説明

圧縮機

【課題】転がり軸受け、及び他の摺動部へ潤滑油を確実に供給できる圧縮機を提供する。
【解決手段】圧縮機(10)は、ケーシング(20)の底部の油を油ポンプ(70a)で汲み上げ、この油を油供給路(42)を介して転がり軸受け(46)よりも上側の摺動部(58)へ供給する油供給機構(70)と、この上側の摺動部(58)へ供給された後の油を転がり軸受け(46)へ送る油返送機構(80)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒を圧縮する圧縮機に関し、特に駆動軸を支持する転がり軸受けを備えた圧縮機に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、冷媒を圧縮する圧縮機が知られている。特許文献1には、この種のスクロール式の圧縮機が開示されている。
【0003】
特許文献1に開示の圧縮機は、ケーシングの内部に電動機が固定され、この電動機に駆動軸が連結される。駆動軸の上部には、スクロール式の圧縮機構が連結する。この圧縮機構では、固定スクロールに対して可動スクロールが偏心回転することで、圧縮室で冷媒が圧縮される。
【0004】
この圧縮機では、駆動軸の下部が転がり軸受けによって支持される。駆動軸の下端には、油ポンプが取り付けられ、油ポンプの吸込口がケーシング底部の油溜まりに開口する。圧縮機の運転時には、油ポンプで汲み上げられた油が、駆動軸の内部の油供給路を流れ、各摺動部へ供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−247069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図8に示すように、特許文献1に開示の圧縮機では、駆動軸(140)の内部の油供給路(142)を流れる油が、ピン軸側(図示省略)と、転がり軸受け(146)側とに分流して供給される。具体的には、油ポンプ(170a)に汲み上げられて油供給路(142)に流入した油は、転がり軸受け(146)よりも高い箇所において、径方向外方へ延びる分岐路(142a)と、上方へ延びる主流路(142b)とに分流する。分岐路(142a)へ分流した油は、転がり軸受け(146)の上側の空間に案内され、転がり軸受け(146)の内輪部(146a)と外輪部(146b)との間を流れる。これにより、転がり軸受け(146)では、その摺動部が油によって潤滑される。転がり軸受け(146)の潤滑に利用された油は、下方へ流出し、ケーシングの底部の油溜まりに回収される。一方、主流路(142b)を上方へ流れた油は、駆動軸(140)の上端部のピン軸受けや、その他の摺動部の潤滑に利用される。
【0007】
このように、油供給路(142)を流れる油の一部を分流させて、転がり軸受け(146)へ供給する方式では、転がり軸受け(146)へ供給される油の量が過剰になると、これとは逆ピン軸受け等の上側の摺動部へ供給される油の量が不足してしまう。その結果、上側の摺動部で潤滑不良を招いてしまい、圧縮機の信頼性を損ねてしまう、という問題があった。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、転がり軸受け、及び他の摺動部へ潤滑油を確実に供給できる圧縮機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、圧縮機を対象とし、ケーシング(20)と、該ケーシング(20)に固定される電動機(30)と、該電動機(30)に連結する駆動軸(40)と、該駆動軸(40)に駆動されて冷媒を圧縮する圧縮機構(50)と、上記駆動軸(40)を支持する転がり軸受け(46)と、上記駆動軸(40)の内部に形成される油供給路(42)と該駆動軸(40)の下部に連結される油ポンプ(70a)とを有し、上記ケーシング(20)の底部の油を該油ポンプ(70a)で汲み上げ、該油を上記油供給路(42)を介して上記転がり軸受け(46)よりも上側の摺動部(58)へ供給する油供給機構(70)と、該上側の摺動部(58)へ供給された後の油を上記転がり軸受け(46)へ送る油返送機構(80)とを備えていることを特徴とする。
【0010】
第1の発明では、ケーシング(20)の底部の油が、油ポンプ(70a)によって上方へ汲み上げられる。この油は、駆動軸(40)の内部の油供給路(42)を経由して、上側の摺動部(58)へ供給される。これにより、この摺動部(58)の潤滑がなされる。上側の摺動部(58)の潤滑に利用された油は、油返送機構(80)によって転がり軸受け(46)へ送られる。その結果、転がり軸受け(46)の潤滑がなされる。即ち、本発明では、油ポンプ(70a)で汲み上げられた油が、上側の摺動部(58)、転がり軸受け(46)を順に流れる。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、上記油返送機構(80)は、上記ケーシング(20)の外部に配設されて流入端(101)及び流出端(102)がそれぞれケーシング(20)に接続される外部油戻し管(100)と、上記上側摺動部(58)へ供給された後の油を上記外部油戻し管(100)の流入端(101)へ案内する摺動側案内部(81,82)と、該外部油戻し管(100)の流出端(102)を流出した油を上記転がり軸受け(46)へ送る軸受側案内部(85,86)とを有していることを特徴とする。
【0012】
第2の発明では、上側摺動部(58)の潤滑に利用された油が、摺動側案内部(81,82)に案内されて外部油戻し管(100)の流入端(101)に流入する。この油は、ケーシング(20)の外側において、外部油戻し管(100)の内部を流れ、その後に流出端(102)よりケーシング(20)の内部へ送られる。この油は、軸受側案内部(85,86)に案内されて転がり軸受け(46)へ送られる。その結果、転がり軸受け(46)の潤滑がなされる。
【0013】
第3の発明は、第2の発明において、上記上側摺動部(58)の少なくとも一部は、上記電動機(30)よりも上方に配置され、上記外部油戻し管(100)は、上記流入端(101)が上記ケーシング(20)内における上記電動機(30)の上側に開口し、上記流出端(102)が上記ケーシング(20)内における上記電動機(30)の下側に開口していることを特徴とする。
