説明

塗膜保持体およびその製造方法、並びに、浸漬塗布装置

【課題】 段むらの発生が無く、生産性の優れた塗膜保持体およびその製造方法、並びに、浸漬塗布装置を提供する。
【解決手段】 塗布液を前記円筒状基材に塗布する塗布手段と、塗布液を収容する塗布液保持手段とを有し、塗布液保持手段と塗布手段との間に設けられ、これらの間で塗布液が移動する塗布液移動部を具備する浸漬塗布装置であって、塗布液保持手段中の塗布液に圧力を加えることで、塗布液移動部を通じて塗布液を塗布液保持手段から塗布手段へ移送する加圧手段を有する浸漬塗布装置である。また、塗布液を塗布手段に供給する際に、塗布液保持手段中の塗布液を加圧して、塗布液を塗布液保持手段から塗布手段に移送する加圧処理を施す塗膜保持体の製造方法である。さらに、上記塗膜保持体の製造方法により製造される塗膜保持体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒状基材表面に感光層を有する電子写真感光体のような塗膜保持体およびその製造方法、並びに、浸漬塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子写真感光体の感光層を構成する光導電性材料としては、セレン、硫化カドミウム、酸化亜鉛などの無機化合物およびポリビニルカルバゾールに代表される有機化合物が提案されている。また、感光層を電荷発生層と電荷輸送層とに分離した積層型電子写真感光体においては、電荷発生材料および電荷輸送材料として、種々の有機化合物が提案されて、有機感光体として実用化されている。従来、このような有機感光体の製造方法としては、浸漬塗布法、スプレー塗布法、ビード塗布法、ブレード塗布法、ローラー塗布法、カーテン塗布法等の各種塗布方法が知られているが、特に円筒状基材表面に均一な感光層を形成する方法としては、浸漬塗布法が広く採用されている。
【0003】
浸漬塗布法では、基材を浸漬槽に溜められた塗布液に浸漬し、次に適度な速度で引き上げて湿潤膜(塗膜)を基材表面に形成し、湿潤膜が乾燥固化することによって感光層が形成される。このような浸漬塗布するための装置として、例えば、円筒状基材を塗布する浸漬槽と、この浸漬槽から溢出した塗布液を回収する塗布液受けと、塗布液の温度、濃度などを一定に調整する塗布液保持槽と、循環ポンプや配管などの塗布液循環装置と、円筒状基材を浸漬槽に浸漬して引き上げる把持部材とを備える装置が広く採用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
前述のような従来装置を使用した浸漬塗布法は工業的に広く普及しているが、電子写真装置の高性能化、例えば、高信頼性、高画質化、低コスト化に伴い、電子写真感光体に対する要求品質及びコストが厳しくなる中、従来装置の欠点が非常に顕著化してきている。具体的には、材料に関しては、高品質要求に答えるために、使用する塗布液の系が複雑、多様化し、且つ高価になっている。塗布膜厚に関しては、0.1μmから40μmまで、要求範囲が大きく拡大してきている。更に、生産工程は多品種少量化に向かい、段取り換え時間の短縮が非常に重要になっている。
【0005】
前述したような複雑系の塗布液を安定に浸漬塗布するためには、塗布液の物性及び流動状態を一定に制御するための塗布液保持槽及び該保持槽と浸漬槽との間の塗布液の移動を行う循環装置が必須である。しかしながら、従来方法は大量の塗布液の循環が必要となり、塗布液保持量が多くなってしまう。そのため、反応性物質を含有し、ポットライフがある塗布液などは材料ロスが大きくなリ、生産コストが増加するという問題がある。加えて、保持液量が多いために、段取り換え時の液交換にかかる工数が増大し、やはり生産コストが増加する。
【0006】
この問題を回避するために、平衡部材を用いる方法が考案されている(例えば、特許文献2参照)が、同時塗布本数が増加するほど、装置が大型化し得策ではない。上記以外にも、保持液量を少なくするために、浸漬槽内に部材を設ける方法が考案されている(例えば、特許文献3参照)が、円筒状基材径毎に前記部材が必要となるとともに、円筒状基材内面の気体体積の制御が煩雑になり、設備あるいは品質トラブルを引き起こしやすい。
【0007】
工業的に生産するためには、生産性を上げるために複数本同時に塗布することが行われる。その場合、各浸漬槽に精度良く塗布液を分配するための機構が別途必要になり、例えば、中空円盤状の分流装置(例えば、特許文献4参照)、あるいは、整流板による分流方法(例えば、特許文献5参照)などが考案されている。
【0008】
例えば、前述の中空分流装置の場合、分流精度が10%程度であり、高品質が要求される感光体作製に対しては満足できる精度では無く、加えて高濃度の微粒子分散液に使用した場合、分流装置内部で液が詰まるという問題が発生した。また、前述の整流板による方法では、中空分流装置における問題は解決可能であるが、保持液量が増大するという問題がある。また、高濃度に微粒子を分散した塗布液の場合、整流板が目詰まりを起こし、分流精度を悪化させたり、低流速領域で微粒子が凝集し、凝集した粒子が塗膜に付着し、品質問題を引き起こすという問題が発生した。
【0009】
循環装置として循環ポンプの使用が広く普及しており、主なポンプの種類としてはダイヤフラムポンプに代表される往復動式容積ポンプ、ギヤポンプに代表される回転式ポンプがある。原理的に前者は脈動、後者は振動が発生するが、脈動の液面揺れの方が大きいため、後者が採用される場合が多い。特に、電荷発生層は非常に薄い膜として形成されるため、液面揺れが致命的となる。そのため、ギヤポンプが用いられている。
【0010】
より具体的には、電荷発生層用の塗布液は、顔料微粒子を含有するため、顔料微粒子による軸シール部破壊による液漏れリスクが無いギヤポンプ、すなわち、マグネットギヤポンプの使用が一般的である。しかしながら、近年場市されている、高感度顔料を使用して形成される塗布膜は、0.1μm近い薄膜の場合もあり、振動の小さいマグネットギヤポンプを使用しても、ポンプの振動と外部振動、例えば、浸漬塗布中の円筒状基材の振動とが液面で共振し、段ムラの発生を誘発する確率が大きい。
【0011】
一方、塗布液が微粒子分散液の場合、前述の段ムラ故障に加えて、以下のような品質問題の発生が確認された。まず、電荷発生層の形成に使用される高感度顔料分散液の場合、顔料の分散状態が、塗布後に形成された塗膜の感度に大きく影響することが判明している。その結果、ギヤポンプのヘッドを通過するときの強いせん断ストレスのために、循環中に顔料の分散状態が変化し、塗膜の感度が循環時間に従って高感度化してしまい、安定生産ができないという問題が発生した。
【0012】
また、下引き層の形成に使用される、酸化亜鉛微粒子を30wt%以上含有する塗布液の場合、液の流動特性が、高いチキソトロピック性を保有しているため、前述した電荷発生顔料含有液の場合の分散状態変化に加えて、ギヤポンプヘッドで加えられる強いせん断ストレスによって、流動特性が不安定となり、塗布によって円筒基材上に形成される塗膜の膜厚が塗布バッチによって変動するという問題が発生した。
【特許文献1】特開平11−72932号公報
【特許文献2】特公平2−5468号公報
【特許文献3】特開平1−119366号公報
【特許文献4】特開平11−212280号公報
