説明

圧電部品及びその製造方法

【課題】樹脂封止工程を実施する際に使用する樹脂シートの肉厚を集合基板の表裏面に印刷したダイシング・マークに印刷ずれを考慮して設定することにより、気密空間部への樹脂の浸入がなく、かつ、ダイシングによる端子電極等の切損を阻止可能とする。
【解決手段】圧電部品製造方法は、セラミック基板3にバンプ5付のSAWチップ2をフリップチップ実装する工程と、実装済の集合基板に樹脂シート6を加熱軟化して貼付け、更に加熱硬化にて樹脂封止する工程と、封止・硬化した実装済の集合基板の裏面にダイシング・マークを設け、該ダイシング・マークを用いて集合基板を個片1に切断する工程と、を備え、樹脂封止する工程前の樹脂シート6の厚みが、チップ寸法、表裏ずれ、切断しろ、SAWデバイス寸法、樹脂封止層厚等間の所定の関係式で規定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電部品、例えば、弾性表面波(SAW)チップを実装基板上にバンプを用いてフェイスダウンに搭載した後、SAWチップを樹脂により封止したSAWデバイスを製造する方法において、リーク不良、樹脂浸入不良、ダイシング時のずれ等による不良品の発生を防止した、圧電部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
弾性表面波デバイス(SAWデバイス)は、水晶、タンタル酸リチウム等の圧電基板上に櫛歯状電極(IDT電極)、及び接続パッド等のパターンを配置した構成を備え、例えばIDT電極に高周波電界を印加することによって、弾性表面波を励起し、弾性表面波を圧電作用によって高周波電界に変換し、フィルタ特性を得る携帯電話機などに搭載される。このSAWデバイスでは、その櫛歯電極部の周囲に所定の空隙(中空部、気密空間)が必要である。そのため、従来は、セラミック基板にSAWチップをフェースアップでダイ・ボンディングし、ワイヤ・ボンディングで電気接続後、金属キャップを被せてシーム溶接または半田封止してパッケージングしていた。
【0003】
最近では、SAWデバイスの小型化を図るため、SAWチップをAu(金)バンプまたは半田バンプで配線基板にフリップチップ・ボンディング(フェースダウン・ボンディング)し、樹脂等で封止して小型パッケージデバイスを構成している。
【0004】
さらにSAWデバイスの小型、低背化を図るため、櫛歯電極部の周囲に空隙を形成し、空隙を保ったまま櫛歯電極側の圧電ウエハ全体を樹脂で封止し、外部接続電極を形成した後、ダイシングにより個別デバイスに分離してなる超小型のチップ・サイズ・パッケージ(Chip Size Package:略称CSP)のSAWデバイスが提案されている。
【0005】
SAWデバイスに関するCSP関連技術は、例えば、特許第3702961号公報(エプソントヨコム)、特許第3689414号公報(エプソントヨコム)、及び特許第3825475号公報(東芝)に、それぞれ記載されている。
【0006】
従来例1
まず、特許第3702961号公報(特許文献1)では、図7(a),(b)に示すように、絶縁基板103、該絶縁基板103の底部に配置した表面実装用の外部電極104、及び該絶縁基板103の上部に配置され、かつ前記外部電極104と導通した配線パターン105、を備えた実装基板102と、圧電基板118、該圧電基板118の一面に形成したIDT電極117、及び前記配線パターン105と導体バンプ110を介して接続される接続パッド116と、でSAWチップ115を構成する。そして、前記SAWチップ115をフェイスダウン状態で実装基板102にフリップチップ実装し、SAWチップ115外面から実装基板102上面にかけて封止樹脂131Aで被覆形成することにより、前記IDT電極117と前記実装基板102との間に気密空間Sを形成して表面実装型SAWデバイスを構成する。
【0007】
そして、図8(a),(b)に示すように、従来例1のSAWデバイスの製造方法は、
