説明

多官能エポキシシリコーン樹脂、その製造方法及び硬化性樹脂組成物

【課題】貯蔵安定性に優れ、硬化物としたときの常温でのべたつきがなく、強度に優れ、硬化収縮が少なく、透明性を有し、耐光性に優れるLED封止材用樹脂に適した多官能エポキシシリコーン樹脂を提供する。
【解決手段】多官能アルコキシシランモノマーを同時に用いても良いエポキシ基含有トリアルコキシシラン混合モノマーを、ゲル化することなく高分子量化させたのち、末端封止剤を用いて残存アルコキシ基、シラノール基をエンドキャップすることにより得られる架橋性置換基が実質上エポキシ基のみである多官能エポキシシリコーン樹脂及びその製造方法及びこの樹脂を用いた硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多官能エポキシシリコーン樹脂及びそれを必須成分とする光学特性、硬度や耐熱性に優れた熱硬化性樹脂組成物に関し、特に、発光ダイオード(LED)封止に適した硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、電気特性、接着性、耐熱性等に優れることから主に塗料分野、土木分野、電気分野の多くの用途で使用されている。特に、ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル、ビスフェノールF型ジグリシジルエーテル、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等の芳香族エポキシ樹脂は、耐水性、接着性、機械物性、耐熱性、電気絶縁性、経済性などが優れることから種々の硬化剤と組み合わせて広く使用されている。しかし、これらの樹脂は芳香環を含むことから、紫外線等により劣化しやすく、耐候性、耐光性を求められる分野では使用上の制約があった。
【0003】
青色、白色LED装置の分野においては、芳香族を含むエポキシ樹脂組成物を封止材として使用すると、LED素子から放出される光により樹脂が劣化、経時黄変し、輝度が低下するといった問題が生じている。
【0004】
【特許文献1】特許第3537119号公報
【特許文献2】特許第3415047号公報
【特許文献3】特開平9−213997号公報
【特許文献4】特開2000−196151号公報
【特許文献5】特開2003−277473号公報
【特許文献6】特開平10−110102号公報
【特許文献7】特許第3523096号公報
【特許文献8】特開2005−171021号公報
【特許文献9】特開2004−155865号公報
【特許文献10】特開平10−324749号公報
【特許文献11】特表2003−510337号公報
【0005】
特許文献1には、芳香族エポキシ樹脂を水素化して得られる水素化エポキシ樹脂及び硬化剤を含有する電気・電子材料用エポキシ樹脂組成物が開示されている。特許文献2には、芳香族エポキシを水素化して得られる水素化エポキシ樹脂、環状脂肪族エポキシ樹脂及び硬化剤を含有する硬化性エポキシ樹脂組成物が開示されている。特許文献3及び4には、環状オレフィンを酸化して得られる脂環式エポキシ樹脂を配合しエポキシ樹脂組成物が開示されている。特許文献5には、芳香族エポキシ樹脂を水素化して得られるエポキシ当量が230〜1000g/eq.の水素化エポキシ樹脂又は芳香族エポキシ樹脂を水素化して得られる水素化エポキシ樹脂と多価カルボン酸を反応して得られるエポキシ当量が230〜1000g/eq.のエポキシ樹脂と環状オレフィンをエポキシ化して得られる脂環式エポキシ樹脂、酸無水物硬化剤又はカチオン重合開始剤を含有するLED封止用エポキシ樹脂組成物が提案されている。
【0006】
一方、特許文献6には耐候性に優れるシリコーン化合物を主鎖に持つエポキシ化合物を用いた樹脂組成物が開示されている。特許文献7にはヒドロシリル基を持つシリコーン化合物と、ビニル基を有するシリコーン化合物を付加反応、硬化させて得られるLED封止用樹脂組成物が開示されている。特許文献8には分子量500〜2100、エポキシ当量180〜230であることを特徴とする、シリコーン化合物を主鎖にもつエポキシ化合物を用いた光半導体用封止材樹脂組成物が開示されている。特許文献9にはシリコーン骨格を主鎖にもち、脂環式エポキシ化合物、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素を側鎖にもつオリゴマーを用いたLED封止用樹脂組成物が開示されている。
【0007】
特許文献10には、スルフィド結合を有するエポキシ基含有ポリオルガノシルセスキオキサン及びその製造方法が開示されている。特許文献11にはかご型構造及びかご型構造の頂点の一部が開裂した構造を有するエポキシ基含有多面体オリゴマーシリケート化合物が開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
エポキシ樹脂組成物に関しては、耐光性や耐熱性には一定の効果が認められるが、硬化収縮がひどく硬化時に割れを生じやすい等ハンドリング面に問題があるものや、近年のLEDの発光波長の短波長化による劣化には追従し切れておらず、連続使用すると変色を生じて発光出力が低下しやすいために更なる耐熱性、耐光性の改善が求められている。最近では、耐候性に優れるシリコーン樹脂をベースにしたLED封止材の開発が行われており、ヒドロシリル基とオレフィンの付加反応による樹脂組成物や、エポキシ基を有するシリコーン樹脂を、硬化剤を用いて硬化させて得られる樹脂組成物の報告がなされている。
【0009】
しかし、シリコーン樹脂やシリコーン化合物を主鎖に持つエポキシ樹脂の多くは、シリコーン骨格に由来する高い可とう性を持つため、硬化性樹脂組成物としたとき多くが軟質である。このため、使用条件での強度が低く、硬化物でありながら表面にべたつき性を生じやすい。このため、埃の付着等による透明性の劣化や、封止材が形状変化しないよう製造工程でマウンターが封止部分に接触しないような製造方法をとる必要があり、デザインや用途に制限を受ける。また、封止材も多層構造をとるなどの複雑な手法をとる必要があり、量産性や物理的強度にも問題があるのが実情である。また、室温でもポットライフの短い材料が多く、バランスの取れた材料は現在のところ存在していない。
【0010】
シリコーン樹脂の有する耐候性と、エポキシ樹脂の有するハンドリング性が期待されるエポキシ基を有するシリコーン樹脂、たとえば特許文献8、9に記載されているようにエポキシ当量が比較的低いシリコーン化合物は、ヒドロシリルオリゴマーを2重結合を有するエポキシ化合物へ付加反応させて得られるものである。この材料の初期の透明度、各種材料の接着性、及び表面硬度は十分との記載があるが、この付加反応は極めて発熱しやすく、また多くの条件において2重結合への付加反応とエポキシ基同士の付加反応が同時に起こるため制御が難しいという欠点を持つ。また、原料となるヒドロシリルオリゴマーは水、アルコールとの不均化反応を起こしやすく、結果として発生する水素ガスが貯蔵安全性の問題となりやすいという欠点を持つ。
【0011】
一般的なシリコーン樹脂はアルコキシシラン又はハロシランを酸又はアルカリ条件下で縮合反応させて得られる。特に、アルコキシシランは副生成物がハンドリングしやすいアルコールであるため、安全性の面からも原料として好ましく使用されている。シリコーン樹脂を合成する際には塩酸や水酸化アルカリ金属塩などの強酸性あるいは強塩基性を有する試薬を触媒として用いるのが一般的である。
【0012】
しかし、置換基にエポキシ基を有していると、酸性条件下、例えば塩酸を用いた場合では即座にエポキシ環の開環反応が起こり、加水分解性塩素と呼ばれる化合物を生成するため、酸としての触媒が失活しやすい上、エポキシ基を残存させたい場合には好ましくない。また、電子部品として利用する際には加水分解性塩素がワイヤー等金属の腐食原因となるためこの観点からも好ましくない。硫酸などのスルホン酸触媒はエポキシのカチオン重合を併発するため使用することはできない。また、ぎ酸などのカルボン酸などを用いた場合にはエポキシ部位への付加反応がおこり、酸として失活したりエポキシ環の開環反応が起きるため好ましくない。また、水酸化アルカリ金属塩などの強塩基性試薬を用いるとシラノールとエポキシの重合反応が起こりやすくなり、エポキシ部位が開環する上、反応制御も難しく往々にしてゲル化してしまう。
【0013】
特許文献10は高分子量化におけるエポキシ環の開環を回避するため、末端にチオール基を有するトリアルコキシシラン化合物をオルガノポリシルセスキオキサンとした後、α、β不飽和ケトンを有するエポキシ化合物を末端チオール基とマイケル付加反応することにより、エポキシ基を有するオルガノポリシルセスキオキサンを合成している記述がある。しかしコーティング材料に関する記載のみで、光半導体封止用途のような、厚膜硬化における耐熱性、耐光性に関する記載はなくその効果、性能は不明である。
【0014】
特許文献11に記載されているような、かご型構造及びかご型構造の頂点の一部が開裂した構造を有するエポキシ基含有多面体オリゴマーシリケート化合物はすでにハイブリッドプラスチックス社により商品化されている。しかし、これら化合物は一般的に収率が低くそのため価格が非常に高い。加えて多くは固体でなおかつ融点が高いため、LED封止方法として通常用いられているポッティング法やディスペンス法などを通常は採用できず、経済性、量産性において問題がある。
【0015】
また、通常のシロキサン化合物の硬化システムは、特別な架橋性部位をもたない限り基本的に脱水あるいは脱アルコール縮合であり、薄膜硬化では容易に水やアルコールが系外に放出されるため問題とならず、透明で耐候性を有する硬化膜が得られるが、封止材用途に代表される厚膜硬化の場合には系内に残り、硬化物中に泡が発生しやすい。また、気化した水及びアルコールの熱膨張によるクラックを生じるために適さない。加えて、アルコキシ基とシラノール基の反応による経時変化が発生しやすく、往々にして保存安定性が問題視される。
【0016】
このように、耐候性に優れるシリコーン樹脂をベースにしても、経済性、LED封止材に要求される物性の両方を完全に満たしているものは得られておらず、貯蔵安定性、封止材とした時に十分な硬度を有し、耐UV性に優れ、ポッティングやディスペンス法等、エポキシ樹脂と同様の量産性、ハンドリング性を有し、経済的な価格で入手することのできる材料が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題、つまり、封止工程に制限を設けることのないよう、常温でハンドリングしやすい液体であり、ポットライフがエポキシと同等程度で、貯蔵安定性が良好で、硬化物は硬質で泡の発生がなく、硬化収縮が少なく、硬化物の表面にべたつきがなく、耐UV性に優れるLED封止材用樹脂を作るべく、エポキシ環を分子中に含むアルコキシシランに着目し、エポキシ環を開環させることなくアルコキシシランを高分子量化させ、硬化時に水やアルコールが副生しない材料の検討を重ねた。この結果、エポキシ基を有するトリアルコキシシランを原料とし、水及び酸性触媒又は塩基性触媒を用いてエポキシ基を損することなくトリアルコキシシランを重合させ、末端封止材を用いて残存するアルコキシ基及びシラノール基を不活性化させることで、貯蔵安定性に優れ、架橋性置換基が実質上エポキシ基のみである多官能エポキシシリコーン樹脂が得られた。そして、該樹脂を用いることで、硬化物としたときの常温でのべたつきがなく、強度に優れ、硬化収縮が少なく、透明性を有し、耐光性に優れる硬化性樹脂組成物が与えられることを見出し、本発明に至った。
【0018】
すなわち、本発明は、一般式(1)又は一般式(2)
【化1】

