多層配線基板及びその多層配線基板に実装された高周波回路
【課題】異なる層の高周波伝送線路を接続する接続線路と高周波伝送線路とのインピーダンス不整合を効率的に改善し信号の反射損失を減らす。
【解決手段】多層配線基板1は積層した第1の誘電体基板20aの一方の面で延伸する信号線路10と他方の面上の接地導体40とで構成されるマイクロストリップ線路を備える。第1貫通導体30は、基板面に垂直に基板を貫通し信号線路10の先端と他の信号線路とを接続し、第2貫通導体ビア50は、基板面に垂直に複数個、基板を貫通して第1貫通導体30を円筒状に囲むように形成され、接地導体40を他の接地導体に接続する。接地導体40と第1貫通導体30とは第1の誘電体基板20aで構成される誘電体領域60で隔絶され、その信号線路10側の領域は、基板面上で第1貫通導体30の中心から所定の距離離れた領域確定線90に基づき決定され、信号線路10のない側の領域よりも面積が小さい。
【解決手段】多層配線基板1は積層した第1の誘電体基板20aの一方の面で延伸する信号線路10と他方の面上の接地導体40とで構成されるマイクロストリップ線路を備える。第1貫通導体30は、基板面に垂直に基板を貫通し信号線路10の先端と他の信号線路とを接続し、第2貫通導体ビア50は、基板面に垂直に複数個、基板を貫通して第1貫通導体30を円筒状に囲むように形成され、接地導体40を他の接地導体に接続する。接地導体40と第1貫通導体30とは第1の誘電体基板20aで構成される誘電体領域60で隔絶され、その信号線路10側の領域は、基板面上で第1貫通導体30の中心から所定の距離離れた領域確定線90に基づき決定され、信号線路10のない側の領域よりも面積が小さい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層配線基板及びその多層配線基板に実装された高周波回路に関し、特に、異なる層の高周波伝送線路同士を接続する接続線路と高周波伝送線路との間のインピーダンスの調整に資する誘電体領域を有する多層配線基板及びその多層配線基板に実装された高周波回路に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの電子機器において、半導体用のパッケージや回路素子を実装するための多層配線基板が広く普及している。このような多層配線基板の表面又は内部には、マイクロストリップ線路やコプレーナ線路等の高周波伝送線路が表層線路又は内層線路として形成される。さらに、異なる層の高周波伝送線路同士を接続するために、回路基板の基板面に平行な面内での信号伝送方向に対して垂直な方向の信号伝送が必要である。このために、異なる層の高周波伝送線路同士を接続する接続線路として、層間を基板面に垂直な方向に貫通するビアホール(via hole)導体が広く使用されている。
【0003】
一方、近年において飛躍的に向上した半導体技術及び高周波技術によって、3GHzから30GHzまでのマイクロ波はもとより、30GHzから300GHzまでのミリ波の信号処理を行う高周波回路を実装可能な多層配線基板が要求されている。このような高周波用の多層配線基板においては、同軸型の接続線路であるビアホール導体が使用される。
【0004】
例えば、特許文献1には、マイクロストリップ線路を構成する信号線路を層間で接続するための、疑似的な同軸型のビアホール導体が開示されている。この特許文献1では、各層の信号線路の周囲にクリアランス領域と呼ばれる誘電体領域(絶縁領域)を介してリング状のグランド導体を設け、層間での信号線路の接続線路は、信号線路接続用のビアホール導体と、このビアホール導体に対して同心円上に配置され、グランド導体同士を接続する8本のビアホール導体とで、擬似的な同軸線路を形成する構造を有している。さらに、同心円上に配置された隣接するビアホール導体の間隔を信号波長の1/4未満に設定して、ビアホール導体を流れる信号の漏洩を防止する構造になっている。
【0005】
また、特許文献2には、信号配線を挟んだ2つのGND(グランド)層において、信号端子用スルーホール(ビアホール導体と同義と考えて良い)の周りに設けられるクリアランス領域を、スルーホール中心線を含み、信号配線の信号の流れる方向に垂直な面で2つのクリアランス領域に分け、信号配線が形成されていない側のクリアランス領域の面積が、信号配線が形成されている側のクリアランス領域の面積よりも大きくなるようにクリアランス領域を形成した多層配線基板の構造が開示されている。この異なる面積の2分されたクリアランス領域が、配線インピーダンス調整部として機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4587625号公報
【特許文献2】特開2009−059873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された疑似同軸線路構造の場合には、マイクロストリップ線路における電磁界分布と疑似同軸線路における電磁界分布とが異なるため、マイクロストリップ線路と疑似同軸線路との間でインピーダンス不整合が生じる。この結果、高周波信号の反射損失が増加する。すなわち、進行波に対する反射波の比率が大きくなるという課題がある。
【0008】
一方、特許文献2においては、異なる面積の2分されたクリアランス領域によりインピーダンスの整合をとることは可能になるが、2分されたクリアランス領域の面積の相違をどのようにして定量的に確定するか不明である。このため、最良のインピーダンス整合を得るまでに試行錯誤を繰り返すことになり、インピーダンス整合の効率的な改善が困難であるという課題がある。
【0009】
本発明の目的は、上記課題を解決するためになされたものであり、多層配線基板における異なる層の高周波伝送線路同士を接続する接続線路と高周波伝送線路との間のインピーダンスの調整に資するクリアランス領域(誘電体領域)の設定において、定量的な手法によって、試行錯誤を繰り返すことなく、高周波伝送線路と接続線路との間のインピーダンス不整合を効率的に改善し、高周波信号の反射損失を低減することができる多層配線基板及びその多層配線基板に実装された高周波回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するために、本発明の第1の観点に係る多層配線基板は、
複数の誘電体基板を積層して形成される多層配線基板において、
前記誘電体基板の一方の面における特定位置から他の特定位置まで延在された特定の導体幅の信号線路及び前記誘電体基板の他方の面に形成された接地導体を有するマイクロストリップ線路と、
前記他の特定位置において前記信号線路と一端が接続され、前記誘電体基板を該誘電体基板面に対して垂直方向に貫通して他端が他の信号線路と接続される第1貫通導体及び該第1貫通導体を中心として一定の半径を有する円筒状に複数配置されて前記誘電体基板を前記垂直方向に貫通し、各一端が前記接地導体と接続され、各他端が他の接地導体と接続される第2貫通導体を有する同軸型の接続線路と、を備え
前記他方の面の前記第1貫通導体が貫通している位置の周囲において、前記誘電体基板がその基板面に平行な面上で、前記接地導体によって囲まれた領域である誘電体領域を前記第1貫通導体が貫通している位置で前記信号線路の延在方向と直交する直線である信号線路直交直線を含む前記他方の面に垂直な面で二分したとき、前記信号線路が形成されている側の前記誘電体領域は、前記信号線路直交直線から前記信号線路が形成されている側に距離hをもって平行する領域確定線に基づいて形成され、
前記信号線路の延在方向の中心線を含む前記他方の面に垂直な面である信号線路中心面と前記領域確定線とが交わる点を特定点としたとき、
前記領域確定線に係る前記距離hは、前記第2貫通導体から前記特定点への前記接地導体を通る経路の最短距離と、前記第2貫通導体の貫通する方向の対応する前記信号線路の位置から前記第1貫通導体への経路の最短距離の差が所定値以下になるように設定された値であり、
前記信号線路が形成されていない側の前記誘電体領域は、その面積が、前記信号線路が形成されている側の前記誘電体領域の面積よりも大きい、
ことを特徴とする。
【0011】
上述の目的を達成するために、本発明の第2の観点に係る高周波回路は、
本発明の第1の観点に係る多層配線基板に実装された半導体集積回路によって構成される、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、多層配線基板及び多層配線基板に実装された半導体集積回路により構成される高周波回路では、多層配線基板における異なる層の高周波伝送線路同士を接続する接続線路と高周波伝送線路との間のインピーダンスの調整に資するクリアランス領域(誘電体領域)の設定において、定量的な手法によって、試行錯誤を繰り返すことなく、高周波伝送線路と接続線路との間のインピーダンス不整合を効率的に改善し、高周波信号の反射損失を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る多層配線基板の第1の誘電体基板の上面に形成された第1配線層の平面図である。
【図2】図1の第1の誘電体基板の下面に形成された第2配線層の平面図である。
【図3】図1の多層配線基板の第2の誘電体基板の上面に形成された第3配線層の平面図である。
【図4】図1のA−A’線に沿った多層配線基板の概略的な断面図である。
【図5】図2に示した第2配線層の第1の変形例の平面図である。
【図6】図2に示した第2配線層の第2の変形例の平面図である。
【図7】図2に示した第2配線層の第3の変形例の平面図である。
【図8】図2に示した第2配線層の第4の変形例の平面図である。
【図9】図2に示した第2配線層の第5の変形例の平面図である。
【図10】図2に示した第2配線層の第6の変形例の平面図である。
【図11】図2に示した第2配線層の第7の変形例の平面図である。
【図12】図2に示した第2配線層の第8の変形例の平面図である。
【図13】実施形態に係る多層配線基板の具体的な実施例の特性と従来の多層配線基板の特性とを比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施形態)
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。図1乃至図4は、実施形態に係る多層配線基板1の、異なる層の高周波伝送線路同士を接続する接続線路近傍の構成を示す図である。通常、多層配線基板は、樹脂、セラミック、アルミナ(酸化アルミニウム)等の誘電体基板の上面及び下面に銅、金、その他の金属の導電パターンによって信号線路及び接地導体であるグランドパターンを含む配線層が形成されている。
【0015】
以下、積層された多層配線基板1の一部である、第1乃至第3の誘電体基板の表面に形成された配線層を例に採って、実施形態の多層配線基板について説明する。
【0016】
各配線層に形成された導電性パターン同士を各層に垂直な方向に接続する接続線路は、各層を貫通する貫通導体である導電性ビアで構成されている。なお、図1乃至図4、及び後述する図5乃至図12の変形例においては、誘電体基板を網点で、導電パターン(信号線路及びグランドパターン)を斜線のハッチングで、導電性ビアを無地で表示することとする。なお、導電性ビアは無地で示された部分が導体で充填されたものでも良いし、無地で示された部分の内表面が導体で覆われたものであってもよい。
【0017】
図1は、実施形態の多層配線基板1における第1の誘電体基板20aの上面に形成された第1配線層の平面図である。図2は、誘電体基板20aの下側の層である第2の誘電体基板20bの上面、すなわち誘電体基板20aの下面に形成された第2配線層の平面図である。図3は、誘電体基板20bの下側の層である第3の誘電体基板20cの上面、すなわち第2の誘電体基板20bの下面に形成された第3配線層の平面図である。図4は、図1の信号線路10の信号伝送方向の中心線であるA−A’線に沿った概略的な断面図である。
【0018】
