説明

多機能プリンタ装置とその動作制御方法

【課題】画像記録部の種々の動作の影響が画像読取部の画像読取動作に及ばないようにして良好な画像読取を実現できる多機能プリンタ装置及びその動作制御方法を提供することである。
【解決手段】画像記録部による記録動作がなされない期間が予め定められた期間継続すると画像記録部の機構部を動作させて記録ヘッドの性能を維持する場合、画像読取部による画像読取動作の指示があれば、次のような制御を行う。即ち、画像読取動作に必要な第1の時間と記録ヘッドの性能維持動作を開始するまでの第2の時間とを比較する。そして、その比較結果に従って、画像読取動作と性能維持動作との実行が重ならないように、画像読取動作と前記性能維持動作の実行を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多機能プリンタ装置とその動作制御方法に関し、特に、例えば、プリンタ部とスキャナ部とを備えた多機能プリンタ装置とその動作制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年になり、例えば、インクジェットプリンタ装置にスキャナ機能や通信機能や外部メモリインタフェースを備えた多機能プリンタ装置(以下、MFPという)が注目されてきている。このようなMFPが一台あれば、単にパソコンで生成した記録データをプリント出力するのみならず、画像原稿を複写したり、ファクシミリ送受信したり、デジタルカメラで撮影した画像をパソコンを介さずに直接プリント出力することも可能になる。
【0003】
しかしながら、このように多くの機能を1つの筐体の中に実装するために、MFPには様々問題が生じてきた。
【0004】
一例として、プリント機能とスキャナ機能とを備えたMFPを考える。
【0005】
このようなMFPでは、プリンタの機構部の振動がスキャナ部の機構部に伝わってしまう。特に、近年のMFPでは装置全体のスループットを向上させるため、プリンタの機構部のモータ(記録媒体の搬送モータやキャリッジを往復移動させるキャリッジモータ)は高速回転するようになっており、その振動はより大きくなる傾向がある。一方、このような振動がスキャナ部の原稿台に置かれた画像原稿や画像読取センサに伝わると、実質的な読取解像度が低下するという問題があった。
【0006】
このような画像読取に悪影響を与える振動の影響を回避するため、記録動作が一定時間装置が停止していると自動的に起動される記録ヘッドのキャッピング動作などの機構的シーケンス動作を、画像読取処理の前に予め実行することが考えられる。
【0007】
例えば、MFPのプリンタ部にインクジェットプリンタを採用した場合、記録動作が一定時間以上行われないと、インクジェット記録ヘッド(以下、記録ヘッド)の保護やインク乾燥を防止する目的でタイムアウトキャッピングが実行される。この時、記録ヘッドのキャッピングがなされていないと、強制的にキャッピングがなされる。キャッピング動作そのものについては、例えば、特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2002−210995号公報(第10頁、第9図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら上記従来例では、タイムアウトキャッピングが必要になるまでの残り時間が充分に長い一方、画像読取に必要な時間が短くて画像読取が終了してからキャッピングしても記録ヘッドの性能に問題が生じない場合でもキャッピングが行われてしまう。このような場合、ユーザから見ると意味のないキャッピング処理の終了まで画像読取処理が待たされることになり、装置のスループット自体も低下する。
【0009】
さらに、本来の動作周期に先んじてキャッピングを行うので、結果として必要以上のキャッピングが行われ、機構部の磨耗などにより装置寿命そのものを短くしてしまう。さらに、キャッピングシーケンスの実行に伴って予備吐出や吸引回復などのインク消費が生じると、無駄なインク消費量が増加するという問題もあった。
【0010】
本発明は上記従来例に鑑みてなされたものであり、例えば、画像記録部の種々の動作の影響が画像読取部の画像読取動作に及ばないようにして良好な画像読取を実現できる多機能プリンタ装置及びその動作制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の記録装置は以下の構成からなる。
