変速伝動装置
【課題】簡単な変速操作を行うだけで広い変速範囲にわたって無段階に速度変化した出力を得ることができながら、コンパクトに得ることができる変速伝動装置を提供する。
【解決手段】遊星伝動部Pからの合成駆動力を出力する出力ギヤとして、第1出力ギヤ81とその第1出力ギヤ81とは異なる別の出力ギヤ82,83,84とを遊星伝動機構60,70のサンギヤ62,72と同芯状に備え、複数の速度レンジ設定クラッチ101,102,103,104の切り換えによって遊星伝動部Pからの合成駆動力を出力する出力ギヤを切り換えて複数段階の速度レンジの駆動力に変換して出力回転体30に伝達する2本の伝動軸95,96を備え、2本の伝動軸95,96の夫々に設けた出力ギヤ107b,108bと噛み合う伝動ギヤ109を、出力回転体95,96に一体回転自在に備え、2本の伝動軸95,96を並列的にかつ平行に配置してある。
【解決手段】遊星伝動部Pからの合成駆動力を出力する出力ギヤとして、第1出力ギヤ81とその第1出力ギヤ81とは異なる別の出力ギヤ82,83,84とを遊星伝動機構60,70のサンギヤ62,72と同芯状に備え、複数の速度レンジ設定クラッチ101,102,103,104の切り換えによって遊星伝動部Pからの合成駆動力を出力する出力ギヤを切り換えて複数段階の速度レンジの駆動力に変換して出力回転体30に伝達する2本の伝動軸95,96を備え、2本の伝動軸95,96の夫々に設けた出力ギヤ107b,108bと噛み合う伝動ギヤ109を、出力回転体95,96に一体回転自在に備え、2本の伝動軸95,96を並列的にかつ平行に配置してある。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン駆動力が入力される無段変速部又は電動モータを備え、前記無段変速部の出力と前記無段変速部による変速作用を受けないエンジン駆動力とを、又は前記電動モータの出力とエンジン駆動力とを複数の遊星伝動機構によって合成する遊星伝動部を備え、前記遊星伝動部からの合成駆動力を複数段階の速度レンジに段階分けして、かつ各段階の速度レンジで無段階に変速して出力回転体から出力するよう構成した変速伝動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記した変速伝動装置は、無段変速部又は電動モータの変速操作を行うことにより、エンジンの出力と無段変速部の出力との合成駆動力、又はエンジンの出力と電動モータの出力との合成駆動力が複数段階の速度レンジに段階分けするとともに各速度レンジにおいて無段階に変速した駆動力が出力され、走行装置の駆動に使用すれば走行変速をスムーズかつ変速操作簡単に行えるなど有利に変速伝動できるものである。
この種の変速伝動装置として、特許文献1に記載されたものを先に開発した。
特許文献1には、三種の変速伝動装置が記載されている。三種の変速伝動装置のうちの一つ(特許文献1の図2に記載されたもの)では、無段変速装置(無段変速部に相当)と遊星伝動部とクラッチ部と第3遊星伝動機構と、第3遊星伝動機構に作用するブレーキとを備えている。
【0003】
無段変速装置は、エンジンの出力軸に主クラッチを介してポンプ軸が連動している可変容量形の油圧ポンプと、この油圧ポンプからの圧油によって駆動される油圧モータとを備えている。
【0004】
遊星伝動部は、第1遊星伝動機構と第2遊星伝動機構とを備えている。第1遊星伝動機構の遊星ギヤと、第2遊星伝動機構の遊星ギヤとは、各遊星ギヤに設けた連動ギヤ部どうしの噛み合によって連動している。第1遊星伝動機構の遊星ギヤと、第2遊星伝動機構の遊星ギヤとは、第1遊星伝動機構と第2遊星伝動機構とに共用のキャリヤによって支持されている。
【0005】
クラッチ部は、第1クラッチと第2クラッチと第3クラッチと第4クラッチとを備えている。第1クラッチの入力側回転部材が連動機構を介して第2遊星伝動機構のリングギヤに連動されている。第2クラッチの入力側回転部材が回転軸を介して第2遊星伝動機構のサンギヤに連動されている。第3クラッチの入力側回転部材が連動機構を介して遊星伝動部のキャリヤに連動されている。
【0006】
第1クラッチの入力側回転部材と、第2遊星伝動機構のリングギヤとを連動させている連動機構は、第1クラッチの入力側回転部材に噛み合ったクラッチ側伝動ギヤと、第2遊星伝動機構のリングギヤに噛み合った遊星側伝動ギヤと、前記クラッチ側伝動ギヤと前記遊星側伝動ギヤとに連結された回転軸とを備えている。第3クラッチの入力側回転部材と、遊星伝動部のキャリヤとを連動させている連動機構は、第3クラッチの入力側回転部材に噛み合ったクラッチ側伝動ギヤと、前記キャリヤに噛み合った遊星側伝動ギヤと、前記クラッチ側伝動ギヤと前記遊星側伝動ギヤとに連結された回転軸とを備えている。
【0007】
第3遊星伝動機構のサンギヤは、前記第1クラッチと第2クラッチとの出力側回転部材と、前記第3クラッチの入力側回転部材とに連動されている。第3遊星伝動機構のキャリヤは、前記第3クラッチと前記第4クラッチとの出力側回転部材に連動されている。
【0008】
ブレーキは、第3遊星伝動機構のリングギヤに制動作用した入り状態と、前記リングギヤに対する制動作用を解除した切り状態とに切り換え自在である。
【0009】
引用文献1の図2に記載された変速伝動装置では、無段変速装置の出力と、無段変速装置のポンプ軸の駆動力(無段変速装置による変速作用を受けないエンジン駆動力)とが遊星伝動部によって合成される。無段変速装置が変速操作され、この変速操作に併せて第1〜第4クラッチとブレーキとが適切に入り状態と切り状態とに切り換え操作されることにより、遊星伝動部から出力される合成駆動力が一速レンジから四速レンジに段階分けして、かつ各速レンジにおいて無段変速して第3遊星伝動機構のキャリヤ軸から出力される。
【0010】
特許文献1に記載された三種の変速伝動装置のうちの他の一つ(特許文献1の図12に記載されたもの)と、さらに他の一つ(特許文献1の図16に記載されたもの)とでは、無段変速装置(無段変速部に相当)と遊星伝動部とクラッチ部と副変速装置とを備えている。
【0011】
無段変速装置と遊星伝動部とは、特許文献1の図2に記載された変速伝動装置の無段変速装置と遊星伝動部と同一の構成を備えている。
【0012】
クラッチ部は、第1クラッチと第2クラッチとを備えている。第1クラッチの入力側回転部材は、連動機構を介して遊星伝動部の第2遊星伝動機構のリングギヤに連動されている。連動機構は、第2遊星伝動機構のリングギヤに噛合った遊星側伝動ギヤと、第1クラッチの入力側回転部材のギヤ部に噛合ったクラッチ側伝動ギヤと、遊星側伝動ギヤとクラッチ側伝動ギヤとに連結された回転連動軸とを備えている。
【0013】
副変速装置は、高速クラッチと低速クラッチとを備えている。特許文献1の図16に記載された副変速装置では、高速クラッチと低速クラッチとが噛合いクラッチになっている。
【0014】
引用文献1の図12と図16とに記載された変速伝動装置では、無段変速装置の出力と、無段変速装置のポンプ軸の駆動力(無段変速装置による変速作用を受けないエンジン駆動力)とが遊星伝動部によって合成される。無段変速装置が変速操作され、この変速操作に併せて第1クラッチと第2クラッチと高速クラッチと低速クラッチとが適切に入り状態と切り状態とに切り換え操作されることにより、遊星伝動部から出力される合成駆動力が一速レンジから四速レンジに段階分けして、かつ各速レンジにおいて無段変速して副変速装置の出力軸から出力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2007−92949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記した従来の技術を採用した変速伝動装置の場合、遊星伝動部からの合成駆動力を複数段階の速度レンジに段階分けして出力回転体に伝達するよう備える第1〜第4クラッチ、あるいは第1、第2クラッチ、高速、低速クラッチがミッションケースの前後方向に並び、変速伝動装置のミッションケース前後方向での大きさが大になりがちであった。
【0017】
本発明の目的は、簡単な変速操作を行うだけで広い変速範囲にわたって無段階に速度変化した出力を得ることができながら、コンパクトに得ることができる変速伝動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本第1発明は、エンジン駆動力が入力される無段変速部又は電動モータを備え、
前記無段変速部の出力と前記無段変速部による変速作用を受けないエンジン駆動力とを、又は前記電動モータの出力とエンジン駆動力とを複数の遊星伝動機構によって合成する遊星伝動部を備え、
前記遊星伝動部からの合成駆動力を複数段階の速度レンジに段階分けして、かつ各段階の速度レンジで無段階に変速して出力回転体から出力するよう構成した変速伝動装置において、
前記遊星伝動部からの合成駆動力を複数の速度レンジ設定クラッチの切り換えによって前記複数段階の速度レンジの駆動力に変換して前記出力回転体に伝達する複数本の伝動軸を備え、
前記複数本の伝動軸を並列的にかつ平行に配置してある。
【0019】
本第1発明の構成によると、無段変速部又は電動モータの変速操作に併せて複数の速度レンジ設定クラッチを適切に切り換え操作させると、遊星伝動部からの合成駆動力が複数段階の速度レンジに段階分けして、かつ各段階の速度レンジで無段階に変速して出力回転体に伝達される。
【0020】
本第1発明の構成によると、遊星伝動部から出力回転体への伝動をこの伝動の速度レンジに対応した伝動軸によって行わせるように複数本の伝動軸を備え、複数本の伝動軸を並列的にかつ平行に配置したものだから、この伝動部のミッションケース前後方向での大きさを従来の変速伝動装置での大きさよりも小に済ませることができる。
【0021】
従って、無段変速部又は電動モータを変速操作するだけの操作簡単な変速操作を行えば、広い変速範囲にわたって無段階に速度変化する出力を得ることができるものでありながら、ミッションケース前後方向での大きさが小さいコンパクトな状態となり、小型車両にも搭載しやすいなど使用しやすい変速伝動装置を得ることができる。
【0022】
本第2発明では、前記伝動軸の2本を備え、前記複数の速度レンジ設定クラッチを前記2本の伝動軸に振り分けて設けてある。
【0023】
本第2発明の構成によると、伝動軸を2本に済ませるとともに伝動軸と速度レンジ設定クラッチとを纏めて配置し、遊星伝動部から出力回転体に動力伝達する伝動部をよりコンパクトに得ることができる。
【0024】
従って、遊星伝動部から出力回転体への伝動部の大きさの面からよりコンパクトで、搭載設計がより行いやすいなど使用しやすい変速伝動装置を得ることができる。
【0025】
本第3発明では、前記遊星伝動部は、遊星ギヤどうしが噛合った一対の遊星伝動機構を備えて構成してあり、前記複数本の伝動軸が全長にわたって並列している。
【0026】
本第3発明の構成によると、複数本の伝動軸が全長にわたって並列するから、複数本の伝動軸がミッションケース前後方向に位置ずれした状態で平行に配置するに比べ、遊星伝動部から出力回転体への伝動部のミッションケース前後方向での長さを小にすることができる。
【0027】
従って、遊星伝動部から出力回転体への伝動部のミッションケース前後方向での大きさの面からよりコンパクトで搭載設計がより行いやすいなど使用しやすい変速伝動装置を得ることができる。
【0028】
本第4発明では、前記複数の速度レンジ設定クラッチが噛合いクラッチである。
【0029】
本第4発明の構成によると、速度レンジ設定クラッチが噛合いクラッチであるから、速度レンジ設定クラッチとして摩擦クラッチを採用するに比べ、速度レンジ設定クラッチを軽量かつコンパクトに得ることができる。
【0030】
従って、速度レンジ設定クラッチの重量と大きさとの面から軽量かつ安価なものとなり、重量面からも費用面からも使用しやすい変速伝動装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】第一実施例の変速伝動装置が装備されたトラクタの走行伝動装置の線図
【図2】遊星伝動部と速度レンジ設定部と奇数レンジ伝動クラッチと偶数レンジ伝動クラッチとの断面図
【図3】遊星ギヤの配置図
【図4】変速伝動装置の軸の配置図
【図5】速度レンジ設定部の作用状態の説明図
【図6】無段変速部の変速状態と、変速伝動装置の出力速度と、速度レンジとの関係を示す説明図
【図7】速度レンジ切り換え時における制御手段によるクラッチ操作状態の説明図
【図8】操作装置のブロック図
【図9】第二実施例の変速伝動装置が装備されたトラクタの走行伝動装置の線図
【図10】第二実施例の変速伝動装置の遊星伝動部と速度レンジ設定部の断面図
【図11】第二実施例の変速伝動装置が装備された走行伝動装置の前後進切換え装置の断面図
【図12】第三実施例の変速伝動装置が装備されたトラクタの走行伝動装置の線図
【図13】第三実施例の変速伝動装置の遊星伝動部と速度レンジ設定部の断面図
【図14】第三実施例の変速伝動装置が装備された走行伝動装置の前後進切換え装置の断面図
【図15】第四実施例の変速伝動装置が装備された走行伝動装置の線図
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の第一実施例に係る変速伝動装置Aが装備されたトラクタの走行伝動装置の線図である。この図に示すように、トラクタの走行伝動装置は、エンジン1の出力軸1aからの出力を入力する主クラッチ2と、この主クラッチ2の出力を入力軸11によって入力する前後進切換え装置10と、この前後進切換え装置10の出力ギヤ12にギヤ21を介して入力軸22が連動している本発明の第一実施例に係る変速伝動装置Aと、この変速伝動装置Aの出力回転体としての出力軸30の後端部に入力ギヤ31が一体回転自在に連結している後輪用差動機構32と、前記出力軸30の前端部にジョイント33を介して入力軸41が一体回転自在に連結している前輪変速装置40と、この前輪変速装置40の出力軸42からの出力が回転伝動軸34を介して入力する前輪用差動機構35とを備えている。
【0033】
前後進切換え装置10と変速伝動装置Aと後輪用差動機構32と前輪変速装置40とは、同一のミッションケース36に収容されている。
【0034】
図1に示すようにミッションケース36から後方に突出している動力取り出し軸37は、トラクタに連結されたロータリ耕耘装置などの各種の作業装置に駆動力を伝達するものである。この動力取り出し軸37は、連動軸38と作業クラッチ39とを介して前後進切換え装置10の入力軸11に連動している。
【0035】
図1に示すように、前記前後進切換え装置10は、前記入力軸11と前記出力ギヤ12とを備える他、前記入力軸11に一体回転自在に設けた入力側回転体13と、この入力側回転体13の一端側と前記出力ギヤ12とにわたって設けた多板式の前進摩擦クラッチ14とを備えている。前記前後進切換え装置10は、さらに、前記入力側回転体13に対して前記出力ギヤ12とは反対側に位置させて前記入力軸11に相対回転自在に支持させた伝動ギヤ15と、この伝動ギヤ15と前記入力側回転体13の他端側とにわたって設けた多板式の後進摩擦クラッチ16と、前記伝動ギヤ15に噛合った逆転ギヤ17と、この逆転ギヤ17を前記出力ギヤ12に連動させている連動軸18とを備えている。
【0036】
前後進切換え装置10は、前記入力側回転体13の内部に設けた前進ピストンと後進ピストンとのうちの前進ピストンに操作油圧が供給されて前進ピストンが前記前進摩擦クラッチ14を入り状態に加圧操作することによって前進状態になり、前記後進ピストンに操作油圧が供給されて後進ピストンが前記後進摩擦クラッチ16を入り状態に加圧操作することによって後進状態になる。
【0037】
前後進切換え装置10は、前進状態になると、入力軸11の駆動力を入力側回転体13と前進摩擦クラッチ14と出力ギヤ12とによって前進駆動力に変換して出力ギヤ12から無段変速部20と遊星伝動部Pとに出力する。前後進切換え装置10は、後進状態になると、入力軸11の駆動力を入力側回転体13と後進摩擦クラッチ16と伝動ギヤ15と逆転ギヤ17と伝動軸18とによって後進駆動力に変換して出力ギヤ12に伝達し、この出力ギヤ12から無段変速部20と遊星伝動部Pとに出力する。
【0038】
図1に示すように、本発明の第一実施例に係る変速伝動装置Aは、前記入力軸22と前記出力軸30とを備える他、前記無段変速部20と、この無段変速部20のモータ軸23にギヤ50とギヤ51とを介してサンギヤ軸61が連動している前記遊星伝動部Pと、この遊星伝動部Pの第一出力ギヤ81に第一入力ギヤ91が噛合っている速度レンジ設定部90とを備えて構成してある。
