説明

圧電振動片、圧電振動子及び発振器

【課題】共振周波数が安定し、周波数特性を向上させることができる圧電振動片の提供。
【解決手段】水晶振動片1は、水晶の原石などから、水晶の結晶軸としての互いに直交するX軸、Y軸、Z軸に対して所定の角度で切り出されたZ板を基材とし、外形形状がエッチングによって形成された水晶振動片であって、基部10と、基部10からY軸方向に延びる腕部15と腕部15の先端部に形成され腕部15より幅が広い錘部16とを有する一対の振動腕11と、を備え、振動腕11が、腕部15と錘部16との結合部に、腕部15から錘部16に近づくに連れて幅が広がるテーパー部18を有し、テーパー部18と腕部15との成す角度が140度〜170度の範囲内であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電振動片、この圧電振動片を備えた圧電振動子及びこの圧電振動片を備えた発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数の棒状の腕部と、腕部より幅が広く、腕部の一方の端部に形成された錘部とを有する振動腕と、腕部の他方の端部を結合する基部と、を備え、腕部と錘部との結合部に、テーパー部を有する圧電振動片が開示されている。
特許文献1の圧電振動片は、テーパー部を設けることによって、振動腕が振動する際に、腕部と錘部との結合部に応力集中をおこすことがなく、基本振動モードに影響を与えることがないので、安定した振動を得ることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−5896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記圧電振動片は、通常、エッチングによって外形形状が形成されている。そして、水晶を基材とした圧電振動片においては、水晶の結晶軸に対する方向によってエッチング速度が異なるエッチング異方性を有する。
このエッチング異方性に起因して、圧電振動片は、テーパー部と腕部との成す角度によっては、エッチング時に、例えば、腕部より薄いヒレ状の異形部が、テーパー部の側面に残ることがある。
これにより、圧電振動片は、振動時や落下衝撃時などに、異形部のクラック、欠けなどの損傷や、異形部上に形成された被膜の剥離などが発生し、振動腕の振動状態が変化することによって、振動周波数(共振周波数)がシフトしたり、ばらついたりする虞がある。
この結果、圧電振動片は、共振周波数が不安定となり、周波数特性が劣化する虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]本適用例にかかる圧電振動片は、水晶の結晶軸としての互いに直交するX軸、Y軸、Z軸に対して所定の角度で切り出されたZ板を基材とし、外形形状がエッチングによって形成された圧電振動片であって、基部と、前記基部から前記Y軸方向に延びる少なくとも1本の腕部と前記腕部の先端部に形成され前記腕部より幅が広い錘部とを有する振動腕と、を備え、前記振動腕は、前記腕部と前記錘部との結合部に、前記腕部から前記錘部に近づくに連れて幅が広がるテーパー部を有し、前記テーパー部は、前記腕部との成す角度が140度〜170度の範囲内であることを特徴とする。
【0007】
これによれば、圧電振動片は、振動腕が腕部と錘部との結合部に、腕部から錘部に近づくに連れて幅が広がるテーパー部を有し、テーパー部の腕部との成す角度が140度〜170度の範囲内である。
この範囲内であれば、圧電振動片は、エッチングによる外形形成時に、テーパー部の側面に前述の異形部が残ることを回避できる。
この結果、圧電振動片は、異形部に起因した共振周波数のシフトやばらつきが発生しないことから、共振周波数が安定し、周波数特性を向上させることができる。
なお、テーパー部の側面に異形部が残らない上記角度の範囲については、発明者らが現物との整合性を検証した上でのエッチングのシミュレーションによる解析結果から得た知見である。
【0008】
[適用例2]上記適用例にかかる圧電振動片において、前記振動腕を複数本備え、前記複数本の振動腕と、前記基部とを含んで音叉を構成することが好ましい。
【0009】
これによれば、圧電振動片は、複数本の振動腕と基部とを含んで音叉を構成することから、周波数特性が向上した音叉型圧電振動片を提供できる。
【0010】
[適用例3]本適用例にかかる圧電振動子は、上記適用例1または適用例2に記載の圧電振動片と、前記圧電振動片を収容するパッケージと、を備えたことを特徴とする。
【0011】
これによれば、圧電振動子は、周波数特性が向上した圧電振動片を備えていることから、周波数特性を向上させることができる。
【0012】
