと回転速度とに基づいて、さらには変調率も考慮して、3相変調モードと、2相変調モードと、矩形波制御モードとの何れかを選択的に採用し、インバータ制御信号S1〜S6となるパルスを生成する。
【0026】
尚、SVPWMやDPWMでは、電圧指令vu*,vv*,vw*とキャリアとの関係によってパルスが生成されるが、このキャリアの周波数は切り換え可能となっていてもよい。例えば、要求トルクや回転速度に応じて、キャリア周波数が変更されると好適である。
【0027】
図3は、変調率Mと制御モードとの関係を模式的に示している。図3の上段は、本実施形態の制御装置1が採用する制御モードの遷移形態の一例を示しており、図3の下段は、一般的な制御モードの遷移形態の一例を示している。上述したように、変調率とは、直流電力に対する3相交流電力の実効値の割合を示す指標である。例えば、正負両極間電圧がVdcの直流電力を、Vdcを波高値とする正弦波を基調とする変調として、ほぼ歪みのない正弦波に基づいて正弦波パルス幅変調する場合における最大変調率は、約0.61である。即ち、変調された3相交流の相間電圧の実効値は0.61Vdcである。同様の直流電力を歪みのある正弦波を基調とする変調に相当するSVPWM方式で変調する場合の最大変調率は約0.707である。
【0028】
変調方式に応じた最大変調率を超える変調率で3相交流に変調される場合は、過変調と称される。変調率Mは、理論的には最大0.78まで高めることができ、この場合には1パルス制御によりインバータ4がスイッチング制御される。図3に示す変調率M3は概ね0.707であり、変調率M4は0.78である。変調率M3から変調率M4までの領域は、過変調領域である。図3に示した例では、この過変調領域において多パルス制御が適用される。しかし、この過変調領域においてDPWM方式を用いて2相変調されてもよい。本実施形態における過変調領域での2相変調については、図8や図12を用いて後述する。
【0029】
本実施形態においても、一般的な制御装置と同様に、変調率Mが低い領域では、SVPWM方式やDPWM方式により変調される。ここでは、本実施形態及び一般的な制御装置の双方とも、変調率MがM1(一例としてM1=0.509)まではSVPWM方式で変調され、変調率MがM3(一例としてM3=0.707)まではDPWM方式で変調される例を示している。ここで、変調率MがM2(一例としてM2=0.6)〜M3の領域では、一般的な制御装置が図3の下段に示すように、DPWM方式を用いた非同期制御により2相変調を行うのに対して、本実施形態の制御装置1は部分的に回転電機5の回転に同期した部分同期制御により2相変調を行う。
【0030】
具体的には、DPWM方式を用いた非同期制御により2相変調を行う際には、所定の固定期間を通じてキャリア振幅以上となる振幅を有する電圧指令が設定され、当該電圧指令とキャリアとに基づいて固定パルスが生成される。固定期間以外では、電圧指令の振幅がキャリア振幅未満で変化するので、当該電圧指令とキャリアとに基づいて変調パルスが生成される。つまり、固定パルスは、DPWM方式を用いた非同期制御によりパルス幅の長い変調パルスとして生成されることになる。
【0031】
一方、部分的に回転電機5の回転に同期した部分同期制御により2相変調を行う本実施形態の制御装置1は、回転電機5の回転に同期した固定パルスを生成する。具体的には、制御装置1は、各相において回転電機5の回転に同期させて60°(π/3)ずつ、ハイ固定の期間とロー固定の期間とを設け、この期間に固定パルスを生成する。一方、制御装置1は、これらの固定期間を除く期間は電圧指令とキャリアとを用いて変調パルスを生成する。即ち、制御装置1は、「DPWM(60°固定)」の方式により2相変調を実施する。
【0032】
変調率MがM3=0.707に達して過変調領域となると、本実施形態においても、一般的な制御装置と同様に、2相変調から広義の矩形波制御の1つである多パルス制御へと移行する。さらに、変調率MがM4に達すると、狭義の矩形波制御である1パルス制御に移行する。
【0033】
