説明

塗工装置、塗工方法及び電極製造方法

【課題】異なる塗工条件に低コストで対応できるとともに、塗工膜の厚みを高精度に管理することができる塗工装置、塗工方法及び電極製造方法を提供すること。
【解決手段】塗工装置は、基材1の表面に塗工材2を塗工する塗工ダイと、塗工ダイの上流側に設けられ塗工材2のビード2a上流側を減圧する減圧用スリットとを有する。塗工ダイは、上流側ブロック21と下流側ブロック25とを有し、上流側ブロック21と下流側ブロック25との間には、塗工材2を吐出するための塗工用スリット26が形成される。上流側ブロック21は、上流側から順に第1のパーツ22、第2のパーツ23及び第3のパーツ24に分割形成される。第2のパーツ23のリップ面23aは、第1のパーツ22のリップ面22a及び第3のパーツ24のリップ面24aより凹んだ位置に配置されて、第2のパーツ23のリップ面23aを底面とする凹部27が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池の製造工程において電極を形成する基材の表面に塗工材を塗工するための塗工装置、塗工方法及び電極製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電動機を駆動源として搭載したハイブリッド車両や電気自動車等の電動車両が普及しつつある。こうした電動車両には、充電や放電を行うための二次電池が搭載されている。二次電池の電極には、アルミ箔(正極側)や銅箔(負極側)などの基材の表面に、塗工装置により塗工材(ペーストやバインダ等)を塗工したものが用いられている。
この塗工装置として、基材を塗工面とは逆側から支持するバックアップローラと、基材に塗工材を塗工する塗工ダイとを備えたものが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示された塗工装置では、塗工ダイが、上流側ブロックと下流側ブロックとの2つのパーツで構成されている。そして、上流側ブロックと下流側ブロックとの間には、塗工材を吐出するための塗工用スリットが形成されている。また、上流側ブロックには、塗工材のビード上流側を減圧するため真空ポンプに接続された減圧用スリット(減圧手段)が設けられている。さらに、減圧用スリットと塗工用スリットとの間のリップ面には、基材の幅方向に延設された溝が形成されている。この溝により、基材の幅方向における減圧度の均一化を図り、塗工膜の幅方向における厚みを一定にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−53233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術には、次のような問題があった。
(1)特許文献1の技術によると、塗工材の粘度や液温等の塗工条件を変更した場合には、それに合わせて塗工ダイ自体を変更しなければならない。これは、塗工条件に応じて必要な減圧度が異なり、それに適した溝形状(溝の形成位置や深さ、幅など)を有する塗工ダイを使用しなければならないからである。しかしながら、塗工ダイは高価であるため、塗工条件に応じた複数の塗工ダイを準備した場合、コストが上昇するという問題があった。
【0006】
(2)また、塗工ダイに切削加工を施して溝を延設する場合、高い寸法精度(特に、高い直線精度)の溝を形成することが困難であった。溝の寸法精度が低い場合、基材の幅方向における減圧度の均一化を厳密に行うことができず、塗工膜の厚みを高精度に管理することができないという問題があった。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、異なる塗工条件に低コストで対応できるとともに、塗工膜の厚みを高精度に管理することができる塗工装置、塗工方法及び電極製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る塗工装置は、次のような特徴を有している。
(1)基材の表面に塗工材を塗工する塗工ダイと、前記塗工ダイの上流側に設けられ前記塗工材のビード上流側を減圧する減圧手段とを有する塗工装置において、前記塗工ダイは、上流側ブロックと下流側ブロックとを有し、前記上流側ブロックと前記下流側ブロックとの間には、前記塗工材を吐出するための塗工用スリットが形成されていること、前記上流側ブロックは、上流側から順に第1のパーツ、第2のパーツ及び第3のパーツに分割形成されていること、前記第2のパーツのリップ面が、前記第1のパーツのリップ面及び前記第3のパーツのリップ面より凹んだ位置に配置されて、前記第2のパーツのリップ面を底面とする凹部が形成されていること、を特徴とする。