前記配線パターン105と前記接続パッド116を前記導体バンプ110を介して接続することにより前記実装基板102上にSAWチップ115をフリップチップ実装するフリップチップ実装工程と、
前記SAWチップ115上面にSAWチップ115上面よりも面積が大きい樹脂シート130を載置して該実装基板102の一端から他端へ向けて樹脂シートを軟化させながら樹脂シート130を押圧ロール151と下側ロール152によって加圧することにより、前記気密空間Sを確保しながらSAWチップ115外面を樹脂で覆うラミネート工程と、
前記樹脂シート130で外面をラミネートしたSAWチップ115を加圧しながら加熱することにより、前記気密空間S内の気体の膨張を抑制しつつ該樹脂シート130を硬化させるプレス成形工程と、
プレス成形工程を経たSAWデバイス101を、樹脂が完全に硬化する温度・時間にて加熱する後硬化工程と、を備える。
【0008】
ここで、前記ラミネート工程前の樹脂シート130の厚みtrが、
L/[(X+Gx)(Y+Gy)]≦tr……(1)
ただし、L=(X+Gx)(Y+Gy)(H+T+A)−XYT−XYA−[XVyA+YVxA+(4VxVyA)/3]
(L:一つのSAWチップ外面を封止するのに必要な樹脂シートの体積、X:SAWチップの一辺の長さ、Y:SAWチップの他辺の長さ、Gx:X方向に隣接し合うSAWチップ間の間隔、Vx:Y方向へ延びるダイシング切りしろから直近のSAWチップの側面までの距離、Gy:Y方向に隣接し合うSAWチップ間の間隔、Vy:X方向へ延びるダイシング切りしろから直近のSAWチップの側面までの距離、H:一つのSAWチップ外面を樹脂シートにて被覆完了した後のSAWチップ上面に位置する樹脂の厚さ、T:圧電基板の厚さ、A:実装基板上面から圧電基板底面までの間隔)であることを特徴としている。
【0009】
そして、従来例1では、前記後硬化工程後に、ダイシングしろに沿って巾Dのダイシングプレートで表面側(樹脂による封止側)からダイシングして個々のSAWデバイスを得るようにしていた。
【0010】
しかしながら、特許文献1に示す、従来例1のSAWデバイスの製造方法では、SAWチップ外面を樹脂シートで覆うラミネート工程の後に、樹脂シートを硬化させるプレス成形工程を要するため、その製造方法全体が複雑となる。
【0011】
さらに、集合基板を個片(SAWデバイス)に切断する際に、セラミック基板上に印刷により形成する電極、ならびに切断目合せ用マークの表裏ずれにより、樹脂封止面より切断した場合には、裏面電極位置がずれたり、裏面端子電極を損傷するなどの問題点があった。
【0012】
また、この問題点を回避するために、集合基板の裏面端子電極側に目合せマークを形成し切断した場合には、封止した樹脂の空隙部を切断することがあり、製品外周に中空部分が露出するという問題点があった。
【0013】
従来例2
また、特許第3689414号公報(特許文献2)のSAWデバイスの製造方法では、図9(a),(b)に示すように、
SAWチップ215を実装基板202上にフリップチップ実装して該SAWチップ215外面を樹脂231で封止することにより気密空間Sを形成したSAWデバイス201の製造方法において、
前記SAWチップ215上に設けた電極パッド216と前記実装基板202上に設けた接続パッド205とを導体バンプ210を用いてフリップチップ実装する工程と、
前記実装基板202に実装したSAWチップ215の上面に樹脂シート230を載置する工程と、
前記SAWチップ215を実装し該SAWチップ215上面に前記樹脂シート230を載置した実装基板202を密閉容器内に配置し、前記樹脂シート230を加熱しながら加圧することにより、前記気密空間Sを確保しながらSAWチップ215の外面を樹脂シート230で覆うラミネート工程と、
前記ラミネート工程の加圧・加熱状態を保持することにより、前記気密空間Sを保持しながら樹脂シート230を硬化させるプレス成形工程と、