【0014】
第3の発明では、上側摺動部(58)の潤滑に利用された油が、ケーシング(20)内の電動機(30)の上側から外部油戻し管(100)に流入する。外部油戻し管(100)を流れる油は、ケーシング(20)内の電動機(30)の下側に流出し、その後に転がり軸受け(46)の潤滑に利用される。
【0015】
第4の発明は、第2又は第3の発明において、上記外部油戻し管(100)には、上記流入端(101)と流出端(102)との間の中間部位から分岐して上記ケーシング(20)の底部の油溜まり(26)に開口する分岐管(103)が接続されていることを特徴とする。
【0016】
第4の発明では、外部油戻し管(100)へ送られた油の一部が、分岐管(103)に分流してケーシング(20)の底部の油溜まり(26)へ直接送られる。
【0017】
第5の発明は、第1の発明において、上記油返送機構(80)は、上記上側摺動部(58)へ供給された後の油を上記ケーシング(20)の内壁へ案内する摺動側案内部(81,82,83)と、該ケーシング(20)の内壁の油を上記転がり軸受け(46)へ送る軸受側案内部(85,86)とを備えていることを特徴とする。
【0018】
第5の発明では、油供給路(42)を経由して上側摺動部(58)へ供給された後の油が、摺動側案内部(81,82,83)によってケーシング(20)の内壁へ案内される。ケーシング(20)の内壁に案内された油は、ケーシング(20)の内壁に沿って下方へ流れ、その後に軸受側案内部(85,86)に案内されて転がり軸受け(46)へ供給される。
【0019】
第6の発明は、第2乃至第5のいずれか1つの発明において、上記軸受側案内部(85,86)は、上記ケーシング(20)の内壁に沿うように形成されて油が流入する捕捉路(85c)と、該捕捉路(85c)内の油を上記転がり軸受け(46)へ送る油導入路(86)とを備えていることを特徴とする。
【0020】
第6の発明では、軸受側案内部(85,86)側へ送られた油が、捕捉路(85c)の内部に回収される。捕捉路(85c)内の油は、油導入路(86)を経由して転がり軸受け(46)へ供給される。
【0021】
第7の発明は、第6の発明において、流入端が上記捕捉路(85c)と接続し、上記転がり軸受け(46)をバイパスしてケーシング(20)の底部へ油を送るバイパス流路(90)を備えていることを特徴とする。
【0022】
第7の発明では、油導入路(86)と並列にバイパス流路(90)が設けられる。つまり、捕捉路(85c)に回収された油は、油導入路(86)とバイパス流路(90)とに分流する。油導入路(86)へ送られた油は、転がり軸受け(46)へ供給されて潤滑に利用される。バイパス流路(90)を流れた油は、ケーシング(20)の底部の油溜まり(26)へ直接送られる。
【0023】
第8の発明は、第1乃至第7のいずれか1つの発明において、上記油ポンプ(70a)は、容積式の油ポンプであることを特徴とする。
【0024】
第8の発明では、容積式の油ポンプ(70a)によって油が汲み上げられ、この油が、上側摺動部(58)、及び転がり軸受け(46)へ順に供給される。
【発明の効果】
【0025】
本発明では、油ポンプ(70a)で汲み上げた油を、上側摺動部(58)へ送った後、転がり軸受け(46)へ送るようにしている。例えば図8の従来例では、油を転がり軸受け(146)側と、上側の摺動部とへ分流して送るようにしているので、転がり軸受け(146)へ供給された油が過剰となった場合に、上側の摺動部へ供給される油量が不足してしまう。これに対し、本発明では、上側摺動部(58)へ供給された後の油を、転がり軸受け(46)へ送っているため、上側摺動部(58)と転がり軸受け(46)との双方へ確実に油を供給できる。従って、これらの摺動部(46,58)を確実に潤滑でき、圧縮機の信頼性を確保できる。
【0026】
上記第2の発明によれば、上側摺動部(58)へ送った油を外部油戻し管(100)を経由して転がり軸受け(46)へ供給している。これにより、転がり軸受け(46)へ供給される油の流れは、ケーシング(20)内の圧縮対象の流体によって乱され微粒化されることがなくなり、油の供給量を十分に確保できる。その結果、転がり軸受け(46)の潤滑性能を向上できる。
【0027】
また、外部油戻し管(100)を流れる油は、ケーシング(20)の外部の空気に放熱するため、この油を冷却することができる。その結果、転がり軸受け(46)へ供給される油の温度を低下でき、転がり軸受け(46)の摺動部での油膜を確実に形成して潤滑性能を確保できる。
【0028】
第3の発明によれば、電動機(30)の上側の油を外部油戻し管(100)を経由して電動機(30)の下側へ送ることができる。これにより、ケーシング(20)の内周壁面と電動機(30)の外周部との間の油通路(例えばコアカット)の面積を小さくしながら、電動機(30)の上側の油を確実に転がり軸受け(46)側へ送ることができる。その結果、電動機(30)の固定子コアのヨーク幅を大きくして、電動機(30)の性能を向上できる。
【0029】
第4の発明によれば、外部油戻し管(100)を流れる油の一部を、分岐管(103)を経由して直接的に油溜まり(26)に戻すようにしている。その結果、油溜まり(26)の油面の低下を抑制でき、潤滑油の不足を未然に回避できる。
【0030】
上記第5の発明によれば、上側摺動部(58)へ供給した後の油を、ケーシング(20)の内壁に送った後、この内壁の油を転がり軸受け(46)へ供給している。このため、上側摺動部(58)から転がり軸受け(46)までの油の流路が確保し易くなる。その結果、ケーシング(20)内の各構成部品の簡素化を図ることができ、且つ転がり軸受け(46)へ速やかに油を供給できる。
【0031】
上記第6の発明では、ケーシング(20)の内壁側の油を捕捉路(85c)に回収した後、油導入路(86)を経由して転がり軸受け(46)へ供給している。このため、ケーシング(20)の内壁に沿って流れる油を、転がり軸受け(46)へ確実に送ることができる。
【0032】