【0039】
図1に示すように、前記無段変速部20は、前記入力軸22をポンプ軸(以下、入力軸をポンプ軸22と称する。)として備えたアキシャルプランジャ形でかつ可変容量形の油圧ポンプ24と、この油圧ポンプ24からの圧油によって駆動されるアキシャルプランジャ形の油圧モータ25とを備えて構成してある。油圧モータ25は、前記モータ軸23を備えている。
【0040】
つまり、無段変速部20は、静油圧式無段変速部になっており、油圧ポンプ24の斜板角を変更操作されることにより、正回転伝動状態と中立状態と逆回転伝動状態とに切り換わる。無段変速部20は、正回転伝動状態において油圧ポンプ24の斜板角を変更操作されることにより、前後進切換え装置10を介してポンプ軸22に伝達されたエンジン駆動力を正回転方向の駆動力に変換して、かつ無段階に変速してモータ軸23から出力する。無段変速部20は、逆回転伝動状態において油圧ポンプ24の斜板角を変更操作されることにより、前後進切換え装置10を介してポンプ軸22に伝達されたエンジン駆動力を逆回転方向の駆動力に変換して、かつ無段階に変速してモータ軸23から出力する。無段変速部20は、中立状態では、モータ軸23からの出力を停止する。
【0041】
図2は、前記遊星伝動部Pの断面構造を示している。この図と図1とに示すように、前記遊星伝動部Pは、前記無段変速部20と前後進切換え装置10とから入力した駆動力を前記速度レンジ設定部90に向けて伝達する伝動方向での上手側に位置した遊星伝動機構60(以下、上手遊星機構60と略称する。)と、下手側に位置した遊星伝動機構70(以下、下手遊星機構70と略称する。)とを備えて構成してある。
【0042】
前記上手遊星機構60は、前記サンギヤ軸61の一端部に一体回転自在に設けたサンギヤ62と、このサンギヤ62の外周側にサンギヤ62の周方向に分散して位置するとともに前記サンギヤ62に噛み合った三個の遊星ギヤ63と、この三個の遊星ギヤ63を遊転自在に支持したキャリヤ64と、前記三個の遊星ギヤ63に噛み合ったリングギヤ65とを備えている。前記サンギヤ62と前記サンギヤ軸61とは、一体成形されている。
【0043】
前記下手遊星機構70は、前記上手遊星機構60のサンギヤ62の伝動方向下手側に前記サンギヤ62と同一の軸芯まわりで回転自在に位置するサンギヤ72と、このサンギヤ72の外周側にサンギヤ72の周方向に分散して位置するとともに前記サンギヤ72に噛み合った三個の遊星ギヤ73と、この三個の遊星ギヤ73を遊転自在に支持したキャリヤ64と、前記三個の遊星ギヤ73に噛み合ったリングギヤ75とを備えている。
【0044】
図3は、上手遊星機構60の遊星ギヤ63と、下手遊星機構70の遊星ギヤ73との配置図である。この図と図2とに示すように、上手遊星機構60の前記三個の遊星ギヤ63と下手遊星機構70の前記三個の遊星ギヤ73とは、上手遊星機構60の一つの遊星ギヤ63と下手遊星機構70の一つの遊星ギヤ73とが、サンギヤ62,72の周方向に寄り合った一つのギヤ対となり、上手遊星機構60の他の一つの遊星ギヤ63と下手遊星機構70の他の一つの遊星ギヤ73とが、サンギヤ62,72の周方向に寄り合った一つのギヤ対となり、上手遊星機構60の残りの一つの遊星ギヤ63と下手遊星機構70の残りの一つの遊星ギヤ73とが、サンギヤ62,72の周方向に寄り合った一つのギヤ対となった配置になっている。各ギヤ対における上手遊星機構60の遊星ギヤ63と、下手遊星機構70の遊星ギヤ73とは、各遊星ギヤ63,73のサンギヤ62,72に噛み合っている側とは反対側の端部どうしで互いに噛み合って連動している。
【0045】
隣り合う二つのギヤ対において、一方のギヤ対の前記遊星ギヤ63,73の歯先部が、他方のギヤ対の前記遊星ギヤ63,73の歯先部どうしの間に入り込んでいる。しかし、隣り合う二つのギヤ対において、一方のギヤ対の前記遊星ギヤ63,73と、他方のギヤ対の前記遊星ギヤ63,73とは、連動していない。このように遊星ギヤ63,73の歯先部が歯先部間に入り込んだ配置を採用していることにより、遊星伝動部Pに所要のギヤ比を備えさせながらサンギヤ62,72とリングギヤ65,75の直径を小に抑制し、遊星伝動部Pを外径が小さいコンパクトな状態に得ることができる。
【0046】
図3に示すように、上手遊星機構60の遊星ギヤ63は、前記キャリヤ64の支軸64aに回転自在に支持され、下手遊星機構70の遊星ギヤ73は、前記キャリヤ64の支軸64bに回転自在に支持されている。つまり、前記キャリヤ64は、上手遊星機構60と下手遊星機構70とに共通したキャリヤになっている。すなわち、キャリヤ64は、上手遊星機構60の各遊星ギヤ63がこれとギヤ対をなす下手遊星機構70の遊星ギヤ73と噛み合った状態で自転しながらサンギヤ62の周りに公転し、下手遊星機構70の各遊星ギヤ73がこれとギヤ対をなす上手遊星機構60の遊星ギヤ63と噛み合った状態で自転しながらサンギヤ72の周りに公転するよう各遊星ギヤ63,73を支持している。
【0047】
上手遊星機構60のリングギヤ65は、このリングギヤ65に一体回転自在に連設した連動部材66と、この連動部材66の端部にスプライン係合によって一体回転自在に連結するとともに前記前後進切換え装置10の前記出力ギヤ12に噛合うよう構成した伝動ギヤ67とを介して前記出力ギヤ12に連動している。前記リングギヤ65と前記連動部材66とは、一体成形されている。上手遊星機構60のサンギヤ62は、前記サンギヤ軸61と前記ギヤ51と前記ギヤ50とを介して前記無段変速部20のモータ軸23に連動している。
【0048】
前記遊星伝動部Pは、前記第一出力ギヤ81を備える他、この第一出力ギヤ81よりもミッションケース後方側にミッションケース前後方向に並んで位置する第二出力ギヤ82と第三出力ギヤ83と第四出力ギヤ84とを備えている。
【0049】
前記第一出力ギヤ81は、この第一出力ギヤ81に一端部がスプライン係合によって一体回転自在に連結した連動部材76を介して下手遊星機構70のリングギヤ75に一体回転自在に連動している。連動部材76とリングギヤ75とは、一体成形されている。
【0050】
前記第二出力ギヤ82と前記第四出力ギヤ84とを一体回転自在に支持する回転支軸85と、下手遊星機構70のサンギヤ72を一体回転自在に支持するサンギヤ軸71とがスプライン係合によって一体回転自在に連結している。これにより、第二出力ギヤ82と第四出力ギヤ84とは、一体回転し、かつ下手遊星機構70のサンギヤ72に一体回転自在に連動している。
【0051】
前記第三出力ギヤ83は、前記キャリヤ64に一端側がスプライン係合によって一体回転自在に連結した回転軸86の他端側にスプライン係合によって一体回転自在に連結している。これにより、第三出力ギヤ83は、前記回転軸86を介して前記キャリヤ64に一体回転自在に連結している。
【0052】
つまり、遊星伝動部Pは、エンジン駆動力が入力された無段変速部20のモータ軸23からの出力をギヤ50とギヤ51とサンギヤ軸61とによって上手遊星機構60のサンギヤ62に入力し、無段変速部20による変速作用を受けないエンジン駆動力としての前後進切換え装置10の出力ギヤ12の駆動力をギヤ67と連動部材66とによって上手遊星機構60のリングギヤ65に入力し、無段変速部20の出力と、無段変速部20の変速作用を受けないエンジン駆動力とを上手遊星機構60と下手遊星機構70とによって合成し、合成駆動力を第一、第二、第三、第四出力ギヤ81,82,83,84から速度レンジ設定部90に出力する。
【0053】
図2は、前記速度レンジ設定部90の断面構造を示している。この図と図1とに示すように、前記速度レンジ設定部90は、前記第一入力ギヤ91を備える他、前記第二出力ギヤ82と前記第三出力ギヤ83と前記第四出力ギヤ84とに各別に噛合った第二入力ギヤ92と第三入力ギヤ93と第四入力ギヤ94とを備え、前記第一入力ギヤ91と前記第三入力ギヤ93とを相対回転自在に支持する伝動軸としての奇数レンジ伝動軸95を備え、前記第二入力ギヤ92と前記第四入力ギヤ94とを相対回転自在に支持する伝動軸としての偶数レンジ伝動軸96を備えて構成してある。
【0054】
図4は、変速伝動装置Aの横断面で各軸の配置図である。この図と図2とに示すように、前記奇数レンジ伝動軸95と前記偶数レンジ伝動軸96とは、互いに全長にわたってミッションケース36の上下方向に並列し合い、かつ互いに平行に位置し合う配置状態にあり、速度レンジ設定部90のミッションケース前後方向での大きさを小に済ませている。
【0055】
前記奇数レンジ伝動軸95は、前記第一入力ギヤ91の伝動筒部91aと奇数レンジ伝動軸95とにわたって設けた第一クラッチ101と、前記第三入力ギヤ93の伝動筒部93aと奇数レンジ伝動軸95とにわたって設けた第三クラッチ103と、奇数レンジ伝動軸95の前記第一入力ギヤ91が位置する端部とは反対側の端部に設けた奇数レンジ伝動クラッチ107とを備えている。
【0056】
前記偶数レンジ伝動軸96は、前記第二入力ギヤ92の一側部と偶数レンジ伝動軸96とにわたって設けた第二クラッチ102と、前記第四入力ギヤ94の一側部と偶数レンジ伝動軸96とにわたって設けた第四クラッチ104と、偶数レンジ伝動軸96の前記第二入力ギヤ92が位置する端部とは反対側の端部に設けた偶数レンジ伝動クラッチ108とを備えている。
【0057】
図2は、前記第一クラッチ101と前記第二クラッチ102と前記第三クラッチ103と前記第四クラッチ104との断面構造を示している。この図に示すように、前記第一クラッチ101と前記第二クラッチ102と前記第三クラッチ103と前記第四クラッチ104とは、奇数レンジ伝動軸95あるいは偶数レンジ伝動軸96にホルダー105a,106aを介して一体回転及び摺動自在に支持されたシフトギヤ105,106と、対応する入力ギヤ91,92,93,94の前記伝動筒部91a,93a又は一側部に設けたギヤ101a,102a,103a,104aとを備えて構成してあり、噛合いクラッチになっている。
【0058】
すなわち、第一クラッチ101と第二クラッチ102と第三クラッチ103と第四クラッチ104とは、前記シフトギヤ105,106にシフターを介して連動させてミッションケース36の外部に設けた油圧ピストン111,112が操作され、シフトギヤ105,106がホルダー105a,106aに対して摺動操作されてホルダー105a,106aと前記ギヤ101a,102a,103a,104aとにわたって噛合うことにより、入力ギヤ91,92,93,94の駆動力をシフトギヤ105,106とホルダー105a,106aとを介して奇数レンジ伝動軸95あるいは偶数レンジ伝動軸96に伝達して、入力ギヤ91,93と奇数レンジ伝動軸95とを、あるいは入力ギヤ92,94と偶数レンジ伝動軸96とを一体回転させるよう入り状態になる。
【0059】
第一クラッチ101と第二クラッチ102と第三クラッチ103と第四クラッチ104とは、シフトギヤ105,106がホルダー105a,106aに対して摺動操作されて前記ギヤ101a,102a,103a,104aから離脱することにより、入力ギヤ91,93と奇数レンジ伝動軸95とを、あるいは入力ギヤ92,94と偶数レンジ伝動軸96とを相対回転させるよう切り状態になる。
【0060】
図2は、前記奇数レンジ伝動クラッチ107と前記偶数レンジ伝動クラッチ108との断面構造を示している。この図に示すように、前記奇数レンジ伝動クラッチ107と前記偶数レンジ伝動クラッチ108とは、奇数レンジ伝動軸95あるいは偶数レンジ伝動軸96に一体回転自在に設けた入力側回転部材107a,108aと、奇数レンジ伝動軸95あるいは偶数レンジ伝動軸96に相対回転自在に設けた出力ギヤ107b,108bと、この出力ギヤ107b、108bの一側部と前記入力側回転部材107a,108aとにわたって設けた多板式の摩擦クラッチ本体107c、108cとを備えて構成してあり、摩擦クラッチになっている。
【0061】
奇数レンジ伝動クラッチ107の前記出力ギヤ107bは、この出力ギヤ107bに噛合うように構成して前記出力軸30に一体回転自在に設けた伝動ギヤ109を介して前記出力軸30に連動している。偶数レンジ伝動クラッチ108の前記出力ギヤ108bは、前記伝動ギヤ109に噛合っており、この伝動ギヤ109を介して前記出力軸30に連動している。
【0062】
すなわち、奇数レンジ伝動クラッチ107と偶数レンジ伝動クラッチ108とは、入力側回転部材107a,108aの内部に摺動自在に設けた油圧ピストン114,115に操作油路116,117から操作油圧が供給されて油圧ピストン114,115が摩擦クラッチ本体107c,108cを入り状態に加圧操作することにより、入力側回転部材107a,108aと出力ギヤ107b、108bとを摩擦クラッチ本体107c、108cによって一体回転自在に連動させるよう入り状態になる。奇数レンジ伝動クラッチ107と偶数レンジ伝動クラッチ108とは、油圧ピストン114,115から操作油圧が排出され、油圧ピストン114,115による摩擦クラッチ本体107c,108cの加圧操作が解除されて摩擦クラッチ本体107c,108cが切り状態になることにより、入力側回転部材107a,108aと出力ギヤ107b,108bとを相対回転させるよう切り状態になる。
【0063】
これにより、奇数レンジ伝動クラッチ107は、入り状態に操作されることにより、奇数レンジ伝動軸95の駆動力を出力ギヤ107bに伝達して、奇数レンジ伝動軸95から出力軸30への伝動を入りにし、切り状態に操作されることにより、奇数レンジ伝動軸95から出力軸30への伝動を切りにする。
【0064】
偶数レンジ伝動クラッチ108は、入り状態に操作されることにより、偶数レンジ伝動軸96の駆動力を出力ギヤ108bに伝達して、偶数レンジ伝動軸96から出力軸30への伝動を入りにし、切り状態に操作されることにより、偶数レンジ伝動軸96から出力軸30への伝動を切りにする。
【0065】
図5は、速度レンジ設定部90の作用状態を示す説明図である。図5に示す「入り」は、第一、第二、第三、第四クラッチ101,102,103,104と奇数レンジ伝動クラッチ107と偶数レンジ伝動クラッチ108との入り状態を示す。図5に示す「―」は、第一、第二、第三、第四クラッチ101,102,103,104と奇数レンジ伝動クラッチ107と偶数レンジ伝動クラッチ108との切り状態を示す。
【0066】
この図に示すように、速度レンジ設定部90は、第一クラッチ101が入り状態に操作され、第二、第三、第四クラッチ102,103,104が切り状態に操作されることにより、変速伝動装置Aを一速レンジに設定する。すると、変速伝動装置Aは、遊星伝動部Pが第一出力ギヤ81によって出力する合成駆動力を第一出力ギヤ81と第一入力ギヤ91とによって変速して第一クラッチ101を介して奇数レンジ伝動軸95に伝達する。このとき、奇数レンジ伝動クラッチ107が入り状態に操作されることにより、変速伝動装置Aは、奇数レンジ伝動軸95の駆動力を奇数レンジ伝動クラッチ107と伝動ギヤ109とによって出力軸30に伝達する。
【0067】
速度レンジ設定部90は、第二クラッチ102が入り状態に操作され、第一、第三、第四クラッチ101,103,104が切り状態に操作されることにより、変速伝動装置Aを二速レンジに設定する。すると、変速伝動装置Aは、遊星伝動部Pが第二出力ギヤ82によって出力する合成駆動力を第二出力ギヤ82と第二入力ギヤ92とによって変速して第二クラッチ102を介して偶数レンジ伝動軸96に伝達する。このとき、偶数レンジ伝動クラッチ108が入り状態に操作されることにより、変速伝動装置Aは、偶数レンジ伝動軸96の駆動力を偶数レンジ伝動クラッチ108と伝動ギヤ109とによって出力軸30に伝達する。
【0068】
速度レンジ設定部90は、第三クラッチ103が入り状態に操作され、第一、第二、第四クラッチ101,102,104が切り状態に操作されることにより、変速伝動装置Aを三速レンジに設定する。すると、変速伝動装置Aは、遊星伝動部Pが第三出力ギヤ83によって出力する合成駆動力を第三出力ギヤ83と第三入力ギヤ93とによって変速して第三クラッチ103を介して奇数レンジ伝動軸95に伝達する。このとき、奇数レンジ伝動クラッチ107が入り状態に操作されることにより、変速伝動装置Aは、奇数レンジ伝動軸95の駆動力を奇数レンジ伝動クラッチ107と伝動ギヤ109とによって出力軸30に伝達する。
【0069】
