説明

多気筒内燃機関

【課題】多気筒内燃機関の部品点数を削減し、構造を簡単にできるようにする。
【解決手段】下クランクケース3Lに一体に設けられクランク軸を支持する複数の下部支持壁256A、257A、258Aによって下クランクケース3Lが仕切られて一側クランク室255R及び他側クランク室255Lが形成され、一側クランク室255R及び他側クランク室255Lにそれぞれ連通して一側クランク室255R及び他側クランク室255Lからオイルを排出する複数のオイル流出孔268R、268Lを備えた多気筒の内燃機関1において、一側クランク室255R及び他側クランク室255Lの下部支持壁257Aに沿ってオイル排出口269を設けると共に、外壁272に下部支持壁257Aを跨いで一側クランク室255R及び他側クランク室255L内のオイルを排出するスカベンジングポンプ291の吸い込み口274を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のクランク室からオイルを排出する多気筒内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多気筒内燃機関において、複数のクランク室の下方にオイル収集用のオイルパンを設け、このオイルパンからパイプを介してオイルポンプに送油するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−143952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来の多気筒内燃機関では、上記オイルパン及びパイプを用いてオイルポンプに送油していたため、部品点数が増加し、構造が複雑になるという課題があった。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、多気筒内燃機関の部品点数を削減し、構造を簡単にできるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は、クランクケースに一体に設けられクランク軸を支持する複数の支持壁によってクランクケースが仕切られて複数の独立したクランク室が形成され、該複数のクランク室にそれぞれ連通して前記各クランク室からオイルを排出する複数のオイル流出孔を備えた多気筒内燃機関において、隣接する前記クランク室の内壁に前記支持壁に沿ってオイル排出口を設けると共に、クランク室外壁に前記支持壁を跨いで前記クランク室内のオイルを排出するスカベンジングポンプの吸い込み口を設けたことを特徴とする。
この構成によれば、隣接するクランク室の支持壁に沿ってオイル排出口を設け、支持壁を跨いでスカベンジングポンプの吸い込み口をクランク室外壁に直接設けたため、隣接する各クランク室のオイルは、オイル排出口から直接スカベンジングポンプに供給される。このため、複数のオイル流出孔から流れるオイルを集めてスカベンジングポンプに流すための部品が必要なく、部品点数を削減し、構造を簡単にできる。
【0006】
また、前記スカベンジングポンプの前記吸い込み口内に、前記クランク軸を前記クランクケースに固定するためのジャーナルボルトの取り付け面を形成しても良い。
この場合、吸い込み口内にジャーナルボルトの取り付け面を形成したため、スカベンジングポンプを、支持壁を跨いでクランク室外壁に設けるに当たり、ジャーナルボルトが邪魔になる様な配置であっても、スカベンジングポンプを支持壁を跨いだ所望の位置に配置できる。
また、前記クランクケースの下部内壁には、前記オイル排出口を含む凹部を設けると共に、前記凹部に沿ってクランクウエブの周面に近接するオイル切り用リブを設けても良い。
この場合、オイル切り用リブによってクランクウエブに付着したオイルを取り除くことができるため、クランク軸の回転に対する抵抗を減少させることができる。
【0007】
さらに、前記スカベンジングポンプと同軸上に設けられ、オイルパンのオイルをオイルフィルタを介して各給油箇所に送るフィードポンプが設けられ、前記フィードポンプの吐出口から前記オイルフィルタに至る油路をクランクケース壁内に形成しても良い。
この場合、フィードポンプの吐出口からオイルフィルタに至る油路を、クランクケース壁内に形成したため、フィードポンプとオイルフィルタとを接続する部品が必要なく、部品点数を削減できる。
【0008】
また、オイルポンプ取り付け面は、前記クランクケースの下部で前後方向に対して傾斜した傾斜面に形成され、前記オイル切り用リブは前記傾斜面の上方側に、前記フィードポンプの前記吐出口は前記傾斜面の下方側に設けられても良い。
この場合、オイル切り用リブをクランクウエブに近接して設ける場合に、オイル切り用リブの長さを短くできると共に、傾斜面によりできた空間を利用して、フィードポンプの吐出口を接続する油路をクランクケースに形成できる。例えば、フィードポンプとオイルフィルタとを接続する油路を形成できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る多気筒内燃機関では、隣接するクランク室の支持壁を跨いでスカベンジングポンプの吸い込み口をクランク室外壁に直接設けたため、隣接する各クランク室のオイルは、オイル排出口から直接スカベンジングポンプに供給される。このため、複数のオイル流出孔から流れるオイルを集めてスカベンジングポンプに流すための部品が必要なく、部品点数を削減し、構造を簡単にできる。
【0010】
また、スカベンジングポンプを、支持壁を跨いでクランク室外壁に設けるに当たり、ジャーナルボルトが邪魔になる様な配置であっても、スカベンジングポンプを支持壁を跨いだ所望の位置に配置できる。
また、オイル切り用リブによってクランクウエブに付着したオイルを取り除くことができるため、クランク軸の回転に対する抵抗を減少させることができる。
【0011】
さらに、フィードポンプの吐出口からオイルフィルタに至る油路を、クランクケース壁内に形成したため、フィードポンプとオイルフィルタとを接続する部品が必要なく、部品点数を削減できる。
また、オイル切り用リブをクランクウエブに近接して設ける場合に、オイル切り用リブの長さを短くできると共に、傾斜面によりできた空間を利用して、フィードポンプの吐出口を接続する油路をクランクケースに形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態に係る多気筒内燃機関を備えた自動二輪車を示す側面図である。