(式中、R1は炭素数1〜10の環状構造を有していてもよい炭化水素基又は芳香族基を示し、R2とR3は独立に炭素数1〜10の炭化水素基を示し、内部にエーテル結合性酸素原子を1〜2個有していてもよい。)で表されるエポキシ基含有トリアルコキシシランモノマーの少なくとも1種を、水及び酸性触媒又は塩基性触媒の少なくとも1種を用いて高分子量化させた後、一般式(3)又は一般式(4)
【化2】

(式中、R1は一般式(1)における説明と同義であり、Bは酸素原子あるいはNH基を示す。)で表される末端封止剤を用いて残存アルコキシ基及びシラノール基を酸性条件下でエンドキャップすることを特徴とする多官能エポキシシリコーン樹脂の製造方法である。
【0019】
ここで、一般式(9a)で表される多官能アルコキシシランモノマー
SiR1(4-n)(OR1)n (9a)
(R1は一般式(1)における説明と同義であり、nは2から4の整数を表す)を、エポキシ基含有トリアルコキシシランモノマーと共に使用することができる。
【0020】
また、本発明は、一般式(1)及び(2)で表されるエポキシ基含有トリアルコキシシランモノマーの合計(E1)、及び一般式(9)
【化3】

(式中、R1は一般式(1)における説明と同義である)
で表されるエポキシ基非含有トリアルコキシシランモノマーの合計(E0)を、E1:E0=100〜20mol%:0〜80mol%となるように混合したシランモノマー含有溶液と水を用い、酸性触媒下で加水分解、部分縮合反応を行った後、アルカリ性触媒下で縮合を進め、最後に末端封止剤を用いてエンドキャップする上記の多官能エポキシシリコーン樹脂の製造方法である。
【0021】
上記の多官能エポキシシリコーン樹脂の製造方法において、次の条件の1以上を満足することは好ましい製造方法となる。1)シランモノマー含有溶液と水を用い、アルカリ性触媒下で加水分解、縮合反応を進め、最後に末端封止剤を用いてエンドキャップすること、2)酸性触媒下で加水分解、部分縮合反応を行い、アルカリ性触媒下で縮合を進める反応の際に用いる水の量が、シランモノマー含有溶液中のシランモノマー1molに対し、合計で2.5mol未満であること、3)アルカリ性触媒下で縮合を進める反応の際に用いる水の量が、シランモノマー含有溶液中のシランモノマー1molに対し、2.5mol以下であること、4)酸性触媒として用いる化合物が、リン酸又はその誘導体から選ばれる少なくとも1つであること、5)アルカリ性触媒として用いる化合物が、アルカリ金属炭酸塩又はアルカリ土類金属炭酸塩から選ばれる少なくとも1つであること、6)末端封止材を用いて行う反応が、酸性化合物を存在させる酸性条件下で行われること、7)末端封止反応の際に用いる酸性化合物が、リン酸又はその誘導体から選ばれる少なくとも1つであること。
【0022】
更に、本発明は、上記一般式(1)又は一般式(2)で表されるエポキシ基含有トリアルコキシシランモノマーを少なくとも1種用い、ゲル化することなく高分子量化させた後、上記一般式(3)又は一般式(4)で表される末端封止剤を用いて残存アルコキシ基及びシラノール基をエンドキャップすることにより得られる一般式(5)
(OM)n+2(SiX)nOn-1 (5)
(式中、Mは一般式(6)で表わされる基を示し、nは2〜10000の整数であり、XはR1、一般式(7)又は一般式(8)で表わされる基を示す。n個のXは同一であっても、異なってもよいが、R1のみで構成されることはない。R1、R2及びR3は一般式(1)及び一般式(2)における説明と同義である。)
【化4】