速度レンジ設定部90は、第四クラッチ104が入り状態に操作され、第一、第二、第三クラッチ101,1012,103が切り状態に操作されることにより、変速伝動装置Aを四速レンジに設定する。すると、変速伝動装置Aは、遊星伝動部Pが第四出力ギヤ84によって出力する合成駆動力を第四出力ギヤ84と第四入力ギヤ94とによって変速して第四クラッチ104を介して偶数レンジ伝動軸96に伝達する。このとき、偶数レンジ伝動クラッチ108が入り状態に操作されることにより、変速伝動装置Aは、偶数レンジ伝動軸96の駆動力を偶数レンジ伝動クラッチ108と伝動ギヤ109とによって出力軸30に伝達する。
【0070】
図8は、トラクタに走行伝動装置を操作するよう装備された操作装置のブロック図である。この図に示すように、この操作装置は、変速レバー120と、変速操作検出手段121と、エンジン出力センサ122と、無段変速部出力センサ123と、車速センサ124と、前後進レバー125と、前後進検出手段126と、変速検出手段127と、前記各検出手段121,126,127と前記各センサ122,123,124とに連係された制御手段128とを備えている。
【0071】
制御手段128は、無段変速部20の油圧ポンプ24の斜板角を変更操作するアクチュエータ(図示せず)の操作部(図示せず)に連係されている。制御手段128は、第一クラッチ101と第二クラッチ102と第三クラッチ103と第四クラッチ104と奇数レンジ伝動クラッチ107と偶数レンジ伝動クラッチ108との前記油圧ピストン111,112,114,115を操作する操作弁(図示せず)に連係されている。制御手段128は、前記前進摩擦クラッチ14と前記後進摩擦クラッチ16を切換え操作するアクチュエータ(図示せず)に連係されている。
【0072】
図8に示すように、変速レバー120は、中立位置Nから最高速位置maxに至る操作域を揺動操作する。この操作域の中立位置Nから中間位置Mまでの部分は、低速域Lとなる。前記操作域の中間位置Mから最高速位置maxまでの部分は、高速域Hとなる。
【0073】
変速操作検出手段121は、変速レバー120に連動された回転ポテンショメータによって構成してある。この変速操作検出手段121は、変速レバー120の操作位置を検出し、この検出結果を制御手段128に出力する。
【0074】
エンジン出力センサ122と無段変速部出力センサ123と車速センサ124とは、回転センサによって構成してある。エンジン出力センサ122は、エンジン1の出力速度を検出し、この検出結果を制御手段128に出力する。無段変速部出力センサ123は、無段変速部20のモータ軸23による出力速度を検出し、この検出結果を制御手段128に出力する。車速センサ124は、前記出力軸30の回転速度を車速として検出し、この検出結果を制御手段128に出力する。変速検出手段127は、無段変速部20の変速状態を検出し、この検出結果を制御手段128にフィードバックする。
【0075】
前後進レバー125は、揺動操作によって中立位置Nと前進位置Fと後進位置Rとに切換える。前後進検出手段126は、前後進レバー125に連動させた回転ポテンショメータによって構成してある。前後進検出手段126は、前後進レバー125の操作位置を検出し、この検出結果を制御手段128に出力する。
【0076】
制御手段128は、マイクロコンピュータを利用して構成してある。この制御手段128は、変速伝動装置Aが変速レバー120の操作位置に対応した操作状態としての速度レンジになって出力軸30を変速レバー120の操作位置に対応した回転速度で駆動するよう、変速操作検出手段121と変速検出手段127とエンジン出力センサ122と無段変速部出力センサ123と車速センサ124とによる検出情報を基に第一、第二、第三、第四クラッチ101,102,103,104と奇数レンジ伝動クラッチ107と偶数レンジ伝動クラッチ108とを操作する。制御手段128は、前後進切換え装置10が前後進レバー125の操作位置に対応した操作状態になるよう、前後進検出手段126による検出情報を基に前進摩擦クラッチ14と後進摩擦クラッチ16とを操作する。
【0077】
これにより、トラクタは、変速レバー120と前後進レバー125とを操作すれば、前後進レバー125の操作位置に対応した前進あるいは後進方向に、変速レバー120の操作位置とエンジン1の出力速度とに対応した車速で走行する。
【0078】
つまり、図6は、無段変速部20の変速状態と、変速伝動装置Aの出力軸30による出力速度と、変速伝動装置Aの速度レンジ設定部90によって設定される速度レンジとの関係を示す説明図である。図6に示す縦軸は、出力軸30の回転数(以下、出力速度と称する。)を示す。図6に示す横軸は、無段変速部20の変速状態を示す。この横軸の「−MAX」は、無段変速部20の逆回転伝動状態での最高速度を示す。横軸の「0」は、無段変速部20の中立状態を示す。横軸の「+MAX」は、無段変速部20の正回転伝動状態での最高速度を示す。
【0079】
この図と図5と図8とに示すように、変速レバー120を低速域Lのうち、中立位置Nから低速域Lの中間位置Lm(以下、低速中間位置Lmと呼称する。)に至る部分に操作すると、制御手段128は、第一クラッチ101を入り状態に操作し、第二、第三、第四クラッチ102,103,104を切り状態に操作して、変速伝動装置Aは、一速レンジになる。このとき、制御手段128は、奇数レンジ伝動クラッチ107を入り状態に操作し、偶数レンジ伝動クラッチ108を切り状態に操作する。これにより、変速伝動装置Aは、遊星伝動部Pの第一出力ギヤ81の駆動力を第一入力ギヤ91と第一クラッチ101とによって奇数レンジ伝動軸95に伝達し、この奇数レンジ伝動軸95の駆動力を奇数レンジ伝動クラッチ107と伝動ギヤ109とによって出力軸30に伝達する。そして、変速レバー120を中立位置Nから低速中間位置Lmに向けて操作するに伴い、制御手段128は、無段変速部20を「−MAX」から「+MAX」に向けて変速操作し、出力速度が「0」から無段階に増速する。変速レバー120が低速中間位置Lmになると、制御手段128は、無段変速部20を「+MAX」に操作し、出力速度が「V1」になる。
【0080】
変速レバー120を低速域Lのうち、低速中間位置Lmから中間位置Mに至る部分に操作すると、制御手段128は、第二クラッチ102を入り状態に操作し、第一、第三、第四クラッチ101,103,104を切り状態に操作して、変速伝動装置Aは、二速レンジになる。このとき、制御手段128は、偶数レンジ伝動クラッチ108を入り状態に操作し、奇数レンジ伝動クラッチ107を切り状態に操作する。これにより、変速伝動装置Aは、遊星伝動部Pの第二出力ギヤ82の駆動力を第二入力ギヤ92と第二クラッチ102とによって偶数レンジ伝動軸96に伝達し、この偶数レンジ伝動軸96の駆動力を偶数レンジ伝動クラッチ108と伝動ギヤ109とによって出力軸30に伝達する。そして、変速レバー120を低速中間位置Lmから中間位置Mに向けて操作するに伴い、制御手段128は、無段変速部20を「+MAX」から「−MAX」に向けて変速操作し、出力速度が「V1」から無段階に増速する。変速レバー120が中間位置Mになると、制御手段128は、無段変速部20を「−MAX」に操作し、出力速度が「V2」になる。
【0081】
変速レバー120を高速域Hのうち、中立位置Nから高速域Hの中間位置Hm(以下、高速中間位置Hmと呼称する。)に至る部分に操作すると、制御手段128は、第三クラッチ103を入り状態に操作し、第一、第二、第四クラッチ101,102,104を切り状態に操作して、変速伝動装置Aは、三速レンジになる。このとき、制御手段128は、奇数レンジ伝動クラッチ107を入り状態に操作し、偶数レンジ伝動クラッチ108を切り状態に操作する。これにより、変速伝動装置Aは、遊星伝動部Pの第三出力ギヤ83の駆動力を第三入力ギヤ93と第三クラッチ103とを介して奇数レンジ伝動軸95に伝達し、奇数レンジ伝動軸95の駆動力を奇数レンジ伝動クラッチ107と伝動ギヤ109とによって出力軸30に伝達する。そして、変速レバー120を中間位置Mから高速中間位置Hmに向けて操作するに伴い、制御手段128は、無段変速部20を「−MAX」から「+MAX」に向けて変速操作し、出力速度が「V2」から無段階に増速する。変速レバー120が高速中間位置Mmになると、制御手段128は、無段変速部20を「+MAX」に操作し、出力速度が「V3」になる。
【0082】
変速レバー120を高速域Hのうち、高速中間位置Hmから最高速位置maxに至る部分に操作すると、制御手段128は、第四クラッチ104を入り状態に操作し、第一、第二、第三クラッチ101,102,103を切り状態に操作して、変速伝動装置Aは、四速レンジになる。このとき、制御手段128は、偶数レンジ伝動クラッチ108を入り状態に操作し、奇数レンジ伝動クラッチ107を切り状態に操作する。これにより、変速伝動装置Aは、遊星伝動部Pの第四出力ギヤ84の駆動力を第四入力ギヤ94と第四クラッチ104とによって偶数レンジ伝動軸96に伝達し、偶数レンジ伝動軸96の駆動力を偶数レンジ伝動クラッチ108と伝動ギヤ109とによって出力軸30に伝達する。そして、変速レバー120を高速中間位置Hmから最高速位置maxに向けて操作するに伴い、制御手段128は、無段変速部20を「+MAX」から「−MAX」に向けて変速操作し、出力速度が「V3」から無段階に増速する。変速レバー120が最高速位置maxになると、制御手段128は、無段変速部20を「−MAX」に操作し、出力速度が「V4」になる。
【0083】
前後進レバー125を前進位置Fに操作すると、制御手段128は、前進摩擦クラッチ14を入り状態に操作し、後進摩擦クラッチ16を切り状態に操作し、前後進切換え装置10が前進伝動状態になる。すると、前後進切換え装置10は、エンジン1から入力した駆動力を前進駆動力にして出力ギヤ12から無段変速部20と遊星伝動部Pとに伝達し、変速伝動装置Aが前進駆動力を前輪用差動機構35と後輪用差動機構32とに伝達してトラクタが前進走行する。
【0084】
前後進レバー125を後進位置Rに操作すると、制御手段128は、前進摩擦クラッチ14を切り状態に操作し、後進摩擦クラッチ16を入り状態に操作し、前後進切換え装置10が後進伝動状態になる。すると、前後進切換え装置10がエンジン1から入力した駆動力を後進駆動力にして出力ギヤ12から無段変速部20と遊星伝動部Pとに伝達し、変速伝動装置Aが後進駆動力を前輪用差動機構35と後輪用差動機構32とに伝達してトラクタが後進走行する。
【0085】
前後進レバー125を中立位置Nに操作すると、制御手段128は、前進摩擦クラッチ14と後進摩擦クラッチ16とを切り状態に操作し、前後進切換え装置10が中立状態になる。すると、前後進切換え装置10が無段変速部20と遊星伝動部Pとに動力伝達せず、変速伝動装置Aが前輪用作動機構35と後輪用差動機構32とに対する伝動を遮断してトラクタが停止する。
【0086】
図7は、変速伝動装置Aの速度レンジが切り換わる際の制御手段128による第一、第二、第三、第四クラッチ101,102,103,104の操作状態を示す説明図である。図7に示す「増」は、速度レンジの切り換えのために出力軸30による出力速度が増速変化することを示している。図7に示す「減」は、速度レンジの切り換えのために出力軸30による出力速度が減速変化することを示している。
【0087】
この図に示すように、制御手段128は、変速伝動装置Aの速度レンジの切り換えを行う際、奇数レンジ伝動軸95と偶数レンジ伝動軸96とが共に一時的に駆動状態になり、遊星伝動部Pから奇数レンジ伝動軸95を有した奇数伝動系と、偶数レンジ伝動軸96を有した偶数伝動系とを介して出力軸30に動力伝達する二重伝動状態が発生するように各クラッチ101,102,103,104,107,108を操作する。
【0088】
すなわち、制御手段128は、変速伝動装置Aを一速レンジから二速レンジに切り換える際、第一クラッチ101を切り状態に切り換え操作する前に第二クラッチ102を入り状態に切り換え操作し、第二クラッチ102が入り状態に切り換わった後に第一クラッチ101を切り状態に切り換え操作する。このとき、制御手段128は、奇数レンジ伝動クラッチ107を切り状態に切り換え操作する前に偶数レンジ伝動クラッチ108を入り状態に切り換え操作し、偶数レンジ伝動クラッチ108が入り状態に切り換わった後に奇数レンジ伝動クラッチ107を切り状態に切り換え操作する。
【0089】
制御手段128は、変速伝動装置Aを二速レンジから三速レンジに切り換える際、第二クラッチ102を切り状態に切り換え操作する前に第三クラッチ103を入り状態に切り換え操作し、第三クラッチ103が入り状態に切り換わった後に第二クラッチ102を切り状態に切り換え操作する。このとき、制御手段128は、偶数レンジ伝動クラッチ108を切り状態に切り換え操作する前に奇数レンジ伝動クラッチ107を入り状態に切り換え操作し、奇数レンジ伝動クラッチ107が入り状態に切り換わった後に偶数レンジ伝動クラッチ108を切り状態に切り換え操作する。
【0090】
制御手段128は、変速伝動装置Aを三速レンジから四速レンジに切り換える際、第三クラッチ103を切り状態に切り換え操作する前に第四クラッチ104を入り状態に切り換え操作し、第四クラッチ104が入り状態に切り換わった後に第三クラッチ103を切り状態に切り換え操作する。このとき、制御手段128は、奇数レンジ伝動クラッチ107を切り状態に切り換え操作する前に偶数レンジ伝動クラッチ108を入り状態に切り換え操作し、偶数レンジ伝動クラッチ108が入り状態に切り換わった後に奇数レンジ伝動クラッチ107を切り状態に切り換え操作する。
【0091】
制御手段128は、変速伝動装置Aを四速レンジから三速レンジに切り換える際、第四クラッチ104を切り状態に切り換え操作する前に第三クラッチ103を入り状態に切り換え操作し、第三クラッチ103が入り状態に切り換わった後に第四クラッチ104を切り状態に切り換え操作する。このとき、制御手段128は、偶数レンジ伝動クラッチ108を切り状態に切り換え操作する前に奇数レンジ伝動クラッチ107を入り状態に切り換え操作し、奇数レンジ伝動クラッチ107が入り状態に切り換わった後に偶数レンジ伝動クラッチ108を切り状態に切り換え操作する。
【0092】
制御手段128は、変速伝動装置Aを三速レンジから二速レンジに切り換える際、第三クラッチ103を切り状態に切り換え操作する前に第二クラッチ102を入り状態に切り換え操作し、第二クラッチ102が入り状態に切り換わった後に第三クラッチ103を切り状態に切り換え操作する。このとき、制御手段128は、奇数レンジ伝動クラッチ107を切り状態に切り換え操作する前に偶数レンジ伝動クラッチ108を入り状態に切り換え操作し、偶数レンジ伝動クラッチ108が入り状態に切り換わった後に奇数レンジ伝動クラッチ107を切り状態に切り換え操作する。
【0093】
制御手段128は、変速伝動装置Aを二速レンジから一速レンジに切り換える際、第二クラッチ102を切り状態に切り換え操作する前に第一クラッチ101を入り状態に切り換え操作し、第一クラッチ101が入り状態に切り換わった後に第二クラッチ102を切り状態に切り換え操作する。このとき、制御手段128は、偶数レンジ伝動クラッチ108を切り状態に切り換え操作する前に奇数レンジ伝動クラッチ107を入り状態に切り換え操作し、奇数レンジ伝動クラッチ107が入り状態に切り換わった後に偶数レンジ伝動クラッチ108を切り状態に切り換え操作する。
【0094】
制御手段128は、奇数レンジ伝動軸95と偶数レンジ伝動軸96とが共に駆動状態になった二重伝動状態を発生させたとき、奇数レンジ伝動クラッチ107と偶数レンジ伝動クラッチ108とを半伝動状態に操作する。つまり、二重伝動状態におけるトルクの変動が発生しても、無段変速部20は、これの作動油による滑りによってトルクの変動を吸収する。これの他に、制御手段128は、奇数レンジ伝動クラッチ107と偶数レンジ伝動クラッチ108とにトルクの変動を吸収する滑りを発生させる。
【0095】
図1に示すように、前記前輪変速装置40は、前記入力軸41と前記出力軸42とを備える他、標準伝動クラッチ44を有した標準ギヤ伝動機構45と、増速伝動クラッチ46を有した増速ギヤ伝動機構47とを入力軸41と出力軸42とにわたって設けて構成してある。
【0096】
前輪変速装置40は、標準伝動クラッチ44が入り状態に操作され、増速伝動クラッチ46が切り状態に操作されると、入力軸41の駆動力を標準ギヤ伝動機構45によって出力軸42に伝達するよう標準伝動状態になる。すると、前輪変速装置40は、左右前輪の平均周速度と左右後輪の平均周速度とが同一になるようにして左右前輪を駆動する。
【0097】
