説明

基板積層体およびその基板積層体の分離方法

【課題】薄肉ガラス基板と支持基板とを積層して一体化した基板積層体において、薄肉ガラス基板と支持基板との分離作業を容易にするとともに、分離の際に薄肉ガラス基板の表面に汚れが生じないようにする。
【解決手段】薄肉ガラス基板2と支持ガラス基板3とを積層して一体化した基板積層体1であって、薄肉ガラス基板2と支持ガラス基板3との間の全面に亘って、水を含むことで剥離する非水溶性の接着用樹脂からなる接着剤6を介在させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示基板や有機EL表示基板などの表示基板や、有機EL照明基板などの照明基板などに用いられる薄肉ガラス基板に関するもので、詳しくは、当該薄肉ガラス基板と支持基板とを積層して一体化した基板積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、液晶表示装置や有機EL表示装置などの表示装置や、有機EL照明装置などの照明装置などには、薄型化及び軽量化が要請されている。そのため、当該装置に用いられるガラス基板においても、薄板化が推進されているのが実情である。しかしながら、ガラス基板は薄板化が進むに連れて、強度低下や撓みの発生が避けられないため、当該薄肉ガラス基板単体では、既存の製造工程へ投入できないという問題が生じていた。加えて、薄肉ガラス基板単体では、上記の強度低下等の理由から、取り扱い自体も困難となるため、作業効率の低下を招くという問題も生じていた。
【0003】
そこで、当該薄肉ガラス基板を、他の支持基板と貼り合わせた基板積層体の状態で、製造工程へ投入して所定の処理を行い、一連の処理が終了した後に薄肉ガラス基板と支持基板とを分離する方法が提案されるに至っている。
【0004】
すなわち、例えば、特許文献1には、貼着と剥離を繰り返し行うことが可能な粘着力を有する粘着材層を介して、薄肉ガラス基板を支持基板に貼り合わせて基板積層体を製作することが開示されている。また、その従来技術として、段落0007には、水溶性型のシリコーン樹脂によって支持基板にガラス基板を貼り合わせることが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、薄肉ガラス基板の周縁部のみを熱硬化性樹脂を介在させて支持基板に貼り合わせることで基板積層体を製作することが開示されている。そして、薄肉ガラス基板を分離する際には、熱硬化性樹脂を介在された周縁部を含んだ積層体の端部付近を切断除去することで、薄肉ガラス基板を取り出すようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−86993号公報
【特許文献2】特開2006−220757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示の方法では、薄肉ガラス基板を支持基板に固定するのに十分な粘着力を粘着材層に付与したときには、薄肉ガラス基板と支持基板との分離が困難となるばかりでなく、分離時に薄肉ガラス基板に破損が生じるおそれがあるので問題となる。また、このような再粘着性の粘着材層を用いた場合には、分離後も薄肉ガラス基板に粘着材の一部が付着したまま残存しやすい。そのため、薄肉ガラス基板の表面に残存する粘着材自体が汚れとなるばかりでなく、その粘着力によって周囲の粉塵等の他の異物を吸着して汚れが悪化するという問題も生じ得る。
【0008】
また、特許文献1の従来技術の欄に開示されているように、支持基板と薄肉ガラス基板との接着に水溶性のシリコーン樹脂を使用した場合には、当該構成を備えた基板積層体を水に浸漬した際に、シリコーン樹脂の成分が水中に溶け出してしまう。そのため、分離した薄肉ガラス基板の表面に水中に溶け出したシリコーン樹脂に由来する汚れが付着する可能性が高く、薄肉ガラス基板の清浄性を保つことが困難となる。
【0009】
一方、特許文献2に開示の方法では、薄肉ガラス基板と支持基板とを分離する際に、熱硬化性樹脂を介在された周縁部を含んだ積層体の端部付近を切断する必要があるので、分離作業に面倒且つ煩雑な作業が強いられる。また、切断時に発生する切粉によって薄肉ガラス基板の表面に汚れが生じるおそれもある。
【0010】
本発明の課題は、薄肉ガラス基板と支持基板とを積層して一体化した基板積層体において、薄肉ガラス基板と支持基板との分離作業を容易にするとともに、分離の際に薄肉ガラス基板の表面に汚れが生じないようにすることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために創案された本発明は、薄肉ガラス基板と支持基板とを積層して一体化した基板積層体であって、前記薄肉ガラス基板と前記支持基板との間に、水を含むことで剥離する非水溶性の接着剤を介在させたことに特徴づけられる。
【0012】
このような構成によれば、基板積層体を水に浸漬するだけで、接着剤が水を含んで剥離するので、薄肉ガラス基板と支持基板とを容易に分離することができる。しかも、当該接着剤は、非水溶性であることから、基板積層体を浸漬した水中に接着剤の成分が溶け出すという事態を確実に抑制することができる。そのため、水中で分離された薄肉ガラス基板に接着剤に由来する汚れが付着することがない。したがって、分離後の薄肉ガラス基板の表面の清浄性を確実に確保することができる。