【特許文献5】特開2002−49162号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記課題を解決することを目的とする。すなわち、本発明は、段むらの発生が無く、生産性の優れた塗膜保持体およびその製造方法、並びに、浸漬塗布装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記に示した課題を単純な機構と原理で解決するために鋭意検討されたものである。そして、本発明者等は、塗布液保持手段から塗布手段である浸漬槽への塗布液の送液について鋭意検討し、塗布液自体を加圧する手法を用いることで、循環ポンプや特別な分流機構を必要としない浸漬塗布技術(本発明)を見出し、当該技術が前述の課題を解決できることを見出すに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、円筒状基材を浸漬して塗布液を前記円筒状基材に塗布する塗布手段と、前記塗布液を収容する塗布液保持手段とを有し、前記塗布液保持手段と前記塗布手段との間に設けられ、これらの間で前記塗布液が移動するための塗布液移動部を具備する浸漬塗布装置であって、さらに、前記塗布液保持手段中の前記塗布液に圧力を加えることで、前記塗布液移動部を通じて前記塗布液を塗布液保持手段から前記塗布手段へ移送する加圧手段を有することを特徴とする浸漬塗布装置である。
【0016】
本発明の浸漬塗布装置は、従来の塗布装置とは異なりポンプを使用しないため、簡易な構成とすることができる。従って、微粒子分散塗布液を用いた場合でも分散および流動特性の安定性に優れ、更にポットライフの短い液を使っても材料ロスを低減することができる。また、段取り換えにおける液交換の工数を小さくすることが可能である。さらに、塗布液を加圧するので、ポンプの振動や脈動のような不均一な力が塗布槽中の塗布液につたわらない。その結果、塗布後の塗膜保持体に段ムラが発生することを防止することができる。
【0017】
本発明の浸漬塗布装置は、下記第1〜第6の態様のうち少なくとも1の態様を具備することが好ましい。
【0018】
(1)第1の態様は、前記加圧手段が、前記塗布液保持手段中に気体を供給して前記塗布液に圧力を加える手段である態様である。
(2)第2の態様は、前記加圧手段が、前記塗布液保持手段中に前記塗布液をさらに供給して、供給前の前記塗布液に圧力を加える手段である態様である。
(3)第3の態様は、前記加圧手段が、前記塗布液保持手段中の前記塗布液の液面に荷重加えて、前記塗布液に圧力を加える手段である態様である。
(4)第4の態様は、前記塗布手段の塗布部(円筒状基材が塗布液中に浸漬する領域)が、前記塗布液保持手段中の前記塗布液の液面よりも鉛直方向で上方にあり、前記塗布手段で前記塗布液移動部との接続領域が、鉛直方向で前記塗布部の下方にある態様である。
(5)第5の態様は、前記塗布手段が複数設けられている態様である。
【0019】
(6)第6の態様は、前記塗布液移動部の前記塗布液保持手段から前記塗布手段に向けてバイパス配管が設けられ、前記バイパス配管の途中の少なくとも1箇所に塗布液送液用のポンプを備えた態様である。
【0020】
また、本発明は、少なくとも、塗布液保持手段中の塗布液を塗布手段に供給して、当該塗布手段により円筒状基材に前記塗布液を塗布して塗膜を形成する塗布工程を含む塗膜保持体の製造方法であって、前記塗布液を塗布手段に供給する際に、前記塗布液保持手段中の前記塗布液を加圧して、当該塗布液を塗布液保持手段から塗布手段に移送する加圧処理を施すことを特徴とする塗膜保持体の製造方法である。
【0021】
本発明の塗膜保持体の製造方法は、既述の本発明の浸漬塗布装置の場合と同様に、微粒子分散液、反応性物質含有液などの複雑な系の塗布液を、少ない保持液量で長期間安定した物性及び流動状態で浸漬槽(塗布手段)に供給して浸漬塗布することが可能となる。その結果、段ムラのない塗膜保持体を作製することができる。
【0022】
本発明の塗膜保持体の製造方法は、下記第1〜第10の態様のうち少なくとも1の態様を具備することが好ましい。
【0023】
(1)第1の態様は、前記加圧処理が、前記塗布液保持手段中に気体を供給して前記塗布液に圧力を加える処理である態様である。
(2)第2の態様は、前記加圧処理が、前記塗布液保持手段中に前記塗布液をさらに供給して、供給前の前記塗布液に圧力を加える処理である態様である。
(3)第3の態様は、前記加圧処理が、前記塗布液保持手段中の前記塗布液の液面に荷重加えて、前記塗布液に圧力を加える処理である態様である。
(4)前記塗布液が反応性化合物を含む態様である。
(5)前記塗布液が微粒子分散液である態様である。
(6)前記塗布液が電子写真感光体の下引き層の形成に用いられる酸化亜鉛顔料微粒子を含む態様である。
(7)前記塗布液が電子写真感光体の電荷発生層の形成に用いられるフタロシアニン系顔料微粒子を含む態様である。
(8)前記フタロシアニンがヒドロキシガリウムフタロシアニン、オキソチタニルフタロシアニンから選ばれる群から選択される少なくとも1種である態様である。
【0024】
(9)第9の態様は、前記塗布液移動部の前記塗布液保持手段から前記塗布手段に向けてバイパス配管が設けられ、前記液供給配管の途中の少なくとも1箇所に塗布液送液用のポンプを備え、前記塗布手段へ前記円筒状基材を浸漬してから引き上げ開始までの間に、前記ポンプによる前記塗布液の送液を止め前記加圧処理を行い、少なくとも、前記円筒状基材の有効画像領域まで引上げたところから再度、前記ポンプによる前記塗布液の送液を行う態様である。
(10)第10の態様は、前記第1の態様で、前記加圧処理の気体の圧力(P)をP(N/m2)≧ρghとする態様である。なお、ρは塗布液密度、gは重力加速度、hは塗布手段の液面の高さと塗布液保持手段の液面の高さとの差(m)である。
【0025】
さらに、本発明は、上記した塗膜保持体の製造方法により製造されることを特徴とする塗膜保持体である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、段むらの発生が無く、生産性の優れた塗膜保持体およびその製造方法、並びに、浸漬塗布装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の浸漬塗布装置は、円筒状基材を浸漬して塗布液を前記円筒状基材に塗布する塗布手段と、塗布液を収容する塗布液保持手段とを有している。また、塗布液保持手段と塗布手段との間に、塗布液が移動する塗布液移動部が設けられている。そして、塗布液保持手段中の塗布液に圧力を加えることで、塗布液移動部を通じて塗布液を塗布液保持手段から塗布手段へ移送する加圧手段を有している。
【0028】
本発明は、塗布液の移送手段として、従来の装置で使われるポンプを用いるものではなく、塗布液に圧力を加えるものなので、加圧時に塗布液に振動が伝わらない。その結果、振動に起因する段むらの発生が無く、生産性の優れた塗膜保持体を作製することができる。
【0029】
加圧手段の具体的な構成としては、(1)塗布液保持手段中に気体を供給して塗布液に圧力を加える気体加圧手段、(2)塗布液保持手段中に塗布液をさらに供給して、供給前の塗布液に圧力を加える塗布液加圧手段、(3)塗布液保持手段中に塗布液の液面に荷重加えて、塗布液に圧力を加える荷重加圧手段等が挙げられる。なお、本発明の浸漬塗布装置は、本発明の塗膜保持体の製造方法(特に、塗布工程)に適用することが好ましい。以下、上記各加圧手段を例に、本発明の浸漬塗布装置について、本発明の塗膜保持体の製造方法とともに詳細に説明する。
【0030】
(1)気体加圧手段:
図1は、加圧手段として気体加圧手段を用いた場合の本発明の浸漬塗布装置を例示する概略構成図である。
【0031】
図1に記載の浸漬塗布装置は、塗布手段である浸漬槽1の図面上、上部に、オーバーフローする塗布液10を受けるための受け7が設けられており、受け7から塗布液保持手段である塗布液保持槽2に通じる流路には、開閉弁8が設置されている。浸漬槽1中には、円筒状基材9が図示しない公知の手段によって図面上、上下方向に移動可能に配置されている。浸漬槽1の下部には、塗布液10が移動する塗布液移動部20が接続して設けられている。塗布液保持槽2には、攪拌機6及び塗布液保持槽2内の塗布液10に圧力を加えるために気体を供給したり、または、減圧するために気体を抜き出するための気体用流路3A及び3Bが連結されている。気体用流路3A及び3Bのそれぞれには、開閉弁4A及び4Bが設けられており、公知の圧力制御装置5に接続している。
