説明

基板洗浄方法及び帯電抑制効果監視モニター

【課題】基板の帯電防止のために、超純水よりも導電性の高い液体で基板を洗浄するに当たり、この洗浄用液体による帯電抑制効果を簡便かつ的確に確認する。
【解決手段】洗浄用液体の一部を分取し、被洗浄基板と同材質のモデル片と接触させ、該モデル片の静電電位を測定することにより、基板の帯電状況を監視する基板洗浄方法。洗浄用液体を被洗浄基板と同材質のモデル片と接触させる液体接触手段と、該液体接触手段で洗浄用液体と接触しているモデル片の静電電位を測定する静電電位測定手段とを備えてなる帯電抑制効果監視モニター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体用のシリコンウェハ、フラットパネルディスプレイ用のガラス基板、フッ素樹脂コート基板等、高度な清浄度を必要とする基板の洗浄方法及び基板洗浄用の液体の帯電抑制効果監視モニターに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品用基板の洗浄には、超純水などが用いられているが、超純水を洗浄に用いると、その比抵抗値の高さから、被洗浄基板やノズルとの摩擦によって被洗浄基板が帯電することがある。基板が帯電すると、この基板に微細な回路パターンがある場合、その回路が破壊されてしまうことがある。また、静電気の発生で基板に塵埃やパーティクルが付着し易くなる。
【0003】
これを防ぐために、従来、基板の洗浄に、超純水に微量の導電性付与物質、例えば、炭酸ガスを溶解させて導電性を高めた水、いわゆる炭酸水が用いられている(例えば、特許文献1)。この炭酸水の炭酸濃度は、導電性の付与を目的とするため、通常1〜50mg/Lと極低濃度である。
【0004】
炭酸水のような超純水より導電性の高い液体(以下「洗浄用液体」と称す場合がある。)を用いて基板を洗浄した際に、この液体の基板に対する帯電抑制効果を確認し、その結果を洗浄条件等に反映することが重要である。例えば、洗浄に用いる炭酸水の炭酸濃度は高い方が導電性が高く、従って、帯電抑制効果も高いが、用いる炭酸水の炭酸濃度を高くすることは、炭酸消費量の増大につながり、洗浄コストの面で好ましくない。従って、十分な帯電抑制効果を得た上で、低濃度の炭酸水を用いて洗浄を行うことが望まれ、このためには、炭酸水による帯電抑制効果を確認して炭酸水の炭酸濃度を制御することが望まれる。
【0005】
従来、炭酸水等の洗浄用液体による帯電抑制効果を確認する方法としては、次のような方法が採用されている。
(1) 洗浄に用いた液体の導電率又は比抵抗値(導電率の逆数)を測定して、その導電性から帯電抑制効果を推定する。
(2) 液体により洗浄されている基板、即ち洗浄中の基板の静電電位を直接測定する。
【特許文献1】特開平11−26412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
洗浄用液体の導電率又は比抵抗値の測定値に基く方法は、洗浄用液体の導電性から帯電抑制効果を間接的に推定するものであり、必ずしも実際の帯電抑制効果を反映するものではない。この場合、例えば、炭酸水を用いる洗浄においては、炭酸水の比抵抗値を0.2MΩ・cm程度に制御するのが一般的であるが、比抵抗値0.2MΩ・cmの炭酸水の炭酸濃度は約15mg/Lであり、これよりも炭酸濃度の低い炭酸水では帯電抑制効果はないと判断され、洗浄用炭酸水の炭酸濃度を更に低減することはできなかった。
【0007】
洗浄中の基板の静電電位を直接測定する方法は、確実な方法ではあるが、基板の出し入れなど、頻繁に操作を行っている系内で被洗浄基板面の静電電位を測定することは実用上困難である。
【0008】
このようなことから、洗浄基板に対する帯電抑制効果を簡便な方法で的確に確認することができる実用性の高い技術が望まれている。
【0009】
本発明は上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、洗浄用液体による洗浄基板の帯電抑制効果を簡便かつ的確に確認することができる基板洗浄方法及び帯電抑制効果監視モニターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、被洗浄基板と同材質のモデル片に洗浄用液体を接触させ、該モデル片と洗浄用液体との接触で発生する静電電位を測定することにより、該液体の帯電抑制効果を簡便かつ的確に確認することができることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明(請求項1)の基板洗浄方法は、超純水よりも導電性の高い液体で基板を洗浄する基板洗浄方法において、該液体の一部を分取し、前記基板と同材質のモデル片と接触させ、該モデル片の静電電位を測定することにより、前記基板の帯電状況を監視することを特徴とするものである。
【0012】
請求項2の基板洗浄方法は、請求項1において、前記液体が、炭酸水であることを特徴とするものである。
【0013】
請求項3の帯電抑制効果監視モニターは、基板洗浄用の、超純水よりも導電性の高い液体を該基板と同材質のモデル片と接触させる液体接触手段と、該液体接触手段で前記液体と接触しているモデル片の静電電位を測定する静電電位測定手段とを備えてなるものである。