一方、第7の発明では、捕捉路(85c)に回収した油の一部をバイパス流路(90)を経由して、直接的にケーシング(20)の底部へ戻すようにしている。その結果、油溜まり(26)の油面の低下を抑制でき、潤滑油の不足を未然に回避できる。
【0033】
第8の発明では、上側摺動部(58)と転がり軸受け(46)との双方へ油を確実に供給できるため、容積式の油ポンプ(70a)の容量を低減できる。従って、油ポンプ(70a)の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、実施形態に係る圧縮機の縦断面図であり、油(冷凍機油)の流れを白抜きの矢印で表したものである。
【図2】図2は、実施形態に係る転がり軸受け及び油ポンプの近傍を拡大した縦断面図であり、油(冷凍機油)の流れを白抜きの矢印で表したものである。
【図3】図3は、実施形態に係る油ポンプの内部の平面図である。
【図4】図4は、実施形態に係る転がり軸受けの近傍を第1の方向から視た斜視図であり、油(冷凍機油)の流れを白抜きの矢印で表したものである。
【図5】図5は、実施形態に係る転がり軸受けの近傍を、図4の方向と逆側から視た斜視図であり、油(冷凍機油)の流れを白抜きの矢印で表したものである。
【図6】図6は、実施形態の変形例1に係る圧縮機の縦断面図であり、油(冷凍機油)の流れを白抜きの矢印で表したものである。
【図7】図7は、実施形態の変形例2に係る圧縮機の縦断面図であり、油(冷凍機油)の流れを白抜きの矢印で表したものである。
【図8】図8は、従来例に係る転がり軸受け及び油ポンプの近傍を拡大した縦断面図であり、油(冷凍機油)の流れを白抜きの矢印で表したものである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて図1〜図5を参照しながら詳細に説明する。
【0036】
本発明の実施形態に係る圧縮機(10)は、スクロール式の圧縮機である。圧縮機(10)は、図示しない冷凍装置の冷媒回路に接続されている。この冷凍装置では、圧縮機(10)で圧縮された冷媒が、凝縮器(放熱器)で放熱し、減圧機構で減圧される。減圧された冷媒は、蒸発器で蒸発して圧縮機(10)に吸入される。即ち、冷凍装置の冷媒回路では、冷媒が循環して蒸気圧縮式の冷凍サイクルが行われる。
【0037】
図1に示すように、圧縮機(10)は、ケーシング(20)と、電動機(30)と、駆動軸(40)と、圧縮機構(50)とを備えている。
【0038】
ケーシング(20)は、縦長の円筒状の密閉容器で構成される。ケーシング(20)は、軸方向の両端が開放する円筒状の胴部(21)と、該胴部(21)の軸方向の一端(上端)を閉塞する第1鏡板部(22)と、胴部(21)の軸方向の他端(下端)を閉塞する第2鏡板部(23)とを有している。第2鏡板部(23)の下側には、ケーシング(20)を支持する脚部(24)が形成される。
【0039】
電動機(30)は、ケーシング(20)の内周壁に固定される固定子(31)と、該固定子(31)の内部に挿通される回転子(38)とを有している。固定子(31)は、略筒状の固定子コア(32)と、該固定子コア(32)に巻回される巻き線(図示省略)とを有している。固定子コア(32)は、その外周面がケーシング(20)の内周面に固定される。固定子コア(32)の外周面には、固定子コア(32)を軸方向に貫通するコアカット(34)が形成される。コアカット(34)とケーシング(20)との間には、冷媒や油が流通可能な固定子側流路(84)が形成される。固定子コア(32)は、略筒状に形成され、その内部に駆動軸(40)が挿通されて連結する。
【0040】
駆動軸(40)は、上記ケーシング(20)の胴部(21)の上端から該ケーシング(20)の底部に亘って、該ケーシング(20)の軸方向に延びている。駆動軸(40)の下端部には、容積式の油ポンプ(70a)が固定されている。駆動軸(40)の内部には、油供給路(42)が形成される。
【0041】
圧縮機構(50)は、ハウジング(51)と、可動スクロール(55)と、固定スクロール(60)と、自転阻止部材(65)とを備えている。
【0042】
ハウジング(51)は、ケーシング(20)の内周面に固定されている。ハウジング(51)は、軸方向の一端側(上端側)に環状の凹部(52)が形成された略筒状に形成される。ハウジング(51)の軸方向の他端側(下端側)の内部には、主軸受け(53)が形成される。主軸受け(53)は、駆動軸(40)を回転自在に支持するラジアル軸受けである。主軸受け(53)の内周面には、滑り軸受け(53a)が挿通されている。
【0043】
ハウジング(51)の凹部(52)の内部には、駆動軸(40)のピン軸(41)が突出して収容されている。ピン軸(41)は、駆動軸(40)の主軸(40a)よりも小径に構成されている。ピン軸(41)の軸心は、駆動軸(40)の主軸(40a)の軸心に対して偏心している。
【0044】
なお、上記ハウジング(51)の上面には、可動スクロール(55)の自転阻止部材(65)が設けられる。自転阻止部材(65)は、例えばオルダム継手で構成される。自転阻止部材(65)は、可動スクロール(55)の可動側鏡板部(56)とハウジング(51)とに、摺動自在に嵌め込まれている。
【0045】
可動スクロール(55)は、可動側鏡板部(56)と、可動側ラップ(57)と、ピン軸受け(58)とを有している。可動側鏡板部(56)は、円板状に形成される。可動側鏡板部(56)の厚さ方向の一端側(上端側)には、可動側ラップ(57)が立設している。可動側ラップ(57)は、渦巻き状に形成される。可動側鏡板部(56)の他端側(下端側)には、径方向の中心部位に筒状のピン軸受け(58)が形成される。ピン軸受け(58)の内部には、筒状の滑り軸受け(58a)を介してピン軸(41)が挿通される。
【0046】
固定スクロール(60)は、固定側鏡板部(61)と、外縁部(62)と、固定側ラップ(63)とを有している。固定側鏡板部(61)は、円板状に形成される。固定側鏡板部(61)には、可動スクロール(55)側の面に、外縁部(62)と固定側ラップ(63)とが立設している。
【0047】
