説明

圧電磁器組成物、圧電素子、及び発振子

【課題】発振子のQmaxを大きくし、且つ低温環境下で発振子の発振周波数Fの変化を抑制できる圧電磁器組成物を提供する。
【解決手段】圧電磁器組成物は、下記一般式(1)で表される組成を有する。(PbαLnβMeγ)(Ti1−(x+y+z)ZrMnNb)O(1)[式(1)中、Lnはランタノイド元素を示し、Meはアルカリ土類金属元素を示し、α>0,β>0,γ≧0,0.965≦α+β+γ≦1.000,0.158≦x≦0.210,y≧0,z≧0,1−(x+y+z)>0。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電磁器組成物、圧電素子、及び発振子に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電磁器組成物は、外部から圧力を受けることによって電気分極を起こす圧電効果と、外部から電界を印加されることにより歪みを生じる逆圧電効果とを有するため、電気エネルギーと機械エネルギーとの相互変換を行うための材料として用いられる。このような圧電磁器組成物は、発振子(レゾネータ)、フィルタ、センサ、アクチュエータ、着火素子又は超音波モーター等の多種多様な製品で使用されている(下記特許文献1参照)。
【0003】
このような圧電磁器組成物には、PZT系(PbTiO−PbZrO固溶体)やPT系(PbTiO系)のペロブスカイト型酸化物に、様々な副成分を添加することにより、特性の改善が図られている。例えば、特許文献1では、PbTiO系のペロブスカイト型酸化物に、Nb及びMnOを添加することによって、共振周波数の温度特性を向上させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−1367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
圧電磁器組成物を有する発振子を発振回路に用いる場合、発振特性を保証するために発振子のQmaxが大きいことが要求される。なお、Qmaxとは、位相角の最大値をθmax(単位:deg)としたときのtanθmaxであり、換言すれば、Xをリアクタンス、Rをレジスタンスとしたときの共振周波数frと反共振周波数faとの間におけるQ(=|X|/R)の最大値である。また、発振回路においては、近年、発振周波数F(単位:Hz)の狭公差が要求される製品に対応させるために、発振周波数Fの安定性が要求されている。
【0006】
本発明者らは、従来の圧電磁器組成物を用いた発振子を低温(例えば−40℃程度)で保存した場合、発振周波数Fが著しく変化してしまうことを発見した。したがって、発振子又は発振子を備える電子機器を極低温で長期間保存した場合、発振子の発振周波数Fが公差の範囲外となってしまうことが問題となる。
【0007】
厚み縦振動の3倍波(厚み縦振動の三次高調波モード)を利用する発振子の場合、屈曲振動モードを利用する発振子等と比較して使用される周波数帯域が高いことから、従来の圧電磁器組成物では、Qmax、及び発振周波数Fの安定性の点で十分に満足できるものが得られなかった。厚み縦振動の3倍波を利用する発振子は、例えばマイコンを制御するための基準クロックを発する素子であるレゾネータへの応用が可能であり、高価な水晶振動子の代替を図る点等からも、厚み縦振動の3倍波を利用する発振子に用いられたときに十分な性能を発揮する圧電磁器組成物が求められている。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、発振子のQmaxを大きくし、且つ低温環境下で発振子の発振周波数Fの変化を抑制できる圧電磁器組成物、当該圧電磁器組成物を使用した圧電素子、及び当該圧電素子を使用した発振子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の発電磁器組成物は、下記一般式(1)で表される組成を有する。本発明の圧電素子は、本発明の圧電磁器組成物からなる基板を有する。本発明の発振子は、本発明の圧電素子と電極とを備える。
(PbαLnβMeγ)(Ti1−(x+y+z)ZrMnNb)O (1)
[式(1)中、Lnはランタノイド元素を示し、Meはアルカリ土類金属元素を示し、α>0,β>0,γ≧0,0.965≦α+β+γ≦1.000,0.158≦x≦0.210,y≧0,z≧0,1−(x+y+z)>0。]
【0010】