【0014】
請求項4の帯電抑制効果監視モニターは、請求項3において、前記モデル片は、板面を傾斜させて設置されており、前記液体接触手段は、該モデル片の板面の傾斜方向の途中部分に向って前記液体を注ぎ掛けるように設けられており、前記静電電位測定手段は、該基板の該途中部分よりも傾斜方向上位側に対面設置された静電電位計であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、洗浄基板と同材質のモデル片に洗浄用液体を接触させ、該モデル片と洗浄用液体との接触で発生する静電電位を測定することにより、洗浄用液体による実質的な帯電抑制効果を簡便かつ的確に確認することができる。
【0016】
このため、洗浄用液体による帯電抑制効果を監視すると共に、その結果を洗浄条件に反映することにより、効果的な基板洗浄を行うことができる。例えば、帯電抑制効果を十分に得ることができる範囲で、用いる洗浄用液体の導電性付与物質濃度を低減することができ、洗浄コストの低減を図ることができる。
【0017】
本発明において、洗浄用液体としては炭酸水が効果的である(請求項2)。また、本発明の帯電抑制効果監視モニターは、具体的には、モデル片が、板面を傾斜させて設置され、このモデル片の板面の傾斜方向の途中部分に向って洗浄用液体を注ぎ掛けるように液体接触手段が設けられ、このモデル片の途中部分よりも傾斜方向上位側に静電電位測定手段が対面設置されているものが好ましく、これにより、簡易な装置構成で的確な静電電位測定を行うことができる(請求項4)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に図面を参照して本発明の基板洗浄方法及び帯電抑制効果監視モニターの実施の形態を詳細に説明する。
【0019】
図1は本発明の帯電抑制効果監視モニターの実施の形態を示す模式図であり、図中、1は筐体、2はモデル片、3は静電電位計、4は洗浄用液体給水配管、5は排水配管を示す。
【0020】
図1においては、板状のモデル片2がその板面2Aを水平面に対して傾斜させて筐体1内に設置されており、給水配管4は、このモデル片2の傾斜板面2Aの途中部分に向って洗浄用液体を注ぎ掛けることができるように、筐体1内に挿入されている(以下、モデル片2の板面2Aのうち、洗浄用液体が注ぎ掛けられる位置を「注液点」と称す場合がある。)。
【0021】
また、静電電位計3は、この注液点よりも傾斜方向上位側に対面設置されている。
【0022】
この帯電抑制効果監視モニターであれば、基板の洗浄操作中において、或いは基板の洗浄に先立ち、洗浄用液体の一部を分取して、配管4よりモデル片2に注ぎ掛け、洗浄用液体がモデル片2に接触して擦れることでモデル片2に発生する静電電位を、この注液点近傍に設けられた静電電位計3で測定することにより、用いる洗浄用液体の帯電抑制効果を確認することができる。
【0023】
即ち、静電電位計3による測定値が−10〜+10kVでほぼ0kVであれば、当該洗浄用液体は十分な帯電抑制効果を有し、基板洗浄に好適であることを確認することができる。また、この静電電位計3の測定値が例えば−0.5kV以下と0kVから大きくはずれている場合、当該洗浄用液体は帯電抑制効果が十分でなく、基板洗浄には不適当であると評価することができる。
【0024】
モデル片2の板面2Aに注下された洗浄用液体は、モデル片2の傾斜板面2Aを流下して配管5より排出される。
【0025】
本発明における被洗浄基板は、半導体用のシリコンウェハ、フラットパネルディスプレイ用のガラス基板、フッ素樹脂コート基板等であり、その材質は、シリコン、ガラス、PFA(パーフルオロアルコキシフッ素樹脂)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等のフッ素樹脂、PFA、トップコート等で被覆された基板等であり、特に制限はない。
【0026】
モデル片2は、このような被洗浄基板と同材質のもの、より詳細には、被洗浄基板の被洗浄面と同材質のものであり、従って、被洗浄基板がフッ素樹脂コート基板等の表面被覆層を有するものである場合、必ずしも、モデル片は基板と同様にフッ素樹脂コートを施したものとする必要はなく、被覆層を形成するフッ素樹脂のみからなる板状片であっても良い。
【0027】
モデル片2の寸法には特に制限はないが、本発明のモニターを過度に大きなものとすることはなく、取り扱い性と強度を確保し、また、測定誤差を防止する上で、板面の寸法が30〜100mm×30〜100mm程度で厚さが3〜5mm程度の板状であることが好ましい。
【0028】
モデル片2は、図1に示す如く、水平面に対して板面2Aを傾斜させて設けられるが、この傾斜角θは20〜60°、特に30〜50°程度が好ましい。傾斜角θが大き過ぎても小さ過ぎても、注下された洗浄用液体とモデル片の板面との摩擦による静電電位の発生量が十分でないことにより、また、実際の基板洗浄状況を十分に模擬することができないことにより、正確な静電電位測定を行えない場合がある。
【0029】
また、洗浄用液体の注液点は、モデル片2のこのような傾斜板面2Aのほぼ中央付近とすることが好ましい。
【0030】