【図2】内燃機関を示す断面図である。
【図3】図2におけるIII−III断面図である。
【図4】オイルポンプを上方から見た平面図である。
【図5】下クランクケースを上方から見た平面図である。
【図6】図5のV−V断面図である。
【図7】下クランクケースを下方から見た平面図である。
【図8】図7のVII−VII断面図である。
【図9】下クランクケースの近傍を右側面から見た一部破断断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る多気筒内燃機関を備えた自動二輪車を示す側面図である。なお、以下の説明中、前後左右及び上下といった方向の記載は車体に対してのものとする。
自動二輪車100の車体フレーム111は、車体前部に位置するヘッドパイプ112と、このヘッドパイプ112から車体中央まで後方に延びる左右一対のメインフレーム114と、メインフレーム114の後端部から下方に延びる左右一対のピボットプレート115と、メインフレーム114の後端部から車体後部まで延びるリヤフレーム(不図示)とを備えている。
ヘッドパイプ112には、フロントフォーク116が回動自在に取り付けられ、このフロントフォーク116の下端に前輪117が回転自在に支持されている。また、ヘッドパイプ112の上部には、操舵用ハンドル118が取り付けられている。
【0014】
メインフレーム114の下方には、前後V型4気筒の内燃機関1(多気筒内燃機関)が配置されている。この内燃機関1は、クランク軸2を左右水平方向に指向させる横置き配置のエンジンであって、OHC型の水冷式で、クランクケース3を備え、このクランクケース3から2気筒ずつ前後に傾いたフロントバンクBfと、リヤバンクBrとがV型に構成され、互いのバンク角が90度よりも小さい狭角V型エンジンである。
フロントバンクBfの排気口には、左右一対の排気パイプ119の一端が接続され、排気口から下側に延びた後に、車体後方に向かって引き回され、リヤバンクBrの排気口から延びる左右一対の排気パイプ120に接続されて集合され、一本の排気管(不図示)を介して、内燃機関1の後方に設けられたマフラー(不図示)に連結されている。
【0015】
内燃機関1の後方には、ピボット軸121が設けられており、このピボット軸121には、リヤフォーク122がピボット軸121を中心に上下方向に揺動自在に取り付けられている。リヤフォーク122の後端部には、後輪131が回転自在に支持されている。後輪131と内燃機関1とは、リヤフォーク122内に設けられたドライブシャフト123によって連結されており、内燃機関1からの回転動力がドライブシャフト123を介して後輪131へと伝達される。また、リヤフォーク122と車体フレーム111との間には、リヤフォーク122からの衝撃を吸収するリヤクッション124が掛け渡されている。
内燃機関1の後部には、車体を停めるためのスタンド125が設けられている。また、内燃機関1の左側面の下部には、サイドスタンド126が設けられている。
【0016】
メインフレーム114の上部には、内燃機関1の上方を覆うようにして燃料タンク141が搭載されている。この燃料タンク141の後方には、シート142が位置し、該シート142は上記リヤフレームに支持されている。シート142の後方には、テールランプ143が配置され、テールランプ143の下方には、後輪131の上方を覆うリヤフェンダ144が配置されている。
また、自動二輪車100は、車体を覆う樹脂製の車体カバー150を有し、この車体カバー150は、車体フレーム111の前方から内燃機関1の前部までを連続的に覆うフロントカバー151と、シート142の下方を覆うリヤカバー152とを備えている。フロントカバー151の上部には、左右一対のミラー153が取り付けられている。また、フロントフォーク116には、前輪117の上方を覆うフロントフェンダ146が取り付けられている。
【0017】
図2は、内燃機関1を示す断面図である。なお、図2では、図の上下を内燃機関1の上下、図の左側を内燃機関1の前側、図の右側を内燃機関1の後側として説明する。
フロントバンクBfとリヤバンクBrとの間には側面視でV字状に形成された空間であるVバンク空間Kが形成されている。
クランクケース3は上下割りで構成され、上クランクケース3Uと下クランクケース3Lとを有している。クランク軸2はクランクケース3U,3Lにより挟まれるようにして回転自在に軸支され、上クランクケース3Uには、それぞれ左右に2気筒が配列される前シリンダブロック3fと後シリンダブロック3rとが、側面視でV字をなすように斜め上方に延出されて一体に形成されている。
【0018】
下クランクケース3Lの下部には、内燃機関1のオイルが貯留されるオイルパン3Gが下方に膨出するように設けられている。内燃機関1内にオイルを循環させるオイルポンプ50は、下クランクケース3L内においてクランク軸2の下方に位置している。
【0019】
前シリンダブロック3fには前シリンダヘッド4fが前方斜め上に重ねられて締結ボルト(不図示)により締結され、前シリンダヘッド4fの上を前シリンダヘッドカバー5fが覆っている。同様に、後シリンダブロック3rには後シリンダヘッド4rが後方斜め上に重ねられて締結ボルト(不図示)により締結され、後シリンダヘッド4rの上を後シリンダヘッドカバー5rが覆っている。
【0020】
前シリンダブロック3f及び後シリンダブロック3rには、それぞれシリンダボア3aが形成され、シリンダボア3aにはシリンダボア3a内を往復運動するピストン6が配置されている。各ピストン6は、各ピストン6に共通な1本のクランク軸2に対し、各コンロッド7f,7rを介して連結されている。
また、各シリンダブロック3f,3rには、各シリンダブロック3f,3rを冷却する冷却水が流れるウォータージャケット8が、シリンダボア3aを囲うようにそれぞれ設けられている。
【0021】
前シリンダヘッド4f及び後シリンダヘッド4rには、シリンダボア3aの上方に位置する燃焼室20、吸気ポート21及び排気ポート22が設けられている。各吸気ポート21には、各吸気ポート21に流れる混合気の量を調整するスロットルボディ23がそれぞれ接続されている。
また、各シリンダヘッド4f,4rには、各シリンダヘッド4f,4rを冷却する冷却水が流れるウォータージャケット9が、吸気ポート21及び排気ポート22を囲うようにそれぞれ設けられている。
【0022】