[適用例4]本適用例にかかる発振器は、上記適用例1または適用例2に記載の圧電振動片と、前記圧電振動片を発振させる発振回路を備えた回路素子と、前記圧電振動片及び前記回路素子を収容するパッケージと、を備えたことを特徴とする。
【0013】
これによれば、発振器は、周波数特性が向上した圧電振動片を備えていることから、周波数特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1の実施形態の圧電振動片の概略構成を示す模式図であり、(a)は平面図、(b)は(a)の断面図。
【図2】図1(a)の要部拡大図。
【図3】テーパー部と腕部との成す角度とテーパー部の異形部の有無との関係を示す図。
【図4】変形例の圧電振動片の概略構成を示す模式図であり、(a)は平面図、(b)は(a)の断面図。
【図5】第2の実施形態の圧電振動子の概略構成を示す模式図であり、(a)は平面図、(b)は(a)の断面図。
【図6】第3の実施形態の発振器の概略構成を示す模式図であり、(a)は平面図、(b)は(a)の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面を参照して説明する。
【0016】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態の圧電振動片の概略構成を示す模式図であり、図1(a)は平面図、図1(b)は、図1(a)のA−A線での断面図である。図2は、図1(a)のB部拡大図である。
【0017】
図1に示すように、圧電振動片としての水晶振動片1は、水晶の原石などから、水晶の結晶軸としての互いに直交するX軸、Y軸、Z軸に対して所定の角度で切り出されたZ板を基材とし、外形形状がフォトリソグラフィ技術を用いたエッチング(ウエットエッチング)によって形成されている。
ここで、Z板とは、切り出し面(主面10a)がZ軸に対して略直交したものをいい、このZ軸に直交した主面10aが、X軸のプラス側から見てY軸からZ軸の方向へ反時計回りまたは時計回りに0度〜数度の範囲で回転した状態で切り出されたものも含まれる。
水晶振動片1は、X軸が電気軸、Y軸が機械軸、Z軸が光軸となるように、水晶の単結晶から切り出される。
なお、水晶振動片1は、水晶からの切り出し角度の誤差を、X軸、Y軸及びZ軸の各々につき多少の範囲(例えば、0度〜5度程度の範囲)で許容できる。
【0018】
水晶振動片1は、基部10と、基部10からY軸方向に延びる互いに略平行な一対の振動腕11と、基部10をX軸方向に切り欠いた一対の切り欠き部12,13と、基部10からX軸方向に突出し、振動腕11側に略直角に折れ曲がってY軸方向に延びる一対の支持部14とを備えている。
【0019】
振動腕11は、基部10からY軸方向に延びる腕部15と、腕部15の先端部に形成され腕部15より幅が広く、Y軸方向に延びる錘部16と、振動腕11の延びる方向(Y軸方向)に沿って形成され、一対の振動腕11の並ぶ方向(X軸方向)に切断した振動腕11の断面形状が、H字状となる溝部17とを有している。
そして、振動腕11は、腕部15と錘部16との結合部に、平面視において、腕部15から錘部16に近づくに連れて幅が広がる一対のテーパー部18を有している。
図2に示すように、テーパー部18は、腕部15との成す角度θが140度〜170度の範囲内であるように形成されている。
【0020】
図1に示すように、水晶振動片1は、基部10と、一対の振動腕11とを含んで音叉を構成することで、音叉型圧電振動片としての音叉型水晶振動片となっており、支持部14の所定の位置に形成された図示しないマウント電極を介してパッケージなどの外部部材に固定されるようになっている。
そして、水晶振動片1は、振動腕11に形成された図示しない励振電極に、マウント電極を経由して外部から駆動信号が印加されることにより、一対の振動腕11が、所定の周波数(例えば、32kHz)で矢印C方向及び矢印D方向に交互に屈曲振動(共振)する。
【0021】
図2に進んで、ここで、テーパー部18と腕部15との成す角度θと、エッチングによってテーパー部18の側面に残り得る腕部15より薄いヒレ状の異形部19(2点鎖線で一例を模式的に示す)との関係について、発明者らのシミュレーションによる解析結果に基づいて説明する。
なお、このシミュレーションは、発明者らが現物との整合性を検証した上で実行したものである。
【0022】
図3は、テーパー部と腕部との成す角度と、テーパー部の異形部の有無との関係を示す図である。
図3では、設定角度毎に異形部19が有る(残る)場合を×、異形部19が無い(残らない)場合を○で表している。
【0023】
