説明

多層筒状成形体

【課題】本発明は、層間の密着性に優れ、低コストで生産でき、リサイクル可能な高い耐熱性を持つ多層成形体を提供する。
【解決手段】多層成形体が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂95質量%から80質量%及びオレフィン系エラストマー5質量%から20質量%からなる第一ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物を含む最内層と、前記最内層のさらに外側に配置され、第一ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物100質量部に対し強化繊維を5から35質量部配合した第二ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物からなる外層と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンサルファイド(PAS)系樹脂を用いた多層筒状成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パイプ等の筒状成形体としては、加工の容易性、軽量化、コストダウン等の観点から樹脂製のものが注目されている。しかし、一般的に樹脂は耐熱性が低く、耐熱性が要求される分野では金属製のものが多く見られる。例えば、ヒーターからエンジンを繋ぐ車両用ヒーターパイプの多くは金属製である。このような分野においては、軽量化、低コスト生産等のため、耐熱性のある樹脂が求められている。
【0003】
このような要請から、最近ではポリフェニレンサルファイド(PPS)又はその変性物である芳香族ポリフェニレンサルファイド樹脂を含む車両に用いる多層パイプが開示されている(特許文献1)。また、特許文献1の多層パイプの層間密着性等を改善した多層パイプが開示されている(特許文献2)。
【特許文献1】特開平11−300844号公報
【特許文献2】特開2003−21275号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献2のパイプは、十分な耐熱性を持たないため、ディーゼル車等のようにさらに高い耐熱性を求められる部品には使用できないという問題があり、さらなる耐熱性の改善が求められている。
【0005】
また、特許文献2の多層パイプは、パイプの押出し後に、曲げ加工が必要なためコストが余計にかかる。さらに、特許文献2の多層パイプは、最内層がPPS樹脂又は変性PPS樹脂、中間層がPPS樹脂又は変性PPS樹脂とポリアミド樹脂を混合した層、最外層がポリアミド樹脂の3層からなり、樹脂材料を2種類以上用いるため、リサイクルすることができない。そして、特許文献2の多層パイプは、異なる2種類の樹脂を用いるので層間の密着が不十分になり層間剥離の問題も生じる。
【0006】
したがって、高い耐熱性有し、1種類の樹脂からなる、低コストで生産でき、リサイクル可能で、密着性に優れる多層筒状成形体が求められている。
【0007】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は層間の密着性に優れ、低コストで生産でき、リサイクル可能な高い耐熱性を持つ多層成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、ポリアリーレンサルファイド系樹脂と、特定の量の強化繊維を含むポリアリーレンサルファイド系樹脂と、を用いた多層成形体を用いることで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0009】
(1) ポリアリーレンサルファイド系樹脂95質量%から80質量%及びオレフィン系エラストマー5質量%から20質量%からなる第一ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物を含む最内層と、前記最内層の外側に配置され、ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物100質量部に対し強化繊維を5から35質量部配合した第二ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物からなる外層と、を備える多層成形体。
【0010】
(1)の発明によれば、本発明の多層成形体は、樹脂材料としてポリアリーレンサルファイド系樹脂のみを用いる。ポリアリーレンサルファイド系樹脂は、熱可塑性樹脂の中でも、耐熱性の高い樹脂の一つである。このため、本発明の多層成形体は従来の多層成形体と比べて高い耐熱性を有する。この高い耐熱性を利用することで、本発明の多層成形体は、高温に曝される部品等に好適に用いることができる。高温に曝される部品として、例えば、ディーゼル車用のヒーターパイプ等が挙げられる。
