説明

塗膜形成方法

【課題】 アルコキシシラン化合物含有塗布液により基板上にSOG膜を形成する際に、温度制御を正確に行って、塗膜の急激なシュリンクを抑制し、また塗布液中のガラス質形成材の消失を防ぐことでSOG膜のクラックの発生を防ぎ、さらに、回路を形成している金属材を熔融、変形させることのない理想的な塗膜の形成方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 少なくとも3段階の被処理物表面温度範囲を設定して、低温から段階的に温度を上昇させてSOG膜形成用塗布液を塗布した被処理物を乾燥し、次に、被処理物表面温度を250〜500℃の範囲に昇温させ、±3℃の範囲に保持して前記被処理物の焼成処理を行い、SOG膜を形成させる塗膜形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体ウェーハやガラス基板等の表面にSOG(Spin On Glass)により酸化珪素塗膜を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板回路の微細化、高集積化、多層化等に伴い、各層間の絶縁と平坦化をおこなうため、SOG(Spin On Glass)により、基板上にSiO被膜を形成させる方法が行われている。回路を製造するには、まず基板上にSOG等によるSiOからなる層間絶縁膜(以下、「SOG膜」という。)を形成し、この上にパターン化したレジストマスクを設け、選択的エッチングおよびレジストマスクの除去によって配線溝を形成する。そして、この上にバリヤメタルを堆積せしめ、前記配線溝へ銅等の配線用金属材料を電解めっき等によって埋め込んで下層配線を形成する。次に、CMP(化学研磨)によりバリヤメタルと金属材料の研磨を行った後、この上に再びSOG膜を形成する。以下同様にして、パターン形成したレジストマスクを介してSOG膜を選択的にエッチングして、これらSOG膜に複数のビアホールとトレンチホール(上層配線用の溝)を形成する。そしてビアホールと上層配線用の溝壁にバリヤメタルを堆積せしめ、ビアホールと上層配線用の溝に電解めっき等によって銅等の配線用金属材料を埋め込んで上層配線を形成するようにしている。
【0003】
SOG膜の形成方法については、たとえば特許文献1に開示されている。この方法は、トリアルコキシシランの酸加水分解生成物を含有する有機溶剤溶液からなる塗布液を基板上に塗布、乾燥して塗膜を形成し、その塗膜表面に酸化性雰囲気下で紫外線を照射した後、さらに前記塗布液を塗布する操作を1回以上繰り返して所望の膜厚とし、この塗膜を不活性雰囲気中、350〜500℃において熱処理することにより膜厚2000Å以上のシリカ系被膜を形成させるものである。
【0004】
また、特許文献2にも同様のSOG膜の形成方法が開示されている。この方法は、基板上に500℃以上の融点を持つ材料からなる配線層を設け、その上にトリアルコキシシランの酸加水分解生成物を含有する有機溶剤溶液からなる塗布液を塗布、乾燥した後、550〜800℃の範囲の温度で塗膜中にSi−H結合が認められなくなるまで焼成することにより、クラック限界の高いSiO被膜を形成させるものである。
【特許文献1】特開平10−310872号公報
【特許文献2】特開平10−313002号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
基板上に塗布されたアルコキシシラン化合物を含む塗布液は有機溶剤を含有し、また、加熱処理時には塗膜中にアルコキシシラン化合物の加水分解によってシラノールを形成するときに発生するアルコール、および、シラノールが縮合してSiOの網目状結合を形成するときに発生する水を含む。従って、適正な乾燥、焼成処理を行わなければSOG膜がシュリンクしてクラック発生の原因となる。また、クラック限界改善のためのガラス質形成材を添加した場合には、500℃以上の温度で焼成するとガラス質が消失してしまう。
【0006】
前記特許文献1に開示される技術では、先に塗布した塗膜の表面部分にのみ紫外線を照射し、塗膜表面に存在するトリアルコキシシランのSi−H基をSi−OHに変え、これによって次に形成する塗膜との密着性を高め、ピンホールの発生を防ごうとするものである。しかし、この技術では、紫外線照射装置をスピンコータに取り付ける必要がある。