本実施形態においては、変調率M2までは、回転電機5の回転角度(ロータの磁極位置)θに同期することなく、所定周波数のキャリアに基づいて変調され、制御パルスが生成される。つまり、回転電機5の回転に対して非同期にパルスが生成される非同期制御が実施される。変調率M2から変調率M3までは、少なくとも固定期間において回転電機5の回転に同期させて固定パルスを生成する部分同期制御が実施される。変調率M3以降では、多パルス制御や1パルス制御により、回転電機5の回転に同期した同期制御が実施される。本発明は、DPWMによる2相変調において、少なくとも部分的に回転電機5の回転に同期してパルスが生成される同期制御が実施される点に特徴がある。
【0034】
一般的には、図3の下段に示すように、2相変調の際にも、回転電機5の回転に同期しないDPWM制御の中で2相変調が実施される。上述したように、電圧指令vu*,vv*,vw*の一部の区間をキャリアの振幅以上の振幅とすることで、パルス幅変調の中で強制的に固定期間を作り出して2相変調を行う。つまり、固定パルスは、回転電機5の回転に同期して生成されるものではなく、回転に対して非同期に生成されるので、2相変調においても非同期制御が継続されることになる。このような非同期制御では、キャリアと電圧指令vu*,vv*,vw*との関係を判定してパルスを生成する際の制御遅れにより、高い精度で固定パルスを生成できない場合がある。このため、固定パルスの固定期間の長さ(位相)が設定値と異なってしまう可能性がある。固定パルスの固定期間が不均衡を生じると、2相変調によって励起される3相交流が安定性を欠き、回転電機5に供給する電流に脈動を生じるなど、回転電機5の制御が不安定となる場合がある。
【0035】
一方、本発明においては、変調率が比較的高い領域(ここでは変調率M2以上)においては、2相変調の際にも、少なくとも部分的に回転電機5の回転に同期してパルスを生成する同期制御が実施される。つまり、少なくとも固定期間において回転電機5の回転に同期させて固定パルスを生成する部分同期制御が実施される。従って、キャリアと3相電圧指令vu*,vv*,vw*との関係を判定することなく、精度良く固定パルスを生成することができる。固定パルスの固定期間が安定するので、2相変調によって励起される3相交流が安定し、回転電機5に供給する電流も安定して回転電機5の制御も安定する。
【0036】
非同期制御、同期制御についての理解を容易にするために、非同期制御の制御ブロック図である図4、同期制御の制御ブロック部である図5を利用して、両制御について説明する。また、非同期制御と同期制御とを組み合わせた2相変調の制御ブロック図である図6を利用して、部分同期制御について説明する。
【0037】
非同期制御は、図1に示した3相変調パルス生成部14、非同期キャリア生成部15、及び2相変調パルス生成部16を中核として実行される。本実施形態では、公知のベクトル制御により、SVPWMやDPWMにより出力パルスが生成される。ベクトル制御の概要については図1を利用して上述したので、簡単に説明する。図4に示すように、電圧位相演算部21は、回転角度θと、電圧指令位相θv*と、所定期間における回転角度の変化量Δθとに基づいて、電圧位相θvを演算する。電圧指令位相θv*は、2相の電圧指令vd*とvq*が表す電圧ベクトルの位相角であり、「θv*=tan−1(vq*/vd*)」で求められる。回転角度の変化量Δθに対する所定期間は、例えばパルス幅変調のキャリアの1.5周期である。
【0038】
PWMモード設定部(モード設定部)22Aは、図2及び図3を用いて上述したように、要求トルクT*と回転速度ωと変調率Mとに基づいてパルス幅変調方式を設定する機能部である。本実施形態では、SVPWMとDPWMとの内の一方を選択する。DPWMが3相の内の少なくとも1相を所定の固定期間ハイ状態又はロー状態に固定して、他相をパルス幅変調する2相変調を実施する場合には、PWMモード設定部(モード設定部)22Aは、3相変調(SVPWM)と2相変調(DPWM)との何れかを選択する機能部であるということもできる。尚、この場合の2相変調は、後述する部分同期制御による2相変調とは異なるので、非同期2相変調モードと称する。非同期2相変調モードは、図3に示すように、比較的変調率Mが低い領域における2相変調である。当然ながら、固定期間以外の期間における電圧指令(vu*,vv*,vw*)の振幅を小さくすることによって、固定期間を60°としたままで低変調率に対応させてもよい。
【0039】