図1に示すように、誘電体基板20aの上面の第1配線層には、マイクロ波やミリ波の高周波信号を伝送する高周波伝送線路である信号線路10が形成されている。この信号線路10は、第1の誘電体基板20aの同じ上面における図示しない特定位置(例えば、多層配線基板1に実装される半導体集積回路チップの端子の接続位置)から先端10aまで延在する特定の導体幅の導電パターンで構成されている。
【0019】
また、図2に示すように、第1の誘電体基板20aの下面の第2配線層には、接地導体であるグランドパターン40が形成されている。すなわち、第1の誘電体基板20aを挟んで形成される信号線路10とグランドパターン40とは、信号線路10の導体幅、第1の誘電体基板20aの厚み及び誘電率によって定まる特定のインピーダンスを有するマイクロストリップ線路を形成している。
【0020】
図1及び図4に示すように、マイクロストリップ線路を構成する信号線路10の先端10aは、他の配線層(図示せず)の信号線路又は入出力端子に接続するため、第2の誘電体基板20b、第3の誘電体基板20c等を貫通する導電性ビア30(第1貫通導体)の一端に接続されている。
【0021】
図3に示す第3配線層には、貫通する導電性ビア30を中心として同心円状に、リング状のグランドパターン70が形成されている。また、図3、図4に示すように、導電性ビア30を中心とする半径R1の同心円に外接して、8個の導電性ビア50(第2貫通導体)が等間隔で配列されている。各導電性ビア50は、グランドパターン70の径方向の幅の略中央位置で第2の誘電体基板20b、第3の誘電体基板20c及びグランドパターン40、70を貫通している。各導電性ビア50はグランドパターン40及び70と電気的に接続されている。なお、図2に示す例では、導電性ビア50のうちの一つが信号線路10の直下に位置するように配置されている。
【0022】
図2乃至図4に示すように、第2配線層のグランドパターン40と、第3配線層のグランドパターン70とは、8個の導電性ビア50によって電気的に接続されている。したがって、各導電性ビア50同士も同心円状のグランドパターン70及びグランドパターン40によって相互に電気的に接続されている。すなわち、導電性ビア30と導電性ビア50とは、導電性ビア30を内導体とし、導電性ビア50を外導体とし、その間にある誘電体基板の誘電体で導電性ビア30と50とが相互に絶縁されることにより、各配線層に垂直な方向の疑似同軸型の接続線路を構成する。
【0023】
図2に示すように、導電性ビア30がグランドパターン40と非接触の状態で第1の誘電体基板20aを貫通するように、第1の誘電体基板20aにはクリアランス領域60が形成されている。また、図3に示すように、導電性ビア30がグランドパターン70と非接触の状態で第2の誘電体基板20bを貫通するように、第2の誘電体基板20bにはクリアランス領域80が形成されている。
【0024】
次に、クリアランス領域60の設定について説明する。クリアランスは、導電性ビア50と電気的に接続されているグランドパターン40及び70と、導電性ビア30とを絶縁するための誘電体で構成され、クリアランス領域は導電性ビアが貫通している誘電体基板で構成される配線層の層面に平行な面上で、接地導体で囲まれた誘電体基板の領域、すなわち誘電体領域のことである。導電性ビア30を中心とする同心円に沿って、多層配線基板1を貫通する8個の導電性ビア50の内側に接する円(内接円)の半径をR1とすると、クリアランス領域60の最大領域は、導電性ビア30を中心としたR1よりも小さな半径R3の内部領域である。ここでR3は、導電性ビア30の周りで、半径R1の円に内接して複数個配置される導電性ビア50が接続されることを前提にしたときにグランドパターン40又は70の形成が可能な最大半径である。以下では製造可能半径R3と呼ぶ。
【0025】
次に、領域確定線について説明する。領域確定線は、後述する信号線路10の側にあるクリアランス領域60を確定するための線である。領域確定線は、信号線路10の延在方向に垂直な、グランドパターン40の形成されている基板面上の直線で、導電性ビア30の中心から信号線路10のある側に所定の距離h離れた位置にある。距離hは、図4に示す信号線路10に関する経路Cの最短経路長と、グランドパターン40に関する経路Dの最短経路長とが略等しくなるように設定される。経路Cは、図4に示すように、信号線路10の第1の誘電体基板20a側の面上で、信号線路10の延在方向の中心線に沿って、導電性ビア50が配置される、導電性ビア30を中心とした同心円位置に対応する点から導電性ビア30の表面に達し、導電性ビア30の貫通方向に沿って第1の誘電体基板20aの厚さ分進んだ位置に至る経路である。経路Dは、図4に示すように、導電性ビア50から、信号線路10の延在方向の中心線を含む基板面に垂直な面と領域確定線とが交わる点に至り、グランドパターン40の厚さ方向にその端面を通り、グランドパターン40の裏面を通って、導電性ビア50の表面に至る接地導体を通る経路である。
【0026】
図2及び図3に示すように、導電性ビア50の1つが信号線路10の直下に位置する場合、導電性ビア30の半径をR2とし、図4に示すように、第1の誘電体基板20aの厚さをt1、グランドパターン40の厚さをt2とすると、h=((R1+R2)−(t1−t2))/2とすれば経路CとDのそれぞれの最短経路長が等しくなる。(t1−t2)が(R1+R2)に比べて無視できる値になる場合はh=(R1+R2)/2とすることができる。
【0027】
以上を前提に、領域確定線に基づくクリアランス領域60の具体的な設定例について図2に従って説明する。いずれも導電性ビア50の一つが信号線路10の直下に位置する場合を示す。ここでR4を距離h以上R3以下の値として定義し、導電性ビア30が第1の誘電体基板20aを貫通している位置で、導電性ビア30の中心を通り、信号線路10の延在する方向(図1及び2のA−A’線)に直交する直線をB−B’線とし、B−B’線を含み第1の誘電体基板20aの基板面に垂直な面を分割面として、分割面に対して、第1の誘電体基板20aのグランドパターン40が形成されている面上で、信号線路10が形成されている側(B−B’線に対して図2の左側)に距離h離れて位置するB−B’線に平行な直線90が、先に説明した領域確定線90である。クリアランス領域60のうち、図1の信号線路10が形成されている側(図2のB−B’線に対して左側)のクリアランス領域60は、導電性ビア30を中心とした半径R4の同心円の内部領域のうち、B−B’線に対して図2の左側の領域で、且つ、B−B’線と領域確定線90との間の領域である。すなわち、信号線路10が形成されている側のクリアランス領域60は、A−A’線に沿って導電性ビア30から領域確定線90までの間の領域を含む。
【0028】
領域確定線90に係る距離hの値は次の理由により設定される。図1のA−A’線に沿った図4の断面において、信号線路10から導電性ビア30に至る経路Cの最短経路長と、グランドパターン40から導電性ビア50に至る経路Dの最短経路長との差が小さくなるようにクリアランス領域が構成される。距離hをこのように設定することにより、信号線路10から導電性ビア30に伝送される高周波信号の位相と、グランドパターン40から導電性ビア50に伝送される高周波信号の位相との差が理想的には0になる。現実には他の要因により位相差は0にはならないが、小さくなる。
【0029】
信号線路10が形成されていない側(B−B’線に対して図2の右側)のクリアランス領域は、信号線路10が形成されている側のクリアランス領域60の面積よりも大きくなるように設定される。例えば、信号線路の延在方向に直交する方向の幅が導電性ビア30を中心としたR4*2で、長さがLの矩形をB−B’線の右側に配置し、この矩形に半径R4の半円を付加して形成した領域に設定される。Lは例えばR3−R4に等しく設定する。このようにしてクリアランス領域60を設定することにより、信号線路10が形成されていない側のクリアランス領域60の面積は、信号線路10が形成されている側のクリアランス領域60の面積よりも大きくなる。
【0030】
このように、信号線路10が形成されている側のクリアランス領域60の形状と面積とは、距離hによって決まる領域確定線90に基づき決定される。信号線路10が形成されていない側のクリアランス領域60は、この決定された面積より大きな面積になるような形状に設定される。
【0031】
B−B’線で2分されるクリアランス領域60は、信号線路10及びグランドパターン40を有するマイクロストリップ線路と、導電性ビア30及び導電性ビア50を有する疑似同軸型の接続線路との間で、インピーダンスを整合するためのインピーダンス調整部を構成する。
【0032】
実施形態に係る、図1乃至図4に示す多層配線基板1のクリアランス領域60は、信号線路10が形成されている側のクリアランス領域60が領域確定線90に基づき決定され、信号線路10が形成されていない側のクリアランス領域60は、上記のように、信号線路10が形成されている側のクリアランス領域60の面積よりも大きい面積を有するように設定される。従って、多層配線基板及び多層配線基板に実装された半導体集積回路により構成される高周波回路では、マイクロストリップ線路と接続線路との間で、領域確定線90に基づく定量的な手法によって、試行錯誤の反復を要することなく、合理的にインピーダンスが整合される。多層配線基板及び多層配線基板に実装された半導体集積回路により構成される高周波回路では、異なる層の高周波伝送線路としてのマイクロストリップ線路と、マイクロストリップ線路同士を接続する同軸型の接続線路との間のクリアランス領域60を上記のようにして設定することによって、試行錯誤を繰り返すことなく、同軸型の接続線路の特性インピーダンスの減少を抑制し、且つ、マイクロストリップ線路の特性インピーダンスの増加を抑制して、インピーダンス不整合を効率的に改善し、高周波信号の信号伝送時の反射損失を低減することができる。これは、経路Cの最短経路長と経路Dの最短経路長とを等しくなるように領域確定線を設定し、これに基づきクリアランス領域60を設定したことによる。
【0033】
なお、図1に示すように、信号線路10は、領域確定線90からB−B’線すなわち導電性ビア30の一端に達するまでの長さhの導体幅が、徐々に小さくテーパ状に形成されている。
【0034】
このようにテーパ状に幅を変えることにより構造的な不連続が生じないためインピーダンス不整合が生じにくくなる。更に、このテーパ形状を微調整することにより、マイクロストリップ線路と接続線路との間のインピーダンス不整合をさらに改善し、高周波信号の反射損失を低減することができる。
【0035】
図5乃至図12は、図2に示した第2配線層の第1乃至第8の変形例を示す図である。いずれの変形例においても、信号線路10、グランドパターン40及び70、導電性ビア30及び50の配置は図1、図3に示したものと同じである。また、図4に示した多層配線基板1の断面図は、各変形例においても同じである。すなわち、いずれの変形例においても信号線路10から導電ビア30に至る経路Cの最短経路長とグランドパターン40から導電性ビア50に至る経路Dの最短経路長とは略同じである。
【0036】
図5に示す第1の変形例においては、信号線路10が形成されている側のクリアランス領域は、図2の場合と同じく、導電性ビア30を中心とした半径R4の同心円の内部領域のうち、B−B’線に対して図2の左側の領域で構成され、且つ、B−B’線と領域確定線との間の領域である。信号線路10が形成されていない側のクリアランス領域は、一例として、導電性ビア30を中心とする半径R3の同心円の内部領域のうち、B−B’線に対して図2の右側の領域で、且つ、A−A’線からの距離が半径R4の値以下の領域で構成される。
【0037】