また、各シリンダヘッド4f,4rには、一対の吸気バルブ11がバルブスプリング11aによって吸気ポート21を閉鎖する方向(弁閉方向)に付勢されて開閉可能に配置され、一対の排気バルブ12がバルブスプリング12aによって排気ポート22を閉鎖する方向に付勢されて開閉可能に配置されている。
これらの吸気バルブ11および排気バルブ12は、各シリンダヘッド4f,4rごとに1本ずつ配設されたカムシャフト25で駆動されるユニカム方式の動弁装置10によって開閉駆動される。
【0023】
動弁装置10は、吸気バルブ11の上方の各シリンダヘッド4f,4rに回転自在に軸支されるカムシャフト25と、カムシャフト25と平行な軸線を有して各シリンダヘッド4f,4rに固定されるロッカシャフト26と、ロッカシャフト26に揺動可能に軸支されるロッカアーム27とを有している。
カムシャフト25は、カムシャフト25の外周側に突出した吸気カム30及び排気カム31を有し、クランク軸2の回転に同期して回転させられる。吸気カム30および排気カム31は、中心から外周までの距離(半径)が一定でないカムプロフィールを有し、吸気カム30及び排気カム31が回転した際の半径の変化によって、吸気バルブ11及び排気バルブ12を上下運動させる。
【0024】
また、カムシャフト25と吸気バルブ11との間には、カムシャフト25の下方で各シリンダヘッド4f,4rに摺動可能に嵌合されるバルブリフタ13が設けられている。
ロッカシャフト26に軸支されたロッカアーム27の一端には排気カム31に転がり接触するローラ27aが設けられ、他端には排気バルブ12の上端に当接するタペットねじ27bが進退位置を調節可能として螺合されている。
【0025】
そして、カムシャフト25と一体に吸気カム30及び排気カム31が回転されると、吸気カム30がバルブリフタ13を介して吸気バルブ11を押し下げ、排気カム31がロッカアーム27を介して排気バルブ12を押し下げ、吸気カム30及び排気カム31の回転の位相によって定まる所定のタイミングで吸気ポート21及び排気ポート22が開閉される。
【0026】
図3は、図2におけるIII−III断面図である。この図3では、リヤバンクBrの断面を示しているが、フロントバンクBf内部はリヤバンクBr内部と同様に構成されているため、フロントバンクBfの説明は省略する。
図3に示すように、シリンダヘッド4rの各気筒には、シリンダボア3aの中心軸線であるシリンダ軸線C上に、プラグ差込孔15が形成されており、このプラグ差込孔15には点火プラグ16(右側の気筒の点火プラグは不図示)がその先端を燃焼室20内に臨ませて配置されている。
【0027】
クランク軸2は、軸方向の両端部及び中間部に設けられたメタルベアリング2Aを介してクランクケース3内に回転自在に支持されている。
クランク軸2の一端側には、クランク軸2の回転を出力するカムシャフト駆動スプロケット17が設けられている。内燃機関1のカムシャフト駆動スプロケット17側には、各バンクBf,Br内で上下に延在するカムチェーン室35が設けられており、カムシャフト25と一体に回転する従動スプロケット36は、カムシャフト25の一端に固定されてカムチェーン室35内に位置している。従動スプロケット36とカムシャフト駆動スプロケット17とには、無端状のカムチェーン37が巻き回されており、カムシャフト25はカムチェーン37及び従動スプロケット36を介して、クランク軸2の回転の半分の回転速度で回転されるようになっている。
また、クランク軸2の他端側には、発電機としてのジェネレータ18が設けられている。
【0028】
クランクケース3内には、クランク軸2とそれぞれ平行に配置されるメイン軸41、カウンタ軸42、及び、出力軸43が設けられている。クランク軸2を含むこれらの軸41,42,43は、クランク軸2の回転をメイン軸41、カウンタ軸42、及び、出力軸43の順に伝達する歯車伝達機構を構成している。
クランク軸2は、図3に示すように、上クランクケース3Uと下クランクケース3Lとの合わせ面3S上に配置されている。このクランク軸2の後方にメイン軸41が配置され、メイン軸41の後方にカウンタ軸42が配置されている。メイン軸41及びカウンタ軸42は、合わせ面3S上に配置されている。また、カウンタ軸42の前方かつ下方に出力軸43が配置されている。すなわち、メイン軸41及びカウンタ軸42の軸心O1,O2は合わせ面3S上に前後に位置し、出力軸43の軸心O3は、メイン軸41の軸心O1の後方であって、カウンタ軸42の軸心O2の前方かつ下方に位置している。
ここで、図3は、リヤバンクBr、クランク軸2、メイン軸41、カウンタ軸42、及び、出力軸43を各々直線で結ぶ断面で切断した断面図である。
【0029】
クランク軸2のカムチェーン室35側の端には、メイン軸41を回転させるクランク側駆動歯車2Bが固定され、クランク側駆動歯車2Bはメイン軸41のメイン軸側被動歯車41Aと噛み合っている。メイン軸41は、両端に設けられた軸受41Cを介して支持されている。
メイン軸側被動歯車41Aは、メイン軸41上にメイン軸41と相対回転自在に設けられるとともに、クラッチ機構44に接続されており、このクラッチ機構44の作動によってクランク軸2とメイン軸41との間の動力の伝達が断続可能となっている。
また、メイン軸側被動歯車41Aには、オイルポンプ50(図2参照)を駆動するオイルポンプ駆動歯車41Bが設けられている。オイルポンプ駆動歯車41Bは、クラッチ機構44のオンオフとは無関係にメイン軸側被動歯車41Aと一体に回転し、図2に示すように、オイルポンプ50の駆動軸50Aに固定された被動歯車50Fに駆動チェーン45を介してクランク軸2の回転を伝達し、オイルポンプ50を駆動する。
【0030】
図3に示すように、カウンタ軸42は両端に設けられた軸受42Cによって支持されている。カウンタ軸42とメイン軸41との間には、変速歯車群が跨って配置され、これらによって変速装置46が構成される。詳述すると、メイン軸41には、6速分の駆動歯車m1〜m6が設けられ、カウンタ軸42には6速分の被動歯車n1〜n6が設けられ、各駆動歯車m1〜m6及び被動歯車n1〜n6は、対応する変速段同士で互いに噛み合い、それぞれ各変速段に対応する変速歯車対(歯車の組み合わせ)を構成する。なお、各変速歯車対は、1速から6速の順に減速比が小さくなる(高速ギヤとなる)。最も変速比の大きい1速歯車対m1,n1はメイン軸側被動歯車41Aが支持されるメイン軸41の一端側に配置され、2速歯車対m2,n2はメイン軸41の他端側に配置されている。1速歯車対m1,n1と2速歯車対m2,n2との間には、一端側から順に、5速歯車対m5,n5、4速歯車対m4,n4、3速歯車対m3,n3、及び6速歯車対m6,n6が配置されている。