上記本発明によれば、Qmaxが大きく、且つ低温環境下で発振周波数Fが変化し難い発振子が達成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、発振子のQmaxを大きくし、且つ低温環境下で発振子の発振周波数Fの変化を抑制できる圧電磁器組成物、当該圧電磁器組成物を使用した圧電素子、及び当該圧電素子を使用した発振子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の発振子の好適な実施形態を示す斜視図である。
【図2】図2は、図1に示す発振子の分解斜視図である。
【図3】図3は、圧電磁器組成物のα+β+γ及びxの値と、発振子の発振周波数Fの変化率との関係を示す図である。
【図4】図4は、圧電磁器組成物のα+β+γ及びxの値と、発振子のQmaxとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、場合により図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、各図面において、同一又は同等の要素には同一の符号を付与し、重複する説明を省略する。
【0014】
図1は、本発明の発振子の好適な実施形態を示す斜視図である。図2は、図1に示す発振子の分解斜視図である。図1の発振子100は、圧電素子10と、天板20と、ベース基板40と、端子電極41〜43、第1の空洞層21、第1の封止層22、第2の空洞層31及び第2の封止層32を有する。
【0015】
端子電極41〜43は、ベース基板40、第2の封止層32、第2の空洞層31、圧電基板11、第1の空洞層21、第1の封止層22及び天板20がこの順で積層された組立体の両側面に、互いに所定間隔を隔てて、それぞれ帯状に形成されている。
【0016】
図2に示すように、圧電素子10は、直方体状の圧電基板11と、該圧電基板11の対向する面の中央部分にそれぞれ設けられた第1の振動電極12及び第2の振動電極13とを有する。第1の振動電極12と第2の振動電極13とに挟まれた領域は振動部となる。
【0017】
圧電素子10は、第1の振動電極12が設けられた面上に、第1の振動電極12に連結された2つの第1のリード電極14を有している。2つの第1のリード電極14は、それぞれ、第1の振動電極12から、第1の振動電極12が設けられた面の角に向かって伸びており、該面の対向する隅部を覆っている。また、隅部を覆う第1のリード電極14上には端部電極16が設けられており、端部電極16は、第1のリード電極14によって、第1の振動電極12と電気的に導通している。第1のリード電極14及び端部電極16は、組み立て体の側面に一部が露出するように設けられる。
【0018】
また、圧電素子10は、第2の振動電極13が設けられた面上に、第2の振動電極13に連結された2つの第2のリード電極15を有している。2つの第2のリード電極15は、それぞれ、第2の振動電極13から、第1の振動電極13が設けられた面の角に向かって伸びており、該面の対向する隅部を覆っている。また、隅部を覆う第2のリード電極15上には端部電極17が設けられており、端部電極17は、第2のリード電極15によって、第2の振動電極13と電気的に導通している。第2のリード電極15及び端部電極17は、組み立て体の側面に一部が露出するように設けられる。なお、端部電極16は、圧電基板11の一端側に設けられており、端部電極17は、圧電基板11の他端側に設けられている。
【0019】
第1の端子電極41は、第1のリード電極14が露出している側面上に形成され、第1のリード電極14と接続されている。また、第2の端子電極42は、第2のリード電極15が露出している側面上に形成され、第2のリード電極15と接続されている。一方、第3の端子電極43は、アース電極として用いられる。
【0020】
第1の振動電極12、第2の振動電極13、第1のリード電極14及び第2のリード電極15は、いずれも公知の方法によって作製可能であり、例えばスパッタ等の薄膜技術、又はペースト等を用いた厚膜技術を用いることによって形成することができる。
【0021】
圧電素子10の一方面上には、第1の空洞層21、第1の封止層22及び天板20がこの順で積層されている。具体的には、第1の空洞層21の一方面が圧電素子10に接着され、第1の封止層22の一方面が第1の空洞層21の他方面に接着され、天板20が第1の封止層22の他方面に接着されている。天板20を設けることによって、第1の空洞層21及び第1の封止層22を保護し、発振子100の強度を向上させることができる。