図6に示す第2の変形例においては、信号線路10が形成されている側(図6のB−B’線の左側、他の変形例においても同じ)のクリアランス領域60は、導電性ビア30を中心とする半径R4の半円の領域のうち、B−B’線と領域確定線90との間の領域で構成され、信号線路10が形成されていない側(図6のB−B’線の右側、他の変形例においても同じ)のクリアランス領域60は、一例として、導電性ビア30を中心とする半径R3の半円の領域で構成されている。
【0038】
図7に示した第3の変形例においては、信号線路10が形成されている側のクリアランス領域60は、導電性ビア30から領域確定線90までの領域のうち、A−A’線に直交する方向の幅W1が信号線路10の導体幅W以上の値である矩形の領域で構成され、信号線路10が形成されていない側のクリアランス領域60は、一例として、導電性ビア30を中心とする半径R3の半円の領域で構成されている。
【0039】
図8に示した第4の変形例においては、信号線路10が形成されている側のクリアランス領域60は、領域確定線90上で信号線路10の幅Wを含む幅W2を有し、これを上底とし、B−B’線上で導電性ビア30の中心の両側にそれぞれR3の幅を取り、このR3*2を下底とする台形の領域で構成され、信号線路10が形成されていない側のクリアランス領域60は、一例として、導電性ビア30を中心とする半径R3の半円の領域で構成されている。
【0040】
図9に示した第5の変形例においては、信号線路10が形成されている側のクリアランス領域60は、導電性ビア30を中心とする半径R3の半円の領域のうち、導電性ビア30から領域確定線90までの領域で構成され、一例として、信号線路10が形成されていない側のクリアランス領域60は、導電性ビア30を中心とする半径R3の半円の領域で構成されている。
【0041】
図10及び図11に示した第6、第7の変形例においては、信号線路10が形成されている側のクリアランス領域60が、導電性ビア30を中心とする半径R3の半円の領域から、B−B’線を基準として領域確定線90を超える領域のうち、A−A’線を中心とする少なくとも幅Wの領域を除いた領域で構成され、一例として、信号線路10が形成されていない側のクリアランス領域60が、導電性ビア30を中心とする半径R3の半円の領域で構成されている。
【0042】
図12に示した第8の変形例においては、(h+R1)/2をR5とし、クリアランス領域60は、導電性ビア30の位置から信号線路10が形成されていない側に(R3−h)/2=eの距離だけ離れた位置Eを中心とした半径R5(h<R5<R3)の円の領域のうち、信号線路10が形成されている側の領域では、B−B’線から見て領域確定線90を超える領域を除き、信号線路1が形成されていない側の領域では、導電性ビア30を中心とした半径R3の円の外側に該当する領域を除いた領域で構成される。
【0043】
いずれの変形例においても、信号線路10が形成されていない側のクリアランス領域の面積が、B−B’線から距離hをもった領域確定線90に基づいて形成された信号線路10側のクリアランス領域の面積よりも大きく形成されている。
【0044】
したがって、いずれの変形例においても、マイクロストリップ線路と同軸型の接続線路との間で、各変形例に示すようにしてクリアランス領域60を設定することによって、これまで説明した効果と同様の効果を得ることができる。
【0045】
次に、具体的な実施例について説明する。この実施例において、多層配線基板1は、比誘電率9.8のアルミナ誘電体を3層重ねて構成されている。以下、図1乃至図4を参照しながら、多層配線基板1の具体例を説明する。
【0046】
図4に示した第1の誘電体基板20aの厚さt1は250μmであり、第2の誘電体基板20bの厚さは750μmである。各配線層の導体の厚さ、従ってグランドパターン40の厚さt2は10μmである。図1に示した第1配線層の信号線路10の延在方向に直交する方向の導電ビア30の中心から距離h以上離れた部分のパターン幅は230μmである。内導体である導電性ビア30の直径R2は100μmである。外導体である導電性ビア50の直径は150μm(半径は75μm)である。導電性ビア50は、導電性ビア30を中心として、半径650μmの円周上に等間隔で8個配置されている。したがって、8個の導電性ビア50の内側に接する内接円の半径(図2、図3の半径R1)は575μmになる。
【0047】
図3において、導電性ビア30を中心とするリング状のグランドパターン70の内径は、半径R1以下で製造可能な最大半径R3が525μmである。また、グランドパターン70の外形の半径は775μmである。同様に、図2において、グランドパターン40に設けられたクリアランス領域60は、製造可能なグランドパターン40の条件により、導電性ビア30からの最大半径R3が525μmとなる。
【0048】
グランドパターン40に設けられたクリアランス領域60において、導電性ビア30の中心における信号線路の延在方向(すなわち信号伝送方向)に垂直な面が第1の誘電体基板20aと交差する線である図2のB−B’線から左側、すなわち図1の第1配線層の信号線路10が形成されている側のクリアランス領域60が、導電性ビア30を中心とする半径R4の最小値である半径hの半円領域で構成されている。上記したように、h=(R1+R2)/2=(575μm+50μm)/2=312.5μmであるので、信号線路10が形成されている側のクリアランス領域60は、半径312.5μmの半円で構成される。
【0049】
一方、図2のB−B’線から右側、すなわち第1配線層の信号線路10が形成されていない側のクリアランス領域60は、信号線路10の延在方向(信号伝送方向)の長さLが212.5μmで、信号伝送方向と垂直方向(すなわち、B−B’線と平行な方向)の長さがhの2倍である625μmである矩形領域と、導電性ビア30の中心から信号伝送方向に距離212.5μm離れた位置を中心とする半径hの半円領域とで構成されている。すなわち、信号線路10が形成されていない側のクリアランス領域60の面積は、信号線路10が形成されている側のクリアランス領域60の面積よりも、矩形領域(212.5μm×625μm)の分だけ大きい。
【0050】
図13は、実施形態における多層配線基板1の具体的な上記の実施例の特性と、従来の多層配線基板の特性とを比較する図である。図13において、横軸は高周波信号の周波数(GHz)であり、縦軸は信号線路10から導電性ビア30への信号入力端における反射特性を示す|S11|(dB)を表している。図13において、実線で示す反射特性(DATA1)が本発明の具体的な実施例における多層配線基板1の特性を示し、点線で示す反射特性(DATA2)が従来の多層配線基板の特性を示している。
【0051】
図13から明らかなように、反射特性|S11|が−10dB以下を満たす周波数範囲は、従来例の場合が低周波から約28GHzまでであるのに対して、実施例の場合は低周波から約41GHzまで伸びている。
【0052】
上記実施形態においては、第1の誘電体基板20aの両面に形成された信号線路10及びグランドパターン40を有するマイクロストリップ線路を例に採って、異なる層の高周波伝送線路、及び高周波伝送線路同士を接続する接続線路(導電性ビア)について説明したが、他の変形例として、高周波伝送線路をコプレーナ線路で構成してもよい。コプレーナ線路は、信号線路が形成されている誘電体基板の面と同じ面に、信号線路を挟んで平行な2本のグランドパターンを形成する構成になっている。コプレーナ線路のインピーダンスは、信号線路の導体幅、信号線路とグランドパターンとの間隔、誘電体基板の厚さ及び誘電率によって決定される。以下、図1乃至図4を援用してこの他の変形例について説明する。
【0053】
この他の変形例によれば、第1の誘電体基板20aの一方の面における図示しないある位置(特定位置)から導電性ビア30の位置(他の特定位置)まで延在された特定の導体幅の導電パターンである信号線路10と、第1の誘電体基板20aの同じ一方の面に形成された接地電圧のグランドパターン(接地導体)と、第1の誘電体基板20aの他方の面に形成されたグランドパターン40とによって、コプレーナ線路が構成される。導電性ビア30(第1貫通導体)は、信号線路10の先端10aに一端が接続され、第1の誘電体基板20aを垂直方向に貫通して他端が他の信号線路(図示せず)に接続される。導電性ビア50(第2貫通導体)は、導電性ビア30を中心として一定の半径を有する円筒状に複数配置されて、第1の誘電体基板20aを基板面に垂直な方向に貫通し、各一端がグランドパターン40と接続され、各他端(図示せず)が他のグランドパターン(図示せず)と接続される。第1の誘電体基板20aの他方の面のクリアランス領域(誘電体領域)60は、導電性ビア30が貫通している位置の周囲において、導電性ビア30が貫通している位置で信号線路10の延在方向と直交するB−B’線を挟んで、信号線路10が形成されていない側の領域の面積が、B−B’線と距離hをもって平行する領域確定線90に基づいて形成された前記信号線路10側の面積よりも大きい構成になっている。
【0054】
したがって、この他の変形例においても、コプレーナ線路と同軸型の接続線路との間で、クリアランス領域をマイクロストリップ線路の場合と同様に設定することによって、試行錯誤を繰り返すことなく、効率的にインピーダンス整合を図ることができ、異なる層の高周波伝送線路としてのコプレーナ線路と、コプレーナ線路同士を接続する接続線路との間で、同軸型の接続線路の特性インピーダンスの減少を抑制し、且つ、コプレーナ線路の特性インピーダンスの増加を抑制して、インピーダンス不整合を改善し、高周波信号の反射損失を低減することができる。
【0055】
これまでは導電性ビア50の一つは信号線路10の直下にあるとして説明してきたが、これに限定する必要はない。導電性ビア50は例えば図1〜12に示す配置に対して導電性ビア30を中心に任意の角度回転させた配置であっても良い。この場合も経路Cと経路Dのそれぞれの最短経路長が略等しくなるように領域確定線90に係る距離hを設定すればよい。これによりこれまで説明した効果と同様の効果が得られる。
【0056】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
【0057】
(付記1)
複数の誘電体基板を積層して形成される多層配線基板において、
前記誘電体基板の一方の面における特定位置から他の特定位置まで延在された特定の導体幅の信号線路及び前記誘電体基板の他方の面に形成された接地導体を有するマイクロストリップ線路と、
前記他の特定位置において前記信号線路と一端が接続され、前記誘電体基板を該誘電体基板面に対して垂直方向に貫通して他端が他の信号線路と接続される第1貫通導体及び該第1貫通導体を中心として一定の半径を有する円筒状に複数配置されて前記誘電体基板を前記垂直方向に貫通し、各一端が前記接地導体と接続され、各他端が他の接地導体と接続される第2貫通導体を有する同軸型の接続線路と、を備え
前記他方の面の前記第1貫通導体が貫通している位置の周囲において、前記誘電体基板がその基板面に平行な面上で、前記接地導体によって囲まれた領域である誘電体領域を前記第1貫通導体が貫通している位置で前記信号線路の延在方向と直交する直線である信号線路直交直線を含む前記他方の面に垂直な面で二分したとき、前記信号線路が形成されている側の前記誘電体領域は、前記信号線路直交直線から前記信号線路が形成されている側に距離hをもって平行する領域確定線に基づいて形成され、
前記信号線路の延在方向の中心線を含む前記他方の面に垂直な面である信号線路中心面と前記領域確定線とが交わる点を特定点としたとき、
前記領域確定線に係る前記距離hは、前記第2貫通導体から前記特定点への前記接地導体を通る経路の最短距離と、前記第2貫通導体の貫通する方向の対応する前記信号線路の位置から前記第1貫通導体への経路の最短距離の差が所定値以下になるように設定された値であり、
前記信号線路が形成されていない側の前記誘電体領域は、その面積が、前記信号線路が形成されている側の前記誘電体領域の面積よりも大きい、
ことを特徴とする多層配線基板。
【0058】
(付記2)