【0013】
上記の構成において、前記接着剤としては、接着用樹脂を使用することができる。
【0014】
上記の構成において、前記接着剤を、前記薄肉ガラス基板と前記支持基板との間の全面に亘って介在させることが好ましい。
【0015】
このようにすれば、薄肉ガラス基板を確実に支持基板に固定することができる。また、接着剤を薄肉ガラス基板と支持基板との間の全面に亘って介在させれば、薄肉ガラス基板と支持基板との間に接着剤を介在させない部分を形成した場合のように、接着剤の肉厚の変化部が形成されることがない。したがって、接着剤の肉厚の変化に伴って薄肉ガラス基板の表面が波打つという事態を確実に防止することが可能となる。その結果、薄肉ガラス基板の表面を平坦に保つことができるので、薄肉ガラス基板に対して成膜等の各種処理を正確に行うことができる。
【0016】
上記の構成において、前記薄肉ガラス基板の片面又は両面に飛散防止用フィルムが貼り付けられていることが好ましい。
【0017】
このようにすれば、製造工程の途中や、表示装置や照明装置等の最終製品に組み込まれた段階で、薄肉ガラス基板が破損しても、その破片等が周囲に飛散することを防止することができる。
【0018】
また、上記の構成において、前記薄板ガラスの片面に透明電極膜が形成されていてもよいし、前記薄板ガラスの一方の面に飛散防止用のフィルムが貼り付けられ、他方の面に透明電極膜が形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0019】
以上のように本発明によれば、基板積層体を水に浸漬するだけで、薄肉ガラス基板と支持基板との間に介在させた接着剤が水を含んで剥離するので、薄肉ガラス基板と支持基板とを容易に分離することができる。また、薄肉ガラス基板と支持基板との間に介在させた接着剤は非水溶性であることから、基板積層体を浸漬させた水に溶け出すことがなく、接着剤に由来する汚れが分離後の薄肉ガラス基板の表面に付くという事態を確実に防止することができる。したがって、分離後の薄肉ガラス基板の表面の清浄性を確実に確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る基板積層体を示す概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0022】
図1は、本発明の実施形態に係る基板積層体を示す図である。この基板積層体1は、薄肉ガラス基板2と、支持基板としての支持ガラス基板3とを積層して一体化させたもので、詳しくは次のような構成を備えている。すなわち、本実施形態では、基板積層体1は、支持ガラス基板3の表面側に、順に、飛散防止フィルム4と、薄肉ガラス基板2と、透明電極膜5とを積層した構成とされている。
【0023】
支持ガラス基板3の表面と飛散防止フィルム4の裏面の間には、双方の全面に接触した状態で、水を含むことで剥離する非水溶性の樹脂接着剤6が介在されており、この接着剤6によって、支持ガラス基板3と飛散防止フィルム4とが互いに貼り合わされている。
【0024】
飛散防止フィルム4の表面と薄肉ガラス基板2の裏面との間には、双方の全面に接触した状態で、水を含んで剥離することがない非水溶性の樹脂接着剤7が介在されており、この接着剤7によって、飛散防止フィルム4と薄肉ガラス基板2とが互いに貼り合わされている。
【0025】
透明電極膜5は、薄肉ガラス基板2の表面に直接成膜されている。なお、透明電極膜5の成膜は、薄板ガラス基板2を支持基板3に固定した後、すなわち、上記の構成を備えた基板積層体1から透明電極膜5を除いた積層体の状態とされた薄肉ガラス基板2の表面に対して行われる。
【0026】
以上の基板積層体1の各構成部材は、液晶表示装置や有機EL表示装置などの表示装置や、有機EL照明装置などの照明装置の製造工程で行われる熱処理(例えば、200℃の熱処理)に耐え得る耐熱性を備えていることが好ましい。以下、各構成部材について詳述する。
【0027】
薄肉ガラス基板2としては、板厚が100〜300μmのガラス基板が使用され、支持ガラス基板3としては、板厚が200〜700μmのガラス基板が使用される。薄肉ガラス基板2の組成としては、例えば、無アルカリガラスや硼珪酸ガラス、或いはソーダ石灰ガラスなどのガラスが使用されるが、支持ガラス基板3は、表示装置や照明装置などの最終製品には組み込まれないため、その組成は、窓板ガラスと同じソーダ石灰ガラス等を使用すれば十分である。なお、支持基板は、ガラス基板3に代えて、プラスチック等の樹脂や金属、或いはセラミック等の基板を使用することもできる。また、薄肉ガラス基板2および支持ガラス基板3は、丸形などの形状であってもよいが、本実施形態では、例えば縦方向寸法が100〜300mmで、横方向寸法が100〜300mmの矩形状であって、同じ大きさのものが使用される。
【0028】
支持ガラス基板3と飛散防止フィルム4との間に介在させる接着剤6としては、水で剥離可能であって、且つ、耐熱性を有するエポキシ系、アクリル系、或いはシリコーン系の紫外線硬化樹脂又は熱硬化性樹脂を選択することができる。なお、この接着剤6は、水を含ませたときに生じる面方向への膨張を1つの要因として剥離が生じるものである。具体的には、この接着剤6としては、紫外線硬化樹脂である電気化学工業株式会社製のテンプロック(商品名)を使用することができる。なお、接着剤6の厚みは、10〜200μm程度である。