前記樹脂シート230が完全に硬化する温度・時間にて加熱する後硬化工程とを備え、
前記ラミネート工程において、前記密閉容器250は仕切部材により少なくとも2つの空間に区切られ、第一の空間は、前記SAWチップ215を実装し、該SAWチップ215上面に前記樹脂シート230を載置した実装基板202が配置され、雰囲気が減圧あるいは真空状態に保たれており、第二の空間側から圧力を加えて前記仕切部材を前記第一の空間側に圧迫させることで、前記樹脂シート230を前記実装基板202側に加圧することを特徴としている。
【0014】
ここで、前記ラミネート工程時の樹脂シート230の厚みtrが、
L/{(X+Gx)(Y+Gy)}≦tr……(2)
ただし、L=(X+Gx)(Y+Gy)(H+T+A)−XYA−{XVyA+YVxA+(4VxVyA)/3}
(L:一つのSAWチップ外面を封止するのに必要な樹脂シートの体積、X:SAWチップの一辺の長さ、Y:SAWチップの他辺の長さ、Gx:X方向に隣接し合うSAWチップの間隔、Vx:Y方向へ延びるダイシング切りしろから直近のSAWチップ側面までの距離、Gy:Y方向に隣接し合うSAWチップ間の間隔、Vy:X方向へ延びるダイシング切りしろから直近のSAWチップの側面までの距離、H:一つのSAWチップ外面を樹脂シートにて被覆完了した後のSAWチップ上面に位置する樹脂の厚さ、T:圧電基板の厚さ、A:実装基板上面から圧電基板底面までの間隔)であることを特徴とする。
【0015】
しかしながら、特許文献2に示す、従来例2のSAWデバイスの製造方法でも、前出特許文献1(従来例1)のものと同様に、SAWチップの外面を樹脂シートで覆うラミネート工程を必要とし、かつ、このラミネート工程で実装基板を配置した密閉容器を仕切部材により少なくとも2つの空間に区切ることが不可欠であるとともに、ラミネート工程の後に、樹脂シートを硬化させるプレス成形工程をさらに必要とするため、その製造方法全体が複雑となる。さらに、個々のSAWデバイスへの分割時に実装基板の表面側からダイシングしていたため、SAWデバイスの表裏面間の分割用マーキングの印刷ずれによる外部電極の切損等の問題点を生じていた。
【0016】
従来例3
さらに、特許第3825475号公報(特許文献3)に示す従来例3の電子部品(SAWデバイス)の製造方法では、図10に示す電子部品(SAWデバイス)を、複数個の配線基板301の集合体に対し所定位置に複数の機能素子303をフェースダウン・ボンディング方式により位置決めする工程と、前記機能素子303と前記配線基板301の集合体とを導電性接合部材306を介して所定間隔を維持して組み立てる工程と、前記配線基板301および前記機能素子303の集合体に対し加熱溶融型部材311を配置する工程と、前記配線基板301と前記機能素子303との間に空隙部310を残しつつ前記加熱溶融型部材311を加熱溶融する工程と、前記複数個の配線基板301の集合体を前記加熱溶融型部材311とともに分割して個々の電子部品を得る工程と、で製造する。
【0017】
しかしながら、特許文献3に示す、従来例3の電子部品(SAWデバイス)の製造方法では、加熱溶融型部(薄片状樹脂)を一旦加熱溶融させるので、溶融時に生じるシリコン、フィラー、水分等の不純物と溶融樹脂とが当該空隙部(ギャップ)に侵入し、不良品を生じる一因となっていた。また、前出の特許文献1及び2と同様に、個々の電子部品(SAWデバイス)への分割時に表面側からダイシングしていたため、裏面側に実装した外部電極の切損等の問題点を生じていた。
【特許文献1】特許第3702961号公報
【特許文献2】特許第3689414号公報