前輪変速装置40は、標準伝動クラッチ44が切り状態に操作され、増速伝動クラッチ46が入り状態に操作されると、入力軸41の駆動力を増速ギヤ伝動機構47によって出力軸47に伝達するよう増速伝動状態になる。すると、前輪変速装置40は、左右前輪の平均周速度が左右後輪の平均周速度の約2倍の速度になるようにして左右前輪を駆動する。
【0098】
図9は、本発明の第二実施例に係る変速伝動装置Aが装備されたトラクタの走行伝動装置の線図である。
【0099】
本発明の第二実施例に係る変速伝動装置Aを装備したトラクタの走行用伝動装置では、変速伝動装置Aの出力回転体としての出力軸30からの出力を前後進切換え装置10を介して後輪用差動機構32と前輪変速装置40とに伝達する。
【0100】
図9、図10、図11に示すように、前後進切換え装置10は、前記出力軸30に一体回転自在に設けた入力側回転体13と、この入力側回転体13の前後側に位置する出力ギヤ19a,19bと、前記入力側回転体13の一端側と前記前出力ギヤ19aとにわたって設けた前進摩擦クラッチ14と、前記入力側回転体13の他端側と前記後出力ギヤ19bとにわたって設けた後進摩擦クラッチ16と、前記後出力ギヤ19bに噛合った逆転ギヤ17とを備えている。
【0101】
前記前出力ギヤ19aは、伝動ギヤ130と伝動軸131とを介して後輪用差動機構32の入力ギヤ31と、前輪変速装置40の入力軸41とに連動している。前記逆転ギヤ17は、伝動ギヤ132と前記伝動軸131とを介して後輪用差動機構32の入力ギヤ31と、前輪変速装置40の入力軸41とに連動している。
【0102】
本第二実施例に係る変速伝動装置Aと本第一実施例に係る変速伝動装置Aとを比較すると、エンジン駆動力が入力される無段変速部20の出力と、無段変速部20による変速作用を受けないエンジン駆動力とを遊星伝動部Pによって合成し、遊星伝動部Pからの合成駆動力を第一、第二、第三、第四クラッチ101,102,103,104の切り換えによって四段階の速度レンジの駆動力に変換して奇数レンジ伝動軸95と偶数レンジ伝動軸96との二本の伝動軸によって出力回転体としての出力軸30に伝達する点において同一の構成を備えており、遊星伝動部Pの点において異なった構成を備えている。この相違点について説明する。
【0103】
図9、図10に示すように、本第二実施例に係る変速伝動装置Aにおける遊星伝動部Pは、第一遊星伝動機構140と第二遊星伝動機構150と第三遊星伝動機構160とを備えて構成してある。
【0104】
図10に示すように、第一遊星伝動機構140と第二遊星伝動機構150と第三遊星伝動機構160とは、一つのサンギヤ141,151,161と、複数の遊星ギヤ142,152,162と、リングギヤ143,153,163と、キャリヤ144,154,164とを備えている。
【0105】
第一遊星伝動機構140のサンギヤ141は、サンギヤ軸145とギヤ170とギヤ171とを介して無段変速部20のモータ軸23に連動している。第一遊星伝動機構140のキャリヤ144と第二遊星伝動機構150のリングギヤ153と第三遊星伝動機構160のキャリヤ164とは、一体回転自在に連動している。第一遊星伝動機構140のリングギヤ143と第二遊星伝動機構150のキャリヤ154とは、一体回転自在に連動し、かつ連動軸172を介して無段変速部20のポンプ軸22に一体回転自在に連動している。第二遊星伝動機構150のサンギヤ151と第三遊星伝動機構160のサンギヤ161とは、一体回転自在に連動している。
【0106】
遊星伝動部Pは、第一遊星伝動機構140のキャリヤ144に一体回転自在に連動した第一出力ギヤ81を備え、第二及び第三遊星伝動機構150,160のサンギヤ151,161に一体回転自在に連動した第二出力ギヤ82と第四出力ギヤ84とを備え、第三遊星伝動機構160のリングギヤ163に一体回転自在に連動した第三出力ギヤ83を備えている。
【0107】
遊星伝動部Pは、無段変速部20のモータ軸23からの出力を第一遊星伝動機構140のサンギヤ141に入力し、無段変速部20による変速作用を受けないエンジン駆動力としての無段変速部20のポンプ軸22の駆動力を第一遊星伝動機構140のリングギヤ143と第二遊星伝動機構150のキャリヤ154とに入力し、入力した無段変速部20の駆動力とエンジン1の駆動力とを第一遊星ギヤ機構140と第二遊星伝動機構150と第三遊星伝動機構160とによって合成する。合成駆動力を第一出力ギヤ81から奇数レンジ伝動軸95の第一入力ギヤ91に伝達し、第二出力ギヤ82から偶数レンジ伝動軸96の第二入力ギヤ92に伝達し、第三出力ギヤ83から奇数レンジ伝動軸95の第三入力ギヤ93に伝達し、第四出力ギヤ84から偶数レンジ伝動軸96の第四入力ギヤ94に伝達する。
【0108】
第一出力ギヤ81と第一入力ギヤ91とは、第一入力ギヤ91の回転数が第一出力ギヤ81の回転数の2倍になる伝動比で連動している。第二出力ギヤ82と第二入力ギヤ92とは、第二入力ギヤ92の回転数が第二出力ギヤ82の回転数の2倍になる伝動比で連動している。第三出力ギヤ83と第三入力ギヤ93とは、第三入力ギヤ93の回転数が第三出力ギヤ83の回転数の1/2になる伝動比で連動している。第四出力ギヤ84と第四入力ギヤ94とは、第四入力ギヤ94の回転数が第四出力ギヤ84の回転数の1/2になる伝動比で連動している。奇数レンジ伝動クラッチ107の出力ギヤ107bと、出力軸30の受動ギヤ173とは、出力軸30の回転数が出力ギヤ107bの回転数の1/2になる伝動比で連動している。偶数レンジ伝動クラッチ108の出力ギヤ108bと出力軸30の受動ギヤ174とは、出力軸30の回転数が出力ギヤ108bの回転数の1/2になる伝動比で連動している。
【0109】
これにより、第三出力ギヤ83の駆動力を出力軸30に1/4の回転数に減速して伝達
するのに、第三出力ギヤ83と奇数レンジ伝動軸95との間と、出力ギヤ107bと出力軸30との間との二箇所に分けて減速することになる。第四出力ギヤ84の駆動力を出力軸30に1/4の回転数に減速して伝達するのに、第四出力ギヤ84と偶数レンジ伝動軸96との間と、出力ギヤ108bと出力軸30との間との二箇所に分けて減速することになる。すると、速度レンジ設定部90の大きさを小に済ませながら1/4減速を行うことができる。
【0110】
図12は、本発明の第三実施例に係る変速伝動装置Aが装備されたトラクタの走行伝動装置の線図である。
【0111】
本発明の第三実施例に係る変速伝動装置Aを装備したトラクタの走行用伝動装置では、変速伝動装置Aの出力回転体としての出力軸30からの出力を前後進切換え装置10を介して後輪用差動機構32と前輪変速装置40とに伝達する。
【0112】
図12、図13、図14に示すように、本第三実施例に係る変速伝動装置Aを装備した走行用伝動装置における前後進切換え装置10は、本第二実施例に係る変速伝動装置Aが装備された走行用伝動装置における前後進切換え装置10と同じ構成を備えている。
【0113】
本第三実施例に係る変速伝動装置Aと本第一実施例に係る変速伝動装置Aとを比較すると、エンジン駆動力が入力される無段変速部20の出力と、無段変速部20による変速作用を受けないエンジン駆動力とを遊星伝動部Pによって合成し、遊星伝動部Pからの合成駆動力を第一、第二、第三、第四クラッチ101,102,103,104の切り換えによって四段階の速度レンジの駆動力に変換して奇数レンジ伝動軸95と偶数レンジ伝動軸96との二本の伝動軸によって出力回転体としての出力軸30に伝達する点において同一の構成を備えており、遊星伝動部Pと速度レンジ設定部90の点において異なった構成を備えている。
【0114】
図12、図13に示すように、本第三実施例に係る変速伝動装置Aにおける遊星伝動部Pは、本第二実施例に係る変速伝動装置Aにおける遊星伝動部Pと同じ構成を備えている。
【0115】
図12、図13に示すように、本第三実施例に係る変速伝動装置Aにおける速度レンジ設定部90と、本第一実施例に係る変速伝動装置Aにおける速度レンジ設定部90とは、奇数レンジ伝動軸95と、偶数レンジ伝動軸96とを並列的に平行に配置して備えている点では、同一である。
【0116】
本第三実施例に係る変速伝動装置Aにおける速度レンジ設定部90と、本第一実施例に係る変速伝動装置Aにおける速度レンジ設定部90とは、奇数レンジ伝動軸95が、遊星伝動部Pの第一出力ギヤ81に噛合った第一入力ギヤ91と、遊星伝動部Pの第三出力ギヤ83に噛合った第三入力ギヤ93とを遊転自在に備え、偶数レンジ伝動軸96が、遊星伝動部Pの第二出力ギヤ83に噛合った第三入力ギヤ93と、遊星伝動部Pの第四出力ギヤ84に噛合った第四入力ギヤ94とを遊転自在に備え、第一入力ギヤ91の駆動力を第一クラッチ101によって奇数レンジ伝動軸95に伝達し、第二入力ギヤ92の駆動力を第二クラッチ102によって偶数レンジ伝動軸96に伝達し、第三入力ギヤ93の駆動力を第三クラッチ103によって奇数レンジ伝動軸95に伝達し、第四入力ギヤ94の駆動力を第四クラッチ104によって偶数レンジ伝動軸96に伝達する点において、同一の構成を備えている。
【0117】
本第三実施例に係る変速伝動装置Aにおける速度レンジ設定部90では、奇数レンジ伝動軸95の駆動力を、奇数レンジ伝動軸95の後端部に一体回転自在に設けた出力ギヤ95aと、この出力ギヤ95aに噛合う状態で出力軸30の前端部に一体回転自在に設けた入力ギヤ30aとを介して出力軸30に伝達する。偶数レンジ伝動軸96の駆動力を、偶数レンジ伝動軸96の後端部に一体回転自在に設けた出力ギヤ96aと、この出力ギヤ96aに噛合った前記入力ギヤ30aとを介して出力軸30に伝達する。
奇数レンジ伝動軸95の出力ギヤ95aと、偶数レンジ伝動軸96の出力ギヤ96aとが出力軸30に伝動するにあたって同一の入力ギヤ30aに噛合っており、この伝動構造は、速度レンジ設定部90の前後方向での大きさを小に済ませる。
【0118】
本第三実施例に係る変速伝動装置Aにおける速度レンジ設定部90では、第一クラッチ101と第二クラッチ102と第三クラッチ103と第四クラッチ104とを、入力ギヤ91,92,93,94に一体回転自在に設けたクラッチディスクと、奇数レンジ伝動軸95あるいは偶数レンジ伝動軸96に一体回転及び摺動自在に設けたクラッチディスクと、油圧ピストン101b、102b、103b、104bとを備えた噛合いクラッチになっている。
すなわち、油圧ピストン101b、102b、103b、104bが両クラッチディスクを圧接操作することにより、両クラッチディスクが互いに対向し合う側面に備えているクラッチ突起の係合によって連動する。
【0119】
本第三実施例の速度レンジ設定部90は、奇数レンジ伝動軸95のクラッチ(第一クラッチ101、第三クラッチ103)と、偶数レンジ伝動軸96のクラッチ(第二クラッチ102、第四クラッチ104)とが共に入り状態に操作されて二重伝動状態が現出された際、第一クラッチ101、第三クラッチ103、第二クラッチ102、第四クラッチ104における油圧ピストン101b、102b、103b、104bに作用する圧油のために両クラッチディクの間に滑りを発生させ、二重伝動状態におけるトルクの変動を吸収する。これにより、本第三実施例の速度レンジ設定部90は、本第一実施例と本第二実施例の速度レンジ設定部90において採用している奇数レンジ伝動クラッチ107と偶数レンジ伝動クラッチ108とを省略し、伝動効率のアップと速度レンジ設定部90のコンパクト化を達成する。
【0120】
図15は、本発明の第四実施例に係る変速伝動装置Aが装備されたトラクタの走行伝動装置の線図である。本第四実施例に係る変速伝動装置Aと本第一実施例に係る変速伝動装置Aとを比較すると、遊星伝動部Pと速度レンジ設定部90との点において同一の構成を備え、無段変速自在な駆動力を入力する構成において本第四実施例に係る変速伝動装置Aと本第一実施例に係る変速伝動装置Aとが相違している。この相違点について次に説明する。
【0121】
本第四実施例に係る変速伝動装置Aは、電動モータ180を備えている。遊星伝動部Pは、前記電動モータ180の出力軸180aからの出力を伝動ギヤ181と伝動ギヤ182とサンギヤ軸61とを介して上手遊星機構60のサンギヤ62に入力する。遊星伝動部Pは、エンジン1の出力軸1aからの出力を主クラッチ2と前後進切換え装置10とギヤ67とを介して上手遊星機構60のリングギヤ65に入力する。遊星伝動部Pは、エンジン1の駆動力と電動モータ180の駆動力とを入力して合成し、この合成駆動力を第一出力ギヤ81と第三出力ギヤ83とから速度レンジ設定部90の奇数レンジ伝動軸95に伝達し、第二出力ギヤ82と第四出力ギヤ84とから速度レンジ設定部90の偶数レンジ伝動軸96に伝達する。
【0122】
電動モータ180は、ドライバ183による変速操作によって無段階に駆動回転数を変更する。この電動モータ180の変速操作を行い、この変速操作に合わせて第一、第二、第三、第四クラッチ101,102,103,104と奇数レンジ伝動クラッチ107と偶数レンジ伝動クラッチ108とを切り換え操作することにより、本第一実施例に係る変速伝動装置Aと同様に、出力軸30が一速レンジから四速レンジの4段階の速度レンジに段階分けして、かつ各速度レンジで無段階に変速して駆動される。
【0123】
〔別実施例〕
上記した各実施例に替え、奇数レンジ伝動軸95を、第一クラッチ101を備えるとともに出力軸30に連動した伝動軸と、第三クラッチ103を備えるとともに出力軸30に連動した伝動軸とに分割して備え、偶数レンジ伝動軸96を、第二クラッチ102を備えるとともに出力軸30に連動した伝動軸と、第四クラッチ104を備えるとともに出力軸30に連動した伝動軸とに分割して備え、かつ各伝動軸を並列的に平行に配置した構成を備えて実施してもよい。また、第一クラッチ101と第二クラッチ102とを有した一本の伝動軸と、第三クラッチ103と第四クラッチ104とを有した一本の伝動軸とを備え、かつ両伝動軸を並列的に平行に配置した構成を採用して実施してもよい。いずれの場合も、本発明の目的を達成することができる。
【符号の説明】
【0124】
20 無段変速部
30 出力回転体
60,70,140,150,160 遊星伝動機構
62,72 サンギヤ
95,96 伝動軸
101,102,103,104 速度設定クラッチ
180 電動モータ
P 遊星伝動部
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン駆動力が入力される無段変速部又は電動モータを備え、前記無段変速部の出力と前記無段変速部による変速作用を受けないエンジン駆動力とを、又は前記電動モータの出力とエンジン駆動力とを複数の遊星伝動機構によって合成する遊星伝動部を備え、前記遊星伝動部からの合成駆動力を複数段階の速度レンジに段階分けして、かつ各段階の速度レンジで無段階に変速して出力回転体から出力するよう構成した変速伝動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記した変速伝動装置は、無段変速部又は電動モータの変速操作を行うことにより、エンジンの出力と無段変速部の出力との合成駆動力、又はエンジンの出力と電動モータの出力との合成駆動力が複数段階の速度レンジに段階分けするとともに各速度レンジにおいて無段階に変速した駆動力が出力され、走行装置の駆動に使用すれば走行変速をスムーズかつ変速操作簡単に行えるなど有利に変速伝動できるものである。
この種の変速伝動装置として、特許文献1に記載されたものを先に開発した。
特許文献1には、三種の変速伝動装置が記載されている。三種の変速伝動装置のうちの一つ(特許文献1の図2に記載されたもの)では、無段変速装置(無段変速部に相当)と遊星伝動部とクラッチ部と第3遊星伝動機構と、第3遊星伝動機構に作用するブレーキとを備えている。
【0003】
無段変速装置は、エンジンの出力軸に主クラッチを介してポンプ軸が連動している可変容量形の油圧ポンプと、この油圧ポンプからの圧油によって駆動される油圧モータとを備えている。
【0004】
遊星伝動部は、第1遊星伝動機構と第2遊星伝動機構とを備えている。第1遊星伝動機構の遊星ギヤと、第2遊星伝動機構の遊星ギヤとは、各遊星ギヤに設けた連動ギヤ部どうしの噛み合によって連動している。第1遊星伝動機構の遊星ギヤと、第2遊星伝動機構の遊星ギヤとは、第1遊星伝動機構と第2遊星伝動機構とに共用のキャリヤによって支持されている。
【0005】
クラッチ部は、第1クラッチと第2クラッチと第3クラッチと第4クラッチとを備えている。第1クラッチの入力側回転部材が連動機構を介して第2遊星伝動機構のリングギヤに連動されている。第2クラッチの入力側回転部材が回転軸を介して第2遊星伝動機構のサンギヤに連動されている。第3クラッチの入力側回転部材が連動機構を介して遊星伝動部のキャリヤに連動されている。