ここで、「ビード」とは、塗工ダイのリップ面と基材との間に形成される塗工材の溜まり部をいう。
(2)(1)に記載する塗工装置において、前記凹部の下流側端面が、前記基材の搬送方向と直交すること、前記塗工材のビードにおける上流側端部の位置が、前記凹部の下流側端面の位置と一致すること、を特徴とする。
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る塗工方法は、次のような特徴を有している。
(3)基材の表面に塗工材を塗工する塗工ダイと、前記塗工ダイの上流側に設けられ前記塗工材のビード上流側を減圧する減圧手段とを使用する塗工方法において、前記塗工ダイは、上流側ブロックと下流側ブロックとを有し、前記上流側ブロックと前記下流側ブロックとの間には、前記塗工材を吐出するための塗工用スリットが形成されていること、前記上流側ブロックは、上流側から順に第1のパーツ、第2のパーツ及び第3のパーツに分割形成されていること、前記第2のパーツのリップ面が、前記第1のパーツのリップ面及び前記第3のパーツのリップ面より凹んだ位置に配置されて、前記第2のパーツのリップ面を底面とする凹部が形成されていること、を特徴とする。
(4)(3)に記載する塗工方法において、前記凹部の下流側端面が、前記基材の搬送方向と直交すること、前記塗工材のビードにおける上流側端部の位置が、前記凹部の下流側端面の位置と一致すること、を特徴とする。
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る電極製造方法は、次のような特徴を有している。
(5)(3)又は(4)に記載する塗工方法により前記基材に前記塗工材を塗工して電極を製造すること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
上記特徴を有する塗工装置、塗工方法及び電極製造方法は、次のような作用及び効果を奏する。
(1)基材の表面に塗工材を塗工する塗工ダイと、前記塗工ダイの上流側に設けられ前記塗工材のビード上流側を減圧する減圧手段とを有する塗工装置、塗工方法及び電極製造方法において、前記塗工ダイは、上流側ブロックと下流側ブロックとを有し、前記上流側ブロックと前記下流側ブロックとの間には、前記塗工材を吐出するための塗工用スリットが形成されていること、前記上流側ブロックは、上流側から順に第1のパーツ、第2のパーツ及び第3のパーツに分割形成されていること、前記第2のパーツのリップ面が、前記第1のパーツのリップ面及び前記第3のパーツのリップ面より凹んだ位置に配置されて、前記第2のパーツのリップ面を底面とする凹部が形成されていること、を特徴とするので、例えば、第2のパーツの位置を移動して凹部の深さを変更したり、一部のパーツのみを取り替えて凹部の幅や形成位置を変更したりすることが可能となり、異なる塗工条件に低コストで対応することができる。
また、第1のパーツ、第2のパーツ及び第3のパーツを組み合わせて凹部を形成するので、凹部を切削加工により形成する場合に比べて、各パーツの端面加工により高い直線精度を確保できるため、低コストで高い寸法精度の凹部を形成することが可能となる。これにより、基材の幅方向にける減圧度の均一化をより厳密に行うことができるため、塗工膜の厚みを高精度に管理することができる。
【0012】
(2)(1)に記載する塗工装置、塗工方法及び電極製造方法において、前記凹部の下流側端面が、前記基材の搬送方向と直交すること、前記塗工材のビードにおける上流側端部の位置が、前記凹部の下流側端面の位置と一致すること、を特徴とするので、基材の搬送方向及び幅方向へ均一に広がったビードを形成することができる。すなわち、塗工ダイのリップ面と基材との間に形成されたビードは、減圧手段により吸引されて上流側へと広がる。このとき、ビードは、隙間の大きい空間よりも隙間の小さい空間へと広がっていく傾向がある。このため、ビードの上流側端部は、凹部の下流側端面の位置まで広がると、隙間の大きい凹部内へ侵入するより先に、隙間の小さい基材幅方向へと広がっていく。したがって、ビードの上流側端部の位置を、凹部の下流側端面の位置と一致させることにより、基材の搬送方向及び幅方向へ均一に広がったビードを形成することができる。