【0031】
メイン軸41上の3速駆動歯車m3及び4速駆動歯車m4は、一体となってメイン軸41にスプライン結合されており、シフタとなって軸方向に移動して、隣接する5速駆動歯車m5又は6速駆動歯車m6に選択的に着脱可能に構成されている。カウンタ軸42上の5速被動歯車n5及び6速被動歯車n6は、それぞれカウンタ軸42にスプライン結合されており、シフタとなって軸方向に移動して、それぞれ隣接する4速被動歯車n4、3速被動歯車n3に着脱可能に構成されている。
シフタとなるメイン軸41上の3速駆動歯車m3及び4速駆動歯車m4と、カウンタ軸42上の5速被動歯車n5及び6速被動歯車n6とを変速切換機構47(図2参照)によって移動して変速がなされる。
【0032】
図2に示すように、変速切換機構47は、軸41〜43に平行なシフトドラム47Aを備えている。シフトドラム47Aは、このシフトドラム47Aの回転量を制御するラチェット機構47D(図3参照)を介してシフトスピンドル(シフトシャフトとも言う)47E(図3参照)に連結される。シフトスピンドル47Eの端部(車体左側端部)には、運転者が変速操作を行うチェンジペダル(不図示)が取り付けられ、チェンジペダルの変速操作に伴い回動し、ラチェット機構47Dを介してシフトドラム47Aを回動させる。
シフトドラム47Aは、メイン軸41及びカウンタ軸42の間、かつ、上方に配置されるとともに、その軸心O4が出力軸43の軸心O3より後方となるように配置されている。このシフトドラム47Aの前後には、フォーク軸47B,47Cがシフトドラム47Aに平行に配置されている。フォーク軸47Bは、シフトドラム47Aの前方に配置されるとともに、その軸心O5がシフトドラム47Aの軸心O4よりもやや下方になるように配置されている。フォーク軸47Cは、シフトドラム47Aの後方に配置されるとともに、その軸心O6がシフトドラム47Aの軸心O4と略同じ高さとなるように配置されている。
【0033】
フォーク軸47Bにはメイン軸41のシフタに係合するシフトフォーク47B1が支持され、フォーク軸47Cにはカウンタ軸42のシフタに係合するシフトフォーク47C1が支持されている。変速歯車対は、変速切換機構47のシフトフォーク47B1,47C1を移動させることによって変更され、変更された変速歯車対を介して、メイン軸41の回転がカウンタ軸42に伝達される。図3に示すように、カウンタ軸42は、カウンタ軸42の回転を出力軸43に伝達する中間駆動歯車42Aを有している。
【0034】
出力軸43は、カウンタ軸42の両端に設けられた軸受43Cによって支持され、中間駆動歯車42Aと噛み合う被動歯車43Aを有している。出力軸43には、被動歯車43Aに隣接してカム式トルクダンパ51が配置されている。カム式トルクダンパ51は、トルク変動が加わった場合にそれを緩和するものであり、出力軸43に軸方向に移動可能にスプライン結合された円筒部材52を備えている。円筒部材52の被動歯車43A側の端面には、被動歯車43Aに形成された凹カム43Bに噛み合う凸カム52Aが形成されている。出力軸43の略中央には、ばね受け部材53が固定され、円筒部材52とばね受け部材53との間にコイルばね54が設けられ、円筒部材52が被動歯車43Aに付勢されている。カム式トルクダンパ51は、円筒部材52、ばね受け部材53及びコイルばね54を備えて構成されている。
出力軸43の左端部には駆動傘歯車48が一体的に設けられ、この駆動傘歯車48は、車体の前後方向に延びるドライブシャフト49の前端に一体に設けられた被動傘歯車49Aに噛み合う。これによって、出力軸43の回転がドライブシャフト49に伝達される。
【0035】
次に、図2を参照して、内燃機関1の内部レイアウトについて説明する。
この内燃機関1では、クランク軸2の後方にメイン軸41を配置し、メイン軸41の後方にカウンタ軸42を配置したため、クランク軸2、メイン軸41、及びカウンタ軸42は、この順で前後に配置されるので、クランクケース3の上下長を短く抑えることができる。この構成では、メイン軸41に固定されるメイン軸側被動歯車41Aの直径が大きくても、メイン軸がクランク軸及びカウンタ軸の上方に配置される場合に比べ、メイン軸側被動歯車41Aが上方に突出せず、クランクケース3が上方に張り出すのを抑制することが可能となる。したがって、リヤバンクBrとクランクケース3の上面3bとの間に補記類を配置することも可能となる。
さらに、メイン軸41及びカウンタ軸42は、上下クランクケース3U,3Lの合わせ面3S上に配置されるので、メイン軸41及びカウンタ軸42の軸受41C,42Cの構造が単純化し、メイン軸41及びカウンタ軸42の組み付けが容易になる。
【0036】
出力軸43は、カウンタ軸42の前方に配置されるので、カウンタ軸42の後方に配置される場合に比べ、クランクケース3の前後長を短く抑えることができる。この出力軸43は、カウンタ軸42の下方に位置してメイン軸41及びカウンタ軸42とともに三角形の頂点に配置されており、メイン軸41及びカウンタ軸42間の空間を有効利用して配置されるので、出力軸43がカウンタ軸42の前方に配置されることによるクランクケース3の下方への張り出しを抑制できる。したがって、クランクケース3の前後長を短く抑えた上で、クランクケース3の上下長も短く抑えることができ、内燃機関1を小型化、軽量化できる。
このように、クランクケース3の前後長を短く抑えたことで、ホイールベースが短くなるので、自動二輪車100(図1参照)をコンパクトにすることができるとともに、自動二輪車100の旋回性能も向上する。
【0037】
シフトドラム47Aは、メイン軸41及びカウンタ軸42の間、かつ、上方に配置されるので、カウンタ軸42の後方に配置される場合に比べ、クランクケース3の前後長を短く抑えることができる。このシフトドラム47Aは、メイン軸41及びカウンタ軸42とともに三角形の頂点に配置されており、メイン軸41及びカウンタ軸42の間の空間を有効利用して配置されるので、シフトドラム47Aがメイン軸41及びカウンタ軸42の上方に配置されることによるクランクケース3の上方への張り出しを抑制でき、クランクケース3の上下長を短く抑えることができる。したがって、リヤバンクBrとクランクケース3の上面3bとの間に補記類を配置することも可能となる。また、シフトドラム47Aと、メイン軸41及びカウンタ軸42との距離を短くできるので、フォーク軸47B,47Cに支持されるシフトフォーク47B1,47C1を短くでき、内燃機関1の小型化、軽量化を図ることができる。