3相電圧指令決定部23は、変調率M及び電圧位相θvを用いて、設定された変調方式に従って、3相電圧指令vu*,vv*,vw*を決定する機能部である。上述したように、パルス幅変調のキャリア周波数が可変となっている場合、非同期キャリア生成部15は、要求トルクT*と回転速度ωとに基づき、パルス幅変調のキャリア周波数を決定し、キャリアを生成する。このキャリアは、回転電機5の回転に同期するものではないので、ここでは非同期キャリアと称する。変調パルス生成部24は、3相電圧指令vu*,vv*,vw*と非同期キャリアとに基づいて各相の出力パルスSu,Sv,Swを生成する。非同期キャリアに基づいて生成されるので、出力パルスSu,Sv,Swは非同期パルスとなる。また、これらの出力パルスSu,Sv,Swを利用したインバータ4の制御は非同期制御となる。
【0040】
同期制御は、図1に示した矩形波制御パルス生成部18を中核として実行される。図5に示すように、同期制御の制御ブロックは、電圧位相演算部21と、同期制御モード設定部(モード設定部)22Cと、同期パルス生成部25Cとを有して構成される。電圧位相演算部21は、上述したように、電圧位相θvを演算する機能部である。同期制御モード設定部22Cは、回転速度ω、変調率M、弱め界磁指令fw*に基づいて、同期制御方式(変調方式)を設定する機能部である。本実施形態では、多パルス制御と1パルス制御との内の一方を選択する。尚、弱め界磁指令fw*は、回転電機5が高回転する際に、回転電機5の界磁を弱めて誘起電力を抑制するための指令であり、d軸電流idの調整値として提供される場合がある。同期パルス生成部25Cは、電圧位相θvを用いて、設定された同期制御方式(変調方式)に従って、各相の出力パルスSu,Sv,Swを生成する。同期制御においては、3相電圧指令vu*,vv*,vw*は参照されず、電圧位相θvに基づいて位相調整されて(オフセットされて)、回転電機5の回転に同期した同期パルスとして出力パルスSu,Sv,Swが生成される。
【0041】
次に、図6のブロック図を参照して、部分同期制御による2相変調について説明する。部分同期制御は、図1に示した2相変調パルス生成部16及び同期キャリア生成部17を中核として実行される。非同期制御、同期制御と同様に、電圧位相演算部21により、電圧位相θvが演算される。そして、非同期制御と同様に、3相電圧指令決定部23は、変調率M及び電圧位相θvに基づいて、3相電圧指令vu*,vv*,vw*を決定する。
【0042】
非同期制御の際には、PWMモード設定部(モード設定部)22Aが、SVPWMとDPWMとの内、何れの変調方式を採用するかを設定し、その結果に従って3相電圧指令決定部23が電圧指令vu*,vv*,vw*を決定した。本実施形態では、部分同期制御の際のパルス幅変調にはDPWM方式のみを用いるため、モード設定部による変調方式の設定は必須でない。しかし、後述する2相変調モード設定部(モード設定部)22Bにより、電圧指令vu*,vv*,vw*を生成する変調方式がDPWMであることが改めて設定されてもよい。上述したようにPWMモード設定部(モード設定部)22Aにより設定されるDPWMは「非同期2相変調モード」であったが、2相変調モード設定部(モード設定部)22Bにより設定されるDPWMは「部分同期2相変調モード」となる。ただし、これは出力パルスの生成方法による違いであるから、DPWMに対応する電圧指令vu*,vv*,vw*は、「非同期2相変調モード」と「部分同期2相変調モード」とで同一であっても問題はない。また、詳細は後述するが、2相変調モード設定部(モード設定部)22Bは、「固定期間=60°」となる基本固定モードと、「60°<固定期間<180°」となる拡張固定モードとの2つのモード(固定期間モード)を選択可能に構成されていてもよい。
【0043】
電圧位相演算部21により電圧位相θvが演算されると、同期制御と同様に、変調率Mと電圧位相θvとに基づいて、同期パルスが生成される。この同期パルスは、2相変調では、固定パルスに相当する。図6における同期信号生成部25A及び固定パルス生成部25Bは、図5における同期パルス生成部25Cに対応する。同期信号生成部25Aは、同期パルスを生成するために、回転電機5の回転に同期した各相同期信号Usync,Vsync,Wsyncを生成して、固定パルス生成部25Bに提供する。固定パルス生成部25Bは、これら各相同期信号Usync,Vsync,Wsyncに基づいて固定パルスを生成する。
【0044】