前記信号線路が形成されている側の前記誘電体領域は、前記信号線路中心面と前記他方の面との交わる線上において、前記第1貫通導体から前記領域確定線までの範囲を含む領域である、
ことを特徴とする付記1に記載の多層配線基板。
【0059】
(付記3)
前記マイクロストリップ線路を、前記誘電体基板の一方の面における特定位置から他の特定位置まで延在された特定の導体幅の信号線路と、前記一方の面に前記信号路線と平行してその両側に形成された接地導体と、及び前記誘電体基板の他方の面に形成された接地導体とを有するコプレーナ線路に置き換えて構成される、
ことを特徴とする付記1又は2に記載の多層配線基板。
【0060】
(付記4)
前記信号線路は、前記領域確定線の位置から前記第1貫通導体の前記一端の位置に達するまでの導体幅が徐々に小さくテーパ状に形成されている、
ことを特徴とする付記1乃至3のいずれか1つに記載の多層配線基板。
【0061】
(付記5)
前記第1貫通導体は円柱導体によって構成され、円筒状に配置された複数の前記第2貫通導体が外接する円の半径をR1とし、R1より小さく且つ製造可能な前記誘電体領域の前記第1貫通導体の中心位置からの最大半径をR3、前記距離hより大きく且つR3以下の値をR4、として、前記信号線路が形成されている側の前記誘電体領域が、前記第1貫通導体を中心とするR4を半径とする半円内の領域であって、且つ、前記信号線路直交直線と前記領域確定線との間の領域で構成されている、
ことを特徴とする付記1乃至4のいずれか1つに記載の多層配線基板。
【0062】
(付記6)
前記第1貫通導体は円柱導体によって構成され、円筒状に配置された複数の前記第2貫通導体が外接する円の半径をR1とし、R1より小さく且つ製造可能な前記誘電体領域の前記第1貫通導体の中心位置からの最大半径をR3、前記距離hより大きく且つR3以下の半径をR4、として、前記信号線路が形成されている側の前記誘電体領域は、前記信号線路の延在方向においては前記信号線路直交直線から前記領域確定線まで、且つ前記延在方向と直交する方向においては前記信号線路の幅以上の矩形の領域で構成されている、
ことを特徴とする付記1乃至4のいずれか1つに記載の多層配線基板。
【0063】
(付記7)
前記第1貫通導体は円柱導体によって構成され、円筒状に配置された複数の前記第2貫通導体が外接する円の半径をR1とし、R1より小さく且つ製造可能な前記誘電体領域の前記第1貫通導体の中心位置からの最大半径をR3、前記距離hより大きく且つR3以下の値をR4、として、前記信号線路が形成されている側の前記誘電体領域は、前記領域確定線位置で、前記延在方向と直交する方向に前記信号線路の幅以上の幅を有しこれを上底とし、前記直交する直線上で前記第1貫通導体を中心にR4の2倍の幅を有しこれを下底とする台形の領域で構成されている、
ことを特徴とする付記1乃至4のいずれか1つに記載の多層配線基板。
【0064】
(付記8)
前記第1貫通導体は円柱導体によって構成され、円筒状に配置された複数の前記第2貫通導体が外接する円の半径をR1とし、R1より小さく且つ製造可能な前記誘電体領域の前記第1貫通導体の中心位置からの最大半径をR3、前記距離hより大きく且つR3以下の値をR4、として、前記信号線路が形成されている側の前記誘電体領域は、前記第1貫通導体を中心とする前記半径R4の半円の領域から、前記直交する線に対して前記領域確定線を越える領域と、前記第1貫通導体の中心を通る前記延在方向の線を中心線として少なくとも前記信号線路の幅を有する領域との重なりの領域を除いた領域で構成されている、
ことを特徴とする付記1乃至4のいずれか1つに記載の多層配線基板。
【0065】
(付記9)
前記第1貫通導体は円柱導体によって構成され、円筒状に配置された複数の前記第2貫通導体が外接する円の半径をR1とし、R1より小さく且つ製造可能な前記誘電体領域の前記第1貫通導体の中心位置からの最大半径をR3、前記第1貫通導体の中心を通り前記第1導体パターンの延在方向の直線上において前記第1貫通導体の中心から前記信号線路が形成されていない側に距離(R3−h)/2だけ離れた位置をE、(h+R1)/2で算定される値をR5、とした場合に、前記誘電体領域が、前記Eを中心とする前記半径R5の円の領域と前記第1貫通導体を中心とする前記半径R3の円の領域との重なりの領域で、且つ、前記直交する線に対して前記領域確定線を越える領域を除く領域で構成されることにより前記信号線路が形成されている側の前記誘電体領域と前記信号線路が形成されていない側の前記誘電体領域とが構成されている、
ことを特徴とする付記1乃至4のいずれか1つに記載の多層配線基板。
【0066】
(付記10)
前記複数の第2貫通導体の1つは、前記信号線路の直下に配置されている、
ことを特徴とする付記1乃至9のいずれか1つに記載の多層配線基板。
【0067】
(付記11)
前記第1貫通導体は円柱導体によって構成され、円筒状に配置された複数の前記第2貫通導体が外接する円の半径をR1、前記第1貫通導体の半径をR2、前記誘電体基板の厚さをt1、前記接地導体の厚さをt2として、前記直交する直線と前記領域確定線との間の前記距離hは略((R1+R2)−(t1−t2))/2である、
ことを特徴とする付記10に記載の多層配線基板。
【0068】
(付記12)
付記1乃至11のいずれか1つに記載の多層配線基板に実装された半導体集積回路によって構成される、
ことを特徴とする高周波回路。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の多層配線基板及びその多層配線基板に実装される高周波回路は、3GHzから30GHzまでのマイクロ波や、30GHzから300GHzまでのミリ波の信号処理を行う電子機器に使用する配線基板及びその配線基板に実装される高周波回路に適している。
【符号の説明】
【0070】
1 多層配線基板
10 信号線路
10a 信号線路の先端
20a 第1の誘電体基板
20b 第2の誘電体基板
20c 第3の誘電体基板
30 導電性ビア(第1貫通導体)
50 導電性ビア(第2貫通導体)
40、70 グランドパターン(接地導体)
60、80 クリアランス領域(誘電体領域)
90 領域確定線
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層配線基板及びその多層配線基板に実装された高周波回路に関し、特に、異なる層の高周波伝送線路同士を接続する接続線路と高周波伝送線路との間のインピーダンスの調整に資する誘電体領域を有する多層配線基板及びその多層配線基板に実装された高周波回路に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの電子機器において、半導体用のパッケージや回路素子を実装するための多層配線基板が広く普及している。このような多層配線基板の表面又は内部には、マイクロストリップ線路やコプレーナ線路等の高周波伝送線路が表層線路又は内層線路として形成される。さらに、異なる層の高周波伝送線路同士を接続するために、回路基板の基板面に平行な面内での信号伝送方向に対して垂直な方向の信号伝送が必要である。このために、異なる層の高周波伝送線路同士を接続する接続線路として、層間を基板面に垂直な方向に貫通するビアホール(via hole)導体が広く使用されている。
【0003】
一方、近年において飛躍的に向上した半導体技術及び高周波技術によって、3GHzから30GHzまでのマイクロ波はもとより、30GHzから300GHzまでのミリ波の信号処理を行う高周波回路を実装可能な多層配線基板が要求されている。このような高周波用の多層配線基板においては、同軸型の接続線路であるビアホール導体が使用される。
【0004】
例えば、特許文献1には、マイクロストリップ線路を構成する信号線路を層間で接続するための、疑似的な同軸型のビアホール導体が開示されている。この特許文献1では、各層の信号線路の周囲にクリアランス領域と呼ばれる誘電体領域(絶縁領域)を介してリング状のグランド導体を設け、層間での信号線路の接続線路は、信号線路接続用のビアホール導体と、このビアホール導体に対して同心円上に配置され、グランド導体同士を接続する8本のビアホール導体とで、擬似的な同軸線路を形成する構造を有している。さらに、同心円上に配置された隣接するビアホール導体の間隔を信号波長の1/4未満に設定して、ビアホール導体を流れる信号の漏洩を防止する構造になっている。
【0005】
また、特許文献2には、信号配線を挟んだ2つのGND(グランド)層において、信号端子用スルーホール(ビアホール導体と同義と考えて良い)の周りに設けられるクリアランス領域を、スルーホール中心線を含み、信号配線の信号の流れる方向に垂直な面で2つのクリアランス領域に分け、信号配線が形成されていない側のクリアランス領域の面積が、信号配線が形成されている側のクリアランス領域の面積よりも大きくなるようにクリアランス領域を形成した多層配線基板の構造が開示されている。この異なる面積の2分されたクリアランス領域が、配線インピーダンス調整部として機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4587625号公報
【特許文献2】特開2009−059873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された疑似同軸線路構造の場合には、マイクロストリップ線路における電磁界分布と疑似同軸線路における電磁界分布とが異なるため、マイクロストリップ線路と疑似同軸線路との間でインピーダンス不整合が生じる。この結果、高周波信号の反射損失が増加する。すなわち、進行波に対する反射波の比率が大きくなるという課題がある。
【0008】
一方、特許文献2においては、異なる面積の2分されたクリアランス領域によりインピーダンスの整合をとることは可能になるが、2分されたクリアランス領域の面積の相違をどのようにして定量的に確定するか不明である。このため、最良のインピーダンス整合を得るまでに試行錯誤を繰り返すことになり、インピーダンス整合の効率的な改善が困難であるという課題がある。
【0009】
本発明の目的は、上記課題を解決するためになされたものであり、多層配線基板における異なる層の高周波伝送線路同士を接続する接続線路と高周波伝送線路との間のインピーダンスの調整に資するクリアランス領域(誘電体領域)の設定において、定量的な手法によって、試行錯誤を繰り返すことなく、高周波伝送線路と接続線路との間のインピーダンス不整合を効率的に改善し、高周波信号の反射損失を低減することができる多層配線基板及びその多層配線基板に実装された高周波回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するために、本発明の第1の観点に係る多層配線基板は、
複数の誘電体基板を積層して形成される多層配線基板において、
前記誘電体基板の一方の面における特定位置から他の特定位置まで延在された特定の導体幅の信号線路及び前記誘電体基板の他方の面に形成された接地導体を有するマイクロストリップ線路と、
前記他の特定位置において前記信号線路と一端が接続され、前記誘電体基板を該誘電体基板面に対して垂直方向に貫通して他端が他の信号線路と接続される第1貫通導体及び該第1貫通導体を中心として一定の半径を有する円筒状に複数配置されて前記誘電体基板を前記垂直方向に貫通し、各一端が前記接地導体と接続され、各他端が他の接地導体と接続される第2貫通導体を有する同軸型の接続線路と、を備え
前記他方の面の前記第1貫通導体が貫通している位置の周囲において、前記誘電体基板がその基板面に平行な面上で、前記接地導体によって囲まれた領域である誘電体領域を前記第1貫通導体が貫通している位置で前記信号線路の延在方向と直交する直線である信号線路直交直線を含む前記他方の面に垂直な面で二分したとき、前記信号線路が形成されている側の前記誘電体領域は、前記信号線路直交直線から前記信号線路が形成されている側に距離hをもって平行する領域確定線に基づいて形成され、