【0011】
さらに(1)の発明によれば、本発明の多層成形体は、樹脂材料として1種類の樹脂しか使用しないため、樹脂材料をリサイクル使用することが可能になる。また、同種の樹脂を用いて多層成形体を成形するため、層間の密着性が良くなる。この良好な密着性のために層間剥離を防ぐことができる。
【0012】
「ポリアリーレンサルファイド系樹脂」とは、ポリアリーレンサルファイド樹脂及びポリアリーレンサルファイド樹脂の変性物である。
【0013】
「多層成形体」とは、第一ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物を含む層を最内層とし、その外側の層に強化繊維を含む第二ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物を含む層を持つ二層以上の多層成形体をいう。多層成形体の形状は特に限定されないが、例えば筒状、中空体等が挙げられる。
【0014】
「多層」とは二層以上であれば特に限定されないが、二層の場合、内層と外層の肉厚の比は1:1から1:5であることが好ましい。
【0015】
強化繊維を含む外層のポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物は第一ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物と同じでも異なっていてもよいが、同じであれば、より相溶性が高く、多層成形体の層間密着性が高くなるので好ましい。
【0016】
(2) 前記多層成形体が多層ブロー成形体である(1)に記載の多層成形体。
【0017】
(2)の発明によれば、多層成形体は、ブロー成形法により作られる。ブロー成形法は、中空部品の成形に優れるので、特に高品質な中空の多層成形体を容易に作ることができる。
【0018】
本発明の多層成形体は、車両用ヒーターパイプに好ましく用いられるが、車両内は、多くの部品がひしめき合っており、ヒーターパイプはこれらの部品を避けるようにして設置する必要がある。このため、ヒーターパイプは複雑な形状をしている。押出成形したパイプの場合、多層構造のヒーターパイプを複雑な形状にするために曲げ加工を行う必要がある。しかし、多層ブロー成形体であれば、パイプを後曲げ加工する必要がなく、容易に所望の形状のヒーターパイプを成形することができる。
【0019】
(3) 前記多層成形体が多層筒状成形体である(1)に記載の多層成形体。
【0020】
(3)の発明によれば、本発明の多層成形体は筒状であり、筒状成形体は様々な製品の部品等に広く使用されている。例えばパイプ、チューブ等が挙げられる。本発明の多層成形体は、これらの部品等の中で、耐熱性が必要な部品として好適に用いることができる。特に、金属製の部品等から本発明の多層成形体を用いた部品等に置き換えることで軽量化、低コスト化を図ることができる。
【0021】
(4) 前記第一ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物の溶融粘度が300Pa・sから1500Pa・sである(1)から(3)いずれかに記載の多層成形体。
【0022】
(5) 前記第二ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物の溶融粘度が450Pa・sから800Pa・sである(1)から(4)いずれかに記載の多層成形体。
【0023】
(4)、(5)の発明によれば、本発明の多層成形体は、樹脂材料の溶融粘度が上記範囲にあることで、溶融粘度の低下による偏肉等の問題の発生を防ぐことができる。また、耐衝撃性等の成形品の物性が低下することを防ぐことができる。したがって、成形性、耐衝撃性等に優れた多層成形体を容易に作ることができる。
【0024】
(6) 前記強化繊維がガラス繊維であって、その平均繊維長が3mm以下である(1)から(5)のいずれかに記載の多層成形体。
【0025】
(6)の発明によれば、ガラス繊維は軽量、高強度、高弾性率であり、入手も容易である。このため、強化繊維としてガラス繊維を用いることで、高機能な多層成形体を容易に作ることができる。
【0026】
(7) 前記多層成形体が三次元ブロー成形体であって、内燃機関用の配管である(1)から(6)のいずれかに記載の多層成形体。
【0027】
(7)の発明によれば、本発明の多層成形体は、三次元ブロー成形法により成形するため、部品数を削減することができ、多層成形体を用いる製品の製造コストを下げることができる。また、内燃機関に用いられる配管は耐熱性が要求されるため、本発明の多層成形体は内燃機関に用いられる部品等として好ましい。特に、本発明の多層成形体の樹脂材料であるポリアリーレンサルファイドは、耐LLC(エチレングリコールを主成分とする不凍液)性に優れるため、車両用のヒーターパイプとして好ましく使用することができる。