【0022】
圧電素子10の他方面上には、第2の空洞層31、第2の封止層32及びベース基板40がこの順で積層されている。具体的には、第2の空洞層31の一方面が圧電素子10に接着され、第2の封止層32の一方面が第2の空洞層31の他方面に接着され、ベース基板40が第2の封止層32の他方面に接着されている。ベース基板を設けることによって、発振子100の機械的強度を一層高くすることができる。
【0023】
発振子100は、例えば、プリント基板上に実装されて用いられる。この発振子100における圧電基板11は、本発明の一実施形態に係る圧電磁器組成物からなる。本実施形態の圧電磁器組成物は、ペロブスカイト型の結晶構造を有し、下記一般式(1)で表される。
(PbαLnβMeγ)(Ti1−(x+y+z)ZrMnNb)O (1)
[式(1)中、Lnはランタノイド元素を示し、Meはアルカリ土類金属元素を示し、α>0,β>0,γ≧0,0.965≦α+β+γ≦1.000,0.158≦x≦0.210,y≧0,z≧0,1−(x+y+z)>0。]
【0024】
一般式(1)中、Lnは、ランタノイド元素であり、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。これらのランタノイド元素の中でも、Lnとしては、特にLa、Pr、Ho、Gd、Sm及びErから選ばれる少なくとも1種の元素を含むことが好ましく、Laを含むことがより好ましい。また、一般式(1)中、Meは、アルカリ土類金属元素であり、Sr、Ba及びCaからなる群より選ばれる少なくとも1種を表す。これらの元素の中でも、MeとしてはSrが好ましい。
【0025】
α+β+γが0.965未満である場合、発振子100の発振周波数Fが低温環境下で大きく変化してしまう。具体的には、α+β+γが0.965未満である場合、低温環境下で保存した後の発振子100の発振周波数Fが低温環境下で保存する以前よりも小さくなってしまう。α+β+γが1.000よりも大きい場合、発振子100のQmaxが小さくなってしまう。同様の観点から、α、β、γは、0.965≦α+β+γ≦0.995を満たすことが好ましく、0.975≦α+β+γ≦0.995を満たすことがより好ましい。
【0026】
ペロブスカイト型の圧電磁器組成物の組成は一般的にAδBOと表される。δは、Aサイトを占める全原子の数[A]とBサイトを占める全原子の数[B]との比[A]/[B]であり、α+β+γの値に等しい。α+β+γが上記の数値範囲外である場合、δすなわち[A]/[B]が化学量論比の1から大きくずれるため、圧電磁器組成物中の欠陥が増え易くなり、発振周波数Fが大きく変動し易くなる、と本発明者らは考える。ただし、α+β+γと発振周波数Fとの関係は、必ずしも定かではなく、これに限定されない。
【0027】
上記一般式(1)において、α、β、γはそれぞれ1.000未満の正の値であることが好ましい。αは0.85≦α<1.000を満たすことが好ましい。αが0.85未満であると、圧電磁器組成物の抵抗率が低下し易くなるため、圧電素子の製造時において分極し難くなる傾向がある。また、αが1.000以上になると、Qmaxが小さくなる傾向がある。αを上記範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制することができる。同様の観点から、上記式(1)において、αは0.85≦α≦0.95を満たすことがより好ましい。ただし、αが上記の数値範囲外である場合であっても、本発明の効果は達成される。
【0028】
上記一般式(1)において、βは0<β≦0.08を満たすことが好ましい。βが0であると圧電磁器組成物の焼結性が低下する傾向があり、βが0.08を超えると、キュリー温度が低下し、圧電素子が加熱された際に脱分極し易くなる傾向がある。βを上記範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制することができる。同様の観点から、βは0.02≦β≦0.06を満たすことがより好ましい。ただし、βが上記の数値範囲外である場合であっても、本発明の効果は達成される。
【0029】