前記信号線路の延在方向の中心線を含む前記他方の面に垂直な面である信号線路中心面と前記領域確定線とが交わる点を特定点としたとき、
前記領域確定線に係る前記距離hは、前記第2貫通導体から前記特定点への前記接地導体を通る経路の最短距離と、前記第2貫通導体の貫通する方向の対応する前記信号線路の位置から前記第1貫通導体への経路の最短距離の差が所定値以下になるように設定された値であり、
前記信号線路が形成されていない側の前記誘電体領域は、その面積が、前記信号線路が形成されている側の前記誘電体領域の面積よりも大きい、
ことを特徴とする。
【0011】
上述の目的を達成するために、本発明の第2の観点に係る高周波回路は、
本発明の第1の観点に係る多層配線基板に実装された半導体集積回路によって構成される、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、多層配線基板及び多層配線基板に実装された半導体集積回路により構成される高周波回路では、多層配線基板における異なる層の高周波伝送線路同士を接続する接続線路と高周波伝送線路との間のインピーダンスの調整に資するクリアランス領域(誘電体領域)の設定において、定量的な手法によって、試行錯誤を繰り返すことなく、高周波伝送線路と接続線路との間のインピーダンス不整合を効率的に改善し、高周波信号の反射損失を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る多層配線基板の第1の誘電体基板の上面に形成された第1配線層の平面図である。
【図2】図1の第1の誘電体基板の下面に形成された第2配線層の平面図である。
【図3】図1の多層配線基板の第2の誘電体基板の上面に形成された第3配線層の平面図である。
【図4】図1のA−A’線に沿った多層配線基板の概略的な断面図である。
【図5】図2に示した第2配線層の第1の変形例の平面図である。
【図6】図2に示した第2配線層の第2の変形例の平面図である。
【図7】図2に示した第2配線層の第3の変形例の平面図である。
【図8】図2に示した第2配線層の第4の変形例の平面図である。
【図9】図2に示した第2配線層の第5の変形例の平面図である。
【図10】図2に示した第2配線層の第6の変形例の平面図である。
【図11】図2に示した第2配線層の第7の変形例の平面図である。
【図12】図2に示した第2配線層の第8の変形例の平面図である。
【図13】実施形態に係る多層配線基板の具体的な実施例の特性と従来の多層配線基板の特性とを比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施形態)
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。図1乃至図4は、実施形態に係る多層配線基板1の、異なる層の高周波伝送線路同士を接続する接続線路近傍の構成を示す図である。通常、多層配線基板は、樹脂、セラミック、アルミナ(酸化アルミニウム)等の誘電体基板の上面及び下面に銅、金、その他の金属の導電パターンによって信号線路及び接地導体であるグランドパターンを含む配線層が形成されている。
【0015】
以下、積層された多層配線基板1の一部である、第1乃至第3の誘電体基板の表面に形成された配線層を例に採って、実施形態の多層配線基板について説明する。
【0016】
各配線層に形成された導電性パターン同士を各層に垂直な方向に接続する接続線路は、各層を貫通する貫通導体である導電性ビアで構成されている。なお、図1乃至図4、及び後述する図5乃至図12の変形例においては、誘電体基板を網点で、導電パターン(信号線路及びグランドパターン)を斜線のハッチングで、導電性ビアを無地で表示することとする。なお、導電性ビアは無地で示された部分が導体で充填されたものでも良いし、無地で示された部分の内表面が導体で覆われたものであってもよい。
【0017】
図1は、実施形態の多層配線基板1における第1の誘電体基板20aの上面に形成された第1配線層の平面図である。図2は、誘電体基板20aの下側の層である第2の誘電体基板20bの上面、すなわち誘電体基板20aの下面に形成された第2配線層の平面図である。図3は、誘電体基板20bの下側の層である第3の誘電体基板20cの上面、すなわち第2の誘電体基板20bの下面に形成された第3配線層の平面図である。図4は、図1の信号線路10の信号伝送方向の中心線であるA−A’線に沿った概略的な断面図である。
【0018】
図1に示すように、誘電体基板20aの上面の第1配線層には、マイクロ波やミリ波の高周波信号を伝送する高周波伝送線路である信号線路10が形成されている。この信号線路10は、第1の誘電体基板20aの同じ上面における図示しない特定位置(例えば、多層配線基板1に実装される半導体集積回路チップの端子の接続位置)から先端10aまで延在する特定の導体幅の導電パターンで構成されている。
【0019】
また、図2に示すように、第1の誘電体基板20aの下面の第2配線層には、接地導体であるグランドパターン40が形成されている。すなわち、第1の誘電体基板20aを挟んで形成される信号線路10とグランドパターン40とは、信号線路10の導体幅、第1の誘電体基板20aの厚み及び誘電率によって定まる特定のインピーダンスを有するマイクロストリップ線路を形成している。
【0020】
図1及び図4に示すように、マイクロストリップ線路を構成する信号線路10の先端10aは、他の配線層(図示せず)の信号線路又は入出力端子に接続するため、第2の誘電体基板20b、第3の誘電体基板20c等を貫通する導電性ビア30(第1貫通導体)の一端に接続されている。
【0021】
図3に示す第3配線層には、貫通する導電性ビア30を中心として同心円状に、リング状のグランドパターン70が形成されている。また、図3、図4に示すように、導電性ビア30を中心とする半径R1の同心円に外接して、8個の導電性ビア50(第2貫通導体)が等間隔で配列されている。各導電性ビア50は、グランドパターン70の径方向の幅の略中央位置で第2の誘電体基板20b、第3の誘電体基板20c及びグランドパターン40、70を貫通している。各導電性ビア50はグランドパターン40及び70と電気的に接続されている。なお、図2に示す例では、導電性ビア50のうちの一つが信号線路10の直下に位置するように配置されている。
【0022】
図2乃至図4に示すように、第2配線層のグランドパターン40と、第3配線層のグランドパターン70とは、8個の導電性ビア50によって電気的に接続されている。したがって、各導電性ビア50同士も同心円状のグランドパターン70及びグランドパターン40によって相互に電気的に接続されている。すなわち、導電性ビア30と導電性ビア50とは、導電性ビア30を内導体とし、導電性ビア50を外導体とし、その間にある誘電体基板の誘電体で導電性ビア30と50とが相互に絶縁されることにより、各配線層に垂直な方向の疑似同軸型の接続線路を構成する。
【0023】
図2に示すように、導電性ビア30がグランドパターン40と非接触の状態で第1の誘電体基板20aを貫通するように、第1の誘電体基板20aにはクリアランス領域60が形成されている。また、図3に示すように、導電性ビア30がグランドパターン70と非接触の状態で第2の誘電体基板20bを貫通するように、第2の誘電体基板20bにはクリアランス領域80が形成されている。
【0024】
次に、クリアランス領域60の設定について説明する。クリアランスは、導電性ビア50と電気的に接続されているグランドパターン40及び70と、導電性ビア30とを絶縁するための誘電体で構成され、クリアランス領域は導電性ビアが貫通している誘電体基板で構成される配線層の層面に平行な面上で、接地導体で囲まれた誘電体基板の領域、すなわち誘電体領域のことである。導電性ビア30を中心とする同心円に沿って、多層配線基板1を貫通する8個の導電性ビア50の内側に接する円(内接円)の半径をR1とすると、クリアランス領域60の最大領域は、導電性ビア30を中心としたR1よりも小さな半径R3の内部領域である。ここでR3は、導電性ビア30の周りで、半径R1の円に内接して複数個配置される導電性ビア50が接続されることを前提にしたときにグランドパターン40又は70の形成が可能な最大半径である。以下では製造可能半径R3と呼ぶ。
【0025】
次に、領域確定線について説明する。領域確定線は、後述する信号線路10の側にあるクリアランス領域60を確定するための線である。領域確定線は、信号線路10の延在方向に垂直な、グランドパターン40の形成されている基板面上の直線で、導電性ビア30の中心から信号線路10のある側に所定の距離h離れた位置にある。距離hは、図4に示す信号線路10に関する経路Cの最短経路長と、グランドパターン40に関する経路Dの最短経路長とが略等しくなるように設定される。経路Cは、図4に示すように、信号線路10の第1の誘電体基板20a側の面上で、信号線路10の延在方向の中心線に沿って、導電性ビア50が配置される、導電性ビア30を中心とした同心円位置に対応する点から導電性ビア30の表面に達し、導電性ビア30の貫通方向に沿って第1の誘電体基板20aの厚さ分進んだ位置に至る経路である。経路Dは、図4に示すように、導電性ビア50から、信号線路10の延在方向の中心線を含む基板面に垂直な面と領域確定線とが交わる点に至り、グランドパターン40の厚さ方向にその端面を通り、グランドパターン40の裏面を通って、導電性ビア50の表面に至る接地導体を通る経路である。
【0026】
図2及び図3に示すように、導電性ビア50の1つが信号線路10の直下に位置する場合、導電性ビア30の半径をR2とし、図4に示すように、第1の誘電体基板20aの厚さをt1、グランドパターン40の厚さをt2とすると、h=((R1+R2)−(t1−t2))/2とすれば経路CとDのそれぞれの最短経路長が等しくなる。(t1−t2)が(R1+R2)に比べて無視できる値になる場合はh=(R1+R2)/2とすることができる。
【0027】
以上を前提に、領域確定線に基づくクリアランス領域60の具体的な設定例について図2に従って説明する。いずれも導電性ビア50の一つが信号線路10の直下に位置する場合を示す。ここでR4を距離h以上R3以下の値として定義し、導電性ビア30が第1の誘電体基板20aを貫通している位置で、導電性ビア30の中心を通り、信号線路10の延在する方向(図1及び2のA−A’線)に直交する直線をB−B’線とし、B−B’線を含み第1の誘電体基板20aの基板面に垂直な面を分割面として、分割面に対して、第1の誘電体基板20aのグランドパターン40が形成されている面上で、信号線路10が形成されている側(B−B’線に対して図2の左側)に距離h離れて位置するB−B’線に平行な直線90が、先に説明した領域確定線90である。クリアランス領域60のうち、図1の信号線路10が形成されている側(図2のB−B’線に対して左側)のクリアランス領域60は、導電性ビア30を中心とした半径R4の同心円の内部領域のうち、B−B’線に対して図2の左側の領域で、且つ、B−B’線と領域確定線90との間の領域である。すなわち、信号線路10が形成されている側のクリアランス領域60は、A−A’線に沿って導電性ビア30から領域確定線90までの間の領域を含む。
【0028】
領域確定線90に係る距離hの値は次の理由により設定される。図1のA−A’線に沿った図4の断面において、信号線路10から導電性ビア30に至る経路Cの最短経路長と、グランドパターン40から導電性ビア50に至る経路Dの最短経路長との差が小さくなるようにクリアランス領域が構成される。距離hをこのように設定することにより、信号線路10から導電性ビア30に伝送される高周波信号の位相と、グランドパターン40から導電性ビア50に伝送される高周波信号の位相との差が理想的には0になる。現実には他の要因により位相差は0にはならないが、小さくなる。
【0029】