【0032】
塗布液10は、その用途により、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化錫などの金属酸化物微粒子や反応性化合物を含んだり、微粒子分散液を含む場合がある。そのため、塗布液10に接する部位は、塗布液が濡れにくい材質を用いることが好ましく、フッ素樹脂あるいはフッ素樹脂のコーティングなどを施すのがよい。ただし、本発明の実施にあたっては、図1の例に限定されるものではなく、本発明の趣旨をかえることなく変形を加えることができる。
【0033】
図1に示す浸漬塗布装置は、以下のようにして作動する。まず、塗布液保持槽2内で、塗布液10が必要量保持され、図1には示していない公知の調整手段により、温度、濃度などが十分に調整されている状態から、圧力制御装置5によって精密に圧力制御された加圧気体が、気体流路3Aを通って塗布液保持槽2内の塗布液10を加圧する(加圧処理)。これによって、塗布液10が塗布液移動部20を通じて、浸漬槽1に移送される。この際、開閉弁8及び4Bは閉じた状態とする。加圧気体としては、圧縮空気、窒素、アルゴン等の不活性ガスなど、塗布液に悪影響を与えないものならばいかなる気体でも良く、経済性を考慮に入れて選択すればよい。
【0034】
加圧気体の圧力PはP(N/m2)≧ρghを満たしていることが好ましい。なお、ρは塗布液密度、gは重力加速度、hは塗布手段の液面の高さと塗布液保持手段の液面の高さとの差(m)である。P<ρghの場合、塗布液保持槽から浸漬槽まで十分な量の塗布液を送ることが出来ない場合がある。
【0035】
浸漬槽1に供給する塗布液量としては、円筒状基材9が浸漬槽1に浸漬した時に、少なくとも形成される塗膜領域上端まで塗布液で満たされていることが必要であるが、円筒状基材上端の非塗布領域幅の制御を容易に行うために、円筒状基材9を塗布必要領域上端まで、浸漬槽1に浸漬させた時に、浸漬槽内の塗布液が溢れる量を供給することが望ましい。円筒状基材9は、塗布液10が浸漬槽に供給される前に、予め空の浸漬槽内の所定高さまで浸漬されていても、塗布液が浸漬槽内の所定高さまで供給されてから、浸漬されてもよい。
【0036】
必要量の塗布液10が浸漬槽1に供給し終わった段階で、開閉弁4Aも閉じ、円筒状基材9を適度な速度で引き上げて、狙いの塗布膜厚を形成する。引き上げ速度は必要に応じて可変させても良い。円筒状基材9が浸漬槽内の塗布液面を離れた後、開閉弁8及び4Bを開放すると、重力により浸漬槽1及び受け7に残留した塗布液が塗布液保持槽2に送液され、塗布液保持槽2に残留していた塗布液10と一体化して、所定の条件に調整される。
【0037】
また、図4に示すように、塗布液移動部にバイパス配管を設けてもよい(図4中、図1と同じ符号を付すものは同一の機能を有するためその説明を省略することがある)。すなわち、図4においては、図1の塗布液保持槽2と浸漬槽1との間で塗布液移動部20にバイパス配管40が接続されており、そのバイパス配管40中に塗布液送液用の循環ポンプ11が配置されている。塗布液保持槽2から浸漬槽1への送液経路は2つの3方弁13a、13bにより切替えられる。図1と同様に浸漬槽1の上部には、オーバーフローする塗布液を受けるための受け7が設けられており、受け7から塗布液保持槽2に通じる流路には、開閉弁8が設置されている。また、浸漬槽1中には円筒状基材9が、図示しない公知の手段によって上下方向に移動可能に配置されている。また、塗布液保持槽2には、攪拌機6及び塗布液保持槽2内の気体を加減圧するための気体用流路3A及び3Bが連結されている。該気体用流路には開閉弁4A及び4Bが設けられており、圧力制御装置5に接続している。ただし、本発明の実施にあたっては、図4の例に限定されるものではなく、本発明の趣旨をかえることなく変形を加えた浸漬塗布装置にも適用される。また、当該バイパス配管を有する構造は、後述する図2や図3に示す態様にも適用することができる。
【0038】
塗布液保持槽2内で、塗布液10が必要量保持され、図4には示していない公知の調整手段により、温度、濃度などが十分に調整されている状態から、循環ポンプ11により塗布液10が循環されている。循環ポンプ11の種類は、顔料等の分散状態を変化させないような構造のポンプが好ましい。塗布液循環中は浸漬槽1から塗布液10が溢出し、開閉弁8は開いているめ、溢出した液は再度塗布液保持槽2に戻る。このように塗布時以外は常に塗布液は循環されているため、塗布液の液温、粘度、及び濃度などは十分安定な状態に維持される。
【0039】
塗布する際は円筒状基材9を浸漬槽1に浸し、その円筒状基材9を引き上げる前に、3方弁13aを切替え、循環ポンプを停止させる。次に圧力制御装置5によって精密に圧力制御された加圧気体を気体流路3Aを通して塗布液保持槽内を加圧し、開閉弁8を閉じ、3方弁13bを切替えることによって、塗布液10が浸漬槽1に圧送される。
【0040】
円筒状基材9を適度な速度で引き上げて、目的とする厚みの塗布膜を形成する。引き上げ速度は必要に応じて可変させても良い。円筒状基材9の有効画像領域が浸漬槽1内の塗布液面を離れた後、開閉弁4Aを閉じ、開閉弁8及び4Bを開放すると、重力により塗布液受け7に残留した塗布液10が塗布液保持槽2に戻る。3方弁を13a、13bを切替え、再度循環ポンプを作動させることで塗布液の状態は所定の条件に調整される。または循環ポンプ11を停止した段階で円筒状基材9を引げ上げて成膜しても良い。この場合、塗布液に接する部位は、塗布液が濡れにくい材質を用いること好ましく、フッ素樹脂あるいはフッ素樹脂のコーティングなどを施すのが良い。なお、上記「有効画像領域」とは、複写機またはプリンター内での静電潜像形成保証領域をいう。
【0041】
このような浸漬塗布装置及び塗布方法によれば、微粒子分散液、反応性物資含有液などの複雑な系の塗布液を少ない保持液量で、又は十分安定した物性及び流動状態で浸漬槽に供給して浸漬塗布することが可能となる。加えて、塗布中に循環ポンプを使用する必要が無いので、段ムラの塗膜欠陥を防止することができる。
【0042】
(2)塗布液加圧手段:
図2は、加圧手段として塗布液加圧手段を用いた場合の本発明の浸漬塗布装置を例示する概略構成図である。なお、図2中、図1と同じ符号を付すものは同一の機能を有するためその説明を省略する。
【0043】
図2に示す浸漬塗布装置は、図1の気体を供給するための圧力制御装置5、気体用流路3A及び3B、並びに、開閉弁4A及び4Bの代わりに、第2の塗布液保持槽2Aを、図面上塗布液保持槽2よりも高い位置に設けている。そして、第2の塗布液保持槽2Aから塗布液保持槽2へむけて塗布液を供給する塗布液供給管200が設けられており、開閉弁200Aにより塗布液の供給量が制御される。また、塗布液保持槽2の図面上、下部には、余分な塗布液を抜き出すための塗布液抜き出し管202が開閉弁202Aとともに設けられている。
【0044】
図2に示す浸漬塗布装置においては、まず、開閉弁8および202Aを閉じた状態で、開閉弁200Aを開けて第2の塗布液保持槽2A内の塗布液10を塗布液供給管200を通じて供給する(加圧処理)。例えば、塗布液10が塗布液保持槽2内にいっぱいになった状態でも供給を続ける。そうすると、塗布液保持槽2内の塗布液10は、供給される塗布液の圧力により塗布液移動部20を通じて、浸漬槽1に移送される。その後は、図1に示す浸漬塗布装置と同様にして、塗布処理が施される。