上記式(1)において、γは0<γ≦0.05を満たすことが好ましい。γが0であると、十分に高い周波数定数が損なわれる傾向があり、γが0.05を超えると、キュリー温度が低下し、圧電素子が加熱された際に脱分極し易くなる傾向がある。γを上記範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制することができる。同様の観点から、γは0.002≦γ≦0.045を満たすことがより好ましく、0.003≦γ≦0.02を満たすことがさらに好ましい。ただし、γが上記の数値範囲外である場合であっても、本発明の効果は達成される。
【0030】
上記一般式(1)において、xは0.158≦x≦0.210を満たす。xが0.158未満では、緻密に焼結した圧電磁器組成物を得難い。またxが0.158未満であると、発振周波数Fの温度特性が低下する傾向がある。
【0031】
xが0.210を超えると、インピーダンスの波形の不良が起こり、発振子100の厚み縦振動の3倍波(厚み縦振動の三次高調波モード)の測定が困難となる。PTすなわちPbTiOからなる圧電基板を備える発振子では、厚み縦振動の3倍波のエネルギー閉じ込め現象が起きる。一方、PZTすなわちPb(Zr,Ti)Oからなる圧電基板を備える発振子では、厚み縦振動の3倍波のエネルギー閉じ込め現象が起きず、厚み縦振動の基本波のエネルギー閉じ込め現象が起きる。このことに鑑みれば、xが0.210を超えると圧電磁器組成物の振動特性がPZTの振動特性に近づくため、上記のインピーダンスの波形の不良が起こる、と本発明者らは考える。ただし、xの増加に伴うインピーダンスの波形の不良の原因は上記のことに限定されない。また、xが0.210を超えると、キュリー温度が低下し、圧電素子10が加熱された際に脱分極し易くなる傾向がある。
【0032】
xを0.158以上0.210以下とすることによって、これらの傾向を抑制できると共に、Qmaxを大きくすることが可能となる。同様の観点から、xは0.158≦x≦0.205であることが好ましく、0.158≦x≦0.200であることがより好ましい。なお、xが0.125を超えると、上記一般式(1)で示される圧電磁器組成物において、Pb、Ln及びTiの酸化物に由来する部分の質量に対するZrOの比率が5質量%を超えることになる。
【0033】
上記一般式(1)において、yは0.020≦y≦0.050を満たすことが好ましい。yが0.020未満ではQmaxが小さくなる傾向がある。また、yが0.050を超えると、圧電磁器組成物の抵抗率が低下し易くなるため、圧電素子10の製造時において圧電磁器組成物へ圧電性を付与するための分極処理がし難くなる傾向がある。yを上記範囲内とすることによってこれらの傾向を抑制することができる。同様の観点から、0.030≦y≦0.045であることが好ましい。ただし、yが上記の数値範囲外である場合であっても、本発明の効果は達成される。
【0034】
上記一般式(1)において、zは0.040≦z≦0.070を満たすことが好ましい。zが0.040未満であると圧電素子の焼結性が低下する傾向がある。zが0.070を超えると、抵抗率が高くなり過ぎて、熱衝撃による特性劣化が大きくなる傾向がある。zを上記範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制できる。同様の観点から、0.050≦z≦0.070であることが好ましい。ただし、zが上記の数値範囲外である場合であっても、本発明の効果は達成される。
【0035】
圧電磁器組成物は、上記一般式(1)に含まれる元素以外の元素を、化合物又は単体の形態で不純物又は微量添加物として含有していてもよい。このような化合物としては、例えば、Na、Al、Si、P、K、Fe、Cu、Zn、Hf、Ta又はWの酸化物が挙げられる。なお、本実施形態の圧電磁器組成物がこれらの酸化物等を含有する場合、圧電磁器組成物における各酸化物の含有率の合計は、各元素を酸化物に換算して、圧電磁器組成物全体の0.3質量%以下であることが好ましい。すなわち、圧電磁器組成物の主成分、具体的には全体の99.7質量%以上が一般式(1)で表される組成を有することが好ましい。この場合、実質的に、圧電磁器組成物が一般式(1)で表される組成を有することとなる。
【0036】
本実施形態の発振子100は、圧電素子10が上述の圧電磁器組成物からなる圧電基板11を有している。したがって、この発振子100を厚み縦振動の三次高調波モードを利用する発振子として発振回路に用いたときに、十分に高いQmaxと、低温環境下で保存した際に変化し難い発振周波数Fが実現する。本実施形態の発振子100は、例えば、発振周波数Fの狭い公差が要求されるシリアル接続のハードディスク用の発振子として好適である。