【特許文献3】特許第3825475号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明が解決しようとする問題点は、圧電部品を構成するSAWデバイスの樹脂封止時における、気密空間への樹脂の浸入と、集合基板の表裏面に印刷したダイシング・マークの印刷ずれによる端子電極等の切損である。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記した課題を解決するため請求項1の発明は、集合基板にバンプ付のSAWチップをフリップチップ実装する工程と、実装済の前記集合基板に前記集合基板の上面より面積の大きい樹脂シートを加熱軟化し中空部を残しつつ貼付け、さらに加熱硬化によって樹脂封止する工程と、封止・硬化した実装済の前記集合基板の裏面にダイシング・マークを設け、該ダイシング・マークを用いて前記集合基板を個片に切断する工程と、を備えた圧電部品(SAWデバイス)の製造方法において、
前記樹脂封止する工程前の樹脂シートの厚みtが
t>(i×k×H−(4((g−a)/2×(j−b)/2)×1/3×d)+((((g−a)/2×b)×2)×d)
+((((j−b)/2)×a)×2)×d))−(a×b×c)+(a×b×d))/(g×i)
(ここで、a:チップ(SAWチップ)の幅
b:チップの奥行き
c:チップの厚み
d:チップと基板のギャップ
e:製品(圧電部品)の外形(幅)
f:製品の外形(奥行き)
g:製品外形+切断しろ(幅)
i:製品外形+切断しろ(奥行き)
j:製品外形−表裏ずれ(幅)
k:製品外形−表裏ずれ(奥行き)
H:樹脂封止層厚)
である、ことを特徴とする。
【0020】
これによれば、樹脂封止工程を実施する際に、使用する樹脂シートの肉厚を適切な値に設定したことにより、SAWチップ間の谷間に充填された軟化樹脂をSAWチップ裾部にまで確実に行きわたらせて気密空間を確実に形成すると共に、ダイシングによってSAWデバイス個片に分割する際に、端子電極等を切損するおそれがなくなる。
【0021】
請求項2の発明は、請求項1において、前記樹脂封止工程が、下型に実装済み前記集合基板を載置する工程と、載置した前記集合基板上に前記集合基板の上面より面積の大きい樹脂シートを載置する工程と、上型及び減圧容器を前記下型上に配置してから該減圧容器内を脱気・減圧する工程と、前記樹脂シートを軟化温度以上に加熱しつつ、前記上型で押圧し貼付して封止する工程と、前記減圧容器内を大気圧に戻してから前記上型及び前記減圧容器を前記下型から取り外す工程と、前記封止済みの前記集合基板を前記下型から取り出す工程と、からなることを特徴とする。
【0022】
これにより、樹脂封止工程を実施する際、所定の気密空間を確実に形成できる。
【0023】
請求項3の発明は、請求項1において、軟化した前記樹脂シートが7,000〜20,000Pa・sの粘度を有することを特徴とする。
【0024】
これにより、樹脂封止時に樹脂が気密空間内に浸入するのを阻止できる。
【0025】
請求項4の発明は、請求項1において、前記樹脂シートが加熱軟化する温度が30℃〜150℃であることを特徴とする。
【0026】
これにより、樹脂シートを確実に軟化できる。
【0027】
請求項5の発明は、請求項1において、前記樹脂シートがエポキシ樹脂であることを特徴とする。
【0028】
請求項6の発明は、請求項2において、前記脱気・減圧時の前記減圧容器内の圧力が0.01〜0.05気圧であることを特徴とする。
【0029】
これにより、同様に、樹脂シートを確実に軟化できる。
【0030】
請求項7の発明は、請求項1から6において、前記圧電部品がSAWデバイスであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
樹脂封止時におけるIDT電極周辺の中空部(気密空間)への樹脂の浸入を有効に阻止し、かつ、封止済集合基板を正確に個々の圧電部品に端子電極等を切損することなくダイシングして分割できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の圧電部品の製造方法を、表面実装型弾性表面波デバイス(以下、“SAWデバイス”という)の実施例の製造方法について詳細に説明する。