洗浄用液体は、超純水よりも導電性の高い液体であり、通常、超純水に導電性を付与するための物質を溶解させて調製される。この導電性付与物質は、洗浄後の基板に残留しないものが好ましく、炭酸ガスが最適である。即ち、洗浄用液体としては炭酸水が好ましい。
【0031】
洗浄に用いる炭酸水の炭酸濃度は、通常1〜50mg/L程度、比抵抗値として0.1〜0.3MΩ・cm程度とされるが、本発明に従って、炭酸水の帯電抑制効果を確認することにより、必要とされる帯電抑制効果を得た上で、炭酸水の炭酸濃度を十分に低い値、例えば1〜5mg/Lに制御することができ、炭酸ガス使用量を低減して洗浄コストの低減を図ることができる。
【0032】
洗浄用液体のモデル片板面への注液速度には特に制限はないが、この注液速度についても大き過ぎても小さ過ぎても洗浄用液体とモデル片の板面との摩擦による静電電位の発生量が十分でないことにより、また、実際の基板洗浄状況を十分に模擬することができないことにより、正確な静電電位測定を行えない場合があることから、0.1〜1L/min程度とすることが好ましい。
【0033】
静電電位計3としては、市販の静電電位計を用いることができ、その使用条件は、使用する静電電位計の仕様に従えばよい。
【0034】
なお、筐体1の材質としては、基板洗浄で基板と接しているものが好ましく、通常、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PFA、PE(ポリエチレン)等が用いられる。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0036】
<実施例1>
図1に示す装置を用い、洗浄用液体を超純水から炭酸水に切り換え、モデル片2の静電電位を測定した。結果を図2に示す。
【0037】
なお、本実施例に用いた材料、測定機器及び条件等は次の通りである。
筐体の材質:PE
モデル片:50mm×50mm×厚さ3mmのPFA板
モデル片の傾斜角度θ:45°
静電電位計:シシド静電(株)製「STATIRON−D23」
洗浄用液体の供給量:0.5L/min
炭酸水の炭酸濃度:1〜5mg/L(比抵抗値:0.5〜1.1MΩ・cm)
超純水の比抵抗値:18.2MΩ・cm
注液点:モデル片のほぼ中央付近
【0038】
図2より次のことが明らかである。
【0039】
超純水は比抵抗値が高いため、モデル片と接触すると帯電が起こり、従って、超純水給水時にはモデル片の静電電位の測定値は−1.0kV以下でモデル片が帯電している。これに対して、炭酸水は導電性を有し、モデル片に帯電を起こし難いため、超純水から炭酸水に給水を切り換えるとモデル片の静電電位の測定値はほぼ0kVで安定し、帯電が起こっていないことを確認することができた。
【0040】
前述の如く、従来、炭酸水による基板洗浄において、炭酸水の比抵抗値から導電性を確認して洗浄に用いる場合、比抵抗値0.2MΩ・cm程度の炭酸水を必要としているが、この場合の炭酸水の炭酸濃度は約15mg/Lである。
これに対して、上記実施例の結果から、炭酸濃度1〜5mg/Lの炭酸水でも十分な帯電抑制効果を得ることができることを確認できたことから、洗浄用炭酸水の炭酸消費量を従来の約1/3以下に低減することができることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の帯電抑制効果監視モニターの実施の形態を示す模式図である。
【図2】実施例1の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0042】
1 筐体
2 モデル片
3 静電電位計
4 洗浄用液体給水配管
5 排水配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超純水よりも導電性の高い液体で基板を洗浄する基板洗浄方法において、
該液体の一部を分取し、前記基板と同材質のモデル片と接触させ、該モデル片の静電電位を測定することにより、前記基板の帯電状況を監視することを特徴とする基板洗浄方法。
【請求項2】
請求項1において、前記液体が、炭酸水であることを特徴とする基板洗浄方法。
【請求項3】
基板洗浄用の、超純水よりも導電性の高い液体を該基板と同材質のモデル片と接触させる液体接触手段と、
該液体接触手段で前記液体と接触しているモデル片の静電電位を測定する静電電位測定手段と
を備えてなる帯電抑制効果監視モニター。
【請求項4】
請求項3において、前記モデル片は、板面を傾斜させて設置されており、
前記液体接触手段は、該モデル片の板面の傾斜方向の途中部分に向って前記液体を注ぎ掛けるように設けられており、
前記静電電位測定手段は、該モデル片の該途中部分よりも傾斜方向上位側に対面設置された静電電位計であることを特徴とする帯電抑制効果監視モニター。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−129590(P2010−129590A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−299669(P2008−299669)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】