シフトドラム47Aは、その軸心O4が出力軸43の軸心O3より後方となるように配置されているので、シフトドラムの軸心と出力軸の軸心が上下に並んで配置される場合に比べ、クランクケース3の上下長を短く抑えることができる。したがって、リヤバンクBrとクランクケース3の上面3bとの間に補記類を配置することも可能となる。
【0038】
これに加え、フォーク軸47Bは、メイン軸41及びシフトドラム47Aとともに三角形の頂点に配置されており、メイン軸41及びシフトドラム47Aの間の空間を有効利用して配置されるので、フォーク軸47Bがメイン軸41の上方に配置されることによるクランクケース3の上方への張り出しを抑制でき、クランクケース3の上下長を短く抑えることができる。したがって、リヤバンクBrとクランクケース3の上面3bとの間に補記類を配置することも可能となる。また、フォーク軸47Bと、メイン軸41及びシフトドラム47Aとの距離を短くできるので、フォーク軸47Bに支持されるシフトフォーク47B1を短くでき、内燃機関1の小型化、軽量化を図ることができる。
【0039】
同様に、フォーク軸47Cは、カウンタ軸42及びシフトドラム47Aとともに三角形の頂点に配置されており、カウンタ軸42及びシフトドラム47Aの間の空間を有効利用して配置されるので、フォーク軸47Cがカウンタ軸42の上方に配置されることによるクランクケース3の上方への張り出しを抑制でき、クランクケース3の上下長を短く抑えることができる。したがって、リヤバンクBrとクランクケース3の上面3bとの間に補記類を配置することも可能となる。また、フォーク軸47Cと、カウンタ軸42及びシフトドラム47Aとの距離を短くできるので、フォーク軸47Cに支持されるシフトフォーク47C1を短くでき、内燃機関1の小型化、軽量化を図ることができる。
【0040】
図2に示すように、オイルポンプ50の下部には、オイルパン3G内のオイルに浸されるようにオイルストレーナ50Eが配置され、オイルポンプ50に吸い込まれたオイルはオイルストレーナ50Eを通る際に濾過される。オイルパン3G内のオイルは、オイルポンプ50から吐出され、内燃機関1内に形成された油路を通って内燃機関1の各部に供給される。
また、前シリンダブロック3fの下方には、下クランクケース3Lから膨出するように形成されたオイルフィルタ53A及びオイルクーラー53Bが設けられている。
【0041】
図4は、オイルポンプ50を上方から見た平面図である。
オイルポンプ50は、クランク軸2や動弁装置10等にオイルを供給するフィードポンプ290と、クランク室255(図2参照)内のオイルを排出するスカベンジングポンプ291とを一体に設けて構成されている。フィードポンプ290及びスカベンジングポンプ291は、駆動軸50Aを互いに共用して同軸上に設けられたトロコイドポンプであり、車体右方向に延出された一本の駆動軸50Aによって駆動される。
また、オイルポンプ50の上面は、平面状の取り付け面50Bになっている。オイルポンプ50の上面の縁部には、取り付け面50Bを貫通する固定孔50Cが複数設けられており、オイルポンプ50は固定孔50Cに挿通される複数のボルト50D(図2参照)を介してクランク室255の下部に固定される。
【0042】
スカベンジングポンプ291は、駆動軸50Aの延出方向の反対側に位置し、上面に矩形状に開口したスカベンジング吸入口291Aを有し、スカベンジング吸入口291Aの後方側に、オイルを上方に噴射するスカベンジング吐出口291Bを有している。
フィードポンプ290は、その上面において、スカベンジング吸入口291Aよりも前方側かつ駆動軸50Aの延出側に、オイルパン3Gから吸い込んだオイルを吐出するフィード吐出口290A(吐出口)を有している。
【0043】
図2及び図3に示すように、内燃機関1は、前シリンダブロック3f及び後シリンダブロック3rの各々に、車幅方向に並んだ2つのシリンダボア3aを有し、各シリンダボア3aは、クランク軸2を収容するクランク室255に連通している。クランク室255は、左右に2分割して互いに独立に設けられ、一側(車幅方向右側)における前後の各シリンダボア3aに連通する一側クランク室255R(独立したクランク室)と、他側(車幅方向左側)における前後の各シリンダボア3aに連通する他側クランク室255L(独立したクランク室)とを備えて構成される。
また、クランク室255の上方において前シリンダブロック3fと後シリンダブロック3rとの間の壁部には、各シリンダヘッド4f,4r内に連通する油路としてのサブギャラリ279が形成されている。サブギャラリ279は、クランク室255内の上部に設けられたピストンジェット280にも連通している。ピストンジェット280に供給されたオイルは、各ピストン6に吹き掛けられる。
【0044】
クランク軸2は、クランクケース3に支持されるジャーナル部2Cと、ジャーナル部2Cと偏心して設けられ各コンロッド7f、7rが連結されるクランクピン2Dと、ジャーナル部2Cとクランクピン2Dとを繋ぐクランクウエブ2Eとを有している。
クランクピン2Dは、一側クランク室255R及び他側クランク室255Lにそれぞれ1本ずつ設けられ、各クランクピン2Dの両端にはクランクウエブ2Eがそれぞれ設けられている。ジャーナル部2Cはクランクケース3の両端と中央とに位置し、クランクケース3に形成された各軸受部258にそれぞれ回転自在に支持されている。また、クランク軸2は、ジャーナル部2Cとクランクピン2Dとを連通する軸内油路2Fを複数有している。
【0045】
クランク室255は、上クランクケース3Uと下クランクケース3Lとを組み合せて形成される空間であり、図2及び図3に示すように、前後方向においては、フロントバンクBfの下方に位置する前壁255Aと、リヤバンクBrの下方に位置する後壁255Bとによって仕切られ、車幅方向においては、ジェネレータ18の側から順に、支持壁256、257、258によって仕切られている。支持壁257は、クランク室255内の中央に位置し、一側クランク室255Rと他側クランク室255Lとを左右に仕切る内壁である。支持壁256、257、258は、クランクケース3に一体に設けられている。
【0046】
図5は、下クランクケース3Lを上方から見た平面図である。図6は、図5のV−V断面図である。