【0012】
即ち、原稿を走査して前記原稿の画像を読み取る読取手段を備えた画像読取部と、記録ヘッドを走査することと前記記録ヘッドの走査方向とは垂直の方向に記録媒体を搬送して前記記録媒体に画像を記録する画像記録部とを備えた多機能プリンタ装置であって、前記画像記録部による記録動作がなされない期間が予め定められた期間継続すると前記画像記録部の機構部を動作させて前記記録ヘッドの性能を維持する性能維持手段と、前記画像読取部による画像読取動作を指示する指示手段と、前記指示手段による画像読取動作の指示がなされた場合に、前記画像読取動作に必要な第1の時間と前記性能維持手段による性能維持動作を開始するまでの第2の時間とを比較する比較手段と、前記比較手段による比較結果に従って、前記画像読取動作と前記性能維持動作との実行が重ならないように、前記画像読取動作と前記性能維持動作の実行を制御する制御手段とを有することを特徴とする。
【0013】
また他の発明によれば、原稿を走査して前記原稿の画像を読み取る読取手段を備えた画像読取部と、記録ヘッドを走査することと前記記録ヘッドの走査方向とは垂直の方向に記録媒体を搬送して前記記録媒体に画像を記録する画像記録部とを備えた多機能プリンタ装置の動作制御方法であって、前記画像記録部による記録動作がなされない期間が予め定められた期間継続すると前記画像記録部の機構部を動作させて前記記録ヘッドの性能を維持する性能維持工程と、前記画像読取部による画像読取動作を指示する指示工程と、前記指示工程において画像読取動作の指示がなされた場合に、前記画像読取動作に必要な第1の時間と前記性能維持工程において性能維持動作を開始するまでの第2の時間とを比較する比較工程と、前記比較工程における比較結果に従って、前記画像読取動作と前記性能維持動作との実行が重ならないように、前記画像読取動作と前記性能維持動作の実行を制御する制御工程とを有することを特徴とする多機能プリンタ装置の動作制御方法を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、画像読取部の画像読取に悪影響を与える画像記録部の機構部を動作させた記録ヘッドの性能維持動作に伴って生じる振動を回避することができるので、より良好な画像読取を実現することができる。
【0015】
また、例えば、画像読取動作に必要な第1の時間の長さが性能維持手段による性能維持動作を開始するまでの第2の時間の長さ以下であるなら、性能維持動作の実行を抑止することで、高速の画像読取スループットを達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施例について詳細に説明する。
尚、以下に説明する実施例は、本発明の実現手段としての一例を示すものであり、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で下記実施例を修正又は変形したものにも適用可能である。
【0017】
なお、この明細書において、「記録」(「プリント」という場合もある)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わない。また、人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行なう場合も表すものとする。
【0018】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
【0019】
さらに、「インク」(「液体」と言う場合もある)とは、上記「記録(プリント)」の定義と同様広く解釈されるべきものである。従って、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表すものとする。
【0020】
またさらに、「ノズル」(「記録素子」、「記録要素」という場合もある)とは、特にことわらない限り吐出口ないしこれに連通する液路およびインク吐出に利用されるエネルギーを発生する素子を総括して言うものとする。
【0021】
図1は本発明の代表的な実施例である多機能プリンタ(以下、MFP)の外観斜視図である。
【0022】
MFP100はプリンタ機能とスキャナ機能と外部メモリ読取機能とを備えた装置であり、プリンタ機能を実現するためのプリンタ部(画像記録部)にはインクジェットプリンタを実装している。また、スキャナ機能を実現するためのスキャナ部(画像読取部)には光学スキャナを実装している。
【0023】