【0007】
また特許文献2に開示される技術では、500℃以上、好ましくは550℃〜800℃の温度でSiO被膜を焼成してトリアルコキシシランのSi−H基をSi−OHに変える工程が必須である。従って、上記ガラス質形成材を添加することができず、また、配線用材料がアルミニウム等の低融点金属である場合には熔融してパターンが崩れてしまう難点がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、アルコキシシラン化合物含有塗布液により基板上にSOG膜を形成する際に、温度制御を正確に行って、塗膜の急激なシュリンクを抑制し、また塗布液中のガラス質形成材の消失を防ぐことでSOG膜のクラックの発生を防ぎ、さらに、回路を形成している金属材を熔融、変形させることのない理想的な塗膜の形成方法を提供することを目的とする。
【0009】
本発明の塗膜形成方法は、被処理物上にSOG膜形成用塗布液を塗布し、加熱処理工程を経てSOG膜を被処理物上に形成する塗膜形成方法であって、この加熱処理工程を乾燥工程およびそれに続く焼成工程に分け、前記乾燥工程においては、少なくとも3段階の被処理物表面温度範囲を設定して、低温から段階的に温度を上昇させることで前記被処理物を加熱し、次の前記焼成工程においては、さらに被処理物表面温度を上昇させ250〜500℃の範囲で、かつ±3℃の範囲に保持して前記被処理物の加熱処理を行い、前記SOG膜を形成させる構成である。
【0010】
前記乾燥工程における被処理物表面温度範囲を3段階とした場合には、第1段階を50〜100℃、第2段階を101〜170℃、第3段階を171〜350℃に設定することが好ましい。また、前記乾燥工程における加熱時間は、各段階において1〜3分の範囲で設定することが好ましい。
【0011】
一方、前記焼成工程における加熱時間は、当該焼成工程がバッチ式処理であった場合は10〜60分の範囲で設定することが好ましいが、枚葉型処理により、前記被処理物を1枚ずつ焼成する場合には、焼成工程における加熱時間を、1〜30分の範囲に短縮することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法によれば、乾燥工程において少なくとも3段階の温度で乾燥を行うため、被処理物上のSOG膜の急激なシュリンクを抑制することができる。また、焼成工程においては、被処理物の表面温度を狭い温度幅で管理するため、被処理物上のパターン(回路)を形成している金属材料の変形、溶融を防止できる。また、クラック限界を緩和するためのガラス質形成剤の消失も防止できる。その結果、クラック限界が高く安定した品質のSOG膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の方法は、半導体基板、ガラス基板、金属板、セラミック基板等を被処理物として、これら被処理物上にスピンナー法によってSOG膜を形成させるものである。被処理物の表面にSOG膜を形成するには、SOG膜形成用塗布液を被処理物上に塗布した後、加熱処理を行う。こうして形成されるSOG膜としては、誘電率3.5以下であることが好ましい。このような膜が形成される塗布液としては、後述の有機SOG形成用塗布液および無機SOG形成用塗布液を挙げることができる。
【0014】
SOG膜を形成するには乾燥工程および焼成工程を経る。乾燥工程については、上記塗布液が塗布された被処理物を加熱処理装置内に導入して実施する。被処理物の乾燥手段に制限はないが、例えばホットプレート上に複数枚数の被処理物を載置して乾燥処理することができる。本発明において、乾燥工程では少なくとも3段階の被処理物表面温度範囲を設定する。例えば3段階設定の場合は、低温プレート、中温プレートおよび高温プレートを用意し、塗布液の塗布された被処理物を先ず低温プレート上に載置する。そして、一定時間後に中温プレートへ移動させ、最後に高温プレートで乾燥させて工程を終了する。
【0015】
上記乾燥工程は有機溶剤等の可燃物を除去するためのものであるため、窒素ガス雰囲気中で行うことが好ましく、乾燥工程の終了段階で、雰囲気中の酸素濃度が1%以下にまで低下していることが望ましい。
【0016】