で表される構造を含み、架橋性置換基が実質上エポキシ基のみであることを特徴とする多官能エポキシシリコーン樹脂である。
【0023】
上記多官能エポキシシリコーン樹脂は、一般式(5)における、X中の一般式(7)及び一般式(8)で表わされる基の合計A1とR1の構成比率が、A1:R1=100〜20mol%:0〜80mol%であり、エポキシ当量が180g/eq.〜1000g/eq.であること、又は、一般式(1)〜(6)におけるR1が、メチル基であることが好ましい。
【0024】
また、本発明は、上記の多官能エポキシシリコーン樹脂に、硬化剤、必要に応じて硬化促進剤を加え、加熱硬化することにより得られる硬化樹脂組成物である。硬化樹脂組成物を得る際に、カチオン系硬化触媒を加えること、有利には熱カチオン系硬化触媒を加えること、より有利にはスルホニウムアンチモネート塩化合物を加えることが望ましい。
【0025】
本発明の多官能エポキシシリコーン樹脂は、一般式(1)あるいは一般式(2)で表されるエポキシ基含有トリアルコキシシランモノマーを少なくとも1種以上用いてなる原料から合成される。この際、一般式(9a)で表される多官能アルコキシシランモノマーを同時に用いてもよい。
【0026】
多官能アルコキシシランモノマーとは、エポキシ基を含まない2官能〜4官能、好ましくは2官能〜3官能のアルコキシシランモノマーを示す。この多官能アルコキシシランモノマーは、樹脂中のエポキシ基数を調節する目的で、一般式(1)、(2)で表されるエポキシ基含有トリアルコキシシランと混合してもよく、その混合溶液は本発明の多官能エポキシシリコーン樹脂の原料とすることができる。
【0027】
2官能のエポキシ基非含有アルコキシシランモノマーとしては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジイソプロピルジエトキシシラン、ジーn―ブチルジメトキシシラン、ジーn―ブチルジエトキシシラン、ジーi−ブチルジメトキシシラン、ジーi−ブチルジエトキシシラン、ジヘキシルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン等が挙げられる。これらジアルコキシシランモノマーは、必要に応じて2種以上を使用しても良い。2官能のエポキシ基非含有アルコキシシランモノマーを混合溶液として用いる場合、用いる量としては、エポキシ基含有トリアルコキシシランモノマー1molに対し3mol未満であれば、LED封止材として好ましい物性を有する多官能エポキシシリコーン樹脂を得ることができる。好ましい2官能のエポキシ基非含有アルコキシシランモノマーは、入手の容易性、保存安定性、硬化物としたときの物性から、ジメチルジメトキシシランである。
【0028】
3官能のエポキシ基非含有アルコキシシランモノマーは、上記一般式(9)で表される。3官能のエポキシ基非含有アルコキシシランモノマーとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、n―ブチルトリメトキシシラン、n―ブチルトリエトキシシラン、i−ブチルトリメトキシシラン、i−ブチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらトリアルコキシシランモノマーは、必要に応じて2種以上を使用しても良い。3官能のエポキシ基非含有シランモノマーを用いた場合、一般式(9)のけい素原子に直接結合しているR1が一般式(5)のX中のR1となる。つまり、3官能のエポキシ基非含有アルコキシシランモノマーを含有溶液として用いる場合、これを適量用いれば、LED封止材として好ましい物性を有する多官能エポキシシリコーン樹脂を得ることができる。好ましい2官能のエポキシ基非含有アルコキシシランモノマーは、入手の容易性、保存安定性、硬化物としたときの物性から、メチルトリメトキシシランである。
【0029】
4官能のエポキシ基非含有アルコキシシランモノマーとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどが挙げられ、必要に応じて2種以上用いても良い。4官能のエポキシシランモノマーを含有溶液として用いる場合、エポキシ基含有トリアルコキシシランモノマー1molに対し0.1mol未満程度である。
【0030】
上記のエポキシ基非含有多官能シランモノマーの代わり、あるいは併用する形態で、縮合反応における分子量制御や本発明の多官能エポキシシリコーン樹脂を用いた硬化樹脂組成物の諸物性を改善する目的で、エポキシ基を含むジアルコキシシランモノマーを用いても良い。
【0031】
エポキシ基を含むジアルコキシシランモノマーとしては、γ―グリシドキシプロピルーメチルジメトキシシラン、γ―グリシドキシプロピルーメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルーメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルーメチルジエトキシシラン、γ―グリシドキシプロピルーエチルジメトキシシラン、γ―グリシドキシプロピルーエチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルーエチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルーエチルジエトキシシラン、γ―グリシドキシプロピルーフェニルジメトキシシラン、γ―グリシドキシプロピルーフェニルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルーフェニルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルーフェニルジエトキシシラン等が挙げられ、必要に応じて2種以上用いても良い。
【0032】
一般式(1)、(2)で表されるエポキシ基含有トリアルコキシシラン中のR1で表される置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基。ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、デシル基などの直鎖状炭化水素、シクロヘキシル基などの脂肪族炭化水素基、フェニル基などの芳香族炭化水素基を表す。
【0033】
一般式(1)中のR2、及び一般式(2)におけるR3は、それぞれメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基等の2価の炭化水素基、オキシメチレン基、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、−(CH23−O−(CH22−O−、−(CH23−O−(CH23−O−、等の内部にエーテル性酸素原子を1〜2個有する2価の炭化水素基が挙げられる。ここで、各々のR2及びR3はそれぞれ同一でも異なっていても良い。好ましい置換基は、価格面、入手の容易性、保存安定性、硬化物としたときの物性から、R1がメチル基、一般式(1)におけるR2が−(CH23−O−、一般式(2)におけるR3がエチレン基で表される置換基である。
【0034】
本発明のエポキシシリコーン樹脂は、多官能アルコキシシランモノマーを同時に用いてもよいエポキシ基含有トリアルコキシシランモノマーを、ゲル化することなく高分子量化させた後、上記一般式(3)あるいは一般式(4)のいずれかで表される末端封止剤を用いて残存アルコキシ基、シラノール基をエンドキャップすることで得られる。
【0035】
一般式(3)、(4)で表される末端封止材としては、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシラザン等の化合物が挙げられ、必要に応じて2種以上用いても良い。好ましい化合物は、末端封止反応性、入手の容易性などから、トリメチルメトキシシランである。
【0036】
本発明の多官能エポキシシリコーン樹脂は、多官能アルコキシシランモノマーを同時に用いてもよいエポキシ基含有トリアルコキシシランモノマーを原料とし、高分子量化させ、末端封止剤を用いて残存アルコキシ基、シラノール基をエンドキャップすることにより、上記一般式(5)で表される構造を必ず含み、架橋性置換基が実質上エポキシ基のみである。
【0037】
特に、一般式(9)で表されるエポキシ基非含有トリアルコキシシランモノマーを用いた場合、一般式(5)における複数のX中のA1(一般式(5)及び(8)で表される基の合計)及びR1の構成比率(モル比)を、A1:R1=99.99%〜20%:0.01〜80%、好ましくはA1:R1=95%〜50%:5〜50%となるように一般式(1)、(2)及び(9)で表されるシランモノマーを混合することがよい。
【0038】
この比率で高分子量化、末端封止反応を行うことで、一般式(5)で表されるXにおけるA1:R1=99.99〜20%:0.01〜80%、好ましくはA1:R1=95〜50%:5〜50%となる多官能エポキシシリコーン樹脂を得ることができる。このモル比率で得られる多官能エポキシシリコーン樹脂は、エポキシ基含有トリアルコキシシランモノマー単体を原料とした場合、つまりR1=0%の場合より、硬化物の熱安定性を改善することができる。R1の置換比率が0.01%以下だと、熱安定性の改善が殆んどなく、またR1の置換比率が80%を超えると、樹脂中のエポキシ基の濃度が低くなり、硬化した際の硬化性樹脂組成物が軟質となり、本発明の効果が得られなくなる。なお、ここでいうR1は、一般式(9)で表されるエポキシ基非含有トリアルコキシシランモノマーに由来するR1をいう。
【0039】
また、2官能のエポキシ基非含有アルコキシシランモノマーを、シランモノマー含有溶液に配合する原料として用いることもできる。この場合、用いる量としては、エポキシ基含有トリアルコキシシランモノマー1molに対し3mol未満、つまり、一般式(5)で表される多官能エポキシシリコーンが25%以上樹脂中に存在する量であれば、LED封止材として好ましい物性を有する多官能エポキシシリコーン樹脂を得ることができる。一般式(5)で表される多官能エポキシシリコーンが樹脂中に存在する量として25%未満の場合、樹脂中のエポキシ基の濃度が低くなり、硬化した際の硬化性樹脂組成物が軟質となり、本発明の効果が得られなくなる。
【0040】
4官能のアルコキシシランモノマーを、シランモノマー含有溶液に配合する原料として用いることもできる。含むシランモノマー含有溶液として原料に用いることもできる。この場合、エポキシ基含有トリアルコキシシランモノマー1molに対し0.1mol未満程度であれば、本発明の範囲を損なわない多官能エポキシ樹脂を合成することができる。0.1mol%を超える場合、高分子量化反応においてゲル化が進行するため好ましくない。
【0041】
また、本発明の効果を損なわない程度であれば、2〜4官能のエポキシ基非含有アルコキシシランモノマーをあらかじめ酸性あるいは塩基性触媒で縮合反応を行った後、シランモノマー含有溶液に配合し、本発明による製造方法により多官能エポキシシリコーン樹脂を合成することもできる。
【0042】
また、本発明の効果を損なわない程度で、分子量を制御する目的で、一般式(3)で表される末端封止材を高分子量化反応に用いても良い。ただし、この場合についても最後に末端封止反を行うことで本発明の多官能エポキシシリコーン樹脂とする。
【0043】
本発明における多官能エポキシシリコーン樹脂は、一般式(5)中のnが2〜10000の整数であり、好ましくはnが4〜1000である。この範囲にある樹脂であることで、室温での貯蔵安定性に優れ、作業中に加温する工程が存在しても著しく増粘してハンドリングが困難となることのない樹脂が得られる。nが1の場合は、樹脂内に未反応のシランモノマーが存在している場合であり、硬化した際硬質な樹脂が得られにくい。また、10000以上の場合は、シラン化合物を高分子量化した際分子量を上げすぎた場合で、ハンドリングが困難な粘度となり、硬化剤や硬化促進剤、カチオン硬化触媒を均一に混ぜ込むことが困難となる。また、硬化しても非常に割れやすいなど、本発明の効果を得ることができない。
【0044】
本発明の多官能エポキシシリコーン樹脂は、エポキシ当量が180〜1000g/eq.の範囲であり、180〜500g/eq.であることが好ましい。この範囲のエポキシ当量であることで、厚膜硬化した際に硬度の高い樹脂組成物が得られる。エポキシ当量が180g/eq.未満の樹脂は実質合成上不可能である。エポキシ当量が1000g/eq.以上の樹脂はX中のR1の数が多い場合や、シラノールとエポキシ基が反応して分子内のエポキシ基が少なくなった場合であり、樹脂中のエポキシ基の濃度が低くなり、硬化した際の硬化性樹脂組成物が軟質となり、本発明の効果が得られなくなる。
【0045】
本発明の多官能エポキシシリコーン樹脂の高温時における不揮発分についてはとくに制限されないが、常圧で125℃の環境下で1時間放置した後の不揮発分が、95%以上であることが好ましい。この特徴を示す多官能エポキシシリコーン樹脂は、室温での貯蔵安定性に優れ、作業中に加温する工程が存在しても著しく増粘してハンドリングが困難となることなく、硬化物中に泡が発生することなく耐UV性に優れる樹脂を得ることができる。不揮発分が95%以下の場合は、室温で一定時間の貯蔵安定性には優れるものの、加温すると徐々に増粘が見られたり、皮バリ現象と呼ばれる、液面が膜を作る現象を生じるなど貯蔵安定性に劣る。また、厚膜硬化した後、硬化物中に気泡が生じたり、耐UV性が悪くなるなど、本発明の効果が得られなくなる。
【0046】
以下、本発明の多官能エポキシシリコーン樹脂の製造方法の実施形態について詳細に説明する。
【0047】