ここで、塗工膜の厚みは、ビードの基材搬送方向の長さに応じて変化する。したがって、基材の搬送方向及び幅方向へ均一に広がったビードを形成することにより、基材幅方向の各位置においてビードの基材搬送方向の長さを一定にすることができ、塗工膜の厚みを均一化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態に係る塗工装置を示す斜視図である。
【図2】図1の塗工装置を示す断面図である。
【図3】図1の塗工装置の塗工部を拡大して示す拡大断面図である。
【図4】図1の塗工装置の塗工部正面を拡大して示す拡大正面図である。
【図5】従来のビード形成範囲を示す平面図である。
【図6】本実施形態のビード形成範囲を示す平面図である。
【図7】減圧度とt値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る塗工装置、塗工方法及び電極製造方法を具体化した実施形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。本実施形態の塗工装置は、電動車両に搭載するリチウムイオン二次電池の製造工程において、電極を形成する基材の表面に塗工材を塗工するものである。
【0015】
<塗工装置>
まず、本実施形態に係る塗工装置の全体構成について、図1〜図4を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係る塗工装置を示す斜視図である。図2は、図1の塗工装置を示す断面図である。図3は、図1の塗工装置の塗工部を拡大して示す拡大断面図である。図4は、図1の塗工装置の塗工部正面を拡大して示す拡大正面図である。各図において、矢印Xは基材搬送方向を示し、矢印Yは基材幅方向を示す。
【0016】
塗工装置10は、図1及び図2に示すように、基材1を塗工面1aとは逆側から支持するバックアップローラ11と、基材1の塗工面1aに塗工材2を塗工する塗工ダイ20と、塗工ダイ20の上流側に設けられ塗工材2のビード2a上流側を減圧する減圧用スリット12(図2参照)とを備えている。
本実施形態の基材1としては、アルミ箔や銅箔等の帯状金属箔が用いられている。また、塗工材2としては、ペーストやバインダ等の塗工液が用いられている。
【0017】
塗工ダイ20は、例えばSUS材により形成されている。この塗工ダイ20は、上流側ブロック21と、下流側ブロック25とを備えている。上流側ブロック21と下流側ブロック25との間には、塗工材2を吐出するための塗工用スリット26が形成されている。この塗工用スリット26は、上流側ブロック21と下流側ブロック25との間に、切欠部を有するシム28を介挿して形成されている。
【0018】
上流側ブロック21は、上流側から順に第1のパーツ22、第2のパーツ23及び第3のパーツ24に分割形成されている。そして、図3に示すように、第2のパーツ23のリップ面23aは、第1のパーツ22のリップ面22a及び第3のパーツ24のリップ面24aより凹んだ位置に配置されている。これにより、第2のパーツ23のリップ面23aを底面とする凹部27(22b,23a,24b)が形成されている。このとき、凹部27の上流側端面22bは、第1のパーツ22の側面により形成される。また、凹部27の下流側端面24bは、第3のパーツ24の側面により形成される。さらに、本実施形態の凹部27の下流側端面24bは、基材搬送方向Xと直交している。この下流側端面24bの位置は、塗工材2のビード2aにおける上流側端部の位置と一致している。なお、ビード2aとは、塗工ダイ20のリップ面24a,25aと基材1との間に形成される塗工材2の溜まり部をいう。
【0019】
減圧用スリット12は、図示しない減圧チャンバに接続されている。この減圧チャンバ内を真空ポンプにより減圧することで、減圧用スリット12を介してビード2a上流側が減圧されるようになっている。この「減圧用スリット12」が、本発明の「減圧手段」の一例である。なお、減圧手段としては、減圧用スリット12に限られず、ビード2aの上流側を減圧できるものであればよい。例えば、塗工ダイ20の上流側に直接減圧チャンバを設置してもよい。また、真空ポンプの代わりに、エジェクタや吸引ブロアなどを用いて減圧チャンバ内を減圧してもよい。
【0020】
続いて、塗工ダイ20における各部の寸法について、図3及び図4を参照しながら説明する。