【0006】
第1クラッチの入力側回転部材と、第2遊星伝動機構のリングギヤとを連動させている連動機構は、第1クラッチの入力側回転部材に噛み合ったクラッチ側伝動ギヤと、第2遊星伝動機構のリングギヤに噛み合った遊星側伝動ギヤと、前記クラッチ側伝動ギヤと前記遊星側伝動ギヤとに連結された回転軸とを備えている。第3クラッチの入力側回転部材と、遊星伝動部のキャリヤとを連動させている連動機構は、第3クラッチの入力側回転部材に噛み合ったクラッチ側伝動ギヤと、前記キャリヤに噛み合った遊星側伝動ギヤと、前記クラッチ側伝動ギヤと前記遊星側伝動ギヤとに連結された回転軸とを備えている。
【0007】
第3遊星伝動機構のサンギヤは、前記第1クラッチと第2クラッチとの出力側回転部材と、前記第3クラッチの入力側回転部材とに連動されている。第3遊星伝動機構のキャリヤは、前記第3クラッチと前記第4クラッチとの出力側回転部材に連動されている。
【0008】
ブレーキは、第3遊星伝動機構のリングギヤに制動作用した入り状態と、前記リングギヤに対する制動作用を解除した切り状態とに切り換え自在である。
【0009】
引用文献1の図2に記載された変速伝動装置では、無段変速装置の出力と、無段変速装置のポンプ軸の駆動力(無段変速装置による変速作用を受けないエンジン駆動力)とが遊星伝動部によって合成される。無段変速装置が変速操作され、この変速操作に併せて第1〜第4クラッチとブレーキとが適切に入り状態と切り状態とに切り換え操作されることにより、遊星伝動部から出力される合成駆動力が一速レンジから四速レンジに段階分けして、かつ各速レンジにおいて無段変速して第3遊星伝動機構のキャリヤ軸から出力される。
【0010】
特許文献1に記載された三種の変速伝動装置のうちの他の一つ(特許文献1の図12に記載されたもの)と、さらに他の一つ(特許文献1の図16に記載されたもの)とでは、無段変速装置(無段変速部に相当)と遊星伝動部とクラッチ部と副変速装置とを備えている。
【0011】
無段変速装置と遊星伝動部とは、特許文献1の図2に記載された変速伝動装置の無段変速装置と遊星伝動部と同一の構成を備えている。
【0012】
クラッチ部は、第1クラッチと第2クラッチとを備えている。第1クラッチの入力側回転部材は、連動機構を介して遊星伝動部の第2遊星伝動機構のリングギヤに連動されている。連動機構は、第2遊星伝動機構のリングギヤに噛合った遊星側伝動ギヤと、第1クラッチの入力側回転部材のギヤ部に噛合ったクラッチ側伝動ギヤと、遊星側伝動ギヤとクラッチ側伝動ギヤとに連結された回転連動軸とを備えている。
【0013】
副変速装置は、高速クラッチと低速クラッチとを備えている。特許文献1の図16に記載された副変速装置では、高速クラッチと低速クラッチとが噛合いクラッチになっている。
【0014】
引用文献1の図12と図16とに記載された変速伝動装置では、無段変速装置の出力と、無段変速装置のポンプ軸の駆動力(無段変速装置による変速作用を受けないエンジン駆動力)とが遊星伝動部によって合成される。無段変速装置が変速操作され、この変速操作に併せて第1クラッチと第2クラッチと高速クラッチと低速クラッチとが適切に入り状態と切り状態とに切り換え操作されることにより、遊星伝動部から出力される合成駆動力が一速レンジから四速レンジに段階分けして、かつ各速レンジにおいて無段変速して副変速装置の出力軸から出力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2007−92949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記した従来の技術を採用した変速伝動装置の場合、遊星伝動部からの合成駆動力を複数段階の速度レンジに段階分けして出力回転体に伝達するよう備える第1〜第4クラッチ、あるいは第1、第2クラッチ、高速、低速クラッチがミッションケースの前後方向に並び、変速伝動装置のミッションケース前後方向での大きさが大になりがちであった。
【0017】
本発明の目的は、簡単な変速操作を行うだけで広い変速範囲にわたって無段階に速度変化した出力を得ることができながら、コンパクトに得ることができる変速伝動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本第1発明は、エンジン駆動力が入力される無段変速部又は電動モータを備え、
前記無段変速部の出力と前記無段変速部による変速作用を受けないエンジン駆動力とを、又は前記電動モータの出力とエンジン駆動力とを複数の遊星伝動機構によって合成する遊星伝動部を備え、
前記遊星伝動部からの合成駆動力を複数段階の速度レンジに段階分けして、かつ各段階の速度レンジで無段階に変速して出力回転体から出力するよう構成した変速伝動装置において、
前記遊星伝動部からの合成駆動力を複数の速度レンジ設定クラッチの切り換えによって前記複数段階の速度レンジの駆動力に変換して前記出力回転体に伝達する複数本の伝動軸を備え、
前記複数本の伝動軸を並列的にかつ平行に配置してある。
【0019】
本第1発明の構成によると、無段変速部又は電動モータの変速操作に併せて複数の速度レンジ設定クラッチを適切に切り換え操作させると、遊星伝動部からの合成駆動力が複数段階の速度レンジに段階分けして、かつ各段階の速度レンジで無段階に変速して出力回転体に伝達される。
【0020】
本第1発明の構成によると、遊星伝動部から出力回転体への伝動をこの伝動の速度レンジに対応した伝動軸によって行わせるように複数本の伝動軸を備え、複数本の伝動軸を並列的にかつ平行に配置したものだから、この伝動部のミッションケース前後方向での大きさを従来の変速伝動装置での大きさよりも小に済ませることができる。
【0021】
従って、無段変速部又は電動モータを変速操作するだけの操作簡単な変速操作を行えば、広い変速範囲にわたって無段階に速度変化する出力を得ることができるものでありながら、ミッションケース前後方向での大きさが小さいコンパクトな状態となり、小型車両にも搭載しやすいなど使用しやすい変速伝動装置を得ることができる。
【0022】
本第2発明では、前記伝動軸の2本を備え、前記複数の速度レンジ設定クラッチを前記2本の伝動軸に振り分けて設けてある。
【0023】
本第2発明の構成によると、伝動軸を2本に済ませるとともに伝動軸と速度レンジ設定クラッチとを纏めて配置し、遊星伝動部から出力回転体に動力伝達する伝動部をよりコンパクトに得ることができる。
【0024】
従って、遊星伝動部から出力回転体への伝動部の大きさの面からよりコンパクトで、搭載設計がより行いやすいなど使用しやすい変速伝動装置を得ることができる。
【0025】
本第3発明では、前記遊星伝動部は、遊星ギヤどうしが噛合った一対の遊星伝動機構を備えて構成してあり、前記複数本の伝動軸が全長にわたって並列している。
【0026】
本第3発明の構成によると、複数本の伝動軸が全長にわたって並列するから、複数本の伝動軸がミッションケース前後方向に位置ずれした状態で平行に配置するに比べ、遊星伝動部から出力回転体への伝動部のミッションケース前後方向での長さを小にすることができる。
【0027】
従って、遊星伝動部から出力回転体への伝動部のミッションケース前後方向での大きさの面からよりコンパクトで搭載設計がより行いやすいなど使用しやすい変速伝動装置を得ることができる。
【0028】
本第4発明では、前記複数の速度レンジ設定クラッチが噛合いクラッチである。
【0029】
本第4発明の構成によると、速度レンジ設定クラッチが噛合いクラッチであるから、速度レンジ設定クラッチとして摩擦クラッチを採用するに比べ、速度レンジ設定クラッチを軽量かつコンパクトに得ることができる。
【0030】
従って、速度レンジ設定クラッチの重量と大きさとの面から軽量かつ安価なものとなり、重量面からも費用面からも使用しやすい変速伝動装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】第一実施例の変速伝動装置が装備されたトラクタの走行伝動装置の線図
【図2】遊星伝動部と速度レンジ設定部と奇数レンジ伝動クラッチと偶数レンジ伝動クラッチとの断面図
【図3】遊星ギヤの配置図
【図4】変速伝動装置の軸の配置図
【図5】速度レンジ設定部の作用状態の説明図
【図6】無段変速部の変速状態と、変速伝動装置の出力速度と、速度レンジとの関係を示す説明図
【図7】速度レンジ切り換え時における制御手段によるクラッチ操作状態の説明図
【図8】操作装置のブロック図
【図9】第二実施例の変速伝動装置が装備されたトラクタの走行伝動装置の線図
【図10】第二実施例の変速伝動装置の遊星伝動部と速度レンジ設定部の断面図
【図11】第二実施例の変速伝動装置が装備された走行伝動装置の前後進切換え装置の断面図
【図12】第三実施例の変速伝動装置が装備されたトラクタの走行伝動装置の線図
【図13】第三実施例の変速伝動装置の遊星伝動部と速度レンジ設定部の断面図
【図14】第三実施例の変速伝動装置が装備された走行伝動装置の前後進切換え装置の断面図
【図15】第四実施例の変速伝動装置が装備された走行伝動装置の線図
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の第一実施例に係る変速伝動装置Aが装備されたトラクタの走行伝動装置の線図である。この図に示すように、トラクタの走行伝動装置は、エンジン1の出力軸1aからの出力を入力する主クラッチ2と、この主クラッチ2の出力を入力軸11によって入力する前後進切換え装置10と、この前後進切換え装置10の出力ギヤ12にギヤ21を介して入力軸22が連動している本発明の第一実施例に係る変速伝動装置Aと、この変速伝動装置Aの出力回転体としての出力軸30の後端部に入力ギヤ31が一体回転自在に連結している後輪用差動機構32と、前記出力軸30の前端部にジョイント33を介して入力軸41が一体回転自在に連結している前輪変速装置40と、この前輪変速装置40の出力軸42からの出力が回転伝動軸34を介して入力する前輪用差動機構35とを備えている。
【0033】
前後進切換え装置10と変速伝動装置Aと後輪用差動機構32と前輪変速装置40とは、同一のミッションケース36に収容されている。
【0034】
図1に示すようにミッションケース36から後方に突出している動力取り出し軸37は、トラクタに連結されたロータリ耕耘装置などの各種の作業装置に駆動力を伝達するものである。この動力取り出し軸37は、連動軸38と作業クラッチ39とを介して前後進切換え装置10の入力軸11に連動している。
【0035】
図1に示すように、前記前後進切換え装置10は、前記入力軸11と前記出力ギヤ12とを備える他、前記入力軸11に一体回転自在に設けた入力側回転体13と、この入力側回転体13の一端側と前記出力ギヤ12とにわたって設けた多板式の前進摩擦クラッチ14とを備えている。前記前後進切換え装置10は、さらに、前記入力側回転体13に対して前記出力ギヤ12とは反対側に位置させて前記入力軸11に相対回転自在に支持させた伝動ギヤ15と、この伝動ギヤ15と前記入力側回転体13の他端側とにわたって設けた多板式の後進摩擦クラッチ16と、前記伝動ギヤ15に噛合った逆転ギヤ17と、この逆転ギヤ17を前記出力ギヤ12に連動させている連動軸18とを備えている。
【0036】
前後進切換え装置10は、前記入力側回転体13の内部に設けた前進ピストンと後進ピストンとのうちの前進ピストンに操作油圧が供給されて前進ピストンが前記前進摩擦クラッチ14を入り状態に加圧操作することによって前進状態になり、前記後進ピストンに操作油圧が供給されて後進ピストンが前記後進摩擦クラッチ16を入り状態に加圧操作することによって後進状態になる。
【0037】
前後進切換え装置10は、前進状態になると、入力軸11の駆動力を入力側回転体13と前進摩擦クラッチ14と出力ギヤ12とによって前進駆動力に変換して出力ギヤ12から無段変速部20と遊星伝動部Pとに出力する。前後進切換え装置10は、後進状態になると、入力軸11の駆動力を入力側回転体13と後進摩擦クラッチ16と伝動ギヤ15と逆転ギヤ17と伝動軸18とによって後進駆動力に変換して出力ギヤ12に伝達し、この出力ギヤ12から無段変速部20と遊星伝動部Pとに出力する。
【0038】
図1に示すように、本発明の第一実施例に係る変速伝動装置Aは、前記入力軸22と前記出力軸30とを備える他、前記無段変速部20と、この無段変速部20のモータ軸23にギヤ50とギヤ51とを介してサンギヤ軸61が連動している前記遊星伝動部Pと、この遊星伝動部Pの第一出力ギヤ81に第一入力ギヤ91が噛合っている速度レンジ設定部90とを備えて構成してある。
【0039】
図1に示すように、前記無段変速部20は、前記入力軸22をポンプ軸(以下、入力軸をポンプ軸22と称する。)として備えたアキシャルプランジャ形でかつ可変容量形の油圧ポンプ24と、この油圧ポンプ24からの圧油によって駆動されるアキシャルプランジャ形の油圧モータ25とを備えて構成してある。油圧モータ25は、前記モータ軸23を備えている。
【0040】
つまり、無段変速部20は、静油圧式無段変速部になっており、油圧ポンプ24の斜板角を変更操作されることにより、正回転伝動状態と中立状態と逆回転伝動状態とに切り換わる。無段変速部20は、正回転伝動状態において油圧ポンプ24の斜板角を変更操作されることにより、前後進切換え装置10を介してポンプ軸22に伝達されたエンジン駆動力を正回転方向の駆動力に変換して、かつ無段階に変速してモータ軸23から出力する。無段変速部20は、逆回転伝動状態において油圧ポンプ24の斜板角を変更操作されることにより、前後進切換え装置10を介してポンプ軸22に伝達されたエンジン駆動力を逆回転方向の駆動力に変換して、かつ無段階に変速してモータ軸23から出力する。無段変速部20は、中立状態では、モータ軸23からの出力を停止する。
【0041】
図2は、前記遊星伝動部Pの断面構造を示している。この図と図1とに示すように、前記遊星伝動部Pは、前記無段変速部20と前後進切換え装置10とから入力した駆動力を前記速度レンジ設定部90に向けて伝達する伝動方向での上手側に位置した遊星伝動機構60(以下、上手遊星機構60と略称する。)と、下手側に位置した遊星伝動機構70(以下、下手遊星機構70と略称する。)とを備えて構成してある。
【0042】
前記上手遊星機構60は、前記サンギヤ軸61の一端部に一体回転自在に設けたサンギヤ62と、このサンギヤ62の外周側にサンギヤ62の周方向に分散して位置するとともに前記サンギヤ62に噛み合った三個の遊星ギヤ63と、この三個の遊星ギヤ63を遊転自在に支持したキャリヤ64と、前記三個の遊星ギヤ63に噛み合ったリングギヤ65とを備えている。前記サンギヤ62と前記サンギヤ軸61とは、一体成形されている。
【0043】
前記下手遊星機構70は、前記上手遊星機構60のサンギヤ62の伝動方向下手側に前記サンギヤ62と同一の軸芯まわりで回転自在に位置するサンギヤ72と、このサンギヤ72の外周側にサンギヤ72の周方向に分散して位置するとともに前記サンギヤ72に噛み合った三個の遊星ギヤ73と、この三個の遊星ギヤ73を遊転自在に支持したキャリヤ64と、前記三個の遊星ギヤ73に噛み合ったリングギヤ75とを備えている。
【0044】
図3は、上手遊星機構60の遊星ギヤ63と、下手遊星機構70の遊星ギヤ73との配置図である。この図と図2とに示すように、上手遊星機構60の前記三個の遊星ギヤ63と下手遊星機構70の前記三個の遊星ギヤ73とは、上手遊星機構60の一つの遊星ギヤ63と下手遊星機構70の一つの遊星ギヤ73とが、サンギヤ62,72の周方向に寄り合った一つのギヤ対となり、上手遊星機構60の他の一つの遊星ギヤ63と下手遊星機構70の他の一つの遊星ギヤ73とが、サンギヤ62,72の周方向に寄り合った一つのギヤ対となり、上手遊星機構60の残りの一つの遊星ギヤ63と下手遊星機構70の残りの一つの遊星ギヤ73とが、サンギヤ62,72の周方向に寄り合った一つのギヤ対となった配置になっている。各ギヤ対における上手遊星機構60の遊星ギヤ63と、下手遊星機構70の遊星ギヤ73とは、各遊星ギヤ63,73のサンギヤ62,72に噛み合っている側とは反対側の端部どうしで互いに噛み合って連動している。
【0045】
隣り合う二つのギヤ対において、一方のギヤ対の前記遊星ギヤ63,73の歯先部が、他方のギヤ対の前記遊星ギヤ63,73の歯先部どうしの間に入り込んでいる。しかし、隣り合う二つのギヤ対において、一方のギヤ対の前記遊星ギヤ63,73と、他方のギヤ対の前記遊星ギヤ63,73とは、連動していない。このように遊星ギヤ63,73の歯先部が歯先部間に入り込んだ配置を採用していることにより、遊星伝動部Pに所要のギヤ比を備えさせながらサンギヤ62,72とリングギヤ65,75の直径を小に抑制し、遊星伝動部Pを外径が小さいコンパクトな状態に得ることができる。