前記乾燥工程における被処理物表面温度範囲を3段階とした場合、第1段階目は50〜100℃、第2段階は101〜170℃、および第3段階目は171〜350℃の範囲に設定することが好ましい。各段階の温度については、変動が少ないことが望ましいが、それ程厳格である必要はなく、およそ4〜6℃の変動範囲であれば許容される。また、乾燥時間は、塗布液中に含まれる溶媒の量を考慮して適宜調整することが好ましいが、第1〜第3の各段階において1〜3分の範囲を目安として設定することができる。
【0017】
上記第1段階目はアルコキシシランの加水分解によって発生したメタノール、エタノール等、あるいは塗布液に含まれる低沸点溶媒を除去するための工程である。また、第2段階目は低沸点物を完全に除去するとともに、アルキレングリコールジアルキルエーテル等の比較的高沸点の有機溶媒をも除去するための工程である。そして第3段階目は上記有機溶媒をほぼ完全に除去する工程である。
【0018】
図1は、SOG膜のシュリンク割合(%)と加熱処理温度との相関の一例を示すグラフである。このグラフによれば、例えば100℃で加熱処理すると2ポイント強の収縮が発生し、200℃で加熱処理すると約10ポイントの収縮が発生することが示されている。すなわち、SOG膜を約150℃以上の温度で最初から加熱処理すると膜が一挙にシュリンクしてクラックが発生しやすくなる等、膜質が低下することが予測される。従って、本発明の方法に従って少なくとも3段階の被処理物表面温度範囲を設定することが好ましい。
【0019】
前記乾燥工程に続く焼成工程においては、さらに被処理物表面温度を上昇させ250〜500℃、好ましくは400〜450℃の範囲で焼成を行う。この焼成によって、アルコキシシランの加水分解で形成されたシラノールをほぼ完全に縮合重合させてSi−O−Siの網目状構造とすることができ、また、縮合反応によって発生した水も除去することができる。この焼成工程においては、被処理物表面温度をほぼ一定に保つことが重要であり、±3℃、好ましくは±2℃の範囲に保持することが必要である。
【0020】
被処理物表面温度を上記温度範囲に意図的にコントロールする必要がある。そうでなければ、焼成工程の終盤には、縮合反応によって発生する水分量が減るため、被処理物の表面温度が加速度的に上昇して被処理物表面温度が500℃を超え、回路を形成している金属材が溶けてしまう恐れがある。また、元々SOG膜は衝撃に弱くクラック限界が0.2ミクロン程度しかないため、塗布液中にガラス質形成剤を添加してクラック限界を1.5ミクロン程度にまで上げている。被処理物表面温度が500℃を超えると、このガラス質形成剤が消失して上記クラック限界が低下してしまう。
【0021】
焼成工程における被処理物の処理手段に制限はないが、例えば乾燥工程と同様、ホットプレート上に複数枚数の被処理物を載置して焼成処理することができる。このようなバッチ式処理を採用した場合、加熱時間は10〜60分の範囲で設定することが好ましい。加熱時間が10分未満では焼成不十分のためSOG膜の緻密度が不十分となることがあり、60分を超える加熱時間は時間の無駄とエネルギー資源の浪費となる。また、枚葉型処理により被処理物を1枚ずつ焼成することも、高品質のSOG膜を得ることができるため望ましく、この場合には加熱時間を、1〜30分に短縮することができる。
【0022】
本発明の方法で使用することのできる塗布液のうち、有機SOG形成用塗布液としては、例えば炭素含有量が5〜25原子量%のものが好ましく、さらに好ましくは8〜20原子量%である。ここで、炭素含有量とは有機SOG形成用塗布液に含有されるアルコキシシラン化合物の反応量から理論的に算出されるものであり、総元素の原子量合計に対する炭素原子量の割合である。炭素含有量が上記の範囲未満では有機成分が少なすぎて厚膜化が困難となることがあり、また、クラックも生じやすくなる上、低誘電率というSOG膜本来の長所を失うことがある。また、炭素含有量が上記の範囲を超えるとバリヤメタル層との密着性が不足することがある。
【0023】
上記炭素含有量を有する被膜を得るには、以下の式(I)で表されるアルコキシシラン化合物から選ばれる少なくとも1種を含有し、有機溶剤中、酸触媒下で加水分解し、縮合反応可能とした塗布液を使用することが好ましい。
一般式 RSi(OR4−n・・・・・・・・・・・・・・・(I)
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基、アリール基、Rは炭素数が1〜4のアルキル基、nは1または2である。)