【0028】
通常、パイプと他の部品とをつなぐために取付部が必要である。押出成形パイプ等の場合には、取付部を後溶着する必要がある。しかし、三次元ブロー成形法であれば、多層成形体の成形と同時に取付部をインサート成形することができる。したがって、取付部を後溶着する手間を省き、完成品の生産性を高めることができる。
【0029】
取付部の材料と本発明の三次元ブロー成形パイプの材料とは、同じであっても異なっていても良いが、同じであれば相溶性が高いので、パイプと取付部との密着性が高まるので好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、多層成形体が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂を含む最内層と、特定の量の強化繊維を含有するポリアリーレンサルファイド系樹脂を含む外層と、を有することで、多層成形体は、層間の密着性に優れ、低コストで生産でき、リサイクル可能で、高い耐熱性を持つ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
【0032】
<ポリアリーレンサルファイド樹脂>
本発明のポリアリーレンサルファイド樹脂は、繰り返し単位として、−(Ar−S)−(Arはアリーレン基)を主として構成されたものである。本発明では一般的に知られている分子構造のPAS樹脂を使用することができる。
【0033】
アリーレン基は特に限定されないが、例えばp−フェニレン基、m−フェニレン基、o−フェニレン基、置換フェニレン基、p,p’−ジフェニレンスルフォン基、p,p’−ビフェニレン基、p,p’−ジフェニレンエーテル基、p,p’−ジフェニレンカルボニル基、ナフタレン基等が挙げられる。上記アリーレン基から構成されるアリーレンサルファイド基の中で、同一の繰り返し単位を用いたホモポリマーの他、用途によっては異種のアリーレンサルファイド基の繰り返しを含んだポリマーが好ましい。
【0034】
ホモポリマーとしては、アリーレン基としてp−フェニレンサルファイド基を繰り返し単位とするものが特に好ましい。p−フェニレンサルファイド基を繰り返し単位とするホモポリマーは極めて高い耐熱性を持ち、広範な温度領域で高強度、高剛性、さらに高い寸法安定性を示す。このような性質から本発明の多層成形体の樹脂材料として好ましい。
【0035】
コポリマーとしては、上記のアリーレン基を含むアリーレンサルファイド基の中で相異なる2種以上のアリーレンサルファイド基の組み合わせが使用できる。これらの中では、p−フェニレンサルファイド基とm−フェニレンサルファイド基を含む組み合わせが、耐熱性、成形性、機械的特性等の観点から好ましい。p−フェニレンサルファイド基を70mol%以上含むポリマーがより好ましく、80mol%以上含むポリマーがさらに好ましい。
【0036】
これらのポリアリーレンサルファイド樹脂の中で、2官能性ハロゲン芳香族化合物を主体とするモノマーから縮重合によって得られる実質的に直鎖状構造の高分子量ポリマーが好ましいがこれに限定されず、3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物等のモノマーを少量用いて、部分的に分岐状又は架橋構造を形成させたポリマーも使用可能である。さらに、低分子量の直鎖状構造のポリマーを酸素又は酸化剤存在下、高温で加熱して、酸化架橋又は熱架橋により溶融粘度を上昇させ、成形加工性を改良したポリマーも使用可能である。
【0037】
分岐構造及び/又は架橋構造を持つポリアリーレンサルファイド樹脂との混合系の場合には、直鎖状ポリアリーレンサルファイド樹脂を70質量%から99質量%に対して、分岐構造及び/又は架橋構造を持つポリアリーレンサルファイド樹脂を1質量%〜30質量%含むポリマーが好ましい。分岐構造及び/又は架橋構造を持つポリアリーレンサルファイド樹脂が1質量%以上であれば、ブロー成形のための溶融張力が十分得られるため好ましく、30質量%以下であれば成形加工性も良好なので好ましい。より好ましくは2質量%〜25質量%である。
【0038】
また、分岐構造及び/又は架橋構造を持つポリアリーレンサルファイド樹脂との混合系の場合には、分岐構造及び/又は架橋構造を持つポリアリーレンサルファイド樹脂の溶融粘度が300Pa・S〜3000Pa・Sであることが好ましい。300Pa・S以上であれば十分な溶融張力があり好ましく、3000Pa・S以下であれば成形性が良好なので好ましい。より好ましくは500Pa・S〜2000Pa・Sである。なお、溶融粘度の測定はISO11443に準拠して行い得られた値を採用するものとする。具体的に、測定は、キャピラリーとして1mmφ×20mmLのフラットダイを使用し、バレル温度310℃、せん断速度1000sec−1で行った。