また、同期信号生成部25Aは、固定期間以外の期間における変調パルスの生成にも関与する。同期キャリア生成部17は、各相同期信号Usync,Vsync,Wsyncに基づいて、回転電機5の回転に同期した同期キャリアを生成する。変調パルス生成部24は、3相電圧指令vu*,vv*,vw*と同期キャリアとに基づいて各相の変調パルス(準同期変調パルス)を生成する。即ち、同期キャリアに基づいて生成される変調パルスは、少なくとも間接的に回転電機5の回転に同期するので、準同期変調パルスとなる。パルス合成部27は、固定パルス生成部25Bにより生成された固定パルスと、変調パルス生成部24により生成された変調パルス(準同期変調パルス)とを合成して、2相変調パルスとしての各相の出力パルスSu,Sv,Swを生成する。
【0045】
尚、同期信号生成部25Aは、2相変調モード設定部(モード設定部)22Bにより設定された2相変調モードに応じて各相同期信号Usync,Vsync,Wsyncを生成する。2相変調は、3相の内の少なくとも1相を所定の固定期間ハイ状態又はロー状態に固定して、他相を変調する変調方式である。本実施形態では、部分同期2相変調モードとしてこの固定期間が60°(=π/3)に固定される基本固定モードと、60°を超え180°未満の間で変動する拡張固定モードとの2つのモードを選択可能に構成されている。当然ながら、固定期間の位相長さによって同期信号Usync,Vsync,Wsyncは異なるものとなるので、同期信号生成部25Aは、2相変調モード設定部(モード設定部)22Bにより設定されたモード(固定期間モード)に応じて同期信号Usync,Vsync,Wsyncを生成する。固定期間が、「60°<固定期間<180°」となる拡張固定モードの詳細については、後述する。
【0046】
図4から図6を参照して説明した各制御ブロックには、同一符号を付して例示したように、機能の一部又は全てが重複する機能部が含まれている。従って、インバータ制御部19は、図4から図6の機能ブロックを全て個別に有することなく、各制御モードにおいて各機能部を選択的に用いたり、統合したりすることによって、より小規模に構築可能である。例えば、図4から図6において同一符号で示した機能部は明らかに共用可能である。また、例えば、PWMモード設定部22A、2相変調モード設定部22B、同期制御モード設定部22Cは、入力がほぼ等価であるから、3つの機能を備えた1つの「モード設定部」として構築されてもよい。同様に、同期信号生成部25A、固定パルス生成部25B、同期パルス生成部25Cも、統合された1つの機能部として構築可能である。さらに、非同期制御の場合には同期制御によるパルスが生成されず、同期制御の場合には非同期制御によるパルスが生成されない。このため、非同期制御及び同期制御において、パルス合成部27を介して出力パルスSu,Sv,Swを出力しても一方がそのまま出力されるだけである。従って、非同期制御、部分同期制御、同期制御の全てにおいてパルス合成部27を介して出力パルスSu,Sv,Swを出力するように構成されても問題ないことは明らかである。
【0047】
以下、具体的なパルスの生成例について波形図も参照しながら説明する。図7は、「固定期間=60°」の基本固定モードでの部分同期2相変調によるパルスの一例を示すタイムチャートである。図8は、「60°<固定期間<180°」の拡張固定モードでの部分同期2相変調によるパルスの一例を示すタイムチャートである。ここでは、出力パルスSu,Sv,Swの何れかを代表して、出力パルスSPとして例示する。また、3相電圧指令vu*,vv*,vw*の何れかを代表して電圧指令V*として例示する。パルス幅変調のキャリアの振幅は、Vdc/2とする。
【0048】
尚、図7において電圧指令V*は、ハイからロー、ローからハイへの遷移の途中に指令値が振動する(反転する)位相を有している。DPWMでは、電圧指令V*の基本波である正弦波のピーク(及びボトム)の前後において直流電圧の正負両極から離間する分の振幅を加えて電圧指令V*を生成している。3相の電圧指令を平衡させ、瞬時値をゼロとするために、振幅を調整された相以外の2相から補正値を差し引き、振幅を縮小する補正が実施される。3相電圧指令のトップ及びボトムは1周期の間に合計6回出現するから、60度ごとにこの補正値の極性が変化することになる。この変化点の位相は、電圧指令V*が振幅中心を超えて極性が変わる位相に一致する。変調率Mが相対的に低い場合(過変調領域よりも低い変調率の場合)には、電圧指令V*と補正値との極性が異なるため、図7に示すように電圧指令V*が反転する。一方、変調率Mが相対的に高い場合(過変調領域の場合)には、電圧指令V*と補正値との極性が同極性となるため、図8に示すように電圧指令V*が反転しない。このような電圧指令V*の波形については、公知であるから、上述した以上の詳細な説明は省略する。