【0029】
また、飛散防止フィルム4と薄肉ガラス基板2との間に介在させる接着剤7としては、水で剥離することがなく、非水溶性であれば特に限定されるものではないが、例えば、耐熱性が高く、硬化収縮及び吸水率の小さいアクリル系やエポキシ系、或いはシリコーン系の紫外線硬化樹脂又は熱硬化性樹脂を使用することができる。接着剤7の厚みは、10〜200μm程度である。
【0030】
飛散防止フィルム4としては、ポリエチレンナフタレート樹脂やノルボルネン樹脂など、耐候性及び耐熱性に富んだ素材を選択することが好ましい。
【0031】
そして、以上のように構成された基板積層体1は、一連の処理が完了した後、水(好ましくは80〜90℃の温水)中に浸漬されて、薄肉ガラス基板2と支持ガラス基板3とが分離される。詳述すると、本実施形態では、水で剥離可能な接着剤6が、支持ガラス基板3と飛散防止フィルム4との間に双方に接触した状態で介在しているので、基板積層体1を水に浸漬した状態で所定時間が経過すると、基板積層体1が、支持ガラス基板3と、表面に透明電極膜5が形成され且つ裏面に飛散防止フィルム4が貼り付けられた薄肉ガラス基板2との2つに分離される。この際、接着剤6は、非水溶性であるので、基板積層体1を浸漬した温水中に溶け出すことなく、フィルム状の形状を維持した状態のまま水中に残存する。
【0032】
したがって、水に浸漬するだけで、薄肉ガラス基板2と支持ガラス基板3とを容易に分離できるとともに、水中で分離された薄肉ガラス基板2に接着剤6に由来する不要な汚れが付着することがなく、分離後の薄肉ガラス基板2の清浄性を確実に確保することができる。
【0033】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の形態で実施することができる。例えば、上記の実施形態では、支持ガラス基板3と、薄肉ガラス基板2との間に、飛散防止フィルム4を介在させて積層した場合を説明したが、飛散防止フィルム4を省略して、水で剥離可能な接着剤6によって、支持ガラス基板3の表面に薄肉ガラス基板2を直接貼り付けてもよい。
【0034】
また、上記の実施形態では、支持ガラス基板3の表面全体に亘って接着剤6を介在させた場合を説明したが、接着剤6を薄肉ガラス基板2の周縁部に対応する部分のみに介在させたり、或いは薄肉ガラス基板2の板面に対応した領域内に格子状の形態で介在させるなどしてもよい。
【0035】
さらに、上記の実施形態では、薄肉ガラス基板2と支持ガラス基板3との大きさを同じにし、各々の端面を揃えた状態で積層した場合を図示して説明したが、薄肉ガラス基板2よりも支持ガラス基板3の大きさを大きくし、平面視で薄肉ガラス基板2の外方から支持ガラス基3が外方に食み出すようにしてもよい。これにより、積層体1のハンドリング時に、薄肉ガラス基板2に触れることなく、支持ガラス基板3のみを掴んで作業をすることができるので、薄肉ガラス基板2との接触回数を可及的に低減し、その破損をより確実に防止することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 基板積層体
2 薄肉ガラス基板
3 支持ガラス基板
4 飛散防止フィルム
5 透明電極膜
6 樹脂接着剤
7 樹脂接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄肉ガラス基板と支持基板とを積層して一体化した基板積層体であって、
前記薄肉ガラス基板と前記支持基板との間に、水を含むことで剥離する非水溶性の接着剤を介在させたことを特徴とする基板積層体。
【請求項2】
前記接着剤が、接着用樹脂である請求項1に記載の基板積層体。
【請求項3】
前記接着剤を、前記薄肉ガラス基板と前記支持基板との間の全面に亘って介在させた請求項1又は2に記載の基板積層体。
【請求項4】
前記薄肉ガラス基板の片面又は両面に飛散防止用フィルムが貼り付けられている請求項1〜3のいずれか1項に記載の基板積層体。
【請求項5】
前記薄肉ガラス基板の片面に透明電極膜が形成されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の基板積層体。
【請求項6】
前記薄肉ガラス基板は、一方の面に飛散防止用のフィルムが貼り付けられ、他方の面に透明電極膜が形成されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の基板積層体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の基板積層体を水に浸漬して、前記薄肉ガラス基板を前記支持基板から分離させることを特徴とする基板積層体の分離方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−285324(P2010−285324A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141627(P2009−141627)
【出願日】平成21年6月12日(2009.6.12)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】