【0045】
(3)荷重加圧手段:
図3は、荷重加圧手段として気体加圧手段を用いた場合の本発明の浸漬塗布装置を例示する概略構成図である。なお、図3中、図1と同じ符号を付すものは同一の機能を有するためその説明を省略する。
【0046】
図3に示す浸漬塗布装置は、図1の気体を供給するための圧力制御装置5、気体用流路3A及び3B、並びに、開閉弁4A及び4Bの代わりに、塗布液保持槽2の塗布液の液面に設けられた荷重板30に、一定荷重をかけて塗布液に圧力を付与するものである。かかる加圧処理によっても、図1に示す浸漬塗布装置と同様な塗布処理が施される。
【0047】
以上のような浸漬塗布装置及び塗膜保持体の製造方法によれば、循環ポンプ、分流装置を設けずに、微粒子分散液、反応性物資含有液などの複雑な系の塗布液を少ない保持液量且つ安定した物性及び流動状態で浸漬槽に供給して浸漬塗布することが可能となる。加えて、循環ポンプを使用する必要が無いので、浸漬塗布装置の小型化、コストダウンが可能であり、更には段ムラの発生やポンプの劣化に起因する設備トラブルも回避することができる。
【0048】
また、本発明の浸漬塗布装置及び塗膜保持体の製造方法は、種々の塗膜保持体の製造に適用できる。例えば、電子写真感光体、電子写真における帯電部材、転写部材、および、定着部材等が挙げられる。なかでも、段むらの発生にシビアな電子写真感光体の製造に適用することが好ましい。
【0049】
本発明の浸漬塗布装置及び塗膜保持体の製造方法を用いて作製される電子写真感光体について説明する。本発明の浸漬塗布装置による浸漬塗布は、従来の浸漬塗布槽装置を用いて電子写真感光体を製造する場合と同一条件で実施することができる。その場合、製造される電子写真感光体は、その塗膜構成の種類により、塗膜に電荷発生物質及び電荷輸送物質を含む単層型のものと、塗膜が電荷発生層と電荷輸送層からなる積層型に大別されるが、特に、積層型電子写真感光体における下引き層、電荷発生層及びオーバーコート層(磨耗防止層)の形成に使用することが好ましい。
【0050】
円筒状基材としては、銅、アルミニウム、ニッケル、鉄などの導電性金属、その他に、表面に金属を蒸着するか導電粉を分散した塗膜を形成するなどにより、導電化処理されたプラスチックや紙等の筒状のものを用いることができる。基材の表面には、予め鏡面切削、エッチング、陽極酸化、粗切削、センタレス研削、サンドブラスト、ウエットホーニング、着色処理等の処理を施したものを用いることが好ましい。表面処理により基材表面を粗面化することで、レーザビームのような可干渉光源を用いた場合に発生しうる感光体内での干渉光による木目状の濃度斑を防止することができる。
【0051】
次に、下引層について説明する。下引層は、積層構造を有する感光層の帯電の際に、導電性支持体から感光層への電荷の注入を阻止するとともに、感光層を導電性支持体に対して一体的に接着保持せしめる接着層としての作用を有するものである、また、下引層は、場合によっては導電性支持体の光の反射防止作用等示すことができる。かかる効果を有し、高画質な画像を維持する観点から、本発明にかかる電子写真感光体は、下引層を備えていることが好ましい。
【0052】
下引層の材料としては、ポリビニルブチラール等のアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、カゼイン、ポリアミド樹脂、セルロース樹脂、ゼラチン、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン−アルキッド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂等の高分子樹脂化合物、ジルコニウムキレート化合物、チタニウムキレート化合物、アルミニウムキレート化合物、チタニウムアルコキシド化合物、有機チタニウム化合物、シランカップリング剤等が挙げられる。また、電荷輸送性基を有する電荷輸送性樹脂やポリアニリン等の導電性樹脂等を用いることができる。これらの化合物は単独にあるいは複数の化合物の混合物あるいは重縮合物として用いることができる。中でも上層(例えば、電荷発生層2)形成用塗布液に含まれる溶剤に不溶な樹脂が好ましく用いられ、特にフェノール樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等が好ましく用いられる。更に、ジルコニウムキレート化合物、シランカップリング剤は残留電位が低く環境による電位変化が少なく、また繰り返し使用による電位の変化が少ないなど性能上優れている。
【0053】
シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピル−トリス(β−メトキシエトキシ)シラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルメトキシシラン、N,N−ビス(β−ヒドロキシエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−クロルプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらの中でも、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシシラン)、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤が挙げられる。
【0054】
ジルコニウムキレート化合物としては、例えば、ジルコニウムブトキシド、ジルコニウムアセト酢酸エチル、ジルコニウムトリエタノールアミン、アセチルアセトネートジルコニウムブトキシド、アセト酢酸エチルジルコニウムブトキシド、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムオキサレート、ジルコニウムラクテート、ジルコニウムホスホネート、オクタン酸ジルコニウム、ナフテン酸ジルコニウム、ラウリン酸ジルコニウム、ステアリン酸ジルコニウム、イソステアリン酸ジルコニウム、メタクリレートジルコニウムブトキシド、ステアレートジルコニウムブトキシド、イソステアレートジルコニウムブトキシド等が挙げられる。
【0055】
チタニウムキレート化合物としては、例えば、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、チタンアセチルアセトネート、ポリチタンアセチルアセトネート、チタンオクチレングリコレート、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンラクテート、チタンラクテートエチルエステル、チタントリエタノールアミネート、ポリヒドロキシチタンステアレート等が挙げられる。
【0056】
アルミニウムキレート化合物としては、例えば、アルミニウムイソプロピレート、モノブトキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムブチレート、ジエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)等が挙げられる。
【0057】
下引層中には、当該下引層を厚膜化するために、導電性物質等の金属酸化物を含有させると良い。金属酸化物としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫等が挙げられるが、所望の感光体特性が得られるのであれば、公知のいかなるものでも使用することができる。下引層を厚膜化、特に15μm以上の膜厚にすることにより、基体表面上の異物等の隠蔽効果が増し、上層に塗布する電荷発生層等の表面性向上につながる。
【0058】