【0039】
<オレフィン系エラストマー>
本発明においてオレフィン系エラストマーとは、エラストマー性を有するオレフィン系単位を主体とする重合体又は共重合体であれば特に限定されないが、例えば、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、α−オレフィンとα,β−不飽和カルボン酸及び、そのアルキルエステルとの共重合体が挙げられる。
【0040】
本発明に用いるオレフィン系エラストマーとしては、ポリアリーレンサルファイド樹脂との相溶性の観点からエポキシ基、酸無水物基、カルボキシル基、カルボキシル基の塩、及びカルボン酸エステル基から選ばれる少なくとも1種の官能基を含有する官能基含有オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体が好ましい。これらの中でも、エポキシ基を有するモノマーが共重合されたエポキシ基含有オレフィン系共重合体が耐熱性の点で好ましい。さらに好ましくは、相溶性が良好という理由から、少なくとも1種のα−オレフィン及び少なくとも1種のα,β−不飽和酸のグリシジルエステルを共重合してなるエポキシ基含有オレフィン系共重合体である。
【0041】
α−オレフィンとα,β−不飽和酸のグリシジルエステルを主成分とするオレフィン系共重合体とは、α−オレフィンとα,β−不飽和酸のグリシジルエステルとの共重合体又はα−オレフィン、α,β−不飽和酸のグリシジルエステル、及びこれらに共重合可能な化合物との共重合体である。上記共重合可能な化合物として、1種又は2種以上の化合物を用いることができる。さらに、上記共重合体に対し、1種又は2種以上の重合体又は共重合体が分岐又は架橋構造的に化学結合したグラフト共重合体も用いることができる。
【0042】
α−オレフィンとしては、例えばエチレン、プロピレン、ブチレン等が挙げられ、特にこれらに限定されない。これらのα−オレフィンの中ではエチレンが耐熱性の点で好ましい。また、α,β−不飽和酸のグリシジルエステルとしては、例えば、アクリル酸グリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステル、エタクリル酸グリシジルエステル等が挙げられるがこれらに限定されない。これらのα,β−不飽和酸のグリシジルエステルの中ではメタクリル酸グリシジルエステルが耐熱性の点で好ましい。
【0043】
α−オレフィンとα,β−不飽和酸のグリシジルエステル等との重合方法は、通常知られた重合反応を用いることができる。例えば、ラジカル重合法により共重合させることで得ることができる。
【0044】
α−オレフィンとα,β−不飽和酸のグリシジルエステルとの比率は特に限定されないが、αオレフィンが70質量%〜99質量%、α,β−不飽和酸のグリシジルエステルが1質量%〜30質量%であることが好ましい。上記範囲であれば相溶性の点で好ましい。より好ましくは、αオレフィンが80質量%〜95質量%、α,β−不飽和酸のグリシジルエステルが5質量%〜20質量%である。
【0045】
<強化繊維>
強化繊維としてはガラス繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリ繊維、ウォラストナイトの如き珪酸塩の繊維、硫酸マグネシウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、さらにステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属の繊維状物、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ等の炭素の繊維状物が挙げられる。これらの強化繊維の中でも強度、弾性率等の観点からガラス繊維が好ましい。
【0046】
上記強化繊維は、平均繊維長は3mm以下であることが好ましい。より好ましくは50μm〜600μmである。上記範囲であれば機械的特性等が実用化に問題無いので好ましい。
【0047】
<第一ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物を含む最内層>
最内層におけるオレフィン系エラストマーの含有量は5質量%〜20質量%である。上記範囲であればブロー成形の際に十分な溶融張力が得られるので好ましい。
【0048】