本発明の多官能エポキシシリコーン樹脂は、上記一般式(1)あるいは一般式(2)で表されるエポキシ基含有トリアルコキシシランモノマー(E1)を少なくとも1種以上用いてなる原料と、一般式(9)で表されるエポキシ基非含有トリアルコキシシランモノマー(E0)からなる、E1とE0の混合比率がE1:E0=100〜20mol%:0〜80mol%であるシランモノマー含有溶液と水を用い、酸性触媒下で加水分解、縮合反応を行った後、アルカリ性触媒下で縮合を進め、最後に末端封止剤を用いて合成されることを特徴とする。また、酸性触媒下を用いることなく、アルカリ性触媒下で反応を進めて高分子量化することを特徴とする。
【0048】
一般式(5)中、Xが上記一般式(7)又は一般式(8)で表される、エポキシを有するアルコキシシランは、トリクロロシランとメタノールあるいはエタノールを反応させ、次いでアリルグリシジルエーテルやビニルシクロヘキセンオキシドを白金触媒下付加反応させることで得ることができるがこれらに限定されるものではない。また、エポキシ基の濃度を調整する目的で、一般式(9)、経済性、耐光性の面から好ましくはR1がメチル基であるアルコキシシランを原料と併用することで分子内のエポキシ基を制御した多官能エポキシシリコーン樹脂を合成することができる。このとき、一般式(5)において、複数のX中のA1及びR1の構成比率を、A1:R1=99.99%〜20%:0.01〜80%、好ましくはA1:R1=95%〜50%:5〜50%となるように一般式(1)、(2)、(9)で表されるシランモノマーを混合する。
【0049】
シリコーン樹脂については、反応時の基質濃度、反応温度、系内のpH、用いる水の量、触媒種、触媒濃度及び溶媒によって、分子量分布や構造の異なる樹脂ができ上がることが一般的に知られている。
【0050】
本発明における多官能エポキシシリコーン樹脂は、酸性触媒下で加水分解、縮合反応を行った後、アルカリ性触媒下で縮合を進める反応により得られる。また、酸性触媒下を用いることなく、アルカリ性触媒下で反応を進めることで得ることもできる。本発明における方法では、酸性触媒下で加水分解、縮合反応を行った後、アルカリ性触媒下で縮合を進める方法を用いた場合には比較的分子量の高い、すなわち粘度の高い多官能エポキシシリコーン樹脂が得られる。一方、酸性触媒下を用いることなく、アルカリ性触媒下で反応を進める方法を用いた場合には比較的分子量の低い、すなわち粘度の低い多官能エポキシシリコーン樹脂が得られる。つまり、当業者に好ましい粘度に対応する多官能エポキシシリコーン樹脂を選択的に製造することができる。特に、本発明における多官能エポキシシリコーン樹脂を用いた硬化性樹脂組成物が高温下の環境に曝される場合、熱クラックの観点からアルカリ性触媒下のみで高分子量化を進める方法を用いて得られる化合物を使用することが望ましい。酸性触媒下のみで縮合を行うと、比較的低分子量の多官能エポキシシリコーン樹脂が得られるが、末端封止反応において完全にシラノール基が反応せず、触媒除去等の理由で水洗を行うと、水層に樹脂が溶け込み、収率が悪くなるため好ましくない。
【0051】
多官能エポキシシリコーン樹脂を製造する方法において、酸性触媒下で加水分解、縮合反応を行った後、アルカリ性触媒下で縮合を進めることで高分子量化する方法を用いる際には、高分子量化の際に用いる水の量が、一般式(1)、(2)、(9)のいずれかで表される化合物の合計mol数に対し、合計で2.5倍mol未満で反応を行うことがよい。この範囲の水の量を用いることで、ゲル化を生じることなく、安定的に多官能エポキシシリコーン樹脂を得ることができる。2.5倍mol以上の水を用いるとアルカリ性触媒下で縮合を進める反応の際に樹脂がゲル化しやすくなり、ゲル化しなくとも粘度の非常に高いゴム状の樹脂となり、ハンドリングが困難となるため好ましくない。
【0052】
多官能エポキシシリコーン樹脂を製造する方法において、酸性触媒を用いることなく、アルカリ性触媒下で縮合を進めることで高分子量化する方法を用いる際には、高分子量化の際に用いる水の量が、一般式(1)、(2)、(9)で表される化合物の合計mol数に対し、合計で2.5倍mol未満で反応を行うことを特徴とする。この範囲の水の量を用いることで、ゲル化を生じることなく、安定的に多官能エポキシシリコーン樹脂を製造することができる。2.5倍mol以上の水を用いると、樹脂がゲル化しやすくなり、ゲル化しなくとも粘度の非常に高いゴム状の樹脂となり、ハンドリングが困難となるため好ましくない。
【0053】
多官能エポキシシリコーン樹脂を製造する方法において、一般式(9)以外のエポキシ基非含有アルコキシシランモノマー、すなわち2官能アルコキシシランモノマーや4官能アルコキシシランモノマーを原料として用いる場合も同様に、エポキシシランモノマーと混合した際の合計合計mol数に対し、合計で2.5倍mol未満で反応を行うことを特徴とする。この範囲の水の量を用いることで、一般式(9)のモノマーを用いたときと同じく、ゲル化を生じることなく、安定的に多官能エポキシシリコーン樹脂を製造することができる。2.5倍mol以上の水を用いると、樹脂がゲル化しやすくなり、ゲル化しなくとも粘度の非常に高いゴム状の樹脂となり、ハンドリングが困難となるため好ましくない。
【0054】
本発明における多官能エポキシシリコーン樹脂を製造する方法において、酸性触媒を用いる際には、リン酸又はその誘導体のうち少なくとも1つ以上用いることで、エポキシ環が開環することなく加水分解、縮合反応を行うことができる。
【0055】
リン酸誘導体としては、たとえば次亜リン酸、亜リン酸、ピロリン酸、フルオロリン酸、オルソリン酸、メタリン酸、ポリリン酸、ウルトラポリリン酸及びそれらの一部がアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムイオン等と塩になっている酸性化合物等が挙げられ、必要に応じて2種以上用いても良い。好ましい化合物は、リン酸、メタリン酸、ポリリン酸である。
【0056】
上記触媒はそれぞれ単独で、あるいは溶解する溶媒にあらかじめ溶解させておき、しかる後反応系内に投入してもよい。上記触媒の使用割合は、原料となるアルコキシシラン化合物に対して、通常0.0001〜1重量%、好ましくは0.001〜0.5重量%である。
【0057】
本発明における多官能エポキシシリコーン樹脂を製造する方法において、塩基性触媒を、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩のうち少なくとも1つ以上用いることで、エポキシ環とシラノール基が重合してゲル化を引き起こすことなく、エポキシ基を有したまま縮合反応を行うことができる。
【0058】
アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩としては、たとえば、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸水素ルビジウム、炭酸セシウム、炭酸水素セシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸水素ストロンチウムの無水物及び水和物が挙げられ、必要に応じて2種以上用いても良い。好ましい化合物は、炭酸カリウムである。
【0059】
上記触媒はそれぞれ単独で、あるいは溶解する溶媒にあらかじめ溶解させておき、しかる後反応系内に投入してもよい。上記触媒の使用割合は、原料となるアルコキシシラン化合物に対して、通常0.0001〜1重量%、好ましくは0.001〜0.5重量%である。ただし、酸性触媒下で部分縮合した後に投入する際には、pHが7以上となるように加える必要がある。
【0060】
本発明における多官能エポキシシリコーン樹脂は、縮合反応を行った後、末端封止剤を用いて残存するアルコキシ基及びシラノール基を、不活性基に置換する末端封止反応を行うことで達成されることを特徴とする。この反応を行うことで、実質上エポキシ基以外の架橋性置換基を有さない多官能エポキシシリコーン樹脂を得ることができる。
【0061】
本発明で使用する末端封止剤は、一般式(3)あるいは一般式(4)で表される化合物のうち、少なくとも1つ以上から選ばれる。
【0062】
一般式(3)、(4)で表される末端封止材としては、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシラザン等の化合物が挙げられ、必要に応じて2種以上用いても良い。好ましい化合物は、末端封止反応性、入手の容易性などから、トリメチルメトキシシランである。
【0063】
本発明における末端封止反応は、酸性条件下で行うことを特徴とする。酸性条件下で反応を行うことで、常温での保存安定性に優れ、高温環境下に置いたときに急激な増粘や皮バリ現象を起こすことなく、ハンドリングに優れた粘度を有する、多官能エポキシシリコーン樹脂を得ることができる。塩基性条件下で末端封止反応を行うと、反応が完全に起こらず、常温での保存安定性には優れるものの、高温環境下で残存するアルコキシ基やシラノール基が縮合反応を起こし、大きく増粘したり皮バリ現象を起こすなど貯蔵安定性に問題を生じる。また、硬化性樹脂組成物としたとき、硬化物中に泡が発生したり、耐UV性が悪くなるなどの問題も生じる。
【0064】
本発明における末端封止反応を行う上で、酸性条件下とさせる際に用いる化合物は、高分子量化の際に用いる酸性触媒と同じ化合物、つまりリン酸及びその誘導体を用いることを特徴とする。これらの化合物を用いることで、エポキシ環を保ったまま末端封止反応を行うことができる。
【0065】
末端封止反応における末端封止材の投入量はとくに制限されないが、縮合反応により反応系内のアルコキシ基が減少していくことを考えると、原料として使用したシランモノマー中のアルコキシ基のモル数に対して等モルも加えれば十分である。
【0066】
上記触媒はそれぞれ単独で、あるいは溶解する溶媒にあらかじめ溶解させておき、しかる後反応系内に投入してもよい。上記触媒の使用割合は、原料となるエポキシ基含有トリアルコキシシラン化合物に対して、通常0.0001〜1重量%、好ましくは0.001〜0.5重量%である。加えて、反応系内が酸性となるに足る量を使用することとする。
【0067】
本発明における末端封止反応において、単独で投入しても末端封止反応は進行するが、反応を促進させるために水を追加投入することが好ましい。このとき、水の使用割合は、原料となるアルコキシシラン化合物に対して0.01mol〜10mol,好ましくは0.1mol〜3molの範囲である。
【0068】
上記の縮合、高分子量化反応及び末端封止反応は、無溶媒で行うことができるが、反応制御の観点から、反応に悪影響を与えない希釈溶媒を用いることが好ましい。この希釈溶媒の例としては、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノンなどの脂肪族ケトン類、ベンゼン、トルエン、オルトキシレン、メタキシレン、パラキシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの芳香族類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどの脂肪族アミド類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類が挙げられる。これらの有機溶媒は、2種以上を選択して混合溶媒として使用してもよい。反応温度により、溶媒種は選択可能であるが、好ましい溶媒は脂肪族ケトン類及びエーテル類である。
【0069】
この合成反応での温度条件については、特に制限されないが、通常20℃〜150℃、好ましくは30℃〜90℃である。20℃以下では反応が非常に遅く経済的ではない。また、150℃以上になるとゲル化するなど反応制御が難しくなる。
【0070】
本発明の多官能エポキシシリコーン樹脂は、エポキシ基と反応性を有する硬化剤と、必要に応じて硬化剤との反応に有効な硬化促進剤、その他の添加剤を配合して熱硬化性樹脂組成物とすることができる。この多官能エポキシシリコーン樹脂組成物は、熱処理を施すことで、透明性に優れる硬化樹脂を与える。
【0071】
硬化剤としては、公知のものであれば種々の化合物を適用できる。例えば、有機アミン化合物、ジシアンジアミド及びその誘導体、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール及びその誘導体、ビスフェノールA、ビスフェノールF、臭素化ビスフェノールA、ナフタレンジオール、4,4’−ビフェノールなどの2価フェノール化合物、フェノールやナフトール類とホルムアルデヒドあるいはキシリレングリコール類との縮合反応により得られるノボラック樹脂あるいはアラルキルフェノール樹脂、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、メチル化無水ヘキサヒドロフタル酸、無水ナジック酸、水素化無水ナジック酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸などの酸無水物化合物、アジピン酸ヒドラジドなどのヒドラジド化合物を適用することができ、必要に応じて2種類以上を用いてもよい。得られる
熱硬化性樹脂組成物の均質性、透明性、硬度、耐UV性等の物性を考えると、好ましい硬化剤は酸無水物硬化物、更に好ましくは無水ヘキサヒドロフタル酸、メチル化無水ヘキサヒドロフタル酸、水素化無水ナジック酸である。
【0072】
硬化剤との反応に有効な硬化促進剤としては、公知のものであれば種々の化合物を適用できる。例えば、3級アミン及びその塩類、イミダゾール類及びその塩類、有機ホスフィン化合物及びその塩類、オクチル酸亜鉛、オクチル酸スズなどの有機金属塩が挙げられ、必要に応じて2種類以上を用いてもよい。好ましい硬化促進剤は、3級アミン及びその塩類、有機ホスフィン化合物及びその塩類であり、特に好ましい触媒は有機ホスフィン化合物及びその塩類である。
【0073】