【0049】
上述したように、2相変調パルス生成部16は、3相の内の少なくとも1相を図7〜図9に示すように所定の固定期間TFの間ハイ状態又はロー状態に固定して、他相を変調する2相変調によりインバータ4をスイッチング制御する2相変調パルス(SP)を生成する。図7〜図9では、ハイ状態への固定期間をTFHで示し、ロー状態への固定期間をTFLで示している。具体的には、2相変調パルス生成部16は、固定期間TFを回転電機5の回転に同期させて固定パルスを生成すると共に、固定期間TF以外の期間TMではパルス幅変調により変調パルスを生成する。図7〜図9では、期間TM1は、固定パルスがハイ状態の固定期間TFHを終了してからロー状態の固定期間TFLを開始するまでの期間を示す。また、期間TM2は、固定パルスがロー状態の固定期間TFLを終了してからハイ状態の固定期間TFHを開始するまでの期間を示す。
【0050】
上述したように、ハイ状態への固定期間TFH、ロー状態への固定期間TFLは共に回転角度θに起因する電圧位相θvに基づいて、同期信号生成部25Aにより決定される。そして、これらの固定期間TF(TFH,TFL)に基づいて固定パルス生成部25Bにより固定パルスが生成されるので、固定パルスのパルス幅は安定する。固定期間TF以外の期間TMではパルス幅変調により変調パルスが生成されるが、図7及び図8に示すように、変調パルスは固定パルスに対して対称に生成されている。つまり、変調パルスと固定パルスとの関係を安定させ、2相変調によって励起される3相交流の安定性がさらに向上するように変調パルスが生成されている。
【0051】
このように変調パルスを生成するために、同期キャリア生成部17は、固定期間TF以外の期間において回転電機5の回転に同期する同期キャリアを3相各相に対して生成する。そして、変調パルス生成部24は、これら同期キャリアに基づいて、少なくとも間接的に回転電機5の回転に同期した準同期変調パルスとして変調パルスを生成する。固定期間TFとパルス幅変調のキャリアとが非同期であると、固定期間TFと固定期間TFとの間の期間TMに生成される変調パルスと、固定パルスとの関係が安定しない可能性がある。そして、変調パルスと固定パルスとの関係が安定しないと、2相変調によって励起される3相交流の安定性も損なわれる可能性がある。しかし、本実施形態においては、同期キャリアを用いることによって、固定パルスと変調パルスとの関係が共に回転電機5の回転状態に対して規定され、両パルスの相対関係が安定する。その結果、2相変調によって励起される3相交流の安定性がさらに向上する。
【0052】
本実施形態では、図7及び図8に示すように、さらに好適に、ハイ状態への固定期間TFHの前後、つまり、ハイ状態の固定パルスの前後ではロー状態の準同期変調パルスが生成され、ロー状態への固定期間TFLの前後、つまり、ロー状態の固定パルスの前後ではハイ状態の準同期変調パルスが生成される。これにより、固定パルスと準同期変調パルスとが、特に固定パルスの立ち上がり及び立ち下がりのタイミングで干渉することがない。従って、固定パルスの固定期間がさらに安定する。固定パルスの先頭及び末尾、即ち固定パルスの立ち上がり及び立ち下がりのタイミングにおいて、固定パルスと準同期変調パルスとが干渉すると、固定パルスのパルス幅が設定値と異なってしまう可能性がある。仮に、準同期変調パルスが固定パルスに対して対称に生成され、準同期変調パルスと固定パルスとの相対関係が安定していても、固定パルスと準同期変調パルスとが干渉すると、2相変調によって励起される3相交流の実効値が電圧指令V*と異なってしまう可能性がある。このため、本実施形態では、さらに固定パルスのパルス幅を安定させ、2相変調によって励起される3相交流の安定性が向上するように同期キャリアが生成されている。
【0053】