図3において、寸法Aは、凹部27の深さを示す。寸法Bは、塗工ダイ20のリップ面と基材1の塗工面1a(又はバックアップローラ11)との隙間(塗工ギャップ)を示す。寸法Cは、凹部27の基材搬送方向Xの幅を示す。寸法Dは、上流側ブロック21の基材搬送方向Xのリップ長を示す。寸法Eは、第3のパーツ24の基材搬送方向Xのリップ長を示す。寸法Lは、基材搬送方向Xのビード長を示す。寸法Tは、基材1に塗工された塗工膜の厚み(WET膜厚)を示す。また、図4において、寸法Fは、塗工ダイ20の基材幅方向Yの長さを示す。
本実施形態では、凹部27の深さAを、塗工ギャップBの1.0倍以上とした(A≧B)。また、凹部27の基材搬送方向Xの幅Cを、上流側ブロック21の基材搬送方向Xのリップ長Dの1/20以上とした(C≧D/20)。さらに、凹部27の形成位置を、上流側ブロック21の基材搬送方向Xのリップ長Dの1/3より減圧側とした(E≧D/3)。
各寸法は、例えば、A=1mm、B=50μm、C=1mm、D=3mm、E=1mm、F=300mm、L=3mm、T=25μmである。なお、各寸法A,B,C,D,E,F,L,Tは、例示した数値に限られず変更可能である。このとき、設計上及び減圧上の理由から、上記条件A≧B、C≧D/20、E≧D/3を満たすことが望ましい。
【0021】
ところで、塗工材2のビード2aにおける上流側端部の位置と、凹部27の下流側端面24bの位置とを一致させるには、あらかじめビード2aの形成範囲を想定し、それに対応する位置に凹部27を形成しておく必要がある。そこで、本実施形態では、形成予定の上流側ビード長L1(図3において寸法Eに相当)を、ビード2aに作用する圧力流れ及びせん断流れの関係を利用した次式(1)により算出し、算出した上流側ビード長L1と寸法Eとを一致させる位置に凹部27を形成している。
[数式(1)]
L1=[(B・ΔP)/2η]・{[n/(2n+1)]・(B/u)}
ここで、Bは、塗工ギャップである。ηは、ビードのゼロせん断粘度である。nは、粘度の傾きである。ΔPは、次式(2)により決定されるリップ部圧差(リップ部圧P−大気圧)である。
[数式(2)]
ΔP=(2η/B)・{[(2n+1)/n]・(2u/B)・(T−B/2)}
ここで、uは、基材の搬送速度である。Lは、下流側ブロックのリップ長である。Tは、WET膜厚である。なお、η、B及びnは、上記数式(1)のものと同じである。
【0022】
<塗工方法>
次に、上記構成を有する塗工装置10を使用した塗工方法について説明する。
本実施形態の塗工方法では、基材1をバックアップローラ11で支持しながら、例えば30〜50m/minの搬送速度で基材1を搬送する。その際、塗工用スリット26には、不図示の供給ポンプにより、粘度が例えば5000〜20000mPa・sの塗工材2を供給する。これにより、塗工用スリット26から吐出された塗工材2は、塗工ダイ20のリップ面24a,25aと基材1との間にビード2aを形成する。また、減圧用スリット12を、不図示の真空ポンプにより−5kPa以上の減圧度で減圧する。これにより、ビード2aの上流側が減圧されて上流側へと引っ張られる。
【0023】
[ビード形成範囲]
ここで、従来のビード形成範囲と、本実施形態のビード形成範囲とを、図5及び図6を参照しながら比較する。図5は、従来のビード形成範囲を示す平面図である。図6は、本実施形態のビード形成範囲を示す平面図である。
従来は、図5に示すように、ビード2aの上流側(図中右側)を減圧したときに、ビード2aの一部に減圧側への吸い込みSが生じてしまい、ビード2aの基材搬送方向Xの長さLが、基材幅方向Yの各位置において一定ではなかった。このため、基材搬送方向X及び基材幅方向Yへ均一に広がったビード2aを形成することができず、塗工膜の厚みTを均一化することが困難であった。
【0024】
これに対して、本実施形態では、図6に示すように、基材搬送方向Xと直交する凹部27の下流側端面24bが、ビード2aの上流側端部の位置と一致している。すなわち、塗工ダイ20のリップ面24a,25aと基材1との間に形成されたビード2aは、減圧用スリット12により吸引されて上流側へと広がる。このとき、ビード2aは、隙間の大きい空間よりも隙間の小さい空間へと広がっていく傾向がある。このため、ビード2aの上流側端部は、凹部27の下流側端面24bの位置まで広がると、隙間の大きい凹部27内へ侵入するより先に、隙間の小さい基材幅方向Yへと広がっていく。こうして、基材搬送方向X及び基材幅方向Yへ均一に広がったビード2aを形成することができる。つまり、ビード2aの基材搬送方向Xの長さLは、基材幅方向Yの各位置において一定となる。