本発明の多官能エポキシシリコーン樹脂は、カチオン系硬化触媒、特に熱カチオン性硬化触媒を用いても、透明性、硬度、耐UV性の優れた熱硬化性樹脂組成物を得ることができる。
【0074】
熱カチオン性硬化触媒としては、公知のものであれば種々の化合物を適用できる。例えば、スルホニウムカチオン、ヨードニウムカチオンを有する有機カチオン分子と、テトラフルオロほう素アニオン、ヘキサフルオロリンアニオン、ヘキサフルオロひ素アニオン、ヘキサフルオロアンチモンアニオン等のルイス酸性を有するアニオン種で構成されているオニウム塩化合物等が挙げられる。この中で、スルホニウムカチオンを有する有機カチオン分子とヘキサフルオロアンチモンアニオンで構成されているオニウム塩を用いることが望ましい。
【0075】
本発明における熱硬化性樹脂をLED封止用途として使用する際には、酸化防止剤を配合し、加熱時の酸化劣化を防止し着色の少ない硬化物とすることが好ましい。
【0076】
酸化防止剤としては公知のものであれば種々の化合物を適用できる。例えば、2,6−tert−ブチル−p−クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6−tert−ブチル-p-エチルフェノール、ステアリル−β−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどのモノフェノール類、2,2−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)などのビスフェノール類、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどの高分子型フェノール類、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−(3,5−ジ−tert−ブチル4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−デシロキシ−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドなどのオキサホスファフェナントレンオキサイド類が挙げられる。これらの酸化防止剤は必要に応じて2種類以上を用いてもよい。
【0077】
また、本発明の多官能エポキシシリコーン樹脂は他の熱硬化性樹脂に配合して組成物とすることもできる。熱硬化性樹脂として本発明の多官能エポキシシリコーン樹脂と共に使用される樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性アクリル樹脂、熱硬化性アミノ樹脂、熱硬化性メラミン樹脂、熱硬化性ウレア樹脂、熱硬化性ウレタン樹脂、熱硬化性オキセタン樹脂、熱硬化性エポキシ/オキセタン複合樹脂等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【発明の効果】
【0078】
本発明の多官能エポキシシリコーン樹脂は、常温でハンドリングしやすい液体であり、貯蔵安定性に優れ、高温環境下でも著しい増粘や皮バリ現象を起こさず安定性に優れる。また、本発明の多官能エポキシシリコーン樹脂を用いた熱硬化性樹脂組成物は、常温でべたつきがなく硬質であり、均質なおかつ透明で耐光性に優れる硬化物を与える。したがって、本発明のエポキシ樹脂及びエポキシ樹脂組成物は、塗料、コーティング剤、印刷インキ、レジストインキ、接着剤、半導体封止材等の電子材料分野、成型材料、注型材料及び電気絶縁材料分野に有用である。特に、LED分野において有用であり、LED封止用熱硬化性樹脂組成物として優れる。
【実施例】
【0079】
次に、本発明を合成例、実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0080】
実施例1
2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(KBM−303:信越化学(株)製)82.13重量部(0.33mol)、アセトン35.2重量部、を温度計、冷却管、窒素導入管、攪拌翼の付いた1Lの4つ口セパラブルフラスコに投入した。この溶液を撹拌しながら水5.05重量部、5%リン酸水溶液1.31重量部(水の投入量、合計0.353mol,リン酸として6.68×10-4mol)を加え、マントルヒーターを用いて60℃に加温し、そのまま2時間撹拌を続けた。溶液を30℃に冷却し、アセトン35gを投入、ついで5%炭酸カリウム水溶液を3.48重量部(水の投入量、合計0.546mol、炭酸カリウムとして1.26×10-3mol)を投入した。pHが9弱であることを確認した後、溶液を45℃に加温し、そのまま1時間撹拌した。原料であるKBM−303がGPC上で消失したのを確認し、ついで5%リン酸水溶液を5.3重量部投入し、pHが4弱であることを確認した後、トリメチルメトキシシラン(Zー6013:東レ・ダウコーニング(株)製)を100.5重量部(0.97mol)投入し、溶液を55℃に加温した。3時間撹拌を続けた後、トルエン195重量部、水95重量部を加え撹拌し、静置して水層を取り除く水洗作業を、水層が中性になるまで繰り返し行った。有機層を取り出し、エバポレーターを用いて、65℃で溶媒を減圧留去し、内温を維持したまま真空ポンプで内圧5mmHgの条件で30分真空乾燥を行った。このようにして、エポキシ当量が235g/eq.である多官能エポキシシリコーン樹脂(ESQ1)62重量部を得た。
【0081】
実施例2
3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−403:信越化学(株)製)229.68重量部(0.825mol)、アセトン100重量部、水12.63重量部、5%リン酸水溶液3.26重量部、5%炭酸カリウム7.64重量部(水の投入量、合計1.31mol)、末端封止剤との反応に用いた5%リン酸水溶液13.25重量部、トリメチルメトキシシラン260重量部(2.50mol)を用いた以外は合成例1と同様にして反応を行った。このようにして、エポキシ当量が188g/eq.である多官能エポキシシリコーン樹脂(ESQ2)131重量部を得た。
【0082】
実施例3
KBM−303を205.33重量部(0.83mol)、ジオキサンを87重量部、を温度計、冷却管、窒素導入管、攪拌翼の付いた1Lの4つ口セパラブルフラスコに投入した。撹拌しながら水4.48重量部、5%炭酸カリウム水溶液14.66重量部(水の投入量、合計1.06mol)を加え、マントルヒーターを用いて80℃に加温し、そのまま3時間撹拌を続けた。内温を50℃まで冷却した後、トリメチルメトキシシラン260重量部を投入し、ついで5%リン酸水溶液21.58重量部を投入した。内温を55℃に加温し、3時間撹拌を続けた。ついでトルエン205重量部、水170重量部を加え撹拌し、静置して水層を取り除く水洗作業を、水層が中性になるまで繰り返し行った。有機層を取り出し、エバポレーターを用いて、65℃で溶媒を減圧留去し、内温を維持したまま真空ポンプで内圧5mmHgの条件で30分真空乾燥を行った。このようにして、エポキシ当量が228g/eq.である多官能エポキシシリコーン樹脂(ESQ3)177重量部を得た。
【0083】
実施例4
一般式1中のXのA1とR1の比率が1:1になるように、KBM−303を123.2重量部(0.5mol)、メチルトリメトキシシラン(KBM−13:信越化学(株)製)を68.0重量部(0.5mol)、を混合して温度計、冷却管、窒素導入管、攪拌翼の付いた1Lの4つ口セパラブルフラスコに投入した。ついでジオキサン82重量部、水5.4重量部、5%炭酸カリウム水溶液17.66重量部(水の投入量、合計1.28mol)を用いて合成例3と同様に高分子量化反応を行った。ついでトリメチルメトキシシラン312重量部(3.00mol)、5%リン酸水溶液を25.1重量部用い、合成例3と同様に末端封止反応、水洗、脱揮、真空乾燥作業を行った。このようにして、エポキシ当量が290g/eq.である、理論上X中のエポキシ基とメチル基が1:1で構成された多官能エポキシシリコーン樹脂(ESQ4)131重量部を得た。
【0084】
実施例5
KBM−303を123.2重量部(0.5mol)、ジメチルジメトキシシラン(KBM−22:信越化学(株)製)60.1重量部(0.5mol)を混合して温度計、冷却管、窒素導入管、攪拌翼の付いた1Lの4つ口セパラブルフラスコに投入した。ついでジオキサン79重量部、水4.4重量部、5%炭酸カリウム水溶液14.72重量部(水の投入量、合計1.06mol)を用いて合成例3と同様に高分子量化反応を行った。ついでトリメチルメトキシシラン260重量部(2.50mol)、5%リン酸水溶液を25.1重量部用い、合成例3と同様に末端封止反応、水洗、脱揮、真空乾燥作業を行った。このようにして、エポキシ当量が294g/eq.である、多官能エポキシシリコーン樹脂(ESQ5)125.9重量部を得た。
【0085】
実施例6
一般式1中のXのA1とR1の比率が1:1になるように、KBM−303を123.2重量部(0.5mol)、フェニルトリエトキシシラン(KBE−103:信越化学(株)製)を120重量部(0.5mol)、を混合して温度計、冷却管、窒素導入管、攪拌翼の付いた1Lの4つ口セパラブルフラスコに投入した。ついでジオキサン104重量部、水5.4重量部、5%炭酸カリウム水溶液17.66重量部(水の投入量、合計1.28mol)を用いて合成例3と同様に高分子量化反応を行った。ついでトリメチルメトキシシラン310重量部(2.98mol)、5%リン酸水溶液を26重量部用い、合成例3と同様に末端封止反応、水洗、脱揮、真空乾燥作業を行った。このようにして、エポキシ当量が373g/eq.である、理論上X中のエポキシ基とフェニル基が1:1で構成された多官能エポキシシリコーン樹脂(ESQ6)169重量部を得た。
【0086】
実施例7
KBMー303を164.2重量部(0.67mol)、アセトンを71重量部、水を30.96重量部、5%リン酸水溶液を3.92重量部(水の投入量、合計1.94mol)用い、炭酸カリウムを用いなかった以外は合成例1と同様に高分子量化を行った。ついでトリメチルメトキシシラン204重量部(1.96mol)、5%リン酸水溶液3.9重量部を投入し、合成例1と同様の末端封止反応、水洗を行った。このとき、水層の粘度が合成例1と比べて高くなった。有機層を取り出し、脱揮、乾燥作業を行ったが容器内に樹脂はほとんど残らなかった。
【0087】
実施例8
KBMー303を205.33重量部(0.83mol)、ジオキサンを87重量部、水を4.48重量部、5%炭酸カリウム水溶液を14.66重量部(水の投入量、合計1.06mol)を用いた以外は合成例3と同様に高分子量化を行った。ついでトリメチルメトキシシラン260重量部(2.50mol)を用い、リン酸を用いなかった以外は合成例3と同様に末端封止反応、水洗を行った。有機層を取り出し、脱揮、乾燥作業を行った。このようにして、エポキシ当量が228g/eq.の多官能エポキシシリコーン樹脂(ESQ8)を177重量部得た。
【0088】
合成例1
KBM−303を82.13重量部(0.33mol)、アセトンを35重量部、水6.35重量部、5%リン酸水溶液1.3部、5%炭酸カリウム水溶液5.5重量部(水の投入量、合計0.731mol)を用い、高分子量化を行った。末端封止剤を用いずに水洗を行ったところ、水層と有機層の界面が現れなかった。この溶液を減圧留去したところ、もち状の白色不定形物が残った。この不定形物を24時間THFに浸漬したが溶解せず膨潤したため、ゲル化したと判断した。
【0089】
合成例2
KBM−303を82.13重量部(0.33mol)、アセトンを35.2重量部、水を14.67重量部、5%リン酸水溶液2.94重量部(水の投入量、合計0.978mol)を用い、実施例1と同じ条件で、酸性触媒下で反応を進めた。60℃に到達して2時間後に5%炭酸カリウム6.2重量部(水の投入量、合計1.32mol)を投入したところ、ただちに溶液が硬質のゲルと化した。
【0090】
合成例3
KBMー303を205.33重量部(0.83mol)、ジオキサンを87重量部、水を15.68重量部、5%炭酸カリウム水溶液を51.31重量部(水の投入量、合計3.72mol)を用いた以外は実施例3と同様に高分子量化を行ったところ、反応系内がもち状の白色不定形物となった。トリメチルメトキシシラン260重量部を投入し撹拌したがもち状の不定形物が均質に混ざらないため、ゲル化したと判断した。
【0091】
合成例4
KBMー303を205.33重量部(0.83mol)、ジオキサンを87重量部、水を15.68重量部、35%濃塩酸0.17重量部を用い、実施例1の装置を用いて80℃の内温で3時間攪拌した。GPC測定を行ったところ、原料のシランモノマーはリン酸を用いた場合に比べ、ほとんど縮合反応を起こしていなかった。
【0092】
合成例5
5%水酸化ナトリウム水溶液14.66重量部を用いた以外は実施例3と同様にして反応を行ったところ、2時間後に反応物がもち状の白色不定形物と化した。この不定形物をTHFに24時間浸漬したが溶解せず膨潤したため、ゲル化したと判断した。
【0093】
実施例1〜6、8で得られた樹脂ESQ1〜6及びESQ8の25℃での粘度、エポキシ当量、数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw(いずれもポリスチレン換算)、貯蔵安定性の判定手段として、常圧で125℃の環境下で1時間放置した後の不揮発分及び125℃1時間放置後の25℃での粘度(加熱後粘度)、125℃1時間後の樹脂の形状(加熱後樹脂形状)を表1に示す。125℃1時間放置の不揮発分が95%以上、125℃1時間放置後の粘度上昇が放置前の2倍未満の場合、室温での貯蔵安定性良好と判定する。
【0094】
【表1】