【0024】
上記一般式(I)で表される化合物の具体例としては、(a)n=1の場合、モノメチルトリメトキシシラン、モノメチルトリエトキシシラン、モノメチルトリプロポキシシラン、モノエチルトリメトキシシラン、モノエチルトリエトキシシラン、モノエチルトリプロポキシシラン、モノプロピルトリメトキシシラン、モノプロピルトリエトキシシラン等のモノアルキルトリアルコキシシラン類、モノフェニルトリメトキシシラン、モノフェニルトリエトキシシラン等のモノフェニルトリアルコキシシラン類が挙げられる。また、(b)n=2の場合、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジプロポキシシラン、ジプロピルジジメトキシシラン、ジプロピルジエトキシシラン、ジプロピルジプロポキシシラン等のジアルキルジアルコキシシラン類、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等のジフェニルジアルコキシシラン類、メチルフェニルジメトキシシラン、エチルフェニルジメトキシシラン等のアルキルフェニルジアルコキシシラン類を挙げることができる。これら化合物の中で、(a)化合物としてモノメチルトリメトキシシランおよびモノメチルトリエトキシシラン、(b)化合物としてジメチルジメトキシシランおよびジメチルジエトキシシランが実用上好ましい化合物である。
【0025】
一般式(I)で表わされるアルコキシシラン化合物と共縮合させることのできる他のアルコキシシラン化合物としては、(c)テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン類を挙げることができる。中でも、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランが実用上好ましい化合物である。
【0026】
これらのアルコキシシラン化合物は1種用いてもよいし2種以上用いてもよい。具体的には、(a)と(c)の2種の化合物の組み合わせ、(a)、(b)および(c)の3種の化合物の組み合わせ、または(a)化合物単独の場合が好適である。その際の反応モル比は、(a)と(c)の2種を組み合わせる場合については、(c)テトラアルコキシシラン1モルに対し(a)モノアルキルトリアルコキシシラン2〜6モル、好ましくは2〜4モルを有機溶媒中、酸触媒下で反応させて得られる加水分解共縮合物を含んでなる塗布液が下地層との密着性に優れるため好ましい。
【0027】
また、(a)、(b)および(c)の3種を組み合わせる場合には、(b)ジアルキルジアルコキシシラン1モルに対し(c)テトラアルコキシシラン0.5〜4モル、好ましくは1.0〜3.0モルおよび(a)モノアルキルトリアルコキシシラン0.5〜4モル、好ましくは0.5〜3.0モルを有機溶媒中、酸触媒下で反応させて得られる加水分解共縮合物を含んでなる塗布液が下地層との密着性に優れるため好ましい。
【0028】
また(a)モノアルキルトリアルコキシシラン単独の場合は、ラダー型に架橋した加水分解縮合物が得られやすく、このラダー型は最も低誘電率のSOG膜を形成するため好ましい。加水分解物は完全加水分解物であってもよいし、部分加水分解物であってもよい。加水分解度は水の添加量により調整することができ、目的とするSOG膜の特性により、適宜、水の添加量を調整すればよいが、一般には前記一般式で表されるアルコキシシラン化合物の合計量1モルに対し1〜10倍モル、さらには1.5〜8倍モルの割合で反応させることが望ましい。この範囲未満では加水分解度が低くなることがあり、被膜形成が困難となることがある。また、この範囲を超えるとゲル化を起こしやすく保存安定性が悪くなることがある。
【0029】
また、酸触媒としては、従来慣用的に使用されている有機酸、無機酸のいずれも使用できる。有機酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の有機カルボン酸が挙げられ、無機酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、燐酸等の無機酸を挙げることができる。酸触媒は、塗布液中の酸濃度が、1〜1,000ppm、さらには、5〜500ppmの範囲となるように酸触媒を加えるか、または酸と水を混合した酸水溶液として加えて、アルコキシシラン化合物を加水分解させることが好ましい。加水分解反応は、通常5〜100時間程度で完了する。また、室温から80℃を超えない加熱温度で、アルコキシシラン化合物を含む有機溶剤に酸触媒水溶液を滴下して反応させることにより、短い反応時間で反応を完了させることもできる。このようにして加水分解させたアルコキシシラン化合物は、縮合反応を生起し、その結果、被膜形成能を有することになる。