【0037】
次に、本実施形態に係る発振子100の製造方法の一例を説明する。この製造方法は、圧電基板11の原料粉末を混合する混合工程と、この原料粉末をプレス成形して仮成形体を形成し、成形体を焼成して焼結体を作製する焼結工程と、焼結体を分極処理して圧電基板11を形成する分極工程と、圧電基板11に対して電極を形成して圧電素子10を得る工程と、圧電素子10、空洞層21,31、封止層22,32、天板20、及びベース基板40を積層して発振子100を作製する積層工程とを有する。以下、各工程の詳細について以下に説明する。
【0038】
混合工程では、まず圧電磁器組成物を調製するための出発原料を準備する。出発原料としては、上記一般式(1)で表される圧電磁器組成物を構成する各元素の酸化物、又は焼成後にこれらの酸化物になる化合物(炭酸塩、水酸化物、シュウ酸塩若しくは硝酸塩等)を使用することができる。具体的な出発原料としては、PbO、ランタノイド元素の化合物(例えば、La,La(OH)等)、アルカリ土類金属元素の化合物(例えば、SrCO、BaCO、CaCO等)、TiO,ZrO、MnO又はMnCO、Nb等を使用すればよい。これらの各出発原料を、焼成後において上記一般式(1)で表される組成を有する圧電磁器組成物が形成されるような質量比で配合し、ボールミル等により湿式混合する。
【0039】
次に、湿式混合して得られた混合原料を仮成形して仮成形体を形成し、この仮成形体を仮焼成する。この仮焼成によって、上述の圧電磁器組成物を含有する仮焼成体が得られる。仮焼成温度は、700〜1050℃であることが好ましく、仮焼成時間は1〜3時間程度であることが好ましい。仮焼成温度が低過ぎると、仮成形体において化学反応が十分に進行しない傾向があり、仮焼成温度が高過ぎると、仮成形体が焼結し始めるため、その後の粉砕が困難となる傾向がある。また、仮焼成は、大気中で行ってもよく、また大気中よりも酸素分圧が高い雰囲気又は純酸素雰囲気で行ってもよい。また、湿式混合された出発原料を、仮成形することなくそのまま仮焼成してもよい。
【0040】
続いて、得られた仮焼成体をスラリー化してボールミル等で微粉砕(湿式粉砕)した後、スラリーを乾燥することにより微粉末を得る。得られた微粉末に必要に応じてバインダーを添加して、原料粉末を造粒する。なお、仮焼成体をスラリー化するための溶媒としては、水、エタノールなどのアルコール、又は水とエタノールとの混合溶媒等を用いることが好ましい。また、微粉末に添加するバインダーとしては、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコールに分散剤を添加したもの、又はエチルセルロースなど、一般的に用いられる有機バインダーを挙げることができる。
【0041】
焼結工程では、造粒した原料粉末をプレス成形することにより成形体を形成する。プレス成形する際の加重は、例えば100〜400MPaとすればよい。
【0042】
続いて、得られた成形体に脱バインダー処理を施す。脱バインダー処理は、300〜700℃の温度で0.5〜5時間程度行うことが好ましい。また、脱バインダー処理は、大気中で行ってもよく、また大気よりも酸素分圧が高い雰囲気又は純酸素雰囲気で行ってもよい。
【0043】
脱バインダー処理後、成形体を焼成することによって、上記一般式(1)で表される組成を有する圧電磁器組成物を含む焼結体を得る。焼成温度は1150〜1300℃程度とすればよく、焼成時間は1〜8時間程度とすればよい。なお、成形体の脱バインダー処理と焼成とは連続して行ってもよく、別々に行ってもよい。
【0044】
分極工程では、まず、焼結体を薄板状に切断し、これをラップ研磨して表面加工する。焼結体の切断に際しては、カッター、スライサー又はダイシングソー等の切断機を用いて行うことができる。表面加工後、薄板状の焼結体の互いに対向する表面上に、分極処理用の仮電極を形成する。仮電極を構成する導電材としては、塩化第二鉄溶液によるエッチング処理によって容易に除去できることから、Cuが好ましい。仮電極の形成には、真空蒸着法やスパッタリングを用いることが好ましい。
【0045】
分極処理用の仮電極を形成した薄板状の焼結体に対して分極電界を印加して分極処理を施す。分極処理の条件は、焼結体が含有する圧電磁器組成物の組成に応じて適宜決定すればよく、例えば、分極処理される焼結体の温度を50〜250℃、分極電界を印加する時間を1〜30分間、分極電界の大きさを焼結体の抗電界の0.9倍以上とすることができる。