【0095】
実施例9〜15
実施例1〜6及び8で得られた多官能エポキシシリコーン樹脂(ESQ1〜6、ESQ8)を、リカシッドMH(メチルヘキサヒドロ無水フタル酸:新日本理化(株)製、酸無水物当量168g/eq.)を用いて、エポキシ当量と酸無水物当量の比=1:1となるように加え、よく混合し、更に硬化促進剤としてテトラ-n-ブチルホスホニウムo,o’-ジエチルホスホロジチオネート(PX-4ET:日本化学工業(株)を全体の0.5重量%投入し、真空脱気して金型内で、100℃で4時間、更に140℃で12時間硬化して厚さ4mmの樹脂板を作成した。
【0096】
比較例1
多官能エポキシシリコーン樹脂の代わりに3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル-3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート(商品名:セロキサイド2021P ダイセル化学(株)製)を用いた以外は実施例9と同様の条件で酸無水物硬化を行い、厚さ4mmの樹脂板を作成した。
【0097】
比較例2
セロキサイド2021Pのかわりに水素化ビスフェノールAのジグリシジルエーテル化合物(商品名:HBPADGE 丸善石油化学(株)製)を用いた以外は比較例1と同様にして酸無水物硬化を行い、厚さ4mmの樹脂板を作成した。
【0098】
得られた樹脂板状硬化物のガラス転移温度、初期透過度、耐UV性、表面のべたつき性、硬度(ショアーD)、金型取り外し後の硬化物の形状及び150℃の環境下に72時間放置した後の硬化物の形状変化を表2に示す。
【0099】
1)硬化物のガラス転移温度(Tg)の測定:硬化物のガラス転移温度をセイコー電子工業(株)製熱応力歪測定装置TMA/SS120Uを用いて30℃から270℃の範囲で測定し、線膨張率の変化した温度をガラス転移温度とした。昇温速度は5℃/分とした。
【0100】
2)硬化物の初期透過度:日立製作所製自記分光光度計U−3410を用いて、厚さ4mm硬化物の400nmの透過度を測定した。
【0101】
3)耐UV性の測定:硬化物をQパネル社製耐候性試験機QUVを用いて、600時間UV照射した後の400nmの透過度を、初期透過度と同様にして測定した。QUVのランプにはUVA340nmを用い、ブラックパネル温度は55℃とした。
【0102】
4)表面のべたつき性:硬化物を室温の状態でポリエチレン製の袋に入れ、表面を接触させたとき、硬化物がポリエチレン製の袋に少しでも張り付いた場合をべたつき性有りと判定した。
【0103】
5)硬度の測定:テクロック(株)性硬度計TYPE−Dを用いて、室温での硬化物の表面硬度を測定した。
【0104】
6)金型取り外し後の硬化物:金型を外したとき、硬化物の均一性や硬化収縮による硬化物の割れを目視にて判定した。○:均一な硬化物である。△:金型の形状を保っているが硬化物中に泡が生じている。×:金型の形状を保たず、樹脂が割れている。
【0105】
7)耐熱試験後の硬化物の形状変化:割れていない硬化物を150℃の環境下に72時間放置した後、初期の形状を保っているものの形状変化を目視にて判定した。○:金型取り出し時の形状を保っている。×:形状を保たず、樹脂にヒビ割れが生じている。
【0106】
【表2】