信号線路10が形成されていない側(B−B’線に対して図2の右側)のクリアランス領域は、信号線路10が形成されている側のクリアランス領域60の面積よりも大きくなるように設定される。例えば、信号線路の延在方向に直交する方向の幅が導電性ビア30を中心としたR4*2で、長さがLの矩形をB−B’線の右側に配置し、この矩形に半径R4の半円を付加して形成した領域に設定される。Lは例えばR3−R4に等しく設定する。このようにしてクリアランス領域60を設定することにより、信号線路10が形成されていない側のクリアランス領域60の面積は、信号線路10が形成されている側のクリアランス領域60の面積よりも大きくなる。
【0030】
このように、信号線路10が形成されている側のクリアランス領域60の形状と面積とは、距離hによって決まる領域確定線90に基づき決定される。信号線路10が形成されていない側のクリアランス領域60は、この決定された面積より大きな面積になるような形状に設定される。
【0031】
B−B’線で2分されるクリアランス領域60は、信号線路10及びグランドパターン40を有するマイクロストリップ線路と、導電性ビア30及び導電性ビア50を有する疑似同軸型の接続線路との間で、インピーダンスを整合するためのインピーダンス調整部を構成する。
【0032】
実施形態に係る、図1乃至図4に示す多層配線基板1のクリアランス領域60は、信号線路10が形成されている側のクリアランス領域60が領域確定線90に基づき決定され、信号線路10が形成されていない側のクリアランス領域60は、上記のように、信号線路10が形成されている側のクリアランス領域60の面積よりも大きい面積を有するように設定される。従って、多層配線基板及び多層配線基板に実装された半導体集積回路により構成される高周波回路では、マイクロストリップ線路と接続線路との間で、領域確定線90に基づく定量的な手法によって、試行錯誤の反復を要することなく、合理的にインピーダンスが整合される。多層配線基板及び多層配線基板に実装された半導体集積回路により構成される高周波回路では、異なる層の高周波伝送線路としてのマイクロストリップ線路と、マイクロストリップ線路同士を接続する同軸型の接続線路との間のクリアランス領域60を上記のようにして設定することによって、試行錯誤を繰り返すことなく、同軸型の接続線路の特性インピーダンスの減少を抑制し、且つ、マイクロストリップ線路の特性インピーダンスの増加を抑制して、インピーダンス不整合を効率的に改善し、高周波信号の信号伝送時の反射損失を低減することができる。これは、経路Cの最短経路長と経路Dの最短経路長とを等しくなるように領域確定線を設定し、これに基づきクリアランス領域60を設定したことによる。
【0033】
なお、図1に示すように、信号線路10は、領域確定線90からB−B’線すなわち導電性ビア30の一端に達するまでの長さhの導体幅が、徐々に小さくテーパ状に形成されている。
【0034】
このようにテーパ状に幅を変えることにより構造的な不連続が生じないためインピーダンス不整合が生じにくくなる。更に、このテーパ形状を微調整することにより、マイクロストリップ線路と接続線路との間のインピーダンス不整合をさらに改善し、高周波信号の反射損失を低減することができる。
【0035】
図5乃至図12は、図2に示した第2配線層の第1乃至第8の変形例を示す図である。いずれの変形例においても、信号線路10、グランドパターン40及び70、導電性ビア30及び50の配置は図1、図3に示したものと同じである。また、図4に示した多層配線基板1の断面図は、各変形例においても同じである。すなわち、いずれの変形例においても信号線路10から導電ビア30に至る経路Cの最短経路長とグランドパターン40から導電性ビア50に至る経路Dの最短経路長とは略同じである。
【0036】
図5に示す第1の変形例においては、信号線路10が形成されている側のクリアランス領域は、図2の場合と同じく、導電性ビア30を中心とした半径R4の同心円の内部領域のうち、B−B’線に対して図2の左側の領域で構成され、且つ、B−B’線と領域確定線との間の領域である。信号線路10が形成されていない側のクリアランス領域は、一例として、導電性ビア30を中心とする半径R3の同心円の内部領域のうち、B−B’線に対して図2の右側の領域で、且つ、A−A’線からの距離が半径R4の値以下の領域で構成される。
【0037】
図6に示す第2の変形例においては、信号線路10が形成されている側(図6のB−B’線の左側、他の変形例においても同じ)のクリアランス領域60は、導電性ビア30を中心とする半径R4の半円の領域のうち、B−B’線と領域確定線90との間の領域で構成され、信号線路10が形成されていない側(図6のB−B’線の右側、他の変形例においても同じ)のクリアランス領域60は、一例として、導電性ビア30を中心とする半径R3の半円の領域で構成されている。
【0038】
図7に示した第3の変形例においては、信号線路10が形成されている側のクリアランス領域60は、導電性ビア30から領域確定線90までの領域のうち、A−A’線に直交する方向の幅W1が信号線路10の導体幅W以上の値である矩形の領域で構成され、信号線路10が形成されていない側のクリアランス領域60は、一例として、導電性ビア30を中心とする半径R3の半円の領域で構成されている。
【0039】
図8に示した第4の変形例においては、信号線路10が形成されている側のクリアランス領域60は、領域確定線90上で信号線路10の幅Wを含む幅W2を有し、これを上底とし、B−B’線上で導電性ビア30の中心の両側にそれぞれR3の幅を取り、このR3*2を下底とする台形の領域で構成され、信号線路10が形成されていない側のクリアランス領域60は、一例として、導電性ビア30を中心とする半径R3の半円の領域で構成されている。
【0040】
図9に示した第5の変形例においては、信号線路10が形成されている側のクリアランス領域60は、導電性ビア30を中心とする半径R3の半円の領域のうち、導電性ビア30から領域確定線90までの領域で構成され、一例として、信号線路10が形成されていない側のクリアランス領域60は、導電性ビア30を中心とする半径R3の半円の領域で構成されている。
【0041】
図10及び図11に示した第6、第7の変形例においては、信号線路10が形成されている側のクリアランス領域60が、導電性ビア30を中心とする半径R3の半円の領域から、B−B’線を基準として領域確定線90を超える領域のうち、A−A’線を中心とする少なくとも幅Wの領域を除いた領域で構成され、一例として、信号線路10が形成されていない側のクリアランス領域60が、導電性ビア30を中心とする半径R3の半円の領域で構成されている。
【0042】
図12に示した第8の変形例においては、(h+R1)/2をR5とし、クリアランス領域60は、導電性ビア30の位置から信号線路10が形成されていない側に(R3−h)/2=eの距離だけ離れた位置Eを中心とした半径R5(h<R5<R3)の円の領域のうち、信号線路10が形成されている側の領域では、B−B’線から見て領域確定線90を超える領域を除き、信号線路1が形成されていない側の領域では、導電性ビア30を中心とした半径R3の円の外側に該当する領域を除いた領域で構成される。
【0043】
いずれの変形例においても、信号線路10が形成されていない側のクリアランス領域の面積が、B−B’線から距離hをもった領域確定線90に基づいて形成された信号線路10側のクリアランス領域の面積よりも大きく形成されている。
【0044】
したがって、いずれの変形例においても、マイクロストリップ線路と同軸型の接続線路との間で、各変形例に示すようにしてクリアランス領域60を設定することによって、これまで説明した効果と同様の効果を得ることができる。
【0045】
次に、具体的な実施例について説明する。この実施例において、多層配線基板1は、比誘電率9.8のアルミナ誘電体を3層重ねて構成されている。以下、図1乃至図4を参照しながら、多層配線基板1の具体例を説明する。
【0046】
図4に示した第1の誘電体基板20aの厚さt1は250μmであり、第2の誘電体基板20bの厚さは750μmである。各配線層の導体の厚さ、従ってグランドパターン40の厚さt2は10μmである。図1に示した第1配線層の信号線路10の延在方向に直交する方向の導電ビア30の中心から距離h以上離れた部分のパターン幅は230μmである。内導体である導電性ビア30の直径R2は100μmである。外導体である導電性ビア50の直径は150μm(半径は75μm)である。導電性ビア50は、導電性ビア30を中心として、半径650μmの円周上に等間隔で8個配置されている。したがって、8個の導電性ビア50の内側に接する内接円の半径(図2、図3の半径R1)は575μmになる。
【0047】
図3において、導電性ビア30を中心とするリング状のグランドパターン70の内径は、半径R1以下で製造可能な最大半径R3が525μmである。また、グランドパターン70の外形の半径は775μmである。同様に、図2において、グランドパターン40に設けられたクリアランス領域60は、製造可能なグランドパターン40の条件により、導電性ビア30からの最大半径R3が525μmとなる。
【0048】
グランドパターン40に設けられたクリアランス領域60において、導電性ビア30の中心における信号線路の延在方向(すなわち信号伝送方向)に垂直な面が第1の誘電体基板20aと交差する線である図2のB−B’線から左側、すなわち図1の第1配線層の信号線路10が形成されている側のクリアランス領域60が、導電性ビア30を中心とする半径R4の最小値である半径hの半円領域で構成されている。上記したように、h=(R1+R2)/2=(575μm+50μm)/2=312.5μmであるので、信号線路10が形成されている側のクリアランス領域60は、半径312.5μmの半円で構成される。
【0049】
一方、図2のB−B’線から右側、すなわち第1配線層の信号線路10が形成されていない側のクリアランス領域60は、信号線路10の延在方向(信号伝送方向)の長さLが212.5μmで、信号伝送方向と垂直方向(すなわち、B−B’線と平行な方向)の長さがhの2倍である625μmである矩形領域と、導電性ビア30の中心から信号伝送方向に距離212.5μm離れた位置を中心とする半径hの半円領域とで構成されている。すなわち、信号線路10が形成されていない側のクリアランス領域60の面積は、信号線路10が形成されている側のクリアランス領域60の面積よりも、矩形領域(212.5μm×625μm)の分だけ大きい。
【0050】
図13は、実施形態における多層配線基板1の具体的な上記の実施例の特性と、従来の多層配線基板の特性とを比較する図である。図13において、横軸は高周波信号の周波数(GHz)であり、縦軸は信号線路10から導電性ビア30への信号入力端における反射特性を示す|S11|(dB)を表している。図13において、実線で示す反射特性(DATA1)が本発明の具体的な実施例における多層配線基板1の特性を示し、点線で示す反射特性(DATA2)が従来の多層配線基板の特性を示している。
【0051】
図13から明らかなように、反射特性|S11|が−10dB以下を満たす周波数範囲は、従来例の場合が低周波から約28GHzまでであるのに対して、実施例の場合は低周波から約41GHzまで伸びている。
【0052】
上記実施形態においては、第1の誘電体基板20aの両面に形成された信号線路10及びグランドパターン40を有するマイクロストリップ線路を例に採って、異なる層の高周波伝送線路、及び高周波伝送線路同士を接続する接続線路(導電性ビア)について説明したが、他の変形例として、高周波伝送線路をコプレーナ線路で構成してもよい。コプレーナ線路は、信号線路が形成されている誘電体基板の面と同じ面に、信号線路を挟んで平行な2本のグランドパターンを形成する構成になっている。コプレーナ線路のインピーダンスは、信号線路の導体幅、信号線路とグランドパターンとの間隔、誘電体基板の厚さ及び誘電率によって決定される。以下、図1乃至図4を援用してこの他の変形例について説明する。
【0053】