【0033】
図1は、本発明の圧電部品の製造方法の実施例であるSAWデバイスの製造方法により製造するSAWデバイス1の縦断面図を示す。
【0034】
このSAWデバイス1(圧電部品)は、セラミックを数枚積層して形成したセラミック基板(絶縁基板)3と、このセラミック基板3の上面に金(Au)バンプ5を介して実装された、例えばタンタル酸リチウム(LiTaO3)からなるSAWチップ2と、このSAWチップ2を樹脂封止するエポキシ樹脂(樹脂封止部)6と、セラミック基板3の底面に実装された外部端子電極4とから構成されている。そして、SAWチップ2に形成されたIDT電極7とセラミック基板3の上面との間に気密空間Sを形成するようエポキシ樹脂により封止する。
【0035】
ここで、SAWチップ2に形成したIDT電極7は、給電側のリード端子から高周波電界を印加することによって、弾性表面波を励起し、弾性表面波を圧電作用によって高周波電界に変換することによって、フィルタ特性を得ることができるようになっている。
【0036】
次に、図2から図6に基づいて本発明の実施例のSAWデバイスの製造方法を説明する。
【0037】
製造方法(組立工程)
図2は、本発明の実施例のSAWデバイスのフリップチップ実装工程、樹脂封止工程及びダイシング工程を含む製造方法(組立工程)を示す。
【0038】
まず、図1に示したSAWデバイス1を製造するために、図2に示すように、セラミック基板3にSAWウエハWから切断した金(Au)バンプ5付のSAWチップ2をフェイスダウンで、金・金超音波熱圧着によりフリップチップ実装して実装(集合)基板50を作製する((1)フリップチップ実装工程)。
【0039】
次に、フリップチップ実装した実装基板50に後述する封止工程で樹脂封止を行った後、樹脂を硬化させる((2)樹脂封止工程)。
【0040】
さらに、樹脂面にCO2ガスレーザーを照射して、製品番号、ロット番号等を刻設して、捺印する((3)レーザー捺印工程)。
【0041】
次いで、ダイシング・ソーを用いて実装基板50の裏面に形成した認識パターンに基づいて、後述するダイシング工程で実装基板を個々のSAWデバイス(個片)1に分割する((4)ダイシング工程)。
【0042】
さらに(5)加熱処理工程(150℃で3時間加熱)、(6)リーク試験工程(沸点の高いフロリナート等に漬ける)、(7)測定(規格通りの周波数を出力できるか否か検査する)・テーピング(エンボステープを用いて分割したSAWデバイスを集約する)工程を経て、SAWデバイスを(8)梱包・出荷する。
【0043】
とくに、本発明の実施例であるSAWデバイスの製造方法の特徴的構成(要旨)は、以下に詳述する1)樹脂封止工程及び2)ダイシング工程、にある。
【0044】
樹脂封止工程
まず、樹脂封止工程について、図3を参照しつつ説明する。
【0045】
この樹脂封止工程には、図3に示すように、減圧容器12を用い、この減圧容器12の内部に下型10を載置し、この下型10に対向して同じく減圧容器12の内部に収容した上型11が昇降するよう構成する。
【0046】
まず、図3に示すように、下型10にSAWチップ2を実装済みの基板(集合基板)50を載置する。次いで、実装済みの基板50上に、この集合基板50の上面よりも面積が大きい樹脂シート6を載置し、上型11と減圧容器12を下型10上に配置してから、減圧容器12内を0.01〜0.05気圧に脱気・減圧する。そして、上型11を降下させて樹脂シート6をホットプレートで加熱軟化させ上型11で、例えば、100kg以上のプレス圧で押圧し(プレス成形)、実装済み基板に樹脂シート6を貼付し、SAWチップ2等を樹脂封止する。樹脂封止完了後、型(上型11・下型10)内を完全に大気圧に戻してから、上型11及び減圧容器12を下型10から取り外し、100℃で30分オーブンにて封止済製品を加熱して仮硬化させてから、封止済み製品を下型10から取り外して、次の工程(レーザー捺印工程、ダイシング工程)を行う。