図5に示すように、下クランクケース3Lの上面は、上クランクケース3Uとの合わせ面3Sとなっており、図中上部において合わせ面3Sに囲まれた部分は、クランク室255の下半部であり、クランク室255の後方には、変速装置46を収容する変速機室259の下半部が設けられている。変速機室259は、前部に形成された開口259Aによって、オイルパン3Gに連通している。また、合わせ面3Sには、下クランクケース3Lを貫通するボルト孔263が複数形成されており、このボルト孔263に挿通されるボルト(不図示)によって下クランクケース3Lが上クランクケース3Uに締結固定される。
下クランクケース3Lのクランク室255は、平面視で略矩形に形成され、幅方向の中央に立設された支持壁257によって、一側クランク室255Rと他側クランク室255Lとに仕切られている。
【0047】
図3及び図5に示すように、支持壁256、257、258は、下クランクケース3Lに設けられた下部支持壁256A、257A、258Aと、上クランクケース3Uに設けられた上部支持壁256B、257B、258Bとを互いに結合させて形成されている。すなわち、一側クランク室255R及び他側クランク室255Lは、クランク室255の中央で上下に延在する支持壁257によって区切られており、互いに連通せずに実質的に密閉された空間である。
【0048】
図5に示すように、下部支持壁256A、257A、258Aの上面において前後の中央部には、各ジャーナル部2Cを支持する軸受部258の略半分を構成する凹状部260がそれぞれ形成されている。また、上部支持壁256B、257B、258Bの下面にも、軸受部258の略半分を構成する凹状部(不図示)が形成されている。
また、各凹状部260の近傍には、各凹状部260を挟んで前後の位置に、下クランクケース3Lを上下に貫通するボルト孔261がそれぞれ形成されている。各ボルト孔261には、図2に示すように、クランク軸2の近傍で下クランクケース3Lと上クランクケース3Uとを締結することでクランク軸2を固定するクランク軸固定ボルト262(ジャーナルボルト)が挿通される。
【0049】
図5及び図6に示すように、クランク室255の底部255C(下部内壁)の下方には、下クランクケース3Lの壁部内を車幅方向に延在する油路としてのメインギャラリ264(図6)が形成されている。メインギャラリ264は、各凹状部260の直下に位置し、各凹状部260には、メインギャラリ264に連通するクランク軸用油路265が形成されている。
また、クランク室255の下方には、下方に向けて枠状に立設されたオイルパン接続部266が設けられている。オイルパン接続部266の内側は、オイルポンプ50が収容されるポンプ収容部267となっている。
【0050】
一側クランク室255Rの後部には、一側クランク室255Rとポンプ収容部267とを連通するオイル流出孔268Rが形成されている。また、他側クランク室255Lの後部には、他側クランク室255Lとポンプ収容部267とを連通するオイル流出孔268Lが形成されている。
オイル流出孔268R、268Lは、下部支持壁257Aに沿ってクランク室255の中央に設けられると共に、前後方向には略同一の位置に形成され、下部支持壁257Aの下方で合流し、ポンプ収容部267側にオイルを排出するオイル排出口269となっている。また、各オイル流出孔268R、268Lの車幅方向外側の端は、下部支持壁257Aの両側に近接する各クランクウエブ2Eにおける車幅方向外側の端よりも内側に位置している。
【0051】
オイル流出孔268R、268Lの近傍の底部255Cには、各下部支持壁256A、258Aの側から中央の下部支持壁257Aに向けて下方に傾斜する傾斜部270が形成されている。すなわち、クランク室255内に流入したオイルは、傾斜部270に沿って流れ、オイル流出孔268R、268Lへ導かれる。
【0052】
また、一側クランク室255R及び他側クランク室255Lの後部には、底部255Cから上方に突出したオイル切り用リブ271が形成されている。オイル切り用リブ271は、図6に示すように、各クランクウエブ2Eの位置に対応して一側クランク室255R及び他側クランク室255Lに2箇所ずつ形成されている。詳細には、オイル切り用リブ271は、各下部支持壁256A、258Aの内側側面と、下部支持壁257Aの両側面に沿って形成されており、各オイル切り用リブ271の車幅方向の先端271Aは、各クランクウエブ2Eの端よりも出っ張らないように内側に位置している。さらに、各先端271Aの間は、各コンロッド7f,7rの大端部を避けるように、各オイル切り用リブ271よりも低く形成されている。
【0053】
図7は、下クランクケース3Lを下方から見た平面図である。図8は、図7のVII−VII断面図である。ここで、図8は、他側クランク室255Lにおけるオイル流出孔268L近傍の断面をオイルポンプ50と共に示している。また、図8中の矢印Fは車体前方を示し、矢印Uは車体上方をそれぞれ示している。
図7に示すように、オイルパン3Gが取り外された状態では、オイルパン接続部266の内側に、クランク室255の底部255Cの外壁272(クランク室外壁)が露出する。オイルパン接続部266内の外壁272には、オイルポンプ50(図2参照)が取り付けられるオイルポンプ取り付け面273が形成されている。オイルポンプ取り付け面273には、オイル流出孔268R、268Lと連通し、下部支持壁257Aを車幅方向に跨る吸い込み口274が形成されている。この吸い込み口274には、スカベンジングポンプ291のスカベンジング吸入口291Aが接続され、吸い込み口274を介してクランク室255内のオイルがスカベンジングポンプ291に吸い込まれる。
本実施の形態では、スカベンジングポンプ291によってクランク室255内のオイルが吸い出され、クランク室255内にオイルが溜まらない、いわゆるドライサンプ潤滑方式が用いられており、クランクウエブ2Eとオイルとの衝突が避けられているため、内燃機関1の効率及び出力を向上できる。
【0054】
また、吸い込み口274内には、クランク軸固定ボルト262の頭部を受ける座面261A(取り付け面)が形成されている。これにより、スカベンジングポンプ291を、下部支持壁257Aを跨いで外壁272に設けるに当たり、クランク軸固定ボルト262が邪魔になる様な配置であっても、スカベンジングポンプ291を下部支持壁257Aを跨いだ所望の位置に配置できる。
【0055】