【0046】
分極処理後、エッチング処理などにより焼結体の表面上に形成された仮電極を除去する。そして、焼結体を所望の素子形状となるように切断して圧電基板11を形成する。この圧電基板11に振動電極である第1の振動電極12及び第2の振動電極13、第1のリード電極14及び第2のリード電極15、並びに端部電極16,17を形成することによって、本実施形態の圧電素子10を得ることができる。なお、各電極は、真空蒸着法、スパッタリング又はめっき法などによって形成することができる。
【0047】
積層工程では、空洞層21,31、封止層22,32、天板20、及びベース基板40を準備する。これらは、市販品を購入してもよいし、公知の方法で作製してもよい。例えば、空洞層及び封止層としては、主成分としてエポキシ樹脂を含有するものを、天板20及びベース基板40としては主成分としてアルミナ、ステアタイト、フォルステライト、窒化アルミニウム又はムライト製を含有するものを用いることができる。これらを、図2に示すような順番で積層し、必要に応じて接着剤を用いて互いに接着することにより、図1に示すような発振子100を得ることができる。
【0048】
本実施形態の発振子100に備えられる圧電基板11における金属元素の比率は、出発原料に含まれる金属元素の配合比と同等である。したがって、出発原料の配合比率を調整することによって、所望の組成を有する焼結体(圧電磁器組成物)からなる圧電基板11を得ることができる。
【0049】
以上、本発明の圧電磁器組成物、圧電素子及び発振子の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に何ら限定されるものではない。
【0050】
例えば、本発明の圧電磁器組成物は、発振子以外に、フィルタ、アクチュエータ、超音波洗浄機、超音波モーター、霧化器用振動子、魚群探知機、ショックセンサ、超音波診断装置、廃トナーセンサ、ジャイロセンサ、ブザー、トランス又はライター等に使用してもよい。また、圧電磁器組成物は、焼結体を構成するものであってもよく、上述の仮焼成によって得られる仮焼結体や造粒した原料粉末に含まれていてもよい。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0052】
以下に示す方法で、圧電磁器組成物の組成において異なる複数の圧電素子を作製した。
【0053】
各圧電素子の作製では、各圧電磁器組成物の原料として、酸化鉛(PbO)、酸化ランタン(La)、炭酸ストロンチウム(SrCO)、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、炭酸マンガン(MnCO)、酸化ニオブ(Nb)の各粉末原料を準備した。本焼成後の磁器試料(焼結体)が下記式(1a)の組成を有する圧電磁器組成物となるように、これら各粉末原料を秤量して配合した。また、α,α+β+γ及びxがそれぞれ下記表1,2に示す値となるように、粉末原料の配合比を変えて複数種類の混合原料を調製した。
【0054】
(PbαLaβSrγ)(Ti1−(x+y+z)ZrMnNb)O (1a)
上式(1a)中、β=0.035,γ=0.01,y=0.036,z=0.064である。
【0055】
次に、調製した各混合原料と純水とをZrボールと共にボールミルで10時間混合してスラリーを得た。このスラリーを、十分に乾燥させた後でプレス成形し、900℃で仮焼成して仮焼成体を得た。次に、仮焼成体をボールミルで微粉砕した後、これを乾燥したものに、バインダーとしてPVA(ポリビニルアルコール)を適量加えて造粒した。得られた造粒粉を縦20mm×横20mmの金型に約3g入れ、1軸プレス成型機を用いて245MPaで加圧して成形した。
【0056】
成形した試料を熱処理してバインダーを除去した後、焼成温度1260℃で2時間から6時間本焼成した。これによって、組成の異なる複数の焼結体を得た。
【0057】
各焼結体を、両面ラップ盤で0.4mmの厚みに平面加工した後、これをダイシングソーで縦16mm×横16mmの寸法に切断して磁器試料を得た。磁器試料の両端部にAgペーストを塗布して、一対のAg電極を形成した。
【0058】