図1において、(a)はスキャナ部の原稿カバー51とプリンタ部の用紙排出トレイ54が閉じた状態を示す一方、(b)は原稿カバー51が開き、画像原稿を載置する原稿台52が見える状態を示している。また、(b)では記録紙などを載置するASF(自動給紙機構)53と用紙排出トレイ54が開いた状態も示している。
【0024】
さて、スキャナ部は電荷結合素子(CCD)を備え、CCDより原稿画像を読み取り、赤(R)、緑(G)および青(B)色のアナログ輝度信号を出力する。なお、スキャナ部に、CCDの代わりに、密着型イメージセンサ(CIS)を用いても良い。
【0025】
また、図1において、MFP100の右上部には複数のキーとボタンとLCDとを備えた操作部4が設けられ、MFP100の右側面の中央部にはカードインタフェース9が備えられている。カードインタフェース9には、例えば、デジタルスチルカメラで撮影され、記録された画像ファイルを格納したメモリカードを挿入することができる。そして、そのメモリカードに格納された画像ファイルをユーザが操作部4からの所定の操作を行うことでMFP100に読み込み、そのプリンタ部より画像を記録することができる。
【0026】
図2は、MFP100の制御構成を示すブロック図である。
【0027】
図2に示すように、MFP100は、CPU20、ROM1、RAM2、NVRAM3、操作部4、表示部5、プリンタ部6、画像処理部7、スキャナ部8、カードインタフェース9、駆動部10、及びセンサ部11を有する。
【0028】
ROM1は、MFP100が実行する制御プログラムや画像処理プログラム等を格納している。CPU20は、MFP100が備える様々な機能を制御し、操作部4における所定の操作に従い、ROM1に格納されている制御プログラムや画像処理プログラムを実行する。CPU20は、操作部4における所定の操作に従い、プリンタ部6やスキャナ部8等に対して動作の指示を行う。
【0029】
なお、カードインタフェース9を介して読み込まれた画像データの色空間は、必要ならば、画像処理部7によって、デジタルスチルカメラの色空間(例えば、YCbCr)から、標準的なRGB色空間(例えば、NTSC−RGBやsRGB)に変換される。また、そのヘッダ情報に基づいて、読み込まれた画像データは、有効な画素数への解像度変換など、アプリケーションに必要な様々な処理が必要に応じて施される。
【0030】
画像処理部7では、画像解析、サムネイル作成、サムネイル補正、出力画像補正等の画像処理が行われ、これらの画像処理によって得られた記録データは、一時的にRAM2に格納される。RAM2に格納された記録データが、プリンタ部6で記録する場合に必要な所定量に達すると、プリンタ部6による記録動作が実行される。
【0031】
なお、前述の画像処理は、記録用紙サイズや記録用紙タイプ、日付を付与する/しない、フチなし印刷する/しない、等の印刷設定によって、異なる記録データが生成される。
【0032】
また、NVRAM3はバッテリバックアップ付きのSRAMなどであり、MFP100に固有データなどを記憶する。
【0033】
操作部4は、メモリカードなどの記憶媒体に格納された画像データを選択し、記録を開始するために、フォトダイレクト印刷スタートキー、モノクロコピー時やカラーコピー時におけるモノクロコピースタートキー、カラーコピースタートキーを備える。さらに、操作部4は、コピー解像度や画質などのモードを指定するモードキー、コピー動作などを停止するためのストップキー、コピー数を入力するテンキーや登録キー、後述する画像ファイル選択手段を指定するカーソルキーなどによって構成されている。
【0034】
CPU20は、これらキーの押下状態を検出し、この押下状態に応じて、各部を制御する。
【0035】
表示部5は、ドットマトリクスタイプのLCDとLCDドライバとを備え、CPU20の制御に基づいて、各種の表示を行なう。
【0036】
プリンタ部6はインクジェット記録ヘッドを備え、その制御回路は汎用ICなどによって構成されている。CPU20の制御により、RAM2に格納されている記録データを読み出されて、プリンタ部6に転送されると、ハードコピーとして印刷出力する。
【0037】
駆動部10は、プリンタ部6の動作において、給排紙ローラを駆動するためのステッピングモータ、ステッピングモータの駆動力を伝達するギヤと、ステッピングモータとを制御するドライバ回路などによって構成されている。また、駆動部10はスキャナ部8に備えられたCCDセンサやCISを走査させるための例えばステッピングモータの駆動力を伝達するギヤとそのモータを制御するドライバ回路なども備えている。