【0046】
図3に示すように、上手遊星機構60の遊星ギヤ63は、前記キャリヤ64の支軸64aに回転自在に支持され、下手遊星機構70の遊星ギヤ73は、前記キャリヤ64の支軸64bに回転自在に支持されている。つまり、前記キャリヤ64は、上手遊星機構60と下手遊星機構70とに共通したキャリヤになっている。すなわち、キャリヤ64は、上手遊星機構60の各遊星ギヤ63がこれとギヤ対をなす下手遊星機構70の遊星ギヤ73と噛み合った状態で自転しながらサンギヤ62の周りに公転し、下手遊星機構70の各遊星ギヤ73がこれとギヤ対をなす上手遊星機構60の遊星ギヤ63と噛み合った状態で自転しながらサンギヤ72の周りに公転するよう各遊星ギヤ63,73を支持している。
【0047】
上手遊星機構60のリングギヤ65は、このリングギヤ65に一体回転自在に連設した連動部材66と、この連動部材66の端部にスプライン係合によって一体回転自在に連結するとともに前記前後進切換え装置10の前記出力ギヤ12に噛合うよう構成した伝動ギヤ67とを介して前記出力ギヤ12に連動している。前記リングギヤ65と前記連動部材66とは、一体成形されている。上手遊星機構60のサンギヤ62は、前記サンギヤ軸61と前記ギヤ51と前記ギヤ50とを介して前記無段変速部20のモータ軸23に連動している。
【0048】
前記遊星伝動部Pは、前記第一出力ギヤ81を備える他、この第一出力ギヤ81よりもミッションケース後方側にミッションケース前後方向に並んで位置する第二出力ギヤ82と第三出力ギヤ83と第四出力ギヤ84とを備えている。
【0049】
前記第一出力ギヤ81は、この第一出力ギヤ81に一端部がスプライン係合によって一体回転自在に連結した連動部材76を介して下手遊星機構70のリングギヤ75に一体回転自在に連動している。連動部材76とリングギヤ75とは、一体成形されている。
【0050】
前記第二出力ギヤ82と前記第四出力ギヤ84とを一体回転自在に支持する回転支軸85と、下手遊星機構70のサンギヤ72を一体回転自在に支持するサンギヤ軸71とがスプライン係合によって一体回転自在に連結している。これにより、第二出力ギヤ82と第四出力ギヤ84とは、一体回転し、かつ下手遊星機構70のサンギヤ72に一体回転自在に連動している。
【0051】
前記第三出力ギヤ83は、前記キャリヤ64に一端側がスプライン係合によって一体回転自在に連結した回転軸86の他端側にスプライン係合によって一体回転自在に連結している。これにより、第三出力ギヤ83は、前記回転軸86を介して前記キャリヤ64に一体回転自在に連結している。
【0052】
つまり、遊星伝動部Pは、エンジン駆動力が入力された無段変速部20のモータ軸23からの出力をギヤ50とギヤ51とサンギヤ軸61とによって上手遊星機構60のサンギヤ62に入力し、無段変速部20による変速作用を受けないエンジン駆動力としての前後進切換え装置10の出力ギヤ12の駆動力をギヤ67と連動部材66とによって上手遊星機構60のリングギヤ65に入力し、無段変速部20の出力と、無段変速部20の変速作用を受けないエンジン駆動力とを上手遊星機構60と下手遊星機構70とによって合成し、合成駆動力を第一、第二、第三、第四出力ギヤ81,82,83,84から速度レンジ設定部90に出力する。
【0053】
図2は、前記速度レンジ設定部90の断面構造を示している。この図と図1とに示すように、前記速度レンジ設定部90は、前記第一入力ギヤ91を備える他、前記第二出力ギヤ82と前記第三出力ギヤ83と前記第四出力ギヤ84とに各別に噛合った第二入力ギヤ92と第三入力ギヤ93と第四入力ギヤ94とを備え、前記第一入力ギヤ91と前記第三入力ギヤ93とを相対回転自在に支持する伝動軸としての奇数レンジ伝動軸95を備え、前記第二入力ギヤ92と前記第四入力ギヤ94とを相対回転自在に支持する伝動軸としての偶数レンジ伝動軸96を備えて構成してある。
【0054】
図4は、変速伝動装置Aの横断面で各軸の配置図である。この図と図2とに示すように、前記奇数レンジ伝動軸95と前記偶数レンジ伝動軸96とは、互いに全長にわたってミッションケース36の上下方向に並列し合い、かつ互いに平行に位置し合う配置状態にあり、速度レンジ設定部90のミッションケース前後方向での大きさを小に済ませている。
【0055】
前記奇数レンジ伝動軸95は、前記第一入力ギヤ91の伝動筒部91aと奇数レンジ伝動軸95とにわたって設けた第一クラッチ101と、前記第三入力ギヤ93の伝動筒部93aと奇数レンジ伝動軸95とにわたって設けた第三クラッチ103と、奇数レンジ伝動軸95の前記第一入力ギヤ91が位置する端部とは反対側の端部に設けた奇数レンジ伝動クラッチ107とを備えている。
【0056】
前記偶数レンジ伝動軸96は、前記第二入力ギヤ92の一側部と偶数レンジ伝動軸96とにわたって設けた第二クラッチ102と、前記第四入力ギヤ94の一側部と偶数レンジ伝動軸96とにわたって設けた第四クラッチ104と、偶数レンジ伝動軸96の前記第二入力ギヤ92が位置する端部とは反対側の端部に設けた偶数レンジ伝動クラッチ108とを備えている。
【0057】
図2は、前記第一クラッチ101と前記第二クラッチ102と前記第三クラッチ103と前記第四クラッチ104との断面構造を示している。この図に示すように、前記第一クラッチ101と前記第二クラッチ102と前記第三クラッチ103と前記第四クラッチ104とは、奇数レンジ伝動軸95あるいは偶数レンジ伝動軸96にホルダー105a,106aを介して一体回転及び摺動自在に支持されたシフトギヤ105,106と、対応する入力ギヤ91,92,93,94の前記伝動筒部91a,93a又は一側部に設けたギヤ101a,102a,103a,104aとを備えて構成してあり、噛合いクラッチになっている。
【0058】
すなわち、第一クラッチ101と第二クラッチ102と第三クラッチ103と第四クラッチ104とは、前記シフトギヤ105,106にシフターを介して連動させてミッションケース36の外部に設けた油圧ピストン111,112が操作され、シフトギヤ105,106がホルダー105a,106aに対して摺動操作されてホルダー105a,106aと前記ギヤ101a,102a,103a,104aとにわたって噛合うことにより、入力ギヤ91,92,93,94の駆動力をシフトギヤ105,106とホルダー105a,106aとを介して奇数レンジ伝動軸95あるいは偶数レンジ伝動軸96に伝達して、入力ギヤ91,93と奇数レンジ伝動軸95とを、あるいは入力ギヤ92,94と偶数レンジ伝動軸96とを一体回転させるよう入り状態になる。
【0059】
第一クラッチ101と第二クラッチ102と第三クラッチ103と第四クラッチ104とは、シフトギヤ105,106がホルダー105a,106aに対して摺動操作されて前記ギヤ101a,102a,103a,104aから離脱することにより、入力ギヤ91,93と奇数レンジ伝動軸95とを、あるいは入力ギヤ92,94と偶数レンジ伝動軸96とを相対回転させるよう切り状態になる。
【0060】
図2は、前記奇数レンジ伝動クラッチ107と前記偶数レンジ伝動クラッチ108との断面構造を示している。この図に示すように、前記奇数レンジ伝動クラッチ107と前記偶数レンジ伝動クラッチ108とは、奇数レンジ伝動軸95あるいは偶数レンジ伝動軸96に一体回転自在に設けた入力側回転部材107a,108aと、奇数レンジ伝動軸95あるいは偶数レンジ伝動軸96に相対回転自在に設けた出力ギヤ107b,108bと、この出力ギヤ107b、108bの一側部と前記入力側回転部材107a,108aとにわたって設けた多板式の摩擦クラッチ本体107c、108cとを備えて構成してあり、摩擦クラッチになっている。
【0061】
奇数レンジ伝動クラッチ107の前記出力ギヤ107bは、この出力ギヤ107bに噛合うように構成して前記出力軸30に一体回転自在に設けた伝動ギヤ109を介して前記出力軸30に連動している。偶数レンジ伝動クラッチ108の前記出力ギヤ108bは、前記伝動ギヤ109に噛合っており、この伝動ギヤ109を介して前記出力軸30に連動している。
【0062】
すなわち、奇数レンジ伝動クラッチ107と偶数レンジ伝動クラッチ108とは、入力側回転部材107a,108aの内部に摺動自在に設けた油圧ピストン114,115に操作油路116,117から操作油圧が供給されて油圧ピストン114,115が摩擦クラッチ本体107c,108cを入り状態に加圧操作することにより、入力側回転部材107a,108aと出力ギヤ107b、108bとを摩擦クラッチ本体107c、108cによって一体回転自在に連動させるよう入り状態になる。奇数レンジ伝動クラッチ107と偶数レンジ伝動クラッチ108とは、油圧ピストン114,115から操作油圧が排出され、油圧ピストン114,115による摩擦クラッチ本体107c,108cの加圧操作が解除されて摩擦クラッチ本体107c,108cが切り状態になることにより、入力側回転部材107a,108aと出力ギヤ107b,108bとを相対回転させるよう切り状態になる。
【0063】
これにより、奇数レンジ伝動クラッチ107は、入り状態に操作されることにより、奇数レンジ伝動軸95の駆動力を出力ギヤ107bに伝達して、奇数レンジ伝動軸95から出力軸30への伝動を入りにし、切り状態に操作されることにより、奇数レンジ伝動軸95から出力軸30への伝動を切りにする。
【0064】
偶数レンジ伝動クラッチ108は、入り状態に操作されることにより、偶数レンジ伝動軸96の駆動力を出力ギヤ108bに伝達して、偶数レンジ伝動軸96から出力軸30への伝動を入りにし、切り状態に操作されることにより、偶数レンジ伝動軸96から出力軸30への伝動を切りにする。
【0065】
図5は、速度レンジ設定部90の作用状態を示す説明図である。図5に示す「入り」は、第一、第二、第三、第四クラッチ101,102,103,104と奇数レンジ伝動クラッチ107と偶数レンジ伝動クラッチ108との入り状態を示す。図5に示す「―」は、第一、第二、第三、第四クラッチ101,102,103,104と奇数レンジ伝動クラッチ107と偶数レンジ伝動クラッチ108との切り状態を示す。
【0066】
この図に示すように、速度レンジ設定部90は、第一クラッチ101が入り状態に操作され、第二、第三、第四クラッチ102,103,104が切り状態に操作されることにより、変速伝動装置Aを一速レンジに設定する。すると、変速伝動装置Aは、遊星伝動部Pが第一出力ギヤ81によって出力する合成駆動力を第一出力ギヤ81と第一入力ギヤ91とによって変速して第一クラッチ101を介して奇数レンジ伝動軸95に伝達する。このとき、奇数レンジ伝動クラッチ107が入り状態に操作されることにより、変速伝動装置Aは、奇数レンジ伝動軸95の駆動力を奇数レンジ伝動クラッチ107と伝動ギヤ109とによって出力軸30に伝達する。
【0067】
速度レンジ設定部90は、第二クラッチ102が入り状態に操作され、第一、第三、第四クラッチ101,103,104が切り状態に操作されることにより、変速伝動装置Aを二速レンジに設定する。すると、変速伝動装置Aは、遊星伝動部Pが第二出力ギヤ82によって出力する合成駆動力を第二出力ギヤ82と第二入力ギヤ92とによって変速して第二クラッチ102を介して偶数レンジ伝動軸96に伝達する。このとき、偶数レンジ伝動クラッチ108が入り状態に操作されることにより、変速伝動装置Aは、偶数レンジ伝動軸96の駆動力を偶数レンジ伝動クラッチ108と伝動ギヤ109とによって出力軸30に伝達する。
【0068】
速度レンジ設定部90は、第三クラッチ103が入り状態に操作され、第一、第二、第四クラッチ101,102,104が切り状態に操作されることにより、変速伝動装置Aを三速レンジに設定する。すると、変速伝動装置Aは、遊星伝動部Pが第三出力ギヤ83によって出力する合成駆動力を第三出力ギヤ83と第三入力ギヤ93とによって変速して第三クラッチ103を介して奇数レンジ伝動軸95に伝達する。このとき、奇数レンジ伝動クラッチ107が入り状態に操作されることにより、変速伝動装置Aは、奇数レンジ伝動軸95の駆動力を奇数レンジ伝動クラッチ107と伝動ギヤ109とによって出力軸30に伝達する。
【0069】
速度レンジ設定部90は、第四クラッチ104が入り状態に操作され、第一、第二、第三クラッチ101,1012,103が切り状態に操作されることにより、変速伝動装置Aを四速レンジに設定する。すると、変速伝動装置Aは、遊星伝動部Pが第四出力ギヤ84によって出力する合成駆動力を第四出力ギヤ84と第四入力ギヤ94とによって変速して第四クラッチ104を介して偶数レンジ伝動軸96に伝達する。このとき、偶数レンジ伝動クラッチ108が入り状態に操作されることにより、変速伝動装置Aは、偶数レンジ伝動軸96の駆動力を偶数レンジ伝動クラッチ108と伝動ギヤ109とによって出力軸30に伝達する。
【0070】
図8は、トラクタに走行伝動装置を操作するよう装備された操作装置のブロック図である。この図に示すように、この操作装置は、変速レバー120と、変速操作検出手段121と、エンジン出力センサ122と、無段変速部出力センサ123と、車速センサ124と、前後進レバー125と、前後進検出手段126と、変速検出手段127と、前記各検出手段121,126,127と前記各センサ122,123,124とに連係された制御手段128とを備えている。
【0071】
制御手段128は、無段変速部20の油圧ポンプ24の斜板角を変更操作するアクチュエータ(図示せず)の操作部(図示せず)に連係されている。制御手段128は、第一クラッチ101と第二クラッチ102と第三クラッチ103と第四クラッチ104と奇数レンジ伝動クラッチ107と偶数レンジ伝動クラッチ108との前記油圧ピストン111,112,114,115を操作する操作弁(図示せず)に連係されている。制御手段128は、前記前進摩擦クラッチ14と前記後進摩擦クラッチ16を切換え操作するアクチュエータ(図示せず)に連係されている。
【0072】
図8に示すように、変速レバー120は、中立位置Nから最高速位置maxに至る操作域を揺動操作する。この操作域の中立位置Nから中間位置Mまでの部分は、低速域Lとなる。前記操作域の中間位置Mから最高速位置maxまでの部分は、高速域Hとなる。
【0073】
変速操作検出手段121は、変速レバー120に連動された回転ポテンショメータによって構成してある。この変速操作検出手段121は、変速レバー120の操作位置を検出し、この検出結果を制御手段128に出力する。
【0074】
エンジン出力センサ122と無段変速部出力センサ123と車速センサ124とは、回転センサによって構成してある。エンジン出力センサ122は、エンジン1の出力速度を検出し、この検出結果を制御手段128に出力する。無段変速部出力センサ123は、無段変速部20のモータ軸23による出力速度を検出し、この検出結果を制御手段128に出力する。車速センサ124は、前記出力軸30の回転速度を車速として検出し、この検出結果を制御手段128に出力する。変速検出手段127は、無段変速部20の変速状態を検出し、この検出結果を制御手段128にフィードバックする。
【0075】
前後進レバー125は、揺動操作によって中立位置Nと前進位置Fと後進位置Rとに切換える。前後進検出手段126は、前後進レバー125に連動させた回転ポテンショメータによって構成してある。前後進検出手段126は、前後進レバー125の操作位置を検出し、この検出結果を制御手段128に出力する。
【0076】
制御手段128は、マイクロコンピュータを利用して構成してある。この制御手段128は、変速伝動装置Aが変速レバー120の操作位置に対応した操作状態としての速度レンジになって出力軸30を変速レバー120の操作位置に対応した回転速度で駆動するよう、変速操作検出手段121と変速検出手段127とエンジン出力センサ122と無段変速部出力センサ123と車速センサ124とによる検出情報を基に第一、第二、第三、第四クラッチ101,102,103,104と奇数レンジ伝動クラッチ107と偶数レンジ伝動クラッチ108とを操作する。制御手段128は、前後進切換え装置10が前後進レバー125の操作位置に対応した操作状態になるよう、前後進検出手段126による検出情報を基に前進摩擦クラッチ14と後進摩擦クラッチ16とを操作する。
【0077】
これにより、トラクタは、変速レバー120と前後進レバー125とを操作すれば、前後進レバー125の操作位置に対応した前進あるいは後進方向に、変速レバー120の操作位置とエンジン1の出力速度とに対応した車速で走行する。