ここで、塗工膜の厚みTは、ビード2aの基材搬送方向Xの長さLに応じて変化する。したがって、本実施形態のように、ビード2aの基材搬送方向Xの長さLを基材幅方向Yの各位置において一定とすることにより、塗工膜の厚みTを均一化することができる。
【0025】
そして、上記塗工方法により塗工材2が均一に塗工された基材1を、リチウムイオン二次電池の電極に用いる。こうして製造された二次電池は、電極表面において安定した反応性が得られ、安定した電池性能を発揮するものとなる。
【0026】
<塗工条件の変更>
ところで、塗工材2の粘度や液温等の塗工条件を変更した場合には、その塗工条件に応じて必要な減圧度を実現できるように、凹部27の形状を変更しなければならない。このとき、塗工条件に合わせて塗工ダイ自体を変更することも考えられる。しかしながら、塗工ダイは高価であるため、塗工条件に応じた複数の塗工ダイを準備した場合、コストが上昇してしまう。
【0027】
これに対して、本実施形態の塗工ダイ20では、上流側ブロック21が、上流側から順に第1のパーツ22、第2のパーツ23及び第3のパーツ24に分割形成されている。そして、第2のパーツ23のリップ面23aが、第1のパーツ22のリップ面22a及び第3のパーツ24のリップ面24aより凹んだ位置に配置されて、第2のパーツ23のリップ面23aを底面とする凹部27(22b,23a,24b)が形成されている。したがって、例えば、第2のパーツ23の位置を移動して凹部27の深さAを変更したり、一部のパーツのみを取り替えて凹部27の幅Cや形成位置(例えばDやE)を変更したりすることが可能となり、異なる塗工条件に低コストで対応することができる。
また、第1のパーツ22、第2のパーツ23及び第3のパーツ24を組み合わせて凹部27を形成しているので、凹部27を切削加工により形成する場合に比べて、各パーツ22,23,24の端面加工により高い直線精度を確保できるため、低コストで高い寸法精度の凹部27を形成することが可能となる。これにより、基材幅方向Yにける減圧度の均一化をより厳密に行うことができるため、塗工膜の厚みTを高精度に管理することができる。
【0028】
<減圧度とt値の関係>
次に、減圧度とt値の関係について、図7を参照しながら説明する。図7は、減圧度とt値との関係を示すグラフである。
t値は、塗工ギャップBを乾燥前の塗工膜の厚みTで割った値である(t=B/T)。このt値が大きいほど、薄膜での塗工が可能となる。また、t値が大きいほど高固形分の塗工材2を使用でき、乾燥路設備費や熱源ランニングコスト、混練設備費を低減することが可能となる。
従来は、図5に示すように、減圧度を高めると減圧側にビード2aの一部が吸い込まれてしまうため、減圧度をある値より高めることができなかった。このため、図7にP点で示すように、t値を1.5以上に大きくすることができなかった。
【0029】
これに対して、本実施形態によれば、図6に示すように、ビード2aの上流側端部が、凹部27の下流側端面24bに沿って形成されるため、減圧用スリット12側にビード2aの一部が吸い込まれるのを防止することができる。これにより、減圧度を1.8倍まで高めることが可能となり、図7にQ点で示すように、t値を2.1程度まで大きくすることができた。その結果、薄膜塗工において高粘度の塗工材2を使用できるようになり、乾燥路設備費や熱源ランニングコスト、混練設備費を半減することができた。
【0030】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によれば、基材1の表面に塗工材2を塗工する塗工ダイ20と、塗工ダイ20の上流側に設けられ塗工材2のビード2a上流側を減圧する減圧用スリット12とを有する塗工装置10において、塗工ダイ20は、上流側ブロック21と下流側ブロック25とを有し、上流側ブロック21と下流側ブロック25との間には、塗工材2を吐出するための塗工用スリット26が形成され、上流側ブロック21は、上流側から順に第1のパーツ22、第2のパーツ23及び第3のパーツ24に分割形成され、第2のパーツ23のリップ面23aが、第1のパーツ22のリップ面22a及び第3のパーツ24のリップ面24aより凹んだ位置に配置されて、第2のパーツ23のリップ面23aを底面とする凹部27が形成されているので、第2のパーツ23の位置を移動して凹部27の深さAを変更したり、一部のパーツのみを取り替えて凹部27の幅Cや形成位置(例えばDやE)を変更したりすることが可能となり、異なる塗工条件に低コストで対応することができる。