上記金属酸化物には表面処理を施すことができる。表面処理を施すことで、抵抗値の制御、分散性制御、感光体特性向上を図ることができる。表面処理剤としては、ジルコニウムキレート化合物、チタニウムキレート化合物、アルミニウムキレート化合物、チタニウムアルコキシド化合物、有機チタニウム化合物、シランカップリング剤等の公知の材料を用いることができる。これらの化合物は単独あるいは複数の化合物の混合物あるいは重縮合物として用いることができる。中でもシランカップリング剤は残留電位が低く環境による電位変化が少なく、また繰り返し使用による電位の変化が少ない、画質特性に優れるなど性能上優れている。
【0059】
シランカップリング剤、ジルコニウムキレート化合物、チタニウムキレート化合物、アルミニウムキレート化合物の例としては前述した例と同じ物質が挙げられる。
【0060】
表面処理方法は公知の方法であればいかなる方法でも使用可能であるが、乾式法あるいは湿式法を用いることができる。乾式法により表面処理を施す場合、金属酸化物微粒子をせん断力の大きなミキサ等で攪拌しながら、シランカップリング剤を直接又は有機溶媒に溶解させて滴下し、それらの混合物を乾燥空気や窒素ガスとともに噴霧させることによって、均一な表面処理が行われる。シランカップリング剤の滴下及び混合物の噴霧は、使用する溶剤の沸点以下の温度で行うことが好ましい。滴下又は噴霧を溶剤の沸点以上の温度で行うと、均一に攪拌される前に溶剤が蒸発し、シランカップリング剤が局部的に凝集して均一な処理ができにくくなる傾向がある。このようにして表面処理された金属酸化物粒子について、更に100℃以上で焼き付けを行うことができる。焼き付けは所望の電子写真特性が得られる温度、時間であれば任意の範囲で実施できる。
【0061】
湿式法としては、金属酸化物微粒子を溶剤中に攪拌、超音波、サンドミルやアトライター、ボールミル等を用いて分散し、シランカップリング剤溶液を添加して、攪拌又は分散した後、溶剤を除去することで均一に処理される。溶剤は蒸留により留去することが好ましい。なお、ろ過による除去方法では未反応のシランカップリング剤が流出しやすく、所望の特性を得るためのシランカップリング剤量をコントロールしにくくなる傾向がある。溶剤除去後には更に100℃以上で焼き付けを行うことができる。焼き付けは所望の電子写真特性が得られる温度、時間であれば任意の範囲で実施できる。湿式法においては金属酸化物微粒子含有水分除去法として表面処理に用いる溶剤中で攪拌加熱しながら除去する方法、溶剤と共沸させて除去する方法等を用いることもできる。
【0062】
下引層中の金属酸化物微粒子に対するシランカップリング剤の量は、所望の電子写真特性が得られる量であればいかなる量でも用いることができる。また、下引層中に用いられる金属酸化物微粒子と樹脂との割合は、所望の電子写真特性が得られる割合であれば任意に設定できる。
【0063】
下引層中には、光散乱性の向上等の目的により、各種の有機もしくは無機微粉末を混合することができる。かかる微粉末の好ましい例としては、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、鉛白、リトポン等の白色顔料や、アルミナ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の体質顔料としての無機顔料や、テフロン(登録商標)樹脂粒子、ベンゾグアナミン樹脂粒子、スチレン樹脂粒子等が挙げられる。これらの微粉末の粒径は、0.01〜2μmであることが好ましい。微粉末は必要に応じて添加される成分であるが、添加する場合の配合量は、下引層1に含まれる固形分に対して、質量比で10〜80質量%であることが好ましく、30〜70質量%であることがより好ましい。
【0064】
また、下引層の形成に用いられる塗布液(下引層形成用塗布液)には、電気特性向上、環境安定性向上、画質向上のために種々の添加物を用いることができる。添加物としては、クロラニル、ブロモアニル、アントラキノン等のキノン系化合物、テトラシアノキノジメタン系化合物、2,4,7−トリニトロフルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン等のフルオレノン化合物、2−(4−ビフェニル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ビス(4−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ビス(4−ジエチルアミノフェニル)1,3,4オキサジアゾール等のオキサジアゾール系化合物、キサントン系化合物、チオフェン化合物、3,3’,5,5’テトラ−t−ブチルジフェノキノン等のジフェノキノン化合物等の電子輸送性物質、多環縮合系、アゾ系等の電子輸送性顔料等が挙げられる。
【0065】
下引層形成用塗布液を調製するに際し、前述の導電性物質や光散乱物質等の微粉末を混入させる場合には、樹脂成分を溶解した溶液中に微粉末を添加して分散処理が行うことが好ましい。微粉末を樹脂中に分散させる方法としては、ロールミル、ボールミル、振動ボールミル、アトライター、サンドミル、コロイドミル、ペイントシェーカー等の方法を用いることができる。
【0066】
次に、電荷発生層について説明する。電荷発生層は、電荷発生材料及び結着樹脂を含んで構成される。かかる電荷発生材料としては、公知の電荷発生材料を特に制限なく使用することができるが、中でも金属及び無金属フタロシアニン顔料が好ましく用いられ、特定の結晶を有するヒドロキシガリウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン、ジクロロスズフタロシアニン、チタニルフタロシアニンが特に好ましく用いられる。
【0067】
電荷発生層において好ましく用いられる電荷発生材料は、公知の方法で製造される顔料結晶を、自動乳鉢、遊星ミル、振動ミル、CFミル、ローラーミル、サンドミル、及びニーダー等を用いて機械的に乾式粉砕するか、乾式粉砕後、溶剤と共にボールミル、乳鉢、サンドミル、及びニーダー等を用いて湿式粉砕処理を行うことによって製造することができる。
【0068】
湿式粉砕処理において使用される溶剤は、芳香族類(トルエン、クロロベンゼン等)、アミド類(ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等)、脂肪族アルコール類(メタノール、エタノール、ブタノール等)、脂肪族多価アルコール類(エチレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール等)、芳香族アルコール類(ベンジルアルコール、フェネチルアルコール等)、エステル類(酢酸エステル、酢酸ブチル等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、ジメチルスルホキシド、エーテル類(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等)、又はこれらの数種の混合系、あるいは水とこれら有機溶剤との混合系が挙げられる。これら溶剤の使用量は、顔料結晶1質量部に対して1〜200質量部、好ましくは10〜100質量部が望ましい。
【0069】
また、湿式粉砕処理における処理温度は、0℃以上で溶剤の沸点以下、好ましくは10〜60℃である。また、粉砕の際に食塩、ぼう硝等の磨砕助剤を用いてもよい。磨砕助剤は、顔料に対して0.5〜20倍、好ましくは1〜10倍(いずれも質量換算値)用いればよい。さらに、公知の方法で製造される顔料結晶について、アシッドペースティング又はアシッドペースティングと前述したような乾式粉砕又は湿式粉砕との組み合わせによって結晶制御することもできる。アシッドペースティングに用いる酸としては、硫酸が好ましく、この硫酸の濃度は70〜100%、好ましくは95〜100%の濃度のものが使用される。この濃硫酸の量は、顔料結晶の質量に対して、1〜100倍、好ましくは3〜50倍(いずれも質量換算値)の範囲に設定される。