【0038】
センサ部11は、記録紙幅センサ、記録紙有無センサ、原稿幅センサ、原稿有無センサ、記録紙検知センサ、キャップオープン/クローズ検知センサ等によって構成されている。CPU20は、これらセンサから得られた情報に基づいて、原稿と記録紙との状態を検知したり、キャップが記録ヘッドをキャッピングしているかどうかを検知する。
【0039】
図3はスキャナ部8の構成を示すブロック図である。
【0040】
図3において、301は画像原稿、302はレンズ、303はレンズ302により結像した画像を電気信号に変換するCCDラインセンサ等の受光素子、304は読取信号を処理して2値化する画像処理回路である。305は各色の読取信号の一時的記憶用のラインバッファ、306は外部機器と外部オプション機器との通信に用いるインタフェース回路、307はラインバッファ305を内部光源311毎に制御するラインバッファ制御回路を示す。309は内部光源の0N/0FF制御回路、311は内部光源、405はレンズ302、受光素子303、内部光源311及びその他の光学系等を含むセンサユニットを所定の方向に移動させるためのステッピングモータである。
【0041】
図4はスキャナ部8の機構的な構成を示す断面図である。
【0042】
図4において、401は原稿台52の外枠、402はセンサユニット、403はセンサユニット402を矢印方向(副走査方向)へ移動する基準となる基準軸である。また、404はセンサユニット402に接続され基準軸403に沿って移動させるための動作ベルト、405はステッピングモータ、406はステッピングモータ405の駆動力をベルト404に伝えるためのギア群である。
【0043】
図5はプリンタ部6に実装されるインクジェットプリンタの概観斜視図である。
【0044】
図5に示すように、ヘッドユニット102を搭載したキャリッジ101は、互いに平行に延在する2本のガイド軸104および105と摺動可能に係合する。これにより、キャリッジ101は、キャリッジモータ(不図示)とその駆動力を伝達するベルト等の駆動力伝達機構(不図示)により、ガイド軸104、105に沿って移動することができる。
【0045】
ヘッドユニット102はインクジェット記録ヘッド(以下、記録ヘッド)と、この記録ヘッドで用いられるインクを収納する3つのインクタンクとを有する。また、記録ヘッドは、シアン(C)、マゼンタ(M)、及びイエロ(Y)の3色の各インクをそれぞれ吐出する3個のヘッドを備え、3つのインクタンクにはこれらの色夫々に対応したインクを収容する。
【0046】
各ヘッドとインクタンクとは交互に着脱可能なものであり、インクタンク内のインクまたは処理液が無くなった場合等、必要に応じて個々のインク色毎にインクタンクのみを交換できる。また、ヘッドのみを必要に応じて交換できることはもちろんである。なお、ヘッドおよびインクタンクの着脱の構成は、上記の例に限られず、ヘッドとインクタンクが一体に成形された構成としてもよいことはもちろんである。
【0047】
さて、インクジェットプリンタは、記録ヘッドの走査方向とは異なる方向(垂直の方向)に記録媒体を搬送する。例えば、記録紙などの記録媒体106が、図5の例では、装置の前端部に設けられる挿入口113から挿入され、最終的にその搬送方向が反転され、搬送ローラ109によってキャリッジ101の移動領域の下部に搬送される。
【0048】
これにより、キャリッジ101に搭載された記録ヘッドからその移動に伴ってプラテン114によって支持された記録媒体106上の記録領域に記録がなされる。
【0049】
以上のようにして、キャリッジ101の移動に伴う記録ヘッドの吐出口配列の幅に対応した幅の記録と記録媒体106の搬送とを交互に繰り返しながら、記録媒体106全体に記録がなされ、記録媒体106は装置前方に排出される。
【0050】
なお、MFP100のプリンタ部6はMFPの背面に設けられたASF(自動給紙機構)103から記録媒体106を給紙して記録を行うこともできる。
【0051】
キャリッジ101の移動可能な領域の左端には、キャリッジ101上の記録ヘッドの3つのヘッドとそれらの下部において対向可能な回復ユニット110が設けられている。これにより非記録時等に各ヘッドの吐出口をキャップする動作や各ヘッドの吐出口からインクを吸引する等の動作を行うことができる。回復ユニット110には前述したキャップオープン/クローズ検知センサも含まれている。