第一ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物の溶融粘度は特に限定されないが、300Pa・s〜1500Pa・sであることが好ましい。300Pa・s以上であれば十分な溶融張力が得られるので好ましく、1500Pa・s以下であれば成形加工性も良好なので好ましい。より好ましくは400Pa・s〜800Pa・sである。
【0049】
最内層のポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物はさらに酸化防止剤、熱安定剤、滑剤等の通常の添加剤を含んでも良い。
【0050】
<第二ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物を含む外層>
第二ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物とは、第一ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物100質量部に対して強化繊維を5質量部〜35質量部配合した樹脂組成物である。強化繊維の配合量は第一ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物100質量部に対して5質量部以上であれば、十分な機械的強度が得られるため好ましく、35質量部以下であれば、成形性、耐熱性、機械的強度の悪化を防ぐことができるので好ましい。より好ましい配合量の範囲は第一ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物100質量部に対して10質量部〜30質量部である。
【0051】
さらに、第一ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物に用いたオレフィン系エラストマーを樹脂成分全量に対して5質量%〜20質量%配合させることで、成形性が良好になり好ましい。
【0052】
第二ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物の溶融粘度は450Pa・s〜800Pa・sであることが好ましい。450Pa・s以上であれば十分な溶融張力が得られるので好ましく、800Pa・s以下であれば成形性が良好なので好ましい。より好ましくは500Pa・s〜700Pa・sである。
【0053】
<ポリアリーレンサルファイド系樹脂の調整方法>
一般に合成樹脂組成物の調整に用いられる設備と方法により製造でき、必要な部分を混合し、一軸又は二軸の押出機を使用して溶融混練し、押出して成形用ペレットの形で調整される。
【0054】
<多層成形体の成形方法>
多層成形体の成形方法は、特に限定されず公知の成形方法で成形することができる。例えば、共押出成形、シート共押出成形、共押出ブロー成形等が挙げられる。これらの成形方法によって、多層シート、多層ボトル、多層パイプ、多層チューブ、多層カップ等、所望形状の多層成形体を得ることができる。
【0055】
本発明の多層成形体を成形する方法としては、三次元ブロー成形法が好ましい。三次元ブロー成形法は、特願昭63−126270等に開示されているような従来公知の方法を採用することができる。三次元ブロー成形法であれば、複雑な形状の多層成形体を容易に成形できる。また、三次元ブロー成形法であれば、多層成形体の成形と同時に、多層成形体と他の部品とを接合するための取付部をインサート成形で多層成形体の端部に取り付けることができる。
【0056】
<多層成形体>
本発明の多層成形体は、パイプやチューブ等に好適に用いられる。高温の液体や気体が通るパイプやチューブ等は、様々な物の部品として使用されているからである。その中の一つとして、例えば、内燃機関に用いられる配管が挙げられる。内燃機関に用いられる配管は、耐熱性が要求されるため、本発明の多層成形体は内燃機関に用いられる部品等として好ましく、特に、本発明の多層成形体の樹脂材料であるポリアリーレンサルファイドは、耐LLC(エチレングリコールを主成分とする不凍液)性に優れるため、車両用のヒーターパイプとして好ましく使用することができる。このような多層筒状成形体の成形には三次元ブロー成形機が好ましく用いられる。また、樹脂成分を溶融押出し、その途中でガラス繊維等を添加配合する方法も好ましく用いられる。なお、本発明の多層成形体は貫通孔を設ける等して分岐する構造をもつものであってもよい。
【0057】
本発明の多層成形体は、三次元ブロー成形体であることが好ましく、特に自動車のエンジンを冷却するためにエンジンとヒーターとをつなぐヒーターパイプに好ましく使用することができる。
【0058】