その後、Ag電極を形成した磁器試料に、温度120℃のシリコンオイル槽中で抗電界の1.5〜2倍の電界を15分間印加する分極処理を施して圧電基板を得た。分極処理後、圧電基板から仮電極を除去し、再度ラップ盤でおよそ厚さ0.25mmにまで圧電基板を研磨した。その後、特性を安定させるために200〜300℃の温度で5分〜1時間、恒温槽中に保管した。保管後、圧電基板をダイシングソーで7mm×4.5mmの試験片に切断し、真空蒸着装置を用いて図2に示すように圧電基板11の両面に振動電極12,13、リード電極14,15及び端部電極16,17を形成し、図2に示すような各圧電素子10を得た。振動電極12,13は厚さ0.01μmのCr下地層と厚さ1.5μmのAgとを積層することにより形成した。また、リード電極14,15及び端部電極16,17はスパッタリングによって形成した。
【0059】
[低温環境下でのFの変化率の算出]
25℃の環境下で各圧電素子10の発振周波数F01を測定した01の測定後、各圧電素子10を−40℃の恒温槽内で100時間保存した。100時間の保存後、各圧電素子10を恒温槽内から取り出した後、25℃の環境下で各圧電素子10を24時間放置した。24時間の放置後、25℃の環境下で各圧電素子10の発振周波数F02を測定した01及びF02は、周波数カウンターを用いて測定した。周波数カウンターとして、アジレントテクノロジー社製53181Aを用いた。
【0060】
下記数式(A)に基づき、F01及びF02の測定値から圧電素子10の発振周波数Fの変化率ΔF(単位:ppm)を算出した。
ΔF={(F02−F01)/F01}×10 (A)
【0061】
各圧電素子10のΔFを表1に示す。なお、表1において二重線で囲まれた部分に記載された数値が各圧電素子10のΔFである。また、表1に示す各圧電素子が有する圧電磁器組成物のα+β+γ及びxと、各圧電素子10のΔFとの関係を図3に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
[Qmaxの測定]
インピーダンスアナライザーを使用して、各圧電素子10の30MHz付近での厚み縦振動の三次高調波モードにおけるQmaxを測定した。インピーダンスアナライザーとしては、アジレントテクノロジー社製4294Aを用いた。各圧電素子10のQmaxを表2に示す。なお、表2において二重線で囲まれた部分に記載された数値が各圧電素子10のQmaxである。また、表2に示す各圧電素子が有する圧電磁器組成物のα+β+γ及びxと、圧電素子のQmaxとの関係を図4に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
表1,2及び図3,4に示すように、α+β+γが0.965以上1.000以下であり,xが0.158以上0.210以下である圧電磁器組成物を有する圧電素子では、Qmaxが大きく、ΔFの絶対値が小さいことが確認された。
【符号の説明】
【0066】
10・・・圧電素子、11・・・圧電基板、12・・・第1の振動電極(振動電極)、13・・・第2の振動電極(振動電極)、14・・・第1のリード電極(リード電極)、15・・・第2のリード電極(リード電極)、16,17・・・端部電極、20・・・天板、21・・・第1の空洞層(空洞層)、22・・・第1の封止層(封止層)、31・・・第2の空洞層(空洞層)、32・・・第2の封止層(封止層)、40・・・ベース基板、41,42,43…端子電極、100・・・発振子。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される組成を有する圧電磁器組成物。
(PbαLnβMeγ)(Ti1−(x+y+z)ZrMnNb)O (1)
[式(1)中、Lnはランタノイド元素を示し、Meはアルカリ土類金属元素を示し、α>0,β>0,γ≧0,0.965≦α+β+γ≦1.000,0.158≦x≦0.210,y≧0,z≧0,1−(x+y+z)>0。]
【請求項2】
請求項1に記載の圧電磁器組成物からなる基板を有する圧電素子。
【請求項3】
請求項2に記載の圧電素子と電極とを備える発振子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−195421(P2011−195421A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66743(P2010−66743)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】