【0047】
とくに、SAWチップ2等の樹脂封止の際には、前述したように、SAW素子は、図1に示すように、IDT(櫛歯)電極7とSAWチップ2(圧電基板)により、SAWチップ2表面上を振動が伝播するので、SAW素子として機能するため、IDT電極7上に空間Sを保ちながら、SAWチップ2全体を如何に樹脂により封止するかが極めて重要な要因となる。
【0048】
例えば、アンダーフィル材などの低粘度の液状樹脂により、SAWチップ2とセラミック基板3間の狭いギャップを空間に封止しようとすると、毛細管現象により、このギャップからこの空間S内に液状樹脂が侵入してしまう。
【0049】
一般に封止材料の粘度は高く、このギャップが狭いと、樹脂の浸入に要する時間が長くなり、所定の中空(空間)構造を得ることもできるが、液状樹脂で中空構造を形成する場合は、高粘度で、かつ速硬化であることと、樹脂中の低粘度材料が、硬化するまで分離(ブリード)しないことが条件となり、技術的に難易度が高くなる。
【0050】
これに対して、本発明の実施例のSAWデバイスの製造方法のように、粘度の高い樹脂シートを樹脂封止に用いた場合には、樹脂シートは、流動性の無いゲル状の材料であり、かつ液状樹脂では、回避できない樹脂成分のギャップへの侵入が生じない。このため、樹脂封止する領域の体積に合せて、樹脂シートの上面からプレスする高さ(セラミック基板の上面から、上型のプレス板までのギャップ)をスペーサーあるいは高さ調整冶具を用いて調整することにより、所定の中空部を残し、封止することができるようになる。
【0051】
すなわち、樹脂シートの体積=製品体積−(SAWチップ体積+中空部分)+切りしろ、となるように、上型のプレス板による樹脂シートの押し込み量を調整することで、樹脂の浸入やリーク不良の発生なしに封止することができる。
【0052】
ここで、本発明に用いる樹脂シートとしては、例えばエポキシ樹脂を用いることができる。このエポキシ樹脂は、図4の粘度・温度特性を示すグラフのように、液状樹脂に比べて、はるかに高い粘度を有し、例えば、軟化した樹脂シートは、7,000〜20,000Pa・sの粘度を有する。この状態では、樹脂シートはゲル状で流動性が無いため、通常、液状樹脂で発生する毛細管現象による狭ギャップ部への樹脂の混入は発生しない。したがって、図3に示す上型11による押圧を停止すると樹脂シートのそれ以上の変形はなくなる。
【0053】
ここで、樹脂シートの加熱軟化温度は、30℃〜150℃、好ましくは、80℃〜100℃、である。
【0054】
それ故、上型11の押し込み量が過多であれば、SAWデバイスの中空部(空間)の体積が減少し樹脂がIDT電極に到達するため、特性不良が増加し、また、押し込み量が不足すると樹脂が十分に行きわたらず、リーク不良を生じる。
【0055】
そこで、この押し込み量を適宜調整することにより、樹脂浸入、リーク不良のないSAWデバイスを製造できるようになる。
【0056】
本発明者の知見によると、減圧容器内の圧力が低いほど(例えば、0.05気圧)リーク不良が減少するほか、加熱温度が80℃以上の温度範囲(例えば、80℃〜100℃)及び少くとも5分以上の加熱時間が当該材料による封止に適すること、さらに、上型の押し込み量が過多であれば、中空部の体積が減少し樹脂がIDT電極に到達するため、特性不良が増加し、他方、押し込み量が不足すると、樹脂が十分に行き渡らずリーク不良が生じる。押し込み量を適宜調整することにより、樹脂浸入、リーク不良の無いSAWデバイスが得られることになる。
【0057】
ダイシング工程及びレーザー捺印工程
さらに、本発明の実施例であるSAWデバイスの製造方法は、樹脂封止工程及びダイシング工程の後にレーザーによる捺印を行う。これにより捺印のズレがなくなる
【0058】