図2及び図8に示すように、オイルポンプ取り付け面273は、オイルポンプ50の取り付け面50Bとの当接面が平面状に形成され、車体前後方向に対してその前部273Aが低くなるように傾斜した傾斜面である。また、オイルポンプ取り付け面273には、固定孔50Cに挿通されるボルト50Dが締結される複数の固定孔273Bが形成されている。
図8に示すように、クランク室255の底部255Cには、下方に窪んだ凹部275が形成され、オイル排出口269は、凹部275内に設けられている。前壁255Aは後ろ下がりに傾斜し、凹部275は、底部255Cの最も低い位置に設けられているため、クランク室255内に付着したオイルは、凹部275に効率良く集められる。
【0056】
また、オイル切り用リブ271は、凹部275の後部壁として形成され、オイル切り用リブ271の上端271Bは、クランクウエブ2Eの後部側の外周面2E1に近接して設けられている。内燃機関1においては、クランクウエブ2Eは、図8中の矢印のように反時計周りに回転され、クランクウエブ2Eの円弧状の外周面2E1は、オイル切り用リブ271の上方から上端271Bに接近し、上端271Bの近傍を通過する際に、外周面2E1に付着していたオイルが上端271Bに掻き取られる。上端271Bに掻き取られたオイルは、オイル切り用リブ271の後方に位置するオイル受け部271Cに付着する。オイル受け部271Cは、傾斜部270(図6参照)にオイルが流れるように下方に傾斜して形成されており、オイルは、オイル受け部271Cから下方の傾斜部270を経てオイル排出口269に流れる。このため、クランク室255のオイルを効率良く排出できる。
ここでは、オイル流出孔268L近傍のオイル切り用リブ271について説明したが、他のオイル切り用リブ271についても同様に構成されている。
【0057】
さらに、オイル切り用リブ271は、後部273Cが後ろ上がりに傾斜したオイルポンプ取り付け面273の上に設けられており、底上げされた高い位置に設けられている。このため、オイル切り用リブ271の長さを短くすることができ、オイル切り用リブ271の強度を向上できる。
また、オイルポンプ取り付け面273は、前部273Aが前下がりに傾斜して形成されている。これにより、オイルポンプ取り付け面273の前部273Aの上方に空間Qが確保され、この空間Qを利用することで、オイルポンプ取り付け面273の上方に油路等を形成できる。
【0058】
図7に示すように、オイルポンプ取り付け面273において吸い込み口274よりも前方側には、フィードポンプ290のフィード吐出口290Aが接続される油路入口276が形成されている。油路入口276には、油路入口276をオイルフィルタ53Aに接続するフィルタ用油路277(油路)が連通している。フィルタ用油路277は、クランク室255の下方の壁部285内で車幅方向に延在し、オイルフィルタ53Aが取り付けられる下クランクケース3Lの側壁3Iに連通している。
【0059】
図9は、下クランクケース3Lの近傍を右側面から見た一部破断断面図である。
図9に示すように、円柱状に形成されたオイルフィルタ53Aは、下クランクケース3Lの側壁3Iに取り付けられ、フィルタ用油路277に接続されている。側壁3I内には、オイルクーラー53Bに繋がるクーラー用油路278が設けられている。クーラー用油路278はフィルタ用油路277に隣接して設けられ、オイルフィルタ53Aを通過したオイルは、クーラー用油路278を通ってオイルクーラー53Bに至る。
このように、下クランクケース3Lの壁部285内に孔を設けてフィルタ用油路277を形成したため、フィードポンプ290とオイルフィルタ53Aとを接続するパイプ等の部品が必要なく、部品点数を削減できる。
また、フィード吐出口290Aをオイルポンプ取り付け面273の下方側に設け、油路入口276を低い位置に設けたため、油路入口276の上方に空間Q(図8参照)を確保でき、壁部285内にフィルタ用油路277を形成できる。
【0060】
ここで、内燃機関1内のオイルの流れについて説明する。図2中に示した複数の矢印は、オイルが流れる方向を示している。
フィードポンプ290によってオイルパン3Gから吸い上げられたオイルは、フィード吐出口290A(図9)から吐出され、フィルタ用油路277を通ってオイルフィルタ53Aに至り浄化され、クーラー用油路278を経てオイルクーラー53Bに達して冷却される。また、クーラー用油路278は変速装置46に繋がる分岐油路(不図示)を有し、クーラー用油路278を通過するオイルの一部は上記分岐油路を通って変速装置46周辺に供給される。
【0061】
オイルクーラー53Bで冷却されたオイルは、下クランクケース3Lに形成された油路(不図示)を通ってメインギャラリ264(図2、図6)に供給され、各下部支持壁256A、257A、258Aに形成された各クランク軸用油路265を通って各軸受部258に達する。各軸受部258のオイルは、クランク軸2の軸内油路2Fに供給され、クランクピン2Dに至る。また、下部支持壁257Aの軸受部258に供給されたオイルの一部は、サブギャラリ279に至り、ピストンジェット280及び各シリンダヘッド4f,4r内に供給される。
各シリンダヘッド4f,4r、各ピストン6、及び、クランク軸2等に供給されたオイルは、各部を潤滑した後に流下して一側クランク室255R及び他側クランク室255Lをそれぞれ流れ、底部255Cの各凹部275に集まり、オイル流出孔268R、268Lを経てオイル排出口269で合流し、スカベンジング吸入口291Aに吸い込まれる。
【0062】
そして、スカベンジングポンプ291によってスカベンジング吸入口291Aに吸引されたオイルは、スカベンジング吐出口291Bから上方に噴射されて変速装置46に供給され、変速装置46周辺を潤滑する。変速装置46に供給されたオイルは、変速機室259内を流下してオイルパン3Gに戻る。
【0063】
このように、本実施の形態では、互いに独立して設けられた一側クランク室255R及び他側クランク室255Lの各オイル流出孔268R、268Lを下部支持壁257Aに沿って設け、下部支持壁257Aの下方の外壁272に、両オイル流出孔268R、268Lが合流するオイル排出口269を下部支持壁257Aを跨るように設けて吸い込み口274とし、この吸い込み口274にスカベンジング吸入口291Aが重なるようにオイルポンプ50を直接固定している。これにより、一側クランク室255R及び他側クランク室255Lのオイルは、オイル排出口269から直接スカベンジング吸入口291Aに流れ、一側クランク室255R及び他側クランク室255L内のオイルを集めてスカベンジングポンプ291に流すための部品が必要なく、部品点数を削減できる。加えて、複数の一側クランク室255R及び他側クランク室255Lに対してスカベンジングポンプ291を1つ設ければ良いため、部品点数を削減できる。