【0078】
つまり、図6は、無段変速部20の変速状態と、変速伝動装置Aの出力軸30による出力速度と、変速伝動装置Aの速度レンジ設定部90によって設定される速度レンジとの関係を示す説明図である。図6に示す縦軸は、出力軸30の回転数(以下、出力速度と称する。)を示す。図6に示す横軸は、無段変速部20の変速状態を示す。この横軸の「−MAX」は、無段変速部20の逆回転伝動状態での最高速度を示す。横軸の「0」は、無段変速部20の中立状態を示す。横軸の「+MAX」は、無段変速部20の正回転伝動状態での最高速度を示す。
【0079】
この図と図5と図8とに示すように、変速レバー120を低速域Lのうち、中立位置Nから低速域Lの中間位置Lm(以下、低速中間位置Lmと呼称する。)に至る部分に操作すると、制御手段128は、第一クラッチ101を入り状態に操作し、第二、第三、第四クラッチ102,103,104を切り状態に操作して、変速伝動装置Aは、一速レンジになる。このとき、制御手段128は、奇数レンジ伝動クラッチ107を入り状態に操作し、偶数レンジ伝動クラッチ108を切り状態に操作する。これにより、変速伝動装置Aは、遊星伝動部Pの第一出力ギヤ81の駆動力を第一入力ギヤ91と第一クラッチ101とによって奇数レンジ伝動軸95に伝達し、この奇数レンジ伝動軸95の駆動力を奇数レンジ伝動クラッチ107と伝動ギヤ109とによって出力軸30に伝達する。そして、変速レバー120を中立位置Nから低速中間位置Lmに向けて操作するに伴い、制御手段128は、無段変速部20を「−MAX」から「+MAX」に向けて変速操作し、出力速度が「0」から無段階に増速する。変速レバー120が低速中間位置Lmになると、制御手段128は、無段変速部20を「+MAX」に操作し、出力速度が「V1」になる。
【0080】
変速レバー120を低速域Lのうち、低速中間位置Lmから中間位置Mに至る部分に操作すると、制御手段128は、第二クラッチ102を入り状態に操作し、第一、第三、第四クラッチ101,103,104を切り状態に操作して、変速伝動装置Aは、二速レンジになる。このとき、制御手段128は、偶数レンジ伝動クラッチ108を入り状態に操作し、奇数レンジ伝動クラッチ107を切り状態に操作する。これにより、変速伝動装置Aは、遊星伝動部Pの第二出力ギヤ82の駆動力を第二入力ギヤ92と第二クラッチ102とによって偶数レンジ伝動軸96に伝達し、この偶数レンジ伝動軸96の駆動力を偶数レンジ伝動クラッチ108と伝動ギヤ109とによって出力軸30に伝達する。そして、変速レバー120を低速中間位置Lmから中間位置Mに向けて操作するに伴い、制御手段128は、無段変速部20を「+MAX」から「−MAX」に向けて変速操作し、出力速度が「V1」から無段階に増速する。変速レバー120が中間位置Mになると、制御手段128は、無段変速部20を「−MAX」に操作し、出力速度が「V2」になる。
【0081】
変速レバー120を高速域Hのうち、中立位置Nから高速域Hの中間位置Hm(以下、高速中間位置Hmと呼称する。)に至る部分に操作すると、制御手段128は、第三クラッチ103を入り状態に操作し、第一、第二、第四クラッチ101,102,104を切り状態に操作して、変速伝動装置Aは、三速レンジになる。このとき、制御手段128は、奇数レンジ伝動クラッチ107を入り状態に操作し、偶数レンジ伝動クラッチ108を切り状態に操作する。これにより、変速伝動装置Aは、遊星伝動部Pの第三出力ギヤ83の駆動力を第三入力ギヤ93と第三クラッチ103とを介して奇数レンジ伝動軸95に伝達し、奇数レンジ伝動軸95の駆動力を奇数レンジ伝動クラッチ107と伝動ギヤ109とによって出力軸30に伝達する。そして、変速レバー120を中間位置Mから高速中間位置Hmに向けて操作するに伴い、制御手段128は、無段変速部20を「−MAX」から「+MAX」に向けて変速操作し、出力速度が「V2」から無段階に増速する。変速レバー120が高速中間位置Mmになると、制御手段128は、無段変速部20を「+MAX」に操作し、出力速度が「V3」になる。
【0082】
変速レバー120を高速域Hのうち、高速中間位置Hmから最高速位置maxに至る部分に操作すると、制御手段128は、第四クラッチ104を入り状態に操作し、第一、第二、第三クラッチ101,102,103を切り状態に操作して、変速伝動装置Aは、四速レンジになる。このとき、制御手段128は、偶数レンジ伝動クラッチ108を入り状態に操作し、奇数レンジ伝動クラッチ107を切り状態に操作する。これにより、変速伝動装置Aは、遊星伝動部Pの第四出力ギヤ84の駆動力を第四入力ギヤ94と第四クラッチ104とによって偶数レンジ伝動軸96に伝達し、偶数レンジ伝動軸96の駆動力を偶数レンジ伝動クラッチ108と伝動ギヤ109とによって出力軸30に伝達する。そして、変速レバー120を高速中間位置Hmから最高速位置maxに向けて操作するに伴い、制御手段128は、無段変速部20を「+MAX」から「−MAX」に向けて変速操作し、出力速度が「V3」から無段階に増速する。変速レバー120が最高速位置maxになると、制御手段128は、無段変速部20を「−MAX」に操作し、出力速度が「V4」になる。
【0083】
前後進レバー125を前進位置Fに操作すると、制御手段128は、前進摩擦クラッチ14を入り状態に操作し、後進摩擦クラッチ16を切り状態に操作し、前後進切換え装置10が前進伝動状態になる。すると、前後進切換え装置10は、エンジン1から入力した駆動力を前進駆動力にして出力ギヤ12から無段変速部20と遊星伝動部Pとに伝達し、変速伝動装置Aが前進駆動力を前輪用差動機構35と後輪用差動機構32とに伝達してトラクタが前進走行する。
【0084】
前後進レバー125を後進位置Rに操作すると、制御手段128は、前進摩擦クラッチ14を切り状態に操作し、後進摩擦クラッチ16を入り状態に操作し、前後進切換え装置10が後進伝動状態になる。すると、前後進切換え装置10がエンジン1から入力した駆動力を後進駆動力にして出力ギヤ12から無段変速部20と遊星伝動部Pとに伝達し、変速伝動装置Aが後進駆動力を前輪用差動機構35と後輪用差動機構32とに伝達してトラクタが後進走行する。
【0085】
前後進レバー125を中立位置Nに操作すると、制御手段128は、前進摩擦クラッチ14と後進摩擦クラッチ16とを切り状態に操作し、前後進切換え装置10が中立状態になる。すると、前後進切換え装置10が無段変速部20と遊星伝動部Pとに動力伝達せず、変速伝動装置Aが前輪用作動機構35と後輪用差動機構32とに対する伝動を遮断してトラクタが停止する。
【0086】
図7は、変速伝動装置Aの速度レンジが切り換わる際の制御手段128による第一、第二、第三、第四クラッチ101,102,103,104の操作状態を示す説明図である。図7に示す「増」は、速度レンジの切り換えのために出力軸30による出力速度が増速変化することを示している。図7に示す「減」は、速度レンジの切り換えのために出力軸30による出力速度が減速変化することを示している。
【0087】
この図に示すように、制御手段128は、変速伝動装置Aの速度レンジの切り換えを行う際、奇数レンジ伝動軸95と偶数レンジ伝動軸96とが共に一時的に駆動状態になり、遊星伝動部Pから奇数レンジ伝動軸95を有した奇数伝動系と、偶数レンジ伝動軸96を有した偶数伝動系とを介して出力軸30に動力伝達する二重伝動状態が発生するように各クラッチ101,102,103,104,107,108を操作する。
【0088】
すなわち、制御手段128は、変速伝動装置Aを一速レンジから二速レンジに切り換える際、第一クラッチ101を切り状態に切り換え操作する前に第二クラッチ102を入り状態に切り換え操作し、第二クラッチ102が入り状態に切り換わった後に第一クラッチ101を切り状態に切り換え操作する。このとき、制御手段128は、奇数レンジ伝動クラッチ107を切り状態に切り換え操作する前に偶数レンジ伝動クラッチ108を入り状態に切り換え操作し、偶数レンジ伝動クラッチ108が入り状態に切り換わった後に奇数レンジ伝動クラッチ107を切り状態に切り換え操作する。
【0089】
制御手段128は、変速伝動装置Aを二速レンジから三速レンジに切り換える際、第二クラッチ102を切り状態に切り換え操作する前に第三クラッチ103を入り状態に切り換え操作し、第三クラッチ103が入り状態に切り換わった後に第二クラッチ102を切り状態に切り換え操作する。このとき、制御手段128は、偶数レンジ伝動クラッチ108を切り状態に切り換え操作する前に奇数レンジ伝動クラッチ107を入り状態に切り換え操作し、奇数レンジ伝動クラッチ107が入り状態に切り換わった後に偶数レンジ伝動クラッチ108を切り状態に切り換え操作する。
【0090】
制御手段128は、変速伝動装置Aを三速レンジから四速レンジに切り換える際、第三クラッチ103を切り状態に切り換え操作する前に第四クラッチ104を入り状態に切り換え操作し、第四クラッチ104が入り状態に切り換わった後に第三クラッチ103を切り状態に切り換え操作する。このとき、制御手段128は、奇数レンジ伝動クラッチ107を切り状態に切り換え操作する前に偶数レンジ伝動クラッチ108を入り状態に切り換え操作し、偶数レンジ伝動クラッチ108が入り状態に切り換わった後に奇数レンジ伝動クラッチ107を切り状態に切り換え操作する。
【0091】
制御手段128は、変速伝動装置Aを四速レンジから三速レンジに切り換える際、第四クラッチ104を切り状態に切り換え操作する前に第三クラッチ103を入り状態に切り換え操作し、第三クラッチ103が入り状態に切り換わった後に第四クラッチ104を切り状態に切り換え操作する。このとき、制御手段128は、偶数レンジ伝動クラッチ108を切り状態に切り換え操作する前に奇数レンジ伝動クラッチ107を入り状態に切り換え操作し、奇数レンジ伝動クラッチ107が入り状態に切り換わった後に偶数レンジ伝動クラッチ108を切り状態に切り換え操作する。
【0092】
制御手段128は、変速伝動装置Aを三速レンジから二速レンジに切り換える際、第三クラッチ103を切り状態に切り換え操作する前に第二クラッチ102を入り状態に切り換え操作し、第二クラッチ102が入り状態に切り換わった後に第三クラッチ103を切り状態に切り換え操作する。このとき、制御手段128は、奇数レンジ伝動クラッチ107を切り状態に切り換え操作する前に偶数レンジ伝動クラッチ108を入り状態に切り換え操作し、偶数レンジ伝動クラッチ108が入り状態に切り換わった後に奇数レンジ伝動クラッチ107を切り状態に切り換え操作する。
【0093】
制御手段128は、変速伝動装置Aを二速レンジから一速レンジに切り換える際、第二クラッチ102を切り状態に切り換え操作する前に第一クラッチ101を入り状態に切り換え操作し、第一クラッチ101が入り状態に切り換わった後に第二クラッチ102を切り状態に切り換え操作する。このとき、制御手段128は、偶数レンジ伝動クラッチ108を切り状態に切り換え操作する前に奇数レンジ伝動クラッチ107を入り状態に切り換え操作し、奇数レンジ伝動クラッチ107が入り状態に切り換わった後に偶数レンジ伝動クラッチ108を切り状態に切り換え操作する。
【0094】
制御手段128は、奇数レンジ伝動軸95と偶数レンジ伝動軸96とが共に駆動状態になった二重伝動状態を発生させたとき、奇数レンジ伝動クラッチ107と偶数レンジ伝動クラッチ108とを半伝動状態に操作する。つまり、二重伝動状態におけるトルクの変動が発生しても、無段変速部20は、これの作動油による滑りによってトルクの変動を吸収する。これの他に、制御手段128は、奇数レンジ伝動クラッチ107と偶数レンジ伝動クラッチ108とにトルクの変動を吸収する滑りを発生させる。
【0095】
図1に示すように、前記前輪変速装置40は、前記入力軸41と前記出力軸42とを備える他、標準伝動クラッチ44を有した標準ギヤ伝動機構45と、増速伝動クラッチ46を有した増速ギヤ伝動機構47とを入力軸41と出力軸42とにわたって設けて構成してある。
【0096】
前輪変速装置40は、標準伝動クラッチ44が入り状態に操作され、増速伝動クラッチ46が切り状態に操作されると、入力軸41の駆動力を標準ギヤ伝動機構45によって出力軸42に伝達するよう標準伝動状態になる。すると、前輪変速装置40は、左右前輪の平均周速度と左右後輪の平均周速度とが同一になるようにして左右前輪を駆動する。
【0097】
前輪変速装置40は、標準伝動クラッチ44が切り状態に操作され、増速伝動クラッチ46が入り状態に操作されると、入力軸41の駆動力を増速ギヤ伝動機構47によって出力軸47に伝達するよう増速伝動状態になる。すると、前輪変速装置40は、左右前輪の平均周速度が左右後輪の平均周速度の約2倍の速度になるようにして左右前輪を駆動する。
【0098】
図9は、本発明の第二実施例に係る変速伝動装置Aが装備されたトラクタの走行伝動装置の線図である。
【0099】
本発明の第二実施例に係る変速伝動装置Aを装備したトラクタの走行用伝動装置では、変速伝動装置Aの出力回転体としての出力軸30からの出力を前後進切換え装置10を介して後輪用差動機構32と前輪変速装置40とに伝達する。
【0100】
図9、図10、図11に示すように、前後進切換え装置10は、前記出力軸30に一体回転自在に設けた入力側回転体13と、この入力側回転体13の前後側に位置する出力ギヤ19a,19bと、前記入力側回転体13の一端側と前記前出力ギヤ19aとにわたって設けた前進摩擦クラッチ14と、前記入力側回転体13の他端側と前記後出力ギヤ19bとにわたって設けた後進摩擦クラッチ16と、前記後出力ギヤ19bに噛合った逆転ギヤ17とを備えている。
【0101】
前記前出力ギヤ19aは、伝動ギヤ130と伝動軸131とを介して後輪用差動機構32の入力ギヤ31と、前輪変速装置40の入力軸41とに連動している。前記逆転ギヤ17は、伝動ギヤ132と前記伝動軸131とを介して後輪用差動機構32の入力ギヤ31と、前輪変速装置40の入力軸41とに連動している。
【0102】
本第二実施例に係る変速伝動装置Aと本第一実施例に係る変速伝動装置Aとを比較すると、エンジン駆動力が入力される無段変速部20の出力と、無段変速部20による変速作用を受けないエンジン駆動力とを遊星伝動部Pによって合成し、遊星伝動部Pからの合成駆動力を第一、第二、第三、第四クラッチ101,102,103,104の切り換えによって四段階の速度レンジの駆動力に変換して奇数レンジ伝動軸95と偶数レンジ伝動軸96との二本の伝動軸によって出力回転体としての出力軸30に伝達する点において同一の構成を備えており、遊星伝動部Pの点において異なった構成を備えている。この相違点について説明する。
【0103】
図9、図10に示すように、本第二実施例に係る変速伝動装置Aにおける遊星伝動部Pは、第一遊星伝動機構140と第二遊星伝動機構150と第三遊星伝動機構160とを備えて構成してある。
【0104】
図10に示すように、第一遊星伝動機構140と第二遊星伝動機構150と第三遊星伝動機構160とは、一つのサンギヤ141,151,161と、複数の遊星ギヤ142,152,162と、リングギヤ143,153,163と、キャリヤ144,154,164とを備えている。
【0105】
第一遊星伝動機構140のサンギヤ141は、サンギヤ軸145とギヤ170とギヤ171とを介して無段変速部20のモータ軸23に連動している。第一遊星伝動機構140のキャリヤ144と第二遊星伝動機構150のリングギヤ153と第三遊星伝動機構160のキャリヤ164とは、一体回転自在に連動している。第一遊星伝動機構140のリングギヤ143と第二遊星伝動機構150のキャリヤ154とは、一体回転自在に連動し、かつ連動軸172を介して無段変速部20のポンプ軸22に一体回転自在に連動している。第二遊星伝動機構150のサンギヤ151と第三遊星伝動機構160のサンギヤ161とは、一体回転自在に連動している。
【0106】
遊星伝動部Pは、第一遊星伝動機構140のキャリヤ144に一体回転自在に連動した第一出力ギヤ81を備え、第二及び第三遊星伝動機構150,160のサンギヤ151,161に一体回転自在に連動した第二出力ギヤ82と第四出力ギヤ84とを備え、第三遊星伝動機構160のリングギヤ163に一体回転自在に連動した第三出力ギヤ83を備えている。
【0107】