図3に示すように、異形部19は、テーパー部18と腕部15との成す角度θが100度〜130度の範囲内であれば残り、テーパー部18と腕部15との成す角度θが140度〜170度の範囲内であれば残らない。
この解析結果によれば、テーパー部18と腕部15との成す角度θは、140度〜170度の範囲内が好ましいことがわかる。
また、テーパー部18と腕部15との成す角度θは、錘部16の機能(慣性質量の増加によるQ値の向上)の有効性の観点からすれば、140度程度がより好ましい。
【0024】
上述したように、第1の実施形態の水晶振動片1は、振動腕11が腕部15と錘部16との結合部に、腕部15から錘部16に近づくに連れて幅が広がるテーパー部18を有し、テーパー部18の腕部15との成す角度θが140度〜170度の範囲内である。
この範囲内であれば、水晶振動片1は、エッチングによる外形形成時に、テーパー部18の側面に異形部19が残ることを回避できる。
この結果、水晶振動片1は、異形部19に起因した共振周波数のシフトやばらつきが発生しないことから、共振周波数が安定し、周波数特性を向上させることができる。
【0025】
また、水晶振動片1は、一対(2本)の振動腕11と基部10とを含んで音叉を構成することから、周波数特性が向上した音叉型水晶振動片を提供できる。
なお、一対のテーパー部18は、振動腕11のY軸方向の中心線に対して対称形状であることが好ましいが、角度θが140度〜170度の範囲内であれば、非対称形状であってもよい。
また、テーパー部18は、エッチング異方性などを踏まえて、エッチング終了時に所定の角度θになるように、エッチングマスクの角度設定を補正してもよい。具体的には、エッチングマスクの角度を上記範囲外に設定してもよい。
【0026】
(変形例)
次に、第1の実施形態の変形例について説明する。
図4は、変形例の圧電振動片の概略構成を示す模式図であり、図4(a)は平面図、図4(b)は、図4(a)のE−E線での断面図である。なお、第1の実施形態との共通部分については、同一符号を付して詳細な説明を省略し、第1の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0027】
図4に示すように、変形例の圧電振動片としての水晶振動片2は、錘部116が、各腕部15に対して各腕部15の近傍の支持部14側に偏って形成されている。
そして、水晶振動片2は、一対の振動腕11において、互いに対向する側の腕部15の側面と錘部116の側面とが、段差の無い一体化された平面状に形成されている。
これにより、テーパー部18は、腕部15と錘部116との結合部において支持部14側のみに形成されることになる。
【0028】
これによれば、水晶振動片2は、錘部116が各腕部15に対して支持部14側に偏って形成され、一対の振動腕11の間隔が広がることから、振動腕11同士の振動時の干渉を容易に回避できる。
また、水晶振動片2は、テーパー部18が各振動腕11につき2箇所から1箇所になるので、第1の実施形態と比較して、異形部19が残る可能性を半減できる。
なお、第1の実施形態及び変形例では、振動腕11の数を2本としたが、これに限定するものではなく、1本、または3本以上でもよい。
また、切り欠き部12,13、支持部14、溝部17は、なくてもよい。
また、振動腕11の屈曲振動の方向は、振動腕11の厚み方向(Z軸方向)であってもよい。
【0029】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態として、上記で説明した水晶振動片を備えた圧電振動子について説明する。
図5は、第2の実施形態の圧電振動子の概略構成を示す模式図であり、図5(a)は平面図、図5(b)は、図5(a)のF−F線での断面図である。
【0030】
図5に示すように、圧電振動子としての水晶振動子5は、第1の実施形態の水晶振動片1と、水晶振動片1を収容するパッケージ80と、を備えている。
パッケージ80は、パッケージベース81、シームリング82、蓋体85などから構成されている。
パッケージベース81は、水晶振動片1を収容できるように凹部が形成され、その凹部に水晶振動片1の図示しないマウント電極と接続される接続パッド88が設けられている。
接続パッド88は、パッケージベース81内の配線に接続され、パッケージベース81の外周部に設けられた外部接続端子83と導通可能に構成されている。
【0031】
パッケージベース81の凹部の周囲には、シームリング82が設けられている。さらに、パッケージベース81の底部には、貫通穴86が設けられている。
水晶振動片1は、パッケージベース81の接続パッド88に導電性接着剤84を介して接着固定されている。そして、パッケージ80は、パッケージベース81の凹部を覆う蓋体85とシームリング82とがシーム溶接されている。