この他の変形例によれば、第1の誘電体基板20aの一方の面における図示しないある位置(特定位置)から導電性ビア30の位置(他の特定位置)まで延在された特定の導体幅の導電パターンである信号線路10と、第1の誘電体基板20aの同じ一方の面に形成された接地電圧のグランドパターン(接地導体)と、第1の誘電体基板20aの他方の面に形成されたグランドパターン40とによって、コプレーナ線路が構成される。導電性ビア30(第1貫通導体)は、信号線路10の先端10aに一端が接続され、第1の誘電体基板20aを垂直方向に貫通して他端が他の信号線路(図示せず)に接続される。導電性ビア50(第2貫通導体)は、導電性ビア30を中心として一定の半径を有する円筒状に複数配置されて、第1の誘電体基板20aを基板面に垂直な方向に貫通し、各一端がグランドパターン40と接続され、各他端(図示せず)が他のグランドパターン(図示せず)と接続される。第1の誘電体基板20aの他方の面のクリアランス領域(誘電体領域)60は、導電性ビア30が貫通している位置の周囲において、導電性ビア30が貫通している位置で信号線路10の延在方向と直交するB−B’線を挟んで、信号線路10が形成されていない側の領域の面積が、B−B’線と距離hをもって平行する領域確定線90に基づいて形成された前記信号線路10側の面積よりも大きい構成になっている。
【0054】
したがって、この他の変形例においても、コプレーナ線路と同軸型の接続線路との間で、クリアランス領域をマイクロストリップ線路の場合と同様に設定することによって、試行錯誤を繰り返すことなく、効率的にインピーダンス整合を図ることができ、異なる層の高周波伝送線路としてのコプレーナ線路と、コプレーナ線路同士を接続する接続線路との間で、同軸型の接続線路の特性インピーダンスの減少を抑制し、且つ、コプレーナ線路の特性インピーダンスの増加を抑制して、インピーダンス不整合を改善し、高周波信号の反射損失を低減することができる。
【0055】
これまでは導電性ビア50の一つは信号線路10の直下にあるとして説明してきたが、これに限定する必要はない。導電性ビア50は例えば図1〜12に示す配置に対して導電性ビア30を中心に任意の角度回転させた配置であっても良い。この場合も経路Cと経路Dのそれぞれの最短経路長が略等しくなるように領域確定線90に係る距離hを設定すればよい。これによりこれまで説明した効果と同様の効果が得られる。
【0056】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
【0057】
(付記1)
複数の誘電体基板を積層して形成される多層配線基板において、
前記誘電体基板の一方の面における特定位置から他の特定位置まで延在された特定の導体幅の信号線路及び前記誘電体基板の他方の面に形成された接地導体を有するマイクロストリップ線路と、
前記他の特定位置において前記信号線路と一端が接続され、前記誘電体基板を該誘電体基板面に対して垂直方向に貫通して他端が他の信号線路と接続される第1貫通導体及び該第1貫通導体を中心として一定の半径を有する円筒状に複数配置されて前記誘電体基板を前記垂直方向に貫通し、各一端が前記接地導体と接続され、各他端が他の接地導体と接続される第2貫通導体を有する同軸型の接続線路と、を備え
前記他方の面の前記第1貫通導体が貫通している位置の周囲において、前記誘電体基板がその基板面に平行な面上で、前記接地導体によって囲まれた領域である誘電体領域を前記第1貫通導体が貫通している位置で前記信号線路の延在方向と直交する直線である信号線路直交直線を含む前記他方の面に垂直な面で二分したとき、前記信号線路が形成されている側の前記誘電体領域は、前記信号線路直交直線から前記信号線路が形成されている側に距離hをもって平行する領域確定線に基づいて形成され、
前記信号線路の延在方向の中心線を含む前記他方の面に垂直な面である信号線路中心面と前記領域確定線とが交わる点を特定点としたとき、
前記領域確定線に係る前記距離hは、前記第2貫通導体から前記特定点への前記接地導体を通る経路の最短距離と、前記第2貫通導体の貫通する方向の対応する前記信号線路の位置から前記第1貫通導体への経路の最短距離の差が所定値以下になるように設定された値であり、
前記信号線路が形成されていない側の前記誘電体領域は、その面積が、前記信号線路が形成されている側の前記誘電体領域の面積よりも大きい、
ことを特徴とする多層配線基板。
【0058】
(付記2)
前記信号線路が形成されている側の前記誘電体領域は、前記信号線路中心面と前記他方の面との交わる線上において、前記第1貫通導体から前記領域確定線までの範囲を含む領域である、
ことを特徴とする付記1に記載の多層配線基板。
【0059】
(付記3)
前記マイクロストリップ線路を、前記誘電体基板の一方の面における特定位置から他の特定位置まで延在された特定の導体幅の信号線路と、前記一方の面に前記信号路線と平行してその両側に形成された接地導体と、及び前記誘電体基板の他方の面に形成された接地導体とを有するコプレーナ線路に置き換えて構成される、
ことを特徴とする付記1又は2に記載の多層配線基板。
【0060】
(付記4)
前記信号線路は、前記領域確定線の位置から前記第1貫通導体の前記一端の位置に達するまでの導体幅が徐々に小さくテーパ状に形成されている、
ことを特徴とする付記1乃至3のいずれか1つに記載の多層配線基板。
【0061】
(付記5)
前記第1貫通導体は円柱導体によって構成され、円筒状に配置された複数の前記第2貫通導体が外接する円の半径をR1とし、R1より小さく且つ製造可能な前記誘電体領域の前記第1貫通導体の中心位置からの最大半径をR3、前記距離hより大きく且つR3以下の値をR4、として、前記信号線路が形成されている側の前記誘電体領域が、前記第1貫通導体を中心とするR4を半径とする半円内の領域であって、且つ、前記信号線路直交直線と前記領域確定線との間の領域で構成されている、
ことを特徴とする付記1乃至4のいずれか1つに記載の多層配線基板。
【0062】
(付記6)
前記第1貫通導体は円柱導体によって構成され、円筒状に配置された複数の前記第2貫通導体が外接する円の半径をR1とし、R1より小さく且つ製造可能な前記誘電体領域の前記第1貫通導体の中心位置からの最大半径をR3、前記距離hより大きく且つR3以下の半径をR4、として、前記信号線路が形成されている側の前記誘電体領域は、前記信号線路の延在方向においては前記信号線路直交直線から前記領域確定線まで、且つ前記延在方向と直交する方向においては前記信号線路の幅以上の矩形の領域で構成されている、
ことを特徴とする付記1乃至4のいずれか1つに記載の多層配線基板。
【0063】
(付記7)
前記第1貫通導体は円柱導体によって構成され、円筒状に配置された複数の前記第2貫通導体が外接する円の半径をR1とし、R1より小さく且つ製造可能な前記誘電体領域の前記第1貫通導体の中心位置からの最大半径をR3、前記距離hより大きく且つR3以下の値をR4、として、前記信号線路が形成されている側の前記誘電体領域は、前記領域確定線位置で、前記延在方向と直交する方向に前記信号線路の幅以上の幅を有しこれを上底とし、前記直交する直線上で前記第1貫通導体を中心にR4の2倍の幅を有しこれを下底とする台形の領域で構成されている、
ことを特徴とする付記1乃至4のいずれか1つに記載の多層配線基板。
【0064】
(付記8)
前記第1貫通導体は円柱導体によって構成され、円筒状に配置された複数の前記第2貫通導体が外接する円の半径をR1とし、R1より小さく且つ製造可能な前記誘電体領域の前記第1貫通導体の中心位置からの最大半径をR3、前記距離hより大きく且つR3以下の値をR4、として、前記信号線路が形成されている側の前記誘電体領域は、前記第1貫通導体を中心とする前記半径R4の半円の領域から、前記直交する線に対して前記領域確定線を越える領域と、前記第1貫通導体の中心を通る前記延在方向の線を中心線として少なくとも前記信号線路の幅を有する領域との重なりの領域を除いた領域で構成されている、
ことを特徴とする付記1乃至4のいずれか1つに記載の多層配線基板。
【0065】
(付記9)
前記第1貫通導体は円柱導体によって構成され、円筒状に配置された複数の前記第2貫通導体が外接する円の半径をR1とし、R1より小さく且つ製造可能な前記誘電体領域の前記第1貫通導体の中心位置からの最大半径をR3、前記第1貫通導体の中心を通り前記第1導体パターンの延在方向の直線上において前記第1貫通導体の中心から前記信号線路が形成されていない側に距離(R3−h)/2だけ離れた位置をE、(h+R1)/2で算定される値をR5、とした場合に、前記誘電体領域が、前記Eを中心とする前記半径R5の円の領域と前記第1貫通導体を中心とする前記半径R3の円の領域との重なりの領域で、且つ、前記直交する線に対して前記領域確定線を越える領域を除く領域で構成されることにより前記信号線路が形成されている側の前記誘電体領域と前記信号線路が形成されていない側の前記誘電体領域とが構成されている、
ことを特徴とする付記1乃至4のいずれか1つに記載の多層配線基板。
【0066】
(付記10)
前記複数の第2貫通導体の1つは、前記信号線路の直下に配置されている、
ことを特徴とする付記1乃至9のいずれか1つに記載の多層配線基板。
【0067】
(付記11)
前記第1貫通導体は円柱導体によって構成され、円筒状に配置された複数の前記第2貫通導体が外接する円の半径をR1、前記第1貫通導体の半径をR2、前記誘電体基板の厚さをt1、前記接地導体の厚さをt2として、前記直交する直線と前記領域確定線との間の前記距離hは略((R1+R2)−(t1−t2))/2である、
ことを特徴とする付記10に記載の多層配線基板。
【0068】
(付記12)
付記1乃至11のいずれか1つに記載の多層配線基板に実装された半導体集積回路によって構成される、
ことを特徴とする高周波回路。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の多層配線基板及びその多層配線基板に実装される高周波回路は、3GHzから30GHzまでのマイクロ波や、30GHzから300GHzまでのミリ波の信号処理を行う電子機器に使用する配線基板及びその配線基板に実装される高周波回路に適している。
【符号の説明】
【0070】
1 多層配線基板
10 信号線路
10a 信号線路の先端
20a 第1の誘電体基板
20b 第2の誘電体基板
20c 第3の誘電体基板
30 導電性ビア(第1貫通導体)
50 導電性ビア(第2貫通導体)
40、70 グランドパターン(接地導体)
60、80 クリアランス領域(誘電体領域)
90 領域確定線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の誘電体基板を積層して形成される多層配線基板において、
前記誘電体基板の一方の面における特定位置から他の特定位置まで延在された特定の導体幅の信号線路及び前記誘電体基板の他方の面に形成された接地導体を有するマイクロストリップ線路と、
前記他の特定位置において前記信号線路と一端が接続され、前記誘電体基板を該誘電体基板面に対して垂直方向に貫通して他端が他の信号線路と接続される第1貫通導体及び該第1貫通導体を中心として一定の半径を有する円筒状に複数配置されて前記誘電体基板を前記垂直方向に貫通し、各一端が前記接地導体と接続され、各他端が他の接地導体と接続される第2貫通導体を有する同軸型の接続線路と、を備え
前記他方の面の前記第1貫通導体が貫通している位置の周囲において、前記誘電体基板がその基板面に平行な面上で、前記接地導体によって囲まれた領域である誘電体領域を前記第1貫通導体が貫通している位置で前記信号線路の延在方向と直交する直線である信号線路直交直線を含む前記他方の面に垂直な面で二分したとき、前記信号線路が形成されている側の前記誘電体領域は、前記信号線路直交直線から前記信号線路が形成されている側に距離hをもって平行する領域確定線に基づいて形成され、
前記信号線路の延在方向の中心線を含む前記他方の面に垂直な面である信号線路中心面と前記領域確定線とが交わる点を特定点としたとき、