具体的には、同期キャリア生成部17は、図9において一点鎖線で示すように、以下の要領で同期キャリアを生成する。即ち、同期キャリア生成部17は、固定パルスの固定期間TFの終了時及び開始時にピーク及びボトムの一方が一致する三角波の同期キャリアを生成するものである。つまり、電圧指令V*は、固定期間TFにおいて同期キャリアの振幅以上の値に設定されており、固定パルスの固定期間TFの終了時及び開始時に三角波の同期キャリアのピーク及びボトムの一方を一致させている。具体的には、期間TM1及び期間TM2において次のように同期キャリアが生成される。
【0054】
同期キャリア生成部17は、固定パルスがハイ状態の固定期間TFHを終了してからロー状態の固定期間TFLを開始するまでの期間TM1では、準同期変調パルスがロー状態から始まりハイ状態で終わるように、ピーク及びボトムを固定パルスの終了時及び開始時に一致させて三角波の同期キャリアを生成する。一方、固定パルスがロー状態の固定期間TFLを終了してからハイ状態の固定期間TFHを開始するまでの期間TM2では、準同期変調パルスがハイ状態から始まりロー状態で終わるように、ピーク及びボトムを固定パルスの終了時及び開始時に一致させて三角波の同期キャリアを生成する。従って、固定パルスと変調パルスとが、特に固定パルスの立ち上がり及び立ち下がりのタイミングで干渉することなくなく、安定した固定パルスが生成される。
【0055】
本実施形態では、キャリアに対して電圧指令V*の方が小さい場合にはロー状態の変調パルスが生成され、キャリアに対して電圧指令V*の方が大きい場合にはハイ状態の変調パルスが生成される。このような比較論理の場合には、同期キャリア生成部17は、固定パルスがハイ状態の固定期間TFHを終了してからロー状態の固定期間TFLを開始するまでの期間TM1では、ハイ状態の固定期間TFHの終了時においてピークから始まり、ロー状態の固定期間TFLの開始時においてボトムで終わる三角波の同期キャリアを生成する。図9に示すように、固定期間TFHの終了後、電圧指令V*はキャリアのピークであるVdcよりも小さい値となる。これにより、準同期変調パルスは、ロー状態から始まる。また、固定期間TFLの開始前、電圧指令V*はキャリアのボトムである0よりも大きい値となる。これにより、準同期変調パルスは、ハイ状態で終わる。同様の考え方により、同期キャリア生成部17は、固定パルスがロー状態の固定期間TFLを終了してからハイ状態の固定期間TFHを開始するまでの期間TM2では、ロー状態の固定期間TFLの終了時においてボトムから始まり、ハイ状態の固定期間TFHの開始時においてトップで終わる三角波の同期キャリアを生成する。これにより、期間TM2において、準同期変調パルスは、ハイ状態から始まりロー状態で終わることになる。
【0056】
図9には、このような同期キャリアが、固定期間TFと固定期間TFとの間の期間TMにおいて、1.5周期/2.5周期/3.5周期分生成される場合の準同期変調パルスを示している。同期キャリアの周波数は、制御装置1の演算周期や、ノイズ耐性などから設定可能な範囲で、できるだけ高い周波数であると好適である。発明者らによる実験解析により、同期キャリアを含めキャリアの周波数が高い方が、モータ電流が安定することが確かめられている。
【0057】
ここで、本発明により生成される2相変調パルスSPの効果をシミュレーションにより確認した結果を示す。図10は、3相のパルス及びU相電流Iuの波形例を示す波形図である。図中、Su,Sv,Swは、それぞれU相、V相、W相のインバータ制御信号の元となるパルスSPを示す。図11は、U相電流Iuの安定性を示す波形図である。図10(a)及び図11(a)は、キャリアの周波数が5kHzの場合を例示しており、図10(b)及び図11(b)は、キャリアが同期キャリアであり、その周波数が10kHzの場合を例示している。図10(a)及び図10(b)を参照すると、同期キャリアを用いた図10(b)では図10(a)に比べてパルスSPの対称性が高い。さらに、キャリアの周波数も高いので、PWM変調による変調パルスの分解能も高くなっている。その結果、図11(a)及び(b)の比較により明らかなように、U相電流Iu(回転電機電流)が安定する。
【0058】
〔他の実施形態〕