【0052】
図5では、回復ユニット110は左端部に設けられているが、設計上の配置要求によって右端等に配置しても良いことはいうまでもない。また、回復ユニット110の所定位置は記録ヘッドのホームポジションとして設定されることもある。
【0053】
また、図5において、111はインクタンクに光を照射する発光ダイオード素子などの発光部、112はその反射光を検出する光センサである。これらはインクタンクのインク残量を検出するために用いられ、発光部111からインクタンクに向けて照射された光はそのインクタンクで反射され、その反射光を光センサ112で検出する。
【0054】
図6はインクジェット記録ヘッドのノズルとキャップの構成についての概念を示した断面図である。
【0055】
図6において、601はノズル、602は吐出口、603は電気熱変換体、604はインク液室を、605はインクタンクから供給されるインク、606は吐出されるインク液滴、607はキャップ部材を示している。
【0056】
さて、インク605はインクタンクから供給され、インク液室604で電気熱変換体603により熱エネルギーを加えられ、吐出口602からインク液滴606となって吐出される。一方、非記録動作時には吐出口602にインク液滴606が固着したり、ノズル601からインクの揮発成分が蒸発するのを防ぐため、キャップ部材(性能維持手段)607によって吐出口602は密閉される。
【0057】
一般に、この密閉動作をキャップクローズ処理、開放処理をキャップオープン処理と呼ばれている。このようなキャップオープン処理やキャップクローズ処理などは、ノズル601の状態を良好にするための性能維持動作である。なお、性能維持動作は、予備吐出処理(予備吐出動作)や吸引回復処理(吸引回復動作)なども含まれる。
【0058】
キャップオープン状態では迅速に記録を開始することができる。一方、その状態で放置するとインク液滴606が固着したり、ノズル601内のインクの粘度が増大するため、キャップオープン状態が続いたまま一定時間(期間)以内に記録命令が発生しない時点で自動的にキャップクローズ処理を行う。記録ヘッドがキャップされていない状態が予め定められた期間継続するとキャップクローズ処理を行う。一般的にこれはタイムアウトキャッピングと呼ばれる。
【0059】
キャップクローズ状態ではインク液滴606の固着やインク粘度の増大を防止できる一方、記録命令が来てもそのままの状態では記録を開始できないので、キャップオープン処理を行う必要がある。このため、スループットが低下する。
【0060】
さて、キャップクローズ処理、キャップオープン処理のいずれもキャリッジ101の動作を初めとして、種々の機構的動作が伴うため振動が発生する。この振動が原因となり、センサユニット402が動作中であると、読取画像の画質が劣化することになる。
【0061】
それで、この実施例に従う多機能記録装置では、プリンタ部で生じるキャップクローズ処理やキャップオープン処理の実行タイミングとスキャナ部での画像読取走査との実行タイミングとを制御している。
【0062】
図7はキャップクローズ処理やキャップオープン処理と、画像読取走査との実行タイミング制御処理について示したフローチャートである。
【0063】
まず、ステップS701で操作部4からの操作に基づいてCPU20から画像読取命令が発行されると、画像読取(スキャナ)を開始する。
【0064】
この実施例では、この命令に従ってセンサユニット402を実際に動作させて走査を行う前に、ステップS702で記録ヘッドがキャップオープン状態か否かを調べる(判別する)。これは、キャップオープン/クローズ検知センサからの検知信号に基づいて調べられる。そして、この判別結果に従い以下のような制御を行う。ここで、既に、記録ヘッドがキャップクローズ状態であることが確認されたならば、処理はステップS704に進んで、センサユニット402を移動させてスキャン動作、即ち、画像読取動作を行う。その後、ステップS706で処理を終了する。
【0065】
これに対して、記録ヘッドがキャップオープン状態であると判断されたなら、処理はステップS703に進み、スキャン所要予想時間(SET)とタイムアウトキャッピングまでの予想時間(TCT)とを比較する。スキャン所要予想時間(SET)については後述する。タイムアウトキャッピングまでの予想時間(TCT)は、予め定められたタイムアウト時間とキャップオープンとなり非記録状態が継続している経過時間とから求められる。