また、オイルポンプ50が、外壁272のオイルポンプ取り付け面273に直接取り付けられるため、オイルポンプ50の組み付け性を向上できる。すなわち、オイルポンプ50を取り付ける手順としては、オイルポンプ50の取り付け面50Bをオイルポンプ取り付け面273に直接当接させ、複数のボルト50Dを締め込むだけで良い。
【0064】
以上説明したように、本発明を適用した実施の形態によれば、互いに隣接する一側クランク室255R及び他側クランク室255Lの下部支持壁257Aに沿ってオイル排出口269を設け、下部支持壁257Aを跨いで吸い込み口274をクランク室255の底部255Cの外壁272に直接設けたため、一側クランク室255R及び他側クランク室255Lのオイルは、オイル排出口269から直接スカベンジングポンプ291に供給される。このため、複数のオイル流出孔268R、268Lから流れるオイルを集めてスカベンジングポンプ291に流すための部品が必要なく、部品点数を削減し、構造を簡単にできる。
【0065】
また、吸い込み口274内にクランク軸固定ボルト262の座面261Aを形成したため、スカベンジングポンプ291を、下部支持壁257Aを跨いで外壁272に設けるに当たり、クランク軸固定ボルト262が邪魔になる様な配置であっても、スカベンジングポンプ291を下部支持壁257Aを跨いだ所望の位置に配置できる。
また、オイル切り用リブ271によってクランクウエブ2Eに付着したオイルを取り除くことができるため、クランクウエブ2Eがオイルに衝突して抵抗を受けることを防止でき、内燃機関1の効率及び出力を向上できる。
【0066】
さらに、フィードポンプ290のフィード吐出口290Aからオイルフィルタ53Aに至るフィルタ用油路277を、壁部285内に形成したため、フィードポンプ290とオイルフィルタ53Aとを接続する部品が必要なく、部品点数を削減できる。
また、オイル切り用リブ271を後部273Cが後ろ上がりに傾斜したオイルポンプ取り付け面273の上に設け、底上げされた高い位置に設けたため、オイル切り用リブ271の長さを短くすることができ、オイル切り用リブ271の強度を向上できる。加えて、オイルポンプ取り付け面273は、前部273Aが前下がりに傾斜して形成されており、オイルポンプ取り付け面273の上方に空間Qが確保されるため、この空間Qを利用することで、オイルポンプ取り付け面273の上方の壁部285内にフィルタ用油路277を形成でき、油路を効率的に配置できる。
【0067】
なお、上記実施の形態は本発明を適用した一態様を示すものであって、本発明は上記実施の形態に限定されない。
上記実施の形態では、一側クランク室255Rと他側クランク室255Lとを仕切る下部支持壁257Aに跨るように吸い込み口274を設けるものとして説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、他側クランク室255Lに隣接して別のクランク室を設け、このクランク室と他側クランク室255Lとを仕切る下部支持壁を跨るように吸い込み口を設け、この吸い込み口に別のスカベンジポンプを設けても良い。
【符号の説明】
【0068】
1 内燃機関(多気筒内燃機関)
2 クランク軸
2E クランクウエブ
3 クランクケース
53A オイルフィルタ
255 クランク室
255C 底部(下部内壁)
255L 他側クランク室(独立したクランク室)
255R 一側クランク室(独立したクランク室)
256、257、258 支持壁
261A 座面(取り付け面)
262 クランク軸固定ボルト(ジャーナルボルト)
268L オイル流出孔
268R オイル流出孔
269 オイル排出口
271 オイル切り用リブ
272 外壁(クランク室外壁)
273 オイルポンプ取り付け面
274 吸い込み口
275 凹部
277 フィルタ用油路(油路)
290 フィードポンプ
290A フィード吐出口(吐出口)
291 スカベンジングポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクケースに一体に設けられクランク軸を支持する複数の支持壁によってクランクケースが仕切られて複数の独立したクランク室が形成され、該複数のクランク室にそれぞれ連通して前記各クランク室からオイルを排出する複数のオイル流出孔を備えた多気筒内燃機関において、
隣接する前記クランク室の内壁に前記支持壁に沿ってオイル排出口を設けると共に、クランク室外壁に前記支持壁を跨いで前記クランク室内のオイルを排出するスカベンジングポンプの吸い込み口を設けたこと、
を特徴とする多気筒内燃機関。
【請求項2】
前記スカベンジングポンプの前記吸い込み口内に、前記クランク軸を前記クランクケースに固定するためのジャーナルボルトの取り付け面を形成したこと、
を特徴とする請求項1記載の多気筒内燃機関。
【請求項3】
前記クランクケースの下部内壁には、前記オイル排出口を含む凹部を設けると共に、前記凹部に沿ってクランクウエブの周面に近接するオイル切り用リブを設けたこと、
を特徴とする請求項1または2記載の多気筒内燃機関。
【請求項4】
前記スカベンジングポンプと同軸上に設けられ、オイルパンのオイルをオイルフィルタを介して各給油箇所に送るフィードポンプが設けられ、前記フィードポンプの吐出口から前記オイルフィルタに至る油路をクランクケース壁内に形成したこと、
を特徴とする請求項3記載の多気筒内燃機関。
【請求項5】
オイルポンプ取り付け面は、前記クランクケースの下部で前後方向に対して傾斜した傾斜面に形成され、前記オイル切り用リブは前記傾斜面の上方側に、前記フィードポンプの前記吐出口は前記傾斜面の下方側に設けられていること、
を特徴とする請求項4記載の多気筒内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−64116(P2011−64116A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−215039(P2009−215039)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】