パッケージベース81の貫通穴86には、金属材料などからなる封止材87が充填されている。この封止材87は、減圧雰囲気内で溶融後固化され、パッケージベース81内が減圧状態を保持できるように、貫通穴86を気密に封止している。
水晶振動子5は、外部接続端子83を介した外部からの駆動信号により水晶振動片1が励振され、所定の周波数(例えば、32kHz)で発振(共振)する。
【0032】
上述したように、水晶振動子5は、周波数特性が向上した水晶振動片1を備えていることから、周波数特性を向上させることができる。
なお、水晶振動子5は、水晶振動片1に代えて水晶振動片2を用いても、同様の効果を得ることができる。
【0033】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態として、上記で説明した水晶振動片を備えた発振器について説明する。
図6は、第3の実施形態の発振器の概略構成を示す模式図であり、図6(a)は平面図、図6(b)は図6(a)のG−G線での断面図である。
【0034】
発振器としての水晶発振器6は、上記水晶振動子5の構成に回路素子をさらに備えた構成となっている。なお、水晶振動子5との共通部分については、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
図6に示すように、水晶発振器6は、第1の実施形態の水晶振動片1と、水晶振動片1を発振させる発振回路を有する回路素子としてのICチップ91と、水晶振動片1及びICチップ91を収容するパッケージ80と、を備えている。
ICチップ91は、パッケージベース81の底部に固着され、金線などの金属ワイヤー92により他の配線と接続されている。
水晶発振器6は、ICチップ91の発振回路からの駆動信号により水晶振動片1が励振され、所定の周波数(例えば、32kHz)で発振(共振)する。
【0035】
上述したように、水晶発振器6は、周波数特性が向上した水晶振動片1を備えていることから、周波数特性を向上させることができる。
なお、水晶発振器6は、水晶振動片1に代えて水晶振動片2を用いても、同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0036】
1,2…圧電振動片としての水晶振動片、5…圧電振動子としての水晶振動子、6…発振器としての水晶発振器、10…基部、10a…主面(切り出し面)、11…振動腕、12,13…切り欠き部、14…支持部、15…腕部、16…錘部、17…溝部、18…テーパー部、19…異形部、80…パッケージ、81…パッケージベース、82…シームリング、83…外部接続端子、84…導電性接着剤、85…蓋体、86…貫通穴、87…封止材、88…接続パッド、91…回路素子としてのICチップ、92…金属ワイヤー、116…錘部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶の結晶軸としての互いに直交するX軸、Y軸、Z軸に対して所定の角度で切り出されたZ板を基材とし、外形形状がエッチングによって形成された圧電振動片であって、
基部と、
前記基部から前記Y軸方向に延びる少なくとも1本の腕部と前記腕部の先端部に形成され前記腕部より幅が広い錘部とを有する振動腕と、を備え、
前記振動腕は、前記腕部と前記錘部との結合部に、前記腕部から前記錘部に近づくに連れて幅が広がるテーパー部を有し、
前記テーパー部は、前記腕部との成す角度が140度〜170度の範囲内であることを特徴とする圧電振動片。
【請求項2】
請求項1に記載の圧電振動片において、前記振動腕を複数本備え、前記複数本の振動腕と、前記基部とを含んで音叉を構成することを特徴とする圧電振動片。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の圧電振動片と、
前記圧電振動片を収容するパッケージと、を備えたことを特徴とする圧電振動子。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の圧電振動片と、
前記圧電振動片を発振させる発振回路を備えた回路素子と、
前記圧電振動片及び前記回路素子を収容するパッケージと、を備えたことを特徴とする発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−182024(P2011−182024A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41679(P2010−41679)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】