【0030】
有機溶剤としては、従来慣用的に使用されている有機溶剤が使用できる。そのようなものとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコールのような一価アルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールのような多価アルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートのような多価アルコール誘導体類、酢酸、プロピオン酸のような脂肪酸等を挙げることができる。これらの有機溶剤は、単独で用いてもよいし2種以上組み合わせて用いてもよい。その使用量については、アルコキシシランの1モルに対し、10〜30モル倍量の割合が好ましい。
【0031】
一方、無機SOG形成用塗布液としては、トリアルコキシシランの酸加水分解縮合生成物を含有するアルキレングリコールジアルキルエーテルを溶媒とする溶液からなり、溶媒除去後の被膜形成成分が熱重量測定に際し、重量増加を示すものが低誘電率、耐クラック性に優れ好ましい 上記無機SOG形成用塗布液については、トリアルコキシシランを、SiO換算で1〜5質量%の濃度でアルキレングリコールジアルキルエーテル中に溶解し、この溶液にトリアルコキシシラン1モル当り2.5〜3.0モルの水を加え、酸触媒の存在下で加水分解縮合した後、反応混合物中の反応により生成したアルコール含有量を15質量%以下に調整することにより得られる。
【0032】
トリアルコキシシランの濃度をSiO換算で上記の通り1〜5質量%とすると、ラダー構造のSOG膜を形成することができる。記述のように、ラダー構造とすることで緻密な膜が形成され誘電率を低くすることが可能となる。
【0033】
上記トリアルコキシシランとしては、例えばトリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロポキシシラン、トリブトキシシラン、ジエトキシモノメトキシシラン、モノメトキシジプロポキシシラン、ジブトキシモノメトキシシラン、エトキシメトキシプロポキシシラン、モノエトキシジメトキシシラン、モノエトキシジプロポキシシラン、ブトキシエトキシプロポキシシラン、ジメトキシモノプロポキシシラン、ジエトキシモノプロポキシシラン、モノブトキシジメトキシシラン。これらの中で実用上好ましい化合物は、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロポキシシラン、トリブトキシシランであり、中でも特にトリメトキシシラン、トリエトキシシランが好ましい。
【0034】
次に溶媒としては、保存安定性を高めるためにアルキレングリコールジアルキルエーテルを用いることが必要である。このものを用いることにより、低級アルコールを溶媒として用いた従来方法におけるトリアルコキシンランのH−Si基の分解反応や中間に生成するシラノールの水酸基がアルコキシ基に置換する反応を抑制することができ、ゲル化を防止することができる。
【0035】
このアルキレングリコールジアルキルエーテルとして、例えばエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジプロピルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル等のアルキレングリコールのジアルキルエーテル類を挙げることができる。これらの中で好ましいのはエチレングリコールまたはプロピレングリコールのジアルキルエーテルであり、中でもジメチルエーテルである。これらの有機溶媒は、単独で用いてもよいし2種以上組み合わせて用いてもよい。その使用量については、アルコキシシランの1モルに対し、10〜30モル倍量の割合で用いることができる。