外縁部(62)は、可動スクロール(55)の外周端部に形成される筒状に形成される。外縁部(62)の軸方向端面(図1における下端面)は、可動スクロール(55)の可動側鏡板部(56)の軸方向端面(図1における上端面)と摺接し、これによりスラスト面が形成される。固定側ラップ(63)は、外縁部(62)の内部に配置される渦巻き状に形成される。固定側ラップ(63)は、可動側ラップ(57)の側壁と径方向に噛合する。
【0048】
圧縮機構(50)では、可動スクロール(55)と固定スクロール(60)との間に、冷媒を圧縮する圧縮室(C)が区画される。固定スクロール(60)の固定側鏡板部(61)には、吐出ポート(67)と吐出チャンバ(68)とが形成される。吐出ポート(67)は、固定側鏡板部(61)の径方向中心部に形成され、圧縮室(C)に連通している。吐出チャンバ(68)は、吐出ポート(67)の流出端に接続している。吐出チャンバ(68)は、吐出流路(図示省略)を通じて、ケーシング(20)内におけるハウジング(51)の下側の空間と連通する。つまり、ハウジング(51)の下側の空間は、高圧の吐出冷媒で満たされる高圧空間(25)を構成する。
【0049】
圧縮機(10)のケーシング(20)には、吸入管(11)と吐出管(12)とが接続されている。固定スクロール(60)の固定側鏡板部(61)には、吸入孔(図示省略)に隣接して補助吸入孔(図示省略)が形成されている。吸入管(11)は、この補助吸入孔を介して圧縮室(C)と連通する。吸入管(11)の流入端は、冷媒回路の低圧ガスラインに接続している。吐出管(12)は、ケーシング(20)の胴部(21)を径方向に貫通している。吐出管(12)の流出端は、冷媒回路の高圧ガスラインに接続している。吐出管(12)の流入端は、高圧空間(25)におけるハウジング(51)と電動機(30)との間に開口している。高圧空間(25)では、高圧冷媒中に含まれる油が、ケーシング(20)の底部に溜まり込む。つまり、ケーシング(20)の底部には、圧縮機(10)の内部の各摺動部を潤滑するための潤滑油が溜まり込む、油溜まり(26)が形成される。
【0050】
ケーシング(20)内の油溜まり(26)の近傍には、下部軸受け部材(43)が設けられる。下部軸受け部材(43)は、略環状に形成され、その外周面がケーシング(20)の内壁に固定される。下部軸受け部材(43)の径方向の中心部には、玉軸受け(46)が保持される。具体的に、図2にも示すように、下部軸受け部材(43)の中心部には、下側保持部材(44)と軸受けカバー(45)とが設けられる。下側保持部材(44)は、略C字状に形成された板部材で構成され、駆動軸(40)の外周面に固定される。軸受けカバー(45)は、駆動軸(40)の外周面において、玉軸受け(46)の上側に固定される。軸受けカバー(45)は、駆動軸(40)に固定される筒部(45a)と、該筒部(45a)の上端から径方向外方に延出する環状の鍔部(45b)とを有する。下部軸受け(43)と駆動軸(40)と下側保持部材(44)と軸受けカバー(45)との間には、玉軸受け(46)が回転自在に収容される。
【0051】
玉軸受け(46)は、駆動軸(40)を回転自在に支持する転がり軸受けを構成する。玉軸受け(46)は、内輪部(46a)と外輪部(46b)と複数の玉部(46c)とを有している。内輪部(46a)は、駆動軸(40)の外周面に固定される。外輪部(46b)は、内輪部(46a)の径方向外側に対向して配置される。玉部(46c)は、内輪部(46a)と外輪部(46b)との間に回転自在に保持される。即ち、玉軸受け(46)では、内輪部(46a)と玉部(46c)との間、あるいは玉部(46c)と外輪部(46b)との間に摺動面が形成される。
【0052】
〈油供給構造〉
本実施形態の圧縮機(10)は、油溜まり(26)に溜まった油を、ピン軸受け(58)や圧縮機構(50)等の各摺動部へ供給するための油供給機構(70)を備えている。この油供給機構(70)について、図1〜図3を参照しながら説明する。油供給機構(70)は、駆動軸(40)の下部に取り付けられる油ポンプ(70a)と、駆動軸(40)の内部に形成される油供給路(42)とを有している。
【0053】
図2及び図3にも示すように、油ポンプ(70a)は、いわゆるトロコイド式の容積ポンプで構成される。油ポンプ(70a)は、ポンプケース(71)、アウターロータ(72)、ポンプシャフト(73)、及びインナーロータ(74)を有している。
【0054】
ポンプケース(71)は、下部軸受け部材(43)の下端部に固定されている。ポンプケース(71)は、環状に形成されて下部軸受け部材(43)に保持される環状板部(71a)と、該環状板部(71a)から油溜まり(26)側に突出する油吸込部(71b)とを有している。油吸込部(71b)の内部には、上側に向かうに連れて徐々に流路断面積が小さくなる、油吸込口(71c)が形成される。ポンプケース(71)の内部には、容積室(V)から流出した油を、ポンプシャフト(73)の内部流路(73a,73b)へ導くためのケース内流路(71d)が形成される。
【0055】
アウターロータ(72)は、環状板部(71a)の内部に嵌合している。図3に示すように、アウターロータ(72)は、略円環状に形成され、その内周面に複数の略円弧状(より厳密にはトロコイド曲線形状)の外側歯部(72a)が形成される。複数の外側歯部(72a)は、周方向に等間隔置きに配列され、インナーロータ(74)側に向かって膨出している。
【0056】
ポンプシャフト(73)は、駆動軸(40)の下端部に形成された挿通口(40b)に、筒状保持部材(75)を介して連結している。これにより、ポンプシャフト(73)は、駆動軸(40)と一体的に回転する。ポンプシャフト(73)の内部には、径方向中継路(73a)と、軸方向中継路(73b)とが形成される。径方向中継路(73a)は、ポンプシャフト(73)を径方向に貫通している。径方向中継路(73a)の流入端は、ケース内流路(71d)と連通する。軸方向中継路(73b)は、ポンプシャフト(73)の上部を軸方向に貫通する。軸方向中継路(73b)の流入端は、径方向中継路(73a)と連通する。軸方向中継路(73b)の流出端は、ポンプシャフト(73)の上端面に開口し、駆動軸(40)内部の油供給路(42)と連通する。
【0057】