遊星伝動部Pは、無段変速部20のモータ軸23からの出力を第一遊星伝動機構140のサンギヤ141に入力し、無段変速部20による変速作用を受けないエンジン駆動力としての無段変速部20のポンプ軸22の駆動力を第一遊星伝動機構140のリングギヤ143と第二遊星伝動機構150のキャリヤ154とに入力し、入力した無段変速部20の駆動力とエンジン1の駆動力とを第一遊星ギヤ機構140と第二遊星伝動機構150と第三遊星伝動機構160とによって合成する。合成駆動力を第一出力ギヤ81から奇数レンジ伝動軸95の第一入力ギヤ91に伝達し、第二出力ギヤ82から偶数レンジ伝動軸96の第二入力ギヤ92に伝達し、第三出力ギヤ83から奇数レンジ伝動軸95の第三入力ギヤ93に伝達し、第四出力ギヤ84から偶数レンジ伝動軸96の第四入力ギヤ94に伝達する。
【0108】
第一出力ギヤ81と第一入力ギヤ91とは、第一入力ギヤ91の回転数が第一出力ギヤ81の回転数の2倍になる伝動比で連動している。第二出力ギヤ82と第二入力ギヤ92とは、第二入力ギヤ92の回転数が第二出力ギヤ82の回転数の2倍になる伝動比で連動している。第三出力ギヤ83と第三入力ギヤ93とは、第三入力ギヤ93の回転数が第三出力ギヤ83の回転数の1/2になる伝動比で連動している。第四出力ギヤ84と第四入力ギヤ94とは、第四入力ギヤ94の回転数が第四出力ギヤ84の回転数の1/2になる伝動比で連動している。奇数レンジ伝動クラッチ107の出力ギヤ107bと、出力軸30の受動ギヤ173とは、出力軸30の回転数が出力ギヤ107bの回転数の1/2になる伝動比で連動している。偶数レンジ伝動クラッチ108の出力ギヤ108bと出力軸30の受動ギヤ174とは、出力軸30の回転数が出力ギヤ108bの回転数の1/2になる伝動比で連動している。
【0109】
これにより、第三出力ギヤ83の駆動力を出力軸30に1/4の回転数に減速して伝達
するのに、第三出力ギヤ83と奇数レンジ伝動軸95との間と、出力ギヤ107bと出力軸30との間との二箇所に分けて減速することになる。第四出力ギヤ84の駆動力を出力軸30に1/4の回転数に減速して伝達するのに、第四出力ギヤ84と偶数レンジ伝動軸96との間と、出力ギヤ108bと出力軸30との間との二箇所に分けて減速することになる。すると、速度レンジ設定部90の大きさを小に済ませながら1/4減速を行うことができる。
【0110】
図12は、本発明の第三実施例に係る変速伝動装置Aが装備されたトラクタの走行伝動装置の線図である。
【0111】
本発明の第三実施例に係る変速伝動装置Aを装備したトラクタの走行用伝動装置では、変速伝動装置Aの出力回転体としての出力軸30からの出力を前後進切換え装置10を介して後輪用差動機構32と前輪変速装置40とに伝達する。
【0112】
図12、図13、図14に示すように、本第三実施例に係る変速伝動装置Aを装備した走行用伝動装置における前後進切換え装置10は、本第二実施例に係る変速伝動装置Aが装備された走行用伝動装置における前後進切換え装置10と同じ構成を備えている。
【0113】
本第三実施例に係る変速伝動装置Aと本第一実施例に係る変速伝動装置Aとを比較すると、エンジン駆動力が入力される無段変速部20の出力と、無段変速部20による変速作用を受けないエンジン駆動力とを遊星伝動部Pによって合成し、遊星伝動部Pからの合成駆動力を第一、第二、第三、第四クラッチ101,102,103,104の切り換えによって四段階の速度レンジの駆動力に変換して奇数レンジ伝動軸95と偶数レンジ伝動軸96との二本の伝動軸によって出力回転体としての出力軸30に伝達する点において同一の構成を備えており、遊星伝動部Pと速度レンジ設定部90の点において異なった構成を備えている。
【0114】
図12、図13に示すように、本第三実施例に係る変速伝動装置Aにおける遊星伝動部Pは、本第二実施例に係る変速伝動装置Aにおける遊星伝動部Pと同じ構成を備えている。
【0115】
図12、図13に示すように、本第三実施例に係る変速伝動装置Aにおける速度レンジ設定部90と、本第一実施例に係る変速伝動装置Aにおける速度レンジ設定部90とは、奇数レンジ伝動軸95と、偶数レンジ伝動軸96とを並列的に平行に配置して備えている点では、同一である。
【0116】
本第三実施例に係る変速伝動装置Aにおける速度レンジ設定部90と、本第一実施例に係る変速伝動装置Aにおける速度レンジ設定部90とは、奇数レンジ伝動軸95が、遊星伝動部Pの第一出力ギヤ81に噛合った第一入力ギヤ91と、遊星伝動部Pの第三出力ギヤ83に噛合った第三入力ギヤ93とを遊転自在に備え、偶数レンジ伝動軸96が、遊星伝動部Pの第二出力ギヤ83に噛合った第三入力ギヤ93と、遊星伝動部Pの第四出力ギヤ84に噛合った第四入力ギヤ94とを遊転自在に備え、第一入力ギヤ91の駆動力を第一クラッチ101によって奇数レンジ伝動軸95に伝達し、第二入力ギヤ92の駆動力を第二クラッチ102によって偶数レンジ伝動軸96に伝達し、第三入力ギヤ93の駆動力を第三クラッチ103によって奇数レンジ伝動軸95に伝達し、第四入力ギヤ94の駆動力を第四クラッチ104によって偶数レンジ伝動軸96に伝達する点において、同一の構成を備えている。
【0117】
本第三実施例に係る変速伝動装置Aにおける速度レンジ設定部90では、奇数レンジ伝動軸95の駆動力を、奇数レンジ伝動軸95の後端部に一体回転自在に設けた出力ギヤ95aと、この出力ギヤ95aに噛合う状態で出力軸30の前端部に一体回転自在に設けた入力ギヤ30aとを介して出力軸30に伝達する。偶数レンジ伝動軸96の駆動力を、偶数レンジ伝動軸96の後端部に一体回転自在に設けた出力ギヤ96aと、この出力ギヤ96aに噛合った前記入力ギヤ30aとを介して出力軸30に伝達する。
奇数レンジ伝動軸95の出力ギヤ95aと、偶数レンジ伝動軸96の出力ギヤ96aとが出力軸30に伝動するにあたって同一の入力ギヤ30aに噛合っており、この伝動構造は、速度レンジ設定部90の前後方向での大きさを小に済ませる。
【0118】
本第三実施例に係る変速伝動装置Aにおける速度レンジ設定部90では、第一クラッチ101と第二クラッチ102と第三クラッチ103と第四クラッチ104とを、入力ギヤ91,92,93,94に一体回転自在に設けたクラッチディスクと、奇数レンジ伝動軸95あるいは偶数レンジ伝動軸96に一体回転及び摺動自在に設けたクラッチディスクと、油圧ピストン101b、102b、103b、104bとを備えた噛合いクラッチになっている。
すなわち、油圧ピストン101b、102b、103b、104bが両クラッチディスクを圧接操作することにより、両クラッチディスクが互いに対向し合う側面に備えているクラッチ突起の係合によって連動する。
【0119】
本第三実施例の速度レンジ設定部90は、奇数レンジ伝動軸95のクラッチ(第一クラッチ101、第三クラッチ103)と、偶数レンジ伝動軸96のクラッチ(第二クラッチ102、第四クラッチ104)とが共に入り状態に操作されて二重伝動状態が現出された際、第一クラッチ101、第三クラッチ103、第二クラッチ102、第四クラッチ104における油圧ピストン101b、102b、103b、104bに作用する圧油のために両クラッチディクの間に滑りを発生させ、二重伝動状態におけるトルクの変動を吸収する。これにより、本第三実施例の速度レンジ設定部90は、本第一実施例と本第二実施例の速度レンジ設定部90において採用している奇数レンジ伝動クラッチ107と偶数レンジ伝動クラッチ108とを省略し、伝動効率のアップと速度レンジ設定部90のコンパクト化を達成する。
【0120】
図15は、本発明の第四実施例に係る変速伝動装置Aが装備されたトラクタの走行伝動装置の線図である。本第四実施例に係る変速伝動装置Aと本第一実施例に係る変速伝動装置Aとを比較すると、遊星伝動部Pと速度レンジ設定部90との点において同一の構成を備え、無段変速自在な駆動力を入力する構成において本第四実施例に係る変速伝動装置Aと本第一実施例に係る変速伝動装置Aとが相違している。この相違点について次に説明する。
【0121】
本第四実施例に係る変速伝動装置Aは、電動モータ180を備えている。遊星伝動部Pは、前記電動モータ180の出力軸180aからの出力を伝動ギヤ181と伝動ギヤ182とサンギヤ軸61とを介して上手遊星機構60のサンギヤ62に入力する。遊星伝動部Pは、エンジン1の出力軸1aからの出力を主クラッチ2と前後進切換え装置10とギヤ67とを介して上手遊星機構60のリングギヤ65に入力する。遊星伝動部Pは、エンジン1の駆動力と電動モータ180の駆動力とを入力して合成し、この合成駆動力を第一出力ギヤ81と第三出力ギヤ83とから速度レンジ設定部90の奇数レンジ伝動軸95に伝達し、第二出力ギヤ82と第四出力ギヤ84とから速度レンジ設定部90の偶数レンジ伝動軸96に伝達する。
【0122】
電動モータ180は、ドライバ183による変速操作によって無段階に駆動回転数を変更する。この電動モータ180の変速操作を行い、この変速操作に合わせて第一、第二、第三、第四クラッチ101,102,103,104と奇数レンジ伝動クラッチ107と偶数レンジ伝動クラッチ108とを切り換え操作することにより、本第一実施例に係る変速伝動装置Aと同様に、出力軸30が一速レンジから四速レンジの4段階の速度レンジに段階分けして、かつ各速度レンジで無段階に変速して駆動される。
【0123】
〔別実施例〕
上記した各実施例に替え、奇数レンジ伝動軸95を、第一クラッチ101を備えるとともに出力軸30に連動した伝動軸と、第三クラッチ103を備えるとともに出力軸30に連動した伝動軸とに分割して備え、偶数レンジ伝動軸96を、第二クラッチ102を備えるとともに出力軸30に連動した伝動軸と、第四クラッチ104を備えるとともに出力軸30に連動した伝動軸とに分割して備え、かつ各伝動軸を並列的に平行に配置した構成を備えて実施してもよい。また、第一クラッチ101と第二クラッチ102とを有した一本の伝動軸と、第三クラッチ103と第四クラッチ104とを有した一本の伝動軸とを備え、かつ両伝動軸を並列的に平行に配置した構成を採用して実施してもよい。いずれの場合も、本発明の目的を達成することができる。
【符号の説明】
【0124】
20 無段変速部
30 出力回転体
60,70,140,150,160 遊星伝動機構
62,72 サンギヤ
95,96 伝動軸
101,102,103,104 速度設定クラッチ
180 電動モータ
P 遊星伝動部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン駆動力が入力される無段変速部又は電動モータを備え、
前記無段変速部の出力と前記無段変速部による変速作用を受けないエンジン駆動力とを、又は前記電動モータの出力とエンジン駆動力とを複数の遊星伝動機構によって合成する遊星伝動部を備え、
前記遊星伝動部からの合成駆動力を複数段階の速度レンジに段階分けして、かつ各段階の速度レンジで無段階に変速して出力回転体から出力するよう構成した変速伝動装置であって、
前記遊星伝動部からの合成駆動力を出力する出力ギヤとして、第1出力ギヤとその第1出力ギヤとは異なる別の出力ギヤとを前記遊星伝動機構のサンギヤと同芯状に備え、
複数の速度レンジ設定クラッチの切り換えによって前記遊星伝動部からの合成駆動力を出力する出力ギヤを切り換えて前記複数段階の速度レンジの駆動力に変換して前記出力回転体に伝達する2本の伝動軸を備え、
2本の前記伝動軸の夫々に設けた出力ギヤと噛み合う伝動ギヤを、前記出力回転体に一体回転自在に備え、
前記2本の伝動軸を並列的にかつ平行に配置してある変速伝動装置。
【請求項2】
前記遊星伝動部は、遊星ギヤどうしが噛合った一対の遊星伝動機構を備えて構成してあり、
前記2本の伝動軸が全長にわたって並列している請求項1記載の変速伝動装置。
【請求項3】
前記遊星伝動部からの合成駆動力を出力する別の出力ギヤとして、第2出力ギヤと第3出力ギヤと第4出力ギヤとを備え、
2本の前記伝動軸の一方に、前記第1出力ギヤに噛み合う第1入力ギヤと前記第3出力ギヤに噛み合う第3入力ギヤとを支持してあり、
2本の前記伝動軸の他方に、前記第2出力ギヤに噛み合う第2入力ギヤと前記第4出力ギヤに噛み合う第4入力ギヤとを支持してあり、
前記複数の速度レンジ設定クラッチが噛合いクラッチであり、
前記速度レンジ設定クラッチとして、2本の前記伝動軸の一方に対応して配置された一方の速度レンジ設定クラッチと、2本の前記伝動軸の他方に対応して配置された他方の速度レンジ設定クラッチとを備え、
前記一方の速度レンジ設定クラッチは、前記第1入力ギヤと2本の前記伝動軸の一方とを一体回転させる第1の入り状態と、前記第1入力ギヤと2本の前記伝動軸の一方とを相対回転させる第1の切り状態と、前記第3入力ギヤと2本の前記伝動軸の一方とを一体回転させる第3の入り状態と、前記第3入力ギヤと2本の前記伝動軸の一方とを相対回転させる第3の切り状態とに切換自在であり、
前記他方の速度レンジ設定クラッチは、前記第2入力ギヤと2本の前記伝動軸の他方とを一体回転させる第2の入り状態と、前記第2入力ギヤと2本の前記伝動軸の他方とを相対回転させる第2の切り状態と、前記第4入力ギヤと2本の前記伝動軸の他方とを一体回転させる第4の入り状態と、前記第4入力ギヤと2本の前記伝動軸の他方とを相対回転させる第4の切り状態とに切換自在である請求項1又は2記載の変速伝動装置。
【請求項1】
エンジン駆動力が入力される無段変速部又は電動モータを備え、
前記無段変速部の出力と前記無段変速部による変速作用を受けないエンジン駆動力とを、又は前記電動モータの出力とエンジン駆動力とを複数の遊星伝動機構によって合成する遊星伝動部を備え、
前記遊星伝動部からの合成駆動力を複数段階の速度レンジに段階分けして、かつ各段階の速度レンジで無段階に変速して出力回転体から出力するよう構成した変速伝動装置であって、
前記遊星伝動部からの合成駆動力を出力する出力ギヤとして、第1出力ギヤとその第1出力ギヤとは異なる別の出力ギヤとを前記遊星伝動機構のサンギヤと同芯状に備え、
複数の速度レンジ設定クラッチの切り換えによって前記遊星伝動部からの合成駆動力を出力する出力ギヤを切り換えて前記複数段階の速度レンジの駆動力に変換して前記出力回転体に伝達する2本の伝動軸を備え、
2本の前記伝動軸の夫々に設けた出力ギヤと噛み合う伝動ギヤを、前記出力回転体に一体回転自在に備え、
前記2本の伝動軸を並列的にかつ平行に配置してある変速伝動装置。
【請求項2】
前記遊星伝動部は、遊星ギヤどうしが噛合った一対の遊星伝動機構を備えて構成してあり、
前記2本の伝動軸が全長にわたって並列している請求項1記載の変速伝動装置。
【請求項3】
前記遊星伝動部からの合成駆動力を出力する別の出力ギヤとして、第2出力ギヤと第3出力ギヤと第4出力ギヤとを備え、
2本の前記伝動軸の一方に、前記第1出力ギヤに噛み合う第1入力ギヤと前記第3出力ギヤに噛み合う第3入力ギヤとを支持してあり、
2本の前記伝動軸の他方に、前記第2出力ギヤに噛み合う第2入力ギヤと前記第4出力ギヤに噛み合う第4入力ギヤとを支持してあり、
前記複数の速度レンジ設定クラッチが噛合いクラッチであり、
前記速度レンジ設定クラッチとして、2本の前記伝動軸の一方に対応して配置された一方の速度レンジ設定クラッチと、2本の前記伝動軸の他方に対応して配置された他方の速度レンジ設定クラッチとを備え、
前記一方の速度レンジ設定クラッチは、前記第1入力ギヤと2本の前記伝動軸の一方とを一体回転させる第1の入り状態と、前記第1入力ギヤと2本の前記伝動軸の一方とを相対回転させる第1の切り状態と、前記第3入力ギヤと2本の前記伝動軸の一方とを一体回転させる第3の入り状態と、前記第3入力ギヤと2本の前記伝動軸の一方とを相対回転させる第3の切り状態とに切換自在であり、
前記他方の速度レンジ設定クラッチは、前記第2入力ギヤと2本の前記伝動軸の他方とを一体回転させる第2の入り状態と、前記第2入力ギヤと2本の前記伝動軸の他方とを相対回転させる第2の切り状態と、前記第4入力ギヤと2本の前記伝動軸の他方とを一体回転させる第4の入り状態と、前記第4入力ギヤと2本の前記伝動軸の他方とを相対回転させる第4の切り状態とに切換自在である請求項1又は2記載の変速伝動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−149769(P2012−149769A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−40171(P2012−40171)
【出願日】平成24年2月27日(2012.2.27)
【分割の表示】特願2007−244276(P2007−244276)の分割
【原出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年2月27日(2012.2.27)
【分割の表示】特願2007−244276(P2007−244276)の分割
【原出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]