(1)上述した実施形態においては、図3に例示したように、変調率Mが高くなるに従って、部分同期制御によるDPWM、即ち部分同期2相変調から多パルス制御を経由して1パルス制御に移行する場合を例示した。この場合、部分同期2相変調における固定期間は、基本固定期間(=60°)であり、一定の値である。しかし、本発明は、この形態に限定されるものではない。図12に示すように、変調率M3から変調率M4の過変調領域において、図8に例示したように拡張固定期間(60°<固定期間<180°)による2相変調を実施してもよい。尚、固定期間が180°に達すると、電気角の1周期においてパルスが1つだけとなるので、必然的に1パルス制御となる。従って、この形態によれば、基本固定期間による2相変調から、拡張固定期間によるフレキシブルな2相変調を経由して、円滑に1パルス制御へ移行することができる。尚、固定期間が長くなると、部分的に3相の内の2相が固定され、他の1相がパルス幅変調される場合も生じるが、既に述べたようにこれも本発明における2相変調に含まれる。
【0059】
(2)図3及び図12を用いて例示した上記各実施形態においては、非同期制御におけるパルス幅変調の方式として、SVPWMとDPWMとを用い、変調率M1まではSVPWMにより変調し、変調率M1以降はDPWMにより変調する場合を例示した。しかし、2種類の変調の方式に限定されることなく、1種類の変調方式により変調率M2までパルス幅変調を行っても良いし、3種類以上の変調方式により変調率M2までパルス幅変調を行っても良い。また、SVPWMを用いて非同期制御を実施した場合において、変調率M1以降、部分同期制御を実施してもよい。具体的には、図13に示すように、非同期制御においてはSPWMのみを実施し、DPWMを実施する際には部分同期制御を行ってもよい。また、この際、部分同期制御を開始する変調率Mは、図13に例示する変調率M1に限定されることなく、M=M2であってもよい。
【0060】
(3)上記実施形態においては、三角波の同期キャリアが固定パルスの固定期間TFの終了時及び開始時にピーク及びボトムの一方が一致するように生成される例を示したが、本発明はこの構成に限定されるものではない。固定パルスに対して変調パルスの対称性が高ければ、ある程度回転電機5の電流は安定する。所望の範囲内で電流の安定性が確保されるのであれば、同期キャリアのピーク及びボトムと、固定パルスの固定期間TFの始端及び終端とが一致していなくてもよい。
【0061】
(4)上記実施形態においては、固定期間以外の期間では、同期キャリアに基づき、パルス幅変調により変調パルスが生成される例を示したが、本発明はこの構成に限定されるものではない。固定パルスは、回転電機5の回転に同期して生成されることにより、固定期間に不均衡を生じることなく精度よく生成される。従って、2相変調によって励起される3相交流の対称性が向上し、ある程度回転電機5の電流は安定する。所望の範囲内で電流の安定性が確保されるのであれば、キャリアは回転電機5の回転に対して同期していない非同期キャリアであってもよい。
【0062】
(5)上記実施形態においては、図1に示すように、1つの回転電機を駆動制御する駆動装置2並びに制御装置1を例として説明した。しかし、本発明はそのような構成に限定されることなく、複数の回転電機を駆動制御する駆動装置並びに制御装置を有する構成であっても、適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、直流電力と3相交流電力との間で電力変換するインバータを備えて回転電機を駆動する回転電機駆動装置を制御する回転電機制御装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1:回転電機制御装置
2:回転電機駆動装置
4:インバータ
5:回転電機
16:2相変調パルス生成部
17:同期キャリア生成部
M:変調率
TF,TFH,TFL:固定期間
TFH:ハイ状態の固定期間
TFL:ロー状態の固定期間
TM,TM1,TM2:固定期間以外の期間
TM1:ハイ状態の固定期間を終了してからロー状態の固定期間を開始するまでの期間
TM2:ロー状態の固定期間を終了してからハイ状態の固定期間を開始するまでの期間
Vdc:直流電力の正負両極間電圧
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力と3相交流電力との間で電力変換するインバータを備えて回転電機を駆動する回転電機駆動装置を制御する回転電機制御装置であって、
3相の内の少なくとも1相を所定の固定期間ハイ状態又はロー状態に固定して、他相を変調する2相変調により前記インバータをスイッチング制御する2相変調パルスを生成する2相変調パルス生成部を備え、