インナーロータ(74)は、略円環状に形成され、ポンプシャフト(73)の外側に嵌合する。具体的に、インナーロータ(74)の内側には、軸直角断面が略D字状の保持穴(74a)が形成される。この保持穴(74a)の平坦面(74b)にポンプシャフト(73)の平坦壁(73c)が係合することで、ポンプシャフト(73)の外側にインナーロータ(74)が回転自在に保持される。インナーロータ(74)の外周面には、アウターロータ(72)の外側歯部(72a)に対応するように、複数の内側歯部(74c)が形成される。即ち、油ポンプ(70a)では、各内側歯部(74c)と各外側歯部(72a)とが互いに歯合する。これにより、内側歯部(74c)と外側歯部(72a)との間には、油を搬送するための容積室(V)が形成される。
【0058】
油供給路(42)は、駆動軸(40)の油流入口(42a)と、該油流入口(42a)と連通して駆動軸(40)を軸方向に延びる主油供給路(42b)と、主油供給路(42b)から径方向外方に延びる径方向供給路(42c)とを有している。油流入口(42a)は、駆動軸(40)の下部に形成されている。油流入口(42a)には、油ポンプ(70a)の軸方向中継路(73b)が連通している。主油供給路(42b)は、駆動軸(40)の下部から該駆動軸(40)の上端に亘って形成される。径方向供給路(42c)は、ハウジング(51)の内側の主軸受け(53)に開口している。つまり、径方向供給路(42c)を流出した油は、主軸受け(53)内の滑り軸受け(53a)の摺動部へ供給される。
【0059】
図1に示すように、駆動軸(40)の上端部と可動側鏡板部(56)との間には、油連絡室(48)が形成される。主油供給路(42b)の上端の開口部は、油連絡室(48)に連通する。油連絡室(48)の油の一部は、可動側鏡板部(56)に形成された油路(56a)へ流出する。可動側鏡板部(56)の油路(56a)へ送られた油は、可動スクロール(55)と固定スクロール(60)との間のスラスト面や、圧縮室(C)内の各摺動部へ供給される。また、油連絡室(48)の油の一部は、ピン軸受け(58)内の滑り軸受け(58a)の摺動部へも供給される。つまり、ピン軸受け(58)は、玉軸受け(46)よりも上方に配置されて油が供給される、上側摺動部を構成する。
【0060】
〈油返送機構〉
本実施形態の圧縮機(10)は、油供給機構(70)によって各摺動部へ供給された後の油を、下部軸受け部材(43)内の玉軸受け(46)へ供給するための、油返送機構(80)を備えている。この油返送機構(80)の詳細について、図1、図2、図4、及び図5を参照しながら説明する。油返送機構(80)は、ピン軸流路(81)、ハウジング内流路(82)、油案内板(83)、固定子側流路(84)、油捕捉板(85)、及び油導入路(86)を有している。
【0061】
ピン軸流路(81)は、ピン軸(41)の外周寄りに形成されている。ピン軸流路(81)は、油連絡室(48)と連通してピン軸(41)の外周寄り部位を軸方向に延びている。ピン軸流路(81)の流出端は、ハウジング(51)の凹部(52)の内部に連通している。
【0062】
ハウジング内流路(82)は、凹部(52)内から径方向外方に延びる第1流路(82a)と、該第1流路(82a)から下方へ延びる第2流路(82b)とを有する。第2流路(82b)は、ケーシング(20)の胴部(21)の内壁に沿って形成される。第2流路(82b)の流出端(下端)は、高圧空間(25)側に開口している。
【0063】
油案内板(83)は、高圧空間(25)におけるハウジング(51)と電動機(30)との間に配置される。油案内板(83)は、上側に向かって開口面積が拡がる上側拡径部(83a)と、電動機(30)のコアカット(34)側に臨む下側案内部(83b)とを有する。ピン軸流路(81)、ハウジング内流路(82)、及び油案内板(83)は、ピン軸受け(58)へ供給された油を、ケーシング(20)の内壁へ案内する第1案内部(摺動側案内部)を構成する。
【0064】
固定子側流路(84)は、コアカット(34)の内部に形成される。つまり、油案内板(83)を流出した油は、ケーシング(20)の内壁を伝うように、固定子側流路(84)を下方へ流れる。
【0065】
油捕捉板(85)は、捕捉板(85a)と支持板(85b)とを有している。図4及び図5に示すように、捕捉板(85a)は、駆動軸(40)の軸方向(即ち、上下方向)に直角な断面が、径方向外方に開放された略コの字状に形成されている。捕捉板(85a)とケーシング(20)の内壁との間には、該ケーシング(20)の内壁に沿うように上方に開口する捕捉路(85c)が形成される。固定子側流路(84)と捕捉路(85c)とは、軸方向に略一致している。
【0066】
支持板(85b)は、捕捉板(85a)の下端部に一体的に接続している。支持板(85b)は、捕捉板(85a)から径方向内方へ水平に延びる板状に形成される。支持板(85b)は、下部軸受け部材(43)の上面に固定される。
【0067】
油導入路(86)は、油案内溝(86a)、油流通孔(86b)、及び油導入室(86c)を有している。油案内溝(86a)は、支持板(85b)の下面に沿うように軸受け部材(43)の上面を径方向に延びて形成される。油案内溝(86a)の流入側(径方向外側)は、捕捉路(85c)と連通する。油流通孔(86b)は、油案内溝(86a)から径方向内方へ連続して、下部軸受け部材(43)の内部まで延びている。油流通孔(86b)の口径は、玉軸受け(46)へ適量の油を供給できる程度に設定される。油導入室(86c)は、軸受けカバー(45)の筒部(45a)の外周側に形成される。油導入室(86c)は、略円筒状の空間であり、その外周側に油流通孔(86b)が開口する。油導入室(86c)の下側には、玉軸受け(46)が形成される。油導入室(86c)は、内輪部(46a)と外輪部(46b)との間の隙間と連通する。つまり、油導入室(86c)からは、玉軸受け(46)の摺動部へ油が供給される。油捕捉板(85)及び油導入路(86)は、ケーシング(20)の内壁の油を玉軸受け(46)へ送る第2案内部(軸受側案内部)を構成する。
【0068】