【0107】
実施例16〜22
実施例1〜6及び8で得られた多官能エポキシシリコーン樹脂(ESQ1〜6、ESQ8)100重量部に対して、熱カチオン性硬化触媒である、3−メチルー2−ブチルテトラメチレンスルフォニウムヘキサフルオロアンチモネート(商品名:アデカオプトン CP−77 旭電化工業(株)製)を0.2部投入した。これをよく混合、真空脱気して金型内で、65℃で2時間、100℃で4時間、更に140℃で12時間硬化して厚さ4mmの樹脂板を作成した。
【0108】
比較例3
多官能エポキシシリコーン樹脂の代わりにセロキサイド2021Pを用いた以外は実施例16と同様の条件でカチオン硬化を行い、厚さ4mmの樹脂板を作成した。
【0109】
比較例4
セロキサイド2021PのかわりにHBPADGEを用いた以外は比較例3と同様にしてカチオン硬化を行い、厚さ4mmの樹脂板を作成した。
【0110】
実施例16〜22、比較例3〜4により得られた樹脂板状硬化物のガラス転移温度、初期透過度、耐光性、硬度(ショアーD)、金型取り外し後の硬化物の形状を表3に示す。
【0111】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)又は一般式(2)
【化1】

(式中、R1は炭素数1〜10の環状構造を有していてもよい炭化水素基又は芳香族基を示し、R2とR3は独立に炭素数1〜10の炭化水素基を示し、内部にエーテル結合性酸素原子を1〜2個有していてもよい。)
で表されるエポキシ基含有トリアルコキシシランモノマーの少なくとも1種を、水及び酸性触媒又は塩基性触媒の少なくとも1種の触媒を用いて高分子量化させた後、一般式(3)又は一般式(4)
【化2】