前記2相変調パルス生成部は、前記固定期間を前記回転電機の回転に同期させて固定パルスを生成すると共に、当該固定期間以外の期間ではパルス幅変調により変調パルスを生成する回転電機制御装置。
【請求項2】
前記固定期間以外の期間において前記回転電機の回転に同期する同期キャリアを3相各相に対して生成する同期キャリア生成部を備え、
前記2相変調パルス生成部は、前記同期キャリアに基づいて前記変調パルスを前記回転電機の回転に少なくとも間接的に同期した準同期変調パルスとして生成する請求項1に記載の回転電機制御装置。
【請求項3】
前記同期キャリア生成部は、前記固定パルスの固定期間の終了時及び開始時にピーク及びボトムの一方が一致する三角波の前記同期キャリアを生成するものであり、
前記固定パルスがハイ状態の前記固定期間を終了してからロー状態の前記固定期間を開始するまでの期間では、前記準同期変調パルスがロー状態から始まりハイ状態で終わるように、前記ピーク及び前記ボトムを前記固定パルスの終了時及び開始時に一致させ、
前記固定パルスがロー状態の前記固定期間を終了してからハイ状態の前記固定期間を開始するまでの期間では、前記準同期変調パルスがハイ状態から始まりロー状態で終わるように、前記ピーク及び前記ボトムを前記固定パルスの終了時及び開始時に一致させる請求項2に記載の回転電機制御装置。
【請求項4】
前記2相変調パルス生成部は、前記直流電力に対する前記3相交流電力の割合を示す変調率が、前記直流電力の正負両極間電圧を波高値とする正弦波を基調とする変調における最大変調率を超える過変調領域に設定されているとき、前記固定パルスの前記固定期間を前記変調率に応じて拡大させる請求項1から3の何れか一項に記載の回転電機制御装置。
【請求項1】
直流電力と3相交流電力との間で電力変換するインバータを備えて回転電機を駆動する回転電機駆動装置を制御する回転電機制御装置であって、
3相の内の少なくとも1相を所定の固定期間ハイ状態又はロー状態に固定して、他相を変調する2相変調により前記インバータをスイッチング制御する2相変調パルスを生成する2相変調パルス生成部を備え、
前記2相変調パルス生成部は、前記固定期間を前記回転電機の回転に同期させて固定パルスを生成すると共に、当該固定期間以外の期間ではパルス幅変調により変調パルスを生成する回転電機制御装置。
【請求項2】
前記固定期間以外の期間において前記回転電機の回転に同期する同期キャリアを3相各相に対して生成する同期キャリア生成部を備え、
前記2相変調パルス生成部は、前記同期キャリアに基づいて前記変調パルスを前記回転電機の回転に少なくとも間接的に同期した準同期変調パルスとして生成する請求項1に記載の回転電機制御装置。
【請求項3】
前記同期キャリア生成部は、前記固定パルスの固定期間の終了時及び開始時にピーク及びボトムの一方が一致する三角波の前記同期キャリアを生成するものであり、
前記固定パルスがハイ状態の前記固定期間を終了してからロー状態の前記固定期間を開始するまでの期間では、前記準同期変調パルスがロー状態から始まりハイ状態で終わるように、前記ピーク及び前記ボトムを前記固定パルスの終了時及び開始時に一致させ、
前記固定パルスがロー状態の前記固定期間を終了してからハイ状態の前記固定期間を開始するまでの期間では、前記準同期変調パルスがハイ状態から始まりロー状態で終わるように、前記ピーク及び前記ボトムを前記固定パルスの終了時及び開始時に一致させる請求項2に記載の回転電機制御装置。
【請求項4】
前記2相変調パルス生成部は、前記直流電力に対する前記3相交流電力の割合を示す変調率が、前記直流電力の正負両極間電圧を波高値とする正弦波を基調とする変調における最大変調率を超える過変調領域に設定されているとき、前記固定パルスの前記固定期間を前記変調率に応じて拡大させる請求項1から3の何れか一項に記載の回転電機制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−130220(P2012−130220A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281821(P2010−281821)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]