駆動軸(40)の下端部と下部軸受け部材(43)の内縁部との間には、玉軸受け(46)の下側に油排出室(87)が形成される。油排出室(87)は、玉軸受け(46)の内輪部(46a)と外輪部(46b)との間の隙間に連通する。ポンプケース(71)の環状板部(71a)には、切り欠き溝(88)が形成される。切り欠き溝(88)は、油排出室(87)と連通し且つ油溜まり(26)に臨んでいる。
【0069】
図4及び図5に示すように、下部軸受け部材(43)には、バイパス流路(90)が形成される。バイパス流路(90)は、第1バイパス路(91)と第2バイパス路(92)とを有している。各バイパス路(91,92)の流入端は、捕捉路(85c)とそれぞれ連通している。第1バイパス路(91)と第2バイパス路(92)とは、下部軸受け部材(43)の外周縁部をそれぞれ周方向両側に延びる円弧溝で構成される。各バイパス路(91,92)の流出端は、油溜まり(26)に臨んでいる。つまり、バイパス流路(90)は、玉軸受け(46)をバイパスして油溜まり(26)に油を直接送るように構成される。
【0070】
−運転動作−
圧縮機(10)の基本的な運転動作について、図1を参照しながら説明する。圧縮機(10)の運転時には、電動機(30)が通電されて回転子(38)が回転する。これに伴い駆動軸(40)が回転し、ピン軸(41)が主軸(40a)に対して偏心回転する。その結果、圧縮機構(50)で圧縮動作が行われる。
【0071】
具体的に、圧縮機構(50)では、可動スクロール(55)が自転することなしに公転運動する。すると、冷媒回路の冷媒(低圧ガス冷媒)は、吸入管(11)から、低圧空間、補助吸入孔を経由して圧縮機構(50)の内部に吸い込まれる。圧縮機構(50)では、固定側ラップ(63)の外周側から冷媒が吸い込まれる。可動スクロール(55)が更に旋回すると、固定側ラップ(63)と可動側ラップ(57)との間に、閉空間となる圧縮室(C)が区画される。この圧縮室(C)は、その容積を次第に縮小しながら固定スクロール(60)の中心部に近づいていく。これにより、圧縮室(C)で冷媒が圧縮される。この圧縮室(C)が吐出ポート(67)と連通すると、圧縮室(C)内の冷媒が吐出ポート(67)を通じて吐出チャンバ(68)に吐出される。
【0072】
吐出チャンバ(68)に吐出された冷媒(高圧ガス冷媒)は、吐出流路(図示省略)を通じて、高圧空間(25)へ送られる。高圧空間(25)の冷媒は、吐出管(12)を通じてケーシング(20)の外部の冷媒回路へ送られる。
【0073】
〈油の供給動作〉
次いで、圧縮機(10)における油の供給動作について、図1〜図5を参照しながら説明する。上記のように圧縮機(10)が運転されると、駆動軸(40)の回転に伴い油ポンプ(70a)も駆動される。油ポンプ(70a)では、図3に示すインナーロータ(74)が、アウターロータ(72)の内部を回転する。これにより、容積室(V)の容積が拡縮し、油溜まり(26)の油が油ポンプ(70a)内に吸い込まれる。
【0074】
具体的に、油溜まり(26)の油は、ポンプケース(71)の油吸込口(71c)を通じて容積室(V)に吸い込まれる。容積室(V)の油は、ケース内流路(71d)、径方向中継路(73a)、軸方向中継路(73b)を順に流れ、駆動軸(40)内部の油供給路(42)に流入する。
【0075】
図1に示すように、駆動軸(40)の内部に流入した油は、主油供給路(42b)を上方へ流れる。主油供給路(42b)の油の一部は、径方向供給路(42c)を通じて主軸受け(53)の摺動部へ供給される。これにより、滑り軸受け(53a)と駆動軸(40)との間の摺動部が潤滑される。主油供給路(42b)を更に上方へ流れる油は、油連絡室(48)に流出する。
【0076】
油連絡室(48)の油の一部は、油路(56a)を経由して、固定スクロール(60)のスラスト面や、圧縮室(C)の内部の各ラップ(57,63)の摺動部へ供給される。また、油連絡室(48)の油の一部は、ピン軸受け(58)の摺動部にも供給される。
【0077】
また、油連絡室(48)の油は、ピン軸流路(81)の内部を下方に流れ、ハウジング(51)の凹部(52)の内部に流出する。また、ピン軸受け(58)の潤滑に利用された後の油も、ハウジング(51)の凹部(52)の内部に流出する。さらに、主軸受け(53)の潤滑に利用された油のうち、ハウジング(51)下端から高圧空間(25)に漏れ出す以外の油もまた、ハウジング(51)の凹部(52)の内部に流出する。
【0078】
凹部(52)内の油は、ハウジング内流路(82)を経由して、ケーシング(20)の内壁側に送られる。ケーシング(20)の内壁を伝って下方へ流れ落ちる油は、油案内板(83)に捕捉され、コアカット(34)内の固定子側流路(84)に案内される。固定子側流路(84)に沿って下方へ流れる油は、油捕捉板(85)の捕捉路(85c)内に捕捉される。捕捉路(85c)を下方へ流れる油は、一部が油案内溝(86a)内に流入し、残りは各バイパス路(91,92)へ流れる。
【0079】
油案内溝(86a)を流れる油は、油流通孔(86b)に流入する。油流通孔(86b)の流路断面積は、油案内溝(86a)の流路断面積よりも小さくなっているため、油流通孔(86b)へ導入される油の量が制限される。油流通孔(86b)を流出した油は、油導入室(86c)を経由して玉軸受け(46)の内部に流入する。
【0080】
具体的に、玉軸受け(46)では、筒状の油導入室(86c)から、内輪部(46a)と外輪部(46b)との隙間の全周に亘って、油が供給される。これにより、内輪部(46a)と玉部(46c)との間の摺動部、あるいは外輪部(46b)と玉部(46c)との間の摺動部が潤滑される。玉軸受け(46)の潤滑に利用された油は更に下方へ流れ、油排出室(87)及び切り欠き溝(88)を通過して、油溜まり(26)に回収される。また、各バイパス路(91,92)へ送られた油は、下部軸受け(43)の上面を周方向に流れ、玉軸受け(46)の潤滑に利用されずに、油溜まり(26)に回収される。
【0081】
−実施形態の効果−
上記実施形態では、油ポンプ(70a)で汲み上げた油を、ピン軸受け(58)の潤滑に利用した後、玉軸受け(46)に供給している。このため、本実施形態では、ピン軸受け(58)と玉軸受け(46)との双方へ確実に油を供給でき、両者の軸受け(58,46)の信頼性を向上できる。