(式中、R1は一般式(1)における説明と同義であり、Bは酸素原子あるいはNH基を示す。)
で表される末端封止剤を用いて残存アルコキシ基及びシラノール基を酸性条件下でエンドキャップすることを特徴とする多官能エポキシシリコーン樹脂の製造方法。
【請求項2】
一般式(9a)で表される多官能アルコキシシランモノマー
SiR1(4-n)(OR1)n (9a)
(R1は一般式(1)における説明と同義であり、nは2から4の整数を表す)
を、エポキシ基含有トリアルコキシシランモノマーと共に使用する請求項1記載の多官能エポキシシリコーン樹脂の製造方法。
【請求項3】
一般式(1)及び(2)で表されるエポキシ基含有トリアルコキシシランモノマーの合計(E1)、及び一般式(9)
【化3】

(式中、R1は一般式(1)における説明と同義である)
で表されるエポキシ基非含有トリアルコキシシランモノマーの合計(E0)を、E1:E0=100〜20mol%:0〜80mol%となるように混合したシランモノマー含有溶液と水を用い、酸性触媒下で加水分解、部分縮合反応を行った後、アルカリ性触媒下で縮合を進め、最後に末端封止剤を用いてエンドキャップする請求項1又は2記載の多官能エポキシシリコーン樹脂の製造方法。
【請求項4】
シランモノマー含有溶液と水を用い、アルカリ性触媒下で加水分解、縮合反応を進め、最後に末端封止剤を用いてエンドキャップする請求項3記載の多官能エポキシシリコーン樹脂の製造方法。
【請求項5】
酸性触媒下で加水分解、部分縮合反応を行い、アルカリ性触媒下で縮合を進める反応の際に用いる水の量が、シランモノマー含有溶液中のシランモノマー1molに対し、合計で2.5mol未満である請求項3記載の多官能エポキシシリコーン樹脂の製造方法。
【請求項6】
アルカリ性触媒下で縮合を進める反応の際に用いる水の量が、シランモノマー含有溶液中のシランモノマー1molに対し、2.5mol以下である請求項3記載の多官能エポキシシリコーン樹脂の製造方法。
【請求項7】
酸性触媒として用いる化合物が、リン酸又はその誘導体から選ばれる少なくとも1つである請求項3に記載の多官能エポキシシリコーン樹脂の製造方法。
【請求項8】
アルカリ性触媒として用いる化合物が、アルカリ金属炭酸塩又はアルカリ土類金属炭酸塩から選ばれる少なくとも1つである請求項3又は4に記載の多官能エポキシシリコーン樹脂の製造方法。
【請求項9】
末端封止材を用いて行う反応が、酸性化合物を存在させる酸性条件下で行われる請求項1〜8のいずれかに記載の多官能エポキシシリコーン樹脂の製造方法。
【請求項10】
末端封止反応の際に用いる酸性化合物が、リン酸又はその誘導体から選ばれる少なくとも1つである請求項9に記載の多官能エポキシシリコーン樹脂の製造方法。
【請求項11】
一般式(1)又は一般式(2)
【化4】

(式中、R1は炭素数1〜10の環状構造を有していてもよい炭化水素基又は芳香族基を示し、R2とR3は独立に炭素数1〜10の炭化水素基を示し、内部にエーテル結合性酸素原子を1〜2個有していてもよい。)
で表されるエポキシ基含有トリアルコキシシランモノマーを少なくとも1種用い、ゲル化することなく高分子量化させた後、一般式(3)又は一般式(4)
【化5】

(式中、R1は一般式(1)における説明と同義であり、Bは酸素原子あるいはNH基を示す。)
で表される末端封止剤を用いて残存アルコキシ基及びシラノール基をエンドキャップすることにより得られる一般式(5)
(OM)n+2(SiX)nOn-1 (5)
(式中、Mは一般式(6)で表わされる基を示し、nは2〜10000の整数であり、XはR1、一般式(7)又は一般式(8)で表わされる基を示す。n個のXは同一であっても、異なってもよいが、R1のみで構成されることはない。R1、R2及びR3は一般式(1)及び一般式(2)における説明と同義である。)
【化6】

で表される構造を含み、架橋性置換基が実質上エポキシ基のみであることを特徴とする多官能エポキシシリコーン樹脂。
【請求項12】
一般式(5)における、X中の一般式(7)及び一般式(8)で表わされる基の合計A1とR1の構成比率が、A1:R1=100〜20mol%:0〜80mol%であり、エポキシ当量が180g/eq.〜1000g/eq.である請求項11に記載の多官能エポキシシリコーン樹脂。
【請求項13】
一般式(1)〜(6)におけるR1が、メチル基である請求項11又は12に記載の多官能エポキシシリコーン樹脂。
【請求項14】
請求項11〜13のいずれかに記載の多官能エポキシシリコーン樹脂に、硬化剤、必要に応じて硬化剤との反応に有効な硬化促進剤を加え、加熱硬化することにより得られる硬化樹脂組成物。
【請求項15】
請求項11〜13のいずれかに記載の多官能エポキシシリコーン樹脂に、カチオン系硬化触媒を加え、加熱硬化することにより得られる硬化樹脂組成物。
【請求項16】
カチオン系硬化触媒が、熱カチオン系硬化触媒であることを特徴とする請求項15に記載の硬化樹脂組成物。
【請求項17】
熱カチオン系硬化触媒が、スルホニウムアンチモネート塩化合物である請求項16に記載の硬化樹脂組成物。

【公開番号】特開2008−248170(P2008−248170A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−93184(P2007−93184)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【出願人】(000221557)東都化成株式会社 (53)
【Fターム(参考)】