自動車用のヒーターパイプに好ましく用いるためには、耐熱性、十分な強度、複雑な形状に成形可能であること、耐不凍液性に優れること等の多くの条件が必要であるが、本発明の多層成形体であれば、ガラス繊維を添加した樹脂層と最内層に、同種の樹脂を用いて多層成形体を成形するため、層間の密着性が良くなる。この良好な密着性のために層間剥離を防ぎ、外層のガラス繊維添加の効果と併せて十分な強度を実現することができる。複雑な形状についても、ブロー成形等により容易に実現することができる。
【0059】
耐熱性については、ガソリンエンジンの場合は120℃まで、ディーゼルエンジンの場合は150℃までの耐熱性が必要になる。従来の樹脂パイプはナイロンを用いていたためディーゼルエンジンには使用することができなかった。しかし、本発明は耐熱性に優れるポリアリーレンサルファイド系樹脂のみを使用しているのでガソリンエンジン、ディーゼルエンジンの両方に使用することができる。
【0060】
自動車のヒーターパイプは、端部にヒーターパイプと他の部品とを接合するための取付部を有する。取付部はパイプ成形後に溶着等の方法で取り付けてもよいが、ヒーターパイプの三次元ブロー成形と同時にインサート成形することが好ましい。
【0061】
自動車のヒーターパイプに用いる多層成形体の中空部分の内径は用途に応じ適宜設定が可能である。
【実施例】
【0062】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0063】
<第一ポリアリーレン系樹脂組成物ペレット>
先ず、ポリフェニレンサルファイド樹脂(株式会社クレハ製、フォートロンKPS;樹脂温度310℃、せん断速度1200sec−1における溶融粘度140Pa・s)92.5質量%とオレフィン系エラストマー(エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体70質量部にメチルメタクリレート/ブチルアクリレート共重合体(9/12)を30質量部グラフと重合させた共重合体(日本油脂株式会社製、モティパーA4300))7.5質量%をヘンシャルミキサーで予備混合した。
【0064】
次いで、予備混合した上記混合物を、シリンダー温度310℃の押出機で溶融混練し、第一ポリフェニレンサルファイド系樹脂組成物ペレットを作製した。
【0065】
第一ポリフェニレンサルファイド系樹脂組成物ペレットの溶融粘度は500Pa・sであった。
【0066】
<第二ポリアリーレン系樹脂組成物ペレット>
上記のポリフェニレンサルファイド樹脂を84.0質量%、上記のオレフィン系エラストマーを12.5質量%、樹脂成分100質量部に対し、平均繊維径13μm、繊維長3mmチョップドストランドガラス繊維を20質量部配合した以外は第一ポリアリーレン系樹脂組成物ペレットと同様にして第二ポリフェニレンサルファイド系樹脂組成物ペレットを作製した。
【0067】
第二ポリフェニレンサルファイド系樹脂組成物ペレットの溶融粘度は566Pa・sであった。
【0068】
<実施例>
本発明の多層成形体は、第一ポリフェニレンサルファイド系樹脂組成物、第二ポリフェニレンサルファイド系樹脂組成物を、二本のシリンダーを有する三次元多層ブロー成形機に投入し、両樹脂ともシリンダー温度300℃、ダイ温度290℃で成形した。より具体的には以下のようにして成形した。
【0069】
先ず、シリンダー内で加熱溶融した状態で2種のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物を、三次元多層ブロー成形機に導入し、内層が第一ポリフェニレンサルファイド系樹脂組成物、外層が第二ポリフェニレンサルファイド系樹脂組成物という円筒状のパリソンを、円筒状空隙を有するダイヘッドから下向きに押出させる。
【0070】
次いで、パリソンの先端を、上下で対になる金型が開いた状態の下金型の上面で受け、ダイヘッドを三次元的に金型のキャビティ形状に沿って移動させることにより、下金型の三次元的に形成されたキャビティ内にパリソンを導入する。パリソンの搬送終了後、パリソンをカットし、下金型の上面に上金型の下面を装着し、パリソン中に圧縮空気を吹き込むためのブローピンを突き刺す。
【0071】
次いで、ブローピンからパリソン内に圧縮空気を吹き込むことにより、パリソンを金型の成形面に押圧するとともに冷却して筒状成形品を成形した。このときの金型温度は150℃、圧縮空気の空気圧は5kg/cmで行った。
【0072】
上記筒状成形体は二層構造の自動車用のヒーターパイプ1であり、エンジンと接合する第一接合部10と、ヒーターと接合する第二接合部11とを有する。接合部にはヒーターパイプ1とエンジン、及びヒーターとをつなぐための取付部があり、取付部はヒーターパイプの三次元多層ブロー成形と同時にインサート成形することでヒーターパイプに取り付けた。取付部の材料は、柔軟性と耐熱性が必要なためシリコンラバー12を用いた。ヒーターパイプ1とシリコンラバー12との接合部は、第一接合部10、第二接合部11ともに金属バンド13を用いて補強した。