【0070】
また、溶解温度は、−20〜100℃、好ましくは0〜60℃の範囲に設定される。結晶を酸から析出させる際の溶剤としては、水、或いは水と有機溶剤の混合溶剤を任意の量で使用できる。析出させる温度については特に制限はないが、発熱を防ぐために、氷等で冷却することが好ましい。これらの電荷発生材料は、加水分解性基を有する有機金属化合物又はシランカップリング剤で被覆処理してもよい。かかる被覆処理によって電荷発生材料の分散性や電荷発生層用塗布液の塗布性が向上し、平滑で分散均一性の高い電荷発生層2を容易に且つ確実に成膜することができ、その結果、カブリやゴースト等の画質欠陥が防止され、画質維持性を向上させることができる。また、電荷発生層用塗布液の保存性も著しく向上するので、ポットライフの延長の点でも効果的であり、感光体のコストダウンも可能となる。上記加水分解性基を有する有機金属化合物は、下記一般式(I)で表される化合物である。
【0071】
Rp−M−Yq・・・一般式(I)
【0072】
なお、上記一般式(I)中、Rは有機基を表し、Mはアルカリ金属以外の金属原子又はケイ素原子を表し、Yは加水分解性基を表し、p及びqはそれぞれ1〜4の整数であり、pとqとの和はMの原子価に相当する。
【0073】
一般式(I)中、Rで表される有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基等のアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基等のアリールアルキル基、スチリル基等のアリールアルケニル基、フリル基、チエニル基、ピロリジニル基、ピリジル基、イミダゾリル基等の複素環残基等が挙げられる。
【0074】
これらの有機基は1または2種以上の各種の置換基を有していてもよい。また、一般式(I)中、Yで表される加水分解性基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、シクロヘキシルオキシ基、フェノキシ基、ベンジロキシ基等のエーテル基、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基、ベンゾイルオキシ基、メタンスルホニルオキシ基、ベンゼンスルホニルオキシ基、ベンジロキシカルボニル基等のエステル基、塩素原子等のハロゲン原子等が挙げられる。また、一般式(I)中、Mはアルカリ金属以外であれば特に制限されるものではないが、好ましくはチタン原子、アルミニウム原子、ジルコニウム原子又はケイ素原子である。
【0075】
当該電子写真感光体においては、上記の有機基や加水分解性の官能基を置換した有機チタン化合物、有機アルミニウム化合物、有機ジルコニウム化合物、さらにはシランカップリング剤が好ましく用いられる。
【0076】
上記シランカップリング剤の例としては、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピル−トリス(β−メトキシエトキシ)シラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルメトキシシラン、N,N−ビス(β−ヒドロキシエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−クロルプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシシラン)、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0077】
これらの中でも、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシランがより好ましい。
【0078】
また、上記の有機金属化合物及びシランカップリング剤の加水分解生成物も使用することができる。この加水分解生成物としては、上記一般式(I)で示される有機金属化合物のM(アルカリ金属以外の金属原子又はケイ素原子)に結合するY(加水分解性基)やR(有機基)に置換する加水分解性基が加水分解したものが挙げられる。なお、有機金属化合物及びシランカップリング剤が加水分解性基を複数含有する場合は、必ずしも全ての官能基を加水分解する必要はなく、部分的に加水分解された生成物であってもよい。
【0079】
これらの有機金属化合物及びシランカップリング剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上混合して使用してもよい。上記の加水分解性基を有する有機金属化合物及び/又はシランカップリング剤(以下、単に「有機金属化合物」という)を用いてフタロシアニン顔料を被覆処理する方法としては、フタロシアニン顔料の結晶を整える過程で該フタロシアニン顔料を被覆処理する方法、フタロシアニン顔料を結着樹脂に分散する前に被覆処理する方法、フタロシアニン顔料の結着樹脂への分散時に有機金属化合物を混合処理する方法、フタロシアニン顔料の結着樹脂への分散後に有機金属化合物で更に分散処理する方法等が挙げられる。
【0080】
より具体的には、顔料の結晶を整える過程で予め被覆処理する方法としては、有機金属化合物と結晶が整う前のフタロシアニン顔料とを混合した後加熱する方法、有機金属化合物を結晶が整う前のフタロシアニン顔料に混合し機械的に乾式粉砕する方法、有機金属化合物の水または有機溶剤中の混合液を結晶が整う前のフタロシアニン顔料に混合し湿式粉砕処理方法等が挙げられる。
【0081】
また、フタロシアニン顔料を結着樹脂に分散する前に被覆処理する方法としては、有機金属化合物、水又は水と有機溶剤との混合液、並びにフタロシアニン顔料を混合して加熱する方法、有機金属化合物をフタロシアニン顔料に直接噴霧する方法、有機金属化合物をフタロシアニン顔料と混合しミリングする方法等がある。また、分散時に混合処理する方法としては、分散溶剤に有機金属化合物、フタロシアニン顔料、結着樹脂を順次添加しながら混合する方法、これらの電荷発生層2形成成分を同時に添加し混合する方法等が挙げられる。フタロシアニン顔料を結着樹脂中に分散した後に有機金属化合物で更に分散処理する方法としては、例えば溶剤で希釈した有機金属化合物を分散液に添加し攪拌しながら分散する方法が挙げられる。
【0082】
かかる分散処理の際、より強固にフタロシアニン顔料に付着させるために、触媒として硫酸、塩酸、トリフルオロ酢酸等の酸を添加してもよい。これらの中でも、フタロシアニン顔料の結晶を整える過程で予め被覆処理する方法、又はフタロシアニン顔料を結着樹脂に分散する前に被覆処理する方法が好ましい。電荷発生層に用いる結着樹脂としては、広範な絶縁性樹脂から選択することができる。また、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリビニルアントラセン、ポリビニルピレン、ポリシラン等の有機光導電性ポリマーから選択することもできる。
【0083】
好ましい結着樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂、ポリアリレート樹脂(ビスフェノールAとフタル酸との重縮合体等)、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリビニルピリジン樹脂、セルロース樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、カゼイン、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂等の絶縁性樹脂を挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの結着樹脂は単独で又は2種以上を混合して用いることができる。電荷発生材料と結着樹脂との配合比(質量比)は、10:1〜1:10の範囲が好ましい。