【0066】
ここで、SET≦TCTである場合には、処理はステップS704に進み、キャップオープンのままスキャン動作を行う。これにより、スキャン動作中はキャップクローズ処理は実行されないため、キャップクローズ処理に係る振動は発生せず、画像読取への悪影響はない。さらに、キャップクローズ処理を実行せず、スキャン動作を開始させられるためスループットが向上する。
【0067】
これに対し、SET>TCTである場合には、処理はステップS705に進み、キャップクローズを行い、その後、処理はステップS704に進み、スキャン動作を行う。これにより、スキャン動作中は既にキャップクローズ状態となっているため、キャップクローズ処理は実行されず、この処理に伴う振動は発生しない。従って、画像読取への悪影響はない。以上のように、スキャン所要予想時間(SET)とタイムアウトキャッピングまでの予想時間(TCT)との比較結果に基づき、スキャン動作またはキャップクローズ処理の実行を行う。以上のように、CPU20はSETとTCTを比較して、短い時間の動作を優先的に実行させる。
【0068】
図8はスキャン所要予想時間の算出について詳細に示したフローチャートである。
【0069】
まず、ステップS801では、読取範囲により定められるセンサユニット402の走査距離を変数(Y)に代入する。読取範囲はユーザが操作部4を操作して設定する画像原稿のサイズ、装置に予め記憶されたデフォルト値、或は、原稿台52のセンサユニット402の走査方向に関する長さなどによって定められる。
【0070】
次に、ステップS802では、センサユニット402の移動速度(走査速度)を変数(V)に代入する。最後に、ステップS803で、YをVで割り算し、その解をスキャン所要予想時間(SET)とする。
【0071】
従って以上説明した実施例に従えば、キャップクローズ/オープン処理と画像読取走査の実行タイミングを制御することにより、キャップクローズ/オープン処理により発生する機械的振動が画像読取処理に悪影響を与えること防止することができる。また、不必要なキャップクローズ/オープン処理の実行を抑止して、より高速のスループットを達成することができる。
【0072】
さらに、不必要なキャップクローズ/オープン処理の実行を抑止することで、プリンタ部の機構的な動作回数を減らすことができるので、機構部の磨耗などの減り、その結果装置の寿命を延ばすことに貢献する。またさらに、不必要なキャップクローズ/オープン処理の実行を抑止することで、その処理に伴う予備吐出や吸引回復などの動作も減らすことができるので、インク消費量をそのものを低減させることができる。
【0073】
さらに加えて、本発明を適用可能な多機能記録装置の形態としては、ネットワークや接続ケーブルを介してコンピュータ等の情報処理機器の画像出力装置として用いられるものの他、送受信機能を有するファクシミリ装置の形態を採るもの等であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の代表的な実施例である多機能プリンタ装置の概略構成を示す概観斜視図である。
【図2】多機能プリンタ装置の制御構成を示すブロック図である。
【図3】スキャナ部の詳細な制御構成を示すブロック図である。
【図4】スキャナ部の機構構成を示す断面図である。
【図5】プリンタ部に採用したインクジェットプリンタの構成概略を示す図である。
【図6】記録ヘッドのノズルとキャップの構成についての概念を示す断面図である。
【図7】多機能プリンタ装置の画像読取動作制御を示すフローチャートである。
【図8】スキャン所要時間の算出処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0075】
1 ROM
2 RAM
3 NVRAM
4 操作部
5 表示部
6 プリンタ部
7 画像処理部
8 スキャナ部
9 カードインタフェース
10 駆動部
11 センサ部
20 CPU
101 キャリッジ
102 ヘッドユニット
104、105 ガイド軸
106 記録媒体
109 搬送ローラ
110 回復ユニット
111 発光部
112 光センサ
301 原稿
302 レンズ
303 CCDラインセンサ
304 画像処理回路
305 ラインバッファ
306 インタフェース回路
307 ラインバッファ制御回路
309 内部光源光量制御回路
311 内部光源