【0073】
二層構造のヒーターパイプの最内層の厚さは1mmであり、強化繊維を配合した外層の厚さは2mmであった。中空部分の内径が8mmであり、また、ヒーターパイプは第一接合部から80mm、200mm、80mmの部分に湾曲形状を有する複雑な形状であった。
【0074】
<耐熱性評価>
第二ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物ペレットを射出成形機でシリンダー温度310℃、金型温度150℃の条件でASTM1型引張試験片を成形した。引張試験片を空気中で170℃に加熱処理する条件で1000時間まで、加熱処理により引張特性の低下を評価した。引張り強さの評価結果を図2、引張り伸びの評価結果を図3に示す。
【0075】
図2、図3から分かるように、本実施例のヒーターパイプは、ポリフェニレンサルファイド樹脂を用いることにより、十分な耐熱性を持つパイプとなる。
【0076】
<耐不凍液性の評価>
第二ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物ペレットを射出成形機でシリンダー温度310℃、金型温度150℃の条件で曲げ試験片(1/8インチ×10mm×60mm)を成形した。曲げ試験片を不凍液(日産純正不凍液原液)に浸潰し、170℃に加熱処理する条件で100時間まで、曲げ弾性率の低下を評価した。評価結果を図4に示す。
【0077】
図3から分かるように、本実施例のヒーターパイプは、ポリフェニレンサルファイド樹脂を用いることにより、十分な耐不凍液性を持つパイプとなる。
【0078】
<層間剥離の評価>
二層構造のヒーターパイプを空気中で170℃に加熱処理する条件で1000時間まで加熱処理した後、適当な部分で切断し、切断面を赤インク液に1時間浸漬させた。1時間経過後、切断面を洗浄し観察したが、二層構造の界面は確認できなかった。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】実施例の自動車用ヒーターパイプ1の概略斜視図である。
【図2】実施例の自動車用ヒーターパイプの引張り強さを示す図である。
【図3】実施例の自動車用ヒーターパイプの引張り伸びを示す図である。
【図4】実施例の自動車用ヒーターパイプの耐不凍液性を示す図である。
【符号の説明】
【0080】
1 自動車用ヒーターパイプ
10 第一接合部
11 第二接合部
12 シリコンラバー
13 金属バンド


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンサルファイド系樹脂95質量%から80質量%及びオレフィン系エラストマー5質量%から20質量%からなる第一ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物を含む最内層と、
前記最内層の外側に配置され、ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物100質量部に対し強化繊維を5から35質量部配合した第二ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物からなる外層と、を備える多層成形体。
【請求項2】
前記多層成形体が多層ブロー成形体である請求項1に記載の多層成形体。
【請求項3】
前記多層成形体が多層筒状成形体である請求項1に記載の多層成形体。
【請求項4】
前記第一ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物の溶融粘度が300Pa・sから1500Pa・sである請求項1から3いずれかに記載の多層成形体。
【請求項5】
前記第二ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物の溶融粘度が450Pa・sから800Pa・sである請求項1から4いずれかに記載の多層成形体。
【請求項6】
前記強化繊維がガラス繊維であって、その平均繊維長が3mm以下である請求項1から5のいずれかに記載の多層成形体。
【請求項7】
前記多層成形体が三次元ブロー成形体であって、内燃機関用の配管である請求項1から6のいずれかに記載の多層成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−178967(P2009−178967A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−20810(P2008−20810)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】