【0084】
電荷発生層は、例えば、電荷発生材料及び結着樹脂を含む塗布液の塗布により形成される。塗布液の溶媒としては、結着樹脂を溶解することが可能であれば特に制限なく使用することができ、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸n−ブチル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチレンクロライド、クロロホルム、クロルベンゼン、トルエン等の通常の有機溶剤を単独で又は2種以上混合して用いることができる。電荷発生材料及び結着樹脂を溶媒に分散させる方法としては、ボールミル分散法、アトライター分散法、サンドミル分散法等の通常の方法を用いることができるが、この際、分散によって電荷発生材料の結晶型が変化しない条件で行うことが好ましい。また、この分散の際、電荷発生材料を好ましくは0.5μm以下、より好ましくは0.3μm以下、更に好ましくは0.15μm以下の粒子サイズにすることが有効である。
【0085】
次に、電荷輸送層について説明する。電荷輸送層は、電荷輸送材料及び結着樹脂を含んで構成されるものである。電荷輸送層に用いる電荷輸送材料としては、例えば、2,5−ビス(p−ジエチルアミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール等のオキサジアゾール誘導体、1,3,5−トリフェニル−ピラゾリン、1−[ピリジル−(2)]−3−(p−ジエチルアミノスチリル)−5−(p−ジエチルアミノスチリル)ピラゾリン等のピラゾリン誘導体、トリフェニルアミン、トリ(p−メチルフェニル)アミニル−4−アミン、ジベンジルアニリン等の芳香族第3級アミノ化合物、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニルベンジジン等の芳香族第3級ジアミノ化合物、3−(4’−ジメチルアミノフェニル)−5,6−ジ−(4’−メトキシフェニル)−1,2,4−トリアジン等の1,2,4−トリアジン誘導体、4−ジエチルアミノベンズアルデヒド−1,1−ジフェニルヒドラゾン等のヒドラゾン誘導体、2−フェニル−4−スチリル−キナゾリン等のキナゾリン誘導体、6−ヒドロキシ−2,3−ジ(p−メトキシフェニル)ベンゾフラン等のベンゾフラン誘導体、p−(2,2−ジフェニルビニル)−N,N−ジフェニルアニリン等のα−スチルベン誘導体、エナミン誘導体、N−エチルカルバゾール等のカルバゾール誘導体、ポリ−N−ビニルカルバゾールおよびその誘導体等の正孔輸送物質;クロラニル、ブロアントラキノン等のキノン系化合物、テトラアノキノジメタン系化合物、2,4,7−トリニトロフルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン等のフルオレノン化合物、キサントン系化合物、チオフェン化合物等の電子輸送物質;あるいは上記化合物から水素原子等を除いた残基を主鎖又は側鎖に有する重合体等が挙げられる。
【0086】
これらの電荷輸送材料は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。電荷輸送層に用いる結着樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリアリレート、ポリエステル樹脂、ビスフェノールAタイプ或いはビスフェノールZタイプ等のポリカーボネート樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリスルホン、ポリアクリルアミド、ポリアミド、塩素ゴム等の絶縁性樹脂、およびポリビニルカルバゾール、ポリビニルアントラセン、ポリビニルピレン等の有機光導電性ポリマー等が挙げられる。これらの結着樹脂は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【実施例】
【0087】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0088】
(金属酸化物微粒子Aの調製)
酸化亜鉛:(体積平均粒子径70nm:テイカ社製試作品)100重量部を、トルエン450重量部およびメタノール50重量部中に混合攪拌し、シランカップリング剤(KBM603:信越化学社製)1.25重量部を添加し、サンドグラインダーミルにて1時間分散した。その後トルエンを減圧蒸留にて留去し、150℃で2時間焼き付けを行ったのち室温まで冷却し、解砕して表面処理酸化亜鉛(金属酸化物微粒子A)を得た。
【0089】
(電子写真感光体用塗布液の作製)
金属酸化物微粒子A33重量部、ブロック化イソシアネート(スミジュール3175、住友バイエルンウレタン社製)6重量部及びメチルエチルケトン25重量部を30分間混合して、混合液を調製した。その後、ブチラール樹脂(BM−1、積水化学社製)5重量部、シリコーンボール(トスパール145、東芝シリコーン社製)3重量部及びレベリング剤(シリコーンオイルSH29PA、東レダウコーニングシリコーン社製)0.01重量部を上記の混合液に添加し、サンドミルにて2時間の分散処理を行い、下引き層用塗布液を得た。
【0090】
次に、電荷発生物質としてのCuKα線を用いたX線回折スペクトルのブラッグ角(2θ±0.2°)において、少なくとも7.6°、28.2°の位置に回折ピークを有するヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料15重量部、結着樹脂としての塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂(VMCH、日本ユニカー社製)10重量部、n−ブチルアルコール300重量部からなる混合物をサンドミルにて4時間分散し、電荷発生層用塗布液を得た。
【0091】
一方で、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニルベンジジン40部とビスフェノールZポリカーボネート樹脂(分子量40,000)60重量部とをテトロヒドロフラン280重量部及びトルエン120重量部に十分に溶解混合した後、4フッ化エチレン樹脂粒子10重量部を加え、さらに混合した。このとき、室温を25℃に設定し、混合工程における液温度を25℃に保った。その後、ガラスビーズを用いたサンドグラインダーにて分散し、4フッ化エチレン樹脂粒子分散液を作製した。このとき、サンドクラインダーのベッセルに24度の水を流し、分散液の温度を50度に保持した。こうして電荷輸送層用の塗布液を準備した。
【0092】
(実施例1)
上記のようにして得られた各機能層用の塗布液を、機能層別に用意した図1に示す塗布槽(ただし、塗布手段は4個)に投入し、温度(25℃)、粘度(2mPa・s)などを調整した。使用した浸漬塗布装置は、内径Φ60mm、深さ400mmの円筒状の塗布槽(塗布手段)が4個設けられており、各々の塗布槽底部からΦ20mmのステンレス製配管(塗布液移動部)が内径300mmの攪拌装置付加圧タンク(塗布液保持槽)内部の底面から30mmの深さまで伸びて設置されている。各機能層用の塗布液保持槽には各々1.2リットルの塗布液を投入した。また、円筒状基材として外径30mm、長さ312mmのアルミパイプを使用し、加圧気体として圧縮空気を使用した。
【0093】