また、第1のパーツ22、第2のパーツ23及び第3のパーツ24を組み合わせて凹部27を形成しているので、凹部27を切削加工により形成する場合に比べて、各パーツ22,23,24の端面加工により高い直線精度を確保できるため、低コストで高い寸法精度の凹部27を形成することが可能となる。これにより、基材幅方向Yにおける減圧度の均一化をより厳密に行うことができるため、塗工膜の厚みTを高精度に管理することができる。
【0031】
さらに、本実施形態によれば、凹部27の下流側端面24bが、基材搬送方向Xと直交し、塗工材2のビード2aにおける上流側端部の位置が、凹部27の下流側端面24bの位置と一致するので、基材搬送方向X及び基材幅方向Yへ均一に広がったビード2aを形成することができ、塗工膜の厚みTを均一化することができる。
そして、塗工材2が均一に塗工された基材1を、リチウムイオン二次電池の電極に用いることで、安定した電池性能を発揮するリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0032】
なお、上記した実施形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。
例えば、上記実施形態では、断面正方形状の凹部27を図示して説明したが、凹部の形状を断面長方形状や断面半円形状その他の形状としてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1…基材
1a…塗工面
2…塗工材
2a…ビード
10…塗工装置
11…バックアップローラ
12…減圧用スリット
20…塗工ダイ
21…上流側ブロック
22…第1のパーツ
23…第2のパーツ
24…第3のパーツ
25…下流側ブロック
26…塗工用スリット
27…凹部
28…シム
X…基材搬送方向
Y…基材幅方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に塗工材を塗工する塗工ダイと、前記塗工ダイの上流側に設けられ前記塗工材のビード上流側を減圧する減圧手段とを有する塗工装置において、
前記塗工ダイは、上流側ブロックと下流側ブロックとを有し、前記上流側ブロックと前記下流側ブロックとの間には、前記塗工材を吐出するための塗工用スリットが形成されていること、
前記上流側ブロックは、上流側から順に第1のパーツ、第2のパーツ及び第3のパーツに分割形成されていること、
前記第2のパーツのリップ面が、前記第1のパーツのリップ面及び前記第3のパーツのリップ面より凹んだ位置に配置されて、前記第2のパーツのリップ面を底面とする凹部が形成されていること、
を特徴とする塗工装置。
【請求項2】
請求項1に記載する塗工装置において、
前記凹部の下流側端面が、前記基材の搬送方向と直交すること、
前記塗工材のビードにおける上流側端部の位置が、前記凹部の下流側端面の位置と一致すること、
を特徴とする塗工装置。
【請求項3】
基材の表面に塗工材を塗工する塗工ダイと、前記塗工ダイの上流側に設けられ前記塗工材のビード上流側を減圧する減圧手段とを使用する塗工方法において、
前記塗工ダイは、上流側ブロックと下流側ブロックとを有し、前記上流側ブロックと前記下流側ブロックとの間には、前記塗工材を吐出するための塗工用スリットが形成されていること、
前記上流側ブロックは、上流側から順に第1のパーツ、第2のパーツ及び第3のパーツに分割形成されていること、
前記第2のパーツのリップ面が、前記第1のパーツのリップ面及び前記第3のパーツのリップ面より凹んだ位置に配置されて、前記第2のパーツのリップ面を底面とする凹部が形成されていること、
を特徴とする塗工方法。
【請求項4】
請求項3に記載する塗工方法において、
前記凹部の下流側端面が、前記基材の搬送方向と直交すること、
前記塗工材のビードにおける上流側端部の位置が、前記凹部の下流側端面の位置と一致すること、
を特徴とする塗工方法。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載する塗工方法により前記基材に前記塗工材を塗工して電極を製造すること、
を特徴とする電極製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−187545(P2012−187545A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54549(P2011−54549)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】