前記領域確定線に係る前記距離hは、前記第2貫通導体から前記特定点への前記接地導体を通る経路の最短距離と、前記第2貫通導体の貫通する方向の対応する前記信号線路の位置から前記第1貫通導体への経路の最短距離の差が所定値以下になるように設定された値であり、
前記信号線路が形成されていない側の前記誘電体領域は、その面積が、前記信号線路が形成されている側の前記誘電体領域の面積よりも大きい、
ことを特徴とする多層配線基板。
【請求項2】
前記信号線路が形成されている側の前記誘電体領域は、前記信号線路中心面と前記他方の面との交わる線上において、前記第1貫通導体から前記領域確定線までの範囲を含む領域である、
ことを特徴とする請求項1に記載の多層配線基板。
【請求項3】
前記マイクロストリップ線路を、前記誘電体基板の一方の面における特定位置から他の特定位置まで延在された特定の導体幅の信号線路と、前記一方の面に前記信号路線と平行してその両側に形成された接地導体と、及び前記誘電体基板の他方の面に形成された接地導体とを有するコプレーナ線路に置き換えて構成される、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の多層配線基板。
【請求項4】
前記第1貫通導体は円柱導体によって構成され、円筒状に配置された複数の前記第2貫通導体が外接する円の半径をR1とし、R1より小さく且つ製造可能な前記誘電体領域の前記第1貫通導体の中心位置からの最大半径をR3、前記距離hより大きく且つR3以下の値をR4、として、前記信号線路が形成されている側の前記誘電体領域が、前記第1貫通導体を中心とするR4を半径とする半円内の領域であって、且つ、前記信号線路直交直線と前記領域確定線との間の領域で構成されている、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の多層配線基板。
【請求項5】
前記第1貫通導体は円柱導体によって構成され、円筒状に配置された複数の前記第2貫通導体が外接する円の半径をR1とし、R1より小さく且つ製造可能な前記誘電体領域の前記第1貫通導体の中心位置からの最大半径をR3、前記距離hより大きく且つR3以下の半径をR4、として、前記信号線路が形成されている側の前記誘電体領域は、前記信号線路の延在方向においては前記信号線路直交直線から前記領域確定線まで、且つ前記延在方向と直交する方向においては前記信号線路の幅以上の矩形の領域で構成されている、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の多層配線基板。
【請求項6】
前記第1貫通導体は円柱導体によって構成され、円筒状に配置された複数の前記第2貫通導体が外接する円の半径をR1とし、R1より小さく且つ製造可能な前記誘電体領域の前記第1貫通導体の中心位置からの最大半径をR3、前記距離hより大きく且つR3以下の値をR4、として、前記信号線路が形成されている側の前記誘電体領域は、前記領域確定線位置で、前記延在方向と直交する方向に前記信号線路の幅以上の幅を有しこれを上底とし、前記直交する直線上で前記第1貫通導体を中心にR4の2倍の幅を有しこれを下底とする台形の領域で構成されている、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の多層配線基板。
【請求項7】
前記第1貫通導体は円柱導体によって構成され、円筒状に配置された複数の前記第2貫通導体が外接する円の半径をR1とし、R1より小さく且つ製造可能な前記誘電体領域の前記第1貫通導体の中心位置からの最大半径をR3、前記距離hより大きく且つR3以下の値をR4、として、前記信号線路が形成されている側の前記誘電体領域は、前記第1貫通導体を中心とする前記半径R4の半円の領域から、前記直交する線に対して前記領域確定線を越える領域と、前記第1貫通導体の中心を通る前記延在方向の線を中心線として少なくとも前記信号線路の幅を有する領域との重なりの領域を除いた領域で構成されている、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の多層配線基板。
【請求項8】
前記複数の第2貫通導体の1つは、前記信号線路の直下に配置されている、
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の多層配線基板。
【請求項9】
前記第1貫通導体は円柱導体によって構成され、円筒状に配置された複数の前記第2貫通導体が外接する円の半径をR1、前記第1貫通導体の半径をR2、前記誘電体基板の厚さをt1、前記接地導体の厚さをt2として、前記直交する直線と前記領域確定線との間の前記距離hは略((R1+R2)−(t1−t2))/2である、
ことを特徴とする請求項8に記載の多層配線基板。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の多層配線基板に実装された半導体集積回路によって構成される、
ことを特徴とする高周波回路。
【請求項1】
複数の誘電体基板を積層して形成される多層配線基板において、
前記誘電体基板の一方の面における特定位置から他の特定位置まで延在された特定の導体幅の信号線路及び前記誘電体基板の他方の面に形成された接地導体を有するマイクロストリップ線路と、
前記他の特定位置において前記信号線路と一端が接続され、前記誘電体基板を該誘電体基板面に対して垂直方向に貫通して他端が他の信号線路と接続される第1貫通導体及び該第1貫通導体を中心として一定の半径を有する円筒状に複数配置されて前記誘電体基板を前記垂直方向に貫通し、各一端が前記接地導体と接続され、各他端が他の接地導体と接続される第2貫通導体を有する同軸型の接続線路と、を備え
前記他方の面の前記第1貫通導体が貫通している位置の周囲において、前記誘電体基板がその基板面に平行な面上で、前記接地導体によって囲まれた領域である誘電体領域を前記第1貫通導体が貫通している位置で前記信号線路の延在方向と直交する直線である信号線路直交直線を含む前記他方の面に垂直な面で二分したとき、前記信号線路が形成されている側の前記誘電体領域は、前記信号線路直交直線から前記信号線路が形成されている側に距離hをもって平行する領域確定線に基づいて形成され、
前記信号線路の延在方向の中心線を含む前記他方の面に垂直な面である信号線路中心面と前記領域確定線とが交わる点を特定点としたとき、
前記領域確定線に係る前記距離hは、前記第2貫通導体から前記特定点への前記接地導体を通る経路の最短距離と、前記第2貫通導体の貫通する方向の対応する前記信号線路の位置から前記第1貫通導体への経路の最短距離の差が所定値以下になるように設定された値であり、
前記信号線路が形成されていない側の前記誘電体領域は、その面積が、前記信号線路が形成されている側の前記誘電体領域の面積よりも大きい、
ことを特徴とする多層配線基板。
【請求項2】
前記信号線路が形成されている側の前記誘電体領域は、前記信号線路中心面と前記他方の面との交わる線上において、前記第1貫通導体から前記領域確定線までの範囲を含む領域である、
ことを特徴とする請求項1に記載の多層配線基板。
【請求項3】
前記マイクロストリップ線路を、前記誘電体基板の一方の面における特定位置から他の特定位置まで延在された特定の導体幅の信号線路と、前記一方の面に前記信号路線と平行してその両側に形成された接地導体と、及び前記誘電体基板の他方の面に形成された接地導体とを有するコプレーナ線路に置き換えて構成される、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の多層配線基板。
【請求項4】
前記第1貫通導体は円柱導体によって構成され、円筒状に配置された複数の前記第2貫通導体が外接する円の半径をR1とし、R1より小さく且つ製造可能な前記誘電体領域の前記第1貫通導体の中心位置からの最大半径をR3、前記距離hより大きく且つR3以下の値をR4、として、前記信号線路が形成されている側の前記誘電体領域が、前記第1貫通導体を中心とするR4を半径とする半円内の領域であって、且つ、前記信号線路直交直線と前記領域確定線との間の領域で構成されている、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の多層配線基板。
【請求項5】
前記第1貫通導体は円柱導体によって構成され、円筒状に配置された複数の前記第2貫通導体が外接する円の半径をR1とし、R1より小さく且つ製造可能な前記誘電体領域の前記第1貫通導体の中心位置からの最大半径をR3、前記距離hより大きく且つR3以下の半径をR4、として、前記信号線路が形成されている側の前記誘電体領域は、前記信号線路の延在方向においては前記信号線路直交直線から前記領域確定線まで、且つ前記延在方向と直交する方向においては前記信号線路の幅以上の矩形の領域で構成されている、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の多層配線基板。
【請求項6】
前記第1貫通導体は円柱導体によって構成され、円筒状に配置された複数の前記第2貫通導体が外接する円の半径をR1とし、R1より小さく且つ製造可能な前記誘電体領域の前記第1貫通導体の中心位置からの最大半径をR3、前記距離hより大きく且つR3以下の値をR4、として、前記信号線路が形成されている側の前記誘電体領域は、前記領域確定線位置で、前記延在方向と直交する方向に前記信号線路の幅以上の幅を有しこれを上底とし、前記直交する直線上で前記第1貫通導体を中心にR4の2倍の幅を有しこれを下底とする台形の領域で構成されている、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の多層配線基板。
【請求項7】
前記第1貫通導体は円柱導体によって構成され、円筒状に配置された複数の前記第2貫通導体が外接する円の半径をR1とし、R1より小さく且つ製造可能な前記誘電体領域の前記第1貫通導体の中心位置からの最大半径をR3、前記距離hより大きく且つR3以下の値をR4、として、前記信号線路が形成されている側の前記誘電体領域は、前記第1貫通導体を中心とする前記半径R4の半円の領域から、前記直交する線に対して前記領域確定線を越える領域と、前記第1貫通導体の中心を通る前記延在方向の線を中心線として少なくとも前記信号線路の幅を有する領域との重なりの領域を除いた領域で構成されている、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の多層配線基板。
【請求項8】
前記複数の第2貫通導体の1つは、前記信号線路の直下に配置されている、
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の多層配線基板。
【請求項9】
前記第1貫通導体は円柱導体によって構成され、円筒状に配置された複数の前記第2貫通導体が外接する円の半径をR1、前記第1貫通導体の半径をR2、前記誘電体基板の厚さをt1、前記接地導体の厚さをt2として、前記直交する直線と前記領域確定線との間の前記距離hは略((R1+R2)−(t1−t2))/2である、
ことを特徴とする請求項8に記載の多層配線基板。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の多層配線基板に実装された半導体集積回路によって構成される、
ことを特徴とする高周波回路。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−74256(P2013−74256A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214415(P2011−214415)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】
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