まず、加圧圧力を電空レギュレータ(CKD社製)にて54kPaに設定し、既述のような方法で浸漬塗布を行った後、150℃、30分の乾燥硬化により、膜厚20μmの下引き層を形成した。
【0094】
次に、電空レギュレータ(CKD社製)にて40kPaに設定し、電荷発生層用塗布液を用いて下引き層の時と同様の手順で、下引き層上に浸漬塗布を行った後、乾燥し膜厚0.15μmの電荷発生層を得た。
【0095】
最後に、電空レギュレータ(CKD社製)にて44kPaに設定し、電荷輸送層用塗布液を用いて、電荷発生層上に浸漬塗布を行った後、乾燥して膜厚15μmの電荷発生層を得た。上記方法にて、1日2バッチ合計8本の感光体を、連続して20日間作製し、電気特性評価機で感光体の露光後の表面電位を測定した。また、下引き層の膜厚変動及び段ムラの発生有無を評価した。結果を下記表1に示す。
【0096】
(実施例2)
上記のようにして得られた各機能層用の塗布液を、機能層別に用意した図1に示す塗布槽(ただし、塗布手段は4個)に投入し、温度(25℃)、粘度(2mPa・s)などを調整した。使用した浸漬塗布装置は、内径Φ60mm、深さ400mmの円筒状の塗布槽が4個設けられており、各々の塗布槽底部からΦ20mmのステンレス製配管(塗布液移動部)が内径300mmの攪拌装置付加圧タンク(塗布液保持槽)内部の底面から30mmの深さまで伸びて設置されている。各機能層用の塗布液保持槽には各々7リットルの塗布液を投入した。また、円筒状基材として外径30mm、長さ312mmのアルミパイプを使用し、加圧気体として圧縮空気を使用した。
【0097】
まず、加圧圧力を電空レギュレータ(CKD社製)にて34kPaに設定し、既述のような方法で浸漬塗布を行った後、150℃、30分の乾燥硬化により、膜厚20μmの下引き層を形成した。
【0098】
次に、電空レギュレータ(CKD社製)にて18kPaに設定し、電荷発生層用塗布液を用いて下引き層の時と同様の手順で、下引き層上に浸漬塗布を行った後、乾燥し膜厚0.15μmの電荷発生層を得た。
【0099】
最後に、電空レギュレータ(CKD社製)にて25kPaに設定し、電荷輸送層用塗布液を用いて、電荷発生層上に浸漬塗布を行った後、乾燥して膜厚15μmの電荷発生層を得た。上記方法にて、1日2バッチ合計8本の感光体を、連続して20日間作製し、電気特性評価機で感光体の露光後の表面電位を測定した。また、下引き層の膜厚及び段ムラの発生有無を評価した。結果を下記表1に示す。
【0100】
(実施例3)
図4に示す浸漬塗布装置を用い、塗布液を循環すること以外は、すべて実施例2と同様にして感光体を作製し(1日2バッチ合計8本の感光体を、連続して20日間)、実施例2と全く同様の評価を実施した。浸漬槽の円筒体部分は、実施例2に示したものと同じ寸法のものを準備し、実施例2と同様の測定および評価を行った。結果を下記表1に示す。
【0101】
なお、使用した浸漬塗布装置の具体的な構成としては、塗布液保持槽内部の底面から30mmの深さから内径φ20mmの配管が塗布液保持槽上部に伸び、その配管は4本に分岐し、実施例2と同様の4個の浸漬槽に接続された浸漬塗布装置である。そして、4本に分岐する配管と保持液槽の間にダイヤフラムポンプを経由して塗布液を循環させるバイパス配管が設けられており、塗布時以外は常に塗布液を3リットル/minで循環させ、塗布液の温度と粘度を安定化させた。各機能層用の塗布液保持槽には各々9リットルの塗布液を投入した。
【0102】
(比較例)
図5に示す従来の浸漬塗布装置を用いる以外は、すべて実施例と同様にして感光体を作製し(1日2バッチ合計8本の感光体を、連続して20日間)、実施例と全く同様の評価を実施した。浸漬槽の円筒体部分は、実施例に示したものと同じ寸法のものを準備した。循環ポンプはマグネットギヤポンプ(Isochem社製 MGC6)を使用した。投入塗布液量は20リットルであった。得られた結果を下記表1に示す。
【0103】
図5に示す従来の浸漬塗布装置としては、塗布手段である浸漬槽101の図面上、上部に、オーバーフローする塗布液10を受けるための受け107が設けられており、受け107から塗布液保持手段である塗布液保持槽102に向けて流路120が設けられている。浸漬槽101中には、円筒状基材9が図示しない公知の手段によって図面上、上下方向に移動可能に配置され,整流板112が設けられている。塗布液保持槽102には、攪拌機106が設けられている。そして、塗布液保持槽102から浸漬槽101に向かって設けられている流路122の途中には循環ポンプ110が設けられ、当該循環ポンプ110により、塗布液保持槽102から浸漬槽101に向かって、塗布液10が供給される。
【0104】
【表1】

【0105】
表1の結果から、比較例の浸漬塗布装置では、ポンプの振動に起因する段むらが発生し、膜厚変動や露光後表面電位変動が大きい結果となった。これに対し、実施例の浸漬塗布装置では、膜厚変動や露光後表面電位変動が小さく、段むらの発生本数はまったくなかった。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明の電子写真感光体の浸漬塗布装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明の電子写真感光体の浸漬塗布装置の他の一例を示す概略構成図である。
【図3】本発明の電子写真感光体の浸漬塗布装置の他の一例を示す概略構成図である。
【図4】本発明の電子写真感光体の浸漬塗布装置の他の一例を示す概略構成図である。
【図5】従来の電子写真感光体の浸漬塗布装置の一例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0107】
1、101・・・浸漬塗布槽
2、102・・・塗布液保持槽
3A・・・加圧用気体管
3B・・・減圧用気体管
4A、4B・・・開閉弁
5・・・圧力制御装置
6、106・・・攪拌装置
7、107・・・塗布液受け
8・・・開閉弁
9・・・円筒状基材
10・・・塗布液
20・・・塗布液移動部
40・・・バイパス配管
112・・・整流板
110・・・循環ポンプ
120、122・・・流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状基材を浸漬して塗布液を前記円筒状基材に塗布する塗布手段と、前記塗布液を収容する塗布液保持手段とを有し、前記塗布液保持手段と前記塗布手段との間に設けられ、これらの間で前記塗布液が移動するための塗布液移動部を具備する浸漬塗布装置であって、
さらに、前記塗布液保持手段中の前記塗布液に圧力を加えることで、前記塗布液移動部を通じて前記塗布液を塗布液保持手段から前記塗布手段へ移送する加圧手段を有することを特徴とする浸漬塗布装置。
【請求項2】
少なくとも、塗布液保持手段中の塗布液を塗布手段に供給して、当該塗布手段により円筒状基材に前記塗布液を塗布して塗膜を形成する塗布工程を含む塗膜保持体の製造方法であって、
前記塗布液を塗布手段に供給する際に、前記塗布液保持手段中の前記塗布液を加圧して、当該塗布液を塗布液保持手段から塗布手段に移送する加圧処理を施すことを特徴とする塗膜保持体の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の塗膜保持体の製造方法により製造されることを特徴とする塗膜保持体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−29782(P2007−29782A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−212638(P2005−212638)
【出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】