当該SAWデバイスの製造方法では、集合基板50を構成する個々の製品単位(SAWデバイス外形+ダイシングしろ)が、この集合基板内に連続した状態で配置され、かつ、ダイシングしろの直線延長線上に図5に示すような認識パターンであるダイシング用の目合せマーク(ダイシングマーク)がそれぞれ集合基板50に設けられている。
【0059】
このダイシング工程では、樹脂封止したSAW実装基板(集合基板)50から、個々のSAWデバイス1にダイシング・ソーで分割する際、図5に示すように、実装基板(セラミック基板)の裏面の縁に沿って縦横に印刷した認識パターン(ダイシング・マーク)を用いる。
【0060】
この実装基板の裏面に印刷した認識パターンにより、実装基板50の表裏面に印刷した認識パターン間にずれがあっても、該裏面に実装した端子電極、外部電極等を切損あるいは切断位置ずれを生じることなく、所定寸法(例えば、2.0mm×1.6mm)の個々のSAWデバイス(個片)に分割することができるようになる。
【0061】
樹脂シート厚の選定
本発明の実施例であるSAWデバイスの製造方法では、前述した特徴ある樹脂封止工程及びダイシング工程を確実に実施して欠陥のない個々のSAWデバイスを製造するために、以下に記載する公式(3)により樹脂封止前の樹脂シート厚tを算出し、その製造に用いるようにする。
【0062】
t>(i×k×H−(4((g−a)/2×(j−b)/2)×1/3×d)+((((g−a)/2×b)×2)×d)
+((((j−b)/2)×a)×2)×d))−(a×b×c)+(a×b×d))/(g×i)……(3)
上記公式(3)で、
a:チップ(SAWチップ)の幅
b:チップの奥行き
c:チップの厚み
d:チップと基板のギャップ
e:製品(SAWデバイス)の外形(幅)
f:製品の外形(奥行き)
g:製品外形+切断しろ(幅)
i:製品外形+切断しろ(奥行き)
j:製品外形−表裏ずれ(幅)
k:製品外形−表裏ずれ(奥行き)
H:樹脂封止層厚
t:樹脂シート厚
とする(図6(a)及び図6(b)参照)。
【0063】
上記公式(3)のように、樹脂封止に用いる樹脂シート厚tを選定することにより、たとえセラミック基板の表裏に印刷した図5に示す認識パターン間に印刷ずれがあっても、個々のSAWデバイスに切断後、所定の樹脂封止領域を確保できるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の圧電部品及びその製造方法は、正確な樹脂封止及びダイシング後の寸法・形状が不可欠なSAWデバイス、圧電薄膜フィルタ等の圧電部品の製造に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の圧電部品の製造方法の実施例であるSAWデバイスの製造方法で製造する個々に分割したSAWデバイス(圧電部品)の縦断面図である。
【図2】本発明の実施例のSAWデバイスの製造方法の概念図である。
【図3】図2に示した実施例のSAWデバイスの製造方法の一部を構成する樹脂封止工程の概念図である。
【図4】本発明の実施例のSAWデバイスの製造方法の一部を構成する樹脂封止工程で用いる樹脂シートの粘度・温度特性を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例のSAWデバイスの製造方法の一部を構成するダイシング工程で分割する認識パターンを裏面に印刷した、実装基板の平面(裏面)図である。
【図6】本発明の実施例のSAWデバイスの製造方法の樹脂シート厚の算出公式(3)に用いるSAWデバイスの各諸元を示す縦断面図(図6(a))及び平面図(図6(b))である。
【図7】従来例1のSAWデバイスの製造方法で製造する表面実装型SAWデバイスの斜視図(図7(a))及び縦断面図(図7(b))である。
【図8】従来例1のSAWデバイスの製造方法における熱ローラ・ラミネート工程を説明する縦断面図(図8(a))及び横断面図(図8(b))である。
【図9】従来例2のSAWデバイスの製造方法における実装基板上の各個片領域上にSAWチップをフリップチップ実装する工程の平面図(図9(a))及び縦断面図(図9(b))である。