401 外枠
402 センサユニット
403 基準軸
404 動作ベルト
405 ステッピングモータ
406 ギア群
601 ノズル
602 吐出口
603 電気熱変換体
604 インク液室
605 インク
606 インク液滴
607 キャップ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原稿を走査して前記原稿の画像を読み取る読取手段を備えた画像読取部と、記録ヘッドを走査することと前記記録ヘッドの走査方向とは垂直の方向に記録媒体を搬送して前記記録媒体に画像を記録する画像記録部とを備えた多機能プリンタ装置であって、
前記画像記録部による記録動作がなされない期間が予め定められた期間継続すると前記画像記録部の機構部を動作させて前記記録ヘッドの性能を維持する性能維持手段と、
前記画像読取部による画像読取動作を指示する指示手段と、
前記指示手段による画像読取動作の指示がなされた場合に、前記画像読取動作に必要な第1の時間と前記性能維持手段による性能維持動作を開始するまでの第2の時間とを比較する比較手段と、
前記比較手段による比較結果に従って、前記画像読取動作と前記性能維持動作との実行が重ならないように、前記画像読取動作と前記性能維持動作の実行を制御する制御手段とを有することを特徴とする多機能プリンタ装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記第1の時間と前記第2の時間の内、短い方の時間の動作を優先的に実行するよう制御することを特徴とする請求項1に記載の多機能プリンタ装置。
【請求項3】
前記第1の時間の長さが前記第2の時間の長さ以下であった場合には、前記制御手段は前記性能維持動作の実行を抑止して、前記画像読取動作のみを実行させるよう制御することを特徴とする請求項1に記載の多機能プリンタ装置。
【請求項4】
前記記録ヘッドはインクジェット記録ヘッドであり、
前記性能維持動作は、前記インクジェット記録ヘッドのインク吐出口をキャッピングする動作であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の多機能プリンタ装置。
【請求項5】
前記インクジェット記録ヘッドの回復を行う回復手段とをさらに有し、
前記性能維持動作には、前記キャッピングする動作に伴って発生する前記回復手段による予備吐出と吸引回復動作とを含むことを特徴とする請求項4に記載の多機能プリンタ装置。
【請求項6】
前記指示手段による画像読取動作の指示がなされた場合に、前記インクジェット記録ヘッドのインク吐出口がキャッピングされているかどうかを判別する判別手段をさらに有し、
前記制御手段はさらに前記判別手段による判別結果に基づいて前記画像読取動作の実行を制御することを特徴する請求項4に記載の多機能プリンタ装置。
【請求項7】
前記第1の時間は前記読取手段の走査速度と前記読取手段の走査方向に関する読取範囲とから求められることを特徴とする請求項1に記載の多機能プリンタ装置。
【請求項8】
原稿を走査して前記原稿の画像を読み取る読取手段を備えた画像読取部と、記録ヘッドを走査することと前記記録ヘッドの走査方向とは垂直の方向に記録媒体を搬送して前記記録媒体に画像を記録する画像記録部とを備えた多機能プリンタ装置の動作制御方法であって、
前記画像記録部による記録動作がなされない期間が予め定められた期間継続すると前記画像記録部の機構部を動作させて前記記録ヘッドの性能を維持する性能維持工程と、
前記画像読取部による画像読取動作を指示する指示工程と、
前記指示工程において画像読取動作の指示がなされた場合に、前記画像読取動作に必要な第1の時間と前記性能維持工程において性能維持動作を開始するまでの第2の時間とを比較する比較工程と、
前記比較工程における比較結果に従って、前記画像読取動作と前記性能維持動作との実行が重ならないように、前記画像読取動作と前記性能維持動作の実行を制御する制御工程とを有することを特徴とする多機能プリンタ装置の動作制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−205616(P2008−205616A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−36805(P2007−36805)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】