【0036】
トリアルコキシシランの加水分解を行うための水は、トリアルコキシシラン1モルに対し2.5〜3.0モル、さらには2.8〜3.0モルの範囲内の量で用いることが加水分解度を高めるために好ましい。この範囲未満では保存安定性は高くなるものの、加水分解度が低くなり加水分解物中の有機基の含有量が多くなり、被膜形成時にガスの発生が起こることがあり、また、この範囲を超えて添加すると保存安定性が悪くなることがある。
【0037】
溶媒にアルコールを用いずアルキレングリコ−ルジアルキルエーテルの中から選ばれる少なくとも1種を用いたとしてもアルコキシシランの加水分解においてはアルコキシ基に相当するアルコールが必ず生成してくるので、反応系からこの生成してくるアルコールを除去しなければならない。具体的には、アルコールを塗布液中15質量%以下、好ましくは8質量%以下まで除去しておくことが必要である。アルコール分が15質量%を超えて残存していると、H−Si基と生成したアルコールが反応し、RO−Si基が生成し、クラック限界が低下するし、被膜形成時にガスが発生し、前記したトラブルの原因となる。
【0038】
アルコールの除去方法としては、真空度30〜300mmHg、好ましくは、50〜200mmHg、温度20〜50℃で2〜6時間減圧蒸留する方法が好適である。このようにして得られた塗布液は、溶媒除去後の被膜形成成分が熱重量測定(TG)に際し、重量増加を示すこと、および赤外吸収スペクトルにおいて3000cm−1にピークを有しないという点で特徴づけられる。
【0039】
以上、本発明の方法に使用できるSOG膜形成用塗布液の組成について詳述したが、本発明の方法において使用できる塗布液はこれらに限定されるものではない。
【0040】
本発明の方法によれば、高品質のSOG膜を形成した基板を得ることができ、また、従来の技術と比較して低温で焼成工程を行うため、エネルギーも節約できる。従って、IT分野における半導体素子、液晶素子等の製造に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】SOG膜のシュリンク割合(%)と加熱処理温度との相関の一例を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物上にSOG膜形成用塗布液を塗布し、加熱処理工程を経てSOG膜を被処理物上に形成する塗膜形成方法であって、この加熱処理工程を乾燥工程およびそれに続く焼成工程に分け、前記乾燥工程においては、少なくとも3段階の被処理物表面温度範囲を設定して、低温から段階的に温度を上昇させることで前記被処理物を加熱し、次の焼成工程においては、被処理物表面温度をさらに上昇させ250〜500℃の範囲で、かつ±3℃の範囲に保持して前記被処理物の加熱処理を行ってSOG膜を形成することを特徴とする塗膜形成方法。
【請求項2】
請求項1に記載の塗膜形成方法において、前記乾燥工程における被処理物表面温度範囲を3段階とし、第1段階を50〜100℃、第2段階を101〜170℃、第3段階を171〜350℃と設定することを特徴とする塗膜形成方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の塗膜形成方法において、前記乾燥工程における加熱時間は、各段階において1〜3分の範囲で設定することを特徴とする塗膜形成方法。
【請求項4】
請求項1に記載の塗膜形成方法において、前記焼成工程がバッチ式処理であって、その加熱時間を10〜60分の範囲で設定することを特徴とする塗膜形成方法。
【請求項5】
請求項1に記載の塗膜形成方法において、前記焼成工程は、枚葉型処理により、前記被処理物を1枚ずつ焼成する工程であって、その加熱時間を10〜30分の範囲で設定することを特徴とする塗膜形成方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−303129(P2006−303129A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−121788(P2005−121788)
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【出願人】(000220239)東京応化工業株式会社 (1,407)
【Fターム(参考)】