【図10】従来例3の電子部品(SAWデバイス)の製造方法で製造する電子部品(SAWデバイス)の縦断面図である。
【符号の説明】
【0066】
1 SAW(弾性表面波)デバイス
2 SAWチップ
3 セラミック基板
4 外部電極
5 金バンプ
6 樹脂封止部(樹脂シート)
7 IDT電極(櫛歯電極)
10 下型
11 上型
12 減圧容器
50 実装(集合)基板
S 空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集合基板にバンプ付のSAWチップをフリップチップ実装する工程と、
実装済の前記集合基板に前記集合基板の上面より面積の大きい樹脂シートを加熱軟化し中空部を残しつつ貼付け、さらに加熱硬化によって樹脂封止する工程と、
封止・硬化した実装済の前記集合基板の裏面にダイシング・マークを設け、該ダイシング・マークを用いて前記集合基板を製品単位に切断する工程と、を備え、
前記樹脂封止する工程前の樹脂シートの厚みtが
t>(i×k×H−(4((g−a)/2×(j−b)/2)×1/3×d)+((((g−a)/2×b)×2)×d)
+((((j−b)/2)×a)×2)×d))−(a×b×c)+(a×b×d))/(g×i)
(ここで、a:チップ(SAWチップ)の幅
b:チップの奥行き
c:チップの厚み
d:チップと基板のギャップ
e:製品(圧電部品)の外形(幅)
f:製品の外形(奥行き)
g:製品外形+切断しろ(幅)
i:製品外形+切断しろ(奥行き)
j:製品外形−表裏ずれ(幅)
k:製品外形−表裏ずれ(奥行き)
H:樹脂封止層厚)
である、ことを特徴とする圧電部品の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂封止工程が、
下型に実装済み前記集合基板を載置する工程と、
載置した前記集合基板上に前記集合基板の上面より面積の大きい樹脂シートを載置する工程と、
上型及び減圧容器を前記下型上に配置してから該減圧容器内を脱気・減圧する工程と、
前記樹脂シートを軟化温度以上に加熱しつつ、前記上型で押圧し貼付して封止する工程と、
前記減圧容器内を大気圧に戻してから前記上型及び前記減圧容器を前記下型から取り外す工程と、
前記封止済みの前記集合基板を前記下型から取り出す工程と、
からなることを特徴とする請求項1に記載の圧電部品の製造方法。
【請求項3】
軟化した前記樹脂シートが、7,000〜20,000Pa・sの粘度を有することを特徴とする請求項1に記載の圧電部品の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂シートが加熱軟化する温度が30℃〜150℃であることを特徴とする請求項1に記載の圧電部品の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂シートがエポキシ樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載の圧電部品の製造方法。
【請求項6】
前記脱気・減圧時の前記減圧容器内の圧力が0.01〜0.05気圧であることを特徴とする請求項2に記載の圧電部品の製造方法。
【請求項7】
前記圧電部品がSAWデバイスであることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の圧電部品の製造方法。
【請求項8】
請求項1の製造方法により製造した圧電部品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−10942(P2009−10942A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137432(P2008−137432)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】