【0082】
また、上記実施形態では、ピン軸受け(58)に供給した油を、ケーシング(20)の内壁に案内した後、玉軸受け(46)側に供給している。このため、油を玉軸受け(46)に供給するための流路が、他の構成部品(例えば電動機(30)等)と干渉しにくくなる。その結果、圧縮機(10)の構造の簡素化を図ることができる。また、ピン軸受け(58)側に供給した油を、玉軸受け(46)側に速やかに送ることができる。
【0083】
更に、上記実施形態では、電動機(30)を冷媒で冷却するためのコアカット(34)を、油の流路として利用している。よって、圧縮機(10)の構造の簡素化を図ることができる。
【0084】
また、上記実施形態では、ケーシング(20)の内壁の油を、油捕捉板(85)の内部に回収している。このため、玉軸受け(46)に確実に油を供給できる。
【0085】
また、上記実施形態では、油案内溝(86a)の内部を流出した油を、油流通孔(86b)を通じて玉軸受け(46)へ供給している。油流通孔(86b)は、油案内溝(86a)よりも流路断面積が小さいため、玉軸受け(46)へ一定量の油を確実に供給できる。
【0086】
更に、上記実施形態では、油捕捉板(85)の内部に回収した油の一部を、バイパス流路(90)を介して直接的に油溜まり(26)へ送るようにしている。このため、油溜まり(26)の油面が極端に低くなることを回避でき、各摺動部へ確実に油を供給できる。
【0087】
また、上記実施形態では、ピン軸受け(58)、主軸受け(53)への供給油量に加えて、玉軸受け(46)への供給油量を見込んだ従来例の油ポンプと比較すると、玉軸受け(46)への供給油量分が不要となる。従って、容積型の油ポンプ(70a)の小型化を図ることができる。
【0088】
《実施形態の変形例》
上記実施形態に係る油返送機構(80)を以下のような各変形例の構成としてもよい。
【0089】
−変形例1−
変形例1に係る圧縮機(10)は、上記実施形態と油返送機構(80)の構成が異なっている。図6に示すように、変形例1に係る油返送機構(80)は、外部油戻し管(100)を有する一方、上記実施形態に係る油案内板(83)及び固定子側流路(84)が省略された構成となっている。また、変形例1では、ハウジング内流路(82)の第1流路(82a)が、ハウジング(51)の外周面まで延びており、その径方向外方の端部がケーシング(20)の内周壁面に向かって開口している。ピン軸流路(81)及びハウジング内流路(82)は、ピン軸受け(58)へ供給された油を、外部油戻し管(100)へ案内する摺動側案内部を構成する。なお、変形例1では、電動機(30)のコアカット(34)によって形成される油の流路の断面積が、上記実施形態よりも小さくなっている。
【0090】
変形例1の油返送機構(80)は、ケーシング(20)の外部に配設される外部油戻し管(100)を有している。外部油戻し管(100)の流入端(101)は、ケーシング(20)の胴部(22)の上端寄りの部位を貫通してハウジング内流路(82)の流出端に挿通されている。外部油戻し管(100)の流入端(101)の外周縁部は、継手部材(105)によってケーシング(20)に固定されている。外部油戻し管(100)の流出端(102)は、ケーシング(20)の胴部(22)の下端寄りの部位を貫通している。外部油戻し管(100)の流出端(102)は、油捕捉板(85)の捕捉路(85c)の内部に開口している。これにより、外部油戻し管(100)の流出端(102)から流出した油が、捕捉路(85c)に回収される。油捕捉板(85)は、外部油戻し管(100)の流出端(102)を流出した油を転がり軸受け(46)へ送る軸受側案内部を構成する。
【0091】
変形例1では、ピン軸受け(58)等の摺動部に供給された油が、上述した実施形態と同様にして、ハウジング(51)の凹部(52)の内部に流出する。凹部(52)内の油は、ハウジング内流路(82)を経由して、外部油戻し管(100)の流入端(101)に流入する。外部油戻し管(100)内の油は、ケーシング(20)の外部で下方に流れ落ち、流出端(102)を通過して油捕捉板(85)の捕捉路(85c)内に捕捉される。捕捉路(85c)を下方へ流れた油は、一部が油案内溝(86a)内に流入し、残りは各バイパス路(91,92)へ流れる。
【0092】
油案内溝(86a)を流れる油は、油流通孔(86b)及び油導入室(86c)(図4及び図5を参照)を順に通過して、玉軸受け(46)の内部に流入する。玉軸受け(46)の潤滑に利用された油は、更に下方へ流れ、油排出室(87)及び切り欠き溝(88)を通過して、油溜まり(26)に回収される。
【0093】
以上のように、変形例1では、ピン軸受け(58)等の摺動部に供給された油が、ケーシング(20)の外側の外部油戻し管(100)を経由して玉軸受け(46)の摺動部へ送られる。このため、玉軸受け(46)へ供給される油の流れは、ケーシング(20)内の冷媒によって微粒化されることがなく、その供給量の低下を回避できる。その結果、玉軸受け(46)の摺動部の潤滑性能を向上できる。
【0094】
また、外部油戻し管(100)を流れる油は、ケーシング(20)の外側の空気へ放熱して冷却されるため、玉軸受け(46)へ供給される油の温度を低減できる。その結果、玉軸受け(46)の摺動部で油膜を確実に形成でき、潤滑性能を更に向上できる。
【0095】
また、外部油戻し管(100)は、ケーシング(20)内における電動機(30)の上側の空間の油を、ケーシング(20)内における電動機(30)の下側の空間へ供給するように配設されている。このため、ピン軸受け(58)等の摺動部へ供給した油を、ケーシング(20)と電動機(30)との間を通過させずに、玉軸受け(46)側へ送ることができる。その結果、電動機(30)のコアカット(34)の面積を小さくすることができ、固定子コア(32)のヨーク幅の大型化を図ってモータ効率を向上できる。
【0096】
−変形例2−
図7に示す変形例2に係る圧縮機(10)では、変形例1に係る外部油戻し管(100)に分岐管(103)が接続されている。分岐管(103)は、外部油戻し管(100)の流入端(101)と流出端(102)との間の中間部位から分岐し、その流出部(103a)がケーシング(20)の底部の油溜まり(26)に開口している。変形例2では、ピン軸受け(58)等の潤滑に利用された後、外部油戻し管(100)へ流入した油の一部が、分岐管(103)を経由して油溜まり(26)に直接的に供給される。その結果、玉軸受け(46)側へ供給される油が過剰となることを回避でき、これにより、油溜まり(26)の油量が不足してしまうのを回避できる。
【0097】
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0098】
上記実施形態や各変形例では、油捕捉板(85)内に回収した油の一部をバイパス流路(90)を通じて直接的に油溜まり(26)へ返すようにしている。しかしながら、このバイパス流路(90)を省略した構成としてもよい。
【0099】
上記実施形態や各変形例では、ピン軸受け(58)の潤滑に利用された後の油を、玉軸受け(46)へ送るようにしている。しかしながら、例えば主軸受け(53)等の他の摺動部(玉軸受け(46)よりも上側の摺動部)の潤滑に利用された後の油を、玉軸受け(46)へ送る構成としてもよい。
【0100】
上記実施形態や各変形例では、転がり軸受けとして玉軸受け(46)を用いているが、玉以外の転動体を用いた構成(例えばころ軸受け)等を採用することもできる。
【0101】
また、上記実施形態や各変形例では、油ポンプ(70a)として、トロコイド式の容積ポンプを用いているが、ケーシング(20)内で生じる冷媒の圧力差を利用する、差圧式のポンプ、あるいは駆動軸(40)の回転力を利用する、遠心式のポンプ等、他の油ポンプ(70a)を採用することもできる。
【0102】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0103】
以上説明したように、本発明は、冷媒を圧縮する圧縮機に関し、特に駆動軸を支持する転がり軸受けを備えた圧縮機について有用である。
【符号の説明】
【0104】
20 ケーシング
26 油溜まり
30 電動機
40 駆動軸
42 油供給路
46 玉軸受け(転がり軸受け)
50 圧縮機構
70 油供給機構
70a 油ポンプ
80 油返送機構
81 ピン軸流路(摺動側案内部)
82 ハウジング内流路(摺動側案内部)
83 油案内板(摺動側案内部)
85 油捕捉板(潤滑側案内部)
86 油導入路(潤滑側案内部)
86 油導入路
90 バイパス流路
100 外部油戻し管
101 流入端
102 流出端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング(20)と、
上記ケーシング(20)に固定される電動機(30)と、
上記電動機(30)に連結する駆動軸(40)と、
上記駆動軸(40)に駆動されて冷媒を圧縮する圧縮機構(50)と、
上記駆動軸(40)を支持する転がり軸受け(46)と、
上記駆動軸(40)の内部に形成される油供給路(42)と、該駆動軸(40)の下部に連結される油ポンプ(70a)とを有し、上記ケーシング(20)の底部の油を該油ポンプ(70a)で汲み上げ、該油を上記油供給路(42)を介して上記転がり軸受け(46)よりも上側の摺動部(58)へ供給する油供給機構(70)と、
上記上側の摺動部(58)へ供給された後の油を上記転がり軸受け(46)へ送る油返送機構(80)とを備えている圧縮機。
【請求項2】
請求項1において、
上記油返送機構(80)は、上記ケーシング(20)の外部に配設されて流入端(101)及び流出端(102)がそれぞれケーシング(20)に接続される外部油戻し管(100)と、上記上側摺動部(58)へ供給された後の油を上記外部油戻し管(100)の流入端(101)へ案内する摺動側案内部(81,82)と、該外部油戻し管(100)の流出端(102)を流出した油を上記転がり軸受け(46)へ送る軸受側案内部(85,86)とを有していることを特徴とする圧縮機。
【請求項3】
請求項2において、
上記上側摺動部(58)の少なくとも一部は、上記電動機(30)よりも上方に配置され、
上記外部油戻し管(100)は、上記流入端(101)が上記ケーシング(20)内における上記電動機(30)の上側に開口し、上記流出端(102)が上記ケーシング(20)内における上記電動機(30)の下側に開口していることを特徴とする圧縮機。
【請求項4】
請求項2又は3において、
上記外部油戻し管(100)には、上記流入端(101)と流出端(102)との間の中間部位から分岐して上記ケーシング(20)の底部の油溜まり(26)に開口する分岐管(103)が接続されていることを特徴とする圧縮機。
【請求項5】
請求項1において、
上記油返送機構(80)は、上記上側摺動部(58)へ供給された後の油を上記ケーシング(20)の内壁へ案内する摺動側案内部(81,82,83)と、該ケーシング(20)の内壁の油を上記転がり軸受け(46)へ送る軸受側案内部(85,86)とを備えていることを特徴とする圧縮機。
【請求項6】
請求項2乃至5のいずれか1つにおいて、
上記軸受側案内部(85,86)は、上記ケーシング(20)の内壁に沿うように形成されて油が流入する捕捉路(85c)と、該捕捉路(85c)内の油を上記転がり軸受け(46)へ送る油導入路(86)とを備えていることを特徴とする圧縮機。
【請求項7】
請求項6において、
流入端が上記捕捉路(85c)と接続し、上記転がり軸受け(46)をバイパスしてケーシング(20)の底部へ油を送るバイパス流路(90)を備えていることを特徴とする圧縮機。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1つにおいて、
上記油ポンプ(70a)は、容積式の油ポンプであることを特徴とする圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−36459(P2013−36459A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252434(P2011−252434)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】